特許第6797922号(P6797922)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6797922
(24)【登録日】2020年11月20日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】車両用ばねの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60G 21/055 20060101AFI20201130BHJP
   F16F 1/14 20060101ALI20201130BHJP
   F16F 1/16 20060101ALI20201130BHJP
   F16F 1/38 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   B60G21/055
   F16F1/14
   F16F1/16
   F16F1/38 F
   F16F1/38 G
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-531776(P2018-531776)
(86)(22)【出願日】2017年6月29日
(86)【国際出願番号】JP2017023853
(87)【国際公開番号】WO2018025543
(87)【国際公開日】20180208
【審査請求日】2018年11月20日
【審判番号】不服2020-3169(P2020-3169/J1)
【審判請求日】2020年3月6日
(31)【優先権主張番号】特願2016-153117(P2016-153117)
(32)【優先日】2016年8月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅野 純
【合議体】
【審判長】 島田 信一
【審判官】 出口 昌哉
【審判官】 藤井 昇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−96116(JP,A)
【文献】 特開2016−49965(JP,A)
【文献】 特開2010−228020(JP,A)
【文献】 特開2015−190538(JP,A)
【文献】 特開2016−49805(JP,A)
【文献】 特開2002−264625(JP,A)
【文献】 実開平1−175906(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00 - 99/00
F16F 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材からなるバー本体(40)(102)と該バー本体(40)(102)を覆う塗装膜(41)(103)とを含むバー部材(20)(101)と、該バー部材(20)(101)の取付部(20a)に設けるゴム部材(60)(110)とを有した車両用ばね(10)(100)、の製造方法であって、
前記バー本体(40)(102)の表面にショット粒を打付けることによって前記バー本体(40)(102)の表面に多数のショットピーニング痕(71)からなる粗面(72)を形成し、
前記バー本体(40)(102)の表面に水との接触角が65°を越える樹脂によって、第1の表面粗さの前記塗装膜(41)(103)を形成することにより前記粗面(72)を覆い、
前記取付部(20a)の前記塗装膜(41)(103)の接触角を小さくするプラズマ処理によって前記取付部(20a)の前記塗装膜(41)(103)を第2の表面粗さに変化させるとともに接触角を65°以下に変化させ、
前記ゴム部材(60)(110)の被接着面(64)(65)に未硬化の液状の接着剤(70)を塗布し、
前記バー部材(20)(101)の前記取付部(20a)を含む領域を加熱したのち、
前記バー部材(20)(101)の前記取付部(20a)に前記ゴム部材(60)(110)の被接着面(64)(65)を重ね、
前記ゴム部材(60)(110)を前記取付部(20a)に加圧した状態において前記バー部材(20)(101)の熱を前記接着剤(70)に与え前記接着剤(70)をキュアすることにより、
前記ショットピーニング痕(71)からなる前記粗面(72)と前記ゴム部材(60)(110)との間に、接触角が65°以下の前記塗装膜(41)(103)と前記接着剤(70)とを挟んだ状態で、前記バー本体(40)(102)に前記ゴム部材(60)(110)を接着させること、
