(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6798020
(24)【登録日】2020年11月20日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】編組構造の操向可能な医療機器及びその作製方法
(51)【国際特許分類】
A61M 25/092 20060101AFI20201130BHJP
A61M 25/00 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
A61M25/092
A61M25/00 520
A61M25/00 502
【請求項の数】31
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2019-520901(P2019-520901)
(86)(22)【出願日】2018年7月27日
(65)【公表番号】特表2020-513864(P2020-513864A)
(43)【公表日】2020年5月21日
(86)【国際出願番号】US2018044057
(87)【国際公開番号】WO2019027825
(87)【国際公開日】20190207
【審査請求日】2019年9月19日
(31)【優先権主張番号】62/539,338
(32)【優先日】2017年7月31日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519136777
【氏名又は名称】エックスキャス, インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】508152917
【氏名又は名称】ザ ボード オブ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ テキサス システム
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】キム, ダニエル エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】シン, ドンスク
(72)【発明者】
【氏名】パルムレ, ヴィリャル
(72)【発明者】
【氏名】シム, ヨンヒ
【審査官】
上石 大
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−139503(JP,A)
【文献】
特開2007−209554(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0253424(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00
A61M 25/01
A61L 29/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長い可撓性の医療機器であって、
遠位端及び近位端を有する細長可撓性部分を備え、当該部分は、
前記近位端及び前記遠位端から延びる細長可撓性内側部材と、
前記内側部材の周囲で、前記細長可撓性部分の前記近位端と前記遠位端の中間に延びる支持部材と、
前記内側部材及び前記支持部材を覆って取り囲んでいる外側部材と、を備え、前記医療機器はさらに、
少なくとも1つのイオン電気活性ポリマーアクチュエータを有する屈曲可能部を備え、前記アクチュエータは、
前記細長可撓性部分の前記遠位端の前記内側部材に近接して固定され、且つ外表面を規定している少なくとも1つのポリマー電解質層と、
前記少なくとも1つのポリマー電解質層の前記外表面の周囲に周方向に分散配置された複数の電極と、
前記内側部材と前記外側部材との間に配置された複数の導電性ワイヤと、を備え、前記導電性ワイヤはそれぞれが前記支持部材と共に編まれていて、前記電極のうちの1つに電気的に接続されるように前記細長可撓性部分の前記遠位端から外側に延びる遠位端を有し、
前記少なくとも1つのポリマー電解質層は、前記複数の導電性ワイヤのうちの少なくとも1つを通じた、前記複数の電極のうちの少なくとも1つへの電気信号の印加に応答して、非対称に変形するように構成されている、医療機器。
【請求項2】
前記ポリマー電解質層が、電解質と、フッ素ポリマー及び導電性ポリマーからなる群から選択されたポリマーとを含む、請求項1に記載の医療機器。
【請求項3】
前記フッ素ポリマーが、ペルフルオロイオノマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、またはそれらのコポリマーである、請求項2に記載の医療機器。
【請求項4】
前記導電性ポリマーが、ポリアニリン(PANI)、ポリピロール(Ppy)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(p−フェニレンスルファイド)(PPS)、またはこれらの組み合わせを含む、請求項2に記載の医療機器。
【請求項5】
前記電極のうちのそれぞれが、プラチナ、金、炭素系材料、及びこれらの組み合わせのうちの1つを含む、請求項1に記載の医療機器。
【請求項6】
前記炭素系材料が、炭化物由来炭素、カーボンナノチューブ、グラフェン、炭化物由来炭素とポリマー電解質材料との複合物、及びカーボンナノチューブとポリマー電解質材料との複合物のうちの1つを含む、請求項5に記載の医療機器。
【請求項7】
前記電極のうちのそれぞれが、炭素系材料を含む炭素電極層とその上の金の電極層とを備える多層電極である、請求項6に記載の医療機器。
【請求項8】
前記電極のそれぞれが、少なくとも1つのポリマー電解質層の外表面の周囲に、等しい角度で周方向に分散配置されている、請求項1に記載の医療機器。
【請求項9】
前記ポリマー電解質層が、前記外表面に対応する内表面を規定しており、前記内表面上に少なくとも内部電極が設けられている、請求項1に記載の医療機器。
【請求項10】
前記支持部材が、補強用メッシュ、ワイヤ編組マトリクス、及びコイルのうちの少なくとも1つである、請求項1に記載の医療機器。
【請求項11】
補強用メッシュ、ワイヤ編組マトリクス、及びコイルのうちの前記少なくとも1つが、前記支持部材の長さ方向に互いに離間して配置された複数の部材を含む、請求項10に記載の医療機器。
【請求項12】
前記複数の部材間の間隔が、前記支持部材の前記長さ方向に変化する、請求項11に記載の医療機器。
【請求項13】
前記内側部材及び前記少なくとも1つのポリマー電解質層がさらにボアを形成しており、前記内側部材は、前記ポリマー電解質層のボア内に嵌合している、請求項1に記載の医療機器。
【請求項14】
前記導電性ワイヤのそれぞれが、上を覆っている絶縁被覆をさらに含む、請求項1に記載の医療機器。
【請求項15】
前記ポリマー電解質層と前記電極のそれぞれとの間のインターフェースとなる導電性ブリッジをさらに備える、請求項1に記載の医療機器。
【請求項16】
各導電性ワイヤの前記遠位端が前記導電性ブリッジに連結されている、請求項15に記載の医療機器。
【請求項17】
