(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
<封止材シート>
本発明の封止材シート(以下、単に「封止材シート」とも言う)は、下記にその詳細を説明する通り、ポリエチレン系樹脂をベース樹脂とし、いずれも下記に詳細を説明する特定の化学構造を有するヒンダードアミン系耐光安定剤である「高分子量タイプのヒンダードアミン系耐光安定剤」と同様の化学構造を有する「低分子量タイプのヒンダードアミン系耐光安定剤」の組合せである2種のヒンダードアミン系耐光安定剤と、架橋剤と、を少なくとも含有する封止材組成物を、従来公知の方法で成型加工してフィルム状又はシート状としたものである。尚、本明細書において「ベース樹脂」とは、当該ベース樹脂を含有してなる樹脂組成物において、当該樹脂組成物の樹脂成分中で含有量比の最も大きい樹脂及び当該樹脂と混合されて用いられている同種の樹脂のことを言うものとする。ベース樹脂として好ましく用いることができるポリエチレン系樹脂や各種の添加物の詳細については、封止材シートの製造に用いる封止材組成物の説明として後述する。
【0020】
尚、本明細書においては、ヒンダードアミン系耐光安定剤(HALS)のうち、分子量が1000以上であるものを「高分子量タイプのヒンダードアミン系耐光安定剤」と定義し、分子量が1000未満であるものを、「低分子量タイプのヒンダードアミン系耐光安定剤」と定義する。
【0021】
又、封止材シートは、成形温度を90℃から120℃の低温域に限定し、未架橋のまま成形したものであることが好ましい。そして、成形後に架橋処理を別途行うか、或いは、後述の太陽電池モジュールの製造時点で高温加熱して架橋処理を行う。
【0022】
尚、この封止材シートは、製膜後、モジュール化前の段階においては、ゲル分率が0%以上10%以下であり、より好ましくは0%、即ち未架橋であることが好ましい。又、この未架橋の封止材シートは、所定量の架橋剤を含有し、太陽電池モジュールとしての一体化後までの間におけるいずれかのプロセスにおいて架橋が進行し、最終製品である太陽電池モジュールの完成品段階においては、ゲル分率が50%以上90%以下の架橋済の封止材シートとなる。
【0023】
架橋剤、架橋助剤、及びその他の添加物の組成や添加量を好ましい範囲に調整することにより、ゲル分率が上記範囲となるように適度に架橋反応を制御することできる。それにより、良好な水蒸気バリアを有しつつ、且つ、低温領域での柔軟性を有し、高温での耐熱性も得ることができ、ポリエチレン系樹脂をベース樹脂とするものでありながら低温領域での成形性にも優れる封止材シートとすることができる。
【0024】
ここで、本明細書における「ゲル分率(%)」とは、封止材シート1.0gを樹脂メッシュに入れ、110℃キシレンにて12時間抽出したのち、樹脂メッシュごと取出し乾燥処理後秤量し、抽出前後の質量比較を行い残留不溶分の質量%を測定しこれをゲル分率としたものである。尚、ゲル分率0%とは、上記残留不溶分が実質的に0であり、封止材組成物或いは封止材シートの架橋反応が実質的に開始していない状態であることを言う。より具体的には、「ゲル分率0%」とは、上記残留不溶分が全く存在しない場合、及び、精密天秤によって測定した上記残留不溶分の質量%が0.05質量%未満である場合を言うものとする。尚、上記残留不溶分には、樹脂成分以外の顔料成分等は含まないものとする。これらの樹脂成分以外の混在物が、上記試験により残留不溶分に混在している場合には、例えば、予めこれらの混在物の樹脂成分中における含有量を別途測定しておくことで、これらの混在物を除く樹脂成分由来の残留不溶分について本来得られるべきゲル分率を算出することができる。
【0025】
本発明の封止材シートは、単層フィルムであってもよいが、コア層と、コア層の両面に配置されるスキン層によって構成される多層フィルムであってもよい。尚、本明細書における多層フィルムとは、少なくともいずれかの最外層、好ましくは両最外層に成形されるスキン層と、スキン層以外の層であるコア層とを有する構造からなるフィルム又はシートのことを言う。
【0026】
封止材シートを多層フィルムとする場合、高分子量タイプのヒンダードアミン系耐光安定剤及び低分子量タイプのヒンダードアミン系耐光安定剤の樹脂成分中の含有量は、それぞれ、封止材シート全層の樹脂成分中における平均含有量比として、0.02質量%以上0.20質量%以下の範囲にあればよい。又、これらのヒンダードアミン系耐光安定剤は、当該多層フィルムの全層に全て同一の含有量比で均等に含まれていることは必須ではない。但し、いずれの層にも、少なくとも0.01質量%以上のヒンダードアミン系耐光安定剤が含まれる程度には、ヒンダードアミン系耐光安定剤が当該多層フィルムの全層に分散していることが好ましい。
【0027】
又、封止材シートを多層フィルムとする場合、MFRがより高い層をスキン層として最外層側に配置することが好ましい。本発明の封止材シートは、単層の封止材シートである場合においても、十分に好ましい透明性と耐熱性、及び適度の柔軟性を備えるものではあるが、このように相対的にMFRの高い層を最外層に配置することにより、封止材シートとして上記の好ましい透明性や耐熱性を保持しつつ、更に密着性やモールディング特性を高めることができる。
【0028】
更に、封止材シートを多層フィルムとする場合、後述するシラン変性ポリエチレン、或いは、シランカップリング剤等の密着性向上成分を、コア層よりもスキン層により多く傾斜配分してもよい。これにより、封止材シートとして上記の好ましい透明性や耐熱性を保持しつつ、更に、太陽電池モジュールの一体化時に求められるガラスや金属に対する密着性を更に高めることができる。
【0029】
例えば、3層以上の層からなる多層フィルムである封止材シートにおいては、最外層の厚さは、30μm以上120μm以下であり、且つ、最外層以外の全ての層からなる中間層と最外層の厚さの比は、最外層:中間層:最外層=1:3:1〜1:8:1の範囲であることが好ましい。このようにすることにより、封止材シートとしての好ましい耐熱性を保持しつつ、最外層における好ましいモールディング特性を備えることができる。
