(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6798819
(24)【登録日】2020年11月24日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】トランス−2−ヘキセナール生成用組成物、トランス−2−ヘキセナール生成香味組成物、及びこれらを含有した製品
(51)【国際特許分類】
A23L 27/10 20160101AFI20201130BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20201130BHJP
C12G 3/06 20060101ALI20201130BHJP
A61K 8/97 20170101ALI20201130BHJP
A61Q 13/00 20060101ALI20201130BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
A23L27/10 C
A23L2/00 B
C12G3/06
A61K8/97
A61Q13/00 101
A61Q11/00
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-159193(P2016-159193)
(22)【出願日】2016年8月15日
(65)【公開番号】特開2018-27021(P2018-27021A)
(43)【公開日】2018年2月22日
【審査請求日】2019年6月27日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)▲1▼ウェブサイトの掲載日 平成28年2月18日 ▲2▼ウェブサイトのアドレス http://www.asahibeer.co.jp/news/2016/0218.html ▲1▼ウェブサイトの掲載日 平成28年2月18日 ▲2▼ウェブサイトのアドレス http://www.asahibeer.co.jp/mogitate/ ▲1▼ウェブサイトの掲載日 平成28年2月18日 ▲2▼ウェブサイトのアドレス http://www.asahibeer.co.jp/products/sour/mogitate/ 特30条記事欠損あり
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109841
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 健史
(74)【代理人】
【識別番号】230112025
【弁護士】
【氏名又は名称】小林 英了
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100174137
【弁理士】
【氏名又は名称】酒谷 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100184181
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 裕史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 たまみ
(72)【発明者】
【氏名】田中 善久
【審査官】
飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−187050(JP,A)
【文献】
特開2004−329047(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2013−0020440(KR,A)
【文献】
国際公開第2005/104873(WO,A1)
【文献】
国際公開第2001/095747(WO,A1)
【文献】
特開2001−224333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
C12G
C12C
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ω3系不飽和脂肪酸からトランス−2−ヘキセナールを生成する、トランス−2−ヘキセナール生成用組成物であって、
ブドウ種子抽出物を含んでなる、トランス−2−ヘキセナール生成用組成物。
【請求項2】
前記ω3系不飽和脂肪酸が、果汁、香料、又は植物・果実抽出物に含有されたものである、請求項1に記載のトランス−2−ヘキセナール生成用組成物。
【請求項3】
