(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
微生物を利用した有機性廃水の処理方法として、好気性生物処理、嫌気性生物処理が挙げられる。嫌気性生物処理の中でメタン発酵処理は、酸素のない嫌気性環境下で生育する嫌気性微生物の代謝反応を利用して、有機性廃水中の有機物をメタン発酵によりメタンガスや炭酸ガスなどに分解する生物処理方法である。
【0003】
従来の有機性廃水処理は、好気性条件での活性汚泥処理や、嫌気性条件でのメタン発酵処理など、微生物を利用した処理方法である。メタン発酵処理は、活性汚泥処理と比べて、余剰汚泥発生量が少なく、ブロワー(曝気)などの電気代が不要なためランニングコストがかからないと言ったメリットがあるほか、発生したメタンガスを有効利用できるなどのメリットがあるため、有機性廃水の処理方法として特に注目されている。
【0004】
ラグーン処理は、素掘りなどの簡易な構造の池で、長期間をかけて有機性廃水を処理する方法である。ラグーン処理施設は、他の処理方式と比較して安価に建設でき、維持管理も容易であるが、広大な敷地が必要となる。このため、ラグーン処理は日本では一般的ではないが、東南アジアなどの広大な敷地を有する地域では一般的な処理方法である。
【0005】
ラグーン処理は酸素利用の有無により、好気性ラグーン処理、嫌気性ラグーン処理、およびこれらを組み合わせた処理がある。嫌気性ラグーン処理は、水面が開放されているため、処理で発生するメタンガスを回収できないため、メタンガスを有効利用できないばかりではなく、温室効果ガスであるメタンガスを大気中に放出することから、地球温暖化への一因となっている。
【0006】
特に、インドネシアやマレーシアなどの温暖な地域では、世界でもっとも生産されている植物油であるパームオイルの製造工場から、高濃度で脂質や脂肪酸を含有するパームオイル圧搾廃液(POME;Palm Oil Mill Effluent)が排出されていて、その処理と有効活用が大きな課題となっている。従来の一般的なPOME処理は、素掘りの池で長期間をかけてパームオイル圧搾廃液を嫌気的に処理する嫌気性ラグーン処理である。
【0007】
嫌気性ラグーン処理で発生するメタンガスを回収するため、ラグーンをゴムなどのカバーで密閉したCovered lagoon処理が開発されている。しかしながら、撹拌装置が設置されていないラグーンでは、廃水とラグーン内に存在するメタン発酵菌などの微生物との接触効率が悪く、処理の安定性に欠けるため、低負荷でしか運転できない欠点があった。
【0008】
POMEのような油脂を含有する廃水は、処理中にスカムが発生しやすい。完全混合型の嫌気性消化槽ではドラフトチューブなどにより強制的に廃水を循環することでスカムを破砕できるが、嫌気性ラグーンではスカムが水面に蓄積して、処理の不安定化やガスラインへの混入などのトラブルの要因となる欠点があった。
【0009】
嫌気性ラグーンは、自己造粒したグラニュール汚泥を使用した上向流嫌気性汚泥床(UASB;Upflow Anaerobic Sludge Blanket)と比較して高濃度のメタン発酵菌を保持することができない。このため、低濃度の廃水を安定的に処理するためには、汚泥に対する有機物負荷を一定値以下とすることが必要であり、ラグーンの容量を十分に大きくする必要があった。
【0010】
また、一般的にメタン発酵処理の立ち上げは3〜6か月程度の長期間を要するとされていて、短期間でのメタン発酵処理の立ち上げが要請されていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
・汚泥保持手段
特許文献1においては、メタン発酵微生物群を保持するために固定床を設置しているが、設備費用を要するだけでなく、無終端水路の水流に対して固定床が抵抗となるため流動性を悪化させたり、固定床間隙が閉塞することで処理性能が低下することが懸念される。
特許文献2においては、汚泥保持手段としてろ過膜を用いた固液分離が行われ、ろ過膜の平均孔径0.1〜0.5μmが好ましいとされている。しかし、この処理方式は、非常に高い固液分離機能を有しているが、設備費用が非常に高価になるだけでなく、廃液をろ過膜に通過させるためのポンプ運転に必要な動力も多大となる欠点がある。
