(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記樹脂包埋試料は、前記成形体の周囲に、前記第1の樹脂と同一又は異なる第2の樹脂を配置した後、加熱により、溶融固化させて得られ、前記第1の樹脂を含む成形体と、前記第2の樹脂とからなる二層構造を有する、請求項4に記載の粉末試料のX線回折分析方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。また、図面においては、各構成をわかりやすくするために、一部を強調して、あるいは一部を簡略化して表しており、実際の構造または形状、縮尺等が異なっている場合がある。
【0013】
図1は、本実施形態に係るX線回折分析方法の概略を示す図である。本実施形態に係る粉末試料のX線回折分析方法は、従来から行われている粉末からなる第1の試料を用いた粉末X線回折分析(ステップS10、S11)に加えて、粉末の断面を露出させた第2の試料を用いたX線回折分析(ステップS20、S21)を行って、両者の分析結果に基づいて、粉体に関する情報(例えば、粉末の表層部と中心部の結晶構造の違いなど)を得る(ステップS30、S40)ことができる。以下、本実施形態に係る粉末試料のX線回折分析方法を、図を参照して、詳細に説明する。
【0014】
(第1の試料の作製)
まず、粉末からなる第1の試料を作製する(ステップS10)。第1の試料の作製は、粉末X線回折装置用試料の公知の作製方法を用いることができ、特に限定されない。
図3は、第1の試料の一例を示した図である。
図3に示すように、第1の試料10は、例えば、試料である粉末1を粉末用試料皿11に直接載置して作製することができる。第1の試料10は、粉末X線回折分析を行った場合、粉末1の表層部を主とした情報を相対的に得ることができる。一方、後述する第2の試料20は、粉末1の断面(すなわち、中心部)を主とした情報を相対的に得ることができる。以下、
図3を参照して、第1の試料10の具体的な作製手順の一例について説明する。
【0015】
まず、平坦な面と、この面から所定の深さを有する凹部とを少なくとも備える粉末用試料皿11を用意し、この凹部に、粉末1をやや過剰量載置する。凹部の深さは、例えば、平均粒径が数μmの粉末1に対して、0.1mm以上0.5mm以下程度とすることができる。次に、スライドガラス等の平板状の治具を用い、粉末用試料皿11の平坦な面と平板状の治具をすり合わせるようにして、粉末1の上面を粉末用試料皿11の平坦な面と同じ高さの平面となるように調整する。このように調整された粉末状態の第1の試料10をX線回折測定に供する。本実施形態に用いることのできる粉末用試料皿11の形状は、特に限定されない。例えば、粉末用試料皿11は、
図3に示されるようにドーナツ盤状の形状でもよいし、他の形状でもよい。例えば、粉末用試料皿11は、測定するX線回折装置に応じて、公知のものを用いればよい。
【0016】
なお、粉末1は、特に限定されず、任意の粉末を用いることができる。粉末1は、複数の粒子を含み、含まれる粒子の種類や形状については、特に限定されずに用いることができる。本実施形態において、粉末1は、表層部と中心部で組成や結晶構造が異なる特性や物性を有する粉末、例えば、複合化合物や他元素がドープされた粉末、並びに多結晶体を好適に用いることができる。また、粉末1は、後述する第2の試料作製工程で断面加工が可能な粒径であればよく、平均粒径0.1μm以上の粉末を用いることができる。上限については特に限定されず、用いる粉末X線分析装置にて測定可能な範囲であればよく、例えば5mm程度の粉末でも測定できる。なお、第1の試料10は、上述のように粉末1試料を直接、粉末X線回折分析することもできるが、例えば、特開2016−118557に記載されるように、樹脂包埋された粉末1(ただし、粉末1の断面2は露出させず)を用いてもよい。
【0017】
(第2の試料の作製)
次に、断面加工をして、粉末の断面を露出させた第2の試料を作製する(ステップS20)。
図4は、第2の試料20の一例を示す模式図である。
図4に示すように、第2の試料20は、粉末1の断面2が露出するように加工されており、この断面2にX線を照射して、X線回折分析を行う。第2の試料20は、粉末1を第1の樹脂21に包埋して、固定してから断面加工をすることにより得ることが好ましい。粉末1を第1の樹脂21で包埋した場合、断面加工の際に適切な硬度を簡便に得ることができる。なお、第2の試料20に用いる粉末1は、第1の試料10に用いる粉末1と同様の粉末を用いる。
【0018】