トランス−2−ヘキセナール生成有効成分として、ポリフェノールを含んでなる、請求項1又は2に記載のトランス−2−ヘキセナール生成用組成物。
【請求項4】
前記ポリフェノールが、フラボノイド系物質、プロアントシアニジン系物質、フェニルプロパノイド系物質からなる群から選択されてなる一種又は二種以上の混合物である、請求項3に記載のトランス−2−ヘキセナール生成用組成物。
【請求項5】
前記フラボノイド系物質が、フラボン類物質、フラボノール類物質、フラバン類物質、フラバノール(カテキン)類物質、フラバノン類物質、及びアントシアニジン類物質からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物である、請求項4に記載のトランス−2−ヘキセナール生成用組成物。
【請求項6】
前記ポリフェノールが、プロアントシアニジンである、請求項3に記載のトランス−2−ヘキセナール生成用組成物。
【請求項7】
ω3系不飽和脂肪酸からトランス−2−ヘキセナールを生成する方法であって、
ω3系不飽和脂肪酸に、トランス−2−ヘキセナール生成用組成物を付与し、前記ω3系不飽和脂肪酸から前記トランス−2−ヘキセナールを生成することを含んでなり、
前記トランス−2−ヘキセナール生成用組成物が、請求項1〜6の何れか一項に記載されたものである、トランス−2−ヘキセナール生成方法。
【請求項8】
製品であって、
請求項1〜6の何れか一項に記載のトランス−2−ヘキセナール生成用組成物を含んでなる、製品。
【請求項9】
前記トランス−2−ヘキセナール生成用組成物を0mg/L超過10mg/L以下で含んでなる、請求項8に記載の製品。
【請求項10】
前記製品が、飲料、食料品、調味料、嗜好品、香水、化粧品又は生活用品である、請求項8又は9に記載の製品。
【請求項11】
前記飲料が、アルコール飲料又はノンアルコール飲料である、請求項10に記載の製品。
【請求項12】
前記製品のpHが2以上7以下である、請求項8〜11の何れか一項に記載の製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランス−2−ヘキセナール生成用組成物、トランス−2−ヘキセナール生成香味組成物、及びこれらを含有した製品に関する。
【背景技術】
【0002】
トランス−2−ヘキセナールは、青葉アルデヒドとも呼ばれ、多種多様な植物の生葉、野菜及び果実に広く分布しており、青葉香味成分としてよく知られている(非特許文献1及び非特許文献2)。また、トランス−2−ヘキセナールは、生体内生合成経路において、青葉細胞膜等(中性脂肪又は燐脂質)を出発物資とし、各種酵素の働きにより得られる物質として知られている(非特許文献1及び非特許文献2)。そして、非特許文献1及び非特許文献2では、生茶葉の破砕物からトランス−2−ヘキセナールを合成した例が開示されている。
【0003】
また、トランス−2−ヘキセナールは、植物及び果実等の香気成分として知られており、香料、食品添加物として使用されている。実際、トランス−2−ヘキセナールは低濃度(0.1%以下)で新鮮な果実香味及びグリーン香を示すため、非常に重要な香気成分として使用されている。
【0004】
ところが、トランス−2−ヘキセナールは、熱、光、酸化、還元、pH調整(低い数値)等の外的要因又は経時的要因によって、他の化学物質(例えば、トランス−2−ヘキセノールなど)に変換することが知られている。従って、トランス−2−ヘキセナールを含有した製品は、上記要因によって、果実香味性や新鮮さを継続的に付与することができないことがある。
【0005】
これに対して、従来、特許文献1(特開2016−131518号公報)では、野菜含有飲料に新鮮さを付与するために、高濃度のトランス−2−ヘキセナールを添加した例が提案されている。また、特許文献2(特表2009−523016公報)では、新鮮な香りを担保するために、新鮮な茶葉から回収したトランス−2−ヘキセナール及びリナロールを添加した緑茶製品が提案されている。
【0006】
しかしながら、本発明者等によれば、ω3系不飽和脂肪酸からトランス−2−ヘキセナールを有意に生成する有効成分を含んでなる、トランス−2−ヘキセナール生成用組成物、並びに、ω3系不飽和脂肪酸と、トランス−2−ヘキセナール生成用組成物を含んでなり、ω3系不飽和脂肪酸から積極的にトランス−2−ヘキセナールを生じさせるトランス−2−ヘキセナール生成香味組成物は、未だ、開発されていない。
【0007】
