特許第6797997号(P6797997)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6797997タンパク質溶液製剤を収容するための医療用容器
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  • 特許6797997-タンパク質溶液製剤を収容するための医療用容器 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6797997
(24)【登録日】2020年11月20日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】タンパク質溶液製剤を収容するための医療用容器
(51)【国際特許分類】
   A61J 1/05 20060101AFI20201130BHJP
   A61J 1/06 20060101ALI20201130BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20201130BHJP
   A61K 38/22 20060101ALI20201130BHJP
   A61P 5/00 20060101ALI20201130BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20201130BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20201130BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   A61J1/05 311
   A61J1/06 Z
   A61K38/00
   A61K38/22
   A61P5/00
   A61P7/06
   A61K39/395 M
   A61K9/06
【請求項の数】10
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2019-199084(P2019-199084)
(22)【出願日】2019年10月31日
(62)【分割の表示】特願2016-551615(P2016-551615)の分割
【原出願日】2015年8月10日
(65)【公開番号】特開2020-22809(P2020-22809A)
(43)【公開日】2020年2月13日
【審査請求日】2019年11月6日
(31)【優先権主張番号】特願2014-203616(P2014-203616)
(32)【優先日】2014年10月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】木南 英明
(72)【発明者】
【氏名】中村 宏司
(72)【発明者】
【氏名】阿部 吉彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 茂
(72)【発明者】
【氏名】玉造 滋
【審査官】 小野田 達志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−113112(JP,A)
【文献】 特開2013−163017(JP,A)
【文献】 特開2009−285318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J 1/00−19/06
A61K 9/06
A61K 38/00
A61K 38/22
A61K 39/395
A61P 5/00
A61P 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用容器内にタンパク質溶液製剤を収容した、容器入りタンパク質溶液製剤であって、
前記タンパク質溶液製剤が、アミノ酸配列中にメチオニン残基またはシステイン残基を有するタンパク質の溶液製剤であり、
前記タンパク質溶液製剤が、エリスロポエチン、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、トロンボポエチン、組織プラスミノーゲン活性化因子、インシュリン、幹細胞成長因子、インターフェロンおよびインターロイキンからなる群より選択されるタンパク質の溶液製剤であり、
前記医療用容器が、環状オレフィン系重合体から形成され、高圧蒸気滅菌されており、当該医療用容器内に収容されるタンパク質溶液製剤中のタンパク質におけるメチオニン残基またはシステイン残基の酸化を抑制することを特徴とする、容器入りタンパク質溶液製剤。
【請求項2】
医療用容器内にタンパク質溶液製剤を収容した、容器入りタンパク質溶液製剤であって、
前記タンパク質溶液製剤が、アミノ酸配列中にメチオニン残基またはシステイン残基を有するタンパク質の溶液製剤であり、
前記タンパク質溶液製剤が、エリスロポエチン、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、トロンボポエチン、組織プラスミノーゲン活性化因子、インシュリン、幹細胞成長因子、インターフェロンおよびインターロイキンからなる群より選択されるタンパク質の溶液製剤であり、
前記医療用容器が、環状オレフィン系重合体から形成され、高圧蒸気滅菌されており、電子スピン共鳴装置にて測定したラジカル量が2.2×1015個/g以下であることを特徴とする、容器入りタンパク質溶液製剤。
【請求項3】
医療用容器内にタンパク質溶液製剤を収容した、容器入りタンパク質溶液製剤であって、
前記タンパク質溶液製剤が、アミノ酸配列中にメチオニン残基またはシステイン残基を有するタンパク質の溶液製剤であり、
前記タンパク質溶液製剤が、エリスロポエチン、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、トロンボポエチン、組織プラスミノーゲン活性化因子、インシュリン、幹細胞成長因子、インターフェロンおよびインターロイキンからなる群より選択されるタンパク質の溶液製剤であり、
前記医療用容器が、環状オレフィン系重合体から形成され、高圧蒸気滅菌されており、電子スピン共鳴装置にて測定したラジカル量が2.2×1015個/g以下であり、当該医療用容器内に収容されるタンパク質溶液製剤中のタンパク質におけるメチオニン残基またはシステイン残基の酸化を抑制することを特徴とする、容器入りタンパク質溶液製剤。
【請求項4】
前記医療用容器が、環状オレフィン開環重合体の水素添加物から形成されている、請求項1〜のいずれか1項に記載の容器入りタンパク質溶液製剤。
【請求項5】
前記医療用容器が、シリンジまたはカートリッジである、請求項1〜のいずれか1項に記載の容器入りタンパク質溶液製剤。
【請求項6】
プレフィルドシリンジ製剤である、請求項1〜のいずれか1項に記載の容器入りタンパク質溶液製剤。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載の容器入りタンパク質溶液製剤を、脱酸素剤と共に、酸素難透過性の包装材で密封包装した包装体。
【請求項8】
脱酸素剤の酸素吸収能が、前記包装材の収納空間全体の容積の1/5以上である請求項に記載の包装体。
【請求項9】
ブリスター包装の形態をなしている請求項またはに記載の包装体。
【請求項10】
包装体を構成する酸素難透過性の包装材が遮光能を更に有するか、または脱酸素剤と共に難酸素透過性の包装材で包装した包装体が遮光能を有する外包装材で更に包装されている請求項のいずれか1項に記載の包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質溶液製剤を収容するための医療用容器、当該医療用容器にタンパク質溶液製剤を収容した容器入りタンパク質溶液製剤、当該容器入りタンパク質溶液製剤を酸素難透過性の包装材で包装した包装体、および当該包装体を遮光能を有する包装材で更に包装した包装体に関する。
【0002】
本発明の医療用容器は、容器内に収容されるタンパク質溶液製剤に含まれるタンパク質中のアミノ酸残基の酸化、タンパク質の高分子量化、アニオン化などを抑制して、タンパク質の変性を防ぐことができる。
【背景技術】
【0003】
生理活性を有するエリスロポエチン、顆粒状コロニー刺激因子、インスリン、モノクローナル抗体、その他のタンパク質製剤を液状にしてシリンジなどの容器に収容した容器入りタンパク質溶液製剤は、従来から広く用いられている。
【0004】
容器入りタンパク質溶液製剤では、タンパク質溶液製剤を収容している容器がタンパク質の変性をもたらさず、また容器へのタンパク質の吸着などが生ずることなく、タンパク質が安定に保たれることが必要である。
【0005】
医療の分野では、重くて破損し易いガラス製の医療用容器に代えて、軽くて破損しにくくて、取り扱い性に優れるプラスチック製の容器が、近年、広く用いられている。
【0006】
医療用容器を製造するためのプラスチック素材としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、環状オレフィン系重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリメタクリレートなどが挙げられる。これらのプラスチックのうち、環状オレフィン系重合体は、透明性、耐熱性、耐放射線滅菌性、耐酸・アルカリ性、低溶出性、低不純物性、低薬品吸着性などに優れていることから、近年、医療用容器用の素材として注目され、その使用が色々試みられており、タンパク質溶液製剤においても例外ではない。
【0007】
環状オレフィン系重合体製の容器にタンパク質溶液製剤を収容した従来技術としては、環状オレフィン系重合体製容器にエリスロポエチン、顆粒状コロニー刺激因子などのタンパク質の溶液製剤を収容した容器入りタンパク質溶液製剤(特許文献1、2)、環状オレフィン系重合体製の容器にインスリン溶液などを収容した容器入りタンパク質溶液製剤(特許文献3)などが知られている。
【0008】
容器入りタンパク質溶液製剤では、タンパク質溶液製剤を収容する容器は滅菌されている必要がある。タンパク質は加熱により凝固や変性を生ずるため、容器にタンパク質溶液製剤を収容した後に高圧蒸気滅菌などにより加熱滅菌することができない。従って、容器入りタンパク質溶液製剤では、容器を予め滅菌処理し、そこに無菌的に調製したタンパク質溶液製剤を充填することが行われており、充填前の容器の滅菌処理法として、γ線や電子線などの放射線照射が通常採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO 01/01754
【特許文献2】特開2014−51502号公報
【特許文献3】特表2001−506887号公報
