【実施例】
【0093】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0094】
以下の例において、医療用容器のラジカル量は以下のようにして求めた。
【0095】
[医療用容器のラジカル量]
医療用容器[シリンジ本体(注射筒)]の長さ方向の中央に相当する箇所の壁部から縦×横=3mm×3mmの試験片を切り取り、直径約3.5mmのサンプルチューブに入れ、電子スピン共鳴装置(Bruker社製「ELEXSYS E580」)を使用して、以下の条件でラジカル量を測定し、試験片1g当たりのラジカル量(個)を求めた。
【0096】
[ラジカル量の測定条件]
・設定温度:室温(25℃)
・中心磁場:3517G付近
・磁場掃引幅:400G
・変調:100kHz、2G
・マイクロ波:9.85GHz、0.1mW
・掃引時間:83.89s×4回
・時定数:163.84ms
・データポイント数:1024
・キャビティー:TE
001、円筒型
また、以下の実施例1、比較例1、参考例1、実施例2および実施例3では、環状オレフィン系重合体製の医療用容器として、次のものを使用した。
【0097】
[環状オレフィン系重合体製の医療用容器]
環状ポリオレフィン重合体(COP)(比重=約1)(「ゼオネックス」(登録商標、日本ゼオン株式会社製))を用いてインサート射出成形によって製造した、プレフィルドシリンジ製剤用の注射針付きシリンジ本体(シリンジサイズ:ISO規格11040−6の1mL−Longに準拠、注射針:27G)。
【0098】
《製造例1》[エリスロポエチン溶液製剤の製造]
エリスロポエチン(Sigma−Aldrich社製)を、2mMのNa
2HPO
4と0.06mg/mLのポリソルベート80を含有する水溶液に加えて完全に溶解させて、エリスロポエチンの濃度が24,000IU/mLの溶液を製造し、この溶液を以下の実施例1、比較例1、参考例1、実施例2において、エリスロポエチン溶液製剤として用いた。
【0099】
《実施例1》
(1) 環状オレフィン重合体(COP)製のシリンジ本体の先端にイソプレンゴム製のキャップを取り付けて針先を封止したシリンジ(注射筒)24個をオートクレーブに入れて、121℃で20分間、高圧蒸気滅菌した。
【0100】
(2) 上記(1)で高圧蒸気滅菌した24個のシリンジを、6個ずつ4つのグループIa,IIa,IIIaおよびIVaに分けた。
【0101】
(3)(i) 第1のグループIaのシリンジ6個をさらに3個ずつ2つのグループIa
1とIa
2に分けた。
【0102】
(ii) グループIa
1の3個のシリンジについては、上記(1)の高圧蒸気滅菌の直後に、シリンジ本体の長さ方向の中央に相当する箇所の壁部から縦×横=3mm×3mmの試験片(重量:約46〜61mg)を切り取って、電子スピン共鳴装置を使用して上記した方法でラジカル量を測定し、3個の平均値を採って高圧蒸気滅菌処理直後のシリンジ本体のラジカル量を求めた。
【0103】
その結果を下記の表1に示す。
【0104】
(iii)(a) グループIa
2の3個のシリンジについては、それぞれに製造例1で製造したエリスロポエチン溶液製剤1.0mLを充填し、後端開口部に、ブチルゴム製のガスケットを先端に取り付けたプランジャーを、0.2mLのヘッドスペースが残るようにして挿入して封止し、高圧蒸気滅菌直後のシリンジ内にエリスロポエチン溶液製剤を収容した3個のプレフィルドシリンジ製剤を製造した。
【0105】
(b) 上記(a)で製造した3個のプレフィルドシリンジ製剤を、温度25℃、湿度60%RHの条件下で4週間保存した後、シリンジ内に収容されているエリスロポエチン溶液製剤に含まれているエリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合を下記の方法で測定し、3個の試料の平均値を採って、メチオニン残基の酸化割合(%)とした。
【0106】
その結果を下記の表1に示す。
【0107】
《エリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合》
(i) エリスロポエチン溶液製剤100μLと酢酸アンモニウム400μL(100mM、pH8.0)の混合物を遠心濾過器(Milipore Ireland Ltd.製「Amicon Ultra−0.5 10K)の受け皿に入れて、14,000Gで15分間遠心分離した。
【0108】
(ii) 濾紙上の残渣を回収し、回収した残渣に、酢酸アンモニウム溶液(100mM、pH8.0)を加えて全量を50μLにした。これに、酸化メチオニンフラグメントと未酸化メチオニンフラグメントを分離するため、1μg/mL Glu−C(pH5.6)と100mM 酢酸アンモニウムを加えた。
【0109】
(iii) 次いで、試料を37℃で24時間インキュベートした後、10mM 酢酸アンモニウム溶液(pH8.0)で希釈し、以下の条件で高速液体クロマトグラフフィー分析(HPLC)を行って、酸化メチオニンフラグメントの量と未酸化メチオニンフラグメントの量を測定した。
【0110】
[HPLCの条件]
・移動相A:0.05%トリフルオロ酢酸水溶液
・移動相B:0.05%のトリフルオロ酢酸を含有するアセトニトリル
・カラム:オクタデシル基結合シリカゲルカラム(Inertsil ODS−3)(5μm、205mm×2.1mm i.d.)