前記導電性ブリッジが、電極の外表面、前記ポリマー電解質層の前記外表面、及び前記ポリマー電解質層の内表面、のうちの少なくとも1つの部分に沿って延びている、請求項15に記載の医療機器。
【請求項18】
医療機器を作製する方法であって、
ボア及び外表面を有する管状ポリマー電解質層と、前記外表面の周囲に周方向に分散配置された複数の電極とを備えるイオン電気活性ポリマーアクチュエータを設けることと、
近位端、遠位端、及びボアを有する細長可撓性内側部材であって、前記遠位端が前記管状ポリマー電解質層の前記ボアの一部分内に嵌合している、細長可撓性内側部材を設けることと、
マンドレルであって、前記マンドレルが前記内側部材及び前記管状ポリマー電解質層内に嵌合するように、前記内側部材の前記ボア及び前記管状ポリマー電解質層の前記ボアにとって所望の大きさの直径を有するマンドレルを設けることと、
複数の導電性ワイヤであって、それぞれが近位端及び遠位端を有する導電性ワイヤを設けることと、
前記内側部材と外側部材の上に複数の導電性ワイヤを配置することであって、前記導電性ワイヤはそれぞれが支持部材と共に編まれていて、前記電極のうちの1つに電気的に接続されるように前記細長可撓性内側部材の前記遠位端から外側に延びる遠位端を有する、複数の導電性ワイヤを配置することと、
前記導電性ワイヤと共に編まれた前記支持部材を、前記内側部材上の前記近位端と遠位端の中間に設置することと、
前記内側部材及びその上の前記導電性ワイヤと共に編まれた前記支持部材の上に、外側部材を設けることと、
熱収縮チューブを設けることと、
前記イオン電気活性ポリマーアクチュエータと、前記外側部材と、前記導電性ワイヤと共に編まれた前記支持部材と、その内部の前記内側部材とを、前記熱収縮チューブで覆うことと、
前記ポリマーのフィルムのリフローを生じさせ、前記イオン電気活性ポリマーアクチュエータと、前記外側部材と、前記導電性ワイヤと共に編まれた前記支持部材と、その内部の前記内側部材とを互いに固定するために、前記熱収縮チューブを加熱することと、
前記マンドレルを取り外すことと、を含む方法。
【請求項19】
各導電性ワイヤの前記遠位端が前記電極のうちの少なくとも1つの表面に連結されている、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記電極のそれぞれと前記管状ポリマー電解質層との間のインターフェースとなる1つ以上の導電性ブリッジを形成し、各導電性ワイヤの前記遠位端が前記導電性ブリッジのうちの別々の1つと連結される、1つ以上の導電性ブリッジを形成すること、をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記ポリマー電解質層が、電解質と、フッ素ポリマー及び導電性ポリマーからなる群から選択されたポリマーとを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記フッ素ポリマーが、ペルフルオロイオノマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、またはそれらのコポリマーである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記導電性ポリマーが、ポリアニリン(PANI)、ポリピロール(Ppy)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(p−フェニレンスルファイド)(PPS)、またはこれらの組み合わせを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記電極のうちのそれぞれが、プラチナ、金、炭素系材料、及びこれらの組み合わせのうちの1つを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記炭素系材料が、炭化物由来炭素、カーボンナノチューブ、グラフェン、炭化物由来炭素とポリマー電解質材料との複合物、及びカーボンナノチューブとポリマー電解質材料との複合物のうちの1つを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記電極のうちのそれぞれが、炭素系材料を含む炭素電極層とその上の金の電極層とを備える多層電極として形成されている、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記金の電極層が、吹付被覆処理を用いて前記炭素電極層上に適用される金ナノ粒子散布によって形成されている、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記1つ以上の導電性ブリッジが、電極の外表面、前記ポリマー電解質層の前記外表面、及び前記ポリマー電解質層の内表面、のうちの少なくとも1つの部分に沿って延びている、請求項20に記載の方法。
【請求項29】
前記支持部材が、補強用メッシュ、ワイヤ編組マトリクス、及びコイルのうちの少なくとも1つである、請求項18に記載の方法。
【請求項30】
補強用メッシュ、ワイヤ編組マトリクス、及びコイルのうちの前記少なくとも1つが、前記支持部材の長さ方向に互いに離間して配置された複数の部材を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記複数の部材間の間隔が、前記支持部材の前記長さ方向に変化する、請求項30に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の開示は、操向可能な腔内用医療機器に関し、具体的には、人体の管腔内に導入され、管腔を通って制御可能に動かされる、可撓性で細形の医療機器(例えばマイクロカテーテル)に関する。この医療機器は、遠位の前端部に電気作動可能な屈曲可能部を含み得る。この電気作動可能な屈曲可能部は、人体内の標的とする解剖学的部位にこの医療機器を操向するために、選択的に操作可能であり得る。
【背景技術】
【0002】
腔内用医療機器は、その配置の対象となる人体内の部位、及びその機器を用いた治療法に応じて、様々な構造を有する。腔内用医療機器は、概して、非常に細身の、即ち断面が非常に小さく、且つ可撓性があるチューブまたはシャフトであって、動脈もしくは静脈といった管腔、咽喉もしくは尿道といった人体の通路、人体の開口部、または他の解剖学的通路の中に挿入され、それらを通って誘導される管を含んでいる。こうした医療機器の例は、注射器、内視鏡、カテーテル、ガイドワイヤ、及び他の手術器具を含む。
【0003】
ある医療機器は、人体内に導入するように構成された一部分であって、外力の印加によって容易に屈曲する可撓性材料を概して含んでいる、一部分を含む。ある医療機器では、(通常最初に挿入される)遠位の前端部は、ユーザによる操向機構の操作を通じて、所望の方向に選択的に屈曲され得る。この医療機器は、標的とする管腔または体内の通路に挿入することができ、この医療機器の遠位端を人体内の所望の部位に配置するために動かすことができる。
【0004】