【特許文献4】特開2003−113112号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「Bell.System.Tech.J.」,36, p.449−484(1957)
【非特許文献2】H.M.Swartz H.M.,「Biological Application of Electron Spin Resonance」,p.121(1972)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記した従来技術を踏まえて、本発明者らは、環状オレフィン系重合体製容器に放射線の1種である電子線を照射して滅菌し、滅菌した環状オレフィン系重合体製容器にタンパク質溶液製剤を収容して容器入りタンパク質溶液製剤を調製し、当該製剤中のタンパク質の安定性などについて検討したところ、タンパク質中のアミノ酸残基の酸化、タンパク質の高分子量化、タンパク質のアニオン化などのタンパク質の変性が生じていることが判明した。タンパク質中のメチオニン残基、システイン残基、リシン残基、アルギニン残基等のアミノ酸残基の酸化、タンパク質の高分子量化、タンパク質のアニオン化などのタンパク質の変性は、タンパク質の本来の生理活性の低下や消失につながる恐れがあり、望ましくない。
【0012】
さらに、本発明者らは、環状オレフィン系重合体製容器に放射線の1種である電子線を照射して滅菌処理し、電子スピン共鳴装置を用いて当該容器を構成する環状オレフィン系重合体中のラジカル量を測定したところ、高いラジカル量を示した。本発明者らは、電子線照射により滅菌処理した環状オレフィン系重合体製容器を無菌状態で長期間保存すれば環状オレフィン系重合体中のラジカル量が低下するのではないかと考えて、電子線を照射した環状オレフィン系重合体製容器を無菌状態で室温下に6ケ月間保存したところ、ラジカル量は1ケ月保存後には大きく低減し、6ケ月保存後には電子線の照射直後の1000分の1以下にまで低減していた。そこで、本発明者らは、電子線を照射して滅菌した後に保存してラジカル量を低減させた環状オレフィン系重合体製容器中にタンパク質溶液製剤を収容して保存試験を行ったところ、環状オレフィン系重合体中のラジカル量が大幅に低減していたにも拘らず、予想外なことに、タンパク質中のメチオニン残基がかなりの割合で酸化されていた。なお、メチオニン残基は、タンパク質を構成するアミノ酸残基の中でも特に酸化を受けやすい。
【0013】
したがって、本発明の目的は、タンパク質溶液製剤を収容して保存しても、タンパク質の変性、特にタンパク質中のアミノ酸残基の酸化などのタンパク質の変性が生じない、タンパク質溶液製剤を収容するための、滅菌処理された環状オレフィン系重合体製の医療用容器を提供することである。
【0014】
そして、本発明の目的は、タンパク質中のアミノ酸残基の酸化などのタンパク質の変性が生じない環状オレフィン系重合体製の滅菌容器にタンパク質溶液製剤を収容した容器入りタンパク質溶液製剤を提供することである。
【0015】
さらに、本発明の目的は、前記した容器入りタンパク質溶液製剤を包装材で包装した、長期保存安定性に優れる包装体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねてきた。
【0017】
その結果、本発明者らは、タンパク質溶液製剤を収容するための環状オレフィン系重合体製容器にγ線や電子線などの放射線を照射して滅菌していた従来技術に代えて、環状オレフィン系重合体製容器を高圧蒸気滅菌処理し、それにより得られる滅菌後の容器にタンパク質溶液製剤を収容すると、容器内に収容したタンパク質中のアミノ酸残基の酸化などのタンパク質の変性が大幅に低減し、タンパク質の変性が抑制されることを見出した。
【0018】
また、本発明者らは、高圧蒸気滅菌処理を施した当該環状オレフィン系重合体製容器は、電子スピン共鳴装置を用いて測定したラジカル量が所定以下の低い値であることを見出した。
【0019】
さらに、本発明者らは、上記で得られた高圧蒸気滅菌後の環状オレフィン系重合体製容器にタンパク質溶液製剤を収容し、それを脱酸素剤と共に酸素難透過性の包装材で包装した脱酸素式包装体の形態にすると、滅菌容器に起因するタンパク質中のアミノ酸残基の酸化による変性が防止できるだけでなく、タンパク質溶液製剤中に含まれていた酸素、環状オレフィン系重合体製容器内に含まれていた酸素および環状オレフィン系重合体製容器と包装材との間に存在していた酸素が脱酸素剤によって吸収除去されて、酸素によるタンパク質溶液製剤の品質低下や失活が防止され、長期保存安定性に一層優れる容器入りタンパク質溶液製剤の包装体が得られることを見出した。
【0020】
また、本発明者らは、当該脱酸素式包装体において、遮光能を有する包装材を用いると、環状オレフィン系重合体製容器に収容したタンパク質溶液製剤の酸素による品質低下や失活が防止されるだけでなく、タンパク質溶液製剤の光による品質低下や失活も防止されて、長期保存安定性がより一層優れたものになることを見出し、それらの種々の知見に基づいて本発明を完成した。
【0021】
ところで、蒸気滅菌した環状ポリオレフィン製容器に32個のアミノ酸が結合したペプチドホルモンであるカルシトニンの水溶液組成物を充填すると、γ線を照射して滅菌した環状ポリオレフィン製容器にカルシトニンの水溶液組成物を充填した場合に比べて、カルシトニンの残留率が高くなることが報告されている(特許文献4)。
【0022】
しかし、この特許文献4には、環状ポリオレフィン製容器に収容されているカルシトニン中のアミノ酸残基の酸化については全く記載されていない。まして、特許文献4には、蒸気滅菌した環状ポリオレフィン製容器に充填すると、γ線を照射して滅菌した環状ポリオレフィン製容器に充填した場合に比べて、カルシトニン中のアミノ酸残基の酸化が低減することは記載されていない。
【0023】
更に、特許文献4には、カルシトニンの水溶液組成物を充填するための蒸気滅菌した環状ポリオレフィン製容器におけるラジカル量についても全く記載されていない。
【0024】
したがって、本発明は、
(1) タンパク質溶液製剤を収容するための医療用容器であって、環状オレフィン系重合体から形成され、高圧蒸気滅菌されており、当該医療用容器内に収容されるタンパク質溶液製剤中のタンパク質におけるアミノ酸残基の酸化を抑制することを特徴とする、タンパク質溶液製剤を収容するための医療用容器;
(2) タンパク質溶液製剤を収容するための医療用容器であって、環状オレフィン系重合体から形成され、高圧蒸気滅菌されており、電子スピン共鳴装置にて測定したラジカル量が2.2×1015個/g以下であることを特徴とする、タンパク質溶液製剤を収容するための医療用容器;および、
(3) タンパク質溶液製剤を収容するための医療用容器であって、環状オレフィン系重合体から形成され、高圧蒸気滅菌されており、電子スピン共鳴装置にて測定したラジカル量が2.2×1015個/g以下であり、当該医療用容器内に収容されるタンパク質溶液製剤中のタンパク質におけるアミノ酸残基の酸化を抑制することを特徴とする、タンパク質溶液製剤を収容するための医療用容器;
である。
【0025】
また、本発明は、
(4) 医療用容器が、環状オレフィン開環重合体の水素添加物から形成されている、前記(1)〜(3)のいずれかの医療用容器;および、
(5) シリンジまたはカートリッジである前記(1)〜(4)のいずれかの医療用容器;
である。
【0026】
そして、本発明は、
(6) 前記(1)〜(5)のいずれかの医療用容器内にタンパク質溶液製剤を収容した、容器入りタンパク質溶液製剤;
(7) タンパク質溶液製剤が、アミノ酸配列中にメチオニン残基またはシステイン残基を有するタンパク質からなる分子標的薬の溶液製剤である、前記(6)の容器入りタンパク質溶液製剤;
(8) タンパク質溶液製剤が、エリスロポエチンまたはモノクローナル抗体の溶液製剤である、前記(6)または(7)の容器入りタンパク質溶液製剤;および、
(9) プレフィルドシリンジ製剤である、前記(6)〜(8)のいずれかの容器入りタンパク質溶液製剤;
である。
【0027】
さらに、本発明は、
(10) 前記(6)〜(9)のいずれかの容器入りタンパク質溶液製剤を、脱酸素剤と共に、酸素難透過性の包装材で密封包装した包装体;
(11) 脱酸素剤の酸素吸収能が、前記包装材の収納空間全体の容積の1/5以上である前記(10)の包装体;
(12) ブリスター包装の形態をなしている前記(10)または(11)の包装体;および、
(13) 包装体を構成する酸素難透過性の包装材が遮光能を更に有するか、または脱酸素剤と共に難酸素透過性の包装材で包装した包装体が遮光能を有する外包装材で更に包装されている前記(10)〜(12)のいずれかの包装体;
である。
【発明の効果】
【0028】
放射線を照射して滅菌する代わりに、高圧蒸気滅菌によって滅菌した本発明の環状オレフィン系重合体製の医療用容器は、当該容器にタンパク質溶液製剤を収容したときに、タンパク質中のメチオニン残基などのアミノ酸残基の酸化などが生じにくくて、タンパク質の変性を防止することができるので、タンパク質溶液製剤を収容するための容器として有効である。
【0029】
高圧蒸気滅菌によって滅菌処理した本発明の環状オレフィン系重合体製の医療用容器は、電子スピン共鳴装置を用いて測定したラジカル量が所定以下の低い値であり、当該容器内にタンパク質溶液製剤を収容したときに、タンパク質中のメチオニン残基などのアミノ酸残基の酸化が生じにくくて、タンパク質の変性を防止することができるのでは、タンパク質溶液製剤を収容するための容器として有効である。
【0030】
高圧蒸気滅菌した本発明の環状オレフィン系重合体製医療用容器にタンパク質溶液製剤を収容してなる本発明の容器入りタンパク質溶液製剤は、タンパク質溶液製剤に含まれるタンパク質中のメチオニン残基などのアミノ酸残基の酸化などのタンパク質の変性が生じにくく、高品質を維持する。
【0031】
本発明の容器入りタンパク質溶液製剤を脱酸素剤と共に酸素難透過性の包装材で包装した本発明の包装体は、環状オレフィン系重合体製容器に収容されているタンパク質溶液製剤中に含まれていた酸素および環状オレフィン系重合体製容器の空間内に存在していた酸素が環状オレフィン系重合体製容器の器壁を通して脱酸素剤に吸収され、更に環状オレフィン系重合体製容器と包装材との間の空間に存在していた酸素が脱酸素剤によって吸収除去されて、包装体全体が低酸素状態に維持される。そのため、本発明の包装体は、高圧蒸気滅菌した環状オレフィン系重合体製容器を用いていることによるタンパク質溶液製剤に含まれるタンパク質中のメチオニン残基などのアミノ酸残基の酸化防止、タンパク質の高分子量化の防止、タンパク質のアニオン化の防止などと、脱酸素剤による酸素の吸収作用とが相俟って、タンパク質溶液製剤の品質低下や失活が一層効果的に防止されて、長期保存安定性により優れる。
【0032】
