(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記風温推定部は、前記人位置推定部により推定された前記人の位置と、前記空気調和機に設定された送風温度パラメータであって前記空調制御を行うために前記対象空間に送風する前記空気調和機の吹出口の送風温度を規定する送風温度パラメータとに基づき、前記人の周囲の風温を推定する、
請求項3に記載のセンサシステム。
前記人位置推定部は、前記熱画像取得部が取得した前記熱画像における前記人の足の位置と、前記熱画像取得部の前記対象空間内の床からの高さと、前記熱画像取得部の有効視野角とを用いて、前記人の位置を推定する、
請求項2〜4のいずれか1項に記載のセンサシステム。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一態様に係る空気調和機は、対象空間内の人の温冷感に基づいて前記対象空間の空調制御を行う空気調和機であって、前記対象空間内の温度分布を示す熱画像を取得する熱画像取得部と、前記熱画像取得部から得られた熱画像および前記空気調和機に設定されたパラメータであって前記空気調和機から出射する風の風向、風速および風温の内少なくともひとつを規定するパラメータに基づいて、前記人の温冷感を推定する温冷感推定部と、を備える。
【0011】
この構成により、人の温冷感をより高精度に推定することができる空気調和機を実現できる。それにより、当該空気調和機は、高精度に推定した人の温冷感に基づいて、当該人にとってより快適な環境温度となるように対象空間の空調制御を行うことができる。
【0012】
ここで、例えば、前記空気調和機は、さらに、対象空間内の風速を推定する風速推定部を備え、前記風速推定部は、前記空気調和機に設定された送風パラメータであって前記空調制御を行うために前記対象空間に送風する前記空気調和機の吹出口の風速を規定する送風パラメータに基づき、前記対象空間内の風速を推定し、前記温冷感推定部は、前記熱画像および前記風速推定部により推定された風速に基づいて、前記人の温冷感を推定するとしてもよい。
【0013】
また、例えば、前記空気調和機は、さらに、前記熱画像および前記風速推定部により推定された風速に基づいて、前記人の人体放熱量を推定する放熱量推定部を備え、前記温冷感推定部は、前記放熱量推定部により推定された前記人の人体放熱量に基づいて前記人の温冷感を推定するとしてもよい。
【0014】
また、例えば、前記空気調和機は、さらに、前記熱画像を用いて、前記人の表面温度を算出する温度算出部と、前記風速推定部により推定された風速に基づいて対流熱伝達率を算出する対流熱伝達率算出部とを備え、前記放熱量推定部は、前記対流熱伝達率算出部により算出された対流熱伝達率と、前記対象空間内の前記人以外の領域の温度である周囲温度と、前記温度算出部により算出された前記人の表面温度とを用いて前記人の人体放熱量を推定するとしてもよい。
【0015】
ここで、例えば、前記空気調和機は、さらに、前記熱画像取得部が取得した前記熱画像と、前記熱画像取得部の前記対象空間内の位置とに基づいて、前記空気調和機を基準とした前記人の位置を推定する人位置推定部を備え、前記風速推定部は、前記人位置推定部により推定された前記人の位置と前記送風パラメータとに基づき、前記対象空間内の前記人の周囲の風速を推定し、前記対流熱伝達率算出部は、前記風速推定部により推定された前記人の周囲の風速に基づいて前記対流熱伝達率を算出するとしてもよい。
【0016】
また、例えば、前記空気調和機は、さらに、前記熱画像と、前記熱画像取得部の前記対象空間内の位置とに基づいて、前記空気調和機を基準とした前記人の位置を推定する人位置推定部と、前記人位置推定部により推定された前記人の位置と、前記空気調和機の吹出口の送風温度とに基づいて、前記対象空間内の前記人の周囲の風温を推定する風温推定部とを備え、前記放熱量推定部は、前記周囲温度として、前記風温推定部により推定された前記人の周囲の風温を用いて前記人の人体放熱量を推定するとしてもよい。
【0017】
ここで、例えば、前記風温推定部は、前記人位置推定部により推定された前記人の位置と、前記空気調和機に設定された送風温度パラメータであって前記空調制御を行うために前記対象空間に送風する前記空気調和機の吹出口の送風温度を規定する送風温度パラメータとに基づき、前記人の周囲の風温を推定するとしてもよい。
【0018】
また、例えば、前記人位置推定部は、前記熱画像取得部が取得した前記熱画像における前記人の足の位置と、前記熱画像取得部の前記対象空間内の床からの高さと、前記熱画像取得部の有効視野角とを用いて、前記人の位置を推定するとしてもよい。
【0019】
また、例えば、前記温度算出部は、前記吹出口の風速が変動される場合、前記吹出口の風速の変動前の熱画像と前記吹出口の風速の変動後の熱画像とを用いて、前記変動前の前記人の表面温度と前記変動後の前記人の表面温度を算出し、前記風速推定部は、前記変動前の前記人の表面温度と前記変動後の前記人の表面温度とに基づいて、前記対象空間内の前記人の周囲の風速を推定するとしてもよい。
【0020】
ここで、例えば、前記吹出口の所定の風速をゼロに規定し、その後前記所定の風速に規定するように前記送風パラメータを設定することで、前記吹出口の風速を変動させるとしてもよい。
【0021】
また、例えば、前記温度算出部は、前記熱画像を用いて、前記人の表面温度と前記周囲温度とを算出するとしてもよい。
【0022】
また、例えば、前記空気調和機は、さらに、前記人が受ける熱量である受熱量を算出する受熱量算出部を備え、前記放熱量推定部は、前記対流熱伝達率算出部により算出された対流熱伝達率と、前記対象空間内の前記人以外の領域の温度である周囲温度と、前記温度算出部により算出された前記人の表面温度と、前記受熱量算出部により算出された受熱量とを用いて前記人の人体放熱量を推定するとしてもよい。
【0023】
ここで、例えば、前記受熱量算出部は、前記人に対する日射光量を推定する日射光量推定部と、前記人に日射される部分の面積を算出する日射面積算出部と、前記日射光量推定部で推定された日射光量と前記日射面積算出部で算出された面積と、前記人の着衣吸収率とを用いて前記受熱量を算出する受熱量計算部とを備えるとしてもよい。
【0024】
また、例えば、前記温度算出部は、前記人の表面温度として、前記人の顔面もしくは顔面内部の温度を算出するとしてもよい。
【0025】
また、例えば、前記温度算出部は、前記人の表面温度として、前記人の大腿部の温度を算出するとしてもよい。
【0026】
また、例えば、前記温度算出部は、前記人の表面温度として、前記熱画像の前記人と認識された領域の平均温度を算出するとしてもよい。
【0027】
また、本発明の一態様に係る空気調和機の温冷感推定方法は、対象空間内の人の温冷感に基づいて前記対象空間の空調制御を行う空気調和機の温冷感推定方法であって、前記対象空間内の温度分布を示す熱画像を取得する熱画像取得ステップと、前記熱画像取得ステップにおいて得られた熱画像および前記空気調和機に設定されたパラメータであって前記空気調和機から出射する風の風向、風速および風温の内少なくともひとつを規定するパラメータに基づいて、前記人の温冷感を推定する温冷感推定ステップと、を含む。
【0028】
また、本発明の一態様に係る空気調和機に搭載されるセンサシステムは、対象空間内の人の温冷感に基づいて前記対象空間の空調制御を行う空気調和機に搭載されるセンサシステムであって、前記対象空間内の温度分布を示す熱画像を取得する熱画像取得部と、前記熱画像取得部から得られた熱画像および前記空気調和機に設定されたパラメータであって前記空気調和機から出射する風の風向、風速および風温の内少なくともひとつを規定するパラメータに基づいて、前記人の温冷感を推定する温冷感推定部と、を備える。
【0029】
なお、これらの全般的または具体的な態様は、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラムまたはコンピュータで読み取り可能なCD−ROM等の記録媒体で実現されてもよく、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラムまたは記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【0030】
以下、本発明の一態様に係る赤外線検出装置等について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0031】
(実施の形態1)
[空気調和機の構成]
以下、実施の形態1における空気調和機について、図面を参照しながら説明する。
【0032】
図1は、実施の形態1における空気調和機の構成の一例を示す図である。
図2は、本実施の形態における空気調和機の一例の概観図である。
図3は、
