(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
乗りかごの重心に対してメインロープによる吊り位置がずれていることにより、アンバランスが生じている前記乗りかごのアンバランスを抑制するアンバランス抑制用ガイド装置であって、
昇降路内で前記乗りかごの背面側に配置され、前記乗りかごのアンバランスによる荷重を受け止めるアンバランス抑制用ガイドレールと、
前記乗りかごの上面に配置され、前記アンバランス抑制用ガイドレールに係合し、アンバランスによる荷重の反力を受ける反力受け用のガイド装置と、を備え、
前記アンバランス抑制用ガイドレールは、前記乗りかごに吊り下げられたコンペンチェーンまたはコンペンロープの重量変化より前記乗りかごのアンバランスが解消される高さを上端位置としていることを特徴とするエレベータの乗りかごのアンバランス抑制ガイド装置。
前記アンバランス抑制用ガイドレールの上端部には、前記ガイド装置を誘導し前記ガイドレールへの再係合を円滑にするガイド板が取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載のエレベータの乗りかごのアンバランス抑制ガイド装置。
【背景技術】
【0002】
つるべ式のエレベータでは、乗りかごはバランスのとれた状態で主ロープに吊られている。ここで、乗りかごのバランスがとれているとは、乗りかご全体の重心の位置に対して乗りかごの吊り位置がずれていないことをいう。乗りかごのバランスがとれていないと、走行時には、乗りかごに振動が発生し、乗り心地や走行性能を悪くしたり、ガイド装置を損傷させたりする。このため、エレベータでは、乗りかごのバランスを調整する機構が設けられることがある。この種の乗りかごのバランス調整に関する従来技術としては、特許文献1、2を挙げることができる。
【0003】
特許文献1では、かご枠におけるロープヒッチとシーブの取付位置を調整可能とし、ロープヒッチまたはシーブの位置を調整することで、乗りかごのバランスを調整するようにしている。
また、特許文献2には、バランス調整用のウエイトを脱着やスライド移動できるように乗りかごの上面部に設置することが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
乗りかごのバランスを取れなくなる代表的な例として、古くなった既設のエレベータをリニューアルする際に、かごサイズを変える場合がある。乗りかごのかごサイズが一回り大きくなると、主ロープによる吊り位置は変わらないのに、乗りかごの重心が背面側にずれるので、バランスが取れなくなる。
【0006】
乗りかごのアンバランスの程度がさほど大きくない場合には、従来の吊り位置の調整やバランス調整用ウエイトを利用してバランス調整をすることが可能である。
ところが、アンバランスの程度が大きい場合には、従来の吊り位置の調整やバランス調整用ウエイトでは対応がつかなくなる。その場合には、吊り位置を変えてバランスをとることになる。
【0007】
しかしながら、吊り位置を大きく変更するということは、ガイド装置を取り付けているかご枠の位置に大きな変更が加わることになる。これに伴い、乗りかご用ガイドレールの位置をずらす対応をとらなければならなくなる。
【0008】
乗りかご用ガイドレールの位置を変えるのは、非常に大掛かりな作業となる。乗りかご用ガイドレールを支持しているブラケットから乗りかご用ガイドレールを取り外して、違う場所に設置し直す作業になるからである。
【0009】
本発明は、前記従来技術の有する問題点に鑑みなされたものであって、乗りかごのアンバランスの程度が大きい場合でも、乗りかご用ガイドレールの位置や吊り位置をずらさずにアンバランスを解消できるようにしたエレベータの乗りかごのアンバランス抑制ガイド装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために、本発明の一実施形態に係るエレベータの乗りかごのアンバランス抑制ガイド装置は、乗りかごの重心に対してメインロープによる吊り位置がずれていることにより、アンバランスが生じている前記乗りかごのアンバランスを抑制するアンバランス抑制用ガイド装置であって、昇降路内で前記乗りかごの背面側に配置され、前記乗りかごのアンバランスによる荷重を受け止めるアンバランス抑制用ガイドレールと、前記乗りかごの上面に配置され、前記アンバランス抑制用ガイドレールに係合し、アンバランスによる荷重の反力を受ける反力受け用のガイド装置と、を備え、
