特許第6798599号(P6798599)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6798599
(24)【登録日】2020年11月24日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】車速指令生成装置及び車速指令生成方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20201130BHJP
   B60W 30/14 20060101ALI20201130BHJP
   B60W 30/188 20120101ALI20201130BHJP
【FI】
   G01M17/007 B
   B60W30/14
   B60W30/188
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-216247(P2019-216247)
(22)【出願日】2019年11月29日
【審査請求日】2020年9月1日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】高橋 利道
【審査官】 森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−8925(JP,A)
【文献】 特開2017−53768(JP,A)
【文献】 特開平9−113418(JP,A)
【文献】 特開2011−85460(JP,A)
【文献】 特開2019−105506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00−17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実現すべき車両の速度に相当する車速指令が入力されると当該車速指令に応じて車両を操作する自動運転操作装置の車速制御装置について、当該車速制御装置に用いられる前記車速指令を生成する車速指令生成装置であって、
原車速指令を受信するとともに、当該原車速指令を基準遅れ時間だけ遅らせた基準車速指令と、前記原車速指令を前記基準遅れ時間よりも短い第1遅れ時間だけ遅らせた先出し車速指令と、前記原車速指令を前記基準遅れ時間よりも長い第2遅れ時間だけ遅らせた遅れ車速指令と、を生成するシフト処理部と、
前記先出し車速指令及び前記遅れ車速指令を用いて前記基準車速指令を補正することによって前記車速指令を生成する補正処理部と、を備えることを特徴とする車速指令生成装置。
【請求項2】
前記基準遅れ時間は、前記基準遅れ時間から前記第1遅れ時間を減算して得られる第1シフト時間及び前記第2遅れ時間から前記基準遅れ時間を減算して得られる第2シフト時間よりも長いことを特徴とする請求項1に記載の車速指令生成装置。
【請求項3】
前記補正処理部は、前記基準車速指令と前記先出し車速指令と前記遅れ車速指令とに基づいて前記基準車速指令に対する補正信号を生成し、前記基準車速指令と前記補正信号とを合わせることによって前記車速指令を生成することを特徴とする請求項1又は2に記載の車速指令生成装置。
【請求項4】
前記補正処理部は、
前記先出し車速指令の値から前記遅れ車速指令の値を減算したものを前記第2遅れ時間から前記第1遅れ時間を減算して得られる差時間で除算することによって差分傾き値を算出する差分傾き演算部と、
前記基準車速指令の値の微分値を算出する微分演算部と、
前記差分傾き値から前記微分値を減算して得られる値を積分することによって前記補正信号を生成する積分器と、を備えることを特徴とする請求項3に記載の車速指令生成装置。
【請求項5】
前記補正処理部は、
前記先出し車速指令の値から前記遅れ車速指令の値を減算したものを前記第2遅れ時間から前記第1遅れ時間を減算して得られる差時間で除算することによって差分傾き値を算出する差分傾き演算部と、
前記基準車速指令の値の微分値を算出する微分演算部と、
前記差分傾き値から前記微分値を減算して得られる値の積分値を算出する積分器と、
前記積分値に0から1の間の値の補正係数を乗算することによって前記補正信号を生成する乗算器と、を備えることを特徴とする請求項3に記載の車速指令生成装置。
【請求項6】
請求項1から5の何れかに記載の車速指令生成装置と、
前記原車速指令を生成する原車速指令生成装置と、
前記車速指令生成装置によって生成された前記車速指令に基づいて前記自動運転操作装置を制御する車速制御装置と、
前記車両の性能を測定する測定装置と、を備える車両試験システムであって、
前記測定装置は、前記原車速指令を前記基準遅れ時間だけ遅らせた信号又は前記基準車速指令と同期して作動することを特徴とする車両試験システム。
【請求項7】
実現すべき車両の速度に相当する車速指令が入力されると当該車速指令に応じて車両を操作する自動運転操作装置の車速制御装置について、当該車速制御装置に用いられる前記車速指令を生成する車速指令生成方法であって、
原車速指令を受信するとともに、当該原車速指令を基準遅れ時間だけ遅らせた基準車速指令と、前記原車速指令を前記基準遅れ時間よりも短い第1遅れ時間だけ遅らせた先出し車速指令と、前記原車速指令を前記基準遅れ時間よりも長い第2遅れ時間だけ遅らせた遅れ車速指令と、を生成する工程と、
