特許第6797745号(P6797745)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6797745
(24)【登録日】2020年11月20日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】センタ穴決定装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 1/16 20060101AFI20201130BHJP
   F16C 3/08 20060101ALI20201130BHJP
   B23B 35/00 20060101ALN20201130BHJP
【FI】
   G01M1/16
   F16C3/08
   !B23B35/00
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-91936(P2017-91936)
(22)【出願日】2017年5月2日
(65)【公開番号】特開2018-189491(P2018-189491A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2020年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000152675
【氏名又は名称】コマツNTC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】義本 明広
【審査官】 岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/091742(WO,A1)
【文献】 特開平10−009342(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/016988(WO,A1)
【文献】 特開2010−029994(JP,A)
【文献】 特開平09−174382(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/004738(WO,A1)
【文献】 特開2002−168228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 1/00−1/36
F16C 3/08
B23B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カウンタウェイトを少なくとも1つ有する素材クランクシャフトのセンタ穴を決定するためのセンタ穴決定装置であって、
前記カウンタウェイトに対応する正の質点と、前記素材クランクシャフトに設けられる切り欠きに対応する負の質点、及び/又は、前記素材クランクシャフトに取り付けられる重量物に対応する正の質点とに基づいて、前記素材クランクシャフトの慣性主軸を設定する慣性主軸設定部を備える素材クランクシャフトのセンタ穴決定装置。
【請求項2】
前記慣性主軸設定部によって設定された慣性主軸を修正する慣性主軸修正部を備え、
前記慣性主軸修正部は、前記カウンタウェイトの実形状と設計形状とに基づいて求められる前記カウンタウェイトの切削予定領域に対応する負の質点に基づいて、前記慣性主軸設定部によって設定された慣性主軸を修正する、
請求項1に記載の素材クランクシャフトのセンタ穴決定装置。
【請求項3】
前記慣性主軸修正部は、前記切削予定領域に対応する負の質点が加味された前記素材クランクシャフトを、前記慣性主軸設定部によって設定された慣性主軸まわりに回転させたときの回転アンバランス量が小さくなるように、前記慣性主軸設定部によって設定された慣性主軸を修正する、
請求項2に記載の素材クランクシャフトのセンタ穴決定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センタ穴決定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クランクシャフトは、エンジンに組み込まれて使用されるため、回転不釣り合い量があると、エンジン回転時に振動が生じる等の問題が発生する。そのため、クランクシャフトの回転不釣り合い量を抑えることが必要である。
【0003】
クランクシャフトの回転不釣り合い量を抑えるには、加工前の素材クランクシャフトの実形状を正確に把握して完成品状態で最適バランスとなる慣性主軸を算出し、算出された慣性主軸上に素材クランクシャフトの加工基準となるセンタ穴を形成することが重要である。
