特許第6797716号(P6797716)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6797716
(24)【登録日】2020年11月20日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】画像処理装置および画像処理方法
(51)【国際特許分類】
   H04N 1/409 20060101AFI20201130BHJP
   G06T 5/00 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   H04N1/409
   G06T5/00 705
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-35932(P2017-35932)
(22)【出願日】2017年2月28日
(65)【公開番号】特開2018-142852(P2018-142852A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2020年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】碇 大樹
【審査官】 豊田 好一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−220107(JP,A)
【文献】 特開2008−060814(JP,A)
【文献】 特開2012−160883(JP,A)
【文献】 特開2015−171099(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0063295(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 1/40
G06T 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原稿を読み取って得られた画像データの注目画素を含む所定サイズの注目領域を設定し、前記設定された注目領域に含まれる複数の画素のうちの最大の明るさを有する画素と最小の明るさを有する画素である2つの画素のそれぞれの輝度値を取得する取得手段と、
前記取得手段によって取得された2つの画素のそれぞれの輝度値の差が所定の閾値より大きいか否かを判定する判定手段と、
記判定手段による判定結果とに基づき、前記注目画素の輝度値を補正するための補正量を決定する決定手段と、
前記決定手段によって決定された補正量に基づき、前記注目画素の輝度値を補正する補正手段とを有し、
前記決定手段は、前記注目画素の輝度値が所定の輝度値以上であり、前記取得手段によって取得された2つの画素のそれぞれの輝度値の差が前記所定の閾値以下である場合に、前記取得手段によって取得された2つの画素のそれぞれの輝度値の差が前記所定の閾値より大きい場合に決定される補正量より大きくなるよう前記補正量を決定することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
さらに、前記注目領域に含まれる複数の画素の輝度値のばらつき度合いを算出する算出手段を有することを特徴とする請求項1記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記決定手段は、前記注目画素の輝度値が所定の輝度値以上であって、前記判定手段による判定の結果、前記差が前記所定の閾値以下の場合、前記注目画素の明るさが所定の明るさになるように補正量を決定することを特徴とする請求項1または2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記所定の明るさは前記画像データに含まれる最大の明るさを有する画素の明るさであることを特徴とする請求項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記原稿を読み取る読取手段をさらに有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
印刷手段をさらに有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
原稿を読み取る読取ステップと、
前記読取ステップによって読み取って得られた画像データの注目画素を含む所定サイズの注目領域を設定し、前記設定された注目領域に含まれる複数の画素のうちの最大の明るさを有する画素と最小の明るさを有する画素である2つの画素のそれぞれの輝度値を取得する取得ステップと、
前記取得ステップによって取得された2つの画素のそれぞれの輝度値の差が所定の閾値より大きいか否かを判定する判定ステップと、
記判定ステップによる判定結果とに基づき、前記注目画素の輝度値を補正するための補正量を決定する決定ステップと、
前記決定ステップによって決定された補正量に基づき、前記注目画素の輝度値を補正する補正ステップとを有し、
前記決定ステップでは、前記注目画素の輝度値が所定の輝度値以上であり、前記取得ステップで取得された2つの画素のそれぞれの輝度値の差が前記所定の閾値以下である場合に、前記取得ステップで取得された2つの画素のそれぞれの輝度値の差が前記所定の閾値より大きい場合に決定される補正量より大きくなるよう前記補正量を決定することを特徴とする画像処理方法。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の画像処理装置の各手段としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原稿を読み取ることにより得られる画像を補正する画像処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、複合機などにおいて、それらに実装されている画像読取装置(スキャナ)を用いて原稿を読み取った場合に「裏写り」という問題が生じることがある。「裏写り」は原稿の一方の面(おもて面)を画像読取装置で読み取った場合に、当該原稿のもう一方の面(うら面)の画像が読み取り画像に写り込んでしまうものである。よって、画像読取装置で読み取る原稿の両面(おもて面およびうら面)に何らかの画像が印刷されていた場合に主に発生するものである。この裏写りは、裏面に高濃度の画像が存在する場合に発生しやすい。また、読み取り時の光源の光量や、読み取り原稿(用紙など)の厚み(光の透過具合)の程度に起因して発生する。この裏写りが発生してしまうと、読み取り画像内の画像が見づらくなり、すなわち画像の品質が劣化する。
【0003】
そこで、読み取り画像における裏写りを低減する技術として、画像の濃度を全体的に下げる(いわゆる「下地飛ばし機能」を強く働かせる)処理が用いられることがある。ただし、この場合、裏写りだけでなく原稿のおもて面に存在した画像の濃度も下がってしまうことになる。そのため、濃度の薄い画像は消失してしまう恐れがある。
