特許第6797856号(P6797856)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6797856ポリチオール化合物の製造方法、硬化性組成物の製造方法、および硬化物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6797856
(24)【登録日】2020年11月20日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】ポリチオール化合物の製造方法、硬化性組成物の製造方法、および硬化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 319/20 20060101AFI20201130BHJP
   C07C 321/14 20060101ALI20201130BHJP
   C08G 18/38 20060101ALI20201130BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20201130BHJP
   C07C 335/32 20060101ALN20201130BHJP
【FI】
   C07C319/20
   C07C321/14
   C08G18/38 076
   G02B1/04
   !C07C335/32
【請求項の数】9
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-64791(P2018-64791)
(22)【出願日】2018年3月29日
(65)【公開番号】特開2019-172631(P2019-172631A)
(43)【公開日】2019年10月10日
【審査請求日】2019年12月24日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】影山 幸夫
【審査官】 山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2018/003059(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/129449(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/129450(WO,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2012−0058635(KR,A)
【文献】 特表2015−506947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 319/00−323/67
C07C 335/00−335/44
C08G 18/00−18/87
G02B 1/00−1/18
CAplus(STN)
CASREACT(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
【化1】
[式(1)中、Xはハロゲン原子を表す。]
で表されるハロゲン化物をアルカリ金属硫化物と反応させて、
【化2】
で表されるポリオール化合物を得ること;
前記ポリオール化合物をチオ尿素と反応させてイソチウロニウム塩を得ること;
前記イソチウロニウム塩を加水分解することによってポリチオールの塩を得ること;ならびに、
前記ポリチオールの塩をポリチオールに転換することによって
【化5】
で表されるポリチオール化合物、
【化6】
で表されるポリチオール化合物および
【化7】
で表されるポリチオール化合物からなる群から選択される一種以上のポリチオール化合物を得ること;
を含み、
前記チオ尿素のチオシアン酸アンモニウムの含有率が0.05質量%以下である、ポリチオール化合物の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ金属硫化物は、硫化ナトリウムである、請求項1に記載のポリチオール化合物の製造方法。
【請求項3】
【化8】
[式(1)中、Xはハロゲン原子を表す。]
で表されるハロゲン化物、2−メルカプトエタノールおよびアルカリ金属水酸化物を反応させて、
【化9】
で表されるポリオール化合物を得ること;
前記ポリオール化合物をチオ尿素と反応させてイソチウロニウム塩を得ること;
前記イソチウロニウム塩を加水分解することによってポリチオールの塩を得ること;ならびに、
前記ポリチオールの塩をポリチオールに転換することによって、
【化10】
で表されるポリチオール化合物を得ること;
を含み、
前記チオ尿素のチオシアン酸アンモニウムの含有率が0.05質量%以下である、ポリチオール化合物の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウムである、請求項3に記載のポリチオール化合物の製造方法。
【請求項5】
前記ポリチオールの塩は、ポリチオールのアルカリ金属塩およびポリチオールのアンモニウム塩からなる群から選択される塩である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリチオール化合物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法によってポリチオール化合物を製造すること;および
製造されたポリチオール化合物をポリイソ(チオ)シアネート化合物と混合して硬化性組成物を調製すること、
を含む硬化性組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項に記載の製造方法によって硬化性組成物を製造すること;および
製造された硬化性組成物を硬化して硬化物を得ること、
を含む硬化物の製造方法。
【請求項8】
前記製造された硬化性組成物を硬化して硬化物を得ることを、前記硬化性組成物を注型重合に付すことにより行う、請求項に記載の硬化物の製造方法。
【請求項9】
前記硬化物は眼鏡レンズ基材である、請求項またはに記載の硬化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリチオール化合物の製造方法、硬化性組成物の製造方法、および硬化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリチオール化合物は、各種樹脂を得るための合成原料として広く用いられている。例えば、ポリチオール化合物をポリイソ(チオ)シアネート化合物と硬化反応することにより、ポリチオウレタン系樹脂を合成することができる(例えば特許文献1の段落0004参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5319037号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているように、ポリチオール化合物は、イソチウロニウム塩の加水分解を経て合成することができる(例えば特許文献1の段落0036参照)。
