【文献】
Advanced functional materials, 2013, Vol.23, No.36, pages 4555-4570
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明においては、
ポリウレタン系樹脂とポリエステル系樹脂を含む積層フィルムであって、片面が水と接触するように5cm角の大きさの積層フィルムを配置した際に、以下の特徴1および2を示す頂点
を頂点αとしたときに、頂点
αが少なくとも1つ存在し、
5cm角に切り取った積層フィルム全体を25℃の条件下で30分間水に浸した際の水に対する膨潤率
が互いに異なる2つ以上の層を有し、
前記水に対する膨潤率の最も高い層をA層、
前記水に対する膨潤率の最も低い層をB層、
前記A層の
前記水に対する膨潤率をXa
%、
前記B層の
前記水に対する膨潤率をXb
%としたときに、
前記A層が少なくとも一方の最外層に位置し、Xa/Xb≧5であり、
前記A
層が吸放湿剤を含み、かつ
前記吸放湿剤が空孔率10%以上50%以下の多孔質炭酸カルシウムを含むことを特徴とする積層フィルムを、第1の積層フィルムという。
特徴1:
サイズが210mm×297mmであり、目付が98g/m2である綿製のさらしに10mlの水を均一に散布して含浸させ、23℃65%RHの環境下で5cm角の積層フィルムをさらし上に水平に置いた時点から積層フィルム面と水平な方向および垂直な方向から動画撮影を行うことにより、10秒ごとに三次元空間内での頂点の位置変化量の絶対値を求め、これを15分間にわたって継続して得られた値の総和を求めた後、前記総和を時間で除して得られる値を、積層フィルムを配置した時点から15分間の平均移動速度としたときに、前記積層フィルムを配置した時点から15分間の平均移動速度が、5mm/分以上である。
特徴2:
サイズが210mm×297mmであり、目付が98g/m2である綿製のさらしに10mlの水を均一に散布して含浸させ、23℃65%RHの環境下で5cm角の積層フィルムをさらし上に水平に置いて10分が経過した時点から、積層フィルム面と水平な方向および垂直な方向から動画撮影を行うことにより、10秒ごとに三次元空間内での頂点の位置変化量の絶対値を求め、これを5分間にわたって継続して得られた値の総和を求めた後、前記総和を時間で除して得られる値を、積層フィルムを配置して10分後の時点から5分間の平均移動速度としたときに、前記積層フィルムを配置して10分後の時点から5分間の平均移動速度が、5mm/分以上である。
【0015】
また、
ポリウレタン系樹脂とポリエステル系樹脂を含む積層フィルムであって、
5cm角に切り取った積層フィルム全体を25℃の条件下で30分間水に浸した際の水に対する膨潤率
が互いに異なる2つ以上の層を有し、
前記水に対する膨潤率の最も高い層をA層、
前記水に対する膨潤率の最も低い層をB層、
前記A層の
前記水に対する膨潤率をXa
%、
前記B層の
前記水に対する膨潤率をXb
%としたときに、
前記A層が少なくとも一方の最外層に位置し、Xa/Xb≧5であり、
前記A
層が吸放湿剤を含み、
前記吸放湿剤が空孔率10%以上50%以下の多孔質炭酸カルシウムを含み、かつ
前記A層と
前記A層と接している
前記A層以外の層の剥離強度が、50gf/15mm以上であることを特徴とする積層フィルムを、第2の積層フィルムという。
【0016】
なお、第1の積層フィルムと第2の積層フィルムの両方を指す場合は、本発明の積層フィルムまたは本発明というものとする。
【0017】
以下に、本発明の積層フィルムの一実施態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
本発明の第1の積層フィルムは、
ポリウレタン系樹脂とポリエステル系樹脂を含む積層フィルムであって、片面が水と接触するように5cm角の大きさの積層フィルムを配置した際に、以下の特徴1および2を示す頂点
を頂点αとしたときに、頂点
αが少なくとも1つ存在し、
5cm角に切り取った積層フィルム全体を25℃の条件下で30分間水に浸した際の水に対する膨潤率
が互いに異なる2つ以上の層を有し、
前記水に対する膨潤率の最も高い層をA層、
前記水に対する膨潤率の最も低い層をB層、
前記A層の
前記水に対する膨潤率をXa
%、
前記B層の
前記水に対する膨潤率をXb
%としたときに、
前記A層が少なくとも一方の最外層に位置し、Xa/Xb≧5であり、
前記A
層が吸放湿剤を含み、かつ
前記吸放湿剤が空孔率10%以上50%以下の多孔質炭酸カルシウムを含むことを特徴とする。
特徴1:
サイズが210mm×297mmであり、目付が98g/m2である綿製のさらしに10mlの水を均一に散布して含浸させ、23℃65%RHの環境下で5cm角の積層フィルムをさらし上に水平に置いた時点から積層フィルム面と水平な方向および垂直な方向から動画撮影を行うことにより、10秒ごとに三次元空間内での頂点の位置変化量の絶対値を求め、これを15分間にわたって継続して得られた値の総和を求めた後、前記総和を時間で除して得られる値を、積層フィルムを配置した時点から15分間の平均移動速度としたときに、前記積層フィルムを配置した時点から15分間の平均移動速度が、5mm/分以上である。
特徴2:
サイズが210mm×297mmであり、目付が98g/m2である綿製のさらしに10mlの水を均一に散布して含浸させ、23℃65%RHの環境下で5cm角の積層フィルムをさらし上に水平に置いて10分が経過した時点から、積層フィルム面と水平な方向および垂直な方向から動画撮影を行うことにより、10秒ごとに三次元空間内での頂点の位置変化量の絶対値を求め、これを5分間にわたって継続して得られた値の総和を求めた後、前記総和を時間で除して得られる値を、積層フィルムを配置して10分後の時点から5分間の平均移動速度としたときに、前記積層フィルムを配置して10分後の時点から5分間の平均移動速度が、5mm/分以上である。
【0019】
本発明の第2の積層フィルムは、
ポリウレタン系樹脂とポリエステル系樹脂を含む積層フィルムであって、
5cm角に切り取った積層フィルム全体を25℃の条件下で30分間水に浸した際の水に対する膨潤率
が互いに異なる2つ以上の層を有し、
前記水に対する膨潤率の最も高い層をA層、
前記水に対する膨潤率の最も低い層をB層、
