(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
圧電ダイアフラムトランスジューサ(101)がポンプ本体(120,170)に取り付けられる、ポンプ(100,200,400,500)を製造する方法であって、前記方法は、
円形のポンプ室(102)とポンプ本体(120,170)とを備えるポンプ(100,200,300,400,500)を用意する工程であって、前記ポンプ室(102)の外周は、距離BPだけ前記ポンプ本体(120,170)の外周から離間され、前記距離BPは、最短位置で、300μm以下である、該工程と、
圧電セラミック層(51)を用意する工程と、
少なくとも1つの圧電要素(53,83,210)が少なくとも6つの角を持つ正多角形形状を持つように、前記圧電セラミック層(51)をダイシングして前記少なくとも1つの圧電要素(53,83,210)にする工程と、
ポンプダイアフラム(110)に前記圧電要素(53,83,210)を取り付けることによって前記圧電ダイアフラムトランスジューサ(101)を形成する工程と、を備える方法。
前記圧電ダイアフラムトランスジューサ(101)を形成するために前記ポンプダイアフラム(110)に前記圧電要素(53,83,210)を取り付ける前記工程は、前記ポンプ本体(120,170)に前記ポンプダイアフラム(110)を取り付ける工程の後に行なわれるか、または前記ポンプ本体(120,170)に前記ポンプダイアフラム(110)を取り付ける工程の前に行なわれる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
前記圧電セラミック層(51)をダイシングして前記少なくとも1つの圧電要素(53,83,210)にする工程は、前記少なくとも1つの圧電要素(53,83,210)が偶数の多角形角を備えるように行なわれる、請求項1、2または4に記載の方法。
前記圧電セラミック層(51)をダイシングして前記少なくとも1つの圧電要素(53,83,210)にする工程は、前記少なくとも1つの圧電要素(53,83,210)が少なくとも8つの角を備えるように行なわれる、請求項1、2または4に記載の方法。
前記圧電要素(53,83,210)をダイシングするとき、前記圧電要素(53,83,210)は、定義されたソーイングパターン(52,80)に沿って直線的に切断して前記圧電セラミック層(51)からソーイングで切り出される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
前記圧電要素(53,83,210)をダイシングするとき、前記圧電要素(53,83,210)は、ビーム切断法またはジェット切断法によって、定義された切断パターン(52,80)に沿って前記圧電セラミック層(51)から切り出される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
前記ポンプは、マイクロダイアフラムポンプであり、前記マイクロダイアフラムポンプの前記ポンプ本体(120,170)は、金属を備えるか、または半導体材料を備えるチップとして実施される、請求項11〜16のいずれか一項に記載のポンプ(100,200,400,500)。
【背景技術】
【0002】
ポンプ、特に、いわゆるマイクロポンプは、異なる材料、たとえば、シリコン、金属またはプラスチックから製造してもよい。特に、小さいストローク量にもかかわらず、十分に大きい圧縮比がこの場合にも実現されるように、小さい死容積を持つポンプ室を精度の高い製造方法によって生成することができるので、シリコン(部分的)金属マイクロポンプにより微小化の大きい可能性が生まれる。
【0003】
この場合の圧電ダイアフラムトランスジューサは、最も一般的な駆動要素である。圧電ダイアフラムトランスジューサは好ましくは接着剤の硬化時に高電圧を印加することを利用する特別な方法を用いて偏らせる。このような方法は国際公開第2011/107162号により理解される。この公報で処理されるポンプチップのチップサイズは7×7mm
2である。マイクロポンプは四角いポンプ室を備える。ポンプダイアフラムは四角い圧電要素を備え、この四角いポンプ室の上に配置される。四角い圧電要素を備えるポンプダイアフラムは、チップ縁に沿って基礎となるポンプ本体に接合される。したがって、接合に必要なチップ縁の最小値は300μm以上である。
【0004】
一般的にポンプの微小化への努力は効果を奏するように以下の理由でなされる。
・微小ポンプチップはほとんど構築空間を必要としないこと(多くの用途で、7×7mm
2ですでに十分に小さい)。
・微小のダイアフラム寸法は微小のストローク量を意味し、したがって、微小の容積部分が輸送されることになること。
・マイクロポンプはウエハ化合物で製造され、かつ微小化により、より多くのチップをウエハに収めることができることを理由に、微小化にとって重要な点が製造コストの削減であること。
【0005】
微小のストローク量は、他方で、ある部分では欠点である。その理由は、ストローク量が小さいと圧縮比は小さくなり、過剰に小さい圧縮比を持つポンプは気泡に対処できないだけでなく、自己吸引でもないことから、実用に向かなくなるからである。
【0006】
ポンプチップを微小化する場合、1つに、ダイアフラムを撓ませるトランスジューサのストローク量がダイアフラムの面内方向寸法の約4乗に依存することは問題である。駆動ダイアフラムのダイアフラム面内方向長さを半分にすると、ストローク量は1/16に減少する(他のすべてのジオメトリパラメータおよび駆動パラメータを変更しない場合)。
【0007】
この減少の割合はジオメトリパラメータおよび駆動パラメータを適切に調節することで、ある程度小さくすることができる。特に、ダイアフラム面内方向長さを減少させるとき、ダイアフラムの厚さ、特に、圧電セラミックの厚さも同時に減少させてもよい。しかしながら、ストローク量は、死容積を減少させることが可能である場合よりもさらに減少する。多くの場合、死容積を同じ割合で減少させることはできない。
【0008】
