特許第6798039号(P6798039)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6798039官能化リグニンを含む空気入りタイヤ用の高剛性配合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6798039
(24)【登録日】2020年11月20日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】官能化リグニンを含む空気入りタイヤ用の高剛性配合物
(51)【国際特許分類】
   B60C 1/00 20060101AFI20201130BHJP
   B60C 15/06 20060101ALI20201130BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20201130BHJP
   C08L 97/00 20060101ALI20201130BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20201130BHJP
   C08K 3/06 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   B60C1/00 Z
   B60C15/06 B
   C08L21/00
   C08L97/00
   C08K3/013
   C08K3/06
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-546080(P2019-546080)
(86)(22)【出願日】2017年11月24日
(65)【公表番号】特表2019-535592(P2019-535592A)
(43)【公表日】2019年12月12日
(86)【国際出願番号】EP2017080375
(87)【国際公開番号】WO2018099822
(87)【国際公開日】20180607
【審査請求日】2019年5月8日
(31)【優先権主張番号】102016000120857
(32)【優先日】2016年11月29日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179866
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】ラファエレ ディ ロンザ
(72)【発明者】
【氏名】ルドヴィカ カリアーノ
(72)【発明者】
【氏名】クラウディア アーリシチオ
【審査官】 増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2016/0222045(US,A1)
【文献】 特開2016−169382(JP,A)
【文献】 特開2016−060750(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/097108(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/039213(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00
B60C 15/06
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋性不飽和鎖ポリマー、補強性充填剤、熱硬化性樹脂および加硫系を含む、空気入りタイヤのビードフィラーの製造用ゴム配合物であり;前記配合物は、前記熱硬化性樹脂が、−OR基を有する官能化リグニンを含み、式中、Rは、−CHCCHであり
前記補強性充填剤が、カーボンブラックであり、
前記−OR基が、リグニンの5〜100%のヒドロキシルフェノール基の官能化に由来し、
前記官能化リグニンが、クラフトリグニンに由来し、
前記ゴム配合物は、5〜15phrの前記官能化リグニンを含み、
前記官能化リグニンが、生産混合ステップの調製において前記ゴム配合物に添加される、ことを特徴とする、空気入りタイヤのビードフィラーの製造用ゴム配合物。
【請求項2】
請求項に記載の配合物を用いて製造された、空気入りタイヤのビードフィラー
【請求項3】
請求項2に記載のビードフィラーを含む、空気入りタイヤ。
【請求項4】
架橋性不飽和鎖ポリマー、補強性充填剤、熱硬化性樹脂および加硫系を含む、空気入りタイヤのビードフィラーの製造用ゴム配合物における熱硬化性樹脂としての官能化リグニンの使用であって;前記官能化リグニンは、−OR基を含み、式中、Rは、−CHCCHであり、
前記補強性充填剤が、カーボンブラックであり、
前記−OR基が、リグニンの5〜100%のヒドロキシルフェノール基の官能化に由来し、
前記官能化リグニンが、クラフトリグニンに由来し、
前記ゴム配合物は、5〜15phrの前記官能化リグニンを含み、
前記官能化リグニンが、生産混合ステップの調製において前記ゴム配合物に添加される、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ用の高剛性配合物における適切に官能化されたリグニンの使用に関する。
【0002】
特に、本発明は、空気入りタイヤの構造構成要素としての「ビード」用の配合物に関する。
【0003】
