(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6797731
(24)【登録日】2020年11月20日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】放射性コンクリートの除染装置
(51)【国際特許分類】
G21F 9/28 20060101AFI20201130BHJP
【FI】
G21F9/28 571E
G21F9/28 571A
G21F9/28 511A
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-64506(P2017-64506)
(22)【出願日】2017年3月29日
(65)【公開番号】特開2018-169184(P2018-169184A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2019年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001890
【氏名又は名称】三和テッキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中島 春介
(72)【発明者】
【氏名】森 茂久
【審査官】
大門 清
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−003904(JP,A)
【文献】
特開2014−228360(JP,A)
【文献】
特開2013−220419(JP,A)
【文献】
特表2012−504542(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0186444(US,A1)
【文献】
特開2014−048060(JP,A)
【文献】
特開2002−273404(JP,A)
【文献】
特開平09−059618(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0230267(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G21F 9/28
G21F 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物質に汚染され、又は放射化されたコンクリートの表層部から放射性物質を吸着し回収する放射性コンクリートの除染装置において、
除染対象領域のコンクリートに、放射性物質吸着剤を周囲に介在させて埋め込まれる吸着アンカーと、
前記吸着アンカーに間隔を置いて隣接してコンクリートに埋め込まれる注入アンカーと、
前記吸着アンカーと前記注入アンカーとの間に電界を形成する直流電源と、
除染対象領域のコンクリートの内部に浸透させる電解液と、
前記注入アンカーを伝ってコンクリートに前記電解液を浸透させるために注入アンカーの打設位置に対応する注入口を有する電解液供給管と、
この電解液供給管を通じて供給する電解液を貯留するタンクとを具備し、
前記電解液が浸透したコンクリート内のイオン化した放射性物質を動電現象により、前記吸着アンカーに吸着し、回収処分することを特徴とする放射性コンクリートの除染装置。
【請求項2】
前記注入アンカーは、前記電解液が伝わるライフルを備えることを特徴とする請求項1に記載の放射性コンクリートの除染装置。
【請求項3】
前記注入アンカーは管状材からなり、前記電解液供給管の注入口が接続されて中空内部が連通し、途上に外部に開口して電解液を吐出する吐出口を備えることを特徴とする請求項1に記載の放射性コンクリートの除染装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所、核燃料製造施設、放射性廃棄物貯蔵施設等の放射性物質の取扱施設において放射性物質の付着、放射線による放射化により汚染されたコンクリートの内部の汚染物質を吸着、回収してコンクリートを除染する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電や医療分野,学術分野での放射性物質の取扱いに伴いこれらの関係施設及び周辺のアクセス施設等を構成するコンクリートが放射性物質の付着、放射化により汚染されると、放射線被爆の危険が当該施設での必要な作業を阻む。また、これらの施設の閉鎖に伴う解体等の作業は、放射能が十分減衰するまで待たなければならないため、完了までに長期間を要する。コンクリートの放射性物質の付着による汚染はその表面に限られるが、放射化による汚染はコンクリートの表面から数十cm程度の内部にまで及ぶ。このような放射性コンクリートの除染作業は、特に原子力発電所の事故対策上、最重要課題である。放射性コンクリートの除染を解体作業前に実施し、放射能の低減を促進すれば、解体作業までの待ち時間を短縮できる。