特許文献10においては、汚泥保持手段として沈澱池を用いた固液分離が行われている。しかし、生物反応槽は嫌気性ではなく好気性条件下で運転され、仕上げ槽やスカム破砕装置は設けられていない。
特許文献16では、汚泥保持手段として仕上げ槽と沈澱池が設けられている。しかし、メタン発酵槽は無終端水路ではなく、スカム破砕装置は設けられていない。
【0013】
・撹拌方式
特許文献1においては、嫌気性無終端水路の撹拌方式について特に明示されていない。
特許文献3においては、好気性無終端水路であるオキシデーションディッチの撹拌方式について、槽外駆動式のプロペラ撹拌機と、水路内で活性汚泥が沈澱しないように底部流速が0.1m/sec以上が必要とされることが記載されているが、具体的な撹拌機の条件について記載されていない。
特許文献7では、好気性無終端水路であるオキシデーションディッチの撹拌装置として、水中式推進装置等からなる攪拌装置を備えることが記載されているが、撹拌しながら曝気するエアレーターも備えている。
【0014】
・スカム破砕機構
特許文献1においては、特にスカム破砕装置は設けられていない。一般に、油脂などを含む廃水処理では、脂質の分解に伴い高級脂肪酸が生成することで発泡し、スカムが生成される。水面に浮上したスカムは水中のメタン発酵菌と接触しないため、分解効率が低下する。さらに、多量のスカムが発生するとガスラインへの流入に伴い、機器の故障原因となる。
特許文献6では、無終端水路内でスカムを除去することが記載されているが、スカム破砕装置については記載されていない。
特許文献14では、無終端水路においてを除去することが記載されているが、回収したスカムを破砕して無終端水路に返送することは記載されていない。
【0015】
・処理の立ち上げ方法
一般にメタン発酵処理の立ち上げは3〜6か月の長期間を要するとされている。
特許文献4においては、運転立ち上げ時に易分解性の原料を廃水に投入することが記載されているが、処理対象の廃水のみで立ち上げる方法についての記載がない。また、種汚泥を投入することで短期間で立ち上げを行えることは公知であるが、具体的な種汚泥の条件については明確に記載されていない。
【0016】
本発明は、上記従来の課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、嫌気性廃水処理でのバイオガス回収率の向上、および処理立ち上げ時間の短縮が可能な有機性廃水処理装置および有機性廃水処理の立上げ方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一態様は、メタン菌を含む汚泥と原水が収容される無終端水路を有する嫌気性反応槽と、前記無終端水路の上部開口を覆うことでバイオガスを回収する覆い部材と、前記無終端水路に接続され、前記無終端水路から流出した被処理水を滞留させて前記被処理水中の未分解有機物を
メタン発酵させてバイオガスとして放出させる仕上げ槽と、前記仕上げ槽に接続され、前記仕上げ槽から流出した前記被処理水から汚泥を分離させ、メタン菌を含む汚泥を得る沈澱槽と、前記沈澱槽から前記無終端水路まで延び、前記沈澱槽からメタン菌を含む汚泥を前記無終端水路に返送する汚泥返送手段と、前記無終端水路の水面に浮遊するスカムを回収し、前記回収したスカムを破砕し、前記破砕されたスカムを前記無終端水路に返送するスカム破砕装置と、を備えたことを特徴とする有機性廃水処理装置である。
【0018】
本発明の好ましい態様は、前記スカム破砕装置は、前記無終端水路の水面に配置されたスカム回収装置と、前記スカム回収装置により回収されたスカムを貯留するスカム貯留槽と、前記スカム貯留槽内のスカムを吸い込むことで前記スカムを破砕するスカムポンプと、前記スカム貯留槽から前記無終端水路まで延びるスカム返送ラインとを備え、前記スカムポンプは前記スカム返送ラインに接続されていることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記仕上げ槽の上部開口を覆うことでバイオガスを回収する覆い部材をさらに備えたことを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記無終端水路および前記仕上げ槽で生成されたバイオガスを発電装置に導入する配管およびブロアをさらに備えたことを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記無終端水路内に設置され、前記原水を無終端水路内で循環させる複数の撹拌機をさらに備え、前記複数の撹拌機の所要動力の合計を前記無終端水路の容量で割り算して得られる撹拌動力は、0.1W/m
