(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記周壁部の内周面を構成する前記複数の領域は、前記香箱ケースの周方向に交差する方向に延在する複数の第1領域と、前記内周面のうち前記第1領域以外の領域である第2領域とを含む、請求項1に記載の香箱車。
前記ぜんまい本体の前記一端部より他端側の部分に設けられ、前記ぜんまい本体により前記周壁部に内周側から加えられる押圧力を調整するスリッピング・アタッチメントをさらに備えた、請求項1〜5のうちいずれか1項に記載の香箱車。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
<第1の実施形態>
まず、第1の実施形態について説明する。第1の実施形態を説明するにあたり、はじめに、機械式時計1について説明する。
図1は、本発明の実施形態におけるムーブメント表側の平面図である。なお、以下の説明では、発明を理解し易くするために、適宜構成部品の一部を省略したり、形状を単純化したり、縮尺を変更したりする等、図示を簡略化している。
【0018】
図1に示すように、機械式時計1は、ムーブメント10と、ムーブメント10を収納する図示しないケーシングと、により構成されている。
ムーブメント10は、基板を構成する地板11を有している。地板11の裏側には図示しない文字板が配されている。なお、ムーブメント10の表側に組み込まれる輪列を表輪列と称し、ムーブメント10の裏側に組み込まれる輪列を裏輪列と称する。
地板11には、巻真案内穴11aが形成されており、ここに巻真12が回転自在に組み込まれている。巻真12は、おしどり13、かんぬき14、かんぬきばね15及び裏押さえ16を有する切換装置により、軸方向の位置が決められている。巻真12の案内軸部には、きち車17が回転自在に設けられている。
【0019】
巻真12を回転させると、図示しないつづみ車の回転を介してきち車17が回転する。きち車17が回転することにより、これと噛合う丸穴車20が回転する。丸穴車20が回転することにより、これと噛合う角穴車21が回転する。角穴車21が回転することにより、香箱車22に収納されたぜんまい50(動力源)(
図2参照)が巻き上げられる。
【0020】
ムーブメント10の表輪列は、上述した香箱車22の他に、二番車25、三番車26及び四番車27により構成されており、香箱車22の回転力を伝達する機能を果している。また、ムーブメント10の表側には、表輪列の回転を制御するための脱進機構30及び調速機構31が配置されている。
【0021】
二番車25は、香箱車22に噛合う歯車とされている。三番車26は、二番車25に噛合う歯車とされている。四番車27は、三番車26に噛合う歯車とされている。脱進機構30は、上述した表輪列の回転を制御する機構であって、四番車27と噛み合うがんぎ車35と、このがんぎ車35を脱進させて規則正しく回転させるアンクル36と、を備えている。調速機構31は、上述した脱進機構30を調速する機構であって、てんぷ40を具備している。
【0022】
図2は、香箱車22の平面図である。
図3は、ぜんまい50を巻き上げた状態の香箱車22を示す平面図である。
図2および
図3に示すように、香箱車22は、ぜんまい50と、香箱真61と、香箱ケース62とを備えている。
ぜんまい50は、いわゆる動力ぜんまいである。ぜんまい50は、ぜんまい本体51と、スリッピング・アタッチメント52とを有する。
ぜんまい50は、香箱ケース62の香箱真61に渦巻状に巻き付けられている。ぜんまい50は、周壁部64に囲まれて香箱ケース62に収納されている。
図3に示すように、ぜんまい50が香箱真61に巻き付けられた状態となると、ぜんまい50は、弾性力によって香箱ケース62を回転させる。
【0023】
ぜんまい本体51は、曲げ弾性を有する細長い板状体である。ぜんまい本体51は、例えばコバルト(Co)基合金、ニッケル(Ni)基合金、鉄(Fe)、鋼等の金属からなる。
ぜんまい本体51の一端部51dは、香箱真61に固定されている。
【0024】
