特許第6798567号(P6798567)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6798567
(24)【登録日】2020年11月24日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】鋼塊圧延方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 1/02 20060101AFI20201130BHJP
【FI】
   B21B1/02 B
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-7966(P2019-7966)
(22)【出願日】2019年1月21日
(65)【公開番号】特開2020-116592(P2020-116592A)
(43)【公開日】2020年8月6日
【審査請求日】2020年6月11日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 大祐
(72)【発明者】
【氏名】南 常義
(72)【発明者】
【氏名】小橋 幸治
【審査官】 河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−314001(JP,A)
【文献】 特開昭53−093158(JP,A)
【文献】 特開昭54−097559(JP,A)
【文献】 特開昭54−123553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00−11/00
B21B 47/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延ロールによる複数パスのリバース圧延で鋼塊を圧延する方法において、
長手方向の一方に大断面のトップ端面が形成され、長手方向の他方に小面積のボトム端面が形成され、前記トップ端面及び前記ボトム端面の間の長手方向外周に、互いに対向する少なくとも一対のテーパー外周面が形成されている鋼塊を圧延するにあたり、
前記複数パスのうちの最初の1パス目は、ロール開度Hが下記(1)式を満足する一対の圧延ロールにより、前記鋼塊の前記一対のテーパー外周面を圧下しながら、前記トップ端面から前記ボトム端面まで圧延することを特徴とする鋼塊圧延方法。
H = T + a×(T − T) ………(1)
ここで、符号Tは、鋼塊におけるトップ端面の一対のテーパー外周面の間の厚さ(トップ厚)であり、符号Tは、鋼塊におけるボトム端面の一対のテーパー外周面の間の厚さ(ボトム厚)であり、符号aは係数であり、0.55 ≦ a ≦ 0.65に設定されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延ロールによるリバース圧延で鋼塊を圧延する鋼塊圧延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鋼工場において溶鋼を鋳型で固めて形成される鋼塊は、長手方向の一方に大断面のトップ端面が形成され、長手方向の他方に小面積のボトム端面が形成され、トップ端面からボトム端面までの長手方向外周に、互いに対向する少なくとも一対のテーパー外周面が形成されている。
鋼塊の圧延では、圧延ロールが一対のテーパー外周面を圧下しながら鋼塊を通板して複数パスのリバース圧延を行うことで、鋼片を形成する。
【0003】
従来の鋼塊の圧延方法では、最初の1パス目で鋼塊表面のスケールを落とすために、圧延ロールにより比較的強い圧下量で圧延を行っていた。しかし、従来の鋼塊の圧延方法は、鋼塊のトップ端面及びボトム端面にフィッシュテールが成長し、このフィッシュテールを切り捨てなければならないので、鋼塊圧延の歩留り低下を招いていた。
そこで、フィッシュテール成長を抑制する鋼塊の圧延方法として、最初の1パス目に、鋼塊のボトム端面から圧延ロールで圧延を行ってボトム端面に凹部を形成した後、鋼塊を元の位置まで戻し、2パス目で、鋼塊のトップ端面からボトム端面に形成した凹部近くまで圧延ロールで噛み戻し圧延を行う方法が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭56−8681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の鋼塊の圧延方法は、フィッシュテール成長の抑制のために、最初の1パス目及び2パス目の圧延を行うので、鋼片の圧延完了までのパス数が増大して圧延時間が長くなり、生産性が悪くなるという課題があった。
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、フィッシュテール成長の抑制と、生産性を向上させることができる鋼塊圧延方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る鋼塊圧延方法は、圧延ロールによる複数パスのリバース圧延で鋼塊を圧延する方法において、長手方向の一方に大断面のトップ端面が形成され、長手方向の他方に小面積のボトム端面が形成され、トップ端面及びボトム端面の間の長手方向外周に、互いに対向する少なくとも一対のテーパー外周面が形成されている鋼塊を圧延するにあたり、複数パスのうちの最初の1パス目は、ロール開度Hが下記(1)式を満足する一対の圧延ロールにより、鋼塊の一対のテーパー外周面を圧下しながら、トップ端面からボトム端面まで圧延している。
