特許第6798501号(P6798501)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6798501被覆ケイ酸塩蛍光体及びその製造方法並びに白色LED装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6798501
(24)【登録日】2020年11月24日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】被覆ケイ酸塩蛍光体及びその製造方法並びに白色LED装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/59 20060101AFI20201130BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20201130BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20201130BHJP
【FI】
   C09K11/59
   C09K11/08 G
   C09K11/08 A
   H01L33/50
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-548772(P2017-548772)
(86)(22)【出願日】2016年11月1日
(86)【国際出願番号】JP2016082443
(87)【国際公開番号】WO2017078015
(87)【国際公開日】20170511
【審査請求日】2019年9月2日
(31)【優先権主張番号】特願2015-218138(P2015-218138)
(32)【優先日】2015年11月6日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-174408(P2016-174408)
(32)【優先日】2016年9月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100195877
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻木 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 真樹
(72)【発明者】
【氏名】天谷 仁
(72)【発明者】
【氏名】治田 慎輔
【審査官】 林 建二
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/024389(WO,A1)
【文献】 特開2009−13412(JP,A)
【文献】 特開2003−336048(JP,A)
【文献】 特開2009−132902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00−11/89
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成が下記式1で示されるケイ酸塩蛍光体からなる粉末の表面が、水酸化マグネシウムからなる粉末で被覆されていることを特徴とする被覆ケイ酸塩蛍光体。
MgSi:Eu,Ln (式1)
(但し、MはSr,Ca,Baからなる群より選ばれる1種以上の金属元素、LnはEuを除く希土類金属元素、2.5≦a≦3.3、0.9≦b≦1.1、7.4≦c≦8.4、x>0、0≦y≦0.1である。)
【請求項2】
組成が下記式1で示されるケイ酸塩蛍光体からなる粉末の表面が、水酸化マグネシウムからなる粉末で被覆されている被覆ケイ酸塩蛍光体を有することを特徴とする白色LED装置。
MgSi:Eu,Ln (式1)
(但し、MはSr,Ca,Baからなる群より選ばれる1種以上の金属元素、LnはEuを除く希土類金属元素、2.5≦a≦3.3、0.9≦b≦1.1、7.4≦c≦8.4、x>0、0≦y≦0.1である。)
【請求項3】