スリッピング・アタッチメント52は、例えばCo基合金、Ni基合金、Fe、鋼等の金属からなる。スリッピング・アタッチメント52は、ぜんまい本体51の他端部51a近傍の部分の一方の面(主表面51c)に設けられている。
スリッピング・アタッチメント52は、ぜんまい50によって香箱ケース62の周壁部64に内周側から加えられる押圧力を調整する機能を有する。
【0025】
ぜんまい本体51の外周側の端部51aを含む約一周回分の部分を、外周部分51bという。外周部分51bは、スリッピング・アタッチメント52と、香箱ケース62の周壁部64との間に挟まれて位置する。
なお、
図2および
図3に示すぜんまい50では、ぜんまい本体51の外周部分51bの内周側にスリッピング・アタッチメント52があるが、これとは逆に、外周部分51bの外周側にスリッピング・アタッチメント52がある構成も可能である。
スリッピング・アタッチメント52が設けられる位置は、ぜんまい本体51の一端部51dより他端部51a側の部分であればよい。
【0026】
香箱真61は、香箱ケース62の底部63の中央に、底部63から突出して形成されている。
【0027】
図4は、第1の実施形態に係る香箱車の香箱ケースを示す、中心軸線に垂直な方向の断面図である。
図5は、第1の実施形態に係る香箱車の香箱ケースを示す、中心軸線に沿う方向の断面図である。
図5は、
図4に示すI−I断面図である。
図6は、香箱ケースの周壁部の内周面を示す展開図である。C1は香箱ケース62の中心軸線である。中心軸線C1方向を高さ方向ということがある。中心軸線C1周りの方向を周方向という。
【0028】
図4および
図5に示すように、香箱ケース62は、底部63と、周壁部64とを備えている。
底部63は、円板状に形成されている。
周壁部64は、底部63の周縁63aに沿って立設され、円筒状に形成されている。周壁部64は、底部63の周縁63aから、香箱ケース62の中心軸線C1に沿う方向(軸方向)に延出している。
【0029】
周壁部64は、基体65と、充填部66とを備えている。
基体65は、第2材料からなり、円筒状に形成されている。基体65の内周面65aには、複数の溝部67が形成されている。溝部67は一定の幅を有し、中心軸線C1方向に延在する。溝部67は、周壁部64の基端部64b近傍から先端部64c近傍にかけて形成されている。溝部67は、一定の深さであることが望ましい。溝部67の断面(中心軸線C1に垂直な方向の断面)の形状は、例えば矩形状、半円形状などである。
複数の溝部67は、周方向に間隔をおいて形成されている。複数の溝部67は、互いに同じ幅であり、周方向に一定の間隔をおいて形成されていることが望ましい。
【0030】
図6に示すように、充填部66は、第1材料が溝部67に充填されて形成されている。充填部66の内周面66aは、基体65の内周面65aに沿う曲面(円筒面)をなす。すなわち、充填部66の内周面66aと基体65の内周面65aとは、共通の軸(中心軸線C1)を有し、径が同じであって、滑らかに連続する円筒面である内周面64aを構成する。
【0031】
充填部66の内周面66aは、周壁部64の内周面64aの一部であり、第1領域71である。
第1領域71は、一定の幅を有し、中心軸線C1に沿う方向に延在する。第1領域71は、周壁部64の基端部64b近傍から先端部64c近傍にかけて形成されている。複数の第1領域71は、周方向に間隔をおいて形成されている。第1領域71は、互いに同じ幅であり、周方向に一定の間隔をおいて形成されていることが望ましい。
なお、第1領域71の延在方向は、中心軸線C1に沿う方向に限らず、周方向に交差する方向であればよい。
【0032】
基体65の内周面65aは、第2領域72である。第2領域72は、周壁部64の内周面64aのうち第1領域71以外の領域である。
複数の第1領域71が周方向に間隔をおいて形成されているため、第1領域71が形成されている高さ範囲では、第1領域71と第2領域72とは、周方向に交互に並んで形成されている。
【0033】
第1領域71と第2領域72とは、静摩擦係数と動摩擦係数との比が互いに異なる。
