(54)【発明の名称】マグネシウム系熱電変換材料の製造方法、マグネシウム系熱電変換素子の製造方法、マグネシウム系熱電変換材料、マグネシウム系熱電変換素子、熱電変換装置
【文献】
JEANNINE R. et al.,Mg2Si nanocomposite converted from diatomaceous earth as a potential thermoelectric nanomaterial,Journal of Solid State Chemistry,2008年,Vol.181,pp.1565-1570
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記焼結原料は、更にLi、Na、K、B、Al、Ga、In、N、P、As、Sb,Bi、Ag,Cu、Yのうち、少なくとも1種をドーパントとして含むことを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム系熱電変換材料の製造方法。
前記マグネシウム系熱電変換材料の格子定数から前記マグネシウム系化合物からなる原料粉末の格子定数を引いた格子定数差(マグネシウム系熱電変換材料の格子定数−マグネシウム系化合物からなる原料粉末の格子定数)が0.0005オングストローム(Å)以上とされていることを特徴とする請求項6から請求項8のいずれか一項に記載のマグネシウム系熱電変換材料。
前記マグネシウム系熱電変換素子は、前記マグネシウム系熱電変換材料の前記一方の面または前記他方の面を加熱することで、前記電極どうしの間に電位差を生じさせるゼーベック素子であることを特徴とする請求項10に記載のマグネシウム系熱電変換素子。
前記マグネシウム系熱電変換素子は、前記電極どうしの間に電圧を印加することによって、前記マグネシウム系熱電変換材料の前記一方の面または前記他方の面を冷却するペルティエ素子であることを特徴とする請求項10に記載のマグネシウム系熱電変換素子。
前記マグネシウム系熱電変換素子は、ドナーを含む前記マグネシウム系熱電変換材料を備えたn型熱電変換素子、またはアクセプタを含む前記マグネシウム系熱電変換材料を備えたp型熱電変換素子のいずれか一方からなり、
前記n型熱電変換素子どうし、または前記p型熱電変換素子どうしを直列に接続してなることを特徴とする請求項13に記載の熱電変換装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した特許文献1〜特許文献3に記載されたような、熱電発電素子に用いられる従来の熱電変換材料は、熱電変換効率が低く、また、機械的な強度が低いといった課題があった。このため、必要な電力を発生させるためには大面積の熱電発電素子が必要になる。また、自動車のエンジン排気ガスの排熱から発電を行うなど、車載装置として用いる場合、機械的な強度が低いために車両の走行振動などによって、熱電変換材料が損傷するおそれがある。
【0009】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、熱電変換効率が高く、また、機械的な強度に優れたマグネシウム系熱電変換材料の製造方法、マグネシウム系熱電変換材料、およびこれを用いたマグネシウム系熱電変換素子、熱電変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のマグネシウム系熱電変換材料の製造方法は、
MgxSiy、Mg2Si1−xGex、Mg2Si1−xSnxのいずれかであるマグネシウム系化合物に対してシリコン酸化物を0.5mol%以上、13.0mol%以下の範囲で添加し、焼結原料を形成する原料形成工程と、前記焼結原料を10MPa以上の加圧力で加圧しながら、750℃以上、950℃以下の温度範囲で加熱して焼結体を形成する焼結工程と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明のマグネシウム系熱電変換材料の製造方法によれば、マグネシウム系化合物に、シリコン酸化物を添加して焼結することにより、次のような現象が起こっていると推察される。
マグネシウム系化合物の分解により生じたMgがシリコン酸化物と酸化還元反応を起こすことによって、シリコン酸化物に侵入拡散し、SiMgOが形成される。なお、この時、マグネシウム系化合物が分解しているため、Mgがシリコン酸化物に侵入拡散した後にはSiが残る。また、シリコン酸化物にMgOが生成している場合もある。
一方、シリコン酸化物にMgが侵入拡散するため、侵入したMgの分だけSiが余剰となるため、シリコン酸化物の外方にSiが押し出されて外部に拡散する。これによって、SiMgOが含まれる変成物(添加したシリコン酸化物と同じサイズ形状)と、その周縁に形成された高濃度ケイ素域とからなる反応生成物の粒子が形成された熱電変換材料を製造することができる。
なお、前述の変成物はその大きさによっては、変成物中に添加したシリコン酸化物の一部が残留している場合や、MgOがSiMgOよりも多く存在している場合もある。
さらに、Mgと焼結前のマグネシウム系化合物粒子の表面の酸化層の酸素との反応によってマグネシウム系化合物の粒界にMgOが形成されている場合もある。
また、マグネシウム系化合物中のドーパントを含んだ高濃度ケイ素域は、マグネシウム系化合物の結晶粒界をまたいで存在するので結晶粒界の電気抵抗を低減し、マグネシウム系熱電変換材料の電気抵抗を低減している。
【0012】
なお、添加するシリコン酸化物は、アモルファスSiO
2、クリストバライト、クオーツ、トリディマイト、コーサイト、ステイショバイト、ザイフェルト石、衝撃石英等のSiOx(x=1〜2)を用いることができる。
こうした反応生成物を含む熱電変換材料は、熱電変換効率が高く、また、機械的な強度に優れている。
【0013】
ここで、シリコン酸化物の添加量が0.5mol%未満の場合、電気抵抗の低減効果が無く、機械的な強度が向上しない。添加量が13.0mol%を超え添加するシリコン酸化物が多くなると、シリコン酸化物に侵入拡散するMgが多くなり、変成物中のMgOが多くなるため、電気抵抗の低減効果が減少する。