【0030】
<封止材組成物>
本発明の封止材シートの製造に用いる封止材組成物(以下、単に「封止材組成物」とも言う)は、低密度のポリエチレン系樹脂をベース樹脂とし、分子量と特定の化学構造に着目して選択される2種の組合せからなるヒンダードアミン系耐光安定剤(HALS)と、架橋剤と、を少なくとも含有する、熱硬化系の樹脂組成物である。又、この封止材組成物は、更に架橋助剤及び酸化防止剤を含有するものであることが好ましい。
【0031】
又、この封止材組成物は、添加される架橋剤の化学構造についても、後述する特定の化学構造を有する物であることが好ましい。そして、架橋助剤及び酸化防止済が含有される場合には、これらについても、それぞれ後述する特定の化学構造を有するものであることが好ましい。
【0032】
(ベース樹脂)
封止材組成物は、密度0.870g/cm
3以上0.900g/cm
3以下、好ましくは、密度0.875g/cm
3以上0.895g/cm
3以下、より好ましくは、密度0.880g/cm
3以上0.890g/cm
3以下のポリエチレン系樹脂をベース樹脂とする。このような低密度のポリエチレン系樹脂をベース樹脂とすることにより、封止材シートの透明性を向上させることができる。又、これによれば、ガラス保護基板等、太陽電池モジュールを構成する他の部材との密着性が高まり、又、ラミネート処理における各部材の圧着時におけるセル割れのリスクを低減させることもできる。封止材組成物の全樹脂成分に対する上記のベース樹脂の含有量は70質量%以上100質量%以下であり、好ましくは90質量%以上99質量%以下である。上記範囲内でこのベース樹脂を含むものである限りにおいて、封止材組成物中には、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の樹脂が含まれていてもよい。
【0033】
封止材組成物のベース樹脂として用いるポリエチレンのメルトマスフローレート(MFR)は、JIS−K6922−2により測定した190℃、荷重2.16kgにおけるMFR(本明細書における「MFR」とは、この測定条件による測定値のことを言うものとする。)は、5g/10分以上30g/10分以下であることが好ましく、10g/10分以上25g/10分以下であることがより好ましい。MFRが上記の範囲であることにより、ガラス、金属等からなる太陽電池モジュールの他の部材との密着性に優れた封止材シートとすることができる。
【0034】
封止材組成物のベース樹脂として用いるポリエチレンは、エチレンとα−オレフィンとの共重合体である直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)であることが好ましく、又、このベース樹脂は、メタロセン系直鎖低密度ポリエチレン(M−LLDPE)であることが更に好ましい。メタロセン系直鎖低密度ポリエチレンは、シングルサイト触媒であるメタロセン触媒を用いて合成されるものである。このようなポリエチレンは、側鎖の分岐が少なく、コモノマーの分布が均一である。このため、分子量分布が狭く、上記のような超低密度にすることが可能であり封止材シートに対して柔軟性を付与できる。封止材シートに柔軟性が付与される結果、封止材シートとガラス、金属等との密着性が高まる。
【0035】
又、直鎖低密度ポリエチレンは、結晶性分布が狭く、結晶サイズが揃っているので、結晶サイズの大きいものが存在しないばかりでなく、低密度であるために結晶性自体が低い。このため、封止材シートとしてシート状に加工した際の透明性に優れる。したがって、これをベース樹脂とする封止材組成物からなる封止材シートは、太陽電池モジュールにおいて、太陽電池素子の受光面側に配置された場合に、太陽電池素子への入射光の減衰による発電効率の低下を良く防ぐことができる。
【0036】
本明細書における「ポリエチレン系樹脂」には、エチレンを重合して得られる通常のポリエチレンのみならず、α−オレフィン等のようなエチレン性の不飽和結合を有する化合物を重合して得られた樹脂、エチレン性不飽和結合を有する複数の異なる化合物を共重合させた樹脂、及びこれらの樹脂に別の化学種をグラフトして得られる変性樹脂等が含まれる。
【0037】
なかでも、α−オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物とをコモノマーとして共重合してなるシラン共重合体を含有する樹脂(本明細書において「シラン変性ポリエチレン樹脂」とも言う)を、例えば、上記のメタロセン系直鎖低密度ポリエチエレン(M−LLDPE)等とともにベース樹脂の一部を構成するポリエチレン系樹脂として好ましく用いることができる。ベース樹脂に適量の「シラン変性ポリエチレン樹脂」を配合することにより、ガラス保護基板や太陽電池素子等といった他の積層部材と封止材シートとの間の接着性を更に向上させることができる。
【0038】
「シラン変性ポリエチレン樹脂」は、例えば、特開2003−46105号公報に記載されているものである。当該共重合体を太陽電池モジュールの封止材組成物の成分として使用することにより、強度、耐久性等に優れ、且つ、耐候性、耐熱性、耐水性、耐光性、耐風圧性、耐降雹性、その他の諸特性に優れ、更に、太陽電池モジュールを製造する加熱圧着等の製造条件に影響を受けることなく極めて優れた熱融着性を有し、安定的に、低コストで、種々の用途に適する太陽電池モジュールを製造し得る。
【0039】
「シラン変性ポリエチレン樹脂」を構成するシラン共重合体としては、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、及びグラフト共重合体のいずれであっても好ましく使用することができるが、グラフト共重合体であることがより好ましく、重合用ポリエチレンを主鎖とし、エチレン性不飽和シラン化合物が側鎖として重合したグラフト共重合体が更に好ましい。このようなグラフト共重合体は、接着力に寄与するシラノール基の自由度が高くなるため、太陽電池モジュールにおける他の部材への太陽電池モジュール用封止材の接着性を著しく向上させることができる。
