特許第6798054号(P6798054)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 千寿製薬株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6798054
(24)【登録日】2020年11月20日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】医薬製品
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/498 20060101AFI20201130BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20201130BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20201130BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20201130BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   A61K31/498
   A61K9/08
   A61K47/04
   A61K47/02
   A61P27/06
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2020-26651(P2020-26651)
(22)【出願日】2020年2月19日
【審査請求日】2020年4月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000199175
【氏名又は名称】千寿製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】増田 柊也
【審査官】 高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2019−178083(JP,A)
【文献】 国際公開第2019/026992(WO,A1)
【文献】 特開2011−063625(JP,A)
【文献】 アイファガン点眼液0.1% 添付文書,2019年,第5版
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/498
A61K 9/08
A61K 47/00−47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜塩素酸及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩と、ブリモニジン及び/又はその塩とを含む水性液剤が、エチレンオキサイドガス滅菌処理された容器に収容されている、医薬製品。
【請求項2】
前記水性液剤が、金属塩化物を含む、請求項1に記載の医薬製品。
【請求項3】
前記金属塩化物が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の医薬製品。
【請求項4】
前記水性液剤が、点眼液である、請求項1〜3のいずれかに記載の医薬製品。
【請求項5】
前記容器が、ポリオレフィン製である、請求項1〜4のいずれかに記載の医薬製品。
【請求項6】
前記ポリオレフィンが、ポリプロピレン又はポリエチレンである、請求項1〜5のいずれかに記載の医薬製品。
【請求項7】
緑内障治療のために使用される、請求項1〜のいずれかに記載の医薬製品。
【請求項8】
亜塩素酸及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを含む水性液剤における亜塩素酸及び/又はその塩の含量を安定化する方法であって、
亜塩素酸及び/又はその塩、ホウ酸及び/又はその塩、並びにブリモニジン及び/又はその塩を含む水性液剤を、エチレンオキサイドガス滅菌処理された容器に収容する工程を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜塩素酸及び/又はその塩、並びにホウ酸及び/又はその塩を含有する水性液剤を含み、亜塩素酸及び/又はその塩の含量の低下を抑制できる医薬製品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、点眼剤や点鼻剤等の水性製剤には、微生物侵入や増殖を防止するために、保存剤が使用されている。従来、眼科分野の製剤では、保存剤としてベンザルコニウム塩化物が汎用されている。ベンザルコニウム塩化物は、細菌のタンパク質を変性させることにより優れた防腐作用を示すが、その反面、角膜上皮に障害を誘発する要因にもなり得ることが知られている。
【0003】
一方、亜塩素酸及びその塩は、水性製剤中で亜塩素酸イオン(ClO2-イオン)として存在して優れた保存効力を示し、安全性も高いことから、ベンザルコニウム塩化物に代わる安全な保存剤として注目されている。
【0004】
従来、亜塩素酸及びその塩を含む製剤について種々報告されている。例えば、特許文献1には、亜塩素酸塩と、ブロムフェナク、ジクロフェナク、ケトロラック、フルルビプロフェン、それらの薬学的に許容される塩、及びネパフェナクよりなる群から選択される少なくとも1種の非ステロイド性抗炎症剤とを含有する水性製剤は、亜塩素酸塩の光安定性を向上できることが開示されている。また、特許文献2には、亜塩素酸及び/又はその塩、並びにメントールを含むコンタクトレンズ用の水性組成物は、亜塩素酸及び/又はその塩の殺菌力及び/又は洗浄力を増強できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−82682号公報
【特許文献2】特開2014−28857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、亜塩素酸及び/又はその塩、並びにホウ酸及び/又はその塩を含有する水性液剤が、滅菌処理された容器に収容されている医薬製品の製造技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、亜塩素酸及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを含む水性液剤を、ガス滅菌処理された容器に収容した場合、亜塩素酸及び/又はその塩の含量が低下するという課題が生じることをつきとめた。更に亜塩素酸及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩と、ブリモニジン及び/又はその塩とを含む水性液剤を、ガス滅菌処理された容器に収容した場合には、亜塩素酸及び/又はその塩の含量の低下が抑制できることを見出した。
【0008】
加えて、本発明者は、ブリモニジン及び/又はその塩と、亜塩素酸及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを含む水性液剤を、ガス滅菌処理された容器に収容すると、ブリモニジン及び/又はその塩の含量の低下も抑制できることを見出した。
【0009】
本発明は、これらの知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、一実施態様として以下に掲げる医薬製品を提供する。
項1-1. 亜塩素酸及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩と、ブリモニジン及び/又はその塩を含む水性液剤が、ガス滅菌処理された容器に収容されている、医薬製品。