組成が下記式1で示されるケイ酸塩蛍光体からなる粉末と、水酸化マグネシウムからなる粉末とを混合してケイ酸塩蛍光体からなる粉末の表面を水酸化マグネシウムからなる粉末で被覆する混合工程を含むことを特徴とする被覆ケイ酸塩蛍光体の製造方法。
MgSi:Eu,Ln (式1)
(但し、MはSr,Ca,Baからなる群より選ばれる1種以上の金属元素、LnはEuを除く希土類金属元素、2.5≦a≦3.3、0.9≦b≦1.1、7.4≦c≦8.4、x>0、0≦y≦0.1である。)
【請求項4】
請求項3に記載の被覆ケイ酸塩蛍光体の製造方法において、
前記混合工程の後に、前記混合工程で生成された前記ケイ酸塩蛍光体からなる粉末と前記水酸化マグネシウムからなる粉末との混合物を、酸素を含む雰囲気、150〜300℃で加熱処理する加熱工程をさらに含むことを特徴とする被覆ケイ酸塩蛍光体の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の被覆ケイ酸塩蛍光体の製造方法において、
前記混合工程は乾式の混合方法を用いて行われ、
前記混合工程と前記加熱工程とからなる処理工程を複数回繰り返すことを特徴とする被覆ケイ酸塩蛍光体の製造方法。
【請求項6】
請求項3乃至5のいずれか1項に記載の被覆ケイ酸塩蛍光体の製造方法において、
前記混合工程が乾式ロッキングミキサーを用いて行われることを特徴とする被覆ケイ酸塩蛍光体の製造方法。
【請求項7】
波長350〜430nmの光を発光する発光部と、組成が下記式1で示されるケイ酸塩蛍光体からなる粉末の表面が、水酸化マグネシウムからなる粉末で被覆されている被覆ケイ酸塩蛍光体とを有することを特徴とする発光装置。
MgSi:Eu,Ln (式1)
(但し、MはSr,Ca,Baからなる群より選ばれる1種以上の金属元素、LnはEuを除く希土類金属元素、2.5≦a≦3.3、0.9≦b≦1.1、7.4≦c≦8.4、x>0、0≦y≦0.1である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆ケイ酸塩蛍光体及びその製造方法並びに被覆ケイ酸塩蛍光体を有する白色LED装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在主流の白色LED装置は、青色LEDと、青色LEDの励起によって黄色を発光する蛍光体とを組み合わせ、青色と黄色との混色により白色光を得る二色混色タイプである。しかし、この白色LED装置は白色の演色性があまりよくない。
【0003】
そこで、白色の演色性がよい白色LED装置の開発が行われている。この白色LED装置は、近紫外光(波長350〜430nm)を発光するLED(UV−LED)と、UV−LEDの励起によってそれぞれ青色、緑色、赤色を発光する三種類の蛍光体とを組み合わせ、青色、緑色、赤色の混色により白色光を得る三色混色タイプである。
【0004】
ところで、蛍光体は、長時間励起されると劣化して発光効率が低下する。特に、三色混色タイプの青色の蛍光体は、UV−LEDの励起エネルギーが二色混色タイプの青色LEDよりも高いため、劣化しやすい。これを防ぐために蛍光体の表面が被覆材で被覆、保護された被覆蛍光体が用いられる。例えば、特許文献1(0015)には、以下のような蛍光体の被覆方法が記載されている。即ち、オルトケイ酸塩蛍光体(又は、ナイトライド−オルトケイ酸塩蛍光体)とエタノールと水との懸濁液にTEOSのエタノール溶液を混合、撹拌し、TEOSの加水分解によってオルトケイ酸塩蛍光体(又は、ナイトライド−オルトケイ酸塩蛍光体)の表面にSiOを析出させ、オルトケイ酸塩蛍光体(又は、ナイトライド−オルトケイ酸塩蛍光体)をSiOで被覆するというものである。このような表面改質によって、オルトケイ酸塩蛍光体(又は、ナイトライド−オルトケイ酸塩蛍光体)の化学的安定性は格段に改善される(0016)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2013−507498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1(0019)には、蛍光体としてオルトケイ酸塩MSiO:Eu(式中、M=Ba、Sr、Ca、Mgであり、単独またはこれらの混合である)等が記載されている。さらに、被覆材として無機水酸化物や無機酸化物がいくつか列記され(0008)、特に有利な被覆材としてSiOが実施例に用いられている(0015〜0016)。しかし、特に有利な被覆材とされるSiOは、青色の蛍光体の劣化を防ぐ効果が十分とはいえなかった。また、他の被覆材の効果は検証されていない。
