特許第6797769号(P6797769)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6797769
(24)【登録日】2020年11月20日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】医用情報処理装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 34/10 20160101AFI20201130BHJP
   A61B 17/56 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   A61B34/10
   A61B17/56
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-165045(P2017-165045)
(22)【出願日】2017年8月30日
(62)【分割の表示】特願2013-95161(P2013-95161)の分割
【原出願日】2013年4月30日
(65)【公開番号】特開2017-213435(P2017-213435A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2017年8月30日
【審判番号】不服2019-3840(P2019-3840/J1)
【審判請求日】2019年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 正泰
(72)【発明者】
【氏名】柴田 真理子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 敬介
(72)【発明者】
【氏名】立崎 寿
(72)【発明者】
【氏名】高田 洋一
【合議体】
【審判長】 高木 彰
【審判官】 和田 将彦
【審判官】 莊司 英史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−185767(JP,A)
【文献】 厳希哲、外4名,有限要素法による大腿骨転子部骨折固定器具の評価,日本機械学会論文集(A編),日本,2003年,第69巻677号,p.135−140
【文献】 酒井利奈、外3名,マイクロモーションとvon Mises応力によって評価したAI−Hip cementless stem有限要素モデルの初期固定性,バイオメカニズム学会誌,日本,2009年,第33巻、第1号,p.73−79
【文献】 坂本二郎,外6名,Mechanical Finder −イメージベースの骨強度評価ソフトウェア−,バイオメカニズム学会誌,日本,2009年,第33巻、第4号,p.277−283
【文献】 但野茂,外4名,正常大腿骨と人工股関節置換大腿骨の三次元応力解析,日本機械学会論文集(A編),日本,1994年,第60巻、第569号,p.278−284
【文献】 坂本二郎,脊椎骨折の計算生体力学,バイオメカニズム学会誌,日本,2004年,第28巻、第4号,p.189−193
【文献】 田原大輔,外2名,計算力学システムADVENTUREによる生体骨の非均質性を考慮した有限要素解析,日本機械学会論文集(A編),日本,2004年,第70巻、第697号,p.1163−1169
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B34/10
A61F2/30-2/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の骨に埋め込むための人工関節デバイスに関する情報を読み込む読込部と、
前記読込部により読み込まれた前記人工関節デバイスに関する情報及び前記被検体の皮質骨に関する情報を用いて、前記被検体の骨に埋め込み可能な人工関節デバイスの候補を複数の人工関節デバイスの中から抽出する抽出処理部と、
前記被検体の骨密度の情報を用いて、前記被検体の骨に人工関節デバイスを埋め込んだときの応力分布を求め、前記応力分布の情報と、骨の降伏応力の情報とを用いて、前記抽出処理部により抽出された前記人工関節デバイスの候補を絞り込む解析処理部と、
前記解析処理部により絞り込まれた前記人工関節デバイスの候補を前記被検体の骨の画像に重ね合わせて前記応力分布、前記人工関節デバイスの候補の最大応力値、および前記人工関節デバイスの候補において応力値が最大となる位置を示す符号と共に提示する提示処理部と、