項1-2. 前記亜塩素酸及び/又はその塩が、亜塩素酸ナトリウムである、項1-1に記載の医薬製品。
項1-3. 前記亜塩素酸及び/又はその塩の濃度が、0.0001〜1w/v%である、項1-1又は1-2に記載の医薬製品。
項1-4. 前記ホウ酸及び/又はその塩が、ホウ酸及び/又はホウ砂である、項1-1〜1-3のいずれかに記載の医薬製品。
項1-5. 前記ホウ酸及び/又はその塩の濃度が、0.01〜10w/v%である、項1-1〜1-4のいずれかに記載の医薬製品。
項1-6. 前記ブリモニジン及び/又はその塩が、ブリモニジン酒石酸塩である、項1-1〜1-5のいずれかに記載の医薬製品。
項1-7. 前記ブリモニジン及び/又はその塩の濃度が、0.05〜0.5w/v%である、項1-1〜1-6のいずれかに記載の医薬製品。
項1-8. 前記水性液剤が、金属塩化物を含む、項1-1〜1-7のいずれかに記載の医薬製品。
項1-9. 前記金属塩化物として、少なくとも、塩化ナトリウムを含む、項1-8に記載の医薬製品。
項1-10. 前記金属塩化物が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムである、項1-8又は1-9に記載の医薬製品。
項1-11. 前記金属塩化物の総量の濃度が、0.01〜2w/v%である、項1-8〜1-10のいずれかに記載の医薬製品。
項1-12. 前記塩化ナトリウムの濃度が0.01〜2w/v%、前記塩化カリウムの濃度が0.01〜2w/v%、前記塩化マグネシウムの濃度が0.001〜0.2w/v%、且つ前記塩化カルシウムの濃度が0.001〜0.2w/v%である、項1-10又は1-11に記載の医薬製品。
項1-13. 前記水性液剤が、点眼液である、項1-1〜1-12のいずれかに記載の医薬製品。
項1-14. 前記容器が、ポリオレフィン製である、項1-1〜1-13のいずれかに記載の医薬製品。
項1-15. 前記ポリオレフィンが、ポリプロピレン又はポリエチレンである、項1-14に記載の医薬製品。
項1-16. 前記容器が、マルチドーズ型容器である、項1-1〜1-15のいずれかに記載の医薬製品。
項1-17. 前記ガス滅菌が、エチレンオキサイドガス滅菌である、項1-1〜1-16のいずれかに記載の医薬製品。
項1-18. 前記医薬製品を60℃で2週間保存後の亜塩素酸及び/又はその塩の残存率が95%以上である、項1-1〜1-17のいずれかに記載の医薬製品。
項1-19. 前記医薬製品を60℃で2週間保存後のブリモニジン及び/又はその塩の残存率が99.0%以上である、項1-1〜1-18のいずれかに記載の医薬製品。
項1-20. 亜塩素酸ナトリウムと、ホウ酸及び/又はホウ砂と、ブリモニジン酒石酸塩とを含む水性液剤が、エチレンオキサイドガス滅菌処理された容器に収容されている、医薬製品であって、
前記亜塩素酸ナトリウムの濃度が0.0001〜1w/v%であり、
前記ホウ酸及び/又はホウ砂の濃度が0.01〜10w/v%であり、
前記ブリモニジン酒石酸塩の濃度が0.05〜0.5w/v%であり、
前記容器が、ポリプロピレン又はポリエチレン製のマルチドーズ型容器である、医薬製品。
項1-21. 亜塩素酸ナトリウムと、ホウ酸及び/又はホウ砂と、ブリモニジン酒石酸塩とを含む水性液剤が、エチレンオキサイドガス滅菌処理された容器に収容されている、医薬製品であって、
前記亜塩素酸ナトリウムの濃度が0.005〜0.02w/v%であり、
前記ホウ酸及び/又はホウ砂の濃度が0.1〜0.5w/v%であり、
前記ブリモニジン酒石酸塩の濃度が0.05〜0.2w/v%であり、
前記容器が、ポリプロピレン又はポリエチレン製のマルチドーズ型容器である、医薬製品。
項1-22. 亜塩素酸ナトリウムと、ホウ酸及び/又はホウ砂と、ブリモニジン酒石酸塩とを含む水性液剤が、エチレンオキサイドガス滅菌処理された容器に収容されている、医薬製品であって、
前記亜塩素酸ナトリウムの濃度が0.005〜0.02w/v%であり、
前記ホウ酸及び/又はホウ砂の濃度が0.1〜0.5w/v%であり、
前記ブリモニジン酒石酸塩の濃度が0.05〜0.2w/v%であり、
前記医薬製品を60℃で2週間保存したときの亜塩素酸ナトリウムの残存率が95%以上、且つブリモニジン酒石酸塩の残存率が99.0%以上であり、
前記容器が、ポリプロピレン又はポリエチレン製のマルチドーズ型容器である、医薬製品。
項1-23. 緑内障治療のために使用される、項1-1〜1-22のいずれかに記載の医薬製品。
【0011】
また、本発明は、他の実施態様として、以下に掲げる、亜塩素酸及び/又はその塩の含量を安定化する方法を提供する。
項2-1. 亜塩素酸及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを含む水性液剤における亜塩素酸及び/又はその塩の含量を安定化する方法であって、
亜塩素酸及び/又はその塩、ホウ酸及び/又はその塩、並びにブリモニジン及び/又はその塩を含む水性液剤を、ガス滅菌処理された容器に収容する工程を含む、前記方法。
項2-2. 前記亜塩素酸及び/又はその塩が、亜塩素酸ナトリウムである、項2-1に記載の方法。
項2-3. 前記亜塩素酸及び/又はその塩の濃度が、0.0001〜1w/v%である、項2-1又は2-2に記載の方法。
項2-4. 前記ホウ酸及び/又はその塩が、ホウ酸及び/又はホウ砂である、項2-1〜2-3のいずれかに記載の方法。
項2-5. 前記ホウ酸及び/又はその塩の濃度が、0.01〜10w/v%である、項2-1〜2-4のいずれかに記載の方法。
項2-6. 前記ブリモニジン及び/又はその塩が、ブリモニジン酒石酸塩である、項2-1〜2-5のいずれかに記載の方法。
項2-7. 前記ブリモニジン及び/又はその塩の濃度が、0.05〜0.5w/v%である、項2-1〜2-6のいずれかに記載の方法。
項2-8. 前記水性液剤が、金属塩化物を含む、項2-1〜2-7のいずれかに記載の方法。
項2-9. 前記金属塩化物として、少なくとも、塩化ナトリウムを含む、項2-8に記載の方法。
項2-10. 前記金属塩化物が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムである、項2-8又は2-9に記載の方法。
項2-11. 前記金属塩化物の総量の濃度が、0.01〜2w/v%である、項2-8〜2-10のいずれかに記載の方法。
項2-12. 前記塩化ナトリウムの濃度が0.01〜2w/v%、前記塩化カリウムの濃度が0.01〜2w/v%、前記塩化マグネシウムの濃度が0.001〜0.2w/v%、且つ前記塩化カルシウムの濃度が0.001〜0.2w/v%である、項2-10又は2-11に記載の方法。
項2-13. 前記水性液剤が、点眼液である、項2-1〜2-12のいずれかに記載の方法。
項2-14. 前記容器が、ポリオレフィン製である、項2-1〜2-13のいずれかに記載の方法。
項2-15. 前記ポリオレフィンが、ポリプロピレン又はポリエチレンである、項2-14に記載の方法。
項2-16. 前記容器が、マルチドーズ型容器である、項2-1〜2-15のいずれかに記載の方法。
項2-17. 前記ガス滅菌が、エチレンオキサイドガス滅菌である、項2-1〜2-16のいずれかに記載の方法。
項2-18. 亜塩素酸ナトリウムと、ホウ酸及び/又はホウ砂とを含む水性液剤における亜塩素酸ナトリウムの含量を安定化する方法であって、
亜塩素酸ナトリウム、ホウ酸及び/又はホウ砂、並びにブリモニジン酒石酸塩を含む水性液剤を、エチレンオキサイドガス滅菌処理された容器に収容する工程を含み、
前記亜塩素酸ナトリウムの濃度が0.005〜0.02w/v%であり、
前記ホウ酸及び/又はホウ砂の濃度が0.1〜0.5w/v%であり、