この両立不能な問題は、ダイアフラムエリアが全チップエリアを占めることができないという事実によってより困難になる。チップ縁は、バルブウエハ上にポンプ室を含む駆動ウエハを接合するのに必要である。この必要な最小チップ縁はチップサイズに依存しない。7×7mm
2の寸法を持つ既知のマイクロポンプに関しては、たとえば、現行のチップ縁は約300μmであり、すなわち、チップの縁で7mmのうち0.6mmがフレームを取り付けるのに必要である。
【0009】
マイクロポンプを3.5×3.5mm
2のチップサイズに縮小する場合、300μm(左右各々で300μm、すなわち600μm)がこの場合でも縁に必要であるので、チップ長の6/35しかダイアフラムに利用できない。
【0010】
チップサイズを減少させる場合の別の重要事項は、ダイアフラムを撓ませるトランスジューサの形状である。圧電ダイアフラムトランスジューサを有するマイクロポンプは、たとえば、上述の国際公開第2011/107162号から理解される方法にしたがって偏らせる場合であっても、ダイアフラムの下で、ポンプ室高さhを持つポンプ室を必要とする。このポンプ室高さは重要な設計パラメータであり、マイクロポンプの死容積に決定的に寄与し、さらに、マイクロポンプの最大輸送率に決定的に寄与する。
【0011】
円形の回転対称の撓み生成トランスジューサは、四角い形状を持つ撓み生成トランスジューサと比較して2つの利点を示す。
・撓まされるとき、円形の圧電ダイアフラムトランスジューサは、四角い圧電ダイアフラムトランスジューサと比較して、四角いダイアフラムトランスジューサの角の下のポンプ室体積が利用されないので、ほぼ等しいストローク量できわめて小さい死容積を持つ。逆に、四角いダイアフラムトランスジューサの角領域はストローク量にほとんど何にも寄与しない。
・円形のダイアフラムトランスジューサと円形のポンプ室とを有するマイクロポンプチップは、きわめて小さい死容積を備えるだけでなく、ポンプチップの角できわめて大きい接合エリアも備える。したがって、チップ縁に対する円形のポンプ室縁の最小距離は大幅に減少させることができる。これは、この場合でも十分な接合エリアを利用できるからである。したがって、円形のダイアフラムトランスジューサの場合には、きわめて大きいチップ領域を駆動ダイアフラムに利用することができる。
【0012】
ポンプチップのサイズを減少させる場合に円形の圧電ダイアフラムトランスジューサが四角い圧電ダイアフラムトランスジューサよりも有効であると考えられるのは、上述から自明になっている。
【0013】
圧電セラミックを製造するための2つの既知の方法がある。
a)ブロック法:この方法では、圧電セラミックを棒状に製造し、焼結後、ソーイングしてディスクに切り分け、金属化し、その後、分極化する。
b)膜法:この方法では、圧電セラミックを膜に含ませ、焼結し、分極化し、その後ソーイングによってダイシングする。
【0014】
ブロック法を用いて、円形の圧電セラミックおよび四角い圧電セラミック(または、矩形の圧電セラミック、三角形の圧電セラミックなど)を実現することができ、ディスクを切り出す棒材はこれらの圧電セラミックに応じた断面形状を持つ。しかしながら、圧電セラミックの厚さには下限閾値(現状で、約150μmであり、閾値は圧電製造者による)があり、この閾値未満では、経済的な問題で、圧電セラミックを棒材からもはや切り出すことができない。7×7mm
2よりも小さいマイクロポンプチップについては、150μm未満のセラミック厚がほとんどの場合必要である。これに加えて、個別にセラミックを取り扱うことから、この方法は膜法よりも高価である。さらに、ソーイングされた圧電セラミックは、ソーイング後、前側および後側で1つずつ金属化しなければならない。
【0015】
したがって厚さ150μm未満の圧電セラミックは膜法を用いて有利に製造される。膜法では50μm未満の厚さの膜厚で製造することができる。当該セラミック膜は焼結後に前側および後側で金属化し、この時点でダイシングする。これはきわめて経済的である。3×3mm
2のサイズを持つ金属化された四角い圧電セラミックは、標準的なソーイングプロセス400を用いて50μmの厚さを持つセラミック膜(たとえば、サイズ60×60mm
2)から切り出すことができる。
【0016】
厚さ50μmで約3×3mm
2の直径を持つ圧電セラミックを必要とする、3.5×3.5mm
2のチップサイズを持つマイクロポンプにおいて、膜法を用いて製造される当該セラミックを、ソーイングすることによって非常に経済的に製造することができる。
【0017】
ただし、ソーイング時に直線的な切断のみが可能であるので、円形の膜はソーイングプロセスで製造することができない。しかしながら、上記で説明されているように、円形の圧電セラミックが必要とされている。
【0018】
円形のピースを形成するのにレーザプロセスを用いるか、パンチプロセスを用いて、50μmの厚さを持つ焼結され金属化された膜セラミックを切り出すことを試みることができる。しかしながら、圧電セラミックを処理するのに利用可能なこのようなプロセスはない。これに加えて、圧電セラミックは硬くてもろく、したがって、このような方法を使用する場合、非常に高い確率で破壊されると考えられる。
【0019】
レーザビームを利用して膜基板上に接着されたシリコンチップをダイシングするものが知られている(いわゆる「ステルスダイシング」)。しかしながら、このような技術を圧電セラミック用にまず開発しなければならない。しかも、たとえ利用できたとしても、わずか約3mgの重さを持つ切断された個々のピースを適切な取り扱いシステムによって正確な分極方向にポンプチップに配置しなければならず、これにより、さらなる実施上の大きな困難を引き起こす。これに加えて、セラミックを加熱すると、セラミックはキュリー温度を上回るときに切縁の近くで減極される。
【0020】
ウォータジェット切断はもう1つの選択肢である。しかしながら、セラミックだけでなく膜も、ダイシング後に個々のピースにセラミックが存在するように、ウォータジェットにより切り離すことになる。個々のピースは、分極方向に応じて再度仕分けられて取り付けられなければならない。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1Aは、圧電ダイアフラムトランスジューサがポンプ本体に取り付けられる、ポンプを製造する本発明の方法のブロック図を示す。本発明の方法は、
