(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、種々の現象により、各車輪センサからの予期しないパルスの出力が生じることがある。例えば、停車状態で大きく転舵する「据え切り」を行う際、転舵を通じて車体に振動が伝わることで、少なくとも一方の車輪センサからパルスが出力されることが想定される。
【0005】
このため、採用する算出方法によっては、車両の「停止」を認識されずに、僅かながら「前後進」或いは「旋回」として誤って認識される場合がある。その結果、自車位置の算出精度が低下するという懸念があった。
【0006】
本発明は上記した問題を解決するためになされたものであり、据え切り動作を伴う車両の誘導を行う場合であっても、誘導の位置精度を向上可能な車両誘導装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両誘導装置は、車輪を有する車両に搭載される装置であって、前記車輪の回転量に比例する数のパルスを出力するパルス出力部と、前記パルス出力部からの前記パルスの計数値を用いて前記車両の位置を算出する位置算出部と、前記位置算出部により算出された前記車両の位置に基づいて前記車両を誘導開始位置から目標位置に誘導する誘導部と、前記誘導部による誘導中に前記車両の状態を検出する状態検出部と、を備え、前記位置算出部は、前記状態検出部が、前記車両の舵角変化量が第1閾値以上である舵角状態、及び、前記車両が停止中である停車状態を検出している間、前記パルス出力部からの前記パルスの計数値を用いた算出を中断する。
【0008】
このように、車両の舵角変化量が第1閾値以上である舵角状態、及び、車両が停止中である停車状態を検出している間、車輪の回転量に比例するパルスの計数値を用いた算出を中断するようにしたので、少なくとも据え切り動作の実行中であると推定される状況において、予期しないパルスの出力が無効化され、現状通りに自車位置がそのまま維持される。これにより、据え切り動作を伴う車両の誘導を行う場合であっても、誘導の位置精度を向上させることができる。
【0009】
また、前記位置算出部は、前記状態検出部が、前記車両の動作状態を切り替えるシフトレバーのシフト位置が切り替わったことをさらに検出した場合、前記パルスの計数値を用いた算出を中断してもよい。シフト位置の切り替わりをさらに考慮に入れることで、据え切り動作が始まる兆候を確実に捉えることができる。
【0010】
また、前記誘導部は、前記誘導開始位置と前記目標位置の間にある中間位置にて前記車両の停止及び舵角の変更を順次誘導し、前記位置算出部は、前記状態検出部が、前記車両が前記中間位置にあることをさらに検出した場合、前記パルスの計数値を用いた算出を中断してもよい。車両の位置をさらに考慮に入れることで、停止及び舵角の変更が順次行われる中間位置にて据え切り動作が始まる兆候を確実に捉えることができる。
【0011】
また、前記位置算出部は、前記停車状態の検出時点から所定時間が経過した場合、前記パルスの計数値を用いた算出の中断を開始してもよい。車両が完全に停止していないにもかかわらず停車状態を検出した状況を想定し、この検出時点からの時間マージンを設けることで、据え切り動作の開始前に算出が中断するのを効果的に防止できる。
【0012】
また、前記位置算出部は、前記パルスの計数値が第2閾値以上である場合、該パルスの計数値を用いた算出を中断してもよい。これにより、誘導の位置精度に影響を与え得るパルスの出力(つまり、第2閾値以上の大きな計数値)のみ無効化される。
【0013】
また、前記位置算出部は、前記状態検出部が、前記車両の動作状態を切り替えるシフトレバーのシフト位置が切り替わったことをさらに検出した場合、検出しない場合と比べて前記第2閾値を小さく設定してもよい。シフト位置の切り替わりを通じて据え切り動作が始まる兆候を捉えたタイミングで算出の中断判定を緩和することで、小さな計数値が得られた場合であってもパルスの出力を適切に無効化させることができる。
【0014】
また、前記誘導部は、前記誘導開始位置と前記目標位置の間にある中間位置にて前記車両の停止及び舵角の変更を順次誘導し、前記位置算出部は、前記状態検出部が、前記車両が前記中間位置にあることをさらに検出した場合、検出しない場合と比べて前記第2閾値を小さく設定してもよい。車両の位置を通じて据え切り動作が始まる兆候を捉えたタイミングで算出の中断判定を緩和することで、小さな計数値が得られた場合であってもパルスの出力を適切に無効化させることができる。
【0015】