を具備したことを特徴とする車両用ばねの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の懸架機構部に配置されるスタビライザやコイルばね等の車両用ばねの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の懸架機構部に配置されるスタビライザバーは、例えば特許文献1あるいは特許文献2に記載されているように、車両の幅方向に延びるトーション部と、トーション部の両端に曲がり部を介して連なる一対のアーム部(腕部)と、各アーム部の先端に形成された目玉部を有している。スタビライザバーは、鋼材からなるバー本体と、バー本体を覆う塗装膜とを含んでいる。
【0003】
スタビライザバーのトーション部は、ゴムブッシュを介して車体に支持されている。前記目玉部はスタビリンク等の接続部材を介してサスペンションアーム等に接続されている。この種のスタビライザバーは、車体のローリング挙動に対して前記アーム部や曲がり部およびトーション部がばねとして機能することにより、車両のロール剛性を高めることができる。
【0004】
スタビライザの種類によっては、ゴムブッシュをスタビライザバーに接着するタイプ(ブッシュ接着タイプ)と、ゴムブッシュをスタビライザバーに接着しないタイプ(ブッシュ非接着タイプ)とが知られている。ブッシュ接着タイプでは、スタビライザバーがねじられたときにゴムブッシュもねじられて弾性変形する。ブッシュ接着タイプのスタビライザバーの場合、何らかの原因によりゴムブッシュとスタビライザバーとの接着面が剥がれると、スタビライザバーとしての所定の性能を発揮できなくなったり、ゴムブッシュとスタビライザバーとが互いに擦れることにより異音が発生したりする。またゴムブッシュの端面付近に剥離が生じると、剥がれた個所から硬い微粒子や腐食性の液が侵入したときに剥離が拡大したり、塗装膜が傷ついて錆の原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平1−175906号公報
【特許文献2】特開2002−264625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スタビライザバーとゴムブッシュとが互いに十分な強度で接着されている場合、剥離試験を行うと、接着面が剥がれずにゴムブッシュ自体が破断する。従来の接着方法の一例では、接着強度(剥離強度)を高めるために、スタビライザバーとゴムブッシュとの間にプライマを設けていた。しかし樹脂製の塗装膜とプライマとの接着面の条件次第では、接着面の一部が剥がれることがあった。従来の接着方法の他の例では、プライマを用いずに接着剤のみによってゴムブッシュを塗装膜に接着させることもある。しかしプライマを用いない場合には、接着面が容易に剥がれることがある。
【0007】
そこでサンドペーパ等の研磨部材によって塗装膜の接着面を荒らしたり、塗装膜の表面にレーザビームを照射することによって接着面に多数の微小な凹部(傷)を形成したりして、表面粗さを大きくすることによって接着剤を剥がれにくくすることも行われている。しかしこのような凹部を形成すると、塗装膜の厚さが局部的に薄い個所が生じる。極端な場合には塗装膜が存在しない個所が生じ、鋼材の表面が露出した状態となって錆が生じる原因となる。
【0008】
従って本発明の目的は、スタビライザバー等のバー部材の取付部にゴムブッシュ等のゴム部材を強固に接着することができる車両用ばねの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1つの実施形態は、バー部材と該バー部材の取付部に設けるゴム部材とを有する車両用ばねの製造方法であって、鋼材からなるバー本体の表面にショット粒を打付けることによって前記バー本体の表面に多数のショットピーニング痕からなる粗面を形成し、バー本体の表面に水との接触角が65°を越える樹脂によって塗装膜を形成する工程と、前記塗装膜の接触角を小さくする表面処理によって前記取付部の接着面の接触角を65°以下に変化させる工程と、前記ゴム部材または前記バー部材の前記取付部に未硬化の液状の接着剤を塗布する工程と、前記取付部に前記ゴム部材の被接着面を重ね、前記ゴム部材を前記取付部に加圧した状態において前記接着剤をキュアすることにより、前記ショットピーニング痕からなる前記粗面と前記ゴム部材との間に、前記接着面の接触角が65°以下の前記塗装膜と前記接着剤とを挟んだ状態で、前記バー本体に前記ゴム部材を接着させる工程とを含んでいる。
