特許第6798866号(P6798866)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6798866
(24)【登録日】2020年11月24日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】マルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/72 20060101AFI20201130BHJP
   H03H 9/64 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   H03H9/72
   H03H9/64 Z
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-243166(P2016-243166)
(22)【出願日】2016年12月15日
(65)【公開番号】特開2018-98691(P2018-98691A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年5月10日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】奥道 武宏
(72)【発明者】
【氏名】浦田 知徳
【審査官】 橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/217197(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/72
H03H 9/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが少なくとも1つの共振子を含み、互いに通過帯域の異なる第1フィルタ,第2フィルタおよび第3フィルタと、
前記第1フィルタ、前記第2フィルタおよび前記第3フィルタが電気的に共通に接続されている接続点と、
第1ポートと第2ポートとを備え、前記第1ポートを前記第1フィルタの側に接続し、前記第2ポートを前記接続点の側に接続することで、前記接続点と前記第1フィルタとの間に直列接続された容量素子と、を備え、
前記第1フィルタは、前記少なくとも1つの共振子のうち最も前記容量素子の側に接続された第1共振子を備え、
前記接続点と前記第1フィルタとの間には基準電位への分岐路を備えず、
前記容量素子は、前記第2フィルタおよび前記第3フィルタのうち、前記第2ポートの側に位置するフィルタの通過帯域の周波数帯において、前記第1フィルタの前記第1共振子よりも損失が少なく、
前記第2フィルタは、前記第2ポートの側に位置しており、
第3ポートと第4ポートとを備え、前記第3ポートを前記第2フィルタの側に接続し、前記第4ポートを前記接続点の側に接続することで、前記接続点と前記第2フィルタとの間に直列接続された第2容量素子をさらに備え、
前記第2容量素子は、前記第1フィルタおよび前記第3フィルタのうち、前記第4ポートの側に位置するフィルタの通過帯域の周波数帯において、前記第2フィルタの前記少なくとも1つの共振子のうち最も前記第2容量素子の側に接続された第2共振子よりも損失が少ない、
マルチプレクサ。
【請求項2】
前記第1フィルタの通過帯域は、前記第2フィルタおよび前記第3フィルタのうち、前記第2ポートの側に位置するフィルタの通過帯域よりも低周波数側である、請求項1に記載のマルチプレクサ。
【請求項3】
前記第1フィルタの前記少なくとも1つの共振子は、弾性波共振子を含む、請求項1または2に記載のマルチプレクサ。
【請求項4】
前記容量素子は、チップコンデンサである、請求項1乃至3のいずれかに記載のマルチプレクサ。
【請求項5】
前記容量素子は、前記弾性波共振子よりも共振周波数が高い1対の櫛歯状電極で構成される、請求項3に記載のマルチプレクサ。
【請求項6】
複数の共振子を含み、前記第1フィルタ、前記第2フィルタおよび前記第3フィルタのいずれとも通過帯域が異なる第4フィルタをさらに備え、
前記第1フィルタと前記第3フィルタとを共通に接続する第1接続点と、
前記第2フィルタと前記第4フィルタとを共通に接続する第2接続点と、を備え、
前記接続点は、前記第1接続点と前記第2接続点とが配線を介しそれぞれ電気的に接続されており、
前記容量素子は、前記第1接続点と前記接続点との間に接続され、
