(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6797635
(24)【登録日】2020年11月20日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】温風式乾燥機
(51)【国際特許分類】
F26B 21/00 20060101AFI20201130BHJP
F26B 3/04 20060101ALI20201130BHJP
F26B 9/00 20060101ALI20201130BHJP
F26B 25/06 20060101ALI20201130BHJP
B05C 9/14 20060101ALI20201130BHJP
F26B 23/06 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
F26B21/00 B
F26B3/04
F26B9/00 A
F26B25/06 B
B05C9/14
F26B23/06 Z
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-212038(P2016-212038)
(22)【出願日】2016年10月28日
(65)【公開番号】特開2018-71883(P2018-71883A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】592179827
【氏名又は名称】気高電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002402
【氏名又は名称】特許業務法人テクノテラス
(72)【発明者】
【氏名】田村 臣哉
(72)【発明者】
【氏名】森 尚子
(72)【発明者】
【氏名】明里 正巳
(72)【発明者】
【氏名】野津 ふみ
【審査官】
岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−074539(JP,A)
【文献】
特開平04−366385(JP,A)
【文献】
特開2014−085036(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3181676(JP,U)
【文献】
米国特許第05727330(US,A)
【文献】
独国特許出願公開第01480225(DE,A1)
【文献】
実公昭48−9741(JP,Y1)
【文献】
米国特許第6035545(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0161357(US,A1)
【文献】
米国特許第5704135(US,A)
【文献】
中国実用新案第201059847(CN,Y)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F26B 21/00
B05C 9/14
F26B 3/04
F26B 9/00
F26B 23/06
F26B 25/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温風発生機と、テストピース乾燥部とを有し、前記温風発生機からの温風を送風ホース及びノズルを経て前記テストピース乾燥部に固定されたテストピースに吹き付けることにより、塗装されたテストピースを乾燥するための温風式乾燥機であって、
前記テストピース乾燥部は、前記温風発生機の上部に取り付け及び取り外し自在に形成された基体と、前記基体上に予め定めた角度で前記テストピースを固定するテストピース固定台と、前記基体上に設けられて前記ノズルを取り付け及び取り外し自在に固定するノズル固定部材と、を備え、
前記ノズル固定部材は、前記ノズルの吹き出し口が前記テストピース固定台に固定された前記テストピースに対向する位置となるように設けられていることを特徴とする、温風式乾燥機。
【請求項2】
前記基体の表面には、前記基体の両側面に沿って一対の互いに平行に固定されたテストピース固定台取り付け部材が設けられており、
前記一対のテストピース固定台取り付け部材の中央部には、それぞれ前記基体の表面に平行に延在する切り抜き穴が設けられ、
前記テストピース固定台は、両端の下部側面側がそれぞれ前記テストピース固定台取り付け部材の前記切り抜き穴に摺動かつ回動可能に取り付けられていることを特徴とする、請求項1に記載の温風式乾燥機。
【請求項3】
前記テストピース固定台には裏面に挟入板が設けられており、前記テストピースの下部を挟入・挟持できるようになされていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の温風式乾燥機。
