特許第6798699号(P6798699)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6798699
(24)【登録日】2020年11月24日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】マイクロホン
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/28 20060101AFI20201130BHJP
   H04R 1/02 20060101ALI20201130BHJP
   H04R 1/08 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   H04R1/28 320Z
   H04R1/02 106
   H04R1/08
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-41657(P2017-41657)
(22)【出願日】2017年3月6日
(65)【公開番号】特開2018-148406(P2018-148406A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2020年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】池田 達也
【審査官】 大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−318899(JP,A)
【文献】 特開2006−211302(JP,A)
【文献】 特開2008−093360(JP,A)
【文献】 特開2017−017425(JP,A)
【文献】 特開平05−207583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/02
H04R 1/08
H04R 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面に開口部を形成し前記開口部内にマイクロホンユニットを収容したマイクロホンケースと、前記マイクロホンケースの前面の開口部に沿って背面側が貼着された両面粘着テープと、前記マイクロホンケースの前記開口部を覆うようにして、前記両面粘着テープの前面側に貼着されたフィルタ部材が備えられ、
前記両面粘着テープには、前記フィルタ部材を介した音波を前記マイクロホンユニットに与える音導入孔が形成されることを特徴とするマイクロホン。
【請求項2】
前記両面粘着テープには、特定の周波数の応答特性を調整するレゾネータの機能を持たせたことを特徴とする請求項1に記載のマイクロホン。
【請求項3】
前記両面粘着テープには、少なくとも周方向に複数個の音導入孔が、配置されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロホン。
【請求項4】
前記フィルタ部材は、前記マイクロホンユニットに加わるポップノイズ、風雑音を低減させることを特徴とする請求項1に記載のマイクロホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主に高域の周波数応答特性を調整するために、振動板の前面にレゾネータ(音響共振器)を備えたマイクロホンに関する。
【背景技術】
【0002】
高域の周波数応答特性を調整する手段として、振動板の前面にレゾネータを配置したマイクロホンが提供されている。このレゾネータには、振動板に対して音波を取り入れる音導入孔が備えられ、この音導入孔の形状や開口寸法、音導入孔の数や配列等の組み合わせにより、マイクロホンの主に高域の周波数応答特性を調整することができる。
前記レゾネータは、金属素材や樹脂により成形されて、マイクロホンケースの前面開口に嵌め込むことで、または螺合させることで取り付けられる例が多く、このレゾネータの例は特許文献1に開示されている。
【0003】
一方、振動板の前面にレゾネータを配置したマイクロホンにおいて、レゾネータの前面にさらにフィルタ部材として発泡ウレタン(スポンジ)等を配置することで、ポップノイズや風雑音の低減、さらにはマイクロホンユニットへの塵埃の侵入を防止させる提案もなされており、これは例えば特許文献2に開示されている。
この特許文献2には、レゾネータ(イコライザ)の前面に接着により発泡ウレタンが取り付けられることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−103604号公報
【特許文献2】特開平10−336777号公報
【0005】
図5A図5Cは、レゾネータの前面にフィルタ部材として、発泡ウレタンを配置した特許文献2に開示されたマイクロホンについて、これをコンデンサマイクロホンに採用した例で示している。この図5A図5Cに示す例は、金属素材により有底筒状に形成されたマイクロホンケース1の前面側に、発泡ウレタン2が取り付けられている。
そして、図5Aに示すマイクロホンケース1と発泡ウレタン2との間のb−b線から、両者間に介在される両面粘着テープ3を見た状態を図5Bに示している。またb−b線から、マイクロホンケース1に施された複数の音導入孔1fを備えたレゾネータ1eを見た状態を図5Cに示している。
【0006】
両面粘着テープ3は、図5Bに示したようにリング状に成形されて、その中央の大部分が円形状の大きな開口部3cになされている。そしてリング状の両面粘着テープ3は、図5Cに示すマイクロホンケース1に一体成形されたレゾネータ1eの周縁に沿って貼着され、フィルタ部材としての前記した発泡ウレタン2が、レゾネータ1eの前面を覆うようにして、前記両面粘着テープ3によって取り付けられている。