前記第2容量素子は、前記第2接続点と前記接続点との間に接続されている、請求項1乃至5のいずれかに記載のマルチプレクサ。
【請求項7】
前記接続点が電気的に接続されるアンテナ端子をさらに備え、
前記接続点と前記アンテナ端子との間に整合回路が接続されている、請求項1乃至のいずれかに記載のマルチプレクサ。
【請求項8】
前記第1フィルタと、前記第2フィルタおよび前記第3フィルタの通過帯域を周波数順に並べたときに、隣接する通過帯域同士の間隔が通過帯域幅の5倍以下である、請求項1乃至のいずれかに記載のマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信機器に搭載され、アンテナに接続されるマルチプレクサに関し、より詳細には3以上の異なる通過帯域を有するフィルタを備えたマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信規格において注目されている技術としてキャリアアグリゲーション(Carrier Aggrigation;以下CAとする)がある。CAは、複数のキャリアを同時に用いて広帯域伝送を可能とする技術である。
【0003】
CAに対応した通信機器では、複数の周波数帯域が同時に使用される。そのため、CAに対応した通信機器では、複数の周波数帯域の複数の信号を同時に分離できる分波器(マルチプレクサ)が必要になる。
【0004】
このようなマルチプレクサとして、特許文献1には、互いに異なる3つの周波数帯の信号を分離するトリプレクサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−57342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、更なる高速通信ならびに低消費電力の実現が求められており、これに伴い、フィルタに対しては複数の通過帯域のそれぞれにおいて挿入損失を抑制する技術が求められている。CAにおいて同時に用いられる周波数帯域が近接する場合に特にこの技術が必要となる。
【0007】
本願は、係る事情の下に案出されたものであり、その目的は、高い通信品質を実現することのできるマルチプレクサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るマルチプレクサは、第1フィルタと第2フィルタと第3フィルタと接続点と容量素子とを含む。第1フィルタと第2フィルタと第3フィルタとは、それぞれ少なくとも1つの共振子を含んで構成され、互いに通過帯域が異なるものである。そして、接続点は、これら第1フィルタと第2フィルタと第3フィルタとが電気的に共通に接続されている。容量素子は、前記接続点と前記第1フィルタとの間に直列接続されている。この接続点と第1フィルタとの間には基準電位への分岐路を備えていない。そして、この容量素子は、前記第2フィルタおよび前記第3フィルタのうち、前記容量素子よりも前記接続点の側に位置するフィルタの通過帯域の周波数帯において、前記第1フィルタの前記少なくとも1つの共振子のうち最も前記容量素子の側に接続された第1共振子よりも損失が少ないものである。
【発明の効果】
【0009】
上記の構成によれば、好適に異なる周波数帯の信号を分離し、高い通信品質を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の第1の実施形態に係るマルチプレクの構成を示す回路図である。
図2】(a),(b)はそれぞれ、図1のマルチプレクサのフィルタの構成を示す回路図である。
図3図1に示すマルチプレクの変形例の構成を示す回路図である。
図4】本開示の第2の実施形態に係るマルチプレクの構成を示す回路図である。
図5図2における共振子の構造を示す平面図である。
図6】マルチプレクサの模式的な回路図である。
図7】(a),(b)はそれぞれ、実施例に係るマルチプレクサの周波数特性を示す線図である。
図8】(a)〜(d)はそれぞれ、図7の要部拡大図であり、各フィルタの通過帯域帯における他のフィルタの反射係数を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態に係るマルチプレクサについて、図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いられる図は模式的なものであり、図面上の寸法比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。