図1Aに示されているものとは異なる順序で実行されてもよい。
【0042】
ブロック10にしたがって圧電セラミック層を用意する。圧電セラミック層は圧電セラミック膜であってもよい。圧電セラミック層は、50μm以下の厚さまたは高さを持ってもよい。
【0043】
ブロック20にしたがって、少なくとも1つの圧電要素が少なくとも6つの角を持つ正多角形形状を持つように圧電セラミック層をダイシングして少なくとも1つの圧電要素にする。
【0044】
ブロック30にしたがって、ポンプダイアフラムに圧電要素を取り付けることによって圧電ダイアフラムトランスジューサを形成する。本発明に係れば、この圧電ダイアフラムトランスジューサをポンプのポンプ本体に取り付ける。
【0045】
本発明の方法の実施形態に係れば、ポンプダイアフラムをまずポンプ本体に配置してもよい。その後に圧電要素をポンプダイアフラムに配置してもよい。
【0046】
本発明の方法の別の実施形態に係れば、圧電要素をまずポンプダイアフラムに配置してもよい。その後にポンプダイアフラム上に配置された圧電要素を含むポンプダイアフラムをポンプのポンプ本体に配置してもよい。
【0047】
ポンプダイアフラムに接続された圧電要素は、圧電ダイアフラムトランスジューサを形成する。
【0048】
ポンプ本体は、例として、チップ構成において、半導体材料、たとえばシリコン製のマイクロダイアフラムポンプのポンプ本体であってもよい。このようなポンプ本体は、たとえば、バルブウエハを備えてもよい。ポンプダイアフラムも半導体材料、たとえばシリコンをたとえば含んでもよく、たとえば、研磨プロセスによって製造してもよい。例として、ポンプダイアフラムはバルブウエハの上に配置してもよく、さらに言えば、駆動ウエハを形成してもよい。例として、ポンプダイアフラムは、ポンプダイアフラムを偏らせることによってポンプ本体から離間させてもよい。例として、ポンプ室はこの離間によって設けてもよい。
【0049】
上述のように、ポンプダイアフラムに少なくとも1つの圧電要素を取り付けることによって圧電ダイアフラムトランスジューサを形成する。上記に記載されているように、ポンプダイアフラムはポンプ本体に配置してもよい。ポンプダイアフラムは、ポンプダイアフラムの運動がポンプストロークに対応するように圧電要素を用いて作動させてもよい。ポンプダイアフラムと、ポンプダイアフラムに配置される圧電要素とはともに圧電ダイアフラムトランスジューサを形成する。
【0050】
本発明に係れば、圧電要素は、ダイシング時、あらかじめ定義されたソーイングパターンに沿って直線的に切断して圧電セラミック層から切り出される。
図1Bは、膜50に配置されている圧電セラミック層51を示す。
【0051】
膜50と、膜50上に配置されている圧電セラミック層51とは、あらかじめ定義されたソーイングパターンすなわち切断パターン52に沿って直線的に切断してソーイングする。ソーイングパターンすなわち切断パターン52は、
図1Cの拡大図に概略的に示されている。
【0052】
ソーイングパターンすなわち切断パターン52は直線的なソーイング切断のみがなされるように構成されている。ソーイングパターンすなわち切断パターン52は、平行な切断線54,55の少なくとも1つの第1の対と、これらに対して斜めになっている切断線57,58の少なくとも1つの第2の対と、これらに対して斜めになっている平行な切断線58,59の少なくとも1つの第3の対とを備え、これらは鏡像関係になっている。切断線の組は各々、互いに平行である。
【0053】
切断線のこの配置によって、ダイシングされた圧電要素53は圧電セラミック層51から得られ、正六角多角形形状を持つ。切り残しと言えるものは2つの三角形60,61である。
【0054】
図1Bから分かるように、このような六角形の圧電要素はすでに圧電セラミック層51からすでに切り離されたり、ダイシングされたりしており、そのことは空所62から理解することができる。
【0055】
圧電膜のソーイングは、圧電要素を経済的に製造することができるような大量製造にふさわしい標準的なプロセス工程である。好ましくは、その前に分極化されるセラミック層を用いてもよい。ソーイング後、分極化されたセラミック51は、たとえばピックアンドプレース技術を用いてソーイングする膜50からポンプ本体(
図1E以降)またはポンプチップの上載置されてもよい。
【0056】
膜セラミック51を標準的なソーイングプロセスによってダイシングして、四角い形状を形成するのではなく、直線的な切断によって六角形形状を形成する。
【0057】
圧電要素53の六角形形状には以下の利点がある。
・四角のように、六角形53は直線的な切断を用いて平面板から切り出すことができる。
・1つの六角形53につき2つの小さい三角形60,61が残り、これは、セラミック膜面積の75%を六角形53に利用し得ることを意味する。ソーイングされた圧電セラミック53は、ピックアンドプレイスシステムを用いてポンプ本体、たとえばミクロポンプウエハ上に正しい分極方向に、ソーイングする膜50から直接載置することができる。
・六角形53は、四角よりも理想的な円形形状によく合致する。したがって、円形のポンプ室を(六角形のセラミック53の下で)選択することができ、これにより上記の利点が生じる。
【0058】
図1Dは、圧電セラミック層51をソーイングまたは切断する別の実施可能なソーイングパターンすなわち切断パターン80を示す。このソーイングパターンすなわち切断パターン80は、その後に実行される直線的な切断、すなわちダイシングを用いて少なくとも1つの八角形の本発明の圧電要素83を圧電セラミック層51から切断またはソーイングで切り出すのに用いることができる。
【0059】
