(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6797934
(24)【登録日】2020年11月20日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】強度及び成形性が改善された高強度鋼板の製造方法、及び得られた高強度鋼板
(51)【国際特許分類】
C21D 9/46 20060101AFI20201130BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20201130BHJP
C22C 38/14 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
C21D9/46 G
C22C38/00 301S
C22C38/14
【請求項の数】30
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-551522(P2018-551522)
(86)(22)【出願日】2016年12月21日
(65)【公表番号】特表2019-505694(P2019-505694A)
(43)【公表日】2019年2月28日
(86)【国際出願番号】EP2016082202
(87)【国際公開番号】WO2017108966
(87)【国際公開日】20170629
【審査請求日】2019年11月21日
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2015/059838
(32)【優先日】2015年12月21日
(33)【優先権主張国】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベンカタスーリヤ,パバン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン,ヒョン・ジョー
【審査官】
鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−090475(JP,A)
【文献】
特開2013−227653(JP,A)
【文献】
特開2010−275608(JP,A)
【文献】
特開2015−175050(JP,A)
【文献】
特開2015−224359(JP,A)
【文献】
特開2012−229466(JP,A)
【文献】
特開2012−031462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/46 − 9/48
C22C 38/00 − 38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
71%〜91%の間の、マルテンサイトとベイナイトの合計、9%〜13%の間の残留オーステナイト、及び最大で20%のフェライトからなる微細組織を有する鋼板の製造方法であって、以下の連続する工程:
− 以下の重量%による化学組成を有する鋼でできた冷間圧延鋼板を提供する工程であって:
0.13%≦C≦0.22%、
1.2%≦Si≦2.3%、
0.02%≦Al≦1.0%、
ここで、1.25%≦Si+Al≦2.35%である、
2.4%≦Mn≦3%、
Ti≦0.05%、
Nb≦0.05%
を含み、残部がFe及び不可避的不純物である工程、
− 80%〜100%のオーステナイト及び0%〜20%のフェライトを含む組織を得るように、焼鈍温度TAで前記鋼板を焼鈍する工程、
− 20℃/秒〜50℃/秒の間に含まれる冷却速度で240℃〜270℃の間の焼入温度QTまで前記鋼板を焼き入れする工程、
− 前記鋼板を440℃〜465℃の間の分配温度PTまで加熱し、分配温度PTで前記鋼板を50秒〜250秒の間の分配時間Ptの間維持する工程、
− 前記維持する工程の直後に前記鋼板を室温まで冷却する工程
を含む、方法。
【請求項2】
冷間圧延鋼板を提供する工程が、
− 前記鋼でできた板を熱間圧延して熱間圧延鋼板を得、
− 熱間圧延鋼板を500℃〜730℃の間に含まれる巻取り温度Tcで巻取り、
− 熱間圧延鋼板を冷間圧延して前記冷間圧延鋼板を得ること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
冷間圧延鋼板を提供する工程が、巻取りと冷間圧延との間に、500℃〜650℃の間に含まれる温度で300秒〜12時間の間の時間、バッチ焼鈍を行うことをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
冷間圧延鋼板を提供する工程が、巻取りと冷間圧延との間に、5〜7日の間に含まれる時間、巻取り温度から室温まで熱間圧延鋼板を徐冷することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記鋼板が、焼き入れ後、且つ分配温度PTまで加熱する直前に、10〜40%の間のオーステナイト、60〜90%の間のマルテンサイト及び0〜20%の間のフェライトからなる組織を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
鋼の化学組成が、以下の条件:
C≧0.16%、
C≦0.20%、
Si≧2.0%、
Si≦2.2%、
Mn≧2.6%、及び
Mn≦2.8%