【0007】
本発明の幾つかの態様は、UV−LEDの長時間の励起による劣化を防ぐことができる被覆ケイ酸塩蛍光体及びその製造方法を提供することを目的とする。本発明の他の態様は、発光強度及び演色性のよさを長時間維持することができる被覆ケイ酸塩蛍光体を有する白色LED装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の第1の態様は、組成が下記式1で示されるケイ酸塩蛍光体からなる粉末の表面が、水酸化マグネシウムからなる粉末で被覆されていることを特徴とする被覆ケイ酸塩蛍光体に関する。
MgSi:Eu,Ln (式1)
(但し、MはSr,Ca,Baからなる群より選ばれる1種以上の金属元素、LnはEuを除く希土類金属元素、2.5≦a≦3.3、0.9≦b≦1.1、7.4≦c≦8.4、x>0、0≦y≦0.1である。)
【0009】
ケイ酸塩蛍光体からなる粉末の表面が、水酸化マグネシウムからなる粉末で被覆されている被覆ケイ酸塩蛍光体は、長時間励起されても劣化しにくい。これは、水酸化マグネシウムからなる粉末は凝集力が強いため、ケイ酸塩蛍光体からなる粉末の表面に付着し、ケイ酸塩蛍光体が被覆、保護されるためと考えられる。また、水酸化マグネシウムからなる粉末は凝集力が強いため、被覆材を液相から析出させる工程を用いなくても、ケイ酸塩蛍光体からなる粉末と、水酸化マグネシウムからなる粉末とを混合することにより被覆ケイ酸塩蛍光体を製造することができる。そうすると、液相に溶解している不純物金属が被覆材に析出、混入しないため、被覆ケイ酸塩蛍光体は長時間励起されても劣化されにくいと考えられる。
【0010】
(2)本発明の第2の態様は、第1の態様の被覆ケイ酸塩蛍光体を有することを特徴とする白色LED装置に関する。第1の態様の被覆ケイ酸塩蛍光体は長時間励起されても劣化されにくいため、白色LED装置は発光強度及び演色性のよさを長時間維持することができる。
【0011】
(3)本発明の第3の態様は、組成が下記式1で示されるケイ酸塩蛍光体からなる粉末と、水酸化マグネシウムからなる粉末とを混合する混合工程を含むことを特徴とする被覆ケイ酸塩蛍光体の製造方法に関する。
MgSi:Eu,Ln(式1)
(但し、MはSr,Ca,Baからなる群より選ばれる1種以上の金属元素、LnはEuを除く希土類金属元素、2.5≦a≦3.3、0.9≦b≦1.1、7.4≦c≦8.4、x>0、0≦y≦0.1である。)
【0012】
UV−LEDで長時間励起されても劣化されにくい被覆ケイ酸塩蛍光体を製造することができる。これは、ケイ酸塩蛍光体からなる粉末と水酸化マグネシウムからなる粉末とを混合すると、水酸化マグネシウムからなる粉末は凝集力が強いため、ケイ酸塩蛍光体からなる粉末の表面に付着し、ケイ酸塩蛍光体が被覆、保護されるためと考えられる。また、被覆材を液相から析出させる工程を用いないため、液相に溶解している不純物金属が被覆材に析出、混入しないためと考えられる。さらに、被覆材を液相から析出させる工程を用いないため、工程や設備を簡単にすることができる。
【0013】
(4)本発明の第3の態様では、前記混合工程の後に、前記混合工程で生成された前記ケイ酸塩蛍光体からなる粉末と前記水酸化マグネシウムからなる粉末との混合物を、酸素を含む雰囲気で加熱処理する加熱工程をさらに含むことが好ましい。前記混合工程の後に、前記混合工程で生成された前記ケイ酸塩蛍光体からなる粉末と前記水酸化マグネシウムからなる粉末との混合物を、酸素を含む雰囲気で加熱処理することによって、水酸化マグネシウムからなる粉末がより強くケイ酸塩蛍光体の表面に付着し、ケイ酸塩蛍光体の劣化をさらに防ぐことができるからである。