前述されているように、ソーイングまたは切断された多角形形状の圧電要素53,83は、ポンプダイアフラムに配置することができる。圧電要素53,83は、少なくとも1つの方向にポンプダイアフラムを撓ませるように構成されている。圧電要素53,83は、それらが取り付けられるポンプダイアフラムとともに、ポンプ用の圧電ダイアフラムトランスジューサを形成する。
【0060】
図1Eは本発明のポンプ100の簡略図を示す。
図1Eでは、ポンプ100の基本的な構造に関する説明を単純化するために、本発明の圧電要素は示されていない。
【0061】
図1Eに示されているポンプ100は、ポンプ本体120と、ポンプ本体上に配置されるダイアフラム110とを備える。ポンプダイアフラム110は、
図1Eに示されている位置、すなわち、少なくとも部分的にポンプ本体120から離間する位置で偏っている。これがポンプ100の非駆動開始状態または非動作開始状態に対応するのに対して、
図1Fでは、ダイアフラム110は圧電要素(この場合も図示されていない)を用いて作動させられている。
【0062】
ポンプダイアフラム110は、第1の面または上面112と、第1の面112の反対側に配置される第2の面または下面114とを備える。ポンプ本体120は、第1の面または上面122と、第1の面122の反対側に配置される第2の面または下面124とを備える。ポンプダイアフラム110は、その周縁に沿ってポンプ本体120に配置される。
【0063】
これに加えて、ポンプ100はポンプ室102(
図1E)を備える。ここで、ポンプ室102は、ポンプダイアフラム110とポンプ本体120との間の自由空間または自由容積として定義される。この場合のポンプ室102は図示のように直径Dを持つ。ポンプ室102の直径Dは、(非駆動偏り状態の)ポンプダイアフラム110がポンプ本体120に触れる位置である、ポンプ100の2つの対向する面内方向位置間の距離によって定義される。この位置は、典型的には、ポンプダイアフラム110がその周縁に沿ってポンプ本体120に配置される上記位置に対応する。
【0064】
参照符号Hは、非駆動状態のポンプ室102の高さを指し、すなわち、ポンプダイアフラム110の中央103における、ポンプ本体120の第1の面122とポンプダイアフラム110の下面114との垂直距離である。
【0065】
ポンプ本体120は、吸入口126および排出口128ならびに空所を備え、空所は、ポンプ本体120の上側、すなわちポンプダイアフラム110に面する側にあり、空所には第1のバルブ130および第2のバルブ140が配置される。第1のバルブ130と第2のバルブ140とはポンプ室102に流体連通する。
【0066】
ここで示されているマイクロポンプ100の実施形態では、吸入側チェックバルブ130および排出側チェックバルブ140は、2つの半導体チップ150,160の積層物170の形態で実施される。この形態では、二重バルブ構造170の上部半導体層または上部半導体チップ150は、下部半導体層または下部半導体チップ160の上に配置される。第1および/または第2の半導体層150,160は、たとえば、シリコンまたは他の半導体材料を含んでもよい。
【0067】
図1Eおよび
図1Fから理解することができるように、ポンプ本体120の第1の面122は平坦であり、吸入および排出バルブ130,140の上面152、言い換えると、ポンプダイアフラム110に向く表層150の上面152も平坦であり、
図1Eの垂直向きについて説明する場合に第1の面122と同じ高さに位置する。(表面122,152によって定義される)共通の平面の下で、吸入側チェックバルブ130は空所132、たとえば上部層および下部層150,160に形成される空所を備え、排出側チェックバルブ140はたとえば上部層150にある空所142を備える。
【0068】
図1Eおよび
図1Fは二重バルブ構造170を用いるポンプ本体120を示しているが、ポンプに関する異なる実施形態は、ポンプに直接パターニングされるバルブ構造130,140を備えてもよい。さらなる実施形態では、バルブ構造170の上面152は、ポンプ本体120をあらかじめ形成することができる(たとえば
図4A〜
図4E参照)。
【0069】
以下、ポンプ本体120の第1の面122と吸入側および排出側チェックバルブ130,140の上面152とをともにポンプ本体またはポンプ本体下部の第1の面とも呼ぶ。
図1Eおよび
図1Fに図示されているマイクロポンプ100は、実質的に平坦な第1の面122と、実質的に平坦なポンプ本体下部とを備える。言い換えれば、第1の面122はバルブの空所132,142を除いて平坦な実施例を備える。
【0070】
この点について説明すると、ポンプ室102の最大容積V
maxは、ポンプ体120と偏り状態で
図1Eに示されているようなポンプダイアフラム110との間の容積と、バルブ空所132,142の容積とを備える。
【0071】
さらに
図1Fから理解することができるように、ポンプダイアフラム110が、ほとんど偏っていない第2の位置にある平坦な形状を持つと仮定し、ポンプ本体120の第1の面122に当接する実施形態では、最小容積または死容積V
0は主にバルブ空所132,142により決定される。2つの容積の差をストローク量ΔV=V
max−V
0とも呼ぶ。圧縮比cはc=ΔV/V
0と定義されるので、
図1Eおよび
図1Fに示されている実施形態は高い圧縮比を持つ。
【0072】
この例では、ポンプ室102は、ポンプダイアフラム110の周縁に沿う、ポンプダイアフラム110とポンプ本体120との間の接続によって、その周囲(吸入側チェックバルブ130および排出側チェックバルブ140を除く)に対して完全に封止される。ポンプダイアフラム110の周縁は、角ばった形状、任意の点対称の形状などを持ってもよい。ポンプダイアフラム110の角ばった周縁または点対称の周縁により、これらの形状は運動中の変形を防止するので、ポンプ特性が改善される。
【0073】
図2Aおよび
図2Bは、ポンプダイアフラム110の上側112に配置される圧電要素210を備えるポンプ200の実施形態の断面を概略的に示す。
図1Eと同様に、
図2Aは、ポンプダイアフラム110が第1の偏り位置にあるポンプ200を示す。
図1Fと同様に、