前記先出し車速指令及び前記遅れ車速指令を用いて前記基準車速指令を補正することによって前記車速指令を生成する工程と、を備えることを特徴とする車速指令生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車速指令生成装置及び車速指令生成方法に関する。より詳しくは、自動運転操作装置の車速制御装置への入力として用いられる車速指令を生成する車速指令生成装置及び車速指令生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐久試験、排気浄化性能評価試験及び燃費計測試験等の車両試験は、例えばシャシダイナモメータのローラ上に実車両を実際に走行させることによって行われる。車両の開発段階では、実車両の運転は、人に代わって自動運転操作装置が行う場合がある。自動運転操作装置は、実現すべき車両の速度に相当する車速指令に基づいてアクチュエータを駆動し、車両のアクセルペダル、ブレーキペダル及びシフトレバー等を操作する。予め定められた車速指令に従った車両の運転は、モード運転と呼称される。
【0003】
このように車両の耐久性能、排気浄化性能及び燃費等を、人に替わって自動運転操作装置が行うモード運転の結果として評価する場合、このような試験に用いられる自動運転操作装置には、車速指令に忠実であることに加えてより人に近い車両の操作が可能であることが要求される。特許文献1には、このような人に近い車両の操作の実現を目的とした自動運転操作装置の制御方法が示されている。
【0004】
ところでモード運転において、実車両の実現すべき目標車速の波形の形状は、試験内容に応じた規格等において厳密に定められている。しかしながら実際の試験において、実際の車両で実現される車速に対しては、様々な誤差を考慮して、ある程度のずれが許容されている。以下では、車速指令値からずれが許容されている範囲を、トレランスともいう。
【0005】
特許文献1の発明では、自動運転操作装置へ入力する車速指令として、規格等によって予め定められた信号(以下、「原車速指令」ともいう)ではなく、この原車速指令になまし処理を施すことによって得られるものを用いることにより、より人に近い車両の操作を自動運転操作装置で実現しようとしている。すなわち原車速指令には、車速の傾きが不連続に変化する点が含まれている場合があるため(後述の図5参照)、このような原車速指令をそのまま自動運転操作装置へ入力すると、自動運転操作装置には急な加減速を要求することになり、実現される車速変化は、人の操作では実現されない不自然なものとなる場合がある。これに対し特許文献1の発明では、原車速指令になまし処理を施すことによってトレランスの範囲内で滑らかに変化するように生成した車速指令を自動運転操作装置に入力することにより、自動運転操作装置で人に近い車両の操作を実現しようとしている。
【0006】
ところで特許文献1のなまし処理では、許容車速上限値(すなわち、上記トレランスの上限値)の極小点や許容車速下限値(すなわち、上記トレランスの下限値)の極大点等の位置を特定し、これら極小点や極大点を通過する滑らかな修正曲線を算出し、さらにこの修正曲線と原車速指令に基づく車速指令値との加重平均を算出することにより、自動運転操作装置に入力する滑らかな車速指令を生成している。このため、特許文献1の発明では、試験開始する前に修正曲線を算出したり、加重平均の重み係数の値を調整したりする必要があるため、試験を開始するまでに長い時間がかかるおそれがある。
【0007】
これに対し本願出願人による特許文献2には、自動運転操作装置によって人に近い滑らかな操作を実現できる車速指令を、特許文献1に示すような事前のバッチ処理を経ずに簡易な逐次処理によって生成できる車速指令生成装置が示されている。
【0008】
特許文献2に示された車速指令生成装置では、許容車速上限値及び許容車速下限値を取得するとともに、これら許容車速上限値と許容車速下限値の平均値に基づいて車速指令を生成する。これら許容車速上限値と許容車速下限値の平均値は、原車速指令に基づく車速指令値の傾きに不連続な変化が現れるような過渡時において、原車速指令よりも早く変化するので、原車速指令をそのまま自動運転操作装置に入力した場合よりも急な加減速を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−113418号公報
【特許文献2】特開2019−105506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで特許文献2に示された車速指令生成装置では、原車速指令だけでなくトレランスの上限値や下限値の情報が必要となっている。しかしながら自動運転操作装置へ入力を与えるものとして現在広く用いられているドライバーズエイドと呼称されるコントローラは、トレランスに関する情報を出力する機能を備えないものが多い。このため特許文献2に示された車速指令生成装置は、既存のドライバーズエイドを利用して車速指令を生成することができない場合がある。
【0011】
本発明は、自動運転操作装置によって人に近い滑らかな操作を実現できる車速指令をトレランスに関する情報を用いることなく逐次処理によって生成できる車速指令生成装置及び車速指令生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明に係る車速指令生成装置(例えば、後述の車速指令生成装置1,1A)は、実現すべき車両の速度に相当する車速指令が入力されると当該車速指令に応じて車両を操作する自動運転操作装置の車速制御装置(例えば、後述の車速制御装置2)について、当該車速制御装置に用いられる前記車速指令を生成するものであって、原車速指令を受信するとともに、当該原車速指令を基準遅れ時間だけ遅らせた基準車速指令と、前記原車速指令を前記基準遅れ時間よりも短い第1遅れ時間だけ遅らせた先出し車速指令と、前記原車速指令を前記基準遅れ時間よりも長い第2遅れ時間だけ遅らせた遅れ車速指令と、を生成するシフト処理部(例えば、後述のシフト処理部12)と、前記先出し車速指令及び前記遅れ車速指令を用いて前記基準車速指令を補正することによって前記車速指令を生成する補正処理部(例えば、後述の補正処理部16,16A)と、を備えることを特徴とする。