しかるに本発明者が検討を重ねたところ、従来のポリチオール化合物の製造方法には、製造されるポリチオール化合物の着色の低減が求められることが明らかとなった。
【0005】
本発明の一態様は、着色が低減されたポリチオール化合物を製造することが可能なポリチオール化合物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討を重ねる中で、ポリチオール化合物の着色には、ポリチオール化合物の合成に用いられるチオ尿素に含まれるチオシアン酸アンモニウムが大きく影響するとの、従来知られていなかった新たな知見を得た。そして本発明者は、かかる知見に基づき更に鋭意検討を重ねた結果、本発明の一態様にかかるポリチオール化合物の製造方法を見出すに至った。
【0007】
即ち、本発明の一態様は、以下のポリチオール化合物の製造方法に関する。
【化1】
[式(1)中、Xはハロゲン原子を表す。]
で表されるハロゲン化物をアルカリ金属硫化物およびアルカリ金属水酸化物からなる群から選択されるアルカリ金属化合物と反応させて、
【化2】
で表されるポリオール化合物および
【化3】
で表されるポリオール化合物からなる群から選択されるポリオール化合物を得ること(以下、「工程1」とも記載する。);
上記ポリオール化合物をチオ尿素と反応させてイソチウロニウム塩を得ること(以下、「工程2」とも記載する。);
上記イソチウロニウム塩を加水分解することによってポリチオールの塩を得ること(以下、「工程3」とも記載する。);ならびに、
上記ポリチオールの塩をポリチオールに転換することによって、
【化4】
で表されるポリチオール化合物、
【化5】
で表されるポリチオール化合物、
【化6】
で表されるポリチオール化合物および
【化7】
で表されるポリチオール化合物からなる群から選択される一種以上のポリチオール化合物を得ること(以下、「工程4」とも記載する。);
を含み、
上記チオ尿素のチオシアン酸アンモニウムの含有率が0.05質量%以下である、ポリチオール化合物の製造方法。
【0008】
本発明者は鋭意検討を重ねる中で、チオ尿素に不純物として含まれていたチオシアン酸アンモニウムが、上記のハロゲン化物との反応に使用されるアルカリ金属化合物に不純物として含まれていた金属(例えば鉄)と形成する錯体が、製造されるポリチオール化合物の着色の原因になると考えるに至った。これに対し、上記製造方法では、上記ポリオール化合物と反応させるチオ尿素としてチオシアン酸アンモニウムの含有率が0.05質量%以下のチオ尿素が使用される。これにより錯体の形成を抑制できることが、製造されるポリチオール化合物の着色低減に寄与し得ると推察される。ただし以上は推察であって、かかる推察に本発明は限定されない。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、各種樹脂の合成原料として有用なポリチオール化合物の着色低減が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[ポリチオール化合物の製造方法]
以下、上記の本発明の一態様にかかるポリチオール化合物の製造方法について、更に詳細に説明する。
【0011】
<工程1>
工程1は、式(1)で表されるハロゲン化物をアルカリ金属硫化物およびアルカリ金属水酸化物からなる群から選択されるアルカリ金属化合物と反応させて、式(2)で表されるポリオール化合物および式(3)で表されるポリオール化合物からなる群から選択されるポリオール化合物を得る工程である。
【0012】
式(1)は以下の通りであり、式(1)中、Xはハロゲン原子を表す。
【0013】
【化8】
【0014】
式(1)で表されるハロゲン化物は、例えば、下記反応スキーム例1により、2−メルカプトエタノールとエピハロヒドリンとを反応させることによって得ることができる。
【0015】
【化9】
【0016】
上記反応スキーム例1のエピハロヒドリン中および式(1)中のXは、ハロゲン原子を表す。ハロゲン原子は、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、塩素原子および臭素原子が好ましい。例えば、エピハロヒドリンとしてエピクロロヒドリン(X=塩素原子)を用いることにより、式(1)中のXが塩素原子であるハロゲン化物を得ることができる。また、エピハロヒドリンとしてエピブロモヒドリン(X=臭素原子)を用いることにより、式(1)中のXが臭素原子であるハロゲン化物を得ることができる。
【0017】
2−メルカプトエタノールとエピハロヒドリンとの反応は、触媒存在下で行うことが好ましい。触媒としては、公知の各種触媒を用いることができ、第三級アミンを用いることが好ましい。第三級アミンとしては、第三級アルキルアミンが好ましい。好ましい第三級アミンの具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジシクロヘキシルメチルアミン等を挙げることができ、中でもトリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミンがより好ましく、トリエチルアミン、トリブチルアミンが更に好ましい。
【0018】
上記反応スキーム例1における反応温度および工程1における反応温度は、例えば0〜60℃程度とすることができる。上記反応スキーム例1における反応時間は、例えば0.5〜10時間程度とすることができる。本発明および本明細書における「反応温度」とは、反応液の液温をいい、「内温」とも記載する。
【0019】
一態様では、上記反応スキーム例1による式(1)で表されるハロゲン化物の合成反応は、例えば次のように行うことができる。まず2−メルカプトエタノールを混合して混合液を得る。ここで触媒を混合することが好ましく、第三級アミンを混合することがより好ましい。また必要に応じて溶媒(例えばアルコール等)を添加してもよい。その後、上記混合液にエピハロヒドリンを添加する。エピハロヒドリンは、上記混合液に滴下することによって添加することが好ましい。滴下時間は、例えば0.1〜5時間程度とすることができるが、特に限定されるものではない。滴下中、必要に応じて混合液を撹拌してもよい。エピハロヒドリンは、2−メルカプトエタノール1.0モルに対して、例えば0.5〜3.0モル、好ましくは0.7〜2.0モル、より好ましくは0.9〜1.1モルの範囲の割合で用いて2−メルカプトエタノールと反応させることができる。第三級アミンは、エピハロヒドリン1.0モルに対して、例えば0.005〜0.1モル程度の量で使用することができる。上記混合液は、エピハロヒドリンの添加後に必要に応じて0.5〜10時間程度熟成させてもよい。熟成中、混合液は静置してもよく撹拌してもよい。第三級アミンとしては一種または二種以上の第三級アミンを用いることができる。二種以上の第三級アミンを用いる場合の第三級アミン量は、それら二種以上の第三級アミンの合計含有量をいうものとする。本発明および本明細書において、特記しない限り、異なる構造を取り得る成分は一種用いてもよく二種以上を用いてもよい。かかる成分を二種以上用いる場合の含有量は、二種以上の合計含有量をいうものとする。