前記A層
前記の水に対する膨潤率をXa
%、
前記B層の
前記水に対する膨潤率をXb
%としたときに、
前記A層が少なくとも一方の最外層に位置し、Xa/Xb≧5であり、
前記A
層が吸放湿剤を含み、
前記吸放湿剤が空孔率10%以上50%以下の多孔質炭酸カルシウムを含み、かつ
前記A層と
前記A層と接している
前記A層以外の層の剥離強度が、50gf/15mm以上であることを特徴とする。
【0020】
(積層フィルムの駆動メカニズム)
図1に、本発明の一実施態様に係る積層フィルム、積層フィルムが駆動するメカニズム、および頂点αを表す概略側面図を示す。本発明の積層フィルム1としては、
図1に示すような、B層2とB層2よりも水に対する膨潤率の高いA層3とが積層されたものがある。
【0021】
例えば、
図1のaに示すように、A層3と水4を含むスポンジ5が接するようにこのような積層フィルム1を配置すると、B層2とA層3は水4を吸収することにより膨潤して体積変化を起こそうとするが、A層3は相対的に水に対する膨潤率が小さいB層2によりその体積変化を拘束される。そのため、積層フィルム1は水平状態を保つことができず、
図1のbに示すように水4を含むスポンジ5から離脱しようとしてカールするように駆動する。
【0022】
その後、水4を含むスポンジ5から離脱した面より外気との濃度勾配に従って脱膨潤が起こり、カールした積層フィルム1より水4が失われる。その結果、B層2とA層3はともに水4を吸収する前の体積に戻ろうとするため、積層フィルム1は再び水平状態を取るように駆動する。
【0023】
すなわち、積層フィルム1は水4と接触することにより、
図1のaとbの状態を繰り返すように駆動する。なお、ここで膨潤とは、水を吸収して体積が増加する現象をいい、脱膨潤とは、水を吸収して膨潤した状態にある物から水が失われて体積が減少する現象をいう。
【0024】
本発明においては、
図1のcに示すように、水4を含むスポンジ5に置いた5cm角の大きさの積層フィルム1の4つの頂点のうち、特徴1および特徴2を示す頂点が頂点α6となる。
【0025】
(熱可塑性樹脂)
本発明の積層フィルムは、ハンドリング性、賦形性、コスト、入手の容易性の観点から、熱可塑性樹脂を含むことが重要である。ここで熱可塑性樹脂とは加熱により軟化して可塑性を持ち、冷却すると固化する特徴を有する樹脂を指す。
【0026】
本発明の積層フィルムにおける熱可塑性樹脂は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテル系樹脂、およびポリフェニレンスルフィドやポリスルホン等の含硫黄系芳香族樹脂等を用いることができる。
【0027】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタアクリレート等のアクリル系樹脂、ポリフッ化ビニル等のフッ素系樹脂、およびこれらの樹脂の原料であるモノマーの共重合体等が挙げられる。
【0028】
ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、およびこれらの樹脂の原料であるモノマーの共重合体等が挙げられる。
【0029】
ポリアミド系樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、およびこれらの樹脂の原料であるモノマーの共重合体等が挙げられる。
【0030】
ポリエーテル系樹脂としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン、ポリテトラメチレングリコール、ポリアセタール、およびこれらの樹脂の原料であるモノマーの共重合体等が挙げられる。
【0031】
熱可塑性樹脂は、本発明の効果を損なわない限り、単独で使用することも複数種類を混合させて使用することも可能である。また、熱可塑性樹脂は、主たる構成単位以外の単位を共重合単位として含んでいてもよい。このような熱可塑性樹脂としては、例えば、エチレングリコール単位以外のジオール単位および/またはテレフタル酸単位以外のジカルボン酸単位を含むポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0032】
本発明の積層フィルムは、前述のとおり、水と接触して膨潤することと、水から離れて脱膨潤することとを繰り返すことにより駆動する。そのため、水に対する膨潤率の高い熱可塑性樹脂を含む層と水に対する膨潤率の低い樹脂を主成分とする層が互いに接する積層構成とすることにより、積層フィルムの駆動性を向上させることができる。本発明の積層フィルムにおいては、必要とする駆動性に応じて、熱可塑性樹脂を適宜選択することができる。
【0033】
(積層フィルムの駆動性)
本発明の第1の積層フィルムは、積層フィルムが水との接触による持続的な駆動性を有する観点から、片面が水と接触するように5cm角の大きさの積層フィルムを配置した際に、以下の特徴1および2を示す頂点(頂点α)が少なくとも1つ存在することが重要である。
特徴1:積層フィルムを配置した時点から15分間の平均移動速度が、5mm/分以上である。
特徴2:積層フィルムを配置して10分後の時点から5分間の平均移動速度が、5mm/分以上である。
【0034】
ここで、水と接触するとは、水と積層フィルムが接触することをいい、具体的には、水そのものと積層フィルムが直接接触することや、水を含んだ布やスポンジ等を介して水と積層フィルムが接触することをいう。
【0035】
積層フィルムを配置した時点から15分間の頂点の平均移動速度は、23℃65%RHの環境下で水を含浸させたさらし上に5cm角の積層フィルムサンプルを置いて撮影した動画を観察することにより、積層フィルムサンプルを置いた時点から15分に達するまで10秒間ごとに頂点の位置変化量の絶対値を求め、その総和を時間で除して算出する。なお、測定は各頂点について行い、積層フィルムを配置して10分後の時点から5分間の平均移動速度についても同様に測定する。なお、位置変化量とは、移動距離をいう。
【0036】
本発明の積層フィルムは、高い駆動性を有する観点から、片面が水と接触するように5cm角の大きさの積層フィルムを配置した際に、積層フィルムを配置した時点から15分間の頂点αの平均移動速度が10mm/分以上であることがより好ましく、15mm/分以上であることがさらに好ましい。