を備えることを特徴とする医用情報処理装置。
【請求項2】
前記解析処理部は、降伏応力−骨密度定義テーブルの情報を用いて、前記抽出処理部により抽出された前記人工関節デバイスの候補を絞り込むことを特徴とする請求項1に記載の医用情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、医用情報処理装置及び医用情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、X線CT装置やMRI装置などの医療用断層画像診断装置が普及してきており、それらを用いて身体各部の観察及び診断を行うことが可能となってきている。一方、日本のみならず世界的な高齢化に伴い、変形性関節症は増加の一途をたどっており、患部である関節(例えば、股関節や膝関節など)を人工的な金属やセラミックス製の人工関節に置き換える人工関節置換術が広く普及している。この人工関節置換術で重要なことは、患者に最適の形状とサイズを持つ人工関節を最適の角度及び位置に設置し、人工関節と自家骨での応力集中を避けることである。
【0003】
人工関節置換術の手術計画では、X線CT(Computed Tomography)装置やMRI(Magnetic Resonance Imaging)装置で取得した三次元ボリューム画像と人工関節の三次元形状テンプレートをコンピュータ上に読み込み、骨軸や関節の隙間を幾何学的に解析しているのが現状である。ところが、この幾何学的な人工関節のアライメント解析のみで人工関節置換術の手術計画を行うと、応力集中を見逃し、人工関節置換後に骨折が発生する可能性がある。このため、医師や技師などのユーザは、人工関節テンプレートを手作業で繰り返し選択し、時間をかけて慎重に評価作業を行っているが、これによって評価時間が長くなり、また、その評価作業がユーザにとって多大な負荷となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−18065号公報
【特許文献2】特開2009−195490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、ユーザによる評価時間の短縮及び評価作業の負担軽減を実現することができる医用情報処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る医用情報処理装置は、被検体の骨に埋め込むための人工関節デバイスに関する情報を読み込む読込部と、読込部により読み込まれた人工関節デバイスに関する情報及び被検体の皮質骨に関する情報を用いて、被検体の骨に埋め込み可能な人工関節デバイスの候補を複数の人工関節デバイスの中から抽出する抽出処理部と、被検体の骨密度の情報を用いて、被検体の骨に人工関節デバイスを埋め込んだときの応力分布を求め、応力分布の情報と、骨の降伏応力の情報とを用いて、抽出処理部により抽出された人工関節デバイスの候補を絞り込む解析処理部と、解析処理部により絞り込まれた人工関節デバイスの候補を被検体の骨の画像に重ね合わせて応力分布、人工関節デバイスの候補の最大応力値、および人工関節デバイスの候補において応力値が最大となる位置を示す符号と共に提示する提示処理部とを備える。
【0007】
実施形態に係る医用情報処理方法は、読込部が、被検体の骨に埋め込むための人工関節デバイスに関する情報を読み込むステップと、抽出処理部が、読込部により読み込まれた人工関節デバイスに関する情報及び被検体の皮質骨に関する情報を用いて、被検体の骨に埋め込み可能な人工関節デバイスの候補を複数の人工関節デバイスの中から抽出するステップと、解析処理部が、被検体の骨に人工関節デバイスを埋め込んだときの応力分布を検討し、抽出処理部により抽出された人工関節デバイスの候補を絞り込むステップと、提示処理部が、解析処理部により絞り込まれた人工関節デバイスの候補を被検体の骨の画像に重ね合わせて応力分布と共に提示するステップとを有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の一形態に係る医用情報処理装置の概略構成を示すブロック図である。
図2】実施の一形態に係る医用情報処理の流れを説明するための説明図である。