よって、今尚、ω3系不飽和脂肪酸からトランス−2−ヘキセナールを効率よく生成するトランス−2−ヘキセナール生成用組成物と、及び、ω3系不飽和脂肪酸と、トランス−2−ヘキセナール生成用組成物とを含んでなるトランス−2−ヘキセナール生成香味組成物を開発することが要請されている。また、これら組成物を包含し、薬理上及び栄養上の効果、並びに、果実様香味性、とりわけ、果実を摘果後、短時間で搾汁した際の新鮮感を継続的に付与した、製品を開発することもまた要請されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016−131518号公報
【特許文献2】特表2009−523016号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】青葉アルコールをめぐって(1) 〔「化学と生物」第14巻、第12、第788頁〜793頁(公益社団法人 日本農芸化学会 平成21年5月25日発行)〕
【非特許文献2】青葉アルコールをめぐって(2) 〔「化学と生物」第8巻、第8、第501頁〜508頁(公益社団法人 日本農芸化学会 平成21年5月25日発行)〕
【発明の概要】
【0010】
本発明者等は、今般、特定の植物(果実包含)の抽出物が、ω3系不飽和脂肪酸から効率的にトランス−2−ヘキセナールを生成することができることを見出した。また、本発明者等は、トランス−2−ヘキセナール生成用組成物を併用し、ω3系不飽和脂肪酸からトランス−2−ヘキセナールを継続的に生成させることで、製品に果実様香味性及び新鮮さを継続的に付与することができることを見出した。本発明は、係る知見に基づいてなされたものである。
【0011】
従って、本態様によれば、ω3系不飽和脂肪酸からトランス−2−ヘキセナールを生成する、トランス−2−ヘキセナール生成用組成物であって、
ブドウ種子抽出物を含んでなる、トランス−2−ヘキセナール生成用組成物を提案することができる。
【0012】
別の好ましい態様によれば、トランス−2−ヘキセナール生成香味組成物であって、
ω3系不飽和脂肪酸と、トランス−2−ヘキセナール生成用組成物とを含んでなり、
トランス−2−ヘキセナール生成用組成物がブドウ種子抽出物である、トランス−2−ヘキセナール生成香味組成物を提案することができる。
【0013】
〔好ましい態様〕
好ましい態様は以下の通りである。
〔1〕 ω3系不飽和脂肪酸からトランス−2−ヘキセナールを生成する、トランス−2−ヘキセナール生成用組成物であって、
ブドウ種子抽出物を含んでなる、トランス−2−ヘキセナール生成用組成物。
〔2〕 前記ω3系不飽和脂肪酸が、果汁、香料、又は植物・果実抽出物に含有されたものである、〔1〕に記載のトランス−2−ヘキセナール生成用組成物。
〔3〕 トランス−2−ヘキセナール生成有効成分として、ポリフェノールを含んでなる、〔1〕又は〔2〕に記載のトランス−2−ヘキセナール生成用組成物。
〔4〕 前記ポリフェノールが、フラボノイド系物質、プロアントシアニジン系物質、フェニルプロパノイド系物質からなる群から選択されてなる一種又は二種以上の混合物である、〔3〕に記載のトランス−2−ヘキセナール生成用組成物。
〔5〕 前記フラボノイド系物質が、フラボン類物質、フラボノール類物質、フラバン類物質、フラバノール(カテキン)類物質、フラバノン類物質、及びアントシアニジン類物質からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物である、〔4〕に記載のトランス−2−ヘキセナール生成用組成物。
〔6〕 前記ポリフェノールが、プロアントシアニジンである、〔3〕に記載のトランス−2−ヘキセナール生成用組成物。
〔7〕 トランス−2−ヘキセナール生成香味組成物であって、
ω3系不飽和脂肪酸と、トランス−2−ヘキセナール生成用組成物とを含んでなり、
前記トランス−2−ヘキセナール生成用組成物が、〔1〕〜〔6〕の何れか一項に記載されたものである、トランス−2−ヘキセナール生成香味組成物。
〔8〕 前記ω3系不飽和脂肪酸の含有量が、前記トランス−2−ヘキセナール生成香味組成物全量に対して、1mg/L以上、5000mg/L以下であり、
前記トランス−2−ヘキセナール生成用組成物の含有量が、トランス−2−ヘキセナール含有香味組成物全量に対して、1mg/L以上、100000mg/L以下である、〔7〕に記載のトランス−2−ヘキセナール生成香味組成物。
〔9〕 ω3系不飽和脂肪酸からトランス−2−ヘキセナールを生成する方法であって、
ω3系不飽和脂肪酸に、トランス−2−ヘキセナール生成用組成物を付与し、前記ω3系不飽和脂肪酸から前記トランス−2−ヘキセナールを生成することを含んでなり、
