(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6797762
(24)【登録日】2020年11月20日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】放射線画像生成装置及び放射線画像生成方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/041 20180101AFI20201130BHJP
【FI】
G01N23/041
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-144988(P2017-144988)
(22)【出願日】2017年7月27日
(65)【公開番号】特開2019-27839(P2019-27839A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年1月9日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 先端計測分析技術・機器開発プログラム 「位相敏感高感度X線非破壊検査機器の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】ヤシ シャルマ
(72)【発明者】
【氏名】百生 敦
(72)【発明者】
【氏名】影山 将史
(72)【発明者】
【氏名】野々口 雅弘
【審査官】
佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2017/033854(WO,A1)
【文献】
特開2017−083411(JP,A)
【文献】
特開2006−003200(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0092914(US,A1)
【文献】
JENSEN,T.H. et al.,Directional x-ray dark-field imaging,Physics in Medicine and Biology,2010年,Vol.55,pp3317-3323,DOI:10.1088/0031-9155/55/12/004
【文献】
YASHIRO, W. et al.,Distribution of unresolvable anisotropic microstructures revealed in visibility-contrast images using x-ray Talbot interferometry,Physical Review. B.,2011年 9月,Vol.84 No.9,pp094106.1-094106.9,URL:https://www.researchgate.net/profile/Wataru_Yashiro/publication/258546127_Distribution_of_unresolvable_anisotropic_microstructures_revealed_in_visibility-contrast_images_using_x-ray_Talbot_interferometry/links/549224750cf2991ff5560a5f/Distribution-of-unresolvable-anisotropic-microstructures-revealed-in-visibility-contrast-images-using-x-ray-Talbot-interferometry.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
・IPC
A61B 6/00−6/14
G01N 23/00−23/2276
・JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線源部から検出部までの経路上に配置された試料と格子群とを透過した放射線についての強度分布画像を用いて、前記試料の異方性を可視化する異方性可視化画像を生成するための装置であって、
画像抽出部と、並進画像処理部と、異方性可視化処理部とを備えており、
前記画像抽出部は、前記経路に交差する方向に延びる並進面に沿って並進しながら、前記並進面に垂直な回転軸を中心として自転している前記試料についての複数の強度分布画像から、前記試料の自転における回転角が同じ複数の強度分布画像の集合を抽出する構成となっており、
前記並進画像処理部は、前記集合に属する前記複数の強度分布画像に基づいて、前記集合ごとに、対応する散乱画像を生成する構成となっており、
前記異方性可視化処理部は、前記集合ごとに生成された前記散乱画像を用いて、前記試料の異方性を表す異方性可視化画像を生成する構成となっている
ことを特徴とする放射線画像生成装置。
【請求項2】
前記並進画像処理部は、画素値演算部と、画像演算部とを備えており、
前記画素値演算部は、前記集合に属する前記複数の強度分布画像を用いて、各強度分布画像上の領域(Ak)に前記試料上の点(p,q)が属するかどうかを判定し、かつ、各領域(Ak)に属する前記点(p,q)における各強度分布画像上での画素値を足し合わせることによって、各領域(Ak)における合計画素値(Jk)を求める構成となっており、
前記画像演算部は、前記領域(Ak)における合計画素値(Jk)を用いて、前記散乱画像を生成する構成となっている
請求項1に記載の放射線画像生成装置。
【請求項3】
さらに領域特定部を備えており、
前記領域特定部は、初期画像演算部と、初期画像判定部と、範囲算出部とを備えており、
前記初期画像演算部は、前記試料なしの状態で、前記線源部と前記格子群と前記検出部との位置関係を少なくとも部分的に変化させながら取得された複数の強度分布画像を用いて、少なくとも微分位相像(φ0)を算出する構成となっており、
前記初期画像判定部は、前記微分位相像における画素値が、前記試料の移動方向において、−π〜+πの値域で連続的に分布しているかどうかを判定する構成となっており、
前記範囲算出部は、前記領域(Ak)を、前記微分位相像における前記画素値が特定の範囲にある画素の集合となるように決める構成となっている
請求項2に記載の放射線画像生成装置。
【請求項4】
医療用途に用いられている
請求項1〜3のいずれか1項に記載の放射線画像生成装置。
【請求項5】
食品、工業部品、又は工業製品の検査用途に用いられている
請求項1〜3のいずれか1項に記載の放射線画像生成装置。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の放射線画像生成装置と、前記線源部と、前記格子群と、前記検出部とを備えており、