【0020】
工程1では、上記の式(1)で表されるハロゲン化物とアルカリ金属硫化物およびアルカリ金属水酸化物からなる群から選択されるアルカリ金属化合物とを反応させることにより、下記式(2)で表されるポリオール化合物および下記式(3)で表されるポリオール化合物からなる群から選択されるポリオール化合物が得られる。
【0021】
【化10】
【0022】
【化11】
【0023】
例えば、アルカリ金属化合物として硫化ナトリウムを用いる場合を例に取ると、工程1において、下記反応スキーム例2により式(2)で表されるポリオール化合物を得ることができる。なお以下の反応スキーム例に記載の数値は、モル基準である。
【0024】
【化12】
【0025】
また、アルカリ金属化合物として水酸化ナトリウムを用いる場合を例に取ると、工程1において、下記反応スキーム例3により式(3)で表されるポリオール化合物を得ることができる。
【0026】
【化13】
【0027】
先に記載した反応スキーム例1による式(1)で表されるハロゲン化物の合成反応後、反応により得られた目的物(式(1)で表されるハロゲン化物)を含む反応液をそのまま工程1に用いてもよく、反応後の反応液を公知の方法で精製して目的物を単離するか濃度を高めた後に工程1に用いることもできる。または、先に記載した反応スキーム例1による式(1)で表されるハロゲン化物の合成反応後の反応液を溶媒(例えばトルエン等)で希釈して工程1に用いることもできる。以上の点は、この後に記載する各種工程の反応後についても、同様である。上記アルカリ金属化合物としてアルカリ金属水酸化物を用いる態様では、反応スキーム例3に例示されているように、式(3)で表されるポリオール化合物を得るために2−メルカプトエタノールを要する。この2−メルカプトエタノールは、先に記載した反応スキーム例1による式(1)で表されるハロゲン化物の合成反応後に未反応で残留した2−メルカプトエタノールであってもよく、または工程1のために新たに添加してもよい。工程1において式(3)で表されるポリオール化合物を得る際の2−メルカプトエタノール量は、式(1)で表されるハロゲン化物1.0モルに対して、例えば0.5〜3.0モル、好ましくは0.7〜2.0モル、より好ましくは0.9〜1.1モルの範囲とすることができる。
【0028】
上記の反応スキーム例2、3では、アルカリ金属硫化物およびアルカリ金属水酸化物からなる群から選択されるアルカリ金属化合物に含まれるアルカリ金属原子がナトリウム原子である例を示した。ただし、上記アルカリ金属化合物に含まれるアルカリ金属原子は、他のアルカリ金属原子、例えばリチウム原子、カリウム原子等であってもよい。上記アルカリ金属化合物は、式(1)で表されるハロゲン化物1.0モルに対して、反応スキーム例2では例えば0.2〜2.0モル、好ましくは0.3〜1.2モル、より好ましくは0.4〜0.6モルの範囲の割合で、反応スキーム例3では例えば0.5〜3.0モル、好ましくは0.7〜2.0モル、より好ましくは0.9〜1.1モルの範囲の割合で用いて式(1)で表されるハロゲン化物と反応させることができる。なお上記アルカリ金属化合物は、水和物の形態であってもよい。水和物についての量は、水和水を含む量をいうものとする。上記アルカリ金属化合物は、工程1の反応のためにそのまま用いてもよく、水溶液等の溶液の形態で用いてもよい。一態様では、上記アルカリ金属化合物の溶液を、式(1)で表されるハロゲン化物を含む反応液へ滴下することによって添加することができる。滴下時間は、例えば0.1〜5時間程度とすることができるが、特に限定されるものではない。滴下中、必要に応じて反応液を撹拌してもよい。かかる反応液は、上記アルカリ金属化合物の添加後に必要に応じて0.5〜10時間程度熟成させてもよい。熟成中、反応液は静置してもよく撹拌してもよい。
【0029】
<工程2>
次に、工程2について説明する。
工程2は、工程1で得られたポリオール化合物をチオ尿素と反応させてイソチウロニウム塩を得る工程である。ここでチオ尿素としてチオシアン酸アンモニウムの含有率が0.05質量%以下のチオ尿素を用いることが、先に記載した錯体の形成を抑制することにつながり、その結果、上記製造方法により得られるポリチオール化合物の着色を低減することができると本発明者は推察している。ポリチオール化合物の着色をより一層低減する観点からは、チオ尿素のチオシアン酸アンモニウムの含有率は0.04質量%以下であることが好ましく、0.03質量%以下であることがより好ましい。また、チオ尿素のチオシアン酸アンモニウムの含有率は、例えば0.01質量%以上であることができるが、着色低減の観点からは低いほど好ましいため、上記の例示した下限を下回ってもよい。チオ尿素のチオシアン酸アンモニウムの含有率は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いて測定することができる。
【0030】
チオ尿素のチオシアン酸アンモニウム含有率は、公知の各種精製法により低減することができる。チオ尿素のチオシアン酸アンモニウム含有率の低減方法として好ましい精製法としては、再結晶法を挙げることができる。再結晶法の具体的態様としては、チオシアン酸アンモニウムに対する良溶媒を使用してチオ尿素を析出(結晶化)させる方法を挙げることができる。ここでチオシアン酸アンモニウムに対する良溶媒としては、水、メタノール、エタノール、アセトン等を用いることができる。
【0031】
工程2は、上記の通りイソチウロニウム塩を得る工程である。「イソチウロニウム塩」とは、イソチオ尿素の第4級塩である。工程1で得られたポリオール化合物とチオ尿素と反応との反応は、好ましくは酸存在下で行うことができる。酸として塩酸を用いる場合を例に取ると、例えば、式(2)で表されるポリオール化合物を酸存在下でチオ尿素と反応させると、下記反応スキーム例4に示すイソチウロニウム塩を得ることができる。なお反応スキーム例4では、ポリチオール化合物(5)の骨格を有するイソチウロニウム塩を示しているが、この反応においては、ポリチオール化合物(5)の骨格を有するイソチウロニウム塩、ポリチオール化合物(6)の骨格を有するイソチウロニウム塩およびポリチオール化合物(7)の骨格を有するイソチウロニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも一種のイソチウロニウム塩を得ることができ、転位反応が起こることで、上記イソチウロニウム塩の中の二種または三種が得られ得る。