・カラム温度:40℃、
・注入量:30μL
・トータル流速:0.25mL/min
・フローモード:直線勾配モード
・測定波長:280nm
(iv) 上記(iii)で測定した酸化メチオニンフラグメントの量(Mf
b)と未酸化メチオニンフラグメント(Mf
a)の量から、以下の数式<1>にしたがって、エリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合(%)を求めた。
【0111】
メチオニン残基の酸化割合(%)={Mf
b/(Mf
a+Mf
b)}×100 <1>
(4)(i) 第2のグループIIaのシリンジ6個を、上記(1)の高圧蒸気滅菌後に温度25℃、湿度60%RHの条件下で1ケ月間保存した後、さらに3個ずつ2つのグループIIa
1とIIa
2に分けた。
【0112】
(ii) グループIIa
1の3個のシリンジについては、上記(i)の1ケ月間の保存後に、シリンジ本体の長さ方向の中央に相当する箇所の壁部から縦×横=3mm×3mmの試験片(重量:約46〜61mg)を切り取って、電子スピン共鳴装置を使用して上記した方法でラジカル量を測定し、3個の平均値を採って高圧蒸気滅菌後に1ケ月間保存したときのシリンジ本体のラジカル量を求めた。
【0113】
その結果を下記の表1に示す。
【0114】
(iii)(a) グループIIa
2の3個のシリンジについては、上記(i)の高圧蒸気滅菌後の1ケ月間の保存後に、それぞれに製造例1で製造したエリスロポエチン溶液製剤1.0mLを充填し、後端開口部に、ブチルゴム製のガスケットを先端に取り付けたプランジャーを、0.2mLのヘッドスペースが残るようにして挿入して封止し、シリンジ内にエリスロポエチン溶液製剤を収容した3個のプレフィルドシリンジ製剤を製造した。
【0115】
(b) 上記(a)で製造した3個のプレフィルドシリンジ製剤を、温度25℃、湿度60%RHの条件下で4週間保存した後、シリンジ内に収容されているエリスロポエチン溶液製剤に含まれているエリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合を上記した方法で測定し、3個の試料の平均値を採って、メチオニン残基の酸化割合(%)とした。
【0116】
その結果を下記の表1に示す。
【0117】
(5)(i) 第3のグループIIIaのシリンジ6個を、上記(1)の高圧蒸気滅菌後に温度25℃、湿度60%RHの条件下で3ケ月間保存した後、さらに3個ずつ2つのグループIIIa
1とIIIa
2に分けた。
【0118】
(ii) グループIIIa
1の3個のシリンジについては、上記(i)の3ケ月間の保存後に、シリンジ本体の長さ方向の中央に相当する箇所の壁部から縦×横=3mm×3mmの試験片(重量:約46〜61mg)を切り取って、電子スピン共鳴装置を使用して上記した方法でラジカル量を測定し、3個の平均値を採って。高圧蒸気滅菌処理後に3ケ月間保存したときのシリンジ本体のラジカル量を求めた。
【0119】
その結果を下記の表1に示す。
【0120】
(iii)(a) グループIIIa
2の3個のシリンジについては、上記(i)の高圧蒸気滅菌後の3ケ月間の保存後に、それぞれに製造例1で製造したエリスロポエチン溶液製剤1.0mLを充填し、後端開口部に、ブチルゴム製のガスケットを先端に取り付けたプランジャーを、0.2mLのヘッドスペースが残るようにして挿入して封止し、シリンジ内にエリスロポエチン溶液製剤を収容した3個のプレフィルドシリンジ製剤を製造した。
【0121】
(b) 上記(a)で製造した3個のプレフィルドシリンジ製剤を、温度25℃、湿度60%RHの条件下で4週間保存した後、シリンジ内に収容されているエリスロポエチン溶液製剤に含まれているエリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合を上記した方法で測定し、3個の試料の平均値を採って、メチオニン残基の酸化割合(%)とした。
【0122】
その結果を下記の表1に示す。
【0123】
(6)(i) 第4のグループIVaのシリンジ6個を、上記(1)の高圧蒸気滅菌後に温度25℃、湿度60%RHの条件下で6ケ月間保存した後、さらに3個ずつ2つのグループIVa
1とIVa
2に分けた。
【0124】
(ii) グループIVa
1の3個のシリンジについては、上記(i)の高圧蒸気滅菌後の6ケ月間の保存後に、シリンジ本体の長さ方向の中央に相当する箇所の壁部から縦×横=3mm×3mmの試験片(重量:約46〜61mg)を切り取って、電子スピン共鳴装置を使用して上記した方法でラジカル量を測定し、3個の平均値を採って、高圧蒸気滅菌処理後に6ケ月間保存したときのシリンジ本体のラジカル量を求めた。