【0010】
本実施形態の製造方法において、前記接着剤を塗布する工程では、前記ゴム部材の前記被接着面に前記接着剤を塗布してもよい(バー部材には接着剤を塗布しない)。そして前記バー部材の前記取付部を含む領域を例えば高周波誘導加熱によって加熱したのち、前記ゴム部材の前記被接着面を前記取付部に重ねた状態において、前記バー部材の熱によって前記接着剤をキュアしてもよい。
【0011】
あるいは、前記接着剤を塗布する工程では、前記バー部材の前記取付部に前記接着剤を塗布してもよい(ゴム部材には接着剤を塗布しない)。そして前記バー部材の前記取付部に前記ゴム部材の前記被接着面を重ねた状態において前記バー部材を加熱し、前記ゴム部材を前記取付部に加圧した状態において前記取付部に伝わる熱により前記接着剤をキュアしてもよい。
【0012】
前記ゴム部材の材料は天然ゴムでもよいし、ブタジエンゴムやスチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ウレンタンゴム等の合成ゴムから選択されたゴムでもよく、あるいはウレタンエラストマ等の弾性を有する合成樹脂であってもよい。
【0013】
1つの実施形態に係る車両用ばねは、鋼材からなるバー本体と該バー本体を覆う塗装膜とを含むバー部材と、前記バー部材の長手方向の一部の取付部に設けたゴム部材とを有する車両用ばねであって、前記バー本体の表面に形成されたショットピーニング痕からなる粗面と、前記粗面を覆う前記塗装膜と、前記取付部の前記塗装膜と前記ゴム部材の被接着面との間に設けた接着剤と、前記塗装膜の表面のうち前記取付部を除く領域で水との接触角が65°を越える第1の部分と、前記塗装膜の表面の一部で前記取付部の接着面に存しかつ前記第1の部分の表面粗さ曲線の凹凸の最大高さと波長と比較して最大高さと波長が小さい微小凹凸を含む第2の部分とを有し、前記第2の部分の表面粗さ曲線の最大高さが前記塗装膜の厚さよりも小さく、前記ショットピーニング痕からなる前記粗面と前記ゴム部材との間に、前記接触角が65°以下の前記塗装膜と前記接着剤とを具備している。
【0014】
本実施形態の好ましい例では、前記バー本体の表面にショットピーニング痕からなる粗面を有し、該粗面が前記塗装膜で覆われ、かつ、前記第2の部分の表面粗さ曲線の最大高さが前記塗装膜の厚さよりも小さい。また前記第2の部分の表面粗さ曲線の最大高さが、前記第1の部分の表面粗さ曲線の最大高さよりも小さい。
【0015】
前記バー部材の一例は、車両の懸架機構部に配置されるスタビライザバーであり、前記ゴム部材の一例がスタビライザバーに取付けるゴムブッシュである。また前記バー部材の一例が車両の懸架用コイルばねの素線(ワイヤ)であり、前記ゴム部材の一例が前記懸架用コイルばねの座巻部に取付けるインシュレータ部材であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来のようにサンドペーパ等の研磨部材によって塗装膜の接着面を荒らしたり、レーザビームの照射によって塗装膜に多数の凹部を形成したりする場合に問題となっていた塗装膜の損傷を回避することができる。このため所定の厚さの塗装膜が確保された状態のもとで、バー部材にゴム部材を強固に接着することができる。しかも雨水等の外部環境にさらされる塗装膜の露出面(第1の部分)の接触角が65°を越える撥水性を有しているため、耐水性に優れた車両用ばね部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、車両の一部とスタビライザを模式的に示す斜視図である。
図2図2は、第1の実施形態に係るスタビライザの一部の斜視図である。
図3図3は、同スタビライザの一部の軸線方向に沿う断面図である。
図4図4は、同スタビライザの一部を拡大して示す断面図である。
図5図5は、同スタビライザのゴムブッシュをスタビライザバーに取付ける前の状態を示す斜視図である。
図6図6は、同スタビライザのスタビライザバーと塗装膜の一部を拡大して示す断面図である。
図7図7は、同スタビライザのゴムブッシュをスタビライザバーに接着する工程の第1の例を表した図である。
図8図8は、塗装膜の表面粗さ曲線とプラズマ処理装置を模式的に表した図である。