【0032】
【化14】
【0033】
また、例えば、式(3)で表されるポリオール化合物を酸存在下でチオ尿素と反応させると、下記反応スキーム例5に示す、ポリチオール化合物(4)の骨格を有するイソチウロニウム塩を得ることができる。
【0034】
【化15】
【0035】
上記反応スキーム例4、5では、酸として塩化水素(HCl)を用いる例を示したが、工程3で用いる酸は塩化水素に限定されるものではなく、各種無機酸および有機酸を用いることができる。無機酸としては塩化水素、硫酸等、有機酸としてはギ酸等を例示できる。酸の添加形態は特に限定されず、例えば酸は水溶液として添加することができる。水溶液における酸濃度は、特に限定されるものではなく、例えば10〜80質量%程度とすることができる。工程2において、上記ポリオール化合物1.0モル(二種以上の上記ポリオール化合物を含む反応液においては、それらの合計量1.0モル)に対して、酸は、例えば2.0〜12.0モル、好ましくは3.0〜8.0モル、チオ尿素は、反応スキーム例4においては例えば3.0〜6.0モル、好ましくは4.5〜5.5モルの割合で、反応スキーム例5においては例えば2.0〜5.0モル、好ましくは3.5〜4.5モル用いることができる。工程2における反応温度は、例えば40℃から還流温度、好ましくは90〜120℃程度とすることができ、反応時間は、例えば1〜24時間程度とすることができる。
【0036】
<工程3>
次に、工程3について説明する。
工程3は、工程2で得られたイソチウロニウム塩を加水分解することによってポリチオールの塩を得る工程である。ここで得られるポリチオールの塩は、式(4)、式(5)、式(6)、または式(7)で表されるポリチオール化合物の構造において1分子中に3個または4個存在するチオール基(−SH)の1個以上のチオール基の水素原子が置換された構造を有する塩である。工程3において、異なる構造の二種以上のポリチオールの塩を得ることもできる。上記ポリチオールの塩は、ポリチオールのアルカリ金属塩またはポリチオールのアンモニウム塩であることが好ましい。上記加水分解は、好ましくは塩基存在下で行うことができ、ポリチオールの塩の種類は、加水分解に用いる塩基の種類によって調整可能である。一例として、上記ポリチオールの塩としてアルカリ金属塩を得る態様について、以下に説明する。
【0037】
ポリチオールのアルカリ金属塩とは、工程2で得られたイソチウロニウム塩が加水分解された結果、分子末端にチオール基のアルカリ金属塩(−SM;Mはアルカリ金属原子を表す)が導入された構造を有する。例えば、ポリチオール化合物(5)の骨格を有するイソチウロニウム塩を、塩基として水酸化ナトリウムを用いて加水分解することにより、下記反応スキーム例6に示すポリチオールのアルカリ金属塩(ナトリウム塩)を得ることができる。
【0038】
【化16】
【0039】
また、ポリチオール化合物(4)の骨格を有するイソチウロニウム塩を、塩基として水酸化ナトリウムを用いて加水分解することにより、下記反応スキーム例7に示すポリチオールのアルカリ金属塩(ナトリウム塩)を得ることができる。
【0040】
【化17】
【0041】
上記反応スキーム例6、7では、塩基として水酸化ナトリウムを用いる例を示したが、工程4で用いる塩基は水酸化ナトリウムに限定されるものではなく、各種塩基を用いることができる。塩基は、好ましくは無機塩基である。無機塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等を例示できる。塩基の添加形態は特に限定されないが、塩基を水溶液として添加することが好ましい。水溶液として塩基を添加することにより、塩基の存在下、この水溶液に含まれている水により上記イソチウロニウム塩を加水分解することができる。上記水溶液における塩基濃度は、特に限定されるものではなく、例えば 10〜60質量%程度とすることができる。工程2が酸存在下で行われた場合、工程3において塩基を、工程2で用いた酸1.0モルに対して、例えば1.0〜4.0モル、好ましくは1.0〜3.0モル、より好ましくは1.2〜2.0モルの割合で用いることができる。なお工程2の反応後の上記イソチウロニウム塩を含む反応液には、有機溶媒を加えることができる。また有機溶媒は、工程2の反応後のどの段階でも任意に添加することができる。有機溶媒の添加量は、例えば、工程2の反応後の反応液の量に対して、体積基準で0.2〜3.0倍量程度とすることができる。有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等を挙げることができ、トルエンが好ましい。工程3における反応温度は、例えば10〜80℃程度とすることができ、反応時間は、例えば1〜10時間程度とすることができる。
【0042】
<工程4>
次に、工程4について説明する。
工程4は、工程3で得られたポリチオールの塩をポリチオールに転換する工程である。ポリチオールへの転換は、好ましくは酸によって行うことができる。工程3で得られたポリチオールの塩をポリチオールに転換することにより、式(4)で表されるポリチオール化合物、式(5)で表されるポリチオール化合物、式(6)で表されるポリチオール化合物および式(7)で表されるポリチオール化合物からなる群から選択される一種以上のポリチオール化合物を得ることができる。例えば、反応スキーム例6に示したポリチオールナトリウム塩を、酸として塩化水素(HCl)を用いてポリチオールに転換して式(5)で表されるポリチオール化合物を得る反応スキーム例8を、以下に示す。
【0043】
【化18】
【0044】
また、反応スキーム例6に示したポリチオールナトリウム塩を、酸として塩化水素(HCl)を用いてポリチオールに転換して式(4)で表されるポリチオール化合物を得る反応スキーム例9を、以下に示す。
【0045】
【化19】
【0046】
上記反応スキーム例8、9では、酸として塩化水素を用いる例を示したが、工程4で用いる酸は塩化水素に限定されるものではなく、各種無機酸および有機酸を用いることができる。工程4で用いる酸の詳細については、工程2における酸について記載した通りである。工程4における酸によるポリチオールへの転換は、好ましくは酸を水溶液として用いて行うことができ、より好ましくは酸洗浄により行うことができる。酸洗浄の後に水洗浄を行うことが好ましく、酸洗浄を2回またはそれ以上行い、酸洗浄の間に水洗を行うことがより好ましい。工程4を行う環境の雰囲気温度は特に限定されるものではない。工程4は、例えば雰囲気温度10〜60℃、好ましくは20〜45℃の環境下で行うことができる。また、いずれかの工程において有機溶媒を用いた場合には、公知の方法で、工程4の後の反応液から有機溶媒を留去する工程を行ってもよい。その他、濾過、蒸留等の後工程を公知の方法で行うこともできる。