【0004】
そこで、例えば特許文献1では、注目画素を含む一定範囲の分散値を求め、当該分散値が予め定められた基準値以下のときに裏写り除去処理を実行する技術が提案されている。これは画像の低濃度部分が網点として表現されていることに着目した処理であって、網点として表現された領域の画像データの分散値が高くなる特徴を利用したものである。裏写りの成分はおもて面からみると網点として表現されにくく、分散値が低くなる。よって分散値が基準値以下か否かに基づいて、画像が裏写り成分であるかおもて面の低濃度部分かを切り分け、裏写り成分のみに裏写り除去処理を実行している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−160883
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年は低コスト化によりパンフレットやビジネス誌は薄紙化が進んでおり、裏写りの濃度は濃くなってきている。これにより、裏写り領域の輪郭部分では、裏写り領域の濃度と、裏写り領域に隣接する裏写りしていない白領域の濃度との濃度差が大きくなり、分散値が高くなる。そのため、特許文献1に開示された技術では、裏写り領域の分散値が高い輪郭部分において、裏写り除去処理が行われなくなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明の画像処理装置は、原稿を読み取って得られた画像データの注目画素を含む所定サイズの注目領域を設定し、前記設定された注目領域に含まれる複数の画素のうちの最大の明るさを有する画素と最小の明るさを有する画素である2つのそれぞれの輝度値を示す特徴量を取得する取得手段と、前記取得手段によって取得された2つの画素のそれぞれの輝度値の差が所定の閾値より大きいか否かを判定する判定手段と、記判定手段による判定結果とに基づき、前記注目画素の輝度値を補正するための補正量を決定する決定手段と、前記決定手段によって決定された補正量に基づき、前記注目画素の輝度値を補正する補正手段とを有し、前記決定手段は、前記注目画素の輝度値が所定の輝度値以上であり、前記取得手段によって取得された2つの画素のそれぞれの輝度値の差が前記所定の閾値以下である場合に、前記取得手段によって取得された2つの画素のそれぞれの輝度値の差が前記所定の閾値より大きい場合に決定される補正量より大きくなるよう前記補正量を決定する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、裏写り領域の輪郭部についても、適切に裏写り除去を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る複写機の外観を例示的に示す図である。
図2】スキャナ部の構造を例示的に示す断面図である。
図3】複写機のハードウェア構成を例示的に示す図である。
図4】スキャナ画像処理部の構成を示すブロック図である。
図5】裏写り補正処理部の構成を示すブロック図である。
図6】紙白判定部の構成例を示す図である。
図7】第1実施形態における補正量算出部の構成例を示す図である。
図8】読み取り画像データを例示的に示す図である。
図9】読み取り画像データの輝度値の分散値および平均値の関係を示す図である。
図10】分散−平均記憶部(LUT)の記憶内容の一例を示す表である。
図11】網点画像における網点率および分散値と平均値の関係を示すグラフである。
図12】読み取り画像データの裏写りの輪郭部分を例示的に示す図である。
図13】裏写り補正処理の一例を示すフローチャートである。
図14】第1実施形態における補正量算出処理の一例を示すフローチャートである。
図15】第2実施形態における補正量算出部の構成例を示す図である。
図16】第2実施形態における補正量算出処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施の形態を詳しく説明する。なお、以下の実施の形態はあくまで例示であり、本発明の範囲を限定する趣旨のものではない。
【0011】
(第1実施形態)
本発明に係る画像処理装置の第1実施形態として、複写機1000を例に挙げて以下に説明する。
【0012】
<装置の構成>
<複写機1000の外観>
図1は、第1実施形態における複写機1000の外観を例示的に示す図である。複写機1000は、操作ユニット160を介してユーザから受付けた複写指示に従って、原稿フィーダ141にセットされた原稿をスキャナ部140で読み込み、読み取った画像をプリンタ120で用紙上に画像形成し出力する。
【0013】
画像読取部であるスキャナ部140は、照明ランプの発光によって原稿上の画像を露光走査して得られた反射光をリニアイメージセンサ(CCDセンサ)に入力することで画像の情報を電気信号に変換する。スキャナ部140はさらに電気信号をR、G、B各色からなる輝度信号に変換し、当該輝度信号を画像データとして後述するコントローラ200に出力する。
【0014】
原稿は、原稿フィーダ141のトレイ142にセットされる。ユーザが操作ユニット160から読み取り開始を指示すると、コントローラ200は、スキャナ部140に対して原稿読み取り指示を送る。スキャナ部140は、読み取り指示を受けとると原稿フィーダ141のトレイ142から原稿を1枚ずつフィードして原稿の読み取り動作を行う。また、後述する原稿台ガラス上に原稿を置くことで読み取ることもできる。
【0015】
プリンタ120は、コントローラ200から受取った画像データを用紙上に形成する画像形成デバイスである。ここでは、感光体ドラムや現像器、定着器などを用いた電子写真方式で画像形成を行うものとして説明する。電子写真方式とは、ドラム上へ付着させたトナーを紙へ転写、定着させる方式である。また、プリンタ120は、異なる用紙サイズ又は異なる用紙向きに対応するため、複数の用紙カセット121、122、123を備える。排紙トレイ124には画像形成後の用紙が排出される。
【0016】
<スキャナ部>
図2は、スキャナ部の構造を例示的に示す断面図である。ここでは、リニアイメージセンサを用いたスキャナ部140の主要構成を示している。
【0017】
原稿台ガラス1400は、読み取られるべき原稿100が置かれている。原稿100は照明ランプ1402により照射され、その反射光はミラー1403、1404、1405を経て、レンズ1406によりCCDセンサ1407上に結像される。ミラー1403、照明ランプ1402を含む第1ミラーユニット1409は速度vで移動し、ミラー1404、1405を含む第2ミラーユニット1410は速度1/2vで移動することにより、原稿100の前面を走査する。第1ミラーユニット1409及び第2ミラーユニット1410はモータ1408により駆動する。CCDセンサ1407に入力された反射光は、センサによって電気信号に変換され、その画素の電気信号は図示しないA/D変換器によってデジタルデータに変換され、後述のコントローラ200に画素信号Dinとして入力される。
