(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の水晶振動子は、厚肉部と、この厚肉部に接続している傾斜部と、この傾斜部に接続している薄肉部と、を具えたメサ構造のものである。傾斜部は、+X側の傾斜部(特許文献1の
図6(b)の結晶面133)と、−X側の傾斜部(同図の傾斜面23)と2つある。
そして、+X側の傾斜部の傾斜面と、肉厚部の主面の法線との成す角度は、約27°と記載されている(特許文献1の段落57第4〜5行)。従って、+X側の傾斜部は薄肉部に向かって約63°の角度で傾斜している。また、−X側の傾斜部の結晶面と、肉厚部の主面の法線との成す角度は、約55°と記載されている(特許文献1の段落55第2〜3行)。従って、−X側の傾斜部は薄肉部に向かって約35°の角度で傾斜している。また、特許文献1の場合、その
図8に記載されているように、厚肉部を形成する専用の耐エッチング性マスクを用いている。
この従来技術に対し、厚肉部と薄肉部との接続部分の他の好ましい構造が望まれる。また、厚肉部を形成する専用の耐エッチング性マスクを省略できる製法が望まれる。
この出願はこのような点に鑑みなされたものであり、従って、この出願の目的はCI改善が図れる新規なメサ構造を持つ水晶振動子とその製造に好適な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的の達成を図るため、この出願の水晶振動子の発明によれば、平面形状が長方形状で一部分が厚肉部となっているATカット水晶片を具える水晶振動子において、
前記水晶片は、その短辺の中央付近で長辺方向に沿って切った断面を見たとき、一方の短辺側から、第1端部、第1凹部、前記厚肉部、第2凹部及び第2端部をこの順に具え、
前記第1凹部は、前記厚肉部から第1端部側に所定角度θaで下っていてその後登って前記第1端部と接続している凹部であり、
前記第2凹部は、前記厚肉部から第2端部側に所定角度θbで下っていてその後登って前記第2端部と接続している凹部であること
を特徴とする。
【0007】
また、この出願の水晶振動子の製造方法の発明によれば、平面形状が長方形状で一部分が厚肉部となっているATカット水晶片を具える水晶振動子であって、前記水晶片を、その短辺の中央付近で長辺方向に沿って切った断面を見たとき、一方の短辺側から、第1端部、第1凹部、前記厚肉部、第2凹部及び第2端部をこの順に具え、前記第1凹部は、前記厚肉部から第1端部側に所定角度θaで下っていてその後登って前記第1端部と接続している凹部であり、前記第2凹部は、前記厚肉部から第2端部側に所定角度θbで下っていてその後登って前記第2端部と接続している凹部である水晶振動子を製造するに当たり、
前記水晶片を多数製造するための水晶ウエハを用意する工程と、
前記水晶ウエハの表裏に、前記水晶片の外形を形成するための耐ウエットエッチング性マスクであって、前記第1凹部及び第2凹部それぞれと対応する領域内の一部には、前記水晶ウエハを貫通しないが、前記水晶ウエハを所望量エッチングできる程度にウエットエッチング液が侵入できる開口を持つ耐ウエットエッチング性マスクを形成する工程と、
前記耐ウエットエッチング性マスクを形成した水晶ウエハを、ウエットエッチング液に所定時間浸漬する工程と、
を含むことを特徴とする。
なお、この出願でいう水晶振動子とは、一般的な水晶振動子、発振回路と共にパッケージに実装されて水晶発振器を構成する水晶振動子、及び、サーミスタやPNダイオード等の各種の温度センサ付きの水晶振動子等も含む。
【発明の効果】
【0008】
この発明の水晶振動子によれば、厚肉部から水晶片の長辺方向に沿う両側各々に、凹部を持つ水晶振動子が得られる。凹部であるので、厚肉部から水晶片の端部に向かって水晶片の厚みが一度薄くなりその後厚くなる新規なメサ構造が得られる。このようなメサ構造は、単なるメサ構造に比べ、厚肉部への振動の閉じ込めが良好に行われると考えられる。このため、水晶振動子の特性改善が図れると考えられる。
また、この発明の水晶振動子の製造方法によれば、水晶片の外形加工用のマスクに所定の開口を設けることで、水晶片の外形加工の際に第1凹部と第2凹部の加工を同時に行える。従って、厚肉部形成用の専用のマスクを用いることなく、目的の厚肉部を持つ水晶振動子を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照してこの発明の水晶振動子及び水晶振動子の製造方法の実施形態について説明する。なお、説明に用いる各図はこれらの発明を理解できる程度に概略的に示してあるにすぎない。また、説明に用いる各図において、同様な構成成分については同一の番号を付して示し、その説明を省略する場合もある。また、以下の説明中で述べる形状、寸法、材質等はこの発明の範囲内の好適例に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0011】