【0037】
また、持続して高い駆動性を確保する観点から、片面が水と接触するように5cm角の大きさの積層フィルムを配置した際に、積層フィルムを配置して10分後の時点から5分間の頂点αの平均移動速度が高いほどよい。具体的には、10mm/分以上であることが好ましく、15mm/分以上であることがより好ましい。
【0038】
本発明の第1の積層フィルムにおいては、頂点αが少なくとも1つ存在すればよく、頂点αが1つであっても、2つ以上であってもよい。また、本発明の第1の積層フィルムは、一方の面を水と接触させた場合に頂点αが少なくとも1つ存在すればよい。すなわち、積層フィルムの両面それぞれについて水と接触させた場合に、どちらか一方の面あるは両方の面において頂点αが少なくとも1つ存在すればよい。
【0039】
本発明の第1の積層フィルムの駆動性は、
ポリウレタン系樹脂とポリエステル系樹脂の種類や後述する積層構成を適宜選択して各層の水に対する膨潤率の差を調節することにより、調節することができる。積層構成としては、
5cm角に切り取った積層フィルム全体を25℃の条件下で30分間水に浸した際の水に対する膨潤率
が互いに異なる2つ以上の層を有し、水に対する膨潤率の最も高い層をA層としたときに、A層が少なくとも一方の最外層に位置する構成とすることが重要である。このように、
5cm角に切り取った積層フィルム全体を25℃の条件下で30分間水に浸した際の水に対する膨潤率の異なる2つ以上の層が存在することにより積層フィルムに駆動性が付与され、A層が少なくとも一方の最外層に位置することにより、A層と水が接触しやすくなって積層フィルムの駆動性が容易に発現する。
【0040】
水に対する膨潤率の異なる2つ以上の層を有し、水に対する膨潤率の最も高い層をA層としたときに、A層が少なくとも一方の最外層に位置する構成を有する積層フィルムの具体例としては、例えば、水に対する膨潤率の異なる2層からなる積層フィルムが挙げられる。この場合、2つの層の水に対する膨潤率の差を大きくすることで駆動性を向上させることができ、2つの層の水に対する膨潤率の差を小さくすることで駆動性を低く抑えることができる。
【0041】
(積層フィルムの層構成)
本発明の第2の積層フィルムは、積層フィルムに駆動性を付与する観点から、水に対する膨潤率の異なる2つ以上の層を有することすることが重要である。積層フィルムが水に対する膨潤率の異なる2つ以上の層を有することで、前述のとおり、積層フィルムは「(積層フィルムの駆動性)」の箇所で述べたような駆動性を有するものとなる。
【0042】
また、本発明の第2の積層フィルムは、水に対する膨潤率の最も高い層をA層としたときに、A層が少なくとも一方の最外層に位置することすることが重要である。A層が少なくとも一方の最外層に位置することにより、A層と水が接触しやすくなり、積層フィルムの駆動性を容易に発現することができる。
【0043】
また、本発明の積層フィルムは、水に対する膨潤率の最も低い層をB層、A層の水に対する膨潤率をXa(%)、B層の水に対する膨潤率をXb(%)としたときに、Xa/Xb≧5であることが
重要である。Xaは、5cm角の積層フィルムサンプルを、25℃の条件下で30分間水に浸す前後における、A層の厚みおよびフィルム面の面積より以下の式(1)により求める。Xbも同様に、B層の厚みおよびフィルム面の面積より以下の式(2)により求める。ここで、フィルム面の面積とは、任意に選択した、積層フィルムの厚み方向と
垂直な辺で囲まれる面の面積をいう。
式(1):
Xa(%)=(水浸漬後のA層厚み×水浸漬後の面積−水浸漬前のA層厚み×水浸漬前の面積)×100/(水浸漬前のA層厚み×水浸漬前の面積)
式(2):
Xb(%)=(水浸漬後のB層厚み×水浸漬後の面積−水浸漬前のB層厚み×水浸漬前の面積)×100/(水浸漬前のB層厚み×水浸漬前の面積)
ここで、Xa/Xb≧5であるとは、5cm角の大きさの積層フィルム全体を水に浸した際に、Xa/Xb≧5であることをいう。
【0044】
本発明の積層フィルムを高い駆動性が要求されるアクチュエーター等の用途で使用する場合、駆動性は高いことが好ましい。そして、Xa/Xbの大きさに比例して、水と接触した際に積層フィルムが水から脱離しようとする力が大きくなるため、Xa/Xbを大きくすることにより本発明の積層フィルムの駆動性を向上させることが可能となる。
【0045】
具体的には、Xa/Xb≧10であることがより好ましく、Xa/Xb≧100であることがさらに好ましい。Xa/Xbの上限値は、本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、実用性の面から、10,000程度であれば十分である。
【0046】
Xa/Xbは、A層およびB層に用いる熱可塑性樹脂の種類を適当な組み合わせとすることで、適宜調整することができる。一般的に、A層に用いる熱可塑性樹脂の水に対する膨潤率とB層に用いる熱可塑性樹脂の水に対する膨潤率の差を大きくすることによりXa/Xbを大きくすることができ、この差を小さくすることによりXa/Xbを小さくすることができる。
【0047】
なお、本発明の第2の積層フィルムにおいては、Xa/Xb≧1.5であれば、A層とB層は異なる膨潤率を有するとみなす。反対にXa/Xb<1.5であれば、2つの層は同じ膨潤率であるとみなすこととなる。
【0048】
(A層とA層と接しているA層以外の層の剥離強度)
本発明の第2の積層フィルムは、層間剥離に伴う駆動性の低下や外観の悪化を軽減する観点から、A層とA層と接しているA層以外の層の剥離強度が、50gf/15mm以上であることが重要である。A層とA層と接しているA層以外の層の剥離強度が50gf/15mm未満であると、吸湿により駆動を開始したとしても、駆動中に層間剥離が進行してしまうため、持続して高い駆動性を確保できないことや、外観が悪化することがある。それに対し、A層とA層と接しているA層以外の層の剥離強度が50g/15mm以上であると、駆動中の層間剥離が抑制されるため、持続して高い駆動性を確保できるようになる。A層とA層と接しているA層以外の層の剥離強度は、100gf/15mm以上であることがより好ましく、150gf/15mm以上であることがさらに好ましく、200gf/15mm以上であることが特に好ましい。
【0049】