3以上、10W/m
3以下であることを特徴とする。
【0019】
本発明の一態様は、上記有機性廃水処理装置であって、前記無終端水路とは別の嫌気性反応槽から得た活性状態のメタン発酵菌を含む種汚泥を、前記無終端水路に投入することを特徴とする有機性廃水処理装置の立ち上げ方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る有機性廃水処理装置は、嫌気性反応槽に、仕上げ槽とスカム破砕装置とを組合せたことにより、バイオガス回収率の向上が可能となる。
また、本発明に係る有機性廃水処理装置の立ち上げ方法は、無終端水路とは別の嫌気性反応槽から得た活性状態のメタン発酵菌を含む種汚泥を、前記無終端水路に投入することにより立上げ時間の短縮が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1は本発明の有機性廃水処理装置の一実施形態を模式的に示す平面図であり、
図2は、有機性廃水処理装置の概要図である。本発明は、30℃〜40℃を至適温度とした中温メタン発酵処理、50℃〜60℃を至適温度とした高温メタン発酵処理など、すべての温度範囲の嫌気性処理に適用することができる。
【0023】
図1および
図2に示すように、本発明に係る有機性廃水処理装置は、メタン菌を含む汚泥と原水が収容される無終端水路2を有する嫌気性反応槽1、仕上げ槽20、沈澱槽25、スカム破砕装置30、を主要な構成として備えている。本実施形態の無終端水路2は、長円形を有するトラック型水路である。無終端水路2の上部開口は、バイオガスを回収するための覆い部材5で覆われており、密閉された無終端水路2が嫌気性反応槽1内に形成されている。仕上げ槽20の上部開口も覆い部材40で覆われている。覆い部材5,40は、例えば、高密度ポリエチレンシートである。無終端水路2および仕上げ槽20から発生したバイオガス(メタンガス)は覆い部材5,40によって集められ、配管44,45を通じてブロアBに移送される。ブロアBはバイオガスを配管46を通じて脱硫装置7に移送し、さらに、さらに配管47を通じて発電装置8に移送する。バイオガスは、この発電装置8の燃料として使用される。
【0024】
原水は流入ライン10を通じて嫌気性反応槽1内に供給される。処理対象となる原水はメタン菌による分解可能な成分が含まれている有機性廃水である。有機性廃水の例としては、POMEなどの、農産物を原料とする製品を製造する際に排出される廃水が挙げられる。原水に固形物が含まれていてもよいが、砂やシルトなどの比重の大きな無機物は無終端水路2内に蓄積するため、比重の大きな無機物は無終端水路2に流入させない方が好ましい。
【0025】
無終端水路2は、2本の直線部とそれらをつなぐ2つの湾曲部からなる周回路で形成されたサイドウォール2aと、サイドウォール2aに囲まれたセンターウォール2bとを備えている。無終端水路2の材質・大きさ・深さは特に限定されない。たとえば、無終端水路2はコンクリートで形成してもよいし、不浸透性のシートを素掘りの水路に被覆してもよい。
【0026】
無終端水路2の流路には、湾曲したガイドウォール2cが設置されている。ガイドウォール2cの材質も特に限定されない。たとえば、ガイドウォール2cは、無終端水路2と同じコンクリートとしてもよいし、プラスチックや金属としてもよい。ガイドウォール2cの設置位置は、無終端水路2の整流効果が生じるように設置する。無終端水路2がトラック形状の場合は、サイドウォール2aの湾曲部に沿って設置するのが効果的である。本実施形態の無終端水路2はトラック型であるが、循環水路を形成するものであれば、どのような形状でも良く、例えば平面視で、
図3に示す円形、
図4に示す矩形、