本発明の容器入りタンパク質溶液製剤を脱酸素剤と共に酸素難透過性の包装材で包装し田包装体であって、しかも遮光能を有する包装材で包装された本発明の包装体は、タンパク質溶液製剤に含まれるタンパク質中のメチオニン残基などのアミノ酸残基の酸化、タンパク質の高分子量化、タンパク質のアニオン化がより一層抑制され、タンパク質溶液製剤の品質低下や失活がより一層効果的に防止されるため、長期保存安定性により一層優れる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、本発明の容器入りタンパク質溶液製剤を脱酸素剤と共に酸素難透過性の包装材で密封包装した本発明の包装体の一例を示す図である。
図2図2は、容器入りタンパク質溶液製剤を脱酸素剤と共に酸素難透過性の包装材で密封包装した本発明の包装体を、遮光能を有する外包装材(外袋)でさらに包装した本発明の包装体の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0035】
タンパク質溶液製剤を収容するための本発明の医療用容器(タンパク質溶液製剤を収容する前の医療用容器)は、環状オレフィン系重合体から形成されている。
【0036】
本発明の医療用容器を形成する環状オレフィン系重合体は、医療用容器の製造に用い得ることが従来から知られている環状オレフィン系重合体であればいずれでもよい。
【0037】
そのうちでも、本発明の医療用容器は、(a)環状オレフィン開環重合体(COP)、(b)環状オレフィン開環重合体の水素添加物(COP)、および(c)環状オレフィンと非環状オレフィンの共重合体(COC)の中の1種または2種以上を用いて形成されていることが好ましい。
【0038】
前記(a)〜(c)の環状オレフィン系重合体を構成する環状オレフィンは、単環式環状オレフィン、多環式環状オレフィン、橋架け構造を有する多環式環状オレフィンまたはそれらの併用のいずれであってもよい。当該環状オレフィンの好ましい例として、置換されたまたは置換されていないノルボルネン系単量体、置換されたまたは置換されていないテトラシクロドデセン系単量体、置換されたまたは置換されていないジシクロペンタジエン系単量体、側鎖にシクロヘキシル基、フェニル基を有する環状ポリオレフィンなどを挙げることができる。
【0039】
また、前記(c)の環状オレフィン共重合体(COC)を構成する非環状オレフィンと
しては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、イソブチレン、メチルペンテンなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0040】
限定されるものではないが、上記(a)の環状オレフィン開環重合体(COP)の典型例としては、置換または非置換のノルボルネンの開環重合体、置換または非置換のジシクロペンタジエンの開環重合体、置換または非置換のテトラシクロドデセンの開環重合体、置換または非置換のジシクロペンタジエンと置換または非置換のテトラシクロドデセンの開環共重合体などを挙げることができる。
【0041】
限定されるものではないが、上記(b)の環状オレフィン開環重合体の水素添加物(COP)の典型例としては、置換または非置換のノルボルネンの開環重合体の水素添加物、置換または非置換のジシクロペンタジエンの開環重合体の水素添加物、置換または非置換のテトラシクロドデセンの開環重合体の水素添加物、置換または非置換のジシクロペンタジエンと置換または非置換のテトラシクロドデセンの開環共重合体の水素添加物などを挙げることができる。
【0042】
限定されるものではないが、上記(c)の環状オレフィンと非環状オレフィンの共重合体(COC)の典型例としては、置換または非置換のノルボルネンとエチレンやその他の非環状オレフィンの共重合体、置換または非置換のテトラシクロドデセンとエチレンやその他の非環状オレフィンとの共重合体、側鎖にシルロヘキシル基、フェニル基を有する環状オレフィンとエチレンやその他の非環状オレフィンとの共重合体などを挙げることができる。
【0043】
上記した(a)および(b)の環状オレフィン系重合体(COP)に該当する具体的な商品としては、例えば、「ゼオネックス」(登録商標、日本ゼオン株式会社製)、「ゼオノア」(登録商標、日本ゼオン株式会社製)などを挙げることができる。
【0044】
上記した(c)の環状オレフィン共重合体(COC)に該当する具体的な商品としては、例えば、「アペル」(登録商標、三井化学株式会社製)、「トパス」(登録商標、」ポリプラスチック株式会社製)などを挙げることができる。
【0045】
本発明の医療用容器は、いずれの環状オレフィン系重合体から形成されていてもよい。
【0046】
そのうちでも、本発明の医療用容器は、環状オレフィン開環重合体の水素添加物(COP)から形成されていることが好ましい。環状オレフィン開環重合体の水素添加物(COP)は、主鎖に炭素−炭素間の二重結合を含まないため、重合体中にラジカルが発生し難く、タンパク質の酸化変性をより防止することができる。
【0047】
本発明の医療用容器は、環状オレフィン系重合体単独から形成されていてもよいし、高圧蒸気滅菌処理時の高温に耐え得る限りは、容器の内壁を構成する最内層である環状オレフィン系重合体層と他の重合体層からなる積層構造を有していてもよいし、または本発明の主旨を逸脱しない限りにおいて環状オレフィン系重合体と他の重合体とのブレンド物から形成されていてもよい。
【0048】
また、医療用容器の種類などに応じて、容器本体が環状オレフィン系重合体から形成され、栓体、ガスケット、プランジャー、その他の部分は、それぞれに求められる特性に応じて、弾性体、他のプラスチック、金属、その他の材料から形成されていてもよい。
【0049】
本発明の医療用容器の種類、形状、サイズなどは特に制限されず、医療用容器に収容するタンパク質溶液製剤の種類、用途、投与方法などに応じて選択することができる。
【0050】
本発明の医療用容器は、例えば、シリンジ(注射筒)、ペン型注入器等に用いるカートリッジ、バイアル、ボトル、バッグなどの形態にすることができる。
【0051】
そのうちでも、本発明の医療用容器は、シリンジ(注射筒)またはカートリッジの形態であることが好ましい。これらの形態の医療用容器では、収容されたタンパク質溶液製剤を他の医療器具に移し替えることなく投与できるため、投与時のタンパク質の変性を抑えることができる。
【0052】
また、本発明の医療用容器は、例えば、内容積が0.5mL〜5Lの容器とすることができる。
【0053】
本発明の環状オレフィン系重合体製の医療用容器は、タンパク質溶液製剤の容器への収容前に、高圧蒸気滅菌されていることが必要である。
【0054】
高圧蒸気滅菌処理の温度および圧力は、容器を形成している環状オレフィン系重合体の種類、容器の形状、容器の種類、容器のサイズ、容器壁の厚さなどによって異なり得るが、医療用容器の変形、医療用容器を形成する環状オレフィン系重合体の変質や分解などを防ぎながら、短い時間で、滅菌を完全に行うためには、一般的には、加熱温度は115〜134℃が好ましく、120〜125℃がより好ましく、121〜123℃が更に好ましい。
【0055】
高圧蒸気滅菌処理の時間は、環状オレフィン系重合体の種類、容器の形状、容器の種類、容器のサイズ、容器壁の厚さなどによって異なり得るが、一般的には15〜60分間が好ましく、15〜30分間がより好ましく、20〜30分間が更に好ましい。
【0056】
高圧蒸気滅菌してなる本発明の環状オレフィン系重合体製容器では、容器を形成している環状オレフィン系重合体における、電子スピン共鳴装置を使用して測定したラジカル量が、2.2×1015個/g以下であることが好ましく、2.0×1015個/g以下であることがより好ましく、1.8×1015個/g以下であることがさらに好ましい。
【0057】
本明細書における「電子スピン共鳴装置にて測定したラジカル量」とは、電子スピン共鳴装置を使用して、非特許文献1および2に記載されている方法に準じて測定したラジカル量をいい、詳細な測定方法については、以下の実施例の項に記載するとおりである。
【0058】
高圧蒸気滅菌してなる本発明の医療用容器は、タンパク質溶液製剤を収容するための容器として用いられ、かかる点から、本発明は、本発明の医療用容器にタンパク質溶液製剤を予め収容した容器入りタンパク質溶液製剤を本発明の範囲に包含する。
【0059】
本発明の医療用容器に収容するタンパク質溶液製剤としては、生理活性のあるタンパク質であって、医療分野で用いられるタンパク質の溶液製剤が好ましく用いられ、そのうちでも、タンパク質を構成するアミノ酸配列中にメチオニン残基およびシステイン残基の一方または両方、特にメチオニン残基を有する生理活性のあるタンパク質の溶液製剤が好ましく用いられる。
【0060】
何ら限定されるものではないが、本発明で好ましく用いられるタンパク質溶液製剤の例としては、エリスロポエチン、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、トロンボポエチンなどの造血因子、モノクローナル抗体、サイトカイン、アンタゴニスト、アゴニストなどの分子標的薬、血清アルブミン、組織プラスミノーゲン活性化因子、インシュリン、幹細胞成長因子、インターフェロンおよびインターロイキンなど
のタンパク質を含む溶液製剤を挙げることができる。
【0061】
メチオニン残基は、タンパク質を構成するアミノ酸残基の中でも特に酸化を受けやすく、システイン残基は、酸化により分子内または分子間でジスフィド架橋を形成し、タンパク質の高次構造に影響を与える。このため、本発明の医療用容器は、エリスロポエチン、アバタセプト、エタネルセプト、アダリムマブ、リツキシマブ、トラスツズマブ、パリビズマブなどのアミノ酸配列中にメチオニン残基またはシステイン残基を有するタンパク質を含む溶液製剤を収容するための容器として適している。
【0062】
さらに、モノクローナル抗体、アンタゴニスト、アゴニストなどのタンパク質からなる分子標的薬では、その高次構造が薬剤としての効果を発揮する上で特に重要である。このため、本発明の医療用容器は、アバタセプト、エタネルセプト、アダリムマブ、リツキシマブ、トラスツズマブ、パリビズマブなどのアミノ酸配列中にメチオニン残基またはシステイン残基を有するタンパク質からなる分子標的薬を含む溶液製剤を収容するための容器として特に適している。
【0063】
本発明の医療用容器に収容するタンパク質溶液製剤の配合内容、pHやその他の物性は特に制限されず、タンパク質溶液製剤の種類などに応じて、それぞれのタンパク質溶液製剤において従来から採用されている配合内容や物性にすることができる。
【0064】
本発明の医療用容器に収容するタンパク質溶液製剤は、安定化剤、緩衝剤、溶解補助剤、等張化剤、pH調整剤、無痛化剤、還元剤、酸化防止剤やその他の成分の1種または2種以上を必要に応じて含有してもよい。