の少なくとも1つを満たす、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記鋼板が焼入温度QTに焼き入れされた後、且つ前記鋼板が分配温度PTに加熱される前に、前記鋼板が、2秒〜8秒の間に含まれる保持時間の間、焼入温度QTに保持される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
分配時間Ptが50〜200秒の間である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
残留オーステナイトが、2〜4の間に含まれるアスペクト比を有する塊状の残留オーステナイトと、5〜8の間に含まれるアスペクト比を有するフィルム型の残留オーステナイトとを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
微細構造が、5.5%〜10.5%の間のフィルム型の残留オーステナイトを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
71%〜91%の間の、マルテンサイトとベイナイトの合計、9%〜13%の間の残留オーステナイト、及び最大で20%のフェライトからなる微細組織を有する鋼板の製造方法であって、以下の連続する工程:
− 以下の重量%による化学組成を有する鋼でできた冷間圧延鋼板を提供する工程であって:
0.13%≦C≦0.22%、
1.2%≦Si≦2.3%、
0.02%≦Al≦1.0%、
ここで、1.25%≦Si+Al≦2.35%である、
2.4%≦Mn≦3%、
Ti≦0.05%、
Nb≦0.05%
を含み、残部がFe及び不可避的不純物である工程、
− 80%〜100%のオーステナイト及び0%〜20%のフェライトを含む組織を得るように、焼鈍温度TAで前記鋼板を焼鈍する工程、
− 20℃/秒〜50℃/秒の間に含まれる冷却速度で290℃〜320℃の間に含まれる焼入温度QTまで前記鋼板を焼き入れする工程、
− 前記鋼板を400℃〜425℃の間の分配温度PTまで加熱し、分配温度PTで前記鋼板を50秒〜250秒の間に含まれる分配時間Ptの間維持する工程、
− 直ちに前記鋼板を室温まで冷却する工程
を含む、方法。
【請求項12】
冷間圧延鋼板を提供する工程が、
− 前記鋼でできた板を熱間圧延して熱間圧延鋼板を得、
− 熱間圧延鋼板を500℃〜730℃の間に含まれる巻取り温度Tcで巻取り、
− 熱間圧延鋼板を冷間圧延して前記冷間圧延鋼板を得ること
を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
冷間圧延鋼板を提供する工程が、巻取りと冷間圧延との間に、500℃〜650℃の間に含まれるバッチ焼鈍温度で300秒〜12時間の間のバッチ焼鈍時間、バッチ焼鈍を行うことをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
冷間圧延鋼板を提供する工程が、巻取りと冷間圧延との間に、5〜7日の間に含まれる時間、巻取り温度から室温まで熱間圧延鋼板を徐冷することをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記鋼板が、焼き入れ後、且つ分配温度PTまで加熱する直前に、10〜40%の間のオーステナイト、60〜90%の間のマルテンサイト及び0〜20%の間のフェライトからなる組織を有する、請求項11から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
鋼の化学組成が、以下の条件:
C≧0.16%、
C≦0.20%、
Si≧2.0%、
Si≦2.2%、
Mn≧2.6%、及び
Mn≦2.8%
の少なくとも1つを満たす、請求項11から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記鋼板が焼入温度QTに焼き入れされた後、且つ前記鋼板が分配温度PTに加熱される前に、前記鋼板が、2秒〜8秒の間に含まれる保持時間の間、焼入温度QTに保持される、請求項11から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
分配時間Ptが50〜200秒の間に含まれる、請求項11から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
残留オーステナイトが、2〜4の間に含まれるアスペクト比を有する塊状の残留オーステナイトと、5〜8の間に含まれるアスペクト比を有するフィルム型の残留オーステナイトとを含む、請求項11から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
微細構造が、5.5%〜10.5%の間のフィルム型の残留オーステナイトを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
非被覆鋼板であって、鋼の化学組成が、重量%で、
0.13%≦C≦0.22%、
1.2%≦Si≦2.3%、
0.02%≦Al≦1.0%、
ここで、1.25%≦Si+Al≦2.35%である、
2.4%≦Mn≦3%、
Ti≦0.05%、
Nb≦0.05%
を含み、残部がFe及び不可避的不純物であり、前記非被覆鋼板が、表面割合で
− 71%〜91%の間のマルテンサイト及びベイナイト
