(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極とを隔離する隔壁と、前記隔壁を縁取る外枠とを備える複数のエレメントが隔膜を挟んで重ね合わせられ、前記隔膜が前記陽極及び前記陰極と接触してゼロギャップ構造が形成され、前記隔壁と前記外枠と前記隔膜とにより画成される電極室に互いに平行に並べられた複数の整流板が前記隔壁に沿う所与の方向に平行に設けられた電解槽であり、
前記電極室の前記所与の方向の長さAが、0.40m以上4.0m以下であり、前記電極室の前記隔壁に垂直な方向の長さBが、0.0030m以上0.030m以下であり、前記複数の整流板の間隔Cが、0.050m以上0.1m以下であり、
前記電極室の前記所与の方向に垂直な面における断面積Dが、0.00050m2以上0.0050m2以下であり、{(2×D)/(B+C)}が、0.015m以上0.050m以下である、
ことを特徴とする、電解槽。
陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極とを隔離する隔壁と、前記隔壁を縁取る外枠とを備える複数のエレメントが隔膜を挟んで重ね合わせられ、前記隔膜が前記陽極及び前記陰極と接触してゼロギャップ構造が形成され、前記隔壁と前記外枠と前記隔膜とにより画成される電極室に互いに平行に並べられた複数の整流板が前記隔壁に沿う所与の方向に平行に設けられた電解槽であり、
前記電極室の前記所与の方向の長さAが、0.40m以上4.0m以下であり、前記電極室の前記隔壁に垂直な方向の長さBが、0.0030m以上0.030m以下であり、前記複数の整流板の間隔Cが、0.050m以上0.1m以下であり、
前記電極室の前記所与の方向に垂直な面における断面積Dが、0.00050m2以上0.0050m2以下であり、{(2×D)/(B+C)}が、0.015m以上0.050m以下である、
ことを特徴とする、アルカリ水電解用電解槽。
隣接する前記エレメント間において前記外枠同士の間に前記隔膜を有するガスケットが挟持され、前記ガスケットは、厚みが3.0mm〜10mm、100%変形時の弾性率が1.0MPa〜10MPaである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電解槽。
前記陽極又は前記陰極と前記隔壁との間に、導電性弾性体及び集電体が、前記導電性弾性体が前記陽極又は前記陰極と前記集電体とに挟まれるように、設けられている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電解槽。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0025】
(アルカリ水電解用複極式電解槽)
図1に、本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽の一例の全体についての側面図を示す。
図2に、本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽の一例のゼロギャップ構造を
図1に示す破線四角枠の部分についての側面図を示す。
図3に、本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽の一例の電極室部分についての平面図を示す。
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽は、
図1に示すとおり、陽極2aと、陰極2cと、陽極2aと陰極2cとを隔離する隔壁1と、隔壁1を縁取る外枠3とを備える複数の複極式エレメント60が隔膜4を挟んで重ね合わせられている複極式電解槽50である。
【0026】
また、本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽50は、隔膜4が陽極2a及び陰極2cと接触してゼロギャップ構造Zが形成されている(
図2参照)。
【0027】
そして、本実施形態における複極式電解槽50では、隔壁1と外枠3と隔膜4とにより電解液が通過する電極室5が画成されており、電極室5には隔壁1に沿う所与の方向D1に対して平行に配置される複数の整流板6が設けられている(
図2、
図3参照)。言い換えれば、電極室5には互いに平行に並べられた複数の整流板6が隔壁1に沿う所与の方向D1に平行に設けられている(
図2、
図3参照)。
【0028】
(電解槽)
本実施形態のアルカリ水電解用電解槽50は、単極式であっても、複極式であってもよく、隔膜4を介して複極式エレメント60がスタックされたアルカリ水電解用複極式電解セル65を含む複極式電解槽50であることが好ましい。
単極式とは、1又は複数のエレメントを直接電源に接続する方法であり、並列に並べた陰極2cと陽極2aとを備える各エレメントの陽極2aに隔膜4を挟んで陰極ターミナルエレメント51cを設け、陰極2cに隔膜4を挟んで陽極ターミナルエレメント51aを設け、各ターミナルエレメントに電源をつなぐ並列回路である。
複極式は、多数のセルを電源に接続する方法の1つであり、片面が陽極2a、片面が陰極2cとなる複数の複極式エレメント60を同じ向きに並べて直列に接続し、両端のみを電源に接続する方法である。
複極式電解槽50は、電源の電流を小さくできるという特徴を持ち、電解により化合物や所定の物質等を短時間で大量に製造することができる。電源設備は出力が同じであれば、定電流、高電圧の方が安価でコンパクトになるため、工業的には単極式よりも複極式の方が好ましい。
【0029】
((エレメント))
上記エレメントとしては、単極式電解槽に用いられる単極式エレメントと、複極式電解槽に用いられる複極式エレメント等が挙げられる。中でも、複極式エレメントが好ましい。
一例のアルカリ水電解用複極式電解槽50に用いられる複極式エレメント60は、
図1に示すように、陽極2aと陰極2cとを隔離する隔壁1を備え、隔壁1を縁取る外枠3を備えている。より具体的には、隔壁1は導電性を有し、外枠3は隔壁1の外縁に沿って隔壁1を取り囲むように設けられている。
上記エレメントは、陽極2a、陰極集電体2r、導電性弾性体2e、陰極2cをこの順に含み、さらに、隔壁1、リブ6、外枠3、逆電吸収体、陽極集電体等を備えていてもよい。
【0030】
なお、本実施形態では、複極式エレメント60は、通常、隔壁1に沿う所与の方向D1が、鉛直方向となるように、使用してよく、具体的には、
図2、
図3に示すように隔壁1の平面視形状が長方形である場合、隔壁1に沿う所与の方向D1が、向かい合う2組の辺のうちの1組の辺の方向と同じ方向となるように、使用してよい(
図1〜
図7参照)。そして、本明細書では、上記鉛直方向を電解液通過方向とも称する。
【0031】
本実施形態では、
図1に示すとおり、複極式電解槽50は複極式エレメント60を必要数積層することで構成されている。
図1に示す一例では、複極式電解槽50は、一端からファストヘッド51g、絶縁板51i、陽極ターミナルエレメント51aが順番に並べられ、更に、陽極側ガスケット部分7、隔膜4、陰極側ガスケット部分7、複極式エレメント60が、この順番で並べて配置される。このとき、複極式エレメント60は陽極ターミナルエレメント51a側に陰極2cを向けるよう配置する。陽極側ガスケット部分7から複極式エレメント60までは、設計生産量に必要な数だけ繰り返し配置される。陽極側ガスケット部分7から複極式エレメント60までを必要数だけ繰り返し配置した後、再度、陽極側ガスケット部分7、隔膜4、陰極側ガスケット部分7を並べて配置し、最後に陰極ターミナルエレメント51c、絶縁板51i、ルーズヘッド51gをこの順番で配置される。複極式電解槽50は、全体をタイロッド方式51r(
図1参照)や油圧シリンダー方式等の締め付け機構により締め付けることによりー体化され、複極式電解槽50となる。
複極式電解槽50を構成する配置は、陽極2a側からでも陰極2c側からでも任意に選択でき、上述の順序に限定されるものではない。
【0032】
図1に示すように、複極式電解槽50では、複極式エレメント60が、陽極ターミナルエレメント51aと陰極ターミナルエレメント51cとの間に配置されている。隔膜は、陽極ターミナルエレメント51aと複極式エレメント60との間、隣接して並ぶ複極式エレメント60同士の間、及び複極式エレメント60と陰極ターミナルエレメント51cとの間に配置されている。
【0033】
また、本実施形態の複極式電解槽は、上記電解セルを50個以上500個以下含むことが好ましく、70個以上300個以下含むことがより好ましく、100個以上200個以下含むことがさらに好ましい。
特に、外部ヘッダー型の電解セルである場合、重ね合わせる電解セルの数が500個以下であると、リーク電流が少なくなり、効率が高くなる。また、シール面圧が均一になり易く、電解液の漏れやガス漏洩が起こりにくい。また、電解セルの数が50個以上であると、大電力をためることが可能となり、実質的に電力貯蔵システムとして一層機能することが可能となる。
【0034】
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽50では、
図2に示すとおり、隔膜4が陽極2a及び陰極2cと接触してゼロギャップ構造Zが形成されている。
【0035】
アルカリ水電解において、隔膜4と、陽極2aや陰極2cとの間に隙間がある場合、この部分には電解液の他に電解で発生した大量の気泡が滞留することで、電気抵抗が非常に高くなる。電解セル65における大幅な電解電圧の低減を図るためには、陽極2aと陰極2cの間隔(以下、「極間距離」ともいう。)をできるだけ小さくして、陽極2aと陰極2cの間に存在する電解液や気泡の影響をなくすことが効果的である。
【0036】
そこで、電極2全面にわたり、陽極2aと隔膜4とが互いに接触し、且つ、陰極2cと隔膜4とが互いに接触している状態、又は、電極2全面にわたり、極間距離が隔膜4の厚みとほぼ同じとなる距離で、陽極2aと隔膜4との間及び陰極2cと隔膜4との間に隙間のほとんど無い状態、に保つことのできる、ゼロギャップ構造Zが採用される。
【0037】
極間距離を小さくするための手段は、既にいくつか提案されており、例えば、陽極2aと陰極2cを完全に平滑に加工して、隔膜4を挟むように押し付ける方法や、電極2と隔壁1との間にバネ等の弾性体(特に導電性弾性体2e)を配置し、この弾性体で電極2を支持する方法、電極2と隔壁1との間に上記弾性体(特に導電性弾性体2e)と集電体(特に陰極集電体2r)とを配置し、集電体で弾性体をささえる方法等が挙げられる。
図1に示す例では、弾性体を用いる方法が採用されている。
【0038】
本発明のアルカリ水電解用電解槽は、陽極2a及び陰極2cを含む複数のエレメントが、隣り合うエレメントの陰極2cと陽極2aとが向かい合うように、多孔膜である隔膜4を挟んで重ね合わされている。また、上記陰極2cと、上記陰極の隔膜側とは反対側に順に設けられた導電性弾性体及び陰極集電体とを含む陰極複合体、及び/又は、上記陽極2aと、上記陽極の隔膜側とは反対側に順に設けられた導電性弾性体及び陽極集電体とを含む陽極複合体、を備えている。
【0039】
また、本実施形態における複極式電解槽50では、
図2、
図3に示すとおり、隔壁1と外枠3と隔膜4とにより、電解液が通過する電極室5が画成されている。
【0040】
本実施形態では、特に、複極式電解槽50における、隣接する2つの複極式エレメント60間の互いの隔壁1間における部分、及び、隣接する複極式エレメント60とターミナルエレメントとの間の互いの隔壁1間における部分を電解セル65と称する。電解セル65は、一方のエレメントの隔壁1、陽極室5a、陽極2a、及び、隔膜4、及び、他方のエレメントの陰極2c、陰極室5c、隔壁1を含む。
【0041】
詳細には、電極室5は、外枠3との境界において、電極室5に電解液を導入する電解液入口5iと、電極室から電解液を導出する電解液出口5oとを有する。より具体的には、陽極室5aには、陽極室5aに電解液を導入する陽極電解液入口5aiと、陽極室5aから導出する電解液を導出する陽極電解液出口5aoとが設けられる。同様に、陰極室5cには、陰極室5cに電解液を導入する陰極電解液入口5ciと、陰極室5cから導出する電解液を導出する陰極電解液出口5coとが設けられる。
【0042】
なお、
図1〜
図3に示した例では、長方形形状の隔壁1と長方形形状の隔膜4とが平行に配置され、また、隔壁1の端縁に設けられた直方体形状の外枠3の隔壁1側の内面が隔壁1に垂直となっているため、電極室5の形状が直方体となっている。
【0043】
複極式電解槽50には、通常、電解液を配液又は集液する管であるヘッダー10が取り付けられ、隔壁1の端縁にある外枠3のうちの下方に、陽極室5aに電解液を入れる陽極入口ヘッダー10aiと、陰極室5cに電解液を入れる陰極入口ヘッダー10ciとを備えている。また、同様に、隔壁1の端縁にある外枠3のうちの上方に、陽極室5aから電極液を出す陽極出口ヘッダー10aoと、陰極室5cから電解液を出す陰極出口ヘッダー10coとを備えている。
なお、
図1〜
図3に示す複極式電解槽50に取り付けられるヘッダー10の配設態様として、代表的には、内部ヘッダー10I型と外部ヘッダー10O型とがあるが、本発明では、いずれの型を採用してもよく、特に限定されない。
【0044】
本実施形態の複極式電解槽50では、陽極入口ヘッダー10aiで配液された電解液が、陽極電解液入口5aiを通って陽極室5aに導入され、陽極室5aを通過し、陽極電解液出口5aoを通って陽極室5aから導出され、陽極出口ヘッダー10aoで集液される。
【0045】
そして、本実施形態における電極室は、
図2、
図3に示すとおり、隔壁1に沿う所与の方向D1に対して平行に配置される複数の整流板6を備える。
【0046】
整流板6は、電解室5内における気液の流れの乱れにより電解室5に生じる対流を低減して、局所的な電解液の温度の上昇を抑制する。
【0047】
特に、
図1〜
図3に示した例では、複数の整流板6が、隔壁1に沿う所与の方向D1(図示の例では、電解液通過方向)に垂直な方向に、一定の間隔(ピッチ)で設けられている。
【0048】
また、一例の複極式電解槽50では、整流板6は、電極室5の高さとほぼ同じ長さを有し、隔壁1に垂直に設けられている。整流板6は、必須ではないが、電解槽の重量を削減する等の目的で、隔壁1に沿う所与の方向D1(図示の例では、電解液通過方向)について所定のピッチで貫通孔を有している。
【0049】
ここで、本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽50では、電極室5の隔壁に沿う所与の方向の長さAが、0.40m以上4.0m以下であり、電極室5の隔壁1に垂直な方向の長さBが、0.0030m以上0.030m以下であり、複数の整流板6の間隔Cが、0.050m以上0.19m以下である。
【0050】
上記長さAは、
図2、
図3に示すように電極室5の高さを示すものとしてもよく、電極室5内で隔壁1に沿う所与の方向D1(電解液通過方向)の長さに変化がある場合には、その長さの平均としてよい。また、電極室5が隔壁1に沿う所与の方向D1に関して途中で分断されている場合には、上記長さAは、分断されていた部分についての上記長さAに相当する長さの合計としてよい。
上記長さBは、
図2に示すように電極室5の厚さを示すものとしてもよく、電極室5内で電極2に垂直な方向の長さに変化がある場合には、その長さの平均としてよい。
上記間隔Cは、複数の整流板6が一定の間隔(ピッチ)で設けられている場合には、その間隔(ピッチ)をいい(
図3参照)、複数の整流板6が一定の間隔(ピッチ)で設けられていない場合には、設けられた複数の整流板6同士の間隔の平均をいう。また、隣接する2つの整流板6間においてその間隔が整流板6の延在方向について変化している(一定でない)場合には、当該隣接する2つの整流板6間の間隔の平均としてよい。
【0051】
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽50によれば、上記長さA、上記長さB、上記間隔Cを、上記のとおり規定することで、電解液及びガスの流れを幅広い電解条件で改善し、バックミキシング現象を制御することで、高電流密度運転時の電解過電圧の急激な上昇を抑え、生産性の高いゼロギャップ構造Zを有する複極式電解槽50の設計が可能になる。
ひいては、高電流密度での運転や変動電源での運転で用いてアルカリ水電解を行った際に電解室5出口の高温化を低減することで、電解液の温度の上昇を抑制する、電解室5内における気液の流れの乱れにより電解室5に生じる対流を低減して、局所的な電解液の温度の上昇を抑制することができ、長期に渡って安定して高い電解効率を実現することができる。
【0052】
上記効果をさらに高める観点に加え、電極室5内の気液比の断続的な変動による圧力変動を抑制する観点から、上記長さA、上記長さB、上記間隔Cを、下記の範囲とすることが好適である。
本実施形態では、上記長さAについて、0.40m以上3.0m以下であることが好ましく、0.50m以上2.5m以下であることがさらに好ましく、0.60m以上2.0m以下であることがより好ましい。