こうした医療機器の方向制御を容易にするため、屈曲機構に電気活性ポリマー(EAP)を用いることで、この機器の(例えば手術中の)使用中に、電気活性ポリマー(EAP)の形状をオペレータが変更することが可能な、新たなカテーテルが少数存在する。こうした形状変更機能によって、通常、疾患や体形、遺伝的特性、及び他の要因によって異なる患者の生体構造にフィットさせるために、これらのカテーテルの少なくとも一部分を、執刀医が処置中に調整または変更することが可能になる。カテーテルの形状を変更するか、カテーテルの種々の部位において選択的に屈曲するかまたは種々の剛性を提供するための電気活性ポリマー(EAP)を有する例示的なカテーテルは、US 7766896 B2、US 2007/0250036 A1、US 8414632 B2、及びUS 6679836 B2で開示されている。
【0005】
さらに、こうしたEAPカテーテルの遠位部上の1つ以上の要素を操作するために、長手方向に延びるカテーテルシャフトの内側ライナーと外側ジャケット表面との間に、1つ以上の導電性ワイヤまたは導体を結合する必要がある。これらのワイヤまたは要素をカテーテルシャフトまたは偏向可能なシースといった薄壁の管状構造に組み入れることは、困難である。なぜならば、従来型の機械的組み入れ技法を用いてカテーテル内に組み入れるために使われるワイヤが細すぎる(約25ミクロン以下)からである。具体的には、これらの導電性ワイヤは、静電気力に対して非常に感度が高く、したがって静電気力によって任意の近傍表面、とりわけワイヤが結合されるカテーテルシャフトのライナーのポリマー表面に、静電的に引き付けられる。このことによって、これらのワイヤは損傷しやすくなり、これらのワイヤをカテーテルシャフト内に組み入れることが困難になっている。この観点から、EAPカテーテル構造体及びその製造方法を改良する必要性が存在している。
【発明の概要】
【0006】
操向可能な医療機器の実施形態は、ワイヤをカテーテル内に堅固に固定するための改良された編組構造、並びに、医療機器の作動部(例えばカテーテル)の、改良された操向制御及び体内位置調整を提供する。ここでは、医療機器の作動部の遠位端を人体内の所望の解剖学的部位に配置する目的で、管腔及び/または体内通路内へと動かすため及びそれらを通って動かすために、作動部を延ばしている間、作動部は、管腔内もしくは人体の体内通路内に導入されて操作されるのに適合している。また、この製造方法の実施形態は、操向可能な医療機器の作製のための、より簡素化された効率的なプロセスも提供する。
【0007】
一実施形態では、遠位端及び近位端を有する、細長い可撓性の医療機器は、遠位端及び近位端を有する、細長可撓性内側部材と、内側部材の周囲で、その近位端と遠位端の中間に延びる支持部材と、複数の導電性ワイヤであって、それぞれが支持部材と共に編まれていて近位端と遠位端を有している、複数の導電性ワイヤと、内側部材、支持部材、及び複数の導電性ワイヤを取り囲んでいる外側部材と、少なくとも1つのイオン電気活性ポリマーアクチュエータであって、細長可撓性内側部材の遠位端に近接して固定され、且つ外表面を規定している少なくとも1つのポリマー電解質層と、少なくとも1つのポリマー電解質層の外表面の周囲に周方向に分散配置された複数の電極とを含む、少なくとも1つのイオン電気活性ポリマーアクチュエータとを含み、複数の導電性ワイヤのうちの少なくとも1つは、その遠位端において、電極のうちの1つに電気的に接続されており、少なくとも1つのポリマー電解質層は、複数の導電性ワイヤのうちの少なくとも1つを通じた、複数の電極のうちの少なくとも1つへの電気信号の印加に応答して、非対称に変形するように構成されている。
【0008】
本明細書では、細長可撓性部と、少なくとも1つのイオン電気活性ポリマーアクチュエータと、複数の導電性ワイヤを含む、操向可能な医療機器の一実施形態が提供される。細長可撓性部は、遠位端及び近位端を有しており、細長可撓性内側部材、外側部材、及び支持部材をさらに備えている。細長可撓性内側部材は、近位端と、以下で検討されるようにイオン電気活性ポリマーアクチュエータの少なくとも1つのポリマー電解質層と連結するように配置されている遠位端とを有する。外側部材は、内側部材、支持部材、及び複数の導電性ワイヤを取り囲んでおり、支持部材は、近位端と遠位端の中間で内側部材の周囲に巻き付けられている。以下で詳細に説明するイオン電気活性ポリマーアクチュエータは、少なくとも1つのポリマー電解質層であって、印加される電場に応答して内部でカチオンが自由に移動するポリマー電解質層を備える、アクチュエータである。ポリマー電解質層は、細長可撓性内側部材の遠位端に近接して固定されており、さらに外表面を規定している。電場は、ポリマー電解質層上に配置され、互いに離間して配置された、複数の電極に電圧を印加することによって設けられる。複数の電極は、少なくとも1つのポリマー電解質層の外表面の周囲に、周方向に分散配置されている。複数の電極のそれぞれは、例えば、支持部材と共に編まれており、且つ電位源に連結された近位端と電極に連結された遠位端とを有する、金属ワイヤといった、1つ以上の導電性ワイヤを通じて電位源に接続されていてよい。こうして、ポリマー電解質層は、複数の導電性ワイヤのうちの少なくとも1つを通じた複数の電極のうちの少なくとも1つへの電気信号の印加に応答して、非対称に変形し得る。
【0009】
ある実施形態では、ポリマー電解質層は、その中の溶媒としての電解質及びポリマーホストを含む。ポリマーは、限定しないが、フッ素ポリマー及び本質的に導電性のポリマーを含み得る。例示的な一実施形態では、フッ素ポリマーは、ペルフルオロイオノマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、またはそれらのコポリマー(例えばポリ(フッ化ビニリデン−コ−ヘキサフルオロプロピレン))(PVDF−HFP)を含み得るが、これらのポリマーには限定されない。別の例示的な実施形態では、本質的に導電性のポリマーは、限定しないが、ポリアニリン(PANI)、ポリピロール(Ppy)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(p−フェニレンスルファイド)(PPS)またはこれらの組み合わせを含み得る。さらなる別の実施形態では、電解質は、水またはイオン液体であり得る。イオン液体の例示的な例は、限定しないが、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート(EMI−BF4)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(EMI−TFSI)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホナート(EMITf)またはこれらの組み合わせを含み得る。
【0010】
医療機器の一実施形態では、電極のそれぞれは、プラチナ、金、炭素系材料、及びこれらの組み合わせといった材料を含み得る。炭素系材料の例示的な例は、限定しないが、炭化物由来炭素、カーボンナノチューブ、グラフェン、炭化物由来炭素とポリマー電解質材料(例えばアイオノマー)との複合物、及びカーボンナノチューブとポリマー電解質材料(例えばアイオノマー)との複合物のうちの1つを含み得る。他の実施形態では、電極のそれぞれは、多層構造であり得る。例えば、電極は、少なくとも2つの層であって、そのうちの1つの層が上記の1つ以上の炭素系材料を含む炭素電極層であり、その一方でもう1つの層がこの炭素電極層の表面上に配置された金の電極層である、少なくとも2つの層を含み得る。