図5に示す折り返し型であってもよい。
【0027】
図1および
図2に示すように、有機性廃水処理装置は、無終端水路2内に配置された複数の撹拌機12を備えている。撹拌機12は、無終端水路2の底部で0.1m/sec以上の原水流速を確保できる動力を有する。無終端水路2の単位水量あたりの撹拌動力は、0.1W/m
3以上、10W/m
3以下である。撹拌動力は、複数の撹拌機12の所要動力の合計を、無終端水路2の容量で割り算することで求められる。
【0028】
図6は、撹拌機12を示す模式図である。本実施形態では、撹拌機12は、攪拌羽根車12aと、この撹拌羽根車12aを回転させる電動機12bとを備えている。撹拌機12は、上下方向に延びるガイドレール14に取り付けられており、ガイドレール14に沿って上下動可能となっている。このようなガイドレール14を設置することで、無終端水路2の上部に設けたメンテナンスブリッジ15から撹拌機12を容易に点検管理することが可能である。
【0029】
図1および
図2に示すように、有機性廃水処理装置は、無終端水路2に第1移送ライン17を介して接続された仕上げ槽20と、仕上げ槽20に第2移送ライン22を介して接続された沈澱槽25と、沈澱槽25から無終端水路2まで延びる汚泥返送ライン(汚泥返送手段)27をさらに備えている。流入ライン10を通じて供給された有機性廃水である原水は無終端水路2内で循環し、無終端水路2内に保持された微生物によりメタン発酵する。微生物を含んだ被処理水は、第1移送ライン17を通って仕上げ槽20に移送され、ここである時間滞留する。さらに、被処理水は、仕上げ槽20から第2移送ライン22を通って沈澱槽25に送られる。被処理水中の汚泥は、沈澱槽25内に沈澱する。微生物を含む汚泥の一部は、沈澱槽25内に配置された汚泥返送ポンプ29により汚泥返送ライン27を通って無終端水路2に戻される。
【0030】
・撹拌動力
好気条件であるオキシデーションディッチでは、酸素供給のために散気管などのブロアなどを利用して空気を吹き込むため、空気による強い上昇流による撹拌が可能である。
一方、嫌気条件であるメタン発酵では、有機物分解に伴うメタンガスが発生するものの上昇流による撹拌は、オキシデーションディッチにおける空気撹拌と比較して、水路全体において弱い。そのため適切な撹拌動力により、原水を水路内で水平方向(流下方向)に流動させることで、よどみ部分をなくすことが必要である。また、流下方向に流動させることで生成したスカムを嫌気性反応槽内に蓄積させることなく、スカムをスカム破砕装置に送ることが可能となる。
【0031】
・スカム破砕装置
嫌気性反応槽1には、2つのスカム破砕装置30が設けられている。各スカム破砕装置30は、無終端水路2水面に浮上しているスカムを回収するスカム回収装置としてのトラフ31と、スカムを貯留するスカム貯留槽33と、スカム貯留槽33内に配置されたスカムポンプ36と、トラフ31とスカム貯留槽33とを接続するスカム移送ライン38と、スカム貯留槽33と嫌気性反応槽1とを接続するスカム戻りライン39を備えている。トラフ31は、無終端水路2内に水面とほぼ同じ高さに配置されており、かつ無終端水路2を横切るように配置されている。
図1に示す実施形態では、2つのスカム破砕装置30が設けられているが、1つのスカム破砕装置30のみが設けられてもよい。
【0032】
図7は、トラフ31の断面図である。無終端水路2を流れる原水の水面に浮上しているスカムは、トラフ31内に流入し、スカム移送ライン38を通ってスカム貯留槽33に移送される。スカムは、スカム貯留槽33内に貯留される。
図2に示すように、スカム貯留槽33内にはスカムポンプ36が配置されており、このスカムポンプ36はスカム戻りライン39に接続されている。
【0033】
スカムは、一般に、原水中に含まれる脂質の分解過程で生成する高級脂肪酸からなる。このスカムは、メタン発酵過程において発生するバイオガスからなる微細気泡を内部に保持することで水面に浮上する。