本明細書において、用語「メチレン受容体」樹脂は、「メチレン供与体」化合物の存在下でメチレン架橋によって架橋することができる樹脂を意味する。
【0004】
本明細書において、「非生産混合ステップ」は、架橋性不飽和鎖ポリマーベースに、加硫系を除いて配合物の成分を添加し混合する混合ステップを意味し;「生産混合ステップ」は、調製中の配合物に加硫系を添加し混合する混合ステップを意味する。
【背景技術】
【0005】
知られているように、英単語「ビードフィラー」と呼ばれる構造要素の製造のための配合物は、明らかな機能的理由から、高い剛性を持たなければならない。そのような剛性を得るために一般的に使用されるそれらの配合物の中には、N330シリーズに属するカーボンブラック、およびメチレン架橋を伴う架橋反応によって製造される二成分熱硬化性樹脂がある。
【0006】
具体的には、その二成分樹脂は、メチレン受容体化合物とメチレン供与体化合物との間の架橋反応によって製造される。
【0007】
これが伴うであろう明らかな加工性の問題と共に、上述の架橋反応が配合物調製ステップ中に起こることを回避するために、メチル受容体化合物は通常、第一の非生産混合ステップ中に配合物に添加され、一方、メチレン供与体化合物は、生産混合ステップの間にのみ、配合物に添加され、ここでその温度は、それがその架橋を助けないような温度である。
【発明の概要】
【0008】
この解決策は、一般的に使用されているが、それにもかかわらず、二成分系樹脂の最適ではない形成をもたらす。そのような欠点の1つは、2つの熱硬化性樹脂成分を2つの別々の混合ステップ中に添加しなければならないという事実から生じる。
【0009】
本発明の発明者らは、二成分樹脂を適切に官能化されたリグニンで置き換えることが可能であり、そのためより良い結果が得られることを見出した。
【0010】
リグニンは、木材および植物の木質化した要素を構成する細胞と繊維を結合する有機物質である。セルロースに次いで、それは地球上で最も豊富な再生可能な炭素源である。化学分子としてリグニンの正確な構造を定めることは不可能だが、しかしながら、以下の3つのフェニルプロパン単位に基づくポリマー構造としてリグニンを同定することは可能である:−p−クマリルアルコール;−コニフェリルアルコール(4−ヒドロキシ−3−メトキシシンナミルアルコール);−シナピルアルコール(4−ヒドロキシ−3,5−ジメトキシシンナミルアルコール)。リグニンの基本成分の化学構造から容易に推論できるように、後者は特にヒドロキシル基(主としてフェノール、アルコールまたはカルボキシルタイプの)に富んでおり、これは、リグニンそれ自体をエステル化および/またはエーテル化反応により官能化するのに特に適している。
【0011】
クラフト法およびスルホン化法を含むいくつかのリグニン抽出法がある。
【0012】
クラフトリグニンは、木材からセルロースを化学的に抽出するために使用されるクラフト法の副産物である。それは沈殿によって得られ、クラフト法からのクエンチされた液のpHを低下させる。フェノール性ヒドロキシル、アルコール性ヒドロキシル、およびカルボン酸ヒドロキシルは、クラフトリグニン中の主要な同定可能な官能基であり、一方、チオール基はより少ない程度で存在する。
【0013】
対照的に、スルホン化法は、高濃度のスルホン酸基の存在を特徴とするリグニンを得ることに寄与する。
【0014】
当業者がすぐに理解するように、熱硬化性樹脂に代えてリグニンを使用することは、持続可能性の点で重要な利点を表す。事実、リグニンは製紙産業廃棄物から得られる天然物である。この点で、リグニンの処分は、製紙チェーン内の限定的なステップであることも明記されるべきである。
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、架橋性不飽和鎖ポリマー、補強性充填剤、熱硬化性樹脂および加硫系を含む、空気入りタイヤの構造構成要素の製造用ゴム配合物であり;前記配合物は、前記熱硬化性樹脂が−OR基を有する官能化リグニンを含み、式中、Rは3〜18の炭素原子数を有するアルキン基であることを特徴とする。
【0016】
本明細書において、加硫系とは、少なくとも硫黄および促進剤化合物を含む成分の複合体を意味し、配合物の調製において最終混合ステップで添加され、配合物が加硫温度にかけられたとき、ポリマーベースの加硫を促進する目的を有する。
【0017】
本明細書において、用語「架橋性不飽和鎖ポリマーベース」は、硫黄ベースの系を用いた架橋(加硫)後にエラストマーによって典型的に想定される全ての化学物理的および機械的特性を想定することができる任意の天然または合成非架橋ポリマーを指す。
【0018】
好ましくは、前記官能化リグニンは、生産混合ステップ中に調製中の配合物に添加される。
【0019】
好ましくは、前記−OR基は、5〜100%のリグニンフェノール性ヒドロキシル基の官能化に由来する。
【0020】
好ましくは、Rは、−CHCCHである。
【0021】
好ましくは、前記配合物は、5〜15phrの前記官能化リグニンを含む。
【0022】
好ましくは、前記官能化リグニンは、クラフトリグニンに由来する。
【0023】
本発明のさらなる目的は、本発明による配合物を用いて製造された空気入りタイヤ構造構成要素である。好ましくは、前記構造構成要素は、ビードフィラーである。
【0024】
本発明のなおさらなる目的は、本発明による配合物を用いて製造された構造構成要素を含む空気入りタイヤである。
