(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
免疫グロブリンを含む医薬組成物の免疫原性を低減するために、ヘキサン二酸もしくはその少なくとも1種の塩、および、クエン酸もしくはその少なくとも1種の塩を使用する方法であって、
前記方法は、以下のステップを含む:
(1)ヘキサン二酸もしくはその少なくとも1種の塩、および、クエン酸もしくはその少なくとも1種の塩を含む、緩衝液を提供すること、
ここで、クエン酸もしくはその少なくとも1種の塩は、上記医薬組成物における最終濃度が1.3mM以下になるように含まれ、および、
(2)前記緩衝液を、少なくとも1つの免疫グロブリンと接触させること。
【背景技術】
【0002】
分子の大きさなどの複数の理由から、現代の薬剤の多く、例えば生物製剤(biopharmaceuticals)は経口投与に適していない。代わりに、皮下(s.c.)や筋肉内(i.m.)などの血管外の場所へ注入するか、または静脈(i.v.)などの血管系へ直接注入することで侵襲的に注入する必要がある。これらの選択肢の中では通常、皮下経路が最も好ましい。その主な理由の1つとして患者による自己投与ができるということが挙げられ、このことは長期にわたる治療において特に重要となる。加えて、静脈内投与に比べて侵襲性が低いため、意図せず衛生状態が低い環境で注入してしまった場合でも、通常、付随するリスクが低い。皮下投与が望ましくはあるが、皮下腔内からの再吸収はごく部分的であり、一般的に、生物学的利用率が低いと投与量を増やす必要があり、治療費の高騰につながる。
【0003】
制御および知覚の機能に加えて、皮膚の最も重要な機能は保護である。皮膚は力学的負荷に対するバリアとして作用し、また、皮膚が損傷した際に感染/炎症のリスクが増加することから分かるように、皮膚は最前線のバリアとして個体を微生物から保護している。力学的機能のみでは不十分なため、pHや、いくつかの部位ではプロテアーゼが、病原体に対する補助的な化学防御機能として作用する。高性能な防御機能の一つとして、免疫系による強力な組織の監視があることも重要である。病原体を生理学的に発見することが望ましいが、ほとんどの場合、病原体などの免疫系によって生物製剤が処理されることは望ましくない。したがって、製品の投与量が増えることによる費用の上昇、ならびにこのクラスの製品の製造および開発にかかる多大な労力に起因する費用の上昇に加えて、免疫系による強力な監視は、望ましくない免疫原性という生物製剤の皮下投与に関わる二番目に重大な欠点をもたらしている。そのような望ましくない免疫原性によって、効力の低下や血中排出率の上昇を招いたり、あるいは命を脅かす可能性があるアナフィラキシー反応を引き起こしたりするなど、非常に多くの影響が生じる可能性がある。効力の低下は長期経過後に発見される場合もあるため、価格が高いこのクラスの製品によって医療制度が不要な費用を被る場合もある。患者および医療従事者の視点からは最も好ましいが、生物学的利用率の限界と免疫原性などのリスクが組み合わさって、大きな課題となっている。
【0004】
免疫原性の発現に関する患者に付随するリスク要因(例えば遺伝的素因など)についてはあまり分かっておらず、そのため、制御することも難しい。製品に付随するリスク要因の制御や最適化によってのみ患者は生物工学製品などの現代の治療の恩恵を十分に享受することができる。従って、それらは特に、他の治療手段がすべて失敗した場合にのみ処方され、また、高い費用の対価として処方されることもある。
【0005】
免疫系に認識される可能性がある薬剤はたいてい、免疫応答(後に続く抗体の形成も含む)が起こらなかった場合にのみ十分に効果的で安全であるため、このような状況における望ましい調節とは、ほとんどの場合、免疫原性の低減を目的とすることを意味する。一方で、対象とする標的を排除または不活化するために、好適な免疫応答を起こさせることを特に目的とする治療もある。それぞれの標的は、認識され、中和されるべき異種タンパク質である可能性がある。
【0006】
これら全ての場合において、薬剤によって生じる対象とする免疫応答をさらに増強することが望ましいかもしれず、そのような場合、投与溶液中に、または先行する製造段階にクエン酸が存在することがこの点で有益になりうる。
【0007】
例えば、抗TNFアルファ(抗TNFα)抗体であるアダリムマブの製剤として使用され、緩衝物質としてリン酸ならびにクエン酸を含んでいるヒュミラ(登録商標)などの最新技術の製剤は、投与の認容性、バイオ医薬品の安定性、および品質保持期間に関する要求を満たしている。
【0008】
しかし前記製剤にはいくつかの短所がある。そのような短所の1つが、多くの生物製剤皮下投与の際、前述したような望ましくない免疫原性を誘発するということである。その抗原特性により、分析では検出することが難しいその他のタンパク質様混入物も人体内で免疫応答を引き起こす可能性がある。さらに、動物由来のタンパク質も通常その種特異的な特性から、人体内で免疫応答を引き起こす可能性がある。最新技術による製造方法ではそのような反応が起こるリスクはすでに低くなっているが、特にそのような薬剤を常用すると、時間経過とともにリスクが蓄積する可能性もある。
【0009】
このことは、静脈内投与に比べて血流による除去や分散がかなり遅い皮下投与の場合に特に懸念される。したがって望ましい製剤は、薬剤によって誘発される免疫原性の低減および費用対効果が高い薬物の提供に寄与し、あるいは予防的もしくは治療的介入としての意図的な反応である場合には薬剤によって誘発される免疫原性の増強に寄与する。
【0010】
本発明の根底にある課題は、現在までに知られている投与形態に関連した、前述したような短所を示さない低い免疫原性を目的とするバイオ医薬品のための製剤形態を提供すること、または必要に応じて免疫応答(immune reaction)を増強するバイオ医薬品のための製剤形態を提供することである。そのような製剤形態は、患者または訓練された医療関係者による自己投与に特に好適であり、また、医療状況に応じて免疫原性を低減するまたは増強する能力、および/またはそれと同時に、注入による薬剤の(自己)投与にしばしば付随する注入部位の皮膚に生じる望ましくない刺激および/または疼痛を防止する能力を特徴とする。
【0011】
したがって、非経口、特に皮下の投与/注入に好適な医薬製剤を提供することが必要とされている。
【0012】
この課題は請求項において特徴付けられる態様によって解決される。本発明の方法は、本明細書に記載されるように、バイオ医薬品の免疫原性を低減したり増強したりする製剤の調製に有益である。本発明はヘキサン二酸および/または好適なレベルのクエン酸を含む適切な製剤を選ぶことによって免疫応答の調節が可能であるという驚くべき発見に基づいている。これは免疫系に認識される可能性がある薬剤に特に望ましい。これによって本発明の製剤は、家庭用などのすぐ使用できるシリンジおよびそれを備えたキットでの使用に好適で有用となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1の側面において本発明は、バイオ医薬品を含む医薬製剤の調整方法であって、そのバイオ医薬品の投与に関連した免疫応答を調節可能な方法を提供する。前記方法は、
(i)・ヘキサン二酸もしくはその少なくとも1種の塩、および/または
・クエン酸もしくはその少なくとも1種の塩