静摩擦係数とは、例えば、静止状態にある2つの物体の接触面に生じる摩擦力と法線作用力との比である。静摩擦係数は、例えば、静止している物体(ぜんまい50)を動かそうとするときの抵抗力(摩擦力)を、その物体により接触面(周壁部64の内周面64a)にかかる力)で割った値である。
【0034】
前記物体(ぜんまい50)により接触面(周壁部64の内周面64a)にかかる力(荷重)をP
1とすれば、静止している物体(ぜんまい50)を動かそうとするときの摩擦力F
1は、次の式(1)で表される。
F
1=μ
1P
1 ・・・(1)
式(1)において「μ
1」は静摩擦係数である。
【0035】
動摩擦係数とは、例えば、2つの物体が、少なくとも一方が他方に対して摺動するように相対運動している状態で、前記2つの物体の接触面に生じる摩擦力と法線作用力との比である。動摩擦係数は、例えば、物体(ぜんまい50と内周面64a)同士が接したまま動いているときの抵抗力(摩擦力)を、その物体(ぜんまい50)により接触面(周壁部64の内周面64a)にかかる力)で割った値である。
【0036】
動いている前記物体(ぜんまい50)により接触面(周壁部64の内周面64a)にかかる力(荷重)をP
2とすれば、前記物体(ぜんまい50)の進行方向の逆向きに働く摩擦力F
2は、次の式(2)で表される。
F
2=μ
2P
2 ・・・(2)
式(2)において「μ
2」は動摩擦係数である。
【0037】
静摩擦係数および動摩擦係数の測定方法としては、JIS K 7125、ISO 8295、ASTM D1894などを挙げることができる。
【0038】
静摩擦係数と動摩擦係数との比(以下、摩擦係数比という)は、例えば「μ
1/μ
2」である。摩擦係数比(μ
1/μ
2)は、例えば0.9〜2である。摩擦係数比(μ
1/μ
2)は、例えば1〜2であってもよく、さらには1〜1.5であってもよい。
【0039】
第1領域71と第2領域72の摩擦係数比(μ
1/μ
2)の大小関係は特に限定されない。すなわち、第1領域71の摩擦係数比が第2領域72の摩擦係数比より大きくてもよいし、第2領域72の摩擦係数比が第1領域71の摩擦係数比より大きくてもよい。
【0040】
第1領域71と第2領域72は、これらのうち一方の領域の摩擦係数比が1より大きく、かつ他方の領域の摩擦係数比が1より小さいことが好ましい。これによって、内周面64aの全体としての摩擦係数比を1に近くすることができる。
第1領域71と第2領域72の面積比は、内周面64aの全体としての摩擦係数比(μ
1/μ
2)が1に近くなるように定めることができる。
【0041】
第1領域71を構成する第1材料としては、例えば、金(Au)、鉛(Pb)、銅合金(例えば黄銅(真鍮))、コバルト(Co)合金、鉄(Fe)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、炭素鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金(例えばジュラルミン)などの金属;ポリカーボネート、炭素繊維強化プラスチックなどの樹脂などを挙げることができる。
第2領域72を構成する第2材料としては、例えば、金、鉛、銅合金(例えば黄銅(真鍮))、コバルト合金、鉄、チタン、ニッケル、炭素鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金(例えばジュラルミン)などの金属;ポリカーボネート、炭素繊維強化プラスチックなどの樹脂などを挙げることができる。
第1材料と第2材料は、異なる材料であってもよいが、第1領域71と第2領域72とに摩擦係数比(μ
1/μ
2)の差異を与えることができれば、同じ材料であってもよい。
【0042】
第1領域71と第2領域72は、表面粗さが異なることによって、摩擦係数比(μ
1/μ
2)の差異が与えられていてもよい。表面粗さの指標としては、例えばJIS B 0601に規定された算術平均粗さRaがある。
【0043】
第1領域71を構成する第1材料と、第2領域72を構成する第2材料とは、切削加工性が異なることが好ましい。これによって、切削加工後の表面(第1領域71および第2領域72)に、表面粗さの差異が生じやすくなるため、第1領域71と第2領域72とに摩擦係数比の差異を与えることができる。