【0065】
タンパク質溶液製剤が含有し得る安定化剤としては、例えば、非イオン界面活性剤(ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンミツロウ誘導体、ポリオキシエチレンラノリン誘導体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、レシチン、グリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質、ショ糖脂肪酸エステルなど)、陰イオン界面活性剤(アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルスルホコハク酸エステル塩など)などの界面活性剤;アミノ酸などを挙げることができる。
【0066】
そのうちでも、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが好ましく、特にポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(ポリソルベート80)および/またはポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(ポリソルベート20)がより好ましい。
【0067】
また、安定化剤として用い得るアミノ酸の具体例としては、ロイシン、トリプトファン、セリン、グルタミン酸、アルギニン、ヒスチジン、リジン、メチオニン、フェニルアラニンおよびアセチルトリプトファン、それらの塩などを挙げることができ、アミノ酸はL−体、D−体、DL−体のいずれであってもよい。
【0068】
そのうちでも、L−ロイシン、L−トリプトファン、L−グルタミン酸、L−アルギニン、L−ヒスチジン、L−リジン、これらの塩が好ましく用いられる。
【0069】
緩衝剤としては、例えば、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなどのリン酸塩、クエン酸ナトリウムなどのクエン酸塩などを挙げることができる。
【0070】
溶解補助剤としては、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(ポリソルベート80)および/またはポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(ポリソルベート20)、クレモフォール、エタノール、ドデシリベンゼンスルホン酸ナトリウムなどを挙げることができる。
【0071】
等張化剤としては、例えば、ポリエチレングリコール;デキストラン、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、グルコース、フラクトース、ラクトース、キシロース、マンノース、マルトース、シュークロース、ラフィノースなどの糖類などを挙げることができる。
【0072】
本発明の医療用容器に収容するタンパク質溶液製剤中のタンパク質含量は特に制限されず、タンパク質の種類、タンパク質溶液製剤の用途、使用形態などに応じて調整することができる。
【0073】
また、本発明では、市場で流通し販売されているタンパク質溶液製剤を本発明の医療用容器に収容して、容器入りタンパク質溶液製剤としてもよい。
【0074】
本発明の容器入りタンパク質溶液製剤としては、タンパク質溶液製剤を予め収容した形態で流通、販売される、プレフィルドシリンジ製剤、プレフィルドバッグ製剤、プレフィルドボトル製剤などを挙げることができる。そのうちでも、特に好適な容器入りタンパク質溶液製剤は、環状オレフィン系重合体製のシリンジまたはカートリッジにタンパク質溶液製剤を予め収容したプレフィルドシリンジ製剤である。
【0075】
本発明の容器入りタンパク質溶液製剤が、タンパク質溶液製剤を収容したプレフィルドシリンジ製剤またはカートリッジ製剤である場合には、プレフィルドシリンジ製剤におけるシリンジ本体(注射筒)またはカートリッジとして、予め高圧蒸気滅菌した環状オレフィン系重合体製の注射筒またはカートリッジを用い、当該注射筒の先端に注射針を取り付けた状態でまたは取り付けずに先端部を封止し、そこに無菌的に調製したタンパク質溶液製剤を充填した後、注射筒の後端に、弾性体製のガスケットを挿入するかまたはガスケットを取り付けたプランジャーを挿入して密封することによって、タンパク質溶液製剤入りのプレフィルドシリンジ製剤またはカートリッジを得ることができる。
【0076】
本発明の医療用容器にタンパク質溶液製剤を収容してなる容器入りタンパク質溶液製剤は、適当な包装材で包装して保存、流通、販売してもよいが、当該容器入りタンパク質溶液製剤を、脱酸素剤と共に酸素難透過性の包装材で密封包装した包装体(以下、これを「脱酸素式包装体」ということがある)の形態にして保存、流通、販売することが好ましく、本発明は、当該脱酸素式包装体を本発明の範囲に包含する。
【0077】
本発明の脱酸素式包装体では、環状オレフィン系重合体製容器と包装材との間の空間に存在していた酸素が脱酸素剤によって吸収除去され、更に環状オレフィン系重合体製容器に収容されているタンパク質溶液製剤中に含まれていた酸素および環状オレフィン系重合体製容器の空間内に存在していた酸素が環状オレフィン系重合体製容器の器壁を通して脱酸素剤に吸収されて、タンパク質溶液製剤中も含めた、脱酸素式包装体全体が低酸素状態に維持される。そのため、本発明の脱酸素式包装体では、高圧蒸気滅菌した環状オレフィン系重合体製容器を用いていることによるタンパク質溶液製剤に含まれるタンパク質中のアミノ酸残基の酸化防止と、脱酸素剤による酸素の吸収とが相俟って、タンパク質溶液製剤の酸化による品質低下や失活が一層効果的に防止されて、長期保存安定性により優れる。
【0078】
更に、本発明の脱酸素式包装体において、遮光能を有する包装材を用いて包装したものは、環状オレフィン系重合体製容器に収容したタンパク質溶液製剤中のタンパク質の酸化による品質低下や失活が防止されるだけでなく、光による品質低下や失活も防止されるため、長期保存安定性により一層優れている。
【0079】
本発明の脱酸素式包装体を、遮光能を更に有する包装体にするには、例えば、
(a)高圧蒸気滅菌された環状オレフィン系重合体製容器に収容したタンパク質溶液製剤を、脱酸素剤と共に、酸素難透過性で且つ遮光能を有する包装材を用いて密封包装する;(b)高圧蒸気滅菌された環状オレフィン系重合体製容器に収容したタンパク質溶液製剤を、脱酸素剤と共に、酸素難透過性の包装材を用いて密封包装した後、遮光能を有する外包装材を用いて更に包装する;
などの方式を採用することができる。
【0080】
本発明の脱酸素式包装体に用いる酸素難透過性の包装材としては、一般に汎用されている酸素難透過性のフィルムやシートを使用することができ、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、塩化ビニリデン・塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン・アクリル酸エステル共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリアミドからなるフィルムやシート、これらの少なくとも1つを含む多層フィルムや多層シートなどを挙げることができる。
【0081】
限定されるものではないが、酸素難透過性の包装材の具体例としては、ポリプロピレン、ポリエチレンなどポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリスチレン/ポリプロピレン樹脂などの樹脂からなる層と、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、塩化ビニリデン・塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン・アクリル酸エステル共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリアミドなどの酸素難透過性の樹脂からなる層を有する多層フィルムまたは多層シート(具体例としては、ポリプロピレン/エチレン−ビニルアルコール系共重合体/ポリプロピレン三層フィルム、ポリエチレンテレフタレート/エチレン−ビニルアルコール系共重合体/ポリプロピレン三層フィルム、ポリエチレンテレフタレート層とエチレン−ビニルアルコール系共重合体層からなるフィルムなど)などを挙げることができる。
【0082】
また、難酸素透過性で且つ遮光能を有する包装材としては、
*上記で挙げた酸素難透過性の重合体よりなる酸素難透過性の単層フィルムや単層シートの一方または両方の表面に、アルミ箔層、アルミ蒸着層、酸化アルミ蒸着層、酸化ケイ素蒸着層などの遮光能を有する層を積層したシートまたはフィルムからなる包装材;
*上記した酸素難透過性の多層フィルムや多層シートの表面や層間にアルミ箔層、アルミ蒸着層、酸化アルミ蒸着層、酸化ケイ素蒸着層などの遮光能を有する層を積層した多層シートまたは多層フィルムからなる包装材;
などを挙げることができる。
【0083】
限定されるものではないが、本発明の脱酸素式包装体で有効に用い得る、酸素難透過性で且つ遮光能を有する包装材の具体例としては、
《1》2軸延伸ポリアミド(OPA)/ポリエチレン(PE)/アルミニウム蒸着ポリエチレンテレフタレート(PET)/ポリエチレン(PE)の層構造を有する積層フィルムまたは積層シート;
《2》OPA/PE/アルミニウム蒸着PET/PEの層構造を有する積層フィルムまたは積層シート;
《3》OPA/PE/アルミニウム箔/PE/PEの層構造を有する積層フィルムまた
は積層シート;
《4》OPA/PE/アルミニウム箔/PE/PET/PEの層構造を有する積層フィルムまたは積層シート;
《5》PET/PE/アルミニウム蒸着PET/PE/エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)/PEの層構造を有する積層フィルムまたは積層シート」;
《6》ポリ塩化ビニリデン/PE/アルミニウム蒸着PET/PEの層構造を有する積層フィルムまたは積層シート;
《7》PET/アルミニウム蒸着エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)/PEの層構造を有する積層フィルムまたは積層シート;
などを挙げることができる。
【0084】
また、酸素難透過性の包装材とは別に遮光能を有する包装材を用いて脱酸素式包装体を包装する場合は、遮光能を有する包装材としては、例えば、アルミニウム箔、酸素難透過性でない何らの基材シートや基材フィルム上にアルミニウム箔層またはアルミニウム蒸着層を形成したシートまたはフィルム、アルミニウムなどの金属から形成された缶などの金属製容器、厚紙などの遮光性を有する紙から形成された袋や箱容器などを挙げることができる。