を含む緩衝液を提供する工程、
(ii)前記緩衝液をバイオ医薬品と接触させる工程、
(iii)前記製剤を必要に応じて凍結乾燥させる工程、および
(iv)(ii)の製剤もしくは懸濁液および/または(iii)の凍結乾燥された製剤を得る工程、を含む。
【0015】
ヘキサン二酸はカルボン酸化合物で、アジピン酸、1,4−ブタンジカルボン酸、1,6−ヘキサン二酸、アシフロクチン、アシネッテン、アジピニック酸(adipinic acid)、オクタフルオロヘキサン二酸または溶融アジピン酸とも呼ばれる。アジピン酸の分子式はC
6H
10O
4で、分子量は146.1g/molである。本明細書において「アジピン酸」および「ヘキサン二酸」という用語は同義で使用される。
【0016】
本発明の別の側面では、ヘキサン二酸もしくはその少なくとも1種の塩および/またはクエン酸もしくはその少なくとも1種の塩の使用方法であって、バイオ医薬品を含む医薬製剤の免疫原性を調節可能にする方法を提供する。
【0017】
本発明の別の側面では、バイオ医薬品の投与に関連した免疫応答を調節可能な医薬製剤を提供する。前記製剤は、バイオ医薬品、および
・ヘキサン二酸もしくはその少なくとも1種の塩、および/または
・クエン酸もしくはその少なくとも1種の塩、
または前述の方法によって得ることができる製剤、を含む。
【0018】
本発明によれば「医薬製剤」という用語は、患者への投与に適しており、治療効果および/または診断効果を発揮する薬剤を含むあらゆる製剤に関する。そのような「医薬製剤」は好ましくは薬剤送達製剤である。
【0019】
本発明のさらに別の側面では、医薬製剤の投与に関係した免疫応答の調節方法を提供する。前記方法は、前記製剤中に含まれる緩衝液中で、
・ヘキサン二酸もしくはその少なくとも1種の塩、および/または
・クエン酸もしくはその少なくとも1種の塩
の濃度を適合させる工程を含む。
【0020】
本明細書で使用する場合「免疫原性」および/または「免疫原性の」および/または「免疫原性の発現率」という用語は、分子が対象に注入された時に、この分子に対する抗体形成など、意図してまたは意図せずにこの分子が免疫系(後続反応を含む)に認識される可能性、つまり対象の免疫系に影響を及ぼす反応を引き起こす/誘発する可能性の観点から理解されるものとする。
【0021】
本明細書で使用する場合「免疫応答の調節」という用語は、所与の製剤の投与に関係した免疫原性を増強するまたは低減することと理解される。多くの場合、患者の服薬率を上げ、かつ、有害な副作用を減らすために免疫原性を低減することが望ましいが、免疫原性を増強することが望ましい場合もあり得る。
【0022】
本明細書で使用する場合「低い免疫原性」という用語は、例えば患者に皮下注入した時に、本質的に免疫原性ではないとされる参照分子によって誘発される免疫応答よりも実質的に強くない免疫応答を引き起こす/誘発する生物製剤の分子を少なくとも1つ含むよう設計された製剤を指す。
【0023】
本明細書で使用する場合「バイオ医薬品」という用語は、生物または生物工学原料由来のあらゆる治療用分子または診断用分子、または前記原料由来の製品に相当するように化学的に合成された治療用分子または診断用分子、例えばタンパク質、ペプチド、核酸、免疫グロブリン、多糖類、細胞製品、植物抽出物、動物抽出物、組換えタンパク質またはそれらの組み合わせなどを含むものとする。一般にバイオ医薬品とは、生物製剤の活性成分である。「薬」および「化合物」という用語は本明細書において同義で使用され、疾患症状、肉体的または精神的状態、外傷または感染の診断、予防または治療に使用される薬剤および/または医薬品を意味する意図で使用される。
【0024】
「生物学的利用率」という用語は、投与後に、生理活性部位において薬剤または他の物質が吸収されるまたは有効になる度合いまたは割合を指す。高分子の生物学的利用率は当該分野で知られているインビボ薬物動態法によってアッセイすることができる。
【0025】
免疫原性の評価に適したアッセイは当該分野でよく知られており、抗薬物抗体(ADA)の測定に使用される定性的または半定量的結合アッセイ、中和アッセイ、および確認アッセイ(免疫アッセイならびに免疫クロマトグラフィーアッセイ)などを含む。この他のアッセイとしては、全抗体測定のための定性アッセイ(スクリーニングおよび力価測定)、およびELISA、ECL、RIAおよびフローサイトメトリー法(高い薬剤耐性に関する酸解離「AD」、固相抽出法「SPEAD」および「BEAD」アッセイを含む)を使用した確認アッセイ(特異性)が挙げられる。中和抗体を検出するための細胞アッセイや大分子の毒物動態解析もよく知られている。
【0026】
「対象」、「個体」、「動物」、「患者」、または「哺乳類」という用語は、診断、予後、予防、または治療が望まれるあらゆる対象、特に哺乳類対象を意味する。治療を目的とする「哺乳類」は哺乳類に分類されるあらゆる動物を指しヒトや、イヌ、ウマ、ネコ、ウシなどの飼育動物や家畜、動物園の動物、競技用動物、または愛玩動物などが含まれるがこれらには限定されない。哺乳類はヒトであることが好ましい。
【0027】
本発明の範囲において実施される実験の過程で、驚くことに、ヘキサン二酸緩衝製剤がウサギに皮下注入した際に良好な許容性/適合性を有し、投与から一週間後のクリアランスが市販薬剤および標準製剤に比べて低いという有利な特性を有することが分かった。したがって実施例1および2に示すように、製剤または塗布液に含まれるヘキサン二酸を適した濃度にすることが免疫原性に影響を与える可能性がある。これは免疫系に認識される可能性がある薬剤に特に望ましい。
【0028】
構造的特徴(配列の違いおよびグリコシル化)、貯蔵状態(酸化による変性または凝集)、調製中の汚染物質または不純物の混入、投与量および治療期間、ならびに投与経路、適正な製剤および患者の遺伝的特徴などの多くの要因が、バイオ医薬品を含む医薬製剤の免疫原性に影響を及ぼす。それらの臨床症状はこれまでに概要を示したとおりである。
【0029】
実験の項で概要を示すように、発明者らは驚くことにヘキサン二酸を含む製剤はウサギの皮下に注入にした際に、クエン酸を含む製剤を注入した場合と比べて免疫応答が少ないことを発見した。同時に発明者らは驚くことに、より少ない量のクエン酸もしくはその塩を含む製剤、または本質的にクエン酸もしくはその塩を含まない製剤はウサギに皮下注入にした際に低い免疫応答を示すことを発見した。一般に有機酸のような小分子は免疫応答を全く引き起こさないため、後者の結果は特に興味深い。理論には拘束されないが、発明者らは、クエン酸またはその塩が免疫原性それ自体になりうるまたは免疫応答の発生の一因となる可能性があると仮定した。
【0030】
したがって、医薬品をヘキサン二酸緩衝液中で調製すると、例えばクエン酸緩衝液中で調製した場合に比べて刺激または免疫応答が抑えられると慎重に予想される。同時に、より少ない量のクエン酸またはその塩を含む緩衝液、または本質的にクエン酸またはその塩を含まない緩衝液中で医薬品を調製すると、例えばクエン酸緩衝液中で調製した場合に比べて刺激または免疫応答が抑えられると慎重に予想される。本発明はこれらの驚くべき発見を初めて開示するものであり、これらを適用することで製剤化を介し、免疫系に認識される薬剤の免疫原性を、生物学的利用率に影響を及ぼさずに変化させる、低減する、最小限に抑えるおよび/または調節できるようになる。