従来、特許文献1に記載の放射化コンクリートのリサイクル処理方法がある。この方法は、例えば、原子力発電所などの原子力関連施設の改修・解体などに伴い固体廃棄物として発生する放射化したコンクリートブロックを破砕して、加熱した硝酸の処理液に浸漬し、処理液から金属成分を回収する一方、固液分離した粉砕物を乾燥処理している。
また、特許文献2に記載の放射能汚染コンクリートの除染方法は、コンクリート内部の鉄筋を奥側電極とし、コンクリートの表面に表面側電極を設置して、さらに表面側電極の表面に電解質溶液保持シートを被着する。コンクリートの表面と電解質溶液保持シートとの間を空気の吸引により負圧にして、この隙間に電解質溶液を流すとともに、奥側電極と表面側電極の相互間に電流を流すことにより、コンクリート内の電場による電気泳動により、放射性物質をコンクリートCの電極に移動させ、コンクリートの内部に集中させて、又はコンクリートの外部に取り出す。電解質溶液は、隙間を負圧にするために空気とともに吸引され、電解質溶液タンクに戻し、この電解質溶液の供給、回収を繰り返すことで循環する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−229984号公報
【特許文献2】特開2016−3904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の方法においては、除染工程に大規模な設備の構築を要するし、構築物を取り壊した廃棄物として放射性コンクリートを処理設備内に搬送しなければならず、放射性コンクリートを構築物のまま現場で除染できないから、放射性コンクリートの収集・運搬時の作業者の被曝リスクが依然としてあり、放射性コンクリートの含有する放射性物質の自然減衰を長期間待たなくてはならず、廃棄作業が遅延する。
特に、原子力発電所の重篤な爆発事故に見られるように、放射性物質により、高濃度の汚染が施設の周辺に及ぶと、事故後の対応処理にあたる作業者の詰所から作業現場までの移動路においても被曝リスクが高いため、事故処理に安全な動線の確保にのために、移動路の路面、壁面の洗浄や斫り等では十分に対応できない。
また、特許文献2に記載のコンクリートの除染方法においては、電極間での電気泳動により放射性物質を移動させるが、電極への吸着性能が低く、電極近傍への集約に止まるおそれがあり、その回収が容易でない。奥側電極にコンクリート内の鉄筋を用いるため、除染対象領域に鉄筋がない場合には、鉄筋のようにコンクリートの内部に埋め込む態様でかなり深く電極を打ち込む必要がある。コンクリートの表面と電解質溶液保持シートとの隙間を空気の吸引により負圧にしつつ、ここに電解質溶液を流すが、電解質溶液がコンクリートの表面から深部まで浸透し難く、深部の放射化したコンクリートまで除染できないおそれがある。また、隙間を負圧にするために空気を電解質溶液とともに吸引して、電解質溶液を電解質溶液タンクに回収するため、電解質溶液中の汚染物質の処理などを含めた循環手段が複雑化する。
そこで本発明は、大規模な設備を必要とせず、作業者が短時間の簡易な設置作業で、除染現場に常駐することなく、放射性コンクリートを構造体のまま効率的に放射性物質を回収する被曝リスクの少ない放射性コンクリートの除染装置及び除染方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明においては、放射性物質dに汚染され、又は放射化されたコンクリートCの表層部から放射性物質dを吸着し回収する放射性コンクリートの除染装置1を構成する。この除染装置1は、放射性物質吸着剤が混入された電極マット3を展開し、コンクリートCの表面を覆い、電極アンカー4を電極マット3に絶縁ブッシュ8を介して絶縁しつつ貫通させ、コンクリートCに打ち込む。電解液供給管6を通じてタンク5から電解液7を供給し、電極アンカー4の打設位置に対応する注入口から電極アンカー4を伝ってコンクリートCの内部に電解液7を注入して、除染対象領域のコンクリートCの内部に浸透させる。電極マット3と電極アンカー4と間に直流電源2で電界を形成して、電解液7が浸透したコンクリートC内のイオン化した放射性物質dを動電現象により電極マット3に吸着し、回収処分する。
コンクリートCの表面を部分的にほぼ密閉する真空釜10の内部空気を真空ブロア11で吸引してコンクリートCの内部から表面への電解液7の浸透を促進する電解液浸透補助装置を設ける。
除染装置14は、除染対象領域のコンクリートCに、放射性物質吸着剤を周囲に介在させて吸着アンカー15を埋め込み、吸着アンカー15に隣接してコンクリートCに注入アンカー16を埋め込む。電解液供給管6を通じてタンク5から電解液7を供給し、注入アンカー16の打設位置に対応する注入口から注入アンカー16を伝ってコンクリートCの内部に電解液7を注入して、除染対象領域のコンクリートCの内部に浸透させる。吸着アンカー15と注入アンカー16と間に直流電源2で電界を形成して、電解液7が浸透したコンクリートC内のイオン化した放射性物質dを動電現象により吸着アンカー15周りに吸着し、回収処分する。