第2の試料20の製造方法は、粉末1の断面2が露出し、X線回折分析が可能な状態となっている試料が得られる方法であれば、特に限定されないが、例えば、上記特許文献2に開示された粒状試料(粉末1試料)を樹脂包埋して断面加工する方法を用いることができる。
図2は、第2の試料20の好適な製造方法の一例を示した図である。以下、
図2を参照して、第2の試料20の作製方法の一例について説明する。
【0019】
まず、粒状試料でもある粉末1をペレット用の第1の樹脂と混合し、混合物を得る(ステップS21)。なお、混合物の作製に用いられる第1の樹脂は、ペレット状の樹脂であることが好ましい。第1の樹脂がペレット状(粉末状)である場合、粉末1と第1の樹脂(粉末)とを均一に混合することができ、得られる樹脂包埋試料(ステップS23)において、第1の樹脂21中、粉末1がその粒径等によらず、比較的均一に分散されることができる。
【0020】
第1の樹脂は、加熱等により溶融、固化できるとともに、断面加工が可能なように粉末1を保持できる強度および硬度を有する樹脂であれば特に制限されず、用いることができる。第1の樹脂は、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化樹脂、又は、これらの混合物などを用いることができ、これらの中でも、熱硬化性樹脂を用いることが好ましく、フェノール系樹脂を用いることがより好ましい。
【0021】
第1の樹脂が熱硬化性樹脂である場合、加熱により溶融状態となった後に、さらに加熱することにより架橋反応等の3次元的な硬化反応が進行し、流動性を失って固化するため、断面加工に耐えられる強度および硬度を有するとともに、溶融状態となっている時間を短時間にすることができる。また、第1の樹脂がフェノール系樹脂である場合、断面加工に適した強度および硬度を有するとともに、X線に強く、X線が照射されても損傷を受けにくいという利点がある。
【0022】
さらに、粉末1と混合された第1の樹脂は、後述するように、加圧により固形化され(ステップS22)、その後、溶融、固化され、樹脂包埋試料が得られる(ステップS23)。得られた樹脂包埋試料は、粉末1の隙間に、第1の樹脂が十分行き渡ることができ、いわゆる「巣(空間)」が、ほぼ存在しない。「巣」は例え微小であっても粉末と、第1の樹脂との密着力を低下させ、断面加工時に粉末が脱落する原因となりうる。
【0023】
次に、粉末1と第1の樹脂とを混合して得られる混合物を加圧成形して成形体とする(ステップS22)。混合物は、所定量を秤量した粉末1と第1の樹脂とを混合して得ることができる。混合物における、第1の樹脂の量は、特に限定されることはないが、粉末1に対する体積比で、3倍以上10倍以下程度とするのが好ましい。第1の樹脂の量が粉末1との比で少なくなるほど、加熱による溶融、固化の工程で、第1の樹脂が粉末1の隙間に行き渡らず、「巣」が発生しやすくなる。逆に、第1の樹脂の量が粉末1との比で多くなるほど、X線回折分析の際に、回折強度が弱くなり感度が低下することがある。
【0024】
得られた混合物は、成形用型に充填され、公知の加圧装置(プレス装置、万力等)を用いて加圧成形が行われ、混合物が固形化された成形体を得ることができる。加圧時の圧力は特に制限されず、固形化が可能であって粉末1が潰れない程度の圧力であればよい。
【0025】
次に、成形体を溶融固化し樹脂包埋試料が作製される(ステップS23)。成形体は、加熱等により、成形体中の第1の樹脂が溶融、固化されて、第1の樹脂に粉末1が包埋された樹脂包埋試料が得られる。第1の樹脂として、熱硬化性樹脂を用いた場合、成形体中の第1の樹脂21は、加熱により溶融した(流動性が高くなった)後、硬化反応により固化される。成形体の加熱は、例えば、公知の熱間埋込装置を用いて加熱することができる。
【0026】
なお、成形体単独で加熱して、第1の樹脂を溶融、固化させてもよいが、
図4に示すように、成形体の周囲に、さらに充填用の第2の樹脂を配置した後、加熱して、溶融固化させた成形体22とこの成形体22の周囲に、固化させた第2の樹脂23を配置させた2層構造を有する樹脂包埋試料としてもよい。このような2層構造の樹脂包埋試料とすることで、用いる粉末1の量を少なくすることができる。なお、第2の樹脂は、加熱により固化する樹脂であれば特に限定されず、第1の樹脂と同一又は異なる樹脂を用いることができる。第2の樹脂23は、調製が容易であるという観点から、第1の樹脂21と同一の樹脂を用いるのが好ましい。
【0027】