図2の空気調和機が設置された様子の一例を示す図である。
図4Aは、対象空間内の人を模式的に表した図である。
図4Bは、
図4Aに示された人の熱画像の一例を示す図である。
【0033】
空気調和機10は、対象空間内の人の温冷感に基づいて対象空間の空調制御を行う空気調和機である。
【0034】
空気調和機10は、例えば
図2に示すようにエアコンであり、例えば
図3に示すように対象空間60の床61と略垂直な設置面である壁62に床61から所定高さで設置される。空気調和機10は、例えば空気調和機10の前面に取り付けられた熱画像取得部11が取得した熱画像に基づいて、対象空間60内の人50の温冷感を推定する。ここで、熱画像は、対象空間60内の温度分布を示す複数の画素から構成される画像である。また、所定高さとは、例えば人などの温度検出対象よりも高い高さであり、例えば1800mm以上の高さである。対象空間60は、例えば部屋であり、床61は例えば部屋の床であり、壁は例えば部屋の壁などである。
【0035】
本実施の形態では、空気調和機10は、
図1に示すように、熱画像取得部11と、温度センサ12と、演算部13と、制御部14とを少なくとも備える。また、空気調和機10は、
図1に示すように、ルーバ、コンプレッサ、ファンなどを備え、これらを対象空間60内の人の温冷感に基づいて制御することで対象空間の空調制御を行う。
【0036】
熱画像取得部11は、例えば空気調和機10の前面に取り付けられたサーモグラフィーであり、対象空間60内の温度分布を示す熱画像を取得する。
【0037】
熱画像取得部11は、上下方向の有効視野角(画角)と左右方向の有効視野角とを有しており、空気調和機10の前方の対象空間60に存在する物体の二次元的な熱画像を取得することができる。熱画像取得部11は、例えば二次元的にマトリックス状に配列された赤外線検出素子(画素)で構成され、一度に二次元的な熱画像を取得するとしてもよい。また、熱画像取得部11は、例えばラインセンサすなわち一次元状に配列された赤外線検出素子(画素)で構成され、一次元的に走査することで二次元的な熱画像を取得するとしてもよい。つまり、熱画像取得部11は、二次元的な熱画像を取得可能であればどのような構成でも構わない。
【0038】
本実施の形態では、熱画像取得部11は、対象空間60内の温度分布を示す熱画像を取得する。すなわち、熱画像取得部11は、例えば
図3のように空気調和機10の前方の対象空間60内に人50が存在する場合、人50を含んだ対象空間60の温度分布を示す熱画像を取得する。
【0039】
例えば、
図4Aに示すように、人50は上着50aとズボン50bを着用しており、例えば、周囲温度(対象空間60の温度)が例えば25℃程度の常温であるとする。この場合、熱画像取得部11は、例えば
図4Bに示すような熱画像を取得する。
図4Bに示す熱画像では、物体の温度が高い部分(画素)ほど濃度が高くなるように表示されている。つまり、
図4Bに示す熱画像では、温度が高い画素ほど、黒色に近い色になるように表示されている。なお、熱画像の表示に関してはこれに限られない。
【0040】
図4Aに示す人50において、上着50a及びズボン50bに該当する部分の表面温度は、人50の皮膚が露出している他の部位(顔面、首、両手、両足)の表面温度よりも周囲温度に近くなる。つまり、上着50aやズボン50bに該当する部分の表面温度は、他の部位(顔面、首、両手、両足)の表面温度よりも低くなる。そのため、
図4Bに示される熱画像では、皮膚が露出している部分に該当する領域の表面温度よりも、上着50a及びズボン50bに該当する領域の方が相対的な濃度は低く表示されている。
【0041】
温度センサ12は、例えばサーミスタや熱電対であり、対象空間60中の一点や部材表面の一点の温度を測定することができる。本実施の形態では、温度センサ12は、空気調和機10内の例えば空気吸込口等に配置され、対象空間60内の人50以外の領域の温度である周囲温度を測定する。温度センサ12は測定した周囲温度を演算部13に送信する。
【0042】
制御部14は、演算部13の結果すなわち推定された対象空間60内の人50の温冷感に基づいて、ルーバ、コンプレッサ、ファンなどを制御することで、人50にとって快適な環境温度となるように対象空間60の空調制御を行う。制御部14は、例えば、推定された人50の温冷感により人50が暑いと感じていると判断する場合には、コンプレッサとファンを動作させて風温、風速を制御し、冷風を発生させるように制御する。なお、制御部14は、さらに、熱画像取得部11が取得した熱画像を用いて人50の位置を認識し、認識した人50の方向にルーバを向けるように制御してもよい。これにより、人50の周囲温度を下げることができるので、人50は暑いと感じなくなり、快適に過ごすことができるようになる。また、制御部14は、例えば、推定された人50の温冷感により人50が寒いと感じていると判断する場合には、コンプレッサとファンを動作させ風温、風速を制御し、温風を発生させるように制御する。なお、制御部14は、さらに、熱画像取得部11が取得した熱画像を用いて人50の位置を認識し、認識した人50の方向にルーバを向けるように制御してもよい。これにより、人50の周囲温度を上げることができるので、人50は寒いと感じなくなり、快適に過ごすことができるようになる。
【0043】
図5は、実施の形態1における空気調和機の演算部の構成の一例を示す図である。
図6は、実施の形態1における記憶部が記憶する風速と対流熱伝達率との関係を示す情報の一例を示す図である。
【0044】
演算部13は、熱画像取得部11が取得した熱画像に基づいて、対象空間60内の人50の温冷感を推定する。本実施の形態では、演算部13は、
図5に示すように、温度算出部130と、記憶部134と、風速推定部135と、対流熱伝達率算出部136と、放熱量推定部137と、温冷感推定部138とを備える。
【0045】
温度算出部130は、人領域温度算出部131と、人周囲温度算出部132とを備える。なお、温度算出部130は、人周囲温度算出部132を備えていないとしてもよい。
【0046】
人周囲温度算出部132は、対象空間60内の温度分布を示す熱画像を用いて、対象空間60内の人50以外の領域の温度である周囲温度を算出する。より具体的には、人周囲温度算出部132は、熱画像取得部11が取得した熱画像であって例えば
図4Bに示す対象空間60内の温度分布を示す熱画像を用いて、当該周囲温度を算出する。ここで、周囲気温と壁面温度が同じであるとするならば、測定された壁面温度を元に周囲温度を推定しても構わない。
【0047】
人領域温度算出部131は、対象空間60内の温度分布を示す熱画像を用いて、人50の表面温度を算出する。より具体的には、人領域温度算出部131は、熱画像取得部11が取得した熱画像であって例えば
図4Bに示す対象空間60内の温度分布を示す熱画像を用いて、人50の表面温度を算出する。ここで、人領域温度算出部131は、人50の表面温度が、人50の顔面もしくは顔面内部の温度であるとして、当該熱画像の人50の顔面と認識された領域(顔面領域)の平均温度または人50の額と認識された領域(額領域)の温度を算出するとしてもよい。また、人領域温度算出部131は、人50の表面温度として、当該熱画像の人50と認識された領域(人領域)の平均温度を算出するとしてもよい。なお、人領域温度算出部131は、人50の表面温度として、当該熱画像の人50の大腿部と認識された領域の温度を算出してもよい。人の大腿部の温度は、人の平均皮膚温度に近いとされているからである。
【0048】
風速推定部135は、対象空間60内の風速を推定する。本実施の形態では、風速推定部135は、空気調和機10に設定された送風パラメータであって空調制御を行うために対象空間60に送風する空気調和機10の吹出口の風速を規定する送風パラメータに基づき、対象空間60内の風速を推定する。つまり、本実施の形態では、風速推定部135は、送風パラメータで設定されている空気調和機10の吹出口の風速を、対象空間60内の風速として推定する。
【0049】
記憶部134は、例えば
図6に示すテーブルのような風速と対流熱伝達率との関係を示す情報を予め記憶している。
図6に示すように、対流熱伝達率は、風速が比較的速い領域では、風速と線型的な関係となる傾向を有する。一方、対流熱伝達率は、風速が比較的遅い領域では、風速が速くなるにつれて大きくなる傾向を有するものの、風速と線型的な関係とならないと考えられているが、通常は測定により求められる場合が多く、このグラフと異なる可能性もあり、このグラフの形状に限定するものではない。
【0050】
対流熱伝達率算出部136は、風速推定部135により推定された風速に基づいて人50の対流熱伝達率を算出する。本実施の形態では、対流熱伝達率算出部136は、記憶部134に記憶されている風速と対流熱伝達率との関係を示す情報を参照して、風速推定部135により推定された風速から人50の対流熱伝達率を算出する。