【0014】
(5)本発明の第3の態様では、前記混合工程が乾式の混合方法を用いて行われ、前記混合工程と前記加熱工程とからなる処理工程を複数回繰り返すことが好ましい。混合工程と加熱工程とからなる処理工程を複数回繰り返すことによって、ケイ酸塩蛍光体の劣化をさらに防ぐことができるからである。これは、処理回数を増やすとケイ酸塩蛍光体の表面に付着する被覆材が増え、被覆材の層が厚く、かつ、緻密化すると同時に、水酸化マグネシウムからなる粉末がより強くケイ酸塩蛍光体の表面に付着するためと考えられる。
【0015】
(6)本発明の第3の態様では、前記混合工程が乾式ロッキングミキサーを用いて行われることが好ましい。乾式ロッキングミキサーはビーズミルのような媒体を用いないため不純物金属が混入するおそれが少なく、不純物金属によるケイ酸塩蛍光体の劣化を防ぐことができるからである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】三色混色タイプの白色LED装置の構造を概略的に示す。
図2】実施例、参考例及び比較例の実施条件並びにそれらの評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0018】
(1)三色混色タイプの白色LED装置
図1は三色混色タイプの白色LED装置11の構造を概略的に示す。白色LED装置11は、近紫外光(波長350〜430nm)を発光するUV−LED12を備える。UV−LED12は、くぼみを有するLEDパッケージ基板13のくぼみの底面に配置される。LEDパッケージ基板13のくぼみには透明樹脂14が充てんされる。透明樹脂14には粉末状の蛍光体15が分散され、固定される。蛍光体15はUV−LEDの励起によってそれぞれ青色、緑色、赤色を発光する三種類の蛍光体16、17、18からなる。三種類の蛍光体16、17、18から発光される青色、緑色、赤色を混色することにより演色性のよい白色光が得られる。
【0019】
(2)被覆ケイ酸塩蛍光体
UV−LEDの励起によって青色を発光する蛍光体16には、組成が下記式1で示されるケイ酸塩蛍光体からなる粉末を用いることができる。
MgSi:Eu,Ln (式1)
ここで、Mは、Sr,Ca,Baからなる群より選ばれる1種以上の金属元素であり、SrとCaを含むことが好ましい。MがSrとCaを含む場合において、SrとCaのモル比は、1:0.03〜1:0.15がより好ましく、1:0.05〜1:0.09がさらに好ましい。Lnは、Euを除く希土類金属元素であり、Yであることが好ましい。aは、蛍光体中に含まれるSi2モルに対するMの含有量(モル)を表し、2.5≦a≦3.3であり、2.6≦a≦2.9がより好ましい。bは、蛍光体中に含まれるSi2モルに対するMgの含有量(モル)を表し、0.9≦b≦1.1であり、0.95≦b≦1.05がより好ましく、b=1.0がさらに好ましい。cは、蛍光体中に含まれるSi2モルに対するOの含有量(モル)を表し、7.4≦c≦8.4であり、7.8≦c≦8.2がより好ましい。xは、蛍光体中に含まれるSi2モルに対するEuの含有量(モル)を表し、x>0であり、0.03≦x≦0.07がより好ましい。yは、蛍光体中に含まれるSi2モルに対するLnの含有量(モル)を表し、0≦y≦0.1であり、Eu以外の希土類金属元素を含んでもよい。
【0020】
ケイ酸塩蛍光体からなる粉末の平均粒径は、ケイ酸塩蛍光体からなる粉末が透明樹脂14内に適度に分散され、かつ、十分な発光強度が得られれば特に制限はないが、5〜50μmが好ましく、15〜45μmがより好ましく、20〜40μmがさらに好ましい。
【0021】
ケイ酸塩蛍光体からなる粉末は、例えば、ストロンチウム化合物からなる粉末、カルシウム化合物からなる粉末、ケイ素化合物からなる粉末、水酸化マグネシウムからなる粉末及びユーロピウム化合物含む希土類金属化合物からなる粉末を混合し、得られた混合物粉末を焼成することによって製造することができる。
【0022】
