特許第6798041号(P6798041)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6798041低降伏比かつ高強度高靭性の厚肉鋼板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6798041
(24)【登録日】2020年11月20日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】低降伏比かつ高強度高靭性の厚肉鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20201130BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20201130BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   C22C38/00 302A
   C22C38/58
   C21D8/02 D
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-555528(P2019-555528)
(86)(22)【出願日】2017年8月8日
(65)【公表番号】特表2020-506293(P2020-506293A)
(43)【公表日】2020年2月27日
(86)【国際出願番号】CN2017096430
(87)【国際公開番号】WO2018227740
(87)【国際公開日】20181220
【審査請求日】2019年6月21日
(31)【優先権主張番号】201710445091.3
(32)【優先日】2017年6月13日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519226115
【氏名又は名称】南京鋼鉄股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】孫 超
(72)【発明者】
【氏名】李 強
(72)【発明者】
【氏名】単 以剛
(72)【発明者】
【氏名】王 从道
(72)【発明者】
【氏名】党 軍
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2018−512508(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104789892(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第104911475(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第106636920(CN,A)
【文献】 特開2006−131958(JP,A)
【文献】 特開2003−138345(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/067626(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低降伏比かつ高強度高靭性の厚肉鋼板であって、
化学組成の質量百分率含有量は、C:0.060〜0.080%、Mn:5.5〜6.0%、Si:0.10〜0.30%、Al:0.015〜0.040%、Mo:0.15〜0.30%、Cr:0.20〜0.40%、Ni:0.15〜0.40%、Ti:0.01〜0.03%、S≦0.006%、P≦0.010%であり、残部はFe及び不可避的不純物元素であり、
ただし、前記厚肉鋼板のミクロ組織は焼戻しマルテンサイトと逆変態オーステナイトとを含み、
前記厚肉鋼板において、降伏強度≧690MPa以上であり、降伏比≦0.80以下であり、−60℃シャルピー衝撃試験による横衝撃吸収エネルギー≧60J以上であり、厚さは50〜100mmである、
ことを特徴とする低降伏比かつ高強度高靭性の厚肉鋼板。
【請求項2】
前記厚肉鋼板の前記ミクロ組織における前記逆変態オーステナイトの体積分率は5〜15%である、
ことを特徴とする請求項1に記載の低降伏比かつ高強度高靭性の厚肉鋼板。
【請求項3】
低降伏比かつ高強度高靭性の厚肉鋼板の製造方法であって、