【0004】
ここで、特許文献1では、素材クランクシャフトの実形状を正確に再現することを目的として、素材クランクシャフトの成型に用いられる上型と下型とのずれによる誤差を補間する手法が提案されている。特許文献1では、カウンタウェイトのうち上型領域と、下型領域と、上型領域と下型領域の間に補間された中間領域とのそれぞれを質点として捉えることによって、素材クランクシャフトの慣性主軸が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−031987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、完成品状態のクランクシャフトでは、オイル孔やキー溝などの切り欠きが設けられる場合がある。また、直列3気筒エンジン用のクランクシャフトのように、クランクシャフト単体ではなく、ピンジャーナルにコンロッドが取り付けられた状態で回転バランスがとれるように設計されているものもある。
【0007】
しかしながら、特許文献1の手法では、カウンタウェイトの各領域のみを質点として捉えて慣性主軸が求められている。そのため、後工程において素材クランクシャフトに切り欠きが設けられる場合や、クランクシャフトに重量物を取り付けなければ回転バランスがとれない場合には、完成品状態のクランクシャフトの慣性主軸が、素材クランクシャフトの慣性主軸からずれてしまう。従って、特許文献1の手法では、クランクシャフトの回転不釣り合い量を抑えるにも限界がある。
【0008】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、クランクシャフトの回転不釣り合い量を抑制可能な素材クランクシャフトのセンタ穴決定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るセンタ穴決定装置は、カウンタウェイトを少なくとも1つ有する素材クランクシャフトのセンタ穴を決定するためのものであって、カウンタウェイトに対応する正の質点と、素材クランクシャフトに設けられる切り欠きに対応する負の質点、及び/又は、素材クランクシャフトに取り付けられる重量物に対応する正の質点とに基づいて、素材クランクシャフトの慣性主軸を設定する慣性主軸設定部を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、クランクシャフトの回転不釣り合い量を抑制可能な素材クランクシャフトのセンタ穴決定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】素材クランクシャフトの一例の側面図。
図2】素材クランクシャフトの加工システムの構成図。
図3】カウンタウェイトの設計形状と実形状とを示す図。
図4】カウンタウェイトの設計形状の実形状へのベストフィットについて説明するための図。
図5】カウンタウェイトの各分割領域の伸縮について説明するための図。
図6】完成品状態のクランクシャフトの一例の外観斜視図。
図7】慣性主軸の修正方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[素材クランクシャフト1]
図1は、素材クランクシャフト1の一例であり、ここでは直列3気筒エンジン用の素材クランクシャフトを示している。この素材クランクシャフト1は、例えば鍛造又は鋳造により成形される。
【0013】
素材クランクシャフト1は、4つのメインジャーナルJ(J1〜J4)と、3つのピンジャーナルP(P1〜P3)と、6つのカウンタウェイトCW(CW1〜CW6)とを有する。素材クランクシャフト1においては、Z軸方向に、メインジャーナルJ1、カウンタウェイトCW1、ピンジャーナルP1、カウンタウェイトCW2、メインジャーナルJ2、カウンタウェイトCW3、ピンジャーナルP2、カウンタウェイトCW4、メインジャーナルJ3、カウンタウェイトCW5、ピンジャーナルP3、カウンタウェイトCW6、メインジャーナルJ4の順に並んでいる。
【0014】
[クランクシャフト加工システム100]
次に、実施形態に係るクランクシャフト加工システム100について、図2を参照しながら説明する。図2(a)は、クランクシャフト加工システム100のハードウエア構成図であり、図2(b)は、センタ穴決定装置20の機能構成図である。