【0012】
第2の実施形態以降において、既に説明された実施形態と同一または類似する構成については、既に説明された実施形態の構成に付された符号と同一の符号を用い、また、図示および説明を省略することがある。また、第2の実施形態以降において、既に説明された実施形態の構成と対応(類似)する構成について、既に説明された実施形態の構成に付した符号とは異なる符号を付した場合において、特に断りがない事項については、既に説明された実施形態の構成と同様である。
【0013】
<第1の実施形態>
(基本的構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係るマルチプレクサ1の構成を示す回路図である。マルチプレクサ1は、アンテナ端子ANT,接続点10,第1端子S1,第2端子S2,第3端子S3を備える。
【0014】
アンテナ端子ANTは接続点10に接続され、接続点10から第1〜第3端子S1〜S3がそれぞれ並列接続される。そして、接続点10と、第1〜第3端子S1〜S3のそれぞれとの間に、第1フィルタF1,第2フィルタF2,第3フィルタF3が接続されている。すなわち、第1フィルタF1〜第3フィルタF3は、アンテナ端子ANTに対して並列に接続されており、接続点10で初めて共通に接続されている。さらに、接続点10と第1フィルタF1との間には容量素子C1が直列に接続されている。
【0015】
後述するが、本マルチプレクサ1によれば、この容量素子C1により、容量素子C1が前段に接続された第1フィルタF1の相手側のフィルタF2,F3の各々の通過帯域における反射係数を高めることができる。
【0016】
ここで、接続点10と第1フィルタF1との間には基準電位への分岐路が存在しない。この例では、接続点10と各フィルタF1〜F3との間には、いずれの経路においても基準電位への分岐路がない。このことは、各フィルタF1〜F3と接続点10との間には、整合回路や他のフィルタ等が存在しないことを示す。
【0017】
第1〜第3フィルタF1〜F3は、送信フィルタや受信フィルタとして機能するフィルタであり、少なくとも1つの共振子21を含んで構成される。図2(a),(b)に、各フィルタにおける共振子の接続例を示す模式的な回路図である。
【0018】
送信フィルタとして機能するフィルタは、例えば、図2(a)に示すような、ラダー型フィルタによって構成されていてもよい。すなわち、送信フィルタは、その入力側I1と出力側O1との間において直列に接続された1以上(本実施形態では3)の直列共振子13Aと、その直列のラインと基準電位部との間に設けられた1以上(本実施形態では2)の並列共振子13Bとを有している。すなわち、共振子21として、直列共振子13Aと並列共振子13Bとを備えている。なお、個々の直列共振子13A,並列共振子13Bは、全く同一のものではなく、その配置位置,求めるフィルタ特性により、それぞれ個別の設計がなされる。
【0019】
ここで、送信フィルタの入力側I1は第1端子S1または第2端子S2または第3端子S3に接続され、出力側O1はアンテナ端子ANT側に接続される。
【0020】
受信フィルタとして機能するフィルタは、例えば、図2(b)に示すような、その入力側I2と出力側O2との間において、多重モード型フィルタ15と、その入力側に直列に接続された補助共振子13Cとを有している。すなわち、この例では共振子21は補助共振子13Cである。なお、本実施形態において、多重モードは、2重モードを含むものとする。
【0021】
ここで、受信フィルタの出力側O2は第1端子S1または第2端子S2または第3端子S3に接続され、入力側I2はアンテナ端子ANT側に接続される。
【0022】
(容量素子)
容量素子C1は、容量素子C1が第1フィルタF1に接続される側のポートp1と、接続点10側のポートp2とを備える。ここで、容量素子C1を基準に回路的にみると、ポートp1側に位置するフィルタ(この例では第1フィルタF1)と、ポートp2側に位置するフィルタ(この例では第2フィルタ,第3フィルタF3)とがある。ポートp2側に位置するフィルタとは、ポートp1側に位置するフィルタに対してアンテナ端子ANTからみて並列接続されているフィルタということもできる。以後、ポートp1側に位置するフィルタを後段に位置するフィルタ、ポートp2側に位置するフィルタを前段に位置するフィルタと呼ぶことがある。
【0023】