本発明の第1の積層フィルムは、層間剥離に伴う駆動性の低下や外観の悪化を軽減する観点から、A層とA層と接しているA層以外の層の剥離強度が、50gf/15mm以上であることが好ましく、100gf/15mm以上であることがより好ましく、200gf/15mm以上であることがさらに好ましい。
【0050】
本発明の積層フィルムにおいて、A層とA層と接しているA層以外の層の剥離強度の上限値は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、実現可能性の観点から1,000gf/15mm程度あれば十分である。
【0051】
ここで、A層とA層と接しているA層以外の層の剥離強度とは、150mm(長手方向)×15mm(幅方向)の積層フィルムサンプルを切り出し、該サンプルのA層を幅方向と平行に一方のチャックに、A層以外の層を同様に他方のチャックにセットして、温度23℃、引張速度200mm/分の条件で剥離試験を実施して得られる剥離強度をいう。ここで、長手方向とはフィルム製造時にフィルムが進行する方向をいい、幅方向とはフィルム面に平行かつ長手方向と垂直な方向をいう。
【0052】
但し、フィルムがロールに巻き取られたものである場合は、長手方向や幅方向を容易に特定することができるが、ロールに巻かれていないシート状のフィルムの場合は、長手方向や幅方向を容易に特定することができない。このような場合においては、上記の方法により任意に選択した一方向を長辺とするサンプルを用いて剥離強度を測定した後に、フィルムを右に5°回転させて同様の測定を行い、これを180°に達するまで繰り返して最も剥離強度の値が高い方向を長手方向として扱うものとする。以下、本発明において同様とする。
【0053】
なお、積層フィルムの層構成が、例えば、A層/B層/A層やB層/A層/B層の2種3層構成である場合のように、A層とA層以外の層が接している箇所が複数個所あり、A層以外の層が同じ組成の層である場合においては、任意に選択した1箇所について剥離試験を行い、得られた値をA層とA層と接しているA層以外の層の剥離強度とする。積層フィルムの層構成が、例えば、B層/A層/A層およびB層以外の層の3種3層構成である場合のように、A層が複数種のA層以外の層と接する場合においては、A層とB層、A層とA層およびB層以外の層の剥離強度をそれぞれ測定し、最も小さい値をA層とA層と接しているA層以外の層の剥離強度とする。
【0054】
本発明の積層フィルムの駆動は、前述のとおり水に対する膨潤率の高い層の体積変化を水に対する膨潤率の低い層により拘束することに起因している。従って、A層とA層と接しているA層以外の層の界面において剥離が起こると、剥離部分では各層が拘束を受けることなく体積変化を起こすため、駆動の原動力が低下することがある。また、層間剥離による外観不良が生じることもある。A層とA層と接しているA層以外の層の剥離強度が、50gf/15mm以上であることにより、層間剥離が軽減され、駆動性の維持や外観の悪化防止が可能となる。
【0055】
A層とA層以外の層の剥離強度を50gf/15mm以上とする方法としては、A層と接する層の原料として接着機能を有する成分を使用する方法や、A層およびA層と接する層が同じ成分を含有する態様とする方法などが挙げられる。
【0056】
さらに本発明の積層フィルムは、アクチュエーター等の駆動性が要求される用途に使用する場合、その駆動性が持続することが求められる。そのため、駆動の原動力を長期にわたり維持する観点から、片面が水と接触するように5cm角の大きさの積層フィルムを配置した際に、積層フィルムを配置した時点から60分後の時点においてA層とA層以外の層の層間剥離が抑制されていることが好ましい。60分後の層間剥離抑制も、A層とA層以外の層の剥離強度を50gf/15mm以上とするのと同様の方法により達成することができる。
【0057】
(A層の成分)
本発明の積層フィルムにおけるA層は、積層フィルムに駆動性を付与する観点から、水に対する膨潤率が5%以上の熱可塑性樹脂(樹脂A)を含有することが好ましい。水に対する膨潤率とは、5cm角(厚み50μm)の樹脂シートを、23℃の環境下で水に1時間浸漬させた後、各辺の長さの変化率を算出して得られる値のうち最も大きな値をいう。A層が樹脂Aを含有することにより、A層と後述するB層との間に水に対する膨潤率の差が生じ、積層フィルムに高い駆動性を付与することができる。
【0058】
本発明の積層フィルムは、その駆動性を向上させる観点から、A層と後述するB層の水に対する膨潤率の差を大きくすることが好ましい。そのため、樹脂Aの水に対する膨潤率は10%以上であることがより好ましく、100%以上であることがさらに好ましい。樹脂Aの水に対する膨潤率の上限は、本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、実用的な駆動性を付与する観点から、1,000%あれば十分である。
【0059】
本発明の積層フィルムにおいては、水に対する高い膨潤率を確保する観点から、樹脂Aが、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つの樹脂であることが好ましく、ポリウレタン系樹脂および/またはポリアミド系樹脂であることがより好ましく、ナイロン6、高透湿性のナイロン、および高透湿性のポリウレタン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つの樹脂であることがさらに好ましい。これらの中でも、本発明の積層フィルムを衣料や衛生材等の布のような風合いや透湿性を要求される分野に適用する観点からは、高透湿性のナイロンおよび/または高透湿性のポリウレタン系樹脂であることが特に好ましい。
【0060】
本発明の積層フィルムのA層における樹脂Aの含有量は、積層フィルムの機械特性を維持しつつA層の水に対する膨潤性を十分に確保する観点から、A層の全成分を100質量%としたときに、30質量%以上100質量%以下であることが好ましく、40質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、50質量%以上100質量%以下がさらに好ましい。なお、樹脂Aに該当する樹脂がA層中に複数種存在する場合、樹脂Aの含有量は、全ての樹脂Aを合計して算出するものとする。後述のB層における樹脂Bについても同様である。