【0015】
クランクシャフト加工システム100は、素材クランクシャフト1の両端面にセンタ穴を加工する加工手段の一例としてのセンタ穴加工機10と、素材クランクシャフト1の両端面に加工されるセンタ穴の位置を決定するセンタ穴決定装置20と、センタ穴が加工された素材クランクシャフトに対して所定の加工を行うクランクシャフト加工機30とを有する。
【0016】
センタ穴加工機10は、素材クランクシャフトの形状を測定するための測定手段の一例としての形状測定機11を備えている。
【0017】
形状測定機11は、例えば、レーザ変位計、赤外線変位計、LED式変位センサ等の非接触変位計、又は、作動トランス等の接触式変位計を有し、変位計からの測定値に基づいて素材クランクシャフト1の形状を測定する。本実施形態において、形状測定機11は、素材クランクシャフト1のうち各カウンタウェイトCWの外形形状のみを測定する。
【0018】
なお、形状測定機11は、測定対象を複数の異なる位置から測定することにより、素材クランクシャフトの形状全体を3次元形状データとして生成する3次元デジタイザ(イメージスキャナ)であってもよい。
【0019】
センタ穴決定装置20は、素材クランクシャフト1の両端面に加工されるセンタ穴の位置を決定するための処理装置である。センタ穴決定装置20は、CPU(Central Processing Unit)21と、ROM(Read Only Memory)22と、RAM(Random Access Memory)23とを有する。
【0020】
ROM22は、CPU21に実行させる各種プログラムや各種情報を記憶する。本実施形態では、ROM22は、後述する素材クランクシャフト1のセンタ穴の位置を決定する処理のプログラムを記憶している。また、ROM22は、素材クランクシャフト1のうち6つのカウンタウェイトCWそれぞれの設計形状を示す設計形状データを記憶している。なお、ROM22は、クランクシャフト加工機30における素材クランクシャフト1の加工内容を記憶していてもよい。
【0021】
RAM23は、プログラムやデータを記憶する領域として、あるいはCPU21による処理に使用しているデータを格納する作業領域として利用される。
【0022】
CPU21が、ROM22に格納されているプログラムをRAM23に読み出して処理を実行することによって、センタ穴決定装置20は、図2(b)に示すように、実形状データ取得部20a、伸縮率算出部20b、補正部20c、慣性主軸設定部20d、慣性主軸修正部20e及びセンタ穴決定部20fとして機能する。
【0023】
[センタ穴決定装置20の機能]
以下、センタ穴決定装置20の機能について説明する。
【0024】
<実形状データ取得部20a>
実形状データ取得部20aは、素材クランクシャフト1のうち6つのカウンタウェイトCWそれぞれの形状を示す実形状データを形状測定機11から取得する。
【0025】
形状測定機11は、各カウンタウェイトCWの形状を測定する。具体的には、形状測定機11は、図3の●で示すように、各カウンタウェイトCWの外周輪郭位置を測定する。これによって、形状測定機11は、各カウンタウェイトCWの2次元の実形状を示す実形状データを生成する。なお、図3では測定位置が模式的に示されており、実際には図3に示される●よりも多くの位置で測定が行われてもよい。
【0026】
なお、各カウンタウェイトCWの形状の測定方法としては、例えば、変位計を固定して、素材クランクシャフト1を回転させながら測定する方法、素材クランクシャフト1を固定して、変位計をその周りに回転させながら測定する方法、或いは、素材クランクシャフト1を上下から挟み込むように配置した変位計を直線移動させながら測定する方法が挙げられるが、これに限られるものではない。
【0027】
<伸縮率算出部20b>
伸縮率算出部20bは、素材クランクシャフト1の各カウンタウェイトCWの設計形状を示す設計形状データをROM22から取得する。伸縮率算出部20bは、各カウンタウェイトCWの実形状を示す実形状データを実形状データ取得部20aから取得する。
【0028】
図3に示すように、実形状の位置及び角度は、設計形状の位置及び角度に対してずれている。図3において、設計形状は実線で示されているが、実際の設計形状は多数の極座標によって示される。極座標の個数は特に制限されないが、例えば、カウンタウェイトCWの中心P1周りに等角度で360個設定することができる。