1. 水晶振動子の説明
1−1.構造
先ず、
図1、
図2を参照して、実施形態の水晶振動子に具わるATカット水晶片10について説明する。なお、
図1(A)は水晶片10の平面図、
図1(B)は
図1(A)中のP−P線に沿った水晶片10の断面図、
図1(C)は
図1(A)中のQ−Q線に沿った水晶片10の断面図である。なお、
図1(B)では、この発明の特徴である第1端部10a、第1凹部10b、第2凹部10c及び第2端部10dを理解し易くするため、これらの部分を拡大して示すと共に、紙面の都合から厚肉部10eについては水晶片10の長辺方向に沿う領域を一部省略して示してある。また、
図2(A)は、
図1(C)の拡大図、
図2(B)は
図2(A)中のN部分を拡大して示した図である。
【0012】
また、
図1(A)中に示した座標軸X,Y′、Z′は、それぞれATカット水晶片10での水晶の結晶軸を示す。なお、ATカット水晶片自体の詳細は、例えば、文献:「水晶デバイスの解説と応用」。日本水晶デバイス工業会2002年3月第4版第7頁等に記載されているので、ここではその説明を省略する。
【0013】
この実施形態の水晶片10は、平面形状が長方形状で、一部分が厚肉部10eとされ、所定の方向角の水晶片から形成され、その長辺が水晶のX軸に平行であり、その短辺が水晶のZ′軸に平行なATカットの水晶片である。
然も、この水晶片10は、その短辺の中央付近で長辺方向に沿って切った断面(すなわちP−Pに沿って切った断面)を見たとき、一方の短辺側(
図1の例の場合、+X側短辺)から、第1端部10a、第1凹部10b、前記厚肉部10e、第2凹部10c及び第2端部10dをこの順に具える。
然も、特に
図1(B)に示したように、第1凹部10bは、厚肉部10eから第1端部10a側に所定角度θaで下っていてその後登って、更にこの例の場合は少し下りまた登って第1端部10aと接続している凹部である。
また、第2凹部10cは、厚肉部10eから第2端部10d側に所定角度θbで下っていてその後θbより緩い角度で下った後に登って第2端部10dと接続している凹部である。
ここで、角度θaは、厚肉部10eの主面と、第1凹部10bの厚肉部側の斜面との成す角度であり、具体的には4〜8°、典型的には約6°である。また、角度θbは、厚肉部10eの主面と、第2凹部10cの厚肉部側の斜面との成す角度であり、具体的には14〜18°、典型的には約16°である。これら角度θa、θbは、多少のバラツキを示すが、この出願に係る発明者のこれまでの実験によれば、上記の通り、角度θaは6±2°、角度θbは16±2°を示すことが分かっている。
また、
図1(B)に示したように、第1端部10aは、4つの面で構成され、+X方向に向かって凸状の形状を持つ構造となっており、また、第2の端部10dは、4つの面で構成され、−X方向に向かって凸状の形状を持つ構造となっている。
【0014】
ここで、水晶片10の長辺寸法及び短辺寸法、並びに、第1端部10a、第1凹部10b、第2凹部10c、第2端部10d及び厚肉部10e各々の、水晶片10の長辺方向に沿う寸法は、水晶振動子に要求される仕様に応じ任意の寸法とすることが出来る。
この実施形態の水晶片10の場合、第1端部10a、第1凹部10b、第2凹部10c及び第2端部10d各々の、水晶片10の長辺方向に沿う寸法は、上記の記述順で言って、約50μm、約180μm、約80μm、約40μmとしてある。従って、第1凹部10bの寸法は、第2凹部10cの寸法の2倍以上長い。
【0015】
また、この水晶片10の場合、そのZ′軸と交差する側面(Z′面)各々は、特に
図2(B)に示したように、第1の面10f,第2の面10gおよび第3の面10hの、3つの面で構成された側面としてある。しかも、第1の面10fは、この水晶片10の主面10iと交わっている面であり、然も、主面10iを水晶のX軸を回転軸としてθ1回転させた面に相当する面である。
【0016】