【0051】
放熱量推定部137は、熱画像取得部11から得られた熱画像および風速推定部135により推定された風速に基づいて、人50の人体放熱量を推定する。より具体的には、放熱量推定部137は、対流熱伝達率算出部136により算出された対流熱伝達率と、対象空間60内の人50以外の領域の温度である周囲温度と、温度算出部130により算出された人50の表面温度とを用いて人50の人体放熱量を推定する。なお、放熱量推定部137は、温度算出部130により算出された周囲温度を用いるとしてもよいし、温度センサ12により測定された周囲温度を用いるとしてもよい。
【0052】
ここで、
図7を用いて、人体放熱量の推定方法について説明する。
図7は、人体放熱量の推定方法を説明するための図である。
【0053】
人体放熱量すなわち人体からの放熱量は、以下の式1〜式3で表すことができる。
【0054】
H[W/m
2]=R+C+K+Esk+Eres+Cres (式1)
R=hr×(Tcl−Tr) (式2)
C=hc×(Tcl−Ta) (式3)
【0055】
ここで、Hは人体放熱量を示す。Rは人体からの放射、Cは対流(人体から空気への熱伝達)、Kは伝導(床等の物体に接触した人体の接触領域からの熱伝達)、Eskは人体の皮膚からの水分蒸発、Eresは人体の呼気の水分蒸発、Cresは呼気の対流を示す。また、hrは放射熱伝達率、hcは対流熱伝達率、Tclは人体の表面温度、Trは壁面温度、Taは周囲温度を示す。
【0056】
図7に示す人50の存在する空間(対象空間)において、仮に風のない無風状態であり、当該空間の温度(室温)および壁62aの温度(壁面温度)が同じであり、さらに乾性放熱が支配的で伝導Kが小さい(床61aと人50の足との接触面積は小さい)場合には、人体放熱量Hは、以下の式4のように表すことができる。
【0057】
H[W/m
2]=R+C=(hr+hc)×(Tcl−Tr) (式4)
【0058】
ここで、例えばhrは4.65[W/m
2/deg]であり、hcは3.7[W/m
2/deg]である。
【0059】
つまり、この場合、人の表面温度の平均値(平均皮膚温度)と周囲温度(もしくは壁面温度)との差が分かれば、hrとhcとの和(4.65+3.7=8.35)を乗じれば人体放熱量が推定できる。
【0060】
しかしながら、空気調和機10が設置される対象空間60では空気調和機10の送風など、風がある場合も多い。そして、対象空間60において風がある場合、上述した対流熱伝達率hcは変化する。例えば風が強くなると対流熱伝達率hcは大きくなるので、同じ室温であっても放熱量は増えるため人は寒く感じる。つまり、無風状態を前提として所定の値の対流熱伝達率hcを用いて人体放熱量を推定した場合、風があっても人体放熱量の数値は変化しない。その人の温冷感も変化していないと推定されてしまう。もしくは、風により人の表面温度が低下することで、逆に放熱量は低く見積もられてしまう場合もある。そのため、風の影響により、実際には人が寒く感じているとしても人の温冷感は変化していない、もしくは逆に暑く感じると推定されてしまうという課題が生じる。
【0061】
そこで、本実施の形態では、人の温冷感をより高精度に推定するために、放熱量推定部137は、風の影響があってもより高精度に人体放熱量を推定する。つまり、放熱量推定部137は、対流熱伝達率算出部136により算出された対流熱伝達率と、対象空間60内の人50以外の領域の温度である周囲温度と、温度算出部130により算出された人50の表面温度とを用いて人50の人体放熱量を推定する。なお、本実施の形態では、放熱量推定部137は、人50に到達する風の温度(風温)と対象空間60の周囲温度(室温)とは同じであるとして、人50の人体放熱量を推定してもよい。
【0062】
温冷感推定部138は、熱画像取得部11から得られた熱画像および空気調和機10に設定されたパラメータであって空気調和機10から出射する風の風向、風速および風温の内少なくともひとつを規定するパラメータに基づいて、人50の温冷感を推定する。より具体的には、温冷感推定部138は、熱画像取得部11から得られた熱画像および風速推定部135により推定された風速に基づいて、人50の温冷感を推定する。
【0063】
本実施の形態では、温冷感推定部138は、放熱量推定部137により推定された人50の人体放熱量に基づいて人50の温冷感を推定する。温冷感推定部138は、例えば人体放熱量が大きい程人は寒く感じるといった人体放熱量と温冷感との関係を示す情報を保持している。また、温冷感推定部138は、人体放熱量と温冷感との関係を示す情報における、人が暑いとも寒いとも感じない閾値を予め保持している。これにより、温冷感推定部138は、放熱量推定部137により推定された人50の人体放熱量と、人体放熱量と温冷感との関係を示す情報とを用いて人50の温冷感を推定することができる。例えば、閾値よりも放熱量が多い場合には、放熱量の程度に応じて涼しくもしくは寒く感じることになり、放熱量が多いほど寒く感じることになる。逆に、閾値よりも放熱量が少ない場合には、放熱量の程度に応じて暖かくもしくは暑く感じることになり、放熱量が少ないほど暑く感じることになる。
【0064】
なお、閾値からのずれ量に応じて、温冷感を段階別に示してもよい。
【0065】
また、閾値は、人に応じて変更してもよい。この閾値は、摂取する食事量(摂取カロリー)と人の表面積から推定することができる。人の表面積は人の身長と体重から推定することができるため、ユーザーが摂取カロリーと、身長と体重を温冷感推定部138に入力することで、温冷感推定部138内でこの閾値を個別に計算して設定し、温冷感を判定しても構わない。こうすることで、個人差にも対応した精度の高い温冷感推定が可能になる。また、人種によっても摂取する食事量(摂取カロリー)は異なってくるが、上記の様に摂取カロリーと身長、体重を入力することで、人種差にも応じた温冷感の推定が可能になる。また、年齢に応じて代謝量は異なることが知られている。子供の時に代謝量は多く、年齢を重ねることに代謝量は低下する傾向にあるため、子供の方が単位面積当たりの放熱量は多く、年齢を重ねるほど放熱量は低下する。そこで、年齢に応じた閾値のテーブルを温冷感推定部138内に所持しておき、ユーザーが年齢を入力することで、年齢に応じて閾値を変更して温冷感を判断しても構わない。こうすることで、年齢差にも対応した、精度の高い温冷感推定が可能になる。
【0066】
さらには、人のみならず、動物にも応用が可能である。すなわち、上で述べた通り摂取カロリーと動物の表面積から放熱量の閾値を求めることができるため、例えば鶏の場合、鶏の1日の摂取カロリーを予めもとめておき、摂取カロリーと鶏の体表面積から、閾値を計算から求めることが可能になる。人と同様に放熱量推定部137で計算した鶏の放熱量に対してその閾値で判定することで、人のみならず動物の温冷感も求めることが可能になる。
【0067】
[空気調和機の動作]
次に、以上のように構成された空気調和機10の動作の概要について説明する。
【0068】
図8は、実施の形態1における空気調和機の動作の概要を示すフローチャートである。
図9は、実施の形態1における空気調和機の温冷感推定処理の概要を示すフローチャートである。
【0069】
まず、空気調和機10は、温冷感を推定する(S11)。具体的には、
図9に示すように、空気調和機10の備える演算部13は、対象空間60内の温度分布を示す熱画像を用いて、対象空間60内の人50の表面温度を算出する(S111)。次いで、演算部13は、対象空間60内の風速を推定する(S112)。次いで、演算部13は、S112において推定された風速に基づいて人50の対流熱伝達率を算出する(S113)。次いで、演算部13は、S113において算出された対流熱伝達率と、対象空間60内の人50以外の領域の温度である周囲温度と、S111において算出された人50の表面温度とを用いて人50の人体放熱量を推定する(S114)。次いで、演算部13は、S114において推定された人50の人体放熱量に基づいて人50の温冷感を推定する(S115)。詳細な説明は上述したので省略する。なお、S112の処理はS113の処理より前であれば、S111の処理の前でも後ろでも構わない。
【0070】
次に、空気調和機10は、空調制御する(S13)。具体的には、空気調和機10の制御部14は、推定した当該人の温冷感に基づいて、ルーバ、コンプレッサ、ファンなどを制御することで、当該人にとって快適な環境温度となるように対象空間の空調制御を行う。なお、詳細な説明は上述したので省略する。
【0071】
[実施の形態1の効果等]