前記検出部は、前記経路上に配置された前記試料と前記格子群とを透過した前記放射線についての強度分布画像を取得する構成となっている
放射線検査装置。
【請求項7】
医療用途に用いられている
請求項6に記載の放射線検査装置。
【請求項8】
食品、工業部品、又は工業製品の検査用途に用いられている
請求項6に記載の放射線検査装置。
【請求項9】
線源部から検出部までの経路上に配置された試料と格子群とを透過した放射線についての強度分布画像を用いて、前記試料の異方性を可視化する異方性可視化画像を生成するための方法であって、
前記経路に交差する方向に延びる並進面に沿って並進しながら、前記並進面に垂直な回転軸を中心として自転している前記試料についての複数の強度分布画像から、前記試料の自転における回転角が同じ複数の強度分布画像の集合を抽出するステップと、
前記集合に属する前記複数の強度分布画像に基づいて、前記集合ごとに、対応する散乱画像を生成するステップと、
前記集合ごとに生成された前記散乱画像を用いて、前記試料の異方性を表す異方性可視化画像を生成するステップと
を備えることを特徴とする放射線画像生成方法。
【請求項10】
医療用途に用いられている
請求項9に記載の放射線画像生成方法。
【請求項11】
食品、工業部品、又は工業製品の検査用途に用いられている
請求項9に記載の放射線画像生成方法。
【請求項12】
請求項9に記載の各ステップをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を透過した放射線、例えばX線における波としての性質を利用して試料の内部構造を高感度で観察するための技術に関するものである。特に、本発明は、相対的に視野内を移動する試料の異方的内部構造を高感度で観察するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透過力が高い放射線、例えばX線は、試料内部を透視するためのプローブとして、医用画像診断、非破壊検査、セキュリティチェックなどにおいて、広く利用されている。X線透視画像のコントラストは、X線減衰率の違いによっており、X線を強く吸収する物体はX線の影として描出される。X線吸収能は、原子番号が大きい元素を多く含むほど強くなる。逆に原子番号が小さい元素から成る物質についてはコントラストがつきにくいことも指摘でき、これが従来のX線透視画像の原理的欠点でもある。したがって、生体軟部組織や有機材料などに対しては、十分な感度を得ることができない。
【0003】
一方、X線における波としての性質を利用すれば、一般的な従来のX線透視画像に比べて最高で約3桁の高感度化を実現できる。以降、これをX線位相コントラスト法と称する。この技術を、X線をあまり吸収しない軽元素からなる物質(生体軟部組織や有機材料など)の観察に適用すれば、従来法では難しかった検査が可能となるため、その実用化が期待される。
【0004】
X線位相コントラスト法を利用した高感度撮像法を実現するアプローチとして、透過格子を用いる方法が知られている(下記特許文献1〜4参照)。これは、X線が照射されている透過格子がX線検出器上で形成する強度パターンが、同じX線で照射されている被写体(試料)における僅かなX線の屈折や散乱によって変化する現象を通じ、被写体の構造を表すコントラストを得る方法である。この方法では、従来の透視画像に対応する吸収画像と、被写体によるX線の屈折の大小を示す屈折画像と、被写体による散乱の大小を示す散乱画像とを一般的に生成することができる。使用する透過格子の格子周期が微細な場合は、格子による干渉効果(言い換えれば回折効果)による分数Talbot効果を考慮して、上記強度パターンが強く現れる位置に検出器が配置される。また、上記強度パターンが直接検出器で解像できないほど細かくなる場合は、その位置にもう一枚の透過格子を配置し、モアレを生成させることにより強度パターンの変化を可視化できる。なお、以降、最初の透過格子をG1、第二の透過格子をG2と称する。G1とG2からなる構成はTalbot干渉計と呼ばれる。Talbot干渉計を動作させるには、G1に照射する放射線の空間的可干渉距離が、G1周期と同等かそれ以上であることが望ましい。これは、放射線の波が揃っていることを要求するものであり、たとえばX線では、シンクロトロン放射光やマイクロフォーカスX線源を使うことにより満たされる。特に、マイクロフォーカスX線源は実験室で使用できる線源であるので、実用性を考える際には特筆される点である。しかし、一般的にマイクロフォーカスX線源の出力は限られているので、通常数分から数十分の露光時間が必要となる。一般的に使われているX線源はマイクロフォーカスX線源よりハイパワーであるが、そもそもX線Talbot干渉計を動作させるために必要な空間的可干渉性が望めない。そこで、第3の格子(以降、G0)を一般的なX線源の近傍に配置するTalbot-Lau干渉計が知られている。G0はマルチスリットとして働く。G0における一つのスリットに注目する。ここを通るX線は、下流のTalbot干渉計(G1とG2)を機能させる。すなわち、G0を成す個々のスリットは、仮想的にマイクロフォーカスX線源を作成するものであると解釈できる。G0において、その隣のスリットを通るX線に注目する。これもやはり下流のTalbot干渉計を動作させるが、G1による強度パターンがG2位置で、ちょうど1周期(厳密には1周期の整数倍)だけずれるようにG0の周期を調整できる。こうしてやれば、下流のTalbot干渉計によるモアレ画像を生成したまま、干渉性が殆どない従来の明るいX線源が使え、位相コントラスト撮影の高速化が叶う。したがって、Talbot-Lau干渉計は、複数のTalbot干渉計の重ね合わせと把握することができ、G0は、線源の一部と把握することができる。また、G0とG1のみを線源近くに配置し、G2は省略し、拡大された上記強度パターンを直接検出器で撮影する方式も可能であり、これをLau干渉計と呼んでいる。
【0005】
いずれの構成の場合であっても、記録される強度パターンあるいはモアレ画像を直接利用することは稀であり、記録された画像をコンピュータにより所定の手順で処理し、吸収画像、屈折画像、および、散乱画像などを生成し、利用することができる。従来の技術では、被写体が視野内で静止していることを前提に、縞走査法がこの目的のために使用されている。縞走査法とは、いずれかの格子をその周期方向に並進させ、複数の強度パターンあるいはモアレ画像を撮影し、画像演算を行う方法である。より具体的には、いずれかの格子をその周期dの1/Mだけ並進させて撮影し、これをM回繰り返して得られたM枚の画像を用いて画像演算を行う。Mは3以上の整数である。