前記ブリモニジン酒石酸塩の濃度が0.05〜0.2w/v%であり、
前記容器が、ポリプロピレン又はポリエチレン製のマルチドーズ型容器である、前記方法。
【0012】
更に、本発明は、他の実施態様として、以下に掲げる、ブリモニジン及び/又はその塩の含量を安定化する方法を提供する。
項3-1. ブリモニジン及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを含む水性液剤におけるブリモニジン及び/又はその塩の含量を安定化する方法であって、ブリモニジン及び/又はその塩、ホウ酸及び/又はその塩、並びに亜塩素酸及び/又はその塩を含む水性液剤を、ガス滅菌処理された容器に収容する工程を含む、前記方法。
項3-2. 前記ブリモニジン及び/又はその塩が、ブリモニジン酒石酸塩である、項3-1に記載の方法。
項3-3. 前記ブリモニジン及び/又はその塩の濃度が、0.05〜0.5w/v%である、項3-1又は3-2に記載の方法。
項3-4. 前記ホウ酸及び/又はその塩が、ホウ酸及び/又はその塩である、項3-1〜3-3のいずれかに記載の方法。
項3-5. 前記ホウ酸及び/又はその塩の濃度が、0.01〜10w/v%である、項3-1〜3-4のいずれかに記載の方法。
項3-6. 前記亜塩素酸及び/又はその塩が、亜塩素酸ナトリウムである、項3-1〜3-5のいずれかに記載の方法。
項3-7. 前記亜塩素酸及び/又はその塩の濃度が、0.0001〜1w/v%である、項3-1〜3-6のいずれかに記載の方法。
項3-8. 前記水性液剤が、金属塩化物を含む、項3-1〜3-7のいずれかに記載の方法。
項3-9. 前記金属塩化物として、少なくとも、塩化ナトリウムを含む、項3-8に記載の方法。
項3-10. 前記金属塩化物が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムである、項3-8又は3-9に記載の方法。
項3-11. 前記金属塩化物の総量の濃度が、0.01〜2w/v%である、項3-8〜3-10のいずれかに記載の方法。
項3-12. 前記塩化ナトリウムの濃度が0.01〜2w/v%、前記塩化カリウムの濃度が0.01〜2w/v%、前記塩化マグネシウムの濃度が0.001〜0.2w/v%、且つ前記塩化カルシウムの濃度が0.001〜0.2w/v%である、項3-10又は3-11に記載の方法。
項3-13. 前記水性液剤が、点眼液である、項3-1〜3-12のいずれかに記載の方法。
項3-14. 前記容器が、ポリオレフィン製である、項3-1〜3-13のいずれかに記載の方法。
項3-15. 前記ポリオレフィンが、ポリプロピレン又はポリエチレンである、項3-14に記載の方法。
項3-16. 前記容器が、マルチドーズ型容器である、項3-1〜3-15のいずれかに記載の方法。
項3-17. 前記ガス滅菌が、エチレンオキサイドガス滅菌である、項3-1〜3-16のいずれかに記載の医薬製品。
項3-18. ブリモニジン酒石酸塩と、ホウ酸及び/又はホウ砂とを含む水性液剤におけるブリモニジン酒石酸塩の含量を安定化する方法であって、
ブリモニジン酒石酸塩、ホウ酸及び/又はホウ砂、並びに亜塩素酸ナトリウムを含む水性液剤を、エチレンオキサイドガスで滅菌処理された容器に収容する工程を含み、
前記ブリモニジン酒石酸塩の濃度が0.05〜0.2w/v%であり、
前記ホウ酸及び/又はホウ砂の濃度が0.1〜0.5w/v%であり、
前記亜塩素酸ナトリウムの濃度が0.005〜0.02w/v%であり、
前記容器が、ポリプロピレン又はポリエチレン製のマルチドーズ型容器である、前記方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、亜塩素酸及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩と、ブリモニジン及び/又はその塩とを含む水性液剤を、ガス滅菌処理された容器に収容することにより、亜塩素酸及び/又はその塩の含量の低下を抑制でき、亜塩素酸及び/又はその塩による保存効力を安定に維持させることができる。更に、本発明によれば、亜塩素酸及び/又はその塩の含量の低下を抑制するだけでなく、ブリモニジン及び/又はその塩の含量の低下を抑制することもできるので、優れた製剤安定性を備えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.定義
本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。従って、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語及び科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0015】
本明細書において、「水性液剤」とは、水を基剤として含み液状を呈する製剤を指す。
【0016】
本明細書において、「亜塩素酸」とは、塩素のオキソ酸(HClO2)を指し、水性液剤中では、亜塩素酸イオン(ClO2-イオン)として存在する化合物である。
【0017】
本明細書において、「ホウ酸」とは、ホウ素のオキソ酸を指す。
【0018】
本明細書において、「ブリモニジン」とは、アドレナリンα2受容体作動薬として公知の化合物であり、5−ブロモ−N−(4,5−ジヒドロ−1H−イミダゾール−2−イル)キノキサリン−6−アミンを指す。
【0019】
本明細書において、「金属塩化物」とは、金属イオンと塩化物イオンがイオン結合した化合物のことを指す。
【0020】
本明細書において、「水性液剤の浸透圧」は、第十七改正日本薬局方の「一般試験法」の「30.浸透圧測定法(オスモル濃度測定法)」に規定されている方法に従って測定される値である。
【0021】
本明細書において、「水性液剤の浸透圧比」とは、生理食塩水(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)の浸透圧に対する、水性液剤の浸透圧の比率を指す。
【0022】
本明細書において、「ガス滅菌処理された容器」とは、エチレンオキサイド(酸化エチレン)ガスや過酸化水素ガス等のガスと接触させることにより滅菌処理された容器を指す。ガス滅菌処理された容器は、水性液剤を収容する収容部を含む容器本体がガス滅菌処理されていればよく、必要に応じて設けられるノズル、蓋等の他の部材は、他の滅菌処理が施されているものであってもよい。
【0023】
本明細書において、「マルチドーズ型容器」とは、複数回分の使用量の水性液剤が充填され、繰返し使用される容器を指す。
【0024】
本明細書において、「ユニットドーズ型容器」とは、単回分の使用量の水性液剤が充填され、1回の点眼で使い終わる容器を指す。
【0025】
本明細書において、「医薬製品」とは、水性液剤が容器に収容されている状態にある製品を指す。
【0026】
本明細書において、「亜塩素酸及び/又はその塩の含量の低下」等の表記は、一定期間の保存によって水性液剤中の亜塩素酸及び/又はその塩の含量が低下することを指し、例えば、以下の条件で測定される亜塩素酸及び/又はその塩の残存率が95%未満である場合には、「亜塩素酸及び/又はその塩の含量の低下」が認められるといえる。
<亜塩素酸及び/又はその塩の残存率の測定条件>
亜塩素酸及び/又はその塩を含む水性液剤を調製し、調製直後に遮光条件下において60℃で2週間保存する。調製直後と2週間保存後の水性液剤中の二酸化塩素の濃度をヨウ素滴定法により測定し、下記算出式に従い、二酸化塩素の残存率を算出する。算出された二酸化塩素の残存率を、亜塩素酸及び/又はその塩の残存率とする。
【数1】
【0027】