【0011】
医療機器の一実施形態では、イオン電気活性ポリマーアクチュエータは、複数の、個別で、互いに電気的に絶縁され、ポリマー電解質層の外表面の周囲に等しい角度で分散配置された、角度的に分散して配置された電極を備え得る。医療機器の一実施形態では、イオン電気活性ポリマーアクチュエータは、カテーテルの屈曲可能部の遠位端に含まれていてよい。限定しないが、例えば一実施形態では、医療機器の屈曲可能部は、中心線において約90°(1.571ラジアン)で互いに分離して配置されている、角度的に分散して配置された4つの電極を備え得る。限定しないが、別の一例では、イオン電気活性ポリマーアクチュエータは、中央線において約45°(0.785ラジアン)で互いに分離して配置されている、角度的に分散して配置された8つの電極を備え得る。さらに別の例では、イオン電気活性ポリマーアクチュエータ110は、角度的に分散して配置された3つの電極であって、その中心線間が約120°(2.094ラジアン)で互いに分離して配置された、角度的に分散して配置された3つの電極を備えていてよい。複数の電極のそれぞれが、ポリマー電解質層の表面の周囲の周方向のある距離を占めていることと、したがって「角度的な分離」が、隣接している電極と電極の端部間に関してではなく、電極と電極の中心線間に関して述べられていることは、理解されるであろう。隣接する電極の中心線間よりも、隣接する電極の隣接する端部間の方が、はるかにより近接している。医療機器のある実施形態では、電極は、隣接する電極間の絶縁チャネルの役割を果たす十分な間隙が設けられている態様で、離間して配置されている。他の実施形態では、ポリマー電解質層は、外表面に対応する内表面と、少なくとも内表面上に設けられた内部電極とをさらに規定していてよい。
【0012】
医療機器の一実施形態では、支持部材は、内側部材の周囲に編まれたもしくは螺旋状の構成で巻き付けられた1つ以上の補強材料から形成された、補強用メッシュ(reinforcing mesh)、ワイヤ編組マトリクス(wire−braided matrix)、またはコイルであってよい。補強材料の例示的な実施例は、限定しないが例として、金属(例えばステンレス鋼)、プラスチック(例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK))、ガラス、織り繊維もしくはねじれ繊維(例えばアラミド)、または複合材料から形成された、1つ以上の丸もしくは平角(例えば長方形、楕円形、もしくはフラットオーバル形)の、ワイヤ、フィラメント、ストランドなどを含み得る。
【0013】
医療機器の一実施形態では、内側部材、及び少なくとも1つのポリマー電解質層は、内部に挿入された細長構造体(例えばガイドワイヤ)を受容し、その構造体が内部を貫通するためのボアを、内部にさらに形成していてよい。このポリマー電解質層は、内側部材の遠位端に近接して、内側部材のボアと位置合わせされたポリマー電解質層のボアに固定されており、それによって、細長構造体は、内側部材のボアとポリマー電解質層のボアとを通って給送され、イオン電気活性ポリマーアクチュエータから外に延びてよい。
【0014】
医療機器の一実施形態では、複数の導電性ワイヤを外側部材及び支持部材からさらに絶縁するために、複数の導電性ワイヤのそれぞれは、上を覆っている絶縁被覆をさらに備えていてよい。
【0015】
ある実施形態では、医療機器は、ポリマー電解質層に沿って延びる導電性ブリッジであって、各導電性ブリッジが電極のうちのそれぞれ1つに電気的に接続されている、導電性ブリッジをさらに備え得る。各導電性ワイヤの遠位端は、イオン電気活性ポリマーアクチュエータを導電性ワイヤのうちの1つに電気的に接続するため、即ち電源に接続するため、導電性ブリッジに連結されていることができる。
【0016】
他の態様では、本明細書で、上記の医療機器を作製する方法が提供されており、この方法は、ボア及び外表面を有する管状電気活性ポリマー層を含むイオン電気活性ポリマーアクチュエータであって、この管状電気活性ポリマー層の外表面の周囲に複数の電極が周方向に分散配置されている、イオン電気活性ポリマーアクチュエータを設けることと、近位端及び遠位端を有する細長可撓性内側部材であって、この遠位端が、管状ポリマー電解質層のボアの一部分の中に延びている、細長可撓性内側部材を設けることと、複数の導電性ワイヤであって、それぞれが近位端と遠位端を有する複数の導電性ワイヤを設けることと、各導電性ワイヤを支持部材と共に編むことと、内側部材の近位端と遠位端の中間で、内側部材を、導電性ワイヤと共に編まれた支持部材で取り囲むことと、内側部材及び導電性ワイヤと共に編まれた支持部材を取り囲むため、近位端及び遠位端を有する外側部材を設けることと、熱収縮チューブを設けることと、イオン電気活性ポリマーアクチュエータ、外側部材、導電性ワイヤと共に編まれた支持部材、及びその中の内側部材を、熱収縮チューブで覆うことと、熱収縮チューブを加熱してポリマーフィルムの収縮を生じさせ、それによってイオン電気活性ポリマーアクチュエータ、外側部材、導電性ワイヤと共に編まれた支持部材、及びその中の内側部材を互いに固定することと、を含む。
【0017】
ある実施形態では、方法は、各導電性ワイヤの遠位端を直接または間接的に電極に対して電気的に接触させるステップを含んでいてよい。例えば、一実施形態では、各導電性ワイヤの遠位端は、電極のうちの少なくとも1つの表面に連結されていることができる。別の実施形態では、1つ以上の導電性ブリッジが形成され、電極のそれぞれから、管状ポリマー電解質層に沿って延びていることができ、それによって、各導電性ワイヤの遠位端が、導電性ブリッジを介して間接的に電極に連結されていることができる。
【0018】
添付の図面は、実施形態のさらなる理解をもたらすものであり、本願に組み込まれて本願の一部を構成していて、記載されている説明と共に、本発明を明らかにするのに役立つ。添付の図面を、以下のとおり簡単に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1A】一実施形態による、細長可撓性部と屈曲可能部とを備える、カテーテルの分解図である。
【
図2A】
図1Aの支持部材及び導電性ワイヤの全体を示す斜視図である。
【
図3A】
図1Aの一実施形態の屈曲可能部の一部分の斜視図であり、ストレートモードにある屈曲可能部を示す。
【
図3B】変形モードすなわち屈曲モードにある、
図3Aの屈曲可能部の斜視図である。
【
図3C】
図3A及び
図3Bの屈曲可能部の断面図であり、2自由度を与えるため、ポリマー電解質層の外表面の周囲に配置された周方向に分散して配置された4つの電極に、4つの電気信号の第1の選択された組が印加されている、一実施形態を示している。
【
図3D】
図3Dは、
図3A及び
図3Bの屈曲可能部の断面図であり、ポリマー電解質層の周囲に配置された、周方向に分散して配置された電極に、第2の選択された組の4つの電気信号が印加されている、別の実施形態を公開している。
