特許第6798941号(P6798941)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6798941
(24)【登録日】2020年11月24日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】X線管装置及びX線CT装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/10 20060101AFI20201130BHJP
   H05G 1/02 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   H01J35/10 N
   H05G1/02 P
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-123848(P2017-123848)
(22)【出願日】2017年6月26日
(65)【公開番号】特開2019-8993(P2019-8993A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2019年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中山 公博
(72)【発明者】
【氏名】岡村 秀文
【審査官】 右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭61-127560(JP,U)
【文献】 特開2004-63444(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0281380(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/10
H05G 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線が照射されることでX線を放射する陽極と、
前記陽極に接続されるロータと、
回転軸受を介して固定部に支持される回転軸部と、
前記ロータと前記回転軸部とを接続するとともに、前記ロータから前記回転軸部への伝熱を抑制する断熱部とを備えるX線管装置であって、
前記ロータと前記断熱部との接触面、又は前記断熱部と前記回転軸部の接触面が、熱伝達一定化面と面精度確保面とを有し、
前記面精度確保面は荷重の変化量に対する接触面間の隙間の変化量が前記熱伝達一定化面よりも小さく、
前記熱伝達一定化面は荷重の変化量に対する真の接触面積の変化量が前記面精度確保面よりも小さいことを特徴とするX線管装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線管装置において、
前記熱伝達一定化面は、前記面精度確保面よりも表面粗さが粗く、前記ロータと前記断熱部と前記回転軸部のいずれよりも軟らかい金属を表面に有することを特徴とするX線管装置。
【請求項3】
請求項1に記載のX線管装置において、
前記面精度確保面は、接触面間の隙間が前記熱伝達一定化面よりも狭いことを特徴とするX線管装置。
【請求項4】
請求項1に記載のX線管装置において、
前記ロータと前記断熱部との接触面では、前記面精度確保面が前記熱伝達一定化面よりも内側に配置されることを特徴とするX線管装置。
【請求項5】
請求項1に記載のX線管装置において、
前記断熱部と前記回転軸部との接触面では、前記面精度確保面が前記熱伝達一定化面よりも外側に配置されることを特徴とするX線管装置。
【請求項6】
被検体にX線を照射するX線源と、前記X線源に対向配置され前記被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、前記X線源と前記X線検出器を搭載し前記被検体の周囲を回転する回転円盤と、前記X線検出器により検出された透過X線量に基づき被検体の断層画像を再構成する画像再構成装置と、前記画像再構成装置により再構成された断層画像を表示する画像表示装置と、を備え、
前記X線源が請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のX線管装置であることを特徴とするX線CT装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線管装置及びX線CT(Computed Tomography)装置に係わり、特に回転陽極型X線管装置の回転陽極の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
X線CT装置とは、被検体にX線を照射するX線管装置と、被検体を透過したX線量を投影データとして検出するX線検出器と、を被検体の周囲で回転させることにより得られる複数角度からの投影データを用いて被検体の断層画像を再構成し、再構成された断層画像を表示するものである。X線CT装置で表示される画像は、被検体の中の臓器の形状を描写するものであり、画像診断に使用される。