【0044】
次に、香箱車22の製造方法について説明する。
図7は、香箱ケース62を作製するための母材81を示す、中心軸線に垂直な方向の断面図である。
図8は、母材81を示す、中心軸線に沿う方向の断面図である。
図8は、
図7に示すII−II断面図である。
【0045】
図7および
図8に示すように、母材81は、円柱状に形成されている。
母材81は、基体85と、充填部86とを備えている。基体85は第2材料からなり、円筒状に形成されている。基体85内には、第1材料からなる充填部86が形成されている。
図7に示すように、中心軸線C1と平行に見て、充填部86は、基体85の中央から放射状に径方向外方に延びて形成されている。
図8に示すように、充填部86は、中心軸線C1方向に連続して形成されている。
母材81は、例えば、3Dプリンタ等を用いて作製することができる。
【0046】
母材81の中央部分を切削加工によって除去することによって、
図4〜
図6に示すように、底部63と周壁部64とを有する香箱ケース62を得る。
基体85と充填部86との接合には、金属同士の場合、拡散接合を用いてもよい。拡散接合を利用して母材81を製造するには、拡散接合機能を備えた3Dプリンタ等を用いることができる。金属と樹脂を接合する場合、摩擦重ね接合法を用いてもよい。
【0047】
香箱車22は、周壁部64の内周面64aに、摩擦係数比(μ
1/μ
2)が異なる第1領域71と第2領域72とを有する。そのため、内周面64aの全体としての摩擦係数比を1に近くすることができる。例えば、第1領域71と第2領域72のうち一方の領域の摩擦係数比が1より大きく、かつ他方の領域の摩擦係数比が1より小さい場合には、内周面64aの全体としての摩擦係数比を1に近くしやすい。よって、静止しているぜんまい50を動かすのに要する力と、ぜんまい50が動いているときに要する力との差を小さくできる。
【0048】
図17は、香箱車22におけるぜんまい50の巻き数とトルクとの関係の一例を示す図である。
図17に示すように、ぜんまい50は、巻き上げ量が大きくなると香箱車22の内周面64aに対してスリップするが、香箱車22では、ぜんまい50の動作開始に要する力と、動いているときに要する力との差を小さくすることにより、仮想線で示すようなトルクの増減を抑え、実線で示すように、トルクを安定化させることができる。
【0049】
香箱車におけるスリップトルクが小さすぎれば、いわゆるスリップダウンが起こりやすくなる。そのため、例えば、ぜんまいをフル巻き(巻き上げ量が最大)とすることができなくなったり、フル巻きの状態を長時間維持できなくなる可能性がある。
スリップトルクが大きすぎれば、ぜんまいの巻き過ぎが起こりやすくなる。巻き過ぎが起きると、てんぷ等の振り当たりにより計時精度に影響が及ぶことがある。また、自動巻き機構等に過剰な力が作用したり、香箱ケースの周壁部が摩耗しやすくなるなどの不都合が生じることがある。
これに対し、実施形態の香箱車22は、前述のトルクの安定化により、スリップダウンを防ぐことができる。よって、ぜんまい50をフル巻きにすることができ、その状態を長時間維持できる。
また、トルクの安定化により、ぜんまい50の巻き過ぎを防ぐことができる。そのため、てんぷ等の振り当たりによる計時精度の低下を防ぐことができる。さらに、自動巻き機構等に過剰な力が作用せず、その破損を防ぐことができる。また、香箱ケース62の周壁部64の摩耗が起こりにくくなる。
【0050】
香箱車22は、周壁部64の内周面64aが、中心軸線C1方向に延在する複数の第1領域71と、第1領域71以外の領域である第2領域72とを含む。そのため、ぜんまい50に当接する部分における第1領域71と第2領域72の面積比が、ぜんまい50の位置(中心軸線C1方向の位置)によって変動するのを抑制できる。よって、ぜんまい50の巻き上げの際のトルクをより安定化させることができる。
【0051】