【
図4A】一実施形態による、
図1Aのイオン電気活性ポリマーアクチュエータの長手方向の断面図であり、導電性ワイヤと電極との相互接続を示している。
【
図4B】別の一実施形態による、
図1Aのイオン電気活性ポリマーアクチュエータの長手方向の断面図であり、導電性ワイヤと電極との相互接続を示している。
【
図4C】別の一実施形態による、
図1Aのイオン電解質ポリマーの長手方向の断面図であり、導電性ブリッジを介した、導電性ワイヤと電極との別の相互接続を示している。
【
図4D】一実施形態による、
図1Aのイオン電気活性ポリマーアクチュエータ及びライナーの長手方向の断面図であり、導電性ブリッジを介した、導電性ワイヤとライナーと電極の相互接続を示している。
【
図5A】
図5A〜
図5Eは、一実施形態による、
図1Aのカテーテルの細長可撓性部と屈曲可能部との結合を示す。
図5Aは、分離しているライナーとイオン電気活性ポリマーアクチュエータを示す概略図である。
【
図5B】内側ライナーが、イオン電気活性ポリマーアクチュエータのボアの一部分内に嵌合していることを示す、概略図である。
【
図5C】導電性ワイヤと、イオン電気活性ポリマーアクチュエータ上の電極との相互接続を示す概略図であり、内部の構成要素の詳細がよりよく見えるように、実線で表されている。
【
図5D】導電性ワイヤと共に編まれた支持部材が、イオン電気活性ポリマーアクチュエータのボアの一部分内に嵌合しているライナーに取り付けられていることを示す、概略図である。
【
図5E】外側ジャケットが、導電性ワイヤと共に編まれた支持部材を覆って位置していることを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
カテーテルといった医療機器は、動脈、静脈、咽喉、外耳道、鼻腔、尿道、または任意の他の管腔もしくは体内通路といった管腔内に挿入するのに、十分に細身であり得る。例えば、細身のカテーテル(マイクロカテーテルとも呼ばれる)は、被験者または患者に大きな開口部を切開する必要性を避けて、外科手術または医療作業を実施するための局所的アクセスを提供することによって、医師が、必要な回復期間が実質的に短縮される、非侵襲的な手術を実施することを可能にする。
【0021】
本明細書で使用する場合、「被験者」または「患者」は、この機器による医学的介入を受ける者を指す。ある態様では、患者は、ヒト患者である。他の態様では、患者は、愛玩用動物(companion animal)、競技用動物(sporting animal)、飼育動物または他の家畜である。
【0022】
本書で使用する場合、「イオン電気活性ポリマーアクチュエータ」という用語は、ポリマー電解質層の表面上に配置された1つ以上の電極に印加された電場に応答して、内部でカチオンが自由に移動する、薄いポリマー電解質層を備える、医療機器の構成要素を指す。本書で使用する場合、「イオン電気活性ポリマーアクチュエータ」は、医療機器の遠位端に設けられて、選択的に屈曲可能であるか屈曲される、医療機器の屈曲可能部(例えばカテーテル先端)を形成し得る。具体的には、1つ以上の電極に対して選択的に電圧を印加することによって、ポリマー電解質層は、ポリマー電解質層の側部または一部分に沿って収縮する、及び/またはポリマー電解質層の側部または一部分に沿って膨張する結果、変形する。ポリマー電解質層内のカチオンが、アノードとして電圧を印加された電極に向かって、またカソードとして電圧を印加された電極から離れて移動する一方で、依然としてポリマー電解質層のマトリクス内に残存することは、理解されるだろう。これによって、アノードとして電圧を印加された電極に近接するポリマー電解質層の一部分が膨張し、カソードとして電圧を印加された電極に近接するポリマー電解質層の一部分が収縮し、それによってポリマー電解質層が屈曲する。導電性ワイヤを通じて電極に送信された電気信号の協調制御が、意図した方向への屈曲を生み出し得ることも、また理解されるだろう。イオン電気活性ポリマーアクチュエータのポリマー電解質層は、弛緩状態すなわち電圧不印加状態では、元の形状に留まる。
【0023】
本書で使用する場合、「ポリマー電解質層」という用語は、ポリマーホスト及び電解質(例えば、水またはイオン液体といった溶媒)を含む層または膜を指す。ポリマーホストは、限定しないが例として、フッ素ポリマー及び本質的に導電性のポリマーを含み得る。例えば、ポリマー電解質層は、二フッ化ビニリデンの重合によって生成され、イオン液体または食塩水を含有する高度に非反応性の熱可塑性フッ素ポリマーである、多孔性のポリフッ化ビニリデンまたはポリ二フッ化ビニリデンを含み得る。代わりに、ポリマー電解質は、フッ化ポリビニリデンまたは二フッ化ポリビニリデン、炭酸プロピレン、及びイオン液体によって形成された、ゲルを含んでいてもよい。
【0024】
本明細書に記載の「導電性ワイヤ」という用語は、電源から複数の電極のうちの1つ以上へと電気信号を伝導して、優れた化学的安定性と耐食性のために貴金属を含んでいてよいポリマー電解質層の屈曲に影響を与える、構成要素を指している。ポリマー電解質層を作動させるために電位を選択された電極に供給する導電性ワイヤは、限定しないが例として、高度に導電性である、プラチナ、プラチナ合金、銀、もしくは銀合金を含み得るか、または、金もしくは金合金を含み得る。金もしくは金合金は、化学的安定性と耐食性があるのに加えて展性があり、有利には、屈曲に対する抵抗が非常に小さい、非常に細身の導電性ワイヤまたは導管に成形することができる。
【0025】
以下の段落では、医療機器であって、この医療機器を用いた外科手術を実施するのに、またはその実施を可能にするのに用いられ得る医療機器と、こうした医療機器の準備を可能にするのに用いられ得る方法の、特定の実施形態について説明する。医療機器及び方法の他の実施形態が以下に添付されている特許請求の範囲の範囲内であることと、こうした実施形態の例示が本発明を限定するものではないことは、理解されるだろう。
【0026】
図1Aは、医療機器の一実施形態を示しており、カテーテル1の分解図を含む。カテーテル1は、コントローラ(図示せず)から延伸可能な細長可撓性部10及び、細長可撓性部10の遠位端100に配置された屈曲可能部11を備える。
図1Bは、
図1Aの医療機器の細長可撓性部10の断面図である。細長可撓性部10は、管状内側ライナー101、支持部材102、及び外側ジャケット103をさらに備える。屈曲可能部11は、細長可撓性部10の内側ライナー101に近接して且つ複数の電圧印加可能な電極112に対して中央に配置された、ポリマー電解質層111を備える、イオン電気活性ポリマーアクチュエータ110を含む。ポリマー電解質部材111の外表面113を取り囲んでいる複数の電極112のうちのそれぞれは、複数の導電性ワイヤ12のうちの1つの遠位端120(
図4A、