【0125】
その結果を下記の表1に示す。
【0126】
(iii)(a) グループIVa
2の3個のシリンジについては、上記(i)の高圧蒸気滅菌後の6ケ月間の保存後に、それぞれに製造例1で製造したエリスロポエチン溶液製剤1.0mLを充填し、後端開口部に、ブチルゴム製のガスケットを先端に取り付けたプランジャーを、0.2mLのヘッドスペースが残るようにして挿入して封止し、シリンジ内にエリスロポエチン溶液製剤を収容した3個のプレフィルドシリンジ製剤を製造した。
【0127】
(b) 上記(a)で製造した3個のプレフィルドシリンジ製剤を、温度25℃、湿度60%RHの条件下で4週間保存した後、シリンジ内に収容されているエリスロポエチン溶液製剤に含まれているエリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合を上記した方法で上記した方法で測定し、3個の試料の平均値を採って、メチオニン残基の酸化割合(%)とした。
【0128】
その結果を下記の表1に示す。
【0129】
《比較例1》
(1) 環状オレフィン重合体(COP)製のシリンジ本体の先端にイソプレンゴム製のキャップを取り付けて針先を封止したシリンジ(注射筒)24個のそれぞれに電子線を25kGy照射して滅菌した。
【0130】
(2) 上記(1)で電子線照射して滅菌した24個のシリンジを、6個ずつ4つのグループIb,IIb,IIIbおよびIVbに分けた。
【0131】
(3)(i) 第1のグループIbのシリンジ6個を、さらに3個ずつ2つのグループIb
1とIb
2に分けた。
【0132】
(ii) グループIb
1の3個のシリンジについては、上記(1)の電子線照射滅菌の直後に、シリンジ本体の長さ方向の中央に相当する箇所の壁部から縦×横=3mm×3mmの試験片(重量:約46〜61mg)を切り取って、電子スピン共鳴装置を使用して上記した方法でラジカル量を測定し、3個の平均値を採って電子線照射滅菌の直後のシリンジ本体のラジカル量を求めた。
【0133】
その結果を下記の表1に示す。
【0134】
(iii)(a) グループIb
2の3個のシリンジについては、それぞれに製造例1で製造したエリスロポエチン溶液製剤1.0mLを充填し、後端開口部に、ブチルゴム製のガスケットを先端に取り付けたプランジャーを、0.2mLのヘッドスペースが残るようにして挿入して封止し、電子線照射滅菌直後のシリンジ内にエリスロポエチン溶液製剤を収容した3個のプレフィルドシリンジ製剤を製造した。
【0135】
(b) 上記(a)で製造した3個のプレフィルドシリンジ製剤を、温度25℃、湿度60%RHの条件下で4週間保存した後、シリンジ内に収容されているエリスロポエチン溶液製剤に含まれているエリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合を上記した方法で測定し、3個の試料の平均値を採って、メチオニン残基の酸化割合(%)とした。
【0136】
その結果を下記の表1に示す。
【0137】
(4)(i) 第2のグループIIbのシリンジ6個を、上記(1)の電子線照射滅菌後に温度25℃、湿度60%RHの条件下で1ケ月間保存した後、さらに3個ずつ2つのグループIIb
1とIIb
2に分けた。
【0138】
(ii) グループIIb
1の3個のシリンジについては、上記(i)の電子線照射滅菌後の1ケ月間の保存後に、シリンジ本体の長さ方向の中央に相当する箇所の壁部から縦×横=3mm×3mmの試験片(重量:約46〜61mg)を切り取って、電子スピン共鳴装置を使用して上記した方法でラジカル量を測定し、3個の平均値を採って電子線照射滅菌後に1ケ月間保存したときのシリンジ本体のラジカル量を求めた。
【0139】
その結果を下記の表1に示す。
【0140】
(iii)(a) グループIIb
2の3個のシリンジについては、上記(i)の1ケ月間の保存後に、それぞれに製造例1で製造したエリスロポエチン溶液製剤1.0mLを充填し、後端開口部に、ブチルゴム製のガスケットを先端に取り付けたプランジャーを、0.2mLのヘッドスペースが残るようにして挿入して封止し、シリンジ内にエリスロポエチン溶液製剤を収容した3個のプレフィルドシリンジ製剤を製造した。
【0141】