【請求項4】
前記ノズル固定部材には、前記基体と実質的に平行な状態に折りたたむための手段が設けられていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の温風式乾燥機。
【請求項5】
前記基体は周縁に前記温風発生機の上部側面を覆うことができるスカート部を備えており、前記スカート部によって形成された内部空間に前記温風発生機の上部が嵌合されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の温風式乾燥機。
【請求項6】
前記温風発生機の上部側面には複数箇所に肩掛けベルト装着用の突起が形成されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の温風式乾燥機。
【請求項7】
前記温風発生機は、内部に送風機と加熱手段とを備えており、前記加熱手段はPTCヒーターからなることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の温風式乾燥機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温風式乾燥機に関し、特に、自動車ボデー等の塗装や補修を行う際に使用される温風式乾燥機を用いた場合と同様の乾燥状態を達成することができる、テストピース用の温風式乾燥機に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車ボデー等の塗装は、通常、被塗装面(板金)の防錆を目的とした下塗りと、この下塗りによる防錆効果と次の上塗りの仕上がりを良くするための中塗りと、外観仕上がりを良好にする上塗りの少なくとも3回の塗装工程、及びこれら3回の塗装工程間で塗装面を乾燥する乾燥工程の、いわゆる3コート3ベーク方式で行われている。そして、これらの塗装工程のうち、中塗り及び上塗りには、油性塗料が平滑性、光沢性、鮮映性及び耐候性等が優れているので多く使用されている。
【0003】
しかしながら、油性塗料は有機溶剤で希釈して使用するので、この有機溶剤、例えばシンナーが塗装作業中に蒸発(揮発)するが、この蒸発した溶剤を作業者が吸引すると健康上の問題を引き起こすことがある。加えて、蒸発した有機溶剤は、揮発性有機化合物(VOC)として大気汚染防止法により規制される成分であるため、可能な限り有機溶剤の蒸発を抑制する必要がある。また、有機溶剤は引火性を有しているので、使用に際して細心の取り扱いが必要となる。
【0004】
油性塗料は上記のような問題点が存在することから、近年は油性塗料に代って、引火し難く、またVOCのような有害成分を含まない水性塗料が次第に使用される傾向にある。ところが、この水性塗料は水で希釈して使用するものであるから、油性塗料に含まれる有機溶剤が数秒で蒸発(揮発)するのに対して、水性塗料に含まれる水分の蒸発速度は極めて遅く、その蒸発には通常数分も必要となる。
【0005】
例えば、自動車ボデー等の塗装作業で塗料に水性塗料を使用する場合には、通常下塗り及び上塗りに油性塗料を使用し、中塗りに水性塗料を使用する。油性塗料を使用する場合、塗装及び乾燥処理時間は、1コート1ベーク単位で、通常、塗装約60秒、乾燥約120秒の割合となり、乾燥処理時間は塗装時間の約2倍となる。それに対し、水性塗料を使用する場合、塗装及び乾燥処理時間は、通常、塗装約60秒、乾燥約240秒の割合となり、乾燥処理時間は、塗装時間の約4倍となり、油性塗料の乾燥処理時間の約2倍にもなってしまう。その結果、3コート3ベーク方式の塗装で中塗りに水性塗料を使用すると、乾燥処理時間が塗装全工程時間の大半を占めるようになってしまう。
【0006】
この塗装及び乾燥処理時間は、乾燥処理工程での乾燥温度を上げれば短縮することが可能であるが、この温度を上げると水等の蒸発性成分が塗布した塗膜内で気化して、一般に「ワキ」と呼ばれる気泡状の膜欠陥が発生し易くなって塗装不良の原因となり、一方、この温度を低くすると「ワキ」の発生は抑制されるが乾燥時間がより長く掛ることになる。従って、被塗装面の温度上昇を抑え、且つ乾燥時間の短縮を図るためには、最適な条件で乾燥処理する必要がある。
【0007】
この点、自動車等の生産工場では、大掛かりな生産設備を導入することが可能なので、この生産設備の中に最適な乾燥条件を設定できる乾燥装置及び乾燥ブースを設置することができる。しかしながら、既に市販された自動車等の塗装補修を行うような一般の修理工場では、このような大掛かりな設備を導入することができず、また、水性塗料を使用した水性塗料を使用した塗装の補修作業も3コート3ベーク方式が採用されるので、塗装品質の向上だけでなく塗装時間の短縮が大きな課題となっている。