【0047】
上記の各工程は、大気中で行うことができ、大気中以外の雰囲気下、例えば窒素雰囲気下で行うこともできる。
【0048】
以上記載した工程により、式(4)で表されるポリチオール化合物、式(5)で表されるポリチオール化合物、式(6)で表されるポリチオール化合物および式(7)で表されるポリチオール化合物を一種、または二種以上の混合物として得ることができる。なおポリチオール化合物の着色の程度は、例えば、JIS Z8781−4:2013に規定されているb*値により評価することができる。b*値は、値が小さいほど着色が少ないことを示す。本発明の一態様にかかるポリチオール化合物の製造方法によれば、例えばb*値が1.4以下(例えば0.5〜1.4)のポリチオール化合物を得ることができる。工程4によりポリチオール化合物が二種以上の混合物として得られた場合、公知の単離方法により各ポリチオール化合物を単離してもよく、混合物として各種樹脂の合成原料として用いてもよい。本発明の一態様にかかるポリチオール化合物の製造方法により得られる式(4)、(5)、(6)、(7)で表されるポリチオール化合物は、いずれも1分子中に3個または4個のチオール基を有する多官能ポリチオール化合物である。かかる多官能ポリチオール化合物が、ポリイソ(チオ)シアネート化合物と硬化反応して得られる硬化物(ポリチオウレタン系樹脂)は、高屈折率、高耐熱性等の、眼鏡レンズ等の光学部材として好ましい各種物性を有することができる。
【0049】
[硬化性組成物および硬化物]
本発明の一態様は、上記製造方法によって得られたポリチオール化合物と、ポリイソ(チオ)シアネート化合物と、を含む硬化性組成物に関する。
更に本発明の一態様は、上記硬化性組成物を硬化した硬化物に関する。
上記硬化性組成物および硬化物については、以下の硬化性組成物の製造方法および硬化物の製造方法に関する記載を参照することができる。
【0050】
[硬化性組成物の製造方法]
本発明の一態様は、
上記の本発明の一態様にかかるポリチオール化合物の製造方法によりポリチオール化合物を製造すること;および、
製造されたポリチオール化合物をポリイソ(チオ)シアネート化合物と混合して硬化性組成物を調製すること、
を含む硬化性組成物の製造方法、
に関する。上記製造方法により得られる硬化性組成物を硬化することにより、硬化物として、眼鏡レンズ等の光学部材の材料として有用なポリチオウレタン系樹脂を得ることができる。以下に、上記硬化性組成物の製造方法について、更に詳細に説明する。
【0051】
ポリチオール化合物を製造する工程の詳細は、先に本発明の一態様にかかるポリチオール化合物の製造方法について記載した通りである。こうして製造されたポリチオール化合物を、ポリイソ(チオ)シアネート化合物と混合することにより、硬化性組成物を調製することができる。本発明および本明細書において、「ポリイソ(チオ)シアネート化合物」とは、ポリイソシアネート化合物とポリイソチオシアネート化合物とを包含する意味で用いるものとする。なお、イソシアネートはイソシアナートと呼ばれることもあり、イソチオシアネートはイソチオシアナートと呼ばれることもある。また、「イソ(チオ)シアネート基」とは、イソシアネート基(−N=C=O)とイソチオシアネート基(−N=C=S)とを包含する意味で用いるものとする。「ポリイソ(チオ)シアネート化合物」とは、イソ(チオ)シアネート基を1分子中に2個以上有する多官能化合物である。ポリチオール化合物とポリイソ(チオ)シアネート化合物とを硬化反応させることにより、ポリチオール化合物が有するチオール基と、ポリイソ(チオ)シアネート化合物が有するイソ(チオ)シアネート基とが反応し、分子内に以下の結合:
【化20】
を有する反応生成物を得ることができる。上記において、Zは酸素原子または硫黄原子である。チオール基がイソシアネート基と反応することによりXが酸素原子の上記結合が形成され、イソチオシアネート基と反応することによりXが硫黄原子の上記結合が形成される。本発明および本明細書では、上記結合を1分子中に複数含む反応生成物(樹脂)を、「ポリチオウレタン系樹脂」と記載する。
【0052】
ポリイソ(チオ)シアネート化合物としては、脂肪族ポリイソ(チオ)シアネート化合物、脂環族ポリイソ(チオ)シアネート化合物、芳香族ポリイソ(チオ)シアネート化合物等の各種ポリイソ(チオ)シアネート化合物を用いることができる。ポリイソ(チオ)シアネート化合物の1分子中に含まれるイソ(チオ)シアネート基の数は、2個以上であり、好ましくは2〜4個であり、より好ましくは2個または3個である。ポリイソ(チオ)シアネート化合物の具体例としては、例えば特許第5319037号公報段落0052にポリイソ(チオ)シアナート化合物として例示されている各種化合物を挙げることができる。好ましいポリイソ(チオ)シアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,5−ペンタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,5−ビス(イソシアナトメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6−ビス(イソシアナトメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、ビス(4−イソシアナトシクロへキシル)メタン、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等の脂肪族ポリイソシアネート化合物;ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、m−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、1,3−ジイソシアナトベンゼン、トリレンジイソシアネート、2,4−ジイソシアナトトルエン、2,6−ジイソシアナトトルエン、4,4'−メチレンビス(フェニルイソシアネート)等の芳香族ポリイソシアネート化合物を挙げることができる。更に、上記ポリイソ(チオ)シアネート化合物の塩素置換体、臭素置換体等のハロゲン置換体、アルキル置換体、アルコキシ置換体、ニトロ置換体や多価アルコールとのプレポリマー型変性体、カルボジイミド変性体、ウレア変性体、ビュレット変性体、ダイマー化またはトリマー化反応生成物等も使用できる。これらの化合物は単独で使用してもよく、二種以上を混合して使用してもよい。
【0053】