本実施形態では、上記長さBについて、0.0050m以上0.025m以下であることが好ましく、0.0060m以上0.023m以下であることがさらに好ましく、0.0070m以上0.020m以下であることがより好ましい。
本実施形態では、上記間隔Cについて、0.060m以上0.12m以下であることが好ましく、0.070m以上0.11m以下であることがさらに好ましく、0.080m以上0.10m以下であることがより好ましい。
上記長さAの範囲、上記長さBの範囲、上記間隔Cの範囲は、本発明の効果を好適に得るうえで、それぞれ個別に選択されてもよい。
【0053】
なお、隔壁1に沿う所与の方向D1に垂直な方向について最外端に位置する整流板6と外枠3との間の間隔(図示せず)としては、特に限定されるものではないが、本発明の効果を高める観点から、0.050m以上0.19m以下とするのが好ましい。
【0054】
さらに、発明者らは、特に風力や太陽光等の再生可能エネルギーから得られる変動する電源での運転時に、電極室5内の気液比の断続的な変動により、電解液の乱れが増長されることが観測されたことから、これを克服する方法を種々検討した結果、下記好適特徴を見出した。
本実施形態(例えば、上記[1]〜[20]の形態等)のアルカリ水電解用複極式電解槽50では、電極室5の隔壁1に沿う所与の方向D1に垂直な面における断面積Dが、0.00050m
2以上0.0050m
2以下であり、{(2×D)/(B+C)}が、0.015m以上0.050m以下であることが好ましい。
【0055】
なお、上記断面積Dは、電極室5の隔壁1に沿う所与の方向D1に垂直な面における断面形状が略矩形である場合、(前述の長さB)×(前述の間隔C)としてよい。
また、上記{(2×D)/(B+C)}は、一般的に前記断面形状が略矩形である場合、水力直径Dhを示すものであり、断面積Dと合わせて流体の流れ状態に相関する因子である。
【0056】
上記断面積D及び上記{(2×D)/(B+C)}を上記のとおり規定することで、幅広い電解液流量の範囲、電解液温度の範囲において、液及びガスの流れを制御し、気液比の乱れを抑える効果を容易に発現することができる。これにより、気液分離状態が改善され、電極室5内の圧力変動や両極室間の差圧変動を抑制させやすい。
ひいては、電解室5出口の高温化を低減することで、電解液の温度の上昇を抑制する、電解室5内における気液の流れの乱れにより電解室5に生じる対流を低減して、局所的な電解液の温度の上昇を抑制するという本発明の効果を、より高い電流密度、より多くのセル数を有する電解槽50においても、安定して高めることができる。
【0057】
上記効果をさらに高める観点から、本実施形態(例えば、上記[1]〜[20]の形態等)では、上記断面積Dについて、0.0010m
2以上0.0040m
2以下であることがさらに好ましく、0.0010m
2以上0.0035m
2以下であることが特に好ましい。
本実施形態では、上記{(2×D)/(B+C)}について、0.020m以上0.045m以下であることがさらに好ましく、0.025m以上0.040m以下であることがさらに好ましい。
上記断面積Dの範囲、上記{(2×D)/(B+C)}の範囲は、本発明の効果を好適に得るうえで、それぞれ個別に選択されてもよい。
【0058】
なお、本発明において、電極室5の形状は、
図1〜
図3に示す例の直方体に限定されることなく、隔壁1や隔膜4の平面視形状、外枠3の隔壁1側の内面と隔壁1とのなす角度等により、適宜変形されてよく、本発明の効果が得られる限り、いかなる形状であってもよい。
【0059】
なお、本発明において、電極室5における整流板6の配設態様は、
図1〜
図3に示す例に限定されない。
本発明において、整流板6の数や整流板6の隔壁1に沿う所与の方向D1に垂直な方向についての一定の間隔(ピッチ)は、本発明の効果が得られる限り、適宜定められてよい。ここで、整流板6の間隔は、一定でなくてもよい。
また、本発明において、整流板6の長さ、整流板6と隔壁1とのなす角度、貫通孔の数や貫通孔の隔壁1に沿う所与の方向D1についての一定の間隔(ピッチ)は、本発明の効果が得られる限り、適宜定められてよい。ここで、貫通孔の間隔は、一定でなくてもよい。
【0060】
なお、
図1〜
図3に示す例では、隔壁1、陽極2a、陰極2cがいずれも所定の厚みを有する板状の形状であるが、本発明はこれに限定されることなく、断面において全部又は一部がジグザグ状、波状となる形状であってもよく、端部が丸みを帯びている形状であってもよい。
【0061】
従来技術におけるゼロギャップ構造を有する装置では、再生可能エネルギー等の変動電源下等で運転する場合、セル電圧が上昇することがあった。そのため、アルカリ水電解用電解槽には、再生可能エネルギー等の変動電源下等で運転する場合でも、セル電圧が上昇しにくいこともまた、追加的な課題として求められている。
発明者らは上記課題について、陽極と陰極集電体との距離、材料の物性や隔膜・陽極・陰極との間にかかる面圧を適切にコントロールすることで解決できることも見出し、本発明をなすに至った。
より具体的には、再生可能エネルギー由来の電気を水素に変換して貯蔵するといった用途では、従来の装置に較べ精緻な装置構造が求められるわけであるが、例えば、複数のセル間で電解電圧のばらつきを生じ経時的に電解電圧の上昇を起こす場合があるという新たな課題が生じてきたのである。この点についても、鋭意検討を進めた結果、面積の大きなセルを多数スタックして電解槽を構成する場合に、製作精度やセルをスタックする際の組み立てのばらつきなどが原因と推定された。そこで、このようなばらつきを許容して、安定的にセルの性能を発現させる方法についても検討を行った。その結果、電解電圧が製作精度やセルをスタックする際の組み立てのばらつきにより、望ましいセロギャップ構造を必ずしも取れない場合があることと推定され、これを抑制する構成として以下の構成に至った。
【0062】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[20]の形態等)のアルカリ水電解用電解槽は、上記隔膜4が上記陽極2a及び上記陰極2cと接触してゼロギャップ構造Zが形成されており、上記ゼロギャップ構造Zにおいて、上記陽極2aと上記陰極集電体2rとの距離及び/又は上記陰極2cと上記陽極集電体との距離が1.0mm以上6.0mm以下であり、上記導電性弾性体の密度が0.1g/cm
3以上4.5g/cm
3以下であり、上記ゼロギャップ構造Zにおいて、上記隔膜4と上記陰極2c及び/又は上記陽極2aとの間にかかる面圧が8.00kN/m
2以上100.00kN/m
2以下である。
なお、「上記陽極と上記陰極集電体との距離」とは、隔膜4を挟んだ、隣り合うエレメントの陽極2aと陰極集電体2rとの距離であって、陰極集電体2rの導電性弾性体2e側の面と、陽極2aと隔膜4とが接する面との距離をいう。また、「上記陰極と上記陽極集電体との距離」とは、隔膜を挟んだ、隣り合うエレメントの陰極と陽極集電体との距離であって、陽極集電体の導電性弾性体側の面と、陰極と隔膜とが接する面との距離をいう。
本実施形態のアルカリ水電解用電解槽は、上記構成を有するため、再生可能エネルギー等の変動電源下等で運転する場合でも、セル電圧が上昇しにくい。
より詳細には、電極・集電体間距離、陽極及び/又は陰極を構成する電極、集電体、弾性体の特性を上記の範囲内とすることで、製作精度やセルをスタックする際の組み立てのばらつきを克服して、望ましいゼロギャップ状態をセルスタック全体で作ることができるものと考えられる。加えて、電解を長期に行うとガス発生時にゼロギャップ構造内での振動を与え続けた際にも、その振動をうまく吸収して長期にわたって安定なゼロギャップ構造を保持することができるようになるものと推定される。
【0063】
ここで、本実施形態(例えば、上記[1]〜[20]の形態等)の電解セル65は、上記ゼロギャップ構造Zを有し、ゼロギャップ構造Zにおいて上記陽極2aと上記陰極集電体2rとの距離及び/又は上記陰極2cと上記陽極集電体との距離が1.0mm以上6.0mm以下であり、上記導電性弾性体2eの密度が0.1g/cm
3以上4.5g/cm
3以下であり、上記ゼロギャップ構造Zにおいて、上記隔膜4と上記陰極2cとの間にかかる面圧が8.00kN/m
2以上100.00kN/m
2以下であるため、再生可能エネルギー等の変動電源下で運転する場合において、電極2によって隔膜4が押しつぶされて、電解液流路となる隔膜4の孔が閉塞しセル電圧上昇することを抑制することができる。また、電極2や隔膜面で発生したガスにより、圧変動で隔膜4が振動して、隔膜4と電極2との極間距離が開くことによるセル電圧上昇を抑制することができる。上記の範囲から外れると、運転条件を変更した場合でも、上述の効果が得られにくい。
【0064】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[20]の形態等)の電解セル65では、上記ゼロギャップ構造Zにおいて、上記隔膜4を挟んだ上記陽極2aと上記陰極集電体2rとの距離及び/又は上記陰極2cと上記陽極集電体との距離が、1.0mm以上6.0mm以下であり、1.2mm以上5.0mm以下であることが好ましく、より好ましくは1.3mm以上4.0mm以下である。
ここで、ゼロギャップ構造Zにおいて、陽極複合体及び陰極複合体を備える場合、上記陽極2aと上記陰極集電体2rとの距離及び上記陰極2cと上記陽極集電体との距離が1.0mm以上6.0mm以下であってもよいし、上記陽極2aと上記陰極集電体2rとの距離及び上記陰極2cと上記陽極集電体との距離の一方の距離が1.0mm以上6.0mm以下であってもよい。
図2に示す例では、陽極2aと陰極複合体とを含むゼロギャップ構造において、陽極2aと陰極集電体2rとの距離が1.0mm以上6.0mm以下である。本明細書において、陽極2aと陰極複合体2rとを含むゼロギャップ構造Zにおける、陽極2aと陰極集電体2rとの距離を距離aと称する場合がある。
なお、上記陽極2aと上記陰極集電体2rとの上記距離は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0065】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[20]の形態等)の電解セル65では、上記ゼロギャップ構造Zにおいて、上記導電性弾性体の厚みは、0.5mm以上5.5mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.7mm以上4.5mm以下である。
上記厚みが0.5mm以上であると、再生可能エネルギー等の変動電源下で運転する場合において、電極によって隔膜が押しつぶされて、電解液流路となる隔膜の孔が閉塞しセル電圧上昇することを抑制することができる。また、上記厚みが5.5mm以下であると電極や隔膜面で発生したガスにより、圧変動で隔膜が振動して、隔膜と電極との極間距離が開くことによるセル電圧上昇を抑制することができる。
なお、上記導電性弾性体の厚みは、上記隔膜4を挟んだ上記陽極2aと上記陰極集電体2rとの距離及び/又は上記陰極2cと上記陽極集電体との距離が上記範囲であるゼロギャップ構造Zにおける、陽極2aと陰極集電体2r間及び/又は陰極2cと陽極集電体間の導電性弾性体の厚みをいう。
【0066】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[20]の形態等)の電解セル65では、集電体と隔壁1との距離は、1mm以上40mm以下であることが好ましく、より好ましくは5mm以上25mm以下である。
上記距離が1mm以上であると、発生したガスを電極裏面への排出しやすくなり、また、電解液を供給しやすくなる。また、上記距離が40mm以下であると、発生したガスによってバックミキシングが生じやすく、隔膜4と電極2の界面に付着したガスの脱泡性に優れる。更に、電極室5内での温度や電解液濃度を均一化することができる。
なお、集電体と隔壁1との上記距離は、同一エレメント内の集電体と隔壁1との距離であって、集電体の隔壁側の面と隔壁1の該集電体側の面との距離をいう。
【0067】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[20]の形態等)の電解セル65では、上記ゼロギャップ構造Zにおいて、上記隔膜4と上記陽極2a及び/又は上記陰極2cとの間にかかる面圧が、8.00kN/m
2以上100.00kN/m
2以下であり、好ましくは14.00kN/m
2以上90.00kN/m
2以下、より好ましくは19.00kN/m
2以上60.00kN/m
2以下である。面圧を上記範囲とすることにより、隔膜内の細孔がつぶれにくくなり、セル電圧が上昇しにくくなる。
ここで、「上記隔膜と上記陽極及び/又は上記陰極との間にかかる面圧」とは、上記隔膜4を挟んだ上記陽極2aと上記陰極集電体2rとの距離及び/又は上記陰極2cと上記陽極集電体との距離が上記範囲であるゼロギャップ構造Zにおける、上記隔膜4と上記陽極2a及び/又は上記陰極2cとの間にかかる面圧をいう。
なお、上記面圧は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0068】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[20]の形態等)の電解セル65では、上記ゼロギャップ構造において、導電性弾性体の密度が0.1g/cm
3以上4.5g/cm
3以下であり、好ましくは0.2g/cm
3以上3.0g/cm
3以下、更に好ましくは0.4g/cm
3以上2.5g/cm
3以下である。導電性弾性体の密度を上記範囲とすることにより、隔膜と電極間の面圧を適度に制御することができ、隔膜内の細孔がつぶれにくくなる。
ここで、「導電性弾性体の密度」とは、上記隔膜4を挟んだ上記陽極2aと上記陰極集電体2rとの距離及び/又は上記陰極2cと上記陽極集電体との距離が上記範囲であるゼロギャップ構造における、上記陽極2aと上記陰極集電体2rとの間及び/又は上記陰極2cと上記陽極集電体との間にある、上記導電性弾性体の密度をいう。
なお、上記密度は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0069】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[20]の形態等)の電解セル65は、上記エレメントの通電面の面積S1が0.1m
2以上10m
2以下であることが好ましく、より好ましくは0.15m
2以上8m
2以下である。通電面が0.1m
2以上であると、電解液供給ヘッダーを適度な大きさとすることができ、製作が容易となる。10m
2以下であると、シール面圧が均一になり易く、電解液の漏れやガスの漏れが起こりにくくなる。
上記エレメントの通電面の面積S1とは、エレメントの電極(陽極及び陰極)の隔壁に平行な面における面積をいう。なお、陽極、陰極において上記面積が異なる場合には、その平均をいうものとする。
【0070】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[20]の形態等)の電解セル65は、上記エレメントの厚みdが10mm以上100mm以下であることが好ましい。エレメントの厚みが10mm以上であると、電解セルのガス液チャンバー内のガス比率が増大しにくく、セル電圧が一層上昇しにくくなる。また、100mm以下であると、ヘッダーの圧損の影響を受けにくく、均一分配しやすくなる。また、設置面積を適度な大きさとすることができる。
上記エレメントの厚さdとは、隣接する2つのエレメントの隔壁1同士の間の隔壁1に垂直な方向についての距離をいう。
【0071】
本実施形態では、上述の電解槽の特徴を単独で用いてもよく複数組み合わせて用いてもよい。
【0072】
本実施形態の電解槽は、
陽極と、陰極と、陽極と陰極とを隔離する隔壁と、隔壁を縁取る外枠とを備える複数の複極式エレメントが隔膜を挟んで重ね合わせられ、隔膜が陽極及び陰極と接触してゼロギャップ構造が形成され、隔壁と外枠と隔膜とにより画成される電極室に隔壁に沿う所与の方向に対して平行に複数の整流板が設けられた複極式電解槽であり、
電極室の隔壁に沿う所与の方向の長さAが、0.40m以上4.0m以下であり、電極室の隔壁に垂直な方向の長さBが、0.0030m以上0.030m以下であり、複数の整流板の間隔Cが、0.050m以上0.19m以下である、
ことを特徴とし、
且つ、
陽極及び陰極を含む複数の複極式エレメントが、多孔膜である隔膜を挟んで重ね合わされ、
陰極と、陰極の隔膜側とは反対側に順に設けられた導電性弾性体及び陰極集電体とを含む陰極複合体、及び/又は、陽極と、陽極の隔膜側とは反対側に順に設けられた導電性弾性体及び陽極集電体とを含む陽極複合体、を備えており、
陽極と陰極集電体との距離及び/又は陰極と陽極集電体との距離が1.0mm以上6.0mm以下であり、