香箱車22は、ぜんまい50がスリッピング・アタッチメント52を備えているため、ぜんまい50により香箱ケース62の周壁部64の内周面64aにかかる押圧力を適正化し、ぜんまい50の巻き上げの際のトルクを安定化させることができる。
【0052】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態について説明する。以下、既出の実施形態との共通点については同じ符号を付して説明を省略する。
図9は、第2の実施形態に係る香箱車の香箱ケースを示す、中心軸線に垂直な方向の断面図である。
図10は、香箱車の香箱ケースを示す、中心軸線に沿う方向の断面図である。
図10は、
図9に示すIII−III断面図である。
図11は、香箱車の香箱ケースの周壁部を示す展開図である。
図9および
図10に示すように、第2の実施形態の香箱車122は、香箱ケース162以外は、
図2および
図3に示す第1の実施形態の香箱車22と同じ構成である。なお、
図9〜
図11では、ぜんまい50および香箱真61を図示しない。
【0053】
香箱ケース162は、底部63と、周壁部164とを備えている。
周壁部164は、底部63の周縁63aに沿って立設され、円筒状に形成されている。周壁部164は、底部63の周縁63aから、香箱ケース62の中心軸線C1に沿う方向(軸方向)に延出している。
【0054】
周壁部164は、基体165と、充填部166とを備えている。
基体165は、第2材料からなり、円筒状に形成されている。基体165の内周面165aには、複数の凹部167が形成されている。
図11に示すように、凹部167は、ドット状に形成されている。複数の凹部167は、複数の凹部群167Aを構成する。凹部群167Aは、中心軸線C1方向に並ぶ複数の凹部167からなる。
【0055】
充填部166は、第1材料が凹部167に充填されて形成されている。充填部166の内周面166aは、基体165の内周面165aに沿う曲面(円筒面)をなす。すなわち、充填部166の内周面166aと基体165の内周面165aとは、共通の軸(中心軸線C1)を有し、径が同じであって、滑らかに連続する円筒面である内周面164aを構成する。
【0056】
充填部166の内周面166aは、周壁部164の内周面164aの一部であり、第1領域171である。
第1領域171は、ドット状に形成されている。複数の第1領域171は、複数の領域群171Aを構成する。
領域群171Aは、中心軸線C1方向に並ぶ複数の第1領域171からなる。領域群171Aを構成する複数の第1領域171は、中心軸線C1方向に間隔(好ましくは等間隔)をおいて形成されている。領域群171Aを構成する複数の第1領域171は、中心軸線C1方向に位置を違えて形成されている。中心軸線C1方向に隣り合う第1領域171の間隔は、複数の領域群171Aの間で互いに等しいことが好ましい。
複数の領域群171Aは、周方向に間隔(好ましくは等間隔)をおいて形成されている。そのため、第1領域171が形成されている高さ範囲では、第1領域171と第2領域172とが、周方向に交互に並んでいる。
【0057】
複数の領域群171Aは、これらを構成する第1領域171の高さ位置(中心軸線C1方向の位置)が揃うように配置されている。すなわち、第1領域171は、中心軸線C1方向および周方向に沿うマトリクス状に配列されている。
【0058】
基体165の内周面165aは、第2領域172である。第2領域172は、周壁部164の内周面164aのうち第1領域171以外の領域である。
【0059】
第1領域171を構成する第1材料としては、例えば、第1の実施形態における第1領域71の構成材料と同じ材料を挙げることができる。
第2領域172を構成する第2材料としては、例えば、第1の実施形態における第2領域72の構成材料と同じ材料を挙げることができる。
第1領域171と第2領域172とは、摩擦係数比(μ
1/μ
2)が互いに異なる。
【0060】
次に、香箱車22の製造方法について説明する。
図12は、香箱ケース162を作製するための母材181を示す、中心軸線に垂直な方向の断面図である。
図13は、母材181を示す、中心軸線に沿う方向の断面図である。