また、加圧力が10MPa未満だと、焼結が不十分となり電気抵抗が高くなる。
さらに、加熱温度が750℃未満だと焼結が不十分となり電気抵抗が高くなり、950℃を超えると焼結体の一部が再溶融し割れが発生する。
【0015】
前記焼結原料は、更にLi、Na、K、B、Al、Ga、In、N、P、As、Sb,Bi、Ag,Cu、Yのうち、少なくとも1種をドーパントとして含むことを特徴とする。
これにより、熱電変換材料を特定の半導体型、即ちn型熱電変換材料やp型熱電変換材料にすることができる。
【0016】
前記焼結工程は、ホットプレス法、熱間等方圧プレス法、通電焼結法、放電プラズマ焼結法、熱間圧延法、熱間押出法、熱間鍛造法の何れかで行うことを特徴とする。
これらの焼結方法を用いることによって、マグネシウムシリサイド系化合物に対してシリコン酸化物を添加した粉末を加圧しながら加熱して、焼結体である熱電変換材料を容易に形成することができる。
【0017】
前記焼結工程は、5Pa以下の真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気中で行うことを特徴とする。
これにより、マグネシウムシリサイド系化合物に対してシリコン酸化物を添加した焼結体からなる熱電変換材料中の不純物の混入や、意図的に添加したシリコン酸化物由来以外の酸化による構造の変質を防止することができる。
【0018】
本発明のマグネシウムシリサイド系熱電変換素子の製造方法は、前記各項記載のマグネシウム系熱電変換材料の製造方法によって得られた前記焼結体の一方の面および対向する他方の面に、それぞれ電極を接合する電極形成工程を備えたことを特徴とする。
【0019】
本発明のマグネシウムシリサイド系熱電変換素子の製造方法によれば、マグネシウム系化合物の分解により生じたMgとシリコン酸化物とが酸化還元反応を起こすことによって、シリコン酸化物に侵入拡散し、SiMgOが形成される。また、シリコン酸化物にMgOが生成している場合もある。一方、シリコン酸化物にMgが侵入拡散するため、侵入したMgの分だけSiが余剰となるため、シリコン酸化物の外方にSiが押し出されて外部に拡散する。これによって、SiMgOが含まれる変成物(添加したシリコン酸化物と同じサイズ形状)と、その周縁に形成された高濃度ケイ素域とからなる反応生成物の粒子が形成された熱電変換材料を備えた熱電変換素子を製造することができる。
こうした反応生成物を含む熱電変換材料は、電気抵抗が低く、熱電変換効率が高く、また、機械的な強度に優れており、これを用いた熱電変換素子は、熱電変換特性および耐震動性に優れる。
【0020】
本発明のマグネシウム系熱電変換材料は、
MgxSiy、Mg2Si1−xGex、Mg2Si1−xSnxのいずれかであるマグネシウム系化合物の焼結体からなるマグネシウム系熱電変換材料であって、前記焼結体には反応生成物の粒子が存在しており、前記反応生成物の粒子は、変成物と
、前記変成物の周縁に形成され、前記変性物よりもケイ素濃度が高い高濃度ケイ素域から構成されており、前記変成物は、マグネシウムが30at%以上、50at%以下、ケイ素が0at%以上、20at%以下、酸素が40at%以上、55at%以下、の範囲で含まれ、かつ、前記反応生成物の粒子の個数密度が50個/mm
2以上、700個/mm
2以下の範囲であることを特徴とする。
変成物と、その周縁に形成された高濃度ケイ素域からなる反応生成物の粒子において、高濃度ケイ素域にはSb等がドープされ、n型高電導層を形成していると考えられる。このn型高電導層はマグネシウム系熱電変換材料の結晶粒界まで進行し、結晶粒界をまたいで存在するので結晶粒界の電気抵抗を低減していると考えられる。
【0021】
このような高濃度ケイ素域がマグネシウム系熱電変換材料中にネットワークを形成し、マグネシウム系熱電変換材料の結晶の電気抵抗を大幅に低減している一つの理由と考えられる。
よって、前記反応生成物の粒子の個数密度が50個/mm
2以下ではそれぞれの高濃度ケイ素域が孤立してネットワークを組むことができず、マグネシウム系熱電変換材料の結晶全体としての電気抵抗が下がらないおそれがある。
一方、700個/mm
2以上では熱伝導率が高いSiMgOやMgOが含まれる変成物を有する反応生成物の粒子が多くなるため、マグネシウム系熱電変換材料結晶全体の電気抵抗が高くなり、また、熱伝導率が高くなり、熱電変換材料の無次元性能指数を低下させるおそれがある。
【0022】
本発明のマグネシウムシリサイド系熱電変換材料によれば、SiMgOが含まれる変成物と、その周縁に形成された高濃度ケイ素域とからなる反応生成物の粒子が形成されているので、熱電変換効率が高く、また、機械的な強度に優れた熱電変換材料を実現することができる。
【0023】
前記反応生成物の粒子の平均粒径は、0.5μm以上、100μm以下であることを特徴とする。
これによって、熱電変換材料に含まれる反応生成物の粒子が均一に分散し、マグネシウム系熱電変換材料の熱電変換特性や強度特性のばらつきを少なくすることができる。
平均粒径が0.5μm未満の場合、1個のシリコン酸化物から拡散してくるSiの量が少なくなるために、高濃度ケイ素域が小さくなり、孤立して上述したネットワークを組むことができず、マグネシウム系熱電変換材料の電気抵抗が下がらないおそれがある。平均粒径が100μmを超えると、反応生成物の粒子が孤立してネットワークを組むことができず、マグネシウム系熱電変換材料の結晶全体としての電気抵抗が下がらないおそれがある。
【0024】
また、本発明のマグネシウム系熱電変換材料においては、
前記マグネシウム系化合物
の粒子の粒界に、
前記マグネシウム系化合物
の粒子内よりも高濃度のSiを有するSiリッチ相が形成されていることが好ましい。
この場合、
前記マグネシウム系化合物
の粒子の粒界に形成されたSiリッチ相が存在することにより、電気抵抗をさらに低下させることが可能となる。なお、このSiリッチ相にSb、Al等が微量に含まれる場合には、ドーパント効果によって一層電気抵抗が低下することになる。
【0025】