【0040】
α−オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物との共重合体を構成する際のエチレン性不飽和シラン化合物の含量としては、全共重合体質量に対して、例えば、0.001質量%以上15質量%以下、好ましくは、0.01質量%以上5質量%以下、特に好ましくは、0.05質量%以上2質量%以下が望ましい。本発明において、α−オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物との共重合体を構成するエチレン性不飽和シラン化合物の含量が多い場合には、機械的強度及び耐熱性等に優れるが、含量が過度になると、引っ張り伸び及び熱融着性等に劣る傾向にある。
【0041】
(ヒンダードアミン系耐光安定剤)
封止材組成物は、耐光安定剤として、分子量1000以上の高分子量タイプのヒンダードアミン系耐光安定剤(HALS)、及び、分子量1000未満の低分子量タイプのヒンダードアミン系耐光安定剤(HALS)を、含有する。これらの分子量の異なる2種のヒンダードアミン系耐光安定剤は、いずれも、封止材組成物の樹脂成分中に0.02質量%以上0.20質量%以下の割合で、封止材組成物に含まれる。又、これら2種のヒンダードアミン系耐光安定剤を合わせたヒンダードアミン系耐光安定剤の総含有量は、封止材組成物中の全樹脂成分に対して、0.1質量%以上0.4質量%以下であることが好ましい。
【0042】
封止材組成物に含有される、2種の「ヒンダードアミン系耐光安定剤」、即ち、「高分子量タイプのヒンダードアミン系耐光安定剤」及び「低分子量タイプのヒンダードアミン系耐光安定剤」は、いずれも、下記表1に示す化学構造のうち、(i)から(iii)のいずれかの化学構造を有するものとする。
【0044】
尚、本明細書において「エステル結合」とは、構造式R−COO−Rで表される化学結合のことを言う。そして、この「エステル結合」を有する化合物を「エステル」と言うものとする。
【0045】
ここで、例えば、下記の一般式(2)であらわされるヒンダートアミン耐光安定剤(「Tinuvin622」(BASF社製)、分子量:3100−4000)のように、R3−OCO−R4−COO−R5構造を含んでなり、尚且つ、R4の分子量が100未満(「Tinuvin622」におけるR4の分子量は18である)であると、エステルが加水分解した場合に、水に溶解して酸解離定数(Pka)が小さい有機酸が発生しやすい。そして、この場合に、特に、太陽電池モジュールにとって有害な酸性ガスが発生しやすいことを、後に実施例において示す通り、本願発明者らは見出すに至っている。
【0047】
この知見に基づき、本発明の封止材シートにおいては、上記の酸性ガスの発生を抑制するための手段の一つとして、「ヒンダードアミン系耐光安定」を、エステルを含まない上記の化学構造(i)を有するものとすることとした。
【0048】
例えば、高分子量タイプのヒンダードアミン系耐光安定剤(HALS)であって、エステルを含まない化学構造(i)を有するHALSとしては、下記の一般式(3)で表される、N,N’,4,7−テトラキス{4,6−ビス[N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ]−1,3,5−トリアジン−2−イル}−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン(商品名:「Chimassorb119」(BASF社製))、を一例として挙げることができる。このHALSの分子量は、2286である。
【0050】
一方、低分子量タイプのヒンダードアミン系耐光安定剤(HALS)であって、エステルを含まない化学構造(i)を有するHALSとしては、下記の一般式(4)で表されるBis(1−undecanoxy−2,2,6,6−tetramethylpiperidin−4−yl)carbonate(商品名:「LA−81」(ADEKA社製))を一例として挙げることができる。このHALSの分子量は、681である。
【0052】
又、本発明の封止材シートにおいて、上述の要因による酸性ガスの発生を抑制するための他の手段として、「ヒンダードアミン系耐光安定」がエステルを含むものであっても、当該エステルが、「エステルを含み、該エステルが、R1−COO−R2構造であって、R1の分子量が100以上であり、R2がエステルを含まない化学構造(ii)」を有するものであるか、又は、「エステルを含み、該エステルが、R3−OCO−R4−COO−R5構造であって、R4の分子量が100以上であり、R3及びR5がエステルを含まない化学構造(iii)」を有するもののいずれかであることとした。例えば、アルキル鎖の両端にピペリジン環がエステル結合によって結合されている構造からなるHALSであれば、アルキル鎖の炭素数が、6以上のものを好ましく、6以上15以下のものをより好ましく、8であるものを最も好ましく用いることができる。
【0053】
化学構造(iii)を有するヒンダードアミン系光安定剤は、上記(iii)の化学構造(R3−OCO−R4−COO−R5)において、R4がCH
2、(CH
2)
2、(CH
2)
3・・・(CH
2)
nというように、nが大きくなるにつれて、加水分解で発生する有機酸は、水に溶け難く、酸の強度が弱いものとなる。例えば、n=1のときマロン酸、n=2のときのコハク酸、n=3のときグルタル酸、n=4のときアジピン酸、・・・n=7のときのアゼライン酸、n=8のときのセバシン酸で、それぞれの水の溶解度は、7.3、8.3、43、1.4、・・・0.24、0.10g/100mlと高くなり、水に溶けにくくなる。Pkaは2.9、4.2、4.3、4.4・・・4.5、4.6と増え、酸の強度は弱くなる。以上より、化学構造(iii)を有する添加剤は、例えば、高温高湿の環境下においても、電極等を腐食する有機酸が発生し難くなる点において好ましい。