以上のように、実施の形態1の空気調和機10は、空気調和機10に設定された送風パラメータから対象空間の風速を推定し、予め算出した風速と対流熱伝達率との関係の情報を用いることにより、風の影響を考慮したより高精度な人体放熱量を推定する。これにより、空気調和機10は、人の温冷感をより高精度に推定することができるので、高精度に推定した人の温冷感に基づいて、当該人にとってより快適な環境温度となるように対象空間の空調制御を行うことができる。
【0072】
なお、実施の形態1では、空気調和機10により送風された風が常に人50にあたっているとして、風の影響を考慮した人50の人体放熱量を推定し、人50の温冷感を推定したが、これに限らない。
【0073】
例えばルーバの向きを検出して空気調和機10から出射する風向を推定し、さらに熱画像から得た人の位置から、空気調和機10から出射した風が人にあたっているかどうかを判断し、その判断結果に基づき対流熱伝達率を選択し、温冷感を推定しても構わない。
【0074】
例えば、空気調和機10により送風された風が人50にあたっている時間とあたっていない時間がある場合には、ルーバの向きを検出して空気調和機10から出射する風向を推定し、当該風が人50にあたってない時間(タイミング)において、無風状態の対流熱伝達率を用いて人50の人体放熱量を推定し、人50の温冷感を推定するとしてもよい。
【0075】
また、例えば、空気調和機10による風の風向や空気調和機10によるルーバの走査時間に基づいて、人50に当該風があたっている時間を算出するとしてもよい。そして、当該風が人50にあたっている時間の対流熱伝達率と人50にあたっていない時間の対流熱伝達率を重み付けして人50の人体放熱量を推定し、人50の温冷感を推定するとしてもよい。風があたっている時の放熱量と風が当たっていない時の放熱量を別々に求め、それぞれの時間を重み付けして平均化することで人50の人体放熱量を推定しても構わない。
【0076】
なお、人50に当該風があたっている時間は、ルーバの走査時間に限らず、熱画像取得部11が取得した熱画像における人50の領域の温度変動量から推定しても構わない。また、空気調和機10は、熱画像取得部11が取得した熱画像を用いて、当該風が人50にあたった後の表面温度の変動時定数から、人50の着衣量を推定するとしてもよい。例えば、夏場に風があたった後により速く温度が上昇すると着衣量は少なく、冬場に風があたった後により速く温度が低下すると、着衣量は多いと推定する等が考えられる。ここから求めた着衣量を元に人の温冷感を推定しても構わないし、この様にして求めた着衣量を元に、PMV(Predicted Mean Vote)等から人の温冷感を推定しても構わない。
【0077】
(変形例1)
実施の形態1では、空気調和機10に設定された送風パラメータから対象空間60の風速を推定した場合の例について説明したがそれに限らない。本変形例では、熱画像から推定した人50の位置と、空気調和機10に設定された送風パラメータから対象空間60の人50の周囲の風速を推定する場合について説明する。
【0078】
[演算部の構成]
図10は、実施の形態1の変形例1における演算部の構成の一例を示す図である。
図11は、実施の形態1の変形例1における人位置推定部が人の位置を推定する方法を説明するための図である。
図12は、実施の形態1の変形例1における記憶部が記憶する距離と風速との関係を示す情報の一例を示す図である。なお、
図3および
図5と同様の要素には同一の符号を付しており、詳細な説明は省略する。
【0079】
図10に示す演算部13Aは、
図5に示す演算部13と比較して、人位置推定部133の構成が追加され、風速推定部135Aおよび記憶部134Aの構成が異なる。
【0080】
人位置推定部133は、熱画像取得部11が取得した熱画像と、熱画像取得部11の対象空間60内の位置とに基づいて、空気調和機10を基準とした人50の位置を推定する。
【0081】
例えば、人位置推定部133は、熱画像取得部11が取得した熱画像における人の足の位置と、熱画像取得部11の対象空間60内の床61からの高さと、熱画像取得部11の有効視野角(画角)とを用いて、人50の位置を推定することができる。
【0082】
ここで、本変形例の空気調和機10は、例えば
図11に示すように床61から所定高さで壁62に設置される。そのため、空気調和機10の前面に取り付けられた熱画像取得部11の床61からの高さ(h1)は、空気調和機10が設置される高さから算出することができる。なお、空気調和機10が設置される際に、熱画像取得部11の高さ(h1)が人位置推定部133等のメモリに予め入力されていてもよい。また、熱画像取得部11の上下方向の有効視野角(画角)すなわちFOV(Field of View)は設計値であり既知である。そのためFOVは人位置推定部133等のメモリに予め入力されていてもよい。したがって、人位置推定部133は、熱画像取得部11が取得した熱画像における人の足の位置や頭の位置を特定することにより、熱画像取得部11の床61からの高さ(h1)と熱画像取得部11のFOVとから、空気調和機10を基準とした人50の位置(距離L1)を推定することができる。
【0083】
記憶部134Aは、上述した風速と対流熱伝達率との関係を示す情報に加えて、例えば
図12に示すような距離と風速との関係を示す情報を記憶する。
図12に示すように、ある一点で一定の風速(図で初速1)で送出された風の風速は、距離が大きくなるほど、減速する傾向がある。
【0084】
風速推定部135Aは、人位置推定部133により推定された人50の位置と空気調和機10に設定された送風パラメータとに基づき、対象空間60内の人50の周囲の風速を推定する。本実施の形態では、風速推定部135Aは、記憶部134Aに記憶されている風速と距離との関係を示す情報を参照して、空気調和機10に設定された送風パラメータが示す空気調和機10の吹出口の風速を初速度の風速として、人位置推定部133により推定された人50の位置(距離L1)から対象空間60内の人50の周囲の風速(図で風速V1)を推定することができる。
【0085】
なお、対流熱伝達率算出部136は、風速推定部135Aにより推定された人50の周囲の風速に基づいて人50の対流熱伝達率を算出する。対流熱伝達率算出部136の対流熱伝達率の算出方法は上述した通りであるのでここでの説明は省略する。
【0086】
[変形例1の効果等]
以上のように、本変形例の空気調和機10は、予め算出した風速と距離との関係の情報を用いることにより、熱画像から推定した人50の位置と、当該空気調和機に設定された送風パラメータとから対象空間の人の周囲の風速を推定することができる。これにより、本変形例の空気調和機は、人の周囲の風の影響を考慮したより高精度な人体放熱量を推定することができ、人の温冷感をより高精度に推定することができる。
【0087】
それにより、本変形例の空気調和機は、高精度に推定した人の温冷感に基づいて、当該人にとってより快適な環境温度となるように対象空間の空調制御を行うことができる。
【0088】
なお、本変形例では、人位置推定部133は、熱画像取得部11が取得した熱画像に基づいて、人50の位置を推定するとしたが、それに限らない。例えば、本変形例の空気調和機10がさらに可視カメラを有しており、人50の位置を当該可視カメラから得るとしてもよい。また、本変形例の空気調和機10がさらにステレオカメラやミリ波レーダ等を有し、当該ステレオカメラで人50の位置を直接測定して得てもよい。
【0089】
(変形例2)
実施の形態1では、人50の周囲の風の温度(風温)が対象空間60の温度(室温)と同じであるとして、風の影響を考慮した人体放熱量を推定する空気調和機10について説明した。本変形例では、空気調和機から送風される風温と、室温とが異なる場合に風の影響を考慮した人体放熱量を推定する方法について説明する。
【0090】
[演算部の構成]
図13は、実施の形態1の変形例2における演算部の構成の一例を示す図である。
図14および
図15は、実施の形態1の変形例2における記憶部が記憶する距離と風温との関係を示す情報の一例を示す図である。
図16は、実施の形態1の変形例2における記憶部が記憶する距離と風温との関係を示す情報の別の一例を示す図である。なお、
図5および
図10と同様の要素には同一の符号を付しており、詳細な説明は省略する。
【0091】
図13に示す演算部13Bは、
図5に示す演算部13と比較して、人位置推定部133と風温推定部139の構成が追加され、温度算出部130B、記憶部134Aおよび放熱量推定部137Bの構成が異なる。ここで、温度算出部130Bは、
図5に示す温度算出部130と比較して、人周囲温度算出部132の構成がない。その他については上述した通りであるのでここでの説明は省略する。
【0092】
人位置推定部133は、変形例1で説明したように、熱画像取得部11が取得した熱画像と熱画像取得部11の対象空間60内の位置とに基づいて、空気調和機10を基準とした人50の位置を推定する。例えば人位置推定部133は、熱画像取得部11が取得した熱画像における人の足の位置と、熱画像取得部11の対象空間60内の床61からの高さと、熱画像取得部11の有効視野角(画角)とを用いて、人50の位置を推定する。人位置推定部133の人50の位置を推定する方法は上述した通りであるのでここでの説明は省略する。