【0029】
ここで、図3に示すように、設計形状には、カウンタウェイトCWの中心P1周りに複数の分割領域DRが設定されている。各分割領域は、略扇形である。分割領域DRの個数は特に制限されないが、図3では、カウンタウェイトCWの中心P1周りに等角度(11.25度)で32個設定されている。カウンタウェイトCWの中心P1は、平面視したカウンタウェイトCWの幾何中心である。設計形状データには、各分割領域DRの重心Q1(図3では、1つの重心Q1だけ図示)の座標(x、y、z)と、各分割領域Rの体積Vとが含まれている。伸縮率算出部20bは、全ての分割領域DRについて、重心Q1の座標(x、y、z)と体積Vとを紐付けて記憶する。なお、z軸は素材クランクシャフト1の軸方向であり、x軸はz軸に垂直な方向であり、y軸はz軸及びx軸に垂直な方向である。
【0030】
次に、伸縮率算出部20bは、図4に示すように、ベストフィット法を用いて、設計形状を実形状に合うように移動及び/又は回転させることによって、設計形状と実形状との誤差の二乗和が最小になる位置を見つけ出す。そして、伸縮率算出部20bは、ベストフィット前のカウンタウェイトCWの中心P1と、ベストフィット後のカウンタウェイトCWの中心P2とを比較して、x軸方向の位置変位M1、y軸方向の位置変位M2、及び、z軸周りの角度変位M3を算出する。
【0031】
次に、伸縮率算出部20bは、図4に示すように、位置変位M1、位置変位M2及び角度変位M3を用いて、ベストフィット後の各分割領域DRの重心Q2の座標(x’、y’、z)を求める。伸縮率算出部20bは、ベストフィット後の各分割領域DRの重心Q2の座標(x’、y’、z)と体積Vとを紐付けて記憶する。なお、ベストフィット後の各分割領域DRの重心Q2のz座標は、ベストフィット前の各分割領域DRの重心Q1のz座標と同じである。また、ベストフィット後の各分割領域DRの体積Vは、ベストフィット前の各分割領域DRの体積Vと同じである。
【0032】
なお、図4では、重心Q1と重心Q2の位置関係を示すためにベストフィット後の設計形状における1つの分割領域DRのみが図示されているが、ベストフィット後の設計形状においても、図3に示したように32個の分割領域DRが設定されている。
【0033】
次に、伸縮率算出部20bは、図5(a)(b)に示すように、ベストフィット後の分割領域DRと実形状とを比較して、ベストフィット後のカウンタウェイトCWの中心P2を中心とする径方向における両者の誤差値aを求める。そして、伸縮率算出部20bは、図5(c)に示すように、径方向における分割領域DRの全長Sと誤差値aとの和T(=S+a)を求め、さらに、和Tを全長Sで除すことによって伸縮率U(=T/S)を求める。後述するように、伸縮率Uは、各分割領域DRを、径方向において、カウンタウェイトCWの実形状と合うように伸縮させるために用いられる。図5(a)〜(c)に示す例では、実形状のプロットが分割領域DRの径方向外側に位置しているため、伸縮率Uは1よりも大きいが、実形状のプロットが分割領域DRの径方向内側に位置する場合、伸縮率Uは1よりも小さくなる。
【0034】
<補正部20c>
補正部20cは、伸縮率Uに基づいて、ベストフィット後の各分割領域DRの重心Q2の座標(x’、y’、z)を補正する。具体的には、補正部20cは、伸縮後の各分割領域DRの重心Q2の補正座標(x’×U、y’×U、z)を求める。伸縮後の重心Q2のz座標は、伸縮前の重心Q2のz座標と同じである。
【0035】
また、補正部20cは、伸縮率Uに基づいて、ベストフィット後の各分割領域DRの体積Vを補正する。具体的には、補正部20cは、伸縮後の各分割領域DRの補正体積V×Uを求める。本発明において、各分割領域DRの体積Vを補正するとは、各分割領域DRの質量(体積Vと材料密度の乗算値)を補正することと同義である。
【0036】
そして、補正部20cは、補正体積V×UにカウンタウェイトCWの材料密度αを乗算することによって、各分割領域DRの補正質量M(=V×U×α)を求める。
【0037】
このように、伸縮率Uに基づいて分割領域DRのサイズを伸縮(図5(a)〜(c)では伸張)させることによって、分割領域DRを実形状のプロット位置まで全体的に等比伸縮させることができる。このことは、カウンタウェイトCWの設計形状が分割領域DRごとに実形状に合わされることを意味している。従って、カウンタウェイトCWの実形状を容易かつ正確に再現することができる。