【0054】
同様に、化学構造(iii)を有するヒンダードアミン系光安定剤も、上記(ii)の化学構造(R1−COO−R2)において、R1がCH
3、CH
3CH
2、CH
3(CH
2)
2・・・CH
3(CH
2)
nというように、nが大きくなれば、加水分解で発生する有機酸は、水に溶け難く、酸の強度が弱いものとなる。例えばn=0のときの酢酸、n=1のときのプロピオン酸、n=2のときの酪酸、n=3のときの吉草酸、・・・n=6のときのカブリル酸、n=7のときのペラルゴン酸それぞれの水の溶解度は、MISCIBLE、37g/100ml、MISCIBLE、4g/100ml・・・0.068g/ml、NEGLIGIBLEとなり、水に溶けにくくなる。PKaは、4.70、4.86、4.82、4.84、・・・4.89、4.96となり、酸の強度は弱くなる。以上より、化学構造(ii)を有する添加剤も、化学構造(iii)を有する添加剤と同様に電極等を腐食する有機酸が発生し難くなる点において好ましい。
【0055】
尚、ヒンダードアミン系光安定剤に限らず、その他の各添加物についても、上記(ii)及び(iii)の化学構造を有するものが、加水分解による有機酸の発生を抑制しやすい点において封止材シートへの添加物として有利な化学構造であることは同様である。
【0056】
例えば、高分子量タイプのヒンダードアミン系耐光安定剤(HALS)であって、上記の化学構造(iii)を有するHALSとしては、下記の一般式(5)で表される1,2,3,4−Butanetetracarboxylic acid, tetramethylester,reactionproducts with 1,2,2,6,6−pentamethyl−4−piperidinol(商品名:「LA−63P」(ADEKA社製))を一例として挙げることができる。このHALSの分子量は、約2000である。
【0058】
一方、低分子量タイプのヒンダードアミン系耐光安定剤(HALS)であって、上記の化学構造(iii)を有するHALSとしては、下記の一般式(6)で表されるBis(1−octyloxy−2,2,6,6−tetramethyl−4−piperidyl)sebacate(商品名:「Tinuvin PA 123」(BASF社製))を一例として挙げることができる。このHALSの分子量は、737である。又、このHALSは、エステル(R3−OCO−R4−COO−R5構造)を有し、R4の分子量が112である。
【0060】
ここで、ヒンダードアミン系光安定剤は、ピペリジン骨格中の窒素原子の結合相手により、N−H型(窒素原子に水素が結合)、N−R型(窒素原子にアルキル基(R)が結合)、N−OR型(窒素原子にアルコキシ基(OR)が結合)、N−CH
3型(窒素原子にメチル基(CH
3)が結合)等のタイプに分類することができる。本発明の封止材組成物において用いる「高分子量タイプのヒンダードアミン系耐光安定剤」は、上述の化学構造(i)から(iii)のいずれかの要件を満たした上で、更に、「N−CH
3型」のヒンダードアミン系耐光安定剤であることがより好ましい。
【0061】
例えば、「高分子量タイプのヒンダードアミン系耐光安定剤」として、「N−H型」のHALSを用いた場合、「N−CH
3型」のHALSと比較して、分散性が悪化しやすい。そのため、光学特性が悪化したり、或いは、封止材シート表面へ移行が過剰となりやすく、ラジカル補足が適切に機能しにくい。これに対して、「N−CH
3型」のHALSは「N−H型」と比較して、よりベース樹脂(ポリエチレン系樹脂)に相溶しやすく、光学特性が良好となりやすい。更に、「N−CH
3型」のHALSは、熱や光により、「N−H型」のHALSに変化して、封止材シートの表面へ移行する迄の時間が一定以上の長さとして確保される分、短期的ではなく、長期的な耐光性を発現しやすい。尚、「N−OR型」のHALSは、ラジカルトラップの反応速度が「N−H型」や「N−CH
3型」のHALSと比較して早いが、これにより、封止材シートの架橋処理時に架橋反応を阻害する恐れがある。
【0062】
上記において好ましい「高分子量タイプのヒンダードアミン系耐光安定剤」として例示した「Chimassorb119」、「LA−63P」は、いずれも「N−CH
3型」のHALSであり、この点においても、本発明の封止材組成物に用いる「高分子量タイプのヒンダードアミン系耐光安定剤」として好適である。
【0063】
又、本発明の封止材組成物において「高分子量タイプのヒンダードアミン系耐光安定剤」と組合せて用いる「低分子量タイプのヒンダードアミン系耐光安定剤」は、上述の化学構造(i)から(iii)のいずれかの要件を満たした上で、更に、「N−OR型」のヒンダードアミン系耐光安定剤であることがより好ましい。N−OR型のヒンダードアミン系耐光安定剤は、ラジカルを補足する速さがN−H型やN−CH
3型よりも速い。更に高分子HALSよりも速く表面へ移行したN−OR型の低分子HALSは、N−H型やN−CH
3型のHALSよりも短期的にラジカルを補足し、封止シートの劣化を抑制する点おいて、好ましい。短期的な耐光性を発現するN−OR型の低分子HALSは、長期間、光が照射されると、ラジカル補足の機能は低下するが、長期的な耐光性を発現するN−CH
3型の高分子HALSとを併用させることで、長い間封止シートの劣化を抑えることが可能となる。
【0064】
