特許第6798810号(P6798810)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6798810
(24)【登録日】2020年11月24日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】フォイル軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 27/02 20060101AFI20201130BHJP
【FI】
   F16C27/02
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-143490(P2016-143490)
(22)【出願日】2016年7月21日
(65)【公開番号】特開2018-13188(P2018-13188A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2019年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】吉野 真人
(72)【発明者】
【氏名】藤原 宏樹
【審査官】 藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 中国実用新案第201373019(CN,Y)
【文献】 特開2013−047555(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受面を有するトップフォイル部と、前記トップフォイル部を背後から弾性的に支持するバックフォイル部と、前記トップフォイル部及び前記バックフォイル部が取り付けられたフォイルホルダとを備え、相対回転する軸と前記軸受面との間の軸受隙間に生じる流体圧で、前記軸を非接触支持するフォイル軸受において、
前記トップフォイル部の下流側端部に複数の切り欠き部を設け、
前記バックフォイル部が、平坦部と、前記平坦部から前記トップフォイル部側に突出した複数の半球状の第一突出部と、前記平坦部から前記トップフォイル部と反対側に突出した複数の半球状の第二突出部とを有し、
前記バックフォイル部の複数の半球状の第一突出部が、軸の相対回転方向と直交する方向で離隔した複数箇所で前記トップフォイル部と接触し、
前記バックフォイル部の複数の半球状の第二突出部が、軸の相対回転方向と直交する方向で離隔した複数箇所で前記フォイルホルダと接触し、
前記軸受隙間に生じる流体圧により前記平坦部が変形するフォイル軸受。
【請求項2】
前記バックフォイル部の下流側端部に複数の切り欠き部を設けた請求項1に記載のフォイル軸受。
【請求項3】
前記バックフォイル部の下流側端部が、前記相対回転方向で、前記トップフォイル部の下流側端部よりも下流側に配された請求項2に記載のフォイル軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォイル軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
フォイル軸受は、可撓性を有する金属薄板(フォイル)で軸受面を構成するものであり、フォイルが撓むことにより、軸の回転速度や荷重、周囲温度等の運転条件に応じて軸受隙間が適切な幅に自動調整されるという特徴を有する。
【0003】
例えば下記の特許文献1には、スラスト荷重を支持するスラストフォイル軸受の一例として、バンプ型と呼ばれるフォイル軸受が開示されている。このフォイル軸受は、図16に示すように、トップフォイル114と、トップフォイル114を背後から弾性的に支持するバックフォイル112(バンプフォイル)と、トップフォイル114およびバックフォイル112が取り付けられたベースプレート110とを有する。
【0004】
軸が回転すると、トップフォイル114の軸受面114aとスラストカラー115との間に、下流側に向けて隙間幅を小さくした楔状の軸受隙間Cが形成される。そして、軸受隙間Cの大隙間部C1の流体が小隙間部C2に押し込まれることにより流体圧が高められ、スラストカラー115が非接触支持される。このとき、流体圧によりバックフォイル112が弾性変形することで、トップフォイル114の撓みが許容され、軸受隙間Cの隙間幅が自動的に調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭61−36725号公報