容量素子C1は、前段に位置するフィルタの通過帯域の周波数帯において、後段に位置するフィルタのうち最もアンテナ端子ANT側に位置する共振子21よりも、損失が小さい。具体的には、前段に位置するフィルタの通過帯域の周波数帯において、Q値の高いコンデンサとしている。
【0024】
複数の共振子21のうち最もアンテナ端子ANT側に位置する共振子21(第1共振子21A)とは、図2(a)に示す送信フィルタの場合には出力側O1に位置する直列共振子13Aであり、図2(b)に示す受信フィルタの場合には、補助共振子13Cである。なお、図2(a)に示すようなラダー型フィルタの場合であって、並列共振子13Bが最も出力側O1に位置する場合には、並列共振子13Bが第1共振子21Aとなる。
【0025】
容量素子C1は、上述の条件を満たせば特に限定はなく、チップコンデンサを用いてもよいし、圧電基板2や不図示の実装基板上に形成された電極パターンで形成してもよい。なお、いずれの場合であっても、容量素子C1の容量値はその他の構成要件との関係で適宜調整するものとする。
【0026】
容量素子C1がチップコンデンサの場合には、Q値を高くすることができる。また、所望の容量値に合わせて適宜付け替えもしくは切り替えることができる。
【0027】
容量素子C1を電極パターンで形成する場合には小型化が可能となる。また、マルチプレクサ1全体としての部品点数を削減することができる。容量素子C1を電極パターンで構成する場合には、矩形状の対向電極としてもよいし、弾性表面波を励振する櫛歯状電極と同様の形状としてもよい。その場合には、所望の容量を小さい面積で得ることができる。圧電基板2上に櫛歯状電極で構成する場合には、意図せぬ弾性波の発生を抑制するために、共振周波数を調整したり、弾性表面波の伝搬方向とずらして配置したりすればよい。
【0028】
このような容量素子C1を図1に示す位置に直列に接続することで、後段に位置するフィルタを前段に位置するフィルタの通過帯域の周波数帯において反射係数の高いものとすることができる。その結果、複数のフィルタを備えるマルチプレクサ1において相手側のフィルタの通過帯域においても挿入損失の少ない、優れたフィルタ特性を実現することができるものとなる。
【0029】
なお、複数のフィルタを並列接続するマルチプレクサにおいて、不要の信号を分離するためにフィルタの前段にLCフィルタを設ける例が知られている。しかしながら、このようなLCフィルタは比帯域幅が大きく、Low BandとHigh Bandの切り分け等の広い信号の切り分けには有効であるが、近接した通過帯域を備える複数のフィルタ間の信号の切り替えには適用することができない。具体的には、並列接続された複数のフィルタの通過帯域の間隔が、例えば通過帯域の5倍以下である場合には、通過帯域が近接した状態であるといえる。また、実際のマルチプレクサ1においては、通過帯域幅の2倍以下、1倍以下の場合もある。
【0030】
ここで、第1フィルタF1の共振子21が弾性表面波(Surface Acoustic Wave)共振子(以下、SAW共振子という)である場合には、容量素子C1の後段に位置するフィルタ(第1フィルタF1)の通過帯域を、容量素子C1の前段に位置するフィルタの通過帯域に比べて低くしてもよい。言い換えると、複数のフィルタが並列接続される場合において、最も通過帯域が高いフィルタ以外のフィルタに容量素子C1を接続してもよい。
【0031】
SAW共振子を用いたフィルタにおいては、通過帯域の高周波数側でバルク波放射による損失が顕著に発生する。このバルク波放射によるロスが増大した周波数帯に他のフィルタの通過帯域が重なったときに通信品質が低下してしまう。そこで、容量素子C1を配置することで、この周波数帯における反射係数を高め、その結果、この周波数帯に通過帯域が重複した他のフィルタの特性を高めることができる。
【0032】
さらに、容量素子C1よりも前段に位置するフィルタの中に、第1フィルタF1の通過帯域よりも低周波数側に通過帯域が位置するフィルタが存在する場合には、容量素子C1を圧電基板2上に形成された櫛歯電極で構成してもよい。より具体的には、櫛歯電極はSAWの伝搬方向に沿って形成され、その共振周波数が、最もアンテナ端子ANT側に位置する共振子21の共振周波数よりも高くなるように形成されている。言い換えると、容量素子C1の櫛歯状電極の電極指周期(後述)は最もアンテナ端子ANT側に位置する共振子21を構成する櫛歯状電極の電極指周期よりも小さくなっている。