H = T + a×(T − T) ………(1)
ここで、符号Tは、鋼塊におけるトップ端面の一対のテーパー外周面の間の厚さ(トップ厚)であり、符号Tは、鋼塊におけるボトム端面の一対のテーパー外周面の間の厚さ(ボトム厚)であり、符号aは係数であり、0.55 ≦ a ≦ 0.65に設定されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る鋼塊圧延方法によれば、鋼塊のトップ面及びボトム面のフィッシュテール成長を抑制することができるとともに、鋼塊から鋼片に圧延するまでのパス数を減少させて生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る一実施形態の鋼塊圧延方法を示す図である。
図2】本発明に係る一実施形態の鋼塊圧延方法において圧延ロールのロール開度を調整し、トップ端面が最初に圧延されるように鋼塊をテーブルローラに配置した状態を示す図である。
図3】本発明に係る一実施形態の鋼塊圧延方法において最初の1パス目の鋼塊の圧延初期を示す図である。
図4】本発明に係る一実施形態の鋼塊圧延方法において最初の1パス目の鋼塊の圧延中期を示す図である。
図5】本発明に係る一実施形態の鋼塊圧延方法において最初の1パス目が終了した後の鋼塊の圧延形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面を参照して、本発明に係る一実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率、圧延機のスタンド数等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
以下に示す一実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
図1は、本発明に係る一実施形態の鋼塊圧延方法の構成を概略的に示す図であり、圧延ロール1と、圧延ロール1に通板して複数パスのリバース圧延が行われる鋼塊2と、を示している。
鋼塊2は、製鋼工場において溶鋼を鋳型で固めて形成された鋼材であり、長手方向の一方に大断面のトップ端面5が形成され、長手方向の他方に小面積のボトム端面6が形成され、トップ端面5及びボトム端面6の間の長手方向外周に、互いに対向する少なくとも一対のテーパー外周面7a,7bが形成されている。
【0011】
この鋼塊2のトップ端面5の一対のテーパー外周面7a,7bの間の寸法をトップ厚Tと称し、ボトム端面6の一対のテーパー外周面7a,7bの間の寸法をボトム厚Tと称している。
圧延ロール1は、上部水平ロール3と、下部水平ロール4とを備えている一対の圧延ロールである。圧延ロール1は、上部水平ロール3及び下部水平ロール4の相対位置を変化させることで、ロール開度Hが所定値に調整される。そして、圧延ロール1の上部水平ロール3及び下部水平ロール4が一対のテーパー外周面7a,7bを圧下しながら鋼塊2を通板して複数パスのリバース圧延を行う。そして、複数パスの初期パスから後半パスにかけて、圧延ロール1のロール開度Hを徐々に小さくしていくことで、所定厚さの鋼片が形成される。
【0012】
次に、本実施形態の鋼塊2の圧延における最初の1パス目の圧延手順について、図2から図5を参照して説明する。
最初の1パス目を行う前に、圧延ロール1のロール開度Hを、鋼塊2の形状(トップ厚T、ボトム厚T)に基づいて下記の(1)式で演算する。
H = T + a×(T − T) ………(1)
ここで、符号aは、ロール開度Hの演算に必要な係数であり、0.55 ≦ a ≦ 0.65の範囲に設定されている。
【0013】
次いで、図2に示すように、圧延ロール1のロール開度Hを、上記(1)式で演算した値に調整するとともに、トップ端面5が最初に圧延ロール1に向って搬送されるように、鋼塊2をテーブルローラ(不図示)に配置する。
次いで、図3に示すように、テーブルローラに搬送された鋼塊2をトップ端面5から圧延ロール1で圧延していくことで、最初の1パス目の圧延を開始する。この際、圧延ロール1に通板した鋼塊2のトップ端面5側は、ロール開度Hと略同一寸法の圧延厚さTで圧延されていく。ここで、圧延ロール1に圧延される直前の鋼塊2の一対のテーパー外周面7a,7b側の表層部には、凸状の塑性変形部8a,8bが形成されていく。
【0014】
図4は、最初の1パス目の圧延の続きであり、さらに鋼塊2のボトム端面6側に向かって圧延していくと、圧延ロール1に圧延される直前に形成された凸状の塑性変形部8a,8bが、一対のテーパー外周面7a,7bのボトム端面6側の表層部(図4の破線で示す領域)に塑性流動していき、一対のテーパー外周面7a,7bのボトム端面6側の厚さが増大していく。