【0008】
このような水性塗料を用いた自動車等の塗装補修に好適な乾燥機として温風式乾燥機が知られている(下記特許文献1参照)。この温風式乾燥機100は、
図6A及び
図6Bに示したように、送風機と、駆動手段GMを有するリンク機構101と、流入口及び流出口を有する容器に、加熱ヒーター及び前記加熱ヒーターからの熱を蓄熱する蓄熱部材を収容し、前記送風機から該流入口を通して送風された気体を熱風に変換して前記流出口から噴出する熱風発生器102と、この熱風発生器に送風ホース103を介して接続されて前記熱風発生器102からの熱風を噴射する吹付け手段104と、前記送風機及び前記加熱ヒーターを制御し、吹付け手段104から噴射する熱風の温度及び風量を所定範囲内に調整する制御手段と、を備え、前記熱風発生器102が前記リンク機構101又は前記リンク機構101の近傍に配置され、前記吹付け手段104が前記リンク機構101に装着された構成を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4663685号公報
【特許文献2】特開2010−240613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1に開示されている温風式乾燥機によれば、熱風発生器は、加熱ヒーターの発熱により予め蓄熱体に所定温度の熱を所定量蓄熱しておき、この蓄熱した熱を熱源にして熱風を生成するので、所望温度及び熱量の熱風を効率よく生成でき、しかも熱風発生器を小型・軽量化できるという効果を奏するだけでなく、リンク機構に熱風発生器を固定することで吹付け手段と熱風発生器間の距離を短縮できるようになり、熱風発生器で生成された熱風を熱エネルギーの損失を最小限にして吹付け手段から被乾燥物に吹付けることができ、被乾燥物が水性塗料を塗布した塗装面であっても、この水性塗料に含まれる水成分を短時間に効率よく蒸発させることができるという優れた効果を奏する。
【0011】
ところで、自動車等の塗装補修は、通常は使用中に傷ついたりはがれた部分を同色の補修用塗料で塗装することにより、傷やはがれを認識できない状態にすることを目的として行われる。それぞれの車種の塗装にはメーカーにより指定された特定の標準色が存在するが、塗装補修すべき車の塗装色は塗料のロット毎や諸条件によって微妙なバリエーションが発生していることに加えて時間の経過とともに色調に変化が生じている。そのため、自動車等の塗装補修に際しては、塗装補修すべき車毎にそれぞれの塗装色にマッチングした塗料の調色が必要となる。
【0012】
この調色の結果は、各種塗料及び溶剤を適宜に混合して調色された塗料をテストピースに塗布し、乾燥した後の状態で判断される(特許文献2参照)。このようなテストピースに塗装した調色の結果を判断する際には、乾燥条件を塗装補修すべき車に塗布した塗料の乾燥状態と実質的に同じ状態になるようにしないと、調色結果にばらつきが生じてしまう。従来の油性塗料が塗布されたテストピースの乾燥用には小型のオーブン式ないし光照射式乾燥装置が使用されていたが、水性塗料を用いた自動車等の塗装補修には温風式乾燥機が用いられているため、水性塗料により塗装されたテストピースの乾燥に際して従来の小型のオーブン式乾燥機を使用することは好ましくない。
【0013】
一方、テストピースに塗装した塗料の乾燥を、例えば上記特許文献1に開示されているような実際に自動車等の塗装補修に使用されている温風式乾燥機を用いると、この温風式乾燥機のサイズが大きく場所を取るだけでなく、その間には自動車の塗装補修に使用することができないことから不経済である。加えて、所望の調色された塗料を得るには、乾燥後のテストピースの色と実際の自動車等の塗装の色とを肉眼で比較し、両者に違いが認められない状態となるまで行う必要があるので、数多くの塗装されたテストピースを作成して乾燥する操作を繰り返す必要がある。しかも、調色用テストピースの塗装は、中塗り及び上塗りの2コート2ベーク方式でなされるが、中塗りに水性塗料が用いられると、一つの塗装されたテストピースを得るだけでも油性塗料を用いた場合よりも数分もの長い時間が必要となる。
【0014】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決すべくなされたものであり、自動車ボデー等の塗装や補修を行う際に使用される温風式乾燥機を用いた場合と同様の乾燥状態を達成することができる、テストピース用の温風式乾燥機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の態様の温風式乾燥機は、