導電性弾性体の密度が0.1g/cm
3以上4.5g/cm
3以下であり、
ゼロギャップ構造において、隔膜と、陽極及び/又は陰極との間にかかる面圧が8kN/m
2以上100kN/m
2以下である、
ことを特徴とする
電解槽としてよい。
【0073】
以下、本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽50の構成要素について詳細に説明する。
また、以下では、本発明の効果を高めるための好適形態についても詳述する。
【0074】
−隔壁−
隔壁1は、陰極2cと陽極2aとの間であって、陽極2aと陰極複合体との間及び/又は陰極2cと陽極複合体との間に設けられることが好ましい。
本実施形態における隔壁1の形状は、所定の厚みを有する板状の形状としてよいが、特に限定されない。
隔壁1の平面視形状としては、特に限定されることなく、矩形(正方形、長方形等)、円形(円、楕円等)としてよく、ここで、矩形は角が丸みを帯びていてもよい。
一実施形態において、隔壁1と外枠3とを溶接その他の方法で接合することで一体化してもよく、例えば、隔壁1に、隔壁1の平面に対して垂直な方向に張り出したフランジ部(陽極2a側に張り出した陽極フランジ部、陰極2c側に張り出した陰極フランジ部)を設け、フランジ部を外枠3の一部としてもよい。
【0075】
なお、隔壁1は、通常、隔壁1に沿う所与の方向D1が、鉛直方向となるように、使用してよく、具体的には、
図2、
図3に示すように隔壁1の平面視形状が長方形である場合、隔壁1に沿う所与の方向D1が、向かい合う2組の辺のうちの1組の辺の方向と同じ方向となるように、使用してよい(
図1〜
図7参照)。そして、本明細書では、上記鉛直方向を電解液通過方向とも称する。
【0076】
隔壁1のサイズとしては、特に限定されることなく、電極室5のサイズに応じて適宜設計されてよい。
特に、隔壁1が板状の形状である場合、隔壁1の厚さは、0.5mm〜5mmとしてよく、縦の長さや横の長さは、特に限定されない。
上記隔壁の厚みは、陽極リブと陰極リブが隔壁に溶接等で接合されて一体構造になっている場合は、陽極リブや陰極リブにより補強されるので、厚くする必要はない。通常は、0.5〜2mmの厚みで十分である。0.5mmより薄いと陽極リブや陰極リブと隔壁との溶接も困難になる上、製作上もハンドリングがし難くなる欠点があり、また2mmより厚い場合は、製作コストが高くなり電解ユニットも重くなるため好ましくない。
【0077】
隔壁1の材料としては、電力の均一な供給を実現する観点から、高い導電性を有する材料が好ましく、耐アルカリ性や耐熱性といった面から、ニッケル、ニッケル合金、軟鋼、ニッケル合金上にニッケルメッキを施したものが好ましい。
【0078】
−電極−
本実施形態のアルカリ水電解による水素製造において、エネルギー消費量の削減、具体的には電解電圧の低減は、大きな課題である。この電解電圧は電極2に大きく依存するため、両電極2の性能は重要である。
【0079】
アルカリ水電解の電解電圧は、理論的に求められる水の電気分解に必要な電圧の他に、陽極反応(酸素発生)の過電圧、陰極反応(水素発生)の過電圧、陽極2aと陰極2cとの電極2間距離による電圧とに分けられる。ここで、過電圧とは、ある電流を流す際に、理論分解電位を越えて過剰に印加する必要のある電圧のことを言い、その値は電流値に依存する。同じ電流を流すとき、過電圧が低い電極2を使用することで消費電力を少なくすることができる。
【0080】
低い過電圧を実現するために、電極2に求められる要件としては、導電性が高いこと、酸素発生能(或いは水素発生能)が高いこと、電極2表面で電解液の濡れ性が高いこと等が挙げられる。
【0081】
アルカリ水電解の電極2として、過電圧が低いこと以外に、再生可能エネルギーのような不安定な電流を用いても、電極2の基材及び触媒層の腐食、触媒層の脱落、電解液への溶解、隔膜4への含有物の付着等が起きにくいことが挙げられる。
【0082】
電極2のサイズとしては、特に限定されることなく、電極室5のサイズに合わせて定められてよく、縦:0.4m〜4.0m、横:0.4m〜6.0m、厚さ:0.1mm〜3mmとしてよい。
【0083】
本実施形態における電極2としては、電解に用いられる表面積を増加させるため、また、電解により発生するガスを効率的に電極2表面から除去するために、陽極及び陰極のうち少なくとも一方が多孔体であることが好ましく、陽極及び陰極が多孔体であることがより好ましい。特に、ゼロギャップ電解槽の場合、隔膜4との接触面の裏側から発生するガスを脱泡する必要があるため、電極2の膜に接する面と反対に位置する面が、貫通していることが好ましい。
【0084】
多孔体の例としては、平織メッシュ、パンチングメタル、エキスパンドメタル、金属発泡体等が挙げられる。
【0085】
本実施形態における電極2は、基材そのものとしてもよく、基材の表面に反応活性の高い触媒層を有するものとしてもよいが、基材の表面に反応活性の高い触媒層を有するものが好ましい。
【0086】
基材の材料は、特に制限されないが、使用環境への耐性から、軟鋼、ステンレス、ニッケル、ニッケル基合金が好ましい。
【0087】
陽極2aの触媒層は、酸素発生能が高いものであることが好ましく、ニッケルやコバルト、鉄もしくは白金族元素等を使用することができる。これらは、所望の活性や耐久性を実現するために、金属単体や、酸化物等の化合物、複数の金属元素からなる複合酸化物や合金、或いはそれらの混合物として、触媒層を形成できる。具体的には、ニッケルめっきや、ニッケルとコバルト、ニッケルと鉄等の合金めっき、LaNiO
3やLaCoO
3、NiCo2O
4等のニッケルやコバルトを含む複合酸化物、酸化イリジウム等の白金族元素の化合物、グラフェン等の炭素材料等が挙げられる。耐久性や基材との接着性を向上させるために高分子等の有機物が含まれていてもよい。
【0088】
陰極2cの触媒層は、水素発生能が高いものであることが好ましく、ニッケルやコバルト、鉄もしくは白金族元素等を使用することができる。これらは、所望の活性や耐久性を実現するために、金属単体や、酸化物等の化合物、複数の金属元素からなる複合酸化物や合金、或いはそれらの混合物として、触媒層を形成できる。具体的には、ラネーニッケルや、ニッケルとアルミニウム、或いはニッケルと錫等の複数の材料の組み合わせからなるラネー合金、ニッケル化合物やコバルト化合物を原料として、プラズマ溶射法により作製した多孔被膜、ニッケルと、コバルト、鉄、モリブデン、銀、銅等から選ばれる元素との合金や複合化合物、水素発生能が高い白金やルテニウム等の白金族元素の金属や酸化物、及び、それら白金族元素の金属や酸化物と、イリジウムやパラジウム等の他の白金族元素の化合物やランタンやセリウム等の希土類金属の化合物との混合物、グラフェン等の炭素材料等が挙げられる。高い触媒活性や耐久性を実現するために、上記の材料を複数積層してもよく、触媒層中に複数混在させてもよい。耐久性や基材との接着性を向上させるために高分子材料等の有機物が含まれていてもよい。
【0089】
触媒層の厚みは、厚すぎると電気抵抗が増加し過電圧を上昇させる場合があり、逆に薄すぎると長期間の電解や電解の停止により触媒層が溶解もしくは脱落することで電極2が劣化し、過電圧が上昇する場合がある。
これらの理由から、触媒層の厚みは、0.2μm以上1000μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以上300μm以下である。
なお、触媒層の厚みは、例えば電子顕微鏡にて電極2の断面を観察することにより測定できる。
【0090】
基材上に触媒層を形成させる方法としては、めっき法、プラズマ溶射法等の溶射法、基材上に前駆体層溶液を塗布した後に熱を加える熱分解法、触媒物質をバインダー成分と混合して基材に固定化する方法、及び、スパッタリング法等の真空成膜法といった手法が挙げられる。
【0091】
本実施形態においては、電極2の比表面積は0.001m
2/g以上1m
2/g以下が好ましく、より好ましくは、0.005m
2/g以上0.1m
2/g以下である。電極2の比表面積(基材を含む電極2全体の比表面積)が小さいと、単位面積当たりの反応活性点が少なくなるので、低い過電圧が得られない場合がある。一方、水電解用電極2の比表面積が大き過ぎると触媒層の機械的強度が低下し、耐久性が低下する場合がある。
なお、比表面積は例えばBET法を用いて測定することができる。測定試料を専用セルに入れ、加熱真空排気を行うことにより前処理を行い、細孔表面への吸着物を予め取り除く。その後、−196℃で測定サンプルへのガス吸着の吸脱着等温線を測定する。得られた吸脱着等温線をBET法で解析することにより、測定サンプルの比表面積を求めることができる。
【0092】
−外枠−
本実施形態における外枠3の形状は、隔壁1を縁取ることができる限り特に限定されないが、隔壁1の平面に対して垂直な方向に沿う内面を隔壁1の外延に亘って備える形状としてよい。
外枠3の形状としては、特に限定されることなく、隔壁1の平面視形状に合わせて適宜定められてよい。
外枠3の寸法としては、特に限定されることなく、電極室5の外寸に応じて設計されてよい。外枠3の幅は、10mm〜40mmとしてよく、15mm〜30mmが好ましく、外枠3の延在長さは、特に限定されない。
一実施形態において、隔壁1と外枠3とを溶接その他の方法で接合することで一体化してもよく、例えば、隔壁1に、隔壁1の平面に対して垂直な方向に張り出したフランジ部(陽極2a側に張り出した陽極フランジ部、陰極2c側に張り出した陰極フランジ部)を設け、フランジ部を外枠3の一部としてもよい。
この場合の陽極フランジ部及び陰極フランジ部の長さとしては、特に限定されないが、それぞれ、5mm〜20mmとしてよく、7.5mm〜15mmが好ましい。
【0093】
外枠3の材料としては、導電性を有する材料が好ましく、耐アルカリ性や耐熱性といった面から、ニッケル、ニッケル合金、軟鋼、ニッケル合金上にニッケルメッキを施したものが好ましい。
【0094】
−隔膜−
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽50において用いられる隔膜4としては、イオンを導通しつつ、発生する水素ガスと酸素ガスを隔離するために、イオン透過性の隔膜4が使用される。このイオン透過性の隔膜4は、イオン交換能を有するイオン交換膜と、電解液を浸透することができる多孔膜が使用できる。このイオン透過性の隔膜4は、ガス透過性が低く、イオン伝導率が高く、電子電導度が小さく、強度が強いものが好ましい。
【0095】
−−多孔膜−−
多孔膜は、複数の微細な貫通孔を有し、隔膜4を電解液が透過できる構造を有する。電解液が多孔膜中に浸透することにより、イオン伝導を発現するため、孔径や気孔率、親水性といった多孔構造の制御が非常に重要となる。一方、電解液だけでなく、発生ガスを通過させないこと、すなわちガスの遮断性を有することが求められる。この観点でも多孔構造の制御が重要となる。
【0096】
多孔膜は、複数の微細な貫通孔を有するものであるが、高分子多孔膜、無機多孔膜、織布、不織布等が挙げられる。これらは公知の技術により作製することができる。
高分子多孔膜の製法例としては、相転換法(ミクロ相分離法)、抽出法、延伸法、湿式ゲル延伸法等が挙げられる。相転換法(ミクロ相分離法)とは、高分子材料を良溶媒に溶解して得られた溶液により製膜し、これを貧溶媒中で相分離させることで多孔質化する方法(非溶媒誘起相分離法)である。抽出法とは、高分子材料に炭酸カルシウム等の無機粉体を混練して製膜した後に、該無機粉体を溶解抽出して多孔質化する方法である。延伸法とは、所定の結晶構造を有する高分子材料のフィルムを所定の条件で延伸して開孔させる方法である。湿式ゲル延伸法とは、高分子材料を流動パラフィン等の有機溶剤で膨潤させてゲル状シートとし、これを所定の条件で延伸したのち有機溶剤を抽出除去する方法である。
無機多孔膜の製法例としては、焼結法等が挙げられる。焼結法は、プレスや押出しによって得られた成形物を焼き、微細孔を残したまま一体化させる方法である。
不織布の製法例としては、スパンボンド法、電界紡糸(エレクトロスピニング)法等が挙げられる。スパンボンド法とは、溶融したペレットから紡糸された糸を熱ロールで圧着し、シート状に一体化させる方法である。電界紡糸(エレクトロスピニング)法とは、溶融ポリマーの入ったシリンジとコレクター間に高電圧を印加しながら射出することで、細く伸長した繊維をコレクター上に集積させる方法である。
【0097】
多孔膜は、高分子材料と親水性無機粒子とを含むことが好ましく、親水性無機粒子が存在することによって多孔膜に親水性を付与することができる。
【0098】
−−−高分子材料−−−
高分子材料としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリビニリデンフロライド、ポリカーボネート、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロスルホン酸、パーフルオロカルボン酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等が挙げられる。これらの中でも、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、であることが好ましく、ポリスルホンであることがより好ましい。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0099】
高分子材料として、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホンを用いることで、高温、高濃度のアルカリ溶液に対する耐性が一層向上する。
また、例えば、非溶媒誘起相分離法等の方法を用いることで、隔膜4を一層簡便に製膜することができる。特にポリスルホンであれば、孔径を一層精度よく制御することができる。
【0100】
ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホンは架橋処理が施されていてもよい。かかる架橋処理が施されたポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホンの重量平均分子量は、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量として、4万以上15万以下であることが好ましい。架橋処理の方法は、特に限定されないが、電子線やγ線等の放射線照射による架橋や架橋剤による熱架橋等が挙げられる。なお、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量はGPCで測定することができる。
【0101】
多孔膜は、分離能、強度等適切な膜物性を得る為に、孔径を制御することが好ましい。また、アルカリ水電解に用いる場合、陽極2aから発生する酸素ガス及び陰極2cから発生する水素ガスの混合を防止し、かつ電解における電圧損失を低減する観点から、多孔膜の孔径を制御することが好ましい。
多孔膜の平均孔径が大きいほど、単位面積あたりの多孔膜透過量は大きくなり、特に、電解においては多孔膜のイオン透過性が良好となり、電圧損失を低減しやすくなる傾向にある。また、多孔膜の平均孔径が大きいほど、アルカリ水との接触表面積が小さくなるので、ポリマーの劣化が抑制される傾向にある。
一方、多孔膜の平均孔径が小さいほど、多孔膜の分離精度が高くなり、電解においては多孔膜のガス遮断性が良好となる傾向にある。さらに、後述する粒径の小さな親水性無機粒子を多孔膜に担持した場合、欠落せずしっかりと保持することができる。これにより、親水性無機粒子が持つ高い保持能力を付与でき、長期に亘ってその効果を維持することができる。
また、多孔膜の最大孔径は多孔膜の分離精度を高める為、制御されることが好ましい。具体的には、平均孔径と最大孔径との差が小さいほど、多孔膜の分離性能は高くなる傾向にある。特に、電解においては、多孔膜内の孔径のばらつきを小さく保てる為、ピンホールが発生して両電極室5から発生するガスの純度が低下する可能性を低くできる。
【0102】
上記多孔膜の平均透水孔径(平均孔径)は、0.01μm以上1.0μm以下が好ましく、より好ましくは0.1μm以上0.5μm以下である。平均透水孔径が0.01μm以上であると、細孔が閉塞しにくく、不純物によって細孔が目詰まりしにくい。また、1.0μm以下であると、ガス遮断性に優れる。
【0103】
かかる観点から、本実施形態の多孔膜においては、平均孔径は、0.1μm以上1.0μm以下、かつ/又は、最大孔径は0.1μmよりも大きく2.0μm以下の範囲であることが好ましく、また、平均孔径が、0.01μm以上1.0μm以下、かつ/または最大孔径は0.01μmよりも大きく2.0μm以下の範囲であることが好ましい。多孔膜は、孔径がこの範囲であれば、優れたガス遮断性と高いイオン透過性とを両立することができる。また、多孔膜の孔径は実際に使用する温度域において制御されることが好ましい。従って、例えば90℃の環境下での電解用隔膜4として使用する場合は、90℃で上記の孔径の範囲を満足させることが好ましい。また、多孔膜は、アルカリ水電解用隔膜4として、より優れたガス遮断性と高いイオン透過性とを発現できる範囲として、平均孔径が0.1μm以上0.5μm以下、かつ/又は、最大孔径が0.5μm以上1.8μm以下であることがより好ましく、また、平均孔径が0.01μm以上0.5μm以下、かつ/または最大孔径が0.05μm以上1.8μm以下であることがより好ましい。