【0013】
(2)この場合、前記基準遅れ時間は、前記基準遅れ時間から前記第1遅れ時間を減算して得られる第1シフト時間及び前記第2遅れ時間から前記基準遅れ時間を減算して得られる第2シフト時間よりも長いことが好ましい。
【0014】
(3)この場合、前記補正処理部は、前記基準車速指令と前記先出し車速指令と前記遅れ車速指令とに基づいて前記基準車速指令に対する補正信号を生成し、前記基準車速指令と前記補正信号とを合わせることによって前記車速指令を生成することが好ましい。
【0015】
(4)この場合、前記補正処理部は、前記先出し車速指令の値から前記遅れ車速指令の値を減算したものを前記第2遅れ時間から前記第1遅れ時間を減算して得られる差時間(例えば、後述のトータルシフト時間)で除算することによって差分傾き値を算出する差分傾き演算部(例えば、後述の差分傾き演算部162)と、前記基準車速指令の値の微分値を算出する微分演算部(例えば、後述の微分演算部161)と、前記差分傾き値から前記微分値を減算して得られる値を積分することによって前記補正信号を生成する積分器(例えば、後述の積分器167)と、を備えることが好ましい。
【0016】
(5)この場合、前記補正処理部は、前記先出し車速指令の値から前記遅れ車速指令の値を減算したものを前記第2遅れ時間から前記第1遅れ時間を減算して得られる差時間(例えば、後述のトータルシフト時間)で除算することによって差分傾き値を算出する差分傾き演算部(例えば、後述の差分傾き演算部162)と、前記基準車速指令の値の微分値を算出する微分演算部(例えば、後述の微分演算部161)と、前記差分傾き値から前記微分値を減算して得られる値の積分値を算出する積分器(例えば、後述の積分器167)と、前記積分値に0から1の間の値の補正係数を乗算することによって前記補正信号を生成する乗算器(例えば、後述の乗算器169)と、を備えることが好ましい。
【0017】
(6)本発明に係る車両試験システムは、(1)から(5)の何れかに記載の車速指令生成装置(例えば、後述の車速指令生成装置1,1A)と、前記原車速指令を生成する原車速指令生成装置(例えば、後述のドライバーズエイド5)と、前記車速指令生成装置によって生成された前記車速指令に基づいて前記自動運転操作装置を制御する車速制御装置(例えば、後述の車速制御装置2)と、前記車両の性能を測定する測定装置(例えば、後述の測定装置6)と、を備えるものであって、前記測定装置は、前記原車速指令を前記基準遅れ時間だけ遅らせた信号又は前記基準車速指令と同期して作動することを特徴とする。
【0018】
(7)本発明に係る車速指令生成方法は、実現すべき車両の速度に相当する車速指令が入力されると当該車速指令に応じて車両を操作する自動運転操作装置の車速制御装置について、当該車速制御装置に用いられる前記車速指令を生成する方法であって、原車速指令を受信するとともに、当該原車速指令を基準遅れ時間だけ遅らせた基準車速指令と、前記原車速指令を前記基準遅れ時間よりも短い第1遅れ時間だけ遅らせた先出し車速指令と、前記原車速指令を前記基準遅れ時間よりも長い第2遅れ時間だけ遅らせた遅れ車速指令と、を生成する工程と、前記先出し車速指令及び前記遅れ車速指令を用いて前記基準車速指令を補正することによって前記車速指令を生成する工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
(1)本発明において、シフト処理部は、例えばドライバーズエイドから送信される原車速指令を受信するとともに、この原車速指令を、基準遅れ時間、第1遅れ時間、及び第2遅れ時間だけ遅らせることによって基準車速指令、先出し車速指令、及び遅れ車速指令を生成し、補正処理部は、先出し車速指令及び遅れ車速指令を用いて基準車速指令を補正することによって車速指令を生成する。ここで第1遅れ時間は基準遅れ時間よりも短く、第2遅れ時間は基準遅れ時間よりも長い。このため基準車速指令、先出し車速指令、及び遅れ車速指令の波形は原車速指令と同じであるが、先出し車速指令は基準車速指令よりも先に変化し、遅れ車速指令は基準車速指令よりも後に変化する。このため、これら先出し車速指令及び遅れ車速指令を用いて基準車速指令を補正することにより、基準車速指令に基づく車速指令値の傾き(すなわち、加速度)に不連続な変化が現れるような過渡時には、車速指令値の傾きの変化が滑らかになるように基準車速指令を補正することができる。このため、自動運転操作装置によって人に近い滑らかな操作を実現できるような車速指令を、トレランスに関する情報を用いることなく生成することができる。また本発明では、ドライバーズエイドから送信される原車速指令を遅らせることによって生成される基準車速指令、先出し車速指令、及び遅れ車速指令を用いて車速指令を生成することから、原車速指令を受信しながら、逐次処理によって滑らかな操作を実現できるような車速指令を生成することができる。
【0020】
(2)後に図3を参照して説明するように、許容車速上限値及び許容車速下限値は、車速指令値に対し一定の車速クライテリア(すなわち、速度軸に沿ったクライテリア)だけでなく一定の時間クライテリア(すなわち、時間軸に沿ったクライテリア)も確保するように定められる。これに対し本発明では、基準遅れ時間(原車速指令と基準車速指令との間の時間差)を、第1シフト時間(先出し車速指令と基準車速指令との間の時間差)及び第2シフト時間(基準車速指令と遅れ車速指令との間の時間差)よりも長く設定する。これにより、トレランスによって許容される範囲内で車速指令値の傾きの変化が滑らかになるような車速指令を、逐次処理によって生成することができる。
【0021】