【特許文献2】特開2013−47555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなフォイル軸受では、軸の回転に伴って軸受隙間Cの流体(空気)が下流側に流動する。このとき、スラストカラー115付近の流体は、スラストカラー115とのせん断力により流動しやすいが、スラストカラー115から離反した流体は流動しにくい。このため、軸受隙間Cの流体(特に、大隙間部C1の流体)の一部しか流動せず、小隙間部C2に流入する流体量が不足して流体圧が十分に高められない恐れがある。
【0007】
例えば上記の特許文献2には、フォイル軸受の負荷容量を増大させる構造が提案されている。具体的には、各トップフォイルの下流側端部に、複数の切り欠き部を設けている。これにより、小隙間部C2に押し込まれた流体が、切り欠き部を介してトップフォイルの裏側に抜け、そのトップフォイルの下流側に隣接する大隙間部C1における流体の流れが乱される。この乱流により、大隙間部C1の流体がダイナミックに流動し、これにより小隙間部C2に押し込まれる流体量が増大して、フォイル軸受の負荷容量が高められる。
【0008】
しかし、特許文献2のような構造を採用しても、フォイル軸受の負荷容量が十分でない場合がある。
【0009】
そこで、本発明は、フォイル軸受の負荷容量をさらに高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は、軸受面を有するトップフォイル部と、前記トップフォイル部を背後から弾性的に支持するバックフォイル部と、前記トップフォイル部及び前記バックフォイル部が取り付けられたフォイルホルダとを備え、相対回転する軸と前記軸受面との間の軸受隙間に生じる流体圧で、前記軸を非接触支持するフォイル軸受において、前記トップフォイル部の下流側端部に複数の切り欠き部を設け、前記バックフォイル部が、軸の相対回転方向と直交する方向で離隔した複数箇所で前記トップフォイル部と接触することを特徴とする。
【0011】
尚、「下流側」とは、軸の相対回転方向先行側(図2の矢印R方向参照)、すなわち、軸の相対回転時における、トップフォイル部に対する流体の流れ方向下流側のことを言い、その反対側を「上流側」と言う。
【0012】
このように、トップフォイル部の下流側端部に複数の切り欠き部を設けることで、軸受隙間を流れる高圧の流体の一部が、切り欠き部を介してトップフォイル部の裏側(バックフォイル部側)に抜け、トップフォイル部の下流側に隣接する比較的幅の広い隙間(大隙間部)に乱流が生じる。このとき、バックフォイル部が、軸の相対回転方向と直交する方向(以下、「回転直交方向」と言う)に離隔した複数箇所でトップフォイル部と接触していることで、トップフォイル部とバックフォイル部との間の隙間(フォイル間隙間)の流体が、トップフォイル部とバックフォイル部との非接触部(接触部の回転直交方向間)を通って下流側に流動可能とされる。従って、大隙間部で生じた乱流により、フォイル間隙間の流体が下流側に引っ張られて大隙間部に流入し、これにより流体量が増大して負荷容量が高められる。
【0013】
また、バックフォイル部を、回転直交方向に離隔した複数箇所でフォイルホルダと接触させれば、バックフォイル部とフォイルホルダとの間の隙間(フォイル下隙間)の流体が、バックフォイル部とフォイルホルダとの非接触部(接触部の回転直交方向間)を通って下流側に流動可能とされる。従って、大隙間部で生じた乱流により、フォイル下隙間の流体が下流側に引っ張られて大隙間部に流入し、これにより流体量がさらに増大して、負荷容量がさらに高められる。
【0014】
バックフォイル部は、例えば、平坦部と、平坦部の表側(トップフォイル部側)に突出する複数の第一突出部と、平坦部の裏側(フォイルホルダ側)に突出する複数の第二突出部とを有する。この場合、平坦部が、バックフォイル部の中でも、軸受隙間の幅方向(軸受面と直交する方向)の圧縮力に対する剛性の低い部分となる。そのため、軸の相対回転に伴って軸受隙間で生じる流体圧力によりバックフォイル部に圧縮力が負荷された際には、平坦部が変形して圧縮力を吸収する。従って、このような平坦部を有さない既存のバンプ型のバックフォイル(図16参照)に比べ、局所的な剛性を低くすることができる。これにより、軸受面全体に荷重が加わる通常運転時には、バックフォイル部の全体でトップフォイル部を支持することで剛性を高め、ミスアライメント(芯ずれ)等により軸受面に偏荷重が加わったときには、バックフォイル部を局所的に変形させることで、軸の片当たりを防止することができる。