温風発生機と、テストピース乾燥部とを有し、前記温風発生機からの温風を送風ホース及びノズルを経て前記テストピース乾燥部に固定されたテストピースに吹き付けることにより、塗装されたテストピースを乾燥するための温風式乾燥機であって、
前記テストピース乾燥部は、前記温風発生機の上部に取り付け及び取り外し自在に形成された基体と、前記基体上に予め定めた角度で前記テストピースを固定するテストピース固定台と、前記基体上に設けられて前記ノズルを取り付け及び取り外し自在に固定するノズル固定部材と、を備え、
前記ノズル固定部材は、前記ノズルの吹き出し口が前記テストピース固定台に固定された前記テストピースに対向する位置となるように設けられていることを特徴とする。
【0016】
本発明の第1の態様の温風式乾燥機によれば、塗装されたテストピースを実際の自動車等の塗装補修工程と同様の方法で乾燥することができるため、水性塗料を用いた場合であっても、乾燥後のテストピースの色と実際の自動車等の塗装を行った場合の色との間にばらつきが少なくなり、調色の精度を向上させることができる。また、従来の実際に自動車等の塗装補修に使用されている温風式乾燥機と比すると、小型で、持ち運びが可能となり、また、安価となる。しかも、温風発生機とテストピース固定台とが取り付け及び取り外し自在に形成されており、また、ノズルがテストピース固定台に設けられたノズル固定部材に取り付け及び取り外し自在に固定されているので、テストピースの乾燥用だけでなく、手持ち式温風乾燥機として実際の自動車等の塗装補修工程にも使用することができるようになる。
【0017】
本発明の第2の態様の温風式乾燥機は、第1の態様の温風式乾燥機において、
前記基体の表面には、前記基体の両側面に沿って一対の互いに平行に固定されたテストピース固定台取り付け部材が設けられており、
前記一対のテストピース固定台取り付け部材の中央部には、それぞれ前記基体の表面に平行に延在する切り抜き穴が設けられ、
前記テストピース固定台は、両端の下部側面側がそれぞれ前記テストピース固定台取り付け部材の前記切り抜き穴に摺動かつ回動可能に取り付けられていることを特徴とする。
【0018】
本発明の第2の態様の温風式乾燥機によれば、テストピース固定台を一対のテストピース固定台取り付け部材に挟まれた状態で基体の表面に沿って平行移動させることができるので、ノズルの吹き出し口とテストピースとの間の距離を適宜に変更することがでる。そのため、ノズルの吹き出し口とテストピースとの間の距離を容易に最適な乾燥距離に設定することができるようになるので、調色の精度が向上する。加えて,テストピース固定台がテストピース固定台取り付け部材に対して回動可能に取り付けられているので、基体に対するテストピースの取り付け角度を容易に最適な角度となるようにすることができるので、調色の精度が向上するほか、温風式乾燥機を使用しない場合には、テストピース固定台と基体とが実質的に平行になるように折りたたむことができるようになるので、テストピース乾燥部の高さが低くなるようにすることができ、テストピース乾燥部と温風発生機とが分離可能となっていることと相まって、保管が容易となる。
【0019】
本発明の第3の態様の温風式乾燥機は、第1又は第2の態様の温風式乾燥機において、前記テストピース固定台には裏面に挟入板が設けられており、前記テストピースの下部を挟入・挟持できるようになされていることを特徴とする。
【0020】
本発明の第3の態様の温風式乾燥機によれば、テストピースの下部を挟入板によって挟入・挟持できるため、テストピースを正確にテストピース固定台に固定することができ、しかも、テストピースの乾燥時にはテストピースが動き難くなるので、調色の精度が向上する。なお、テストピースは、下部と直接挟入板によってテストピース固定台に固定するようにしても良いが、塗装されたテストクリップに挟入板が触れがたくするため、別途舌付クリップ等によってテストクリップの下部を挟持して、舌片部分を挟入板によってテストピース固定台に固定するようにしてもよい。
【0021】
本発明の第4の態様の温風式乾燥機は、第1〜第3のいずれかの態様の温風式乾燥機において、前記ノズル固定部材には、前記基体と実質的に平行な状態に折りたたむための手段が設けられていることを特徴とする。
【0022】
本発明の第4の態様の温風式乾燥機によれば、ノズル固定部材を基体と実質的に平行になるように折りたたむことができるので、使用しない場合には、テストピース乾燥部の高さが低くなるようにすることができ、テストピース乾燥部と温風発生機とが分離可能となっていることと相まって、保管が容易となる。