さらに、本発明のマグネシウム系熱電変換材料においては、前記マグネシウム系熱電変換材料の格子定数から前記マグネシウム系化合物からなる原料粉末の格子定数を引いた格子定数差(マグネシウム系熱電変換材料の格子定数−マグネシウム系化合物からなる原料粉末の格子定数)が0.0005オングストローム(Å)以上とされていることが好ましい。
この場合、格子定数の差が大きく結晶が歪んでいるので、自由電子が格子間を移動しやすくなり、電気抵抗をさらに低下させることが可能となる。
【0026】
本発明のマグネシウム系熱電変換素子は、上記各項記載のマグネシウム系熱電変換材料と、該マグネシウム系熱電変換材料の一方の面および対向する他方の面にそれぞれ接合された電極と、を備えたことを特徴とする。
【0027】
本発明のマグネシウム系熱電変換素子によれば、SiMgOが含まれる変成物と、その周縁に形成された高濃度ケイ素域とからなる反応生成物の粒子が形成されているので、熱電変換効率が高く、また、機械的な強度に優れたマグネシウム系熱電変換素子を実現することができる。
【0028】
前記マグネシウム系熱電変換素子は、前記マグネシウム系熱電変換材料の前記一方の面または前記他方の面を加熱することで、前記電極どうしの間に電位差を生じさせるゼーベック素子であることを特徴とする。
本発明のマグネシウム系熱電変換素子をゼーベック素子に適用することによって、少ない温度差でより効率的に発電が可能であり、かつ耐震動性に優れたゼーベック素子を実現することができる。
【0029】
前記マグネシウム系熱電変換素子は、前記電極どうしの間に電圧を印加することによって、前記マグネシウム系熱電変換材料の前記一方の面または前記他方の面を冷却するペルティエ素子であることを特徴とする。
本発明のマグネシウム系熱電変換素子をペルティエ素子に適用することによって、少ない電位差でより効率的に冷却が可能であり、かつ耐震動性に優れたペルティエ素子を実現することができる。
【0030】
本発明の熱電変換装置は、前記各項記載のマグネシウム系熱電変換素子を複数個配列し、前記電極を介して電気的に直列に接続してなることを特徴とする。
【0031】
本発明の熱電変換装置によれば、SiMgOが含まれる変成物と、その周縁に形成された高濃度ケイ素域とからなる反応生成物の粒子が形成されてなるマグネシウム系熱電変換材料を備えているので、熱電変換効率が高く、また、機械的な強度に優れた熱電変換装置を実現することができる。
【0032】
前記マグネシウム系熱電変換素子は、p型熱電変換素子と、ドナーを含む前記マグネシウム系熱電変換材料を備えたn型熱電変換素子と、を含み、前記n型熱電変換素子と、前記p型熱電変換素子とを交互に直列に接続してなることを特徴とする。
p型熱電変換素子とn型熱電変換素子と交互に配置して直列に接続することによって、熱電変換効率がより一層高められた熱電変換装置を実現することができる。
【0033】
前記マグネシウム系熱電変換素子は、ドナーを含む前記マグネシウム系熱電変換材料を備えたn型熱電変換素子、またはアクセプタを含む前記マグネシウム系熱電変換材料を備えたp型熱電変換素子のいずれか一方からなり、前記n型熱電変換素子どうし、または前記p型熱電変換素子どうしを直列に接続してなることを特徴とする。
同一の半導体型の熱電変換素子を複数配置して直列に接続して熱電変換装置を形成すれば、互いに異なる複数種類の半導体型の熱電変換素子を用いる必要が無く、より低コストな熱電変換装置を実現することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明のマグネシウム系熱電変換材料の製造方法、マグネシウム系熱電変換素子の製造方法、マグネシウム系熱電変換材料、マグネシウム系熱電変換素子、および熱電変換装置によれば、熱電変換効率が高く、また、機械的な強度に優れたマグネシウム系熱電変換材料やこれを用いたマグネシウム系熱電変換素子、および熱電変換装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照して、本発明のマグネシウム系熱電変換材料の製造方法、マグネシウム系熱電変換素子の製造方法、マグネシウム系熱電変換材料、マグネシウム系熱電変換素子、熱電変換装置について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0037】
(熱電変換材料、熱電変換素子)
図1は、本発明のマグネシウム系熱電変換材料を用いたマグネシウム系熱電変換素子を示す断面図である。
図1に示す熱電変換素子10は、熱電変換材料11の一方の面11aおよびこれに対向する他方の面11bに、電極12a、12bがそれぞれ形成され、電極12a、12bには、さらに電極13a,13bが形成されている。
【0038】
本実施形態では、熱電変換材料11は、マグネシウムシリサイド(Mg
2Si)に酸化ケイ素(SiO
2)およびドーパントとしてアンチモン(Sb)を添加して焼結して得られた熱電変換材料を切断し、所望の形状に加工してなる。本実施形態の、熱電変換材料11は、Mg
2SiにSiO
2を1.3mol%、およびアンチモンを0.5at%含むものからなるマグネシウム系焼結体を用いている。なお、本実施形態では、5価ドナーであるアンチモンの添加によって、キャリア密度の高いn型熱電変換材料となっている。
【0039】
なお、熱電変換材料11を構成するマグネシウム系化合物としては、Mg
2Si以外にも、Mg
2Si
XGe
1−X、Mg
2Si
XSn
1−xなど、Mg
2Siに他の元素を付加した化合物も同様に用いることができる。
また、マグネシウムシリサイド以外にも、マグネシウム−スズ、マグネシウム−ゲルマニウム等を用いることもできる。
【0040】
また、熱電変換材料11をn型熱電変換素子とするためのドナーとしては、アンチモン以外にも、ビスマス、アルミニウム、リン、ヒ素などを用いることができる。
また、熱電変換材料11をp型熱電変換素子にしてもよく、この場合、アクセプタとしてリチウムや銀などのドーパントを添加することによって得られる。
【0041】
本発明の熱電変換材料11は、マグネシウム系化合物とSiO
2とを焼結してなる。そして、