【0015】
上記のフォイル軸受において、バックフォイル部の下流側端部に複数の切り欠き部を設ければ、流体の乱流効果がさらに高められるため、次の軸受隙間に流入する流体量をさらに増大させることができる。特に、バックフォイル部の下流側端部を、トップフォイル部の下流側端部よりも下流側に配することで、バックフォイル部の切り欠き部による乱流効果がより一層高められる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、フォイル軸受の負荷容量を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るフォイル軸受(スラストフォイル軸受)の断面図である。
図2】上記フォイル軸受の平面図である。
図3】上記フォイル軸受を模式的に示す斜視図である。
図4】バックフォイルの斜視図である。
図5図2のV−V線における断面図である。
図6】上記フォイル軸受の断面図である。
図7】他の実施形態に係るフォイル軸受の断面図である。
図8】他の実施形態に係るフォイル軸受の断面図である。
図9】上段は、他の実施形態に係るバックフォイルの平面図である。下段は、上段のY−Y線における断面図である。
図10】他の実施形態に係るバックフォイルの平面図である。
図11】他の実施形態に係るフォイル軸受の断面図である。
図12】他の実施形態に係るフォイル軸受の断面図である。
図13】他の実施形態に係るフォイルの平面図である。
図14図13のフォイルを有するフォイル軸受の斜視図である。
図15】他の実施形態に係るフォイル軸受(ラジアルフォイル軸受)の断面図である。
図16】従来のフォイル軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
本発明の第一実施形態に係るフォイル軸受10は、図1に示すように、軸2に設けられた円盤状のスラストカラー3との間に形成される空気膜で、軸2をスラスト方向に支持するスラストフォイル軸受である。フォイル軸受10は、円盤状のフォイルホルダ11と、フォイルホルダ11の端面11aに取り付けられたトップフォイル12及びバックフォイル13とを有する。本実施形態では、図2に示すように、複数(図示例では各6枚)の扇形のトップフォイル12及びバックフォイル13が、軸2の回転方向(フォイルホルダ11の周方向)で並べて配される。
【0020】
フォイルホルダ11は、金属や樹脂等で形成される。フォイルホルダ11は、軸2が挿入される内孔11bを有する中空円盤状を成している。フォイルホルダ11の一方の端面11aには複数のトップフォイル12及びバックフォイル13が取り付けられる。フォイルホルダ11の他方の端面11cは、フォイル軸受10が組み込まれる設備(例えばガスタービン等のターボ機械)のハウジングに固定される。
【0021】
トップフォイル12及びバックフォイル13は、ばね性に富み、かつ加工性のよい金属で形成され、例えば鋼や銅合金で形成される。トップフォイル12及びバックフォイル13は、厚さ20μm〜200μm程度の金属薄板(フォイル)で形成される。本実施形態のように流体膜として空気を用いる空気動圧軸受では、雰囲気に潤滑油が存在しないため、ステンレス鋼もしくは青銅でトップフォイル12及びバックフォイル13を形成するのが好ましい。
【0022】
トップフォイル12は、図2及び図3に示すように、凹凸の無い滑らかな軸受面Xを有し、トップフォイル部Tfとして機能する。尚、図3では、図の簡略化のため、各フォイル12、13を矩形状に表している。トップフォイル12の上流側の端部12aは、フォイルホルダ11の端面11aに固定される。図示例では、トップフォイル12の上流側の端部12aが、フォイルホルダ11の端面11aに、スペーサ15を介して溶接等により固定される。尚、トップフォイル12の上流側の端部12aを、スペーサ15を介さずにフォイルホルダ11の端面11aに直接固定してもよい。トップフォイル12は、フォイルにプレス加工(打ち抜き加工)や放電加工を施すにより、切り欠き部12b1を有する略扇形の平板状に形成される。
【0023】