図2Bは、ポンプダイアフラム110がほとんど偏っていない第2の位置にある(この場合では平坦位置にある)ポンプ200を示す。
【0074】
図2Aは、圧電ダイアフラムトランスジューサ101がポンプ200のポンプ本体120に配置される本発明のポンプ200も示す。圧電ダイアフラムトランスジューサ101は、圧電セラミック層から製造され、かつダイアフラム110に配置される圧電要素210を備える。本発明によれば、圧電要素210は、少なくとも6つの角を持つ正多角形形状を持つ。圧電要素210の多角形形状は本断面図では理解することができないので、この点については
図3に示されている上面図を参照する。
【0075】
したがって、
図2Aおよび
図2Bに示されている圧電要素210の多角形形状は、
図3に示されている上面図で理解することができる。
図3によれば、マイクロポンプ200はポンプ本体120を備える。
図1Eに関して上記で説明されているように、ポンプ室102は、ポンプ本体120と、基礎となる偏ったダイアフラム110との間に形成される。この例では、ポンプ室102は外側の破線の円301によって表わされる円形形状を持つ。円形のポンプ室102は直径Dを持つ。
【0076】
ダイアフラム110は、観察者に向くポンプ室102の上側に配置される。この例のダイアフラム110は、ポンプ本体120の面内方向寸法にわたって全体的に張力をかけられ、ポンプ本体120に取り付けられる。圧電要素210は観察者に向くダイアフラム110の上側に配置される。圧電要素210およびダイアフラム110はともに本発明の圧電ダイアフラムトランスジューサ101を形成する。
【0077】
圧電要素210は圧電セラミック層から製造され、六角形形状を持つ。より正確には、圧電要素210は、6つの角の、偶数個の多角形角を持つ正多角形形状を持つ。この場合の正多角形形状は、等辺であり、かつ等角でもある多角形を意味する。
【0078】
直径dの外接円302は、多角形形状の圧電要素210の周囲で定義することができる。外接円302の直径dはポンプ室102の直径Dよりも小さい。
【0079】
図2Aおよび
図2Bで理解することができるように、圧電要素210は第1の面212(上面または最上面とも呼ぶ)上に上部電極を備える。さらに、圧電要素210は、第2の面214(下面または最下面とも呼ぶ)上に下部電極を備え、第2の面214は、圧電要素210の反対側の主面に配置される。圧電要素210の最上電極は第1のコンタクト216に電気的に接続され、圧電要素210の最下電極は、たとえば導電層によってポンプの第2のコンタクト218に電気的に接続される。導電層は、少なくとも、ポンプダイアフラム110の第1の面112の一部に施されてもよい。
【0080】
圧電要素210は、たとえば、接着または別の接合技術によってポンプダイアフラム110に接合されてもよい。正電圧が上部電極216と下部電極218の間に印加される場合に、圧電要素210が面内方向に収縮して、したがって偏ったポンプダイアフラム110を下方に、すなわち、ポンプ本体120に向かう方向に撓まされるように圧電要素210を分極化する。
【0081】
図2Aでは、電圧は電極216,218に印加されていない(U=0V)。したがって、圧電要素210はこの場合動作しておらず、偏ったダイアフラム110はその偏り位置に維持される。
【0082】
図2Bでは、正電圧が印加されている(たとえばU=U
MAX)。したがって、ポンプダイアフラム110は下方に、すなわち、ポンプ本体120に向かう方向に撓ませられ、平坦なポンプ本体120に接する。
【0083】
第1の偏り位置から第2の平坦位置へのポンプダイアフラム110の動きは、本発明の圧電要素53,83,210(たとえば圧電セラミック210または、たとえば、
図2Aおよび
図2Bを参照して上記で述べたようにポンプダイアフラム上に接着される圧電積層アクチュエータを用いる他の圧電駆動部)によって、様々に実現することができる。当該圧電駆動部は、正電圧を印加するとき面内方向に収縮し、電圧が印加されないとき面内方向に弛緩する。これに加えて、負電圧が印加されるとき、当該圧電駆動部は弛緩状態にあるその面内方向長さまたは寸法を超えて広がる。他の実施形態では、ポンプダイアフラムにおける力の印加は、ポンプダイアフラムに恒久的に接合される圧電積層アクチュエータによって行なわれてもよい。
【0084】
図4A〜
図4Eは、ポンプダイアフラム110を備えるポンプ400の別の実施形態の断面図を示す。これらの図では、
図1Eに関して上記に記載されている2層バルブ構造170はこの場合にはポンプ本体120を形成し、ポンプ室110はパターニングされ、少なくとも部分的に薄くされた第3の層410として実施されている。
【0085】
図4Aから理解することができるように、第3の層410は上面または第1の面412を備え、可撓性のポンプダイアフラム110を形成する。第3の層410は、バルブ130,140の周囲のほぼ中央の領域において、第1の面412の反対側に配置されている下面または第2の面414の領域でわずかに薄くされている。
【0086】
上部領域412は面内方向長さd
2を持つ。円形のポンプ本体120または円形のポンプダイアフラム110の場合、上部領域412はこれに応じて寸法d
2の直径を持つ。下部の薄くされた領域はポンプ室102を形成し、面内方向長さまたは直径Dを備える。ポンプ室102は、好ましくは、環状、特に、円環状であるように実施される。
【0087】
第1の面または上面412の面内方向長さまたは直径d
2は、第2の面または下面414の面内方向長さまたは直径Dよりも大きい。ポンプダイアフラム110または第3の層410およびポンプ本体170は互いに接続されており、これにより、ポンプ室102がポンプ本体170とポンプダイアフラム110との間に定められる。
【0088】
図4Aは、圧電要素がダイアフラム110に接合され、そのダイアフラム110が撓まされる前の状態のポンプ400を示す。
【0089】
図4Bでは、圧電要素210が、その下側に施される接着層320によってポンプダイアフラム110の上側に取り付けられる。
【0090】