(3)本発明において補正処理部は、基準車速指令と先出し車速指令と遅れ車速指令とに基づいて基準車速指令に対する補正信号を生成し、基準車速指令と補正信号とを合わせることによって車速指令を生成する。これにより、原車速指令を基準遅れ時間だけ遅らせた基準車速指令をベースとして、自動運転操作装置によって人に近い滑らかな操作を実現できるような車速指令を生成することができる。
【0022】
(4)本発明において、差分傾き演算部は、先出し車速指令の値から遅れ車速指令の値を減算したものを、第2遅れ時間から第1遅れ時間を減算して得られる差時間で除算することによって差分傾き値を算出し、微分演算部は、基準車速指令の値の微分値を算出し、積分器は、差分傾き値から微分値を減算して得られる値を積分することによって補正信号を生成する。これにより、基準車速指令に基づく車速指令値の傾きに大きな変化が無い部分については基準車速指令を補正しないようにし、基準車速指令に基づく車速指令値の傾きに大きな変化が生じる部分についてはこの傾きの変化が緩やかになるように基準車速指令を補正することができる。
【0023】
(5)本発明において、差分傾き演算部は、先出し車速指令の値から遅れ車速指令の値を減算したものを、第2遅れ時間から第1遅れ時間を減算して得られる差時間で除算することによって差分傾き値を算出し、微分演算部は、基準車速指令の値の微分値を算出し、積分器は、差分傾き値から微分値を減算して得られる値の積分値を算出し、乗算器は、積分値に0から1の間の値の補正係数を乗算することによって補正信号を生成する。これにより、基準車速指令に基づく車速指令値の傾きに大きな変化が無い部分については基準車速指令を補正しないようにし、基準車速指令に基づく車速指令値の傾きに大きな変化が生じる部分についてはこの傾きの変化が緩やかになるように基準車速指令を補正することができる。また本発明によれば、補正係数の値の0から1の間で調整することにより、補正信号の大きさを調整することができる。これにより、オーバーシュートが生じやすそうな部分では補正係数の値を1に近づけ、車速指令を基準車速指令から大きく変化させることができ、またトレランスを外れそうな部分では補正係数の値を0に近づけ、車速指令を基準車速指令に近づけることができる。
【0024】
(6)上述のように車速指令生成装置によって生成される車速指令は、原車速指令生成装置によって生成される原車速指令に対し基準遅れ時間だけ遅れている。このため、車両試験システムにおいて、車速指令生成装置によって生成される車速指令に基づいて自動運転操作装置によって操作される車両の性能を、原車速指令と同期して作動する測定装置によって測定すると、基準遅れ時間だけ時間差が生じてしまい、正確な測定をできなくなってしまう場合がある。これに対し本発明では、測定装置を、原車速指令を基準遅れ時間だけ遅らせた信号又は基準車速指令と同期して作動させることにより、正確な測定を実現することができる。
【0025】
(7)本発明では、例えばドライバーズエイドから送信される原車速指令を受信するとともに、この原車速指令を、基準遅れ時間、第1遅れ時間、及び第2遅れ時間だけ遅らせることによって基準車速指令、先出し車速指令、及び遅れ車速指令を生成し、さらにこれら先出し車速指令及び遅れ車速指令を用いて基準車速指令を補正することによって車速指令を生成する。これにより、基準車速指令に基づく車速指令値の傾きに不連続な変化が現れるような過渡時には、車速指令値の傾きの変化が滑らかになるように基準車速指令を補正することができる。このため、自動運転操作装置によって人に近い滑らかな操作を実現できるような車速指令を、トレランスに関する情報を用いることなく生成することができる。また本発明では、ドライバーズエイドから送信される原車速指令を遅らせることによって生成される基準車速指令、先出し車速指令、及び遅れ車速指令を用いて車速指令を生成することから、原車速指令を受信しながら、逐次処理によって滑らかな操作を実現できるような車速指令を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の第1実施形態に係る車速指令生成装置及び車速指令生成方法が適用された車両試験システムの制御系の構成を示す図である。
図2】車速指令生成装置の制御回路の構成を示す図である。
図3】原車速指令値と許容車速上限値と許容車速下限値との関係を示す図である。
図4】原車速指令と、基準車速指令と、先出し車速指令と、遅れ車速指令との関係を示す図である。
図5】車速指令生成装置によって生成される目標車速指令の波形を示す図である。
図6】変形例の車速指令生成装置の制御回路の構成を示す図である。
図7】変形例の車速指令生成装置によって生成される目標車速指令の波形を示す図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る車両試験システムの制御系の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る車速指令生成装置1及び車速指令生成方法が適用された車両試験システムSの制御系の構成を示す図である。
【0028】
車両試験システムSは、ドライバーズエイド5と、車速指令生成装置1と、車速制御装置2と、制御対象3と、を備える。制御対象3は、例えば、実路面を模した走行抵抗を発生するシャシダイナモメータと、このシャシダイナモメータに搭載された試験対象としての車両とを含む。車両の運転席には、アクセルペダル、ブレーキペダル、シフトレバー、及びイグニッションスイッチ等の車両を走行させるために必要な装置を指令に応じて操作する自動運転操作装置が搭載されている。ドライバーズエイド5は、原車速指令を生成し、これを車速指令生成装置1へ送信する。車速指令生成装置1は、各時刻において実現すべき車両の速度に相当する車速指令値を算出するとともに、この車速指令値に応じた車速指令を生成し、車速制御装置2に入力する。車速制御装置2は、入力された車速指令を実現するように(換言すれば、実際の車両の車速が車速指令値をトレースするように)自動運転操作装置を制御する。