前記アンバランス抑制用ガイドレールは、前記乗りかごに吊り下げられたコンペンチェーンまたはコンペンロープの重量変化より前記乗りかごのアンバランスが解消される高さを上端位置としていることを特徴とするものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明によるエレベータの乗りかごのアンバランス抑制ガイド装置の実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
(第1実施形態)
第1実施形態によるアンバランス抑制ガイド装置について説明する前に、エレベータのリニューアルの前後で生じる乗りかごのアンバランスについて説明する。
図6は、リニューアルを実施する前の既設のエレベータの概要を示す図である。
図6において、参照番号1は、エレベータの昇降路を示している。参照番号2は、乗場を示している。昇降路1の上部は、機械室となっていて、巻上機6と制御盤7が設置されている。巻上機6から吊り下げられたメインロープ5の一端には、乗りかご10が懸架されており、他端には釣合おもり4が懸架されている。リニューアルの前では、当然のことながら、乗りかご10は、バランスのとれた状態でメインロープ5によって吊られている。
【0013】
昇降路1内には乗りかご用ガイドレール8と釣合おもり用ガイドレール9が延びている。乗りかご用ガイドレール8と釣合おもり用ガイドレール9は、乗りかご10、釣合おもり4の左右両側にそれぞれ配置されている。乗りかご10は、乗りかご用ガイドレール8に沿って移動し、釣合いおもり4は、釣合おもり用ガイドレール9に沿って昇降路1を移動する。
【0014】
次に、
図1は、本実施形態によるアンバランス抑制ガイド装置が適用されたリニューアル後の乗りかごの側面図である。
図2は、
図1の乗りかごを上から見た平面図である。
図1、
図2において、乗りかご10のかご室は、上梁11、下梁12、左右の縦枠13、13からなるかご枠に支持されている。ここで、乗りかご10の前面とは、かごドア用の敷居17が設けられている側であり、その反対側が背面である。縦枠13が配置されている側は、乗りかご10の左右の側面である。
【0015】
乗りかご10は、リニューアルの実施によって、既設のかごよりも一回り大きな新しいかごに交換されている。かごの上面、下面、前面および背面には、それぞれかごを支える支え部材14、16が取り付けられている。15は、かごの床を示す。
【0016】
本実施形態では、
図6に示した乗りかご用ガイドレール8については、既存のものがそのまま流用される。かご枠の位置も変わらず、したがって、メインロープ5による乗りかご10の吊り位置に変更はない。
このように乗りかご10を大型のものに替えた場合、乗りかご10の重心は、乗りかご10の背面の方に移動し、メインロープ5の吊り位置に対してずれが生じる。何も対策を講じないと、乗りかご10はバランスを欠いて背面側に傾いてしまうことになる。乗りかご10のアンバランスによる荷重は、乗りかご用ガイドレール8に係合しているガイド装置(図示せず)で受けることになるが、このガイド装置に過大な荷重がかかり、振動が発生するなど乗り心地や走行性能が悪化するおそれがある。
【0017】
そこで、本実施形態では、昇降路1内において、アンバランス抑制用ガイドレール20を乗りかご10の背面側に新しく配置し、ガイド装置19でアンバランス荷重の反力を受けるようにしている。
【0018】
ガイド装置19は、アンバランス抑制用ガイドレール20に三方から当たって転動する3つ一組のローラ30a、30b、30cを有している。このうちローラ30a、30cは、横からアンバランス抑制用ガイドレール20のウェブ21を挟み込むように当たっており、ローラ30bは、ウェブ21に前から当たっている。またガイド装置19は、ガイド装置設置用の梁18において左右方向の中間位置に固定されている。乗りかご10の上面に取り付けられている梁18は、左右方向に延びて支え部材14、14に固定されている。
【0019】
他方、アンバランス抑制用ガイドレール20は、つり合い重り4の走行軌道の前方に配置され、上下方向に間隔を置いて複数配置されるブラケット28を介して昇降路1の壁面に沿って上下に延びるように支持されている。