【0031】
さらに、好適な高濃度のクエン酸を含む緩衝液中でバイオ医薬品を調製すると、所望の免疫応答をさらに増強することができると慎重に予想される。
【0032】
本発明の方法および製剤は当業者に知られているように変更することができるが、一般的には、下記の手法によって行われるだろう。まず、抗体またはタンパク質のような精製されたバイオ医薬品を得る。このときこの精製されたバイオ医薬品は、バイオ医薬品が安定するpHが5〜8の溶媒、例えば水、好ましくはNaCl、ツイーン80などの好適な緩衝剤(buffer expedients)または当該分野でよく知られているその他の緩衝剤を追加した溶媒中に、所望の濃度で溶解している。本発明による医薬製剤は、治療効果を発揮するのに有効な量のバイオ医薬品を含んでいる。
【0033】
次の工程では、以下で詳細に説明するように前記バイオ医薬品は少なくともヘキサン二酸もしくはその少なくとも1種の塩を含む好適な濃度の緩衝液に溶解され、製剤の形成またはバイオ医薬品の懸濁が可能になる。本発明による液体製剤の調製では、緩衝物質は遊離酸の形態で提供されることが好ましい。溶液は、例えばアルカリ性水酸化物、アルカリ土類水酸化物または水酸化アンモニウムなどの塩基を加えることで所望のpH値に調製する。このとき、ナトリウム水酸化物を使用することが好ましい。
【0034】
通常、バイオ医薬品の製剤は溶剤として注入するために、1種以上の緩衝剤、等張化剤および水を含む。また、例えば凍結保護剤のような安定剤が加えられることも多い。さらに、1種以上の金属キレート剤および界面活性剤も加えることができる。一部の糖または糖アルコールが凍結保護剤としてもかつ等張化剤としても作用する可能性があるように、一部の薬剤は二つの役割を果たす場合がある。
【0035】
当業者には理解されるように、1種以上のさらなる好適な酸を加えて、好適な量の製剤を生産することができる。特に好ましくはモノカルボン酸もしくはジカルボン酸、またはその塩であり、
・酢酸または酢酸塩、
・グルタミン酸またはグルタミン酸塩、
・リンゴ酸またはリンゴ酸塩、
・クエン酸および/またはクエン酸塩、
・リン酸および/またはリン酸塩、
・酒石酸または酒石酸塩、および/または
・コハク酸またはコハク酸塩、
からなる群から選択されるうちの少なくとも1つである。
【0036】
本発明において「好適な酸」という用語は「好適な量」において、つまり調整された製剤の最終濃度において免疫原性にならない酸に関する用語であることを当業者は理解されよう。したがって、免疫系に認識される、つまり免疫原性であるおよび/または対象/患者において免疫応答を誘発するということが知られている特定の酸は、免疫原性を低減するための本発明の製剤の調製に好適であるとはみなされない。
【0037】
安定剤、界面活性剤、等張化剤、金属イオンキレート剤などのさらなる添加剤を製剤および/または懸濁液に加えることができる。それらの添加剤は所望の用途に好適であり、当業者によく知られている。本明細書で使用する場合「安定剤」という用語は、特に凍結中および/または凍結乾燥中および/または貯蔵中にバイオ医薬品の構造的完全性を維持する効果がある薬剤を指す。そのような薬剤は本発明では「抗凍結剤」または「凍結保護物質」とも呼ばれる。
【0038】
本発明による方法の任意の工程として、得られた製剤および/または懸濁液を、当業者によく知られている標準的な技術を使用して凍結乾燥することができる。本発明の好ましい態様において前記製剤は、
a)水性形態、
b)凍結乾燥形態、および/または
c)懸濁液、
からなる群から選択される形態である。
【0039】
前記製剤は水性形態の場合すぐに投与可能であるが、凍結乾燥形態の場合は、例えば注入用の水を加えることによって液体に変えてから投与する必要がある。このような注入用の水は、ベンジルアルコールなどの保存剤、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンC、レチニルパルミテート、およびセレンなどの酸化防止剤、アミノ酸(システインおよびメチオニン)、クエン酸およびナトリウムクエン酸塩、パラベン(メチルパラベンやプロピルパラベン)などの合成保存剤を含んでいてもまたは含んでいなくてもよい。
【0040】
最後に、得られた製剤、懸濁液および/または凍結乾燥製剤は、例えば長期貯蔵のために保存剤を加えるなどの加工をしたり、所望される投与に好適な容器に充填したりすることができる。そのため、本発明の方法によって得られた製剤は治療薬および/または診断薬の非経口投与に有用である。非経口投与は筋肉内投与または皮下投与であってよく、皮下投与が特に好ましい。
【0041】
本発明による製剤は特に、経口送達(ロタウイルスの経口送達を除く)、ならびに非経口送達経路、例えば、これらには限定されないが、非経口投与、局所投与、肺送達用に設計される。
【0042】
したがって、本発明の好ましい態様は前述のおよび以下に詳述する医薬製剤および/または方法に関し、ここでこの製剤は非経口投与用の剤形をしている、つまり非経口投与向けに設計されている。
【0043】
好ましくは、本発明による製剤においてヘキサン二酸は唯一のカルボン酸または塩として使用され、または唯一の主な緩衝剤としても使用される。
【0044】
特に好ましくは、製剤は、
・酢酸または酢酸塩、
・グルタミン酸またはグルタミン酸塩、
・リンゴ酸またはリンゴ酸塩、
・リン酸および/またはリン酸、
・酒石酸または酒石酸塩、および/または
・コハク酸またはコハク酸塩、
からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる緩衝化合物、または対象へ注入すると免疫原性を誘発するまたは免疫原性を増強することが知られているその他の物質(expedient)を実質的に含まなくてもよい。
【0045】
好ましい態様によれば、本発明による方法または製剤によって、その投与に関連する免疫応答が低減する。好ましい態様においてそのような免疫応答の低減はとりわけ、製剤中のクエン酸およびその塩の含有量を減らす、またはそれらを実質的に含まないようにすることで達成できる。好ましくは、そのような製剤は代わりにヘキサン二酸を含む。
【0046】
本明細書で使用する場合「より少ないクエン酸含有量」という用語は、製剤が好ましくは0.01、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.2または1.3mMを超えるクエン酸およびその塩を含まないことを意味する。
【0047】
この濃度範囲には、クエン酸およびその塩(例えばクエン酸ナトリウム)の累積濃度も含まれ得る。クエン酸が水和物(例えば、一水和物)として提供される場合、それに応じて濃度を修正する必要がある。
【0048】
本明細書で使用する場合「実質的にクエン酸を含まない」という用語は、クエン酸またはその塩を意図的に組成物に加えないことを意味する。したがって意図的でない混入の産物としてのクエン酸またはその塩の総量は0.05%未満、好ましくは0.01%未満である。製剤工学で使用される標準的な分析方法によってクエン酸またはその塩が検知されない組成物が最も好ましい。
【0049】
本発明による製剤におけるヘキサン二酸の濃度は1mM以上〜100mM以下であることが特に好ましく、好ましくは2mM以上〜50mM以下、さらにより好ましくは5mM以上〜25mM以下、最も好ましくは23mMである。本発明に従って、また、製剤の用途および治療を受ける患者に応じて1mM〜100mMの間に入る各数値が使用できると理解される。