また、前記位置算出部は、前記停車状態の検出時点から所定時間が経過した場合、経過しない場合と比べて前記第2閾値を小さく設定してもよい。車両が完全に停止していないにもかかわらず停車状態を検出した状況を想定し、この検出時点から所定時間が経過したタイミングで算出の中断判定を緩和することで、小さな計数値が得られた場合であってもパルスの出力を適切に無効化させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る車両誘導装置によれば、据え切り動作を伴う車両の誘導を行う場合であっても、誘導の位置精度を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る車両誘導装置について好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
【0019】
[車両誘導装置10の構成]
<車両12の全体構成>
図1は、本発明の一実施形態における車両誘導装置10が搭載された車両12の全体構成図である。四輪車である車両12は、右側の前輪13R、左側の前輪13L、右側の後輪14R、及び左側の後輪14Lを有する。ここでは、前輪13R、13Lが駆動輪に相当し、後輪14R、14Lが従動輪に相当する。
【0020】
車両12は、ステアリングホイール16と、ステアリングホイール16が取り付けられたステアリングシャフト18と、ステアリングシャフト18を回転駆動する電動モータを有するステアリングアクチュエータ20と、ステアリングシャフト18の回転角度(操舵角)を検出する舵角センサ22と、各種制御を実行する3つの電子制御ユニット(以下、ECU24、25、26)と、車両12の駐車支援に関する各種制御を実行する電子制御ユニット(以下、駐車支援ECU28)とを備える。
【0021】
ECU24、25、26及び駐車支援ECU28はいずれも、中央処理装置(CPU)及びメモリを備えるコンピュータである。ECU24〜26は、駐車支援ECU28にそれぞれ接続されており、車両12を目標位置Pe(
図4)に誘導するための各信号(以下、誘導信号)を駐車支援ECU28から取得する。
【0022】
ECU24は、電動パワーステアリング(EPS;Electric Power Steering)に関する各種制御を司るユニットである。ECU24には、ステアリングホイール16を作動させるステアリングアクチュエータ20が接続されている。
【0023】
ECU25は、電動パーキングブレーキ(EPB;Electric Parking Break)に関する各種制御を司るユニットである。ECU25には、図示しないブレーキを作動させるブレーキアクチュエータ30が接続されている。
【0024】
ECU26は、電動パワーシフト(Electric Power Shift)に関する各種制御を司るユニットである。ECU26には、自動変速機のシフトレバー(不図示)を変更するシフトアクチュエータ31が接続されている。また、駐車支援ECU28には、さらに、シフトレバーの位置(以下、シフト位置)を検出するシフト位置センサ32と、車両12の速度を検出する車速センサ33とが接続されている。
【0025】
なお、図示しないシフトレバーは、車両12を前進可能とする前進位置(「D」レンジ、「S」レンジ、「L」レンジ等)及び車両12を後退可能とする後退位置(例えば「R」レンジ)の間でシフト位置を変位可能であり、車両12の動作状態を切り替えるレバーである。
【0026】
右側の後輪14Rの近傍には、後輪14Rの回転量を検出する右車輪センサ34Rが設けられている。左側の後輪14Lの近傍には、後輪14Lの回転量を検出する左車輪センサ34Lが設けられている。右車輪センサ34R及び左車輪センサ34Lは、例えば、ホール素子を使用した磁気式のインクリメンタル型ロータリエンコーダで構成されている。
【0027】
車両12の前部中央及び後部中央には、該車両12の前方及び後方の画像を表す撮像信号を取得するカメラ36、37がそれぞれ配置されている。また、車両12の右側部及び左側部には、該車両12の右側方及び左側方の画像を表す撮像信号を取得するカメラ38、39がそれぞれ配置されている。駐車支援ECU28には、各カメラ36〜39からの撮像信号が逐次供給される。
【0028】
車両12の前部には4つの前方ソナー(以下、ソナー群40)が、車両12の後部には4つの後方ソナー(以下、ソナー群41)が略等間隔でそれぞれ配置されている。駐車支援ECU28には、各ソナー群40、41からの超音波信号が逐次供給される。
【0029】
車両12の車室内には、ドライバに対して目的地までの経路を案内するナビゲーション装置42が配置されている。ナビゲーション装置42は、タッチパネル式のディスプレイ、スピーカ、衛星測位装置、地図情報データベースを含んで構成される。ナビゲーション装置42は、車両誘導装置10におけるHMI(Human-Machine Interface)として機能する。