− 9%〜13%の間の残留オーステナイト、
− 最大で20%のフェライト
からなる微細組織を有し、
残留オーステナイトが、2〜4の間に含まれるアスペクト比を有する塊状の残留オーステナイトと、5〜8の間に含まれるアスペクト比を有するフィルム型の残留オーステナイトとを含み、
前記非被覆鋼板が、850〜1100MPaの間に含まれる降伏強度、少なくとも1180MPaの引張強度、少なくとも14%の全伸び及び少なくとも30%の孔拡げ率HERを有する、鋼板。
【請求項22】
孔拡げ率HERが40%よりも大きい、請求項21に記載の非被覆鋼板。
【請求項23】
鋼の化学組成が、以下の条件:
C≧0.16%、
C≦0.20%、
Si≧2.0%、
Si≦2.2%、
Mn≧2.6%、及び
Mn≦2.8%
の少なくとも1つを満たす、請求項21又は22のいずれか一項に記載の非被覆鋼板。
【請求項24】
残留オーステナイトが、0.9%〜1.2%の間に含まれるC含有量CRA%を有する、請求項21から23のいずれか一項に記載の非被覆鋼板。
【請求項25】
微細構造が、5.5%〜10.5%の間のフィルム型の残留オーステナイトを含む、請求項21から24のいずれか一項に記載の非被覆鋼板。
【請求項26】
鋼板であって、鋼の化学組成が、重量%で、
0.13%≦C≦0.22%、
1.2%≦Si≦2.3%、
0.02%≦Al≦1.0%、
ここで、1.25%≦Si+Al≦2.35%である、
2.4%≦Mn≦3%、
Ti≦0.05%、
Nb≦0.05%
を含み、残部がFe及び不可避的不純物であり、前記鋼板が、表面割合で
− 71%〜91%の間のマルテンサイト及びベイナイト
− 9%〜13%の間の残留オーステナイト、
− 最大で20%のフェライト
からなる微細組織を有し、
残留オーステナイトが、2〜4の間に含まれるアスペクト比を有する塊状の残留オーステナイトと、5〜8の間に含まれるアスペクト比を有するフィルム型の残留オーステナイトとを含み、
前記鋼板が、850〜1100MPaの間に含まれる降伏強度、少なくとも1180MPaの引張強度、少なくとも14%の全伸び及び少なくとも30%の孔拡げ率HERを有し、
前記鋼板が、電気メッキ又は真空蒸着法によって製造された金属被覆で被覆されている、鋼板。
【請求項27】
孔拡げ率HERが40%よりも大きい、請求項26に記載の鋼板。
【請求項28】
鋼の化学組成が、以下の条件:
C≧0.16%、
C≦0.20%、
Si≧2.0%、
Si≦2.2%、
Mn≧2.6%、及び
Mn≦2.8%
の少なくとも1つを満たす、請求項26又は27のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項29】
残留オーステナイトが、0.9%〜1.2%の間に含まれるC含有量CRA%を有する、請求項26から28のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項30】
微細構造が、5.5%〜10.5%の間のフィルム型の残留オーステナイトを含む、請求項26から29のいずれか一項に記載の鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度、延性及び成形性が改善された高強度鋼板の製造方法及びその方法により得られた鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用の車体構造部材の部品及び車体パネル等の各種機器を製造するには、DP(二相)鋼又はTRIP(変態誘起塑性)鋼でできた板を用いるのが一般的である。
【0003】
例えば、マルテンサイト組織及び/又は残留オーステナイトを含み、約0.2%のC、約2%のMn、約1.7%のSiを含むそのような鋼は、約750MPaの降伏強度、約980MPaの引張強度、8%を超える全伸びを有する。これらの板は、Ac
3変態点よりも高い焼鈍温度から、Ms変態点を超える過時効まで焼き入れし、所与の時間、板をその温度に維持することにより、連続焼鈍ライン上で製造される。
【0004】
地球環境保全の観点から、燃費を向上させるよう自動車の軽量化を図るためには、歩留まり及び引張強度が改善された板を有することが望ましい。しかし、このような板は、良好な延性及び良好な成形性、より具体的には良好な伸びフランジ性も有さなければならない。
【0005】
この点に関して、830MPa〜1100MPaの間に含まれる、好ましくは少なくとも850MPaの降伏強度YS、少なくとも1180MPaの引張強度TS、少なくとも12%、好ましくは少なくとも14%の全伸び、及びISO規格16630:2009に従った、30%を超える孔拡げ率HERを持つ板を有することが望ましい。測定方法の違いにより、ISO規格による孔拡げ率HERの値が大きく異なり、JFS T 1001(日本鉄鋼連盟規格)による孔拡げ率λの値と比較できないことが強調されなければならない。引張強度TS及び全伸びTEは、2009年10月に発行されたISO規格ISO6892−1に従って測定される。測定方法の違いにより、特に使用される試験片の幾何学的形状の違いにより、ISO規格に従って測定された全伸びTEの値は、JIS Z 2201−05規格に従って測定された全伸びの値とは大きく異なり、特にこれよりも低い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、そのような板及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のために、本発明は、71%〜91%の間の、マルテンサイトとベイナイトの合計、9%〜13%の間の残留オーステナイト、及び最大で20%のフェライトからなる微細組織を有する鋼板の製造方法に関し、該方法は以下の連続する工程:
− 冷間圧延鋼板を提供する工程であって、鋼の化学組成は、重量%で、
0.13%≦C≦0.22%、
1.2%≦Si≦2.3%、
0.02%≦Al≦1.0%、
ここで、1.25%≦Si+Al≦2.35%である、
2.4%≦Mn≦3%、
Ti≦0.05%、
Nb≦0.05%
を含み、残部がFe及び不可避的不純物である工程、
− 80%〜100%のオーステナイト及び0%〜20%のフェライトを含む組織を得るように、焼鈍温度T
Aで鋼板を焼鈍する工程、
− 20℃/秒〜50℃/秒の間に含まれる冷却速度で240℃〜310℃の間の焼入温度QTまで前記板を焼き入れする工程、
− 前記板を400℃〜465℃の間の分配温度PTまで加熱し、この温度で前記板を50秒〜250秒の間の分配時間Ptの間維持する工程、
− 直ちに前記板を室温まで冷却する工程
を含む。
【0008】
好ましくは、冷間圧延鋼板を提供する工程は、
− 該鋼でできた板を熱間圧延して熱間圧延鋼板を得、
− 熱間圧延鋼板を500℃〜730℃の間に含まれる温度Tcで巻取り、
− 熱間圧延鋼板を冷間圧延して前記冷間圧延鋼板を得ること
を含む。
【0009】
特定の実施形態によれば、冷間圧延鋼板を提供する工程は、巻取りと冷間圧延との間に、500℃〜650℃の間に含まれる温度で300秒〜12時間の間の時間、バッチ焼鈍を行うことをさらに含む。
【0010】
別の特定の実施形態によれば、冷間圧延鋼板を提供する工程は、巻取りと冷間圧延との間に、5〜7日の間に含まれる時間、巻取り温度から室温まで熱間圧延鋼板を徐冷することをさらに含む。
【0011】
好ましくは、焼き入れされた板が、分配温度PTまで加熱する直前に、10〜40%の間のオーステナイト、60〜90%の間のマルテンサイト及び0〜20%の間のフェライトからなる組織を有する。
【0012】
特定の実施形態によれば、焼入温度QTは240℃〜270℃の間に含まれ、分配温度PTは440℃〜460℃の間に含まれる。
【0013】
別の特定の実施形態によれば、焼入温度QTは290℃〜320℃の間に含まれ、分配温度PTは400℃〜425℃の間に含まれる。
【0014】
好ましくは、鋼の化学組成は、以下の条件:C≧0.16%、C≦0.20%、Si≧2.0%、Si≦2.2%、Mn≧2.6%、Mn≦2.8%、の少なくとも1つを満たす。
【0015】
好ましくは、板が焼入温度QTに焼き入れされた後、板が分配温度PTに加熱される前に、板は2秒〜8秒の間、好ましくは3秒〜7秒の間に含まれる保持時間の間、焼入温度QTに保持される。
【0016】
好ましくは、分配時間Ptは50〜200秒の間である。
【0017】
特に、本発明は、71%〜91%の間の、マルテンサイトとベイナイトの合計、9%〜13%の間の残留オーステナイト、及び最大で20%のフェライトからなる微細組織を有する鋼板の製造方法に関し、該方法は以下の連続する工程:
− 冷間圧延鋼板を提供する工程であって、鋼の化学組成は、重量%で、
0.13%≦C≦0.22%、
1.2%≦Si≦2.3%、
0.02%≦Al≦1.0%、
ここで、1.25%≦Si+Al≦2.35%である、
2.4%≦Mn≦3%、
Ti<0.05%、
Nb<0.05%
を含み、残部がFe及び不可避的不純物である工程、
− 80%〜100%のオーステナイト及び0%〜20%のフェライトを含む組織を得るように、焼鈍温度TAで鋼板を焼鈍する工程、
− 20℃/秒〜50℃/秒の間に含まれる冷却速度で240℃〜270℃の間の焼入温度QTまで前記板を焼き入れする工程、
− 板を440℃〜460℃の間の分配温度PTまで加熱し、分配温度PTで前記板を50秒〜250秒の間の分配時間Ptの間維持する工程、
− 直ちに前記板を室温まで冷却する工程
を含む。
【0018】
本発明はまた、71%〜91%の間の、マルテンサイトとベイナイトの合計、9%〜13%の間の残留オーステナイト、及び最大で20%のフェライトからなる微細組織を有する鋼板の製造方法に関し、該方法は以下の連続する工程:
− 冷間圧延鋼板を提供する工程であって、鋼の化学組成は、重量%で、
0.13%≦C≦0.22%、
1.2%≦Si≦2.3%、
0.02%≦Al≦1.0%、
ここで、1.25%≦Si+Al≦2.35%である、
2.4%≦Mn≦3%、
Ti<0.05%、
Nb<0.05%
を含み、残部がFe及び不可避的不純物である該工程、
− 焼鈍温度TAで鋼板を焼鈍し、80%〜100%のオーステナイト及び0%〜20%のフェライトを含む組織を得る工程、
− 20℃/秒〜50℃/秒の間に含まれる冷却速度で290℃〜320℃の間の焼入温度QTまで板を焼き入れする工程、
− 板を400℃〜425℃の間の分配温度PTまで加熱し、分配温度PTで板を50秒〜250秒の間の分配時間Ptの間維持する工程、
直ちに板を室温まで冷却する工程
を含む。
【0019】
本発明はまた、鋼板であって、鋼の化学組成が、重量%で、
0.13%≦C≦0.22%、
1.2%≦Si≦2.3%、
0.02%≦Al≦1.0%、