【0061】
また、本発明の積層フィルムのA層は、前記の剥離強度を好ましい値とするという観点から、後述するB層の成分の一部を含んでいてもよい。
【0062】
(B層の成分)
本発明の積層フィルムにおけるB層は、積層フィルムに駆動性を付与する観点から、水に対する膨潤率が1.0%未満の熱可塑性樹脂(樹脂B)を主成分とすることが好ましい。B層が樹脂Bを主成分とすることにより、前述したA層とB層との間に水に対する膨潤率の差が生じ、積層フィルムに高い駆動性を付与することができる。また、樹脂Bを主成分とするとは、層における樹脂成分の合計を100質量%としたときに、層中における樹脂Bの含有量が50質量%を超えることをいう。
【0063】
積層フィルムの駆動性を向上させる観点から、A層と後述するB層の水に対する膨潤率の差を大きくすることが好ましい。そのため、樹脂Bの水に対する膨潤率は0.5%以下であることがより好ましく、0.2%以下であることがさらに好ましい。樹脂Bの水に対する膨潤率の下限は、本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、実用的な駆動性を付与する観点から、0.01%あれば十分である。
【0064】
本発明の積層フィルムにおいては、水に対する膨潤率を低く抑える観点から、樹脂Bが、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、およびポリオレフィン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つの樹脂であることが好ましく、非透湿性や中透湿性のポリウレタン系樹脂、非透湿性や中透湿性のポリアミド系樹脂、高透湿性のポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンからなる群より選ばれる少なくとも1つの樹脂であることがより好ましい。さらに、本発明の積層フィルムを衣料や衛生材等の布のような風合いや透湿性を要求される分野に適用する場合には、高透湿性のポリエステルや炭酸カルシウムなどの多量の充填剤を用いて延伸開孔により微多孔状の貫通孔を付与した微多孔性のポリエチレンを用いることが特に好ましい。
【0065】
本発明の積層フィルムのB層における樹脂Bの含有量は、積層フィルムの機械特性を維持しつつB層の水に対する膨潤性を低く抑える観点から、B層における樹脂成分の合計を100質量%としたときに、50質量%を超え100質量%以下であることが好ましく、60質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましい。
【0066】
また、本発明の積層フィルムのB層は、前述したA層との剥離強度を好ましい値とする観点から、A層の成分と同種類の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。前記A層とB層の水に対する膨潤率がXa/Xb≧5を満たすことが好ましいことを踏まえると、例えば、A層が水に対する膨潤率が5%以上のポリウレタン系樹脂を含む場合において、B層が水に対する膨潤率が1.0%未満のポリウレタン系樹脂を含むという組成や、A層が水に対する膨潤率が5%以上のポリアミド系樹脂を含む場合において、B層が水に対する膨潤率が1.0%未満のポリアミド系樹脂を含むという組成が挙げられる。
【0067】
(吸放湿剤)
本発明の積層フィルムは、水との接触による膨潤と脱膨潤の繰り返しにより駆動する。そのため、A
層が、吸放湿剤を含むことが重要である。吸放湿剤により本発明の積層フィルムが水と接している状況では、水の吸収とそれに伴う膨潤が促進され、積層フィルムが膨潤により水から離脱した後は外気への水の放出が促進される。そのため、より積層フィルムの駆動性を向上させることが可能となる。また、A
層が、吸放湿剤を含むことにより、積層フィルムの透湿性も向上する。
【0068】
このような吸放湿剤としては、例えばシリカゲル、パルプ、セピオライト、アタパルジャイト、ゼオライト、珪藻土、木炭、珪酸カルシウム、および多孔質炭酸カルシウム等
があるが、コスト、樹脂との馴染みやすさから、吸放湿剤は
、空孔率10%以上50%以下の多孔質炭酸カルシウムを含むことが
重要であり、
空孔率10%以上50%以下の多孔質炭酸カルシウムであること
が好ましい。
【0069】
また、多孔質炭酸カルシウムは、本発明の効果を損なわない限りどのような方法で得られたものでもよいが、コスト面から、これらを主成分とする貝殻や卵殻等から抽出したものであることが好ましい。
【0070】
本発明の積層フィルムにおいては、透湿度の向上と製膜安定性を両立させる観点から、吸放湿剤が、空孔率10%以上50%以下の多孔質炭酸カルシウムであることが好ましい。多孔質炭酸カルシウムの空孔率が10%未満であると十分な透湿度が得られないことがあり、空孔率が50%より大きいとフィルムの製膜が不安定になることがある。ここで、空孔率とは、炭酸カルシウムの粒子表面の拡大画像より炭酸カルシウム部分と空孔部分を特定し、炭酸カルシウム部分と空孔部分の面積の合計に占める空孔部分の面積をいう。
【0071】
また、吸放湿剤の含有量は、フィルムの透湿性と製膜安定性を両立させる観点から、本発明の積層フィルムの全質量を100質量%とした際に、0.1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、1質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上30質量%以下であることがさらに好ましい。吸放湿剤の含有量を、積層フィルムの全質量100質量%に対して0.1質量%以上とすることにより、フィルムの透湿性を向上させることができる。また、吸放湿剤の含有量を、積層フィルムの全質量100質量%に対して50質量%以下とすることにより、高い製膜安定性を維持することができる。なお、積層フィルムに複数種の吸放湿剤が含まれる場合、吸放湿剤の含有量は、全ての吸放湿剤を合算して算出するものとする。
【0072】
(積層フィルムの透湿度)
本発明の積層フィルムは、衣料や衛生材等の布のような風合いや透湿性を要求される分野に適用する場合には、透湿度が1,000g/(m