【0050】
さらに好ましくは、医薬製剤はヘキサン二酸に加えてリン酸、好ましくはリン酸ナトリウム(本明細書では「NaP」とも呼ぶ)を含んでもよい。「リン酸ナトリウム」という用語はリン酸二水素ナトリウムおよびリン酸水素二ナトリウム、および考えうる全てのその塩および/または水和物を含むと理解されたい。
【0051】
別の好ましい態様によると、本発明による方法または製剤によって、その投与に関連した免疫応答が増強される。好ましい態様においてそのような免疫応答の増強はとりわけ、クエン酸およびその塩を含む製剤によって達成できる。
【0052】
これは好ましくは、クエン酸またはその塩が組成物に意図的に加えられていることを意味する。しかしながら、この態様には、意図的に加えていないクエン酸が存在する製剤も包含される。
【0053】
製剤は、好ましくは、1.30、1.40、1.50、1.60、1.70、1.80、1.90、2.00、2.10、2.20、2.30、2.40、2.50、2.60、2.70、2.80、2.90、3.00、3.10、3.20、3.30、3.40、3.50、3.60、3.70、3.80、3.90、4.00、4.10、4.20、4.30、4.40、4.50、4.60、4.70、4.80、4.90、5.00、5.10、5.20、5.30、5.40、5.50、5.60、5.70、5.80、5.90、6.00、6.10、6.20、6.30、6.40、6.50、6.60、6.70、6.80、6.90、7.00、7.10、7.20、7.30、7.40、7.50、7.60、7.70、7.80、7.90、8.00、8.10、8.20、8.30、8.40、8.50、8.60、8.70、8.80、8.90、9.00、9.10、9.20、9.30、9.40、9.50、9.60、9.70、9.80、9.90、または10.00mMを超えるクエン酸およびその塩を含む。
【0054】
この濃度範囲には、クエン酸およびその塩(例えばクエン酸ナトリウム)の累積濃度も含まれ得る。クエン酸が水和物(例えば、一水和物)として提供される場合、それに応じてそれぞれの濃度を修正する必要がある。
【0055】
前記水性形態の医薬製剤のpHは、好ましくは3以上〜9以下、好ましくは4以上〜8以下、より好ましくは5以上〜7以下である。
【0056】
本発明のさらに別の好ましい態様において製剤は、アミノ酸、糖ポリオール、二糖類および/または多糖類からなる群から選択される少なくとも1種の安定剤をさらに含む。
【0057】
好ましくは、前記二糖類はショ糖、トレハロース、麦芽糖および/または乳糖からなる群から選択される少なくとも1種の薬剤である。
【0058】
同様に好ましくは、前記糖ポリオールはマンニトールおよび/またはソルビトールからなる群から選択される少なくとも1種の薬剤である。中でも、マンニトールが特に好ましい糖ポリオールである。好ましくは、本発明による医薬製剤においてマンニトールが唯一の糖ポリオールまたはさらに唯一の安定剤として使用される。
【0059】
特に好ましくは、前記安定剤は水性形態の医薬製剤に1mM以上〜300mM以下、好ましくは2mM以上〜200mM以下、およびより好ましくは5mM以上〜150mM以下の濃度で含まれる。
【0060】
本発明のさらに別の好ましい態様によると前記製剤は、
・界面活性剤、
・等張化剤、および/または
・金属イオンキレート剤
からなる群から選択される少なくとも1種の薬剤をさらに含む。
【0061】
前記界面活性剤は構成成分の水和性を高め、溶解度を維持する。バイオ医薬品は高い濃度(例えば、1〜10ml中に100mgを超える濃度)で製剤化されることが多いため、これは特に重要である。
【0062】
好適な界面活性剤としては例えば、レシチンや、ポリソルベート(「ツイーン」)またはポロキサマーのような他の非イオン性界面活性剤が挙げられる。特に好ましい界面活性剤はポリソルベート80(「ツイーン80」)またはポロキサマー188である。
【0063】
前記等張化剤は本発明による製剤の浸透圧を生理学的に許容可能な値、例えば血液のモル浸透圧濃度に設定するのに役立つ。
【0064】
等張化剤は生理学的に許容可能な化合物であり特に限定されない。等張化剤の一般例としては例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムなどの無機塩類が挙げられる。これらは単独でもしくは混合して使用できる。
【0065】
前記金属イオンキレート剤は、本発明による製剤に含まれるバイオ医薬品を不活化する可能性がある重金属の錯体形成に役立つ。好ましくは、前記金属イオンキレート剤はEDTAおよび/またはEGTAである。
【0066】
クエン酸は多量に皮下注入すると免疫原性に影響を与える可能性があるという証拠が増えてきており、その免疫原性はクエン酸で緩衝した組成物に含まれる医薬品の排出を誘導するおよび/または高めることがあるが、活性化状態で体内に存在する必要がある医薬品については、不要な排出を避けることが望ましい。
【0067】
実施例2ならびに
図3および表4に概要を示すように、クエン酸を含まないアジピン酸緩衝型アダリムマブ含有製剤を皮下注入で使用すると、驚いたことに、免疫応答がごく低くなる免疫応答。その結果、アジピン酸で緩衝された製剤によって生じる免疫応答が非常に低くなるため、この製剤は皮下注入に特に優れている。
【0068】
したがって、さらに別の好ましい態様にでは、前記製剤は非経口投与に適した製剤であり、好ましくは筋肉内投与および/または皮下投与に適した製剤である。製剤が皮下投与向けに設計されることが特に好ましい。
【0069】
本発明の好ましい態様において前記製剤は、凝集、防御能力および熱力学的安定性などの安定性の点で、製剤に含まれるバイオ医薬品の構造的完全性を維持するのに適している。
【0070】
以下の表では、キメラ、ヒト化またはヒト抗体(IgG型)を含む製剤を示す。これらの製剤は、例えば譲受人によって出願された国際公開第2012/089778号(その内容は参照することにより明らかに本明細書に組み込まれる)に開示されているように、リン酸塩/クエン酸塩系を含んでいる対象の緩衝液より優れた凝集挙動を示す。
【0072】
タンパク質の安定性を測定するための分析技術は当該分野で利用可能であり、例えば、ペプチドおよびタンパク質薬剤送達、247〜301(ヴィンセント リー編、ニューヨーク市、ニューヨーク州、1991)およびジョーンズ、1993 最新の薬剤送達レビュー(Adv. Drug Delivery Rev.)10:29〜90に概説されている。安定性は、本明細書の実施例で例示するように、選択した温度で選択した期間かけて測定することができる。製剤が安定した状態で貯蔵される期間(つまり品質保持期間)は好ましくは少なくとも6ヶ月間、より好ましくは12ヶ月間、より好ましくは12〜18ヶ月間、およびより好ましくは2年間以上である。
【0073】
本発明の別の好ましい態様では、前記バイオ医薬品はタンパク質である。前記タンパク質は天然に存在するタンパク質、修飾型タンパク質(つまり、その天然の対応物を修飾したタンパク質であり、足場または鋳型とも呼ばれるタンパク質)、または完全に合成されたタンパク質(つまり、天然の対応物を持たないタンパク質)であってよい。