(b) 上記(a)で製造した3個のプレフィルドシリンジ製剤を、温度25℃、湿度60%RHの条件下で4週間保存した後、シリンジ内に収容されているエリスロポエチン溶液製剤に含まれているエリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合を上記した方法で測定し、3個の試料の平均値を採って、メチオニン残基の酸化割合(%)とした。
【0142】
その結果を下記の表1に示す。
【0143】
(5)(i) 第3のグループIIIbのシリンジ6個を、上記(1)の電子線照射滅菌後に温度25℃、湿度60%RHの条件下で3ケ月間保存した後、さらに3個ずつ2つのグループIIIb
1とIIIb
2に分けた。
【0144】
(ii) グループIIIb
1の3個のシリンジについては、上記(i)の電子線照射滅菌後の3ケ月間の保存後に、シリンジ本体の長さ方向の中央に相当する箇所の壁部から縦×横=3mm×3mmの試験片(重量:約46〜61mg)を切り取って、電子スピン共鳴装置を使用して上記した方法でラジカル量を測定し、3個の平均値を採って電子線照射滅菌後に3ケ月間保存したときのシリンジ本体のラジカル量を求めた。
【0145】
その結果を下記の表1に示す。
【0146】
(iii)(a) グループIIIb
2の3個のシリンジについては、上記(i)の電子線照射滅菌後の3ケ月間の保存後に、それぞれに製造例1で製造したエリスロポエチン溶液製剤1.0mLを充填し、後端開口部に、ブチルゴム製のガスケットを先端に取り付けたプランジャーを、0.2mLのヘッドスペースが残るようにして挿入して封止し、シリンジ内にエリスロポエチン溶液製剤を収容した3個のプレフィルドシリンジ製剤を製造した。
【0147】
(b) 上記(a)で製造した3個のプレフィルドシリンジ製剤を、温度25℃、湿度60%RHの条件下で4週間保存した後、シリンジ内に収容されているエリスロポエチン溶液製剤に含まれているエリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合を上記した方法で測定し、3個の試料の平均値を採って、メチオニン残基の酸化割合(%)とした。
【0148】
その結果を下記の表1に示す。
【0149】
(6)(i) 第4のグループIVbのシリンジ6個を、上記(1)の電子線照射滅菌後に温度25℃、湿度60%RHの条件下で6ケ月間保存した後、さらに3個ずつ2つのグループIVb
1とIVb
2に分けた。
【0150】
(ii) グループIVb
1の3個のシリンジについては、上記(i)の電子線照射滅菌後の6ケ月間の保存後に、シリンジ本体の長さ方向の中央に相当する箇所の壁部から縦×横=3mm×3mmの試験片(重量:約46〜61mg)を切り取って、電子スピン共鳴装置を使用して上記した方法でラジカル量を測定し、3個の平均値を採って電子線照射滅菌後に6ケ月保存したときのシリンジ本体のラジカル量を求めた。
【0151】
その結果を下記の表1に示す。
【0152】
(iii)(b) グループIVb
2の3個のシリンジについては、上記(i)の電子線照射滅菌後の6ケ月間の保存後に、それぞれに製造例1で製造したエリスロポエチン溶液製剤1.0mLを充填し、後端開口部に、ブチルゴム製のガスケットを先端に取り付けたプランジャーを、0.2mLのヘッドスペースが残るようにして挿入して封止し、シリンジ内にエリスロポエチン溶液製剤を収容した3個のプレフィルドシリンジ製剤を製造し
た。
【0153】
(b) 上記(b)で製造した3個のプレフィルドシリンジ製剤を、温度25℃、湿度60%RHの条件下で4週間保存した後、シリンジ内に収容されているエリスロポエチン溶液製剤に含まれているエリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合を上記した方法で測定し、3個の試料の平均値を採って、メチオニン残基の酸化割合(%)とした。
【0154】
その結果を下記の表1に示す。
【0155】
《参考例1》
(1) シリンジ本体の3個について、滅菌処理を施さずに、当該シリンジ本体の長さ方向の中央に相当する箇所の壁部から縦×横=3mm×3mmの試験片(重量:約46〜61mg)を切り取って、電子スピン共鳴装置を使用して上記した方法でラジカル量を測定し、3個の平均値を採って、滅菌処理を行わないシリンジ本体のラジカル量を求めた。
【0156】
その結果を下記の表1に示す。
【0157】