図13は、
図12に示すIV−IV断面図である。
【0061】
図12および
図13に示すように、母材181は、円柱状に形成されている。
母材181は、基体185と、複数の充填部186とを備えている。
基体185は第2材料からなり、円筒状に形成されている。基体185内には、第1材料からなる複数の充填部186が形成されている。
図12に示すように、中心軸線C1と平行に見て、充填部186は、基体185の中央から放射状に径方向外方に延びて形成されている。
図13に示すように、複数の充填部186は、中心軸線C1方向に間隔をおいて形成されている。
母材181は、例えば、3Dプリンタ等を用いて作製することができる。
母材181の中央部分を切削加工によって除去することによって、
図9〜
図11に示す香箱ケース162を得る。
【0062】
香箱車122は、周壁部164の内周面164aに、摩擦係数比(μ
1/μ
2)が異なる第1領域171と第2領域172とを有する。そのため、内周面164aの全体としての摩擦係数比を1に近くすることができる。よって、静止しているぜんまい50を動かすのに要する力と、ぜんまい50が動いているときに要する力との差を小さくできる。そのため、ぜんまい50の巻き上げの際のトルクを安定化させることができる。
トルクの安定化によって、スリップダウンが起こりにくくなるため、ぜんまい50をフル巻きにすることができ、その状態を長時間維持できる。また、ぜんまい50の巻き過ぎが起こりにくいため、てんぷ等の振り当たりによる計時精度の低下を防ぐことができる。さらに、自動巻き機構等の破損を防ぐことができる。また、香箱ケース162の周壁部164の摩耗などが起こりにくい。
【0063】
香箱車122では、領域群171Aを構成する複数の第1領域171は、中心軸線C1方向に位置を違えて形成されている。そのため、第1領域171の大きさ、および中心軸線C1方向の間隔の調整によって、ぜんまい50に当接する部分における第1領域171と第2領域172の面積比を容易に設定できる。よって、ぜんまい50の巻き上げの際のトルクをより安定化させることができる。
【0064】
香箱車122は、中心軸線C1方向に並んだ複数の第1領域171からなる領域群171Aを複数有し、複数の領域群171Aは香箱ケース162の周方向に間隔をおいて配置されている。
そのため、第1領域171の大きさ、および周方向の間隔の調整によって、ぜんまい50に当接する部分における第1領域171と第2領域172の面積比を容易に設定できる。よって、ぜんまい50の巻き上げの際のトルクをより安定化させることができる。
【0065】
<第3の実施形態>
次に、第3の実施形態について説明する。以下、既出の実施形態との共通点については同じ符号を付して説明を省略する。
図14は、第3の実施形態に係る香箱車の香箱ケースを示す、中心軸線に垂直な方向の断面図である。
図15は、香箱車の香箱ケースを示す、中心軸線に沿う方向の断面図である。
図15は、
図14に示すV−V断面図である。
図16は、香箱車の香箱ケースの周壁部を示す展開図である。
図14および
図15に示すように、第3の実施形態の香箱車222は、香箱ケース262以外は、
図2および
図3に示す第1の実施形態の香箱車22と同じ構成である。なお、
図14〜
図16では、ぜんまい50および香箱真61を図示しない。
【0066】
香箱ケース262は、底部63と、周壁部264とを備えている。
周壁部264は、底部63の周縁63aに沿って立設され、円筒状に形成されている。周壁部264は、底部63の周縁63aから、香箱ケース62の中心軸線C1に沿う方向(軸方向)に延出している。
【0067】
周壁部264は、基体265と、充填部266とを備えている。
基体265は、第2材料からなり、円筒状に形成されている。基体265の内周面265aには、複数の凹部267が形成されている。
図16に示すように、凹部267は、ドット状に形成されている。複数の凹部267は、複数の凹部群267Aを構成する。凹部群267Aは、中心軸線C1方向に並ぶ複数の凹部267からなる。
【0068】