【0018】
また、スキャナ部140は、原稿フィーダ141を動作させることによって原稿を読み取る”流し読み”で読取動作させることも可能である。流し読みにおいては、まず、原稿100をトレイ142上に置く。そして、原稿を駆動ローラ1401によってトレイ142から一度原稿台ガラス1400の面(駆動ローラ1401下部)を通って原稿フィーダ141上へ搬送させる。流し読みにおいては、第1ミラーユニット1409や第2ミラーユニット1410といった光学系は固定位置とし移動させない。すなわち、第1ミラーユニット1409は駆動ローラ1401下部の位置に固定されており、駆動ローラ1401によって駆動ローラ1401下部に搬送されてきた原稿を読み取る。この流し読みにおいては、原稿を一定方向に移動させればよいだけなので、大量の原稿を連続して高速に読み取ることが可能となる。
【0019】
ところで、原稿100において、原稿100の読み取られる表面(照明ランプ1402によって光が照射される面)だけでなく、読み取られない面(裏面)にも写真やグラフ、文字などの何らかの画像が印刷されている場合がある。このとき、読み取られない面(裏面)の画像が表面の読み取り画像データに影響を及ぼす「裏写り」が発生することがある。 これは、上記したどちらの読み取り方式であっても起こり得る。そして原稿100の紙などの媒体の厚み(光の透過率)や照明ランプ1402によって照射される光量によって程度が異なるものである。一般的に厚みの薄い紙が原稿であったり、照射される光量が多いほど裏写りの程度は大きくなる。また、裏面に印刷されている画像の濃度値にも影響を受け、高濃度な画像が印刷されている方が裏写りしやすい。
【0020】
<複写機のハードウェア構成>
図3は、複写機1000のハードウェア構成を例示的に示す図である。コントローラ200は、画像入力デバイスであるスキャナ部140や、画像出力デバイスであるプリンタ120や、LAN10や、公衆回線(WAN)12と接続され、複写機1000の動作を統括的に制御すると共に画像情報やデバイス情報の入出力制御を行う。
【0021】
CPU2100は、複写機1000全体を制御するプロセッサであり、例えば、ROM2120に記憶された制御プログラム等に基づいて接続中の各種デバイスとのアクセスを統括的に制御する。さらに、CPU2100は、コントローラ200内部で行われる各種画像処理についても統括的に制御する。RAM2110は、システムワークメモリであり、画像データなどを一時記憶するための画像メモリでもある。ROM2120は、ブートROMであり、システムのブートプログラムを格納する。ハードディスクドライブ(HDD)2130は、主に、コンピュータを起動・動作させるために必要な情報(システムソフトウェア)や画像データを格納する。これらのデータは、HDD2130に限らず、電源が切れても記憶保持可能な記録媒体に格納してもよい。
【0022】
LANコントローラ2200は、複写機1000をLAN10に接続し、ユーザPC20との間で出力用画像データの入出力や機器制御にかかわる情報の入出力を行う。ローカルインタフェース(I/F)2210は、USBやセントロニクス等のインタフェースであり、ケーブル11を介してユーザPC21と接続し、データの入出力を行う。MODEM2220は、複写機1000公衆回線12に接続し、不図示の遠隔地のPCなどとの間でデータの入出力を行う。
【0023】
プリンタ画像処理部2300は、プリンタ120と接続し、プリンタ120に搭載されたCPUと通信を行う。また、プリンタ画像処理部2300は、画像データの同期系/非同期系の変換やCPU2100の命令に従ってプリント出力のための画像処理を行う。スキャナ画像処理部2400は、スキャナ部140と接続し、スキャナ部140に搭載されたCPUと通信を行う。また、スキャナ画像処理部2400は、画像データの同期系/非同期系の変換や後述する裏写り補正処理等の画像処理を行う。操作部インタフェース(I/F)2500は、操作ユニット160に表示する画像データをコントローラ200から操作ユニット160に出力するためのインタフェースである。また、操作部インタフェース(I/F)2500は、操作ユニット160を介して使用者が入力した情報をコントローラ200に出力するためのインタフェースでもある。
【0024】
<スキャナ画像処理部>
図4は、第1実施形態におけるスキャナ画像処理部2400の構成を示すブロック図である。シェーディング補正部2410は、スキャナ部140が出力する明るさを示す特徴量(輝度を示す画素信号Din)を入力として受け付ける。シェーディング補正部2410は、公知の技術を用いて光学系や撮像系の特性による輝度ムラに対して、一様な明るさの画像になるように補正処理を施す。シェーディング補正処理が施された画素信号Dshが、後段のガンマ補正部2420に出力される。
【0025】
ガンマ補正部2420は、公知の技術を用いて、読み取り素子の色特性と機器の色特性との差を補償するための補正を行う。ガンマ補正処理が施された画素信号Dgはスキャナ画像処理部2400から出力されRAM2110へと書き込まれ、一時保存される。さらに、それと並行して画素信号Dgは裏写り補正処理部2430へ出力される。
【0026】
裏写り補正処理部2430は、スキャナ部140で読み取った原稿の表面の読み取り画像データに裏写りが発生していた場合に、それを低減させる処理を実行する。なお、裏写り補正処理部2430は裏写り補正の指標となる裏写り補正情報の生成と、その補正情報を用いた裏写り補正処理の双方を実行するものである。
【0027】
裏写り補正処理の施された画素信号Duはスキャナ画像処理部2400から出力され、図示しないメモリコントローラによってRAM2110へと書き込まれ、一時保存される。
【0028】
<裏写り補正処理部>
図5は、裏写り補正処理部2430の詳細構成を示すブロック図である。バッファ部2431は、画素信号Dgを一時記憶するバッファである。当該バッファは、後段で実行される分散値や平均値の算出、エッジ判定において注目画素を中心とした所定サイズのウィンドウ内の画素信号を参照するためのものである。例えば、後段の処理において、5×5のウィンドウ内の画素信号を参照する場合はバッファサイズは5ライン構成となり、7×7のウィンドウの場合はバッファサイズは7ライン構成となる。
【0029】
分散値算出部2432は、バッファ部2431から算出に必要なウィンドウサイズ分の画素信号をまとめて受け取り、分散値(ばらつき度合い)の算出を実行する。例えば、分散値は以下の式(1)にしたがって計算される。
【0030】
【数1】

ここで、
N:注目ウィンドウ内の画素数
Xk:注目ウィンドウ内のk番目の画素信号値
Xa:注目ウィンドウ内の画素信号値の平均値