図4Cは、圧電要素210がポンプダイアフラム110に配置され、接着層320がポンプダイアフラム110と圧電要素210との間に配置されるポンプを示す。
【0091】
本発明によれば、
図4A〜
図4Cの断面図に示されている圧電要素410は、少なくとも6つの角を持つ正多角形形状を持つ。この点については、
図3に示されている本発明のポンプの上面図を再び参照して、圧電要素210の多角形形状を明確に理解することができる。
【0092】
図3および
図4A〜
図4Eでは、ポンプは、第1の層160とその上に配置される第2の層150とを備えるポンプ本体170を備える。観察者から離れるように向く第3の層410の薄くされた領域にはポンプ室102が形成され、第3の層410は第2の層150の上に配置される。
【0093】
したがって、ポンプ室102はポンプ本体170とダイアフラム110との間に形成される。この例では、ポンプ室102は外側の破線の円によって示されている円形形状を持つ。円形のポンプ室102は直径Dを持つ。
【0094】
多角形形状の圧電要素210は観察者に向くダイアフラム110の上側に配置される。圧電要素210とダイアフラム110とはともに本発明の圧電ダイアフラムトランスジューサ101を形成する。
【0095】
圧電要素210は圧電セラミック層から製造され、六角形形状を持つ。より正確には、圧電要素210は、6つの角の、偶数個の多角形角を持つ正多角形形状を持つ。
【0096】
直径dを持つ外接円302は、多角形形状の圧電要素210の周囲で定義することができる。外接円302の直径dはポンプ室102の直径Dよりも小さい。
【0097】
図4Dは、接着剤320によってポンプダイアフラム110に配置される多角形形状の圧電要素210を備える本発明のポンプ400の別の断面図を示す。この実施形態では、同様にポンプダイアフラム110を偏らせる。このことは、電圧が圧電要素210に印加されていない場合にポンプダイアフラム110が図示のようなその偏り開始位置にあることを意味する。
【0098】
図4Eでは、電圧、たとえば、U=U
MAX=300Vが印加される。圧電要素210は面内方向に収縮し、したがって、ポンプ本体170に向かう方向にポンプダイアフラム110を押す。このことは、ポンプストロークが実行され、この際、輸送される媒体が吸入口130から排出口140に輸送されることを意味する。
【0099】
ここまでの上記の実施形態が、ポンプダイアフラム410がまずポンプ本体170に接合され、その後に偏らせるように記載されていても、別の実施形態では、あらかじめ偏ったポンプダイアフラム410をポンプ本体170に接合してもよい。別の実施形態では、ポンプダイアフラム110を偏らせなくてもよい。このような場合、ポンプダイアフラム110はその開始位置(
図2B、
図4C)でポンプ本体120,170に隣接して配置され、電圧を印加するとき、ポンプダイアフラム110は外方にふくらむ。すなわち、ポンプダイアフラム110はポンプ本体120,170から離れるように動く(
図2A、
図4D)。
【0100】
図を参照して上記に記載されているように、本発明によれば、圧電ダイアフラムトランスジューサ101は、ポンプダイアフラム110に取り付けられる多角形形状の圧電要素53,83,210により形成される。この多角形形状の圧電要素53,83,210とは別に、さらなる圧電要素をダイアフラム110に取り付けてもよい。好ましくは、必ずしも必要ではないが、これらの追加の圧電要素も正多角形形状を備えてもよい。
【0101】
述べられているように、圧電ダイアフラムトランスジューサ101は、ポンプダイアフラム110と、ポンプダイアフラム110に配置される圧電要素53,83,210とを備える。本発明の方法を用いて製造することができるポンプは正多角形形状の圧電要素53,83,210を備える少なくとも1つの圧電ダイアフラムトランスジューサ101を備え、この圧電ダイアフラムトランスジューサ101はポンプ本体120,170に取り付けられる。ただし、いくつかの圧電ダイアフラムトランスジューサをポンプ本体120,170に取り付けてもよい。このことは、いくつかのダイアフラムが(または1つのダイアフラムがいくつかの部分に細分されたものも同様)各々少なくとも1つの圧電要素を有し、これらのダイアフラムがポンプ本体120,170に配置されてもよいことを意味する。好ましくは、必ずしも必要ではないが、追加のダイアフラムまたはダイアフラム部分に配置される圧電要素も正多角形形状を備えてもよい。
【0102】
したがって、たとえば、独国特許出願公開第102 38 600号に記載されているような蠕動ポンプに本発明のいくつかの圧電ダイアフラムトランスジューサ101を設けてもよい。典型的には、ポンプ本体に取り付けられる第1の圧電ダイアフラムトランスジューサは、第1の流体通路とともに吸入バルブを形成してもよい。ポンプ本体に取り付けられる第2の圧電ダイアフラムトランスジューサは、たとえば、第2の流体通路とともに吸入バルブを形成してもよい。ポンプ本体に取り付けられる第3の圧電ダイアフラムトランスジューサは、たとえば、ポンプ本体の一部とともにポンプ室を形成してもよい。本発明によれば、圧電ダイアフラムトランスジューサの少なくとも1つは正多角形形状を持つ圧電要素を備える。好ましくは、少なくとも2つの他の圧電ダイアフラムトランスジューサが各々正多角形形状を持つ圧電要素を備えてもよく、あるいはすべての他の圧電ダイアフラムトランスジューサでさえ、各々正多角形形状を持つ圧電要素を備えてもよい。
【0103】
本発明の多角形形状の圧電要素53,83,210の利点が
図5A、
図5Bおよび
図5Cを参照して以下に記載される。
【0104】
図5Aは、先行技術に係るマイクロポンプ500Aの上面図を示す。マイクロポンプ500Aは四角形のポンプ本体501Aを備える。四角形のダイアフラム502Aはポンプ本体501Aに配置される。四角形の圧電要素503Aはダイアフラム502Aに配置される。破線で示されている四角形のポンプ室504Aはダイアフラム502Aとポンプ本体501Aとの間に設けられる。
【0105】