充填部266は、第1材料が凹部267に充填されて形成されている。充填部266の内周面266aは、基体265の内周面265aに沿う曲面(円筒面)をなす。すなわち、充填部266の内周面266aと基体265の内周面265aとは、共通の軸(中心軸線C1)を有し、径が同じであって、滑らかに連続する円筒面である内周面264aを構成する。
【0069】
充填部266の内周面266aは、周壁部264の内周面264aの一部であり、第1領域271である。
第1領域271は、ドット状に形成されている。複数の第1領域271は、複数の領域群271Aを構成する。
領域群271Aは、中心軸線C1方向に並ぶ複数の第1領域271からなる。領域群271Aを構成する複数の第1領域271は、中心軸線C1方向に間隔(好ましくは等間隔)をおいて形成されている。領域群271Aを構成する複数の第1領域271は、中心軸線C1方向に位置を違えて形成されている。中心軸線C1方向に隣り合う第1領域271の間隔は、複数の領域群271Aの間で互いに等しいことが好ましい。
複数の領域群271Aは、周方向に間隔(好ましくは等間隔)をおいて形成されている。そのため、第1領域271が形成されている高さ範囲の一部では、第1領域271と第2領域272とが、周方向に交互に並んでいる。
【0070】
複数の領域群271Aは、これらのうち周方向に隣り合う2つの領域群271Aを対比したとき、第1領域271の高さ位置(中心軸線C1方向の位置)がずれるように配置されている。そのため、複数の第1領域271は、千鳥状に配置されている。
【0071】
基体265の内周面265aは、第2領域272である。第2領域272は、周壁部264の内周面264aのうち第1領域271以外の領域である。
【0072】
第1領域271を構成する第1材料としては、例えば、第1の実施形態における第1領域71の構成材料と同じ材料を挙げることができる。
第2領域272を構成する第2材料としては、例えば、第1の実施形態における第2領域72の構成材料と同じ材料を挙げることができる。
第1領域271と第2領域272とは、摩擦係数比(μ
1/μ
2)が互いに異なる。
【0073】
香箱車222は、例えば、第2実施形態の香箱車122と同様にして製造することができる。
すなわち、香箱車222は、第2材料からなる基体と、第1材料からなる複数の充填部とを有する母材を用い、この母材の中央部分を切削加工によって除去することによって、
図14〜
図16に示す香箱ケース262を得ることができる。
【0074】
香箱車222は、周壁部264の内周面264aに、摩擦係数比(μ
1/μ
2)が異なる第1領域271と第2領域272とを有する。そのため、内周面264aの全体としての摩擦係数比(μ
1/μ
2)を1に近くすることができる。よって、静止しているぜんまい50を動かすのに要する力と、ぜんまい50が動いているときに要する力との差を小さくできる。そのため、ぜんまい50の巻き上げの際のトルクを安定化させることができる。トルクの安定化によって、スリップダウンおよびぜんまい50の巻き過ぎを防ぐことができる。
【0075】
香箱車222は、周壁部264の内周面264aにおいて第1領域271が千鳥状に配置されているため、ぜんまい50に当接する部分における第1領域271と第2領域272の面積比の偏りが生じにくい。したがって、ぜんまい50の巻き上げの際のトルクをより安定化させることができる。
【0076】
実施形態の香箱車は、周壁部の内周面に、第1領域および第2領域だけでなく、第1領域および第2領域とは摩擦係数比(μ
1/μ
2)が異なる第3領域を有していてもよい。摩擦係数比が異なる領域の数は、2以上の任意の数であってよい。摩擦係数比が異なる複数の領域は周方向に異なる位置にあればよい。
なお、周壁部の内周面において摩擦係数比が異なる第1領域と第2領域の摩擦係数比がいずれも1より大きい場合でも、周壁部の内周面の全体としての摩擦係数比は、摩擦係数比大きい方の領域に比べれば1に近くなる。
実施形態の香箱車では、第1領域と第2領域は、香箱ケースの表面のうち周壁部の内周面以外の面にも形成されていてもよい。