(1)加熱:ビレットの加熱温度を1070〜1150℃に制御し、ビレット中心が該温度に達してから90〜150minに保温するステップと、
(2)圧延:圧延開始温度を≦1020℃に、圧延停止温度を≧820℃に、総変形量を≧65%に制御し、圧延後に水冷し、冷却停止温度を≦130℃とするステップと、
(3)熱処理:鋼板を605〜645℃に加熱し、鋼板中心が該温度に達してから50〜120min保温し、そして室温まで空冷するステップと、を含む、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の低降伏比かつ高強度高靭性の厚肉鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記ステップ(2)において、圧延後の水冷の冷却停止温度は室温乃至130℃である、
ことを特徴とする請求項に記載の低降伏比かつ高強度高靭性の厚肉鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋼板及びその製造方法に関し、特に、低降伏比かつ高強度高靭性の厚肉鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船体、橋梁、建物、圧力容器及び海洋プラットフォームの構造材料上の要件が高まっているのに伴い、高強度で、高靭性の厚肉鋼板の開発が大きな注目を集めている。しかし、高強度鋼板には、降伏比を下げることが困難であるという大きな問題がある。降伏比は、材料の加工硬化能力を反映した、降伏強度と引張強度との比である。降伏比が高いほど、鋼板の変形時に局部応力集中又は大きな局部変形が起こりやすく、鋼構造が少量のエネルギーを吸収するだけで材料の破断や構造の不安定化を招く。降伏比が低いほど、鋼板が塑性変形から最終破断まで受けた変形能力が大きくなり、吸収されたエネルギーが大きくなるほど、鋼構造の耐震性能が向上する。したがって、鋼構造物の安定性上の要件が高い場合は、降伏比の低い鋼板を使用する必要がある。しかしながら、既存の焼入れ、焼戻しプロセスにより製造された高強度鋼板は、降伏比が一般的に0.92以上である。より高い降伏比が鋼板の用途の範囲を制限する。
【0003】
一般的に、ベイナイト、マルテンサイトなど単一組織型の鋼は、高い降伏強度と高い引張強度とを容易に達成することができるが、降伏強度と引張強度との差が大きくないため、降伏比が比較的高い。プロセスを改善することによる多相組織は、例えば、フェライト+マルテンサイト、フェライト+ベイナイト、ベイナイト+マルテンサイトなどを含み、高強度及び低降伏比を達成するための有効な方法である。多相組織は変形時、軟質相がまず降伏し、硬質相がさらなる変形中に引張強度を与えるため、降伏比が下がる。先行技術の低降伏比多相組織を得るプロセスは一般的に変態温度焼き入れに基づくものであり、例えば、再加熱焼入れ−変態温度焼入れ−焼戻し、焼均し−変態温度焼入れ−焼戻し、直接焼入れ−変態温度焼入れ−焼戻し、TMCP−変態温度焼入れ−焼戻し、変態温度区間直接焼入れ−焼戻しなどのプロセスである。しかしながら、このようなプロセスはサイクルタイムが長いという欠点を有する。変態温度焼入れに基づくプロセスと比較して、急速加熱オンライン熱処理に基づくプロセスは、多相組織を柔軟に制御することができ、かつサイクルタイムが短く、効率が高いが、製造機器に対する要件が非常に高く、普及しにくい。
【0004】
また、低降伏比と高強度との矛盾に加えて、高強度と高靭性とを両立することも困難であり、かつ、厚肉条件下で高強度を得ることも困難である。そのため、厚肉鋼板の高強度、高靭性及び低降伏比を簡単なプロセスで達成することが急務となっている。
【0005】
特許文献1は低温衝撃靭性に優れた低降伏比かつ高強度高靭性の厚肉鋼板及びその製造方法を開示し、該低降伏比かつ高強度高靭性の厚肉鋼板は化学組成において3.6%以上のNiを有するため、コストが高い。
【0006】
特許文献2は低コストかつ低降伏比の調質型Q690E鋼板及びその製造方法を開示し、該低降伏比調質型Q690E鋼板の厚さはわずか8〜40mmである。
【0007】
特許文献3は低降伏比高強度橋梁用鋼及びその製造方法を開示し、該低降伏比高強度橋梁用鋼は降伏強度が600MPa以下であり、かつ−40℃の衝撃靭性しか保証できない。
【0008】