【0025】
本発明のなおさらなる目的は、空気入りタイヤの構造構成要素の製造用のゴム配合物における熱硬化性樹脂としての官能化リグニンの使用であり;前記官能化リグニンは、−OR基を含み、式中、Rは、3〜18の炭素原子数を有するアルキン基である。
【0026】
本発明をよりよく理解するために、以下の実施例は、例示的かつ非限定的な目的のために与えられる。
【実施例】
【0027】
以下の4つの配合物を調製した:
1つ目(配合物A)は、第1の比較例かつ先行技術配合物を表し、メチレン受容体化合物が第1の非生産混合ステップの間に添加され、メチレン供与体化合物が生産混合ステップの間に添加される;
2つ目(配合物B)は、別の比較例を表し、メチレン受容体化合物とメチレン供与体化合物の両方が、生産混合ステップの間に添加される;
3つ目(配合物C)は、さらなる比較例を表し、メチレン受容体化合物とメチレン供与体化合物とによって表される二成分樹脂の代わりに、非官能化リグニンを用いた;
4つ目(配合物D)は、本発明の実施例を表し、メチレン受容体化合物とメチレン供与体化合物とによって表される二成分樹脂の代わりに、本発明の官能化リグニンを用いた。
【0028】
例の配合物を、以下に報告する手順に従って調製した。
【0029】
−配合物の調製−
(第1の非生産混合ステップ)
混合開始前に、230〜270リットルの内容積を有する密閉式チャンバーミキサーに表Iに記載の成分を充填し、66〜72%の充填率とした。
【0030】
ミキサーを40〜60rpmの速度で運転し、このように形成した混合物を140〜160℃の温度に達したところで排出した。
【0031】
(第2の非生産混合ステップ)
前のステップからの混合物を40〜60rpmの速度で運転しているミキサー中で再加工し、次に130〜150℃の温度に達したところで除去した。
【0032】
(生産混合ステップ)
表Iに挙げた成分を前のステップから得た混合物に添加して、63〜67%の充填率とした。
【0033】
ミキサーを20〜40rpmの速度で運転し、このように形成した混合物を100〜110℃の温度に達したところで排出した。
【0034】
表Iは、5つの比較配合物および本発明の配合物の組成をphrで示す。
【0035】
【表1】
【0036】
NRは、天然由来の1,4−シスポリイソプレンゴムである。
【0037】
SBRは、それぞれ、500〜1500×10の平均分子量、10〜45%のスチレン含有量、20〜70%のビニル含有量および0〜30%の油含有量を有する、溶液中のスチレンブタジエンゴムである。
【0038】
CBは、クラスN330に属するカーボンブラックである。
【0039】
PF樹脂は、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂を表し、メチレン受容体化合物を構成する。
【0040】
TMQおよび6PPDはそれぞれ、ポリ(1,2−ジヒドロ−2,2,4−トリメチルキノリン)およびN−1,3−ジメチルブチル−N’−フェニル−パラフェニレンジアミンを表し、2つの酸化防止剤を構成する。
【0041】
HMMMは、ヘキサメトキシメチルアミンを表し、メチレン供与体化合物を構成する。
【0042】
TBBSは、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミドを表し、加硫促進剤を構成する。
【0043】
使用した非官能化リグニンは、Alkali Ligninの商品名でSigma Aldrichによって市販されている。
【0044】
以下は、本発明の官能化リグニンの例示的かつ非限定的な例示的実施形態である。
【0045】
リグニン試料を、フェノール性ヒドロキシルおよびカルボン酸の含有量に基づいて計算される濃度の炭酸カリウムを含有するジメチルホルムアミド溶液中に可溶化する。その溶液を50℃に加熱し、必要な官能化レベルを得るために必要量のプロパルギルブロミドと約4時間反応させる。
【0046】
冷却後、その溶液を酸性化により沈殿させ、その固体残渣を洗浄し、遠心分離してから回収した。
【0047】
表Iに示した各配合物を、それらの粘度およびその動的機械的性質を評価するために一連の試験にかけた。
【0048】
特に、粘度の測定は、ASTM D1646規格に従って行い、レオメトリック特性は、ASTM D6204規格に従って測定し、動的機械特性は、ISO 4664規格に従って測定した。
【0049】
表IIは上記の試験から得られた結果を示す。
【0050】
本発明の配合物に関する利点のより直接的な証拠のため、試験から得られた値を、比較配合物Aから得られた結果に対して指数化して表IIに示す。
【0051】
【表2】
【0052】
表IIに示す値から、官能化リグニンの使用が剛性とヒステリシスの間のより良いバランスを確実にすることは明らかである。
【0053】
より高い配合物の剛性は、より高いビードフィラーの機能性を意味し、一方、より低いヒステリシスは、繰り返し変形サイクルに対する良好な耐性ならびに転がり抵抗に対する肯定的な寄与を確実にする。
【0054】
粘度およびt50値は、官能化リグニンの使用が加工性に実質的な変動を生じさせないことを実証する。
【0055】
最後に、非官能化リグニンを使用して得られた結果の比較は、後者がどのようにしてビードフィラーの正しい機能に必要な剛性を保証することができないかを強調している。