上記において好ましい「低分子量タイプのヒンダードアミン系耐光安定剤」として例示した「Tinuvin PA 123」、「LA−81」は、いずれも「N−OR型」のHALSであり、この点においても、本発明の封止材組成物に用いる「低分子量タイプのヒンダードアミン系耐光安定剤」として好適である。又、1−(2−Hydroxy−1,1−dimethyl−ethoxy)−2,2,6,6−tetramethyl−4−piperidinyl octadecanoateも、「低分子量タイプのヒンダードアミン系耐光安定剤」好適な例として挙げることができる。
【0065】
[架橋剤]
本発明の封止材組成物においては、架橋剤由来の酸性ガスの発生も十分に抑制することが好ましい。そのために封止材組成物に含有される架橋剤は、下記表2に示す化学構造のうち、(i)、(iv)、又は(v)のいずれかの化学構造を有するものとすることが好ましい。
【0067】
尚、上述の通り、本明細書においては、「エステル結合」を有する化合物を「エステル」と言うが、この「エステル」を生成する反応(脱水反応)を「エステル化」と言うものとする。
【0068】
ここで、例えば、下記の一般式(7)であらわされる架橋剤n−ブチル4,4ジ(t−ブチルパーオキシ)バレート(商品名:「ルペロックス230」(アルケマ吉富社製))は、上記の構造式(1)におけるR9の分子量が29であり、熱分解後の生成物が、太陽電池モジュールにとって有害な酸性ガスが発生しやすいことを、本願発明者らは見出すに至っている。
【0070】
表2に記載の化学構造にかかる要件を満たす好ましい架橋剤の具体例としては、下記の一般式(8)で表される化学構造を有するジアルキルパーオキサイド類の架橋剤である「2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(t‐ブルパーオキシ)ヘキサン」(商品名「ルペロックス101」(アルケマ吉富社製))や、ジ‐t‐ブチルパーオキサイド(商品名「ルペロックスDI」(アルケマ吉富社製))、ジクミルパーオキサイド(商品名「ルペロックスDC」(アルケマ吉富社製))等を挙げることができる。これらの架橋剤は、いずれも、エステルを含まない化学構造(i)を有する。
【0072】
又、表2に記載の化学構造にかかる要件を満たす好ましい架橋剤の他の具体例としては、下記の一般式(9)で表される化学構造を有するパーオキシカーボネート類の架橋剤である「t‐ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルカーボネート」(商品名「ルペロックスTBEC」(アルケマ吉富社製))、「t−アミルパーオキシ2−エチルヘキシルカーボネート」(商品名「ルペロックスTAEC」(アルケマ吉富社製))等を挙げることができる。これらの架橋剤は、化学構造(iv)を有する。
【0074】
又、封止材組成物に用いる架橋剤は、活性酸素量が4.5%以上15.00%以下であることが好ましく、5.5%以上12.00%以下であることがより好ましい。活性酸素量が上記範囲にある架橋剤を用いることによって、封止材シートにより優れた耐熱性と耐光性、及び透明性を備えさせることができる。そして、封止材組成物に用いる架橋剤の1時間半減期温度については、115℃以上150℃以下のものを用いることが好ましい。これにより、本発明の封止材組成物を、110℃以下での溶融押出し成形が可能な樹脂組成物とすることができる。好ましい架橋剤の具体例として上述した「2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(t‐ブルパーオキシ)ヘキサン」及び「t‐ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルカーボネート」は、この点においても本発明の封止材組成物に用いる架橋剤として好適である。
【0075】
封止材組成物における上記の架橋剤の含有量は、封止材組成物中のベース樹脂に対して0.2質量%以上0.6質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.3質量%以上0.5質量%以下の範囲である。この範囲の架橋剤を添加することにより、封止材シートに十分な耐久性を付与することができる。尚、本発明の封止材シートは、実質的な架橋を進行させずに成膜するものであり、成膜後のシート段階における封止材シート中の上記の架橋剤の含有量も0.2質量%以上0.6質量%以下の範囲となることが想定されている。
【0076】
[架橋助剤]
本発明の封止材組成物においては、架橋助剤由来の酸性ガスの発生も十分に抑制することが好ましい。そのために封止材組成物に含有される架橋助剤は、下記表3に示す化学構造のうち、(i)から(iii)のいずれかの化学構造を有するものとすることが好ましい。
【0078】
ここで、例えば、下記の一般式(10)であらわされる架橋助剤(「A−9300」(新中村化学社製))は、エステル(R1−COO−R2構造)を有し、R1の分子量が27である。このような架橋助剤を用いた場合に、封止材シートの架橋処理後に残存する未反応物が加水分解して、太陽電池モジュールにとって有害な酸性ガスが発生しやすいということを、本願発明者らは見出すに至っている。
【0080】
上記表3に記載の化学構造にかかる要件を満たす好ましい架橋助剤の具体例として、下記の一般式(11)で表される化学構造を有する「トリアリルイソシアヌレート(TAIC)」(日本化成社製)や、下記の一般式(12)で表される化学構造を有する「トリメタリルイソシアヌレート(TMAIC)」等を挙げることができる。これらの架橋助剤は、いずれも、エステルを含まない化学構造(i)を有する。
【0083】
又、封止材組成物に含有される架橋助剤は、更には、炭素−炭素二重結合及び/又はエポキシ基を有する多官能モノマー、より好ましくは多官能モノマーの官能基がアリル基、(メタ)アクリレート基、ビニル基である架橋助剤であることが好ましい。これによって適度な架橋反応を促進させて封止材シートのガラスや金属に対する密着性を向上させることに加えて、この架橋助剤が、封止材シートを形成する直鎖低密度ポリエチレンの結晶性を低下させ透明性を維持する。これにより、上記の密着性の向上の効果に加えて、封止材シートの透明性と低温柔軟性をより優れたものとすることができる。