図4B)に接続されており、この複数の導電性ワイヤ12のうちの1つを通って、電気信号または電流が、接続されている電極112に供給されてよい。内側ライナー101及びポリマー電解質層111は、挿入されたガイドワイヤ(図示せず)を人体の管腔内の所定の部位に誘導するため、それぞれ内側ボア104、114をさらに形成している。一実施形態では、ポリマー電解質層111は、ポリマー電解質層のボア114が内側ライナー101のボア104と位置合わせされた状態で、内側ライナー101の遠位端100に近接して、ポリマー電解質層のボア114に固定されている。挿入されたガイドワイヤは、こうして、細長可撓性部10の近位端105から、ボア104、114を通って、屈曲可能部11の遠位端115まで、給送されてよい。
【0027】
内側ライナー101は、人体(図示せず)の管腔(図示せず)内に挿入するのに十分に細身である。即ち、この用途を可能にするのに十分に小さい断面積を有している。また、内側ライナー101は十分に可撓性があり、且つ実質的に軸方向に圧縮不能であって、それによって、この内側ライナーは、遠位端100が人体の管腔(図示せず)内に挿入された後、細長可撓性部10を前方に押すかまたは進めることで、湾曲した経路を有する管腔を通って前進させることができる。ある例示的な実施例では、内側ライナー101は、カテーテル1の近位部に強化及び硬化もたらすようにさらに構成された、潤滑性ライナーであってよい。ライナー101は、その上の支持部材102をカテーテル1の内側表面に、したがってボア104に対して露出するのを防ぐことができるだけでなく、ガイドワイヤの配置を助けるため、カテーテルの内側ルーメン表面(即ちボア104、114の壁の表面)の潤滑性を向上させることもできる。ある例示的な実施例では、内側ライナー101は、(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)といった)フッ化炭素、高密度ポリエチレン、他の低摩擦ポリマー、またはこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない、低摩擦ポリマーで形成されていてよい。PTFEといった低摩擦ポリマーは、内側ライナー101の強度を増大させるため、ポリイミドといった、別のより剛性の強いポリマーと組み合わされてよい。
【0028】
図2Aは、
図1Aの等角図であり、支持部材及び導電性ワイヤの全体を示す。
図2Bは、
図1Aの支持部材及び導電性ワイヤの一部分の拡大図である。共に一体的に編まれて、適正に固定され組み入れられた編組構造をもたらしている支持部材102と複数の導電性ワイヤ12とがライナー101を取り囲んでおり、それによって、カテーテル1の組立中及び使用中に損傷を受けやすい導電性ワイヤ12への損傷が低減される。また、支持部材102は、カテーテル1の制御及び操向性の向上のために、細長可撓性部10の、構造的剛性及び軸方向の圧縮に対する抵抗の強化、並びにねじり変形に対する抵抗の強化をもたらすことができる。支持部材102は、限定しないが例として、編組構成または他の螺旋状の構成で内側ライナー101の周囲に巻き付けられた、1つ以上の補強材料102aから形成された補強用メッシュ、ワイヤ編組マトリクス、またはコイル、及び導電性ワイヤ12を含み得る。補強材料102aの例示的な実施例は、限定しないが例として、金属(例えばステンレス鋼、ニチノール、もしくはタングステン)、プラスチック(例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ナイロン)、ガラス、織り繊維もしくはねじれ繊維(例えばアラミド)、または複合材料から形成された、1つ以上の丸もしくは平角の(例えば長方形、楕円形、円形、リボン状、フラットオーバル形、もしくは他の断面形状の)、ワイヤ、フィラメント、ストランドなどを含み得る。補強材料102a及びその構成は、カテーテルの所望のハンドリング特性を達成するために、カテーテル1の長さに沿って、大きさ、数、及びピッチ(互いの間の間隔)の点で様々であることができる。
図2A及び
図2Bに示すとおり、支持部材102は、固定の巻線ピッチで形成された補強材料102aを有していてよい。代替形態では、支持部材102は、ピッチが異なる3つ以上の区間から形成されていてよい。一実施形態では、支持部材102には、近位端105に強度を向上するためのより小さいピッチ(より狭い間隔)を有し、且つ遠位端100にキンク抵抗及び可撓性を向上するためのより大きいピッチ(より広い間隔)を有する、補強材料102aが設けられていてよい。
【0029】
外側ジャケット103は、
図1Aの左側では示されているが、内部のライナー101、及び導電性ワイヤ12と共に編まれている支持部材102を見せるため、
図1Aの右側では取り外されている。ある実施形態では、外側ジャケット103は、血管系を通ってカテーテルを前進させるのに必要な力を低減するため、低摩擦ポリマーを含んでいることができる。ある例示的な実施例では、外側ジャケット103は、限定しないが、ナイロン、ポリウレタン、及び/または、例えばフランス国コロンブのアルケマフランス社から入手可能なポリエーテルブロックアミド材料であるPEBAX(登録商標)といった、熱可塑性エラストマーを含む、1つ以上の材料を含み得る。外側ジャケット103は、押し出し処理、鋳造処理、または収縮チューブ組み付け処理によって、支持部材102に付けられることができる。さらに、カテーテル1の潤滑性を持った給送(lubricious delivery)をもたらし、その操向性を補助するため、外側ジャケット103の外側表面に、親水性被覆(図示せず)を付けることができる。親水性の被覆は、薄いものであることができ、細長可撓性部10の壁厚の軽微な部分のみを占めていることができる。
【0030】
図3Aは、
図1Aのカテーテルの実施形態の屈曲可能部11の斜視図であり、ストレートモードにある屈曲可能部11を示す。屈曲可能部11は、管状ポリマー電解質層111であって、細長可撓性部10の遠位端100に近接して、且つ角度的に分散して配置された複数の電圧印加可能電極112の中央に配置された、管状ポリマー電解質部材111を備える、イオン電気活性ポリマーアクチュエータ110を含む。共にポリマー電解質部材111の外表面113を取り囲んでいる複数の電極112のうちのそれぞれは、導電性ワイヤ12の遠位端120に接続されており、この導電性ワイヤ12を通って、電気信号または電流が、接続されている電極112に供給されてよい。ポリマー電解質層111は、ボア114であって、それを通って他の細長構造体(例えばガイドワイヤ)が、細長構造体の遠位端に配置されたエンドエフェクタまたは外科用のツールもしくは機器を位置調整し、制御し、及び/または作動させるために挿入され得る、ボア114を含む。ポリマー電解質層111のボア114は、弛緩状態すなわち電圧不印加状態では、軸2に対して中心合わせになっている。
【0031】
一実施形態では、角度的に分散して配置された電極112は、ポリマー電解質層111の外表面113の周囲に等角度で分散して配置されている。限定しないが、例えば
図3Aの実施形態では、イオン電気活性ポリマーアクチュエータ110は、中心線において約90°(1.571ラジアン)で互いに分離して配置されている、角度的に分散して配置された4つの電極を備え得る。複数の電極112のそれぞれが、ポリマー電解質層の表面に沿った周方向の距離の一部を占めていることと、したがって「角度的な分離」が、隣接している電極の端部間に関してではなく、電極の中心線に関して述べられていることは、理解されるであろう。隣接する電極の中心線間よりも、隣接する電極の隣接する端部間の方が、はるかにより近接している。ある実施形態では、電極は、隣接する電極間の絶縁チャネル116として十分な間隙が設けられている態様で、離間して配置されている。