【0006】
一回の撮影で吸収画像、屈折画像、および、散乱画像などを生成する方法もある。そのひとつがフーリエ変換法である(下記非特許文献1及び2参照)。この方法では、上記強度パターン、あるいは、回転モアレなどによる細かい縞(キャリアフリンジ)を生成した状態で、計測画像に一旦フーリエ変換を施す。0次回折領域のみを抽出してフーリエ逆変換を行えば吸収画像が得られ、+1次の(あるいは−1次の)回折領域を抽出し、それを原点移動したのちにフーリエ逆変換を行い、さらに、得られた結果の偏角を演算すれば屈折画像が得られ、0次と+1次の(あるいは−1次の)回折領域の比をフーリエ逆変換すれば散乱画像が得られる。縞走査法のように複数枚の画像撮影を必要としないので、撮影の高速化には有利である。ただし、空間分解能はキャリアフリンジの周期で制限されるので、一般的に画質はよくない。強度パターンあるいはモアレ画像のパターンを画像検出器の画素配列に整合させ、フーリエ変換を介さず、通常の縞走査の演算を行う方法も試みられている。たとえば、強度パターンあるいはモアレ画像のパターンの周期をM画素分に一致させておけば、このM画素の値を使って縞走査の演算を行えばよい。最終的に、このM画素は、生成される吸収画像、屈折画像、および、散乱画像の1画素を成す。このM画素に沿った方向の空間分解能はフーリエ変換法と同様に、M画素で1画素を構成する分、低下する。
【0007】
さて、ベルトコンベア上を移動する被写体の非破壊検査や診断、被写体上の広い範囲をスキャンする非破壊検査や診断が要請される場合について考える。格子を並進させて縞走査法を適用する場合では、動いている被写体の撮影を実現するために、目的とする空間分解能に相当する距離だけ被写体が移動する間に縞走査による複数の画像計測を完了する必要がある。したがって、高速撮影が必要となると同時に、格子並進を短時間で繰り返さなければならない。縞走査法を繰り返して動画像を作るときは、格子の面積は有限なので、格子を一方向に並進させればよいのではなく、格子の原点復帰のために往復運動させる必要がある。これが振動を引き起こし、X線透過格子を用いた撮影光学系に悪影響を及ぼすという問題も指摘できる。そこで、格子並進を行わない技術として、下記特許文献5記載の技術が提案されている。この技術では、被写体の進行方向において、格子周期の位相が1/M周期分ずれるようにM個の領域を格子自体のパターンに形成する。被写体上に固定された座標で見れば、被写体が移動することによって、この座標における縞走査法に必要なデータをサンプリングできる。また、格子を傾けて回転モアレを生成し、そこを被写体が移動することによって縞走査法に必要なデータをサンプリングする方法も提案されている(下記特許文献6参照)。しかし、いずれの場合であっても、格子パターンが理想的であって、ひずみがないことを前提としている。
【0008】
ところで、前記した各文献の技術で使用される透過格子としては、一般的に、大面積でかつ高アスペクト比を持つ構造を必要とし、その製作には極めて高度な技術が駆使されている。しかしながら、製作された格子を評価すると、その周期に僅かな不均一性があるのが通常である。もし、理想的に製作された格子を正確に配置したTalbot干渉計(Talbot-Lau干渉計やLau干渉計の場合を含む)であれば、検出器面上において一様なX線強度分布が得られるはずである。ところが、現実には、僅かにモアレ模様が発生する。これは格子周期の不均一性に起因するので、格子配置を調整しても解消できない。このような不均一が発生する原因としては、パターンの描画や転写の段階での不正確さ、あるいは、格子基板の歪みなどが挙げられる。完全な格子とは、数cm角の面積において格子の周期均一性がnmのオーダーで制御されていることを意味し、技術的に極めて困難な課題である。
【0009】
そこで、ベルトコンベア上を移動する被写体について、格子の並進を行わずに、且つ、格子パターンの不完全性を許容したうえで、格子並進による縞走査法と同様の撮影を可能とするために、下記特許文献7に記載の技術が提案されている。この技術では、格子自体の歪やわずかな傾斜を利用して、撮影視野にモアレ縞が生じている状況を作り、そこを移動中の被写体を撮影することによって、縞走査法に必要なデータを取得する方法である。
【0010】
ところで、前記した散乱画像は、被写体に含まれる微小な構造体が極小角X線散乱を引き起こした結果、強度パターンあるいはモアレ縞の鮮明度が低下する現象を画像化するものである。すなわち、散乱画像では、個々の散乱体は解像できないが、その分布密度がコントラストとして現れる。一般的に散乱体が球体であることはまれである。散乱体が繊維のように強い異方性を持ち、かつ、互いに向きを揃えて分布している場合も多い。一方で、前記した撮影方法で使う格子も、微細なすだれ状の構造を有しており、異方的である。すると、異方的散乱体を有する被写体と格子との相対的な位置関係により、散乱画像が変化することになる。そこで、下記非特許文献3に示されるように、被写体を光軸の周りに少し回転しては通常の縞走査を行うというステップを繰り返すことにより、その異方性をベクトル画像として可視化する方法が知られている。
【0011】
さらに、下記非特許文献4では、散乱画像V(x,y,θ)が格子に対する試料の方位θの関数として得られるとき、
【0012】
【0013】
と近似することで、平均鮮明度画像A(x,y)、異方性画像B(x,y)、および、主方位画像γ(x,y)を生成している。方位ごとの散乱画像の生成においては、格子並進による画像計測と縞走査法の演算が使われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開WO2004/058070号公報
【特許文献2】米国特許第5812629号公報
【特許文献3】特開2008−145111号公報
【特許文献4】特開2009−240378号公報
【特許文献5】国際公開WO2015/064723号公報
【特許文献6】特表2013−513413号公報
【特許文献7】特開2017−044603号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】M. Takeda, H. Ina and S. Kobayashi, ”Fourier-transform method of fringe-pattern analysis for computer-based topography and interferometry,” J. Opt. Soc. Am. 72, 156-160 (1982).