【0007】
また、マイクロホンケース1に一体に形成された前記レゾネータ1eの直後に、振動板(図示せず)とこの振動板の背面に対峙する固定電極(図示せず)を収容したコンデンサマイクロホンのユニットケース4が配置されている。
なお、図5A図5Cに示す例は、マイクロホンケース1にレゾネータ1eを一体に形成した構成と、両面粘着テープ3の形状を除いて、後で説明する図1A図1Cに示したこの発明に係る実施の形態と同一である。
したがって、図5A図5C図1A図1Cにおいては、同一の機能を果たす部分を同一符号で示し、その詳細な説明は図1A図1Cに基づいて後で説明する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、図5A図5Cに示したマイクロホンによると、金属素材による有底筒状のマイクロホンケース1の前面に、レゾネータ1eの機能を果たす複数の音導入孔1fが備えられる。このように、複数の音導入孔1fを備えるレゾネータ1eを、マイクロホンケース1に一体に形成するには、これを成形するために金型が必要となる。
【0009】
また、前記したレゾネータ1eの機能を果たす音導入孔1fは、前記したとおり、その形状や開口寸法、その数や配列等の組み合わせにより、マイクロホンの高域特性を種々選択することができる。したがってユーザの希望により複数種類のレゾネータ1eを用意する必要が生ずる場合があり、それに応じた複数の金型を用意することになるために、金型の製作に時間を要すると共に、コストアップは避けられないものとなる。
【0010】
したがって、この発明が解決しようとする主要な課題は、個々に異なる種類の金型を用意することなく、すなわち大きなコストアップを伴うことなく、ユーザの要求に応じて、各種のレゾネータを備えたマイクロホンを、容易にかつ短時間において提供できるようにする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を解決するためになされたこの発明に係るマイクロホンは、前面に開口部を形成し前記開口部内にマイクロホンユニットを収容したマイクロホンケースと、前記マイクロホンケースの前面の開口部に沿って背面側が貼着された両面粘着テープと、前記マイクロホンケースの前記開口部を覆うようにして、前記両面粘着テープの前面側に貼着されたフィルタ部材が備えられ、前記両面粘着テープには、前記フィルタ部材を介した音波を前記マイクロホンユニットに与える音導入孔が形成されることを特徴とする。
【0012】
この場合、前記両面粘着テープには、特定の周波数の応答特性を調整するレゾネータとしての機能を果たす。そして、前記両面粘着テープには、少なくとも周方向に複数個の音導入孔が、配置されていることが望ましい。
一方、前記フィルタ部材は、前記マイクロホンユニットに加わるポップノイズ、風雑音を低減させるように作用する。
【発明の効果】
【0013】
前記した構成のマイクロホンによると、マイクロホンケースの前面側の開口部を覆うように両面粘着テープを介して、例えば発泡ウレタンにより構成されるフィルタ部材が貼着される。そして、フィルタ部材を介した音波を振動板に与える音導入孔を、両面粘着テープに適宜形成させることで、特定の周波数の応答特性を調整することができるレゾネータとしての機能を、両面粘着テープに持たせることができる。
したがって、両面粘着テープに対して音導入孔を形成させることができる例えば治具等を用意することで、所望の周波数応答特性を有するレゾネータを得ることができ、コストアップを伴うことなく、希望する応答特性を備えたマイクロホンを、容易にかつ短時間において提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】この発明に係るマイクロホンの一例を示した中央断面図である。
図1B図1Aのa−a線より両面粘着テープ側を見た状態の正面図である。
図1C図1Aのa−a線よりマイクロホンケース側を見た状態の正面図である。
図2図1Aに示すマイクロホンの周波数特性の実測値を示したグラフである。
図3】同じくポーラパターンの実測値を示したグラフである。
図4】比較例として、両面粘着テープの中央部に大径の開口部を形成させた場合の周波数特性の実測値を示したグラフである。
図5A】従来のマイクロホンの一例を示した中央断面図である。
図5B図5Aのb−b線より両面粘着テープ側を見た状態の正面図である。
図5C図5Aのb−b線よりマイクロホンケース側を見た状態の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明に係るマイクロホンについて、図1A図1Cに示す実施の形態に基づいて説明する。
このマイクロホンについては、その一部の構成について図5A図5Cに基づいてすでに説明したとおり、金属素材により形成された円筒状のマイクロホンケース1の前面側に、両面粘着テープ3を介してフィルタ部材としての発泡ウレタン2が貼着されて取り付けられる。
【0016】
前記マイクロホンケース1には、図1Cに示したように前面側に円形状の開口部1aが形成されて、この開口部1aとマイクロホンケース1の周側面との間に、リング状の縁面1bが形成されている。この縁面1bに沿って、図1Bに示した両面粘着テープ3の裏面が貼着され、さらに両面粘着テープ3の前面側に、円板状に成形されたフィルタ部材としての発泡ウレタン2が貼着されて取り付けられる。
【0017】
前記マイクロホンケース1の周側面には、軸方向に沿って複数本のスリット状の側面側開口部1cが形成されており、このスリット状の側面側開口部1cの内側に沿ってメッシュ状の円筒体5が取り付けられている。
