特許第6797711号(P6797711)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6797711
(24)【登録日】2020年11月20日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】キャリッジ装置及びプリント装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20201130BHJP
   B41J 2/175 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   B41J2/01 303
   B41J2/175 153
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-28024(P2017-28024)
(22)【出願日】2017年2月17日
(65)【公開番号】特開2018-130937(P2018-130937A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2019年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒沼 大悟
【審査官】 中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−165447(JP,A)
【文献】 特開2014−208429(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0153631(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に往復移動するキャリッジと、
前記キャリッジに接続され、前記キャリッジに連れて動く信号ケーブルまたはインクチューブと、
前記信号ケーブルまたは前記インクチューブを保持しつつ前記キャリッジと共に動く、一方向に曲りやすく且つ他方向に曲がりにくい所定の幅を持ったチェーンリンクと
を備え、前記チェーンリンクは重力方向において2つの領域が重なるように曲がり部をもって配置されており、前記曲がり部を形成する前記チェーンリンクの部品が前記キャリッジの移動に伴って変わっていくキャリッジ装置であって、
前記チェーンリンクには、前記チェーンリンクからの前記信号ケーブルまたは前記インクチューブの浮き上がりを抑制する留め部材が前記チェーンリンクの長手方向に沿って複数取り付けられており、
前記留め部材は、前記チェーンリンクの幅方向の両端に取り付けられる一対の取付部と、前記一対の取付部の間をつないで前記チェーンリンクの外側をカバーする板部とを備え、前記一対の取付部と前記板部の前記幅方向における中央部とは前記長手方向においてずれて位置していることを特徴とするキャリッジ装置。
【請求項2】
前記キャリッジが移動する際に、前記留め部材が前記曲がり部に位置しないときよりも前記曲がり部に位置するときの方が、前記板部が前記チェーンリンクから外に飛び出す量が大きいことを特徴とする請求項1に記載のキャリッジ装置。
【請求項3】
前記チェーンリンクは、前記幅方向に長い形状の単位部品が前記長手方向に沿って複数つなげられた構造を有し、1つの前記留め部材において、前記取付部は1つの単位部品の両脇に取り付けられ、且つ前記板部は前記1つの単位部品とは異なる単位部品の少なくとも一部を覆うことを特徴とする請求項1または2に記載のキャリッジ装置。
【請求項4】
互いに形状が異なる第1の単位部品と第2の単位部品とが交互にリンク接続を繰り返して前記チェーンリンクが構成されており、
1つの前記留め部材において、前記板部は前記第1の単位部品の少なくとも一部を覆い、且つ前記取付部は前記第2の単位部品の両脇に取り付けられていることを特徴とする請求項3に記載のキャリッジ装置。
【請求項5】
前記第1の単位部品の両端に第1の突出部が形成されており、前記第2の単位部品の外面に前記第1の突出部よりも狭い幅で前記信号ケーブルまたは前記インクチューブを前記幅方向の両側から規制する第2の突出部が設けられており、前記板部は前記長手方向において隣り合う前記第2の突出部の間に位置するように設けられていることを特徴とする請求項4に記載のキャリッジ装置。
【請求項6】
前記チェーンリンクは前記キャリッジ装置の内部面により自重が支えられ、前記キャリッジが移動する際に、1つの前記留め部材は前記内部面に接触する状態と接触しない状態が切り替わることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のキャリッジ装置。
【請求項7】