【0029】
なお図1には、自動運転操作装置を構成する複数のアクチュエータのうちアクセルアクチュエータへの入力であるアクセル開度指令の決定に係る部分のみを示す。自動運転操作装置には、車両のアクセルペダルを操作するアクセルアクチュエータの他、ブレーキペダルやシフトレバー等を操作するアクチュエータも含まれるが、これらへの入力を決定する構成については図示及び詳細な説明を省略する。以下、車速指令生成装置1及び車速制御装置2の構成について順に説明する。
【0030】
図2は、車速指令生成装置1の制御回路の構成を示す図である。
車速指令生成装置1は、ドライバーズエイド5から送信される原車速指令を受信するとともに、受信した車速指令に対し後述のシフト処理を施すことによって3つの車速指令(後述の基準車速指令、先出し車速指令、及び遅れ車速指令)を生成するシフト処理部12と、シフト処理部12から送信される3つの車速指令に基づいて目標車速指令を生成する補正処理部16と、を備える。
【0031】
ドライバーズエイド5は、試験内容に応じた規格等によって予め定められた原車速指令を生成し、この原車速指令をシフト処理部12へ送信する。ここで「車速指令」とは、目標車速の波形、すなわち複数の時刻と各時刻において実現すべき車両の速度の値(以下、「車速指令値」ともいう)とが関連付けられたデータの集合である。ここで原車速指令値には、許容車速範囲(以下、「トレランス」という)が定められている。以下では、トレランスの上限値を許容車速上限値といい、トレランスの下限値を許容車速下限値という。
【0032】
図3は、原車速指令値と許容車速上限値と許容車速下限値との関係を示す図である。図3において、実線は原車速指令値の一例を示し、2本の破線はこの原車速指令値に対する許容車速上限値及び許容車速下限値の一例を示す。
【0033】
上述のように原車速指令値は規格等によって定められたものが用いられる。しかしながら実際の試験において、実車両で実現される車速に対しては、様々な誤差を考慮して、ある程度のずれが許容されている。図3における破線枠は、ある時刻における原車速指令値に対し許容されるずれの範囲であるトレランスを示す。このトレランスは、原車速指令値と同様、規格等によって定められている。
【0034】
図3において破線枠で示すように、トレランスは、ある時刻の原車速指令値に対し、所定幅の速度クライテリア(すなわち、図3における、速度軸に沿ったクライテリア)だけでなく、所定幅の時間クライテリア(すなわち、図3における、時間軸に沿ったクライテリア)も確保するように定められている。日本で定められた一規格によれば、速度クライテリアは±2[km/h]であり、時間クライテリアは±1[s]である。このように原車速指値に対するトレランスは、速度クライテリアと時間クライテリアとの両方が確保されるように定められていることから、各時刻における許容車速上限値及び許容車速下限値は、それぞれ図3において破線で示すように、各時刻におけるトレランスの包絡線となる。
【0035】
以下では、速度クライテリアは±Cs[km/h](Csは、正の所定値)とし、時間クライテリアは±Ct[s](Ctは、正の所定値)とした場合について説明する。また以下では、車速の単位は[km/h]とした場合について説明するが、車速の単位は[mph]としてもよい。
【0036】
図2に戻り、原車速指令値に対しては以上のように許容車速上限値及び許容車速下限値も定められているが、以下では、ドライバーズエイド5は、原車速指令のみ出力する機能を備えるものを用いる場合について説明する。
【0037】
シフト処理部12は、基準車速指令生成部121と、先出し車速指令生成部122と、遅れ車速指令生成部123と、を備える。
【0038】
基準車速指令生成部121は、原車速指令を受信しながら、この原車速指令を予め定められた基準遅れ時間だけ遅らせることによって基準車速指令を逐次生成する。したがって、基準車速指令は、原車速指令よりも後に変化する。
【0039】
先出し車速指令生成部122は、原車速指令を受信しながら、この原車速指令を上記基準遅れ時間よりも短い第1遅れ時間だけ遅らせることによって先出し車速指令を逐次生成する。したがって、先出し車速指令は、原車速指令よりも後に変化するが、基準車速指令よりも先に変化する。
【0040】
遅れ車速指令生成部123は、原車速指令を受信しながら、この原車速指令を上記基準遅れ時間よりも長い第2遅れ時間だけ遅らせることによって遅れ車速指令を逐次生成する。したがって、遅れ車速指令は、原車速指令、先出し車速指令、及び基準車速指令よりも後に変化する。
【0041】
図4は、原車速指令と、基準車速指令と、先出し車速指令と、遅れ車速指令との関係を示す図である。図4に示すように、これら4つの車速指令は、波形の形状は何れも同じであるが、原車速指令、先出し車速指令、基準車速指令、及び遅れ車速指令の順で変化する。
【0042】
以下では、先出し車速指令と基準車速指令との間の時間差(基準遅れ時間−第1遅れ時間)を第1シフト時間という。また基準車速指令と遅れ車速指令との間の時間差(第2遅れ時間−基準遅れ時間)を第2シフト時間という。
【0043】
先ず、基準遅れ時間は、任意の長さに設定されるが、少なくとも第1シフト時間及び第2シフト時間よりも長く設定される。
【0044】