図2に示すように、焼結時に生成した反応生成物の粒子Gは、SiMgOが含有される変成物E1とその周縁に形成された高濃度ケイ素域E2とからなり、変成物E1は、マグネシウムが30at%以上、50at%以下、ケイ素が0at%以上、20at%以下、酸素が40at%以上、55at%以下の範囲で含まれている。
また、この反応生成物の粒子の個数密度は、50個/mm
2以上、700個/mm
2以下の範囲である。
【0042】
従来の焼結体の場合、Mg
2Siに対して添加した物質(添加物、粒子)は、マトリクスであるMg
2Siの粒子間(隙間)に入った状態で焼結し、その際、固相拡散によりMg
2Si中には添加物が若干は入るが、深く、かつ多量には侵入しない。一方、本発明の熱電変換材料11のように、Mg
2SiにSiO
2を添加して焼結した焼結体の場合、SiO
2とMg
2Siの分解により生じたMgとが、酸化還元反応を起こすことによって、SiO
2に侵入拡散し、SiMgOが形成される。また、SiO
2にMgOが生成している場合もある。なお、この時、Mg
2Siが分解しているため、MgがSiO
2に侵入拡散した後にはSiが残る。一方、SiO
2にMgが侵入拡散するため、侵入したMgの分だけSiが余剰となるため、SiO
2の外方にSiが押し出されて外部に拡散する。これによって、SiMgOが含まれる変成物E1(添加したシリコン酸化物と同じサイズ形状)と、その周縁に形成された高濃度ケイ素域E2とからなる反応生成物の粒子Gが形成されると考えられている。
なお、変成物はその大きさによっては、変成物内に添加したSiO
2の一部が残留している場合や、MgOがSiMgOよりも多く存在している場合もある。さらに、Mgと焼結前のMg
2Siの表面の酸化層の酸素との反応によってMg
2Siの粒界にMgOが形成されている場合もある。
【0043】
今般、このような現象を見出したことにより、通常の拡散範囲より広い範囲でMg
2Si粒子においてマグネシウムの一部がケイ素によって置換された領域が形成されていると考えられる。
さらに、広範囲の拡散によってMg
2Si粒子間の結晶粒界が形成された高濃度ケイ素領域でむすびつけられ、結晶粒界に起因する悪影響、例えば界面による電気抵抗の低減が実現できる。
【0044】
また、熱電変換素子11を構成する焼結体の焼結時に生成した反応生成物の粒子の平均粒径は、0.5μm以上、100μm以下である。本実施形態で用いた焼結体は、反応生成物の粒子の平均粒径が10〜20μmの範囲である。
【0045】
さらに、本発明の熱電変換材料11においては、
図2に示すように、マグネシウム系化合物粒子Mの粒界に、マグネシウム系化合物粒子M内よりも高濃度のSiを有するSiリッチ相Rが形成されている。このSiリッチ相Rには、極微量のSb及びAlを含有していることが好ましい。なお、Siリッチ相Rは、SiO
2又はマグネシウム系化合物が分解することによって形成されるものと推測される。
このように、マグネシウム系化合物粒子Mの粒界にSiリッチ相Rが形成されることにより、導電性が確保されることになる。特に、Siリッチ相Rに極微量のSb及びAlが含有されることにより、ドーパント効果によってさらに導電性が確保されることになる。
【0046】
また、本発明の熱電変換材料11においては、マグネシウム系熱電変換材料の格子定数からマグネシウム系化合物からなる原料粉末の格子定数を引いた格子定数差(マグネシウム系熱電変換材料の格子定数−マグネシウム系化合物からなる原料粉末の格子定数)が0.0005オングストローム(Å)以上とされている。すなわち、本発明の熱電変換材料11においては、マグネシウム系化合物にSiO
2を添加することで格子定数が変化し、結晶相に歪みが生じることになる。
このように、結晶相に歪みが生じることにより、自由電子が格子間を移動しやすくなり、電気抵抗をさらに低下させることが可能となる。
【0047】
さらに、本発明の熱電変換材料11においては、アモルファス相を除く結晶相におけるMg
2Si相の割合が75質量%以上とされている。すなわち、Mg
2SiにSiO
2を添加することで、MgO及びSiが生じることになるが、これらMgO及びSiの結晶相の割合が比較的少なく、Mg
2Si相が確保されているのである。
【0048】
図2は、熱電変換材料を電子線マイクロアナライザ(EPMA)によって観察した画像に基づく模式図である。この焼結体は、例えば、Mg
2SiにSiO
2を1.3mol%添加した焼結原料を真空雰囲気中で、保持圧力40MPa、昇温速度30℃/minで最高温度900℃まで昇温させ、この最高温度で30秒間保持して得られたものである。
【0049】
熱電変換材料11の成形前の元の形状は、四角板状、円板状、立方体状、直方体状、円柱状など、各種形状にすることができる。本実施形態の熱電素子は、円柱状に形成した焼結体インゴットの中心領域から取り出して直方体状の素子片を形成し、素子片を熱電変換材料11として使用した。
【0050】
電極12a、12bは、ニッケル、銀、コバルト、タングステン、モリブデン等が用いられる。実施形態では、電極12a,12bにニッケルを用いている。電極12a、12bは、通電焼結、メッキ、電着等によって形成することができる。
電極13a,13bは、導電性に優れた金属材料、例えば、銅やアルミニウムなどの板材から形成されている。本実施形態では、アルミニウムの圧延板を用いている。また、熱電変換材料11(電極12a、12b)と電極13a,13bとは、AgろうやAgメッキ等によって接合することができる。
【0051】
こうした構成の熱電変換素子10は、例えば、熱電変換材料11の一方の面11aと他方の面11bとの間に温度差を生じさせることによって、電極13aと電極13bとの間に電位差を生じさせるゼーベック素子として用いることができる。例えば、電極13a側を高温状態にし、電極13b側を低温状態(例えば室温)にすることによって、電極13aと電極13bとの間で電力を取り出すことができる。
【0052】