本実施形態では、長時間の励起による劣化を防ぐため、青色を発光する蛍光体16(ケイ酸塩蛍光体)として、ケイ酸塩蛍光体からなる粉末の表面が、水酸化マグネシウムからなる粉末(被覆材)で被覆、保護された被覆ケイ酸塩蛍光体を用いた。水酸化マグネシウムからなる粉末は凝集力が強いため、ケイ酸塩蛍光体からなる粉末の表面に付着し、ケイ酸塩蛍光体が保護されると考えられるからである。
【0023】
水酸化マグネシウムからなる粉末のBET比表面積は、凝集力によってケイ酸塩蛍光体からなる粉末の表面に付着し、表面を被覆、保護することができれば特に制限はないが、BET比表面積5〜50m/g(BET換算粒子径51〜509nm)が好ましく、BET比表面積20〜40m/g(BET換算粒子径64〜127nm)がより好ましく、BET比表面積30〜35m/g(BET換算粒子径73〜85nm)がさらに好ましい。
【0024】
ここで、被覆の態様としては、ケイ酸塩蛍光体からなる一又は二以上の粒子(粉末)の少なくとも一部の表面が、水酸化マグネシウムからなる一又は二以上の粒子(粉末)で被覆されていればよい。つまり、ケイ酸塩蛍光体からなる一つの粒子(一次粒子)の少なくとも一部の表面が、水酸化マグネシウムからなる一又は二以上の粒子(粉末)で被覆されていてもよいし、ケイ酸塩蛍光体からなる二以上の粒子の凝集体(二次粒子)の少なくとも一部の表面が、水酸化マグネシウムからなる一又は二以上の粒子(粉末)で被覆されていてもよい。
【0025】
(3)被覆ケイ酸塩蛍光体の製造
本実施形態の被覆ケイ酸塩蛍光体の製造方法は、組成が下記式1で示されるケイ酸塩蛍光体からなる粉末と、水酸化マグネシウムからなる粉末(被覆材)とを混合する工程(混合工程)を含む。
MgSi:Eu,Ln (式1)
(但し、MはSr,Ca,Baからなる群より選ばれる1種以上の金属元素、LnはEuを除く希土類金属元素、2.5≦a≦3.3、0.9≦b≦1.1、7.4≦c≦8.4、x>0、0≦y≦0.1である。)
【0026】
混合時の粉末同士の衝突によって、水酸化マグネシウムからなる粉末とケイ酸塩蛍光体からなる粉末の少なくとも一部が解砕され、それぞれ一つの粒子(一次粒子)又は二以上の粒子の凝集体(二次粒子)を形成する。さらに混合すると、水酸化マグネシウムからなる粉末は凝集力が強いため、ケイ酸塩蛍光体からなる一つの粒子(一次粒子)の少なくとも一部の表面、又は、ケイ酸塩蛍光体からなる二以上の粒子の凝集体(二次粒子)の少なくとも一部の表面に、水酸化マグネシウムからなる一又は二以上の粒子(粉末)が付着し、水酸化マグネシウムからなる粉末で被覆、保護された被覆ケイ酸塩蛍光体が形成される。
【0027】
粉末の混合は、公知の混合方法を用いることができる。例えば、乾式袋混合、乾式ビーズミル、乾式ロッキングミキサーといった乾式の混合方法、又は、湿式混合、湿式ビーズミルといった湿式の混合方法が挙げられる。これらのうち、例えば、乾式袋混合では、ケイ酸塩蛍光体からなる粉末と水酸化マグネシウムからなる粉末(被覆材)とを袋に入れ、袋を揺動して撹拌混合することにより被覆ケイ酸塩蛍光体を得る。また、湿式混合では、分散媒として、例えば、メタノールと、ケイ酸塩蛍光体からなる粉末と、水酸化マグネシウムからなる粉末(被覆材)とを容器に入れ、容器を回転して撹拌混合した後、分散媒を除去することにより被覆ケイ酸塩蛍光体を得る。湿式ビーズミルでは、湿式混合の容器にビーズミルをさらに入れ、撹拌混合を行う。湿式混合における分散媒の除去は、遠心分離や減圧乾燥等、公知の除去方法を用いることができる。
【0028】
ケイ酸塩蛍光体からなる粉末と水酸化マグネシウムからなる粉末(被覆材)との混合割合は、ケイ酸塩蛍光体からなる粉末の表面を被覆材で被覆することができれば特に制限はないが、両者の合計質量に対する被覆材の含有割合は0.5〜20質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましく、3〜6質量%がさらに好ましい。
【0029】