電極アンカー4又は吸着アンカー15は、電解液7が伝わるライフルを備える。
電極アンカー4又は吸着アンカー15は管状材からなり、電解液供給管6の注入口が接続されて中空内部が連通し、途上に外部に開口して電解液7を吐出する吐出口を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明においては、簡易な設備で除染に当たって多くの手間暇を掛けず設置できると共に電極周りに効果的に汚染物質を吸着でき、除染対象の放射性コンクリートを移動させることなく、現場において無人で除染作業を進めることができるので、設置準備から除染作業まで除染現場に長時間とどまる必要がなく、またロボットなどの遠隔操作で設置作業の無人化も容易で、作業者の被曝リスクを可及的に低減でき、さらに放射性コンクリートの簡易的な除染により、放射線レベルを下げ、原子力発電所や核燃料製造施設等の爆発等重篤な事故後の処理に際しても
、現場への動線を有効に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の第1実施例に係る除染装置の概略的構成図である。
【
図2】本発明の第2実施例に係る電解液浸透補助装置の概略的構成図である。
【
図3】本発明の第3実施例に係る除染装置の概略的構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1において、本発明の第1実施例に係る除染装置1は、施設の床や壁を構成するコンクリートCが放射性物質の付着、又は放射線の照射による放射化により汚染された放射性コンクリートDを除染するものである。除染装置1は、直流の電源2と、この電源2の負極側に接続される第1の電極部材である電極マット3と、電源2の正極側に接続される第2の電極部材である電極アンカー4と、放射性コンクリートDの内部に浸透させる電解液7を貯溜する電解液タンク5と、この電解液タンク5に接続される電解液供給管6とを備えている。電源2は、電気分解による放射性物質のイオン化に必要な直流数V程度の電圧と、有効な電気泳動現象や電気浸透流の発現に必要な数V〜50V程度の電圧及び数A以下の電流とを発生させれば十分なため、小容量で足りる。
【0009】
電極マット3は、除染対象となる放射性コンクリートDの表面にほぼ密着させて敷き置かれるものである。電極マット3はシート状をなし、金属やカーボン等の一般の電極材に放射性物質吸着剤を混合又は付着させたものである。放射性物質吸着剤は、放射性物質を吸着する能力を持つゼオライト、燻炭、イオン交換樹脂、層状粘土鉱物、活性炭等を適用する。特に放射性セシウムに対してはプルシアンブルーも有効である。
【0010】
電極アンカー4は、電極マット3を絶縁ブッシュ8で絶縁しつつ貫通し、放射性コンクリートDに数十cm〜1m程度のほぼ等間隔に複数打ち込まれる。電極アンカー4は、導電性金属材のコンクリートアンカーである。電極アンカー4の挿入深度は、打ち込みにあたり事前に除染対象のコンクリートDにコアボーリング等を行い、採取コアの放射能物質濃度の深度分布に応じて変更する。例えばコンクリートDの表面に汚染が集中している場合の打ち込み深度は数センチ程度で足りるが、放射化により汚染が表面から数十センチに及ぶ場合の打ち込み深度は長い電極アンカー4を使用して大きくとる。なお、除染対象のコンクリートDが鉄筋コンクリートの場合、通電により鉄筋の電気腐食やコンクリートの中性化が生じて、解体前の施設が弱体化する恐れがあるので、放射性コンクリートDに対する電極アンカー4の挿入深度の決定にあたり強度の劣化を考慮する。
【0011】
電解液タンク5の電解液7は、電解液供給管6を介して放射性コンクリートDの電極アンカー4の位置に供給される。電解液供給管6には、電極アンカー4の打設位置に対応する多数の点滴給水用吐出孔を備える。電解液供給管6から点滴注入される電解液7は、電極アンカー4のライフルを通じて放射性コンクリートDの表面及び内部に浸透し拡散させ、放射性コンクリートD中の放射性汚染物質dを電圧印加により溶出しイオン化する。なお、電解液の動電現象の発現程度は電流量に依存するので、除染対象の放射性コンクリートDの導電率を上げるために水より電解液の適用が好ましい。汚染物質が放射性セシウムの場合、この溶出促進も兼ねてカリウム塩やアンモニウム塩など放射性セシウムと置換しやすい塩類を用いてもよい。
【0012】