また以下では、第1シフト時間と第2シフト時間とは等しい場合について説明するが、本発明はこれに限らない。第1シフト時間と第2シフト時間とは異なる長さに設定してもよい。また以下では、第1及び第2シフト時間は、上述の時間クライテリアCtと同じ長さに設定した場合について説明するが、本発明はこれに限らない。これら第1及び第2シフト時間は、時間クライテリアCtより短く設定してもよいし長く設定してもよいが、実現される車速がトレランスから外れてしまわないようにするためには、これら第1及び第2シフト時間は、時間クライテリアCtに近いほうが好ましい。また以下では、第2遅れ時間から第1遅れ時間を減算して得られる時間、すなわち第1シフト時間と第2シフト時間とを合算して得られる時間を、トータルシフト時間という。したがって、上記のように第1及び第2シフト時間をCtとした場合、トータルシフト時間は2Ctとなる。
【0045】
図2に戻り、補正処理部16は、シフト処理部12から送信される基準車速指令、先出し車速指令、及び遅れ車速指令を受信しながら、これら基準車速指令、先出し車速指令、及び遅れ車速指令を用いて基準車速指令を補正することによって目標車速指令を逐次生成する。
【0046】
補正処理部16は、微分演算部161と、差分傾き演算部162と、第1フィルタ163と、第2フィルタ164と、第3フィルタ165と、減算器166と、積分器167と、加算器168と、を備える。なお図2において“s”はラプラス演算子である。
【0047】
微分演算部161は、シフト処理部12から送信される基準車速指令に対し微分演算を施すことにより、基準車速指令値の微分値を算出する。より具体的には、微分演算部161では、基準車速指令に対し図2に示すように所定の時定数Tによって特徴付けられた疑似微分を施すことによって、基準車速指令値の微分値を算出する。
【0048】
差分傾き演算部162は、シフト処理部12から送信される先出し車速指令値から遅れ車速指令値を減算したものをトータルシフト時間2Ctで除算することによって差分傾き値を算出する。
【0049】
フィルタ163,164,165は、各々の入力から高周波数成分のノイズを除去して出力するローパスフィルタである。より具体的には、第1フィルタ163はシフト処理部12から送信される基準車速指令値からノイズを除去し、第2フィルタ164は微分演算部161によって算出される基準車速指令値の微分値からノイズを除去し、第3フィルタ165は差分傾き演算部162によって算出される差分傾き値からノイズを除去する。
【0050】
減算器166は、第3フィルタ165を経た差分傾き値から第2フィルタ164を経た基準車速指令値の微分値を減算する。積分器167は、減算器166において算出される差分傾き値と基準車速指令値の微分値との差を積分することによって基準車速指令に対する補正信号を生成する。
【0051】
加算器168は、第1フィルタ163を経た基準車速指令と積分器167によって生成された補正信号とを合わせることによって目標車速指令を生成する。
【0052】
次に、図1に戻り、車速制御装置2の構成について説明する。車速制御装置2は、例えば、図1に示すように駆動力特性マップを用いたフィードフォワード制御とPI制御とを組み合わせた制御方法によって、目標車速指令の追従制御を行う。以下、この車速制御装置2の具体的な構成について説明する。
【0053】
駆動力特性マップ演算部21は、所定の入力(目標車速指令及び目標駆動力)と車両のアクセルペダルの開度とが関連付けられた駆動力特性マップ(図示省略)を有する。この駆動力特性マップは、試験対象である車両について事前に実験を行うことによって作成されたものが用いられる。駆動力特性マップ演算部21は、上述のようにして生成された目標車速指令と、図示しない処理によって決定された目標駆動力とが入力されると、上述の駆動力特性マップを検索し、これら入力に応じたアクセル開度を決定する。
【0054】
車速フィードバック演算部22は、車両感度演算部23と、比例演算部24と、積分演算部25と、加算部26と、を備える。車両感度演算部23は、上記演算部21が有するものと同じ駆動力特性マップを用いて、車両の感度(駆動力変化/アクセル開度変化)の逆数を算出する。比例演算部24は、車両感度に応じて可変される比例ゲインを車速偏差(目標車速指令−実車速)に乗算する。積分演算部25は、比例演算部24の出力を積分する。加算部26は、比例演算部24の出力と積分演算部25の出力とを加算する。
【0055】
以上のような駆動力特性マップ演算部21の出力と車速フィードバック演算部22の出力は、加算部27によって加算され、アクセルペダルの開度に対するアクセル開度指令として制御対象3に入力される。制御対象3である車両及びシャシダイナモメータシステムは、車両駆動系31と、加算部32と、車両慣性系33と、に分けられる。車両駆動系31は、アクセル開度指令が入力されると、これに応じた駆動力を発生する。車両慣性系33には、車両駆動系31が発生する駆動力からシャシダイナモメータシステムで発生する走行抵抗を減じて得られる車両の加速力が入力される。車両慣性系33は、車両の加速力が入力されると、これに応じた車速を発生する。
【0056】
以上、車速制御装置2の具体的な構成について説明したが、本発明はこれに限るものではない。車速制御装置2には、目標車速指令に対する追従機能を備えたものであればどのようなものでもよい。
【0057】
図5は、車速指令生成装置1によって生成される目標車速指令の波形を示す図である。図5には、原車速指令と、この原車速指令に付随して設定されるトレランスの許容車速上限値及び許容車速下限値と、車速指令生成装置1によって生成される補正信号及び目標車速指令を示す。なお図5では、理解を容易にするため、原車速指令を基準遅れ時間だけ遅らせて図示する。すなわち、図5において原車速指令と基準車速指令とは等しい。
【0058】