【0030】
車両誘導装置10は、運転制御の一部又は全部を自動で行うことで、車両12の駐車を支援する。自動操舵の例では、ステアリングホイール16の操作は、車両誘導装置10により自動で行われる一方、アクセルペダル、ブレーキペダル及びシフトレバー(いずれも不図示)の操作は、車両12のドライバにより行われる。なお、車両誘導装置10は、駐車のみならず、出庫を含む様々な状況にて車両12を誘導し、又は誘導の支援を行ってもよい。
【0031】
<車両誘導装置10の機能ブロック図>
図2は、
図1に示す車両誘導装置10の機能ブロック図である。車両誘導装置10は、状態検出部50と、外界検出部52と、駐車位置・経路決定部54、パルス出力部56と、パルス計数部58と、位置算出部60と、駐車制御部62と、誘導部64と、を備える。なお、駐車支援ECU28は、駐車位置・経路決定部54、位置算出部60、及び駐車制御部62として機能する。
【0032】
状態検出部50は、誘導部64による誘導中に車両12の状態を検出し、その検出結果を示すセンサ信号を位置算出部60に出力する。状態検出部50は、例えば、舵角センサ22、シフト位置センサ32、車速センサ33(
図1)の他、加速度センサ、角度センサ、ブレーキ液圧センサ、操作量センサ(いずれも不図示)を含んで構成される。
【0033】
外界検出部52は、誘導部64による誘導中に車両12の外界状態を検出し、その検出結果を示すセンサ信号を駐車位置・経路決定部54に出力する。外界検出部52は、例えば、カメラ36〜39、ソナー群40、41(
図1)の他、レーダ、LIDAR(Light Detection and Ranging;光検出と測距/Laser Imaging Detection and Ranging;レーザ画像検出と測距)を含んで構成される。
【0034】
駐車位置・経路決定部54は、外界検出部52から供給されたセンサ信号に基づいて車両12の外界状態を認識した後、ナビゲーション装置42からの入力操作に応じて、車両12の駐車スペース76及び目標位置Pe(
図4)を決定する。そして、駐車位置・経路決定部54は、誘導開始位置Psから目標位置Peまでの経路(以下、駐車経路80;
図4)を決定する。
【0035】
パルス出力部56は、一対の車輪センサ、すなわち、右車輪センサ34R及び左車輪センサ34Lから構成される。右車輪センサ34Rは、右側の後輪14R(
図1)の回転量に比例する数のパルス(以下、第1パルスともいう)を出力する。左車輪センサ34Lは、左側の後輪14L(
図1)の回転量に比例する数のパルス(以下、第2パルスともいう)を出力する。
【0036】
パルス計数部58は、パルス出力部56からの各パルスの出力数を所定の時間範囲にて計数する。これにより、パルス計数部58は、右車輪センサ34Rから出力された第1パルスを計数した計数値N1、及び、左車輪センサ34Lから出力された第2パルスを計数した計数値N2を取得する。
【0037】
位置算出部60は、パルス計数部58により計数された計数値N1、N2に基づいて所定の時間範囲での変位量を求め、前回算出された位置にこの変位量を加算(積算)することで、車両12の自車位置を算出する。ここで、「自車位置」とは、車両12の現時点での位置・姿勢を特定する各種情報を意味し、例えば、基準位置44(
図1)の座標及び傾きであっても、車両12を外接する四角形の頂点の各座標であってもよい。
図1の例では、基準位置44は、後輪14R、14Lを連結する車軸46の中点に相当する。
【0038】
駐車制御部62は、駐車位置・経路決定部54により決定された駐車経路80(
図4)、及び位置算出部60により算出された自車位置に基づいて、車両12を誘導・制御するための誘導信号を生成する。
【0039】
誘導部64は、駐車制御部62からの誘導信号に基づいて、誘導開始位置Psから目標位置Peまでの駐車経路80(
図4)に沿って、車両12を誘導する動作を行う。具体的には、誘導部64は、車両12の走行制御に関わる各種アクチュエータを制御するECU24〜26、車両12のドライバに対してガイダンス情報を出力するナビゲーション装置42を含んで構成される。
【0040】
[車両誘導装置10の動作]
<基本的動作>
続いて、車両誘導装置10の基本的動作について、
図3及び
図4を参照しながら説明する。
【0041】
図3に示すように、ドライバは、車両12を矢印方向に直進させながら、道路70の左側方にある駐車スペース76を探索する場合を想定する。本図から理解されるように、車両12の左方には、別の車両(以下、他車71、72、73、74)が既に駐車している。