図5は、最初の1パス目が終了した鋼塊2を示すものであり、圧延ロール1に圧延される直前に形成された凸状の塑性変形部8a,8bは、一対のテーパー外周面7a,7bのボトム端面6側に塑性流動してボトム端面6側の厚さを増大させ、ボトム端面6にはフィッシュテールが発生しない。
【0015】
ここで、(1)式のロール開度Hの演算式で使用する係数aが0.55を下回る値になると、ボトム端面6側の厚さを圧延厚さTまで増大させる体積以上の塑性変形部8a,8bが形成されてしまい、ボトム端面6にフィッシュテールが発生するおそれがある。
また、係数aが0.65を上回る値になると、鋼塊3から所定厚さの鋼片を圧延するまでのパス数が増大するおそれがあるともに、圧延ロール1に圧延される直前に形成された凸状の塑性変形部8a,8bがボトム端面6側に塑性流動せず、ボトム端面6からトップ端面5まで延在する2パス目の圧延でトップ端面5にフィッシュテールが発生するおそれがある。
【0016】
したがって、本実施形態の鋼塊圧延方法によると、係数aを、0.55 ≦ a ≦ 0.65の範囲に設定し、鋼塊2のトップ厚T、ボトム厚Tに基づいて圧延ロール1のロール開度Hを演算し( H = T + a×(T − T) )、このロール開度Hに設定した圧延ロール1で、最初の1パス目で鋼塊2をトップ端面5からボトム端面6まで圧延していくと、一対のテーパー外周面7a,7b側の表層部に形成された塑性変形部8a,8bが、ボトム端面6側の表層部に塑性流動して一対のテーパー外周面7a,7bのボトム端面6側の厚さを増大させていき、トップ端面5及びボトム端面6にフィッシュテールを発生させずに、圧延厚さTで鋼塊2を圧延することができる。
また、最初の1パス目で鋼塊2のフッシュテール成長を抑制することができるので、鋼片の圧延完了までのパス数が減少して圧延時間が短くなり、鋼片の生産性を向上させることができる。
【実施例1】
【0017】
本発明例および比較例として、トップ厚Tが1278mm、ボトム厚Tが983mmの複数本の鋼塊2(本発明例1〜3、比較例1〜4)について、トップ端面5の側から圧延ロール1に噛み込ませ、鋼塊2の一対のテーパー外周面7a,7bを圧下してボトム端面6まで通材する1パス目の圧延を行った。1パス目の圧延の際には、鋼塊2毎に、上記の(1)式における係数aを変化させた種々のロール開度Hによる圧延を実施した。1パス目の圧延終了後、鋼塊2のボトム端面6の側から圧延ロール1に噛み込ませトップ端面5まで通材する2パス目の圧延を行った。1パス目のロール開度Hおよび係数a、2パス目のロール開度Hを表1に示す。
【0018】
また、従来例として、特許文献1(特公昭56-8681号公報)の実施例1と類似する方法によっても行った。すなわち、従来法では、鋼塊2のトップ端面5の側から圧延ロール1に噛み込ませ、鋼塊2の一対のテーパー外周面7a,7bのトップ端面5側に凹部を形成した。その後、圧下を解放した状態で鋼塊2を圧延ロール1に通材し(1パス目)、次いで、同じ圧延ロール1にてボトム端面6側からトップ端面5側へ向けて圧延を行った(2パス目)。2パス目のボトム端面6側からトップ端面5側への圧延では、トップ端面5側に凹部を形成した面と同じテーパー外周面を圧下した。さらに、3パス目の圧延で上記の本発明例および比較例の2パス目と同じロール開度として、トップ端面5側からボトム端面6側へ向けて圧延を行った。表1に、各パスのロール開度を示す。
【0019】
圧延後に、本発明例、比較例、および従来例それぞれについてトップ端面5およびボトム端面6のフィッシュテール長さを調査した。フィッシュテール長さが従来例と同等以下であるものをフィッシュテールの発生「無」、従来例よりフィッシュテール長さが長いものをフィッシュテールの発生「有」として評価した。表1には、フィッシュテール発生状況の調査結果を合わせて示す。
【0020】
【表1】
【0021】
表1から明らかなように、係数aが0.55 ≦ a ≦ 0.65の範囲内となっている本発明例1〜本発明例3は、2パス目で圧延された後の鋼塊2のトップ面5及びボトム面6のフィッシュテールの評価結果が「無」であった。しかも、本発明例1〜本発明例3は、トップ側あるいはボトム側の一方のテーパー面に凹部を形成する工程がないため、1パス目でトップ側のテーパー面に凹部を形成している従来例よりも1パス分だけ少ないパス数(2パス)で、従来例と同じ厚み(3パス圧延後の厚さ)までの圧延を実施できた。
【0022】
一方、比較例1,2は、係数aが0.65を上回っているので、2パス目圧延後の鋼塊2のトップ面5にフィッシュテールが発生した。
さらに、比較例3,4は、係数aが0.55を下回っているので、1パス目で圧延された鋼塊2のボトム端面6にフィッシュテールが発生し、こが2パス目圧延後にも残っていた。
【符号の説明】
【0023】
1 圧延ロール
2 鋼塊
3 上部水平ロール
4 下部水平ロール
5 トップ端面
6 ボトム端面
7a,7b テーパー外周面
8a,8b 塑性変形部
トップ厚
ボトム厚
H ロール開度
a 係数
図1
図2
図3
図4
図5