である。なお、分散値(σ)は、値が大きくなりやすいので標準偏差値(σ)で代替してもよい。
【0031】
平均値算出部2433は、バッファ部2431から算出に必要なウィンドウサイズ分の画素信号をまとめて受け取り、当該ウィンドウサイズ分の画素値を代表する代表値として平均値の算出を実行する。例えば、平均値は以下の式(2)にしたがって計算される。
【0032】
【数2】

各パラメータの定義は式(1)と同様である。なお、平均値算出に必要なウィンドウサイズと分散値算出に必要なウィンドウサイズは共通となるよう設定される。
【0033】
エッジ判定部2434は、バッファ部2431から算出に必要なウィンドウサイズ分の画素信号をまとめて受け取り、注目画素がエッジ領域か否かの判定を実行する。エッジ判定は公知の技術を用いて行うものでよい。具体的には、PrewittフィルタやSobelフィルタを注目画素を中心としたウィンドウに適用し、算出結果を閾値判定し、画像エッジの存在する領域か否か判定するものである。
【0034】
紙白判定部2435は、注目画素が紙白領域に属するか否かを判定する。紙白領域とは、表面の画素が存在しない領域を指す。よって、表面の画素が存在しなければ、裏写りの有無に関わらず、紙白領域であると判定する。また、表面の画素が存在するならば、裏写りの有無に関わらず紙白領域ではないと判定する。
【0035】
図6は、本実施形態における紙白判定部2435の一例を示す。画素信号Dwはバッファ部2431から出力された必要なウィンドウサイズ分の画素信号である。例えば、バッファ部2431の出力画素群が5×5ウィンドウであれば合計25画素が同時入力される。
【0036】
最大値算出部2451は、入力された画素信号Dwの中から最も明るい画素信号を1つ取得する。最小値算出部2452は、入力された画素信号Dwの中から最も暗い画素信号を1つ取得する。取得された画素信号は、それぞれ減算器2453に入力される。減算器2453は、最も明るい画素信号(最大値)から最も暗い画素信号(最小値)を減算し、最大値と最小値の輝度差を算出する。なお、紙白判定部2435では、画像に含まれるノイズの影響を受けないために、最も明るい画素信号の次に明るい画素信号と、最も暗い画素信号の次に暗い画素信号との輝度差を算出してもよい。
【0037】
次に、比較部2454は、求めた最大最小の輝度差と閾値Thを比較し、最大最小の輝度差が閾値Thより大きいか否かを判定する。最大最小の輝度差が閾値以下であれば、注目画素は紙白領域ではないと判定し、紙白判定結果Wfは0となる。また、最大最小輝度差が比較閾値より大きいならば、注目画素は紙白領域であると判定し、紙白判定結果Wfは1となる。紙白判定結果Wfは後述の補正量算出部2438で使用される。
【0038】
分散―平均記憶制御部2436では、分散―平均記憶部2437へのデータの書き込みおよび読み出しを制御する。ここでは、分散―平均記憶部2437には、分散値算出部2432で算出された分散値および平均値算出部2433で算出された平均値が格納される。特に、以下の説明では、ルックアップテーブル(LUT)の形式で分散値毎の平均値を格納するとして説明する。例えば、分散値がLUTのアドレスになり、アドレス(分散値)に対応した平均値がデータとして格納されるものである。
【0039】
具体的には、分散―平均記憶制御部2436は、エッジ判定部2434が出力したエッジ判定結果を参照し、画像エッジの存在する領域か否かを確認する。画像エッジの存在する領域であれば分散―平均記憶部2437へのデータの書き込みは行わない。一方、画像エッジの存在する領域でなかった場合、分散―平均記憶制御部2436は、分散値算出部2432が出力した分散値と対応付けられた平均値を分散―平均記憶部2437から読みだす。つまり参照した分散値と同じ値のLUTのアドレスにアクセスし、データ(平均値)を読みだす。
【0040】
分散―平均記憶制御部2436は、読みだした平均値と平均値算出部2433が出力した平均値を比較する。そして平均値算出部2433が出力した平均値の方が大きかった場合に、分散―平均記憶制御部2436は、その大きい平均値を分散―平均記憶部2437へ書き込む。つまり、読みだしたLUTのアドレスのデータを大きな値で更新する。このような処理を原稿のすべての画素位置に対して行うことにより、記憶部2436には、原稿内の分散値毎の最も大きな平均値が格納されることになる。このようにして格納された分散値毎の最も大きな平均値が裏写り補正情報Infとなる。また、分散―平均記憶制御部2436は、後述する裏写り補正処理部2440からの要求に従って、所定の分散値に対応する平均値を読み出し、裏写り補正処理部2440へ出力する処理も平行して担う。ここで、裏写り補正情報Infの意味について図8を参照して説明する。
【0041】
図8は、原稿をスキャナ部140で読み取ることにより得られた読み取り画像データ300を例示的に示す図である。具体的には、裏写り画像303が含まれる読み取り画像データ300を示している。図8では、プリンタでディザマトリクスを用いたディザ処理によって生成された網点が、原稿100上に印刷されている。なお、プリンタにおける中間調処理は、ディザ処理に限らず、誤差拡散処理でもよい。誤差拡散処理によって生成された網点が、原稿上に印刷されている場合においても、本実施例の裏写り補正処理を適用することができる。原稿100の表面には、高濃度画像301(トラックの画像)、および、網点で表現された中間調画像302(矩形画像)のみが画像形成されている。また、原稿100の裏面(スキャナで読み取った面と逆の面)には高濃度画像301と同様の画像が画像形成されているものとする。このとき、スキャナ部140で読み取った読み取り画像データ300には、原稿100の裏面に存在する高濃度画像が裏写り画像303(反転したトラックの画像)として発生している。この読み取り画像データ300の各領域の特徴について説明する。
【0042】
中間調画像302の領域に注目したものを中間調注目領域306として図示する。中間調注目領域306は、網点構造となっており、網点の打たれている領域と打たれていない領域に画素毎に分かれている。ここで、この領域を所定のウィンドウサイズに区切って、画素濃度の分散値と平均値を算出し、分散値を「X2」、平均値を「Y2」とする。ここで、ウィンドウサイズは、網点1個のサイズを画素基準として、例えば、5×5画素のサイズが指定される。
【0043】
裏写り画像303の領域に注目した拡大図を裏写り注目領域304として図示する。裏写り注目領域304において、この領域を所定のウィンドウサイズに区切って画素濃度の分散値と平均値を算出し、分散値を「X1」、平均値を「Y3」とする。ここで、裏写り注目領域304で得られる分散値「X1」は小さな値となる。これは、一般に、裏面の画像の低周波成分のみが裏写り成分(紙を透過して得られた画像成分)として表れやすいためである。そのため、裏写り画像303に対応する裏面の画像が網点で描かれたものであったとしても、裏写り成分としては濃度(輝度)の凹凸なく発生することが多く、結果として分散値は小さな値となる。