【0104】
多孔膜の透水平均孔径と最大孔径とは、以下の方法で測定することができる。
多孔膜の透水平均孔径とは、完全性試験機(ザルトリウス・ステディム・ジャパン社製、「Sartocheck Junior BP−Plus」)を使用して以下の方法で測定した平均透水孔径をいう。まず、多孔膜を芯材も含めて所定の大きさに切り出して、これをサンプルとする。このサンプルを任意の耐圧容器にセットして、容器内を純水で満たす。次に、耐圧容器を所定温度に設定した恒温槽内で保持し、耐圧容器内部が所定温度になってから測定を開始する。測定が始まると、サンプルの上面側が窒素で加圧されていき、サンプルの下面側から純水が透過してくる際の圧力及び透過流量の数値を記録する。平均透水孔径は、圧力が10kPaから30kPaの間の圧力と透水流量との勾配を使い、以下のハーゲンポアズイユの式から求めることができる。
平均透水孔径(m)={32ηLμ
0/(εP)}
0.5
ここで、ηは水の粘度(Pa・s)、Lは多孔膜の厚み(m)、μ
0は見かけの流速であり、μ
0(m/s)=流量(m
3/s)/流路面積(m
2)である。また、εは空隙率、Pは圧力(Pa)である。
【0105】
多孔膜の最大孔径は、完全性試験機(ザルトリウス・ステディム・ジャパン社製、「Sartocheck Junior BP−Plus」)を使用して以下の方法で測定することができる。まず、多孔膜を芯材も含めて所定の大きさに切り出して、これをサンプルとする。このサンプルを純水で濡らし、多孔膜の孔内に純水を含浸させ、これを測定用の耐圧容器にセットする。次に、耐圧容器を所定温度に設定した恒温槽内で保持し、耐圧容器内部が所定温度になってから測定を開始する。測定が始まると、サンプルの上面側が窒素で加圧されていき、サンプルの下面側から気泡が連続して発生してくるときの窒素圧力を、バブルポイント圧力とする。最大孔径はヤング−ラプラスの式を変形させた下記バブルポイント式から求めることができる。
最大孔径(m)=4γcosθ/P
ここで、γは水の表面張力(N/m)、cosθは多孔膜表面と水の接触角(rad)、Pはバブルポイント圧力(Pa)である。
【0106】
アルカリ水電解用隔膜4は、ガス遮断性、親水性の維持、気泡の付着によるイオン透過性低下の防止、さらには長時間安定した電解性能(低電圧損失等)が得られるといった観点から、多孔膜の気孔率を制御することが好ましい。
ガス遮断性や低電圧損失等を高いレベルで両立させるといった観点から、多孔膜の気孔率の下限は30%以上であることが好ましく、35%以上であることがより好ましく、40%以上であることが更に好ましい。また、気孔率の上限は70%以下であることが好ましく、65%以下であることがより好ましく、60%以下であることが更に好ましく、55%以下であることが更により好ましい。また、隔膜の気孔率は30%以上70%以下であることが好ましい。多孔膜の気孔率が上記下限値以上であれば、セル電圧を低くすることができる。また、上記上限値以下であれば、ガスの遮断性、機械的強度が良好となり、変形しにくくなる。また、長期間使用しても隙間ができにくく、多孔膜中の細孔が潰れにくい。多孔膜の気孔率が上記上限値以下であれば、膜内をイオンが透過しやすく、膜の電圧損失を抑制できる。また、隔膜の気孔率が30%以上であると、セル電圧が高くなりすぎにくい。また、70%以下であれば、ガスの遮断性、機械的強度が良好となり、変形しにくくなる。また、長期間使用しても隙間ができにくく、多孔膜中の細孔が潰れにくい。
【0107】
多孔膜の気孔率とは、アルキメデス法により求めた開気孔率をいい、以下の式により求めることができる。
気孔率P(%)=ρ/(1+ρ)×100
ここで、ρ=(W3−W1)/(W3−W2)であり、W1は多孔膜の乾燥質量(g)、W2は多孔膜の水中質量(g)、W3は多孔膜の飽水質量(g)である。
【0108】
気孔率の測定方法としては、純水で洗浄した多孔膜を3cm×3cmの大きさで3枚に切出して、測定サンプルとする。まず、サンプルのW2及びW3を測定する。その後、多孔膜を50℃に設定された乾燥機で12時間以上静置して乾燥させて、W1を測定する。そして、W1、W2、W3の値から気孔率を求める。3枚のサンプルについて気孔率を求め、それらの算術平均値を気孔率Pとする。
【0109】
そして、アルカリ水電解用隔膜4の気孔率と膜表面の開口度は相関性がある。例えば、気孔率が大きいほど、開口度が高くなる傾向にある。また、開口度が高いほど、含有する親水性無機粒子の影響を受けやすく、より高い親水性を維持する傾向にある。本実施形態では、低電圧損失とガス遮断性を一層高いレベルで両立させ、多孔膜の表面の親水性を一層高いレベルで維持するといった観点からも、多孔膜の気孔率を制御することが好ましい。
【0110】
多孔膜の厚みは、特に限定されないが、100μm以上700μm以下であることが好ましく、より好ましくは100μm以上600μm以下、更に好ましくは200μm以上600μm以下である。
多孔膜の厚みが、上記下限値以上であると、突刺し等で破れにくく、電極間がショートしにくい。また、ガス遮断性が良好となる。また、上記上限値以下であると、電圧損失が増大しにくい。また、多孔膜の厚みのばらつきによる影響が少なくなる。
また、隔膜の厚みが、100μm以上であると、突刺し等で破れにくく、電極間がショートしにくい。また、ガス遮断性が良好となる。600μm以下であると、電圧損失が増大しにくい。また、多孔膜の厚みのばらつきによる影響が少なくなる。
多孔膜の厚みが、250μm以上であれば、一層優れたガス遮断性が得られ、また、衝撃に対する多孔膜の強度が一層向上する。この観点より、多孔膜の厚みの下限は、300μm以上であることがより好ましく、350μm以上であることが更に好ましく400μm以上でることがより一層好ましい。一方で、多孔膜の厚みが、700μm以下であれば、運転時に孔内に含まれる電解液の抵抗によりイオンの透過性を阻害されにくく、一層優れたイオン透過性を維持すことができる。かかる観点から、多孔膜の厚みの上限は、600μm以下であることがより好ましく、550μm以下であることが更に好ましく、500μm以下であることがより一層好ましい。特に、高分子樹脂が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン及びポリフェニルスルホンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものである場合に、かかる効果は一層向上する。
なお、隔膜の厚みは、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0111】
−−−親水性無機粒子−−−
多孔膜は、高いイオン透過性及び高いガス遮断性を発現するために親水性無機粒子を含有していることが好ましい。親水性無機粒子は多孔膜の表面に付着していても良いし、一部が多孔膜を構成する高分子材料に埋没していても良い。また親水性無機粒子が多孔膜の空隙部に内包されると、多孔膜から脱離しにくくなり、多孔膜の性能を長時間維持できる。
【0112】
親水性無機粒子としては、例えば、ジルコニウム、ビスマス、セリウム等の酸化物又は水酸化物;周期律表第IV族元素の酸化物;周期律表第IV族元素の窒化物;及び周期律表第IV族元素の炭化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機物が挙げられる。これらの中でも、化学的安定性の観点から、ジルコニウム、ビスマス、セリウムの酸化物、周期律表第IV族元素の酸化物がより好ましく、ジルコニウム、ビスマス、セリウムの酸化物が更に好ましく、酸化ジルコニウムがより更に好ましい。
【0113】
−−多孔性支持体−−
隔膜4として多孔膜を用いる場合、多孔膜は多孔性支持体と共に用いてよい。好ましくは、多孔膜が多孔性支持体を内在した構造であり、より好ましくは、多孔性支持体の両面に多孔膜を積層した構造である。また、多孔性支持体の両面に対称に多孔膜を積層した構造であってもよい。
【0114】
隔膜4の強度を一層向上する目的で、多孔性支持体を含むことができる。例えば、機械的なストレスによる、隔膜4の切れや破れや伸び等といった不具合を防止できる。また、多孔性支持体の両面に多孔膜が積層されている構造では、多孔性支持体の片面に傷や穴(ピンホール等)が生じた場合でも、多孔性支持体の他方に積層された多孔膜によりガス遮断性を担保することができる。多孔性支持体の両面に、対称に多孔膜が積層される構造では、膜のカール等を効果的に防止でき、運搬時や膜設置時等における取り扱い性が一層向上する。
【0115】
多孔性支持体の材質は、特に限定されないが、隔膜4における電解液のイオン透過性を実質的に低減させない材質であることが好ましい。多孔性支持体の材質は、特に限定されないが、例えば、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素系樹脂、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等が挙げられる。これらの中でも、ポリフェニレンサルファイドを含むことが好ましい。ポリフェニレンサルファイドを用いることで、高温、高濃度のアルカリ溶液に対しても優れた耐性を示し、また、水の電気分解時に陽極2aから発生する活性酸素に対しても化学的に優れた安定性を示す。さらに、織布や不織布等のような様々に形態に加工し易いので、使用目的や使用環境に即して好適に調節することができる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0116】
多孔性支持体としては、例えば、メッシュ、多孔質膜、不織布、織布、不織布及びこの不織布に内在する織布とを含む複合布等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。多孔性支持体のより好適な態様としては、例えば、ポリフェニレンサルファイドのモノフィラメントで構成されるメッシュ基材、又は不織布及び該不織布内に内在する織布とを含む複合布等が挙げられる。
【0117】
−−イオン交換膜−−
イオン交換膜としては、カチオンを選択的に透過させるカチオン交換膜とアニオンを選択的に透過させるアニオン交換膜があり、いずれの交換膜でも使用することができる。
イオン交換膜の材質としては、特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、含フッ素系樹脂やポリスチレン・ジビニルベンゼン共重合体の変性樹脂が好適に使用できる。特に耐熱性及び耐薬品性等に優れる点で、含フッ素系イオン交換膜が好ましい。
【0118】
含フッ素系イオン交換膜としては、電解時に発生するイオンを選択的に透過する機能を有し、かつイオン交換基を有する含フッ素系重合体を含むもの等が挙げられる。ここでいうイオン交換基を有する含フッ素系重合体とは、イオン交換基、又は、加水分解によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体、を有する含フッ素系重合体をいう。例えば、フッ素化炭化水素の主鎖を有し、加水分解等によりイオン交換基に変換可能な官能基をペンダント側鎖として有し、かつ溶融加工が可能な重合体等が挙げられる。
【0119】
含フッ素系共重合体の分子量は、特に限定されないが、該前駆体を、ASTM:D1238に準拠して(測定条件:温度270℃、荷重2160g)測定されたメルトフローインデックス(MFI)の値で0.05〜50(g/10分)であることが好ましく、0.1〜30(g/10分)であることがより好ましい。
【0120】
イオン交換膜が有するイオン交換基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基等のカチオン交換基、4級アンモニウム基等のアニオン交換基が挙げられる。
【0121】
イオン交換膜は、イオン交換基の当量質量EWを調整することによって、優れたイオン交換能と親水性を付与することができる。また、より小さなクラスター(イオン交換基が水分子を配位及び/又は吸着した微小部分)を数多く有するように制御でき、耐アルカリ性やイオン選択透過性を向上する傾向にある。
この当量質量EWは、イオン交換膜を塩置換し、その溶液をアルカリ又は酸溶液で逆滴定することにより測定することができる。当量質量EWは、原料であるモノマーの共重合比、モノマー種の選定等により調整することができる。
イオン交換膜の当量質量EWは、親水性、膜の耐水性の観点から300以上であることが好ましく、親水性、イオン交換能の観点から1300以下であることが好ましい。
【0122】
イオン交換膜の平衡含水率は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上である。また、上記イオン交換膜の平衡含水率は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
イオン交換膜の平衡含水率は、樹脂組成物を水とアルコール系溶媒での分散液から成膜し、160℃以下で乾燥した膜を基準とし、23℃、50%関係湿度(RH)での平衡(24Hr放置)飽和吸水率(Wc)で表す。
イオン交換膜の平衡含水率が5質量%以上であると、膜の電気抵抗や電流効率、耐酸化性、イオン選択透過性が良好となる傾向にある。一方、平衡含水率が60質量%以下であると、膜の寸法安定性や強度が良好となり、また水溶解性成分の増加を抑制できる傾向にある。
【0123】
イオン交換膜の膜最大含水率は、特に限定されないが、膜の電気抵抗や電流効率、耐酸化性、イオン選択透過性の点から、10質量%以上が好ましく、より好ましくは15質量%以上である。また、膜の寸法安定性や強度の点から、80質量%以下が好ましく、より好ましくは50質量%以下である。
ここで、膜最大含水率は、前記平衡含水率測定の際に測定される含水率のうち最大値をいう。
【0124】
イオン交換膜の平衡含水率や膜最大含水率は、上述したEWと同様の方法により調整することができる。
【0125】
イオン交換膜の厚みは特に制限されないが、イオン透過性や強度の観点から、5μm〜300μmの範囲が好ましい。
【0126】
イオン交換膜の表面の親水性を向上させる目的で、表面処理を施してもよい。具体的には、酸化ジルコニウム等の親水性無機粒子をコーティングする方法や、表面に微細な凹凸を付与する方法が挙げられる。
【0127】
イオン交換膜は、膜強度の観点から、補強材と共に用いることが好ましい。補強材としては、特に限定されず、一般的な不織布や織布、各種素材からなる多孔膜が挙げられる。この場合の多孔膜としては、特に限定されないが、延伸されて多孔化したPTFE系膜が好ましい。
【0128】
((ゼロギャップ構造))
ゼロギャップ型セルにおける複極式エレメント60では、極間距離を小さくする手段として、電極2と隔壁1との間に弾性体であるバネを配置し、このバネで電極2を支持する形態をとることが好ましい。例えば、第1の例では、隔壁1に導電性の材料で製作されたバネを取り付け、このバネに電極2を取り付けてよい。また、第2の例では、隔壁1に取り付けた電極リブ6にバネを取り付け、そのバネに電極2を取り付けてよい。なお、このような弾性体を用いた形態を採用する場合には、電極2が隔膜4に接する圧力が不均一にならないように、バネの強度、バネの数、形状等必要に応じて適宜調節する必要がある。
【0129】
また弾性体を介して支持した電極2の対となるもう一方の電極2の剛性を強くすること(例えば、陽極の剛性を陰極の剛性よりも強くすること)で、押しつけても変形の少ない構造としている。―方で、弾性体を介して支持した電極2については、隔膜4を押しつけると変形する柔軟な構造とすることで、電解槽50の製作精度上の公差や電極2の変形等による凹凸を吸収してゼロギャップ構造Zを保つことができる。
【0130】
より具体的には、隔壁と電気的に接触している整流板6(リブ6)の先端に集電体2rを取り付け、その集電体2rの上面側、つまり、隔壁1側とは反対となる側に導電性弾性体2eを取り付け、さらに、その上面側、つまり、導電性弾性体2eに隣接して隔膜4側となる部分に電極2を重ねた少なくとも3層構造を構成することが挙げられる。集電体2rと導電性弾性体2eとによって弾性体が構成される。
本明細書において、電極、導電性弾性体、集電体の3層積層構造を電極複合体(陽極複合体、陰極複合体)と称する場合がある。
【0131】
ゼロギャップ構造Zとしては、陽極ターミナルエレメント51aと複極式エレメント60との間、複極式エレメント60間、複極式エレメント60と陰極ターミナルエレメント51cとの間に形成されるギャップ構造が挙げられる。