図3】実施の一形態に係る大腿骨軸の導出を説明するための説明図である。
図4】実施の一形態に係る大腿骨頚軸及び大腿骨頭径の導出を説明するための説明図である。
図5】実施の一形態に係る大腿骨軸と大腿骨頚軸の成す角及び大腿骨頚長の導出を説明するための説明図である。
図6】実施の一形態に係る応力解析結果の表示を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の一形態について図面を参照して説明する。
【0010】
図1に示すように、実施形態に係る医用情報処理装置1は、各種情報を記憶する記憶部2と、その記憶部2からデータ(情報)を読み込む読込部3と、読み込んだデータに対して各種処理を行う処理部4と、各種情報を表示する表示部5と、ユーザ(利用者)からの入力操作を受け付ける入力部6とを備えている。
【0011】
記憶部2は、人工関節デバイステンプレートを管理する人工関節デバイステンプレートデータベース2aと、降伏応力と骨密度との関係を定義する降伏応力−骨密度定義テーブル2bと、三次元の骨形状のデータである三次元骨形状データ2cと、三次元の骨密度のデータである三次元骨密度データ2dとを有している。これらの三次元骨形状データ2c及び三次元骨密度データ2dは、X線CT装置(あるいはMRI装置など)により撮影された三次元ボリュームデータから得られるデータである。なお、記憶部2としては、例えば、大容量のHDD(ハードディスクドライブ)やSSD(ソリッドステートドライブ)などを用いることが可能である。
【0012】
読込部3は、人工関節デバイステンプレートデータベース2aからデバイステンプレートを読み込むデバイステンプレート読込モジュール3aと、降伏応力−骨密度定義テーブル2bを読み込む定義テーブル読込モジュール3bと、三次元骨形状データ2c及び三次元骨密度データ2dを検査結果データ(医療画像に関する医療画像情報)として読み込む検査結果データ読込モジュール3cとを有している。
【0013】
処理部4は、被検体の所定部位の骨を皮質骨及び海綿骨に区分するセグメンテーションモジュール(区分処理部)4aと、関節に関するパラメータを計測する計測モジュール(計測処理部)4bと、人工関節デバイステンプレートデータベース2aから適合する人工関節デバイスを抽出するアライメント評価モジュール(抽出処理部)4cと、有限要素モデルを作成する有限要素作成モジュール(作成処理部)4dと、有限要素モデルに対して有限要素解析を行う有限要素解析モジュール(解析処理部)4eと、応力解析結果の表示処理を行う表示モジュール(提示処理部)4fとを有している(詳しくは、後述する)。
【0014】
なお、前述のセグメンテーションモジュール4a、計測モジュール4b、アライメント評価モジュール4c、有限要素作成モジュール4d、有限要素解析モジュール4e及び表示モジュール4fは、電気回路などのハードウエアで構成されても良く、あるいは、これらの機能を実行するプログラムなどのソフトウエア(例えば、アプリケーションなど)で構成されても良く、また、ハードウエア及びソフトウエアの両方の組合せにより構成されても良い。
【0015】
表示部5は、応力解析結果画像や操作ボタン(例えば、操作者からの各種指示を入力するためのGUI(グラフィカルユーザインターフェース))などの各種画像を表示する表示デバイスである。この表示部5としては、例えば、液晶ディスプレイや有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイなどを用いることが可能である。
【0016】
入力部6は、医師や技師などのユーザである操作者により入力操作される操作部であり、例えば、データ選択や体重の入力、人工関節デバイスの選択、各種設定など、様々な入力操作を受け付ける。この入力部6としては、例えば、ボタンやキーボード、GUIなどの入力デバイスを用いることが可能である。
【0017】
このような医用情報処理装置1は、X線CT画像などの医療画像情報を基に、骨組織を抽出し三次元の下肢モデルを作成し、幾何学条件を満たす人工関節デバイスを候補として挙げ、それらの候補に対して力学解析を実施し、最も応力集中が小さい人工関節デバイスあるいはその人工関節デバイスを含む既定数の人工関節デバイスを表示して提示する。
【0018】