上記硬化性組成物は、上記ポリチオール化合物をポリイソ(チオ)シアネート化合物と混合することにより調製することができる。上記硬化性組成物におけるポリチオール化合物とポリイソ(チオ)シアネート化合物との混合割合は、特に限定されないが、例えば、モル比として、ポリチオール化合物に含まれるチオール基/ポリイソ(チオ)シアネート化合物に含まれるイソ(チオ)シアネート基=0.5〜3.0の範囲、好ましくは0.6〜2.0、更に好ましくは0.8〜1.3の範囲とすることができる。混合割合を上記範囲とすることは、高屈折率、高耐熱性等の各種優れた物性を有する硬化物を提供可能な硬化性組成物を得るうえで好ましい。また、一態様では、上記硬化性組成物は、上記ポリチオール化合物を、硬化性組成物全量100質量%に対して、例えば40質量%以上(例えば40〜70質量%)含むことができる。
【0054】
上記硬化性組成物の調製時に、上記ポリチオール化合物およびポリイソ(チオ)シアネート化合物以外の一種以上の他の成分を混合してもよい。そのような他の成分の具体例としては、例えば、ポリチオール化合物とポリイソ(チオ)シアネート化合物との硬化反応の反応触媒等を例示できる。混合してもよい他の成分については、例えば特許第5319037号公報段落0055、0057、0058〜0064を参照できる。また、一般にポリチオウレタン系樹脂等の各種樹脂の添加剤として市販されている添加剤の一種以上を用いることもできる。上記硬化性組成物の調製は、以上説明した各種成分を同時に、または任意の順序で順次、混合して行うことができる。調製方法は特に限定されるものではなく、硬化性組成物の調製方法として公知の方法を、何ら制限なく採用することができる。
【0055】
[硬化物の製造方法]
本発明の一態様は、
上記の本発明の一態様にかかる硬化性組成物の製造方法によって硬化性組成物を製造すること;および
製造された硬化性組成物を硬化して硬化物を得ること、
を含む硬化物の製造方法、
に関する。以下に、上記硬化物の製造方法について、更に詳細に説明する。
【0056】
上記硬化性組成物を製造する工程の詳細は、先に本発明の一態様にかかる硬化性組成物の製造方法について記載した通りである。こうして製造された硬化性組成物を硬化することにより、硬化物として、眼鏡レンズ等の光学部材の材料として有用なポリチオウレタン系樹脂を得ることができる。本発明者の検討によれば、上記の本発明の一態様にかかるポリチオール化合物の製造方法により得られたポリチオール化合物を合成原料として用いることにより、着色が低減されたポリチオウレタン系樹脂が得られることも明らかとなった。樹脂の着色の程度は、例えばJIS K 7373:2006に規定されているYI値により評価することができる。YI値は、値が小さいほど着色が少ないことを示す。本発明の一態様にかかるポリチオール化合物の製造方法により得られたポリチオール化合物を合成原料として用いることにより、例えばYI値が1.80以下(例えば0.50〜1.80)のポリチオウレタン系樹脂(硬化物)を得ることができる。
【0057】
上記ポリチオール化合物とポリイソ(チオ)シアネート化合物との硬化反応は、硬化性組成物を硬化可能な各種硬化処理により行うことができる。例えば、レンズ形状を有する硬化物(「プラスチックレンズ」とも呼ばれる。)を製造するためには、注型重合が好ましい。注型重合では、所定の間隔をもって対向する2つのモールドと、上記間隔を閉塞することにより形成されたキャビティを有する成形型のキャビティへ硬化性組成物を注入し、このキャビティ内で硬化性組成物の重合(硬化反応)を行い硬化物を得ることができる。注型重合に使用可能な成形型の詳細については、例えば特開2009−262480号公報段落0012〜0014および同公報の図1を参照できる。なお上記公報では、2つのモールドの間隔を、封止部材としてガスケットにより閉塞した成形型が示されているが、封止部材としてはテープを用いることもできる。
【0058】
一態様では、注型重合は、次のように行うことができる。硬化性組成物を、成形型側面に設けた注入口から成形型キャビティに注入する。注入後、硬化性組成物を、好ましくは加熱により重合(硬化反応)させることで、硬化性組成物が硬化し、キャビティの内部形状が転写された硬化物を得ることができる。重合条件は、特に限定されるものではなく、硬化性組成物の組成等に応じて適宜設定することができる。一例として、硬化性組成物をキャビティに注入した成形型を、加熱温度20〜150℃で1〜72時間程度加熱することができるが、この条件に限定されるものではない。なお本発明および本明細書において、注型重合に関する加熱温度等の温度とは、成形型が配置される雰囲気温度をいう。また、加熱中に、任意の昇温速度で昇温することができ、任意の降温速度で降温(冷却)することができる。重合(硬化反応)終了後、キャビティ内部の硬化物を成形型から離型する。注型重合において通常行われているように、キャビティを形成している上下モールドとガスケットまたはテープを任意の順序で取り外すことにより、硬化物を成形型から離型することができる。成形型から離型された硬化物は、好ましくは、眼鏡レンズのレンズ基材として用いることができる。なお眼鏡レンズのレンズ基材として用いられる硬化物は、通常、離型後に、アニーリング、丸め工程等の研削工程、研磨工程、耐衝撃性を向上させるためのプライマーコート層、表面硬度を上げるためのハードコート層等のコート層形成工程等の後工程に付すことができる。更に、反射防止層、撥水層等の各種機能性層を、レンズ基材上に形成することができる。これらの工程については、いずれも公知技術を何ら制限なく適用することができる。こうして、レンズ基材が上記硬化物である眼鏡レンズを得ることができる。更に、この眼鏡レンズをフレームに取り付けることにより、眼鏡を得ることができる。
【実施例】
【0059】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。以下に記載の操作および評価は、特記しない限り、大気中室温下(20〜25℃程度)で行った。また、以下に記載の%、部は、特記しない限り質量基準である。
【0060】
実施例、比較例における各種物性の評価は、以下の方法により行った。
【0061】
(1)チオ尿素のチオシアン酸アンモニウム含有率
実施例、比較例において工程2に付すために用いるチオ尿素中のチオシアン酸アンモニウムをHPLC(高速液体クロマトグラフィー)により定量し、定量結果からチオ尿素のチオシアン酸アンモニウム含有率を求めた。HPLCによる測定条件は、以下の通りとした。
測定装置:株式会社島津製作所製Prominence HPLCシステム
カラム:Shodex Asahipak NH2P−50G 4A
長さ:250mm
内径:4.6mm
膜厚:5μm
移動相:リン酸ナトリウム緩衝液
流量:1.0ml/min.