【0132】
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽50では、
図2に示すように、陰極2c又は陽極2aと隔壁1との間に、導電性弾性体2e及び集電体2rが、導電性弾性体2eが陰極2c又は陽極2aと集電体2rとに挟まれるように、設けられている。また、陰極集電体2rは、陰極リブ6と接していることが好ましい。
【0133】
本実施形態のアルカリ水電解用電解セル65のゼロギャップ構造Zは、
図2に示すように、隔壁1の陽極側に陽極リブ6及び陽極2aがこの順に重ねられ、隔壁1の陰極側に陰極リブ6、陰極集電体2r、導電性弾性体2e及び陰極2cがこの順に重ねられた複極式エレメント60が、隔膜4を挟んで重ね合わせられた、隔膜4が陽極2a及び陰極2cと接触する構造であることが好ましい。
【0134】
−集電体−
集電体としては、例えば、陰極集電体、陽極集電体が挙げられる。
集電体2rは、その上に積層される導電性弾性体2eや電極2へ電気を伝えるとともに、それらから受ける荷重を支え、電極2から発生するガスを隔壁1側に支障なく通過させる役割がある。従って、この集電体2rの形状は、エキスパンドメタルや打ち抜き多孔板等が好ましい。この場合の集電体2rの開口率は、電極2から発生した水素ガスを支障なく隔壁1側に抜き出せる範囲であることが好ましい。しかし、あまり開口率が大きいと強度が低下する、或いは導電性弾性体2eへの導電性が低下する等の問題が生ずる場合があり、小さすぎるとガス抜けが悪くなる場合がある。
【0135】
集電体2rの材質は、導電性と耐アルカリ性の面からニッケル、ニッケル合金、ステンレススチール、軟鋼等が利用できるが、耐蝕性の面からニッケル或いは軟鋼やステンレススチールニッケル合金上にニッケルメッキを施したものが好ましい。このような集電体2rのリブ6への固定は、スポット溶接、レーザー溶接等の手段で固定される。
【0136】
−導電性弾性体−
導電性弾性体2eは、集電体2rと電極2の間にあって集電体2r及び電極2と接しており、電気を電極2に伝えること、電極2から発生したガスの拡散を阻害しないことが必須要件である。ガスの拡散が阻害されることにより、電気的抵抗が増加し、また電解に使用される電極2面積が低下することで、電解効率が低下するためである。そして最も重要な役割は、隔膜4を損傷させない程度の適切な圧力を電極2に均等に加えることで、隔膜4と電極2とを密着させることである。
【0137】
導電性弾性体2eとしては、ワイヤーにより構成される弾性体等の通常公知のものが使用でき、例えば、線径0.05〜0.5mm程度(好ましくは0.1mm以上0.5mm以下、より好ましくは0.12mm以上0.35mm以下)のニッケル製ワイヤーを織ったものを波付け加工したクッションマットが、導電性弾性体の密度を低くし、ゼロギャップ構造Zを維持しやすいため、好ましい。線径が0.1mm以上0.5mm以下であると、導電性弾性体の密度が低くなり、上述のセル電圧上昇の抑制効果が一層得られやすくなるため、好ましい。なお、導電性弾性体の線径は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
材質は限定されるものではないが、導電性、耐アルカリ性の面からニッケル、ニッケル合金又はステンレススチール又は軟鋼にニッケルメッキを施したものが好ましい。
またこのような導電性弾性体2eの厚みは、通常1mm〜20mm程度のものが使用できる。
【0138】
導電性弾性体2eの柔軟性は、公知の範囲のものが使用できる。例えば、50%圧縮変形時の反発力が30g/cm
2〜300g/cm
2の弾性を有するものが使用できる。このような導電性弾性体2eは、導電性プレートからなる集電体2rの上に重ねて使用する。この取り付け方法も通常公知の方法、例えばスポット溶接で適宜固定するか或いは樹脂製のピンや金属製のワイヤー等が使用できる。
なお、50%圧縮変形時の反発力は、JIS K6400に準拠して、測定することができる。例えば、島津製作所社製の品番:AGS−1kNXの卓上形精密万能試験機を、常温、大気圧で、圧縮試験モードの条件下で用いてよい。
導電性弾性体2eの上に、直接電極2を重ねてもよく、或いは、別の導電性シートを介して電極2を重ねてもよい。
【0139】
導電性弾性体の導電性としては、例えば、テスター、デジタルマルチメーター等により測定される電気抵抗率が1×10
−5〜1×10
−9Ωmであってもよい。
【0140】
ゼロギャップ構造Zに使用できる電極2基材としては、線径が細くメッシュの小さい電極2が柔軟性も高く好ましい。このような基材材質は通常公知のものを使用できる。例えば、陰極2cの基材としては、ニッケル、ニッケル合金、ステンレススチール、軟鋼、或いはニッケル合金又はステンレススチール又は軟鋼上にニッケルメッキを施したものを用いることができる。これらの基材の線径は0.05mm〜0.5mmで、目開きが30メッシュから80メッシュ程度の範囲が好ましい。
【0141】
ゼロギャップ構造Zを実現するための電極2は、導電性弾性体2eとスポット溶接、金属或いはプラスチック製のピンによる固定、或いは導電性弾性体2eの弾力性による押しつけ圧等が好ましい固定法である。
【0142】
また、弾性体を介して支持した電極2の対となるもう一方の電極2の形状も重要であり、平面的な電極形状とすることが望ましい
【0143】
また、上記電極2の厚みとしては、通常0.7mm〜3mm程度が好ましい。この厚みがあまり薄すぎると、陽極室5aと陰極室5cの圧力差や、押しつけ圧力により電極2に変形が生じ、例えば電極2端部が落ち込み、極間距離が広がり電圧が高くなる場合がある。
【0144】
−電極室−
本実施形態における複極式電解槽50では、
図2に示すとおり、隔壁1と外枠3と隔膜4とにより、電解液が通過する電極室5が画成されている。
【0145】
図4に本実施形態の内部ヘッダー型のアルカリ水電解用複極式電解槽の例を平面図で示す。
図5に、
図4に示すアルカリ水電解用複極式電解槽の例を
図4の線A−Aに沿う面により切断したときの断面の一部を示す。
図6に、本実施形態の外部ヘッダー型のアルカリ水電解用複極式電解槽の例を平面図で示す。
図7に、
図6に示すアルカリ水電解用複極式電解槽の例を
図6の線B−Bに沿う面により切断したときの断面の一部を示す。
本実施形態においては、複極式電解槽のヘッダー10の配設態様としては、内部ヘッダー10I型(
図4及び
図5)及び外部ヘッダー10O型(
図6及び
図7)を採用できるところ、例えば、
図4〜
図7に示す例の場合、陽極及び陰極自身が占める空間も電極室5の内部にある空間であるものとしてよい。また、特に、
図6及び
図7に示す例の場合、気液分離ボックスが設けられているが、気液分離ボックスが占める空間も電極室5の内部にある空間であるものとしてよい。
【0146】
−整流板−
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽50では、隔壁1に整流板6(陽極整流板6a、陰極整流板6c)が取り付けられ、整流板6が電極2と物理的に接続されていることが好ましい。かかる構成によれば、整流板6が電極2の支持体(リブ)となり、ゼロギャップ構造Zを維持しやすい。また、整流板6は隔壁1と電気的につながっていることが好ましい。また、整流板6を設けることでは、電極室5内における気液の流れの乱れにより電極室に生じる対流を低減して、局所的な電解液の温度の上昇を抑制することができる。
ここで、整流板6に、電極2が設けられていてもよく、整流板6に、集電体2r、導電性弾性体2e、電極2がこの順に設けられていてもよい。
前述の一例のアルカリ水電解用複極式電解槽50では、陰極室5cにおいて、整流板6−集電体2r−導電性弾性体2e−電極2の順に重ね合わせられた構造が採用され、陽極室5aにおいて、整流板6−電極2の順に重ね合わせられた構造が採用されている。
【0147】
なお、前述の一例のアルカリ水電解用複極式電解槽50では、陰極室5cにおいて上記「整流板6−集電体2r−導電性弾性体2e−電極2」の構造が採用され、陽極室5aにおいて上記「整流板6−電極2」の構造が採用されているが、本発明ではこれに限定されることなく、陽極室5aにおいても「整流板6−集電体2r−導電性弾性体2e−電極2」構造が採用されてもよい。
【0148】
詳細には、本実施形態では、
図1に示すように、隔壁1に整流板6(陽極整流板6a、陰極整流板6c)が取り付けられている。
【0149】
整流板6(陽極整流板6a、陰極整流板6c)には、陽極2a又は陰極2cを支える役割だけでなく、電流を隔壁1から陽極2a又は陰極2cへ伝える役割を備えることがより好ましい。
【0150】
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽50では、整流板6の少なくとも一部が導電性を備えことが好ましく、整流板6全体が導電性を備えことがさらに好ましい。かかる構成によれば、電極たわみによるセル電圧の上昇を抑制することができる。
すなわち、前述の間隔Cの範囲で導電性の整流板6が電極2を支持するように配置することにより、電極2が押圧や電極室5内の液及びガスの圧力によってたわんでしまい、局所的にゼロギャップ構造を損うという現象を、予防することができる。また、上記構成によれば、電極2に均一に電流を伝達させやすく、より高電密の運転においても、より高い効率を維持することが容易になる。
【0151】
整流板6の材料としては、使用環境での耐久性・強度等を考慮して決定される。例えば高分子材料や金属材料が挙げられる。複数の材料を同時に用いることも可能である。高分子材料としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリビニリデンフロライド、ポリカーボネート、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロスルホン酸、パーフルオロカルボン酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等が挙げられる。これらの中でも、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、であることが好ましい。金属材料としては導電性の金属が好ましく用いられる。例えば、ニッケルメッキを施した軟鋼、ステンレススチール、ニッケル等が利用できる。整流板6の材料は、特に隔壁1と同じ材料であることが好ましく、特にニッケルであることが最も好ましい。これら導電性の金属材料は電解セルの導電抵抗の低減にも寄与する効果も期待できる。
【0152】
隣接する陽極整流板6a同士の間隔、又は隣接する陰極整流板6c同士の間隔は、電解圧力や陽極室5aと陰極室5cの圧力差等を勘案して決められる。
隣接する整流板間の間隔Cは、50mm以上190mm以下であり、より好ましくは50mm以上150mm以下であり、さらに好ましくは60mm以上120mm以下である。陽極整流板6a同士の間隔、又は隣接する陰極整流板6c同士の間隔が狭すぎれば電解液やガスの流動を阻害するだけでなくコストも高くなる欠点がある。整流板を電極と接続されたリブとする場合、リブピッチが50mm以上であると、電極裏面へのガス抜けが良好となる。また広すぎると、陽極室5aと陰極室5cとのわずかな差圧で保持している電極2(陽極2aや陰極2c)が変形する等の欠点が生じる。リブピッチが150mm以下であると電極がたわみにくくなる。
リブピッチは、複数の整流板が一定の間隔(ピッチ)で設けられている場合には、その間隔(ピッチ)をいい(
図3参照)、複数の整流板が一定の間隔(ピッチ)で設けられていない場合には、設けられた複数の整流板同士の間隔の平均をいう。また、隣接する2つの整流板間においてその間隔が整流板の延在方向について変化している(一定でない)場合には、当該隣接する2つの整流板間の間隔の平均としてよい。
整流板の数、整流板の長さ、整流板と隔壁とのなす角度、貫通孔の数や貫通孔の隔壁に沿う所与の方向についての間隔(ピッチ)は、本発明の効果が得られる限り、適宜定められてよい。整流板は、隔壁に沿う所与の方向(例えば、鉛直方向としてもよいし、
図3に示すように隔壁の平面視形状が略長方形である場合、向かい合う2組の辺のうちの1組の辺の方向と同じ方向としてもよいし、電極の入口ヘッダーが設けられる側の辺と出口ヘッダーが設けられる側の辺との対向方向としてもよい(
図3))に対して平行に設けられることが好ましい。陽極整流板のリブピッチと、陰極整流板のリブピッチとは、同一であってもよいし異なっていてもよく、陽極整流板のリブピッチ及び陰極整流板のリブピッチが共に上記範囲を満たすことが好ましい。
陽極整流板6aや陰極整流板6cの隔壁1への取り付けについてはレーザー溶接等が用いられる。
【0153】
整流板6(陽極整流板6a、陰極整流板6c)の長さは、電極室5や電極2のサイズに応じて、適宜に定められてよいが、前述の長さAの0.7倍〜1.0倍としてよく、0.8倍〜1.0倍が好ましい。
整流板6の高さは、隔壁1から各フランジ部までの距離、ガスケット7の厚さ、電極2(陽極2a、陰極2c)の厚さ、陽極2aと陰極2cとの間の距離等に応じて、適宜に定められてよいが、前述の長さBの0.7倍〜1.0倍としてよく、1.0倍が最も好ましい。
また、整流板6の厚みは、コストや製作性、強度等も考慮して、0.5mm〜5mmとしてよく、1mm〜2mmのものが用いやすいが、特に限定されない。
整流板6の高さは、隔壁1から各フランジ部までの距離、ガスケットの厚さ、電極2(陽極2a、陰極2c)の厚さ、陽極2aと陰極2cとの間の距離等に応じて、適宜に定められてよいが、電極室5の隔壁1に垂直な方向の長さの0.7倍〜1.0倍としてよく、1.0倍が最も好ましい。
整流板6には、特に限定されないが、適宜貫通孔を設けてよく、整流板6の延在方向について等間隔に貫通孔を設けることが好ましい。貫通孔の平面視形状としては、特に限定されないが、矩形としても円形としてもよく、例えば、半径0.5mm〜30mm、特には半径0.5mm〜10mmの半円形状としてよい。また、整流板6の面積に対する貫通孔の面積の割合としては、5%〜95%としてよく、10%〜80%であることが好ましく、20%〜60%であることがより好ましい。貫通孔の面積が、5%以上になると、電解液の槽内の水平方向への通水が円滑化する。95%を超えると機械的な強度が得られず、陽極や陰極集電体の変形が生じる。
【0154】
整流板6は通常隔壁1に固定して用いるが、隔壁1への取り付けは、どのような方法でもよい。例えばビス止めによる方法、接着剤を用いる方法、金属材料を用いた清流板の場合にはスポット溶接、レーザー溶接等による方法でもよい。整流板6は、陽極2a又は陰極2cと同様に、スポット溶接、レーザー溶接等の手段で隔壁1に固定されている。電極2や集電体2rの整流板6への取り付けも同様の方法で行われる他、ワイヤーやひも状の部材を用い、結びつけて密着させる方法でもよい。
【0155】
−ガスケット−
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽50では、隔壁1を縁取る外枠3同士の間に隔膜4を有するガスケット7が挟持されることが好ましい。
ガスケット7は、複極式エレメント60と隔膜4の間、複極式エレメント60間を電解液と発生ガスに対してシールするために使用され、電解液や発生ガスの電解槽外への漏れや両極室間におけるガス混合を防ぐことができる。
【0156】
ガスケット7の一般的な構造としては、エレメント(複極式エレメント、陽極ターミナルエレメント、陰極ターミナルエレメント等)の枠体に接する面に合わせて、電極面をくり抜いた四角形状又は環状である。このようなガスケット2枚で隔膜4を挟み込む形でエレメント間に隔膜4をスタックさせることができる。さらに、ガスケット7は、隔膜4を保持できるように、隔膜4を収容することが可能なスリット部を備え、収容された隔膜4がガスケット7両表面に露出することを可能にする開口部を備えることも好ましい。これにより、ガスケット7は、隔膜4の縁部をスリット部内に収容し、隔膜4の縁部の端面を覆う構造がとれる。したがって、隔膜4の端面から電解液やガスが漏れることをより確実に防止できる。
【0157】
また、ガスケット7の何れか一方の面から突出する突出部を設けることが好ましい。このような突出部を設けることにより、スタック時に突出部が局所的に押圧され、突出部に対応する位置においてスリット部に収容された隔膜4がガスケット7により押圧される。したがって、ガスケット7では、隔膜4をより強固に保持することができ、電解液やガスが漏れることをより防止しやすくなる。
【0158】
ガスケット7の材質としては、特に制限されるものではなく、絶縁性を有する公知のゴム材料や樹脂材料等を選択することができる。