本明細書において、「亜塩素酸及び/又はその塩の含量の低下を抑制」等の表記は、一定期間の保存後における水性液剤が、保存前の水性液剤に比べて亜塩素酸及び/又はその塩の含量が低下するのを抑えられることを指す。例えば、前記亜塩素酸及び/又はその塩の残存率が95%以上である場合には、「経時的な亜塩素酸及び/又はその塩の含量低下を抑制」できているといえる。
【0028】
本明細書において、「亜塩素酸及び/又はその塩の含量を安定化する方法」とは亜塩素酸及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを含む水性液剤において亜塩素酸及び/又はその塩の含量の低下を抑制し、亜塩素酸及び/又はその塩の含量を安定に維持させるために行われる方法を意味する。
【0029】
本明細書において、「ブリモニジン及び/又はその塩の含量の低下」等の表記は、一定期間の保存によって水性液剤中のブリモニジン含量が低下することを指し、例えば、以下の条件で測定されるブリモニジン及び/又はその塩の残存率が99.0%未満である場合には、「ブリモニジン及び/又はその塩の含量の低下」が認められるといえる。
<ブリモニジン及び/又はその塩の残存率の測定条件>
ブリモニジン及び/又はその塩を含む水性液剤を調製し、調製直後に遮光条件下において60℃で2週間保存する。調製直後と2週間保存後の水性液剤中のブリモニジン及び/又はその塩の濃度をHPLCにて測定し、下記算出式に従い、ブリモニジン及び/又はその塩の残存率を算出する。
【数2】
【0030】
本明細書において、「ブリモニジン及び/又はその塩の含量低下を抑制」等の表記は、一定期間の保存後における水性液剤が、保存前の水性液剤に比べてブリモニジン含量が低下するのを抑えられることを指す。例えば、前記ブリモニジン及び/又はその塩の残存率が99.0%以上である場合には、「ブリモニジン及び/又はその塩の含量低下を抑制」できているといえる。
【0031】
点眼剤は眼粘膜に直接投与されるため、高い安全性を確保することが必要であり、保存による分解生成物の生成を抑制することが必要になる。特に、医療用の医薬品の開発において、所定条件の保存によって生成する分解生成物の濃度が一定量を超える場合には、当該分解生成物の構造を特定し、安全性に関する報告を行うことが義務づけられており(医薬審発第0624001号「新有効成分含有医薬品のうち製剤の不純物に関するガイドラインの改定について」)、点眼剤の開発にあたっては、通常、分解生成物の濃度が1.0%を超える場合にこの義務が生じる。このことから、点眼剤の製剤化において、保存によって生じる分解生成物の生成を十分に抑制する必要がある。
【0032】
本明細書において、「ブリモニジン及び/又はその塩の含量を安定化する方法」とはブリモニジン及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを含む水性液剤においてブリモニジン及び/又はその塩の含量の低下を抑制し、ブリモニジン及び/又はその塩の含量を安定に維持させるために行われる方法を意味する。
【0033】
2.好ましい実施形態の説明
以下に好ましい実施形態の説明を記載するが、この実施形態は本発明の例示であり、本発明の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。当業者はまた、以下のような好ましい実施例を参考にして、本発明の範囲内にある改変、変更などを容易に行うことができることが理解されるべきである。これらの実施形態について、当業者は適宜、任意の実施形態を組み合わせ得る。
【0034】
3.医薬製品
亜塩素酸及びその塩は、安全性が高く、優れた保存効力を有していることから、医薬分野で保存剤として使用されている。本発明者は、亜塩素酸及びその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを含む水性液剤をガス滅菌処理された容器に収容すると、経時的に亜塩素酸及びその塩の含量の低下が生じることを知見した。このような亜塩素酸及び/又はその塩の含量の低下は、亜塩素酸及び/又はその塩による保存効力を減弱させることになる。そのため、亜塩素酸及びその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを含む水性液剤において、亜塩素酸及び/又はその塩の含量の低下を抑制し、亜塩素酸及び/又はその塩の保存効力を安定に維持させる製剤技術を開発することは極めて重要である。
【0035】
このような状況の下、亜塩素酸及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩と、ブリモニジン及び/又はその塩を含む水性液剤を、ガス滅菌処理された容器に収容することにより、亜塩素酸及び/又はその塩の含量の低下を抑制でき、亜塩素酸及び/又はその塩による保存効力を安定に維持させ得ることを見出した。
【0036】
即ち、1つの実施態様において、本発明は、亜塩素酸及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩と、ブリモニジン及び/又はその塩を含む水性液剤が、ガス滅菌処理された容器に収容されてなる医薬製品を提供する。本発明の1つの側面では、亜塩素酸及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩を含む水性液剤において、亜塩素酸及び/又はその塩の含量の低下を抑制するという課題が解決される。また、本発明の水性液剤の別の側面では、亜塩素酸及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩を含む水性液剤において、ブリモニジン及び/又はその塩の含量の低下を抑制するという課題が解決される。以下、本発明の医薬製品について説明する。
【0037】
[水性液剤]
・亜塩素酸及び/又はその塩
本発明で使用される水性液剤は、亜塩素酸及び/又はその塩を含有する。亜塩素酸の塩としては、薬学的に許容され、且つ水性液剤中で亜塩素酸イオン(ClO2-イオン)を生成し得るものであれば特に制限されないが、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム等の亜塩素酸アルカリ金属塩;亜塩素酸カルシウム、亜塩素酸マグネシウム等の亜塩素酸アルカリ土類金属塩;亜塩素酸銅、亜塩素酸鉛、亜塩素酸アンモニウム等が挙げられる。
【0038】
本発明で使用される水性液剤において、亜塩素酸又はその塩のいずれか一方を単独で使用してもよく、またこれらを組み合わせて使用してもよい。
【0039】
亜塩素酸及びその塩の中でも、好ましくは亜塩素酸アルカリ金属塩、より好ましくは亜塩素酸ナトリウムが挙げられる。
【0040】
本発明で使用される水性液剤における亜塩素酸及び/又はその塩の濃度としては、水性液剤に付与すべき保存効力の程度等を踏まえて適宜設定すればよいが、例えば、0.0001〜1w/v%、好ましくは0.001〜0.1w/v%、より好ましくは0.002〜0.05w/v%、特に好ましくは0.005〜0.02w/v%が挙げられる。本明細書において、水性液剤に使用される亜塩素酸及び/又はその塩の濃度は、特に明記しない限り、亜塩素酸ナトリウムに換算された濃度である。
【0041】
・ホウ酸及び/又はその塩
本発明で使用される水性液剤では、ホウ酸及び/又はその塩を含有する。ホウ酸としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、オルトホウ酸、メタホウ酸、テトラホウ酸等が挙げられる。これらのホウ酸の中でも、好ましくはオルトホウ酸及びテトラホウ酸が挙げられる。これらのホウ酸は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