カラム温度:40℃
検出器:紫外可視分光検出器(210nm)
チオ尿素は、上記のHPLCによる定量後、1時間以内に工程2に付した。HPLCによる定量から工程2に付すまでの間にチオシアン酸アンモニウムの含有率は変化しないか変化するとしても変化量はHPLCによる検出限界以下である。
【0062】
(2)ポリチオール化合物の着色評価(b*値)
実施例、比較例で得られたポリチオール化合物のb*値を、株式会社日立製作所製分光光度計U−3500を用いて光路長10mmで測定した。
【0063】
(3)硬化物(ポリチオウレタン系樹脂)の着色評価(YI値)
実施例、比較例で得られた硬化物(0.00D、中心肉厚1.8mm)のYI値を、株式会社村上色彩技術研究所製分光透過率測定器DOT−3を用いて測定した。
【0064】
以下の実施例、比較例において目的のポリチオール化合物が得られたことは、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)およびMS(質量分析)により確認した。
【0065】
[チオ尿素の前処理(チオシアン酸アンモニウム低減処理)]
上記(1)の方法によって市販のチオ尿素のチオシアン酸アンモニウム含有率を求めたところ、0.50質量%であった。
この市販のチオ尿素を再結晶化法により精製してチオシアン酸アンモニウム含有率が異なるチオ尿素を得た。実施例1では、上記の市販のチオ尿素500gを純水2000gに溶解した後に再結晶化法により析出させた析出物を減圧乾燥させて得られたチオ尿素を用いた。上記減圧乾燥後に得られた析出物(チオ尿素)量は392gであり、チオシアン酸アンモニウム含有率は0.01質量%であった。他の実施例および比較例については、上記の再結晶法での処理条件を適宜変更することにより、チオシアン酸アンモニウム含有率が異なるチオ尿素を調製して工程2に用いた。
【0066】
[実施例1]
<ポリチオール化合物の合成>
(式(1)で表されるハロゲン化物の合成)
2−メルカプトエタノール78.1g(1.0モル)とトリエチルアミン2.0gの混合液にエピクロロヒドリン92.5g(1.0モル)を、内温35〜40℃に保ちながら1時間かけて滴下し、内温40℃で1時間熟成を行った。これにより式(1)中のXが塩素原子であるハロゲン化物を得ることができる。なお本実施例ならびに他の実施例および比較例における熟成は、反応液を撹拌して行った。
(工程1)
上記の熟成後の反応液に、硫化ナトリウム9水和物125.0g(0.5モル)を純水100gに溶解した水溶液を、内温40〜45℃に保ちながら1時間かけて滴下し、更に内温45℃で1時間熟成を行った。
(工程2、工程3)
上記工程1の後の反応液に36%塩酸303.8g(3.0モル)とチオ尿素(チオシアン酸アンモニウム含有量:0.01質量%)190.3g(2.5モル)を加えて内温110℃で9時間加熱撹拌した(工程2)。反応液を室温まで冷却後、トルエン400mlを加え、30%水酸化ナトリウム水溶液600.4g(4.5モル)を徐々に加え内温60℃で4時間加水分解を行った(工程3)。
(工程4)
上記工程3の後の反応液を静置して水層と有機層に分離した後、有機層を取り出し、この有機層を36%塩酸100ml、水100mlで2回、順次洗浄した。洗浄後の有機層中のトルエンを、ロータリーエバポレーターにて留去し、目的とするポリチオール化合物を得た。
【0067】
上記の実施例1では、反応スキーム例1、2、4、6、8に示されているように各種反応を進行させることができる。なお反応スキーム例4には式(5)で表されるポリチオール化合物の骨格を有するイソチウロニウム塩が示され、反応スキーム例6では同骨格を有するポリチオールのアルカリ金属塩が示され、反応スキーム例8では式(5)で表されるポリチオール化合物が示されているが、工程2において、先に記載したように転位反応が起こることにより、式(5)で表されるポリチオール化合物の骨格を有するイソチウロニウム塩、式(6)で表されるポリチオール化合物の骨格を有するイソチウロニウム塩、および式(7)で表されるポリチオール化合物の骨格を有するイソチウロニウム塩の混合物を得ることができ、その結果、工程4において、式(5)で表されるポリチオール化合物、式(6)で表されるポリチオール化合物および式(7)で表されるポリチオール化合物の混合物を得ることができる。
【0068】
<プラスチックレンズの作製>
キシリレンジイソシアナート50.6部、硬化触媒としてジメチル錫ジクロライド0.01部、離型剤として酸性リン酸エステル(城北化学工業株式会社製JP−506H)0.20部、紫外線吸収剤(シプロ化成株式会社製シーソーブ701)0.50部を混合、溶解させた。更に、上記で得られたポリチオール化合物49.4部を添加混合し、混合液とした。この混合液を200Paにて1時間脱泡を行った後、孔径5.0μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルターにて濾過を行った。濾過後の混合液(硬化性組成物)を、直径75mm、−4.00Dまたは0.00Dのガラスモールドとテープからなるレンズ用成形型へ注入した。この成形型を電気炉へ投入し、15℃から120℃まで20時間かけて徐々に昇温し、2時間保持して重合(硬化反応)させた。重合終了後、電気炉から成形型を取り出し、離型して硬化物(プラスチックレンズ)を得た。得られたプラスチックレンズを更に炉内温度120℃のアニール炉において3時間アニールを行った。
【0069】
[実施例2、3、比較例1、2]
工程2において下記表1に示すチオシアン酸アンモニウム含有率のチオ尿素を使用した点以外、実施例1と同様にポリチオール化合物の合成および硬化物の作製を行った。
【0070】
【表1】
【0071】
[実施例4]
<ポリチオール化合物の合成>
(式(1)で表されるハロゲン化物の合成)