ゴム材料や樹脂材料としては、具体的には、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、シリコーンゴム(SR)、エチレン−プロピレンゴム(EPT)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、フッ素ゴム(FR)、イソブチレン−イソプレンゴム(IIR)、ウレタンゴム(UR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)等のゴム材料、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)等のフッ素樹脂材料や、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアセタール等の樹脂材料を用いることができる。これらの中でも、弾性率や耐アルカリ性の観点でエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、フッ素ゴム(FR)が特に好適である。
【0159】
ガスケット7は、補強材が埋設されていてもよい。これにより、スタック時に枠体に挟まれて押圧されたときに、ガスケット7が潰れることを抑制でき、破損を防止し易くできる。
このような補強材は公知の金属材料、樹脂材料及び炭素材料等が使用でき、具体的には、ニッケル、ステンレス等の金属、ナイロン、ポリプロピレン、PVDF、PTFE、PPS等の樹脂、カーボン粒子や炭素繊維等の炭素材料が挙げられる。
補強材の形状としては、織布、不織布、短繊維、多孔膜等の形状のものが好適である。さらに、ガスケット7の表面に保護層が設けられていてもよい。これにより、ガスケット7とエレメント間の密着性を向上させることや、ガスケット7の耐アルカリ性を向上させることもできる。このような保護層の材質としても、ガスケット7の材質の中から選択できる。
【0160】
ガスケット7のサイズは、特に制限されるものではなく、電極室5や膜の寸法に合わせて設計すればよいが、幅が10mm〜40mmにするのがよい。
【0161】
ガスケット7の厚みは、特に制限されるものではなく、ガスケット7の材質や弾性率、セル面積に応じて設計される。好ましい厚みの範囲としては、0.5mm以上10mm以下が好ましく、1.0mm〜10mmがより好ましく、3.0mm〜10mmが更に好ましい。
また、前記の突出部を設ける際の突出部の高さも、特に制限されるものではないが、十分な押し圧を発現するために、0.5mm〜5mmであることが好ましい。
【0162】
ガスケット7の弾性率は、特に制限されるものではなく、電極2の材質やセル面積に応じて設計される。好ましい弾性率の範囲としては、100%変形時の引張応力で、0.20MPa〜20MPaの範囲が好ましく、シーリング特性やスタック時のセル強度の観点から、0.5MPa〜15MPaの範囲がより好ましく、1.0MPa〜10MPaの範囲が更に好ましい。
なお、引張応力は、JIS K6251に準拠して、測定することができる。例えば、島津製作所社製のオートグラフAGを用いてよい。
【0163】
特に、本実施形態では、ガスケット7の厚みが3.0mm〜10mmであり、100%変形時の引張応力で1.0MPa〜10MPaであることが、電極たわみによるセル電圧の上昇を抑制する観点、また、シーリング特性やスタック時のセル強度の観点から、好ましい。
【0164】
ガスケット7を複極式エレメント60に取り付ける際に、接着剤を使用してもよい。ガスケット7の片面に接着剤を塗布し、エレメントの片側の外枠3に貼り付けることができる。なお、接着剤を乾燥させた後、複極式エレメント60の電極面に水をかけ、電極2を湿らせておくことが好ましい。隔膜4を保持できるように、隔膜4の縁部を収容するスリット部を設けたガスケット7の場合は、隔膜4を保持した状態で貼り付けてもよいし、貼り付けた後に隔膜4を保持させてもよい。
【0165】
−ヘッダー−
アルカリ水電解用複極式電解槽50は、電解セル65毎に、陰極室5c、陽極室5aを有する。電解槽50で、電気分解反応を連続的に行うためには、各電解セル65の陰極室5cと陽極室5aとに電気分解によって消費される原料を十分に含んだ電解液を供給し続ける必要がある。
【0166】
電解セル65は、複数の電解セル65に共通するヘッダー10と呼ばれる電解液の給排配管と繋がっている。一般に、陽極用配液管は陽極入口ヘッダー10ai、陰極用配液管は陰極入口ヘッダー10ci、陽極用集液管は陽極出口ヘッダー10ao、陰極用集液管は陰極出口ヘッダー10coと呼ばれる。電解セル65はホース等を通じて各電極用配液管及び各電極用集液管と繋がっている。
【0167】
ヘッダー10の材質は特に限定されないが、使用する電解液の腐食性や、圧力や温度等の運転条件に十分耐えうるものを採用する必要がある。ヘッダー10の材質に、鉄、ニッケル、コバルト、PTFE、ETFE,PFA、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等を採用しても良い。
【0168】
本実施形態において、電極室5の範囲は、隔壁1の外端に設けられる外枠3の詳細構造により、変動するところ、外枠3の詳細構造は、外枠3に取り付けられるヘッダー10(電解液を配液又は集液する管)の配設態様により異なることがある。複極式電解槽50のヘッダー10の配設態様としては、内部ヘッダー10I型及び外部ヘッダー10O型が代表的である。
【0169】
−内部ヘッダー−
内部ヘッダー10I型とは、複極式電解槽50とヘッダー10(電解液を配液又は集液する管)とが一体化されている形式をいう。
【0170】
内部ヘッダー10I型複極式電解槽50では、より具体的には、陽極入口ヘッダー10Iai及び陰極入口ヘッダー10Iciが、隔壁1内及び/又は外枠3内の下部に設けられ、且つ、隔壁1に垂直な方向に延在するように設けられ、また、陽極出口ヘッダー10Iao及び陰極出口ヘッダー10Icoが、隔壁1内及び/又は外枠3内の上部に設けられ、且つ、隔壁1に垂直な方向に延在するように設けられる。
【0171】
内部ヘッダー10I型複極式電解槽50が内在的に有する、陽極入口ヘッダー10Iaiと、陰極入口ヘッダー10Iciと、陽極出口ヘッダー10Iaoと、陰極出口ヘッダー10Icoを総称して、内部ヘッダー10Iと呼ぶ。
【0172】
図4及び
図5に示す内部ヘッダー10I型の例では、隔壁1の端縁にある外枠3のうちの下方に位置する部分の一部に、陽極入口ヘッダー10Iaiと陰極入口ヘッダー10Iciとを備えており、また、同様に、隔壁1の端縁にある外枠3のうちの上方に位置する部分の一部に、陽極出口ヘッダー10Iaoと陰極出口ヘッダー10Icoとを備えている。なお、外枠3と、陽極室5a又は陰極室5cとは、電解液を通す電解液入口5i又は電解液出口5oでつながっている。
【0173】
−外部ヘッダー−
外部ヘッダー10O型とは、複極式電解槽50とヘッダー10(電解液を配液又は集液する管)とが独立している形式をいう。
【0174】
外部ヘッダー10O型複極式電解槽50は、陽極入口ヘッダー10Oaiと、陰極入口ヘッダー10Ociとが、電解セル65の通電面に対し、垂直方向に、電解槽50と並走する形で、独立して設けられる。この陽極入口ヘッダー10Oai及び陰極入口ヘッダー10Ociと、各電解セル65が、ホースで接続される。
【0175】
外部ヘッダー10O型複極式電解槽50に外在的に接続される、陽極入口ヘッダー10Oaiと、陰極入口ヘッダー10Ociと、陽極出口ヘッダー10Oaoと、陰極出口ヘッダー10Ocoを総称して、外部ヘッダー10Oと呼ぶ。
図6及び
図7に示す外部ヘッダー10O型の例では、隔壁1の端縁にある外枠3のうちの下方に位置する部分に設けられたヘッダー10用貫通孔に、管腔状部材が設置され、管腔状部材が、陽極入口ヘッダー10Oai及び陰極入口ヘッダー10Ociに接続されており、また、同様に、隔壁1の端縁にある外枠3のうちの上方に位置する部分に設けられたヘッダー10用貫通孔に、管腔状部材(例えば、ホースやチューブ等)が設置され、かかる管腔状部材が、陽極出口ヘッダー10Oao及び陰極出口ヘッダー10Ocoに接続されている。
【0176】
なお、内部ヘッダー10I型及び外部ヘッダー10O型の複極式電解槽50において、その内部に電解によって発生した気体と、電解液を分離する気液分離ボックスを有してもよい。気液分離ボックスの取付位置は、特に限定されないが、陽極室5aと陽極出口ヘッダー10aoとの間や、陰極室5cと陰極出口ヘッダー10coとの間に取付けられてもよい。
【0177】
気液分離ボックスの表面は、電解液の腐食性や、圧力や温度等の運転条件に十分耐えうる材質のコーティング材料で、被覆されていても良い。コーティング材料の材質は、電解槽内部での漏洩電流回路の電気抵抗を大きくする目的で、絶縁性のものを採用してもよい。コーティング材料の材質に、EPDM、PTFE、ETFE,PFA、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等を採用してもよい。
【0178】
特に、本実施形態の電解槽は、隔膜と陽極及び前記陰極と接触してゼロギャップ構造が形成されて形成れる電極室に前記隔壁に沿う所与の方向に対して平行に複数の整流板が設けられた複極式電解槽であって、各電極室に前記隔壁に沿う所与の方向に対して平行に複数の整流板が設けられているという特徴;前記電極室の前記隔壁に沿う所与の方向の長さA、前記電極室の前記隔壁に垂直な方向の長さB、前記複数の整流板の間隔C、及び前記電極室の前記隔壁に沿う所与の方向に垂直な面における断面積Dを前記に示された範囲にするという特徴;前記陽極及びまたは集電体と前記陰極及びまたは集電体との距離及び/又は前記陰極と前記陽極集電体との距離、前記導電性弾性体の密度、前記隔膜と前記陰極との間にかかる面圧を前記に示された範囲にするという特徴;を組み合わせて備えることが、本発明の効果を好適に得るうえで、好ましい。
【0179】
(アルカリ水電解用電解装置)
図8に、本実施形態のアルカリ水電解用電解装置の概要を示す。
本実施形態のアルカリ水電解用電解装置70は、本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽50と、電解液を循環させるための送液ポンプ71と、電解液と水素及び/又は酸素とを分離する気液分離タンク72と、電解により消費した水を補給するための水補給器73とを有する。
【0180】
本実施形態のアルカリ水電解用電解装置70によれば、本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽の効果を得ることができる。
すなわち、本実施形態によれば、高電流密度での運転や変動電源での運転で用いてアルカリ水電解を行った際に、電解室出口の高温化を低減することで、電解液の温度の上昇を抑制し、電解室内における気液の流れの乱れにより電解室に生じる対流を低減して、局所的な電解液の温度の上昇を抑制することが可能となる。
【0181】
以下、本実施形態のアルカリ水電解用電解装置70の構成要素について説明する。
【0182】
−送液ポンプ−
本実施形態において用いられる送液ポンプ71としては、特に限定されず、適宜定められてよい。
【0183】
−気液分離タンク−
本実施形態において用いられる気液分離タンク72は、電解液と水素ガスとを分離する水素分離タンク72hと、電解液と酸素ガスとを分離する酸素分離タンク72oとを含む。
水素分離タンク72hは陰極室5cに接続され、酸素分離タンク72oは陽極室5aに接続されて用いられる。
【0184】
−水補給器−
本実施形態において用いられる水補給器73としては、特に限定されず、適宜定められてよい。
水としては、一般上水を使用してもよいが、長期間に渡る運転を考慮した場合、イオン交換水、RO水、超純水等を使用することが好ましい。
−その他−
本実施形態のアルカリ水電解用電解装置70は、複極式電解槽50、気液分離タンク72、水補給器73以外にも、整流器74、酸素濃度計75、水素濃度計76、流量計77、圧力計78、熱交換器79、圧力制御弁80を備えてよい。
【0185】
本実施形態では、前述のアルカリ水電解用電解装置70の構成要素を用いて、例えば、
図6に示すような構成のアルカリ水電解用電解装置70を作製することができるが、これに限定されるものではない。
【0186】
(アルカリ水電解方法)
本実施形態のアルカリ水電解方法は、本実施形態のアルカリ水電解用電解装置70を用いて、下記式(3)から算出される電解液レイノルズ数Reを10〜1800として、電解液を循環させて電解を行う、
式(3):Re=Q/(電極室当たりの整流板の数+1)×{(2×D)/(B+C)}/(ν×D)
(式中、Qは、電極室当たりの電解液の流量(m
3/秒)を示し、νは、電解液の動粘度(m
2/秒)を示す)
【0187】
なお、式(3)中のA、B、C、Dは、本実施形態の複極式電解槽50について定めた値であり、具体的には、Aは、電極室5の隔壁1に沿う所与の方向D1の長さであり、Bは、電極室5の電極2に垂直な方向の長さであり、Cは、複数の整流板6の間隔であり、Dは、B×Cで表される、電極室5の隔壁1に沿う所与の方向D1に垂直な面における断面積である。
そして、A、B、C、Dの好適範囲は、本実施形態の複極式電解槽50について前述のとおりとしてよい。すなわち、電解セルのA、B、C、Dの設計に応じて、電極室当たりの電解液の流量Qを、電解液レイノルズ数Reが10〜1800の範囲になるように、制御すればよい。
【0188】
本実施形態のアルカリ水電解方法によれば、本実施形態のアルカリ水電解用電解装置70の効果を得ることができる。
すなわち、本実施形態によれば、高電流密度での運転や変動電源での運転で用いてアルカリ水電解を行った際に、電解室出口の高温化を低減することで、電解液の温度の上昇を抑制し、電解室内における気液の流れの乱れにより電解室に生じる対流を低減して、局所的な電解液の温度の上昇を抑制することができることに加えて、気液比の変動による圧力の変動を抑制することができる。
【0189】
本実施形態において用いられる電解液としては、アルカリ塩が溶解されたアルカリ性の水溶液としてよく、例えば、NaOH水溶液、KOH水溶液等が挙げられる。
アルカリ塩の濃度としては、20質量%〜50質量%が好ましく、25質量%〜40質量%がより好ましい。
本実施形態では、イオン導電率、動粘度、冷温化での凍結の観点から、25質量%〜40質量%のKOH水溶液が特に好ましい。
【0190】
本実施形態のアルカリ水電解方法において、上記本発明の効果を高める観点から、電極室当たりの電解液の流量Qは、電極室5のサイズに応じて制御されるものであるが、1×10
−7m
3/秒〜1×10
−2m
3/秒であることが好ましく、1×10
−6m
3/秒〜1×10
−3m
3/秒であることがさらに好ましい。
電解液の動粘度νは、電解液の種類、濃度、温度によって決まるものである。
【0191】
本実施形態のアルカリ水電解方法において、電解セル65内にある電解液の温度が室温〜150℃であることが好ましく、80℃〜130℃であることがさらに好ましい。
上記温度範囲とすれば、高い電解効率を維持しながら、ガスケット7、隔膜4等の電解装置70の部材が熱により劣化することを効果的に抑制することができる。
【0192】
本実施形態のアルカリ水電解方法において、電解セル65に与える電流密度としては、通常30kA/m
2以下であってよい。一定の電流密度での運転でもよく、電流密度が変動する運転でもよい。
【0193】
本実施形態のアルカリ水電解方法において、電解セル65内の圧力としては、電解セルの設計圧力の範囲で実施することができる。
【0194】
(水素製造方法)
本実施形態の水素製造方法は、アルカリを含有する水を電解槽により水電解し、水素を製造するものであり、本実施形態の電解槽、本実施形態の電解装置、本実施形態の水電解方法を用いて実施されてよい。
電解槽は、陽極と、陰極と、陽極と陰極とを隔離する隔壁と、隔壁を縁取る外枠とを備える複数の複極式エレメントが隔膜を挟んで重ね合わせられ、隔膜が陽極及び陰極と接触しており、隔壁と外枠と隔膜とにより画成される電極室に隔壁に沿う所与の方向に対して平行に複数の整流板が設けられた電解槽である。かかる電解槽はゼロギャップ構造を形成していてもよい。
電解槽は、電極室の隔壁に沿う所与の方向の長さAが、0.40m以上4.0m以下であり、電極室の隔壁に垂直な方向の長さBが、0.0030m以上0.030m以下であり、複数の整流板の間隔Cが、0.050m以上0.19m以下である。
【0195】
本実施形態の電解槽の詳細、本実施形態の電解装置の詳細、本実施形態の水電解方法の詳細は、前述のとおりである。
【0196】
以上、図面を参照して、本発明の実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽、アルカリ水電解用電解装置、アルカリ水電解方法について例示説明したが、本発明のアルカリ水電解用複極式電解槽、アルカリ水電解用電解装置、アルカリ水電解方法は、上記の例に限定されることはなく、上記実施形態には、適宜変更を加えることができる。
【実施例】
【0197】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0198】