【0042】
その後、ドライバは、他車72、73の間の駐車スペース76内にて駐車可能であると判断した場合、車両12を一旦停止させた後、ナビゲーション装置42(
図1)を介した所定のタッチ操作(例えば、[開始]アイコンのタッチ)を実行する。そうすると、駐車支援ECU28は、車両12が駐車スペース76に駐車する支援動作を開始する。先ず、駐車位置・経路決定部54の動作により、駐車座標系及び駐車経路80がそれぞれ決定される。
【0043】
図4に示すように、x軸−y軸の駐車座標系は、駐車スペース76の一部である目標エリア78によって定義される。具体的には、x軸は目標エリア78の短辺方向に平行すると共に、y軸は目標エリア78の長辺方向に平行する。そして、車両12の先頭位置に相当する短辺の中点が、駐車座標系の原点Oとして設定されている。
【0044】
また、基準位置44(
図1)の軌跡である駐車経路80は、車両12の移動に伴って他車71〜74に干渉しない条件下に決定される。本図例では、駐車スペース76に対して車両12の先頭部を旋回させて停止し、1回の切り返し動作のみで目標エリア78に駐車する駐車経路80を示している。この駐車経路80は、右方向へ旋回しながら前進する第1経路81と、左方向に旋回しながら後進する第2経路82とから構成される。
【0045】
第1経路81上での走行動作は、駐車支援を開始する位置である誘導開始位置Ps、右方向への転舵を開始する位置である中間位置Pm1、該右方向への転舵を終了する位置である中間位置Pm2、及び前進から後進に切り返す位置であって、左回りの後進旋回を開始する位置である中間位置Pm3で特徴付けられる。第2経路82上での走行動作は、左方向に旋回しつつ後進する位置であって、真っ直ぐの状態での後進を開始する位置である中間位置Pm4、及び駐車支援を終了する位置である目標位置Peで特徴付けられる。このように、上記した各位置の座標、及び隣接する位置間での旋回条件(具体的には半径及び中心点)を与えることで、駐車経路80に沿った走行スケジュールを決定できる。
【0046】
そして、駐車制御部62は、決定された走行スケジュールに従って車両12を誘導・制御するための誘導信号を生成する。ここで、駐車制御部62は、位置算出部60により逐次算出された位置に基づき、駐車座標系での自車位置を認識しながら走行スケジュールを順次実行する。
【0047】
そして、走行スケジュールがすべて完了した場合、駐車制御部62による誘導動作が終了する。このようにして、車両誘導装置10の支援を受けることで、自動的又は半自動的に、車両12を目標エリア78に誘導・駐車させることができる。
【0048】
<位置算出方法の概要>
上記した誘導動作を実行するためには、自車位置を精度よく把握することが肝要である。そこで、車両12の位置情報の算出方法について、
図5A及び
図5Bを参照しながら説明する。
【0049】
図5Aは、車両12の位置(x,y)及び傾きφの算出方法を示す説明図である。時間(t−Δt)における基準位置44の座標及び傾きが(xo,yo)、φoであったとする。この場合、時間Δtが経過した後(時間t)における車両12の傾きφは、次の(1)式で算出される。なお、kは正の係数、Lbは後輪14R、14Lのトレッドサイズである。
φ=φo+k・Δt(N1−N2)/Lb ‥(1)
【0050】
また、時間(t−Δt)〜tにおける変位量(Δx,Δy)は、例えば、この時間範囲では旋回の中心点が変化しないと仮定した上で、幾何学的考察により算出される。そして、車両12の位置(x,y)は、x=xo+Δx、y=yo+Δyにより算出される。
【0051】
図5Bは、車両12の特徴点91、92、93、94の位置の算出方法を示す説明図である。時間tにおける基準位置44の座標が(x,y)、傾きがφであったとする。ここで、車両12の外接四角形の各頂点を特徴点91〜94とすると、これらのx座標(順に、x1、x2、x3、x4)はそれぞれ、次の(2)〜(5)式で算出される。
x1=x+(WB+FO)cosφ+0.5・VW・sinφ ‥(2)
x2=x+(WB+FO)cosφ−0.5・VW・sinφ ‥(3)
x3=x−RO・cosφ+0.5・VW・sinφ ‥(4)
x4=x−RO・cosφ−0.5・VW・sinφ ‥(5)
【0052】
なお、WBはホイールベースの長さ、FOはフロントオーバーハングの長さ、ROはリアオーバーハングの長さ、VWは車両12の全幅をそれぞれ示す。
【0053】
[位置算出部60の動作]
<問題点>
図3及び