トップフォイル12の下流側端部12bは自由端である。トップフォイル12の下流側端部12bには、複数の切り欠き部12b1が設けられる。複数の切り欠き部12b1は、トップフォイル12の下流側端部12bの縁に沿って、回転直交方向(本実施形態では半径方向)に並んでいる。図示例では、各切り欠き部12b1が三角形を成し、トップフォイル12の下流側の端部12bの縁がジグザグ状に形成される。各切り欠き部12b1の形状は上記に限らず、円弧、楕円弧、台形、矩形、波形等としてもよい。また、図示例では、複数の切り欠き部12b1が半径方向で連続的に並んでいるが、これに限らず、複数の切り欠き部12b1を半径方向で離間させて間欠的に設け、切り欠き部12b1の半径方向間に半径方向に延びる縁を残してもよい。
【0024】
バックフォイル13は、トップフォイル12とフォイルホルダ11との間に配され、トップフォイル12を背後から弾性的に支持するバックフォイル部Bfとして機能する。バックフォイル13は、平面視でトップフォイル12と略同形状の扇形をなし、トップフォイル12の真下に重ねて配されている。バックフォイル13の上流側の端部13aは、フォイルホルダ11の端面11aに固定される。本実施形態では、バックフォイル13の上流側の端部13aが、フォイルホルダ11の端面11aに、スペーサ15を介して溶接等により固定される。尚、バックフォイル13の上流側の端部13aを、スペーサ15を介さずにフォイルホルダ11の端面11aに直接固定してもよい。
【0025】
バックフォイル13は、弾性変形することにより軸方向に圧縮可能な形状を有する。本実施形態のバックフォイル13は、図4に示すように、フォイルホルダ11の端面11aと略平行な平坦部13bと、平坦部13bから表側(トップフォイル12側)に突出した複数の第一突出部(上凸部13c)と、平坦部13bから裏側(フォイルホルダ11側)に突出した複数の第二突出部(下凸部13d)とを有する。尚、上凸部13c及び下凸部13dは、これらの相対的な位置関係を理解しやすいように「上」「下」を付した名称としているが、これはフォイル軸受10の使用態様を限定する趣旨ではない。
【0026】
バックフォイル13の平坦部13b、上凸部13c、および下凸部13dは、均一な肉厚を有する。上凸部13cおよび下凸部13dは、何れも概略半球状に形成される。上凸部13cおよび下凸部13dの内側は中空状になっているため、例えばバックフォイル13を表側(トップフォイル12側)から見た場合、下凸部13dが存在する領域は凹部となる。上凸部13c及び下凸部13dの全周に、平坦部13bが設けられる。上凸部13c及び下凸部13dは、それぞれ回転方向及び回転直交方向に離隔した複数箇所に設けられる。図示例の上凸部13c及び下凸部13dは、それぞれバックフォイル13の上流側端部13a付近を除く全域に分散して配置される。また、図示例では、バックフォイル13の下流側端部13eの直近に、複数の上凸部13cが半径方向に離隔して配されている。尚、図4に示す上凸部13cおよび下凸部13dの配置パターンは例示にすぎず、必要に応じて図4とは異なる任意の配置パターンを採用してもよい。
【0027】
本実施形態では、トップフォイル12の切り欠き部12b1の少なくとも一部領域(図示例では全域)が、バックフォイル13の下流側端部13eの平坦部13bと軸方向で重ねて設けられる(図5参照)。図示例では、トップフォイル12の下流側端部12bとバックフォイル13の下流側端部13eとが、同じ回転方向位置に設けられる。
【0028】
バックフォイル13は、フォイルにプレス加工(打ち抜き加工)や放電加工を施すことにより略扇形の平板状のフォイル素材を形成した後、このフォイル素材にプレス加工を施して上凸部13c及び下凸部13dを成形することで形成される。尚、フォイル素材の打ち抜きと、上凸部13c及び下凸部13dの成形とを、プレス加工で同時に行うこともできる。上凸部13c及び下凸部13dを含めたバックフォイル13全体の軸方向寸法は、0.5〜2mm程度である。
【0029】
軸2及びスラストカラー3が周方向一方(矢印R方向)に回転すると、図5に示すように、フォイル軸受10の各トップフォイル12の軸受面Xとスラストカラー3の端面3aとの間に軸受隙間Cが形成される。このとき、トップフォイル12が湾曲することで、軸受隙間Cは、下流側へ行くにつれて狭くなった断面楔状を成す。そして、スラストカラー3と空気との間のせん断力により、軸受隙間Cの空気が下流側に流動することで、軸受隙間Cの小隙間部C2に空気が押し込まれる(図5の矢印A参照)。これにより、軸受隙間Cの空気膜の圧力が高められ、この圧力により軸2及びスラストカラー3がスラスト方向に非接触支持される。