前記トランス−2−ヘキセナール生成用組成物が、〔1〕〜〔6〕の何れか一項に記載されたものである、トランス−2−ヘキセナール生成方法。
〔10〕 製品であって、
〔1〕〜〔6〕の何れか一項に記載のトランス−2−ヘキセナール生成用組成物、又は、〔7〕又は〔8〕に記載のトランス−2−ヘキセナール生成香味組成物を含んでなる、製品。
〔11〕 前記トランス−2−ヘキセナール生成用組成物を0mg/L超過10mg/L以下で含んでなる、〔10〕に記載の製品。
〔12〕 前記製品が、飲料、食料品、調味料、嗜好品、香水、化粧品又は生活用品である、〔10〕又は〔11〕に記載の製品。
〔13〕 前記飲料が、アルコール飲料又はノンアルコール飲料である、〔12〕に記載の製品。
〔14〕 前記製品のpHが2以上7以下である、〔11〕〜〔13〕の何れか一項に記載の製品。
【0014】
本発明によれば、有用なトランス−2−ヘキセナール生成用組成物により、ω3系不飽和脂肪酸からトランス−2−ヘキセナールを効率かつ有意に生成し香味成分として使用することができ、並びに、ω3系不飽和脂肪酸と、トランス−2−ヘキセナール生成用組成物によりを含有したトランス−2−ヘキセナール生成香味組成物により、ω3系不飽和脂肪酸と、ω3系不飽和脂肪酸を効率よく変換したトランス−2−ヘキセナールとを組み合わせた組成物を提供することができる。
そして、トランス−2−ヘキセナール生成香味組成物によれば、ω3系不飽和脂肪酸と併用することにより、ω3系不飽和脂肪酸の薬理上及び栄養上の効果を得ると伴に、ω3系不飽和脂肪酸から生成されたトランス−2−ヘキセナールによる香味効果とを兼ね備えてなることにより、製品に、薬理上及び栄養上の効果、並びに、果実様香味性、とりわけ、果実を摘果後、短時間で搾汁した際の新鮮感を継続的に付与することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔定義〕
(トランス−2−ヘキセナール)
トランス−2−ヘキセナール(C
6H
10O)は、不飽和アルデヒドの一種であり、植物(キュウリ、トマト、茶など)又は果実(ブドウ、モモ、ウメ、イチゴ、バナナ、リンゴ、アプリコット、ナシなど)の精油中に存在し、果実の香味成分としてよく知られており、また、香料又は医薬品として利用されている。
【0016】
トランス−2−ヘキセナールは、pHが低い状態では熱的安定性に欠ける為、トランス−2−ヘキセナールを含有した製品は、その経時的変化によって、他の化学物質(例えば、トランス−2−ヘキセノールなど)に変換されやすいという性質を有する。
【0017】
(ω3系不飽和脂肪酸)
ω3系不飽和脂肪酸は、1つ以上の不飽和の炭素結合(二重結合、三重結合)をもち、ω末端から3番目の炭素に最初の二重結合を有する脂肪酸である。ω3系不飽和脂肪酸としては、α−リノレン酸(C18:3)、エイコサテトラエン酸(C20:4)、エイコサペンタエン酸(C20:5)、ドコサヘキサエン酸(C22:6)等が挙げられる。
【0018】
(トランス−2−ヘキセナール生成用組成物及びトランス−2−ヘキセナール生成香味組成物)
本発明にあっては、トランス−2−ヘキセナール生成用組成物及びトランス−2−ヘキセナール生成香味組成物は、様々な用途に使用することができるものであり、そのまま飲食料品及び生活用品として使用することができ、或いは、様々な用途組成物として、例えば、飲食料用組成物として使用することが可能である。
【0019】
「トランス−2−ヘキセナール生成用組成物」とは、ω3系不飽和脂肪酸からトランス−2−ヘキセナールを生成する組成物を意味する。本発明にあっては、「生成」は、ω3系不飽和脂肪酸がトランス−2−ヘキセナールに変る様々な現象、例えば、ω3系不飽和脂肪酸の酸化、開裂、異性化、置換、変換、転換、劣化又は崩壊等を包含するものである。このことから、必要に応じて、トランス−2−ヘキセナール「生成」用組成物は、ω3系不飽和脂肪酸の酸化、開裂、異性化、置換、変換、転換、劣化又は崩壊用組成物と適宜適用することが可能である。好ましい態様にあっては、「トランス−2−ヘキセナール生成用組成物」は、ω3系不飽和脂肪酸と一緒に含有された、トランス−2−ヘキセナール生成香味組成物として利用される。
【0020】
(含有量)
本発明にあっては、含有量は、本明細書において特に理がない限り、基本的に、mg/L、即ち、ppm(質量/体積)にて表す。
【0021】
〔トランス−2−ヘキセナール生成用組成物〕