【0033】
このように構成することで、容量素子C1は、その後段に位置するフィルタ(第1フィルタF1)の通過帯域とは関係のない、より高周波数側の周波数で共振するSAW共振子として機能する。SAW共振子は共振周波数よりも低周波数側の領域においてはバルク波放射による損失が小さいため、容量素子C1により、その後段に位置するフィルタ(第1フィルタF1)の通過帯域よりも低周波数側において損失を低減することができる。その結果、後段に位置するフィルタ(第1フィルタF1)の通過帯域よりも低周波数側に位置するフィルタに対して反射係数を高めることができる。
【0034】
より好ましくは、容量素子C1による共振周波数が、全フィルタ(F1〜F3)の通過帯域よりも高周波数側に位置するように、電極指周期を調整してもよい。
【0035】
なお、図1に示す例では、3つのフィルタが並列接続されるマルチプレクサ1の例を示したが、4以上であってもよい。さらに、3つのフィルタのうち1つのフィルタのみに容量素子を設けた場合について説明したが、複数のフィルタ(全てのフィルタの場合を含む)についてそれぞれに容量素子を設けてもよい。図3に、複数のフィルタ(この例では2つ)のそれぞれについて容量素子Cを設けた例を示す。第1フィルタF1と接続点10との間に接続された容量素子C1に加え、第2フィルタF2と接続点I0との間に接続された第2容量素子C2を備える。第2容量素子C2の第3ポートp3は、容量素子C1の第1ポートp1に相当し、第2容量素子C2の第4ポートp4は、容量素子C1の第2ポートp2に相当する。第2容量素子C2に求められる損失の大きさは、容量素子C1と同様である。すなわち、第2容量素子C2の前段に位置するフィルタ(第1フィルタF1,第3フィルタF3)の通過帯域の周波数領域における損失が、第2容量素子C2の後段に位置するフィルタ(第2フィルタF2)のうち最もアンテナ端子ANT側に位置する共振子21(第2共振子21Bという)の損失よりも小さくなるように設計されている。このような場合には、より多くの通過帯域について反射係数を高め、その結果通信品質を高めることができる。
【0036】
<第2の実施形態>
上述の例では、1つのフィルタに1つの容量素子C1を設けた例について説明したが、2以上のフィルタに対して1つの容量素子を設けてもよい。このようなマルチフィルタ1Aの一例の回路図を図4に示す。
【0037】
図4において、マルチプレクサ1Aは、アンテナ端子ANT,接続点10,第1接続点11、第2接続点12,第1端子S1,第2端子S2,第3端子S3,第4端子S4とを備える。
【0038】
アンテナ端子ANTは接続点10に接続され、接続点10から第1〜第4端子S1〜S4がそれぞれ並列接続される。より具体的には、第1接続点11と第1端子S1との間に第1フィルタF1が接続されている。そして、第1接続点11と第3端子S3との間に第3フィルタF3が接続されている。すなわち、第1接続点11に対して第1フィルタF1と第3フィルタF3とが並列接続されている。
【0039】
同様に、第2接続点12と第2端子S2との間に第2フィルタが接続され、第2接続点12と第4端子S4との間に第4フィルタF4が接続されている。
【0040】
そして、接続点10に対して第1接続点11と第2接続点12とが並列に接続されている。すなわち、第1フィルタF1〜第4フィルタF4は、アンテナ端子ANTに対して並列に接続されており、接続点10で初めて共通に接続されている。さらに、接続点10と第1フィルタF1との間には容量素子C1が直列に接続されている。この例では、接続点10と第1接続点11との間に容量素子C1が接続されている。同様に、接続点と第2フィルタF2との間であって、その中の接続点10と第2接続点12との間には第2容量素子C2が直列に接続されている。
【0041】
このような構成とする場合には、容量素子C1に対して前段に位置するフィルタは第2フィルタF2と第4フィルタF4とであって、後段に位置するフィルタは第1フィルタF1と第3フィルタF3とである。同様に、第2容量素子C2に対して、前段に位置するフィルタは第1フィルタF1と第3フィルタF3とであり、後段に位置するフィルタは第2フィルタF2と第4フィルタF4とである。
【0042】
容量素子C1,C2に求められる特性は、第1の実施形態で説明した通りである。例えば、容量素子C1については、第2フィルタF2と第4フィルタF4との両方の通過帯域において、第1フィルタF1と第3フィルタF3の両方の第1共振子21よりも損失の少ないコンデンサを用いている。