本発明で使用されるホウ酸の塩としては、薬学的に許容されることを限度として、特に制限されないが、ホウ砂、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩;トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン等の有機アミン塩等が挙げられる。ホウ酸の塩は、ホウ砂等のように、水和物の形態であってもよい。これらのホウ酸の塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
ホウ酸及びその塩の中から、1種を選択して単独で使用してもよく、これらの中から2種以上を組み合わせて使用してもよい。ホウ酸及びその塩の中でも、好ましくはホウ酸及びホウ砂の少なくとも1種、更に好ましくはオルトホウ酸及びホウ砂の少なくとも1種が挙げられる。
【0044】
また、本発明で使用されるホウ酸及び/又はその塩の好適な一態様として、ホウ酸とホウ砂との組み合わせが挙げられる。ホウ酸とホウ砂を組み合わせて使用する場合、これらの比率については、特に制限されないが、例えば、ホウ酸100質量部当たり、ホウ砂が1〜100質量部、好ましく20〜80質量部、更に好ましくは40〜60質量部が挙げられる。
【0045】
本発明で使用される水性液剤におけるホウ酸及び/又はその塩の濃度としては、例えば、ホウ酸及び/又はその塩の総量で0.01〜10w/v%w/v%、好ましくは0.1〜2w/v%、より好ましくは0.1〜1w/v%、特に好ましくは0.1〜0.5w/v%が挙げられる。本明細書において、特段言及しない限り、ホウ酸及び/又はその塩の濃度は、ホウ酸に換算された濃度である。
【0046】
・ブリモニジン及び/又はその塩
本発明で使用される水性液剤は、ブリモニジン及び/又はその塩を含有する。本発明において、ブリモニジン及び/又はその塩は、水性液剤において亜塩素酸及び/又はその塩とホウ酸及び/又はその塩とが共存する場合に生じる亜塩素酸及び/又はその塩の含量の低下抑制に寄与する成分である。
【0047】
ブリモニジンの塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、有機酸塩又は無機酸塩が挙げられる。有機酸塩として、例えば酒石酸塩又は酢酸塩等が挙げられる。無機酸塩として、例えば塩酸塩等が挙げられる。また、ブリモニジン又はその塩は、水和物等の溶媒和物の形態であってもよい。ブリモニジン又はその塩の中でも、ブリモニジン酒石酸塩は、医薬品として上市されており安全性が確立されているため、好適に使用される。
【0048】
本発明で使用される水性液剤において、ブリモニジン又はその塩のいずれか一方を単独で使用してもよく、またこれらを組み合わせて使用してもよい。
【0049】
本発明で使用される水性液剤におけるブリモニジン及び/又はその塩の濃度としては、例えば0.05〜0.5w/v%、好ましくは0.05〜0.3w/v%、より好ましくは0.05〜0.2w/v%、特に好ましくは0.08〜0.12w/v%が挙げられる。本明細書において、ブリモニジン及び/又はその塩の濃度は、特に明記しない限り、ブリモニジン酒石酸塩に換算された濃度である。
【0050】
・金属塩化物
1つの態様において、本発明で使用される水性液剤は、金属塩化物を含有してもよい。金属塩化物は、等張化剤等としての役割を果たし得る。
【0051】
金属塩化物としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等のアルカリ金属の塩化物;塩化マグネシウム、塩化カルシウム等のアルカリ土類金属の塩化物;塩化亜鉛、塩化鉄等が挙げられる。これらの金属塩化物は、水和物の形態であってもよい。これらの金属塩化物の中でも、好ましくは、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムが挙げられる。
【0052】
これらの金属塩化物は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0053】
本発明で使用される水性液剤の好適な一態様として、金属塩化物として、少なくとも塩化ナトリウムを含むことが挙げられる。
【0054】
また、本発明で使用される水性液剤の他の好適な一態様として、金属塩化物として、アルカリ金属の塩化物とアルカリ土類金属の塩化物とを組み合わせて使用することが挙げられ、より好適な一態様として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムを組み合わせて使用することが挙げられる。
【0055】
本発明で使用される水性液剤における金属塩化物の濃度としては、例えば、金属塩化物の総量で0.01〜2w/v%、好ましくは0.05〜1w/v%、より好ましくは0.1〜0.9w/v%が挙げられる。本明細書において、金属塩化物の濃度は、金属塩化物が水和物の場合であれば、無水物に換算された濃度である。
【0056】
より具体的には、本発明で使用される水性液剤において、金属塩化物として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムを組み合わせて使用する場合であれば、例えば、塩化ナトリウムが0.01〜2w/v%、好ましくは0.05〜1w/v%、より好ましくは0.1〜0.6w/v%、特に好ましくは0.5〜0.6w/v%;塩化カリウムが0.01〜2w/v%、好ましくは0.05〜1w/v%、より好ましくは0.1〜0.5w/v%、特に好ましくは0.1〜0.2w/v%;塩化マグネシウムが0.001〜0.2w/v%、好ましくは0.005〜0.05w/v%、より好ましくは0.005〜0.02w/v%;且つ塩化カルシウムが0.001〜0.2w/v%、好ましくは0.005〜0.05w/v%、より好ましくは0.01〜0.02w/v%が挙げられる。
【0057】
・その他の添加剤
1つの態様において本発明で使用される水性液剤は、必要に応じて、更に、金属塩化物以外の等張化剤、多価アルコール、界面活性剤、粘稠剤、キレート剤、ホウ酸及びその塩以外の緩衝剤、亜塩素酸及び/又はその塩以外の保存剤、安定化剤、pH調整剤等の添加剤を含有してもよい。
【0058】
等張化剤(金属塩化物以外)としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等の金属塩等が挙げられる。これらの等張化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0059】
多価アルコールとしては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。これらの多価アルコールは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0060】
界面活性剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、チロキサポール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オクトキシノール等の非イオン性界面活性剤;アルキルジアミノエチルグリシン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の両性界面活性剤;アルキル硫酸塩、N−アシルタウリン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等の陰イオン界面活性剤;アルキルピリジニウム塩、アルキルアミン塩等の陽イオン界面活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0061】