無終端水路の水面に浮いたスカムをトラフ31で回収し、回収したスカムをスカム貯留槽33内に一時貯留する。スカム貯留槽33内のスカムは、スカムポンプ36に吸い込まれ、スカムポンプ36内を通過することによって破砕される。破砕されたスカムは、スカムポンプ36によりスカム戻りライン39を通って無終端水路2に戻される。このように、スカム貯留槽33内のスカムをスカムポンプ36で破砕しながら無終端水路2に返送することで、スカムに含まれる微細気泡が分離し、スカムを無終端水路2内の原水中に溶解させることができる。これにより、原水中のメタン発酵菌とスカムの接触が改善して、スカムの分解が進行してバイオガス発生量を増大することが可能となる。
【0034】
・仕上げ槽
仕上げ槽20は、無終端水路2と沈澱槽25との間に配置される。無終端水路2から流出した被処理水は仕上げ槽20に移送され、さらに沈澱槽25に移送される。仕上げ槽20内の被処理水の滞留時間が短すぎると、仕上げ槽20でのバイオガス回収が不十分となり、バイオガスの回収率の低下、後段の沈澱槽25でのバイオガス発生による汚泥の浮上が起こる。一方、仕上げ槽20内の被処理水の滞留時間が長すぎると過大な設備となる。そのため、仕上げ槽20内の被処理水の滞留時間は、2時間以上、24時間以下が好ましく、4時間以上、12時間以下がさらに好ましい。
【0035】
仕上げ槽20の構造は、有効な滞留時間が確保されれば特に限定されず、撹拌機を備えた完全混合型、撹拌機を備えない水路型であってもよい。
図2に示すように、無終端水路2と同様に仕上げ槽20を覆い部材40で覆うことでバイオガス回収率を向上することができるが、覆い部材40は省略も可能である。
【0036】
仕上げ槽20は、無終端水路2から離れて配置されており、第1移送ライン17によって無終端水路2に接続されている。一実施形態では、
図8に示すように、仕上げ槽20は無終端水路2と一体に構成されてもよい。
図8に示す実施形態では、仕上げ槽20は無終端水路2に接しており、第1移送ライン17は設けられていない。無終端水路2を構成するサイドウォール2aに開口41が形成されており、仕上げ槽20は無終端水路2に開口41を介して連通する。
図9に示すように、開口41の代わりに、無終端水路2を構成するサイドウォール2aに越流部42を形成してもよい。越流部42は、例えば、サイドウォール2aの上端に形成された凹部である。
【0037】
仕上げ槽20にスカムが流入すると、ガス分離性が悪化するため、スカムを仕上げ槽20に流入させないことが必要となる。そこで、スカムが仕上げ槽20に流入にしないように、第1移送ライン17(
図2参照)および開口41(
図8参照)は、無終端水路2の水面下に設けられる。被処理水が無終端水路2から越流する
図9の実施形態では、無終端水路2内にスカムが存在しない位置に仕上げ槽20が配置される。無終端水路2内にスカムが存在しない位置として、スカム回収装置であるトラフ31の下流、具体的にはトラフ31から無終端水路2の周長の25%以内の領域が挙げられる。
【0038】
無終端水路2から流出した被処理水には、溶存メタンが含まれ、一定割合の未分解有機物が残留する。そこで、被処理水を仕上げ槽20で滞留させることで、未分解有機物をバイオガスとして放出させ、回収することが可能となる。
また、バイオガスを放出したのちに被処理水を沈澱槽25へ流入させることで、汚泥浮上を抑制し、沈降性を向上することができる。
【0039】
スカム破砕を行わない場合、無終端水路の後段に設置した仕上げ槽および沈澱槽にスカムが発生し、仕上げ槽の水面を覆ってしまうことで残存ガス回収率の低下や、沈澱池での固液分離障害が発生する。これに対し、スカム破砕装置30を設置した本実施形態によれば、スカムに含まれていた有機物が無終端水路2に返送され、無終端水路2内で分解することが可能となる。仕上げ槽20へのスカムの流入がないので、沈澱槽25での汚泥浮上の抑制が可能となる。
【0040】
・沈澱槽
沈澱槽25は矩形でも円形でも、汚泥を水から分離できれば形状は問わない。汚泥分離性を向上するため、沈澱槽25内に櫛状のピケットフェンス(図示せず)を設置することが望ましい。沈澱槽25が円形の場合は、ピケットフェンスを回転させることで汚泥分離性を向上させることができる。横流式の沈澱槽25であればピケットフェンスを沈澱槽25に固定してもよい。
【0041】
・汚泥返送による安定、高負荷処理
無終端水路2と沈澱槽25を組み合わせることで、無終端水路2内の汚泥濃度を高くすることが可能となり、より高負荷処理が可能となり、装置のコンパクト化を図ることができる。
