【実施例】
【0046】
以下、実験例に基づいて本技術を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実験例は、本技術の代表的な実験例の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0047】
実験例1:カゼイン及びその他の蛋白質によるペプシン酵素活性に対する作用に関する検討
<原料>
本実験例において、基質として使用したラクトフェリンとしては、ウシを由来とするラクトフェリン(以下、「ラクトフェリン」という)を用いた。
また、実験対象の蛋白質として、カゼインナトリウム (Tatua100, Tatua Japan社製)を用いた。
更に、コントロールであるその他の蛋白質として、分離ホエイ蛋白質(Whey Protein Isolate 895, Fonterra社製)、卵白アルブミン( Albumin from chicken egg white, Sigma Aldrich社製)、大豆蛋白質(プロリーナRD-1, 不二製油株式会社製)を使用した。
【0048】
<試料の調製>
(1)坂井らの市販牛乳を使った実験(Sakai, K., Ogawa, M., Takashima, H., Mizunuma, T., Manabe, S.: Peptic Digestibility of Proteins in Different Heat-treated Commercial Cow's Milks. 日本栄養・食糧学会誌, 50, 2, 147-152(1997))を参考とし、0.6mg/mlのラクトフェリン水溶液及び0.2mg/mlペプシン水溶液を作製した。
(2)ラクトフェリン1質量部に対する蛋白質の割合が、50質量部となるように、各種蛋白質をそれぞれ30mg測り取り、5mlの0.1Mクエン酸溶液中で溶解した。
(3)このようにして得られた各種蛋白質の水溶液に対し、0.6mg/mlのラクトフェリン水溶液を1ml添加し、超純水で10mlにメスアップした。この際、1N塩酸を用いて試料のpHを正確に2に調整し、ラクトフェリン水溶液と、各種蛋白質の水溶液が混合された試料としてのラクトフェリン組成物を得た。
【0049】
<ペプシン水溶液による人工消化>
(1)各試料を37℃の恒温槽で予備加熱をした後、各試料にペプシン水溶液を30μl添加し、ペプシンによる反応を開始させた。
(2)ペプシンの反応開始後、0分後、5分後、10分後、30分後、60分後、120分後に各試料からサンプルを採取した。
この際、ペプシンによる反応を停止させるため、3N水酸化ナトリウム溶液3μlを各試料に混合してpH7〜9に調整し、氷冷した。
(3)その後、各サンプルにつき、SDS-PAGE システム(BIO-RAD社製)及びWestern blotting システムを用いてラクトフェリンの検出を行った。なお、ラクトフェリン水溶液と、カゼイン以外の蛋白質水溶液とを混合した試料については、5分後と30分後のサンプルは電気泳動に供しなかった。
<SDS-PAGE システム及びWestern blotting システム>
(1)電気泳動ゲルに各サンプルを10μlずつ供し、SDS電気泳動を行い、蛋白質を分離した。
(2)ゲル上の蛋白質をメンブレンに膜転写した。
(3)転写後のメンブレンは、1倍のPBS−T(Phosphate Buffered Saline with Tween20 (PBS-T、Tweenは登録商標) Tablets, pH7.4:タカラバイオ株式会社製、Code:T9183)を用いて1質量%となるようにBSAを溶解した溶液(以下、「1%BSA/PBS−T」と記載する)で室温にて1時間振とうし、ブロッキングを行った。
(4)ブロッキングしたメンブレンは、前記の1%BSA/PBS−Tで2000倍希釈した一次抗体液anti-bLF Goat IgG antibody(BETHYL社製)を用いて、室温にて1時間振とうした。
(5)さらに、メンブレンをPBS−Tで毎回5分間、合計で3回洗浄した後、次いで、PBS−Tで2000倍希釈した二次抗体液anti-Goat HRP Rabbit IgG antibody(Cappel社製)を用い、室温にて1時間、抗体反応させた。
(6)メンブレンをPBS−Tで毎回5分間、合計で3回洗浄した後、ECL Prime(GE Healthcare社製)を用いて、ラクトフェリンの検出を行った。
【0050】
本実験の結果を
図1に示す。