【0003】
X線管装置では、陰極から放出される電子線が陽極に衝突し、電子線が衝突した点である焦点から、制動放射によりX線が発生する。X線CT装置に用いられるX線管装置には、電子線の衝突により陽極に与えられる熱負荷を分散させるために、円盤形状の陽極を回転させる回転陽極型X線管装置が使用される。
【0004】
ところで、陽極に与えられた熱負荷は陽極及び陽極と接触する部材を熱膨張させ、これらの熱膨張は焦点を移動させる。焦点の移動は、被検体を透過するX線の経路を変えてしまうので、X線CT装置での投影データの取得に不具合をもたらす。
【0005】
そこで、特許文献1には、陽極の構成部材であるロータと断熱部とのそれぞれが、互いに噛み合う円環状の突起である円環歯部を有し、円環歯部が嵌合した状態でろう付けされることで、焦点移動量を低減させるとともに回転陽極の機械的強度を向上させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-63444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、ロータと断熱部との接触面がろう付けされるので、ろう材で満たされる隙間がばらつき、接触面の面精度が確保されなくなる場合がある。接触面の面精度が確保されなくなると個々のX線管装置の間で焦点の移動量の差異が異なり、X線CT装置での調整に多大な工数をもたらす。
【0008】
そこで本発明の目的は、焦点移動量を低減させたまま陽極の構成部材の接触面での面精度を確保することができる構造のX線管装置を提供すること、及びそのX線管装置を搭載するX線CT装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明は、陽極に接続されるロータと、回転軸受を介して固定部に支持される回転軸部と、ロータと回転軸部とを接続するとともに、ロータから回転軸部への伝熱を抑制する断熱部とを備え、ロータと断熱部との接触面、又は断熱部と回転軸部の接触面が、面精度確保面と熱伝達一定化面とを有し、面精度確保面は荷重の変化量に対する接触面間の隙間の変化量が熱伝達一定化面よりも小さく、熱伝達一定化面は荷重の変化量に対する真の接触面積の変化量が面精度確保面よりも小さいことを特徴とする。
【0010】
より具体的には、本発明は、電子線が照射されることでX線を放射する陽極と、前記陽極に接続されるロータと、回転軸受を介して固定部に支持される回転軸部と、前記ロータと前記回転軸部とを接続するとともに、前記ロータから前記回転軸部への伝熱を抑制する断熱部とを備えるX線管装置であって、前記ロータと前記断熱部との接触面、又は前記断熱部と前記回転軸部の接触面が、面精度確保面と熱伝達一定化面とを有し、前記面精度確保面は荷重の変化量に対する接触面間の隙間の変化量が前記熱伝達一定化面よりも小さく、前記熱伝達一定化面は荷重の変化量に対する真の接触面積の変化量が前記面精度確保面よりも小さいことを特徴とするX線管装置である。
【0011】
また、本発明は、前記X線管装置と、前記X線管装置に対向配置され被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、前記X線管装置と前記X線検出器を搭載し前記被検体の周囲を回転する回転円盤と、前記X線検出器により検出された複数角度からの透過X線量に基づき前記被検体の断層画像を再構成する画像再構成装置と、前記画像再構成装置により再構成された断層画像を表示する画像表示装置と、を備えることを特徴とするX線CT装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、焦点移動量を低減させたまま陽極の構成部材の接触面での面精度を確保することができる構造のX線管装置を提供すること、及びそのX線管装置を搭載するX線CT装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のX線CT装置1の全体構成を示すブロック図
図2】本発明のX線管装置101の全体構成を示す図
図3】本発明のX線管装置101の回転体支持部215の構造を示す図
図4】ロータ300と断熱部301との接触面306aの拡大図
図5図4中の平滑面401の拡大図
図6】断熱部301と回転軸部302との接触面306bの拡大図
図7図6中の平滑面601の拡大図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に従って本発明に係るX線CT装置及びX線CT装置に搭載されるX線管装置の好ましい実施形態について説明する。なお、以下の説明及び添付図面において、同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略することにする。