【0043】
このように2つのフィルタに対して1つの容量素子で反射係数を高めることで、部品点数を少なくすることができる。
【0044】
さらに、この例では、アンテナ端子ANTと接続点10との間の配線から分岐して基準電位に接続されるインダクタンスLが位置している。容量素子C1と第2容量素子C2とはあくまでも反射係数を高めるために挿入された成分であるが、これら2つの容量素子C1,C2とこのインダクタンスLとでアンテナ端子ANTとの整合をとることもできる。一方(第1,第3フィルタF1,F3)側から他方(第2,第4フィルタF2)側をみたときには、直列接続された容量素子C1,第2容量素子C2と間にインダクタンスLが分岐して接地される構成となる。このようにコンデンサ2つが直列接続されていることから位相回転を減ずることができ、整合をとりやすくなる。
【0045】
また、上述の例では、2つのフィルタに対して1つの容量素子を設けた構成を2つ並列接続した例を示したが、一方の容量素子は省略してもよいし、2つのフィルタに対して1つの容量素子を設けた構成と、1つのフィルタに1つの容量素子C1を設けた構成を組み合わせてもよい。
【0046】
(各構成要素)
以下、上述のマルチプレクサ1,1Aを構成する各構成要素について図5を用いて説明する。図5において、いずれの方向が上方または下方とされてもよいものであるが、以下では、便宜的に、D1軸、D2軸およびD3軸からなる直交座標系を定義し、D3軸の正側(図5の紙面手前側)を上方として、上面等の語を用いることがあるものとする。
【0047】
共振子17は、SAW共振子でも圧電薄膜共振子でも水晶振動子でもよいが、この例では、弾性表面波共振子で構成した場合について説明する。SAW共振子は、圧電基板2上に後述のIDT電極19等の導体パターンを形成してなる。
【0048】
圧電基板2は、D1軸およびD2軸に平行な(D3軸に直交する)上面を有する基板である。その平面形状および寸法は適宜に設定されてよい。また、圧電基板2は、例えば、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)単結晶またはタンタル酸リチウム(LiTaO3)単結晶等の圧電性を有する単結晶からなる。そのカット角は、利用するSAWの種類等に応じて適宜に設定されてよい。例えば、圧電基板2は、回転YカットX伝搬のものである。すなわち、X軸は圧電基板2の上面(D1軸)に平行であり、Y軸は、圧電基板2の上面の法線に対して所定の角度で傾斜している。
【0049】
なおD1軸、D2軸およびD3軸からなる直交座標系と、X軸、Y軸およびZ軸からなる直交座標系(すなわち結晶方位)との関係は一定であるものとする。従って、以下では、圧電基板2の結晶方位の向きをD1軸、D2軸および/またはD3軸で示すことがある。
【0050】
ここで、圧電基板2の裏面には圧電基板を構成する材料よりも線膨張係数の小さい材料からなる支持基板を貼り合せてもよいし、このような支持基板と圧電基板2との間に音速の早い材料と低い材料とを積層した音響反射構造層を介在させてもよい。
【0051】
図5は、直列共振子13A、並列共振子13Bおよび補助共振子13C(以下、これらを区別せずに、「共振子13」ということがある。)等のSAW共振子の構造を示す平面図である。
【0052】
共振子13は、例えば、1ポートSAW共振子として構成されており、圧電基板2と、圧電基板2の上面に設けられたIDT電極19および反射器21とを有している。なお、共振子13は、上記の他、IDT電極19および反射器21の上面に配置される付加膜、IDT電極19および反射器21と圧電基板2との間に介在する下地層、圧電基板2の上面をIDT電極19および反射器21(または付加膜)の上から覆う保護層等を有していてもよい。
【0053】
IDT電極19は、圧電基板2の上面に形成された導電パターン(導電層)によって構成されており、正側櫛歯電極23Aおよび負側櫛歯電極23Bを有している。なお、以下では、正側櫛歯電極23Aおよび負側櫛歯電極23Bを単に「櫛歯電極23」といい、これらを区別しないことがある。また、正側櫛歯電極23Aは、1対の櫛歯電極23のうちD2軸の正側に位置する櫛歯電極23を指し、負側櫛歯電極23Bは、1対の櫛歯電極23のうちD2軸の負側に位置する櫛歯電極23を指すものとする(これらの名称は電位の正側・負側を指すものではない。)。