ドライバーズエイド5によって生成される原車速指令には、図5の時刻t1、t2、t3、t4に示すように、原車速指令値の傾きに不連続な変化が現れる点が含まれている場合がある。このため原車速指令をそのまま自動運転操作装置の車速制御装置2へ入力すると、車速の傾きに不連続な変化が現れるような過渡時において、実際の車速が原車速指令からオーバーシュートしたりアンダーシュートしたりしてしまい、人による操作では実現されない不自然な挙動を示したり、トレランスから外れてしまう場合がある。
【0059】
これに対し車速指令生成装置1では、ドライバーズエイド5によって原車速指令をシフト処理部12へ送信する工程と、シフト処理部12において原車速指令を受信しながら、この原車速指令を遅らせることによって基準車速指令、先出し車速指令、及び遅れ車速指令を生成する工程と、補正処理部16において基準車速指令、先出し車速指令、及び遅れ車速指令を用いて補正信号を生成するとともに、この補正信号を基準車速指令に加えることによって基準車速指令を補正する工程と、を経て目標車速指令を生成する。
【0060】
図5に示すように、原車速指令値の傾きの変化が小さな定常時には、車速指令生成装置1によって生成される補正信号はほぼ0になるため、目標車速指令の波形は原車速指令の波形とほぼ一致する。
【0061】
これに対し原車速指令値の傾きに不連続な変化が現れるような過渡時(時刻t1、t2、t3、t4の前後)には、補正信号は0から変化する。より具体的には、原車速指令値の傾きが正側へ不連続に変化する場合(時刻t1、t4の前後)には、補正信号は正側へ凸状に変化し、原車速指令値の傾きが負側へ不連続に変化する場合(時刻t2、t3の前後)には、補正信号は負側へ凸状に変化する。したがってこのような補正信号と基準車速指令とを合わせて得られる目標車速指令の波形は、原車速指令の傾きに不連続な変化が現れるような過渡時では滑らかになる。このため車速指令生成装置1によって生成される目標車速指令を自動運転操作装置の車速制御装置2へ入力することにより、実際の車速がオーバーシュートしたりアンダーシュートしたりするのを防止でき、ひいては原車速指令をそのまま入力した場合よりも人に近い操作を実現することができる。
【0062】
本実施形態に係る車速指令生成装置1によれば、以下の効果を奏する。
(1)シフト処理部12は、ドライバーズエイド5から送信される原車速指令を受信するとともに、この原車速指令を、基準遅れ時間、第1遅れ時間、及び第2遅れ時間だけ遅らせることによって基準車速指令、先出し車速指令、及び遅れ車速指令を生成し、補正処理部16は、先出し車速指令及び遅れ車速指令を用いて基準車速指令を補正することによって目標車速指令を生成する。ここで基準車速指令、先出し車速指令、及び遅れ車速指令の波形は原車速指令と同じであるが、先出し車速指令は基準車速指令よりも先に変化し、遅れ車速指令は基準車速指令よりも後に変化する。このため、これら先出し車速指令及び遅れ車速指令を用いて基準車速指令を補正することにより、基準車速指令値の傾き(すなわち、加速度)に不連続な変化が現れるような過渡時には、車速指令値の傾きが滑らかになるように基準車速指令を補正し、目標車速指令を生成することができる。このため、自動運転操作装置によって人に近い滑らかな操作を実現できるような目標車速指令を、トレランスに関する情報を用いることなく生成することができる。また車速指令生成装置1では、ドライバーズエイド5から送信される原車速指令を遅らせることによって生成される基準車速指令、先出し車速指令、及び遅れ車速指令を用いて目標車速指令を生成することから、原車速指令を受信しながら、逐次処理によって滑らかな操作を実現できるような目標車速指令を生成することができる。
【0063】
(2)車速指令生成装置1では、基準遅れ時間を、第1シフト時間及び第2シフト時間よりも長く設定する。これにより、トレランスによって許容される範囲内で車速指令値の傾きが滑らかになるような目標車速指令を、逐次処理によって生成することができる。
【0064】
(3)補正処理部16は、基準車速指令と先出し車速指令と遅れ車速指令とに基づいて基準車速指令に対する補正信号を生成し、基準車速指令と補正信号とを合わせることによって目標車速指令を生成する。これにより、原車速指令を基準遅れ時間だけ遅らせた基準車速指令をベースとして、自動運転操作装置によって人に近い滑らかな操作を実現できるような目標車速指令を生成することができる。
【0065】
(4)差分傾き演算部162は、先出し車速指令値から遅れ車速指令値を減算したものを、トータルシフト時間2Ctで除算することによって差分傾き値を算出し、微分演算部161は、基準車速指令の値の微分値を算出し、積分器167は、差分傾き値から微分値を減算して得られる値を積分することによって補正信号を生成する。これにより、基準車速指令値の傾きに大きな変化が無い部分については基準車速指令を補正しないようにし、基準車速指令値の傾きに大きな変化が生じる部分についてはこの傾きの変化が緩やかになるように基準車速指令を補正することができる。
【0066】
以上、本発明の第1実施形態について説明したが、本発明はこれに限らない。本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜変更してもよい。
【0067】
図6は、変形例の車速指令生成装置1Aの制御回路の構成を示す図である。
車速指令生成装置1Aは、上記実施形態に係る車速指令生成装置1と、補正処理部16Aの構成が異なる。より具体的には、補正処理部16Aは、図2に示す補正処理部16に対し乗算器169をさらに備える点において異なる。
【0068】