図9図9は、図5に示されたゴムブッシュの第1ブッシュ片と第2ブッシュ片とを並べた状態の斜視図である。
図10図10は、スタビライザバーを加熱する加熱装置の一例を模式的に表した断面図である。
図11図11は、第2の実施形態に係るゴムブッシュの斜視図である。
図12図12は、ゴムブッシュをスタビライザバーに取付ける工程の第2の例を表した図である。
図13図13は、第3の実施形態に係る懸架用コイルばねの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に第1の実施形態に係るスタビライザと、スタビライザのゴムブッシュ接着方法について、図1から図10を参照して説明する。スタビライザは車両用ばねの一例である。ゴムブッシュはゴム部材の一例である。
【0019】
図1は、スタビライザ10を備えた車両11の一部を示している。スタビライザ10は車両11の懸架機構部に配置されている。スタビライザ10は、車両11の車体12の幅方向(矢印Wで示す方向)に延びるスタビライザバー20と、スタビライザバー20に設けられた一対のブッシュユニット21,22とを備えている。スタビライザバー20は、バー部材の一例である。
【0020】
スタビライザバー20は、車体12の幅方向(矢印Wで示す方向)に沿うトーション部30と、トーション部30の両端からそれぞれ曲がり部31,32を介して連なるアーム部33,34とを含んでいる。アーム部33,34の先端にそれぞれ目玉部35,36が形成されている。目玉部35,36は、スタビリンク等の接続部材37,38を介して、例えば懸架機構部のサスペンションアームに接続される。
【0021】
スタビライザバー20のトーション部30は、ブッシュユニット21,22を介して、例えば車体12の一部(クロスメンバ等)に支持される。車両11がカーブを走行する際などにアーム部33,34に互いに逆相の力が入力すると、曲がり部31,32に曲げとねじりの力がかかる。そしてトーション部30がねじられるなどして反発荷重が発生することにより、車体12のローリング挙動が抑制される。
【0022】
図2は、スタビライザバー20の一部と、一方のブッシュユニット21を示している。図3は、スタビライザバー20の一部とブッシュユニット21の軸線方向に沿う断面図である。ブッシュユニット21は、スタビライザバー20の長手方向の一部の取付部20aに固定されている。図4は、図3中にF4で示された部分を拡大した断面図である。
【0023】
スタビライザバー20は、ばね鋼等の鋼材からなるバー本体40と、バー本体40の表面を覆う塗装膜41とを含んでいる。塗装膜41は防錆を主たる目的とし、かつ外観品質も考慮して、着色された例えばエポキシ系の塗料からなり、粉体静電塗装またはカチオン塗装によって、バー本体40の表面に10〜150μmの厚さに形成されている。必要に応じて塗装膜41の厚さが150〜500μmであってもよい。塗装膜41の材料は、エポキシ樹脂以外に、ポリエステルあるいはエポキシとポリエステルの混合樹脂、ポリエチレン等であってもよい。塗装膜41に対する水の接触角は、65°を越えている。
【0024】
本実施形態のバー本体40の材料は中空の鋼材(鋼管)であり、曲げ加工機によって曲げることにより、所定の形状に成形されている。鋼材の一例は、焼入れ等の熱処理によって強度を向上させることのできる鋼種である。鋼材の両端を鍛造等の塑性加工によって潰すことにより、目玉部35,36が形成されている。バー本体40の材料として、中空の鋼材と中実の鋼材とをつなぎ合わせたものが使用されてもよい。
【0025】
スタビライザバー20は平面的な形状に限ることはなく、3次元的な曲げ形状も含めて、トーション部30に1箇所以上の曲げ部、あるいはアーム部33,34に1箇所以上の曲げ部を有していてもよい。また、曲がり部31,32が3次元的な曲げ形状を有していてもよい。なお中実のスタビライザの場合には、材料に中実の鋼材からなるバー本体が使用される。
【0026】
一対のブッシュユニット21,22は互いに共通の構成であるため、以下に一方のブッシュユニット21を代表して説明する。このブッシュユニット21は、金属製のブラケット50と、ブラケット50の内側に配置されたゴムブッシュ60とを備えている。ゴムブッシュ60にはスタビライザバー20が通る孔63が形成されている。
【0027】