(ω3系不飽和脂肪酸)
トランス−2−ヘキセナールを生成するための出発物質(原料)は、ω3系不飽和脂肪酸であり、好ましい態様によれば、α−リノレン酸(C18:3)、エイコサテトラエン酸(C20:4)、エイコサペンタエン酸(C20:5)、ドコサヘキサエン酸(C22:6)が用いられ、より好ましくは、α−リノレン酸(C18:3)が用いられる。
【0022】
トランス−2−ヘキセナール生成用組成物は、ω3系不飽和脂肪酸それ自体又はω3系不飽和脂肪酸を含有する原料(植物、動物、抽出物、飲食物)に使用されてよい。
【0023】
(抽出物)
トランス−2−ヘキセナール生成用組成物は、ω3系不飽和脂肪酸をトランス−2−ヘキセナールに変換する組成物であり、必須成分として、ブドウ種子抽出物を含んでなる。
【0024】
抽出物は、一般的な抽出方法によって得ることができ、例えば、原料(ブドウ種子等)を、圧搾法、溶媒抽出法、油脂(温浸透又は冷浸透)吸着法、超臨界抽出法等によって、抽出することができる。飲食料品に使用する場合には、厚生労働省、消費者庁等所管のガイドライン及び食品衛生法等の規定に基づいて抽出する。また、これら抽出物は、市販されており、例えば、ブドウ種子抽出物としては、サンブライト株式会社製「exGrape(登録商標)Seed OPC30」を入手することが可能である。
【0025】
(ポリフェノール)
前記抽出物は、好ましくは、ω3系不飽和脂肪酸からトランス−2−ヘキセナールを生成するための有効成分として、ポリフェノールを含んでなる。ポリフェノールは、フラボノイド系物質、プロアントシアニジン系物質、フェニルプロパノイド系物質、からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物であってよく、好ましくは、プロアントシアニジン系物質を使用することができる。
【0026】
フラボノイド系物質は、フラボン類物質、フラボノール類物質、フラバン類物質、フラバノール(カテキン)類物質、フラバノン類物質、及びアントシアニジン類物質からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物であってよく、いずれのものを有意に使用することができる。
【0027】
(特定のポリフェノール)
好ましい態様によれば、ポリフェノールは、プロアントシアニジンが好ましく使用される。
【0028】
〈プロアントシアニジン〉
プロアントシアニジンは、エピカテキン、カテキン、エピガロカテキン、ガロカテキンが複数個重合した構造を有するポリフェノールである。
プロアントシアニジンの具体例としては、プロシアニジンA1(Procyanidin A1)、プロシアニジンA2(Procyanidin A2)、プロシアニジンB1(Procyanidin B1)、プロシアニジンB2(Procyanidin B2)、プロシアニジンB3(Procyanidin B3)、プロシアニジンC1(Procyanidin C1)、プロシアニジンC2(Procyanidin C2)、プロデルフィニジンB1(ProdelphinidinB1)、プロデルフィニジンB2(ProdelphinidinB2)、プロデルフィニジンB3(ProdelphinidinB3)又はこれらの立体異性体、ガロイル化又は配糖体化されたプロアントシアニジン、プロアントシアニジン誘導体等が挙げられる。
これら具体例の中でも、好ましくは、プロシアニジンB2、プロシアニジンB1、プロシアニジンC1が挙げられる。
【0029】
〔トランス−2−ヘキセナールの生成方法〕
好ましい別の態様によれば、ω3系不飽和脂肪酸からトランス−2−ヘキセナールを生成する方法を提案することができ、この生成方法は、ω3系不飽和脂肪酸に、トランス−2−ヘキセナール生成用組成物を付与し、ω3系不飽和脂肪酸からトランス−2−ヘキセナールを生成することを含んでなるものである。
付与工程以外の事項は、上記〔トランス−2−ヘキセナール生成用組成物〕の項で説明したのと同様であってよい。
【0030】
〔トランス−2−ヘキセナール生成香味組成物〕
トランス−2−ヘキセナール生成香味組成物は、ω3系不飽和脂肪酸と、トランス−2−ヘキセナール生成用組成物とを含んでなる組成物である。トランス−2−ヘキセナール生成香味組成物は、当初、ω3系不飽和脂肪酸とトランス−2−ヘキセナール生成用組成物が主として存在するが、その後に、トランス−2−ヘキセナール生成用組成物により、ω3系不飽和脂肪酸からトランス−2−ヘキセナールが生成されて、ω3系不飽和脂肪酸と生成したトランス−2−ヘキセナールとの混合物を含有することとなる。