【0023】
本発明の第5の態様の温風式乾燥機は、第1〜第4のいずれかの態様の温風式乾燥機において、前記基体は周縁に前記温風発生機の上部側面を覆うことができるスカート部を備えており、前記スカート部によって形成された内部空間に前記温風発生機の上部が嵌合されていることを特徴とする。
【0024】
本発明の第5の態様の温風式乾燥機によれば、テストピース保持板固定部材を温風発生器の上部に載置するだけで、テストピース乾燥部の基体のスカート部が温風発生機の上部を覆うように結合させることができるため、テストピース乾燥部と温風発生器との組み立て及び分解が容易となる。
【0025】
本発明の第6の態様の温風式乾燥機は、第5の態様の温風式乾燥機において、前記温風発生機の上部側面には複数箇所に肩掛けベルト装着用のフックが形成されていることを特徴とする。
【0026】
本発明の第6の態様の温風式乾燥機によれば、温風発生機のみを使用して単独で肩掛け式ハンディタイプの温風式乾燥機として使用することができるようになり、応用分野が広がる。
【0027】
本発明の第7の態様の温風式乾燥機は、第1〜第6のいずれかの態様の温風式乾燥機において、前記温風発生機は、内部に送風機と加熱手段とを備えており、前記加熱手段はPTCヒーターからなることを特徴とする。
【0028】
本発明の第7の態様の温風式乾燥機によれば、PTCヒーター(正温度特性サーミスター)は、突入電流が大きいため、ヒーターの温度上昇が早く、乾燥用温風温度に達するまでの時間が早いので、温風乾燥時に早く立ち上げることができ、作業効率が向上する。しかも、PTCヒーターは、室温が低いと発熱量が高くなり、室温が高いと発熱量が低くなるという性質があるので、従来のニクロム線ヒーターと比較して、室温の変化に対しての安定性(補正効果)があり、安定した所定温度の温風を取り出すことができ、調色の精度が向上する。加えて、PTCヒーターは、従来のニクロム線ヒーターに比べて表面温度が低いため、発火点の低い有機溶剤が使用されている現場でも発火しがたくなり、安全性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1Aは実施形態の温風式乾燥機の斜視図であり、
図1Bは同じく側面図である。
【
図2】
図2Aは実施形態の温風式乾燥機の温風発生器の斜視図であり、
図2Bは同じく平面図である。
【
図4】
図4Aは実施形態の温風式乾燥機のテストピース乾燥置き台の斜視図であり、同じく
図4Bは側面図である。
【
図5】
図5Aは実施形態のテストピース乾燥置き台の分解斜視図であり、
図5Bは同じく組み立て後の斜視図である。
【
図6】
図6Aは従来例の温風式乾燥機のリンク機構の平面図であり、
図6Bは同じく側面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面を参照して本発明の最良の実施形態を説明する。但し、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための温風式乾燥機を例示するものであって、本発明をこの温風式乾燥機に特定することを意図するものではない。本発明は、特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものも等しく適応し得るものである。
【0031】
まず、
図1を参照して本発明の一実施形態に係る温風式乾燥機10の概略構成を説明する。なお、
図1Aは実施形態の温風式乾燥機の斜視図であり、
図1Bは同じく側面図である。
【0032】
本発明の一実施形態に係る温風式乾燥機10は、送風ホース11、送風ホース11の一方端側に設けられたノズル12と、温風発生機20と、テストピース乾燥部40とを備えている。テストピース乾燥部40は、温風発生機20の上部に取り付け及び取り外し可能に載置されている。
【0033】
次に、温風発生機20の詳細な構成を
図2及び
図3を用いて説明する。なお、
図2Aは実施形態の温風式乾燥機の温風発生器の斜視図であり、
図2Bは同じく平面図である。また、
図3は
図2BのIII−III線に沿った断面図である。
【0034】
温風発生機20は、例えば背高直方体形状の筐体21を有しており、上部に温風発生機を手持ちで運搬するための取っ手22が取り付けられている。筐体21の背面側の端面には、内部にフィルター23(