さらに、この水晶片10では、第1の面10f、第2の面10gおよび第3の面10hがこの順で交わっている。しかも、第2の面10gは、主面10iを水晶のX軸を回転軸としてθ2回転させた面に相当する面であり、第3の面10hは、主面10iを水晶のX軸を回転軸としてθ3回転させた面に相当する面である。これらの角度θ1、θ2、θ3は、この出願人に係る実験から、下記が好ましいことが分かっている。θ1=4°±3.5°、θ2=−57°±5°、θ3=−42°±5°、より好ましくは、θ1=4°±3°、θ2=−57°±3°、θ3=−42°±3°である。なお、θ1〜θ3に関しては、この出願人に係る、特開2016−197778号公報に記載されているので、ここではその説明は省略する。
Z′軸と交差する側面(Z′面)を上記のように所定の3つの面で構成すると短辺方向での不要振動の抑制が図れ、好ましい。
【0017】
また、この水晶片10は、厚肉部10eの表裏面上に、又は、そこを含む更に広い所定領域に、励振用電極11を具え、更に、この励振用電極11から水晶片の1つの短辺側に引き出された引出電極13を具える。励振用電極11及び引出電極13各々は、典型的には、クロム及び金の積層膜により構成できる。
このように形成した水晶片10を、
図3に示したように、例えば周知のセラミックパッケージ15内に、引出電極13の位置で、例えばシリコーン系の導電性接着剤17により実装し、さらに、このセラミックパッケージを所定の蓋部材(図示せず)によって真空封止又は不活性ガス雰囲気等の封止状態で封止することで、実施形態の水晶振動子を構成できる。なお、水晶片10の固定位置を詳述すると、水晶片10は、その第1端部10a付近で、セラミックパッケージ15の接着パッド15aに、導電性接着剤17により固定されている。
【0018】
1−2.実験結果
上述した水晶片10であって、発振周波数を所定の周波数とした水晶片10を、多数個試作した。そして、それらを用い上述した実装構造及び封止構造による実施例の水晶振動子を形成した。
一方、比較例の水晶片20として、
図4に
図1(B)と同様の断面図で示すように、実施例では設けていた第1凹部10b、第2凹部10cは設けない構造の、水晶片20を、多数個試作した。そして、それらを用い上述した実装構造及び封止構造による比較例の水晶振動子を形成した。
【0019】
次に、これら実施例及び比較例の水晶振動子40個ずつに対し、−40〜+100℃の温度範囲での周波数温度特性及びCI(クリスタルインピーダンス)温度特性をそれぞれ測定した。ここで、CI温度特性とは、測定温度に対するCIの変動具合を示す特性であり、温度に対するCI変動が小さい程、水晶振動子としての特性が良いことになる。また、CI温度特性とは別に、CI自体も小さい程、水晶振動子としての特性が良いことになる。
そこで、この発明の構造の良否を判断するため、先ず、実施例及び比較例各々の水晶振動子40個ずつの25°の温度におけるCIの平均値と標準偏差σとを表1に示した。なお、表1では、実施例の水晶振動子での結果を1と表し、これを基準として比較例の値を正規化した値で示してある。表1から、実施例に対し比較例は平均値で1.23倍悪く、σで1.76倍悪いことから、実施例の構造が優れていることが分かる。
【0020】
次に、CIの温度特性におけるCIの変動量ΔCIについて、実施例及び比較例の結果を比較する。なお、
図5はこのΔCIの理解を深めるための説明図である。実施例及び比較例の水晶振動子合計80個各々の温度特性において、CIの最大値CImaxとCIの最小値CIminとの差の絶対値をΔCIとしてそれぞれ求める。そして、実施例及び比較例の40個ずつのΔCIの平均値と標準偏差σとを表2に示した。表2から、実施例に対し比較例は平均値で2倍悪く、σで1.26倍悪いことから、実施例の構造が優れていることが分かる。
【0021】
2. 製造方法の説明
次に、水晶振動子の製造方法の実施形態について、
図6〜
図8を参照して説明する。
実施形態の水晶片10は、フォトリソグラフィ技術およびウエットエッチング技術により水晶ウエハから多数製造できる。そのため、以下の製法例の説明で用いる図の一部では、水晶ウエハ10wの平面図と、その一部分Mを拡大した平面図を示してある。さらに、製法例の説明で用いる図の一部の図では水晶片10の断面図も併用している。いずれの断面図も、対応する平面図中の、R−R線、又は、S−S線、又は、T−T線に沿った断面を示してある。
【0022】
先ず、水晶ウエハ10wを用意する(
図6(A))。ATカット水晶片10の発振周波数は、周知の通り、水晶片10の主面(X−Z′面)部分の厚みでほぼ決まるが、用意する水晶ウエハ10wは、最終的な水晶片10の厚さより厚いウエハとする。