特許文献4は低降伏比高塑性の超微細粒高強度鋼及びその製造方法を開示し、該低降伏比高塑性の超微細粒高強度鋼の組織はベイナイトである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】中国特許出願公開第104789892号明細書
【特許文献2】中国特許出願公開第106399840号明細書
【特許文献3】中国特許出願公開第103352167号明細書
【特許文献4】中国特許出願公開第102277539号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、高強度、高靭性、厚肉及び低降伏比という優れた特性を有する低降伏比かつ高強度高靭性の厚肉鋼板を提供することにある。
【0011】
本発明のもう1つの目的は、低降伏比で、高強度高靭性の厚肉鋼板を得ることができる低降伏比かつ高強度高靭性の厚肉鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
低降伏比かつ高強度高靭性の厚肉鋼板であって、前記鋼板の化学組成の質量百分率含有量は、C:0.060〜0.080%、Mn:5.5〜6.0%、Si:0.10〜0.30%、Al:0.015〜0.040%、Mo:0.15〜0.30%、Cr:0.20〜0.40%、Ni:0.15〜0.40%、Ti:0.01〜0.03%、S≦0.006%、P≦0.010%であり、残部はFe及び不可避的不純物元素である。
【0013】
本発明の低降伏比かつ高強度高靭性の厚肉鋼板における各化学成分の含有量を限定した理由は以下の通りである。
【0014】
C元素は、固溶強化によってマトリックスの強度を著しく増加させることができるとともに、オーステナイト相を安定化させることができるが、材料の延性−脆性遷移温度を低下させるために、C含有量を可能限り低下させるべきである。さらに、Cも材料の溶接特性に有利ではない。したがって、本発明は、C含有量を0.060〜0.080%の低いレベルに制御する。
【0015】
Mnは、本発明に記載の鋼板の主な合金元素として、フェライト強化元素でもあり、オーステナイト安定化元素でもある。材料の低温靭性を向上させる観点から、Mn/C比を増加させると延性−脆性遷移温度を著しく低下させることができるため、Mnは高価なNiをある程度に置き換えることができるが、過剰なMn含有量により、偏析度が高くなり、製錬が困難になり、そして材料のコストも増加してしまう。したがって、本発明はMn含有量を5.5〜6.0%に制御する。
【0016】
Siは製鋼工程における脱酸元素であり、適量のSiはMnとPとの偏析を抑制することができ、また過剰なO含有量、MnとPとの偏析はいずれも靭性を損なう。Siはさらに固溶強化を生じさせることができるが、その含有量が0.3%を超えると延性−脆性遷移温度の上昇を引き起こすため、その含有量を多くしすぎてはいけない。本発明はSi含有量を0.10〜0.30%に制御する。
【0017】
Alは製鋼工程における脱酸元素であり、固溶N原子の量を減らすこともでき、それによって靭性及びひずみ時効耐性を改善することができ、かつ形成されたAlNは結晶粒を微細化することもでき、それによって延性−脆性遷移温度をさらに下げる。しかしながら、過剰な添加により、大型のAl及びAlNを形成するとともに靭性を損なう。したがって、本発明はAl含有量を0.015〜0.040%に制御する。
【0018】
Moは焼戻し後のマルテンサイトの強度を増加させることができ、さらに、靭性を改善するためにMnの粒界偏析を弱めることができる。過剰なMo含有量により、溶接性を劣化させるとともに材料コストを増大させる。したがって、本発明はMo含有量を0.15〜0.30%に制御する。
【0019】
Crは固溶強化を引き起こす可能性があるが、過剰なCr含有量により、溶接性が低下する。したがって、本発明はCr含有量を0.20〜0.40%に制御する。
【0020】
Niは、オーステナイト相を安定化させ、焼入れ性を改善し、延性−脆性遷移温度を低下させることができるとともに、変形特性を改善することができ、また溶接性に寄与する。しかしながら、Ni元素を過剰に添加すると、コストが著しく増大する可能性がある。したがって、本発明はNi含有量を0.15〜0.40%に制御する。
【0021】