得られた樹脂包埋試料は、切削、研磨等の方法で断面加工され、第2の試料20が得られる(ステップS24)。第2の試料20は、樹脂包埋された試料であり、粉末1の断面2をその表面に露出させている。第2の試料20は、上述したように、主に粉末1の中心部の分析用の試料となる。断面加工の方法は、特に限定されることはなく、切削、研磨等の公知の方法を用いることができる。また、粉末1の断面が露出した樹脂包埋試料の表面2は、少なくともX線回折分析に必要とされる程度まで平滑になるように研磨されていることが望ましい。
【0028】
上述のように用意された第2の試料20は、X線回折分析用の試料ホルダーに載置され、高さを調整してX線回折分析に供される。また、第2の試料20において、断面2が露出する粉末1は、第1の試料10で用いられた粉末1と同一の母体からサンプリングされるのが好ましいが、もちろん本実施形態を用いて分析される分析目的によっては同等の粉末を用いるのを妨げるものではない。
【0029】
なお、第2の試料20の形状は、特に限定されず、
図4に示されるように円柱状であってもよく、他の形状であってもよい。第2の試料20の形状は、用いられるX線回折装置に応じて、適宜、調製することができる。
【0030】
なお、混合物の作製に用いられる第1の樹脂は、液体状の樹脂を用いることもでき、例えば、一液タイプや二液混合タイプのエポキシ樹脂等を用いてもよい。また、第1の樹脂は、熱により硬化させず、紫外線、光等の照射や硬化剤を混合することにより硬化(固化)させてもよい。また、2層構造を有する樹脂包埋試料は、例えば、固化させた成形体22を作製した後に、固体状、液状の第2の樹脂を固化させて製造してもよい。
【0031】
(X線回折パターンの測定)
次に、上述した、第1の試料10(粉末1表面のX線回折分析用)、及び、第2の試料20(粉末断面2のX線回折分析用)について、X線回折分析を行い、それぞれのX線回折パターンを得ることができる(ステップS11、ステップS21)。得られたX線回折パターンを分析することにより、回折角、半値幅、組成等の種々の情報を含む測定結果が得られる。X線回折パターンの測定及び分析については、公知の方法を用いればよい。
【0032】
なお、第1の試料10と第2の試料20とのX線回折分析は、同一の粉末X線回折装置を用いて同一測定条件とすることが好ましい。もちろん本実施形態においては、分析される分析目的により、異なる装置、異なる測定条件を用いることを妨げるものではない。
【0033】
(解析)
次いで、上記で得られたX線回折パターンに基づいて、粉末1に関する情報を得る(ステップS40)。上述したようにX線回折パターンの測定により、回折角や半値幅等の測定結果を得ることができる。第1の試料10及び第2の試料20のそれぞれについて、得られたX線回折パターンから、公知の方法により、組成、結晶サイズ、結晶化度、残留応力など結晶構造に関する情報を含む、種々の情報を得ることができる。
【0034】
第1の試料10からは、主として用いた粉末1の表層部の結晶構造を反映した情報を得ることができ、第2の試料20からは、用いた粉末1の表層部と中心部とを合わせた(平均化された)結晶構造を反映した情報を得ることができる。例えば、両者の結果を相対比較した場合、差がないほど、粉末試料の内部で結晶構造の違い(分布)はみられず、均一化されていると判断できる。逆に両者の結果の差は大きいほど、粉末1試料の表層部と中心部で結晶構造の違い(分布)があると判断できる。
【0035】
また、例えば、第1の試料10や第2の試料20の調製方法などの違いによるX線回折パターンのばらつきを補正するため、予め、粉末内部の組成が均一であると想定される粉末(基準となる粉末試料)を用いて得られた第1の試料及び第2の試料のそれぞれのX線回折パターンを用いて、得られた測定結果を補正してもよい。また、基準となる粉末試料として、粉末の表層部と中心部とが異なる組成や結晶構造である粉末を用いてもよい。基準となる粉末試料と、実際の測定対象となる粉末1からなる試料とのそれぞれのX線回折パターンとを比較することにより、より精度よく粉末1内部の結晶構造等の情報を得ることができる。
【0036】
さらに、例えば、後述する実施例に示すように、製造条件や、物性値、特性値などの違う複数の粉末1試料間について、本実施形態に係る方法を用いて分析することにより、その製造条件や、物性値、特性値などの違いと、得られた粉末1に関する情報(例えば、表層部と中心部との間の結晶構造の違いなど)との間に、存在する相関関係を、粉末1試料の全体において簡便に判定することができる。よって、本実施形態の粉末試料のX線回折分析方法は、製造条件等の違いによって、粉末1内部の構造が違うという現象の発見と、その現象が生じるメカニズムの考察に有用である。