【0032】
一実施形態では、
図3Aのイオン電気活性ポリマーアクチュエータ110は、イオンポリマー金属複合体(IPMC)アクチュエータである。一実施形態では、イオン電気活性ポリマーアクチュエータ110は、(電解質として)EMITFを含浸させたPVDF−HFPから作られている、ポリマー電解質層111を含む。代替形態では、カテーテル1のイオン電気活性ポリマーアクチュエータ110の他の実施形態は、Aciplex(商標)(日本国東京の旭化成ケミカルズ株式会社から入手可能)、Flemion(登録商標)(米国ペンシルバニア州エクストンのAGCケミカルズアメリカ社から入手可能)、fumapem(登録商標)Fシリーズ(ドイツ連邦共和国ビーティッヒハイム=ビッシンゲンのフマテック BWT GmbHから入手可能)、またはNafion(登録商標)(米国デラウェア州ウィルミントンのケマーズ社から入手可能)といったペルフルオロイオノマーのうちの少なくとも1つを含む、ポリマー電解質層111を含み得る。
【0033】
一実施形態では、電極112は、プラチナ、金、炭素系材料、またはこれらの組み合わせ(例えば複合物)のうちの1つを含み得る。他の実施形態では、炭素材料は、限定しないが例えば、炭化物由来炭素(CDC)、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン、炭化物由来炭素とポリマー電解質層111との複合物、及びカーボンナノチューブとポリマー電解質層111との複合物のうちの1つを含み得る。
図4Aから
図4Dに示す例示的な一実施形態では、電極112は2層構造であり、炭素(CDC及び/またはCNT)とPVDF−HFP/EMITFの複合材層112a、及びその上にある金の層112bを含んでいる。電極112は、ポリマー電解質層111の外表面113上に、任意の適切な技法を用いて結合されていることができる。限定しないが例として、金属電極112は、ポリマー電解質部材の外表面上に、電気化学処理を用いて堆積することができる(例えば、プラチナ電極または金電極)。代替形態では、外表面113上に複合材層112aを吹き付けるステップ、複合材層112a上に金の層112bを吹付被覆するステップ、続いてリフロー処理を用いて層112aと112bとを結合するステップによって、二層電極112が設けられ、外表面113に結合されることができる。リフロー処理の詳細は、PCT出願第PCT/US17/16513号で検討されている。同出願は、参照により、その全体が本願に完全に援用される。
【0034】
屈曲可能部11は、以下でさらに詳細に説明するように、複数の電極112のうちの1つ以上に選択的に電圧を印加することによって、選択的かつ制御可能に屈曲モードへと変形することが可能である。
図3Bは、変形モードすなわち屈曲モードにある、
図3Aの屈曲可能部11の等角図である。複数の電極112のそれぞれは、導電性ワイヤ12であって、それを通じてワイヤ12が接続されている電極112に対して電気信号が印加され得る導電性ワイヤ12の、遠位端120に接続されている。それによって、ポリマー電解質層111内の金属カチオンが、印加された電気信号によって決定された方向に動かされる。印加された電気信号によって生み出されるこのカチオン移動によって、アノードの近位に配置されたポリマー電解質層111の一部分の中でポリマー電解質層111の膨張が生じ、残りの非膨張部分の方向への屈曲または歪みが生じる。その結果、イオン電気活性ポリマーアクチュエータ110のポリマー電解質部材111の屈曲による変形の大きさ及び方向は、電圧を印加する電極112を戦略的に選択することと、導電性ワイヤ12を通じてこれらの電極112に印加する電気信号を調整することによって、制御することができる。
【0035】
代替形態では、複数の電極112のうちの1つ以上に対する1つ以上の電位の印加が存在しておらずに屈曲可能部11が変形したモードにあることが観察された場合には、観察されたたわみの大きさは、屈曲可能部11に印加されている外力の大きさ及び方向を測定するために使用することができる。または代替形態では、電極112に既知の電位を印加しても屈曲可能部11の予期した変形を生み出すのに失敗した場合には、予期した変形と実際の変形との間の差異(もしあれば)を、カテーテル1の屈曲可能部11に印加される外力の大きさの指標として用いることができる。
【0036】
図3Cは、一実施形態を示す
図3A及び
図3Bの屈曲可能部11の断面図であり、第1の選択された組の4つの電気信号が、ポリマー電解質層111の外表面113の周囲に配置された周方向に分散して配置された4つの電極112に印加されて、2自由度が提供されている(例えば、X軸方向及び/またはY軸方向に沿った屈曲)。
図3Cは、矢印3の方向への屈曲可能部11の屈曲を伝えるために、角度的に分散して配置された複数の電極112に印加され得る、電気信号を示す。
図3Cの屈曲可能部11の左側と右側の電極112に正の電荷(電位)を印加し、加えて
図3Cの頂部の電極112に正の電極を印加し、さらに加えて
図3Cの底部の電極に負の電荷(電位)を印加すると、その結果、
図3Cの頂部の電極112にのみ正の電荷(電位)を印加し、残りの電極112に負の電荷(電位)を印加する結果生じ得るものとは、異なる量の変形が生じ得ることは、理解されよう。ユーザが所望する変形を生み出す複数の電気信号をユーザが選択し得ることは、理解されよう。
【0037】
図3Dは、
図3A及び
図3Bの屈曲可能部の断面図であり、ポリマー電解質部材111の周囲に配置された、周方向に分散して配置された電極112に、第2の選択された組の4つの電気信号が印加されている、別の実施形態を公開している。
図3Dは、
図3Dの屈曲可能部11の頂部の電極112、及び
図3Dの屈曲可能部11の右側の電極112に対する、正の電荷(電位)の印加を示す。
図3Dは、さらに、
図3Dの底部の電極112、及び
図3Dの左側の電極112に対する、負の電荷(電位)の印加も示す。これらの電荷(電位)を印加することに由来するポリマー電解質層111の変形は、矢印4の方向に生じる。
【0038】
個々の電極112のそれぞれに伝えられる電荷の符号(+、−)及び大きさの戦略的な制御によって、複数の方向に、及び様々な程度の変形またはたわみを伴って、カテーテル1の屈曲可能部11を屈曲することが可能であることは、
図3C及び
図3Dから理解されるであろう。
図3Aから
図3Dに示す実施形態は、4つの電極112を含む屈曲可能部11を示しているが、カテーテル1の屈曲可能部11が4つより少ないかまたは4つより多くの電極112を含んでいてよく、そうした他の実施形態では、たわみ及び変形による指向能力が異なり、したがってより多いかより少ない自由度が与えられるであろうことは、理解されよう。
【0039】