この一連の提示処理について図2を参照して説明する。なお、医用情報処理装置1は、前段階として、X線CT装置により得られた医療画像情報を基に、骨組織を抽出し、三次元の関節の幾何学モデル、すなわち三次元骨形状データ2cを作成して記憶部2に記憶している。さらに、医用情報処理装置1は、QCT(Quantitated Computed Tomography)法を用いてボクセル毎の骨密度を測定し、三次元骨密度データ2dを作成して記憶部2に記憶している。
【0019】
図2に示すように、入力部6は、ユーザによる入力操作により関節の種類(例えば、股関節や膝関節など)が特定されると、その特定により選択された三次元骨形状データ及び三次元骨密データを有限要素解析モジュール4eに知らせ、さらに、ユーザによる入力操作により入力された上肢体重や選択されたデバイス材質なども有限要素解析モジュール4eに知らせる(ステップS1)。
【0020】
有限要素解析モジュール4eは、ステップS1の報知に応じて、当該データの読込を読込部3に要求する(ステップS2)。この要求に応じて、読込部3の検査結果データ読込モジュール3cは、該当する三次元骨形状データ及び三次元骨密データを読み込む(ステップS3)。
【0021】
セグメンテーションモジュール4aは、ステップS3で読み込まれた三次元骨形状データに対して、CT値及びテクスチャを基に、皮質骨と海綿骨のセグメンテーションを行う(ステップS4)。このとき、セグメンテーションモジュール4aは、CT値及び海綿骨の特徴となる骨梁のテクスチャ解析を実施し、海綿骨と皮質骨を判別する。さらに、皮質骨内部で骨端部の径や最小径部などを計測し、皮質骨と骨端部との境界となるテーパを算出する。
【0022】
計測モジュール4bは、予め定めておいたランドマーク(目印)を基準に、被検体の既定箇所の寸法を計測する(ステップS5)。この既定箇所は、被検体の関節に人工関節デバイスを設置可能(埋込可能)であるか否かを判定するために予め設定されている計測対象箇所である(詳しくは、後述する)。
【0023】
アライメント評価モジュール4cは、ステップS5で計測された既定箇所の寸法及び予め定めた許容範囲を基に、関節に設置可能な人工関節デバイスのテンプレートの読込を読込部3に要求する(ステップS6)。このとき、アライメント評価モジュール4cは、人工関節デバイステンプレートデータベース2aから、皮質骨の内径を初めとする幾何学情報に合致する人工関節デバイスのテンプレートを候補として抽出し、その抽出した人工関節デバイスのテンプレートの読込を読込部3に要求する。
【0024】
読込部3のデバイステンプレート読込モジュール3aは、ステップS6の要求に応じて、該当する寸法の人工関節デバイスの三次元テンプレートを読み込む(ステップS7)。
【0025】
アライメント評価モジュール4cは、三次元形状モデルのランドマークを基に、ステップS7で読み込まれた人工関節デバイスをモデル上に埋設し、アライメントを評価し、デバイス候補の絞り込みを行う(ステップS8)。このとき、アライメント評価モジュール4cは、候補の人工関節テンプレートに対して、幾何学的に骨軸を自動抽出し、骨切り面の位置及び角度などを決定して用いる。
【0026】
有限要素作成モジュール4dは、当該人工関節デバイスと骨を分割した上で、メッシュを切って有限要素を作成し、力学的なパラメータの読込を読込部3に要求する(ステップS9)。このとき、有限要素作成モジュール4dは、前述の幾何学モデルから、テトラ又はヘキサの要素にメッシュを切る処理を行う。
【0027】
読込部3の定義テーブル読込モジュール3bは、ステップS9の要求に応じて、降伏応力−骨密度定義テーブル2bを読み込み、さらに、読込部3のデバイステンプレート読込モジュール3aは、人工関節デバイステンプレートデータベース2aから力学的パラメータを読み込む(ステップS10)。
【0028】
有限要素作成モジュール4dは、ステップS10で読み込まれた降伏応力−骨密度定義テーブル2b及び力学的パラメータを用いて、QCT法で測定したボクセル毎の骨密度の分布に応じた生体パラメータを設定し、有限要素モデルを作成する(ステップS11)。
【0029】
有限要素解析モジュール4eは、体重を境界条件として与え、例えば仙骨に上肢加重分の圧縮応力を境界条件として負荷し、有限要素解析を行い、骨及び人工関節デバイスの応力分布を解析する(ステップS12)。
【0030】