【0044】
また、読み取り画像データ300において、何も画像が存在せず、裏写りもしていない紙白領域を所定のウィンドウサイズに区切って得られた分散値を「X1」、平均値を「Y4」とする。なお、上述のように、裏写り成分は分散値に影響を及ぼしにくいので紙白領域の分散値と裏写り画像303の領域から得られる分散値は同じような値になりやすい。そのため、ここでは分散値を共通の「X1」としている。
【0045】
中間調画像302と裏写り画像303との重なった領域に注目した拡大図を重なり注目領域305として図示する。重なり注目領域305は、網点構造なので網点の打たれている領域と打たれていない領域に画素毎に分かれている。しかしながら裏写り画像の影響を受け全体的に暗い(低輝度の)画素値となっている。重なり注目領域305において、この領域を所定のウィンドウサイズに区切って分散値と平均値を算出し、分散値を「X2」、平均値を「Y1」とする。なお、上述のように、裏写り成分は分散値に影響を及ぼしにくいので重なり注目領域305の分散値と裏写りしていない中間調画像302の中間調注目領域306から得られる分散値は同じような値になりやすい。そのため、ここでは分散値を共通の「X2」としている。
【0046】
図9は、読み取り画像データ300における分散値X1、X2および平均値Y1〜Y4の関係を示す図である。図9において、座標(X1、Y4)が紙白領域、座標(X1、Y3)が裏写り注目領域304、座標(X2、Y2)が中間調注目領域306、そして座標(X2、Y1)が重なり注目領域305を示す。すなわち、紙白領域が座標(X1、Y4)であって、紙白領域に裏写りが発生したものが座標(X1、Y3)と言える。また、中間調注目領域306が座標(X2、Y2)であって、中間調領域に裏写りが発生したものが座標(X2、Y1)と言える。図9の平均値は、明るさ(たとえば輝度)の平均値であり、Y4はY1よりも輝度が高いことを意味する。
【0047】
よって、裏写り注目領域304において、Y3とY4の差分量を用いて注目画素を補正すれば裏写り領域の信号値は紙白領域の信号値へと補正され、適切に裏写り補正がされる。また、重なり注目領域305において、Y1とY2の差分量を用いて注目画素を補正すれば重なり領域の信号値は中間調注目領域の信号値へと補正され、適切に裏写り補正がされる。言い換えると、各分散値において、裏写りしていない領域の平均値を裏写りを補正するための指標(つまり裏写り補正情報Inf)とすることができる。
【0048】
ここで、分散値は注目領域における網点の量に依存する。網点の量とは、例えば、注目領域に含まれる有意画素の個数の注目領域の総画素数に対する百分率(0〜100%)で表され、画像濃度に応じて一意に決まるものである。よって、裏写り領域または裏写りと表面の網点が重なった領域が発生した場合においても、分散値毎の裏写りしていない平均値を指標として信号値を補正することで裏写りを適切に補正できることがわかる。なお、「分散値毎の平均値を記憶」とは言い換えると「網点量毎の平均値を記憶」ということである。
【0049】
ただし、適切な指標を得るためには、裏写りしていない領域の平均値を得る必要がある。これを簡易かつ適切に得るため、分散―平均記憶制御部2436にて説明したように、入力画像データにおいて分散値毎の最も高い平均値を指標として用いているのである。これは、裏写りしていない領域の方が裏写りしている領域より高い(明るい)平均値を取ることを利用したものである。入力画像データ内の網点領域全体が裏写り領域に含まれてしまうことは稀であるため、当該手法は十分実用に耐えうるものになる。
【0050】
また、本実施例のように入力された画像の中で現在処理している注目画素に辿りつくまでに過去に処理してきた画像領域における最も明るい平均値を裏写り補正情報とした場合でも、適切な裏写り補正情報を記憶することが可能である。これは、実原稿において裏写り領域のみが連続して続くことは稀であることが理由であり、本実施例の形態であっても実用に耐えうると考えることができる。
【0051】
次に、図5の補正量算出部2438は、画素信号Dgを補正するための補正量を算出する。図7は、補正量算出部2438の詳細を示す図である。画素信号Daveは平均値算出部2433が算出した現在の注目領域における平均値である。また、画素信号Dlutは、分散―平均記憶制御部2436から受け取った平均値である。この分散―平均記憶制御部2436から受け取った平均値は、前述のとおり注目位置の分散値と同様の分散値で、過去に処理した画素の中の最も明るい平均値を示す。また、信号Efはエッジ判定部2434から受け取ったエッジ判定結果であり、信号Wfは紙白判定部2435から受け取った紙白判定結果である。
【0052】
最大輝度値保持部2461は、順次入力される画素信号Daveの中で最も明るかった画素信号値(最大値)を記憶保持する。現在入力された画素信号Daveと現在保持している最大輝度値を比較し、入力された画素信号Daveの方が明るい場合に、保持する最大輝度値を入力された画素信号値で更新する。また逆に、現在入力された画素信号Daveと現在保持している最大輝度値を比較し、入力された画素信号Daveの方が暗い場合には、保持している最大輝度値を更新しない。
【0053】
次に減算器2462では、最大輝度値保持部2461で保持している最大輝度値から現在入力された画素信号Daveを減算し、その差を算出する。算出された最大輝度値からの差は第二補正量選択部2465へ出力される。
【0054】
一方で、減算器2463では、分散―平均記憶制御部2436から受け取った画素信号Dlutから現在入力された画素信号Daveを減算し、その差を算出する。なお、ここで、差が負の値となった場合には、注目領域における平均値は分散―平均記憶制御部2436に記憶してあった平均値より明るいという判断になるため補正量0とする。ここで算出した差は一例として図9に示したY2とY1の差を意味するものである。算出された輝度値の差は第一補正量選択部2464へ出力される。
【0055】
第一補正量選択部2464では、エッジ判定結果Efを参照し、減算器2463で算出した信号値の差を補正量の候補として出力するか、0を出力するかを選択する。エッジ判定結果Efが1であって、注目領域がエッジである場合には補正量の候補として0を出力する。また、0ではなくあらかじめ定めた所定の補正量としてもよい。エッジ領域などの画像境界では、異なる画像領域の影響を受け、表面の画素の網点構造に関係なく分散値が発生するため、分散―平均記憶制御部2436から受け取った画素信号Dlutを基とした補正では正しく補正できない可能性がある。よってここで補正量を0としている。また、エッジ領域は表面の画素の信号値が濃いため裏写りが発生することはなく、補正しなくても問題は発生しない。
【0056】