粘稠剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム等の水溶性高分子;ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース類等が挙げられる。これらの粘稠剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0062】
キレート剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、エデト酸、クエン酸、コハク酸、アスコルビン酸、トリヒドロキシメチルアミノメタン、ニトリロトリ酢酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、ポリリン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸、及びこれら塩等が挙げられる。塩の形態としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩等が挙げられる。これらのキレート剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0063】
緩衝剤(ホウ酸及びその塩以外)としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、リン酸緩衝剤、トリス緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、アミノ酸緩衝剤等が挙げられる。これらの緩衝剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0064】
保存剤(亜塩素酸及び/又はその塩以外)としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ソルビン酸又はその塩、安息香酸又はその塩、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン塩酸塩、クロルヘキシジングルコン酸塩、クロルヘキシジン酢酸塩、デヒドロ酢酸又はその塩、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、塩化亜鉛、パラクロルメタキシレノール、クロルクレゾール、フェネチルアルコール、塩化ポリドロニウム、チメロサール、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。これらの防腐剤又は保存剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0065】
安定化剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ポリビニルピロリドン、亜硫酸塩、モノエタノールアミン、シクロデキストリン、デキストラン、アスコルビン酸、タウリン、トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。これらの安定化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0066】
pH調整剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、塩酸、酢酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸等の酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリが挙げられる。これらのpH調整剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0067】
これらの添加剤の濃度は、使用する添加剤の種類や水性液剤に付与すべき特性等に応じて適宜設定すればよい。
【0068】
本発明で使用される水性液剤は、ホウ酸及び/又はその塩を含むことにより所望の緩衝作用を具備できるので、本発明で使用される水性液剤の一実施態様として、ホウ酸及び/又はその塩以外の緩衝剤を含まない態様が挙げられる。
【0069】
また、本発明で使用される水性液剤は、亜塩素酸及び/又はその塩を含むことにより所望の保存効力を具備できるので、本発明で使用される水性液剤の一実施態様として、亜塩素酸及び/又はその塩以外の保存剤を含まない態様が挙げられる。
【0070】
・その他の薬理成分
1つの態様において、第1実施形態で使用される水性液剤は、必要に応じて、ブリモニジン及び/又はその塩以外の薬理成分が含まれていてもよい。このような薬理成分としては、例えば、ドルゾラミド等の炭酸脱水酵素阻害薬;タフルプロスト、ラタノプロスト、イソプロピルウノプロストン等のプロスタグランジン類;ピロカルピン塩酸塩等の副交感神経刺激薬;ジスチグミン臭化物等の抗コリンエステラーゼ薬;ジピベフリン塩酸塩等の交感神経刺激薬;ベタキソロール塩酸塩等のβ1遮断薬;チモロールマレイン酸塩等のβ遮断薬;ニプラジロール、レボブノロール塩酸塩等のα1・β遮断薬;ブナゾシン塩酸塩等のα1遮断薬等が挙げられる。これらの薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの薬理成分の濃度は、使用する薬理成分の種類や付与すべき薬効等に応じて適宜設定すればよい。
【0071】
また、他の態様において、本発明で使用される水性液剤は、緑内障に対する直接的な有効成分としてブリモニジン及び/又はその塩を含み、実質的に他の有効成分を含まない態様が挙げられる。
【0072】
・pH
本発明で使用される水性液剤のpHについては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えばpH5.0〜9.0が挙げられる。第1実施形態で使用される水性液剤が、点眼液、洗眼液等の眼科用組成物の場合であれば、眼粘膜に適用可能である眼への刺激をより緩和するという観点から、pHとして、好ましくは5.5〜8.5、より好ましくは6.0〜8.0、更に好ましくは6.5〜7.5が挙げられる。
【0073】
・浸透圧/浸透圧比
本発明で使用される水性液剤の浸透圧については、目的とする用途に適用可能であることを限度として特に制限されない。発明で使用される水性液剤が眼科用水性液剤である場合であれば、浸透圧として250〜350mOsm/kgが挙げられる。
【0074】
また、本発明で使用される水性液剤の浸透圧比については、目的とする用途に適用可能であることを限度として特に制限されない。例えば、第1実施形態で使用される水性液剤が眼科用水性液剤の場合であれば、浸透圧比として、0.85〜1.15が挙げられる。眼の刺激を緩和するという観点から好ましくは0.9〜1.1、より好ましくは1.0が挙げられる。
【0075】
・製剤形態
本発明で使用される水性液剤の製剤形態については、特に制限されず、水溶液状、懸濁液状、乳液状等のいずれであってもよいが、好ましくは水溶液状が挙げられる。
【0076】
本発明で使用される水性液剤は、例えば、眼科用、歯科用、耳鼻科用、皮膚科用等の様々な用途の医薬組成物に調製され、局所投与製剤として使用される。本発明で使用される水性液剤の一態様として、眼科用、歯科用、耳鼻科用、又は皮膚科用の組成物が挙げられ、好ましくは眼科用水性液剤が挙げられる。