【0031】
トランス−2−ヘキセナール生成香味組成物は、ω3系不飽和脂肪酸と、トランス−2−ヘキセナール生成用組成物を含有することにより、製品に添加された後に、ω3系不飽和脂肪酸から生成されたトランス−2−ヘキセナールを含有することになることから、ω3系不飽和脂肪酸による薬理上及び栄養上の効果を得ると伴に、ω3系不飽和脂肪酸から生成されたトランス−2−ヘキセナールによる香味効果とを兼ね備えてなることにより、製品に、薬理上及び栄養上の効果、並びに、果実様香味性、とりわけ、果実を摘果後、短時間で搾汁した際の新鮮感を継続的に付与することが可能となる。
【0032】
ω3系不飽和脂肪酸の含有量は、トランス−2−ヘキセナール生成香味組成物全量に対して、1mg/L以上、5000mg/L以下であり、好ましくは、1mg/L以上、1000mg/L以下である。
【0033】
トランス−2−ヘキセナール生成用組成物の含有量は、トランス−2−ヘキセナール生成香味組成物全量に対して、1mg/L以上、100000mg/L以下であり、好ましくは、5mg/L以上、50000mg/L以下である。トランス−2−ヘキセナール生成用組成物の含有量が上記数値範囲にあることにより、ω3系不飽和脂肪酸を効率よくトランス−2−ヘキセナールに変換することが可能となる。
【0034】
〔製品〕
好ましい別の態様によれば、トランス−2−ヘキセナール生成用組成物又は前記トランス−2−ヘキセナール生成香味組成物を含有した製品を提案することができる。
【0035】
トランス−2−ヘキセナール生成用組成物(抽出物)の添加量は、製品に対して、0mg/L超過10mg/L以下であり、より好ましくは、0.01mg/L以上5mg/L以下である。添加量が上記範囲にあることにより、モノテルペンの分解を高い次元において抑制することが可能となる。
【0036】
「製品」は、飲料、食料品、調味料、嗜好品(お菓子、珍味)、飲食料品以外では、香水、化粧品等の美容用品;入浴剤、芳香剤、洗剤、洗口剤等の生活用品等が挙げられる。例えば、チューハイ、カクテルドリンク、発泡酒、果実酒、薬味酒等のアルコール飲料;果汁飲料、野菜飲料、スポーツドリンク、ハチミツ飲料、豆乳、ビタミン補給飲料、ミネラル補給飲料、栄養ドリンク、滋養ドリンク、乳酸菌飲料、乳飲料などのソフト飲料;果汁入り炭酸飲料、乳類入り炭酸飲料、エキス入り飲料等の炭酸飲料;緑茶、紅茶、ウーロン茶、ハーブティー、ミルクティー、コーヒー飲料等の嗜好飲料;アイスクリーム、ラクトアイス、氷菓、ヨーグルト、プリン、ゼリー、ディリーデザート等のデザート食品及びそれらを製造するためのミックス原料;キャラメル、キャンディー、錠菓、クラッカー、ビスケット、クッキー、パイ、チョコレート、スナックなどの菓子及びそれらを製造するためのミックス原料;バター、チーズ、ミルク、ヨーグルトなどの乳製品;レトルト食品、パン、スープ、各種インスタント食品などの一般食品類、香水、化粧品、オーラルケアー商品等を挙げることができる。
【0037】
(任意成分)
製品は、任意成分として、食品添加物(色素、香料、甘味料、酸味料、pH調整剤、酸化防止剤、保存料、ビタミン類、旨み成分、食物繊維、安定化剤、乳化剤)、香水又化粧品添加物、又は、医薬部外品の添加物等を含有することが可能である。これら添加物は、厚生労働省、消費者庁等において定められたガイドライン及び関連法規(食品衛生法等)に規定されたものを用いる。
【0038】
〈酸味料〉
酸味料の具体例としては、アジピン酸、クエン酸、クエン酸(三)ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL−酒石酸、L−酒石酸、DL−酒石酸ナトリウム、L−酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL−リンゴ酸、DL−リンゴ酸ナトリウム、リン酸及びこれらの塩(カリウム塩、ナトリウム塩)が挙げられる。酸味料は、pH調整剤としても使用可能である。
製品のpHは、完成品の性状にもよるが、一般に、7以下であり、2以上5未満とすることが可能である。
【0039】
〈甘味料〉
甘味料の具体例としては、高甘味度甘味料、糖類及び糖アルコールが挙げられる。高甘味度甘味料の具体例としては、アスパルテーム、アセスルファムカリウム(K)、キシリトール、グリチルリチン酸二ナトリウム、サッカリン、サッカリンカルシウム、サッカリンナトリウム、スクラロース、ネオテーム、アラビノース、カンゾウ抽出物、キシロース、ステビア、タウマチン、ラカンカ抽出物、ラムノース及びリボースが挙げられる。糖類の具体例としては、異性化糖、ブドウ糖、果糖、砂糖、麦芽糖及び乳糖が挙げられる。糖アルコールの具体例としては、還元麦芽糖水飴、エリスリトール、キシリトール及びマルチトールが挙げられる。