積分器167は、減算器166において算出される差分傾き値と基準車速指令値の微分値との差の積分値を算出する。乗算器169は、積分器167において算出される積分値に所定の補正係数Kを乗算することによって補正信号を生成する。この補正係数Kの値は、0から1の間の任意の値に設定される。またこの補正係数Kの値は、一定としてもよいし、予め定められたスケジュールに沿って変化させてもよい。
【0069】
図7は、変形例の車速指令生成装置1Aによって生成される目標車速指令の波形を示す図である。図7には、原車速指令と、この原車速指令に付随して設定されるトレランスの許容車速上限値及び許容車速下限値と、車速指令生成装置1によって生成される目標車速指令を示す。また図7には、補正係数Kの値を0.25とした場合の結果を示す。
【0070】
補正係数Kの値を1に近づけると、車速指令生成装置1Aによって生成される目標車速指令の波形は、上述の車速指令生成装置1によって生成される目標車速指令の波形に近づく。また図6図7とを比較して明らかなように、補正係数Kの値を0に近づけると、車速指令生成装置1Aによって生成される目標車速指令の波形は、基準車速指令(原車速指令)の波形に近づく。
【0071】
従って例えば、補正係数Kの値を1とした場合に、実際の車速がオーバーシュートしないがトレランスを外れてしまいそうになる区間が存在する場合には、この区間内でのみ補正係数Kの値を0に近づけることにより、目標車速指令を基準車速指令に近づけ、トレランスから外れないようにすることができる。
【0072】
変形例の車速指令生成装置1Aによれば、以下の効果を奏する。
(5)積分器167は、差分傾き値から微分値を減算して得られる値の積分値を算出し、乗算器169は、積分値に0から1の間の値の補正係数Kを乗算することによって補正信号を生成する。これにより、基準車速指令値の傾きに大きな変化が無い部分については基準車速指令を補正しないようにし、基準車速指令値の傾きに大きな変化が生じる部分についてはこの傾きの変化が緩やかになるように基準車速指令を補正することができる。また車速指令生成装置1Aによれば、補正係数Kの値の0から1の間で調整することにより、補正信号の大きさを調整することができる。これにより、オーバーシュートが生じやすそうな部分では補正係数Kの値を1に近づけ、目標車速指令を基準車速指令から大きく変化させることができ、またトレランスを外れそうな部分では補正係数Kの値を0に近づけ、目標車速指令を基準車速指令に近づけることができる。
【0073】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図8は、本実施形態に係る車両試験システムSBの制御系の構成を示す図である。なお以下の第2実施形態に係る車両試験システムSBの説明において、上記第1実施形態に係る車両試験システムSと同じ構成については同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。車両試験システムSBは、測定装置6を備える点が車両試験システムSと異なる。
【0074】
測定装置6は、シャシダイナモメータに搭載された車両の性能を測定する。測定装置6は、例えば、走行中の車両から排出される排ガスに含まれる特定成分の量を測定する排ガス分析計であるが、本発明はこれに限らない。
【0075】
以上のような測定装置6を備える車両試験システムSBでは、一般的には、測定装置6をドライバーズエイド5によって生成される原車速指令と同期して作動させる。しかしながら図4を参照して説明したように、車速指令生成装置1によって生成される目標車速指令は、原車速指令に対し基準遅れ時間だけ遅れているため、測定装置6を原車速指令と同期して作動させると、基準遅れ時間だけ時間差が生じてしまい、正確な測定をできなくなってしまう場合がある。
【0076】
そこで本実施形態に係る車両試験システムSBでは、測定装置6を、車速指令生成装置1のシフト処理部12において生成される基準車速指令と同期して作動させる。またドライバーズエイド5が、原車速指令と、この原車速指令を基準遅れ時間だけ遅らせた基準車速指令とを生成する機能を備える場合には、測定装置6を、ドライバーズエイド5によって生成される基準車速指令と同期して作動させてもよい。本実施形態に係る車両試験システムSBによれば、車速指令生成装置1によって自動運転操作装置によって人に近い滑らかな操作を実現できるような目標車速指令を生成しつつ、測定装置6によって正確な測定を実現することができる。
【符号の説明】
【0077】
S,SB…車両試験システム
1,1A…車速指令生成装置
12…シフト処理部
121…基準車速指令生成部
122…先出し車速指令生成部
123…遅れ車速指令生成部
16,16A…補正処理部
161…微分演算部
162…差分傾き演算部
167…積分器
169…乗算器
2…車速制御装置
3…制御対象
5…ドライバーズエイド(原車速指令生成装置)
6…測定装置

【要約】
【課題】自動運転操作装置によって人に近い滑らかな操作を実現できる車速指令をトレランスに関する情報を用いることなく逐次処理によって生成できる車速指令生成装置。
【解決手段】車速指令生成装置1は、自動運転操作装置の車速制御装置に用いられる目標車速指令を生成する。車速指令生成装置1は、ドライバーズエイド5から送信される原車速指令を受信するとともに、この原車速指令を基準遅れ時間だけ遅らせた基準車速指令と、原車速指令を基準遅れ時間よりも短い第1遅れ時間だけ遅らせた先出し車速指令と、原車速指令を基準遅れ時間よりも長い第2遅れ時間だけ遅らせた遅れ車速指令と、を生成するシフト処理部12と、先出し車速指令及び遅れ車速指令を用いて基準車速指令を補正することによって目標車速指令を生成する補正処理部16と、を備える。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8