図1中、(A)は、ラクトフェリン水溶液とカゼイン水溶液を混合させたサンプルの結果を示し、(B)は、ラクトフェリン水溶液と分離ホエイ蛋白質の水溶液を混合させたサンプルの結果を示し、(C)は、ラクトフェリン水溶液と卵白アルブミンの水溶液を混合させたサンプルの結果を示し、(D)は、ラクトフェリン水溶液と大豆蛋白質の水溶液を混合させたサンプルの結果を示す。
図1に示すように、いずれのサンプルであってもペプシン水溶液添加直後(0分の時点)ではラクトフェリンのバンドは検出された。
一方、ペプシン水溶液添加後10分の時点では、ラクトフェリン水溶液とカゼイン水溶液を混合させたサンプル(
図1の(A))においてのみ、ラクトフェリンのバンドが検出された。また、ラクトフェリン水溶液とカゼイン水溶液を混合させたサンプルにおいては、ペプシン水溶液添加後120分の時点であっても、ラクトフェリンのバンドが検出された。
【0051】
本実験例1の結果から、カゼインには、基質としてラクトフェリンを用いた場合、ペプシン酵素活性を阻害する作用があることが明らかとなった。なお、本実験例1では、試料、すなわちラクトフェリン組成物を得る段階で、予め酸性(pH2)に調整した上でラクトフェリンと蛋白質であるカゼインとを混合してラクトフェリン組成物を調製しているが、結果的にカゼインが凝固等の物性変化を起こさずにペプシンの酵素活性を効果的に阻害することが可能であった。これにより、例えばラクトフェリン組成物を経口摂取した場合に胃内での酸性条件下であっても、カゼインの物性変化を起こさずに胃内酵素による分解の影響を抑制し、ラクトフェリンを腸まで到達させることができると期待される。
【0052】
実験例2:基質との質量比に依存したカゼイン及びその他の蛋白質によるペプシン酵素活性に対する作用の検討
実験例1の結果から、カゼインには、基質にラクトフェリンを用いた場合に、ペプシン酵素活性を阻害する作用があることが明らかとなった。一方で、当該実験例1にて用いた各試料は、ラクトフェリン1質量部に対する各種蛋白質の割合が、50質量部となるように調製した。そこで、本実験例2では、基質との質量比に依存したカゼインの作用を検討するべく、ラクトフェリン1質量部に対する各種蛋白質の割合が、1質量部、10質量部、100質量部となるように、各試料を調製した。
【0053】
本実験例2にて用いた各種蛋白質は実験例1と同一である。また、実験例1と同様に、試料としてのラクトフェリン組成物を調製した。
そして、実験例1と同様、ペプシン水溶液による人工消化を行い、ペプシン反応後0分後、5分後、30分後、60分後、120分後にサンプルを採取した。
更に、実験例1と同様、Western blotting法を用いて、ペプシン水溶液による人工消化処理により得た各サンプルからラクトフェリンの検出を行った。
尚、ラクトフェリン水溶液と、カゼイン以外の各種蛋白質とを混合させた試料については、ペプシンの反応開始後5分後と30分後のサンプルは電気泳動に供しなかった。
【0054】
本実験の結果を
図2に示す。
図2中、(A)は、ラクトフェリン水溶液とカゼイン水溶液を混合させた各サンプルの結果を示し、(B)は、ラクトフェリン水溶液と分離ホエイ蛋白質の水溶液を混合させた各サンプルの結果を示し、(C)は、ラクトフェリン水溶液と卵白アルブミンの水溶液を混合させた各サンプルの結果を示し、(D)は、ラクトフェリン水溶液と大豆蛋白質の水溶液を混合させた各サンプルの結果を示す。尚、
図2に示す各サンプルの結果において、(a)〜(d)は、ラクトフェリン水溶液と各種蛋白質水溶液の割合を示している。
図2に示すように、いずれのサンプルであってもペプシン水溶液添加直後(0分の時点)ではラクトフェリンのバンドは検出された。
一方、ペプシン水溶液添加後10分の時点では、ラクトフェリン水溶液とカゼイン水溶液を混合させたサンプル(
図2の(A))においてのみ、ラクトフェリンのバンドが検出された。
更に、ラクトフェリン水溶液とカゼイン水溶液を混合させたサンプルにおいて、カゼイン水溶液が1質量部であるサンプルに比べ、カゼイン水溶液が10質量部であるサンプルの方がペプシン水溶液添加後5分後、10分後、30分後、60分後、120分後のラクトフェリンのバンドが大きく検出された。この傾向は、カゼインの質量部が大きくなるにつれて確認された。
また、ラクトフェリン水溶液1質量部に対してカゼイン水溶液が50質量部、及び100質量部であるサンプルについては、ペプシン水溶液添加後120分の時点でも、ラクトフェリンのバンドが明確に検出された。
【0055】
本実験例2の結果から、基質にラクトフェリンを使用した場合、カゼインはペプシン酵素活性を阻害する作用を有することが確認できた。