前記キャリッジが移動する際に、複数の前記留め部材のうち少なくとも1つが前記曲がり部に位置するように、前記長手方向における前記留め部材の間隔が設定されていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載のキャリッジ装置。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか1項に記載のキャリッジ装置を備え、前記キャリッジに搭載された記録ヘッドによりシートにプリントを行うことを特徴とするプリント装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリッジ装置及びプリント装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、往復移動するキャリッジを備えたシリアル方式のプリント装置を開示する。このプリント装置では、キャリッジとは別に本体側に設けられたインクタンクから、インクチューブを介してプリントヘッドにインクが供給される。また、キャリッジの移動に追従してインクチューブが安定して変形しながら移動するように、補助的な部材(以下チェーンリンク)によりインクチューブを保持している。
【0003】
キャリッジには、インクチューブだけでなく電気的な信号ケーブルも接続され、キャリッジの移動に伴って信号ケーブルも変形しながら移動する。信号ケーブルは、多数の配線を相互の電気的干渉なく引き回すために、フレキシブル・フラット・ケーブル(以下FFC)を用いることが多い。キャリッジに接続されるインクチューブや信号ケーブルは物理的にダメージを受けやすく、キャリッジの移動に追従して変形及び移動させることには、繊細な取り扱いを要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−159603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、キャリッジに接続されるインクチューブまたは信号ケーブルへのダメージを軽減する機構が求められているが、特許文献1にはこのような機構は開示されておらず、課題がある。
【0006】
そこで本発明は、上記の課題に鑑み、キャリッジに接続されるインクチューブまたは信号ケーブルが、キャリッジの移動の際にダメージを受けにくい機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、所定方向に往復移動するキャリッジと、前記キャリッジに接続され、前記キャリッジに連れて動く信号ケーブルまたはインクチューブと、前記信号ケーブルまたは前記インクチューブを保護しながら保持しつつ前記キャリッジと共に動く、一方向に曲りやすく且つ他方向に曲がりにくい所定の幅を持ったチェーンリンクとを備え、前記チェーンリンクは重力方向において2つの領域が重なるように曲げて配置されており、曲がり部を形成する前記チェーンリンクの部品が前記キャリッジの移動に伴って変わっていくキャリッジ装置であって、前記チェーンリンクには、前記チェーンリンクからの前記信号ケーブルまたは前記インクチューブの浮き上がりを抑制する留め部材が前記チェーンリンクの長手方向に沿って複数取り付けられており、前記留め部材は、前記チェーンリンクの幅方向の両端に取り付けられる一対の取付部と、前記一対の取付部の間をつないで前記チェーンリンクの外側をカバーする板部とを備え、前記一対の取付部と前記板部の前記幅方向における中央部とは前記長手方向においてずれて位置していることを特徴とするキャリッジ装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、キャリッジの移動の際にキャリッジに接続されるインクチューブまたは信号ケーブルがダメージを受けにくくなるので、長期間にわたる装置の安定稼働が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例に係るプリント装置の模式的な断面図
図2】キャリッジ及びその周辺構造の斜視図
図3】キャリッジ及びその周辺構造の側面図
図4】チェーンリンク及びその周辺構造の斜視図
図5】チェーンリンク及びその周辺構造の断面図
図6】チェーンリンク及びその周辺構造の概略正面図
図7】本発明の変形例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をプリント装置に適用した実施形態について説明する。但し、以下に記載されている構成要素の相対配置、装置形状等は、あくまで例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。また、本明細書における「プリント装置」とは、プリント機能に特化した専用機に限らず、プリント機能とその他の機能を複合した複合機や、記録媒体上に画像やパターンを形成する製造装置等も含むものとする。さらに、本発明は、キャリッジに搭載された記録ヘッドによりシートにプリントを行うプリント装置に限らず、往復移動するキャリッジを備える装置(以下、キャリッジ装置とする)に広く適用することができる。