【非特許文献2】Atsushi Momose, Wataru Yashiro, Hirohide Maikusa, Yoshihiro Takeda, ”High-speed X-ray phase imaging and X-ray phase tomography with Talbot interferometer and white synchrotron radiation” Opt. Express 17, 12540-12545 (2009)
【非特許文献3】T. H. Jensen et al, "Directional x-ray dark-field imaging" Phys. Med. Biol. 55 (2010) 3317
【非特許文献4】G. Potdevin et al, "X-ray vector radiography for bone micro-architecture diagnostics" Phys. Med. Biol. 57 (2012) 3451
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、前記非特許文献3および4の技術では、被写体の異方性を可視化するために、被写体を光軸の周りに少し回転しては通常の縞走査を行うというステップを繰り返す必要がある。このため、この技術では、被写体の撮影に要する時間が長くなる傾向がある。
【0017】
一方、前記特許文献7の技術によれば、被写体の撮影時間が短くてすむ。しかしながら、この文献は、被写体が並進のみの動作を行う場合について記載されており、非特許文献3、4のように被写体が回転する場合の対応方法は示されていない。
【0018】
本発明は、前記した状況に鑑みてなされたものである。本発明は、異方性を可視化するための画像を、被写体の並進と回転のみの動きから、効率的かつ高速に取得できる技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、以下の項目に記載の発明として表現することができる。
【0020】
(項目1)
線源部から検出部までの経路上に配置された試料と格子群とを透過した放射線についての強度分布画像を用いて、前記試料の異方性を可視化する異方性可視化画像を生成するための装置であって、
画像抽出部と、並進画像処理部と、異方性可視化処理部とを備えており、
前記画像抽出部は、前記経路に交差する方向に延びる並進面に沿って並進しながら、前記並進面に垂直な回転軸を中心として自転している前記試料についての複数の強度分布画像から、前記試料の自転における回転角が同じ複数の強度分布画像の集合を抽出する構成となっており、
前記並進画像処理部は、前記集合に属する前記複数の強度分布画像に基づいて、前記集合ごとに、対応する散乱画像を生成する構成となっており、
前記異方性可視化処理部は、前記集合ごとに生成された前記散乱画像を用いて、前記試料の異方性を表す異方性可視化画像を生成する構成となっている
ことを特徴とする放射線画像生成装置。
【0021】
(項目2)
前記並進画像処理部は、画素値演算部と、画像演算部とを備えており、
前記画素値演算部は、前記集合に属する前記複数の強度分布画像を用いて、各強度分布画像上の領域(Ak)に前記試料上の点(p,q)が属するかどうかを判定し、かつ、各領域(Ak)に属する前記点(p,q)における各強度分布画像上での画素値を足し合わせることによって、各領域(Ak)における合計画素値(Jk)を求める構成となっており、
前記画像演算部は、前記領域(Ak)における合計画素値(Jk)を用いて、前記散乱画像を生成する構成となっている
項目1に記載の放射線画像生成装置。
【0022】
(項目3)
さらに領域特定部を備えており、
前記領域特定部は、初期画像演算部と、初期画像判定部と、範囲算出部とを備えており、
前記初期画像演算部は、前記試料なしの状態で、前記線源部と前記格子群と前記検出部との位置関係を少なくとも部分的に変化させながら取得された複数の強度分布画像を用いて、少なくとも微分位相像(φ
0)を算出する構成となっており、
前記初期画像判定部は、前記微分位相像における画素値が、前記試料の移動方向において、−π〜+πの値域で連続的に分布しているかどうかを判定する構成となっており、
前記範囲算出部は、前記領域(Ak)を、前記微分位相像における前記画素値が特定の範囲にある画素の集合となるように決める構成となっている
項目2に記載の放射線画像生成装置。
【0023】
(項目4)
医療用途に用いられている
項目1〜3のいずれか1項に記載の放射線画像生成装置。
【0024】
(項目5)
食品、工業部品、又は工業製品の検査用途に用いられている
項目1〜3のいずれか1項に記載の放射線画像生成装置。
【0025】
(項目6)
項目1〜3のいずれか1項に記載の放射線画像生成装置と、前記線源部と、前記格子群と、前記検出部とを備えており、
前記検出部は、前記経路上に配置された前記試料と前記格子群とを透過した前記放射線についての強度分布画像を取得する構成となっている
放射線検査装置。
【0026】
(項目7)
医療用途に用いられている
項目6に記載の放射線検査装置。
【0027】
(項目8)
食品、工業部品、又は工業製品の検査用途に用いられている
項目6に記載の放射線検査装置。
【0028】
(項目9)
線源部から検出部までの経路上に配置された試料と格子群とを透過した放射線についての強度分布画像を用いて、前記試料の異方性を可視化する異方性可視化画像を生成するための方法であって、
前記経路に交差する方向に延びる並進面に沿って並進しながら、前記並進面に垂直な回転軸を中心として自転している前記試料についての複数の強度分布画像から、前記試料の自転における回転角が同じ複数の強度分布画像の集合を抽出するステップと、