(第1の実施形態)
図1を用いて本発明を適用したX線CT装置1の全体構成を説明する。X線CT装置1はスキャンガントリ部100と操作卓120とを備える。
【0015】
スキャンガントリ部100は、X線管装置101と、回転円盤102と、コリメータ103と、X線検出器106と、データ収集装置107と、寝台105と、ガントリ制御装置108と、寝台制御装置109と、X線制御装置110と、を備えている。X線管装置101は寝台105上に載置された被検体にX線を照射する装置である。X線管装置101の構成については図2を用いて後述する。コリメータ103はX線管装置101から照射されるX線の放射範囲を制限する装置である。回転円盤102は、寝台105上に載置された被検体が入る開口部104を備えるとともに、X線管装置101とX線検出器106を搭載し、X線管装置101とX線検出器106を被検体の周囲で回転させるものである。X線検出器106は、X線管装置101と対向配置され、被検体を透過したX線を検出することにより透過X線の空間的な分布を計測する装置であり、多数のX線検出素子を回転円盤102の回転方向に配列したもの、若しくは回転円盤102の回転方向と回転軸方向との2次元に配列したものである。データ収集装置107は、X線検出器106で検出されたX線量をデジタルデータとして収集する装置である。ガントリ制御装置108は回転円盤102の回転を制御する装置である。寝台制御装置109は、寝台105の上下前後左右動を制御する装置である。X線制御装置110はX線管装置101に入力される電力を制御する装置である。
【0016】
操作卓120は、入力装置121と、画像演算装置122と、表示装置125と、記憶装置123と、システム制御装置124とを備えている。入力装置121は、被検体氏名、検査日時、撮影条件などを入力するための装置であり、具体的にはキーボードやポインティングデバイスである。画像演算装置122は、データ収集装置107から送出される計測データを演算処理して断層画像を再構成する装置である。表示装置125は、画像演算装置122で再構成された断層画像を表示する装置であり、具体的にはCRT(Cathode-Ray Tube)や液晶ディスプレイ等である。記憶装置123は、データ収集装置107で収集したデータ及び画像演算装置122で再構成された断層画像の画像データを記憶する装置であり、具体的にはHDD(Hard Disk Drive)等である。システム制御装置124は、これらの装置及びガントリ制御装置108と寝台制御装置109とX線制御装置110を制御する装置である。
【0017】
入力装置121から入力された撮影条件、特にX線管電圧やX線管電流などに基づきX線制御装置110がX線管装置101に入力される電力を制御することにより、X線管装置101は撮影条件に応じたX線を被検体に照射する。X線検出器106は、X線管装置101から照射され被検体を透過したX線を多数のX線検出素子で検出し、透過X線の分布を計測する。回転円盤102はガントリ制御装置108により制御され、入力装置121から入力された撮影条件、特に回転速度などに基づいて回転する。寝台105は寝台制御装置109によって制御され、入力装置121から入力された撮影条件、特にらせんピッチなどに基づいて動作する。
【0018】
X線管装置101からのX線照射とX線検出器106による透過X線分布の計測が回転円盤102の回転とともに繰り返されることにより、様々な角度からの投影データが取得される。取得された様々な角度からの投影データは画像演算装置122に送信される。画像演算装置122は送信された様々な角度からの投影データを逆投影処理することにより断層画像を再構成する。再構成して得られた断層画像は表示装置125に表示される。
【0019】
図2を用いて、X線管装置101の構成について説明する。X線管装置101は、X線を発生するX線管210と、X線管210を収納する容器220とを備える。
【0020】
X線管210は、電子線を発生する陰極211と、陰極211に対し正の電位が印加される陽極212と、陰極211と陽極212を真空雰囲気中に保持する外囲器213とを備える。
【0021】
陰極211はフィラメントもしくは冷陰極と、集束電極とを備える。フィラメントはタングステンなどの高融点材料をコイル状に巻いたものであり、電流が流されることにより加熱され、電子を放出する。冷陰極はニッケルやモリブデンなどの金属材料を鋭利に尖らせたもので、陰極表面に電界が集中することで電界放出により電子を放出する。集束電極は、放出された電子を陽極212上のX線焦点へ向けて集束させるための集束電界を形成する。フィラメントもしくは冷陰極と、集束電極とは同電位である。
【0022】