【0038】
補正部20cは、1つのカウンタウェイトCWごとに32組の補正座標(x’×U、y’×U、z)と補正質量Mとを求める。従って、補正座標(x’×U、y’×U、z)と補正質量Mとの組み合わせは、1本の素材クランクシャフト1につき32×6=192組(6つのカウンタウェイトCWごとに32組)となる。
【0039】
<慣性主軸設定部20d>
慣性主軸設定部20dは、各カウンタウェイトCWを正の質量を有する質点(以下、「正の質点」という。)に設定し、後工程において素材クランクシャフト1に設けられる孔及び溝を負の質量を有する質点(以下、「負の質点」という。)に設定し、さらに、後工程において各ピンジャーナルPに取り付けられる重量物を正の質点に設定する。そして、慣性主軸設定部20dは、設定した正負の質点に基づいて、素材クランクシャフト1の慣性主軸を設定する。
【0040】
ここで、図6は、完成品状態のクランクシャフト1aの構成を示す側面図である。クランクシャフト1aは、直列3気筒エンジン用のクランクシャフトである。直列3気筒エンジン用のクランクシャフトは、各ピンジャーナルPにコンロッドが取り付けられた状態で回転バランスがとれるように設計されている。すなわち、クランクシャフト1aにおいて、各ピンジャーナルPに取り付けられるコンロッドは、回転バランスをとるための重量物として機能する。
【0041】
図6に示すように、クランクシャフト1aは、3つのオイル孔D(D1〜D3)と、1つのキー溝E1とを有する。各オイル孔D1〜D3とキー溝E1は、素材クランクシャフト1に設けられる「切り欠き」の一例である。オイル孔D1は、メインジャーナルJ1、カウンタウェイトCW1及びピンジャーナルP1を貫通しており、メインジャーナルJ1及びピンジャーナルP1の外周面に開口する。オイル孔D2は、メインジャーナルJ2、カウンタウェイトCW3及びピンジャーナルP2を貫通しており、メインジャーナルJ2及びピンジャーナルP2の外周面に開口する。オイル孔D3は、メインジャーナルJ3、カウンタウェイトCW5及びピンジャーナルP3を貫通しており、メインジャーナルJ3及びピンジャーナルP3の外周面に開口する。キー溝E1は、メインジャーナルJ1の外周面に形成される。キー溝E1は、クランクシャフト加工機30において回転位相を決めるために設けられている。
【0042】
慣性主軸設定部20dは、各オイル孔D1〜D3の位置、各オイル孔D1〜D3の体積、及び素材クランクシャフト1の材料密度に基づいて、各オイル孔D1〜D3の重心座標R1〜R3における負の質量N1〜N3を求める。負の質量N1〜N3は、各オイル孔D1〜D3の体積に材料密度を乗算した値である。
【0043】
慣性主軸設定部20dは、キー溝E1の位置、キー溝E1の体積、及び素材クランクシャフト1の材料密度に基づいて、キー溝E1の重心座標R4における負の質量N4を求める。負の質量N4は、キー溝E1の体積に材料密度を乗算した値である。
【0044】
慣性主軸設定部20dは、各ピンジャーナルP1〜P3の重心座標R5〜R7における正の質量N5〜N7を求める。さらに、慣性主軸設定部20dは、各ピンジャーナルP1〜P3に取り付けられる重量物(コンロッド)の重心座標R8〜R10における正の質量N8〜N10を求める。正の質量N8〜N10は、各コンロッドの質量に応じて予め設定されている。
【0045】
慣性主軸設定部20dは、192(=32×6)個の分割領域DRの正の質点を6つのカウンタウェイトCWの正の質点に設定し、各ピンジャーナルPの重心座標R5〜R7を質量N5〜N7の正の質点に設定し、さらに、各コンロッドの重心座標R8〜R10を質量N8〜N10の正の質点に設定する。また、慣性主軸設定部20dは、各オイル孔D1〜D3の重心座標R1〜R3を質量N1〜N3の負の質点に設定し、かつ、キー溝E1の重心座標R4を質量N4の負の質点に設定する。
【0046】
そして、慣性主軸設定部20dは、カウンタウェイトCWに対応する正の質点と、各オイル孔D1〜D3及びキー溝E1に対応する負の質点と、各ピンジャーナルに対応する正の質点と、重量物に対応する正の質点とに基づいて、慣性主軸周りの慣性乗積が0(ゼロ)であるという条件から3次元の直線方程式を解くことによって、全質点の慣性主軸を求める。
【0047】