前記集合に属する前記複数の強度分布画像に基づいて、前記集合ごとに、対応する散乱画像を生成するステップと、
前記集合ごとに生成された前記散乱画像を用いて、前記試料の異方性を表す異方性可視化画像を生成するステップと
を備えることを特徴とする放射線画像生成方法。
【0029】
(項目10)
医療用途に用いられている
項目9に記載の放射線画像生成方法。
【0030】
(項目11)
食品、工業部品、又は工業製品の検査用途に用いられている
項目9に記載の放射線画像生成方法。
【0031】
(項目12)
項目9に記載の各ステップをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【0032】
このコンピュータプログラムは、適宜な記録媒体(例えばCD−ROMやDVDのような光学的な記録媒体、ハードディスクやフレキシブルディスクのような磁気的記録媒体、あるいはMOディスクのような光磁気記録媒体)に格納されることができる。このコンピュータプログラムは、インターネットなどの通信回線を介して伝送されることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、自転しつつ並進する被写体を撮影することによって、格子の並進を行わずに異方性可視化画像を生成できるので、画像生成を効率的かつ高速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の一実施形態に係る放射線画像生成装置を用いた放射線検査装置の概略的なブロック図である。
【
図2】
図1の放射線検査装置の機械的構成要素を示す説明図である。
【
図3】
図1の装置に用いる画像生成部を説明するためのブロック図である。
【
図4】
図1の装置に用いる並進画像処理部を説明するためのブロック図である。
【
図5】
図1の装置に用いる領域特定部を説明するためのブロック図である。
【
図6】
図1の装置を用いた画像生成方法の全体的な手順を示すフローチャートである。
【
図7】
図6の画像生成方法における領域特定方法の手順を示すフローチャートである。
【
図8】格子のゆがみに起因するモアレ縞画像の一例である。図(a)〜(e)は、縞走査法における格子の変位に対応して変化するモアレ縞画像を示す。
【
図9】
図8の画像から算出される微分位相像の一例を示す画像である。
【
図10】
図9の微分位相像から算出される領域分割の一例を示す画像である。
【
図11】
図1の装置を用いた画像生成方法の概略を示すフローチャートである。
【
図12】撮影により取得された動画像を回転角ごとの集合に分類する手順を説明するための説明図である。
【
図13】図(a)、(b)、(e)、(f)は、動画像の一部であるフレーム画像を示しており、図(c)、(g)は、生成された吸収画像を示し、図(d)、(h)は、生成された散乱画像を示す。
【
図14】図(a)は吸収画像、図(b)は異方性画像、図(c)は平均鮮明度画像、図(d)は主方位画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明に係る放射線画像生成装置を用いた放射線検査装置の例を説明する。
【0036】
(本実施形態における放射線検査装置)
以下、添付の図面を参照しながら、本実施形態に係る放射線検査装置の構成を説明する。この放射線検査装置は、試料(被写体)10(
図2参照)として、生体、又は、生体以外の物体のいずれかを対象とするものである。また、この装置は、医療用又は非医療用の用途において用いることができるものである。非医療用の用途としては、例えば、食品、工業部品、あるいは工業製品の検査用途を例示することができるが、これらに制約されるものではない。
【0037】
(放射線検査装置の全体的構成)
本実施形態の放射線検査装置(
図1参照)は、線源部1と、格子群2と、検出部3と、回転機構4と、並進機構5と、画像生成部6とを備えている。さらにこの装置は、制御部7と出力部8とを追加的に備えている。
【0038】
(線源部)
線源部1は、試料10に対する透過性を有する放射線を、格子群2に向けて放射する構成となっている(
図2参照)。具体的には、本実施形態では、線源部1として、X線(すなわち放射線)を発生するX線源が用いられている。線源部1としては、例えば、ターゲットに電子線を照射することによってX線を発生するX線源を用いることができる。線源部1の具体的構成は、既存のX線源と同様とすることができるので、これについてのこれ以上詳しい説明は省略する。
【0039】
(格子群)
格子群2は、この格子群2に向けて照射された放射線が透過可能な1枚又は複数枚の格子を備えている。格子群2は、タルボ干渉計(タルボ・ロー干渉計、ロー干渉計である場合を含む)を構成するために必要な機械的構造及び幾何学的配置についての条件を満たしている。ただし、本実施形態においては、タルボ干渉計を構成する条件は、必要な検査を可能にするために十分な程度に満たされていればよく、数学的に厳密な意味で条件を満足する必要はない。
【0040】
具体的には、本実施形態の格子群2は、格子G0と、格子G1と、格子G2という3枚の格子によって構成されている。格子G0は、タルボ干渉計の一種であるタルボ・ロー干渉計を構成するための格子であって、吸収型格子が用いられる。格子G0により、タルボ・ロー干渉計の構成要素である微小光源アレイ(一つの光源に着目すればタルボ干渉計)が実現される。格子G1としては、通常は位相型格子が用いられるが、吸収型格子とすることも可能である。格子G2としては、吸収型格子が用いられる。なお、格子G2の配置を省略する構成も可能である(ロー干渉計。特開2012−16370号公報参照)。また、格子G1のみにより格子群2を構成し、格子G1を透過した放射線(つまり格子G1の自己像ないし強度パターン)を検出部3により検出する構成も可能である。