【0020】
本実施形態による乗りかごのアンバランス抑制ガイド装置は、以上のように構成されるものであり、次に、その作用および効果について説明する。
エレベータのリニューアルにより乗りかご10を大型化したような場合、乗りかご10はバランスを取ることができなくなり、背面側に倒れようとすることになる。
このとき、アンバランス抑制用ガイドレール20に、倒れようとする乗りかご10からアンバランスによる荷重がかかることになるが、その反力をガイド装置19で受けるようにしている。このようにして、乗りかご10が傾かないように、アンバランス抑制用ガイドレール20で支えながら乗りかご10を鉛直な姿勢を維持したまま昇降させることができるので、乗りかご用ガイドレール8やこれに係合しているガイド装置に偏った過大な荷重が掛かるのを抑制することができる。これによって、乗りかご10の走行中に、振動が発生するのを防止し、乗り心地や走行性能を維持することが可能になる。
また、アンバランスの程度が大きい場合でも、乗りかご用ガイドレール8の位置や吊り位置を変えたりすることなく、アンバランスな状態を解消することができる。
【0021】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態によるエレベータの乗りかごのアンバランス抑制ガイド装置について、
図3を参照して説明する。
図3は、第2実施形態によるアンバランス抑制ガイド装置が適用されたエレベータを示す図である。この第2実施形態は、コンペンチェーン24を乗りかご10のアンバランス抑制に利用するとともに、アンバランス抑制用ガイドレール20の高さを低く抑えるようにした実施形態である。
コンペンチェーン24(コンペンロープでもよい)の一端は、乗りかご10の下部に接続され、他端はつり合い重り4の下部に接続されている。コンペンチェーン24は、乗りかご10の高さ位置の違いによって、メインロープに生じる重量のアンバランスを補正するのが本来の機能である。
【0022】
他方、コンペンチェーン24を乗りかご10の下部前側から吊った場合、
図3(A)のように乗りかご10が低い位置にあるときと較べると、
図3(B)のように、乗りかご10が高い位置に行くほど、乗りかご10の前側にかかるコンペンチェーン24の重量は増していく。このようなコンペンチェーン24によって乗りかご10に加えられる重量は、乗りかご10のアンバランスを修正する方向のモーメントとなって作用する。
【0023】
乗りかご10の高さが高くなるほど、乗りかご10のアンバランスは解消されていき、
図3(B)に示されるように、中間階の特定位置でアンバランスは生じなくなる。このような乗りかご10のアンバランスが解消する高さ位置は、コンペンチェーン24の重量変化に伴う重心位置を設計段階で力学的計算により算出することができる。算出に際しては、図示はしないが、乗りかご10から吊ったテールコードの重量の影響も考慮することが好ましい。アンバランス抑制用ガイドレール20の高さは、アンバランスが解消した位置より上は必要ないので、ガイドレール20の上限をこの高さまでとしている。
【0024】
以上のような第2実施形態によれば、アンバランス抑制用ガイドレール20をアンバランスを解消できる中間位置まで設置すればよいので、アンバランス抑制用ガイドレール20の材料費、据付工数を大幅に削減することができる。
【0025】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態によるエレベータの乗りかごのアンバランス抑制ガイド装置について、
図4を参照して説明する。
上述した第2実施形態のように、アンバランス抑制用ガイドレール20の上限位置をアンバランスが解消する昇降路中間部までとした場合、乗りかご10がさらに上に行った場合には、反力受け用のガイド装置19はアンバランス抑制用ガイドレール20から外れ、その状態のまま上昇することなる。
乗りかご10が下降に転じると、アンバランス抑制用ガイドレール20の上限までは、反力受け用のガイド装置19は、アンバランス抑制用ガイドレール20から外れたままである。その後、ガイド装置19は、アンバランス抑制用ガイドレール20の上端からアンバランス抑制用ガイドレール20に再度係合することになる。
【0026】
この時、乗りかご10に傾きがあったり、揺れが生じている場合には、ガイド装置19がアンバランス抑制用ガイドレール20に再度係合する際に、乗りかご10が大きく揺れたり、衝撃音が生じる可能性がある。