また、熱電変換素子10は、例えば、電極13a側と電極13bとの間に電圧を印加することによって、熱電変換材料11の一方の面11aと他方の面11bとの間に温度差を生じさせるペルティエ素子として用いることができる。例えば、電極13a側と電極13bとの間に電流を流すことによって、熱電変換材料11の一方の面11aまたは他方の面11bを冷却、または加熱することができる。
【0053】
以上の様な構成の熱電変換材料11およびこれを用いた熱電変換素子10によれば、熱電変換材料11として、マグネシウムシリサイド(Mg
2Si)に酸化ケイ素(SiO
2)を添加して焼結して、SiMgOが含まれ、濃度がマグネシウム:30〜50at%、ケイ素:0〜20at%、酸素:40〜55at%の範囲とされた変成物E1と、その周縁に形成された高濃度ケイ素域E2とからなる反応生成物の粒子Gが形成されているので、熱電変換効率が高められ、かつ機械的な強度に優れた熱電変換材料11や熱電変換素子10を実現できる。
【0054】
熱電変換材料11や熱電変換素子10の熱電変換効率を高めることによって、排熱などを高効率で電力に変換することができる。また、小型で冷却効率に優れた冷却器を実現できる。また、機械的な強度に優れた熱電変換材料11にすることで、例えば、車載用装置など、振動等が加わる環境においても、熱発電装置や冷却装置向けの熱電変換素子として用いることができる。
【0055】
(熱電変換装置:第一実施形態)
図3は、第一実施形態の熱電変換装置を示す断面図である。
熱電変換装置20は、ユニレグ型の熱電変換装置である。
熱電変換装置20は、一面上に配列された複数の熱電変換素子10,10…と、これら配列された熱電変換素子10,10…の一方の側および他方に側にそれぞれ配された伝熱板21A,21Bとから構成されている。
【0056】
熱電変換素子10,10…は、互いに同一の半導体型、即ち、アンチモンなどのドナーをドープしたn型熱電変換素子、または、リチウムや銀などのドーパントをドープしたp型熱電変換素子からなる。本実施形態では、熱電変換素子10,10…は、ドナーとしてアンチモンをドープしたn型熱電変換素子とした。
【0057】
それぞれの熱電変換素子10は、熱電変換材料11と、この熱電変換材料11の一方の面11aおよび他方の面11bにそれぞれ接する、ニッケルからなる電極12a,12bと、この電極12a,12bに重ねて形成された電極13a,13bとからなる。そして、隣接する熱電変換素子10,10どうしは、一方の熱電変換素子10の電極13aが、接続端子23を介して、他方の熱電変換素子10の電極13bと電気的に接続される。なお、実際には、互いに隣接する熱電変換素子10,10の電極13a、接続端子23、電極13bは、一体の電極板として形成されている。
【0058】
多数配列された熱電変換素子10,10…は、電気的に一繋がりとなるように直列に接続されている。なお、
図3では説明を明瞭にするために便宜的に熱電変換素子10,10…を一列分だけ図示しているが、実際には
図3の紙面奥行き方向にも多数の熱電変換素子10,10…が配列されている。
【0059】
伝熱板21A,21Bは、熱電変換材料11の一方の面11aまたは他方の面11bに熱を加えたり、熱電変換材料11の一方の面11aおよび他方の面11bに熱を吸収させたりする媒体である。伝熱板21A,21Bは、絶縁性で、かつ熱伝導性に優れた材料、例えば、炭化ケイ素、窒素ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなどの板材を用いることができる。
また、伝熱板21A,21Bとして導電性の金属材料を用い、伝熱板21A,21Bと電極12a,12bとの間に絶縁層などを形成することもできる。絶縁層としては、樹脂膜又は板、セラミックス薄膜又は板などが挙げられる。
【0060】
本発明の熱電変換装置20においても、それぞれの熱電変換素子10を構成する熱電変換材料11は、マグネシウムシリサイド(Mg
2Si)に酸化ケイ素(SiO
2)を添加して焼結して、SiMgOが含まれ、濃度がマグネシウム:30〜50at%、ケイ素:0〜20at%、酸素:40〜55at%の範囲とされた変成物E1と、その周縁に形成された高濃度ケイ素域E2とからなる反応生成物の粒子GがMg
2Siに分散されてなる焼結体を用いる。これにより、熱電変換装置20の熱電変換効率が高められる。
【0061】
このような構成のユニレグ型の熱電変換装置20は、例えば、伝熱板21Aまたは伝熱板21Bのいずれか一方に熱を加えることによって、直列に接続された熱電変換素子10,10…のうち両端にある熱電変換素子10の電極13a、電極13bの間で電力を取り出すゼーベック熱発電装置とすることができる。例えば、こうしたユニレグ型の熱電変換装置20を自動車のエンジン排気ガスの流路に設け、排気ガスの熱を一方の伝熱板21Aで吸収すれば、排気ガスの温度を低下させるとともに、排熱による電力を自動車の制御系電力あるいはセンサー用の電源として再利用することができる。
【0062】
また、ユニレグ型の熱電変換装置20は、例えば、直列に接続された熱電変換素子10,10…のうち両端にある熱電変換素子10の電極13a、電極13bの間に電圧を印加することによって、伝熱板21Aまたは伝熱板21Bのいずれか一方を冷却するペルティエ冷却装置とすることができる。例えば、こうしたユニレグ型の熱電変換装置20をCPUや半導体レーザーの放熱板に接合すれば、省スペースで効率的にCPUを冷却あるいは半導体レーザーの温度制御ができる。
【0063】
そして、ユニレグ型の熱電変換装置20は、全ての熱電変換素子10を構成する熱電変換材料11の半導体型が同一であるため、熱電変換装置20の製造コストが低く、製造が容易であり、熱膨張係数が同じであるため、熱応力による素子の割れや電極の剥がれ等の問題がない。
【0064】
(熱電変換装置:第二実施形態)
図4は、第二実施形態の熱電変換装置を示す断面図である。
熱電変換装置30は、π(パイ)型の熱電変換装置である。
熱電変換装置30は、一面上に交互に配列された熱電変換素子10A,10Bと、これら配列された熱電変換素子10A,10Bの一方の側および他方に側にそれぞれ配された伝熱板31A,31Bとから構成されている。
【0065】