この実施例の除染装置1は、放射性物質の付着、又は放射線の照射による放射化により汚染された施設の放射性コンクリートDの表面に電極マット3を敷設し、この電極マット3に絶縁ブッシュ8で絶縁しつつ電極アンカー4を貫通させ、放射性コンクリートDに打ち込む。電解液供給管6の吐出孔を電極アンカー4に合致するように配置して、電極アンカー4のライフルを通じて電解液タンク5の電解液7を点滴供給し、放射性コンクリートDの表面から内部に浸透させて電源2を投入する。電極マット3と電極アンカー4の間に直流電圧が印加されて電気分解により、放射性コンクリートDの表面及び内部に含まれる放射性物質dが溶出し、陽イオン化され、
図1の矢印の向きの電気泳動と電解液7の電気浸透流により、電極マット3に誘導され、これを放射性物質吸着剤に吸着、集積する。従って、電極マット3の撤去と共に放射性物質dを収集濃縮した吸着剤をドラム缶等に収容して放射性廃棄物として処分できる。
なお、除染対象の放射性物質dを陰イオン化して吸着する場合、電源2の極性を反転させ、電極マット3を正極性に、電極アンカー4を負極性にする。
【0013】
先の除染装置には、
図2に示す電解液浸透補助装置9を付加してもよい。なお、
図2では、除染装置1を明示していない。同図において、電解液浸透補助装置9は、真空釜10と、これに連通管11aを通じミストトラップ11を介して連通する真空ブロア13と、この真空ブロア13に接続するバグフィルター14とを具備する。真空釜10は、放射性コンクリートD上に部分的に覆わせ内部をほぼ密閉する。真空釜10には移動を容易にする車輪10aを備える。真空ブロア11は真空釜10に連通し、真空釜10の内部空気を吸引する。ミストトラップ11は、真空釜10の内部空気から電解液7等の液滴等を除去する。バグフィルター14は、真空ブロア13の吸引空気から粉塵等を除去し排出する。
【0014】
放射性コンクリートDには、事前に除染装置1の電極アンカー4用の差込み穴を開けて、これに電解液タンク5の電解液7を電解液供給管6により注入し、パテ等で塞いでおく。電解液浸透補助装置9においては、電解液7が注入された放射性コンクリートD上に真空釜10をほぼ密封載置し、その内部空気を真空ブロア13により吸引し、真空釜10内を負圧にして、放射性コンクリートDの内部から表面に向かう(
図2の矢印)電解液7の浸透拡散を促進する。真空釜10を除染対象領域内で適宜移動させて、放射性コンクリートDに電解液7を十分に拡散させたら、放射性コンクリートDの電極アンカー4用差込み穴のパテ等を取り除いた上で、先の実施例のように除染装置1を設置し、除染作業を行う。
【0015】
第3実施例の除染装置14を
図3に示す。なお、同図中第1実施例と同一の構成部分には同一符号を付して説明を省略する。本実施例において、除染装置14は、施設の壁や床を構成するコンクリートCが放射性物質の付着、又は放射線の照射による放射化により汚染された放射性コンクリートDを除染する。電源2の負極側には第1の電極部材である吸着アンカー15が、正極側には第2の電極部材である注入アンカー16が接続される。この吸着アンカー15及び注入アンカー16は、導電性金属材のコンクリートアンカーである。吸着アンカー15周りには、一般的なコンクリートアンカーのスリーブに代えて放射性物質吸着剤17を差込み穴に充填保持している。注入アンカー16には、電解液タンク5の電解液7を注入するための電解液供給管6の点滴給水用吐出孔が臨み、注入アンカー16のライフルを通じて放射性コンクリートDの内部に点滴注入される。
【0016】
この除染装置14においては、吸着アンカー15と注入アンカー16を数十cm〜1m程度のほぼ等間隔を置いて交互に多数配置し放射性コンクリートDに打設し、吸着アンカー15の挿入穴に電解液供給管6を通じて電解液タンク5の電解液7を点滴注入し、放射性コンクリートDの表面及び内部に浸透させて電源2を投入する。吸着アンカー15と注入アンカー16との間に直流電圧が印加されて電気分解より、放射性コンクリートDに含まれる放射性物質dが溶出し、イオン化され、
図3の矢印の向きに沿う電気泳動と電解液の電気浸透流により、吸着アンカー15の放射性物質吸着剤17に誘導、吸着、集積される。
【0017】
なお、上記電極アンカー4及び注入アンカー16は、上記ライフルを備えた棒状体に代えて、途上に吐出口を備えた管状体として、上記電解液供給管6を接続することにより連通させ、電解液7を吐出口からコンクリートに注入する構造としてもよい。
本発明の各実施形態において適用される放射性コンクリートには、セメントのみならずアスファルトで生成されたものを含むもとのする。
【符号の説明】
【0018】
1 除染装置
2 電源
3 電極マット
4 電極アンカー
5 電解液タンク
6 電解液供給管
7 電解液
8 絶縁ブッシュ
9 電解液浸透補助装置
10 真空釜
10a 車輪
11 ミストトラップ
11a 連通管
13 真空ブロア
14 除染装置
15 吸着アンカー
16 注入アンカー
17 放射性物質吸着剤
C コンクリート
D 放射性コンクリート
d 放射性物質