導電性ワイヤ12は、任意の適切な接続技法を用いた様々な構成で、電極112に相互接続され得る。導電性ワイヤ12と電極112とを物理的及び電気的に接続するため、例えば、導電性ペーストまたはレーザ溶接を用いることができる。
図4Aは、
図1Aのイオン電気活性ポリマーアクチュエータ110の長手方向の断面図であり、導電性ワイヤ12と電極112との物理的及び電気的な接続の一実施形態を示している。導電性ワイヤ12の遠位端120は、イオン電気活性ポリマーアクチュエータ110の近位端117において、各電極112の金の層112bの表面の一部分に沿って延びている。イオン電気活性ポリマーアクチュエータ110の近位端117では、導電性ワイヤ12の遠位端120は、例えば少量の導電性ペースト121を用いて電極112と接続され、終端している。
【0040】
代替形態として、
図4B〜
図4Dは、導電性ワイヤ12と電極112との物理的及び電気的な接続の、他の実施形態を示す。
図4B〜
図4Dでは、イオン電気活性ポリマーアクチュエータ110の近位端117に、導電性シャント(以降、導電性ブリッジ13と称する)が形成されており、そこからポリマー電解質層111に沿って電極112との接続部位まで延びており、これらの間の電位の伝達を容易にしている。導電性ブリッジ13は、金の層112bの表面上にメッキされていてよく、電極と電解質層111の近位端117との間、また同様に電解質層111の近位端117の管状の端壁との間で、側壁の一部分(
図4B参照)または全体(
図4C及び
図4D参照)を覆って延びていてよい。導電性ワイヤ12の遠位端120は、導電性ブリッジ13の任意の部位に、物理的かつ電気的に接続されている。ある実施形態では、
図4Dに示すとおり、導電性ワイヤ12と支持部材102は、まず、ライナー101の外表面101を覆って、その近位端103(例えば
図1A参照)から遠位端100まで設置されており、次に導電性ワイヤ12とその下のライナー101の一部分は、ワイヤ12と導電性ブリッジ13とを電気的に接続するため、ボア104の一部分の中に埋め込まれている。ある実施形態では、導電性ブリッジ13は、金属材料(例えば金、銀、もしくは銅)または導電性ポリマーを含む非金属材料から作られた、任意の導電性フォイルまたはテープを、任意の適切な技法を用いて(この実施方法またはこれらの材料に限定するものではないが、例えば接着剤、被覆、めっき、エッチング、または堆積を用いて)電極112及びポリマー電解質層111の表面に付けることによって、作製することができる。
【0041】
図5A〜
図5Eは、一実施形態による、
図1Aのカテーテルの細長可撓性部と屈曲可能部との結合を示す。
図5Aは、分離している、ライナーとイオン電気活性ポリマーアクチュエータの概略図である。イオン電気活性ポリマーアクチュエータ110は、市販のNafion(登録商標)チューブまたはPVDFチューブから作られているポリマー電解質層112の外表面113上に電極112を堆積することによって、作製され得る。他の実施形態では、リフロー処理を用いて、管状形状のポリマー電解質層112を作製することができる。リフロー処理の詳細は、PCT出願第PCT/US17/16513号で検討されている。同出願は、参照により、その全体が本願に完全に援用される。電極112は、任意の適切な方法を用いて堆積され得る。限定しないが例として、金属製の電極112は、ポリマー電解質部材の外表面上に、電気化学処理を用いて堆積することができる(例えば、プラチナ電極または金電極)。炭素系材料から作られた電極112は、参照によってその全体が本願に完全に援用される、PCT出願第PCT/US17/16513号で検討されている、リフロー処理を用いて堆積することができる。他の実施形態では、二層の電極112(例えば
図4A−
図4D参照)は、外表面113上に複合材層112aを吹き付けるステップ、複合材層112a上に金の層112bを吹付塗装するステップ、それに続いてこれらの層112a、112bを結合するステップによって、作製され、外表面113上に結合されることができる。
図5Bに示すとおり、内側ライナー101(例えばPTFEライナー)は、ポリマー電解質層112のボア114よりも小さい外径を有していてよく、それによって、内側ライナー101が約5mm〜10mm、ボア114から内側に延びているようにして、内側ライナー101がボア114の中に嵌合していることができる。ライナー101とボア114間の接続を補強するため、この接続部を覆って、厚さ5μm〜10μmのパリレーンカプセル化被覆で、被覆がなされてよい。
【0042】
図5C及び
図5Dは、導電性ワイヤ12と電極112との相互接続の概略図である。導電性ワイヤ12と支持部材102とを編んで結合するために、当該技術分野で周知の、任意の機材、機械、及び技術が使用され得る。例えば、編組工程は、垂直の連続リールトゥリール編み、水平のリールトゥリール編み、またはマンドレル編みを提供する編組機械を用いて実施され得る。次に、導電性ワイヤ12が内部に編み込まれている支持部材102は、
図5Dに示すライナー101の上をスライドして、接着剤(例えば熱可塑性プラスチックもしくは熱硬化性プラスチック)、もしくは溶接、またはこれらの任意の組み合わせによって、ライナー101に取り付けられる。導電性ワイヤ12が付いている支持部材102をライナー101と付着させた後には、導電性ワイヤ12の遠位端は、少なくともライナー101の遠位端から延びている。次に、上記のとおり、支持部材102から延びている導電性ワイヤ12の遠位端120は、イオン電気活性ポリマーアクチュエータ110に、直接(例えば
図4Aの金の層112bの表面の一部分に取り付けられて)または間接的に(例えば
図4B〜
図4Dに示す導電性ブリッジ13への取り付けを通じて)連結されていることができる。次に、
図5Eの外側ジャケット103は、支持部材102及び導電性ワイヤ12の上をスライドして、続いてイオン電気活性ポリマーアクチュエータ110の近位端117に固定される。ある実施形態では、マンドレル(図示せず)、例えば0.025”(0.635mm)の外径を有するステンレス鋼のマンドレルロッドが、ボア104及び114内に嵌合しており、それによって、リフロー処理を用いた後続する組み立てのために、マンドレルが内側ライナー101及びイオン電気活性ポリマーアクチュエータ110を支持することが可能になっている。リフロー処理では、外側ジャケット103及びイオン電気活性ポリマーアクチュエータ110の上に熱収縮チューブ(例えば、フッ化エチレンプロピレン(FEP)チューブ)が配置されてよく、この熱収縮チューブが外側ジャケット103とイオン電気活性ポリマーアクチュエータ110の少なくとも近位端の周囲を緊密に包み込み、外側ジャケット103とイオン電気活性ポリマーアクチュエータ110とが互いに押し付けられて堅固に固定されるように、熱が加えられてよい。次に、熱収縮チューブとマンドレルは、任意の適切な技法を用いて、得られたカテーテル1から取り外される。例えば、熱収縮チューブは、薄く裂くことができる。
【0043】
上記の本発明の例示的な実施形態に対して、添付の特許請求の範囲で規定される本発明の技術的特徴から逸脱することなしに、様々な修正や変更がなされ得ることは、留意されるべきである。