【0085】
包装材として用いられる酸素難透過性のフィルムまたはシート、酸素難透過性で且つ遮光能を有するフィルムまたはシート、酸素難透過性でないが遮光能を有するフィルムやシートなどは、その表面、裏面および/または層間に接着剤層を更に有していてもよいし、またその表面、裏面、層間に印刷などが施されていてもよい。
【0086】
本発明の脱酸素式包装体は、当該包装体の構造や形状などに応じて、1種類の酸素難透過性の包装材のみを用いて形成されていてもよいし、2種類以上の酸素難透過性の包装材を用いて形成されていてもよい。例えば、容器入りタンパク質溶液製剤がプレフィルドシリンジ製剤であって、当該プレフィルドシリンジ製剤を脱酸素剤と共にブリスター方式によって包装する場合には、当該ブリスター方式の包装体を、プレフィルドシリンジ製剤を収納する凹部を有する本体部分と、当該凹部にプレフィルドシリンジ製剤を収納した後にその上面を覆う被覆部分を、各々に求められる機能などに応じて、互いに異なる酸素難透過性のフィルムまたはシート、或いは互いに異なる酸素難透過性で且つ遮光能を有するフィルムまたはシートから形成し、両者をその周縁などで密封した構造にすることができる。また、前記したブリスター方式の包装体が遮光能を有していない場合には、当該ブリスター方式の包装体の全体を、遮光能を有する包装材で包んでもよいし、遮光能を有する容器中に収納してもよい。
【0087】
図1に示すようなブリスター方式の包装体において、ボトム材3およびトップ材5のそれぞれを、酸素難透過性でかつ遮光能を有するフィルムやシートから形成すると、酸素難透過性でかつ遮光能を有するブリスター包装体を得ることができるので、望ましい。これにより、遮光能を有する外包装材を別途使用することなく、一回の包装で遮光能を有する脱酸素式包装体とすることができ、しかも外包装材が不要となるため保管の際にスペースをとらず、更には使用時にブリスター包装体から環状オレフィン系重合体容器入りのタンパク質溶液製剤を簡単に取り出すことができる。
【0088】
また、ブリスター包装体は、袋などに収容された包装体に比べて、輸送時などの振動が環状オレフィン系重合体容器入りのタンパク質溶液製剤に伝わりにくいため、タンパク質溶液製剤にかかる物理的なストレスが軽減され、タンパク質溶液製剤の品質低下や失活などが効果的に防止される。
【0089】
限定されるものではないが、酸素難透過性でかつ遮光能を有するブリスター包装体とし
ては、前記した《1》〜《7》の積層シートのいずれかをトップ材5として用いると共に、ボトム材3としてポリプロピレン/エチレン−ビニルアルコール系共重合体(EVOH)/顔料(カーボンブラックなど)含有ポリプロピレン積層シートを用いたブリスター包装体などを挙げることができる。
【0090】
本発明の脱酸素式包装体では、脱酸素剤として、医療分野において従来から用いられている脱酸素剤のいずれもが使用できる。限定されるものではないが、本発明で用い得る脱酸素剤の例としては、水酸化鉄、酸化鉄、炭化鉄などの鉄化合物を有効成分とするものを挙げることができる。
【0091】
市販品としてはエージレス(登録商標、三菱ガス化学株式会社製)、モジュラン(登録商標、日本化薬株式会社製)、セキュール(登録商標、ニッソーファイン株式会社製)などを挙げることができる。
【0092】
脱酸素剤の酸素吸収能は、酸素式包装体における収納空間全体の容積の1/5以上であることが好ましく、1/3以上であることがより好ましく、2倍以上であることがさらに好ましい。これにより、より確実にタンパク質溶液製剤中も含めた脱酸素式包装体全体が低酸素状態に維持され、タンパク質溶液製剤の酸化による品質低下や失活がより一層効果的に防止される。
【実施例】
【0093】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0094】
以下の例において、医療用容器のラジカル量は以下のようにして求めた。
【0095】
[医療用容器のラジカル量]
医療用容器[シリンジ本体(注射筒)]の長さ方向の中央に相当する箇所の壁部から縦×横=3mm×3mmの試験片を切り取り、直径約3.5mmのサンプルチューブに入れ、電子スピン共鳴装置(Bruker社製「ELEXSYS E580」)を使用して、以下の条件でラジカル量を測定し、試験片1g当たりのラジカル量(個)を求めた。
【0096】
[ラジカル量の測定条件]
・設定温度:室温(25℃)
・中心磁場:3517G付近
・磁場掃引幅:400G
・変調:100kHz、2G
・マイクロ波:9.85GHz、0.1mW
・掃引時間:83.89s×4回
・時定数:163.84ms
・データポイント数:1024
・キャビティー:TE001、円筒型
また、以下の実施例1、比較例1、参考例1、実施例2および実施例3では、環状オレフィン系重合体製の医療用容器として、次のものを使用した。
【0097】
[環状オレフィン系重合体製の医療用容器]
環状ポリオレフィン重合体(COP)(比重=約1)(「ゼオネックス」(登録商標、日本ゼオン株式会社製))を用いてインサート射出成形によって製造した、プレフィルドシリンジ製剤用の注射針付きシリンジ本体(シリンジサイズ:ISO規格11040−6の1mL−Longに準拠、注射針:27G)。
【0098】
《製造例1》[エリスロポエチン溶液製剤の製造]
エリスロポエチン(Sigma−Aldrich社製)を、2mMのNaHPOと0.06mg/mLのポリソルベート80を含有する水溶液に加えて完全に溶解させて、エリスロポエチンの濃度が24,000IU/mLの溶液を製造し、この溶液を以下の実施例1、比較例1、参考例1、実施例2において、エリスロポエチン溶液製剤として用いた。
【0099】
《実施例1》
(1) 環状オレフィン重合体(COP)製のシリンジ本体の先端にイソプレンゴム製のキャップを取り付けて針先を封止したシリンジ(注射筒)24個をオートクレーブに入れて、121℃で20分間、高圧蒸気滅菌した。
【0100】
(2) 上記(1)で高圧蒸気滅菌した24個のシリンジを、6個ずつ4つのグループIa,IIa,IIIaおよびIVaに分けた。
【0101】
(3)(i) 第1のグループIaのシリンジ6個をさらに3個ずつ2つのグループIaとIaに分けた。
【0102】
(ii) グループIaの3個のシリンジについては、上記(1)の高圧蒸気滅菌の直後に、シリンジ本体の長さ方向の中央に相当する箇所の壁部から縦×横=3mm×3mmの試験片(重量:約46〜61mg)を切り取って、電子スピン共鳴装置を使用して上記した方法でラジカル量を測定し、3個の平均値を採って高圧蒸気滅菌処理直後のシリンジ本体のラジカル量を求めた。
【0103】
その結果を下記の表1に示す。
【0104】
(iii)(a) グループIaの3個のシリンジについては、それぞれに製造例1で製造したエリスロポエチン溶液製剤1.0mLを充填し、後端開口部に、ブチルゴム製のガスケットを先端に取り付けたプランジャーを、0.2mLのヘッドスペースが残るようにして挿入して封止し、高圧蒸気滅菌直後のシリンジ内にエリスロポエチン溶液製剤を収容した3個のプレフィルドシリンジ製剤を製造した。
【0105】
(b) 上記(a)で製造した3個のプレフィルドシリンジ製剤を、温度25℃、湿度60%RHの条件下で4週間保存した後、シリンジ内に収容されているエリスロポエチン溶液製剤に含まれているエリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合を下記の方法で測定し、3個の試料の平均値を採って、メチオニン残基の酸化割合(%)とした。
【0106】
その結果を下記の表1に示す。
【0107】
《エリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合》
(i) エリスロポエチン溶液製剤100μLと酢酸アンモニウム400μL(100mM、pH8.0)の混合物を遠心濾過器(Milipore Ireland Ltd.製「Amicon Ultra−0.5 10K)の受け皿に入れて、14,000Gで15分間遠心分離した。
【0108】
(ii) 濾紙上の残渣を回収し、回収した残渣に、酢酸アンモニウム溶液(100mM、pH8.0)を加えて全量を50μLにした。これに、酸化メチオニンフラグメントと未酸化メチオニンフラグメントを分離するため、1μg/mL Glu−C(pH5.6)と100mM 酢酸アンモニウムを加えた。
【0109】
(iii) 次いで、試料を37℃で24時間インキュベートした後、10mM 酢酸アンモニウム溶液(pH8.0)で希釈し、以下の条件で高速液体クロマトグラフフィー分析(HPLC)を行って、酸化メチオニンフラグメントの量と未酸化メチオニンフラグメントの量を測定した。
【0110】
[HPLCの条件]
・移動相A:0.05%トリフルオロ酢酸水溶液
・移動相B:0.05%のトリフルオロ酢酸を含有するアセトニトリル
・カラム:オクタデシル基結合シリカゲルカラム(Inertsil ODS−3)(5μm、205mm×2.1mm i.d.)
・カラム温度:40℃、
・注入量:30μL
・トータル流速:0.25mL/min
・フローモード:直線勾配モード
・測定波長:280nm
(iv) 上記(iii)で測定した酸化メチオニンフラグメントの量(Mf)と未酸化メチオニンフラグメント(Mf)の量から、以下の数式<1>にしたがって、エリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合(%)を求めた。
【0111】
メチオニン残基の酸化割合(%)={Mf/(Mf+Mf)}×100 <1>
(4)(i) 第2のグループIIaのシリンジ6個を、上記(1)の高圧蒸気滅菌後に温度25℃、湿度60%RHの条件下で1ケ月間保存した後、さらに3個ずつ2つのグループIIaとIIaに分けた。
【0112】
(ii) グループIIaの3個のシリンジについては、上記(i)の1ケ月間の保存後に、シリンジ本体の長さ方向の中央に相当する箇所の壁部から縦×横=3mm×3mmの試験片(重量:約46〜61mg)を切り取って、電子スピン共鳴装置を使用して上記した方法でラジカル量を測定し、3個の平均値を採って高圧蒸気滅菌後に1ケ月間保存したときのシリンジ本体のラジカル量を求めた。
【0113】
その結果を下記の表1に示す。
【0114】
(iii)(a) グループIIaの3個のシリンジについては、上記(i)の高圧蒸気滅菌後の1ケ月間の保存後に、それぞれに製造例1で製造したエリスロポエチン溶液製剤1.0mLを充填し、後端開口部に、ブチルゴム製のガスケットを先端に取り付けたプランジャーを、0.2mLのヘッドスペースが残るようにして挿入して封止し、シリンジ内にエリスロポエチン溶液製剤を収容した3個のプレフィルドシリンジ製剤を製造した。