2・day)以上であることが好ましく、1,500g/(m
2・day)以上であることがより好ましく、1,900g/(m
2・day)以上であることがさらに好ましい。なお、積層フィルムの透湿度は大きいほど好ましく上限は特にないが、上記用途に適用する観点からすると、上限は5,000g/(m
2・day)程度あれば十分である。
【0073】
積層フィルムの透湿度とは、水蒸気の透過性の指標であり、ここでは、25℃、90%RHの条件下で、JIS Z0208(1976)に規定された方法により測定することにより得られる透湿度をいう。
【0074】
透湿度を係る範囲とする方法としては、本発明に用いる樹脂原料として高透湿のポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂やポリエステル系樹脂を用いることや、B層を微多孔性のポリエチレン層とすることや積層フィルムの厚みを後述の範囲とすることが挙げられる。
【0075】
(積層フィルムの厚み)
透湿性を要する用途に本発明の積層フィルムを用いる場合、取り扱い性と透湿性を両立させる観点から、積層フィルムの厚みは、3μm以上200μm以下であることが好ましく、7μm以上150μm以下であることがより好ましく、10μm以上100μm以下であることがさらに好ましく、12μm以上50μmであることが特に好ましい。積層フィルムの厚みを3μm以上とすることで、フィルムとした際のコシが強くなり、取り扱い性に優れ、また、ロール巻姿や巻出し性が良好となる。積層フィルムの厚みを200μm以下とすることで、積層フィルムは実用的な透湿度を備えるものとなる。
【0076】
(添加剤)
本発明の積層フィルムは、本発明の効果を損なわない範囲で前述した成分以外の成分を含有してもよい。例えば、非多孔質性の炭酸カルシウム等の充填剤、酸化防止剤、紫外線安定化剤、二酸化チタンなどの着色剤、着色防止剤、艶消し剤、抗菌剤、消臭剤、耐候剤、抗酸化剤、イオン交換剤、粘着性付与剤、着色顔料、染料などを含んでもよい。
【0077】
(積層フィルムの製造方法)
次に、本発明の積層フィルムを製造する方法について具体的に説明するが、本発明の積層フィルムの製造方法はこれに限定されるものではない。
【0078】
本発明のA層を得るために用いる組成物、つまり、樹脂A、および必要に応じてその他の樹脂または添加剤を含有する組成物を得るにあたっては、各成分を溶融混練することにより組成物を製造する溶融混練法が好ましい。溶融混練方法については、特に制限はなく、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、単軸または二軸押出機などの公知の混合機を用いることができる。中でも生産性の観点から、単軸または二軸押出機の使用が好ましい。
【0079】
同様に層Bを得るための組成物、つまり、樹脂B、および必要に応じてその他の樹脂または添加剤を含有する組成物を得るにあたっては、各成分を溶融混練することにより組成物を製造する溶融混練法が好ましい。溶融混練方法は、層Aと同様の方法が好ましい。
【0080】
本発明の積層フィルムの製造方法は、層Aと層Bを有する積層フィルムの製膜安定性、生産性、およびコスト競争力の観点から、本発明の積層フィルムを溶融製膜法で製造することが好ましい。このような態様とすることにより、製膜速度や安定性の向上に伴う生産性の向上が期待できる。また、溶融製膜法は、適当な溶剤に樹脂成分を溶かして得られた溶液を支持体上にキャストし、その後溶剤を除去する溶液製膜法と異なり、溶剤の除去や廃溶媒の処理工程が不要なため、コスト競争力にも優れる。
【0081】
本発明の積層フィルムは、例えば上記した方法により得られた組成物を用いて、公知のインフレーション法、チューブラー法、Tダイキャスト法などの既存のフィルムの溶融製膜法により製造することができる。その中でも分子配向を抑制し易く、コスト競争力にも優れるという観点から、インフレーション法により製造することが好ましい。
【0082】
さらに、前述の方法で得られた積層フィルムを一軸または二軸延伸することで、A層および/またはB層に空孔を形成させてもよい。A層および/またはB層が空孔を有することにより、積層フィルムの透湿性が向上する。
【0083】
加熱ロール上で搬送することによって縦一軸延伸を行う場合、延伸温度は積層フィルムを構成する樹脂に応じて適宜調整することができる。例えば、樹脂Bとしてポリエチレン系樹脂を用いるのであれば、40〜120℃であることが好ましく、50〜100℃であることがより好ましい。そして、昇温した無配向積層フィルムを、加熱ロール間の周速差を用いて長手方向に1段、もしくは2段以上の多段で延伸を行う。合計の延伸倍率は、1.5〜10倍が好ましく、2〜9倍がより好ましく、2.5〜8倍がさらに好ましい。
【0084】
また、必要に応じて、一軸延伸した積層フィルムを一度冷却した後、その両端部をクリップで把持してテンターに導き、幅方向の延伸を行ってもよい。
【0085】
次に、延伸された積層フィルムを熱処理する。好ましい熱処理温度は、積層フィルムを構成する樹脂により異なり、例えば、積層フィルムがポリエチレン系樹脂を含む場合は延伸温度+5〜延伸温度+50℃が好ましく、延伸温度+10〜延伸温度+50℃がより好ましく、延伸温度+20℃〜延伸温度+50℃がさらに好ましい。
【実施例】
【0086】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら制限を受けるものではない。
但し、実施例1〜11、13、及び18〜21は参考例とする。
【0087】
[測定および評価方法]
実施例中に示す測定や評価は次に示す方法および条件で行った。
【0088】
(1)A層、B層、および積層フィルムの厚み、積層比率
積層フィルムの幅方向中央部からサンプル片を切り出した。エポキシ樹脂を用いた樹脂包埋法により、ウルトラミクロトームを用いて、サンプル片を長手方向と平行であり、かつ、厚み方向とも平行な面ができるように切断したときの、その切断面を観察面とするように−100℃で超薄切片を採取した。この超薄切片を走査型電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ社製 S−3400N)にセットした後、倍率1,000倍(倍率は適宜調整可能)で積層フィルム断面写真を撮影し、その測長機能でA層、B層、および積層フィルムの厚みを測定した。測定は観察箇所を変えて10回行い、A層、B層、および積層フィルムそれぞれについて得られた値の平均値をA層、B層、および積層フィルムの厚み(μm)とした。また、得られたA層およびB層の厚みから、積層比率を算出した。