ここで、1.25%≦Si+Al≦2.35%である、
2.4%≦Mn≦3%、
Ti≦0.05%、
Nb≦0.05%
を含み、残部がFe及び不可避的不純物であり、表面割合で
− 71%〜91%の間のマルテンサイト及びベイナイト
− 9%〜13%の間の残留オーステナイト、
− 最大で20%のフェライト
からなる微細組織を有し、
− 板が、850〜1100MPaの間に含まれる降伏強度、少なくとも1180MPaの引張強度、少なくとも12%の全伸び及び少なくとも30%の孔拡げ率HERを有する、鋼板に関する。
【0020】
特定の実施形態によれば、全伸びTEは少なくとも14%であり、及び/又は孔拡げ率HERは40%よりも大きい。
【0021】
鋼の化学組成は、任意に、以下の条件:C≧0.16%、C≦0.20%、Si≧2.0%、Si≦2.2%、Mn≧2.6%及びMn≦2.8%、の少なくとも1つを満たすことができる。
【0022】
好ましくは、残留オーステナイト中のC含有量C
RA%は、0.9%〜1.2%の間に含まれる。
【0023】
特定の実施形態によれば、残留オーステナイトは、2〜4の間に含まれるアスペクト比を有する塊状の残留オーステナイトと、5〜8の間に含まれるアスペクト比を有するフィルム型の残留オーステナイトとを含む。
【0024】
好ましくは、微細構造は5.5%〜10.5%の間のフィルム型の残留オーステナイトを含む。
【0025】
一実施形態によれば、板は、電気メッキ又は真空蒸着法によって製造された金属被覆で被覆されている。
【0026】
特に、本発明は、鋼板であって、鋼の化学組成が、重量%で、
0.13%≦C≦0.22%、
1.2%≦Si≦2.3%、
0.02%≦Al≦1.0%、
ここで、1.25%≦Si+Al≦2.35%である、
2.4%≦Mn≦3%、
Ti<0.05%、
Nb<0.05%
を含み、残部がFe及び不可避的不純物であり、表面割合で
− 71%〜91%の間のマルテンサイト及びベイナイト
− 9%〜13%の間の残留オーステナイト、
− 最大で20%のフェライト
からなる微細組織を有し、
− 残留オーステナイトが、2〜4の間に含まれるアスペクト比を有する塊状の残留オーステナイトと、5〜8の間に含まれるアスペクト比を有するフィルム型の残留オーステナイトとを含み、
板が、850〜1100MPaの間に含まれる降伏強度、少なくとも1180MPaの引張強度、少なくとも14%の全伸び及び少なくとも30%の孔拡げ率HERを有する、鋼板に関する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明を詳細に説明するが、制限を導入するものではない。
【0028】
本発明による鋼の組成は、重量パーセントで、以下を含む。
【0029】
− 十分な伸びを得るために必要な残留オーステナイトの十分な強度を確保し、安定性を向上させるために0.13〜0.22%の炭素。好ましくは、炭素含有量は0.16%以上、好ましくは0.20%以下である。炭素含有量が高すぎると、熱間圧延板が冷間圧延するには硬すぎ、溶接性が不十分である。炭素含有量が0.13%未満であると、降伏強度レベル及び引張強度レベルがそれぞれ850及び1180MPaに届かないであろう。
【0030】
− 2.4%〜3%、好ましくは2.6%超、好ましくは2.8%未満のマンガン。最小値は、マルテンサイト及びベイナイトを少なくとも71%含む微細構造を得るための十分な焼入れ性、及び1180MPaを超える引張強度を有するために規定される。最大値は、延性に有害な偏析問題を有することを避けるために規定される。
【0031】
− オーステナイトを安定化させ、固溶強化を提供し、かつ板の表面に被覆性に有害であろう酸化ケイ素を生成することなく過時効の間に炭化物の形成を遅らせるための、1.2%〜2.3%のケイ素。好ましくは、ケイ素含有量は1.9%以上、さらに好ましくは2.0%以上である。ケイ素の量を増やすと、孔拡げ率が向上する。好ましくは、ケイ素含量は2.2%以下である。ケイ素含有量が2.3%を超えると、表面に酸化ケイ素が形成されるであろう。
【0032】
− 0.02%〜1.0%のアルミニウム。アルミニウムは液体鋼を脱酸するために添加され、それは製造方法のロバスト性を高め、特に焼鈍温度が変化する場合のオーステナイト分率の変動を減少させる。最大のアルミニウム含有量は、焼鈍をより困難にするであろう温度までのAc
3変態点の上昇を防止するように規定される。ケイ素のように、アルミニウムは、過時効から生じるマルテンサイトからオーステナイトへの炭素再分配の間に炭化物の形成を遅らせる。炭化物の形成を遅らせるために、Al+Siの最小含有量は1.25%でなければならない。Al+Siの最大含有量は2.35%でなければならない。
【0033】
残部は鉄及び製鋼に起因する残留元素である。この点に関し、少なくともNi、Cr、Mo、Cu、Nb、Ti、V、B、S、P及びNは、不可避的不純物である残留元素として考えられる。それらの含有量は、Niに関しては0.05%未満、Crに関しては0.05%未満、Moに関しては0.02%未満、Cuに関しては0.03%未満、Vに関しては0.007%未満、Bに関しては0.0010%未満、Sに関しては0.005%未満、Pに関しては0.02%未満及びNに関しては0.010%未満である。Nb含有量は0.05%に制限され、Ti含有量は0.05%に制限される。何故ならばこれらの値を超えると、大きな析出物が生じ、鋼の成形性が低下し、全伸びに対する12%という目標を達成することが困難になるであろうからである。