(2)(i) 滅菌処理を施してない別の3個のシリンジ本体のそれぞれにイソプレンゴム製のキャップを取り付けて針先を封止した後、それぞれに製造例1で製造したエリスロポエチン溶液製剤1.0mLを充填し、後端開口部に、ブチルゴム製のガスケットを先端に取り付けたプランジャーを、0.2mLのヘッドスペースが残るようにして挿入して封止し、滅菌処理を施してないシリンジ内にエリスロポエチン溶液製剤を収容した3個のプレフィルドシリンジ製剤を製造した。
【0158】
(ii) 上記(i)で製造した3個のプレフィルドシリンジ製剤を、温度25℃、湿度60%RHの条件下で4週間保存した後、シリンジ内に収容されているエリスロポエチン溶液製剤に含まれているエリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合を上記した方法で測定し、3個の試料の平均値を採って、メチオニン残基の酸化割合(%)とした。
【0159】
その結果を下記の表1に示す。
【0160】
【表1】
【0161】
上記の表1の結果にみるように、高圧蒸気滅菌した実施例1の環状オレフィン系重合体
製の医療用容器(シリンジ)では、当該容器にタンパク質(エリスロポエチン)溶液製剤を収容して保存したときに、溶液製剤に含有されているタンパク質(エリスロポエチン)中のメチオニン残基の酸化割合が小さく、タンパク質の変性を抑制することができる。
【0162】
それに対して、電子線照射して滅菌した比較例1の環状オレフィン系重合体製容器では、当該容器にタンパク質(エリスロポエチン)溶液製剤を収容して保存したときに、溶液製剤に含有されているタンパク質(エリスロポエチン)中のメチオニン残基の酸化割合が実施例1に比べて2倍以上となっており、タンパク質の変性が生じやすい。
【0163】
しかも、電子線照射して滅菌した比較例1の環状オレフィン系重合体製容器では、電子線照射滅菌後に例えば6ケ月間放置しておくと、環状オレフィン系重合体中のラジカル量は電子線照射直後の100分の1以下に低減するにも拘わらず、当該6ケ月放置後の環状オレフィン系重合体製容器中にタンパク質(エリスロポエチン)溶液製剤を収容した場合でも、溶液製剤に含有されているタンパク質(エリスロポエチン)中のメチオニン残基の酸化割合が依然として高く、タンパク質の酸化変性が生じ易い。
【0164】
《実施例2》
(1)(i) ポリプロピレン(195μm)/エチレン−ビニルアルコール共重合体(10μm)/ポリプロピレン(195μm)からなる三層フィルムをボトム材3として用いて、当該ボトム材3に、
図1に示すように、エリスロポエチン溶液製剤を収容したプレフィルドシリンジ製剤1と脱酸素剤2を収納するための凹部4を形成した。
【0165】
(ii) 上記(i)で形成した凹部4に、脱酸素剤2[三菱ガス化学株式会社製「エージレス(登録商標)Z−10PTR」]と共に、実施例1の(6)の(iii)の(a)と同様の操作を行なって製造した、高圧蒸気滅菌後のシリンジ内にエリスロポエチン溶液製剤を収容したプレフィルドシリンジ製剤(高圧蒸気滅菌後に6ケ月間25℃で保存したシリンジ本体にエリスロポエチン溶液製剤を収容したプレフィルドシリンジ製剤)1を収納した。
【0166】
(iii) 次に、その開放した上面を、ポリエチレンテレフタレート(16μm)/接着剤層/印刷面/エチレン−ビニルアルコール共重合体(12μm)/接着剤層/エチレン−酢酸ビニル共重合体(30μm)からなるトップ材5で覆って周縁をシールして、
図1に示すようなブリスター包装による、エリスロポエチン溶液製剤を収容したプレフィルドシリンジ製剤の包装体を製造した。なお、ブリスター包装体におけるプレフィリルドシリンジ製剤と脱酸素剤を収納した空間の容積は約27cm
3であり、脱酸素剤2の酸素吸収能は10cm
3であった。
【0167】
(iv) 上記(iii)で得られたブリスター包装体を、温度25℃、湿度60%RHの条件下で3ケ月および6ケ月保存して、3ケ月保存後および6ケ月保存後に、シリンジ内に収容されているエリスロポエチン溶液製剤に含まれているエリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合を上記した方法で測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0168】