【0074】
前記タンパク質は天然に存在する生物から分離して得るか、または培養された生物を発酵させて得ることもできる。さらに前記タンパク質は、生物から得たタンパク質に相同のまたは異種のタンパク質であってもよい。さらに前記タンパク質は組換えタンパク質であってもよい。
【0075】
特に好ましい態様では、バイオ医薬品は免疫グロブリンであり、好ましくはIgGである。
【0076】
タンパク質および/または免疫グロブリンは、水性形態の医薬製剤中に、0.1mg/ml以上500mg/ml以下の濃度で含まれることが好ましく、20mg/ml以上200mg/ml以下であることが好ましい。
【0077】
「免疫グロブリン」という用語は、これらには限定されないが、抗体および抗体断片(scFv、Fab、Fc、F(ab’)2など)、ならびに抗体の遺伝子改変されたその他の部分を含むものとする。免疫グロブリンはその重鎖定常ドメインのアミノ酸配列によって、異なるクラスに割り当てられる。免疫グロブリンには主に、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMの5つのクラスがある。これらのうちいくつかはさらに、例えばIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4、IgA1およびIgA2のようなサブクラス(アイソタイプ)に分けられることもある。前記免疫グロブリンの重鎖定常ドメインは対応するクラスによって、それぞれ、アルファ(α)、デルタ(δ)、イプシロン(ε)、ガンマ(γ)、およびミュー(π)と呼ばれる。免疫グロブリンの各クラスのサブユニット構造および三次元構造はよく知られている。
【0078】
本発明において前記免疫グロブリンは、
(i)ハイブリドーマ由来抗体、
(ii)キメラ化抗体、
(iii)ヒト化抗体、および/または
(iv)ヒト抗体
からなる群から選択される少なくとも1種の抗体またはその断片もしくは誘導体であることが特に好ましい。
【0079】
前記免疫グロブリンは、モノクローナル抗体またはその断片もしくは誘導体であることが特に好ましい。
【0080】
本明細書で使用する場合「モノクローナル抗体(mAb)」という用語は、相同の抗体集団、つまり免疫グロブリン全体またはその断片もしくは誘導体からなる相同の集団の抗体組成物を指すものとする。そのような抗体が、IgG、IgD、IgE、IgAおよび/またはIgM、またはその断片もしくは誘導体からなる群から選択されることが特に好ましい。
【0081】
本明細書で使用する場合「断片」という用語は、場合により、例えば
・相補性決定領域(CDR)
・高頻度可変領域、
・可変ドメイン(Fv)、
・IgG重鎖(VH、CH1、ヒンジ、CH2およびCH3領域からなる)
・IgG軽鎖(VLおよびCL領域からなる)、および/または
・Fabおよび/またはF(ab)
2
などの標的結合能力を保持している、そのような抗体の断片を指すものとする。
【0082】
本明細書で使用する場合「誘導体」という用語は、一般的な抗体の概念、例えばscFv、Fabおよび/またはF(ab)
2、ならびに二重、三重、またはそれ以上の特異性を有する抗体構築物と構造的に異なるが、それでもなお、これらといくらかの構造的な関係を有するタンパク質および/または免疫グロブリン構築物を指すものとする。これらの要素はすべて以降で説明する。
【0083】
当業者に知られている他の抗体誘導体は、二重特異性抗体、ラクダ化抗体、ドメイン抗体、scFvおよびIgA(2つのIgG構造がJ鎖および分泌因子でつながれている)からなる二本の鎖を有する二価のホモ二量体、サメ抗体、新世界霊長類フレームワークと非新世界霊長類CDRからなる抗体、CH3+VL+VHを含む二量体化構築物、および抗体抱合体(例えば、毒素、サイトカイン、放射性同位元素または標識に連結させた抗体、断片もしくは誘導体)である。
【0084】
キメラ、ヒト化および/またはヒトmAbの生産方法および/または選抜方法は当該分野で知られている。例えば、ジェネンテック社による米国特許第6331415号にはキメラ抗体の生産について記載されており、医学実験局(Medical Research Council;MRC)による米国特許第6548640号にはCDR接木技術について記載されており、セルテック社による米国特許第5859205号にはヒト化抗体の生産が記載されている。インビトロ抗体ライブラリーについては、他にもあるが特に、モーフォシス社(MorphoSys)による米国特許第6300064号およびMRC/スクリプス/ストラタジーン社による米国特許第6248516号に開示されている。ファージディスプレイ技術は例えば、ダイアックス社による米国特許第5223409号に開示されている。トランスジェニック哺乳類のプラットフォームは例えばタコニックアルテミス社による米国特許第2003/02048621号に記載されている。
【0085】
IgG、scFv、Fabおよび/またはF(ab)
2は当業者によく知られた抗体型である。これらを実現するための関連技術はそれぞれの教本から入手できる。
【0086】
本明細書で使用する場合「Fab」という用語は、抗原結合領域を含むIgG断片に関し、前記断片は抗体の重鎖および軽鎖それぞれに由来する1つの定常ドメインと1つの可変ドメインから構成される。
【0087】
本明細書で使用する場合「F(ab)
2」という用語は、ジスルフィド結合によって互いに結合した2つのFab断片からなるIgG断片に関する。
【0088】
本明細書で使用する場合「scFv」という用語は、免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の可変領域が融合している一本鎖の可変断片に関し、この融合体は通常、セリン(S)またはグリシン(G)の短いリンカーで連結されている。このキメラ分子は定常領域を除去しリンカーペプチドを導入したにもかかわらず、元の免疫グロブリンの特異性を保持している。
【0089】
改変した抗体型とは、例えば、二重または三重特異性抗体構築物、抗体を基にした融合タンパク質、免疫抱合体などである。
【0090】
本発明の別の好ましい態様では、前記抗体またはその断片もしくは誘導体は抗TNFα抗体である。
【0091】
抗TNFα抗体の一例が、国際出願されている国際公開第2012/089778号に記載の配列表により定義されている。その配列表では、配列番号1がIgG重鎖をコードしている核酸配列を、配列番号2がIgG軽鎖をコードしている核酸配列を、配列番号3および4がそれぞれ重鎖および軽鎖のアミノ酸配列を定義している。
【0092】
配列番号5、7、および9は軽鎖の相補性決定領域(CDR)(つまり、LC CDR3、LC CDR2、およびLC CDR1)のアミノ酸配列を定義している。配列番号6、8、および10は重鎖の相補性決定領域(つまり、HC CDR3、HC CDR2、およびHC CDR1)のアミノ酸配列を定義している。
【0093】
配列番号1および2またはその一部は、
・配列番号1および2がコードするものと同じタンパク質またはタンパク鎖をコードするが、遺伝子コードの縮重として許容可能なヌクレオチドの置換を有する核酸配列、
・配列番号1および2によってコードされるタンパク質またはタンパク鎖の一部、変異体、ホモログもしくは誘導体をコードする配列、