【0041】
本例の格子群2では、いずれかの格子において、何らかの歪を有している。ここで歪とは、歪に起因するなんらかのモアレ縞(後述の
図8参照)を生じるような、理想状態からの格子の「ずれ」あるいは「ばらつき」をいうものとする。このような歪は、通常の製造方法では、特段意図しなくとも自然に発生する。もちろん、意図的に歪を持たせるように格子を製造することは可能である。なお、格子G1のみで格子群2を構成したときは、格子の自己像をモアレ像とみなして、本実施形態における処理を行うことができる。
【0042】
上記以外の点における格子G0〜G2の構成は、従来のタルボ干渉計(タルボ・ロー干渉計及びロー干渉計の場合、あるいは格子G1のみで格子群を構成した場合を含む)と同様でよいので、これ以上詳しい説明は省略する。
【0043】
(検出部)
本実施形態の検出部3は、線源部1から検出部3までの経路上に配置された試料10と格子群2とを透過した放射線11についての強度分布画像を取得できる構成となっている。
【0044】
より詳しくは、検出部3は縦横二次元的に画素を並べた構成を持ち、複数の格子G0〜G2を通過して到達する放射線を画素ごとに検出する構成となっている。
【0045】
(回転機構)
回転機構4は、並進機構5における並進面(後述)に垂直な回転軸41(
図2参照)を中心として、試料10を自転させる構成となっている。より具体的には、本実施形態の回転機構4は、
図2中z方向に延長された回転軸41を中心として少なくとも一方向に回転するターンテーブル構造を備えており、その上面に試料10を載置できるようになっている。ここで、回転軸41とは、試料10の回転中心を示す仮想的な軸であればよく、軸部材が実在する必要はない。
【0046】
回転機構4に用いられるターンテーブル構造としては、回転のための機構がX線を遮らないよう、中央部に穴を持つリング状の回転機構を用いるのが好ましい。なお、回転機構4としては、ターンテーブル構造に限らず、試料10を自転させて所望の角度に配置できるもので、放射線を遮らないものであればよい。
【0047】
また、回転機構4としては、試料10に対して装置側(格子群や検出部)が所定の回転軸を中心として回転する構成であってもよい。つまり、この実施形態において回転ないし自転とは、一方に対する他方の相対的な回転運動であればよい。
【0048】
(並進機構)
並進機構5は、線源部1から検出部3に向かう放射線の経路に交差する方向(
図2においてx方向)に延びる並進面51に沿って、回転機構4と共に試料10を並進させる構成となっている。したがって、並進面51は、
図2においてz方向に垂直な面、つまりx−y平面の一部となっている。並進面51は、試料10の並進方向を示すための仮想的なものであってよく、現実にそのような表面が存在する必要はない。
【0049】
また、並進機構5は、この実施形態では、格子G0と格子G1の間の空間であって、放射線が通過する部分を、試料10が通過できるように、この回転機構4を搬送するものである。なお、並進機構5は、格子G1とG2との間に試料10を通過させるものであってもよい。なお、ロー干渉計の構成(特開2012−16370号公報参照)とする場合は、格子G1と検出部3の間において試料10を通過させる。
【0050】
また、試料10を固定とし、放射線源、格子群、及び検出部の全体を試料10に対して並進運動させる構成(線源部を中心として格子群及び検出部が回転運動する場合を含む)も可能である。つまり、この実施形態において並進とは、一方に対する他方の相対的な並進運動であればよい。
【0051】
(画像生成部)
画像生成部6は、画像抽出部61と、並進画像処理部62と、異方性可視化処理部63と、領域特定部64とを備えている(
図3参照)。
【0052】
画像抽出部61は、試料10についての複数の強度分布画像から、試料10の自転における回転角が同じ複数の強度分布画像の集合を抽出する構成となっている。ここで、試料10は、並進機構5により、線源部1から検出部3までの経路に交差する方向に延びる並進面51に沿って並進しており、かつ、回転機構4により、並進面51に垂直な回転軸41を中心として自転している。
【0053】
並進画像処理部62は、回転角が同じ複数の強度分布画像の集合に属する複数の強度分布画像に基づいて、集合ごとに、対応する散乱画像を生成する構成となっている。本実施形態の並進画像処理部62は、画素値演算部621と、画像演算部622とを備えている(
図4参照)。
【0054】
画素値演算部621は、線源部1から検出部3へのX線の経路に交差する方向(
図2の例では図中右方向)に移動する試料10についての複数の強度分布画像を用いて、各強度分布画像上の領域Ak(後述)に試料10に固定された座標点(p,q)(後述)が属するかどうかを判定するものである。さらに、画素値演算部621は、点(p,q)が各領域Akにあるときの各強度分布画像上での画素値を足し合わせることによって、各領域Akに対応する点(p,q)の合計画素値Jk(後述)を求めるものである。
【0055】
画像演算部622は、領域Akに対応する合計画素値Jkを用いて、必要な放射線画像(例えば散乱画像)を生成する構成となっている。
【0056】
異方性可視化処理部63は、集合ごとに生成された散乱画像を用いて、試料10の異方性を表す異方性可視化画像を生成する構成となっている。
【0057】
領域特定部64は、初期画像演算部641と、初期画像判定部642と、範囲算出部643と、画素数算出部644とを備えている。
【0058】