【0077】
眼科用水性液剤としては、具体的には、点眼液、注射液等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは点眼液が挙げられる。
【0078】
・用途/用量/用法
本発明で使用される水性液剤に含まれるブリモニジン及び/又はその塩は、眼房水の産生を抑制して、眼圧を低下させる効果を奏し得るので、本発明で使用される水性液剤の一態様では、点眼液として提供され、緑内障を治療用途に好適に使用できる。
【0079】
本発明で使用される水性液剤を点眼液として使用する場合、1回数滴を、1日1回又は複数回点眼すればよい。また、本発明で使用される水性液剤の一態様では1回1滴を1日2回点眼される。
【0080】
・製造方法
本発明で使用される水性液剤は、その用途に応じて、公知の調製法に従って製造すればよく、例えば、第十七改正日本薬局方 製剤総則に記載された方法を用いて製造することができる。
【0081】
具体的には、1つの態様では、本発明で使用される水性液剤の製造方法は、亜塩素酸及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩と、ブリモニジン及び/又はその塩と、その他の成分とを、薬学上許容される水性媒体に配合する工程を含む。「薬学上許容される水性媒体」は、薬学的に許容される水性媒体を意味し、例えば、精製水が挙げられる。また、配合工程において、各成分の配合順については、特に制限されず、任意の順番で順次配合してもよく、また同時に配合してもよい。また、配合工程の後に、必要に応じて、ろ過滅菌、乾熱滅菌、電子線滅菌、ガンマ線滅菌等の滅菌処理工程を行ってもよい。
【0082】
[ガス滅菌処理された容器]
本発明の医薬製品は、前記水性液剤がエチレンオキサイドガスや過酸化水素ガス等のガスで滅菌処理された容器(以下、「ガス滅菌容器」と略記することもある)に収容されている。このように、特定の水性液剤と特定の容器とを組み合わせることにより、亜塩素酸及び/又はその塩の含量の低下を抑制することが可能になる。
【0083】
ガス滅菌で使用されるガスの種類については、特に制限されないが、例えば、エチレンオキサイドガス、過酸化水素ガス、これらと二酸化炭素等との混合ガス等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはエチレンオキサイドガスが挙げられる。また、エチレンオキサイドガスを用いた滅菌処理の条件としては、容器が十分に滅菌されることを限度として特に制限されないが、例えば、エチレンオキサイド濃度が100〜1000mg/L、好ましくは400〜700mg/L;温度が20〜70℃、好ましくは40〜50℃;相対湿度が30〜100%、好ましくは45〜85%;処理時間が1〜8時間、好ましくは3〜5時間等の条件が挙げられる。
【0084】
本発明で使用されるガス滅菌容器の素材については、特に制限されず、プラスチック製又はガラス製のいずれであってもよいが、好ましくはプラスチック製が挙げられる。ガス滅菌容器がプラスチック製である場合、その構成樹脂については、特に制限されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリスチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、エチレンビニルアルコール共重合体等のプラスチック製が挙げられる。これらの中でも、亜塩素酸及び/又はその塩の含量の低下をより一層効果的に抑制するという観点から、好ましくはポリオレフィン、より好ましくはポリプロピレン又はポリエチレン、特に好ましくはポリプロピレンが挙げられる。
【0085】
また、本発明で使用されるガス滅菌容器は、透明、半透明、又は不透明のいずれであってもよく、また無色又は有色のいずれであってもよい。
【0086】
本発明で使用されるガス滅菌容器は、マルチドーズ型容器又はユニットドーズ型容器のいずれであってもよいが、好ましい一態様としてマルチドーズ型容器が挙げられる。マルチドーズ型容器は、繰り返し使用されるため、所望の保存効力を有していることが要求されるところ、本発明で使用される水性液剤は、亜塩素酸及び/又はその塩による保存効力が具備されており、マルチドーズ型容器への収容に適している。
【0087】
本発明で使用されるガス滅菌容器は、収容する水性液剤の用途に応じて、点眼容器、洗眼容器等の形態であればよい。
【0088】
4.亜塩素酸及び/又はその塩の含量の安定化方法
本発明の一実施形態として、亜塩素酸及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを含む水性液剤における亜塩素酸及び/又はその塩の含量を安定化する方法であって、亜塩素酸及び/又はその塩、ホウ酸及び/又はその塩、並びにブリモニジン及び/又はその塩を含む水性液剤を、ガス滅菌容器に収容する工程を含む、亜塩素酸及び/又はその塩の含量の安定化方法を提供する。
【0089】
本発明の方法によれば、水性液剤において亜塩素酸及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とが共存していても、亜塩素酸及び/又はその塩の含量の低下を抑制でき、亜塩素酸及び/又はその塩を安定に維持できる水性液剤を提供することが可能になる。
【0090】
本発明の方法において、亜塩素酸及び/又はその塩の種類や濃度、ホウ酸及び/又はその塩の種類や濃度、ブリモニジン及び/又はその塩の種類や濃度、水性液剤に配合される他の添加剤や薬理成分の種類、水性液剤のpH、浸透圧、製剤形態、用途等については、「3.医薬製品」の欄に記載の通りである。また、本発明の方法で使用されるガス滅菌容器についても、「3.医薬製品」の欄に記載の通りである。
【0091】
5.ブリモニジン及び/又はその塩の含量の安定化方法
本発明の一実施形態として、ブリモニジン及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを含む水性液剤におけるブリモニジン及び/又はその塩の含量を安定化する方法であって、ブリモニジン及び/又はその塩、ホウ酸及び/又はその塩、並びに亜塩素酸及び/又はその塩を含む水性液剤を、ガス滅菌容器に収容する工程を含む、ブリモニジン及び/又はその塩の含量の安定化方法を提供する。
【0092】
本発明の方法によれば、ブリモニジン及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを含む水性液剤において、ブリモニジン及び/又はその塩の含量の低下を抑制でき、ブリモニジン及び/又はその塩を安定に維持できる水性液剤を提供することが可能になる。
【0093】
本発明の方法において、ブリモニジン及び/又はその塩の種類や濃度、ホウ酸及び/又はその塩の種類や濃度、亜塩素酸及び/又はその塩の種類や濃度、水性液剤に配合される他の添加剤や薬理成分の種類、水性液剤のpH、浸透圧、製剤形態、用途等については、「3.医薬製品」の欄に記載の通りである。また、本発明の方法で使用されるガス滅菌容器についても、「3.医薬製品」の欄に記載の通りである。
【実施例】
【0094】
以下に、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、以下の試験例において、ホウ酸は、全てオルトホウ酸を使用した。
【0095】
試験例1
1.眼科用医薬製品の製造
1−1.点眼液の調製