【0084】
封止材組成物における架橋助剤の含有量は、封止材組成物中のベース樹脂に対して、0.01質量%以上1.5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以上1.0質量%以下である。この範囲内であれば適度な架橋反応を促進させて封止材シートの密着性を向上させることができる。
【0085】
[酸化防止剤]
本発明の封止材組成物においては、酸化防止剤由来の酸性ガスの発生も十分に抑制することが好ましい。そのために封止材組成物に用いる酸化防止剤は、下記表4に示す化学構造のうち、(i)から(iii)のいずれかの化学構造を有するものとすることが好ましい。
【0087】
上記表4に記載の化学構造にかかる要件を満たす好ましい酸化防止剤の具体例としては、エステルを含まない化学構造(i)を有するものの具体例としては、下記の一般式(13)で表される化学構造を有する「Iragafos168(BASF社製)」を挙げることができる。又、表4の(ii)の要件を満たすものの具体例としては、下記の一般式(14)で表される化学構造を有する「Iraganox1076(BASF社製)」を挙げることができる。
【0090】
封止材組成物における酸化防止剤の含有量は、封止材組成物中のベース樹脂に対して、0.005質量%以上0.2質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.01質量%以上0.1質量%以下である。この範囲内であれば、製膜時の熱による酸化劣化、太陽電池モジュールでホットスポット発生時に、封止材の熱による劣化が起こりにくい。更に封止材中で添加剤のブリードが発生し難く、良好な透明性を維持する。
【0091】
(その他の添加物)
封止材組成物には、更にその他の成分を含有させることができる。例えば、紫外線吸収剤、熱安定剤、密着性向上剤、核剤、分散剤、レベリング剤、可塑剤、消泡剤、難燃剤、及びその他の各種フィラーを適宜添加することができる。これらの添加剤の含有量比は、その粒子形状、密度等により異なるものではあるが、それぞれ封止材組成物中に0.001質量%以上60質量%以下の範囲内であることが好ましい。これらの添加剤を含むことにより、封止材組成物に対して、長期に亘って安定した機械強度や、黄変やひび割れ等の防止効果等を付与することができる。
【0092】
<封止材シートの製造方法>
本発明の封止材シートの製造方法は、上記においてその詳細を説明した本発明の封止材組成物を用いる製造方法であって、添加剤選定工程、材料混錬工程、シート化工程と、を含んでなるプロセスである。
【0093】
[添加剤選定工程]
添加剤選定工程においては、封止材組成物においてベース樹脂とするポリエチレン系樹脂に添加する添加剤のうち、耐光安定剤については、高分子量タイプのヒンダートアミン耐光安定剤と低分子量タイプのヒンダートアミン耐光安定剤を組合せて用いることとし、少なくとも、これらのヒンダートアミン耐光安定剤については、上述の化学構造にかかる要件を必須として選定する。又、必須の添加剤である架橋剤、及び、必要に応じて、添加される架橋助剤、酸化防止剤についても、可能な限り、それぞれ上述した化学構造にかかる要件を満たす添加剤を選定する。
【0094】
[材料混錬工程]
材料混錬工程においては、ベース樹脂(ポリエチレン系樹脂)に、上記添加剤選定工程で選定した上記の2種のヒンダードアミン系耐光安定剤と、架橋剤とを含む各種の添加剤を添加して混錬することによって、封止材組成物を製造する。
【0095】
[シート化工程]
シート化工程においては、前工程において製造した封止材組成物を溶融成形して、封止材シートを製造する。封止材組成物の溶融成形は、公知の成形法、即ち、射出成形、押出成形、中空成形、圧縮成形、回転成形等の各種成形法により行うことができる。成形時の成形温度の下限は封止材組成物の融点を超える温度であればよい。成形温度の上限は使用する架橋剤の1分間半減期温度に応じて、製膜中に架橋が開始しない温度、即ち、封止材組成物のゲル分率を0%に維持できる温度であればよい。
【0096】
<太陽電池モジュール>
図1は、本発明の太陽電池モジュールについて、その層構成の一例を示す断面図である。本発明の太陽電池モジュール1は、入射光の受光面側から、ガラス保護基板2、前面封止材3、太陽電池素子4、背面封止材5、及び裏面保護シート6が順に積層されている。本発明に係る太陽電池モジュール1は、前面封止材3及び/又は背面封止材5として、本発明の封止材シートを好ましく用いることができる。特に太陽電池素子4の受光面側に配置される前面封止材3として、透明性に優れる本発明の封止材シートを配置することによって、発電効率の向上に効果的に寄与することができる。
【0097】
太陽電池モジュール1は、例えば、上記のガラス保護基板2、前面封止材3、太陽電池素子4、背面封止材5、及び裏面保護シート6からなる部材を順次積層してから真空吸引等により一体化し、その後、ラミネーション法等の成形法により、上記の部材を一体成形体として加熱圧着成形して製造することができる。そして、このとき、前面封止材3ガラス保護基板とガラス基板が積層されることで、ガラス基板と封止材シートとの密着性を向上できる。尚、上記の加熱圧着は、140℃以上170℃以下となるような加熱条件において行うことにより架橋処理を同時に行うことができる。或いは、上記の加熱圧着を110℃以上で実施し、加熱圧着後に、キュア工程を実施するとポリエチレンの架橋反応を進めてもよい。この場合のキュア工程は、封止材シートの樹脂温度が140℃以上170℃以下となるような加熱条件において行う。上記いずれかの架橋処理により、封止材シートの架橋を適度に進行させて、太陽電池モジュールの耐熱性と耐光性を十分に高めることができる。
【0098】