陽極212はターゲットと陽極母材とを備える。ターゲットはタングステンなどの高融点で原子番号の大きい材質で構成される。ターゲット上のX線焦点に陰極211から放出された電子が衝突することにより、X線焦点からX線217が放射される。陽極母材は、銅などの熱伝導率の高い材質からなり、ターゲットを保持する。ターゲットと陽極母材とは同電位である。
【0023】
外囲器213は陰極211と陽極212の間を電気的に絶縁するために、陰極211と陽極212を真空雰囲気中に保持する。外囲器213にはX線217をX線管210外へ放射するための放射窓218が備えられる。放射窓218は、X線透過率が高いベリリウムなどの原子番号の小さい材質で構成される。放射窓218は後述する容器220にも備えられる。外囲器213の電位は接地電位である。
【0024】
陰極211から放出された電子は、陰極と陽極との間に印加される電圧により加速され電子線216となる。電子線216が集束電界により集束されてターゲット上のX線焦点に衝突すると、X線焦点からX線217が発生する。発生するX線のエネルギーは、陰極と陽極との間に印加される電圧、いわゆる管電圧によって決まる。発生するX線の線量は、陰極から放出される電子の量いわゆる管電流と、管電圧によって決まる。
【0025】
電子線216のエネルギーの内、X線に変換される割合は1%程度に過ぎず、残りのほとんどのエネルギーは熱となる。医療用のX線CT装置1に搭載されるX線管装置101では、管電圧は百数十kV、管電流は数百mAであるので、陽極212は数十kWの熱量で加熱される。このような加熱により陽極212が過熱溶融することを防止するため、陽極212は回転体支持部215に接続されており、回転体支持部215の駆動により、図2中の1点鎖線219を回転軸として回転する。以降の説明では、陽極212の回転軸を、符号219を用いて回転軸219と呼ぶ。回転体支持部215は、励磁コイル214が発生した磁界を回転駆動力として駆動する。陽極212を回転させることで、電子線216の衝突によって生じる熱負荷が分散されるので、X線焦点の温度をターゲットの融点より低く保つことができ、陽極212が過熱溶融することを防止できる。
【0026】
X線管210と励磁コイル214とは、容器220の中に収納される。容器220の中には、X線管210を電気的に絶縁するとともに冷却媒体となる絶縁油が充填される。容器220内に充填された絶縁油は、X線管装置101の容器220に接続された配管を通じて冷却器に導かれ、冷却器にて熱を放散した後、配管を通じて容器220内に戻される。
【0027】
X線焦点で発生した熱により陽極212は平均温度1000℃程度となる。発生した熱の大半は陽極212の表面からの輻射により外囲器213へ放熱され、残りの熱は熱伝導により回転体支持部215を通じて外囲器213へ流れる。
【0028】
図3を用いて、陽極212に接続される回転体支持部215について説明する。図3は回転軸219に沿った回転体支持部215の断面図である。なお、図面を簡略化するため、図3には回転軸219より上側の半分を図示している。回転体支持部215は、陽極212が陰極211と対向する面の裏側に接続され、ロータ300と、断熱部301と、回転軸部302と、回転軸受303a、303bと、固定部304と、ネジ305a、305bを備えている。以下、各構成について説明する。
【0029】
ロータ300は、円柱形状と、円柱形状側に底面が設けられた段付きの円筒部を組み合わせた形状を有する金属製の部材である。ロータ300の円柱形状の一端が陽極212に接続される。励磁コイル214によって発せられる磁界を円筒部が受けることにより、ロータ300は回転軸219を中心として回転する。
【0030】
断熱部301は、段付きのハット形状を有する金属製の部材であり、ロータ300の内側に嵌合され、ネジ305aによってロータ300に結合される。また、ロータ300から断熱部301を介して回転軸部302へ流入する熱量を抑制するために、断熱部301にはロータ300よりも熱伝導率の低い材質が用いられる。
【0031】
回転軸部302は、段付きの円筒形状を有する金属製の部材であり、断熱部301の内側に嵌合され、ネジ305bによって断熱部301に結合される。また、回転軸部302は、回転軸受303a、303bを介して固定部304に対して回転可能に支持される。
【0032】
回転軸受303a、303bは、いわゆる転がり軸受であり、複数の球体が回転軸部302の外周上に配置されて構成される。球体の表面には潤滑物質として鉛等の軟質金属が塗布される。回転軸受303a、303bの温度が潤滑物質の融点以上になると、潤滑物質が部分的に欠落して回転軸受303a、303bの摩擦を増大させ、回転に悪影響を及ぼす。そこで回転軸部302へ流入する熱量は抑制されることが好ましい。
【0033】