Tiは高温オーステナイト結晶粒を微細化することができ、これは強度及び靭性の改善に寄与する。微量の添加で機能可能であり、過剰に添加すると介在物が増加してしまう。したがって、本発明はTi含有量を0.010〜0.030%に制御する。
【0022】
SはMnとともにMnSを容易に形成することができ、またPは粒界で偏析しやすく、かつ粒界の亀裂進展抵抗力を低下させる傾向があり、材料の靭性を向上させるためには、S、Pを最小限に抑える必要がある。したがって、本発明はS≦0.006%及びP≦0.010%を必要とする。
【0023】
ただし、該鋼板の微細構造下のミクロ組織は焼戻しマルテンサイトと逆変態オーステナイトとの多相組織である。焼戻しマルテンサイトはマトリックス構造として、材料の降伏強度を決定する。逆変態オーステナイトは分散して分布する第二相として、材料の靭性を向上させることができる一方で、変形中に相変化が発生するとともに引張強度を向上させることができ、それによって降伏比を低下させることができる。ここで、X線回折装置で測定した逆変態オーステナイトの体積分率は5〜15%である。
【0024】
前記鋼板は厚さが50〜100mmであり、降伏強度≧690MPa、降伏比≦0.80、−60℃シャルピー衝撃試験による横衝撃吸収エネルギー≧60Jである。
【0025】
本発明に記載の低降伏比かつ高強度高靭性の厚肉鋼板の製造方法は、加熱、圧延及び熱処理というステップを含む。具体的には以下の通りである。
【0026】
(1)加熱:上記の低降伏比かつ高強度高靭性の厚肉鋼板と同じ化学組成を有するビレットを加熱し、ビレットの加熱温度を1070〜1150℃に制御し、ビレット中心が該温度に達してから90〜150minに保温する。ビレットを加熱すると、高温オーステナイト組織が得られ、また合金元素は拡散により均質化される。加熱温度が高すぎるか、又は保温時間が長すぎると、高温オーステナイト結晶粒が粗大になり、加熱温度が低すぎるか、又は保温時間が短すぎると、合金元素の均質化に寄与しない。従って、本発明は、加熱温度を1070〜1150℃に制御し、保温時間を90〜150minに制御する。
【0027】
(2)圧延:加熱後、ビレットを圧延し、圧延開始温度を≦1020℃に、圧延停止温度を≧820℃に、総変形量を≧65%に制御し、圧延後に水冷し、冷却停止温度を≦130℃とする。圧延温度区間はオーステナイト相領域にあり、圧延開始温度が高すぎると結晶粒微細化に有利ではなく、圧延停止温度が低すぎると変形が困難になるため、本発明は、圧延開始温度を≦1020℃に、圧延停止温度を≧820℃に制御する。総変形量≧65%であれば、十分なひずみ蓄積を確保するとともにオーステナイト組織を微細化することができる。圧延後に水冷し、冷却停止温度を≦130℃とし、マルテンサイト変態終点より低くし、オーステナイトをラスマルテンサイトに変態させ、組織をさらに微細化する。ここで、圧延後の水冷の冷却停止温度は室温乃至130℃である。
【0028】
(3)熱処理:鋼板を605〜645℃に加熱し、鋼板中心が該温度に達してから50〜120min保温し、そして室温まで空冷する。605〜645℃の熱処理温度は、フェライト−オーステナイト二相領域にあり、5〜15%の体積分率を有する逆変態オーステナイトを形成することができ、オーステナイトは、十分な熱安定性を得るために加熱過程及び50〜120minの保温過程にC、Mnのような合金元素を富化し、−60℃に冷却した時にも面心立方構造を維持することができる。さらに、マルテンサイトは高温で適度の回復が発生し、強度が低下するに対して塑性靭性が向上する。保温後、室温まで空冷し、焼戻しマルテンサイト+逆変態オーステナイトの多相組織を得る。
【発明の効果】
【0029】
本発明に記載の低降伏比かつ高強度高靭性の厚肉鋼板は、高降伏強度及び低降伏比を有し、降伏強度≧690MPaで、降伏比≦0.80で、−60℃シャルピー衝撃試験による横衝撃吸収エネルギー≧60Jであり、良好な低温衝撃靭性を有し、また、該鋼板の厚さ仕様は50〜100mmに達する。本発明に記載の低降伏比かつ高強度高靭性の厚肉鋼板の製造方法により、高強度で、高靭性で、低降伏比の厚肉鋼板を製造することができ、また、製造プロセスは1回の熱処理しか必要とせず、プロセスが簡単であり、製造が実施しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施例1における低降伏比かつ高強度高靭性の厚肉鋼板の透過型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(実施例1)