ブラケット50は、ゴムブッシュ60を抱え込む形状の略U形のカバー部50aと、カバー部50aの両側に形成された一対の腕部50b,50cとを有している。腕部50b,50cには、それぞれボルト51,52を挿入するための孔53,54が形成されている。このブッシュユニット22は、ボルト51,52によって車両の下側または上側から懸架機構部に取付けられる。
【0028】
図5は2分割形のゴムブッシュ60を示している。すなわちこのゴムブッシュ60は、一対の第1ブッシュ片61と第2ブッシュ片62とからなる。第1ブッシュ片61と第2ブッシュ片62との互いの対向面に、それぞれ、スタビライザバー20のトーション部30の外径に応じた曲率半径の内面64,65が形成されている。内面64,65は、それぞれスタビライザバー20に対する被接着面でもある。
【0029】
第1ブッシュ片61は一対の端面66,67を有している。第2ブッシュ片62も一対の端面68,69を有している。第1ブッシュ片61と第2ブッシュ片62とはゴム弾性を有する材料、例えばNRとIIRの混練りゴム(天然ゴムと、ブチルゴム等の合成ゴムとのブレンドゴム)からなる。なおゴムブッシュ60の分割数は2以外であってもよい。またゴムブッシュ60の内部に剛性等を調整するために鉄板あるいは合成樹脂製の芯材がインサートされていてもよい。
【0030】
スタビライザバー20とブッシュ片61,62の内面(被接着面)64,65との間に接着剤70が設けられている。接着剤70の厚さは10〜70μmである。接着剤70はポリオレフィン系の樹脂と溶剤とからなり、例えば140〜170℃の温度で加熱することにより硬化する。接着剤70は加硫接着剤でもよいし、例えばアクリル系等の構造用接着剤であってもよい。接着剤70の厚さが前記範囲よりも薄いと、接着不良を生じやすくなる。逆に接着剤70の厚さが前記範囲よりも厚いと、接着に要する工程時間が長くなりかつ接着剤70の使用量が多くなる。
【0031】
図2に示されるように、第1ブッシュ片61の内面64と第2ブッシュ片62の内面65との間にスタビライザバー20を挟んだ状態において、接着剤70を介してブッシュ片61,62がスタビライザバー20に固定されている。第1ブッシュ片61と第2ブッシュ片62とは、ブラケット50のカバー部50aによって覆われている。
【0032】
図5に示されるように、第1ブッシュ片61と第2ブッシュ片62とは、スタビライザバー20の長手方向の一部の取付部20aに、接着剤70によって固定される。取付部20aの長さL1は、ゴムブッシュ60の長さL2(図3に示す)と同等である。スタビライザバー20の表面は、取付部20aを含む長手方向の全域にわたり、塗装膜41によって覆われている。
【0033】
図6は、バー本体40の一部と塗装膜41の一部を拡大して示す断面図である。塗装膜41には、リン酸亜鉛被膜等の化成被膜が含まれている。バー本体40の表面に、多数のショットピーニング痕71からなる粗面72が形成されている。この粗面72が塗装膜41によって覆われている。ショットピーニング痕71は、ショットピーニング機によってバー本体40の表面に多数のショット粒を打付けることにより形成される。ショットピーニングによって、バー本体40の表面から例えば0.1〜0.3mm程度の深さまで圧縮残留応力が付与される。粗面72の表面粗さは、表面粗さ曲線の最大高さが例えば100μm以下である。必要に応じて、表面粗さや圧縮残留応力の深さがバー本体40の長手方向に変化していてもよい。バー本体40の表面に粗面72が形成されているため、塗装膜41を強固にバー本体40に固定することができる。
【0034】
以下に、スタビライザバー20にゴムブッシュ60を接着する工程の第1の例について、図7から図10を参照して説明する。なおスタビライザバー20の表面には、予め行われた塗装工程(粉体静電塗装またはカチオン塗装)によって塗装膜41が形成されている。塗装膜41の材料は例えばエポキシ系の樹脂である。粉体静電塗装の際にバー本体40の表面に付着した粉体塗料は、加熱炉内で加熱され、バー本体40の表面に定着することにより、塗装膜41が形成される。塗装膜41の接触角は65°を越えている。
【0035】
図7中の右側にバー側処理ST1が示され、左側にブッシュ側処理ST2が示されている。バー側処理ST1では、スタビライザバー20の取付部20aに存在する塗装膜41の接触角を低下させるための表面処理S10が行われる。この表面処理S10は、取付部20aの塗装膜41の表面、すなわち接着面75を含む領域L3(図5に示す)に対して行われる。