初期画像演算部641は、試料10がない状態で、線源部1と格子群2と検出部3との位置関係を少なくとも部分的に変化させながら取得された複数の強度分布画像を用いて、少なくともラップされた微分位相像(φ0)を算出する構成となっている。ラップされた微分位相像とは、逆正接の演算によって値域が-πから+πとなっている画像である。すなわち、たとえば、本来の値が1.5πである画素値が-0.5πで表示される。
【0059】
初期画像判定部642は、ラップされた微分位相像の画素値が、試料10の移動方向において、-πから+πの値域で連続的に分布しているかどうかを判定する構成となっている。
【0060】
範囲算出部643は、ラップされた微分位相像の画素値が特定の範囲内となる画素の集合である領域(Ak)を決める構成となっている。
【0061】
画素数算出部644は、各領域(Ak)に属する画素数を算出する構成となっている。
【0062】
画像生成部6におけるより詳しい構成は、動作方法の説明として追って記載する。
【0063】
(制御部)
制御部7は、回転機構4及び並進機構5に駆動信号を送り、かつ、画像生成部6に試料10の並進及び回転についての移動速度情報(指示値又は検出値)を送る構成となっている。
【0064】
(出力部)
出力部8は、画像生成部6で生成された画像を出力できる構成となっている。出力部8としては、ユーザに画像を呈示できるディスプレイ、画像を一時的又は永続的に保存できるメモリ手段、その他の適宜な装置を用いることができる。出力部8は、ネットワークを介して画像データを他の装置に伝送する構成であってもよい。
【0065】
(本実施形態の放射線検査装置の動作)
以下、本実施形態の放射線検査装置を用いた画像生成方法を説明する。この方法は、大きく分けて、領域特定段階(
図6のステップSA−1)と、画像生成段階(
図6のステップSA−2)とから構成される。以下、順次説明する。
【0066】
(
図6のステップSA−1…領域特定段階)
以下、
図7を参照しながら説明する。
【0067】
(
図7のステップSB−1)
まず、この段階は、試料10を用いない状態(試料なしの状態)で行われる。したがって、この段階では、回転機構4及び並進機構5を停止させておくことができる。この状態で、従来の縞走査法を行う。すなわち、格子周期をTとすると、距離T×1/M(Mは3以上の自然数)だけ、格子を順次移動させつつ、X線による撮像を行い、検出部3で、複数の強度分布画像を取得する。この画像は、「線源部1と格子群2と検出部3との位置関係を少なくとも部分的に変化させながら取得された複数の強度分布画像」の一例に相当する。このようにして得られた強度分布画像の例を
図8(a)〜(e)に示す。この例ではM=5としている。また、
図8の例では、格子の歪みに由来するモアレ縞が生成されている。
【0068】
(
図7のステップSB−2)
ついで、領域特定部64の初期画像演算部641は、取得された複数の強度分布画像を用いて、初期画像として、少なくとも、ラップされた微分位相像φ
0(x,y)を算出する(
図9参照)。ここで、(x,y)は、検出部3での視野上あるいは画像取込み範囲上の座標を示す。本例の初期画像演算部641は、さらに、吸収像A
0(x,y)と、ビジビリティ像V
0(x,y)とを算出する。
【0069】
(
図7のステップSB−3)
ついで、領域特定部64の初期画像判定部642は、座標(x,y)の各yにおいて、ラップされた微分位相像φ
0(x,y)の値が、試料10の並進方向(
図2の例では図中右方向)において、(−π〜+π)の値域で連続的に分布しているかどうかを判定する。つまり、−π〜+πにわたる連続的な位相変化があるかどうかを判定する。この段階では、試料10は実際には使用されていないので、前記並進方向とは、試料10が並進移動すべき方向という意味である。
【0070】
もし、このステップにおける判定がNoであれば、後述のステップSB−4に進み、Yesであれば後述のステップSB−5に進む。
【0071】
(
図7のステップSB−4)
座標(x,y)の各yにおいて、ラップされた微分位相像φ
0(x,y)の値が、試料10の移動方向において、−π〜+πの値域で連続的に分布していない場合は、格子のアライメントを行う。ここで、格子のアライメントとは、格子における何らかの相対的配置状態の変更を意味し、例えば、格子の傾き、格子間の距離、格子の湾曲などが含まれる。アライメントの作業自体については、作業者が手動で行うこともできるし、何らかの自動化手段により自動的に行うこともできる。その後、前記したステップSB−1に戻り、以降のステップを繰り返す。
【0072】
(
図7のステップSB−5)
ステップSB−4での判断がYesであったとき、範囲算出部643は、ラップされた微分位相像φ
0(x,y)の値に基づいて領域(Ak)を決める。
【0073】
より具体的には、視野領域をn個(ただしnは3以上の整数)に分割するとすると、領域Akは以下の規則により定義できる。なお、k=1,2,…,nである。
【0075】
このようにして分割された領域の例を
図10に示す。この例ではn=6としている。この図においては、同じ領域は同じ濃度で示している。一つの領域Akとは、この例では、飛び地である各領域を併せた部分を意味する。また、視野領域の全ては領域Akにより重なりなく覆われることになる。
【0076】
以上の処理により、強度分布画像を分割すべき領域Akを特定することができる。
【0077】
(
図4のステップSB−6)
ついで、画素数算出部644は、各領域(Ak)における、試料10の並進方向に沿った方向の画素数を算出する構成となっている。すなわち、各yにおいて、x軸方向に沿って数えられる領域Akに属する画素数Nkのテーブルg(y)
g(y) = (N
1(y), N
2(y), …, N
n(y) )
を作る。
【0078】
(
図6のステップSA−2…実際の画像生成段階)
次に、画像生成段階での処理を、