【0089】
(2)積層フィルムの透湿度
25℃、90%RHに設定した恒温恒湿装置にて、JIS Z0208(1976)に規定された方法に従って測定した。測定は3回行い、得られた値の平均値を積層フィルムの透湿度(g/(m
2・day))とした。
【0090】
(3)A層の水に対する膨潤率(Xa)およびB層の水に対する膨潤率(Xb)
5cm角に切り取った積層フィルムを、25℃の条件下で、その全体が水と接するように水に浸し、30分後に水から取り出した。その後直ちに積層フィルムの厚み方向と平行な辺以外の全ての辺の長さを測定してこれらの辺で囲まれる面を1つ任意に選択し、その面積を求めた。続いて前記積層フィルムの厚みの測定方法と同様の方法で、厚み方向以外の全ての辺の長さの測定後から10分以内に、A層およびB層の厚みを測定した。得られた結果を用いて、以下の式(1)および式(2)に従いA層の水に対する膨潤率(Xa)およびB層の水に対する膨潤率(Xb)を算出した。
式(1):
Xa(%)=(水浸漬後のA層厚み×水浸漬後の面積−水浸漬前のA層厚み×水浸漬前の面積)×100/(水浸漬前のA層厚み×水浸漬前の面積)
式(2):
Xb(%)=(水浸漬後のB層厚み×水浸漬後の面積−水浸漬前のB層厚み×水浸漬前の面積)×100/(水浸漬前のB層厚み×水浸漬前の面積)
(4)樹脂Aおよび樹脂Bの水に対する膨潤率
樹脂Aまたは樹脂Bを融点以上に加熱し、熱プレスで大きさ5cm角、厚み50μmのシート形状とした。23℃の環境下で水に1時間浸漬させた後に厚み方向以外の全ての辺の長さを測定して、式(3)に従い浸漬前後での各辺の長さの変化率を求めた。各辺について得られた辺の長さの変化率のうち、最も大きい値をその樹脂の水に対する膨潤率とした。なお、測定対象の樹脂が融点の存在しない非晶性樹脂である場合は、軟化点以上に加熱した。
式(3):
辺の長さの変化率(%)=(水浸漬後の辺の長さ[cm]−5[cm])×100/5[cm]
(5)積層フィルムの駆動性、60分後の層間剥離
98g/m
2の綿製のさらし(日本製 商品名:白椿晒)を210mm×297mmにカットし、底面が水平になるように配置したステンレスバットの底面上に敷いた。続いて、水10mlをさらしの上から均一に散布し、さらし全体に含浸させた。23℃65%RHの環境下で、5cm角の積層フィルムサンプルをさらし上に水平に置き、フィルム面と水平な方向および垂直な方向からビデオで動画撮影を行い、各頂点の動きを記録した。
【0091】
得られた動画より、フィルムサンプルをさらし上に置いた時点(以下、開始時ということがある。)から15分間、10秒ごとに各頂点の位置データを取得した。次いで、各頂点について、開始時から10秒間における位置変化量の絶対値を|ΔX1|(mm)、開始時より10秒経過した時点から10秒間における位置変化量の絶対値を|ΔX2|(mm)として、以下同様に、15分に達するまで(|ΔX90|(mm)まで)10秒間における位置変化量の絶対値を算出した。これらのデータを用いて、各頂点について、開始時から15分間の平均移動速度(以下、平均移動速度1という。)、および開始時より10分経過した時点から5分間の平均移動速度(以下、平均移動速度2という。)をそれぞれ式(4)、式(5)により算出した。得られた結果を用いて、積層フィルムの駆動性を以下の基準で評価した。なお、位置変化量とは、移動距離をいう。
式(4):
平均移動速度1(mm/分)=(|ΔX1|から|ΔX90|までの総和[mm])/15(分)
式(5):
平均移動速度2(mm/分)=(|ΔX61|から|ΔX90|までの総和[mm])/5(分)
A:平均移動速度1が15mm/分以上であって、平均移動速度2が5mm/分以上である頂点が少なくとも1つ存在する。
B:平均移動速度1が10mm/分以上15mm/分未満であって、平均移動速度2が5mm/分以上である頂点が少なくとも1つ存在し、かつAに該当しない。
C:平均移動速度1が5mm/分以上10mm/分未満であって、平均移動速度2が5mm/分以上である頂点が少なくとも1つ存在し、かつAおよびBに該当しない。
D:A、BおよびCのいずれにも該当しない。
駆動性はAが最も優れており、C以上である場合を実用的な駆動性を有するものとする。
上記にて積層フィルムサンプルをさらし上に置いた時点から、60分後に積層フィルムサンプルの外観を目視にて調べ、層間剥離状態を以下の基準により評価した。
A:層間剥離が全く起こっていない。
B:部分的に層間剥離が起こっているものの、実用上問題がない。
C:層間剥離がひどく、剥離部分でしわが発生している。
60分後の層間剥離はAが最も優れており、B以上であれば実用上問題なく使用できるものとする。
【0092】
(6)A層とA層と接しているA層以外の層の剥離強度
恒温槽を備えたオリエンテック社製“TENSILON”(登録商標) UCT−100を用いて、温度23℃におけるA層とA層と接しているA層以外の層の剥離強度(gf/15mm)を測定した。
【0093】
具体的には、150mm(長手方向)×15mm(幅方向)の短冊状に積層フィルムサンプルを切り出し、23℃に調整された恒温槽の中で、片方のチャックにA層、他方のチャックに残り層をセットし、引張速度200mm/分で、剥離試験を行った。剥離力曲線において、剥離開始後の上限値と下限値を読み取りその平均値(A)を算出した。同様の測定を3回行い、得られた3つの平均値(A)の平均値を、積層フィルムのA層とA層とA層と接しているA層以外の層の剥離強度とした。A層とA層以外の層の密着が強固であり、A層を剥離評価できない場合は、A層とA層と接しているA層以外の層の剥離強度が200gf/15mm以上あるとみなした。なお、層構成がA層/B層/A層の2種3層構成であり、かつ2つのA層の組成が同一である場合、および層構成がB層/A層/B層の2種3層構成であり、かつ2つのB層の組成が同一である場合においては、任意に選択した1箇所について剥離強度の測定を行った。
【0094】
(7)炭酸カルシウムの空孔率