このようにして得られる、本発明の太陽電池モジュールは、耐熱性と耐光性に優れ、強い紫外線、熱線、風雨等といった過酷な環境に曝される場合であっても、長期間に亘って高度の耐候性を維持することができるものとなっている。又、透明性においても優れたものであることにより太陽電池モジュールの意匠性と発電効率の向上にも寄与することができる。
【0099】
尚、本発明の太陽電池モジュール1において、封止材シート以外のガラス保護基板2、太陽電池素子4及び裏面保護シート6は、従来公知の材料を特に制限なく使用することができる。又、本発明の太陽電池モジュール1は、上記部材以外の部材を必要に応じて更に含むものであってもよい。
【0100】
以上、実施形態を示して本発明を具体的に説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲において、適宜変更を加えて実施することができる。
【実施例】
【0101】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0102】
[封止材シートの製造]
下記のベース樹脂、ヒンダードアミン系耐光安定剤、架橋剤、架橋助剤、酸化防止剤を含んでなる封止材組成物を溶融し、実施例及び比較例の封止材シートを製造した。この封止材シートの製造は、常法Tダイ法により厚さ600μmとなるように成膜し、これにより、未架橋の単層の封止材シートとした。成膜温度は90℃〜100℃とした。尚、各封止材組成物中のそれぞれのヒンダードアミン系耐光安定剤の全樹脂成分に対する含有量(質量%)は、表1に記載の通りとした。又、ヒンダードアミン系耐光安定剤、架橋剤、架橋助剤の各添加剤が、上記において説明した化学構造(i)〜(v)のいずれかに該当する場合は、該当する番号((i)〜(v)のいずれか)を表1中「化学構造」の欄に付した。上記化学構造(i)〜(v)のいずれにも該当しないものは「−」と付した。
【0103】
(ベース樹脂)
:密度0.880g/cm
3、190℃でのMFRが20g/10分のメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン(M−LLDPE)85質量部と、下記のシラン変性ポリエチレン樹脂(密度0.884g/cm
3)15質量部との混合樹脂を、全ての実施例、比較例の封止材シートの「ベース樹脂」とした。このベース樹脂の密度は、0.881g/cm
3である。又、この「ベース樹脂」のSP値は、8.6である。
(シラン変性ポリエチレン樹脂)
:密度0.881g/cm
3であり、190℃でのMFRが30g/10分であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン(M−LLDPE)98質量部に対して、ビニルトリメトキシシラン2質量部と、ラジカル発生剤(反応触媒)としてのジクミルパーオキサイド0.1質量部とを混合し、200℃で溶融、混練して得たシラン変性ポリエチレン樹脂。このシラン変性ポリエチレン樹脂の密度は、0.884g/cm
3、190℃でのMFRは18g/10分である。
【0104】
(高分子量タイプのヒンダードアミン系耐光安定剤1)
表1において「高分子HALS1」と記す。
上述の「Chimassorb119」(BASF社製)を用いた。このHALSは、上記の一般式(3)で表されるN−CH
3型のHALSであり、エステルを含まない化学構造(i)を有する。分子量は、2286である。
【0105】
(高分子量タイプのヒンダードアミン系耐光安定剤2)
表1において「高分子HALS2」と記す。
上述の「LA−63P」(ADEKA社製)を用いた。このHALSは、上記の一般式(5)で表されるN−CH
3型のHALSであり、エステル(R3−OCO−R4−COO−R5構造)を有し、R4の分子量が100以上であり、R3及びR5がエステルを含まない化学構造(iii)を有する。分子量は、約2000である。
【0106】
(高分子量タイプのヒンダードアミン系耐光安定剤3)
表1において「高分子HALS3」と記す。
「Thinuvin622」(BASF社製)を用いた。このHALSは、上記の一般式(2)で表されるHALSであり、エステル(R3−OCO−R4−COO−R5構造)を有し、尚且つ、R4の分子量が28である化学構造を有する。分子量は、3100−4000である。
【0107】
(低分子量ヒンダードアミン系耐光安定剤1)
表1において「低分子HALS1」と記す。
上述の「Tinuvin PA 123」(BASF社製)を用いた。このHALSは、上記の一般式(6)で表されるN−OR型のHALSであり、エステル(R3−OCO−R4−COO−R5構造)を有し、R4の分子量が112であり、R3及びR5がエステルを含まない化学構造(iii)を有する。分子量は、737である。
【0108】
(低分子量ヒンダードアミン系耐光安定剤2)
表1において「低高分子HALS2」と記す。
上述の「LA−81」(ADEKA社製)を用いた。このHALSは、上記の一般式(4)で表されるN−OR型のHALSであり、エステルを含まない化学構造(i)を有する。分子量は、約681である。
【0109】
(架橋剤1)
表1において「架橋1」と記す。
上記の一般式(8)で表される化学構造を有する「ルペロックス101」(アルケマ吉富株式会社製)を用いた。封止材組成物のベース樹脂に対する含有量(質量%)が、0.4質量%となるように添加量を調整した。
【0110】
(架橋剤2)
表1において「架橋2」と記す。
上記の一般式(9)で表される化学構造を有する「ルペロックスTBEC」(アルケマ吉富株式会社製)を用いた。封止材組成物のベース樹脂に対する含有量(質量%)が、0.4質量%となるように添加量を調整した。
【0111】
(架橋剤3)
表1において「架橋3」と記す。
上記の一般式(7)で表される化学構造を有する「ルペロックス230」(アルケマ吉富社製)を用いた。封止材組成物のベース樹脂に対する含有量(質量%)が、0.4質量%となるように添加量を調整した。
【0112】
(架橋助剤1)