(2)(i) 高圧蒸気滅菌後のシリンジ内にエリスロポエチン溶液製剤を収容したプレフィルドシリンジ製剤(高圧蒸気滅菌後に6ケ月間25℃で保存したシリンジ本体にエリスロポエチン溶液製剤を収容したプレフィルドシリンジ製剤)(ブリスター包装を行っていないプレフィルドシリンジ製剤)を、温度25℃、湿度60%RHの条件下で3ケ月および6ケ月保存して、3か月保存後および6か月保存後に、シリンジ内に収容されているエリスロポエチン溶液製剤に含まれているエリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合を上記した方法で測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0169】
【表2】
【0170】
上記の表2の結果にみるように、高圧蒸気滅菌した環状オレフィン系重合体製シリンジにエリスロポエチン溶液製剤を収容したプレフィルドシリンジ製剤を、脱酸素剤と共に酸素難透過性の包装材で包装して脱酸素式包装体とすることによって、エリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合が一層低減している。
【0171】
[モノクローナル抗体溶液製剤]
以下の実施例3および比較例2において、完全ヒト型IgG1モノクローナル抗体であるアダリムマブ[Abbive社製、商品名:Humira(登録商標)]をモノクローナル抗体溶液製剤として用いた。
【0172】
《実施例3》
(1) 注射針を取付けた環状オレフィン重合体(COP)製シリンジ本体の先端にイソプレンゴム製のキャップを取り付けて針先を封止したシリンジ(注射筒)24個をオートクレーブに入れて、実施例1の(1)と同じように、121℃で20分間、高圧蒸気滅菌した後、温度25℃、湿度60%RHの条件下で1ケ月保存した。
【0173】
(2) 高圧蒸気滅菌後に1カ月間保存した上記(1)で得られた24個のシリンジのそれぞれに、上記したモノクローナル抗体溶液製剤500μLを充填した後、後端開口部に、ブチルゴム製のガスケットを先端に取り付けたプランジャーを、0.2mLのヘッドスペースが残るようにして挿入して封止して、滅菌処理を施したシリンジ内にモノクローナル抗体溶液製剤を収容した24個のシリンジ入りモノクローナル抗体溶液製剤を製造した。
【0174】
(3) 上記(2)で得られた24個のシリンジ入りモノクローナル抗体溶液製剤のそれぞれを、実施例2で使用したのと同じ材料および構造よりなるブリスター包装用の包装材を用いて、実施例2で使用したのと同じ脱酸素剤と共に、実施例2と同様にしてブリスター包装した後、5℃で7日間インキュベートした。
【0175】
(4) 上記(3)で得られたインキュベート後の24個の包装体を12個ずつ2つのグループ(グループIとグループII)に分け、グループIの包装体12個は遮光能を有する外袋(外包装材)に入れずにそのままにし、グループIIの包装体12個のそれぞれを、
図2に示すように、遮光能を有する外袋6(2軸延伸ポリアミド/ポリエチレン/アルミニウム蒸着ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンよりなる層構造を有する積層シートから形成した外包装材)に入れて密封した。
【0176】
(5) 外袋に入れてないグループIの12個の包装体、および遮光能を有する外袋6に入れたグループIIの12個の包装体のそれぞれに、2000ルクスの光の照射下に温度25℃で25日間保存し、開始時(0日)、7日保存後、14日保存後および25日保存後の時点におけるモノクローナル抗体溶液製剤に含まれるモノクローナル抗体中のメチ
オニン残基(Met256とMet432)の酸化割合、高分子量種の生成割合、酸性分子種の生成割合を下記の方法で求めた。
【0177】
なお、メチオニン残基の酸化割合、高分子量種の生成割合および酸性分子種の生成割合を求めるための測定操作は、グループIおよびグループII共に、12個の包装体のうち、3個について開始時(光照射前)に行い、別の3個について光照射下に7日保存後に行い、更に別の3個について光照射下に14日保存後に行い、残りの3個について光照射下に25日保存後に行って、3個の平均値を採った。
【0178】
結果を下記の表3に示す。
【0179】
《モノクローナル抗体中のメチオニン残基の酸化割合》
ペプチドマッピング法によって以下の方法でモノクローナル抗体中のメチオニン残基の酸化割合を求めた。
【0180】
(i) 試料(モノクローナル抗体IgG1溶液製剤)100μgを8Mの塩化グアニジンで変性した後、マイクロスピンG−25カラム(GEヘルスケア社製、英国)を使用して試料中の緩衝液を消化緩衝液(100mM トリス塩酸緩衝液、ポリソルベート80含量=0.02質量%、pH=8.0)に置換した。
【0181】