・所与の発現宿主に対して最適化されたコードである核酸配列、および/または
・配列番号1または2のいずれかと少なくとも70%、好ましくは95%の配列同一性を有する核酸分子、
によって相同的に置き換えられることを理解されたい。
【0094】
特に好ましい態様では、本発明の方法によって得られる医薬製剤または製剤は、(i)配列番号1および/または配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列、および/または(ii)アダリムマブのCDR領域のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を有するCDR領域、を含む抗体を含む。
【0095】
一態様において本発明の抗体は、アダリムマブとして知られている抗体分子の重鎖または軽鎖CDRを少なくとも1つ含む。別の態様において本発明の抗体は、1種以上の抗体分子に由来する少なくとも2つのCDRを含む。別の態様において本発明の抗体は、1種以上の抗体分子に由来する少なくとも3つのCDRを含む。別の態様において本発明の抗体は、1種以上の抗体分子に由来する少なくとも4つのCDRを含む。別の態様において本発明の抗体は、1種以上の抗体分子に由来する少なくとも5つのCDRを含む。別の態様において本発明の抗体は、1種以上の抗体分子に由来する少なくとも6つのCDRを含む。
【0096】
別の態様では、本発明の方法によって得られる医薬製剤または製剤は、配列番号1および/または配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、または95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む抗体を含む。特に前記抗体は、免疫グロブリンの軽鎖および/または重鎖の可変領域(V
Lおよび/またはV
H)を含むか、本質的にそれらからなるか、あるいはそれらからなり、ここで、軽鎖可変領域のV
L−CDRの少なくとも1つまたは軽鎖可変領域のV
L−CDRの少なくとも2つが、配列番号1〜10に記載する、抗体由来の基準となる軽鎖V
L−CDR1、V
L−CDR2もしくはV
L−CDR3および/またはV
H−CDR4、V
H−CDR5もしくはVH−CDR6のアミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、または95%同一である。
【0097】
配列番号3〜10またはその一部は、1つ以上の保存的アミノ酸置換、つまりタンパク質の特性(標的結合親和性、免疫原性、ADCC反応、血清半減期、溶解度など)に有意に影響しない1つ以上の置換を有するアミノ酸配列によって相同的に置き換えられることを理解されたい。
【0098】
他の好ましい抗体は、前述のタンパク質のいずれかを含むがそれに限定されないタンパク質またはその組み合わせ、および/または下記の抗原のいずれかを認識する抗体である:CD2、CD3、CD4、CD8、CD11a、CD14、CD18、CD20、CD22、CD23、CD25、CD33、CD40、CD44、CD52、CD80(B7.1)、CD86(B7.2)、CD147、IL−la、IL−1、IL−2、IL−3、IL−7、IL−4、IL−5、IL−8、IL−10、IL−2受容体、IL−4受容体、IL−6受容体、IL−13受容体、IL−18受容体サブユニット、PDGF−β、およびそれらの類似物、PLGF、VEGF、TGF、TGF−β2、TGF−p1、EGF受容体、PLGF受容体、VEGF受容体、肝細胞増殖因子、オステオプロテグリンリガンド、インターフェロンガンマ、Bリンパ球刺激物質、補体第5成分、IgE、腫瘍抗原CA125、腫瘍抗原MUC1、PEM抗原、ErbB2/HER−2、患者の血清中に高いレベルで存在する腫瘍関連エピトープ、乳房、結腸、扁平細胞、前立腺、膵臓、肺、および/または腎臓の癌細胞および/または黒色腫、神経膠腫、または神経芽細胞腫細胞に発現する癌関連エピトープまたはタンパク質、腫瘍の壊死性コア、インテグリンアルファ4ベータ7、インテグリンVLA−4、B2インテグリン、TRAIL受容体1、2、3、および4、RANK、RANKリガンド、TNF−α、接着分子VAP−1、上皮細胞接着分子(EpCAM)、細胞接着分子−3(ICAM−3)、ロイコインテグリン付着因子、血小板糖タンパク質gpIIb/IIIa、心臓ミオシン重鎖、副甲状腺ホルモン、MHC I、癌胎児抗原(CEA)、アルファフェトプロテイン(AFP)、腫瘍壊死因子(TNF)、Fc−y−1受容体、HLA−DR 10ベータ、HLA−DR抗原、L−セレクチン、およびIFN−γ。
【0099】
あるいは、前記バイオ医薬品は抗体模倣物、つまり非免疫グロブリンを基礎とした標的結合タンパク質分子である。前述した技術の多くはこれらの分子にも適用できる。そのような抗体模倣物は例えば、アンキリン反復タンパク質、C型レクチン、黄色ブドウ球菌のAドメインタンパク質、トランスフェリン、リポカリン、フィブロネクチン、クニッツドメインプロテアーゼ阻害剤、ユビキチン、システインノットまたはノッチン、チオレドキシンAなどに由来し、それぞれの文献によって当業者に知られている。
【0100】
別の例では、前記バイオ医薬品は前述のタンパク質のいずれかまたは前述のタンパク質と実質的に同等のタンパク質を含む組換え融合タンパク質である。例えば、前述のタンパク質のうちの1つと多量体化ドメイン(ロイシンジッパー、コイルドコイル、抗体のFc部、または実質的に同等のタンパク質など)を含む組換え融合タンパク質が、本発明の製剤に含まれるバイオ医薬品になりうる。具体的には、少なくともTNFRまたはRANKの一部と抗体のFc部とを融合させたタンパク質が、そのような組換え融合タンパク質に含まれる。前記組換え融合タンパク質が標的結合ドメインとIgG Fcドメイン(いわゆる−セプト(−cept)分子を含むことが特に好ましい。
【0101】
例えば特定の抗体は定期的に、例えば毎日、週に一回、隔週(つまり13〜15日おき)および/または月に一回、皮下投与する必要があり、現在そのような目的で使用されている特定の緩衝液は皮膚に注入すると局所刺激および/または疼痛を誘発したり、および/または注入された抗体の排出を誘発したりする可能性があるため、免疫原性を防ぎ、最小限に抑え、および/または減らすなどの調節に有効な方法を提供することが望ましい。
【0102】
当業者に理解されるように、主な緩衝化合物として使用されるクエン酸などの特定の酸は、皮下注入した際に注入箇所の周辺で皮膚への刺激ならびに疼痛を引き起こすという欠点がある。驚くことに本発明は実施例に示すように、濃度が1.3mM〜9.6mMのクエン酸が、抗体アダリムマブなどのタンパク質を皮下注入する際に、その免疫原性に強く影響することを初めて明らかにした。
【0103】
一態様において本発明による緩衝組成物は、薬物の調製、好ましくは、前項で定義したような長期にわたる継続的なバイオ医薬品の投与が望ましい場合の、例えばあらかじめ充填されたシリンジによる注入または点滴による皮下投与または筋肉内投与のための薬物の調製を意図している。
【0104】
すでに前述しているように、また国際公開第2012/089778号の実施例に例示されているように、アダリムマブのヘキサン二酸緩衝製剤は長期間にわたって安定であり、基本的にあらゆる好適な容器に入れて貯蔵することができる。したがって、本発明は前述の製剤および/または実施例で例示する製剤のいずれかを入れた容器にも関する。