【0040】
〈色素〉
色素の具体例としては、カラメル、アントシアニン色素、フラボノイド色素、カロテノイド色素、キノン色素、ポリフィリン、ジケトン色素、ベタシアニン色素、アザフィロン色素、クチナシ色素等が挙げられる。
【0041】
〔飲料〕
より好ましい態様によれば、ω3系不飽和脂肪酸を含む原料及びトランス−2−ヘキセナール生成用組成物又は前記トランス−2−ヘキセナール生成香味組成物を含有した飲料を提案することができる。飲料については、上記に記載したものが例示され、大別して、アルコール飲料とノンアルコール飲料とに類別される。
【0042】
ノンアルコール飲料は、実質的にアルコールを含まないアルコールテイストの飲料である。ノンアルコール飲料には、ノンアルコールビール(ビールテイスト飲料)、ノンアルコールワイン、ノンアルコールカクテル、ノンアルコール酎ハイ(酎ハイテイスト飲料)、ノンアルコール日本酒及びノンアルコール焼酎(焼酎テイスト飲料)等が含まれる。ノンアルコール飲料のアルコール濃度は、酒税法上は温度15度の時において原容量百分中に含有するエチルアルコールの容量が1%未満であると定義される。
【0043】
アルコール飲料は、ビール、酎ハイ、カクテル、発泡酒等が挙げられる。ベースとなるアルコールは、飲料として許可されたアルコールであってよく、ベースアルコールとしては、醸造酒又は蒸留酒(好ましい)であってよい。蒸留酒としては、好ましくは、焼酎、ウォッカ、ジン、ラム等であってよい。アルコール飲料は、そのアルコール含有量は特に限定されるものではないが、製品特性、酒税法等を考慮して適宜調整できる。アルコール含有量は30容量%以下、より好ましくは10容量%以下が好ましく、より好ましくは、3容量%以上10質量%以下である。
【0044】
(飲料製造方法)
ω3系不飽和脂肪酸を含む原料及びトランス−2−ヘキセナール生成用組成物又は前記トランス−2−ヘキセナール生成香味組成物を含有した飲料の一般的な製造方法は、概説すると以下の通りである。ω3系不飽和脂肪酸を含む原料及びトランス−2−ヘキセナール生成用組成物又は前記トランス−2−ヘキセナール生成香味組成物と、食品添加剤と、飲用水(炭酸水)、必要に応じてベースアルコールとを所定の量で準備し、これらを混合する。次に、混合液を冷却し、必要に応じてカーボネーションを行う。その後、容器に充填・密封することにより、所望の飲料を得ることができる。容器に充填する前に膜ろ過フィルターを用いてろ過してもよい。また、濃厚な状態で中間液を作成した後に、炭酸水を添加して飲料を調製してもよい。
【0045】
〔容器詰め製品(飲料)〕
別の好ましい態様によれば、トランス−2−ヘキセナール生成用組成物又はトランス−2−ヘキセナール生成香味組成物を含有した製品を容器に詰めた容器詰製品(飲料)を提案することができる。容器詰飲料とすることにより、果実様香味感、とりわけ、果実を摘果後、短時間で搾汁した際の果汁感及び新鮮感を十分に付与し、促進させ、かつ、維持することができると伴に、製品の提供利便性、流通利便性、保存性、品質劣化防止を図ることが可能となる。
容器は、内容物が漏洩しない材料であれば、ビニール、プラスチック、ガラス、金属、紙、木又は皮等で、様々な形状で形成された容器に詰めることができる。より好ましい態様によれば、容器の内外に、光、熱、酸素、紫外線等を遮断するための素材(たとえば、金属箔)を備えたものであってよい。
【実施例】
【0046】
以下の実施例により、本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は下記実施例に限定して解釈されるものではない。また、以下の実施例は、本発明の実施態様の一例を示すものであるが、これら実施例により当業者は本発明の全ての範囲について容易に実施することができること当然に理解するものである。
【0047】
〔分析〕
実施例、比較例の飲料中に含まれる各成分は、ガスクロマトグラフィ(GC)分析を用いて定量を行った。GC分析の手順は以下の通りであった。
【0048】
(分析用試料調製)