図3参照)が配置され、外気吸入口(図示省略)が複数設けられたフィルターカバー25で被覆されている。また、筐体21の正面側の端面には、加熱された外気が吹き出される吹き出し口26と、電源スイッチ、温度調節ボタン、風量調整つまみ等を有する操作部27が設けられている。さらに、筐体21の正面側端面及び背面側端面の上部には、それぞれ肩掛けベルトを引っ掛けるためのフック28が設けられている。
【0035】
温風発生機20の内部には、送風機29と、加熱室30とが設けられており、加熱室30には内部に加熱手段31が設けられている。送風機29により吸入された外気は、フィルター23で濾過されて送風機29を経て加熱室30に送出され、加熱室30で加熱された後に吹き出し口26から外部に吹き出すようになっている。加熱手段31としては、公知の電気的加熱手段を使用しえるが、正温度特性サーミスター(PTCヒーターないしセラミックヒーターと称されることもある。以下では「PTCヒーター」という。)を使用することが好ましい。
【0036】
PTCヒーターは、
(1)突入電流が大きいため、ヒーターの温度上昇が早く、乾燥用温風温度に達するまでの時間が早い、
(2)室温が低いと発熱量が高くなり、室温が高いと発熱量が低くなるという性質がある、
(3)従来のニクロム線ヒーターに比べて表面温度が低い、
という性質を有している。そのため、加熱手段31としてPTCヒーターを使用すると、温風乾燥時に早く立ち上げることができ、しかも、従来のニクロム線ヒーター等と比較して室温の変化に対しての安定性(補正効果)が良好であって安定した所定温度の温風を取り出すことができるため、作業効率が向上し、調色に用いる場合には調色の精度が向上する。
【0037】
加えて、自動車等の塗装補修工程ないし塗料の調色工程では、油性塗料の溶剤として発火温度の低い有機溶剤、例えばヘキサン(発火温度=223℃)等の使用時に誤って床にこぼしてしまうことがある。このとき、温風乾燥機としてヘアードライヤーや従来のニクロム線ヒーターを有するものを用いた場合には、表面温度が高いために発火する可能性がある。それに対して、温風乾燥機としてPCTヒーターを有するものを用いした場合には、表面温度が低いので発火する可能性が大幅に低下し、安全性が向上する。
【0038】
送風機29は、例えば遠心式ファンからなるものが用いられており、外部形状が偏平状となっている。また、加熱室30も、送風機29と同様に偏平状に形成されている。そして、送付機29及び加熱室30ともに立てた状態で温風発生機20内に取り付けられており、PCTヒーターからなる加熱手段31は縦方向となるように配置されている。なお、加熱手段31の外周部には、流入してきた外気との接触面積を増大するために、金属製のフィン32が複数形成されている。このように送風機29及び加熱室30として偏平状のものを立てた状態に取り付けることにより、背高直方体形状の温風発生機20の内部に少ないスペースで配置することができ、持ち運びしやすい小型の温風発生機20が得られる。
【0039】
また、温風発生機20の内部には各種電気回路からなる制御手段が設けられており、その制御手段に接続された電源スイッチ、温度調節ボタン、風量調整つまみ等が、筐体21の一方側の端面に取り付けられており、
図2A及び
図3においてはこれらの電源スイッチ、温度調節ボタン、風量調整つまみ等が概括的に操作部27として示されている。
【0040】
次に、テストピース乾燥部40の詳細な構成を
図4及び
図5を用いて説明する。なお、
図4Aは実施形態の温風式乾燥機のテストピース乾燥置き台の斜視図であり、同じく
図4Bは側面図である。また、
図5Aは実施形態のテストピース乾燥置き台の分解斜視図であり、
図5Bは同じく組み立て後の斜視図である。なお、
図5A及び
図5BにおいてはテストピースTPは図示省略されている。
【0041】
テストピース乾燥部40は、実質的に平板状の基体41と、基体41上に設けられたテストピース固定台42と、ノズル固定部材43とを有している。基体41は、周縁全週にわたり温風発生機20の上部側面を覆うことができるスカート部44を備えており、前記スカート部44によって形成された内部空間に温風発生機20の上部に嵌合できるようになされている。スカート部44の長さ、すなわち内部空間の深さは、温風式乾燥機10の使用中に外力が掛かっても温風発生機20の頂部からテストピース乾燥部40が離間しない程度、たとえば0.5〜1.5cm程度とすればよい。
【0042】
また、基体41の表面には、温風発生機20の背面側となる位置にテストピース固定台42が設けられ、同じく正面側となる位置にノズル固定部材43が設けられている。さらに、基体41には、テストピース乾燥部40を温風発生機20の上部に嵌合させた際に温風発生機20の頂部に形成されている取っ手22(