本実施形態の被覆ケイ酸塩蛍光体の製造方法は、混合工程の後に、混合工程で生成されたケイ酸塩蛍光体からなる粉末と水酸化マグネシウムからなる粉末との混合物(少なくとも一つの粒子の少なくとも一部の表面が水酸化マグネシウムからなる粉末(被覆材)で被覆された被覆ケイ酸塩蛍光体)を、酸素を含む雰囲気で加熱処理する工程(加熱工程)をさらに含んでもよい。ケイ酸塩蛍光体からなる粉末と水酸化マグネシウムからなる粉末との混合物(被覆ケイ酸塩蛍光体)を、酸素を含む雰囲気で加熱処理することによって、水酸化マグネシウムからなる粉末がより強くケイ酸塩蛍光体の表面に付着し、ケイ酸塩蛍光体の劣化をさらに防ぐことができるからである。
【0030】
加熱工程の酸素を含む雰囲気、加熱温度及び加熱時間は、ケイ酸塩蛍光体を劣化させることなく被覆材の付着力を増すことができれば特に制限はない。加熱工程の酸素を含む雰囲気は大気が好ましい。加熱工程の加熱温度は150〜400℃が好ましく、180〜300℃がより好ましく、190〜250℃がさらに好ましい。加熱工程の加熱時間は10時間以下が好ましく、5時間以下がより好ましく、3時間以下がさらに好ましい。
【0031】
本実施形態の被覆ケイ酸塩蛍光体の製造方法では、混合工程が乾式の混合方法を用いて行われ、混合工程と加熱工程とからなる処理工程を複数回繰り返し実施することがさらに好ましい。混合工程が乾式の混合方法を用いて行われる場合、混合工程と加熱工程とからなる処理工程を複数回繰り返すことによって、ケイ酸塩蛍光体の劣化をさらに防ぐことができるからである。これは、処理回数を増やすとケイ酸塩蛍光体の表面に付着する被覆材が増え、被覆材の層が厚く、かつ、緻密化するためと考えられる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例、参考例及び比較例を詳細に説明する。
【0033】
(1)実施例1〜4
組成が下記式2で示されるケイ酸塩蛍光体からなる粉末と、水酸化マグネシウムからなる粉末(被覆材)とを混合して(混合工程)、ケイ酸塩蛍光体からなる粉末の表面を水酸化マグネシウムからなる粉末で被覆した後、酸素を含む雰囲気で加熱処理して(加熱工程)被覆ケイ酸塩蛍光体を製造した。
Sr2.72Ca0.21MgSi:Eu0.0650.005 (式2)
【0034】
ケイ酸塩蛍光体からなる粉末の平均粒径及び水酸化マグネシウムからなる粉末のBET比表面積は、それぞれ10〜20μm及び32.4m/g(BET換算粒子径:78.4nm)とした。
【0035】
実施例1及び2の混合方法は乾式袋混合とし、実施例3及び4の混合方法は分散媒にメタノールを用いた湿式混合とした。乾式袋混合では、ケイ酸塩蛍光体からなる粉末と被覆材とをポリエチレン製の140mm×100mmのチャック袋に入れて密閉した後、10分間手で袋を振って混合することにより被覆ケイ酸塩蛍光体を得た(実施例1及び2)。湿式混合では、メタノールと、ケイ酸塩蛍光体からなる粉末と、水酸化マグネシウムからなる粉末(被覆材)とを容器に入れ、容器を回転して撹拌混合しながら減圧乾燥を行って分散媒を除去した後、加熱処理を行った(実施例3及び4)。ケイ酸塩蛍光体からなる粉末と水酸化マグネシウムからなる粉末(被覆材)との混合割合は、両者の合計質量に対する水酸化マグネシウムからなる粉末の含有割合を4.54質量%とした。
【0036】
加熱工程の酸素を含む雰囲気、加熱温度及び加熱時間は、それぞれ大気、200℃及び2時間とした。
【0037】
実施例1及び3は、混合工程と加熱工程とからなる処理工程を1回実施し(処理回数:1)、実施例2及び4は、処理工程を2回実施した(処理回数:2)。
【0038】
(2)参考例1〜3
参考例1〜3は、被覆材として、それぞれYの粉末(BET比表面積44.8m/g、BET換算粒子径26.8nm)、Alの粉末(BET比表面積149.7m/g、BET換算粒子径10.1nm)及びZnOの粉末(BET比表面積7.3m/gBET、換算粒子径147.0nm)を用いた。参考例1〜3のケイ酸塩蛍光体からなる粉末は、実施例1〜4と同じものを用いた。また、ケイ酸塩蛍光体からなる粉末と被覆材の合計質量に対する被覆材の含有割合、加熱工程の雰囲気、加熱温度及び加熱時間は、それぞれ実施例1〜4と同じにした。さらに、参考例1〜3の混合方法及び処理工程の回数は、それぞれ分散媒としてメタノールを用いた湿式混合及び処理回数:2とした。参考例1〜3では、撹拌混合後、減圧乾燥によって分散媒を除去してから加熱処理を行った。