厚さ50mmの低降伏比高靭性鋼板を製造することは、以下のステップ(1)〜(3)に従って行う。
【0032】
(1)加熱:厚さ200mmのビレットを加熱炉に入れ、1110℃まで加熱してから120min保温し、ビレットの化学組成及びその質量百分率を、C:0.060%、Mn:5.5%、Si:0.22%、Al:0.030%、Mo:0.15%、Cr:0.20%、Ni:0.15%、Ti:0.010%、S:0.003%、P:0.006%とし、残部をFe及び不可避的不純物元素とする。
【0033】
(2)圧延:加熱後のビレットを圧延し、圧延開始温度を1020℃、圧延停止温度を845℃とし、圧延機の圧延スケジュールを表1に従って作成する。
表1:実施例1 圧延スケジュール
【表1】
総変形量を75%とし、圧延終了後に水冷し、冷却停止温度を25℃とする。
【0034】
(3)熱処理:鋼板を加熱炉に入れ、645℃まで加熱してから50min保温し、鋼板を取り出した後、室温まで冷却する。
【0035】
該鋼板の化学組成及びその質量百分率は、C:0.060%、Mn:5.5%、Si:0.22%、Al:0.030%、Mo:0.15%、Cr:0.20%、Ni:0.15%、Ti:0.010%、S:0.003%、P:0.006%であり、残部はFe及び不可避的不純物元素である。該鋼板組織は焼戻しマルテンサイト+逆変態オーステナイトの多相組織であり、該鋼板組織の透過型電子顕微鏡写真である図1に示すように、間隔的に分布している焼戻しマルテンサイトと逆変態オーステナイトとの間隔分布が観察され、そこでは色の薄い部分は焼戻しマルテンサイトであり、色の濃い部分は逆変態オーステナイトである。該鋼板は降伏強度が752MPaであり、降伏比が0.80であり、−60℃シャルピー衝撃試験による横衝撃吸収エネルギーが155Jである。
【0036】
(実施例2)
厚さ70mmの低降伏比高靭性鋼板を製造することは、以下のステップ(1)〜(3)に従って行う。
【0037】
(1)加熱:厚さ200mmのビレットを加熱炉に入れ、1115℃まで加熱してから110min保温し、ビレットの化学組成及びその質量百分率を、C:0.065%、Mn:5.6%、Si:0.20%、Al:0.027%、Mo:0.18%、Cr:0.22%、Ni:0.24%、Ti:0.026%、S:0.006%、P:0.010%とし、残部をFe及び不可避的不純物元素とする。
【0038】
(2)圧延:加熱後のビレットを圧延し、圧延開始温度を1006℃とし、圧延停止温度を827℃とし、圧延機の圧延スケジュールを表2に従って作成する。
表2:実施例2 圧延スケジュール
【表2】
総変形量を65%とし、圧延終了後に水冷し、冷却停止温度を68℃とする。
【0039】
(3)熱処理:鋼板を加熱炉に入れ、625℃まで加熱してから90min保温し、鋼板を取り出した後、室温まで冷却する。
【0040】
該鋼板の化学組成及びその質量百分率は、C:0.065%、Mn:5.6%、Si:0.20%、Al:0.027%、Mo:0.18%、Cr:0.22%、Ni:0.24%、Ti:0.026%、S:0.006%、P:0.010%であり、残部はFe及び不可避的不純物元素である。該鋼板組織は焼戻しマルテンサイト+逆変態オーステナイトの多相組織であり、降伏強度が743MPaであり、降伏比が0.75であり、−60℃シャルピー衝撃試験による横衝撃吸収エネルギーが102Jである。
【0041】
(実施例3)
厚さ80mmの低降伏比高靭性鋼板を製造することは、以下のステップ(1)〜(3)に従って行う。
【0042】
(1)加熱:厚さ320mmのビレットを加熱炉に入れ、1150℃まで加熱してから90min保温し、ビレットの化学組成及びその質量百分率を、C:0.073%、Mn:5.8%、Si:0.10%、Al:0.040%、Mo:0.22%、Cr:0.27%、Ni:0.40%、Ti:0.030%、S:0.002%、P:0.008%とし、残部をFe及び不可避的不純物元素とする。
【0043】
(2)圧延:加熱後のビレットを圧延し、圧延開始温度を1005℃とし、圧延停止温度を820℃とし、圧延機の圧延スケジュールを表3に従って作成する。