【0030】
このとき、図6に示すように、軸受隙間Cで生じる空気圧によりトップフォイル12が圧力Pを受けるため、バックフォイル13には、トップフォイル12を介して圧力P方向の圧縮力が作用する。平坦部13bは圧力P方向と直交する方向に延びる薄板状であるため、バックフォイル13の中でも前記圧縮力に対する剛性の低い部分となる。そのため、バックフォイル13に圧縮力が負荷されると、図6の二点鎖線で示すように先ず平坦部13bが変形して圧縮力を吸収する。従って、このような平坦部を有さない既存の波形のバックフォイルに比べ、バックフォイル13の剛性を局所的に小さくすることができる。これにより、軸受面Xの柔軟性が高まるため、トップフォイル12の軸受面Xが、荷重や軸2の回転速度、周囲温度等の運転条件に応じて弾性変形し、軸受隙間Cが運転条件に応じた適切幅に自動調整される。そのため、高温・高速回転といった過酷な条件下でも、軸受隙間Cを最適幅に管理することができ、軸2を安定して支持することが可能となる。
【0031】
また、本実施形態では、トップフォイル12の下流側端部12bに切り欠き部12b1を設けることで、軸受隙間Cを流れる空気の一部が、切り欠き部12b1を介してトップフォイル12の裏側に抜ける(図5の矢印A1参照)。これにより、トップフォイル12の下流側に隣接する空間(大隙間部C1)における空気の流れが乱されるため、大隙間部C1の空気がダイナミックに流動し、次のトップフォイル12で形成される軸受隙間Cの小隙間部C2に流入する空気量が増大して、フォイル軸受10の負荷容量が高められる。
【0032】
このとき、バックフォイル13とトップフォイル12とが、半径方向に離隔した複数箇所で接触しているため、バックフォイル13とトップフォイル12との間の隙間(フォイル間隙間D)に、空気が下流側に流通可能な流路が形成される。この流路の下流側端部は、大隙間部C1に連通している。本実施形態では、バックフォイル13に分散配置された上凸部13cがトップフォイル12の裏面に接触することで、フォイル間隙間Dの隙間の空気が、両フォイル12、13の非接触部(上凸部13cの半径方向間)を通って下流側に流動可能とされる。トップフォイル12の切り欠き部12b1に起因して大隙間部C1に乱流が生じると、フォイル間隙間Dの空気が引っ張られて下流側に流動し、大隙間部C1に流入する(図5の矢印B参照)。これにより、次のトップフォイル12で形成される軸受隙間Cに流入する空気量がさらに増大し、フォイル軸受10の負荷容量がさらに高められる。
【0033】
特に、本実施形態では、トップフォイル12の切り欠き部12b1が、バックフォイル13の下流側端部13e付近の平坦部13bと軸方向で重ねて配置されている。この場合、バックフォイル13の平坦部13bに沿って流れる流体Bに、軸受隙間Cを流れる高速の流体Aが合流することで、フォイル間隙間Dの流体が下流側に引っ張られやすくなり、大隙間部C1に流入する流体量がさらに増大する。
【0034】
さらに、本実施形態では、バックフォイル13とフォイルホルダ11とが、半径方向に離隔した複数箇所で接触する。これにより、バックフォイル13とフォイルホルダ11との間の隙間(フォイル下隙間E)に、空気が下流側に流通可能な流路が形成される。この流路の下流側端部は、大隙間部C1に連通している。本実施形態では、バックフォイル13に分散配置された下凸部13dがフォイルホルダ11の端面11aに接触することで、フォイル下隙間Eの隙間の空気が、バックフォイル13とフォイルホルダ11との非接触部(下凸部13dの半径方向間)を通って下流側に流動可能とされる。トップフォイル12の切り欠き部12b1に起因して大隙間部C1に乱流が生じると、フォイル間隙間Dの空気だけでなく、フォイル下隙間Eの空気も引っ張られて下流側に流動し、大隙間部C1に流入するため、次のトップフォイル12で形成される軸受隙間Cの小隙間部C2に流入する空気量がさらに増大し、フォイル軸受10の負荷容量がさらに高められる。
【0035】
尚、軸2の停止直前や起動直後の低速回転時には、各トップフォイル12の軸受面Xとスラストカラー3の端面3aとが接触摺動するため、これらの何れか一方または双方に、DLC膜、チタンアルミナイトライド膜、二硫化タングステン膜、あるいは二硫化モリブデン膜等の低摩擦化被膜を形成してもよい。
【0036】