さらに、無終端水路2と沈澱槽25の間に仕上げ槽20を設けることで、固液分離性能を向上させるだけではなく、バイオガス回収率を向上させることが可能となる。
【0042】
前記沈澱槽25で回収されたメタン菌を含む汚泥は、沈澱槽25に設置された汚泥返送ポンプ29により汚泥返送ライン27を通って無終端水路2に返送される。汚泥の返送量は、無終端水路2における汚泥濃度の目標値に合わせて設定する。これにより、無終端水路2は十分なメタン菌を保持することで必要な汚泥負荷を維持することが可能となり、安定運転が可能となる。特に原水の有機物濃度が低い場合、水理学的滞留時間(HRT;Hydraulic Retention Time)を短縮しても汚泥負荷を維持できるため、有機性廃水処理装置の小型化が可能となる。
【0043】
・有機性廃水処理の立ち上げ方法
既に設置されている他のラグーンから採取した種汚泥を、無終端水路2内の固形物濃度(TS;Total Sludge)が、0.5%以上、5%以下となるように無終端水路2に投入する。固形物濃度TSは公定法による測定が好ましいが、赤外線水分計を用いた分析結果を用いてもよい。
種汚泥は、嫌気性ラグーンから採取した汚泥が好ましく、同じ原水を処理する既設の嫌気性ラグーンから採取した汚泥がより好ましい。
種汚泥の採取は、嫌気性ラグーンの原水投入から流下方向にHRTで5日以上40日以下に相当するエリアで行う。HRTが5日未満だと汚泥に含まれる未分解有機物の割合が多く、HRTが40日を越えると非活性な汚泥が多い。HRTで5日以上40日以下のエリアで採取された汚泥には、嫌気性反応に必要なメタン発酵菌が活性の高い状態で保持されている。
【0044】
・立ち上げ期間の短縮
原水を処理している既設の嫌気性ラグーンに堆積している汚泥を、適切な位置から採取して新規に設置する無終端水路に種汚泥として投入することで、通常3〜6か月を要する立ち上げ運転を45日以下で完了することが可能となる。
ここで立ち上げ運転とは、設計条件に到達するまでの運転、もしくは原水を全量受け入れるまでの運転を示す。
また、立ち上げ時の運転管理方法として、バイオガス中のメタン濃度を測定し、メタン濃度が60%以上に維持されるように負荷調整を行う。負荷は、有機物負荷であり、原水中の有機物の濃度に、原水の流量を乗算することで算出される。上述した負荷調整は、無終端水路2に流入する原水の流量を調整することによって行われる。メタン濃度の測定が困難な場合は、バイオガスの組成がメタンと二酸化炭素でほぼ100%となることに基づき、バイオガス中の二酸化炭素濃度が40%以下に維持されるように負荷調整を行ってもよい。
【0045】
立ち上げ時に過負荷状態となると、無終端水路2内に酢酸やプロピオン酸などの低分子の揮発性有機酸(VFA;Volatile Fatty Acid)が残留することがある。無終端水路2のHRTは十数日以上あり、特に立ち上げ時は負荷量が少ないため、HRTは数十日に達することがある。このため、原水由来の有機物が残留しても無終端水路2内で希釈されてしまうために、pH低下やVFA残留といった水質変化が現れるにはかなりの時間がかかる。
【0046】
これに対し、VFA残留時には、バイオガス中のメタン濃度が低下し、二酸化炭素濃度が上昇する特性がある。無終端水路2の上部開口を覆う覆い部材5に回収されるバイオガスの滞留時間は数時間から1日程度である。よって、バイオガス中のメタン濃度の変化は、水質の変化と比較して迅速に検知することが可能である。さらに、無終端水路2の水面にガス検知用の小容量のガストラップを設置することでより迅速なメタン濃度の変化を検知することも可能である。
【0047】
以下に本発明の実施例について
図10に示す表を参照して具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
以下の比較例および実施例では、COD
Cr(二クロム酸カリウムによる酸素要求;Chemical Oxygen Demand)が約75,000mg/LのPOMEを原水とした。POMEは、反応槽内の水温が中温メタン発酵に適した条件となるように、40〜50℃に自然冷却してから反応槽に投入した。反応槽に流入する原水の流量は160m