【0115】
(b) 上記(a)で製造した3個のプレフィルドシリンジ製剤を、温度25℃、湿度60%RHの条件下で4週間保存した後、シリンジ内に収容されているエリスロポエチン溶液製剤に含まれているエリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合を上記した方法で測定し、3個の試料の平均値を採って、メチオニン残基の酸化割合(%)とした。
【0116】
その結果を下記の表1に示す。
【0117】
(5)(i) 第3のグループIIIaのシリンジ6個を、上記(1)の高圧蒸気滅菌後に温度25℃、湿度60%RHの条件下で3ケ月間保存した後、さらに3個ずつ2つのグループIIIaとIIIaに分けた。
【0118】
(ii) グループIIIaの3個のシリンジについては、上記(i)の3ケ月間の保存後に、シリンジ本体の長さ方向の中央に相当する箇所の壁部から縦×横=3mm×3mmの試験片(重量:約46〜61mg)を切り取って、電子スピン共鳴装置を使用して上記した方法でラジカル量を測定し、3個の平均値を採って。高圧蒸気滅菌処理後に3ケ月間保存したときのシリンジ本体のラジカル量を求めた。
【0119】
その結果を下記の表1に示す。
【0120】
(iii)(a) グループIIIaの3個のシリンジについては、上記(i)の高圧蒸気滅菌後の3ケ月間の保存後に、それぞれに製造例1で製造したエリスロポエチン溶液製剤1.0mLを充填し、後端開口部に、ブチルゴム製のガスケットを先端に取り付けたプランジャーを、0.2mLのヘッドスペースが残るようにして挿入して封止し、シリンジ内にエリスロポエチン溶液製剤を収容した3個のプレフィルドシリンジ製剤を製造した。
【0121】
(b) 上記(a)で製造した3個のプレフィルドシリンジ製剤を、温度25℃、湿度60%RHの条件下で4週間保存した後、シリンジ内に収容されているエリスロポエチン溶液製剤に含まれているエリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合を上記した方法で測定し、3個の試料の平均値を採って、メチオニン残基の酸化割合(%)とした。
【0122】
その結果を下記の表1に示す。
【0123】
(6)(i) 第4のグループIVaのシリンジ6個を、上記(1)の高圧蒸気滅菌後に温度25℃、湿度60%RHの条件下で6ケ月間保存した後、さらに3個ずつ2つのグループIVaとIVaに分けた。
【0124】
(ii) グループIVaの3個のシリンジについては、上記(i)の高圧蒸気滅菌後の6ケ月間の保存後に、シリンジ本体の長さ方向の中央に相当する箇所の壁部から縦×横=3mm×3mmの試験片(重量:約46〜61mg)を切り取って、電子スピン共鳴装置を使用して上記した方法でラジカル量を測定し、3個の平均値を採って、高圧蒸気滅菌処理後に6ケ月間保存したときのシリンジ本体のラジカル量を求めた。
【0125】
その結果を下記の表1に示す。
【0126】
(iii)(a) グループIVaの3個のシリンジについては、上記(i)の高圧蒸気滅菌後の6ケ月間の保存後に、それぞれに製造例1で製造したエリスロポエチン溶液製剤1.0mLを充填し、後端開口部に、ブチルゴム製のガスケットを先端に取り付けたプランジャーを、0.2mLのヘッドスペースが残るようにして挿入して封止し、シリンジ内にエリスロポエチン溶液製剤を収容した3個のプレフィルドシリンジ製剤を製造した。
【0127】
(b) 上記(a)で製造した3個のプレフィルドシリンジ製剤を、温度25℃、湿度60%RHの条件下で4週間保存した後、シリンジ内に収容されているエリスロポエチン溶液製剤に含まれているエリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合を上記した方法で上記した方法で測定し、3個の試料の平均値を採って、メチオニン残基の酸化割合(%)とした。
【0128】
その結果を下記の表1に示す。
【0129】
《比較例1》
(1) 環状オレフィン重合体(COP)製のシリンジ本体の先端にイソプレンゴム製のキャップを取り付けて針先を封止したシリンジ(注射筒)24個のそれぞれに電子線を25kGy照射して滅菌した。
【0130】
(2) 上記(1)で電子線照射して滅菌した24個のシリンジを、6個ずつ4つのグループIb,IIb,IIIbおよびIVbに分けた。
【0131】
(3)(i) 第1のグループIbのシリンジ6個を、さらに3個ずつ2つのグループIbとIbに分けた。
【0132】
(ii) グループIbの3個のシリンジについては、上記(1)の電子線照射滅菌の直後に、シリンジ本体の長さ方向の中央に相当する箇所の壁部から縦×横=3mm×3mmの試験片(重量:約46〜61mg)を切り取って、電子スピン共鳴装置を使用して上記した方法でラジカル量を測定し、3個の平均値を採って電子線照射滅菌の直後のシリンジ本体のラジカル量を求めた。
【0133】
その結果を下記の表1に示す。
【0134】
(iii)(a) グループIbの3個のシリンジについては、それぞれに製造例1で製造したエリスロポエチン溶液製剤1.0mLを充填し、後端開口部に、ブチルゴム製のガスケットを先端に取り付けたプランジャーを、0.2mLのヘッドスペースが残るようにして挿入して封止し、電子線照射滅菌直後のシリンジ内にエリスロポエチン溶液製剤を収容した3個のプレフィルドシリンジ製剤を製造した。
【0135】
(b) 上記(a)で製造した3個のプレフィルドシリンジ製剤を、温度25℃、湿度60%RHの条件下で4週間保存した後、シリンジ内に収容されているエリスロポエチン溶液製剤に含まれているエリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合を上記した方法で測定し、3個の試料の平均値を採って、メチオニン残基の酸化割合(%)とした。
【0136】
その結果を下記の表1に示す。
【0137】
(4)(i) 第2のグループIIbのシリンジ6個を、上記(1)の電子線照射滅菌後に温度25℃、湿度60%RHの条件下で1ケ月間保存した後、さらに3個ずつ2つのグループIIbとIIbに分けた。
【0138】
(ii) グループIIbの3個のシリンジについては、上記(i)の電子線照射滅菌後の1ケ月間の保存後に、シリンジ本体の長さ方向の中央に相当する箇所の壁部から縦×横=3mm×3mmの試験片(重量:約46〜61mg)を切り取って、電子スピン共鳴装置を使用して上記した方法でラジカル量を測定し、3個の平均値を採って電子線照射滅菌後に1ケ月間保存したときのシリンジ本体のラジカル量を求めた。
【0139】
その結果を下記の表1に示す。
【0140】
(iii)(a) グループIIbの3個のシリンジについては、上記(i)の1ケ月間の保存後に、それぞれに製造例1で製造したエリスロポエチン溶液製剤1.0mLを充填し、後端開口部に、ブチルゴム製のガスケットを先端に取り付けたプランジャーを、0.2mLのヘッドスペースが残るようにして挿入して封止し、シリンジ内にエリスロポエチン溶液製剤を収容した3個のプレフィルドシリンジ製剤を製造した。
【0141】
(b) 上記(a)で製造した3個のプレフィルドシリンジ製剤を、温度25℃、湿度60%RHの条件下で4週間保存した後、シリンジ内に収容されているエリスロポエチン溶液製剤に含まれているエリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合を上記した方法で測定し、3個の試料の平均値を採って、メチオニン残基の酸化割合(%)とした。
【0142】
その結果を下記の表1に示す。
【0143】
(5)(i) 第3のグループIIIbのシリンジ6個を、上記(1)の電子線照射滅菌後に温度25℃、湿度60%RHの条件下で3ケ月間保存した後、さらに3個ずつ2つのグループIIIbとIIIbに分けた。
【0144】
(ii) グループIIIbの3個のシリンジについては、上記(i)の電子線照射滅菌後の3ケ月間の保存後に、シリンジ本体の長さ方向の中央に相当する箇所の壁部から縦×横=3mm×3mmの試験片(重量:約46〜61mg)を切り取って、電子スピン共鳴装置を使用して上記した方法でラジカル量を測定し、3個の平均値を採って電子線照射滅菌後に3ケ月間保存したときのシリンジ本体のラジカル量を求めた。
【0145】
その結果を下記の表1に示す。
【0146】
(iii)(a) グループIIIbの3個のシリンジについては、上記(i)の電子線照射滅菌後の3ケ月間の保存後に、それぞれに製造例1で製造したエリスロポエチン溶液製剤1.0mLを充填し、後端開口部に、ブチルゴム製のガスケットを先端に取り付けたプランジャーを、0.2mLのヘッドスペースが残るようにして挿入して封止し、シリンジ内にエリスロポエチン溶液製剤を収容した3個のプレフィルドシリンジ製剤を製造した。
【0147】
(b) 上記(a)で製造した3個のプレフィルドシリンジ製剤を、温度25℃、湿度60%RHの条件下で4週間保存した後、シリンジ内に収容されているエリスロポエチン溶液製剤に含まれているエリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合を上記した方法で測定し、3個の試料の平均値を採って、メチオニン残基の酸化割合(%)とした。
【0148】
その結果を下記の表1に示す。
【0149】
(6)(i) 第4のグループIVbのシリンジ6個を、上記(1)の電子線照射滅菌後に温度25℃、湿度60%RHの条件下で6ケ月間保存した後、さらに3個ずつ2つのグループIVbとIVbに分けた。
【0150】
(ii) グループIVbの3個のシリンジについては、上記(i)の電子線照射滅菌後の6ケ月間の保存後に、シリンジ本体の長さ方向の中央に相当する箇所の壁部から縦×横=3mm×3mmの試験片(重量:約46〜61mg)を切り取って、電子スピン共鳴装置を使用して上記した方法でラジカル量を測定し、3個の平均値を採って電子線照射滅菌後に6ケ月保存したときのシリンジ本体のラジカル量を求めた。
【0151】
その結果を下記の表1に示す。
【0152】
(iii)(b) グループIVbの3個のシリンジについては、上記(i)の電子線照射滅菌後の6ケ月間の保存後に、それぞれに製造例1で製造したエリスロポエチン溶液製剤1.0mLを充填し、後端開口部に、ブチルゴム製のガスケットを先端に取り付けたプランジャーを、0.2mLのヘッドスペースが残るようにして挿入して封止し、シリンジ内にエリスロポエチン溶液製剤を収容した3個のプレフィルドシリンジ製剤を製造し
た。
【0153】