【0039】
(3)比較例1〜4
比較例1〜3は、被覆材として、SiOの粉末(BET比表面積200.0m/g、BET換算粒子径13.6nm)を用いた。比較例1〜3のケイ酸塩蛍光体からなる粉末と被覆材の合計質量に対する被覆材の含有割合、加熱工程の雰囲気、加熱温度及び加熱時間は、それぞれ実施例1〜4と同じにした。また、比較例4は、被覆材を用いず、被覆材で被覆されていないケイ酸塩蛍光体からなる粉末を用い、加熱処理を行わなかった。比較例1〜4のケイ酸塩蛍光体からなる粉末は、実施例1〜4と同じものを用いた。
【0040】
比較例1、2の混合方法は、分散媒にメタノールを用いた湿式混合とし、比較例3の混合方法は、乾式袋混合とした。また、比較例1の処理工程の回数は、処理回数:1とし、比較例2及び3の処理工程の回数は、処理回数:2とした。比較例1及び2では、撹拌混合後、減圧乾燥によって分散媒を除去してから加熱処理を行った。
【0041】
(4)評価方法
得られた被覆ケイ酸塩蛍光体及び被覆されていないケイ酸塩蛍光体に対して、ピーク波長405nm、出力1.6W、スポット径3mmの半導体レーザを9時間照射した。照射開始時と9時間照射後に蛍光スペクトルを室温で測定した。すべての試料の蛍光スペクトルは波長460〜470nmの間にピークを有した。ピークの蛍光強度から、照射開始時の蛍光強度に対する照射後の蛍光強度の比(維持率)(%)を求めた。
【0042】
(5)評価結果
図2は、実施例、参考例及び比較例の実施条件並びにそれらの評価結果を示す。
【0043】
被覆材としてSiOを用いた比較例1〜3(処理回数:1〜2)の維持率は84.2〜85.4%、被覆材で被覆されていない比較例4の維持率は89.9%である。また、被覆材としてY、Al及びZnOをそれぞれ用いた参考例1〜3(処理回数:2)の維持率は87.3〜89.8%であり、被覆材としてSiOを用いた比較例1〜3よりも高い維持率を示した。これに対して、被覆材としてMg(OH)を用いた実施例1〜4(処理回数:1〜2)の維持率は93.0〜97.0%である。Mg(OH)は、比較例のSiOや被覆なし、さらには、参考例のY、Al及びZnOよりも、被覆材として、蛍光体の劣化をよく防いでいることがわかる。
【0044】
混合方法に乾式袋混合を用いた場合、処理回数:1の実施例1の維持率は93.0%、処理回数:2の実施例2の維持率は97.0%であり、処理回数を2回にすると維持率が大きく向上している。乾式の混合方法を用いた場合、処理回数を増やすとケイ酸塩蛍光体の表面に付着する被覆材が増え、被覆材の層は厚く、かつ、緻密化し、蛍光体の劣化をより防いだと考えられる。
【0045】
混合方法に湿式混合を用いた場合、処理回数:1の実施例3の維持率は93.8%、処理回数:2の実施例4の維持率は93.7%であり、ほとんど変化がない。湿式の混合方法を用いた場合、処理回数を増やしても被覆の状態はほとんど変わっていないと考えられる。
【0046】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれる。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語とともに記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えられることができる。また、被覆ケイ酸塩蛍光体及び三色混色タイプの白色LED装置等の構成及び動作も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0047】
11 三色混色タイプの白色LED装置、12 UV−LED、13 LEDパッケージ基板、14 透明樹脂、15 蛍光体、16 青色を発光する蛍光体、17 緑色を発光する蛍光体、18 赤色を発光する蛍光体
図1
図2