試料を5.0g秤量し、内部標準としてリナロール−d5を200μL添加した上で、45mLの水で希釈した。次に、アセトニトリル浸漬及び加熱にてコンディショニングを行ったTwister(PDMS,0.5mm×20mm)を希釈した試料に投入し、40℃、2時間の撹拌吸着反応を行ったものを分析用試料とした。なお、試料調製は2点並行して行った。
【0049】
(定量方法)
分析用試料中のトランス−2−ヘキセナールの量は、内部標準(リナロール−d5)とのピーク面積比から計算した。また、同一試料について2点並行で行った分析値の平均値を試料中の成分量であるものとして定量を行った。
【0050】
(GC測定条件)
装置:測定には昇温気化型注入口(CIS4,Gerstel社製)、加熱脱着ユニット(TDU, Gerstel社製)およびLTMカラム(1
st:DB−WAX,20m×0.18mm;0.3μm、2
nd:DB−5,10m×0.18mm;0.4μm,Agilent Technologies社製)を搭載した7890B GC System(Agilent Technologies社製)、5977A MSD(Agilent Technologies社製)を使用した。
TDU:20℃(1min)−(720℃/min)−250℃(3min)
CIS:−50℃(1.5min)−(12℃/min)−240℃(20min)
スプリット比:30:1
注入口圧:508.28kPa
ベント圧:314.11kPa
1stカラム温度:40℃(3min)−(5℃/min)−125℃(0min)
2ndカラム温度:40℃(31min)−(5℃/min)−200℃(0min)
MSD:Scan mode,m/z 29−230, 20Hz, EI
【0051】
〔評価試験1:トランス−2−ヘキセナールの生成〕
(飲料調製)
下記〔表1〕に記載された処方に従って、実施例と比較例によるブドウ様香味を有するアルコール飲料を調製した。実施例及び比較例におけるpHは、3.3であり、アルコールは9.2体積%とした。pHの測定は、pHメーター(HORIBA LAQUA pH/ION METER F−72;電極:9615S JF15)によっておこなった。アルコールの測定は、アルコライザー(Anton Paar Alcolyzer Plus、DMA4500 Density Meter)によっておこなった。
【0052】
(評価内容)
実施例1と比較例1とについて、トランス−2−ヘキセナールの生成量及び増加率を算出した。〔表1〕の処方にある通り、所定の含有量の香料及び果汁と、所定の含有量のトランス−2−ヘキセナール生成用組成物(ブドウ種子抽出物)とを含むブドウ様香味を有するアルコール飲料を調製し、37℃で1週間保存した後、GC分析し、内部標準比からトランス−2−ヘキセナールを定量した。保存前後のトランス−2−ヘキセナールの定量値から、トランス−2−ヘキセナールの生成量及び増加率を導き出した。
【0053】
(評価結果)
〔表1〕にまとめた、実施例1と比較例1の結果から、実施例1のトランス−2−ヘキセナールの生成量及び増加率は、比較例1(トランス−2−ヘキセナール生成用組成物無し)と比較して、極めて高い値を示した。
【0054】
〔評価試験2:トランス−2−ヘキセナールの官能評価試験〕
(評価内容)
実施例1と比較例1とについて、保存試験後の官能評価を評価した。評価試験1と同様にサンプルを調整し、37℃で1週間保存した後、熟練したパネリスト6名にて、下記評価基準によって官能評価を行い、パネリストの評価した値の平均値を採用し、その結果は、以下の〔表1〕に記載した。
【0055】
(評価基準)
評価点「−3」:新鮮感又は劣化臭が「比較例よりも非常に弱い」
評価点「−2」:新鮮感又は劣化臭が「比較例よりも弱い」
評価点「−1」:新鮮感又は劣化臭が「比較例よりやや強い」
評価点「0」:新鮮感又は劣化臭が「比較例に対して差がない」
評価点「1」:新鮮感又は劣化臭が「比較例よりやや強い」
評価点「2」:新鮮感又は劣化臭が「比較例よりも強い」
評価点「3」:新鮮感又は劣化臭が「比較例よりも非常に強い」
【0056】
(評価結果1)
実施例1と比較例1の結果を〔表1〕にまとめた。比較例1と比較して、実施例1は新鮮感がより強く感じられ、劣化臭は同等であることが明らかとなった。
【0057】
(評価結果2)
実施例1と比較例1との比較とは別に、6名のパネリストに短評を求めた。この短評の中には、実施例1について、「香りのボリューム多い」、「酸味想起の香り」、「軽い香りの割合多い」、「フルーティー強め」、との評価も挙がった。しかし、比較例1について、「香り弱い」、「エタノール臭」、「スイート系フレーバーがやや少ない」との評価が挙がった。
【0058】
【表1】