熱電変換素子10Aは、アンチモンなどのドナーをドープした熱電変換材料11Aを有するn型熱電変換素子である。また、熱電変換素子10Bは、リチウムや銀などのドーパントをドープした熱電変換材料11Bを有するp型熱電変換素子である。あるいは、MnSi系のP型熱電素子で、例えばMnSi
1.73である。
【0066】
それぞれの熱電変換素子10A,10Bは、熱電変換材料11A,11Bと、この熱電変換材料11A,11Bの一方の面11aおよび他方の面11bにそれぞれ接する、ニッケルからなる電極12a,12bと、この電極12a,12bに重ねて形成された電極13a,13bとからなる。そして、隣接する熱電変換素子10A,10Bどうしは、一方の熱電変換素子10Aの電極13aが他方の熱電変換素子10Bの電極13aと電気的に接続され、さらにこの他方の熱電変換素子10Bの電極13bが逆隣の熱電変換素子10Aの電極13bに接続される。
【0067】
なお、実際には、互いに隣接する熱電変換素子10A,10Bの電極13aと電極13aどうしや、その隣の電極13bと電極13bどうしは、一体の電極板として形成されている。これら電極板は、例えば、銅板やアルミニウム板を用いることができる。
【0068】
このように配列された多数の熱電変換素子10A,10Bは、電気的に一繋がりとなるように直列に接続されている。即ち、π(パイ)型の熱電変換装置30は、n型熱電変換素子10Aと、p型熱電変換素子10Bとが交互に繰り返し直列に接続されてなる。
なお、
図4では説明を明瞭にするために便宜的に熱電変換素子10A,10Bを一列分だけ図示しているが、実際には
図4の紙面奥行き方向にも多数の熱電変換素子10A,10Bが配列されている。
【0069】
伝熱板31A,31Bは、熱電変換材料11A,11Bの一方の面11aまたは他方の面11bに熱を加えたり、熱電変換材料11A,11Bの一方の面11aおよび他方の面11bに熱を吸収させたりする媒体である。伝熱板31A,31Bは、絶縁性で、かつ熱伝導性に優れた材料、例えば、炭化ケイ素、窒素ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなどの板材を用いることができる。
また、伝熱板31A,31Bとして導電性の金属材料を用い、伝熱板31A,31Bと電極13a,13bとの間に絶縁層などを形成することもできる。絶縁層としては、樹脂膜又は板、セラミックス薄膜又は板などが挙げられる。
【0070】
本発明の熱電変換装置30においても、それぞれの熱電変換素子10A,10Bを構成する熱電変換材料11A,11Bは、マグネシウムシリサイド(Mg
2Si)に酸化ケイ素(SiO
2)を添加して焼結して、SiMgOが含まれ、濃度がマグネシウム:30〜50at%、ケイ素:0〜20at%、酸素:40〜55at%の範囲とされた変成物E1と、その周縁に形成された高濃度ケイ素域E2とからなる反応生成物の粒子GがMg
2Siに分散されてなる焼結体を用いる。これにより、熱電変換装置30の熱電変換効率が高められる。
【0071】
このような構成のπ(パイ)型の熱電変換装置30は、例えば、伝熱板31Aまたは伝熱板31Bのいずれか一方に熱を加えることによって、直列にかつ交互に接続された熱電変換素子10A,10Bのうち、両端にある熱電変換素子10A,10Bの電極13a、電極13bの間で電力を取り出すゼーベック熱発電装置とすることができる。例えば、こうしたπ(パイ)型の熱電変換装置30を自動車のエンジン排気ガスの流路に設け、排気ガスの熱を一方の伝熱板31Aで吸収すれば、排気ガスの温度を低下させるとともに、排熱による電力を自動車の制御系電力として再利用することができる。
【0072】
また、π(パイ)型の熱電変換装置30は、例えば、直列に接続された熱電変換素子10A,10Bのうち両端にある熱電変換素子10A,10Bの電極13a、電極13bの間に電圧を印加することによって、伝熱板31Aまたは伝熱板31Bのいずれか一方を冷却するペルティエ冷却装置とすることができる。例えば、こうしたπ(パイ)型の熱電変換装置30をCPUや半導体レーザーの放熱板に接合すれば、省スペースで効率的にCPUを冷却あるいは半導体レーザーの温度を制御することができる。
【0073】
(熱電変換材料の製造方法、熱電変換素子の製造方法)
本発明の熱電変換材料の製造方法および熱電変換素子の製造方法を説明する。
図5は、本発明の熱電変換材料の製造方法および熱電変換素子の製造方法を段階的に示したフローチャートである。
本発明の熱電変換材料の製造にあたっては、まず、熱電変換材料である焼結体の母材(マトリクス)となるマグネシウム系化合物を製造する(母材形成工程S1)。
【0074】
本実施形態では、マグネシウム系化合物としてマグネシウムシリサイド(Mg
2Si)としているので、例えば、マグネシウム粉末、シリコン粉末と、ドーパントをそれぞれ計量して混合する。例えば、n型の熱電変換材料を形成する場合には、アンチモン、ビスマス、など5価の材料やアルミニウムを、また、p型の熱電変換材料を形成する場合には、リチウムや銀などの材料を混合する。本実施形態では、n型の熱電変換材料を得るためにドーパントとしてアンチモンを用い、添加量は0.5at%とした。そして、この混合粉末を、例えばアルミナるつぼに導入し、800〜1150℃程度で加熱する。これにより、例えば塊状のMg
2Si固形物が得られる。なお、この加熱時に少量のマグネシウムが昇華するため、原料の計量時にMg:Si=2:1の化学量論組成に対して例えば5%ほどマグネシウムを多く入れることが好ましい。
【0075】
次に、得られた固形状のMg
2Siを、例えば、粒径10μm〜75μmとなるよう粉砕機によって粉砕し、微粉末状のMg
2Siを形成する(粉砕工程S2)。
【0076】
そして、得られたMg
2Siとシリコン酸化物を均一に混合する(原料形成工程S3)。シリコン酸化物は、アモルファスSiO
2、クリストバライト、クオーツ、トリディマイト、コーサイト、ステイショバイト、ザイフェルト石、衝撃石英等のSiOx(x=1〜2)を用いることができる。シリコン酸化物の混合量は0.5mol%以上13.0mol%以下の範囲内である。より好ましくは、0.7mol%以上7mol%以下とするとよい。シリコン酸化物は、粒径0.5μm〜100μmの粉末状とするとよい。本実施形態では、シリコン酸化物として中心粒径20μmのSiO