【0034】
この鋼から公知の方法で、2〜5mmの間の厚さを有する熱間圧延板を製造することができる。一例として、圧延前の再加熱温度は1200℃〜1280℃の間、好ましくは約1250℃であり得、仕上圧延温度は好ましくは850℃未満であり、開始冷却温度は800℃未満であり、停止冷却温度は570℃〜590℃の間であり、巻取りは好ましくは500℃〜730℃の間に含まれる温度で行われる。
【0035】
熱間圧延後、鋼の歪みを低減し、もって、熱間圧延され、巻き取られた鋼板の冷間圧延性を改善するために、板は熱処理される。
【0036】
第1の実施形態によれば、この熱処理はバッチ焼鈍である。この実施形態では、熱間圧延され、巻き取られた鋼板は、500℃〜650℃の間の温度で300秒〜12時間、好ましくは4時間〜12時間バッチ焼鈍される。
【0037】
第2の実施形態によれば、熱処理は、板が巻取り温度から室温まで5〜7日の間に含まれる冷却時間で冷却されるような冷却速度での巻取り温度から室温までの徐冷である。
【0038】
熱間圧延板を酸洗し、冷間圧延して0.5mm〜2.5mmの間の厚さを有する冷間圧延板を得ることができる。
【0039】
その後、板は連続焼鈍ラインで熱処理される。
【0041】
− 焼鈍工程の最後に、鋼が少なくとも80%、好ましくは少なくとも95%かつ100%までのオーステナイトを含む構造を有するように、焼鈍温度T
Aで板を焼鈍する。当業者であれば、膨張率測定試験から焼鈍温度T
Aを決定する方法を知っている。焼鈍温度T
Aは、オーステナイト粒の粗大化を制限するために、最大でAc
3+50℃であることが好ましい。さらに好ましくは、焼鈍温度T
Aは最大でAc
3である。Ac
3は、加熱工程中のオーステナイトへの変態の開始温度及び終了温度を示す。板は、化学組成を均質化するのに十分な焼鈍時間t
Aの間、焼鈍温度に維持され、即ち、T
A−5℃〜T
A+10℃の間に維持される。この焼鈍時間t
Aは、好ましくは60秒を超えるが、300秒を超える必要はない。
【0042】
− 新しいフェライト及びベイナイトの形成を回避するのに十分に速い冷却速度で、オーステナイトのMs変態点よりも低い焼入温度QTまで板を焼き入れする。冷却速度は20℃/秒〜50℃/秒の間に含まれる。事実、20℃/秒未満の冷却速度によりフェライトが形成され、少なくとも1180MPaの引張強度を得ることはできないであろう。焼入温度は、冷却直後のその温度QTで10〜40%の間のオーステナイト、60〜90%の間のマルテンサイト、及び0〜20%の間のフェライトを含む構造を有するためには、240〜320℃の間である。焼入温度QTが240℃未満であると、最終構造物中の分配されたマルテンサイトの割合が、9%を超える十分な量の残留オーステナイトを安定化させるには高すぎ、したがって全伸びが12%に達しない。さらに、焼入温度QTが320℃よりも高い場合、分配されたマルテンサイトの割合が、所望の引張強度及び降伏強度を得るには低すぎる。
【0043】
− 任意に、2秒〜8秒の間、好ましくは3秒〜7秒の間に含まれる保持時間の間、焼き入れされた板を焼入温度で保持する。
【0044】
− 板を焼入温度から400℃〜465℃の間の分配温度PTまで再加熱する。再加熱が誘導加熱器によって行われる場合、再加熱速度は高くなり得る。分配温度PTが400℃未満では、伸びが十分でない。
【0045】
− 50秒〜250秒の間、板を分配温度PTに維持する。
【0046】
− この保持工程の直後に、好ましくは1℃/秒よりも高い、例えば、2℃/秒から20℃/秒の間の冷却速度で板を室温に冷却する。
【0047】
また、焼入温度QTが240℃〜270℃の間に含まれる場合、分配温度PTは440℃〜460℃の間に含まれる。この第1の実施形態は、非常に広い範囲の焼鈍時間及び分配時間にわたって所与の組成物の目標とされる機械特性に到達することを可能にし、したがって、ライン速度が変化するときに非常に安定である。特に、この第1の実施形態により、マルテンサイトの高い焼き戻しが提供され、その結果、降伏強度及び孔拡げ率の高い値が得られる。
【0048】
焼入温度QTが290℃〜320℃の間に含まれる場合、分配温度PTは390℃〜425℃の間に含まれる。この第2の実施形態により、広い範囲の焼鈍時間及び分配時間にわたって目標とされる機械特性を得ることが可能になる。
【0049】
また、これら2つの実施形態により、以下でさらに詳細に説明するように、少なくとも14%の全伸びを達成することが可能になる。
【0050】
この処理により、即ち、分配され、室温まで冷却した後、以下からなる最終構造を得ることができる。
− 残留オーステナイトは、表面割合で9%〜13%の間、
− マルテンサイト及びベイナイトは、表面割合で71%〜91%の間、好ましくは82%〜91%の間、
− フェライトは最大で20%、好ましくは最大で5%。
【0051】
少なくとも9%の残留オーステナイトの割合により、少なくとも12%の全伸びを得ることができ、少なくとも71%のマルテンサイト及びベイナイトの割合により、少なくとも1180MPaの引張強度を得ることができる。
【0052】
残留オーステナイトは、マルテンサイトラスの間に位置する塊状の残留オーステナイト及びフィルム型の残留オーステナイトを含むことができる。