さらに、有限要素解析モジュール4eは、骨の降伏応力に安全率をかけた値以下の応力分布の人工関節デバイスに候補を絞り込み、加えて、応力分布の一様性が高いデバイス群から既定数の人工関節デバイスを順位と共に抽出する(ステップS13)。
【0031】
表示モジュール4fは、ステップS13で抽出された人工関節デバイスとその応力分布を表示部5に表示する(ステップS14)。例えば、表示モジュール4fは、応力集中などにより骨の破壊強度を超過する箇所を色分けして(あるいは色の濃淡を変えて)表示する。これにより、皮質骨及び海綿骨と、人工関節のテンプレートとの境界面で、応力集中が最も小さくなる人工関節デバイスをユーザに提示することが可能となる。
【0032】
このような一連の提示処理によれば、応力集中が小さい人工関節デバイスやそのアライメントを自動的に抽出し、ユーザに提示することによって、人工関節デバイスの候補の絞り込みを自動化し、人工関節置換術の手術計画に掛る時間を短縮することが可能となる。通常、ユーザが手作業で人工関節テンプレートを選択して評価するため、多大な時間が掛かっていたが、前述ように応力集中が小さい人工関節を自動的にユーザに提示することで、評価時間の短縮さらに評価作業の負担軽減を実現することができる。
【0033】
次に、前述の計測モジュール4bにおける既定箇所の寸法計測について図3ないし図5を参照して詳しく説明する。計測モジュール4bは、下記の既定箇所のパラメータを導出し、アライメント評価モジュール4cに引き渡す。なお、ここでは、一例として、人工股関節置換術の手術計画に係る既定箇所の寸法計測について説明する。前提としては、骨盤及び大腿骨を抽出した三次元ボリュームデータが存在している。
【0034】
大腿骨軸の導出では、図3に示すように、大腿骨において、既定の二断面の重心A1及びA2を結ぶ直線L1を作成し、大腿骨軸とする。例えば、大腿骨を長手方向に三等分する断面M1及びM2における大腿骨の断面重心A1及びA2を導出し、これらの二点A1及びA2を結ぶ直線L1を大腿骨軸とする。
【0035】
大腿骨頚軸の導出では、図4に示すように、前述の大腿骨の骨軸の導出と同様、既定の二断面の重心B1及びB2を結ぶ直線L2を大腿骨頚軸とする。例えば、大腿骨軸(直線L1)に垂直な断面を作成し、連続的に断面が広がる方向を大腿骨頸骨が延びる方向とし、大腿骨が延びる方向に垂直な断面M3及びM4を作成する。大腿骨頚部の面積が減少傾向から、増加傾向に変わる断面M3の重心B1と、増加の割合が著しく増加する断面の最小となる断面M4の重心B2とを結ぶ直線L2を作成し、大腿骨頚軸とする。
【0036】
大腿骨頭径の導出では、図4に示すように、大腿骨頚軸(直線L2)に垂直な面に、大腿骨頭を射影した像(MIP像)を作成し、射影像を含む最小円の半径rを導出し、大腿骨頭径とする。なお、大腿骨頚軸(直線L2)に垂直な断面上に大腿骨頚軸を中心とする半径rの円を描き、この円と接する大腿骨頚(外周)を有する断面を算出し、中心座標をB3とする。
【0037】
大腿骨軸と大腿骨頚軸の成す角の導出では、図5に示すように、大腿骨軸(直線L1)と中心座標B3を含む断面に大腿骨頚軸(直線L2)を射影した直線L3を大腿骨頚射影軸とし、その大腿骨頚射影軸(直線L3)と大腿骨軸(直線L1)の成す角αを求める。さらに、大腿骨頚長の導出では、大腿骨軸(直線L1)と大腿骨頚射影軸(直線L3)との交点C1から中心座標B3までの距離lを大腿骨頚長とする。
【0038】
次いで、前述の寸法計測結果を用いた埋設可能な人工股関節デバイス候補の選定、さらに、有限要素モデルの作成、力学解析による人工股関節デバイス候補の更なる絞り込み及び人工股関節デバイス候補の表示について説明する。
【0039】
アライメント評価モジュール4cは、ユーザにより入力された関節部位(股関節や膝関節、肩関節、など)、材質あるいはコーティングなどの条件に加え、前述の計測モジュール4bから引き渡されたr、l、α及び大腿骨髄内径と許容量をキーとして、人工関節デバイステンプレートデータベース2aから合致する人工股関節デバイスを抽出する。なお、可動範囲の解析や検証については、公開されている技術を用いて行い、人工股関節デバイス候補の絞り込みを行う。
【0040】