【0023】
次に、この水晶ウエハ10wの表裏両面に、水晶片の外形を形成するための耐ウエットエッチング性マスク40を周知の成膜技術及びフォトリソグラフィ技術により形成する。この実施形態の場合の耐ウエットエッチング性マスク40は、水晶片の外形に対応する部分、各水晶片を保持するフレーム部分、及び、水晶片とフレーム部分とを連結する連結部で構成したものとしてある。ただし、この発明では、前述した第1凹部及び第2凹部それぞれと対応する領域内の一部に、水晶ウエハを貫通しないが、水晶ウエハを所望量エッチングできる程度にウエットエッチング液が侵入できる開口40aを持つ耐ウエットエッチング性マスクを形成する。具体的には、例えば、クロム膜と金膜との積層膜で構成した耐ウエットエッチング性マスク40であって、上記所定部分はこの金属膜が除去されて開口40aとされているマスク40を形成する。
【0024】
この開口40aの、水晶片10の長辺方向に沿う寸法は、上述の通り、水晶ウエハを貫通しないが、水晶ウエハを所望量エッチングできる程度にウエットエッチング液が侵入できる寸法であり、典型的には、数μm、例えば2μmである。ただし、この値は水晶ウエハ10wの厚さや、第1凹部や第2凹部の深さ及び広さ等に応じて変更できる。また、この開口40aの、水晶片10の短辺方向に沿う寸法は、水晶片の幅寸法と同じ程度の寸法とするのが良い。ただし、この寸法も水晶ウエハ10wの厚さや、第1凹部や第2凹部の広さに応じて幅広にも幅狭にも変更できる。また、
図6の例では、開口40aの数は水晶片の両端領域に各々1個ずつとしているが、これに限られず、複数個設けても良く、一方の領域には1個、他方の領域には複数個設けても良い。また、
図6の例では、開口の平面形状を極めて細長い長方形状としているが、この形の変更もできる。
【0025】
次に、耐ウエットエッチング性マスク40を形成した水晶ウエハを、ウエットエッチング液に所定時間浸漬する。エッチング液としては、フッ酸系エッチャントを用いる。所定時間とは、水晶片10の外形輪郭が得られるよう水晶ウエハ10wを貫通できる時間+αの時間である。
このエッチングにおいては、水晶ウエハの、水晶片10の形成予定領域の周囲の開口はエッチング液が良く侵入拡散するため、エッチングが進み水晶ウエハ自体を十分に貫通する。一方、開口40aの部分は開口寸法が狭いため、ウエットエッチング液は開口40a下の水晶ウエハ部分に少しずつ侵入するため、水晶ウエハを貫通するには至らず、開口40aの領域とその周囲のマスク下の水晶ウエハ部分がエッチングされる。
図7は上記の外形エッチングを終えた試料の様子を示したものであって、耐ウエットエッチング性マスク40のうちのフレーム部分以外は除去した状態を示した図である。第1端部、第1凹部、厚肉部、第2凹部、第2端部各々の完成前の中間体の状態を持った水晶ウエハが得られている。
【0026】
次に、この中間体状態の水晶ウエハ10wを、フッ酸を主とするエッチング液中に、再度、所定の時間浸漬する。ここで、所定の時間とは、水晶片10の肉厚部10e形成予定領域の厚みがこの水晶片10に要求される発振周波数の仕様を満たすことができる時間であって、かつ、水晶片10のZ′軸と交差する側面に第1〜第3の面10f〜10hが形成できる時間である。このエッチングが済むと、
図8に示したように、第1端部10a、第1凹部10b、厚肉部10e、第2凹部10d及び第2端部10dを具えた水晶片10の主要部が完成する。
【0027】
次に、上記のエッチングが終了した水晶ウエハから、耐エッチングマスクの残存部分も除去して、水晶面全てを露出する(図示せず)。その後、この水晶ウエハ全面に、周知の成膜方法により、水晶振動子の励振用電極および引出電極形成用の金属膜(図示せず)を形成する。次に、この金属膜を、周知のフォトリソグラフィ技術およびメタルエッチング技術により、加工して、
図1に示した水晶片10を多数有する水晶ウエハが完成する。
【0028】
次に、水晶ウエハ10wの各水晶片の連結部に適当な外力を加えて、水晶片10を水晶ウエハ10wから分離し、個片化する。このように形成した水晶片を上述したように容器に実装し、封止することで、
図3に示したような実施形態の水晶振動子を得ることができる。
上述した製造方法では、耐ウエットエッチング性マスク40に所定の開口40aを設けて外形エッチングを行うため、外形エッチングの際にメサ構造も並行して形成できる。従って、メサ構造形成用の専用マスクを用いずにかつ新規なメサ構造を形成できる。