【0011】
<プリント装置の構成について>
以下、本発明の実施例に係るプリント装置の構成について、図1を用いて説明する。図1は、プリント装置の模式的な断面図である。ここで、説明のために図中に示すように座標軸を設定する。即ち、後述するキャリッジ3が移動する方向をx軸方向、シートがプリント部7でプリントされる際に搬送される方向をy軸方向、x軸方向とy軸方向とに垂直な方向をz軸方向(高さ方向)とする。尚、この座標軸は後述する図1〜4、図6図7においても同様に設定するものとする。
【0012】
プリント装置100は、プリントヘッド2と、キャリッジ3とを含むプリント部7を備える。プリントヘッド2には複数のインクの吐出口(インクジェットノズル)が形成され、夫々の吐出口に連通するように、プリントヘッド2の内部に複数の流路が形成されている。複数の流路の夫々には、ヒータやピエゾ素子などのインクジェット方式のエネルギ発生素子が配置されており、インクジェット方式で吐出口からインク滴が吐出される。プリント部7の位置と異なる位置に、プリントヘッド2に供給するインクを貯留するためのインクタンクが配置されている。尚、インクジェット方式のプリントヘッドに限らず他のプリント方式のプリントヘッドを用いても良い。
【0013】
キャリッジ3は、駆動力を伝達するベルト等の駆動力伝達機構によりキャリッジモータで発生した力が伝達されることで、主走査方向(x軸方向)に沿って往復移動する。プリント対象のロール状のシートは給紙部に設置されている。尚、プリント対象のシートとして、例えばOHPシート等の任意のものを用いて良い。プリント装置100は、回転駆動する搬送ローラ4と、搬送ローラ4に従動して回転するピンチローラ5とを備える。プラテン6は、プリント部7に対向する位置にてシートを支持する。シート1は、搬送ローラ4とピンチローラ5との間にシートが挟まれた状態でy軸方向に沿って搬送される。プリント装置100は、プリントヘッド2を主走査方向に沿って移動させつつ、プラテン6上のシートに向かってインクを吐出させるプリント動作と、シートを副走査方向(y軸方向)にステップ送りする搬送動作とを行う。プリント動作と搬送動作とが繰り返されるシリアルプリント方式でシートに画像がプリントされる。プリント部7でプリントされたシートは、カッター8によってカットされてバスケット9へ排出される。
【0014】
<キャリッジ周辺の構図について>
以下、本実施例に係るキャリッジ3周辺の構造について、図2及び図3を用いて説明する。図2はプリント装置100内のキャリッジ3及びその周辺構造の斜視図であり、図3はキャリッジ3及びその周辺構造の側面図である。
【0015】
第1ガイドレール11及び第2ガイドレール12は、本体フレーム10によって支持され、プリントヘッド2を搭載したキャリッジ3は、第1ガイドレール11及び第2ガイドレール12によってプリント装置100の本体に支持される。また、キャリッジ3は、第1ガイドレール11及び第2ガイドレール12によって、プリント装置100の内部を案内される。具体的には、キャリッジ3は、第1ガイドレール11及び第2ガイドレール12の延びる方向(x軸方向)に沿って往復移動する。
【0016】
本発明の特徴の1つであるチェーンリンク(フレキシブルサポートと呼ぶ場合もある)について説明する。図2図3において、プリント装置100の本体側の固定部と、移動体であるキャリッジ3との間は、チェーンリンク101を介して接続されている。詳細には、図2に示すようにキャリッジ3の上面とチェーンリンク101とが連結されている。チェーンリンク101は、キャリッジ3のx軸方向に沿っての往復移動に連れて動く。チェーンリンク101は、後述するように、2種類の構成部品(単位部品)を交互にリンク接続で多数つなぎ合わせたキャタピラー(登録商標)のような構造体である。この構造体は、高剛性を持ちつつ所定の一方向にはフレキシブルに曲がって変形し且つ他方向には曲がりにくい。
【0017】
チェーンリンク101は、FFC等の信号ケーブル束102及びインクチューブ束103を、長い範囲に渡ってダメージを受けないように保護しながら保持する。また、チェーンリンク101は、キャリッジの移動に伴って、信号ケーブル束102及びインクチューブ束103と共に変形しながら連れ動く。信号ケーブル束102は、本体側に固定される基板等を有する制御部とキャリッジ3及びプリントヘッド2との間を電気的に接続するフレキシブルなケーブルの束である。本実施例では、信号ケーブル束102として、複数本の信号線が束になってフラットな形状を構成するFFCを用いる。インクチューブ束103は、本体側に固定されたインクタンクからキャリッジ3上のプリントヘッド2に対して、インクを供給するフレキシブルなインクチューブの束である。インクチューブ束を構成する各インクチューブは、単色インクを供給する。本実施例では、後述するように、インクチューブ束103は6本のインクチューブから構成され(図5参照)、6色のインク(シアン、マゼンダ、イエロー、ブラック、フォトシアン、フォトマゼンダ)がプリントヘッド2に供給される。信号ケーブル束102及びインクチューブ束103は、キャリッジ3のハウジングを貫通して、プリントヘッド2に接続されている。尚、ここでは、複数の信号ケーブルから成る信号ケーブル束、及び、複数のインクチューブから成るインクチューブ束を用いる場合を説明するが、1本の信号ケーブル、1本のインクチューブがキャリッジに接続される場合にも本発明を適用することができる。