2−メルカプトエタノール78.1g(1.0モル)とトリブチルアミン2.0gの混合液に、エピクロロヒドリン46.3g(0.5モル)を、内温を35〜40℃に保ちながら1時間かけて滴下し、内温40℃で1時間熟成を行った。
(工程1)
上記の熟成後の反応液に、45%水酸化ナトリウム水溶液44.4g(0.5モル)を、内温を40〜45℃に保ちながら1時間かけて滴下し、内温を80℃に昇温後、1時間熟成を行った。
(工程2、3)
上記工程1の後の反応液に36%塩酸303.8g(3.0モル)とチオ尿素(チオシアン酸アンモニウム含有量:0.01質量%)114.2g(1.5モル)を加えて内温110℃で2時間加熱撹拌した(工程2)。反応液を室温まで冷却後、トルエン200mlを加え、45%水酸化ナトリウム水溶液266.7g(3.0モル)を徐々に加え反応液を60℃で4時間加水分解を行った(工程3)。
(工程4)
上記工程3の後の反応液を静置して水層と有機層に分離した後、有機層を取り出し、この有機層を36%塩酸100ml、水100mlで2回、順次洗浄した。洗浄後の有機層中のトルエンを、ロータリーエバポレーターにて留去し、目的とするポリチオール化合物を得た。
【0072】
上記の実施例4では、反応スキーム例1、3、5、7、9に示されているように各種反応を進行させることができる。
【0073】
<プラスチックレンズの作製>
キシリレンジイソシアナート52.0部、硬化触媒としてジメチル錫ジラウレート0.05部、離型剤として酸性リン酸エステル(城北化学工業株式会社製JP−506H)0.20部、紫外線吸収剤(シプロ化成株式会社製シーソーブ701)0.50部を混合、溶解させた。更に、上記で得られたポリチオール化合物48.0部を添加混合し、混合液とした。この混合液を200Paにて1時間脱泡を行った後、孔径5.0μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルターにて濾過を行った。濾過後の混合液(硬化性組成物)を、直径75mm、−4.00Dまたは0.00Dのガラスモールドとテープからなるレンズ用成形型へ注入した。この成形型を電気炉へ投入し、30℃から120℃まで20時間かけて徐々に昇温し、2時間保持して重合(硬化反応)させた。重合終了後、電気炉から成形型を取り出し、離型して硬化物(プラスチックレンズ)を得た。得られたプラスチックレンズを更に炉内温度120℃のアニール炉において3時間アニールを行った。
【0074】
[実施例5、6、比較例3、4]
工程2において下記表2に示すチオシアン酸アンモニウム含有率のチオ尿素を使用した点以外、実施例4と同様にポリチオール化合物の合成および硬化物の作製を行った。
【0075】
【表2】
【0076】
表1および表2に示す結果から、上記工程2においてチオシアン酸アンモニウムの含有率が0.05質量%以下のチオ尿素を用いることにより着色が低減されたポリチオール化合物を得ることができること、更には、かかるポリチオール化合物を用いることにより着色が低減されたプラスチックレンズを得ることができることが確認できる。
【0077】
最後に、前述の各態様を総括する。
【0078】
一態様によれば、式(1)で表されるハロゲン化物をアルカリ金属硫化物およびアルカリ金属水酸化物からなる群から選択されるアルカリ金属化合物と反応させて、式(2)で表されるポリオール化合物および式(3)で表されるポリオール化合物からなる群から選択されるポリオール化合物を得ること、上記ポリオール化合物をチオ尿素と反応させてイソチウロニウム塩を得ること、上記イソチウロニウム塩を加水分解することによってポリチオールの塩を得ること、ならびに上記ポリチオールの塩をポリチオールに転換することによって式(4)で表されるポリチオール化合物、式(5)で表されるポリチオール化合物、式(6)で表されるポリチオール化合物および式(7)で表されるポリチオール化合物からなる群から選択される一種以上のポリチオール化合物を得ることを含み、上記チオ尿素のチオシアン酸アンモニウムの含有率が0.05質量%以下であるポリチオール化合物の製造方法が提供される。
【0079】
上記のポリチオール化合物の製造方法によれば、着色が低減されたポリチオール化合物を提供することができる。
【0080】
一態様では、上記アルカリ金属化合物は、硫化ナトリウムおよび水酸化ナトリウムからなる群から選択されるアルカリ金属化合物であることができる。
【0081】
一態様では、上記ポリチオールの塩は、ポリチオールのアルカリ金属塩およびポリチオールのアンモニウム塩からなる群から選択される塩であることができる。
【0082】
他の一態様によれば、上記製造方法によってポリチオール化合物を製造すること、および製造されたポリチオール化合物をポリイソ(チオ)シアネート化合物と混合して硬化性組成物を調製すること、を含む硬化性組成物の製造方法も提供される。
【0083】
上記硬化性組成物の製造方法によれば、着色が低減された硬化物を提供することが可能な硬化性組成物を得ることができる。
【0084】
他の一態様によれば、上記製造方法によって硬化性組成物を製造すること、および製造された硬化性組成物を硬化して硬化物を得ること、を含む硬化物の製造方法も提供される。
【0085】
上記硬化物の製造方法によれば、着色が低減された硬化物を提供することができる。
【0086】
一態様では、上記の製造された硬化性組成物を硬化して硬化物を得ることは、上記硬化性組成物を注型重合に付すことにより行うことができる。
【0087】
一態様では、上記硬化物は眼鏡レンズ基材であることができる。
【0088】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0089】
本発明の一態様は、眼鏡レンズ等の各種光学部材の製造分野において有用である。