【0093】
記憶部134Bは、上述した風速と対流熱伝達率との関係を示す情報に加えて、例えば
図14および
図15に示すような距離と風温との関係を示す情報を記憶する。ここで、
図14は例えば夏場の例を示しており、送出される風の風温(20℃)が室温(25℃)よりも低いときの関係を示している。また、
図15は例えば冬場の例を示しており、送出される風の風温(23℃)が室温(18℃)よりも高いときの関係を示している。
図14に示すように、夏場などでは、一定の風温(25℃)で送出された風の風温は、距離が大きくなるほど、高くなる傾向がある。一方、
図15に示すように、冬場などでは、一定の風温(25℃)で送出された風の風温は、距離が大きくなるほど、低くなる傾向がある。
【0094】
風温推定部139は、人位置推定部133により推定された人50の位置と空気調和機10吹出口の送風温度とに基づいて、対象空間60内の人50の周囲の風温を推定する。より具体的には、風温推定部139は、人位置推定部133により推定された人50の位置と、空気調和機10に設定された送風温度パラメータであって空調制御を行うために対象空間60に送風する空気調和機10の拭き出し口の送風温度を規定する送風温度パラメータとに基づき、人50の周囲の風温を推定する。
【0095】
本実施の形態では、風温推定部139は、記憶部134Bに記憶されている風温と距離との関係を示す情報(例えば
図14または
図15)を参照して、空気調和機10に設定された送風温度パラメータを吹出口の送風温度として、人位置推定部133により推定された人50の位置(距離L1)から対象空間60内の人50の周囲の風温を推定することができる。
【0096】
なお、風温推定部139は、
図14または
図15に示すような記憶部134Bに記憶されている風温と距離との関係を示す情報を用いたがそれに限らない。例えば、風温推定部139は、
図14の代わりに例えば
図16に示すような風速に依存した風温と距離との関係を示す情報を用いて、対象空間60内の人50の周囲の風温を推定するとしてもよい。吹出口の風速(初速)が遅いほど、室温の影響を受けやすいからである。また、風温推定部139は、送風温度パラメータから空気調和機10の吹出口の送風温度を得る場合に限らない。空気吸込口等に配置された温度センサ12が測定した温度を吹出口の送風温度として用いてもよい。空気調和機10では、空気吸込口から吸い込んだ空気を吹出口から送風するため、空気吸込口から吸い込んだ空気の温度が吹出口から送風する風温に相当するともいえるからである。
【0097】
放熱量推定部137Bは、周囲温度として、風温推定部139により推定された人50の周囲の風温を用いて人50の人体放熱量を推定する。本実施の形態では、人50に到達する風の温度(風温)は、対象空間60の周囲温度(室温)と異なる。そのため、放熱量推定部137Bは、上記の式3において、周囲温度Taとして人50に到達する風の温度(風温)、すなわち、風温推定部139により推定された風温を用いる。また、放熱量推定部137Bは、上記の式2において、壁面温度Trが対象空間60の周囲温度(室温)と同じであるとして、壁面温度Trに温度センサ12が測定した温度を用いる。
【0098】
なお、その他の構成については上述した通りであるのでここでの説明は省略する。
【0099】
このようにして、本変形例の空気調和機では、熱画像から推定した人50の位置と、空気調和機10に設定された送風パラメータから人50にあたっている風の温度である風温(対象空間60の人50の周囲の風温)を推定し、人体放熱量を推定する。
【0100】
[変形例2の効果等]
以上のように、本変形例の空気調和機10は、予め算出した風速と距離との関係の情報および予め算出した風温と距離との関係の情報を用いることにより、熱画像から推定した人50の位置と、当該空気調和機に設定された送風パラメータから対象空間の人の周囲の風速および風温と、を推定することができる。これにより、本変形例の空気調和機10は、人の周囲の風の影響を考慮したより高精度な人体放熱量を推定することができ、人の温冷感をより高精度に推定することができる。
【0101】
したがって、本変形例の空気調和機10は、高精度に推定した人の温冷感に基づいて、当該人にとってより快適な環境温度となるように対象空間の空調制御を行うことができる。
【0102】
なお、本変形例では、空気調和機10により送風された風が常に人50にあたっているとして、風の影響を考慮した人50の人体放熱量を推定し、人50の温冷感を推定したが、これに限らない。例えば、空気調和機10により送風された風が人50にあたっている時間とあたっていない時間がある場合には、これらを考慮して人体放熱量を推定するとしてもよい。
【0103】
例えば、空気調和機10により送風された風が人50にあたっている時間とあたっていない時間がある場合には、人50の周囲の風温は、例えば
図17に示すように変動する。
図17は、実施の形態1の変形例2における人50の周囲の風温と時間との関係の一例を示す図である。ここで、
図17には、空気調和機10により制御されたルーバが一定周期で風向きを変えている場合の風温と時間との関係が示されている。
図17において、時間T1は空気調和機10により送風された風が人50にあたっていない時間に対応し、時間T2は空気調和機10により送風された風が人50にあたっている時間に対応している。
【0104】
この場合、風温推定部139は、空気調和機10によるルーバの走査時間に基づいて、空気調和機10により送風された風が人50にあたっていない時間T1と、当該風があたっている時間T2とを推定してもよい。そして、風温推定部139は、当該風があたっている時間T2の対流熱伝達率および風温、並びに当該風があたっていない時間T1の対流熱伝達率および風温を重み付けして、人50の人体放熱量を推定し、温冷感を推定するとしてもよい。
【0105】
(変形例3)
実施の形態1では、空気調和機10に設定された送風パラメータから対象空間60の風速を推定した場合の例について説明したがそれに限らない。変形例3では、空気調和機10から送出される風速を変動させることで、その時の人50の表面温度の変動量から、対象空間60の人50の周囲の風速を推定する場合について説明する。以下では、説明を簡単にするため、人50の周囲の風の温度(風温)が対象空間60の温度(室温)と同じであるとして説明する。
【0106】
[演算部の構成]
図18は、実施の形態1の変形例3における演算部の構成の一例を示す図である。
図19Aおよび
図19Bは、実施の形態1の変形例3における人の熱画像の一例を示す図である。
図20は、実施の形態1の変形例3における記憶部が記憶する人の表面温度差と風速差との関係を示す情報の一例を示す図である。なお、
図5と同様の要素には同一の符号を付しており、詳細な説明は省略する。
【0107】
図18に示す演算部13Cは、
図5に示す演算部13と比較して、温度算出部130C、記憶部134Cおよび風速推定部135Cの構成が異なる。
【0108】
温度算出部130Cは、人領域温度算出部131Cと人周囲温度算出部132とを備える。
【0109】
人領域温度算出部131Cは、空気調和機10の吹出口の風速が変動される場合、吹出口の風速の変動前の熱画像と吹出口の風速の変動後の熱画像とを用いて、変動前の人50の表面温度と変動後の人50の表面温度を算出する。なお、空気調和機10の吹出口の風速は、空気調和機10の送風パラメータを設定することで変動させることができる。
【0110】
具体的には、人領域温度算出部131Cは、例えば
図19Aに示すように空気調和機10の吹出口の風速が1m/sのときに熱画像取得部11が取得した熱画像を用いて、風速が1m/sのときの(変動前)の人50の表面温度を算出する。そして、人領域温度算出部131Cは、
図19Bに示すように空気調和機10の吹出口の風速が2m/sのときに熱画像取得部11が取得した熱画像を用いて、風速が2m/sのときの(変動後)の人50の表面温度を算出する。このようにして、人領域温度算出部131Cは、空気調和機10の吹出口の風速の変動前後の人50の表面温度を算出することができる。
【0111】
なお、吹出口の風速の変動例は、これら場合に限らない。例えば、吹出口の所定の風速をゼロに規定し、その後所定の風速に規定するように空気調和機10の送風パラメータを設定することで、吹出口の風速を変動させるとしてもよい。後述する記憶部が記憶する人の表面温度差と風速差との関係を示す情報を用いることができれば変動前後の吹出口の風速はいずれの値でもよい。
【0112】
記憶部134Cは、上述した風速と対流熱伝達率との関係を示す情報に加えて、例えば