(b) 上記(b)で製造した3個のプレフィルドシリンジ製剤を、温度25℃、湿度60%RHの条件下で4週間保存した後、シリンジ内に収容されているエリスロポエチン溶液製剤に含まれているエリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合を上記した方法で測定し、3個の試料の平均値を採って、メチオニン残基の酸化割合(%)とした。
【0154】
その結果を下記の表1に示す。
【0155】
《参考例1》
(1) シリンジ本体の3個について、滅菌処理を施さずに、当該シリンジ本体の長さ方向の中央に相当する箇所の壁部から縦×横=3mm×3mmの試験片(重量:約46〜61mg)を切り取って、電子スピン共鳴装置を使用して上記した方法でラジカル量を測定し、3個の平均値を採って、滅菌処理を行わないシリンジ本体のラジカル量を求めた。
【0156】
その結果を下記の表1に示す。
【0157】
(2)(i) 滅菌処理を施してない別の3個のシリンジ本体のそれぞれにイソプレンゴム製のキャップを取り付けて針先を封止した後、それぞれに製造例1で製造したエリスロポエチン溶液製剤1.0mLを充填し、後端開口部に、ブチルゴム製のガスケットを先端に取り付けたプランジャーを、0.2mLのヘッドスペースが残るようにして挿入して封止し、滅菌処理を施してないシリンジ内にエリスロポエチン溶液製剤を収容した3個のプレフィルドシリンジ製剤を製造した。
【0158】
(ii) 上記(i)で製造した3個のプレフィルドシリンジ製剤を、温度25℃、湿度60%RHの条件下で4週間保存した後、シリンジ内に収容されているエリスロポエチン溶液製剤に含まれているエリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合を上記した方法で測定し、3個の試料の平均値を採って、メチオニン残基の酸化割合(%)とした。
【0159】
その結果を下記の表1に示す。
【0160】
【表1】
【0161】
上記の表1の結果にみるように、高圧蒸気滅菌した実施例1の環状オレフィン系重合体
製の医療用容器(シリンジ)では、当該容器にタンパク質(エリスロポエチン)溶液製剤を収容して保存したときに、溶液製剤に含有されているタンパク質(エリスロポエチン)中のメチオニン残基の酸化割合が小さく、タンパク質の変性を抑制することができる。
【0162】
それに対して、電子線照射して滅菌した比較例1の環状オレフィン系重合体製容器では、当該容器にタンパク質(エリスロポエチン)溶液製剤を収容して保存したときに、溶液製剤に含有されているタンパク質(エリスロポエチン)中のメチオニン残基の酸化割合が実施例1に比べて2倍以上となっており、タンパク質の変性が生じやすい。
【0163】
しかも、電子線照射して滅菌した比較例1の環状オレフィン系重合体製容器では、電子線照射滅菌後に例えば6ケ月間放置しておくと、環状オレフィン系重合体中のラジカル量は電子線照射直後の100分の1以下に低減するにも拘わらず、当該6ケ月放置後の環状オレフィン系重合体製容器中にタンパク質(エリスロポエチン)溶液製剤を収容した場合でも、溶液製剤に含有されているタンパク質(エリスロポエチン)中のメチオニン残基の酸化割合が依然として高く、タンパク質の酸化変性が生じ易い。
【0164】
《実施例2》
(1)(i) ポリプロピレン(195μm)/エチレン−ビニルアルコール共重合体(10μm)/ポリプロピレン(195μm)からなる三層フィルムをボトム材3として用いて、当該ボトム材3に、図1に示すように、エリスロポエチン溶液製剤を収容したプレフィルドシリンジ製剤1と脱酸素剤2を収納するための凹部4を形成した。
【0165】
(ii) 上記(i)で形成した凹部4に、脱酸素剤2[三菱ガス化学株式会社製「エージレス(登録商標)Z−10PTR」]と共に、実施例1の(6)の(iii)の(a)と同様の操作を行なって製造した、高圧蒸気滅菌後のシリンジ内にエリスロポエチン溶液製剤を収容したプレフィルドシリンジ製剤(高圧蒸気滅菌後に6ケ月間25℃で保存したシリンジ本体にエリスロポエチン溶液製剤を収容したプレフィルドシリンジ製剤)1を収納した。
【0166】
(iii) 次に、その開放した上面を、ポリエチレンテレフタレート(16μm)/接着剤層/印刷面/エチレン−ビニルアルコール共重合体(12μm)/接着剤層/エチレン−酢酸ビニル共重合体(30μm)からなるトップ材5で覆って周縁をシールして、図1に示すようなブリスター包装による、エリスロポエチン溶液製剤を収容したプレフィルドシリンジ製剤の包装体を製造した。なお、ブリスター包装体におけるプレフィリルドシリンジ製剤と脱酸素剤を収納した空間の容積は約27cmであり、脱酸素剤2の酸素吸収能は10cmであった。
【0167】
(iv) 上記(iii)で得られたブリスター包装体を、温度25℃、湿度60%RHの条件下で3ケ月および6ケ月保存して、3ケ月保存後および6ケ月保存後に、シリンジ内に収容されているエリスロポエチン溶液製剤に含まれているエリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合を上記した方法で測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0168】
(2)(i) 高圧蒸気滅菌後のシリンジ内にエリスロポエチン溶液製剤を収容したプレフィルドシリンジ製剤(高圧蒸気滅菌後に6ケ月間25℃で保存したシリンジ本体にエリスロポエチン溶液製剤を収容したプレフィルドシリンジ製剤)(ブリスター包装を行っていないプレフィルドシリンジ製剤)を、温度25℃、湿度60%RHの条件下で3ケ月および6ケ月保存して、3か月保存後および6か月保存後に、シリンジ内に収容されているエリスロポエチン溶液製剤に含まれているエリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合を上記した方法で測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0169】
【表2】
【0170】
上記の表2の結果にみるように、高圧蒸気滅菌した環状オレフィン系重合体製シリンジにエリスロポエチン溶液製剤を収容したプレフィルドシリンジ製剤を、脱酸素剤と共に酸素難透過性の包装材で包装して脱酸素式包装体とすることによって、エリスロポエチン中のメチオニン残基の酸化割合が一層低減している。
【0171】
[モノクローナル抗体溶液製剤]
以下の実施例3および比較例2において、完全ヒト型IgG1モノクローナル抗体であるアダリムマブ[Abbive社製、商品名:Humira(登録商標)]をモノクローナル抗体溶液製剤として用いた。
【0172】
《実施例3》
(1) 注射針を取付けた環状オレフィン重合体(COP)製シリンジ本体の先端にイソプレンゴム製のキャップを取り付けて針先を封止したシリンジ(注射筒)24個をオートクレーブに入れて、実施例1の(1)と同じように、121℃で20分間、高圧蒸気滅菌した後、温度25℃、湿度60%RHの条件下で1ケ月保存した。
【0173】
(2) 高圧蒸気滅菌後に1カ月間保存した上記(1)で得られた24個のシリンジのそれぞれに、上記したモノクローナル抗体溶液製剤500μLを充填した後、後端開口部に、ブチルゴム製のガスケットを先端に取り付けたプランジャーを、0.2mLのヘッドスペースが残るようにして挿入して封止して、滅菌処理を施したシリンジ内にモノクローナル抗体溶液製剤を収容した24個のシリンジ入りモノクローナル抗体溶液製剤を製造した。
【0174】
(3) 上記(2)で得られた24個のシリンジ入りモノクローナル抗体溶液製剤のそれぞれを、実施例2で使用したのと同じ材料および構造よりなるブリスター包装用の包装材を用いて、実施例2で使用したのと同じ脱酸素剤と共に、実施例2と同様にしてブリスター包装した後、5℃で7日間インキュベートした。
【0175】
(4) 上記(3)で得られたインキュベート後の24個の包装体を12個ずつ2つのグループ(グループIとグループII)に分け、グループIの包装体12個は遮光能を有する外袋(外包装材)に入れずにそのままにし、グループIIの包装体12個のそれぞれを、図2に示すように、遮光能を有する外袋6(2軸延伸ポリアミド/ポリエチレン/アルミニウム蒸着ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンよりなる層構造を有する積層シートから形成した外包装材)に入れて密封した。
【0176】
(5) 外袋に入れてないグループIの12個の包装体、および遮光能を有する外袋6に入れたグループIIの12個の包装体のそれぞれに、2000ルクスの光の照射下に温度25℃で25日間保存し、開始時(0日)、7日保存後、14日保存後および25日保存後の時点におけるモノクローナル抗体溶液製剤に含まれるモノクローナル抗体中のメチ
オニン残基(Met256とMet432)の酸化割合、高分子量種の生成割合、酸性分子種の生成割合を下記の方法で求めた。
【0177】
なお、メチオニン残基の酸化割合、高分子量種の生成割合および酸性分子種の生成割合を求めるための測定操作は、グループIおよびグループII共に、12個の包装体のうち、3個について開始時(光照射前)に行い、別の3個について光照射下に7日保存後に行い、更に別の3個について光照射下に14日保存後に行い、残りの3個について光照射下に25日保存後に行って、3個の平均値を採った。
【0178】
結果を下記の表3に示す。
【0179】
《モノクローナル抗体中のメチオニン残基の酸化割合》
ペプチドマッピング法によって以下の方法でモノクローナル抗体中のメチオニン残基の酸化割合を求めた。
【0180】
(i) 試料(モノクローナル抗体IgG1溶液製剤)100μgを8Mの塩化グアニジンで変性した後、マイクロスピンG−25カラム(GEヘルスケア社製、英国)を使用して試料中の緩衝液を消化緩衝液(100mM トリス塩酸緩衝液、ポリソルベート80含量=0.02質量%、pH=8.0)に置換した。
【0181】
(ii) 試料に、シークエンスグレード変性トリプシン3.2μgを添加し、37℃で60分間インキュベートして消化した後、25%トリフルオロ酢酸10μLを添加して消化反応を停止させた。
【0182】
(iii) 消化ペプチドを、AdvanceBioペプチドマップ2.1×150mm、2.7μm カラムを備えるLC1200システム(アジレント テクノロジー社)を用いて、以下の条件で、逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分離した。
【0183】
[HPLCの条件]
・移動相A:水とトリフルオロ酢酸=1000:1の水溶液
・移動相B:水とアセトニトリルとトリフルオロ酢酸=400:3600:3の混合液
・カラム:AdvanceBioペプチドマップ2.1×150mm、2.7μm
・カラム温度:50℃、
・注入量:30μL
・流速:0.2mL/min