2粉末を用いている。
【0077】
なお、市販のMg
2Si粉末や、ドーパントが添加されたMg
2Si粉末を使用する場合、上述したMg
2Siの粉末を形成するまでの工程(母材形成工程S1および粉砕工程S2)を省略することもできる。
【0078】
このようにして得られた、Mg
2Si粉末、およびSiO
2粉末からなる原料粉末を加熱焼結する(焼結工程S4)。原料粉末の焼結には、例えば、通電焼結装置が用いられる。
【0079】
図6は、通電焼結装置の一例を示す断面図である。通電焼結装置100は、例えば、耐圧筐体101と、この耐圧筐体101の内部を減圧する真空ポンプ102と、耐圧筐体101内に配された中空円筒形のカーボンモールド103と、カーボンモールド103内に充填された原料粉末Qを加圧しつつ電流を印加する一対の電極105a,105bと、この一対の電極105a,105b間に電圧を印加する電源装置106とを備えている。また電極105a,105bと原料粉末Qとの間には、カーボン板107、カーボンシート108がそれぞれ配される。これ以外にも、図示せぬ温度計、変位計などを有している。
【0080】
このような構成の通電焼結装置100のカーボンモールド103内に、原料形成工程S3で得た原料粉末を充填する。カーボンモールド103は、例えば、内部がグラファイトシートやカーボンシートで覆われている。そして、電源装置106を用いて、一対の電極105a,105b間に直流電流を流して、原料粉末に電流を流すことによる自己発熱により昇温する。また、一対の電極105a,105bのうち、可動側の電極105aを原料粉末に向けて移動させ、固定側の電極105bとの間で原料粉末を所定の圧力で加圧する。これにより、試料に直接通電された電流による自己発熱と、加圧とともに焼結駆動力として利用し、原料粉末を通電焼結させる。
【0081】
焼結条件としては、加圧力10MPa以上70MPa以下、加熱時最高温度750℃以上950℃以下とされている。
また、最高温度における保持時間0秒以上10分以下、降温速度10℃/分以上50℃/分以下とするとよい。
さらに、昇温速度を10℃/分以上100℃/分以下とするとよい。昇温速度を10℃/分以上100℃/分以下とすることで、比較的短時間で焼結させることができるとともに、残留する酸素と後述する高濃度ケイ素域E2との反応を抑制し、高濃度ケイ素域E2が酸化することを抑制できる。また、耐圧筐体101内の雰囲気はアルゴン雰囲気などの不活性雰囲気や真空雰囲気とするとよい。真空雰囲気とする場合は、圧力5Pa以下とするとよい。
また、焼結後に得られた焼結物である熱電変換材料のサイズは直径30mm×厚み10mmの円筒形状である。
【0082】
ドーパントとしてアンチモン粉末を加えたMg
2Si粉末に、SiO
2粉末を添加して焼結することにより、SiO
2とMg
2Siの分解により生じたMgとが、酸化還元反応を起こすことによって、SiO
2に侵入拡散し、SiMgOが形成される。また、SiO
2の一部にMgOが生成している場合もある。一方、SiO
2にMgが侵入拡散するため、侵入したMgの分だけSiが余剰となるため、SiO
2の外方にSiが押し出されて外部に拡散する。これによって、SiMgOが含まれる変成物E1(添加したSiO
2と同じサイズ形状)と、その周縁に形成された高濃度ケイ素域E2とからなる反応生成物の粒子Gが形成された熱電変換材料を製造することができる。
なお、前述の変成物はその大きさによっては、変成物内に添加したSiO
2の一部が残留している場合や、MgOがSiMgOよりも多く存在している場合もある。さらに、Mgと焼結前のMg
2Siの表面の酸化層の酸素との反応によってMg
2Siの粒界にMgOが形成されている場合もある。
また、Mg
2Si中のドーパント(本実施形態ではアンチモン)を含んだ高濃度ケイ素域E2は、Mg
2Siの結晶粒界をまたいで存在するので結晶粒界の電気抵抗を低減し、マグネシウム系熱電変換材料の電気抵抗を低減している。
【0083】
なお、一般的に、Mg
2Si母材形成時(本実施形態でのS1)にMgの蒸発による化学量論組成からのずれを小さくするため、Mgを過剰に入れている。そのため、MgがMg
2Siの化学量論組成より多くなっている。この過剰なMgによって、熱電変換素子として使用中に素子外からの酸素の拡散によりMgOを形成される。このMgOが焼結後の結晶内に歪を生じることによって、素子の結晶が脆くなり脆化の原因となるが、本実施形態では、焼結体(熱電変換材料)形成時にSiO
2が過剰なMgを吸収するので、素子形成後に過剰なMgが残らない。そのため、本実施形態の熱電変換材料を用いた、熱電変換装置を使用する場合、使用中に酸化による熱電変換素子の劣化を防ぐことができる。
【0084】
次に、熱電変換材料を所定の素子サイズに切断し、一方の面及び他方の面にそれぞれ電極を接合すれば、本発明の熱電変換素子10(
図1参照)が得られる(電極形成工程S5)。
【0085】
なお、本実施形態では、原料粉末の焼結に通電焼結法を用いたが、これ以外にも、例えば、ホットプレス法、熱間等方圧プレス法、放電プラズマ焼結法、熱間圧延法、熱間押出法、熱間鍛造法など、各種の加圧加熱法を適用することができる。
【0086】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0087】
以下、本発明の実施例を示す。
実施例及び比較例として、純度99.9%のMg(粒径180μm:株式会社高純度化学研究所製)を10.5g、純度99.99%のSi(粒径300μm:株式会社高純度化学研究所製)を5.75g、純度99.9%のSb(粒径300μm:株式会社高純度化学研究所製)を0.374gそれぞれ計量した。これら粉末を乳鉢中で良く混ぜ、アルミナるつぼに入れて、850℃で2時間、Ar−5%H
2中で加熱した。Mgの昇華によるMg:Si=2:1の化学量論組成からのずれを考慮して、Mgを5%多く混合した。これにより、Mg
2Si固形物(母材)を得た。