図20に示すような人の表面温度差と風速差との関係を示す情報を記憶する。
図20に示す関係は、予め算出されたものである。
図20には、人の表面温度差が大きい程、空気調和機10の吹出口の送風パラメータによる風速差と近くなる傾向が示されている。
【0113】
風速推定部135Cは、空気調和機10の吹出口の風速の変動前の人50の表面温度と空気調和機10の吹出口の風速の変動後の人50の表面温度とに基づいて、対象空間60内の人50の周囲の風速を推定する。
【0114】
本実施の形態では、風速推定部135Cは、記憶部134Cに記憶されている表面温度差と風速差との関係を示す情報(例えば
図20)を参照して、人領域温度算出部131Cにより算出された、空気調和機10の吹出口の風速の変動前後の人50の表面温度から対象空間60内の人50の周囲の風速を推定する。
【0115】
なお、記憶部134Cは、
図20以外の表面温度差と風速差との関係を示す情報を記憶しているとしてもよい。この場合には、風速推定部135Cは、空気調和機10に設定された送風パラメータであって空調制御を行うために対象空間60に送風する空気調和機10の吹出口の風速を規定する送風パラメータに基づき、記憶部134Cに記憶されている表面温度差と風速差との関係を示す情報のうち送風パラメータが規定する吹出口の風速の変動前後の差に対応する情報を選択し、参照するとしてもよい。
【0116】
なお、その他の構成については上述した通りであるのでここでの説明は省略する。
【0117】
このように、本変形例の空気調和機では、空気調和機10から送出される風速を変動させることで、その時の人50の表面温度の変動量から、対象空間60の人50の周囲の風速を推定し、人体放熱量を推定する。
【0118】
[変形例3の効果等]
以上のように、本変形例の空気調和機は予め算出した人の表面温度差と風速差の関係の情報を用いることにより、空気調和機10から送出される風速を変動させた時の人50の表面温度の変動量から、対象空間60の人50の周囲の風速を推定することができる。これにより、本変形例の空気調和機は、人の周囲の風の影響を考慮したより高精度な人体放熱量を推定することができ、人の温冷感をより高精度に推定することができる。
【0119】
したがって、本変形例の空気調和機は、高精度に推定した人の温冷感に基づいて、当該人にとってより快適な環境温度となるように対象空間の空調制御を行うことができる。
【0120】
なお、記憶部134Cは、
図21に示すような人の着衣量における温度差と風速差との関係を示す情報を記憶するとしてもよい。
図21は、実施の形態1の変形例3における記憶部が記憶する人の表面温度差と風速差との関係を示す情報の別の一例を示す図である。
【0121】
この場合、人領域温度算出部131Cは、さらに、熱画像取得部11が取得した熱画像を用いて人50の着衣量を標準より多いか少ないかを算出するとしてもよい。また、風速推定部135Cは、記憶部134Cに記憶されている人の着衣量における表面温度差と風速差との関係を示す情報(例えば
図21)を参照してもよい。
【0122】
これにより、風速推定部135Cは、
図21に示す当該情報を参照して、人領域温度算出部131Cにより算出された、空気調和機10の吹出口の風速の変動前後の人50の表面温度および人50の着衣量に基づいて、人50の周囲の風速を推定することができる。
【0123】
(変形例4)
実施の形態1および変形例1〜3では、空気調和機10に設定された送風パラメータや熱画像取得部11が取得した熱画像に基づいて、風速推定部135等が風速を推定した場合の例について説明したがそれに限らない。空気調和機10の外部にある装置から取得した情報に基づいて風速を推定するとしてもよい。
【0124】
図22Aは、実施の形態1の変形例4における空気調和機に接続される通信機器の一例を示す図である。
図22Bは、実施の形態1の変形例4における扇風機の一例を示す図である。
【0125】
図22Aに示す空気調和機10Dは、
図5に示す空気調和機10と比較して、通信機器15と接続されており、風速推定部(不図示)の機能が異なる。
【0126】
通信機器15は、
図22Bに示すような扇風機20と無線接続して情報のやり取りを行う。より具体的には、通信機器15は、扇風機20の情報として、例えば扇風機20の風力および風向を取得して空気調和機10Dに送信する。
【0127】
扇風機20は、通信部(不図示)とLED部201とを備える。扇風機20の通信部は、通信機器15と無線接続することができ、風力および風向など扇風機20の情報を通信機器15に送信する。LED部201は、例えば扇風機20の通信部が通信機器15に情報を送信する際に点灯するとしてもよい。
【0128】
空気調和機10Dの風速推定部では、通信機器15により送信された扇風機20の風力に基づいて、対象空間60内の風速を推定する。
【0129】
なお、空気調和機10Dは、変形例1で説明した人位置推定部133をさらに備えているとしてもよい。この場合、空気調和機10Dの熱画像取得部11が扇風機20のLED部201の点灯時の熱画像を取得することで演算部が扇風機20の位置を推定することができる。これにより、空気調和機10Dの風速推定部は、人位置推定部133が推定した扇風機20の位置と、通信機器15により送信された扇風機20の風力および風向きと、人位置推定部133が推定した人50の位置とに基づいて、対象空間60内の人50の周囲の風速を推定することができる。
【0130】
また、空気調和機10Dの外部にある装置から取得した情報に基づいて風速を推定する例としては上記の例に限らない。
【0131】
例えば、通信機器15は、空気調和機10Dの外部に設置されたレーザースペックル流量計と無線接続されるとしてもよい。この場合、空気調和機10Dの風速推定部は、レーザースペックル流量計が計測した風速を、対象空間60内の人50の周囲の風速と推定すればよい。
【0132】
また、例えば、通信機器15は、空気調和機10Dを操作可能なリモコンまたはスマホであって風力計を備えたリモコンまたはスマホと無線接続されるとしてもよい。この場合、空気調和機10Dの風速推定部は、通信機器15により送信されたリモコンまたはスマホの風力計の計測値を、対象空間60内の人50の周囲の風速と推定すればよい。リモコンまたはスマホは、人50が手に持って操作すると考えられ、リモコンまたはスマホの風力計は、人50の周囲の風力を計測していると言えるからである。
【0133】
また、本実施の形態においては、一例として室内の空気調和機を用いて説明したが、これに限定するものではなく、空気調和する場所であればその使用場所を限定するものではなく、例えば車載空調や工場内でのスポット空調等で用いても構わない。車載空調や工場内でのスポット空調では、人に風を直接あてることが前提であって、従来は温冷感を推定できずに風向は人が手動で制御していた。それに対して本実施の形態の空気調和機によれば、風があたった状態でも温冷感を正確に推定できるため、自動で風向を制御することができる。それによりユーザーは、手動により風向を制御する必要がなくなるため、自動車の運転や工場の作業に集中できる。
【0134】
(実施の形態2)
実施の形態1では、人体は受熱せず放熱のみを行うとして人体放熱量を推定する場合について説明した。実施の形態2では、日射などにより人体が受熱することを考慮した人体放熱量を推定する場合の例について説明する。実施の形態2における空気調和機10E(不図示)は、実施の形態1の空気調和機10と比較して演算部の構成が異なるので、以下では演算部の構成について説明する。
【0135】
[演算部の構成]
図23は、実施の形態2における空気調和機の演算部の構成の一例を示す図である。
図24は、実施の形態2における受熱量算出部の構成の一例を示す図である。なお、
図5と同様の要素には同一の符号を付しており、詳細な説明は省略する。
【0136】
図23に示す演算部13Eは、
図5に示す演算部13と比較して、受熱量算出部233の構成が追加され、放熱量推定部137Eの構成が異なる。
【0137】
受熱量算出部233は、例えば
図24に示すように、日射面積算出部2331と、日射光量推定部2332と、受熱量計算部2333とを備え、人が受ける熱量である受熱量を算出する。なお、本実施の形態では、人が受ける熱量である受熱量は日射による人の受熱量であるとして説明する。日射による人の受熱量は、以下の式5で表すことができる。
【0138】
(日射による受熱量)∝(日射光量)×(着衣吸収率)×(日射面積) (式5)
【0139】
日射面積算出部2331は、人に日射される部分の面積(日射面積)を算出する。日射光量推定部2332は、人に対する日射光量を推定する。受熱量計算部2333は、日射光量推定部2332で推定された日射光量と日射面積算出部2331で算出された面積と、人の着衣吸収率とを用いて受熱量を算出する。