【0054】
各櫛歯電極23は、例えば、互いに対向する2本のバスバー25と、各バスバー25から他のバスバー25側へ並列に延びる複数の電極指27と、複数の電極指27の間において各バスバー25から他のバスバー25側へ延びる複数のダミー電極29と、を有している。そして、1対の櫛歯電極23は、複数の電極指27が互いに噛み合うように(交差するように)配置されている。
【0055】
なお、SAWの伝搬方向は複数の電極指27の向き等によって規定されるが、本実施形態では、便宜的に、SAWの伝搬方向を基準として、複数の電極指27の向き等を説明することがある。
【0056】
バスバー25は、例えば、概ね一定の幅でSAWの伝搬方向(D1軸方向、X軸方向)に直線状に延びる長尺状に形成されている。そして、1対のバスバー25は、SAWの伝搬方向に交差(本実施形態では直交)する方向(D2軸方向)において対向している。また、1対のバスバー25は、例えば、互いに平行であり、一対のバスバー25間の距離は、SAWの伝搬方向において一定である。
【0057】
複数の電極指27は、例えば、概ね一定の幅でSAWの伝搬方向に直交する方向(D2軸方向)に直線状に延びる長尺状に形成されており、SAWの伝搬方向(D1軸方向、X軸方向)に概ね一定の間隔で配列されている。1対の櫛歯電極23の複数の電極指27は、そのピッチp(例えば電極指27の中心間距離)が、例えば、共振させたい周波数でのSAWの波長λの半波長と同等となるように設けられている。波長λは、例えば、1.5μm〜6μmである。
【0058】
複数の電極指27の長さ(D2軸方向)は、例えば、互いに同等とされている。また、複数の電極指27の幅(D1軸方向)は、例えば、互いに同等とされている。なお、これらの寸法は、共振子13に要求される電気特性等に応じて適宜に設定されてよい。例えば、電極指27の幅は、複数の電極指27のピッチpに対して0.4p〜0.7pである。
【0059】
複数のダミー電極29は、例えば、概ね一定の幅でSAWの伝搬方向に直交する方向(D2軸方向)に直線状に延びる長尺状に形成されており、複数の電極指27間の中央に配置されている(複数の電極指27と同等のピッチで配列されている)。そして、一方の櫛歯電極23のダミー電極29の先端は、他方の櫛歯電極23の電極指27の先端とギャップGを介して対向している。ダミー電極29の幅(D1軸方向)は、例えば、電極指27の幅と同等である。複数のダミー電極29の長さ(D2軸方向)は、例えば、互いに同等である。
【0060】
複数のギャップGの数は、複数の電極指27の本数と同数である。また、複数のギャップGの幅(D1軸方向)は、複数の電極指27の幅および複数のダミー電極29の幅と同等であり、また、ギャップG同士で互いに同等である。複数のギャップGの長さ(D2軸方向)は、ギャップG同士で互いに同一である。この長さは、共振子13に要求される電気特性等に応じて適宜に設定されてよい。例えば、ギャップGの長さは、0.1λ〜0.6λである。
【0061】
IDT電極19は、例えば、金属によって形成されている。この金属としては、例えば、AlまたはAlを主成分とする合金(Al合金)が挙げられる。Al合金は、例えば、Al−Cu合金である。なお、IDT電極19は、複数の金属層から構成されてもよい。IDT電極19の厚みは適宜に設定されてよい。
【0062】
IDT電極19によって圧電基板2に電圧が印加されると、圧電基板2の上面付近において上面に沿ってD1軸方向に伝搬するSAWが誘起される。また、SAWは、電極指27によって反射される。そして、電極指27のピッチpを半波長とする定在波が形成される。定在波は、当該定在波と同一周波数の電気信号に変換され、電極指27によって取り出される。このようにして、共振子13は、共振子もしくはフィルタとして機能する。
【0063】
反射器21は、圧電基板2の上面に形成された導電パターン(導電層)によって構成されており、平面視において格子状に形成されている。すなわち、反射器21は、SAWの伝搬方向に交差する方向において互いに対向する1対のバスバー(符号省略)と、これらバスバー間においてSAWの伝搬方向に直交する方向(D2軸方向)に延びる複数の電極指(符号省略)とを有している。反射器21の複数の電極指は、IDT電極19の複数の電極指27と概ね同等のピッチで配列されている。
【0064】