このように設定される慣性主軸では、後工程において設けられる切り欠きが負の質点として加味され、かつ、完成状態で各ピンジャーナルPに取り付けられる重量物が正の質点として加味されている。そのため、各カウンタウェイトCWのみを正の質点と捉えて慣性主軸を求める場合に比べて、クランクシャフト1aの慣性主軸を精度良く予測することができる。従って、クランクシャフト1aの慣性主軸が素材クランクシャフト1の慣性主軸からずれることを抑制できるため、クランクシャフト1aの回転不釣り合い量を効果的に抑えることができる。
【0048】
<慣性主軸修正部20e>
素材クランクシャフト1の各カウンタウェイトCWは、クランクケースに収容されたときにクランクケースの内面と干渉しないように、後工程において外周が切削される場合がある。この場合、各カウンタウェイトCWの質量が減少するため、クランクシャフト1aの慣性主軸が、慣性主軸設定部20dによって設定された慣性主軸からずれるおそれがある。そこで、慣性主軸修正部20eは、後工程における各カウンタウェイトCWの外周切削量を予測して、慣性主軸設定部20dによって設定された慣性主軸を修正する。
【0049】
まず、慣性主軸修正部20eは、慣性主軸設定部20dによって設定された慣性主軸を示すx、yの式を取得し、実形状データ取得部20aから実形状データを取得する。そして、慣性主軸修正部20eは、図7に示すように、カウンタウェイトCWの実形状に慣性主軸をプロットする。図7において、慣性主軸は、設計形状の幾何中心からずれているが、設計形状の幾何中心と重なっていてもよい。
【0050】
次に、慣性主軸修正部20eは、慣性主軸設定部20dによって設定された慣性主軸まわりに素材クランクシャフト1を回転させた場合に、カウンタウェイトCWのうちクランクケースの内面と干渉するおそれのある切削予定領域Xを設定する。切削予定領域Xは、カウンタウェイトCWがクランクケースの内面と干渉することを回避するために、後工程において切削する必要のある領域である。慣性主軸修正部20eは、設計形状の幾何中心を、慣性主軸設定部20dによって設定された慣性主軸に合わせたときに、実形状のうち設計形状からはみ出た領域(図7の斜線部)を切削予定領域Xに設定するものとする。
【0051】
次に、慣性主軸修正部20eは、切削予定領域Xの位置、切削予定領域Xの体積、及び素材クランクシャフト1の材料密度に基づいて、切削予定領域Xの重心座標R11における負の質量N11を設定する。負の質量N11は、切削予定領域Xの体積に材料密度を乗算した値である。
【0052】
次に、慣性主軸修正部20eは、慣性主軸設定部20dが設定した正負の質点に加えて、切削予定領域Xを負の質点に設定した状態において、慣性主軸設定部20dによって設定された慣性主軸まわりに素材クランクシャフト1を回転させたときの回転アンバランス量[g・cm]を算出する。
【0053】
回転アンバランス量が所定の閾値以下である場合、慣性主軸修正部20eは、慣性主軸設定部20dによって設定された慣性主軸を、そのままセンタ穴決定部20fに出力する。
【0054】
回転アンバランス量が所定の閾値より大きい場合、慣性主軸修正部20eは、慣性主軸設定部20dによって設定された慣性主軸をセンタ穴決定部20fに出力せず、以下の処理を進める。
【0055】
慣性主軸修正部20eは、回転アンバランス量が所定の閾値より大きかった場合、慣性主軸設定部20dによって設定された慣性主軸を、回転アンバランス量が小さくなる方向にずらした位置に仮の慣性主軸を設定する。
【0056】
次に、慣性主軸修正部20eは、設定した仮の慣性主軸まわりに素材クランクシャフト1を回転させた場合に、カウンタウェイトCWのうちクランクケースの内面と干渉するおそれのある切削予定領域X’を設定しなおす。この切削予定領域X’は、上述した切削予定領域Xと同様に設定することができる。
【0057】
次に、慣性主軸修正部20eは、切削予定領域X’の位置、切削予定領域X’の体積、及び素材クランクシャフト1の材料密度に基づいて、切削予定領域X’の重心座標R11’における負の質量N11’を設定しなおす。
【0058】
次に、慣性主軸修正部20eは、慣性主軸設定部20dが設定した正負の質点に加えて、切削予定領域X’を負の質点に設定した状態において、仮の慣性主軸まわりに素材クランクシャフト1を回転させたときの回転アンバランス量[g・cm]を算出しなおす。
【0059】
回転アンバランス量が所定の閾値以下である場合、慣性主軸修正部20eは、仮の慣性主軸を修正した慣性主軸としてセンタ穴決定部20fに出力する。