【0140】
ここで、
図25および
図26を用いて、人50Aが受ける熱量である受熱量の算出方法の一例について説明する。
図25は、実施の形態2における人が受熱する様子の一例を示す図である。
図26は、実施の形態2における日射センサが取り付けられる位置の一例を示す図である。
図25では、人50Aが車などの車両の座席40に座っており、フロントガラスなどの窓から領域30に日光が当たっている様子が示されている。また、
図25に示す場面では、実施の形態2における空気調和機10Eは、車両の空調機に搭載されており、
図26に示す日射センサ31と有線または無線で接続されている。
【0141】
日射センサ31は、例えば
図26に示すように車両のドアのウインドガラス下すなわちドアトリムの上辺部(上縁部)に配置され、日射量を検知する。これにより、空気調和機10Eは、日射センサ31が検知した日射量を取得することができる。
【0142】
日射光量推定部2332は、日射センサ31により取得した日射量に基づいて、人に対する日射光量を推定する。
図25に示す場合では、日射光量推定部2332は、日射センサ31により取得した日射量を人50Aに対する日射光量として推定する。日射面積算出部2331は、人に日射される部分の面積(日射面積)として、領域30の面積を算出する。ここで、日射面積算出部2331は、熱画像取得部11から取得した人50Aを含む熱画像に基づいて領域30の面積を算出するとしてもよい。この場合、日射面積算出部2331は、人50Aを含む熱画像において、人50Aと認識される領域のうち人50Aの表面温度よりも高くなっている部分を領域30として領域30の面積を算出することができる。なお、日射面積算出部2331は、当該車両のバックミラー等に搭載されている可視カメラが取得した画像に基づいて、その輝度等から領域30の面積を算出するとしてもよい。
【0143】
また、受熱量計算部2333は、当該車両のバックミラー等に搭載されている可視カメラが取得した画像のRGB値に基づいて、人50Aの着衣反射率を推定することができる。ここで、人50Aの着衣吸収率=(1−人50Aの着衣反射率)の関係があるので、受熱量計算部2333は、人50Aの着衣吸収率を計算することができる。なお、受熱量計算部2333は、当該車両の車内灯点灯時に可視カメラが取得した画像のRGB値に基づいて、人50Aの着衣反射率を推定するとしてもよい。当該車両の車内灯点灯の発光スペクトルは予め分かるので、より正確に着衣反射率がわかるという効果を奏するからである。
【0144】
また、受熱量計算部2333は、着衣反射率を例えば50%として計算するとしてもよい。着衣反射率は、着衣の色にも依存するものの通常40%〜60%の範囲内と計算されるため、50%として計算しても大きな誤差は生じないからである。もちろん50%前後であれば、どのあたりに設定しても構わない。
【0145】
このようにして、受熱量計算部2333は、日射光量推定部2332で推定された日射光量と日射面積算出部2331で算出された領域30の面積と、推定した人50Aの着衣吸収率とを用いて人50Aの受熱量を算出することができる。
【0146】
放熱量推定部137Eは、対流熱伝達率算出部136により算出された対流熱伝達率と、対象空間60内の人50A以外の領域の温度である周囲温度と、温度算出部130により算出された人50Aの表面温度と、受熱量算出部233により推定された受熱量とを用いて人50Aの人体放熱量を推定する。
【0147】
ここで、人体が受熱することを考慮した人体放熱量の推定方法について説明する。
【0148】
当該人体放熱量は、人の受熱量αを用いて以下の式6で表すことができる。
【0149】
H´[W/m
2]=R+C+K+Esk+Eres+Cres−α (式6)
【0150】
なお、Hは人体放熱量を示す。Rは人体からの放射、Cは対流(人体から空気への熱伝達)、Kは伝導、Eskは人体の皮膚からの水分蒸発、Eresは人体の呼気の水分蒸発、Cresは呼気の対流を示す。また、hrは放射熱伝達率、hcは対流熱伝達率、Tclは人体の表面温度、Trは壁面温度、Taは周囲温度を示す。
【0151】
つまり、人体が受熱することを考慮した人体放熱量H´は、実施の形態1の人体放熱量Hから人の受熱量αを引くことにより算出できる。
【0152】
したがって、放熱量推定部137Eは、受熱量算出部233により推定された受熱量を用いることで、実施の形態1と同様の方法により人50Aの人体放熱量を推定することができる。
【0153】
[実施の形態2の効果等]
以上のように、実施の形態2の空気調和機10Eでは、さらに日射などによる受熱量を推定することで、日射による受熱の影響も踏まえた人体放熱量を推定することができる。これにより、空気調和機10Eは、人が日射下にいる場合でも人の温冷感をより高精度に推定することができるので、高精度に推定した人の温冷感に基づいて、当該人にとってより快適な環境温度となるように対象空間の空調制御を行うことができる。
【0154】
なお、実施の形態2では、空気調和機10Eは車に搭載される場合の例を説明したがそれに限らない。日射などで人体が受熱する可能性のある部屋の空調機器に搭載してもよいし、電車などの空調機器に搭載されるとしてもよい。
【0155】
また、日射センサは、
図26に示すドアトリムの上辺部(上縁部)に配置される場合に限られない。例えば、
図27に示すように座席40の人50Aが隠さない位置であれば日射センサを配置してもよい。
図27は、実施の形態2における日射センサが取り付けられる位置の別の一例を示す図である。
【0156】
図27に示すように、日射センサ32は、座席40の上端部すなわち人50Aが座った場合の人50Aの肩よりも高い位置に配置することで、日射センサ32を座席40の人50Aが隠さない位置に配置することができる。これにより、日射センサ32は、人50Aのより近い位置に配置されるので、人50Aが受ける日射量により近い日射量を検知することができる。
【0157】
なお、日射センサを配置する位置は上記の例に限らない。日射センサを座席40の人50Aが隠さない位置として、座席40のシートベルト(不図示)のフロントガラス側の面に配置するとしてもよい。これにより、日射センサ32は、人50Aのより近い位置に配置されるので、人50Aが受ける日射量により近い日射量を検知することができる。
【0158】
また、座席40の人50Aが接触する領域に1または複数の温度センサを設け、それぞれが検知した温度を放熱量推定部137Eに送信するとしてもよい。人50Aが座席40に着席することで、人50Aが接触する領域が実施の形態1の足裏の部位と比較して大きくなり(式6)の伝導Kによる放熱量の影響が大きくなるからである。これにより、放熱量推定部137E人50Aが着席中の人50Aが接触する領域の温度変動や着座後の時間から当該接触する領域への伝導による放熱量を推定することができる。つまり、日射による受熱の影響に加えても人50Aが接触する領域から伝導Kによる放熱量を踏まえてより正確に推定することができる。
【0159】
(変形例1)
図28は、実施の形態2の変形例1における空気調和機10Eが推定する車両の窓の開度の一例を示す図である。
【0160】
例えば
図28に示すように車両の窓33が開いた状態で車両が走行している場合、人50Aの人体放熱量は、空気調和機10Eからの送風に加えて、開いた窓33からの風34の影響も受ける。この場合、演算部13Eは、さらに、熱画像取得部11が取得した熱画像から、車両の窓33の開度を推定すればよい。そして、演算部13Eは、例えば車両の運転速度から人50Aの周囲の風速を推定し、推定した窓33の開度から人50Aに当たっている風の面積を推定するとしてもよい。
【0161】
このように、本変形例によれば、空気調和機10Eは、車両の窓33の開度により人50Aに当たる風速と面積とを踏まえて人体放熱量を推定することができる。これにより、空気調和機10Eは、車両の窓33が開いた状態で車両が走行している場合でも人の温冷感をより高精度に推定することができるので、高精度に推定した人の温冷感に基づいて、人50Aにとってより快適な環境温度となるように対象空間の空調制御を行うことができる。
【0162】
なお、空気調和機10Eは、推定した人50Aの温冷感に基づいて、ルーバ等の制御をする代わりに、自動で窓33を開閉することで対象空間の空調制御を行うとしてもよい。
【0163】
これにより、窓33の開度を踏まえて、対象空間の空調制御を行うことだけでなく、自然の風も取り込むことで、空気調和機10E等の省エネにもなり、さらに車両内の酸素濃度低下も抑制でき、眠気を防止できる効果を奏する。
【0164】
(変形例2)
図29は、実施の形態2の変形例2におけるサーモカメラ35が設置される位置の一例を示す図である。
【0165】
例えば