ポンプ本体501Aにダイアフラム502Aを取り付けるか、接合するために、周縁にあるチップ縁505Aは、四角形のポンプ室504Aと四角形のポンプ本体501Aの外側との間に残っていなければならない。接合のための十分な面積を設けるために、チップ縁505Aは、周縁に沿って少なくとも300μm以上の幅B
v持たなければならない。
【0106】
図5Bは、マイクロポンプ500Bのモデルの上面図を示す。マイクロポンプ500Bは四角形のポンプ本体501Bを備える。四角形のダイアフラム502Bはポンプ本体501Bに配置される。円形の圧電要素503Bはダイアフラム502Bに配置される。破線で示されている円形のポンプ室504Bは、ダイアフラム502Bとポンプ本体501Bとの間に設けられる。
【0107】
円形のポンプ室504Bに起因して、
図5Aに示されている先行技術と比較すると、ダイアフラム502Bを接合するためのきわめて大きい空間が4つの角510B,511B,512B,513Bに残っている。したがって、円形のポンプ室504Bの周縁を四角形のポンプ本体501Bの縁に近づけることができる。周縁にあるチップ縁505Bは、
図5Aに示されている先行技術と比較する場合に小さい最小幅B
Rを持ってもよい。ここで、幅B
Rは最短縁端距離の領域、すなわち、ポンプ室504Bの外周が四角形のポンプ本体501Aの外側から最短で離間する領域で測定される。
【0108】
始めに述べたように、
図5Bで示されているような円形の圧電要素を提供する、大量製造に適する技術は現在ない。したがって、
図5Bに示されているポンプ500Bは、以下に述べるシミュレーション試行のために、比較の目的でモデル化された理想化モデルを単に表わす。
【0109】
図5Cは、上から見た本発明のポンプ500を示す。この実施形態は、基本的には、
図3に示されているポンプ200に対応する。ポンプ500は四角形のポンプ本体120を備える。ポンプ本体120の形は四角であり、たとえば5mmの面内方向長さを持つ。
【0110】
ダイアフラム110は、観察者に向かうポンプ本体120の側に配置される。圧電要素210は、観察者に向かうダイアフラム110の側に配置される。圧電要素210は6つの角を持つ正多角形形状を持つ。正多角形形状に起因して、多角形形状の圧電要素210は、点線として示されている外接円515を定義することができる。
【0111】
ポンプ500は破線で示されている円形ポンプ室102を備える。先行技術と比較する場合、4つの角510,511,512,513に、ポンプダイアフラム110を取り付けるためのより大きい空間があるので、ポンプ室102とポンプ本体120の外側との間の最小縁端距離B
Pを減少させることができ、これにより、ポンプ室102の直径Dを増大させることができる。
【0112】
先行技術と比較して本発明の利点を示すために、シミュレーションプログラムANSYSを用いるシミュレーションを行なった。その結果を
図6Aおよび
図6Bを参照してより詳細に説明する。
【0113】
多角形の圧電要素(
図5C)を備える本発明のポンプの効率に関するシミュレーションを実行した。シミュレーションは、四角形の圧電要素(
図5A)および円形の圧電要素(
図5B)を有する等しい寸法のポンプと比較する場合のものである。
【0114】
図5A、
図5Bおよび
図5Cに示されている外側の四角はマイクロポンプ500,500A,500Bのチップサイズを記述し、外側の破線の円または破線の四角はポンプ室102,504A,504Bの境界線を記述する一方で、影付きの内部エリアは圧電要素210,503A,503Bの形状を示す。「直径(diameter)」、すなわち、本発明の六角形の圧電要素201の外接円は、六角形を定義することができる円半径(circle radius)(点線の円)に対応する。
【0115】
ポンプ室と縁との最小距離B
V,B
R,B
Pが等しい(たとえば300μm)場合に、円形のポンプ室(
図5B、
図5C)の接合面積が四角いポンプ室(
図5A)の接合面積よりもきわめて大きいことが分かる。
【0116】
プログラムANSYSを用いるシミュレーションは、以下のパラメータを用いて実行された。
・チップサイズ:5×5mm
2
・ポンプ室直径:4400μm
・ダイアフラム厚:30μm
・圧電セラミック厚:55μm
・材料値:
・シリコン弾性係数 1.60E+11Pa
・シリコンポアソン比 0.25
・圧電体弾性係数 8.00E+10Pa
・圧電体ポアソン比 0.25
・圧電定数d31:3.50E−10m/V
・電圧ストローク:+82.5V/−22V
【0117】
図6Aは、圧電体サイズ(x軸)に依存するストローク量(y軸、ナノリットル)のシミュレーション結果を示す。グラフ601は、円形ポンプ室の上にある六角形の圧電要素(
図5C)を有する本発明のポンプのシミュレーション結果を示す。グラフ602は、比較のための四角形のポンプ室の上にある四角形の圧電要素(
図5A)を有するポンプのシミュレーション結果を示す。グラフ603は、比較のための円形のポンプ室の上にある円形の圧電要素(
図5B)を有するポンプのシミュレーション結果を示す。
【0118】
図6Bは、圧電体サイズ(x軸)に依存するストール圧(y軸)のシミュレーション結果を示す。グラフ604は、円形ポンプ室(
図5C)の上にある六角形の圧電要素を有する本発明のポンプのシミュレーション結果を示す。グラフ605は、比較のための四角形のポンプ室の上にある四角形の圧電要素(
図5A)を有するポンプのシミュレーション結果を示す。グラフ606は、比較のための円形のポンプ室の上にある円形の圧電要素(
図5B)を有するポンプのシミュレーション結果を示す。
【0119】
したがって、圧電体サイズ係数を以下の通りに定義する。
【0124】
以下の表(表1)には、圧電体サイズ係数およびストール圧が最大である場合の最適圧電体ジオメトリ、すなわちストローク量がまとめられている。ストローク量およびストール圧の最大値は完全に同じ圧電体サイズ係数で最大ではないので、ストローク量V
strokeとストール圧p
stallとの積が最大である圧電体サイズ係数を選択する。さらにこの積は後に「効率」として定義する