表1において「助剤1」と記す。
上記の一般式(11)で表される化学構造を有する「TAIC(日本化成社製)」を用いた。封止材組成物のベース樹脂に対する含有量(質量%)が、0.6質量%となるように添加量を調整した。
【0113】
(架橋助剤2)
表1において「助剤2」と記す。
上記の一般式(12)で表される化学構造を有する「TMAIC(日本化成社製)」を、封止材組成物のベース樹脂に対する含有量(質量%)が、0.6質量%となるように添加量を調整した。
【0114】
(架橋助剤3)
表1において「助剤3」と記す。
上記の一般式(10)で表される化学構造を有する「A−9300(新中村化学社製)」を用いた。封止材組成物のベース樹脂に対する含有量(質量%)が、0.6質量%となるように添加量を調整した。
【0115】
(架橋助剤4)
表1において「助剤4」と記す。
下記の一般式(15)で表される化学構造を有する「TMPTMA(日本化成社製)」を用いた。この架橋助剤は、エステル(R1−COO−R2構造)を有し、R1の分子量が41である。封止材組成物のベース樹脂に対する含有量(質量%)が、0.6質量%となるように添加量を調整した。
【0116】
【化15】
(15)
【0117】
(酸化防止剤)
酸化防止剤については、いずれの実施例及び比較例においても、上記の一般式(13)で表される化学構造を有する「Iragafos168(BASF社製)」と、上記の一般式(14)で表される化学構造を有する「Iraganox1076(BASF社製)」とを併用した。封止材組成物のベース樹脂に対する含有量(質量%)は、「Iragafos168(BASF社製)」が0.02質量%、「Iraganox1076(BASF社製)」が0.04質量%となるように、それぞれの添加量を調整した。
【0118】
[評価例1:耐候性(封止材シートの耐光性)]
上記の通り製造した実施例及び比較例の未架橋の各封止材シートを、ETFEフィルムで挟み込んで、真空加熱ラミネーションによる一体化時に同時に架橋処理を行ったものを実施例及び比較例の耐候性(高温での耐光性)を評価する封止材シート評価用試料とした。真空加熱ラミネート条は下記の通りとした。
(真空加熱ラミネート条件) (a)真空引き:6分
(b)加圧:(0kPa〜50kPa):10秒
(c)圧力保持:(50kPa):11分
(d)温度:165℃
上記の封止材シート評価用試料について、下記の耐光試験を実施し、その後に、下記の引張り応力試験を行い、各封止材シートの高温環境下での耐光性について評価した。
(耐光試験)
:各評価用試料について、東洋精機製作所 アトラス・ウエザオメータCi4000を用い、放射照度180W/m
2、ブラックパネル温度(BPT)110℃、湿度50%の条件で1000時間の照射試験を行った。
(引張り応力試験方法)
:封止材シートを50mm長さ、10mm幅にカットしたものを、剥離試験機(テンシロン万能試験機 RTF−1150−H)の上下10mmを治具で押さえ、チャック間距離30mmで、引張り速度50mm/minの引張り試験を行い、封止材シートの引張り応力を測定した。
(評価基準)
A:上記引張り応力が、3.0MPa以上
B:上記引張り応力が、1.0MPa以上3.0MPa未満
C:上記引張り応力が、1.0MPa未満
【0119】
[評価例2:耐候性(太陽電池モジュールの発電効率維持率)]
下記の各部材を、ガラス基板/封止材シート/太陽電池素子/封止材シート/裏面保護シートの順で積層し、下記のラミネート条件で、真空加熱ラミネート処理を行いうことにより、湿熱環境下における太陽電池モジュールの発電効率の維持率を評価するための太陽電池モジュール評価用試料を製造した。
(部材)
ガラス基板:(白板半強化ガラス(JPT3.2))
封止材シート:上記の通り製造した実施例及び比較例の未架橋の各封止材シート
太陽電池素子: T−SEC製単結晶p型 PERC TSS63TN
裏面保護シート:SiOx−PET系樹脂フィルム
(真空加熱ラミネート条件) (a)真空引き:6分
(b)加圧:(0kPa〜50kPa):10秒
(c)圧力保持:(50kPa):11分
(d)温度:155℃
上記の太陽電池モジュール評価用試料について、下記の耐久試験を実施し、その後に、下記の発電効率長期維持率試験を行い、各封止材シートを用いてなる太陽電池モジュールの湿熱環境下での発電効率維持率について評価した。尚、モジュール化時の加熱温度は、架橋剤や架橋助剤がラミネート処理中に全て反応を終えてしまわない程度の温度として上記温度に設定した。
(耐久試験)
:各評価用試料について、プレッシャークッカー試験機(平山製作所製:HASTEST)にて、121℃、100%RH、2atmの条件に設定し、上記の各評価用試料を投入した。800時間経過後、数時間常温放置した。
(発電効率長期維持率試験)
各太陽電池モジュール評価用サンプルについて、上記の耐久試験の前後のPmax値をそれぞれ測定し、発電効率の維持率を算出し、下記の評価基準1に基づいて、発電効率長期維持率を評価した。尚、Pmax値とは、太陽電池の出力が最高となる動作点での最高出力値である。ソーラーシミュレータ(株式会社 三永電機製作所製XES−155S1)を用いて、セル裏面温度25℃、照度100mW/cm
2の条件で各評価用サンプルのPmax値を測定した。
(評価基準)
A:発電効率維持率が80%以上である。
B:発電効率維持率が60%以上80%未満である。
C:発電効率維持率が60%未満である。
【0120】
【表5】
【0121】
【表6】
【0122】
表5及び表6より、本発明の太陽電池モジュール用の封止材シートは、高温多湿の過酷な環境下での長期使用にも耐えうる十分な耐候性を備えるポリエチレン系の封止材シートであって、尚且つ、そのような環境下においても、太陽電池モジュールにとって有害な酸性ガスの発生が十分に抑制して発電効率を良好に維持することができる太陽電池モジュール用を構成することができるものであることが分かる。