【0060】
回転アンバランス量が所定の閾値より大きい場合、慣性主軸修正部20eは、仮の慣性主軸をいったん破棄して、回転アンバランス量が所定の閾値以下になる仮の慣性主軸が見つかるまで、以上の処理を繰り返し行う。その結果、慣性主軸修正部20eは、回転アンバランス量が所定の閾値以下になる仮の慣性主軸が見つかった時点で、その仮の慣性主軸を修正した慣性主軸」としてセンタ穴決定部20fに出力する。
【0061】
<センタ穴決定部20f>
センタ穴決定部20fは、慣性主軸設定部20dによって設定された慣性主軸、又は、慣性主軸修正部20eによって修正された修正後の慣性主軸のいずれかを慣性主軸修正部20eから取得する。センタ穴決定部20fは、慣性主軸修正部20eから取得した慣性主軸のx、yの式に、素材クランクシャフトの軸方向両端面位置のz軸座標を代入することにより、センタ穴位置を求める。
【0062】
このように決定されたセンタ穴位置は、センタ穴加工機10に送られ、素材クランクシャフト1の両端面位置にセンタ穴が加工される。その後、センタ穴が形成された素材クランクシャフト1は、クランクシャフト加工機30において主にジャーナル部の加工が施される。
【0063】
[他の実施形態]
(1)上記実施形態では、直列3気筒エンジン用の素材クランクシャフト1を用いた場合について説明したが、これに限られるものではない。素材クランクシャフトは、直列4気筒エンジン用、直列6気筒エンジン用、V型6気筒エンジン用、或いは、V型8気筒エンジン用などであってもよい。ただし、直列4気筒エンジン用や直列6気筒エンジン用の素材クランクシャフトでは、各ピンジャーナルPに取り付けられるコンロッドを、クランクシャフトの回転バランスをとるためのウェイトとして機能させる必要がない。そのため、直列4気筒エンジン用や直列6気筒エンジン用の素材クランクシャフトの慣性主軸を求める際には、各ピンジャーナルP1〜P3と、各ピンジャーナルP1〜P3に設けられるウェイト(コンロッド)を正の質点として設定する必要はない。
【0064】
(2)上記実施形態において、慣性主軸設定部20dは、各カウンタウェイトCWを1つの正の質点として捉えるのではなく、複数の分割領域DRごとの正の質点の集合体と捉えて、素材クランクシャフト1の慣性主軸を設定することとしたが、これに限られるものではない。慣性主軸設定部20dは、各カウンタウェイトCWを1つの正の質点として捉えてもよいし、複数の分割領域DRとは異なる分け方がなされた正の質点の集合体と捉えてもよい。例えば、慣性主軸設定部20dは、特開2010−031987号公報に記載されているとおり、各カウンタウェイトCWの質点を、上型領域の質点と、下型領域の質点と、上型領域と下型領域の間に補間された中間領域の質点との集合体として捉えてもよい。
【0065】
(3)上記実施形態では、素材クランクシャフト1の慣性主軸を求める際、3つのオイル孔Dと1つのキー溝E1とを負の質点に設定したが、素材クランクシャフト1に他の孔や溝が設けられる場合には、別途、負の質点として設定すればよい。なお、オイル孔及びキー溝の個数は適宜変更可能である。
【0066】
(4)上記実施形態では、クランクシャフト1aに「切り欠き」が設けられるとともに「重量物」が取り付けられることとしたが、いずれか一方のみが設けられてもよい。
【0067】
(5)上記実施形態では、各カウンタウェイトCWを32個の分割領域DRに分割することとしたが、分割領域DRの個数は適宜設定可能であり、また、分割領域DRの個数はカウンタウェイトCWごとに異なっていてもよい。
【0068】
(6)上記実施形態では、各カウンタウェイトCWを等角度の分割領域DRに分割することとしたが、分割領域DRは等角度で設定されていなくてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 素材クランクシャフト
20a 実形状データ取得部
20b 伸縮率算出部
20c 補正部
20d 慣性主軸設定部
20e 慣性主軸修正部
20f センタ穴決定手段
CW カウンタウェイト
P1 ベストフィット前のカウンタウェイトの中心
P2 ベストフィット後のカウンタウェイトの中心
DR 分割領域
Q1 ベストフィット前の分割領域の重心
Q2 ベストフィット後の分割領域の重心
U 伸縮率
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7