3/日から開始し、5日ごとに240m
3/日,320m
3/日,400m
3/日,480m
3/日,560m
3/日、最終的に設計条件の31日目に635m
3/日とした。
【0048】
・比較例1
比較例1で使用された反応槽は、一般的に普及している覆い部材なしの嫌気性ラグーンであった。反応槽の容量は32,000m
3、設計条件での水理学的滞留時間は50日であった。素掘りに近い構造であるため建設費は安いが、発生したバイオガスは大気放出していてエネルギー回収は行われていない。
スカム破砕装置、仕上げ槽、沈澱槽は、設置しなかった。
種汚泥は別の嫌気性ラグーンの全面から採取した汚泥であり、上記反応槽内の固形物濃度が1%となるように種汚泥を反応槽内に投入した。
設計条件で原水を通水した31日目から45日目の平均COD
Cr除去率は55%であった。反応槽の水面の全体にはスカムが浮上していた。
【0049】
・比較例2
比較例2で使用された反応槽は、容量12,000m
3のトラック型の無終端水路であった。無終端水路の上部開口はバイオガス回収のための覆い部材で覆われており、嫌気性条件下でメタン発酵を行った。複数の低動力撹拌機を無終端水路内に設置して、無終端水路内で原水を循環させた。複数の低動力撹拌機の所要動力の合計を無終端水路の容量で割り算することで得られる撹拌動力は、5W/m
3であった。
スカム破砕装置、仕上げ槽は設置しなかった。
無終端水路からの流出水は直接沈澱槽に送られ、沈澱槽にて汚泥を水から分離し、分離した汚泥の一部を無終端水路に返送した。
種汚泥は、既設の他の嫌気性ラグーンの全面から採取した汚泥であり、無終端水路2内の固形物濃度が2%となるように種汚泥を無終端水路内に投入した。
設計条件で原水を導入した31日目から45日目の平均COD
Cr除去率は72%であった。除去COD
Crあたりのメタン回収率は85%であった。無終端水路2の水面の全体にはスカムが浮上していた。
【0050】
・実施例1
実施例1で使用された反応槽は、
図1および
図2に示す容量12,000m
3のトラック型の無終端水路2であった。無終端水路2の上部開口はバイオガス回収のための覆い部材5で覆われており、嫌気性条件下でメタン発酵を行った。複数の低動力撹拌機12を無終端水路内に設置して、無終端水路内2で原水を循環させた。複数の撹拌機12の撹拌動力は5W/m
3であった。
無終端水路2の水面にはスカム回収装置としてのトラフ31が設けられ、回収したスカムをスカム貯留槽33に導き、スカムポンプ36で破砕してから無終端水路2に返送した。
仕上げ槽20は設けられず、無終端水路2からの流出水は直接沈澱槽25に送られた。沈澱槽にて汚泥を水から分離し、分離した汚泥の一部を無終端水路2に返送した。
種汚泥は、既設の他の嫌気性ラグーンの全面から採取した汚泥であり、無終端水路2内の固形物濃度が2%となるように種汚泥を無終端水路2内に投入した。
設計条件で原水を導入した31日目から45日目の平均COD
Cr除去率は81%であった。除去COD
Crあたりのメタン回収率は92%であった。無終端水路2の水面にスカムはみられなかった。
【0051】
・実施例2
実施例2では、
図1および
図2に示す有機性廃水処理装置が使用された。実施例2で使用された反応槽は、
図1および
図2に示す容量12,000m
3のトラック型の無終端水路2であった。
無終端水路2の上部開口はバイオガス回収のための覆い部材5で覆われており、嫌気性条件下でメタン発酵を行った。複数の低動力撹拌機12を無終端水路内に設置して、無終端水路内2で原水を循環させた。複数の撹拌機12の撹拌動力は5W/m
3であった。
無終端水路2の水面にはスカム回収装置としてのトラフ31が設けられ、回収したスカムをスカム貯留槽33に導き、スカムポンプ36で破砕してから無終端水路2に返送した。
無終端水路2からの流出水は仕上げ槽20を経由して沈澱槽25に送られた。仕上げ槽20の容量は100m
3であり、仕上げ槽20での水の滞留時間は4時間であった。沈澱槽25にて汚泥を水から分離し、分離した汚泥の一部を無終端水路2に返送した。
種汚泥は、既設の他の嫌気性ラグーンの全面から採取した汚泥であり、無終端水路2内の固形物濃度が2%となるように種汚泥を無終端水路2内に投入した。