【0053】
塊型の残留オーステナイトは、2〜4の間に含まれる平均アスペクト比を有する。フィルム型の残留オーステナイトは、5〜8の間に含まれる平均アスペクト比を有する。
【0054】
塊型及びフィルム型の残留オーステナイトの各々のアスペクト比は、Klemm剤でエッチングし、次いで500倍の倍率で少なくとも10枚の顕微鏡写真を観察し、残留オーステナイトのN個の構成要素(i)の識別のために顕微鏡写真の画像解析を行うことにより、最終板上で決定される。各構成要素(i)の最大サイズ(lmax)
i及び最小サイズ(lmin)
iが決定され、個々の各構成要素(i)のアスペクト比は、N個の構成要素の全母集団において(lmax)
i/(lmin)
iとして計算される。平均アスペクト比は、(lmax)
i/(lmin)
iのN個の個々の値の算術平均値として計算される。
【0055】
好ましくは、微細構造は、5.5%〜10.5%の間のフィルム型の残留オーステナイトと、最大で7.5%の塊型のオーステナイトとを含む。フィルム型の残留オーステナイトは、塊型のオーステナイトよりも安定であり、変形中に急速にマルテンサイトに変わらない。
【0056】
これらの特徴は、焼入温度QTが240℃〜270℃の間に含まれ、分配温度PTが440℃〜460℃の間に含まれる場合、又は焼入温度QTが290℃〜320℃の間に含まれ、分配温度PTが390℃〜425℃の間に含まれる場合に、特に得られる。
【0057】
これらの特徴により、850〜1100MPaの間の降伏強度YS、少なくとも1180MPaの引張強度、及びISO規格16630:2009による少なくとも30%の孔拡げ率HERと組み合わせて、少なくとも14%の全伸びTEを得ることが可能になる。
【0058】
また、ベイナイト又はマルテンサイトの塊の平均サイズは、10μm以下であることが好ましい。
【0059】
さらに、この処理により、残留オーステナイト中のC含有量を少なくとも0.9%、好ましくは少なくとも1.0%、さらには1.2%までも増加させることができる。
【0060】
そのような処理によって、850〜1100MPaの間に含まれる降伏強度YS、少なくとも1180MPaの引張強度、少なくとも12%の全伸び、及びISO規格16630:2009による少なくとも30%の孔拡げ率HERを有する板を得ることができる。
【0061】
さらに、焼入温度QTが240℃〜270℃の間に含まれ、分配温度PTが440℃〜460℃の間に含まれる場合、又は焼入温度QTが290℃〜320℃の間に含まれ、分配温度PTが390℃〜425℃の間に含まれる場合、850〜1100MPaの間に含まれる降伏強度YS、少なくとも1180MPaの引張強度、少なくとも14%の全伸び、及びISO規格16630:2009による少なくとも30%の孔拡げ率HERを有する板が得られる。
【0062】
このようにして得られた鋼板は、未被覆板として使用することができ、又は電気めっき若しくは真空蒸着によって製造された亜鉛若しくは亜鉛合金等の金属被覆で被覆することができる。
【実施例】
【0063】
0.163%のC、2.05%のSi、2.7%のMn、及び0.02%のAlを含有し、残部がFe及び不純物である組成を有する鋼で作られた板を熱間圧延で製造し、730℃で巻き取った。熱間圧延板を650℃で10時間バッチ焼鈍した後、酸洗し、冷間圧延して1.6mmの厚さを有する板を得た。鋼のAc
1点、Ac
3点及びMs点はAc
1=780℃、Ac
3=900℃及びMs=330℃であるとして、膨張率測定試験によって決定した。
【0064】
いくつかの板を温度T
A、時間t
Aで焼鈍し、冷却速度45℃/秒で温度QTで焼き入れすることにより熱処理し、分配温度PTまで再加熱し、分配時間Ptの間、分配PTで維持し、その後直ちに室温に冷却した。
【0065】
以下の表において、T
Aは焼鈍温度、t
Aは焼鈍時間、QTは焼入温度、PTは分配温度、Ptは分配温度における維持時間、YSは降伏強度、TSは引張強度、UEは均一伸び、TEは全伸び、HERはISO規格に従って測定された孔拡げ率である。RAは微細構造中の残留オーステナイトの割合であり、C
RA%は残留オーステナイト中のC含有量である。「塊状及びフィルム型RA?」の欄は、その構造が塊状及びフィルム型の残留オーステナイトを含むかどうかを示す。
【0066】
全ての例は非被覆板に関連している。
【0067】
熱処理条件及び得られた特性を表Iに報告する。
【0068】
下線付きの値は、本発明によるものではない。
【0069】
【表1】
【0070】
例1〜4は、240〜320℃の間の焼入温度のみが830〜1100MPaの間の降伏強度、少なくとも1180MPaの引張強度、少なくとも12%の全伸び、及び少なくとも30%の孔拡げ比を得ることを可能にすることを示す。
【0071】
例5〜7を比較することにより、400℃〜465℃の間に含まれる分配温度PTのみが830〜1100MPaの間の降伏強度、少なくとも1180MPaの引張強度、少なくとも12%の全伸び、及び少なくとも30%の孔拡げ率を得ることを可能にするのに対して、465℃を超える分配温度PTでは高い割合のフレッシュマルテンサイトの形成がもたらされ、これにより30%未満の孔拡げ率がもたらされることを示す。
【0072】