【0126】
この積は、本発明の圧電ダイアフラムトランスジューサの効率の尺度である。効率は円形のダイアフラムで最良であり、その次に六角形のジオメトリと四角いダイアフラムとが続く
【0128】
六角形ジオメトリが四角ジオメトリよりも効率的であることは、この考察から明確になっている。四角いジオメトリに対する圧電要素の本発明の六角形形状の相対効率は、四角形状の比較対象の圧電要素の場合よりも3.3%だけ高い(すなわち良好である)。
円形のポンプ室の場合に、より小さい縁端距離B
R,B
V,B
Pを選択する(たとえば、b
1=300μmの代わりにb
2=100μmを選択する)ことができるということはこれまで考慮されていない。このことは、円形ポンプ室(
図5B、
図5C)の場合に、四角いポンプ室(
図5A)と比較して、4つの角510,511,512,513できわめて大きい接合面積を利用できることに起因する。
【0129】
他のパラメータが等しい状態で、ストローク量はダイアフラム面内方向長さの4乗で増加するが、その一方で(この場合もパラメータは等しい)、ストール圧は2乗で減少する。
したがって、ここで定義された効率はダイアフラム面内方向長さの2乗で増加する。
【0130】
このことは、効率(面内方向長さa、たとえばa=5mmを持つ等しいチップ寸法を持つ場合の効率)を円形の圧電要素および六角形の圧電要素場合でさらに改善することができることを意味する
【0132】
ここで選択されたパラメータを用いると、改善率は、1.19すなわち19%である。5mmのチップサイズを持ち、かつb
1=300μmの縁端距離の代わりにb
2=100μmの縁端距離を持つ場合、この結果として、円形の圧電要素および六角形の圧電要素は四角い圧電要素よりも19%効率的になる。これは、円形のポンプ室でダイアフラムの最小距離をチップ縁のさらに近くに配置し得るということのみに起因する。
【0133】
このことは、表1に見られる3.3%の効率改善に加えて、円形のポンプ室の場合にチップ縁(すなわち、ポンプ室とポンプ本体との最小距離)を減らすことができることで、さらに19%の改善を達成することができることを意味する。
【0134】
a=3mmのチップ寸法を持ち、かつ等しい縁寸法b
1,b
2を持つ場合、表2から分かるように、円形ポンプ室の効率は、四角形のポンプ室と比較して、36.1%改善し、2mmのポンプチップの面内方向長さの場合、さらに65.3%にまで改善する
【0136】
特にポンプチップを微小化するとき、六角形圧電セラミックの利点がその最高の効果を持つことがここで自明になっている。すなわち、四角ダイアフラムと同様に、ソーイングする膜から切り出すことができるのにもかかわらず、(理想的な円形の圧電セラミックと比較して)効率がわずか数パーセントしか失われない一方で、六角形圧電セラミックは、四角いダイアフラムと比較すると、小さいチップ寸法の場合にきわめて効率的であり、たとえば、3mmの寸法を持つポンプチップの場合に40%効率的である。
【0137】
ストローク量およびストール圧は、(所定のダイアフラム面内方向長さを持つ状態で)、ダイアフラムおよび圧電セラミックの厚さ、すなわち圧電ダイアフラムトランスジューサの厚さを変更することで調節してもよい。たとえば、より大きいダイアフラム直径で同じストール圧p
stallを得るためには、ダイアフラムおよび圧電セラミックはより厚くしならなければならない。
【0138】
六角形圧電セラミックは、以下の別の理由で有利である。
【0139】
直線的なソーング切断を用いないで、たとえば、レーザ切断、ウォータジェット切断または電子ビーム切断などのビーム切断法またはジェット切断法、および、任意の形状を対象にして、たとえば円形形状をも対象にして行なうものによって圧電セラミック層をダイシングする場合、六角形形状は、ハチの巣パターンと同様に、まったく切り残しなしで膜からソーングで切り出すことができる。ただしその場合には、六角形形はもはや直線的な切断を用いて切断することはできない。
【0140】
上述のシミュレーションで示されているように、六角形圧電要素は、円形のモデル圧電要素が持つのと同程度の大きいストロークおよびストール圧力を持つ。圧電セラミックの面積がコスト率を表わす場合、すなわち、切り残しを削減するか切り残さないようにし、かつビーム切断またはジェット切断技術が利用可能である場合、切り残しをなくすために膜をダイシングして六角形の圧電セラミックにすることは有効である。
【0141】
直線的な切断を用いて膜からソーイングで八角形の構造も切り出すことができるが、しかしながら、この場合の切り残しは25%(六角形の場合)から50%(八角形の場合)に増加する。
【0142】
さらに大きい正多角形、すなわち、8つ以上の角、好ましくは偶数の角を持つ多角形は、さらに大きい切り残しをともなってソーイングすることが可能である。
【0143】
多角数を大きくすると、より正確に円形の形を表現することができる。
【0144】
いくつかの態様はデバイスに関連して記載されているが、デバイスのブロックまたは要素が、対応する方法工程または方法工程の特徴でもあると解されるように、これらの態様は対応する方法の記載も表わすことを理解すべきである。同様に、方法に関連して記載されているか、方法として記載されている態様も、対応するデバイスの対応するブロックまたは詳細または特徴の記載を表わす。いくつかの方法工程またはすべての方法工程は、たとえば、マイクロプロセッサ、プログラム可能なコンピュータまたは電子回路のようなハードウェア装置によって(またはハードウェア装置を使用して)実行してもよい。いくつかの実施形態では、最も重要な方法工程のいくつかはこのような装置によって実行してもよい。
【0145】
上記の実施形態は、単に本発明の原則の例を表わすに過ぎない。ここに記載されている配置および詳細の修正および変更が他の当業者に自明であることを理解すべきである。したがって、本発明は、実施形態の記載および説明を用いて、ここで提示されている特定の詳細によってではなく、ともに添付される請求項の範囲のみによって限定されることを意図する。