【0105】
一般的に容器とは通常、バイオ医薬品の貯蔵および/または投与を目的とする、バイアル、シリンジ、注射ペン、アンプル、カープル、または点滴用容器などの容器であり、本発明による製剤は特に、すぐ使用できるシリンジ、ペンおよびアンプルへの使用に有益である。好ましい態様では、有効濃度の液体製剤がシリンジまたはペンに入っている。アダリムマブのような抗TNFアルファ抗体の場合、有効濃度は0.8ml中に40mgである。
【0106】
一態様において本発明は、あらかじめ充填されたシリンジもしくはペン、バイアルまたは輸液バッグに関し、前記シリンジもしくはペン、バイアルまたは輸液バッグは、本発明による方法によって得られる医薬製剤または製剤/懸濁液および/または凍結乾燥形態の製剤を含んでいる。
【0107】
本発明のさらに別の側面では、本発明の第1の態様による方法によって得られる製剤および/または本発明の第2の態様による製剤を含んでいる、あらかじめ充填されたシリンジもしくはペン、バイアル、または輸液バッグのような一次包装を提供する。
【0108】
あらかじめ充填されたシリンジまたはペンは、凍結乾燥形態の製剤(後に溶解される、例えば注入用の水に溶解してから投与する)または水性形態の製剤のいずれかを含み得る。前記シリンジまたはペンは単回投与用の使い捨ての物であることが多く、容量は0.1〜20mlであってよい。しかし、シリンジまたはペンは複数回使用できるまたは頻回投与用のシリンジまたはペンであってもよい。
【0109】
前記バイアルも凍結乾燥形態または水性形態の製剤を含む場合があり、単回投与または頻回投与用の装置であってよい。頻回投与用の場合、前記バイアルの容量は大きくなる可能性がある。
【0110】
前記点滴バッグはたいてい水性形態の製剤を含み、容量は20〜5,000mlであってよい。
【0111】
本発明のさらなる側面において、前述の方法および/または前記一次包装によって得られる医薬製剤または製剤/懸濁液および/または凍結乾燥製剤は、
・自己免疫疾患、
・感染症、
・腫瘍性および/または悪性の疾患(癌)、および
・神経系疾患
からなる群から選択される少なくとも1つの病理学的状態の治療に使用される。
【0112】
適した自己免疫疾患は乾癬、クローン病(クローン疾患)またはリウマチ様関節炎のような関節炎およびリウマチ疾患である。適した感染症はウイルスおよび/または細菌性感染である。適した腫瘍性および/または悪性疾患は肉腫、癌腫、リンパ腫および白血病であり、好ましくは、肺癌、乳癌、卵巣癌、結腸癌、前立腺癌、子宮頸癌などである。適した神経系疾患はとりわけ、パーキンソン病、アルツハイマー症、多発性硬化症、ハンチントン病、または筋萎縮性側索硬化症などの神経変性障害である。
【0113】
抗TNFアルファ抗体を含む本発明の製剤は、前述したもの以外の点や製剤含量が相同であることから、ヒュミラ(登録商標)(INN:アダリムマブ)の製品情報、特に用量、用法、および医療適用に従って使用することができる。
【0114】
好都合なことに、本発明によるバイオ医薬品の製剤は投与する前に、さらなる賦形剤の混合、または濾過や混合などのさらなる準備を行わなくてよいため、本発明によるバイオ医薬品はキットに入れるなど、速やかに投与できるように調製することができる。
【0115】
そのため、特に内科医、薬剤師、とりわけ患者にとって有益な態様において本発明は、本発明の方法によって得られる製剤または免疫原性を低減させる方法において有効な医薬製剤の非経口投与用のキットにも関し、このキットは、前述の容器を1つ以上と、好ましくは、貯蔵および/または投与に関する説明書を含んでいる。
【0116】
本発明によるキットでは、好ましくは1つ、2つ、3つ、4つ、または5つのシリンジまたはペンが提供される。必要に応じてさらに多くの、例えば一日一回、一週間、投与を続ける場合には、例えば7つのシリンジまたはペンが提供される。
【0117】
安全に取り扱うために、本発明によるキットには都合のよいことに、シリンジおよび注入針および/または点滴針それぞれに安全区画を設けている。ここでは、針および用意されているまたは予め装着されている密閉栓を外すための補助器具についても考慮される。
【0118】
これまで説明してきたように、本発明による製剤は長期間にわたって、特に約5℃で、好ましくは少なくとも4週間以上にわたり安定である。したがって、本発明による製剤、容器、およびキットは好都合なことに、一般的な冷蔵庫で貯蔵することができる。
【0119】
本発明から生じるこれらの態様およびさらなる態様は特許請求の範囲に包含される。
【0120】
ここで、これまでに引用したおよび以降で引用する従来技術文献の開示は、特に抗TNF抗体の産生およびヘキサン二酸緩衝液の調製に関して、参照することにより本出願に組み入れられる。これらの態様およびさらなる態様は開示され、当業者には明らかであり、本発明の説明および実施例に包含される。本発明に従って使用できる前述の賦形剤ならびに電子的手段に関するさらなる文献は、例えば電子的手段を使って公共の図書館などを利用して従来技術から入手できる。加えて、「PubMed」のようなさらなる公共のデータベースがインターネットを通じていつでも利用可能である。
【0121】
本発明を実施する技術は当業者に知られており、また、関連する文献、例えば分子クローニング(Molecular Cloning):実験の手引き(A Laboratory Manual)第二版、サンブルック、フリッチュ、およびマニアティス(Sambrook、Fritsch、Maniatis)編(コールド・スプリング・ハーバー実験所出版局:1989)、細胞および分子生物学における免疫化学的方法(Immunochemical Methods in Cell and Molecular Biology)、メイヤーおよびウォーカー(Mayer and Walker)編、アカデミック・プレス、ロンドン、1987)、実験免疫学ハンドブック(Handbook Of Experimental Immunology)I〜IV巻(D.M.ウェアおよびC.C.ブラックウェル(D.M.Weir and C.C.Blackwell)編、1986)などに見ることができる。
【実施例】
【0123】
材料および方法
実施例1:実験1
動物
純血種のメスのニュージーランドホワイト(NZW)ウサギ45匹を民間の育種業者から購入した。体重は約3kgで、すべての動物は疾病の外的徴候がないか調べ、健康な個体のみになるようにした。各個体に番号を入れ墨して印を付けた。
【0124】
処置
実験第1日目に一人の動物技師がすべての動物の背部皮下にボーラス投与した。注入速度は約15秒/投与で投与量は体重1キログラム当たり0.2mLとした。
【0125】
処置群
3つの処置群を決定し、そのうちの2群(第1および第3群)を譲受人の型のアダリムマブを含む製剤で処置し、残りの1群(第2群)はヒュミラ(登録商標)を含む製剤で処置した。
【0126】
【表1】
動物はコンピュータを用いて無作為にそれぞれの群に割り振った。
【0127】
食餌/飼育条件/飲料水
動物には、認可された市販の餌(ssniff(登録商標)K−H(ssniff Spezialdiaten有限責任会社、59494 ゾースト、ドイツ)と飲料水道水を自由摂取で与えた。動物を個別に標準的なケージに入れ、室温を約20℃±3℃、相対湿度を55%±15%にした。清掃中は短時間その条件からずれが生じた。飼育室は12時間明期/12時間暗期のサイクルで照らした(約1.50m天井高から約150ルクス)。