【0018】
図4は、信号ケーブル束102及びインクチューブ束103を保持しているチェーンリンク101が湾曲している部位(以下、曲がり部)を拡大した斜視図である。図1図4等に示すように、チェーンリンク101は、その一部が常に曲がり部を形成するように、プリント装置100内に配される。尚、曲がり部に対し、チェーンリンク101が湾曲していない部位を直線部と称する。図4に示すように、チェーンリンク101は、チェーンリンク101の短手方向(幅方向)に長い形状を有する単位部品がチェーンリンク101の長手方向に沿って複数つなげられた構造を有する。詳細には、チェーンリンク101は、互いに形状が異なる第1の単位部品と第2の単位部品とが交互にリンク接続された繰り返し構造を有する。第1の単位部品と第2の単位部品とは、ピン105で接続されている。図5は、図4の断面線V−Vにおける断面図である。図5に示すように、チェーンリンク101は、左右で対向する一対の接続部材106と、その間を架け渡すようにつなぐ外梁107a及び内梁107bとにより構成される。本明細書では、外梁107aと内梁107bとを併せて梁部107と称する。また、本実施例では、第1の単位部品又は第2の単位部品として、樹脂成型により作成された一部品を用いる。隣接する第1の単位部品と第2の単位部品とをピン105で接続し、幾つもの部品をつなぎ合わせることで、フレキシブル且つ長尺の構造体としてチェーンリンク101を構成している。
【0019】
本明細書では、チェーンリンク101の曲がり部の外側となる面を「外面」と呼び、この曲がり部の内側となる面を「内面」と呼ぶ。外梁107aはチェーンリンク101の外側を形成し、内梁107bはチェーンリンクの内側を形成する。図5に示すように、対向する一対の接続部材106、及び、対向する外梁107aと内梁107b、により囲まれた内空間S1が形成される。チェーンリンク101は複数の部品がつなぎ合わさって構成されているので、夫々の部品の内空間も接続されて、途切れなく貫通した内空間が形成される。この内空間S1に、チェーンリンク101の長手方向とインクチューブ束103の長手方向(伸長方向)とが同じとなるようにインクチューブ束103が配される。
【0020】
図4及び図5に示すように、外梁107aの外側の面(チェーンリンク101の外面)には、チェーンリンクの内側から外側に向かう方向に突出した一対の第1の突出部110と、別の一対の第2の突出部108とが設けられている。図4に示すように、一対の第1の突出部110は、第1の単位部品の両端に形成される。また、図4及び図5に示すように、一対の第2の突出部108は、第2の単位部品の外面に形成される。ここで、対を成す突出部間の幅は、第2の突出部108の方が第1の突出部110よりも狭く、一対の第2の突出部108は、その狭い幅で信号ケーブル束102を幅方向の両側から規制する。一対の第2の突出部108の夫々の突出部の間に信号ケーブル束102が配置されている。また、信号ケーブル束102がチェーンリンク101から外側に浮き上がって外れるのを防止するための留め部材111(外れ防止部材)がチェーンリンク101に取り付けられている。留め部材111に関して、図2図4等に示すように、留め部材111が複数取り付けられており、夫々の長手方向における位置は異なる。尚、チェーンリンク101の長手方向における留め部材111の間隔は、キャリッジ3が移動する際に、曲がり部において留め部材が少なくとも1つ位置するように設定されている。また、留め部材111が取り付けられた箇所では、図5に示すように、留め部材111とチェーンリンク101との間に内空間S2が形成される。内空間S2に、チェーンリンク101の長手方向と信号ケーブル束102の長手方向とが同じとなるように、信号ケーブル束102が配されている。信号ケーブル束102は、チェーンリンクの外面でチェーンリンク101の長手方向に延在している。
【0021】