固定部304は、円柱の一端に底面が設けられた形状と円筒を組み合わせた形状を有する金属製の部材であり、底面側が外囲器213に支持される。
【0034】
ネジ305aはロータ300と断熱部301との結合に、ネジ305bは断熱部301と回転軸部302との結合に、それぞれ用いられる。ネジ305a、305bは回転軸219を中心とした円周上に、必要な結合力に応じて複数配置される。
【0035】
図3に示す構造によると、ロータ300と回転軸部302の熱膨張は焦点を図3中の左側に移動させるのに対し、断熱部301の熱膨張は焦点を図3中の右側に移動させる。すなわち断熱部301の熱膨張は、ロータ300と回転軸部302の熱膨張とは逆方向に焦点を移動させ、断熱部301が設けられることにより焦点移動量は抑制される。断熱部301と他の部材との接触面の隙間、及び接触面を介して流れ込む熱量は焦点移動量に影響を与えるので、断熱部301との接触面306a、306bでは面精度を確保しつつ、熱伝達を極力一定に保つ必要がある。
【0036】
特にX線管装置101が使用される際、すなわちX線CT装置1に搭載されたX線管装置101がX線を照射する際、接触面306a、306bには回転円盤102及びロータ300の回転や熱膨張による荷重がかかるので、荷重が変化した場合にも、面精度の確保と、熱伝達の一定化を保つ必要がある。
【0037】
図4を用いて、本実施形態の要部の一つであるロータ300と断熱部301との接触面306aについて説明する。接触面306aは面精度確保面と熱伝達一定化面とを有する。面精度確保面は、接触面306aにかかる荷重が変化した場合であっても、接触面間の隙間の変化が比較的小さい面である。熱伝達一定化面は、接触面306aにかかる荷重が変化した場合であっても、真の接触面積の変化が小さい面、すなわち熱伝達率の変化が比較的小さい面である。面精度確保面は回転軸219に近い側に、熱伝達一定化面は回転軸219から遠い側に設けられる。例えば、ネジ305aよりも内側に面精度確保面が、ネジ305aよりも外側に熱伝達一定化面が設けられる。以下、面精度確保面と熱伝達一定化面について詳細に説明する。
【0038】
面精度確保面は、ロータ300と断熱部301の表面粗さがともに小さい平滑面401であり、ロータ300と断熱部301が直接接触して形成される。表面粗さが小さい面同士が接触するので、面精度確保面では接触面間の隙間は小さく、一定に保たれる。
【0039】
図5を用いて平滑面401についてさらに説明する。平滑面401では、ロータ300と断熱部301の表面粗さは小さいが、拡大すると図5に示すような凹凸面を有する。そのため、ロータ300と断熱部301は、互いの凸部の先端同士で接触しており、平滑面401の真の接触面積は、平滑面401の全領域の面積よりも小さい。また、接触面306aにかかる荷重によって凸部の先端がミクロに変形するので、荷重が大きくなれば平滑面401の真の接触面積も大きくなり、その結果、面精度確保面での熱伝達率も大きくなる。なお、荷重による凸部の先端の変形はミクロなものなので、接触面間の隙間は一定に保たれる。つまり、面精度確保面では、荷重の変化に対して、面精度は保たれるものの、熱伝達率が変化する。
【0040】
なお、荷重の変化による熱伝達率の変化を抑制するために、X線管装置101が使用される際に接触面306aにかかる荷重以上の荷重を、X線管装置101の組立工程時に平滑面401に印加しておいても良い。このような荷重を印加しておくことにより、凸部の先端を予め塑性変形させられるので、X線管装置101使用時のミクロな変形を最小限にすることができる。
【0041】
熱伝達一定化面は、ロータ300と断熱部301の少なくとも一方は表面粗さが大きい粗面であり、ロータ300と断熱部301の間に隙間が設けられ、その隙間には軟質金属400が満たされる。ロータ300と断熱部301の隙間に軟質金属400が満たされるので、熱伝達一定化面では真の接触面積が一定に保たれる。すなわち接触面306aにかかる荷重によらず熱伝達率が一定に保たれる。なお、接触面306aにかかる荷重により軟質金属400が変形するので、ロータ300と断熱部301の間の隙間は変化する。つまり、熱伝達一定化面では、荷重の変化に対して、熱伝達率は保たれるものの、面精度が変化する。
【0042】
ここで、面精度確保面と熱伝達一定化面とを様々な観点について比較しながら説明する。荷重の変化量に対する接触面間の隙間の変化量に関しては、面精度確保面の方が熱伝達一定化面よりも小さい。荷重の変化量に対する真の接触面積の変化量に関しては、熱伝達一定化面の方が面精度確保面よりも小さい。表面粗さに関しては、熱伝達一定化面の方が面精度確保面よりも粗い。接触面間の隙間に関しては、面精度確保面の方が熱伝達一定化面よりも狭い。熱伝達率に関しては、面精度確保面の方が熱伝達一定化面よりも小さい。
【0043】