(実施例A1)
実施例A1では、下記に説明するとおり、水電解中に発生するガスの流れを視認可能なモデル電解槽を使用して、アルカリ水電解を行った。
【0199】
モデル電解槽を下記のとおり作製した。
図9に、本実施例Aのモデル電解槽の概要を示す。(A)に、モデル電解槽の正面図(左図)及び側面図(右図)を示し、(B)に、モデル電解槽の電極室を形成したアクリル板を斜視図で示し、(C)に、モデル電解槽におけるゼロギャップ構造を示す。
【0200】
−隔壁、外枠、整流板−
モデル電解槽を構成する隔壁及び外枠3として、電解セル内部を視認できる透明な材質(アクリル)で構成されているセル枠を用いた。
まず、厚みQ:75mm、横幅R:300mm、縦幅P:1.45m又は2.65mのアクリル板を用意した。
次いで、このアクリル板を、
図9(B)に示すように、片面側から電極室となる空間の分(所定の厚み、横幅:250mm、所定の縦幅)だけ削り、所望の長さA及び長さBを有する所望のサイズの電極室を有する箱型のセル枠を準備した。
例えば、長さAを1.2mとした例では、縦幅P:1.45mのアクリル板を用意し、長さAを2.4mとした例では、縦幅P:2.65mのアクリル板を用意した。いずれの場合にも、平面視において、電極室がアクリル板の中央に位置するように、配置した。
そして、整流板として、厚さ3mmのアクリル板を、横幅Rの方向に沿って所望の間隔Cで、2枚〜4枚設けた。このとき、2〜4枚の整流板は、電極室の横幅Rの方向の中心に関して対称となるように配置した。また、整流板の延在方向の端と電極室との縦幅Pの方向の間隔は、両端において100mmとした。
【0201】
−陽極−
陽極としては、あらかじめブラスト処理を施したニッケルエキスパンド基材を用い、酸化ニッケルの造粒物をプラズマ溶射法によって導電性基材の両面に吹き付けて製作した。
陽極のサイズは、電解室のサイズと同様とした。
【0202】
−陰極−
導電性基材として、直径0.15mmのニッケルの細線を40メッシュの目開きで編んだ平織メッシュ基材上に白金を担持したものを用いた。なお、陰極の厚さは、0.3mmであった。
陰極のサイズは、電解室のサイズと同様とした。
【0203】
−隔膜−
酸化ジルコニウム(「EP酸化ジルコニウム」、第一稀元素化学工業社製)とN−メチル−2−ピロリドン(和光純薬工業社製)を、粒径0.5mmのSUSボールが入ったボールミルポットに投入した。これらを回転数70rpmで3時間撹拌して、分散させて混合物を得た。得られた混合物を、ステンレス製のざる(網目30メッシュ)により濾過し、混合物からボールを分離した。ボールを分離した混合物にポリスルホン(「ユーデル」(登録商標)、ソルベイアドバンストポリマーズ社製)及びポリビニルピロリドン(重量平均分子量(Mw)900000、和光純薬工業社製)を加え、スリーワンモータを用いて12時間撹拌して溶解させ、以下の成分組成の塗工液を得た。
ポリスルホン:15質量部
ポリビニルピロリドン:6質量部
N−メチル−2−ピロリドン:70質量部
酸化ジルコニウム:45質量部
【0204】
この塗工液を、基材であるポリフェニレンサルファイドメッシュ(くればぁ社製、膜厚280μm、目開き358μm、糸径150μm)の両表面に対して、コンマコータを用いて塗工厚みが各面150μmとなるよう塗工した。塗工後直ちに、塗工液を塗工した基材を、30℃の純水/イソプロパノール混合液(和光純薬工業社製、純水/イソプロパノール=50/50(v/v))を溜めた凝固浴の蒸気下へ晒した。その後直ちに、塗工液を塗工した基材を、凝固浴中へ浸漬した。そして、ポリスルホンを凝固させることで基材表面に塗膜を形成させた。その後、純水で塗膜を十分洗浄して多孔膜を得た。
蒸気下への晒し時間と、凝固浴中への浸漬時間を調整することで、平均透水孔径及び、気孔率を調整し、平均透水孔径0.2μm、厚み500μm、気孔率50%の多孔膜である隔膜を得た。
【0205】
実施例A1では、
図9(A)に示すように、一方側から他方側に向かって、プレス板、陽極用セル枠、ガスケット7、陽極2a、隔膜4を収容したガスケット7、陰極2c、ガスケット7、陰極用セル枠、プレス板、の順に配置し、これらをプレス板の両側からタイロッド51rで締め付けることでスタックし、モデル電解槽を組み立てた。
【0206】
−電解室−
実施例Aでは、前述のとおり、発明の効果をよりよく理解する目的で、
図9(B)に示すように、アクリル板を片面側から削って得られた空間を電極室とした。
電極室の電解液通過方向の長さA、電極室の隔壁に垂直な方向の長さBは、表1に示すとおりとした。
【0207】
−ガスケット−
ガスケットとして、EPDMゴムを材質とし、100%変形時の弾性率が4.0MPaであるものを用いた。
セル枠と電極との間に挿入したガスケットは、厚みが4.0mmであり、平面視での開口部の寸法がアクリル製のセル枠の電極室の寸法であるものを使用した。
特に、陰極と陽極との間に挿入したガスケットは、厚みが4.0mmであり、平面視での開口部の寸法がアクリル製のセル枠の電極室の寸法であり、ここで、開口部の内壁の厚み方向中央部分に、隔膜を挿入することでこれを保持するための、厚み0.4mmのスリット構造を有するものを使用した。
【0208】
−ゼロギャップ構造−
モデル電解槽では、
図9(C)に示すように、前述の隔膜を保持したガスケットを介してスタックさせることで、陰極と陽極とを隔膜の両側から押し付けて接触させ、ゼロギャップ構造Zを形成した。
陽極側では陽極のみを用い、陰極側は「陰極−導電性弾性体−集電体」の組み合わせを用いた。
陽極としては、前述のものを用いた。集電体として、あらかじめブラスト処理を施したニッケルエキスパンド基材を用いた。基材の厚みは1mmであり、開口率は54%であった。陰極としては前述のものを用い、導電性弾性体として、線径0.15mmのニッケル製ワイヤーの織物を波高さ5mmになるように波付け加工したものを使用した。厚みは5mmであり、50%圧縮変形時の反発力は150g/cm
2、目開きは5メッシュ程度、密度は0.708g/cm
3であった。導電性弾性体を集電体上にスポット溶接して固定した。この時、隔膜を挟んだ陽極と陰極集電体との距離aが1mmであり、隔膜が陽極及び陰極と接触しゼロギャップ構造を形成していた。面圧は29.4kN/m
2であった。
【0209】
−ヘッダー(外部ヘッダー)−
ゼロギャップ構造Zを有するモデル電解槽においては、
図9(A)に示すように、モデル電解槽では筐体となるアクリル製のセル枠に、電解液を通過させるホース(陽極入口側ホース10Oai、陽極出口側ホース10Oao、陰極入口側ホース10Oci、陰極出口側ホース10Oco)を、外部から取り付けて、外部ヘッダー型の電解槽とした。
陰極入口側ホース10Ociを介して陰極室5cへ、陰極室5cから陰極出口側ホース10Ocoを介して、電解液を流した。
また、陽極入口側ホース10Oaiを介して陽極室5aへ、陽極室5aから陽極出口側ホース10Oaoを介して、電解液を流した。
入口側ホースはセル枠の下側中央に、出口側ホースはセル枠の上側中央に、それぞれ接続されているため、電解液は、鉛直方向の下方から上方へ流れ、電極面に沿って上昇した。
モデル電解槽では、陽極室5aや陰極室5cの入口側ホースから、陽極室5aや陰極室5cに、電解液が流入し、陽極室5aや陰極室5cの出口側ホースから、電解液と生成ガスとが、電解槽外へ流出する構造とした。
陰極室5cでは、電解により水素ガスが発生し、陽極室5aでは、電解により酸素ガスが発生するため、前述した、陰極出口側ホース10Ocoでは、電解液と水素ガスとの混相流となり、陽極出口側ホース10Oaoでは、電解液と酸素ガスとの混相流となった。
【0210】
整流器、酸素濃度計、水素濃度計、圧力計、送液ポンプ、気液分離タンク、水補給器等は、いずれも当該技術分野において通常使用されるものを用いて、アルカリ水電解用電解装置を作製した(
図8参照)。
【0211】
モデル電解槽を用いたアルカリ水電解を下記の条件で実施した。
【0212】
電解液として、30%KOH水溶液を用いた。
整流器からモデル電解槽に対して、モデル電解槽の陰極及び陽極の面積に対して、10kA/m
2となるように通電をした。実施例A及び比較例Aにおいて、電極面積が250mm×1200mmである場合には、3.0kAを通電し、電極面積が250mm×2400mmである場合には、6.0kAを通電した。
【0213】
電解液の動粘度ν(m
2/秒)は、英弘精機(株)社製B型粘度計HBDV21CTで、90℃の粘度を測定し、90℃の密度を用いて算出した。
電極室当たりの電解液の流量Q(m
3/秒)は、横河電機(株)社製の電磁流量計AXF025で測定した。
電解液レイノルズ数Reを、下記式(1)
式(1):Re=Q/(電極室当たりの整流板の数+1)×{(2×D)/(B+C)}/(ν×D)
(式中、Qは、電極室当たりの電解液の流量(m
3/秒)を示し、νは、電解液の動粘度(m
2/秒)を示す)
から算出した。
電解液の温度は、モデル電解槽の入口においてK熱電対で測定した。
【0214】
通電開始後の電解槽内圧力は、圧力計で測定し、陰極(水素ガス)側圧力が3kPa、陽極(酸素ガス)側圧力が2kPaとなるとように、調整した。圧力調整は、圧力計下流に設置した水封器内の貯水レベルの調整により、行った。
【0215】
電解中、送液ポンプにより、モデル電解槽の陽極室、陽極用気液分離タンク、陽極室を循環し、また、モデル電解槽の陰極室、陰極用気液分離タンク、陰極室を循環している。
【0216】
循環流路として電解液接液部にニッケル製の15Aの配管を用いた。
【0217】
気液分離タンクは、高さ500mm、容積0.016m
3のものを用意した。
気液分離タンクの液量は、それぞれ設計容積の50%程度とした。
【0218】
実施例A及び比較例Aにおけるアルカリ水電解の詳細な条件を表1に示す。
【0219】
実施例A及び比較例Aにおけるアルカリ水電解について下記のとおり評価した。評価は通電開始から60分後の時点で行った。
【0220】
実施例A及び比較例Aにおける評価結果を表1に示す。
【0221】
(1)ガス滞留性
電解中の電解セルにおける液・ガス滞留性の評価として、モデル電解槽の目視評価により、電極室内のバックミキシング現象の発生度合を、以下の評価基準で評価した。結果を表1に示す。
<評価基準>
A(優れる):発生頻度は少なく、数秒ですぐに消失する
B(良好):発生頻度は多いが、数秒ですぐに消失する
C(実用可能):発生頻度は多く、5分以上消失しない
D(不良):常に発生しており、消失しない
【0222】
(2)セル内温度差
電解中の電解セルにおいて複極式エレメントの電極室内の上下に均等配置した6箇所に挿入した熱電対により電解液の温度を計測し、6箇所における温度差の最大値を算出した。そして、温度差の最大値について以下の評価基準で評価した。結果を表1に示す。
<評価基準>
A(優れる):4℃未満
B(良好):4℃以上25℃未満
C(実用可能):25℃以上50℃未満
D(不良):50℃以上
【0223】
(3)気液比の変動による圧力変動
圧力変動の評価として、陰極側出側ホース内の液・ガスの二相流状態を目視により評価した。結果を表1に示す。
<評価基準>
A(優れる):層状流で二相が分離している、連続的な流れを形成している
B(良好):波状流で二相が分離している、連続的な流れを形成している
C(実用可能):スラグ流で二相は分離しておらず、断続的な流れが見られる
D(不良):乱れた間欠流で常に断続的な流れが発生している
【0224】
(4)電極たわみ量
電解後の陽極を取り出し、電極のたわみ量を計測した。結果を表1に示す。
<評価基準>
A(優れる):0.03mm未満
B(良好):0.03mm以上0.13mm未満
C(実用可能):0.13mm以上2.0mm未満
D(不良):2.0mm以上
【0225】
(5)対電圧
通電開始から60分後の時点でのセル電圧(V)を測定した。結果を表1に示す。
【0226】
(実施例A2〜実施例
A4、参考例A5〜参考例A7)(比較例A1〜比較例A4)
モデル電解槽の構成及び水電解の条件を表1に示すとおりとした以外は実施例A1と同様にアルカリ水電解を行った。
【0227】
(比較例A5)
特に、比較例A5においては、長さAが2.4m、長さBが0.015m、間隔Cが0.06m、断面積Dが0.0009、2×D/(B+C)が0.024、であるモデル電解槽を2つ用意した。そして、1つ目のモデル電解槽に取り付けた陰極出口側ホースを2つ目のモデル電解槽の陰極入口側ホースと連結させ、また、1つ目のモデル電解槽の陽極出口側ホースを2つ目のモデル電解槽の陽極入口側ホースと連結させて、2つのモデル電解槽を長さAの方向に関して連なるように並べて、長さAが4.8mに相当するモデル電解槽を用意した。
【0228】
実施例A及び比較例Aにおける評価結果を表1に示す。
【0229】
【表1-1】
【表1-2】
【0230】
(実施例A8)
アルカリ水電解用複極式セル及びそれを用いたアルカリ水電解用電解装置は、下記のとおり作製した。
【0231】
−隔壁、外枠、整流板−
複極式エレメントとして、陽極と陰極とを区画する隔壁と隔壁を取り囲む外枠とが一体化されたニッケル製の部材を用いた。隔壁の平面視でのサイズは、縦500mm×横580mmとし、厚みは2mmとした。
隔壁の陽極室側に、高さ25mm、厚み1.5mmのニッケル製の陽極側整流板(陽極側リブ)を5枚、隔壁の陰極室側に、高さ25mm、厚み1.5mmのニッケル製の陰極側整流板(陰極側リブ)を5枚、溶接により、95mmの間隔(外枠−整流板距離は95.5mm)で、取り付けた。
整流板には、隔壁に溶接された側に、半径10mmの半円形状の穴を、整流板の延在方向について等間隔に、12か所設けた。
【0232】
−陽極、陰極、隔膜、ガスケット−
実施例A1において使用した陽極、陰極、隔膜、ガスケットと同様のものを使用した。
陽極及び陰極の平面視でのサイズは、500mm×580mmとした。
【0233】
−複極式電解槽、複極式エレメント−
複極式エレメントを5個使用し、
図1に示すように、一方の端側で、ファストヘッド、絶縁板、陽極ターミナルエレメントを配置し、さらに、陽極側ガスケット部分、隔膜、陰極側ガスケット部分、複極式エレメントをこの順に並べたものを5組配置し、さらに、陽極側ガスケット部分、隔膜、電陰極側ガスケット部分を配置し、もう一方の端側で、陰極ターミナルエレメント、絶縁板、ルーズヘッドを配列し、その後、これらをファストヘッド及びルーズヘッドの両側から8本のタイロッドを使用し、各タイロッドをトルクレンチにより締め付けトルク59N・mで締め付けることでスタックし、複極式電解槽を組み立てた。
この実施例においては、陰極室及び陽極室が、それぞれ5室ある5対の直列接続構造を有していた。
ゼロギャップ型の複極式エレメントは、隔壁に垂直な方向にみて、縦540mm×横620mmの長方形の形状を有していた。
【0234】
−電解室−
電極室の隔壁に垂直な方向の長さ(電極室の深さ)は、陽極室で25mmであり、陰極室で25mmであった。
【0235】
−ゼロギャップ構造−
前述のとおり、複極式電解槽を組み立てることによって、
図2に示すような、陰極と陽極とを隔膜の両側から押し付けて接触させ、ゼロギャップ構造を形成した。
陽極側では陽極のみを用い、陰極側は「陰極−導電性弾性体−集電体」の組み合わせを用い、ゼロギャップ構造の詳細は、実施例A1と同様とした。
【0236】
−ヘッダー(外部ヘッダー)−
この実施例の複極式電解槽50では、
図6に示すように、この実施例の複極式電解槽50では、電解槽50の筐体の外方に、電解液を配液及び集液するための導管20(陽極用配液管20Oai、陰極用配液管20Oci、陽極用集液管20Oao、陰極用集液管20Oco)が設けられている。
更に、この電解槽50では、これらの導管20から電解室5に電解液を通過させるホース(陽極入口側ホース10Oai、陽極出口側ホース10Oao、陰極入口側ホース10Oci、陰極出口側ホース10Oco)を、外部から取り付けた。
なお、各ホース(10Oai、10Oao、10Oci、10Oco)には、それぞれ熱電対を設置し、電極室を通過する前後での電解液の温度差を測定した。
こうして、外部ヘッダー型の電解槽を作製した。
陰極入口側ホース10Ociを介して陰極室5cへ、陰極室5cから陰極出口側ホース10Ocoを介して、電解液を流した。
また、陽極入口側ホース10Oaiを介して陽極室5aへ、陽極室5aから陽極出口側ホース10Oaoを介して、電解液を流した。
図6に示すように、入口側ホースは平面視で長方形の外枠の下辺の一方端側に、出口側ホースは平面視で長方形の外枠の下辺の他方端側に繋がる側辺の上側に、それぞれ接続されている。ここでは、入口側ホースと出口側ホースとを、平面視で長方形の電解室において電極室の電極室の中央部を挟んで向かい合うように、設けた。電解液は、鉛直方向に対して傾斜しながら下方から上方へ流れ、電極面に沿って上昇した。
この実施例の複極式電解槽では、陽極室5aや陰極室5cの入口側ホースから、陽極室5aや陰極室5cに、電解液が流入し、陽極室5aや陰極室5cの出口側ホースから、電解液と生成ガスとが、電解槽外へ流出する構造とした。