【実施例】
【0037】
以下、実施例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0038】
(粉末試料の調製)
硫酸ニッケル水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8.5、60℃の条件下で中和して晶析させた水酸化ニッケル粒子を用意した。得られた水酸化ニッケル粒子200gを円筒状のレトルトを備えた転動炉に挿入し、1rpmでレトルトを回転させて水酸化ニッケル粒子を流動させながら、炉内に空気を供給しつつ940℃で5時間の熱処理を行い酸化ニッケル粉末とした。ここで熱処理中の空気供給量(流量)を3つの水準、すなわち、0L/min(試料1)、3.3L/min(試料2)、20L/min(試料3)とし、それぞれ、粉末試料1〜3(酸化ニッケル粉末)を得た。なお、得られた酸化ニッケル粉末のレーザー散乱法によるD90の値は、試料1が0.45μm、試料2が0.44μm、試料3が0.50μmであり、試料1〜3の間で、ほぼ同等であった。
【0039】
(手順1:第1の試料の作製)
上面が平坦で、この平坦面から深さ0.5mmの凹部を持つ試料皿に、上記それぞれの粉末試料を側面から見て上面より試料が盛り上がる程度の量を載置した。スライドガラスと試料皿上面で粉末試料を摺り切るようにして粉末試料表面が平坦になるように加工し、分析用の第1の試料とした。
【0040】
(手順2:第2の試料の作製)
上記それぞれの粉末試料1cm
3に相当する量と、フェノール樹脂(ペレット状)3.5cm
3に相当する量とをそれぞれ量りとり、ヘラを用いて均一に混ざるまで混合し、混合物を得た。得られた混合物を内径22mm、高さ110mmの円筒形鋼製筒に入れて加圧してペレット成形体とした。このペレット成形体を丸本ストルアス社製熱間埋込装置内に設置し、さらに、フェノール樹脂をペレット成形体の周囲を覆うように充填した後、180℃、75barの条件で5分間加温加圧し、直径25mm程度の円柱状の樹脂包埋試料とした。この樹脂包埋試料の上面を粗研磨およびバフ研磨を施して断面加工し、もう一方の面を切断機で切断して、高さが5mm程度の分析試料とした。この分析試料を円形の凹部を持つ試料ホルダーに載置し、ハンドブレスで高さを調整してX線回折分析に供した。
【0041】
(X線回折分析)
上記試料1〜3に対して、それぞれ上記第1の試料と上記第2の試料とを用意し、計6点について、粉末X線分析装置を用いて、X線回折分析を行い、得られた半値幅からScherrer法により結晶子径を計算した。結果を表1および
図5に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
(第1の試料の分析結果)
従来の粉末X線回折分析と同様の方法で得られた第1の試料では、試料1〜3の結晶子径の値は、126nm〜130nmの範囲であり、その違いは、僅かであった。
【0044】
(第1の試料と第2の試料との比較結果)
試料1〜3の全てにおいて、第1の試料から得られた結晶子径(126nm〜130nm)よりも、第2の試料から得られた結晶子径(109nm〜121nm)の方が小さかった。したがって、試料1〜3の酸化ニッケル粉末は表層部の方が中心部よりも結晶子径が大きいと考えられる。また、熱処理時に炉内に供給する空気の流量の増加に対応して、第1の試料から得られた結晶子径と第2の試料から得られた結晶子径との差が小さくなることから、炉内に供給する空気の流量は、酸化ニッケル粉末の内部、特に中心部の結晶子径に影響を与え、熱処理時に炉内に供給する空気の流量を多くするほど、得られる酸化ニッケル粉末の中心部の結晶成長が進行するといえる。
【0045】
以上のように、例えば、第1の試料から得られたX線回折分析の結果のみの場合では、水酸化ニッケルを酸化ニッケルとするために行われる熱処理において、炉内に供給する空気の流量による影響は大きくないと判断されるところ、第1の試料と第2の試料とを比較することにより、粉末内部の結晶構造は、熱処理条件により影響を受けることが示された。したがって、本実施形態の粉末試料のX線回折分析において、第1の試料(粉末状態の試料)と第2の試料(粉末の断面を露出させた試料)との両者を、それぞれ測定して、両者から得られた結果を相対比較することにより、従来から行われてきた第1の試料の分析(粉末X線回折分析)よりも、粒子内部の情報に関して、より精密な情報を得ることができ、深い考察が可能となる。