【0128】
採血
血液試料を、投与前、2、8(実験1日目)、24、40(実験2日目)、48、60時間経過後および実験4、5、8、15、22、29日目の時点で採取した。試料を処理して血清を分離し、出荷してこの用途に適した慣習的なサンドイッチELISA法でアダリムマブ濃度を解析するまで、−20℃以下で凍結保存した。
【0129】
実施例2:実験2
動物
純血種のオスのニュージーランドホワイト(NZW)ウサギ100匹を、実験1と同じ民間の育種業者から購入した。得られるデータの信頼性をあげるため群の大きさをわずかに増やし、実験1のn=15/群に対しn=20/群とした。実験1の結果が性別に影響されないかどうかを評価するためにオスを選んだ。動物の特徴ならびに実験計画のその他の側面、つまり実験群への無作為な割り振り、投与量、処置量、食餌、飼育条件、飲料水および照明条件、血液試料の処理および試料の保存は実験1と同様とした。
【0130】
処置群
5つの処置群を決定し、そのうちの4群(第2〜5群)を譲受人のアダリムマブ型を含む製剤で処置し、残りの1群(第1群)を、ヒュミラ(登録商標)を含む製剤で処置した。
【0131】
【表2】
【0132】
採血
確実にクリアランスを最大にし、ADA検出による薬剤干渉を最小化するため、アダリムマブの血清濃度および免疫原性の解析のための採血をする時点を、にわずかに遅らせた。試料は以下の時点で収集した:投与前、2、8(実験1日目)、24、40(実験2日目)、56時間経過後および実験4、5日目、およびその後週間隔、つまり実験8、15、22、29、36、43、50、57、64、71、78日目。試料を処理して血清を分離し、出荷されこの用途に適した慣習的なELISA法によってアダリムマブ濃度およびADAを解析するまで、−20℃以下で凍結保存した。
【0133】
結果
図1−aは、実験1で皮下に1回注入した後のアダリムマブ濃度の経時変化を示している。投与して約一週間後から、約40%の個体において血清レベルの顕著な低下が見られた。アダリムマブはヒトおよび霊長類のTNFに対する特異性が高いので、この種では標的介在性の薬物動態は起こらない。そのため、クリアランスの増加は免疫原性、つまり抗薬物抗体によって、ともすると中和/阻害特性によって引き起こされた可能性が高い。そのようなクリアランスの増加は、抗体が結合していない薬剤と比べて、抗体−薬剤抱合体の主要な特徴である。また、一例目が発生した時点、つまり一週間後というのはこの解釈とよく一致しており、動物種へ投与されたヒトタンパク質について、特に皮下投与のような免疫原性を刺激するリスクがある経路で投与されたヒトタンパク質について予想される効果であると解釈される。
【0134】
図1−bに、わずかに高い濃度のクエン酸を使用し、ヒュミラ(登録商標)として製剤化した型の譲受人のアダリムマブを同量投与した、実験1における第2群の結果を示す。全体に、製剤のこの変化は再吸収の動態に実質的な影響をおよぼさなかった。つまり、血清濃度が最大に達した時点も、最大濃度自体も同程度であった。この第2群においても、投与から一週間後にかなりの割合の動物でADAの形成を示唆する急激なクリアランスの増加が認められた。興味深いことに、一時的にしかクリアランス増加を示さなかった1個体を無視したとしても、ADA反応が発現する動物の割合は第1群に比べて高かった。クエン酸は皮下注入時に短期間の疼痛を引き起こすことが知られているが、この頻用されている構成成分の、生物製剤の免疫原性に関する役割についてはこれまで説明されていない。
【0135】
第3群を準備し、ヒュミラ(登録商標)の主な緩衝成分であるリン酸を、主要な薬物動態指標および認容性に影響を与えることなくアジピン酸に交換することができるかどうか試験した。アジピン酸を選んだのは、分解および/または凝集プロセスに対抗してアダリムマブを良好に安定させるからである。偏りのない比較を行うためには、各個体を、第1群および第2群と同様に飼育し、取扱い、および投与することが重要であった。リン酸をアジピン酸に交換したことに加えて、譲受人の型のアダリムマブはヒュミラ(登録商標)よりも低い濃度のクエン酸で投与し、注入時に生じ得る疼痛を最小限に抑えた。予想外なことにこの実験では、第2群における高濃度のクエン酸が免疫原性の発現率の上昇を引き起こしただけでなく、低いクエン酸濃度が最も低い免疫原性の発現率と関係していた(
図1−c)。
【0136】
この実験の3つの群におけるクエン酸濃度と免疫原性発現率との関係を
図2および表3にまとめる。
【0137】
【表3】
【0138】
実験1で得られた結果をさらに解析し、確認するために実験2を行った。実験2の設計は実質的に実験1の設定を反映しているが、実験の中でも生体に関わる部分(in-life part)、つまり、動物の飼育、投与、および試料の作製は実験1を行ったのとは違う研究室で行った。この工程は、アジピン酸/クエン酸について認められた効果が、制御していない要因によって誘発されたのではないことを確認するために行った。付加的な工程として、免疫系を意図的にまたは非意図的に直接調節できるように、ADAに特化したアッセイを開発した。さらに、そのような解析によって免疫応答を定量すること、つまり高力価/中和/阻害、中間または単に一過的な反応に分類することができる。
【0139】
臨床的に最も重要な高力価反応に着目し、実験の結果を
図3および表4にまとめる。まず全体として、第1の実験のから得られた、免疫系によって認識される薬剤(例えばアダリムマブ)の免疫原性にクエン酸濃度が強く影響するという重要な結果が確認された。
【0140】
次にデータから、譲受人の型のアダリムマブはヒュミラ(登録商標)と同じ方法で製剤化された場合、発現する免疫原性がヒュミラ(登録商標)と同程度なり、この点で、譲受人の型のアダリムマブとヒュミラ(登録商標)とを概括することができることが分かる。このことはC
max、t
max、およびAUCもヒュミラ(登録商標)と同等であったという事実からも強調される。クエン酸濃度が高い場合、譲受人の型のアダリムマブの免疫原性は、クエン酸濃度がわずかに低いものよりも低かったが、アジピン酸を主要な構成成分として使用したものではそうはならなかった。一方でこのことは、多様な緩衝剤系においてクエン酸が免疫原性に対して重要な役割を果たしている可能性が非常に高いことを再度示している。最後に
図4では、アジピン酸製剤の免疫応答プロファイル(高度、中程度、一過的、無反応)とヒュミラ(登録商標)のプロファイルに統計学的に有意な差があったこと(behaved statistically significantly)を示している(フィッシャーの正確T検定:p<0,05、ピアソンのカイ二乗検定:9.167(p=0.02716)、自由度は3、ゼロ出現セルの事例を除く)。クエン酸が含まれていない場合、アジピン酸製剤に対する臨床的に意義のある高力価応答は非常に弱い。
【0141】
これらのデータをまとめると、免疫応答は製剤または適用溶液の適正な濃度を選択することで調節することができ、さらにアジピン酸を使用することで免疫応答を非常に低いレベルに抑えることができることが分かる。これは免疫系に認識される可能性のある薬剤に特に望ましい場合がある。
【0142】
【表4】