前述したように、チェーンリンク101は、一対の接続部材106、外梁107a、及び内梁107bによって構成され、且つ互いに形状が異なる第1の単位部品と第2の単位部品とが交互にリンク接続された繰り返し構造を有する。このような構造を有するチェーンリンク101は、高剛性を持ちつつ所定方向にはフレキシブルに曲がって変形する。チェーンリンク101の一部がプリント装置100内において常に湾曲するような構成とすることで、チェーンリンク101を狭い空間に配することができる。尚、本実施例では、チェーンリンク101は、z軸方向(重力方向)において2つの領域が重なるように曲げて配置されている。キャリッジ3の往復移動に追従して、チェーンリンク101の曲がり部を形成する部品が順次変わっていく。チェーンリンク101を構成する部品のうち第1ガイドレール11又は第2ガイドレール12によって支持されている部品は、これらのガイドレールの延びる方向に沿って移動する。一方、チェーンリンク101を構成する部品のうち第1ガイドレール11又は第2ガイドレール12によって支持されていない部品は、チェーンリンク101の曲がり部を形成しつつ移動する。
【0022】
図5に示すように、チェーンリンク101の外面に配される信号ケーブル束102は、その左右両端が一対の第2の突出部108によりゆるく挟まれて、一対の第2の突出部108と外梁107aとで形成される凹部109で保持された状態にある。このような構成により、信号ケーブル束102の左右方向における位置にずれが生じにくくなり、キャリッジ3の移動時に信号ケーブル束102がチェーンリンク101から外れにくくなる。また、凹部109の凹みを覆う形で、留め部材111が接続部材106に取り付けられており、留め部材111が取り付けられた箇所においては、内空間S2を信号ケーブル束102が貫通した状態となっている。ここで、第2の突出部108は、チェーンリンク101の内側から外側に向かって突出し、第2の突出部108の先端部108aの高さは、信号ケーブル束102や留め部材111の高さより大きい。従って、信号ケーブル束102は、先端部108aよりもチェーンリンク101の内面近くに位置する。また、一対の第1の突出部110の先端部110aの高さは、先端部108aの高さと等しいものとする。
【0023】
キャリッジ3の往復移動に追従して、チェーンリンク101が変形しながら移動する。その際、チェーンリンク101の外側の一部と、本体フレーム10とが接触する。チェーンリンク101の外側の一部と、装置の外装カバー13の内面とが接触する場合すらある。本実施例では前述したように、チェーンリンク101に第1の突出部110及び第2の突出部108が設けられ、信号ケーブル束102及び留め部材111は、これらの突出部の先端部よりもチェーンリンク101の内面近くに位置する。従って、信号ケーブル束102がチェーンリンクの面以外の本体側の面と接触することは抑制されるので、信号ケーブル束102はダメージを受けずに済む。このように、一対の第1の突出部110及び一対の第2の突出部108は、信号ケーブル束102がチェーンリンクの面以外の本体側の面と触れてダメージを受けることを防ぐ保護手段として機能する。
【0024】
また、信号ケーブル束102はチェーンリンク101の外側に配され、インクチューブ束103は内空間S1に配されていることから分かるように、信号ケーブル束102とインクチューブ束103とは、物理的に分かれて配されている。このような構造により、チェーンリンク101がどのように変形しても、信号ケーブル束102とインクチューブ束103との間の分離した位置関係は維持される。そのため、キャリッジ3の移動中に信号ケーブル束102とインクチューブ束103とが接触することは無い。また、信号ケーブル束102及びインクチューブ束103に過度の引っ張りや圧縮が作用することが抑えられる。
【0025】
第1の突出部110は、チェーンリンク101の姿勢を安定させる役割を果たす。尚、ここでは、プリント装置100が第1の突出部110及び第2の突出部108を備える場合を説明しているが、第1の突出部110と第2の突出部108との両方が必須の構成要素というわけではなく、一方を省略しても良い。
【0026】
チェーンリンク101は、プリント装置の内部面(本体フレーム10)により自重が支えられる。ここで、チェーンリンク101の突出部の先端が、本体フレーム10と接触する際には打音が生じやすい。この打音を小さくするため、本実施例では図3に示すように、本体フレーム10のチェーンリンク101と接触する部分に、緩衝部材14を設ける。緩衝部材14は、弾性を有し、且つ表面の摩擦が小さいことが要求される。本実施例では、緩衝部材としてスポンジ状の弾性体に表面が平滑な樹脂フィルムを貼り付けた部材を用いる。
【0027】
信号ケーブル束102がチェーンリンク101から浮き上がることを防止するために取り付けられる留め部材111は、信号ケーブル束102が変形時に先端部108aの高さ以上の位置まで浮き上がることを抑える役割も果たす。前述したように、本実施例では、チェーンリンク101に第1の突出部110、及び、第2の突出部108を設けることと、留め部材111を取り付けることとにより、信号ケーブル束102が本体側の面と接触する回数を低減する。このような構成により、チェーンリンク101がダメージを受けることを抑えられるので、プリント装置100を長期間にわたって使用した場合であっても、信号ケーブル束102は良好な状態が維持される。