・フローモード:直線勾配モード(移動相B 0%→45%、60分超え)
(iv) 溶出したペプチド画分を、エレクトロスプレーイオン源(陽イオンモード;300〜2000m/z値)を備えるLTQ/XL Orbitrap 質量分析計(サーモフィッシャー科学社)を用いて検出した。メチオニン残基の酸化割合は、Met256またはMet432含有ペプチドの理論的なm/z±10ppmで各抽出したイオンクロマトグラムを用いて定量した。
【0184】
《高分子量種の生成割合》
分子ふるいクロマトグラフィー法(SEC法)にて、以下のようにして高分子量種の生成割合を求めた。
【0185】
(i) 2本を直列に接続したTSKgel SuperSWmAb HRカラム(東ソー株式会社製)に、試料(モノクローナル抗体IgG1溶液製剤)250μLを供給し、リン酸緩衝液(リン酸100mM、塩化ナトリウム400mM、pH7.0)を用いて
アイソクラティックフロー(流速0.5mL/min、温度25℃)にて分子量ごとに分画した(測定波長280nm)。
【0186】
(ii) メインピークよりも前の溶出ピーク(分画)を高分子量種(モノクローナル抗体の分子量よりも高い分子量を有する成分)とし、メインピークよりも後の溶出ピーク(分画)を低分子量種(モノクローナル抗体の分子量よりも低い分子量を有する成分)とし、下記の数式<2>に従って、高分子量種の生成割合(%)を求めた。
【0187】
高分子量種の生成割合(%)=(MW/MW)×100 <2>
[式中、MWはメインピークよりも前の溶出ピーク(分画)の合計、MWは全溶出ピーク(全分画)の合計を示す。]
《酸性分子種の生成割合》
陽イオン交換高速液体クロマトグラフィー法(CEX−HPLC法)にて、以下のようにして酸性分子種の生成割合を求めた。
【0188】
(i) 試料(モノクローナル抗体IgG1溶液製剤)25μgを、Propac WCX−10 カラム(Thermo Fisher Scientific社製)に供給し、以下の条件で高速液体クロマトグラフィー分析を行った。
【0189】
[HPLCの条件]
・移動相A:20mMリン酸ナトリウム水溶液(pH6.8)
・移動相B:20mMリン酸ナトリウム水溶液に固体塩化ナトリウムを塩化ナトリウム濃度が500mMになるまで添加した水溶液(pH6.8)
・カラム:Propac WCX−10 カラム
・カラム温度:40℃、
・注入量:25μg
・流速:0.7mL/min
・フローモード:直線勾配モード(移動相B 9%→18%)
・測定波長:280nm
(ii) メインピークよりも前の溶出ピーク(分画)を酸性分子種(モノクローナル抗体よりもアニオン性の強い成分)とし、メインピークよりも後の溶出ピーク(分画)をアルカリ性分子種(モノクローナル抗体よりもアニオン性の弱い成分)とし、下記の数式<3>に従って酸性分子種の生成割合(%)を求めた。
【0190】
酸性分子種の生成割合(%)=(A/T)×100 <3>
[式中、Aはメインピークよりも前の溶出ピーク(分画)の合計、Tは全溶出ピーク(全分画)の合計を示す。]
《比較例2》
(1) 注射針を取付けたガラス製のシリンジ本体(シリンジサイズ:ISO規格11040−6の1mL−Longに準拠、注射針:27G)の先端にイソプレンゴム製のキャップを取り付けて針先を封止したシリンジ(注射筒)12個を準備した。
【0191】
(2) 上記(1)で準備した12個のシリンジのそれぞれに、上記したモノクローナル抗体溶液製剤500μLを充填した後、後端開口部に、ブチルゴム製のガスケットを先端に取り付けたプランジャーを、0.2mLのヘッドスペースが残るようにして挿入して封止して、モノクローナル抗体溶液製剤を収容した12個のガラスシリンジ入りモノクローナル抗体溶液製剤を製造した。
【0192】
(3) 上記(2)で得られた12個のガラスシリンジ入りモノクローナル抗体溶液製剤のそれぞれを、実施例2で使用したのと同じ材料および構造よりなるブリスター包装用
の包装材を用いて、実施例2で使用したのと同じ脱酸素剤と共に、実施例2と同様にしてブリスター包装した後、5℃で7日間インキュベートした。
【0193】
(4) 上記(3)で得られたインキュベート後の12個の包装体(遮光能を有する外袋に入れてない包装体)のそれぞれに、温度25℃において、2000ルクスの光の照射下に25日間保存し、開始時(0日)、7日保存後、14日保存後および25日保存後の時点におけるモノクローナル抗体溶液製剤に含まれるモノクローナル抗体中のメチオニン残基(Met256とMet432)の酸化割合、高分子量種の生成割合、酸性分子種の生成割合を上記した方法で求めた。
【0194】
なお、メチオニン残基の酸化割合、高分子量種の生成割合および酸性分子種の生成割合を求めるための測定操作は、12個の包装体のうち、3個について開始時(光照射前)に行い、別の3個について光照射下に7日保存後に行い、更に別の3個について光照射下に14日保存後に行い、残りの3個について光照射下に25日保存後に行って、3個の平均値を採った。
【0195】
その結果を下記の表3に示す。
【0196】
【表3】
【0197】
実施例3のグループIと比較例2の結果を対比すると、高圧蒸気滅菌後に所定期間保存してラジカル量の低減した環状オレフィン系重合体(COP)製シリンジ本体にモノクローナル抗体溶液製剤を充填したプレフィルドシリンジ製剤を脱酸素剤と共に酸素難透過性でブリスター包装した実施例3のグループIのブリスター包装体は、ガラス製シリンジ本体にモノクローナル抗体溶液製剤を充填したプレフィルドシリンジ製剤を脱酸素剤と共に酸素難透過性の包装材でブリスター包装した比較例2のブリスター包装体に比べて、光の当たる条件下で保存したときに、モノクローナル抗体を構成するタンパク質(特にタンパク質中のメチオニン残基)の酸化割合が少なく、更に高分子量種の生成割合も少なく、また酸性分子種の生成割合が14日保存後および25日保存後では少ないことが分かる。
【0198】
従来、環状オレフィン系重合体容器は、ガラス容器に比べて酸素透過性が高いため、モノクローナル抗体などのタンパク質の容器を収容する容器としてはガラス容器よりも劣ると考えられてきたが、上記の表3の結果は、高圧蒸気滅菌後に所定期間保存してラジカル
量の低減した環状オレフィン系重合体容器にモノクローナル抗体などのタンパク質の溶液製剤を充填した環状オレフィン系重合体製の容器入りタンパク質溶液製剤を脱酸素剤と共に酸素難透過性の包装材で包装した本発明の包装体は、ガラス容器にモノクローナル抗体などのタンパク質の溶液製剤を充填したガラス容器入りタンパク質溶液製剤を脱酸素剤と共に酸素難透過性の包装材で包装した包装体に比べて、容器に収容されたタンパク質溶液製剤の酸化、タンパク質の高分子量化やアニオン化などの変性が抑制され、保存安定性に優れていることを示している。
【0199】
また、表3における実施例3のグループIとグループIIの結果を見ると、実施例3のグループIIの包装体は、環状オレフィン系重合体(COP)製シリンジ本体にモノクローナル抗体溶液製剤を充填したプレフィルドシリンジ製剤を脱酸素剤と共に酸素難透過性の包装材でブリスター包装したグループIのブリスター包装体を、遮光能を有する外袋で更に包装したことによって、遮光能を有する外袋で包装していない実施例3のグループIの包装体に比べて、モノクローナル抗体を構成するタンパク質(特にタンパク質中のメチオニン残基)の酸化割合が一層少なく、高分子量種の生成割合も一層少なく、更に酸性分子種の生成割合が一層少なくなっている。
【0200】
かかる結果は、高圧蒸気滅菌後に所定期間保存してラジカル量の低減した環状オレフィン系重合体容器にモノクローナル抗体などのタンパク質の溶液製剤を充填した容器入りタンパク質溶液製剤を脱酸素剤と共に酸素難透過性の包装材で包装した脱酸素式包装体を更に遮光能を有する外包装材で包装した本発明の包装体、または環状オレフィン系重合体容器入りタンパク質溶液製剤を脱酸素剤と共に酸素難透過性でかつ遮光能を有する包装材で包装した本発明の包装体が、容器に収容されたタンパク質溶液製剤の酸化、タンパク質の高分子量化やアニオン化などの変性の抑制、長期保存安定性の向上に一層有効であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0201】
高圧蒸気滅菌されタンパク質中のメチオニン残基の酸化を抑制する作用を有する本発明のタンパク質溶液製剤を収容するための本発明の環状オレフィン系重合体製の医療用容器、および高圧蒸気滅菌され電子スピン共鳴装置にて測定したラジカル量が2.2×1015個/g以下であるタンパク質溶液製剤を収容するための本発明の環状オレフィン系重合体製の医療用容器は、当該医療用容器にタンパク質溶液製剤を収容したときに、タンパク質中のメチオニン残基などのアミノ酸残基の酸化が生じにくく、タンパク質の変性を防止することができるので、タンパク質溶液製剤を収容するための容器として有効に用いることができる。
【0202】
前記した本発明の医療用容器にタンパク質溶液製剤を収容した容器入りタンパク質溶液製剤は、タンパク質中のメチオニン残基などのアミノ酸残基の酸化が生じにくく、タンパク質の変性を防止することができるので、タンパク質溶液製剤として有用である。
【0203】
前記した本発明の容器入りタンパク質溶液製剤を脱酸素剤と共に酸素難透過性の包装材で包装した本発明の脱酸素式包装体は、包装体全体が低酸素状態に維持されため、高圧蒸気滅菌した環状オレフィン系重合体製容器を用いていることによるタンパク質中のメチオニン残基などのアミノ酸残基の酸化防止と、脱酸素剤による酸素の吸収作用とが相俟って、タンパク質溶液製剤の酸化による品質低下や失活が一層効果的に防止されて、長期間安定に保存でき、非常に有用である。
【0204】
さらに、高圧蒸気滅菌後に所定期間保存してラジカル量の低減した環状オレフィン系重合体容器にタンパク質の溶液製剤を充填した容器入りタンパク質溶液製剤を脱酸素剤と共に酸素難透過性の包装材で包装した脱酸素式包装体を更に遮光能を有する外包装材で放送
した本発明の包装体、または環状オレフィン系重合体容器入りタンパク質溶液製剤を脱酸素剤と共に酸素難透過性でかつ遮光能を有する包装材で包装した本発明の包装体は、包装体残体が低酸素状態に維持されるため、高圧蒸気滅菌した環状オレフィン系重合体製容器を用いることによるタンパク質中のメチオニン残基などのアミノ酸残基の酸化防止と、脱酸素剤による酸素の吸収作用と、遮光能を有する包装材による遮光効果とが相俟って、タンパク質溶液製剤の酸化および光による品質低下や失活がより一層効果的に防止されて、長期間安定の保存でき、極めて有用である。
【符号の説明】
【0205】
1 エリスロポエチン溶液製剤入りのプレフィルドシリンジ製剤
2 脱酸素剤
3 ボトム材
4 凹部
5 トップ材
6 遮光能を有する外袋(外包装材)
図1
図2