表3:実施例3 圧延スケジュール
【表3】
総変形量を75%とし、圧延終了後に水冷し、冷却停止温度を72℃とする。
【0044】
(3)熱処理:鋼板を加熱炉に入れ、620℃まで加熱してから90min保温し、鋼板を取り出した後、室温まで冷却する。
【0045】
該鋼板の化学組成及びその質量百分率は、C:0.073%、Mn:5.8%、Si:0.10%、Al:0.040%、Mo:0.22%、Cr:0.27%、Ni:0.40%、Ti:0.030%、S:0.002%、P:0.008%であり、残部はFe及び不可避的不純物元素である。該鋼板組織は焼戻しマルテンサイト+逆変態オーステナイトの多相組織であり、降伏強度が708MPaであり、降伏比が0.71であり、−60℃シャルピー衝撃試験による横衝撃吸収エネルギーが93Jである。
【0046】
(実施例4)
厚さ100mmの低降伏比高靭性鋼板を製造することは、以下のステップ(1)〜(3)に従って行う。
【0047】
(1)加熱:厚さ320mmのビレットを加熱炉に入れ、1070℃まで加熱してから150min保温し、ビレットの化学組成及びその質量百分率を、C:0.080%、Mn:6.0%、Si:0.30%、Al:0.015%、Mo:0.30%、Cr:0.40%、Ni:0.31%、Ti:0.021%、S:0.001%、P:0.008%とし、残部をFe及び不可避的不純物元素とする。
【0048】
(2)圧延:加熱後のビレットを圧延し、圧延開始温度を1002℃とし、圧延停止温度を837℃とし、圧延機の圧延スケジュールを表4に従って作成する。
表4:実施例4 圧延スケジュール
【表4】
総変形量を69%とし、圧延終了後に水冷し、冷却停止温度を130℃とする。
【0049】
(3)熱処理:鋼板を加熱炉に入れ、605℃まで加熱してから120min保温し、鋼板を取り出した後、室温まで冷却する。
【0050】
該鋼板の化学組成及びその質量百分率は、C:0.080%、Mn:6.0%、Si:0.30%、Al:0.015%、Mo:0.30%、Cr:0.40%、Ni:0.31%、Ti:0.021%、S:0.001%、P:0.008%であり、残部はFe及び不可避的不純物元素である。該鋼板組織は焼戻しマルテンサイト+逆変態オーステナイトの多相組織であり、降伏強度が690MPaであり、降伏比が0.74であり、−60℃シャルピー衝撃試験による横衝撃吸収エネルギーが60Jである。
【0051】
(付記)
(付記1)
低降伏比かつ高強度高靭性の厚肉鋼板であって、
化学組成の質量百分率含有量は、C:0.060〜0.080%、Mn:5.5〜6.0%、Si:0.10〜0.30%、Al:0.015〜0.040%、Mo:0.15〜0.30%、Cr:0.20〜0.40%、Ni:0.15〜0.40%、Ti:0.01〜0.03%、S≦0.006%、P≦0.010%であり、残部はFe及び不可避的不純物元素であり、
ただし、前記鋼板のミクロ組織は焼戻しマルテンサイトと逆変態オーステナイトとを含む、
ことを特徴とする低降伏比かつ高強度高靭性の厚肉鋼板。
【0052】
(付記2)
前記鋼板の厚さは50〜100mmである、
ことを特徴とする付記1に記載の低降伏比かつ高強度高靭性の厚肉鋼板。
【0053】
(付記3)
前記鋼板のミクロ組織における逆変態オーステナイトの体積分率は5〜15%である、
ことを特徴とする付記1に記載の低降伏比かつ高強度高靭性の厚肉鋼板。
【0054】
(付記4)
低降伏比かつ高強度高靭性の厚肉鋼板の製造方法であって、
(1)加熱:ビレットの加熱温度を1070〜1150℃に制御し、ビレット中心が該温度に達してから90〜150minに保温するステップと、
(2)圧延:圧延開始温度を≦1020℃に、圧延停止温度を≧820℃に、総変形量を≧65%に制御し、圧延後に水冷し、冷却停止温度を≦130℃とするステップと、
(3)熱処理:鋼板を605〜645℃に加熱し、鋼板中心が該温度に達してから50〜120min保温し、そして室温まで空冷するステップと、を含む、
ことを特徴とする付記1〜3のいずれか1つに記載の低降伏比かつ高強度高靭性の厚肉鋼板の製造方法。
【0055】
(付記5)
前記ステップ(2)において、圧延後の水冷の冷却停止温度は室温乃至130℃である、
ことを特徴とする付記4に記載の低降伏比かつ高強度高靭性の厚肉鋼板の製造方法。
図1