【0036】
接触角を低下させる表面処理S10は、例えば図8に模式的に示したプラズマ処理装置80を用いて行われる。プラズマ処理装置80は、プラズマ発生器81によって発生させたプラズマ82をノズル83から取付部20aの塗装膜41に向けて噴射する。塗装膜41の表面をAFM(原子間力顕微鏡)で観察すると、プラズマ処理前の表面は、図8中の左側の表面粗さ曲線X1のように、波長w1と最大高さh1が比較的大きい「うねり」のような凹凸41aを呈している。
【0037】
これに対しプラズマ処理された塗装膜41の表面には、図8中の右側の表面粗さ曲線X2のように多数の微小凹凸41bが生じている。これら微小凹凸41bは、プラズマ処理前の「うねり」のような滑らかな凹凸41aよりも単位面積当たりの数が多く、しかも波長w2と最大高さh2が小さくなっている。活性化した塗装膜41の表面に多数の微小凹凸41bが存在していることにより接触角が小さくなり、塗装膜41に対する接着剤70の濡れ性を良くすることができている。
【0038】
図7中のブッシュ側処理ST2では、洗浄工程S11において、ゴムブッシュ60の内面(被接着面)64,65をシンナー等の揮発性の溶剤またはアルカリ性の洗浄液によって洗浄する。第1の乾燥工程S12において、ゴムブッシュ60を乾燥させ、前記溶剤または前記洗浄液を揮発させる。接着剤塗布工程S13では、図9に示されるように、第1ブッシュ片61と第2ブッシュ片62の内面64,65を上に向けた状態で配置し、内面(被接着面)64,65にそれぞれ接着剤70を塗布する。具体的には、硬化前の液状の接着剤70をスプレイガン等の塗布手段によって第1ブッシュ片61と第2ブッシュ片62の内面64,65に塗布する。第2の乾燥工程S14において、接着剤70中の溶剤を揮発させ、接着剤70がある程度硬化する。
【0039】
図7中の加熱工程S15ではスタビライザバー20を加熱する。その際に、接着面75を含む領域を中心にスタビライザバー20を加熱する。例えば図10に示す高周波誘導加熱コイル90によって、接着面75を含む領域を所定温度(例えば200〜250℃以下)に加熱する。高周波誘導加熱コイル90は加熱装置の一例である。この加熱工程S15は、スタビライザバー20にゴムブッシュ60を被せる前に行われる。そして接着面75を含む領域の温度が接着剤70の硬化温度(例えば110〜170℃)まで下がる前に、ブッシュ片61,62の内面(被接着面)64,65をスタビライザバー20の接着面75に重ねる。そしてブッシュ片61,62を両側からクランプし加圧する。
【0040】
図7中のキュア工程S16では、第1ブッシュ片61と第2ブッシュ片62とがクランプされた状態のもとで、接着剤70がキュアされる。本実施形態の場合、スタビライザバー20の熱によって接着剤70が硬化温度(例えば110〜170℃)に加熱され、溶剤が気化するなどして接着剤70がキュアされる。こうして接着剤70が硬化し、第1ブッシュ片61と第2ブッシュ片62とスタビライザバー20の接着面75に接着する。このキュア工程S16において、接着剤70の加熱温度が前記範囲よりも低いと接着不良を生じることがある。逆に加熱温度が前記範囲よりも高いと、塗装膜41が劣化し耐久性が低下することがあり、またショットピーニングによってスタビライザバー20の表層部に付与されていた圧縮残留応力を保持することができない。
【0041】
本実施形態では、ブッシュ片61,62をスタビライザバー20の接着面75に重ねる前に、スタビライザバー20の長手方向の一部の接着面75を高周波誘導加熱コイル90によって直接加熱することができる。このため、従来のようにゴムブッシュをスタビライザに重ねたのち、ゴムブッシュの両側に配置された高周波誘導加熱コイルによって接着面を間接的に加熱する場合と比較して加熱時間が短くてすみ、かつ、接着面の温度制御が容易である。
【0042】
以上説明したように本実施形態に係るスタビライザ10の製造方法は、下記の工程を含んでいる。
(1)鋼材からなるバー本体40の表面に水との接触角が65°を越える樹脂によって塗装膜41を形成し、
(2)塗装膜41の接触角を小さくする表面処理S10によって取付部20aに存する塗装膜41の接触角を65°以下に変化させ、
(3)スタビライザバー20の取付部20aまたはゴムブッシュ60の内面(被接着面)64,65に、未硬化の液状の接着剤70を塗布し、
(4)スタビライザバー20の取付部20aにゴムブッシュ60の内面(被接着面)64,65を重ね、