以上述べたような面精度確保面と熱伝達一定化面とを接触面306aが有することにより、接触面306aにかかる荷重が変化した場合にも、接触面306aの面精度は面精度確保面により確保され、熱伝達率は熱伝達一定化面により一定に保たれる。その結果、ロータ300と断熱部301との隙間の精度が確保されるとともに、断熱部301に流れ込む熱量が一定に保たれるので、焦点移動量を低減させたまま陽極の構成部材の接触面での面精度を確保することができる。また、このような構造とすることにより、X線管装置毎の焦点移動量の差も低減することができる。
【0044】
さらに、接触面306aにおいて、面精度確保面が熱伝達一定化面よりも回転軸219に近い側に設けられることにより、ロータ300から断熱部301を介して回転軸部302への伝熱を抑制することができる。
【0045】
次に図6を用いて、本実施形態の要部の一つである断熱部301と回転軸部302との接触面306bについて説明する。接触面306bも、接触面306aと同様に、面精度確保面と熱伝達一定化面とを有する。面精度確保面は回転軸219から遠い側に、熱伝達一定化面は回転軸219に近い側に設けられる。例えば、ネジ305bよりも外側に面精度確保面が、ネジ305aよりも内側に熱伝達一定化面が設けられる。
【0046】
面精度確保面は、断熱部301と回転軸部302の表面粗さがともに小さい平滑面601であり、断熱部301と回転軸部302が直接接触して形成される。表面粗さが小さい面同士が接触するので、面精度確保面では接触面間の隙間は小さく、一定に保たれる。
【0047】
図7を用いて平滑面601についてさらに説明する。平滑面601でも、平滑面401と同様に、断熱部301と回転軸部302との両表面が図8に示すような凹凸面を有する。そのため、断熱部301と回転軸部302の接触面306bにおいても、平滑面601の真の接触面積は、平滑面601の全領域の面積よりも小さい。また、荷重が大きくなれば平滑面601の真の接触面積も大きくなり、熱伝達率も大きくなる。つまり、接触面306bにおいても、面精度確保面では、荷重の変化に対して、面精度は保たれるものの、熱伝達率が変化する。
【0048】
なお、接触面306bにおいても、X線管装置101使用時にかかる荷重を予め平滑面601に印加しておき、X線管装置101使用時のミクロな変形を最小限にし、荷重の変化による熱伝達率の変化を抑制できるようにしてもいても良い。
【0049】
熱伝達一定化面は、断熱部301と回転軸部302の少なくとも一方は表面粗さが大きい粗面であり、断熱部301と回転軸部302の間に隙間が設けられ、その隙間には軟質金属600が満たされる。このような構造により、接触面306aの場合と同様に、接触面306bにかかる荷重によらず熱伝達率が一定に保たれる。なお、接触面306bにかかる荷重により軟質金属600が変形するので、断熱部301と回転軸部302の間の隙間は変化する。つまり、熱伝達一定化面では、荷重の変化に対して、熱伝達率は保たれるものの、面精度が変化する。
【0050】
以上述べたような面精度確保面と熱伝達一定化面とを接触面306bが有することにより、接触面306bにかかる荷重が変化した場合にも、接触面306bの面精度は面精度確保面により確保され、熱伝達率は熱伝達一定化面により一定に保たれる。その結果、断熱部301と回転軸部302との隙間の精度が確保されるとともに、回転軸部302に流れ込む熱量が一定に保たれるので、焦点移動量を低減させたまま陽極の構成部材の接触面での面精度を確保することができる。
【0051】
さらに、接触面306bにおいて、面精度確保面が熱伝達一定化面よりも回転軸219から遠い側に設けられることにより、断熱部301から回転軸部302への伝熱を抑制することができる。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0053】
1:X線CT装置、100:スキャンガントリ部、101:X線管装置、102:回転円盤、103:コリメータ、104:開口部、
105:寝台、106:X線検出器、107:データ収集装置、108:ガントリ制御装置、109:寝台制御装置、
110:X線制御装置、120:操作卓、121:入力装置、122:画像演算装置、123:記憶装置、
124:システム制御装置、125:表示装置、210:X線管、211:陰極、212:陽極、213:外囲器、
214:励磁コイル、215:回転体支持部、216:電子線、217:X線、218:放射窓、219:回転軸、220:容器、
300:ロータ、301:断熱部、302:回転軸部、303a、303b:回転軸受、304:固定部、305a、305b:ネジ、
306a、306b:接触面、400、600:軟質金属、401、601:平滑面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7