エッジ判定結果Efが0であって、注目領域がエッジでない場合には、第一補正量選択部2464は補正量の候補として減算器2462で算出した信号値の差を出力する。
【0057】
次に第二補正量選択部2465では、紙白判定結果Wfを参照し、第一補正量選択部2464の出力した信号値を補正量Dmとして出力するか、減算器2462で算出した信号値の差を補正量Dmとして出力するか、を選択する。紙白判定結果Wfが1であって、注目領域が紙白領域である場合には補正量として減算器2462で算出した最大輝度値から現在入力された画素信号との差を出力する。これは紙白領域に裏写りがあって、現在の注目領域が裏写りの輪郭部に該当する場合に、分散値が発生してしまい、分散―平均記憶制御部2436から受け取った画素信号Dlutを基とした補正では正しく補正できないためである。画素信号Dlutを基とした補正とは第一補正量選択部の出力結果を基とした補正を意味する。そこで、保持しておいた最大輝度値との差を補正量として出力するものである。言い換えると、補正のための指標を強制的に紙白輝度値(最大輝度値)に置き換える。また、紙白判定結果Wfが0であって、注目領域が紙白領域ではない場合には、第二補正量選択部2465は第一補正量選択部2464から入力される値を補正量Dmとして出力する。
【0058】
次に補正処理部2439では、補正量算出部2438から受け取った補正量を元として入力された画素信号Dgに裏写り補正処理を実行する。裏写り補正処理は、例えば画素信号Dgの輝度値に補正量を加算し、画素信号Dgを明るくするものである。このとき、入力された画素信号が裏写りしていない画素信号であれば差が小さくなり補正量は小さなものとなる。このほか、単純に補正量を加算するのではなく、入力された画素信号値に応じてゲインをかけて補正するものであってもよい。例えば、裏写りは入力された画素信号値が明るければ明るいほど影響を受けやすいので、画素信号の明るさに応じて、明るいほど強く補正するようなゲインをかけるものであってもよい。補正された画素信号値はDuとしてRAM2110へ書き戻される。
【0059】
また、読み取った網点画像の分散値は注目領域(ウィンドウサイズ)内の網点の量50%を最大値の頂点として50%以上と未満で同じような分布を取る。そして網点の量0%もしくは100%で分散値は最小値を取る。これを図11に示す。図を参照すると異なる平均値で同一の分散値が発生している。しかしながら、このとき本裏写り補正処理は網点の量50%未満を対象とするものでよい。つまり、平均値の濃度が中間濃度となるところを境目としてそれ以下を対象にして補正させるものとしてよい。中間濃度以上であれば表面の濃度が高く裏写りの影響を受けにくいためである。このようにすることで分散値と平均値の関係は一意になる。さらに他の構成として50%以上の濃度である場合に補正量が小さくなるゲインを持ってもよい。これら網点量を考慮した処理は前述の補正処理部2439に実装される。
【0060】
なお、本処理は本実施例においては色毎に個別に実行する。よって分散―平均記憶部2437には色毎に個別に分散値毎の平均値が格納される。色毎に個別にすることで、裏写り成分がカラー(例えば赤い文字の裏写り成分など)であっても補正可能となる。
【0061】
ここで、図10に分散―平均記憶部2437に構成されるLUTの一例を示す。1行目がLUTのアドレスを示し、2行目がLUTに格納されているデータを示す。このLUTのアドレスは分散値を示すものであるが、数値を小さくするために標準偏差(σ)として代替してもよい。標準偏差も数値の意味するところは分散値と同様にバラつき度を示すことに変わりない。ここでLUTに格納される分散値と平均値の関係について説明する。例えば分散値0(アドレス0)の示すところは、裏写りの影響を考慮しないとベタ塗り部分か紙白部分かのどちらかとなる。ここで本LUTに格納される平均値は画像内で最も数値が高い(明るい)平均値なので、必然として分散値0のアドレスに格納される平均値は紙白の平均値となる。そして分散値(アドレス)が徐々に増えていくにつれて、画像内の網点の画素数が増えていくことになるので、格納される平均値(輝度データ)は低く(暗く)なっていく。よって、画像1ページを参照した後に形成されるLUTの各アドレスに格納されるデータは図10に示すような値となる。
【0062】
また、色毎に個別にするのではなく、色数分の次元を持つようにLUTを構成してもよい。例えばRGBで3色であれば[R分散値][G分散値][B分散値]で3次元を構成し、各色それぞれの平均値を格納するようにしてもよい。
【0063】
<裏写り領域の輪郭部での処理について>
裏写り領域の輪郭部での裏写り補正処理に関して図12を用いて詳細に説明する。図12はスキャナ140で読み取った原稿100の表面の読み取り画像データ310の一例である。実際の原稿100の表面には、高濃度画像311および網点で表現された中間調画像312のみが印刷物として存在する。また原稿100の裏面には高濃度画像311と同様の印刷物が存在するものとする。このとき、スキャナ140で読み取った原稿100の表面の読み取り画像データ310には、原稿100の裏面に存在する高濃度画像が裏写り画像313として発生している。ここで中間調画像312は図8の中間調画像302に対して、薄い中間調画像である。
【0064】
この読み取り画像データ310の各領域に注目する。まず、中間調画像312の領域に注目したものを中間調注目領域316として図示する。中間調注目領域316は、網点構造なので網点の打たれている領域と打たれていない領域に画素毎に分かれている。ここで中間調画像312は図8の中間調画像302よりも薄い中間調画像であるため、中間調注目領域316は、図8の中間調注目領域306に比べ網点の量が少ない。このように薄い中間調画像では、網点自身が薄く打たれるのではなく、網点の量が少なくなる。つまり、中間調画像の濃さに関係なく、網点の点濃度は均一である。よって、本領域内部の各画素を比較した場合に最大輝度の画素(もっとも明るい画素)と最小輝度の画素(もっとも暗い画素)の画素値の差は大きい。つまり図6で示した紙白領域判定処理において、本領域は紙白領域ではない(紙白判定結果Wf=0)と判定される。また、中間調注目領域316は網点構造により分散値を持つ。しかしながら図8の中間調注目領域306と比べ、網点の量が少ないため、分散値は小さな値となる。
【0065】
次に中間調画像312と裏写り画像313の重なった領域に注目したものを重なり注目領域315として図示する。重なり注目領域315は、網点構造なので網点の打たれている領域と打たれていない領域に画素毎に分かれている。しかしながら裏写り画像の影響を受け全体的に暗い(値の低い)画素値となっている。ここで、裏写り成分は分散値に影響を及ぼしにくいので重なり注目領域315の分散値と裏写りしていない中間調画像312の中間調注目領域316から得られる分散値は同じような値になりやすい。
【0066】