カゼインによるペプシン酵素活性阻害作用は、基質の質量部に対する当該カゼインの質量部に依存することが明らかとなり、カゼインの質量部が大きくなるにつれて、それに比例してカゼインのペプシン酵素活性の阻害作用も発揮されることが明らかとなった。
【0056】
実験例3:各種カゼインによるペプシン酵素活性に対する作用の検討
実験例1及び実験例2の結果から、カゼインには、基質にラクトフェリンを使用した場合にペプシン酵素活性を阻害する作用があることが明らかとなった。ここで、前述の如く、カゼインには、α−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼインが含まれることから、上記作用の有無につき、カゼインの種類毎に検討を行った。
【0057】
本実験例3において、実験例1と同様に、試料としてのラクトフェリン組成物を調製した。この際、ラクトフェリン1質量部に対して、α−カゼイン、β−カゼイン、及びκ−カゼインからなるカゼイン全体の割合が50質量部となるように、α−カゼインを25質量部、β−カゼインを18.5質量部、及びκ−カゼインを6.5質量部の割合で混合して試料の調製を行った。なお、α−カゼイン、β−カゼイン、及びκ−カゼインは、すべてシグマ(Sigma社製)を使用した。
そして、実験例1と同様、ペプシン水溶液による人工消化を行い、ペプシン反応後0分後、10分後、30分後、60分後、120分後にサンプルを採取した。
更に、実験例1と同様、Western blotting法を用いて、ペプシン水溶液による人工消化処理により得た各サンプルからラクトフェリンの検出を行った。
【0058】
本実験結果を
図3に示す。
図3中、(A)は、ラクトフェリン水溶液とα−カゼイン水溶液を混合させたサンプルの結果を示し、(B)は、ラクトフェリン水溶液とβ−カゼイン水溶液を混合させたサンプルの結果を示し、(C)は、ラクトフェリン水溶液とκ−カゼイン水溶液を混合させたサンプルの結果を示す。
図3に示すように、α−カゼイン水溶液を混合したサンプルとβ−カゼイン水溶液を混合したサンプルの場合には、ペプシン水溶液添加後120分の時点であってもラクトフェリンのバンドが明確に検出された。これに対し、κ−カゼイン水溶液を混合したサンプルの場合には、α−カゼイン水溶液を混合したサンプル及びβ−カゼイン水溶液を混合したサンプルに比べてラクトフェリンのバンドの大きさは小さかったものの、ペプシン水溶液添加後120分の時点であってもラクトフェリンのバンドが検出された。
【0059】
本実験例3の結果から、α−カゼイン、β−カゼイン及びκ−カゼインの何れにも、基質にラクトフェリンを使用した場合にペプシン酵素活性を阻害する作用があることが明らかとなった。
【0060】
実験例4:カゼイン及びカゼイン加水分解物によるペプシン酵素活性に対する作用の検討
実験例1乃至実験例3の結果から、カゼインには、基質にラクトフェリンを使用した場合にペプシン酵素活性を阻害する作用があることが明らかとなった。
そこで、カゼインの加水分解物における上記作用の有無について検討を行った。
【0061】
<カゼイン加水分解物の調製>
(1)1%カゼイン溶液を作製し、濃塩酸を用いて当該カゼイン溶液のpHを2.5に調整した。
ここで、カゼインの等電点は、4.6である。このため、濃塩酸を用いてpH調整を行った際には、等電点沈殿を起こさないよう素早く濃塩酸を添加して攪拌し、温度を37℃に調整した。
(2)pH調整された1%カゼイン溶液に対し、ブタ由来のペプシン(Sigma Aldrich社製, ≧250 units/mg)を添加した。
ここで、カゼインの分解程度が異なるカゼイン加水分解物を調製するため、基質であるカゼインに対するペプシンの質量の割合が0.0033%、0.01%、0.04%、0.1%となるよう、上記ペプシンをそれぞれ加えた。
また、反応温度は37℃、反応時間は2時間とした。
(3)ペプシンの反応終了後、各カゼイン加水分解物の温度を85℃まで上昇させ、10分間保持することでペプシンを失活させ、4種類の分解率の異なるカゼイン加水分解物を得た。
【0062】
このようにして得た各カゼイン加水分解物に対し、ラクトフェリン水溶液を混合し、カゼイン加水分解物と、ラクトフェリンとが混在した試料(ラクトフェリン1質量部に対してカゼイン加水分解物が50質量部の割合で混合)としてのラクトフェリン組成物を得た。各試料の調製は実験例1と同様に行った。そして、各試料につき、実験例1と同様、ペプシン水溶液による人工消化を行い、ペプシン反応後0分後、10分後、30分後、60分後、120分後にサンプルを採取した。