設計条件で原水を導入した31日目から45日目の平均COD
Cr除去率は85%であった。除去COD
Crあたりのメタン回収率は99%であった。無終端水路2の水面にスカムはみられなかった。
【0052】
・実施例3
実施例3では、
図1および
図2に示す有機性廃水処理装置が使用された。実施例2で使用された反応槽は、
図1および
図2に示す容量12,000m
3のトラック型の無終端水路2であった。
無終端水路2の上部開口はバイオガス回収のための覆い部材5で覆われており、嫌気性条件下でメタン発酵を行った。複数の低動力撹拌機12を無終端水路内に設置して、無終端水路内2で原水を循環させた。複数の撹拌機12の撹拌動力は5W/m
3であった。
無終端水路2の水面にはスカム回収装置としてのトラフ31が設けられ、回収したスカムをスカム貯留槽33に導き、スカムポンプ36で破砕してから無終端水路2に返送した。
無終端水路2からの流出水は仕上げ槽20を経由して沈澱槽25に送られた。仕上げ槽20の容量は150m
3であり、仕上げ槽20での水の滞留時間は6時間であった。沈澱槽25にて汚泥を水から分離し、分離した汚泥の一部を無終端水路2に返送した。
種汚泥は、既設の他の嫌気性ラグーンのHRTで10日から30日に相当するエリアから採取した汚泥であり、無終端水路2内の固形物濃度が2%となるように種汚泥を無終端水路2内に投入した。
設計条件で原水を導入した31日目から45日目の平均COD
Cr除去率は90%であった。除去COD
Crあたりのメタン回収率は99%であった。無終端水路2の水面にスカムはみられなかった。
【0053】
・撹拌動力に対する流動評価
図11は、
図1および
図2の有機性廃水処理装置を用いて、水中攪拌機12の攪拌動力と、原水の流速との関係を調べた実験結果を示す表である。この実験では、水中攪拌機12の攪拌動力を変えながら、無終端水路2の底部での原水の流速を測定し、かつ目視による水の流動状態を観察した。水中攪拌機12の撹拌動力は水中攪拌機12の回転速度から換算した。
【0054】
撹拌動力0.05W/m
3では、無終端水路2の底部から0.1m上方位置で測定した流速は0.06m/sであった。「下水道施設計画・設計指針と解説」(日本下水道協会)によれば、オキシデーションディッチにおける汚泥堆積を抑止するための底部流速は0.1m/sとされる。上記流速0.06m/sは0.1m/sよりも低いため、無終端水路2の湾曲部によどみが発生し、汚泥堆積の恐れがある。
【0055】
撹拌動力0.1W/m
3以上10W/m
3以下では底部流速は0.1m/s以上であり、目視による流動状況も良好であった。一方、撹拌動力15W/m
3では水面に波立ちが発生し、流動は良好であるものの撹拌動力は過剰であると判断された。
【0056】
・立ち上げ時における運転管理方法の実施例
図1および
図2の有機性廃水処理装置の立ち上げにて、被処理水中の揮発性有機酸(VFA)を測定し、無終端水路2上の覆い部材5に設置したサンプルバルブから採取したバイオガスのメタン濃度を測定した。処理の管理基準を外れたときにPOME投入量を一定にし、バイオガス中のメタン濃度60%以上に回復するまでの日数を
図12の表に示す。
被処理水中のVFAが500mg/Lを超えた場合、回復に18日を要した。バイオガスのメタン濃度55%未満となった場合、回復に要した期間は12日であった。バイオガスのメタン濃度58%未満となった場合、回復に要した期間は5日であった。バイオガスのメタン濃度60%未満となった場合、回復に要した期間は3日であった。
【0057】
・仕上げ槽のHRTの実施例
無終端水路2からの流出水800mLをプラスチックボトルに入れ、35℃の恒温水槽にプラスチックボトルを浸漬し、バイオガス積算発生量の経時変化を確認した。開始直後よりバイオガスの発生が確認され、12時間以降、バイオガス積算発生量の傾きは小さくなり、24時間以降はほとんど発生しなかった。
【0058】
これまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術思想の範囲内において、種々の異なる形態で実施されてよいことは勿論である。