次に裏写り画像313の境界部分を裏写り輪郭領域314として図示する。裏写り輪郭領域314では領域の左側に裏写り画素が存在し、右側は画素の存在しない白領域となっている。よって領域の左側と右側に輝度の差があるため本領域は小さな値ではあるが分散値を持つ。また、この裏写り輪郭領域314には表面の画像(つまり網点)が存在しない。よって本領域内部の各画素を比較した場合に最大輝度の画素(もっとも明るい画素)と最小輝度の画素(もっとも暗い画素)の画素値の差は小さい。つまり図6で示した紙白領域判定処理において、本領域は紙白領域である(紙白判定結果Wf=1)と判定される。また、本領域は各画素の画素値の差が小さいため、エッジ判定部2434の処理ではエッジ領域として判定されない。
【0067】
このような表面の画像と重なっていない裏写り領域は、補正により白領域内部の白画素と同等の輝度値になるように補正されるべきである。しかし、図10に示した分散値と平均値のLUTを用いた補正では本領域が少なからず分散値を持ってしまうため、分散値0が補正の指標として選択されず、期待した補正結果は得られない。そこで、本実施例では上記紙白判定結果Wfを用いて図7に示した補正量算出処理を実行することで、本領域を白領域内部の白画素(最大輝度値)と同等の輝度値になるように補正することができる。
【0068】
また、中間調画像が薄く、裏写り画像が濃い場合、裏写り輪郭領域314と中間調注目領域316や重なり注目領域315は、同じような分散値になることがある。そのため、例えば裏写り輪郭領域314において、「分散値がある閾値よりも低い場合に強く補正する」といった処理では中間調注目領域316や重なり注目領域315も一緒に強く補正されてしまい、所望の結果が得られなくなる。よって本実施例のように紙白領域を画素値の差により判定し、補正量を制御することは有効な手段となる。
【0069】
<裏写り補正処理のフローチャート>
図13は、実施例1における複写機の裏写り補正処理の流れを示すフローチャートである。本フローチャートは、HDD2130に格納されたプログラムに従って、CPU2100がスキャナ部140を制御し原稿100の画像読取を実行し、スキャナ画像処理部2400(特に裏写り補正処理部2430)を制御することで実行する。
【0070】
まずS101において、読み取られた画像に対してエッジ検出処理を実行する。これは、エッジ判定部2434にて実行されるもので読み取られた画像の注目画素を中心としたウィンドウ(バッファ部2433が出力)を参照し、公知の技術でエッジ検出するものである。
【0071】
S102では、CPU2100はS101のエッジ判定結果を参照し、注目画素がエッジ部か否かを判定する。エッジ部と判定された場合にはS107に進む。非エッジであればS103へ進む。
【0072】
S103では、分散値と平均値の算出を実行する。これは、分散値算出部2432および平均値算出部2433にて実行されるもので、読み取られた画像の注目画素を中心としたウィンドウ(バッファ部2433が出力)を参照し、算出する。
【0073】
S104では、分散―平均記憶部2437のLUTからデータを読みだす。これは分散―平均記憶制御部2436にて実行されるもので、読み出すLUTのアドレスはS103で算出した分散値と同一のものである。読み出されたデータは裏写り補正情報となる。
【0074】
S105では、CPU2100はS104で読み出した値とS103で算出した平均値のどちらが大きいかの比較を実行する。S104で読み出した値の方が大きければS107へ進む。S103で算出した平均値の方が大きければS106へ進む。
【0075】
S106では、分散―平均記憶部2437のLUTへデータの書き込みを実行する。書きこまれるデータはS103で算出した平均値であって、書き込むアドレスは、S103で算出した分散値である。
【0076】
次にS107では、裏写りのための補正量を算出する。これは主に紙白判定部2435および補正量算出部2438にて実行されるものであって、詳細は後述する。
【0077】
S108では、入力された画素(S101における注目画素)に対して裏写り補正処理を実行する。これは補正処理部2439にて実行されるものであって、S107で算出した補正量を元として例えば入力された画素の信号値(輝度値)に補正量を加算し、画素信号Dgを明るくするものである。また入力された画素の信号値に、補正量に応じたゲインをかけるものであってもよい。例えば、注目画素の輝度値が所定輝度よりも低い場合は、ゲインを1未満にすることで、補正を抑制する。注目画素の輝度値が低いほど、ゲインを小さくすることで、補正を抑制してもよい。また、注目画素を含む注目領域の平均輝度値に基づき、ゲインを決定してもよい。
【0078】
以上で裏写り補正処理のフローチャートは終了する。
【0079】
<補正量算出処理のフローチャート>
図14は、本実施例における裏写り補正量算出処理の流れを示すフローチャートである。本フローチャートは、HDD2130に格納されたプログラムに従って、CPU2100が裏写り補正処理部2430(特に紙白判定部2435及び補正量算出部2438)を制御することで実行する。
【0080】
まずS201において、CPU2100は紙白判定部2435を制御して最大最小輝度差を算出する。これは図6の最大値算出部2451、最小値算出部2452および減算器2453により算出されるものである。
【0081】
次にS202において、CPU2100は比較部2454を制御してS201で算出した最大最小輝度差が所定の比較閾値より大きいか否かを判定する。この比較閾値Thは予めCPU2100によって設定される。具体的には、図12における中間調注目領域316や重なり注目領域315における最大最小輝度差よりも小さく、さらに裏写り輪郭領域314における最大最小輝度差よりも大きい値を閾値として設定する。比較の結果、所定の比較閾値Thより大きいと判定されれば、S205へ進む。所定の比較閾値Th以下であると判定されれば、S203へ進む。なお、実際には所定閾値との比較結果は紙白判定結果Wfとして紙白領域判定部2435によって生成され、補正量算出部2438で使用される。
【0082】
S203では、最大平均輝度値を取得する。これは図7の最大輝度値保持部2461から出力される値である。
【0083】
次にS204では、S203で取得した最大平均輝度値と注目領域の平均輝度値の差を減算器2462で算出し、補正量としている。これにより最大最小輝度値が小さいが分散値を持つ裏写りの輪郭部などにおいても適切に紙白(最大平均輝度値)へと補正可能な補正量を算出できる。
【0084】
またS205では注目領域がエッジ領域か否かを判定する。これは、CPU2100がエッジ判定部2434を制御することで判定される。エッジ領域ではないと判定された場合、S206へ進む。エッジ領域であると判定された場合はS207へ進む。
【0085】