【0088】
次に、このMg
2Si固形物(母材)を乳鉢中で細かく砕いて、この粉末を分級して75μm以下のサイズのSbドープMg
2Si粉末を作製した。このSbドープMg
2Si粉末に、表1記載のSiO
2(粒径20μm:株式会社龍森製)を混合して、乳鉢で良く混ぜ、各原料粉末を得た。
【0089】
これらの原料粉末をカーボンシートで内側を覆ったカーボンモールドに詰め、通電焼結装置にセットし、通電焼結によりマグネシウムシリサイド系熱電変換材料の焼結体を作製した。加圧力と最高温度は表1記載の通りとし、昇温速度30℃/min、保持時間60秒、雰囲気:真空中(1Pa)の条件で焼結した。得られた試料サイズは、それぞれ30mm(直径)×10mm(厚み)の円筒形である。
【0090】
以上のようにして得られた各試料について、反応生成物の粒子の変成物の組成、反応生成物の粒子の個数密度、ゼーべック係数、電気伝導率、パワーファクター、HV(ビッカース硬度)を測定した。また、原料粉(Mg
2Si)の格子定数(6.354800オングストローム)との格子定数の差を測定した。さらに、Mg
2Si相、MgO相、Si相の割合(質量%)を算出した。また、EPMAによる観察を行った。
【0091】
EPMA(日本電子製AXA−8800RL)による観察画像例を
図7(実施例2)に示す。
この観察画像には、反応生成物の粒子が観察されている。
図7に示したマグネシウム、酸素、およびケイ素の濃度分布画像によれば、略菱型の変成物の内部にケイ素と置換されたマグネシウムの存在が観察され、変成物の外周部に外方拡散されたケイ素の高濃度領域が観察されている。なお、反応生成物粒子の中心部には未反応のSiO
2が小さい球状に残っているのが分かる。
図8は本実施例2のSiマッピングの観察画像である。変成物E1の外周部に外方拡散された高濃度ケイ素域E2が観察されており、そのさらに外側にSi濃度の高い、Siリッチ相Rが確認されている。
【0092】
また、反応生成物の粒子の変成物の組成は、変成物をEPMAによる定量分析によって測定した。測定は3ヶ所を測定し、その平均値とした。
【0093】
反応生成物の粒子の個数密度は、EPMA(日本電子製AXA−8800RL)による観察画像(倍率:100倍)から、反応生成物の粒子の数を求め、測定面積で割ることによって求めた。測定は10ヶ所を測定し、その平均値とした。
【0094】
ゼーベック係数と電気伝導率はアドバンス理工製ZEM−3によって測定した。測定は、550℃で2回行い、その平均値を算出した。
550℃におけるパワーファクターは、以下の式(1)から求めた。
PF=S
2σ・・・(1)
但し、S:ゼーベック係数(V/K)、σ:電気伝導率(S/m))
HV(ビッカース硬度)は、ビッカース硬さ試験機HV-114(Mitutoyo社製)を用いて測定した。測定は5回行い、その平均値を算出した。
【0095】
格子定数とMg
2Si相、MgO相、Si相の割合(質量%)は、粉末X線回折法によって測定した。ブルカーエイエックス株式会社製D8ADVANCEを用いて、ターゲットをCu、管電圧を40kV、管電流を40mA、走査範囲を20度から140度、ステップ幅を0.01度として、測定を行った。
測定結果を、ブルカーエイエックス株式会社製TOPAS(Version5)の解析ソフトを用いてリートベルト法により、格子定数とMg
2Si相、MgO相、Si相の割合(質量%)を求めた。
【0096】
測定結果を表1、表2に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
表1、表2から、SiO
2の添加により、HV値が高くなっていることが確認された。また、SiO
2の添加により電気伝導率の上昇(電気抵抗の低下)が確認された。よって、Mg
2Si粉末にSiO
2を添加して焼結することによって、強度が向上し、振動環境下などでも損傷せず、電気抵抗の低い、熱電変換材料を形成することができ、また、熱電変換材料の製造時の歩留まり向上にも寄与することが確認された。
なお、最高温度を990℃とした比較例4は、焼結後に割れが生じ、評価できなかった。
【0100】
図9は実施例2と比較例5の各温度(300℃,400℃,500℃,550℃)におけるゼーベック係数をグラフにした図である。ゼーベック係数は、熱電変換材料の一方の面と他方の面との間の温度差と、生じる電位差との関係を示す係数であり、この数値の絶対値が大きいほど熱電変換特性が優れている。
図8から、ゼーベック係数に関しては、実施例2、比較例5ともに大きな差が無いことが分かった。このことは、SiO
2の添加によってゼーベック係数に大きな影響を与えないことを示している。
【0101】
図10は実施例2と比較例5の各温度のおける電気伝導率をグラフにした図である。
図9に示す結果によれば、温度が300℃,400℃,500℃,550℃のいずれにおいても、Mg
2Si粉末にSiO
2を添加した実施例2は、SiO
2を含まない比較例5に対して、電気伝導率が高いことが確認された。
【0102】
図11は実施例2と比較例5の各温度のおける熱伝導率をグラフにした図である。なお、熱伝導率は、熱拡散率×密度×比熱容量から求めた。熱拡散率は熱定数測定装置(真空理工製TC−7000型)、密度はアルキメデス法、比熱は示差走査熱量計(パーキンエルマー製DSC-7型)を用いてそれぞれ測定を行った。
図11に示す結果によれば、SiO
2を添加しなかった比較例5と、SiO
2を添加した実施例2とを比較すると、実施例2の試料の方が、熱伝導率が低下していることが分かる。
【0103】
以上の測定結果から、実施例2と比較例5の性能指数ZTの結果を
図12のグラフに示す。ここで、ZTは
ZT=(S
2σ/k)T
で表わされる。但し、k:熱伝導率、T:絶対温度とする。
図12に示す結果によれば、温度が300℃,400℃,500℃,550℃のいずれにおいても、SiO
2を添加した実施例2は、SiO
2を添加しなかった比較例5に対して、熱電変換材料の性能指数ZTが大幅に優れている。これにより、電気的な特性に優れた熱電変換特性を持つ熱電変換材料を形成できることが確認された。