図2A及び
図3参照)が露出するように、切り欠き穴46が設けられている。これにより、テストピース乾燥部40を温風発生機20の上部に嵌合させた際、テストピース乾燥部40を温風発生機20の上部に安定した状態で載置させることができるようになる。
【0043】
また、基体41の表面には、基体41の両側面に沿って一対のテストピース固定台取り付け部材45が例えばスポット溶接により互いに平行に固定されている。さらに、これらの一対のテストピース固定台取り付け部材45の中央部には、それぞれ基体41の表面に平行に延在する細い切り抜き穴47が設けられている。テストピース固定台42は、両端の下部側面側がそれぞれテストピース固定台取り付け部材45の細い切り抜き穴47に摺動かつ回動可能に取り付けられている。これにより、テストピース固定台42を一対のテストピース固定台取り付け部材47に挟まれた状態で基体41の表面に沿って、ノズル固定部材43に対して近接する方向ないし離間する方向に平行移動させることができるとともに、テストピース固定台42の上部に取り付けられたテストピースTPと基体41との間の角度θが予め定めた所定角度θとなるようにテストピース固定台取り付け部材45に固定できるようになる。
【0044】
なお、予め定めた所定角度θは、テストピース固定台42の上部側に取り付けられたテストピースTPが短時間で均質に乾燥されるように実験的に定めればよく、通常は実際の塗装時の状態に合わせてθ=30°〜80°の範囲から選択される。そして、テストピース固定台42の上部側には少なくとも1枚のテストピースTPが取り付け及び取り外し可能に固定されるようになされている。また、基体41の表面には基体41の正面側に一部を舌片状に切り抜いて上部に折り曲げることにより形成した一対の舌片部分48が形成されており、この一対の舌片部分48にノズル固定部材43が回動可能に固定されている。
【0045】
これにより、テストピース乾燥部40を使用しない場合には、テストピース固定台42及びノズル固定部材43のそれぞれを基体41に実質的に平行に近い状態となるように折りたたむことができるので、テストピース乾燥部40の全体の高さが低くなるようにすることができ、テストピース乾燥部40と温風発生機20とが分離可能となっていることと相まって、保管が容易となる。
【0046】
次に、テストピース固定台42とテストピース固定台取り付け部材45との間の結合関係、ノズル固定部材43と一対の舌片部分48との間の結合関係及びテストピースTPとテストピース固定台42との間の結合関係を、それぞれ
図5A及び
図5Bを用いて説明する。
【0047】
第1実施形態のテストピース乾燥部40におけるテストピース固定台42は、裏面にテストピース挟入板42aを有している。テストピース挟入板42aは、基体41の表面と平行に細長い切り抜き穴42bが形成されている。また、テストピース固定台42にもテストピース挟入板42aの細長い切り抜き穴42bと対向する位置に、同様の細長い切り抜き穴(図示省略)が形成されている。このテストピース挟入板42aの切り抜き穴42bには、テストピース固定台42表面側からテストピース挟入板42aに形成された切り抜き穴にまで至るように、複数の蝶ボルト50aのボルト部分が差し込まれ、テストピース挟入板42aの裏面からそれぞれの蝶ボルト50aの軸に螺合するように蝶ナット50bで締め付けることができるようになされている。
【0048】
テストピースTPが鋼板等の剛性部材で形成されている場合にはテストピースTPの下端側を直接テストピース固定台42に載置してテストピース挟入板42aによって挟み込み、蝶ボルト50a及び蝶ナット50bを互いに締め付けることにより固定することができるようになる。また、テストピースTPが柔軟な部材で形成されている場合には、テストピースTPを鋼板等の剛性部材で形成されている実質的にテストピースTPと同サイズの支持板上に載置し、テストピースTP及び支持板を重ねてテストピース固定台42の表面に載置してテストピース挟入板42aによって挟み込み、蝶ボルト50a及び蝶ナット50bを互いに締め付けることにより固定することができるようになる。
【0049】
さらに、テストピースTPが柔軟な部材で形成されている場合には、テストピースTPをテストピースTPよりも下端側が延在されている鋼板等の剛性部材で形成されている支持板上に載置し、この支持板の露出している下端側をテストピース固定台42の表面に載置してテストピース挟入板42aによって挟み込むことにより、同様に固定することができるようになる。この際、テストピースTPの下端側を固定するために鋼板等の剛性部材で形成されている支持板上にテストピース固定用クリップが設けられているものを使用することが好ましい。