この第3実施形態では、アンバランス抑制用ガイドレール20の上端部に、ガイド板25a、25bを取り付け、ガイド装置19が滑らかにアンバランス抑制用ガイドレール20に係合するようにしている。
【0027】
ここで、
図4において、
図4(A)は、アンバランス抑制用ガイドレール20の上端部を前側からみた図であり、
図4(B)は、アンバランス抑制用ガイドレール20の上端部を横からみた図である。
2枚のガイド板25a、25bは、ブラケット29を介して鉛直方向に略平行に取り付けられている。ガイド装置19は、アンバランス抑制用ガイドレール20のウェブ21に転動している3つのローラ30a、30b、30cを有している。このうちローラ30a、30cは、ウェブ21に横からウェブ21を挟み込むように当たっており、ローラ30bは、前から当たっている。ガイド板25a、25bは、それぞれローラ30a、30cをアンバランス抑制用ガイドレール20のウェブ21に誘導するようになっており、ガイド板25a、25bには上端から間隔が狭くなる方向に緩い傾斜が付けられている。
【0028】
以上のような第3実施形態によれば、乗りかご10が傾いていたり、揺れが生じている場合でも、ガイド装置19は、ガイド板25a、25bによって誘導されて、アンバランス抑制用ガイドレール20に滑らかに再度係合させることが可能になる。
【0029】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態によるエレベータの乗りかごのアンバランス抑制ガイド装置について、
図5を参照して説明する。
図5(A)は、アンバランス抑制用ガイドレール20の上端部を前側からみた図であり、
図5(B)は、アンバランス抑制用ガイドレール20の上端部を横からみた図である。
この第4実施形態は、第3実施形態と同様に、ガイド装置19のローラ30a、30b、30cがアンバランス抑制用ガイドレール20に円滑に係合できるようにした実施の形態である。
【0030】
図5(A)に示されているように、アンバランス抑制用ガイドレール20の上端部では、ウェブ21に厚さが下方に向かって徐々に増していくようなテーパ26が形成されている。
また、
図5(B)に示されているように、アンバランス抑制用ガイドレール20の上端部では、ウェブ21に昇降路の奥行き方向に向かって下がり勾配に傾斜するテーパ27が形成されている。
【0031】
以上のような第4実施形態によれば、
図4(A)示すようなガイド装置19がアンバランス抑制用ガイドレール20に係合する際には、ローラ30a、30cはテーパ26に接触して転動を開始し、ローラ30bは、テーパ27に接触してから転動するようになるので、アンバランス抑制用ガイドレール20の上端に接触した直度の滑らかな再係合を確保することができる。
【0032】
なお、上述した第1実施形態乃至第4実施形態では、ガイド装置19として、ローラ30a乃至30cがアンバランス抑制用ガイドレール20に係合する構造のものであったが、これに限るものばなく、ガイドシューがアンバランス抑制用ガイドレール20に係合する形式のものであってもよい。
【0033】
以上、本発明によるエレベータの乗りかごのアンバランス抑制ガイド装置について、好適な実施形態を挙げて説明したが、これらの実施形態は、例示として挙げたもので、発明の範囲の制限を意図するものではない。もちろん、明細書に記載された新規な装置、方法およびシステムは、様々な形態で実施され得るものであり、さらに、本発明の主旨から逸脱しない範囲において、種々の省略、置換、変更が可能である。請求項およびそれらの均等物の範囲は、発明の主旨の範囲内で実施形態あるいはその改良物をカバーすることを意図している。
【解決手段】本発明の実施形態によるアンバランス抑制用ガイド装置は、乗りかごの重心に対してメインロープによる吊り位置がずれていることにより、アンバランスが生じている乗りかごのアンバランスを抑制するアンバランス抑制用ガイド装置である。このガイド装置は、昇降路内で乗りかごの背面側に配置され、乗りかごのアンバランスによる荷重を受け止めるアンバランス抑制用ガイドレール20と、乗りかごの上面に配置され、アンバランス抑制用ガイドレール20に係合し、アンバランスによる荷重の反力を受ける反力受け用ガイド装置19と、を備えている。