図11をさらに参照しながら説明する。
【0079】
(
図11のステップSC−1)
回転機構4の上部に試料10を載置した状態で、回転機構4により、試料10を、回転軸41を中心として自転させる。一方、並進機構5により、回転機構4と共に、自転している試料10を、並進面51に沿って並進させる。
【0080】
一方、線源部1から検出部3に向けて放射線11を照射する。この状態で、検出部3における視野を横切るように移動する試料10を撮影する。すなわち、検出部3は、線源部1から検出部3までの放射線経路を横切る方向に並進しながら自転する試料10について、複数の強度分布画像(つまり動画像)を取得する。
【0081】
以降の説明のため、試料10の自転における角速度をω、回転軸41の並進速度をv、検出部3の撮影フレームレート(単位時間当たりの撮影回数)をfとする。撮影された動画像(時系列に沿った連続的な強度分布画像)の一連のフレーム画像をI
j(x,y)とする(
図12参照)。jはフレームを順序付ける番号であり、j=1,2,…,Nである。Nは撮影した全フレームの数である。2πf/ω=Zは、試料10が自転により一回転する間に撮影されるフレーム数に相当し、Zが整数となるようにωとfが調整されているとする。
【0082】
(
図11のステップSC−2)
ついで、画像抽出部61は、試料10の自転における回転角が同じ複数の強度分布画像の集合を抽出する。すなわち、
図12に示すフレーム画像I
j(x,y)から、Z枚おきに画像を抜き出す。するとそれらは、試料10が同じ方向を向いた時(つまり同じ回転角の時)のフレーム画像の集合となる。一番目のフレームからZ枚おき、二番目のフレームからZ枚おき、のように抽出することにより、Z個の集合を生成できる。これらの集合をI
k(x,y,θ)と表記することとする。kは集合ごとにフレームを順序付ける番号であり、k=1,2,…,N/Zである。θはそれぞれの集合における試料10の自転による回転角を表し、θ=mod(j,Z)×2π/Zである。
図12は、Z=36とした例を示す。また、
図13には、θ=2π×17/20(
図13(a)及び(b))とθ=2π/10(
図13(e)及び(f))に対応するモアレ動画像のフレームを、2枚ずつ示した。これらの図中においてjはフレーム番号を示す。
【0083】
(
図11のステップSC−3)
図12に示す各集合I
k(x,y,θ)に属するフレーム画像は、回転角θが一定なので、試料10が回転せずに並進のみしている画像として扱うことができる。すなわち、集合単位で、先行文献(前記した特許文献7)に記載の方法を適用できる。
【0084】
まず、並進画像処理部62の画素値演算部621は、複数の強度分布画像(
図12参照)について、前記集合の単位で、試料10上の点(p,q)が領域(Ak)に属する場合の画素値を合計することにより合計画素値(Jk)を求める。
【0085】
この処理は具体的には以下のように実行可能である。すなわち、点(p,q)がある領域Akにあるとき、スタックJk(p,q)にI(p−vt,y,t)/Nk(y)を加算する。これを当該集合中の全ての動画像フレーム(つまり各tに対応するフレーム)について行う。ここで、Nk(y)で割っているのは、画素数に応じて画素値Iの値を正規化(つまり平均化)するためである。
【0086】
より具体的には、前記手順は以下のように記述できる。
【0088】
(
図11のステップSC−4)
ついで、画像演算部622は、合計画素値(Jk)を用いて、各集合に対応して少なくとも散乱画像V(x,y,θ)を生成することができる。散乱画像の生成方法は例えば前記した非特許文献3と同様でよい。
図13には、各回転角θに対応する集合を処理して得られた吸収画像(
図13(c)及び(g))と散乱画像(
図13(d)及び(h))とを示した。
【0089】
(
図11のステップSC−5)
ついで、異方性可視化処理部63は、得られた回転角ごとの散乱画像を用いて、試料10の異方性を示す異方性可視化画像を生成する。この生成手法としては、前記した非特許文献4と同様でよい。
図14には、異方性可視化画像の例として、平均鮮明度画像A(x,y)、異方性画像B(x,y)、および、主方位画像γ(x,y)を生成した例を示す(
図14(b)〜(d))。なお、
図14(a)は、同じ試料についての吸収画像である。この試料は水用ホース片(半割)であり、補強のためにホース壁に入れられている糸が異方性を示している。
【0090】
本実施形態によれば、自転しつつ並進する試料を撮影することにより、格子の並進を行わずに異方性可視化画像を生成できるので、異方性可視化画像を効率的かつ高速に取得できるという利点がある。
【0091】
なお、前記実施形態および実施例の記載は単なる一例に過ぎず、本発明に必須の構成を示したものではない。各部の構成は、本発明の趣旨を達成できるものであれば、上記に限らない。
【0092】
例えば、前記実施形態では、線源部としてX線源を用いたが、試料に対して透過性のある他の放射線、例えば中性子線源を用いることができる。もちろん、この場合、検出部としては、用いる放射線を検出できるものが用いられる。
【0093】
また、前記した実施形態において、「垂直」や「同じ」等の用語は、実用上必要な効果を得られる程度に満足されていればよいことは当然である。
【符号の説明】
【0094】
G0・G1・G2 格子
1 線源部
11 放射線(X線)
2 格子群
3 検出部
4 回転機構
41 回転軸
5 並進機構
51 並進面
6 画像生成部
61 画像抽出部
62 並進画像処理部
621 画素値演算部
622 画像演算部
63 異方性可視化処理部
64 領域特定部
641 初期画像演算部
642 初期画像判定部
643 範囲算出部
644 画素数算出部
7 制御部
8 出力部
10 試料