【0028】
また、本実施例では、チェーンリンク101の外面に信号ケーブル束102が配され、チェーンリンク101の内空間S1にインクチューブ束103が配されている。つまり、チェーンリンク101の曲がり部において、インクチューブ束103の屈曲半径よりも信号ケーブル束102の屈曲半径が大きくなる。このような構成にする理由は、インクチューブに比べると信号ケーブルは折り曲げられる力に対して物理的に弱いので、曲がり部において、信号ケーブル束102に加えられる力を、インクチューブ束103に加えられる力よりも弱めるためである。このように本実施例では、チェーンリンク101の外面に信号ケーブル束102を配することと、突出部及び留め部材を設けて信号ケーブル束102を保護することとにより、信号ケーブル束102が物理的にダメージを受けることを防いでいる。
【0029】
但し、前述の信号ケーブル束102とインクチューブ束103との間の配置関係は必須ではない。例えば、信号ケーブル束に十分な屈曲半径を持たせることができるのであれば、信号ケーブル束を内空間に配し、インクチューブ束をチェーンリンクの外面に配しても良い。また、信号ケーブル束とインクチューブ束との両方をチェーンリンクで保持するのではなく、どちらか一方のみをチェーンリンクで保持し、他方をチェーンリンクで保持しないようにしても良い。この理由は、このような保持形態を用いた場合でも、インクチューブ束と信号ケーブル束とは物理的に分離して配され、キャリッジの移動中に信号ケーブル束とインクチューブ束とが接触することが無いためである。さらに、インクチューブ束と信号ケーブル束とを分離して配することが可能であるならば、インクチューブ束と信号ケーブル束との両方をチェーンリンクの外面に配しても良い。
【0030】
キャリッジの往復移動に追従してチェーンリンク101が変形しながら移動する際にはその外側に配される信号ケーブル束102も変形しながら移動していく。信号ケーブル束102の長手方向の長さは、チェーンリンク101の長手方向の長さよりも長く、曲がり部においてチェーンリンク101と信号ケーブル束102との間に隙間が生じる。ここで仮定の話として、信号ケーブル束102の長手方向の長さがチェーンリンク101の長手方向の長さより短い場合について検討する。この場合、曲がり部においてチェーンリンク101と信号ケーブル束102との間に隙間が生じず、信号ケーブル束102がチェーンリンク101の動きを阻害する恐れや、信号ケーブル束102が断線する恐れがある。これに対し、信号ケーブル束102の長手方向の長さがチェーンリンク101の長手方向の長さと比べて長すぎる場合、信号ケーブル束102が留め部材111に引っかかり、座屈する恐れがある。
【0031】
<留め部材の形状について>
大判プリンタに使用される信号ケーブル束102やチェーンリンク101は使用するシートのサイズにあわせて長くなるため、製造時に長手方向の長さの誤差が発生し易い。このことを考慮すると、チェーンリンク101と留め部材111との間に形成される内空間S2の高さは極力大きい方が、信号ケーブル束102へ加えられるダメージを軽減できるため、望ましいようにも思われる。しかし、内空間S2の高さを大きくするとプリント装置の本体サイズが大きくなってしまう。そこで本実施形態では、以下で説明する特徴的な形状を有する留め部材111を採用することで、本体サイズを大きくすることなく信号ケーブル束へのダメージを軽減可能な構成を実現する。
【0032】
以下、上述した留め部材について図4及び図6を用いて詳細に説明する。図6は、チェーンリンク及びその周辺構造の概略正面図である。留め部材111は、浮き上がった信号ケーブル束102と接触することで信号ケーブルの高さを規制する板部111aと、チェーンリンク101へ取り付けるための取付部111bとを含む。ここで信号ケーブル束102の幅方向(チェーンリンク101の短手方向)における板部111aの中央部と取付部111bとは、チェーンリンク101の長手方向にずれて位置する。また、取付部111bは、チェーンリンク101の短手方向の両側の夫々に取り付けられる一対の取付部を含み、板部111aは、該短手方向において該両側の夫々に取り付けられる一対の取付部の間に位置する。また、1つの留め部材111において、取付部111bは、第2の単位部品の両脇に取り付けられ、且つ板部111aは、該第2の単位部品の隣の第1の単位部品の少なくとも一部を覆う。さらに、取付部111bは、チェーンリンクの長手方向において隣り合う第1の突出部110の間に位置するように設けられている。具体的には、例えば、板部111aは、図1及び図4に示すような略V字形状を有する。このような形状にすることで、チェーンリンク101の曲がり部において、チェーンリンク101と板部111aの中央部との間の距離を大きくすることができる。ここで図6に示すようにチェーンリンク101の曲がり部における曲率中心点Cからチェーンリンク101の外面までの距離を屈曲半径Rとする。また、チェーンリンク101の曲がり部において取付部111bの位置における留め部材111の高さ(チェーンリンク101の外面との距離)をh1とする。また、チェーンリンク101の曲がり部においてチェーンリンク101の長手方向における取付部111bの位置と、板部111aの中央部との間の距離をズレ量wとする。また、チェーンリンク101の外面と板部111aの中央部との間の距離を高さh2とする。