(5)ゴムブッシュ60をスタビライザバー20の取付部20aに加圧した状態において熱を与えることによって接着剤70をキュアする。
【0043】
本発明者が鋭意研究したところ、接触角が65°を越える接着面にプライマを用いずに直接ゴムブッシュを接着した場合には、接着面の剥離強度が小さく実用レベルに達しなかった。しかし接触角が65°以下になると剥離強度が格段に向上し、実用レベルの剥離強度になるとの知見が得られた。特に接触角が50°以下では、接着面において剥離した面積の割合が実質的にゼロであり、全ての試験品がゴムブッシュ自体で破断した。
【0044】
このように本実施形態のスタビライザバー20は、塗装膜41の表面全体のうち接触角が65°を越える第1の部分(未処理面)θ1と、塗装膜41の表面全体のうち接触角が65°以下の第2の部分(処理面)θ2とを有している。第1の部分θ1は取付部20aを除く領域であり、第1の表面粗さとなっている。これに対し第2の部分θ2は取付部20aを含む領域であり、第2の表面粗さとなっている。第2の部分θ2は、第1の表面粗さの凹凸41aと比較して、表面粗さ曲線の最大高さと波長が小さい微小凹凸41bを含んでいる。第2の部分θ2にプラズマ処理が行われた場合、第2の部分θ2が熱の影響を受ける。このため、第1の部分(未処理面)θ1の表面粗さと第2の部分(処理面)θ2の表面粗さとが互いに異なることもある。
【0045】
従来はサンドペーパ等の研磨部材によって塗装膜の表面を荒らしたり、レーザビームの照射によって塗装膜に多数の微小な凹部(傷)を形成していた。しかしそのような凹部が形成された接着面は、表面粗さ曲線の最大高さRzが42μmと大きかった。このため塗装膜41の厚さが10〜150μmであると、スタビライザバーの表面の一部に塗装膜が存在しない個所が生じ、その個所では金属面が露出してしまうことがあった。これに対し本実施形態の表面処理S10がなされた第2の部分θ2の塗装膜41は、表面粗さ曲線の最大高さRzが7μmと小さい。このため、塗装膜41の厚さが最も薄い個所(例えば塗装膜41の厚さが10μm)でもバー本体40の金属面が露出してしまうことを回避できた。
【0046】
このように本実施形態のゴムブッシュ接着方法によれば、スタビライザバー20の取付部20aにゴムブッシュ60を強固に接着することができる。しかも雨水等の外部環境にさらされる第1の部分θ1の塗装膜41は、接触角が65°を越える撥水性を有しているため、耐水性に優れたスタビライザバー20を提供することができる。
【0047】
しかも本実施形態のスタビライザバー20の塗装膜41は、取付部20aの表面に多数の微小凹凸41bからなる第2の表面粗さの第2の部分θ2を有している。車両の走行中にスタビライザバー20がねじられると、ゴムブッシュ60にねじり方向の力が作用し、ゴムブッシュ60が弾性変形する。このようなねじり方向の力に対して、接着面75に存在する多数の微小凹凸41bが接着界面の密着性を保つ上で有効に働く。
【0048】
また本実施形態のゴムブッシュ接着方法によれば、スタビライザバー20にブッシュ片61,62を重ねる前に接着剤70をブッシュ片61,62に塗布する。このため、スタビライザバー20側の接着面に接着剤を塗布していた従来工法と比較して、接着剤70の使用量を減らすことができろ。しかも接着剤70が接着面75の外側にはみ出さないため、スタビライザバー20の外観も向上させることができる。
【0049】
図11は第2の実施形態に係るゴムブッシュ60´を示している。この実施形態のゴムブッシュ60´は、第1ブッシュ片61と第2ブッシュ片62とがヒンジ部60aを介してつながっている。ヒンジ部60aを境に第1ブッシュ片61と第2ブッシュ片62とを折り重ね、内面64,65間にスタビライザバー20を挟む。それ以外の構成についてこの実施形態のゴムブッシュ60´は、第1の実施形態のゴムブッシュ60と同様であるから、両者に共通の部分に共通の符号を付して説明を省略する。
【0050】
図12は、ゴムブッシュ60をスタビライザバー20に接着する工程の第2の例を示している。図12中のバー側処理ST3では、第1の例(図7)のバー側処理ST1と同様に接触角を低下させるための表面処理S10が行われる。表面処理S10を行う前の接着面の接触角は65°を越えているが、表面処理S10によって接触角が65°以下に変化する。
【0051】