有限要素作成モジュール4dは、アライメント評価モジュール4cにより抽出された人工股関節デバイス候補と骨の三次元モデルを作成し、大腿骨及び骨盤のそれぞれの骨密度に対応する降伏応力を降伏応力−骨密度定義テーブル2bから読み込み、さらに、人工股関節デバイスの物性パラメータを人工関節デバイステンプレートデータベース2aから読み込んで有限要素モデルを作成し、有限要素解析モジュール4eに引き渡す。
【0041】
有限要素解析モジュール4eは、上記有限要素モデルに対し、上半身耐荷重を仙骨部分に対する圧力条件とし、大腿骨下端部を固定という境界条件を負荷し、既存技術(例えば、有限要素解析法CAE(Computer Aided Engineering)を中心とする解析ソフトウエア群など)を用いて有限要素解析を行う。さらに、有限要素解析モジュール4eは、解析後の応力分布から、大腿骨の降伏応力を既定の安全率で除した値を超過していないデバイスを絞り込み、加えて、応力分布の一様性の高いデバイスから順位付けを行い、ユーザが指定した候補数の人工股関節デバイスの三次元画像と応力分布を表示モジュール4fに引き渡す。
【0042】
表示モジュール4fは、大腿骨の三次元画像に人工股関節デバイスを重ね合わせて応力分布と共に表示する。その際、ステムの長手軸と大腿骨軸、ステムの大腿骨頚軸と大腿骨頚射影軸とが一致するように配置して表示を行う。さらに、表示モジュール4fは、適合順位を付加して表示する。
【0043】
例えば、図6に示すように、三つの候補の人工股関節デバイスD1がそれぞれ大腿骨D2の三次元画像に重ね合わされ、左から1番、2番及び3番という順番の適合順位で並べられて表示部5に表示される。これらの人工股関節デバイスD1は、ステムD1a及びソケット(カップ)D1bにより構成されており、ステムD1aの長手軸と大腿骨D2の大腿骨軸が一致し、さらに、ステムD1aの大腿骨頚軸と大腿骨D2の大腿骨頚射影軸とが一致するように大腿骨D2の三次元画像に重ね合わされて表示される。また、適合順位を示す「1stオプション」や「2ndオプション」、「3rdオプション」なども表示され、さらに、応力分布も大腿骨D2の三次元画像に重ね合わされて表示される。加えて、デバイス毎の最大応力値が表示され、その位置も矢印により指し示される。
【0044】
これにより、ユーザは三つの候補の中から使用する人工股関節デバイス、例えば適合順位が一番である「1stオプション」の人工股関節デバイスを選択することになる。このように、応力集中が小さいという条件に合致した人工股関節デバイスの候補を自動的に絞り込み、適合順位を付加して表示することによって、ユーザは候補の中から使用する人工股関節デバイスを選択するだけで良くなるため、ユーザによる評価作業の負担を軽減することが可能となり、さらに、ユーザによる評価時間を短縮することが可能となる。また、応力分布、すなわち応力集中を可視化することによって、評価作業の負担軽減や評価時間の短縮をより確実に実現することができる。
【0045】
なお、図6では、応力分布における応力(値)の大きさを色が濃くなるほど大きいものとしているが、これに限るものではなく、その逆で色が淡くなるほど大きいものとしても良く、あるいは、各種の色を用い、応力の大きさに応じて色を変えて応力の大きさを表すようにしても良く(カラー表示)、さらに、カラー表示と色の濃淡を組み合わせて応力の大きさを表すようにしても良い。
【0046】
以上説明したように、実施形態によれば、人工関節デバイスに関する情報及び被検体の関節に関するパラメータを用いて、被検体に取り付け可能な(例えば股関節や膝関節などの関節に設けることが可能な)人工関節デバイスの候補を複数の人工関節デバイスの中から抽出し、その後、被検体に人工関節デバイスを取り付けたときの(例えば股関節や膝関節などの関節に人工関節デバイスを設けたときの)応力分布を検討し、抽出した人工関節デバイスの候補を絞り込み、絞り込んだ人工関節デバイスの候補を提示する。これにより、応力分布に基づいた人工関節デバイスの候補を自動的に絞り込んでユーザに提示することが可能となるので、ユーザによる評価作業の負担軽減及び評価時間の短縮を実現することができる。
【0047】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0048】
1 医用情報処理装置
2 記憶部
3 読込部
4 処理部
4b 計測モジュール
4c アライメント評価モジュール
4e 有限要素解析モジュール
4f 表示モジュール
図1
図2
図3
図4
図5
図6