表1に示す組成に従って、精製水に、亜塩素酸ナトリウム(含量80重量%)、ホウ酸、ホウ砂、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、ブリモニジン酒石酸塩、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム水和物、塩化マグネシウムを所定量加えて溶かし、水酸化ナトリウム又は塩酸でpHを7.1に調整し、点眼液を得た。
【0096】
1−2.容器への収容
前記で得られた点眼液5mLを、エチレンオキサイドガス滅菌処理された容器(EOG滅菌容器、ポリプロピレン製の点眼容器)、及び電子線照射により滅菌処理された容器(EB滅菌容器、ポリプロピレン製の点眼容器)に収容し、各検体(眼科用医薬製品)を調製した。なお、EOG滅菌容器は、エチレンオキサイド濃度400〜700mg/L、温度40〜50℃、相対湿度45〜85%、処理時間3時間以上の条件で滅菌処理されたものを使用した。また、EB滅菌容器は、電子線を60kGy照射することにより滅菌処理されたものを使用した。それぞれの滅菌条件は、滅菌バリデーション基準(薬食監麻発0215第13号)において無菌性保証水準を満たすものである。
【0097】
2.亜塩素酸ナトリウムの安定性の評価方法
前記で得られた各検体を、卓上恒温恒湿器(CH24−12M、ナガノサイエンス株式会社製)に入れ、遮光条件下、60℃で14日間保存した。
【0098】
調製直後及び14日間保存後の水性液剤中の二酸化塩素濃度を、以下に示すヨウ素滴定法によって測定して二酸化塩素の残存率(%)を算出した。
<ヨウ素滴定法>
2重量ヨウ化カリウム水溶液10mLと0.5mol/L塩酸10mLを正確に量りとり、振り混ぜた。この液に、各水性液剤25mLを正確に加えて5分間静置した後、第十七改正日本薬局方の「一般試験法」の「2.50 滴定終点検出法」に準じて、0.01mol/Lチオ硫酸ナトリウム液で滴定した。なお、滴定終点は、液の色が薄い黄色に変化したときにデンプン試液2mLを加え、液の色が濃い青色から無色に変わった時点とした。下記式に従って、各水性液剤の二酸化塩素濃度を求め、二酸化塩素の残存率を算出した。算出された二酸化塩素の残存率を亜塩素酸ナトリウムの残存率とした。
【数3】
【数4】
【0099】
3.評価結果
得られた結果を表1に示す。亜塩素酸ナトリウムとリン酸緩衝剤(リン酸水素二ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウム)を含む水性液剤は、EOG滅菌容器に収容しても、保存後の亜塩素酸ナトリウムの残存率が高く、亜塩素酸ナトリウムの含量の低下という課題は認められなかった(参考例1及び2)。
【0100】
一方、亜塩素酸ナトリウム、ホウ酸及びホウ砂を含む水性液剤において、ブリモニジン酒石酸塩を含まない場合には、EB滅菌容器又はEOG滅菌容器のいずれに収容しても、保存後の亜塩素酸ナトリウムの残存率が低く、亜塩素酸ナトリウムの含量の低下が認められた(比較例1及び3)。これに対して、亜塩素酸ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂、及びブリモニジン酒石酸塩を含む水性液剤をEOG滅菌容器に収容した場合は、保存後の亜塩素酸ナトリウムの残存率が高く、亜塩素酸ナトリウムの含量の低下が抑制されていたが(実施例1)、EB滅菌容器に収容した場合には、亜塩素酸ナトリウムの含量の低下が抑制されなかった。また、亜塩素酸ナトリウム濃度を16mg/100mLに増量したこと以外は、実施例1と同組成の水性液剤であっても、EOG滅菌容器に収容することにより、亜塩素酸ナトリウムの含量の低下を抑制できていた(実施例2)。なお、実施例1と同組成の水性液剤をEOG滅菌したポリエチレン製容器に収容した場合においても、亜塩素酸ナトリウムの残存率が97.7%と高かった。
【0101】
【表1】
【0102】
試験例2
1.眼科用医薬製品の製造
1−1.点眼液の調製
表2に示す組成に従って、精製水に、亜塩素酸ナトリウム(含量80重量%)、ホウ酸、ホウ砂、ブリモニジン酒石酸塩、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム水和物、塩化マグネシウムを所定量加えて溶かし、水酸化ナトリウム又は塩酸でpHを7.1に調整し、点眼液を得た。
【0103】
1−2.容器への収容
前記で得られ点眼液5mLを、EOG滅菌容器(ポリプロピレン製又はポリエチレン製の点眼容器)、及び電子線照射により滅菌処理された容器(EB滅菌容器、ポリプロピレン製の点眼容器)に収容し、各検体(眼科用医薬製品)を調製した。なお、EOG滅菌容器は、エチレンオキサイド濃度400〜700mg/L、温度40〜50℃、相対湿度45〜85%、処理時間3時間以上の条件で滅菌処理されたものを使用した。また、EB滅菌容器は、電子線を60kGy照射することにより滅菌処理されたものを使用した。それぞれの滅菌条件は、滅菌バリデーション基準(薬食監麻発0215第13号)において無菌性保証水準を満たすものである。
【0104】
2.ブリモニジン酒石酸塩の安定性の評価方法
前記で得られた各検体を、卓上恒温恒湿器(CH24−12M、ナガノサイエンス株式会社製)に入れ、遮光条件下、60℃で14日間保存した。
【0105】
調製直後及び14日間保存後の水性液剤中のブリモニジン酒石酸塩濃度を、以下に示す条件で高速液体クロマトグラフシステム(HPLC、島津製作所社製)によって測定し、以下に示す算出式に従ってブリモニジン酒石酸塩の残存率(%)を算出した。
【0106】
<高速液体クロマトグラフ条件>
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:264nm)
カラム:内径4.6mm、長さ7.5cmのステンレス管に3.5μmの高速液体クロマトグラフ用ODSシリカゲル(Symmetry C18カラム、Waters社製)を充填した。
カラム温度:25℃付近の一定温度
移動相:リン酸二水素カリウム2.3g及び1−ヘプタンスルホン酸ナトリウム47.5mgを水830mLに溶かし、リン酸を用いてpH3.0に調整した。この液にアセトニトリル84mL及びメタノール84mLを混ぜ、水を加えて1Lとした。
流速:約1mL/min
【0107】
<ブリモニジン酒石酸塩の残存率>
以下の算出式に従って、ブリモニジン酒石酸塩の残存率(%)を算出した。
【数5】
【0108】
3.評価結果
得られた結果を表2に示す。ブリモニジン酒石酸塩、ホウ酸及びホウ砂を含む水性液剤において、亜塩素酸ナトリウムを含まない場合には、EB滅菌容器又はEOG滅菌容器のいずれに収容しても、保存後のブリモニジン酒石酸塩の残存率が高く、ブリモニジン酒石酸塩の含量の低下という課題は認められなかった(比較例5及び6)。
【0109】
これに対して、亜塩素酸ナトリウムを含む場合には、EB滅菌容器に収容するときよりもEOG滅菌容器に収容するときの方が、保存後のブリモニジン酒石酸塩の残存率が高く、ブリモニジン酒石酸塩の含量の低下が抑制された(実施例3)。また、亜塩素酸ナトリウム濃度を16mg/100mLに増量した場合でもブリモニジン酒石酸塩の含量が高く維持された(実施例6)。
【0110】
【表2】
【要約】
【課題】本発明の目的は、亜塩素酸及び/又はその塩、並びにホウ酸及び/又はその塩を含有する水性液剤を含み、亜塩素酸及び/又はその塩の含量の低下を抑制できる医薬製品に関する技術を提供することである。
【解決手段】亜塩素酸及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩と、ブリモニジン及び/又はその塩とを含む水性液剤を、ガス滅菌処理された容器に収容してなる、医薬製品。
【選択図】なし