図12中の接着剤塗布工程S20では、スタビライザバー20の接着面75に液状の接着剤70を塗布する。具体的には、スタビライザバー20の取付部20aの表面に、硬化前の液状の接着剤70をスプレイガンあるいは刷毛等の塗布手段によって塗布する。そして乾燥工程S21において、接着剤70中の溶剤を揮発させ、接着剤70がある程度硬化する。
【0052】
図12中のブッシュ側処理ST4では、第1の例(図7)のブッシュ側処理ST2と同様に、洗浄工程S11において、ゴムブッシュ60の内面(被接着面)64,65をシンナー等の揮発性の溶剤またはアルカリ性の洗浄液によって洗浄する。そして乾燥工程S12において、ゴムブッシュ60を乾燥させ、前記溶剤または前記洗浄液を揮発させる。
【0053】
図12中のクランプS22において、ブッシュ片61,62の内面(被接着面)64,65をスタビライザバー20の接着面75に重ねる。接着面75には予め接着剤塗布工程S20によって接着剤70が塗布されている。そしてブッシュ片61,62を両側からクランプし加圧する。
【0054】
図12中のキュア工程S23では、ゴムブッシュ60の両側に配置された高周波誘導加熱コイルによって取付部20aの両側からスタビライザバー20を加熱する。この熱が接着面75に伝わることにより、接着剤70が硬化温度(例えば110〜170℃)に加熱され、接着剤70がキュアされる。
【0055】
図13は、第3の実施形態に係る車両用ばねの例として、懸架用のコイルばね100を示している。コイルばね100は素線(バー部材)101を有している。素線101は、ばね鋼からなるバー本体102と、バー本体102を覆う塗装膜103とを含んでいる。バー本体102は、コイリング機によって螺旋形に成形されている。バー本体102の材料は、熱間加工あるいは冷間加工に適したばね用鋼材でもよいし、高強度鋼や浸炭用鋼でもよい。あるいは炭素濃度が0.15〜0.60wt%程度の低炭素鋼を使用することができる場合もあり、要するに各種鋼材を適用することができる。塗装膜103によってバー本体102の表面が覆われている。塗装膜103は、水との接触角が65°を越える樹脂からなる。
【0056】
コイルばね100の座巻部104の下面に、ゴム部材の一例であるインシュレータ部材110が設けられている。インシュレータ部材110は、第1の実施形態(図1図10)で説明したスタビライザ10のゴムブッシュ60と同様に、接着剤70によって素線101の接着面111に固定されている。接着面111に存する塗装膜103は、インシュレータ部材110が接着される直前に、第1の実施形態と同様の接触角を低下させる表面処理S10によって、接触角が65°以下となるように処理されている。このためインシュレータ部材110を座巻部104に強固に固定することができる。
【0057】
インシュレータ部材110の材料は天然ゴムでもよいし、ブタジエンゴムやスチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ウレンタンゴム等の合成ゴムから選択されたゴムでもよく、あるいはウレタンエラストマ等の弾性を有する合成樹脂であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、スタビライザやコイルばね以外の車両用ばねにも適用できる。またゴム部材は、スタビライザのゴムブッシュやコイルばねのインシュレータ部材をはじめとして、様々な形態のゴム部材であってもよい。ゴムブッシュの分割数(ブッシュ片の数)が2以上(例えば3分割)であってもよい。バー部材の材料である鋼材は中空材(鋼管)以外に中実材であってもよい。
【符号の説明】
【0059】
10…スタビライザ(車両用ばね)、20…スタビライザバー(バー部材)、20a…取付部、40…バー本体、41…塗装膜、41a…凹凸、41b…微小凹凸、60…ゴムブッシュ(ゴム部材)、61…第1ブッシュ片、62…第2ブッシュ片、64,65…内面(被接着面)、70…接着剤、71…ショットピーニング痕、72…粗面、75…接着面、θ1…第1の部分、θ2…第2の部分、80…プラズマ処理装置、90…高周波誘導加熱コイル(加熱装置)、100…コイルばね(車両用ばね)、101…素線(バー部材)、102…バー本体、103…塗装膜、104…座巻部、110…インシュレータ部材(ゴム部材)、111…接着面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13