これらの例1〜7は、焼入温度QTが290℃〜320℃の間に含まれ、分配温度PTが400℃〜425℃の間に含まれる場合、14%を超える全伸びに達することができることをさらに示す。対照的に、275℃の温度で焼き入れされた例2は、14%の全伸びに達しない。
【0073】
例8〜11は、目標特性が広範な分配時間に対して得られること、より具体的には分配時間を変更した場合に、得られる機械特性が非常に安定していることを示す。
【0074】
例1〜11のうち、例3、5、6及び8〜11のみが、2〜4の間に含まれるアスペクト比を有する塊状の残留オーステナイト及び5〜8の間に含まれるアスペクト比を有するフィルム型の残留オーステナイトを含む。例3、5、6及び8〜11では、フィルム型の残留オーステナイトの表面割合が、組織全体に対して5.5%〜10.5%の間に含まれている。対照的に、例1、2、4及び7は、塊状の残留オーステナイトのみを含んでいる。
【0075】
これらの例は、焼入温度QTが240℃〜270℃の間に含まれ、分配温度PTが440℃〜460℃の間に含まれる場合、少なくとも14%の全伸びが得られることをさらに示す。
【0076】
また、これらの例は、焼入温度QTが240℃〜270℃の間に含まれ、分配温度PTが440℃〜460℃の間に含まれる場合、非常に高い降伏強度値を得ることができることを示す。これらの高い値は、焼入温度QTの低い値と分配温度PTの高い値のために、マルテンサイトの重要な焼き戻しによるものである。
【0077】
製造中の板の機械特性に対するライン速度の影響、即ち、ライン速度の変動によるこれらの機械特性の安定性を研究するために、さらなる試験を行った。
【0078】
これらの試験を、最小ライン速度が50m/分、最大ライン速度が120m/分のラインで実施し、均熱及び分配セクションは、最小ライン速度で到達する最大均熱時間及び分配時間がそれぞれ188秒と433秒であり、最大ライン速度で到達する最小均熱時間及び分配時間がそれぞれ79秒及び181秒になるように構成された。
【0079】
焼入温度QTが250℃、分配温度PTが450℃、又は焼入温度QTが300℃、分配温度PTが400℃で、最小及び最大のライン速度を使用して試験を行った。
【0080】
熱処理条件及び得られた特性を表IIに報告する。
【0081】
【表2】
【0082】
これらの結果は、焼入温度QTが250℃であり、分配温度PTが450℃であると、得られる機械特性の品質にライン速度がほとんど影響を及ぼさず、したがってライン速度の範囲全体にわたって目標とする特性を得ることができることを示す。これらの結果は、製造方法がライン速度の変動に関して非常に安定していることも示す。
【0083】
ライン速度が遅すぎる場合に降伏強度が850MPaという目標値よりわずかに低く、結果として分配温度が250秒よりも長くなっても、300℃の焼入温度QT及び400℃の分配温度PTで得られた結果は同様である。
【0084】
これらの結果は、焼入温度QTが290℃〜320℃の間に含まれ、分配温度PTが400℃〜425℃の間に含まれる場合、又は焼入温度QTが240℃〜270℃の間に含まれ、分配温度PTが440℃〜460℃の間に含まれる場合、14%を超える全伸びを達成することができることをさらに示す。
【0085】
さらに、巻き取り工程と冷間圧延工程との間で行われる熱処理の効果を評価するために試験を実施した。
【0086】
試験は、650℃の温度でのバッチ焼鈍(熱処理1)を含む熱処理を用いて、又は7日間の熱間圧延鋼板の巻取り温度から室温への徐冷を含む熱処理(熱処理2)を用いて行った。
【0087】
以下の表IIIの試験16〜19は、250℃の焼入温度QT及び460℃の分配温度PTで、分配時間は150秒(例16及び17)又は200秒(例18及び19)のいずれかで行った。
【0088】
表IIIの試験20〜23は、300℃の焼入温度QT及び400℃の分配温度PTで、分配時間は150秒(例20及び21)又は200秒(例22及び23)のいずれかで行った。
【0089】
【表3】
【0090】
例16〜23は、2〜4の間に含まれるアスペクト比を有する塊状の残留オーステナイト及び5〜8の間に含まれるアスペクト比を有するフィルム型の残留オーステナイトを含み、フィルム型の残留オーステナイトの表面割合は、微細組織全体に対して5.5%〜10.5%の間に含まれている。
【0091】
これらの試験は、巻取り工程と冷間圧延工程との間に行われる熱処理がバッチ焼鈍又は徐冷である場合に、目標の機械特性が本発明による方法によって得られることを示す。
【0092】
これらの試験は、焼入温度QTが240℃〜270℃の間に含まれ、分配温度PTが440℃〜460℃の間に含まれると、又は焼入温度QTが290℃〜320℃の間に含まれ、分配温度PTが400℃〜425℃の間に含まれると、非常に満足な機械特性、特に14%を超える全伸びを得ることができることをさらに確認する。
【0093】
また、焼入温度QTへの焼き入れの最小冷却速度を決定するために試験を実施した。
【0094】
熱処理条件及び得られた特性を表IVに報告する。
【0095】
この表において、CRは冷却速度を示す。
【0096】
【表4】
【0097】
これらの結果は、冷却温度が20℃/秒未満では、1180MPa未満の引張強度が得られるのに対して、冷却温度が20℃/秒〜50℃/秒の間に含まれる場合、機械特性は十分であることを示す。