炭酸カルシウムの粒子表面を走査型電子顕微鏡(S−3400 (株)日立製作所製)で5,000倍に拡大して撮像し、得られた表面写真を画像解析ソフトImageJ(1.47V)(アメリカ国立衛星研究所)により解析し、炭酸カルシウムの空孔率を求めた。
【0095】
具体的には、以下の手順で画像解析を行った。先ず、得られた表面写真を画像デジタルファイル(JPEG形式)として呼び出し、画像ソフト「ImageJ(1.47V)」を用いて8ビット画像に変換し、空孔部分と炭酸カルシウム部分の二値化処理を行った。二値化処理における閾値は自動設定を使用した。次にスケール設定(Distance in pixels=100、Known distance=5、Pixel aspect ratio=1.0、Unit of legth=unit)を行った後、計測条件を「Analyze Particles」、かつ「Circularity=0.00−1.00」として、空孔部分の面積を求めた。空孔部分と炭酸カルシウム部分の合計面積に占める空孔部分の面積の割合を算出し、これを炭酸カルシウム粒子の空孔率(%)とした。任意に選定した5個の炭酸カルシウム粒子について同様の測定を行って炭酸カルシウム粒子の空孔率(%)を求め、これらの平均値を炭酸カルシウムの空孔率(%)とした。
【0096】
(8)積層フィルムの厚み
積層フィルムサンプルの一方の幅方向端部から他方の幅方向端部まで、幅方向と平行に10cm間隔でポイントを取り、各ポイントにおける厚み値を測定した。厚み値の測定は、JIS B7503(最新改定:2011年3月22日)に従いダイヤルゲージにより行った。全てのポイントにおける厚み値の平均値を算出し、これを積層フィルムの厚み(μm)とした。
【0097】
(9)積層フィルムの製膜安定性
インフレーション法によりブロー比2.0、フィルム厚み20μmの条件で製膜を行い、3時間のうちに起こった製膜破れの回数をカウントし、回数に応じて、下記の4段階で評価した。製膜安定性はSが最も優れている。なお、積層フィルム(実施例1〜24、比較例3、4、7、8)は、表に記載の積層厚み比となるように製膜した。
S:製膜破れの回数 0回
A:製膜破れの回数 1回
B:製膜破れの回数 2回
C:製膜破れの回数 3回以上
また、製膜破れが起こった時点から、フィルムのつなぎ合わせを行って製膜を再開するまでの時間は、3時間の評価時間から除外した。
【0098】
[熱可塑性樹脂]
(A1)
高透湿ポリウレタン系樹脂(商品名:“エラストラン”(登録商標)OP85A10MHグレード、BASF(株)社製) 水に対する膨潤率12%
(A2)
中透湿ポリウレタン系樹脂(商品名:“エラストラン”(登録商標)ET885FGグレード、BASF(株)社製) 水に対する膨潤率0.2%
(A3)
中透湿ポリエステル系樹脂(商品名:“ハイトレル”(登録商標) G3548LN 、東レデュポン製) 水に対する膨潤率0.3%
(A4)
エチレン樹脂(商品名:NUC8506、日本ユニカー(株)製)水に対する膨潤率0.1%
(A5)
高透湿ポリエステル系樹脂(商品名:“ハイトレル”(登録商標)8206、東レデュポン製)水に対する膨潤率8.2%
(A6)
ポリアミド系エラストマー(商品名:“PEBAX”(登録商標)MV1074,アルケマ(株)製) 水に対する膨潤率61%
[吸放湿剤]
(B1)
卵殻パウダー(商品名:卵殻カルシウム Ca−35、グリーンテクノ21(株)製)
(B2)
セピオライト(商品名:ミルコンLS、林化成(株)製)
[充填剤]
(C1)
炭酸カルシウム(三共精粉社製、商品名“トップフロー”(登録商標)H200、平均粒子径1.7μm)
[フィルムの作製]
(実施例1)
表1に記載の熱可塑性樹脂および充填剤を、A層用およびB層用として、表記載の種類および質量%割合でシリンダー温度200℃のスクリュー径44mmの真空ベント付き二軸押出機に供給し、真空ベント部を脱気しながら溶融混練し均質化した後にチップ化し、A層用およびB層用の組成物を得た。これらの組成物を、回転式ドラム型真空乾燥機を用いて、温度80℃で5時間真空乾燥した後、組成物をシリンダー温度200℃、スクリュー径60mmの、それぞれ独立した別々の単軸押出機に供給し、直径250mm、リップクリアランス1.0mm、温度190℃のスパイラル型環状ダイスより、A層/B層/A層の2種3層構成となるように、ブロー比:2.0にてバブル状に上向きに押出し、冷却リングにより空冷し、ダイス上方のニップロールで折りたたみながら20m/分にて引き取り、両端部をエッジカッターにて切断して2枚に切り開き、無延伸の積層フィルムをワインダーにて巻き取った。得られた積層フィルムの物性を表1に示す。
【0099】
(実施例2〜9、11〜24、比較例1〜8)
表1〜3に記載の組成、条件で実施例1と同様に製膜を実施し、単層または積層フィルムを得た。得られた単層または積層フィルムの物性を表1〜3に示す。なお、比較例1、2、5、および6においては、スパイラル型環状ダイスよりA層のみを押し出した。また実施例11、および比較例7〜8においてはB層/A層/B層の構成となるようにスパイラル型環状ダイスより押し出した。一方、実施例21においては、2種2層構成のスパイラル型環状ダイスに切りかえて、押出しを行った。
【0100】
(実施例10)
表1に記載の組成、条件で実施例1と同様に製膜を実施し、インフレーション法により無配向積層フィルムを得た。続いて得られた無配向積層フィルムを用いロール式延伸機にて長手方向に、温度70℃で3倍の縦延伸を行った。この一軸配向積層フィルムをいったん冷却ロール上で冷却した後、温度110℃で5秒間熱処理後、厚さ15μmの積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの物性を表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
A層組成およびB層組成における各成分の含有量(質量%)は、いずれも各層の全成分を100質量%として算出した。
【0103】
【表2】
【0104】
A層組成およびB層組成における各成分の含有量(質量%)は、いずれも各層の全成分を100質量%として算出した。
【0105】
【表3】
【0106】
A層組成およびB層組成における各成分の含有量(質量%)は、いずれも各層の全成分を100質量%として算出した。