陰極室5cでは、電解により水素ガスが発生し、陽極室5aでは、電解により酸素ガスが発生するため、前述した、陰極出口側ホース10Ocoでは、電解液と水素ガスとの混相流となり、陽極出口側ホース10Oaoでは、電解液と酸素ガスとの混相流となった。
図10に、本実施例Aの外部ヘッダー型の複極式電解槽の側面図の一部を電解液の流れと共に示す。
【0237】
整流器、酸素濃度計、水素濃度計、流量計、圧力計としては、実施例A1において使用したものと同様のものを用いた。
送液ポンプ、気液分離タンク、水補給器等としても、実施例A1において使用したものと同様のものを用いて、アルカリ水電解装置を作製した(
図8参照)。
【0238】
複極式電解槽を用いたアルカリ水電解を下記の条件で実施した。
【0239】
電解液として、30%KOH水溶液を用いた。
整流器から複極式電解槽に対して、複極式電解槽の陰極及び陽極の面積に対して、10kA/m
2となるように通電をした。
送液ポンプにより、陽極室、酸素分離タンク(陽極用気液分離タンク)、陽極室1aの循環を、また、陰極室、水素分離タンク(陰極用気液分離タンク)、陰極室、の循環を行った。
【0240】
電解液の動粘度ν(m
2/秒)、電極室当たりの電解液の流量Q(m
3/秒)、電解液レイノルズ数Re、電解液の温度等の諸条件は、実施例A1と同様に測定・算出した。
詳細な条件は表2に示すとおりとした。
【0241】
通電開始後の槽内圧力は、圧力計で測定し、陰極(水素ガス)側圧力が50kPa、陽極(酸素ガス)側圧力が49kPaとなるとように、調整した。圧力調整は、圧力計下流に設置した制御弁により行った。
【0242】
(電解試験1)
整流器から電解槽に対して、電流密度が10kA/m
2となるように連続で通電し、水電解を行った。
この際、実施例A8では、表2に示すような3つの条件で、水電解を行った。それぞれの条件において、100時間ずつ運転し、80時間経過時に、前述の(1)〜(5)の評価のうち、特に(2)〜(5)の評価を行った。
詳細な条件及び結果を表2に示す。
【0243】
【表2】
【0244】
(実施例B1)
アルカリ水電解用電解槽を下記の通りに作製した。
【0245】
−隔壁、外枠−
複極式エレメントとして、陽極と陰極とを区画する隔壁と、隔壁を取り囲む外枠と、を備えたものを用いた。隔壁及び複極式エレメントのフレーム等の電解液に接液する部材の材料は、全てニッケルとした。
【0246】
−陽極−
実施例A1と同じものを用いた。
この電極を、50cm角に切断加工したものを陽極とした。
【0247】
−陰極−
実施例A1と同じものを用いた。
【0248】
−導電性弾性体−
導電性弾性体は、線径0.15mmのニッケル製ワイヤーを織ったものを、波高さ5mmになるように波付け加工したものを使用した。厚みは5mmであり、密度は4.249g/cm
3であった。50%圧縮変形時の反発力は150g/cm
2、目開きは5メッシュ程度であった。
【0249】
−隔膜−
実施例A1と同じものを用いた。
【0250】
−ガスケット−
ガスケットは、厚み4.0mm、幅18mmの内寸504mm角の四角形状のもので、内側に平面視で電極室と同じ寸法の開口部を有し、隔膜を挿入することで保持するためのスリット構造を有するものを使用した。スリット構造は、開口部の内壁の厚み方向の中央部分に、隔壁を挿入することでこれを保持するための、0.4mmの隙間を設けた構造とした。このガスケットは、EPDMゴムを材質とし、100%変形時の弾性率が4.0MPaであった。
【0251】
−アルカリ水電解用複極式電解槽−
隔壁に対して陰極側に陰極リブ、陰極集電体、上記導電性弾性体、上記陰極がこの順に重ねられ、隔壁に対して陽極側に陽極リブ、上記陽極がこの順に重ねられた複極式エレメントを作製した(
図4参照)。
また、陽極ターミナルフレームに上記陽極を取り付けたものを陽極ターミナルエレメント、陰極ターミナルフレームに上記陰極を取り付けたものを陰極ターミナルエレメントとした。
そして、上記複極式エレメントを9枠、上記陽極ターミナルエレメント及び上記陰極ターミナルエレメントを各々1枠ずつ用意し、全ての複極式エレメントと陽極ターミナルエレメントと陰極ターミナルエレメントの金属フレーム部分に上記ガスケットを貼り付けた。
上記陽極ターミナルエレメントと、上記複極式エレメントの陰極との間に、隔膜を一枚挟み込んだ。更に、9枠の複極式エレメントを、陽極と陰極とが対向するように、直列に並べ、各々の複極式エレメントの間に、8枚の隔膜を1枚ずつ挟み込んだ。更に、9枠目の複極式エレメントの陽極側と、陰極ターミナルエレメントの間に隔膜を一枚挟み込んだ。これらをプレス機で締付けたものを、複極式電解槽とした。複極式電解槽は、
図1に示すように、一方の端側で、ファストヘッド、絶縁板、陽極ターミナルユニットの順に配置し、もう一方の端側で、陰極ターミナルユニット、絶縁板、ルーズヘッドの順で配置した。
なお、上記複極式電解槽において、複極式エレメントの通電面の面積S1は、0.25m
2に調整した。また、ゼロギャップ構造において、隔膜を挟んだ陽極と陰極集電体との距離aが1mmになるように、陰極リブ及び陽極リブの高さを調整した。隔膜が陽極及び陰極と接触してゼロギャップ構造を形成していた。
また、導電性弾性体の線径は0.15mmであった。導電性弾性体の密度は4.249g/cm
3であった。ゼロギャップ構造において、隔膜と陰極との間にかかる面圧は98.1kN/m
2であった。
【0252】
−ヘッダー−
内部ヘッダー型の複極式エレメントを採用した。
そして、
図3、
図4に示すように、ヘッダー(陽極入口ヘッダー10ai、陰極入口ヘッダー10ci、陽極出口ヘッダー10ao、陰極出口ヘッダー10co)を、複極式エレメントの外枠に配置した。各ヘッダーは、導管(陽極用配液管、陰極用配液管、陽極用集液管、陰極用集液管)のいずれもが、複極式エレメントの隔壁に垂直な方向に延びるように、配置した。
こうして、内部ヘッダー型の電解槽を作製した。
陰極入口ヘッダー10ciを介して陰極室5cへ、陰極室5cから陰極出口ヘッダー10coを介して、電解液を流した。また、陽極入口ヘッダー10aiを介して陽極室5aへ、陽極室5aから陽極出口ヘッダー10coを介して、電解液を流した。
複極式電解槽では、陽極室5aや陰極室5cの電解液入口から、陽極室5aや陰極室5cに、電解液が流入し、陽極室5aや陰極室5cの電解液出口から、電解液と生成ガスとが、電解槽外へ流出する構造とした。
陰極室5cでは、電解により水素ガスが発生し、陽極室5aでは、電解により酸素ガスが発生するため、陰極出口ヘッダー10coでは、電解液と水素ガスとの混相流となり、陽極出口ヘッダー10coでは、電解液と酸素ガスとの混相流となった。
【0253】
(実施例B2)
ゼロギャップ構造において、陽極と陰極集電体との距離aが2mmになるように、陰極リブ及び陽極リブの高さを調整したこと以外は、実施例B1と同様にして複極式電解槽を得た。隔膜が陽極及び陰極と接触してゼロギャップ構造を形成していた。
また、導電性弾性体の線径は0.15mmであった。導電性弾性体の密度は0.708g/cm
3であった。ゼロギャップ構造において、隔膜と陰極との間にかかる面圧は29.4kN/m
2であった。
【0254】
(実施例B3)
ゼロギャップ構造において、陽極と陰極集電体との距離aが5.8mmになるように、陰極リブ及び陽極リブの高さを調整したこと以外は、実施例B1と同様にして複極式電解槽を得た。隔膜が陽極及び陰極と接触してゼロギャップ構造を形成していた。
また、導電性弾性体の線径は0.15mmであった。導電性弾性体の密度は0.170g/cm
3であった。ゼロギャップ構造において、隔膜と陰極との間にかかる面圧は9.81kN/m
2であった。
【0255】
(実施例B4)
ゼロギャップ構造において、陽極と陰極集電体との距離aが1mmになるように、陰極リブ及び陽極リブの高さを調整したこと以外は、実施例B1と同様にして複極式電解槽を得た。隔膜が陽極及び陰極と接触してゼロギャップ構造を形成していた。
また、導電性弾性体の線径は0.1mmであった。導電性弾性体の密度は2.833g/cm
3であった。ゼロギャップ構造において、隔膜と陰極との間にかかる面圧は88.3kN/m
2であった。
【0256】
(実施例B5)
ゼロギャップ構造において、陽極と陰極集電体との距離aが2mmになるように、陰極リブ及び陽極リブの高さを調整したこと以外は、実施例B1と同様にして複極式電解槽を得た。隔膜が陽極及び陰極と接触してゼロギャップ構造を形成していた。
また、導電性弾性体の線径は0.1mmであった。導電性弾性体の密度は0.472g/cm
3であった。ゼロギャップ構造において、隔膜と陰極との間にかかる面圧は24.5kN/m
2であった。
【0257】
(実施例B6)
ゼロギャップ構造において、陽極と陰極集電体との距離が5.8mmになるように、陰極リブ及び陽極リブの高さを調整したこと以外は、実施例B1と同様にして複極式電解槽を得た。隔膜が陽極及び陰極と接触してゼロギャップ構造を形成していた。
また、導電性弾性体の線径は0.1mmであった。導電性弾性体の密度は0.113g/cm
3であった。ゼロギャップ構造において、隔膜と陰極との間にかかる面圧は9.81kN/m
2であった。
【0258】
(実施例B7)
ゼロギャップ構造において、陽極と陰極集電体との距離が2mmになるように、陰極リブ及び陽極リブの高さを調整したこと以外は、実施例B1と同様にして複極式電解槽を得た。隔膜が陽極及び陰極と接触してゼロギャップ構造を形成していた。
また、導電性弾性体の線径は0.5mmであった。導電性弾性体の密度は2.361g/cm
3であった。ゼロギャップ構造において、隔膜と陰極との間にかかる面圧は93.2kN/m
2であった。
【0259】
(比較例B1)
ゼロギャップ構造において、陽極と陰極集電体との距離が0.95mmになるように、陰極リブ及び陽極リブの高さを調整したこと以外は、実施例B1と同様にして複極式電解槽を得た。隔膜が陽極及び陰極と接触してゼロギャップ構造を形成していた。
また、導電性弾性体の線径は0.15mmであった。導電性弾性体の密度は5.665g/cm
3であった。ゼロギャップ構造において、隔膜と陰極との間にかかる面圧は147kN/m
2であった。
【0260】
(比較例B2)
ゼロギャップ構造において、陽極と陰極集電体との距離が6.8mmになるように、陰極リブ及び陽極リブの高さを調整したこと以外は、実施例B1と同様にして複極式電解槽を得た。隔膜が陽極及び陰極と接触してゼロギャップ構造を形成していた。
また、導電性弾性体の線径は0.15mmであった。導電性弾性体の密度は0.142g/cm
3であった。ゼロギャップ構造において、隔膜と陰極との間にかかる面圧は0.981kN/m
2であった。
【0261】
[評価]
(陽極と陰極集電体との距離)
実施例B、比較例Bで得られた複極式電解槽において、陰極集電体と導電性弾性体とが接する面と、陽極と隔膜と接する面間の距離a(
図2)(mm)を測定した。
【0262】
(隔膜と陰極との間にかかる面圧)
島津製作所のオートグラフの圧縮測定モードを用いて測定した。
10cm角の開口部を持った、深さ2cmのポリ塩化ビニル製の受け用治具に、陰極集電体、導電性弾性体、陰極、隔膜、陽極の順で重ね入れた。9.9cm角の正方形の押し器を、オートグラフに取付けた。押し器を用いて、垂直に押し込みながら、陽極と陰極集電体との距離が表1の値となる時の、隔膜と陰極との間にかかる面圧(kN/m
2)を測定した。
【0263】
(導電性弾性体の密度)
導電性弾性体を10cm角に切断加工し、電子天秤にて質量を測定した。この導電性弾性体に、上記隔膜と陰極との間にかかる面圧を測定した際に導電性弾性体にかかる圧力と同じ圧力をかけ、導電性弾性体が圧縮された時の容積を測定した。そして、導電性弾性体の質量を圧縮時の導電性弾性体の容積で除して、導電性弾性体の密度(g/cm
3)を求めた。
【0264】
(導電性弾性体の線径)
実施例B、比較例Bで得られた複極式電解槽から、導電性弾性体を切り出し、切り出した導電性弾性体断面に見られる100本の繊維の線径を測定し、その平均値を線径(mm)とした。
【0265】
(隔膜の平均透水孔径)
実施例B、比較例Bで得られた複極式電解槽から、隔膜を切り出し、完全性試験機(ザルトリウス・ステディム・ジャパン社製、「Sartocheck Junior BP−Plus」)を使用して、以下の方法で測定した。
まず、隔膜(多孔膜)を芯材も含めて所定の大きさに切り出して、これをサンプルとした。このサンプルを測定用の耐圧容器(透過部面積12.57cm
2)にセットして、容器内を150mLの純水で満たした。次に、耐圧容器を90℃に設定した恒温槽内で保持し、耐圧容器内部が90℃になってから測定を開始した。測定が始まると、サンプルの上面側が窒素で加圧されていき、サンプルの下面側から純水が透過してくるので、圧力及び透過流量の数値を記録した。平均透水孔径は、圧力が10kPaから30kPaの間の圧力と透水流量との勾配を使い、以下のハーゲンポアズイユの式から求めた。
平均透水孔径(m)=32ηLμ
0/(εP)
ここで、ηは水の粘度(Pa・s)、Lは多孔膜の厚み(m)、μ
0は見かけの流速であり
μ
0(m/s)=流量(m
3/s)/流路面積(m
2)
の関係を満たす。また、εは空隙率、Pは圧力(Pa)である。
【0266】
(隔膜の厚み)
実施例B、比較例Bで得られた複極式電解槽の全ての隔膜の厚さを測定し、その平均値を隔膜の厚み(mm)とした。
【0267】
(隔膜の気孔率)
隔膜の気孔率は、電子天秤精密比重計(島津製作所社製、「AUX120+SMK−401」)を用いて測定した。アルキメデス法により求めた多孔膜の開気孔率をアルカリ水電解用隔膜の気孔率とし、以下の式により求めた。まず、実施例B、比較例Bで得られた複極式電解槽から、隔膜を切り出し、純水で洗浄して、多孔膜を3cm×3cmの大きさで3枚に切出して、測定サンプルとし、サンプルのW2及びW3を測定した。その後、多孔膜を50℃に設定された乾燥機で12時間以上静置して乾燥させて、W1を測定した。そして、W1、W2、W3の値から、気孔率を求めた。3枚のサンプルを用意して、気孔率Pを求め、それらの算術平均値を気孔率とした。
気孔率P(%)=ρ/(1+ρ)×100
(式中、ρ=(W3−W1)/(W3−W2)であり、W1は多孔膜の乾燥質量(g)、W2は多孔膜の水中質量(g)、W3は多孔膜の飽水質量(g)である。)
【0268】
(セル電圧)
実施例B、比較例Bで得られた複極式電解槽を用いて、
図5に示す電解装置を作製した。
酸素濃度計、水素濃度計、圧力計、整流器、送液ポンプ、気液分離タンク、水補給器等は、いずれも当該技術分野において通常使用されるものを用いて、アルカリ水電解装置を作製した。
電解装置は、複極式電解槽50と、電解液を循環させるための送液ポンプ71と、電解液と水素及び/又は酸素とを分離する気液分離タンク72とを備え、気液分離タンク72及び複極式電解槽50には30%KOH水溶液である電解液が封入されており、送液ポンプ71により、複極式電解槽50の陽極室5a、陽極用の気液分離タンク72、陽極室5aを循環し、また、複極式電解槽50の陰極室5b、陰極用の気液分離タンク72、陰極室5cを循環している。温度は90℃に調整した。
なお、上記電解装置は、気液分離タンク72で分離した気体が圧力計78、圧力制御弁80、酸素濃度計75又は水素濃度計76、を通して回収される。また、整流器74により電力は制御可能である。また、循環する電解液の流路には、流量計77、熱交換器79が備えられている。また、
図5中の矢印は、循環液(電解液)及び気体が流れる方向を示している。
循環流路は電解液接液部には、SGP炭素鋼配管にテフロン(登録商標)ライニング内面処理を施し、20Aの配管を用いた。気液分離タンク72は、高さ1400mm、容積1m
3のものを用いた。
各気液分離タンク72の液量は、設計容積の50%程度とした。
図3に、セル電圧の測定に用いる電解装置の内部ヘッダー式の複極式電解槽中の、電解液の流れる方向を模式的に示す。
図3に示すように、複極式エレメントを平面視すると、陽極側及び陰極側において、それぞれ、入口ヘッダーから出口ヘッダーに向かう方向に電解液を流した。また、複極式電解槽の断面では、隔壁に沿う方向に電解液を流した(
図4)。
整流器74から、複極式電解槽50に対して、陰極及び陽極の幾何面積に対して、6kA/m
2となるように電流を流した。なお、電極面(通電面)は500mm×500mmであるため、1.5kAを通電した。
上記の電解装置を用いて、電流密度が6kA/m
2となるように連続で100時間通電して水電解を行い、各セルの電圧を測定し、セル電圧の相加平均値Vを計算により求めた。
【0269】
実施例
Bにおける評価結果を表1に示す。
【0270】
【表3】
【0271】
表
3に示されるように、実施例Bの複極式電解槽を用いた場合、セル電圧の上昇は見られず実電解槽として許容される性能を示した。一方、比較例Bでは、セル電圧が上昇し、実電解槽として許容し得る範囲ではなかった。