【0063】
更に、実験例1と同様、Western blotting法を用いて、ペプシン水溶液による人工消化処理により得た各サンプルからラクトフェリンの検出を行った。
【0064】
本実験結果を
図4に示す。
図4中、(A)は、カゼインに対するペプシンの割合が0.0033%であるカゼイン加水分解物に関する結果を示し、(B)は、カゼインに対するペプシンの割合が0.01%であるカゼイン加水分解物に関する結果を示し、(C)は、カゼインに対するペプシンの割合が0.04%であるカゼイン加水分解物に関する結果を示し、(D)は、カゼインに対するペプシンの割合が0.1%であるカゼイン加水分解物に関する結果を示す。尚、比較例として、ペプシンによる分解を受けていないラクトフェリンのWestern blotting法の結果、及びペプシンによる分解を受けていないカゼインのWestern blotting法の結果を併せて示した。
【0065】
図4に示すように、ペプシン水溶液添加後30分の時点では、各サンプルにおいて、ラクトフェリンのバンドが検出された。
一方、ペプシン水溶液添加後60分の時点では、カゼインの加水分解の程度が高いもの程、すなわち、ペプシンの酵素濃度が高いもの程、ラクトフェリンのバンドの大きさが小さくなる傾向が見られた。この傾向は、ペプシン水溶液添加後120分の時点でも同様に見られた。
【0066】
本実験例4の結果から、ペプシンによる加水分解率の低いカゼイン加水分解物から順に、ラクトフェリンの残存率は高いという傾向が見られた。
【0067】
実験例5:カゼインを含む組成物(流動食)によるペプシン酵素活性に対する作用の検討
本実験例5では、ラクトフェリン及びカゼインを含有する既存の飲食品と、当該飲食品からカゼインを除去したもの、を用いて、カゼインによるペプシン酵素活性の阻害作用についての検討を行った。
【0068】
<飲食品>
本実験例5では、以下の飲食品を用いた。
[流動食]
本実験例5では、ラクトフェリンとカゼインとが含有された流動食を用いた。この流動食としては、100mlあたり、ラクトフェリンが100mg配合され、カゼインが5g配合されたものを用いた。
[流動食の調製]
酸性条件下で滅菌したラクトフェリン水溶液と、カゼインを含み、かつ中性で滅菌されたその他栄養素を含む溶液と、を無菌条件下で混合して、混合後の調製液中に固形分換算で、それぞれラクトフェリンを0.1質量部、及びカゼインを5質量部含む流動食を製造した。
尚、ラクトフェリン水溶液及びカゼインとその他の栄養素を含む溶液の滅菌には、直接加熱式UHT殺菌機(森永エンジニアリング株式会社製)を用いた。
【0069】
<流動食中のカゼインの除去>
前記流動食におけるカゼインの除去は、等電点沈殿法により行い、カゼイン除去流動食を調製した。また、等電点沈殿法により流動食中のカゼインが除去されたこと、並びに、カゼイン除去後の画分にラクトフェリンやホエイ蛋白質(β-LG、α-LA)が存在することは、Bradford 法による蛋白質定量とSDS-PAGE にて確認した。
【0070】
<流動食及びカゼイン除去流動食の人工消化>
(1)日本薬局方に基づき、ペプシン濃度が0.8mg/mlとなるpH3の人工胃液を作製した。
(2)流動食及びカゼイン除去流動食に対する上記人工胃液の割合が、4対3となるように、流動食及びカゼイン除去流動食それぞれと、上記人工胃液を混合させ、試料を得た。
(3)各試料を恒温槽中で37℃に保温した。
(4)その後、人工胃液の反応開始後、0分後、5分後、10分後、30分後、60分後、120分後にサンプルを採取した。
この際、ペプシンによる反応を停止させるため、3N水酸化ナトリウム溶液3μlを各試料に混合してpH7〜9に調整し、氷冷した。
【0071】
そして、各サンプルについて実験例1と同様、Western blotting法を用いてラクトフェリンの検出を行った。
【0072】
本実験結果を
図5に示す。
図5中、(A)は、ラクトフェリン及びカゼインが含有された流動食に関する結果を示し、(B)は、ラクトフェリンを含みかつカゼインが除去された流動食に関する結果を示す。
【0073】
図5に示すように、ラクトフェリン及びカゼインが含有された流動食の場合、胃内での滞留時間に相当するペプシン水溶液添加後120分の時点では、ラクトフェリンのバンドが検出された。これに対し、ラクトフェリンを含みかつカゼインが除去された流動食の場合、ペプシン水溶液添加後120分の時点ではラクトフェリンのバンドが検出されなかった。