【0033】
すると、屈曲半径R、高さh1、ズレ量w、高さh2について、三平方の定理より以下の関係が成り立つ。
【0034】
【数1】
【0035】
【数2】
【0036】
図6に示すように、曲がり部に取り付けられる留め部材111の取付部111bの位置における高さh1は、直線部に取り付けられる留め部材111の板部111aと、チェーンリンク101との間の距離でもある。つまり、チェーンリンク101の曲がり部でのみ、留め部材111の板部111aの中央部とチェーンリンク101との間の距離は拡大する一方で、チェーンリンク101の直線部では、当該距離が拡大することはない。このように、留め部材111がチェーンリンク101の曲がり部に位置しないときよりも該曲がり部に位置するときのほうが、板部111aがチェーンリンクから外に飛び出す量が大きい。このような構造を採用することで、プリント装置の本体サイズを大きくすることなく、信号ケーブル束102へのダメージを軽減可能となる。
【0037】
また、留め部材111は、V字の先端がキャリッジ3とチェーンリンク101とが連結される連結部に向くようにチェーンリンク101に取り付けられている。詳細には、留め部材111は、チェーンリンク101の移動に伴いプリント装置内(キャリッジ装置内)の所定の面に対し接触しない状態から接触する状態に移行する。留め部材111は、この移行において取付部111bが板部111aに先行して該所定の面に接触するように取り付けられている。このような構成にする理由は、チェーンリンク101の曲がり部を形成する部品が緩衝部材14に接触する際に、該部品に取り付けられた留め部材111が該部品より先に緩衝部材14に接触しないようにするためである。このような構成にすることで、留め部材111がチェーンリンク101の曲がり部を形成する部品より先に緩衝部材14に接触することに起因する、キャリッジ3への異常な振動の付与や、留め部材111の外れを防止することができる。ここで、チェーンリンク101は、前述したように、互いに形状が異なる第1の単位部品と第2の単位部品とが交互にリンク接続された繰り返し構造を有する。この構造では、図4に示すように、留め部材111が取り付けられた第2の単位部品の隣の第1の単位部品上に板部111aの中央部が位置している。このような構造により、チェーンリンク101の曲がり部においてh2>h1となる構造を実現することができる。尚、チェーンリンク101が複数の部品から成る構造体ではなく一体の柔軟なゴム材から成る弾性体のような場合はこの限りでない。
【0038】
さらに、前述したように、留め部材111が略V字形状を有するため、曲がり部に取り付けられた留め部材111の板部111aは、浮き上がった信号ケーブル束102と角度を持って接触することになる。これにより、留め部材111と信号ケーブル束102とが接触しながら、信号ケーブル束102が移動した場合であっても、留め部材111と信号ケーブル束102との接触箇所が部分的で摩擦抵抗が小さいため信号ケーブル束102が座屈しにくくなる。また、留め部材111の略V字形状により信号ケーブル束102をチェーンリンク101の短手方向の中央位置に向かってガイドすることで、信号ケーブル束102端部における第2の突出部108への当接力を軽減している。
【0039】
図7は、本発明の変形例に係る留め部材を示す。図示するように、留め部材112の板部112aは、波状の形状を有する。このような形状でも信号ケーブル束102と留め部材112の板部112aとの間に生じる摩擦抵抗が小さくなるため、前述の実施例と同様に、信号ケーブル束102が座屈しにくくなる効果が得られる。
【0040】
以上説明した実施形態によれば、本体のサイズを大きくすることなくキャリッジの移動の際に信号ケーブル束やインクチューブ束等がダメージを受けにくくすることができる。従って、長期間に渡る装置の安定稼働が可能となる。
【符号の説明】
【0041】
3 キャリッジ
101 チェーンリンク
102 信号ケーブル束
103 インクチューブ束
111 留め部材
111a 板部
111b 取付部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7