図4A及び
図4Bには、柔軟な部材で形成されているテストピースTPが鋼板製の支持板SP上に載置され、テストピースTPの下端側が鋼板製の支持板SPに設けられたテストピース固定用クリップCLによって固定されている例が示されている。
【0050】
このようなテストピースTPの固定手段を採用することにより、テストピースTPを正確にテストピース固定台42に固定することができ、しかも、テストピースTPの乾燥時にはテストピースTPが動き難くなるので、調色の精度が向上する。
【0051】
テストピース固定台42の下部側面側は、それぞれ蝶ボルト45aによってテストピース固定台取り付け部材45の細長い切り抜き穴47に取り付けられている。そして、テストピース固定台42は、蝶ボルト45aを切り欠き穴47内で摺動させることができるため、一対のテストピース固定台取り付け部材47に挟まれた状態で基体41の表面に沿って、ノズル固定部材43に対して近接する方向及び離間する方向に任意に平行移動させることができ、また、蝶ボルト45aを回転軸として回動させることができる。これにより、テストピースTPとノズル固定部材43ないしノズル12(
図1参照)との間の距離を望ましい位置に固定することができるようになるとともに、テストピースTPと基体41との間の角度θが予め定めた値となるように固定することができるようになる。
【0052】
また、基体41の正面側に一部を舌片状に切り抜いて上部に折り曲げることにより形成された一対の舌片部分48には、中央部に上下に延在する細い切り抜き穴49が形成されている。ノズル固定部材43は、切り抜き穴49と対向する側にそれぞれ貫通孔43aが形成されており、これらの貫通孔43aに対応する内面側にそれぞれナット43bが固着されている。ノズル固定部材43を一対の舌片部分48間に配置し、一対の舌片部分48に形成された切り抜き穴49及びノズル固定部材43に形成された切り抜き穴43aを介してそれぞれ蝶ボルト48を挿入して螺合させ、蝶ボルト48を締め付けることによりノズル固定部材43を固定することができる。さらに、テストピース乾燥部40を使用しない場合には、蝶ボルト48を緩めてノズル固定部材43を上方向に引き上げることにより、蝶ボルト48が細い切り抜き穴49に沿って上部に移動するので、ノズル固定部材43を回動させて折り畳むことができるようになる。
【0053】
本発明の温風式乾燥機10は、温風発生器20の表面にテストピース乾燥部40の基体41を載置し、テストピース固定台42及びノズル固定部材43を基体41上の所定位置に固定し、さらに、ノズル12が設けられた送風ホース11を温風発生器20の吹き出し口26に接続し、ノズル12部分をノズル固定部材43に固定することにより、組み立てることができ、テストピースTPの乾燥準備が完了する。
【0054】
調色すべき塗料が塗布されたテストピースTPを乾燥する場合には、予め風量及び温度を設定した後、一旦電源を切断し、テストピースTPをテストピース固定台42に取り付けた後、再度電源を入れて乾燥を行い、目視観察によって塗装補修すべき部分の周囲の色と同様となる配合が得られるように塗料の調色を行う。
【0055】
なお、本実施形態の温風式乾燥機10は、テストピース乾燥部40を使用せずに温風発生器20と送風ホース11及びノズル12のみを使用して携帯用温風式乾燥機として使用することもできる。この場合においては、一対のフック28間に肩掛けベルト(図示省略)を設ければよい。また、上述した実施形態の温風式乾燥機10においては、テストピースTPを2枚テストピース固定台に取り付けた例を示したが、これにかぎらず、1枚でも良いし、更に多くの枚数を取り付けることができるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0056】
10…温風式乾燥機 11…送風ホース 12…ノズル
20…温風発生器 21…筐体 22…取っ手
23…フィルター 25…フィルターカバー 26…吹き出し口
27…操作部 28…フック 29…送風機
30…加熱室 31…加熱手段 32…フイン
40…テストピース乾燥部 41…基体 42…テストピース固定台
42a…テストピース挟入板 43…ノズル固定部材 43a…貫通穴
43b…ナット 44…スカート部
45…テストピース固定台取り付け部材 45a…蝶ボルト
46、47…切り抜き穴 48…舌片部分 48a…蝶ボルト
49…切り抜き穴 50a…蝶ボルト 50b…蝶ナット
TP…テストピース SP…テストピース支持板
CL…テストピース固定用クリップ