【0074】
本実験例5の結果から、カゼインの存在の有無により、基質にラクトフェリンが使用された場合(流動食中にラクトフェリンが含まれている場合)において、ペプシン酵素活性に対する阻害作用に影響を及ぼすことが明らかとなった。
すなわち、ラクトフェリンを含む飲食品に、一定量のカゼインが混合されていることにより、胃内での酵素消化に対する保護効果が発揮されることが推測される。
【0075】
実験例6:カゼインによるラクトフェリンの腸への到達効果の検討
実験例1乃至実験例5の結果から、カゼインには、基質にラクトフェリンを使用したときにペプシン酵素活性を阻害する作用があることがin vitroの実験にて確認できた。このため、本発明者らは、上記作用の確認をin vivoの実験にて行った。本実験例6では、実験例5にて調製した、カゼイン及びラクトフェリンを含有する流動食を用いた。
【0076】
本実験例6では、以下の実験動物を用いた。
<実験動物>
本実験例6において、動物には、BALB/cのマウス(雄、9週齢)を用いた。このマウスは、日本エスエルシー株式会社から購入した。本実験例6の実験群としては、前記流動食を摂取させたマウス群(以下、「実験群」という)を用いた。コントロール群としては、前記流動食の替わりに、ラクトフェリンを含有しない流動食を摂取させたマウス群(以下、「コントロール群」という)を用いた。尚、以下の説明において、便宜上、ラクトフェリンを含有しない流動食を「ラクトフェリン非含有流動食」という。
【0077】
<流動食投与飼育>
飼育は1ケージ当たり6匹とし、固形食(F-2, 株式会社船橋農場社製)で1週間馴化させた後、10週齢において体重に基づき実験群及びコントロール群に群分けした。
その後、各群に対し、流動食及びラクトフェリン非含有流動食を、2日間自由摂取させた。
尚、実験群の飼育に関しては、ムサシ株式会社製のANパックにラクトフェリンが含有された流動食を入れ、同じくムサシ株式会社製のSEノズルをケージに装着し、自由摂取させた。
【0078】
自由摂取中にラクトフェリン含有流動食入りのANパックをケージから取り除き、その後30分後、1時間後、2時間後、4時間後に各群のマウスを解剖して各マウスの空腸を採取した。
その後、メタカン固定パラフィン包埋ブロックより2μmの空腸組織切片を作製し、各空腸組織切片に対して、以下の免疫組織化学染色を行った。
<免疫組織化学染色>
(1)各空腸組織切片を脱パラフィン後、3%過酸化水素/メタノール溶液に10分間反応させ、内因性パーオキシダーゼをブロッキングした。
(2)各空腸組織切片をPBSで洗浄した後、一次抗体反応をさせた。
一次抗体反応は、室温にて1時間行った。一次抗体は、Goat anti-Bovine Lactoferrin affinity purified(BETHYL社製)を用いた。
(3)次いで、一次抗体を認識する二次抗体を用いて抗原抗体反応を行った。
抗原抗体反応は、30分間行った。二次抗体は、ヒストファインシンプルステインマウスMAX-PO(G)(株式会社ニチレイ社製)を用いた。
(4)その後、各空腸組織切片をヒストファインシンプルステインDAB溶液(株式会社ニチレイ社製)で発色させ、核染色を行った。
(5)染色後、封入し、検鏡と写真撮影を行った。
【0079】
本実験例6の結果を
図6に示す。
図6中、(A)は、自由摂取後の30分後の染色された実験群に係るマウスの組織切片を示し、(B)は、自由摂取後の1時間後の染色された実験群に係るマウスの組織切片を示し、(C)は、自由摂取後の2時間後の染色された実験群に係るマウスの組織切片を示し、(D)は、自由摂取後の4時間後の染色された実験群に係るマウスの組織切片を示し、(E)は、自由摂取後の1時間後の染色されたコントロール群に係るマウスの組織切片を示す。
図6に示すように、実験群において、ラクトフェリン含有流動食の自由摂取後の1時間後、2時間後の組織切片には、ラクトフェリン抗体陽性像が確認された。
これに対し、コントロール群において、ラクトフェリン非含有流動食の自由摂取後の1時間後の各組織切片には、ラクトフェリン抗体陽性像が確認されなかった。
【0080】
本実験例6の結果から、カゼインが含有された流動食に対して、ラクトフェリンを含有させ、更に当該流動食を摂取した場合、当該ラクトフェリンが胃のペプシンにより加水分解されず、腸まで到達していることが明らかとなった。
すなわち、in vivoの実験でも、カゼインには、基質にラクトフェリンを使用したときにペプシン酵素活性を阻害する作用があることが明らかとなった。