また、軸2の回転中は、トップフォイル12とバックフォイル13、あるいは、バックフォイル13とフォイルホルダ11の端面11aとの間に微小摺動が生じる。この微小摺動による摩擦エネルギーにより、軸2の振動を減衰させることができる。このような微小摺動による摩擦力を調整するために、互いに摺動する面の何れか一方または双方に、上記のような低摩擦化被膜を形成してもよい。
【0037】
本発明は、上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と重複する点については説明を省略する。
【0038】
図7に示す実施形態では、トップフォイル12の切り欠き部12b1の少なくとも一部領域(図示例では全域)が、バックフォイル13の下流側端部13eから下流側にはみ出して配されている。この場合、図5に示す実施形態よりも、切り欠き部12b1の裏側(フォイルホルダ11側)の空間が大きくなるため、切り欠き部12b1を介して軸受隙間Cの流体が抜けやすくなる。
【0039】
図8に示す実施形態では、トップフォイル12の下流側端部12bに切り欠き部12b1を設けると共に、バックフォイル13の下流側端部13eに切り欠き部13e1を設けている。バックフォイル13の切り欠き部13e1は、トップフォイル12の切り欠き部12b1と同様の構成を成し、例えば三角形状を成す。この切り欠き部13e1を介して、空気がバックフォイル13の裏側に流入することで(矢印B1参照)、大隙間部C1における乱流効果が高められる。この場合、図8に示すように、バックフォイル13の下流側端部13eをトップフォイル12の下流側端部12bよりも下流側に配し、バックフォイル13の切り欠き部13e1の少なくとも一部(図示例では全域)を、トップフォイル12の下流側端部12bから下流側にはみ出して配すれば、バックフォイル13の切り欠き部13e1による乱流効果が高められる。
【0040】
図9に示す実施形態では、バックフォイル13が、所定方向に延びる複数の山部13f1及び谷部13f2を交互に有する波形を成している。図示例では、山部13f1及び谷部13f2が、下流側端部13eの縁と交差する方向に沿って延び、例えばバックフォイル13の上流側端部13aの縁と平行な方向に延びる。この場合、バックフォイル13の山部13f1が、トップフォイル12の下流側端部付近の領域に、半径方向に離隔した複数箇所で接触する。これにより、軸2の回転時には、フォイル間隙間Dの空気が、バックフォイル13の谷部13f2を通って下流側に流動し、大隙間部C1に流入する。
【0041】
ところで、図9に示すような波形のバックフォイル13をプレス加工により形成する場合、平板状のフォイル素材が波形に曲げられるため、その分だけ平面視における寸法(山部13f1及び谷部13f2の延在方向と直交する方向の寸法)が縮小する。従って、プレス加工を施す前の平板状のフォイル素材は、プレス加工による寸法の縮小を考慮して形状及び寸法を設定する必要があるため、設計が非常に複雑となる。これに対し、図4に示すように、多数の上凸部13c及び下凸部13dが分散配置されたバックフォイル13は、平板状のフォイル素材にプレス加工を施し、局部的に材料を引き延ばして上凸部13c及び下凸部13dを成形することができる。この場合、プレス加工により、平面視における全体寸法はほとんど変化しないため、上凸部13c及び下凸部13dを自由に設計することが可能となり、バックフォイル13の設計が容易化される。
【0042】
また、上記のフォイル軸受10において、バックフォイル13に設けられる上凸部13c及び下凸部13dの分布密度を場所によって変えることで、軸受面Xの剛性を部分的にコントロールすることができる。例えば、図10に示す実施形態では、上凸部13c及び下凸部13dの密度が、下流側に行くにつれて高くなっている。この場合、バックフォイル13の圧縮方向(軸方向)の剛性が下流側に行くにつれて高くなる。これにより、トップフォイル12の軸受面Xが、下流側に行くにつれて、スラストカラー3から離反する方向(軸受隙間Cを広げる方向)に変形しにくくなるため、楔状の軸受隙間Cが形成されやすくなる。
【0043】
また、上記のフォイル軸受10において、バックフォイル13に設けられる上凸部13c及び下凸部13dの高さを場所によって変えることで、所定形状の軸受面を得ることができる。例えば、図11に示す実施形態では、上凸部13c及び下凸部13dを含むバックフォイル13の高さ(軸方向寸法)が、下流側に行くにつれて大きくなっている。これにより、トップフォイル12の軸受面Xが、下流側に行くにつれてスラストカラー3側に変位した形状となりやすくなり、楔状の軸受隙間Cが形成されやすくなる。