なお、この例に示すマイクロホンは単一指向性コンデンサマイクロホンを構成しておりマイクロホンケース1に施された側面側開口部1cは、後部音響端子孔を構成するものとなる。
【0018】
図1Bに示したように両面粘着テープ3には、複数の音導入孔3aが形成されており、図に示す例においては、中央部に配置された音導入孔3aを取り囲むように8つの音導入孔3aが周方向に沿って等間隔に配置されている。そしてこれらの音導入孔3aは、全て同一径の丸孔として形成されている。
【0019】
複数の音導入孔3aを備えた両面粘着テープ3は、レゾネータとしての機能を果たすものであり、前記フィルタ部材(発泡ウレタン)2を介して到来する音波が、後述するユニットケース4内のマイクロホンユニットに作用するにあたり、このレゾネータにより主に高域の周波数応答特性を調整することができる。なお、これらの音導入孔3aは、単一指向性コンデンサマイクロホンの前部音響端子孔として機能するものとなる。
一方、両面粘着テープ3の前面に貼着されて配置されたフィルタ部材としての発泡ウレタン2は、振動板に加わるポップノイズ(話者が発する破裂音の気流による雑音)や風雑音(風が当たることにより生ずる雑音)を低減させると共に、マイクロホンユニットへの塵埃の侵入を防止させる機能も果たす。
【0020】
前記マイクロホンケース1内には、リング状の縁面1bに沿ってフロントメッシュ6が配置されており、このフロントメッシュ6の背部に、ユニットケース4を中央部に支持した軟質ゴムによるユニットホルダ7が装着されている。なお、前記ユニットホルダ7にはユニットケース4を囲むようにして、複数の連通孔7aが軸方向に形成されており、この連通孔7aは前記フロントメッシュ6を介してユニットケース4の前後に連通しており、これによりマイクロホンの音響特性を整える機能を果たしている。
そして、ユニットケース4を支持するユニットホルダ7は、その周側面に配置された金属製の支持部材8を介してマイクロホンケース1内に取り付けられている。
【0021】
前記ユニットケース4は、例えばアルミニウム素材により形成されており、このユニットケース4内には、図示していないが前面側に振動板が配置され、この振動板の背面に固定電極が配置されてコンデンサマイクロホンユニットを構成している。
そして、ユニットケース4の背面中央に突出する引き出し電極ロッドに接続されたクリップ端子9に、信号リード線10が接続されている。また、ユニットケース4の背面に形成されたグランド端子4aには、グランドリード線11が接続されている。
これらの各リード線10,11は、マイクロホンケース1に取り付けられた前記支持部材8と一体の支持部材後部8aに形成された中央孔を介して引き出されており、各リード線10,11は中央孔を埋める接着剤13により固定されている。
【0022】
図2は、図1A図1Cに示したこの発明に係るコンデンサマイクロホンの周波数応答特性を示しており、図3は1000Hzのポーラパターンを示している。
なお、図2に示す周波数応答特性は、周知のとおり横軸が周波数を、縦軸が出力レベル(dBV)を示しており、特性A,B,Cは、それぞれマイクロホンの指向軸に対して0度、90度、180度の周波数応答特性を示している。
また図4は、図2に示したこの発明に係るコンデンサマイクロホンの周波数応答特性との比較のために示したものであり、これは両面粘着テープ3の中央部に大径の開口部(すなわち、図5Bに示した例と同様な開口部3c)を施し、実質的にレゾネータの機能が無い場合の周波数応答特性を示している。そして図4の特性A,B,Cは同様に、マイクロホンの指向軸に対して0度、90度、180度の周波数応答特性を示している。
【0023】
レゾネータの機能のない図4に示す指向軸0度(特性A)の結果に注目すると、12KHz付近に比較的大きなピークp1が生じているのに対して、この発明に係る図2に示す指向軸0度(特性A)の結果によると、そのピークp1が効果的に抑えられて、聞き取り易い平坦な特性に改善されている。これにより、図1Bに示した両面粘着テープ3は、レゾネータとしての機能を十分に発揮していることが理解できる。
【0024】
以上のように、この発明に係るマイクロホンによると、フィルタ部材としての発泡ウレタン2の取り付けの機能を兼ねる両面粘着テープ3に、適宜の音導入孔3aを形成して、これをレゾネータとして利用するものであるため、金型を要する従来のレゾネータの製作に比較して格段のコストダウンを図ることができる。
また希望する応答特性を備えたマイクロホンを、容易にかつ短時間において提供することができるなど、前記した発明の効果の欄に記載したとおりの作用効果を得ることができる。
【0025】
なお以上の説明は、コンデンサマイクロホンを例にしているが、この発明は例えばダイナミックマイクロホンを含むその他のマイクロホンに対しても同様に採用することができ、同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0026】
1 マイクロホンケース
1a 前面側開口部
1b 縁面
1c 側面側開口部
2 フィルタ部材(発泡ウレタン)
3 両面粘着テープ(レゾネータ)
3a 音導入孔
4 ユニットケース(マイクロホンユニット)
4a グランド端子
5 メッシュ状円筒体
6 フロントメッシュ
7 ユニットホルダ
7a 連通孔
8 支持部材
8a 支持部材後部
9 クリップ端子
10 信号リード線
11 グランドリード線
13 接着剤
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C