S206では、LUT読み出し値(画素信号Dlut)と注目平均輝度値(画素信号Dave)を用いて補正量を算出する。補正量は補正量算出部2438の減算器2463によって算出される。
【0086】
一方、S207では、注目領域がエッジ領域であるため、補正量を0として算出する。
【0087】
以上で本フローチャートは終了する。
【0088】
なお、注目領域に含まれる全ての画素の輝度が低い低輝度領域では、最大輝度値と最小輝度値の差が低くなる。その場合、S108において、注目画素の輝度値に応じたゲインをかけることで裏写り補正が抑制される。しかしながら、図14のフローチャートが始まる前に、注目画素の輝度値が所定輝度値以上かを判定し、注目画素の輝度値が所定輝度値未満の場合、図14のフローチャートを実行することなく、注目画素に対して、裏写り補正を行わないようにしてもよい。
【0089】
以上の本実施形態により、裏写りの輪郭部などで分散値が発生した場合でも、表面の網点画像と区別し、補正量を適切に算出することが可能となる。よって、表面の画像品質の劣化を低減させつつ適切に裏写り領域を補正させることが可能となる。
【0090】
<第2実施形態>
実施例1では、裏写りの輪郭部における最大最小輝度差に着目し、表面の網点画像と裏写りの輪郭部とを区別し、補正量を算出する方法および構成について述べた。
【0091】
しかしながら、もし表面の画像に最大最小輝度差が小さい領域が存在してしまうと誤って紙白領域と判定し、誤った補正量を算出してしまう可能性があった。例えば、スキャナにおける画像を読み取るイメージセンサの品質や照明ランプの発光の揺らぎやムラ、原稿の特性などに起因するものである。または、読み取る原稿を印刷した印刷機の印刷品質によって表面の画像の網点が綺麗に打たれていない個所が点在する場合などが該当する。
【0092】
実施例2では、最大最小輝度差が小さい表面の画像があった場合でも、適切に補正量を算出する方法および構成について述べる。
【0093】
本実施例では実施例1に対して、裏写りの補正量算出部2438の内部構成および補正量算出処理に関する処理フローが異なる。複写機の外観およびスキャナ部140、スキャナ画像処理部2400の構成やコントローラ200の構成は実施例1と同様である。以下、実施例1との差分について本実施例を詳細に説明する。
【0094】
<裏写り補正処理部>
図15は、実施例2における補正量算出部2438の構成を示すブロック図である。
【0095】
最大輝度値保持部2461、減算器2462、減算器2463および第一補正量選択部2464は実施例1と同様である。
【0096】
比較部2470は平均値算出部2433が算出した現在の注目領域における平均値である画素信号Daveと所定の比較閾値Dthとを比較する。比較部2470は画素信号Daveの値が閾値Dthよりも大きければ比較結果Cfを1として後段の第二補正量選択部2471へ出力する。また、比較部2470は画素信号Daveの値が閾値Dth以下であれば比較結果Cfを0として後段の第二補正量選択部2471へ出力する。
【0097】
第二補正量選択部2471は実施例1の第二補正量選択部2465と異なり、紙白判定結果Wfだけでなく比較結果Cfも参照する。そして、第一補正量選択部2464の出力した信号値を補正量Dmとして出力するか、減算器2462で算出した信号値の差を補正量Dmとして出力するか、を選択する。
【0098】
紙白判定結果Wfが1であって、さらに比較結果Cfが1である場合には、第二補正量選択部2465は補正量として減算器2462で算出した最大輝度値から現在入力された画素信号との差を出力する。これは注目領域が紙白領域であって、さらに注目領域の平均輝度値が閾値Dthよりも明るい場合に、最大輝度値から現在入力された画素信号との差を補正量とすることを意味する。このように平均輝度値が閾値Dthよりも明るいことを条件に加味することで、表面の画像の網点が綺麗に打たれていない個所(表面画像で分散値が低い個所)が存在したとしても区別して補正量を算出することが可能となる。なぜなら、表面画像であれば平均輝度値が少なからず低くなるからである。よって、閾値Dthは裏写り画像の輝度よりも若干低い値を設定することが望ましい。若干低い値とすることで、表面の裏写りよりも濃い領域で分散値が低い個所が発生してしまった場合でも誤補正を防止できるからである。紙白判定結果Wfが0または比較結果Cfが0である場合には、第二補正量選択部2465は補正量として、第一補正量選択部2464から入力される値を出力する。これは、これは注目領域が紙白領域ではなく、また注目領域の平均輝度値が閾値Dthよりも暗い場合に、第一補正量選択部2464から入力される値を補正量とすることを意味する。
【0099】
<裏写り補正処理のフローチャート>
図16は、実施例2における補正量算出処理の流れを示すフローチャートである。本フローチャートは、HDD2130に格納されたプログラムに従って、CPU2100が裏写り補正処理部2430(特に紙白判定部2435及び補正量算出部2438)を制御することで実行する。
【0100】
まずS300において、注目画素を含む注目領域の平均輝度値が所定の比較閾値Dthより大きいか否かを判定する。これは、CPU2100が補正量算出部2438内部の比較部2470を制御することによって判定される。この所定の比較閾値Thは予めCPU2100によって設定される。具体的には、前述の通りに裏写り画素の輝度よりも若干低い値を閾値として設定する。平均輝度値が所定の比較閾値Dthより大きい場合は、S301へ進む。なお、S301では、注目領域の平均輝度値ではなく、注目画素の輝度値と所定値を比較し、注目画素の輝度値が所定値以上であれば、S301へ進んでもよい。S301へ進むことにより裏写り画素の輝度までの領域でS302で紙白領域と判定された領域を対象に最大平均輝度値と注目平均輝度値の差を補正量とすることが可能となる。また、注目平均輝度値が所定の比較閾値Dth以下の場合は、S305へ進む。このようにS300にてフローを分岐させることで、表面の裏写りよりも濃い領域で分散値が低い個所が発生してしまった場合でも誤補正を防止できる。
【0101】
また、S301からS307までは実施例1の図14で示したフローチャートのS201からS207までと同様である。
【0102】
以上で裏写り補正前処理のフローチャートは終了する。
【0103】
以上の本実施例の構成および処理によれば、部分的に最大最小輝度差が小さい表面の画像が発生してしまった場合でも、適切に補正量を算出することが可能となった。これにより本実施例は、表面の画像の網点が綺麗に打たれていない個所などで表面の画像領域の最大最小輝度差が小さくなってしまった場合であっても裏写り補正部による誤補正を低減させることが可能である。
【0104】
(その他の実施例)
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図14
図15
図16