【0044】
図12に示す実施形態では、トップフォイル部Tf及びバックフォイル部Bfを一体に有するフォイル部材14を備える(バックフォイル部Bfを散点模様で示す)。各フォイル部材14の上流側の端部が、フォイルホルダ11に取り付けられる。複数のフォイル部材14をフォイルホルダ11に取り付けた状態では、各フォイル部材14のトップフォイル部Tfとフォイルホルダ11との間に、下流側に隣接するフォイル部材14のバックフォイル部Bfが配される。各フォイル部材14のバックフォイル部Bfは、その上に重ねられたフォイル部材14のトップフォイル部Tfに半径方向で離隔した複数箇所で接触する。各フォイル部材14のトップフォイル部Tfの下流側端部には、図2及び図3と同様の切り欠き部12b1が設けられる。
【0045】
図13に示す実施形態では、図12に示す実施形態と同様に、各フォイル部材14がトップフォイル部Tf及びバックフォイル部Bfを有しているが、各フォイル部材14の形状が図12に示す実施形態と異なる。図13のフォイル部材14は、トップフォイル部Tf及びバックフォイル部Bfを有する本体14aと、本体14aから外径側に延び、フォイルホルダ11に固定される固定部14bとを一体に有する。本体14aの上流側端部14a1の縁及び下流側端部14a2の縁は、何れも半径方向中央部を下流側に膨らませた形状を成している。本体14aの下流側端部14a2には、上記の実施形態と同様に、複数の切り欠き部12b1が設けられる。バックフォイル部Bfには、平坦部13b、上凸部13c(白丸)、及び下凸部13d(黒丸)が設けられる。図13のフォイル部材14をフォイルホルダ11に取り付けると、図14に示すように、各フォイル部材14のバックフォイル部Bfは隣接するフォイル部材14のトップフォイル部Tfの背後に隠れ、トップフォイル部Tfのみが表側(スラストカラー側)に露出した状態となる。
【0046】
以上の実施形態では、本発明をスラストフォイル軸受に適用した場合を示したが、本発明は、軸をラジアル方向に支持するラジアルフォイル軸受に適用することもできる。例えば、図15に示すラジアルフォイル軸受20は、円筒状のフォイルホルダ21と、フォイルホルダ21の内周面21aに周方向に並べて取り付けられた複数のフォイル部材22とを有する。各フォイル部材22のうち、下流側の領域がトップフォイル部Tfとして機能し、上流側の領域がバックフォイル部Bf(散点模様で示す)として機能する。各フォイル部材22のトップフォイル部Tfの下流側端部には、上記の実施形態と同様に、複数の切り欠き部が設けられる(図示省略)。バックフォイル部Bfは、下流側に隣接するフォイル部材22のトップフォイル部Tfと軸方向に離隔した複数箇所で接触し、例えば上記の実施形態と同様に、平板部、上凸部、及び下凸部を有する。軸2の回転時には、トップフォイル部Tfの軸受面Xと軸2の外周面との間に軸受隙間Cが形成される。
【0047】
以上の実施形態では、フォイル軸受を固定し、軸2を回転させた場合を示したが、これに限らず、軸2を固定し、フォイル軸受を回転させてもよい。ただし、フォイル軸受を回転させると、遠心力でフォイルが破損する恐れがあるため、上記の実施形態のようにフォイル軸受を固定することが好ましい。
【0048】
また、以上に示したフォイル軸受は、例えばガスタービンやターボチャージャ(過給機)等のターボ機械の主軸用軸受、自動車等の車両用軸受、あるいは産業機器用の軸受等として使用することが可能である。
【0049】
また、以上に述べたフォイル軸受は、圧力発生流体として空気を使用した空気動圧軸受のみならず、圧力発生流体として潤滑油を使用した油動圧軸受としても使用することができる。
【符号の説明】
【0050】
2 軸
3 スラストカラー
10 フォイル軸受
11 フォイルホルダ
12 トップフォイル
12b1 切り欠き部
13 バックフォイル
13b 平坦部
13c 上凸部(第一突出部)
13d 下凸部(第二突出部)
Bf バックフォイル部
Tf トップフォイル部
X 軸受面
C 軸受隙間
C1 大隙間部
C2 小隙間部
D フォイル間隙間
E フォイル下隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16