図29に示すようにサーモカメラ35を車両の助手席側(人50Aの座席40と反対側の座席41側)に設置し、人50Aの側面を撮影することで人50Aの側面の熱画像を取得してもよい。ここで、このサーモカメラ35は、熱画像取得部11であってもよいし、熱画像取得部11とは別に設置されるものであってもよい。これにより、狭い車両内であっても画角をかせぐことができるので、人領域温度算出部131は、当該熱画像の人50Aと認識された領域(人領域)の平均温度(平均皮膚温度)をより精度よく算出することができる。
【0166】
このように、本変形例によれば、車両内に設置される空気調和機10Eであっても、周囲温度と平均温度とをより精度よく算出することができるので、より高精度に人体放熱量を推定することができる。これにより、本変形例の空気調和機10Eは、人の温冷感を高精度に推定することができるので、推定した高精度な人の温冷感に基づいて、当該人にとってより快適な環境温度となるように対象空間の空調制御を行うことができる。
【0167】
(変形例3)
図30は、実施の形態2の変形例3における非接触温度センサが設置される位置の一例を示す図である。
【0168】
例えば
図30に示すように、非接触温度センサを車両のダッシュボード付近(例えば位置36)などやハンドルの中央付近(例えば位置37)等に配置し、人50Aの下肢部の皮膚温を測定してもよい。そして、人領域温度算出部131は、非接触温度センサが測定した下肢部の温度を、人50Aの表面温度(平均皮膚温度:Tcl)としてもよい。人の大腿部の温度は、人の平均皮膚温度に近いとされているからである。
【0169】
このように、本変形例によれば、空気調和機10Eは、人50Aの表面温度(平均皮膚温度)を全身の熱画像から算出せず、下肢温度で代用することで、簡易的に人50Aの人体放熱量を推定することができる。これにより、本変形例の空気調和機10Eは、車両内に設置されていても、簡易に高精度で人50Aの温冷感を推定することができる。本変形例の空気調和機10Eは、推定した高精度な人の温冷感に基づいて、人50Aにとってより快適な環境温度となるように対象空間の空調制御を行うことができる。
【0170】
なお、人50Aの下肢部の温度を測定する方法としては、上記の場合に限らない。例えば、座席40の座面に温度計を配置し、人50Aの大腿部裏面の温度を測定してもよい。なお、この場合、人50Aの大腿部裏面は座席40の座面と接触しているので、人50Aの表面温度(平均皮膚温度)よりも高い温度で測定される場合も考えられる。この場合には、温度計が測定した温度から、人50Aの大腿部裏面と座席40の座面と接触による温度上昇分を減じるなどの補正を行えばよい。
【0171】
(変形例4)
図31は、実施の形態2の変形例4における湿度計が設置される位置の一例を示す図である。
【0172】
例えば
図31に示すように、座席40の座面(例えば位置38)に湿度計を設置し、人50Aの発汗度を検出するとしてもよい。
【0173】
これにより、本変形例の空気調和機10Eは、湿度計の検出結果に基づいて、人50Aの湿度の急上昇により発汗を検出することができる。
【0174】
したがって、本変形例の空気調和機10Eは、人50Aの温冷感を推定するのに加えて、湿度計の検出結果に基づいて、人50Aの座席40の座り心地を推定することができる。
【0175】
なお、本実施の形態では例として車載用途を説明したがこれに限定するものではない。例えば列車内や飛行機内、日射屋外の日射環境下でのスポット空調や屋内であっても日射の取り込みの多い部屋への適用等も考えられる。
【0176】
以上、本発明の一つまたは複数の態様に係る空気調和機およびその温冷感推定方法について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の一つまたは複数の態様の範囲内に含まれてもよい。例えば、以下のような場合も本発明に含まれる。
【0177】
(1)上記の実施の形態では、温度センサ、熱画像取得部、演算部および制御部を少なくとも備える空気調和機について説明した。しかし、熱画像取得部、演算部等、空気調和機の構成要素の一部をソフトウェアとして別個の構成とすることも可能である。この場合、当該ソフトウェアを処理する主体は、空気調和機の演算部であってもよいし、PC(パーソナルコンピュータ)やスマートホン等に含まれる演算部であってもよいし、当該空気調和機とネットワークを介して接続されるクラウドサーバ等であってもよい。また、熱画像取得部、演算部など、一部の構成を、空気調和機とは別個の構成としてもよい。すなわち少なくとも上記の実施の形態に記載された熱画像取得部と、演算部とを備えたセンサシステムとしてもよい。
【0178】
(2)上記の各装置は、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM、RAM、ハードディスクユニット、ディスプレイユニット、キーボード、マウスなどから構成されるコンピュータシステムである。前記RAMまたはハードディスクユニットには、コンピュータプログラムが記憶されている。前記マイクロプロセッサが、前記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、各装置は、その機能を達成する。ここでコンピュータプログラムは、所定の機能を達成するために、コンピュータに対する指令を示す命令コードが複数個組み合わされて構成されたものである。
【0179】
(3)上記の各装置を構成する構成要素の一部または全部は、1個のシステムLSI(Large Scale Integration:大規模集積回路)から構成されているとしてもよい。システムLSIは、複数の構成部を1個のチップ上に集積して製造された超多機能LSIであり、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどを含んで構成されるコンピュータシステムである。前記RAMには、コンピュータプログラムが記憶されている。前記マイクロプロセッサが、前記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、システムLSIは、その機能を達成する。
【0180】
(4)上記の各装置を構成する構成要素の一部または全部は、各装置に脱着可能なICカードまたは単体のモジュールから構成されているとしてもよい。前記ICカードまたは前記モジュールは、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどから構成されるコンピュータシステムである。前記ICカードまたは前記モジュールは、上記の超多機能LSIを含むとしてもよい。マイクロプロセッサが、コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、前記ICカードまたは前記モジュールは、その機能を達成する。このICカードまたはこのモジュールは、耐タンパ性を有するとしてもよい。
【0181】
(5)本開示は、上記に示す方法であるとしてもよい。また、これらの方法をコンピュータにより実現するコンピュータプログラムであるとしてもよいし、前記コンピュータプログラムからなるデジタル信号であるとしてもよい。
【0182】
また、本開示は、前記コンピュータプログラムまたは前記デジタル信号をコンピュータで読み取り可能な記録媒体、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROM、MO、DVD、DVD−ROM、DVD−RAM、BD(Blu−ray(登録商標) Disc)、半導体メモリなどに記録したものとしてもよい。また、これらの記録媒体に記録されている前記デジタル信号であるとしてもよい。
【0183】
また、本開示は、前記コンピュータプログラムまたは前記デジタル信号を、電気通信回線、無線または有線通信回線、インターネットを代表とするネットワーク、データ放送等を経由して伝送するものとしてもよい。
【0184】
また、本開示は、マイクロプロセッサとメモリを備えたコンピュータシステムであって、前記メモリは、上記コンピュータプログラムを記憶しており、前記マイクロプロセッサは、前記コンピュータプログラムにしたがって動作するとしてもよい。
【0185】
また、前記プログラムまたは前記デジタル信号を前記記録媒体に記録して移送することにより、または前記プログラムまたは前記デジタル信号を、前記ネットワーク等を経由して移送することにより、独立した他のコンピュータシステムにより実施するとしてもよい。
【0186】
(6)上記実施の形態及び上記変形例をそれぞれ組み合わせるとしてもよい。
【0187】
本開示は、センシング方法、センシングシステムおよびそれらを備える空調機器に利用でき、特に、ペットエアコン、見守りエアコン、健康エアコン等の空調機器に搭載されるセンシング方法、センシングシステムおよびそれらを備える空調機器に利用可能である。