なお、図5に示すSAW共振子の構成を容量素子として用いる場合には、反射器21やダミー電極29を省略してもよい。
【0065】
以上のような構成の共振子17を備えることにより、小型なマルチプレクサを提供することができる。
【実施例】
【0066】
まず、容量素子C1挿入の効果を確認するために、図6に示す回路図で示されるマルチプレクサについて検討した。
【0067】
第1フィルタF1の通過帯域は第2フィルタF2の通過帯域よりも低周波数側に位置し、互いのフィルタの通過帯域同士の間隔は通過帯域幅の約3倍であった。この場合に、第1容量素子C1の容量を3.2pF、第2フィルタF2の通過帯域の周波数帯におけるQ値を100とし、第2容量素子C2の容量を1.1pF、インダクタLのインダクタンスを3.3nHとしたマルチプレクサのモデルを作成した。このモデルを実施例1とする。
【0068】
同様に比較例として、容量素子C1,第2容量素子C2を備えず、インダクタLの大きさを3.0nHとしたマルチプレクサのモデルを作成した。なお、容量素子C1,第2容量素子C2を備える場合と備えない場合とでインダクタLの大きさが異なる。これは、それぞれの構成においてアンテナ端子ANTとの整合がとれるように最適化したことによる。
【0069】
シミュレーションの結果、容量素子C1,第2容量素子C2を備えない比較例のときには、第1フィルタF1の第2フィルタF2の通過帯域の周波数帯における反射係数Γは0.864であった。これに対して、容量素子C1,第2容量素子C2を備える場合には反射係数Γは0.903であり、理想とする1に近付かせることができる。その結果、マルチプレクサ全体の損失を低減することができる。
【0070】
次の実施例(実施例2)として、図4に示すマルチプレクサ1Aを製造しその周波数特性を測定した。同様に、比較例として、図4に示す例において容量素子C1,C2を備えないマルチプレクサを製造し、同様に周波数特性を測定した。
【0071】
4つのフィルタの通過帯域の周波数帯は、第2フィルタF2,第1フィルタF1,第3フィルタF3,第4フィルタF4の順に高くなるように設定した。言い換えると、4つの通過帯域のうち、真ん中に位置する近接する通過帯域を備えるフィルタ2つが第1接続点11に接続され、一番低い通過待機と一番高い通過帯域を備えるフィルタ2つが第2接続点12に接続されている。
【0072】
ここで、容量素子C1,第2容量素子C2は、それぞれチップコンデンサであり、インダクタLは不図示の回路基板(実装基板)に形成した導線パターンとした。容量素子C1,第2容量素子C2,インダクタLの構成は以下の通りである。
【0073】
容量素子C1 :容量値 12pF,1GHzにおけるQ値 60
第2容量素子C2:容量値 10pF,1GHzにおけるQ値 60
インダクタL :インダクタンス 1.6nH,1GHzにおけるQ値 62
容量素子C1,第2容量素子C2,インダクタL:いずれも不図示の実装基板に実装しチップ素子
フィルタF1〜F4の通過帯域:1.7GHz〜2.2GHz
このような構成の実施例2および比較例の周波数特性について図7に示す。図7(a)に、比較例のマルチプレクサについて各フィルタの周波数と反射係数Γの大きさとの相関を示す。図7(b)に実施例2のルチプレクサについて各フィルタの周波数と反射係数Γの大きさとの相関を示す。
【0074】
この図から明らかなように、周波数が高くなるにつれて、通過帯域の高周波数側における反射係数が徐々に低くなるが、実施例は比較例に比べて、その降下する傾きが小さくなっていることが確認できた。これにより、実施例に係るマルチプレクサは相手側の複数の通過帯域において反射係数を高めることができることを確認した。
【0075】
図8に、図7の要部拡大図を示す。具体的には、(a)〜(d)はそれぞれ、第1フィルタF1〜第4フィルタF4の各通過帯域帯におけるその他のフィルタの反射係数を示すものである。(a)〜(d)において、薄く塗りつぶした領域が通過帯域帯となっている。にさらに、各フィルタの通過帯域内における、他のフィルタの反射係数Γの大きさを確認すると、通過帯域中央付近の落ち込みや、通過帯域の高周波数側の肩部における反射係数Γの劣化を抑制できていることを確認できた。以上より、実施例に係るマルチプレクサにより通信品質が向上することを確認できた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8