(ii) 試料に、シークエンスグレード変性トリプシン3.2μgを添加し、37℃で60分間インキュベートして消化した後、25%トリフルオロ酢酸10μLを添加して消化反応を停止させた。
【0182】
(iii) 消化ペプチドを、AdvanceBioペプチドマップ2.1×150mm、2.7μm カラムを備えるLC1200システム(アジレント テクノロジー社)を用いて、以下の条件で、逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分離した。
【0183】
[HPLCの条件]
・移動相A:水とトリフルオロ酢酸=1000:1の水溶液
・移動相B:水とアセトニトリルとトリフルオロ酢酸=400:3600:3の混合液
・カラム:AdvanceBioペプチドマップ2.1×150mm、2.7μm
・カラム温度:50℃、
・注入量:30μL
・流速:0.2mL/min
・フローモード:直線勾配モード(移動相B 0%→45%、60分超え)
(iv) 溶出したペプチド画分を、エレクトロスプレーイオン源(陽イオンモード;300〜2000m/z値)を備えるLTQ/XL Orbitrap 質量分析計(サーモフィッシャー科学社)を用いて検出した。メチオニン残基の酸化割合は、Met256またはMet432含有ペプチドの理論的なm/z±10ppmで各抽出したイオンクロマトグラムを用いて定量した。
【0184】
《高分子量種の生成割合》
分子ふるいクロマトグラフィー法(SEC法)にて、以下のようにして高分子量種の生成割合を求めた。
【0185】
(i) 2本を直列に接続したTSKgel SuperSWmAb HRカラム(東ソー株式会社製)に、試料(モノクローナル抗体IgG1溶液製剤)250μLを供給し、リン酸緩衝液(リン酸100mM、塩化ナトリウム400mM、pH7.0)を用いて
アイソクラティックフロー(流速0.5mL/min、温度25℃)にて分子量ごとに分画した(測定波長280nm)。
【0186】
(ii) メインピークよりも前の溶出ピーク(分画)を高分子量種(モノクローナル抗体の分子量よりも高い分子量を有する成分)とし、メインピークよりも後の溶出ピーク(分画)を低分子量種(モノクローナル抗体の分子量よりも低い分子量を有する成分)とし、下記の数式<2>に従って、高分子量種の生成割合(%)を求めた。
【0187】
高分子量種の生成割合(%)=(MW
H/MW
T)×100 <2>
[式中、MW
Hはメインピークよりも前の溶出ピーク(分画)の合計、MW
Tは全溶出ピーク(全分画)の合計を示す。]
《酸性分子種の生成割合》
陽イオン交換高速液体クロマトグラフィー法(CEX−HPLC法)にて、以下のようにして酸性分子種の生成割合を求めた。
【0188】
(i) 試料(モノクローナル抗体IgG1溶液製剤)25μgを、Propac WCX−10 カラム(Thermo Fisher Scientific社製)に供給し、以下の条件で高速液体クロマトグラフィー分析を行った。
【0189】
[HPLCの条件]
・移動相A:20mMリン酸ナトリウム水溶液(pH6.8)
・移動相B:20mMリン酸ナトリウム水溶液に固体塩化ナトリウムを塩化ナトリウム濃度が500mMになるまで添加した水溶液(pH6.8)
・カラム:Propac WCX−10 カラム
・カラム温度:40℃、
・注入量:25μg
・流速:0.7mL/min
・フローモード:直線勾配モード(移動相B 9%→18%)
・測定波長:280nm
(ii) メインピークよりも前の溶出ピーク(分画)を酸性分子種(モノクローナル抗体よりもアニオン性の強い成分)とし、メインピークよりも後の溶出ピーク(分画)をアルカリ性分子種(モノクローナル抗体よりもアニオン性の弱い成分)とし、下記の数式<3>に従って酸性分子種の生成割合(%)を求めた。
【0190】
酸性分子種の生成割合(%)=(A
M/T
M)×100 <3>
[式中、A
Mはメインピークよりも前の溶出ピーク(分画)の合計、T
Mは全溶出ピーク(全分画)の合計を示す。]
《比較例2》
(1) 注射針を取付けたガラス製のシリンジ本体(シリンジサイズ:ISO規格11040−6の1mL−Longに準拠、注射針:27G)の先端にイソプレンゴム製のキャップを取り付けて針先を封止したシリンジ(注射筒)12個を準備した。
【0191】
(2) 上記(1)で準備した12個のシリンジのそれぞれに、上記したモノクローナル抗体溶液製剤500μLを充填した後、後端開口部に、ブチルゴム製のガスケットを先端に取り付けたプランジャーを、0.2mLのヘッドスペースが残るようにして挿入して封止して、モノクローナル抗体溶液製剤を収容した12個のガラスシリンジ入りモノクローナル抗体溶液製剤を製造した。
【0192】
(3) 上記(2)で得られた12個のガラスシリンジ入りモノクローナル抗体溶液製剤のそれぞれを、実施例2で使用したのと同じ材料および構造よりなるブリスター包装用
の包装材を用いて、実施例2で使用したのと同じ脱酸素剤と共に、実施例2と同様にしてブリスター包装した後、5℃で7日間インキュベートした。
【0193】
(4) 上記(3)で得られたインキュベート後の12個の包装体(遮光能を有する外袋に入れてない包装体)のそれぞれに、温度25℃において、2000ルクスの光の照射下に25日間保存し、開始時(0日)、7日保存後、14日保存後および25日保存後の時点におけるモノクローナル抗体溶液製剤に含まれるモノクローナル抗体中のメチオニン残基(Met256とMet432)の酸化割合、高分子量種の生成割合、酸性分子種の生成割合を上記した方法で求めた。
【0194】
なお、メチオニン残基の酸化割合、高分子量種の生成割合および酸性分子種の生成割合を求めるための測定操作は、12個の包装体のうち、3個について開始時(光照射前)に行い、別の3個について光照射下に7日保存後に行い、更に別の3個について光照射下に14日保存後に行い、残りの3個について光照射下に25日保存後に行って、3個の平均値を採った。
【0195】
その結果を下記の表3に示す。
【0196】
【表3】
【0197】
実施例3のグループIと比較例2の結果を対比すると、高圧蒸気滅菌後に所定期間保存してラジカル量の低減した環状オレフィン系重合体(COP)製シリンジ本体にモノクローナル抗体溶液製剤を充填したプレフィルドシリンジ製剤を脱酸素剤と共に酸素難透過性でブリスター包装した実施例3のグループIのブリスター包装体は、ガラス製シリンジ本体にモノクローナル抗体溶液製剤を充填したプレフィルドシリンジ製剤を脱酸素剤と共に酸素難透過性の包装材でブリスター包装した比較例2のブリスター包装体に比べて、光の当たる条件下で保存したときに、モノクローナル抗体を構成するタンパク質(特にタンパク質中のメチオニン残基)の酸化割合が少なく、更に高分子量種の生成割合も少なく、また酸性分子種の生成割合が14日保存後および25日保存後では少ないことが分かる。
【0198】
従来、環状オレフィン系重合体容器は、ガラス容器に比べて酸素透過性が高いため、モノクローナル抗体などのタンパク質の容器を収容する容器としてはガラス容器よりも劣ると考えられてきたが、上記の表3の結果は、高圧蒸気滅菌後に所定期間保存してラジカル
量の低減した環状オレフィン系重合体容器にモノクローナル抗体などのタンパク質の溶液製剤を充填した環状オレフィン系重合体製の容器入りタンパク質溶液製剤を脱酸素剤と共に酸素難透過性の包装材で包装した本発明の包装体は、ガラス容器にモノクローナル抗体などのタンパク質の溶液製剤を充填したガラス容器入りタンパク質溶液製剤を脱酸素剤と共に酸素難透過性の包装材で包装した包装体に比べて、容器に収容されたタンパク質溶液製剤の酸化、タンパク質の高分子量化やアニオン化などの変性が抑制され、保存安定性に優れていることを示している。
【0199】
また、表3における実施例3のグループIとグループIIの結果を見ると、実施例3のグループIIの包装体は、環状オレフィン系重合体(COP)製シリンジ本体にモノクローナル抗体溶液製剤を充填したプレフィルドシリンジ製剤を脱酸素剤と共に酸素難透過性の包装材でブリスター包装したグループIのブリスター包装体を、遮光能を有する外袋で更に包装したことによって、遮光能を有する外袋で包装していない実施例3のグループIの包装体に比べて、モノクローナル抗体を構成するタンパク質(特にタンパク質中のメチオニン残基)の酸化割合が一層少なく、高分子量種の生成割合も一層少なく、更に酸性分子種の生成割合が一層少なくなっている。
【0200】
かかる結果は、高圧蒸気滅菌後に所定期間保存してラジカル量の低減した環状オレフィン系重合体容器にモノクローナル抗体などのタンパク質の溶液製剤を充填した容器入りタンパク質溶液製剤を脱酸素剤と共に酸素難透過性の包装材で包装した脱酸素式包装体を更に遮光能を有する外包装材で包装した本発明の包装体、または環状オレフィン系重合体容器入りタンパク質溶液製剤を脱酸素剤と共に酸素難透過性でかつ遮光能を有する包装材で包装した本発明の包装体が、容器に収容されたタンパク質溶液製剤の酸化、タンパク質の高分子量化やアニオン化などの変性の抑制、長期保存安定性の向上に一層有効であることを示している。