図4に戻って、道路70の道幅が十分に確保されている場合、車両誘導装置10は、1回の切り返し動作のみで、車両12を駐車スペース76に誘導することができる。ところが、中間位置Pm3に障害物75が存在し、道路70の道幅が十分に確保されていない場合、車両12を駐車スペース76に誘導するまでに2回以上の切り返し動作が必要になることがある。
【0054】
図6は、車両12の誘導中におけるタイムチャートである。このタイムチャートは、上側から順に、操舵角(舵角センサ22の検出値)、シフト位置(シフト位置センサ32の検出値;「D」は前進位置、「R」は後進位置)、車速(車速センサ33の検出値)、右車輪積算値(右車輪センサ34Rの通算計数値)、及び左車輪積算値(左車輪センサ34Lの通算計数値)の時系列を示す。
【0055】
車両12は、[1]後進しながら中間位置Pm5で停止し(時間t<t1)、[2]時計回りに据え切り動作を行い(時間t=t1〜t2)、[3]操舵状態を維持しながら前進し(時間t=t2〜t3)、[4]反時計回りに据え切り動作を行い(時間t=t3〜t4)、[5]中立舵角を維持しながら後進する(時間t>t4)ことで、駐車スペース76内の目標位置Peに到達する。
【0056】
ここで、据え切り動作中であるt=t1〜t2、t3〜t4の時間範囲にて、車両12は完全に停止している。つまり、後輪14R、14Lはいずれも回転しないため、パルス出力部56(右車輪センサ34R、左車輪センサ34L)は、理想的にはパルスを出力しないはずである。この場合、右車輪積算値及び左車輪積算値はいずれも変化(カウントアップ)しない。
【0057】
ところが、種々の現象により、パルス出力部56からの予期しないパルスの出力が生じることがある。例えば、車両12が据え切り動作を行う際、転舵を通じて車体に振動が伝わることで、パルス出力部56からパルスが出力される場合がある。
【0058】
図7に示すように、操舵角が時間t=t1から線形的に増加している間、左車輪センサ34Lの一方のみ1個のパルスが偶発的に出力されている。この場合、
図5A及び
図5Bに示す算出手法を用いた場合、正常区間T1〜T3では、後輪14R、14Lの変位量がゼロ値であり、その結果、車両12の位置及び姿勢が一定(不変)であると認識される。ところが、特異区間T4では、後輪14Lの変位量のみがゼロ値でないため、車両12の姿勢が変化(時計回りに旋回)したと認識される。
【0059】
このように、採用する算出手法によっては、車両12の「停止」を認識されずに、僅かながら「前後進」或いは「旋回」として誤って認識される場合がある。その結果、自車位置の算出精度が低下することがある。以下、この不都合を解決するための位置算出方法を新たに提案する。
【0060】
<具体的な動作>
続いて、
図2に示す状態検出部50及び位置算出部60の具体的な動作について、
図8のフローチャートを参照しながら詳細に説明する。位置算出部60は、例えば所定時間おきにこのフローチャートを繰り返し実行する。
【0061】
ステップS1において、位置算出部60は、パルス計数部58により計数された計数値N1、N2をそれぞれ取得する。
【0062】
ステップS2において、状態検出部50は、車両12が停止した状態(以下、停車状態)を検出したか否かを確認する。この「停車状態」とは、例えば、[条件A1]車速がゼロ又は微小値であること、[条件A2]ブレーキペダルの操作量が所定値以上であること、[条件A3]油圧式ブレーキの液圧又は液圧変化量が所定値以上であること、[条件A4]縦加速度、横加速度若しくはヨー角の絶対値が所定値以下であること、[条件A5]上記した1つの条件又は複数の条件組み合わせを満たすこと、が挙げられる。
【0063】
上記した停車状態を検出しなかった場合(ステップS2:NO)にはステップS3に進む一方、停車状態を検出した場合(ステップS2:YES)にはステップS4に進む。
【0064】
ステップS3において、位置算出部60は、ステップS1で直近に取得された計数値N1、N2を用いて、
図5A及び
図5Bで既に述べた算出方法に従って自車位置を算出する。そして、位置算出部60は、自車位置の更新を行った後、
図8のフローチャートを終了する。
【0065】
ステップS4において、状態検出部50は、車両12における所定の舵角状態を検出したか否かを確認する。この「舵角状態」とは、例えば、舵角センサ22の出力差分値から得られた舵角変化量(ここでは、舵角変位量|dθ|)が、予め設定された舵角閾値Δθth(第1閾値)以上である状態を意味する。
【0066】
なお、舵角変化量は、舵角変位量|dθ|に代えて舵角速度(dθ/dt)であってもよいし、舵角の変化を検出可能な他の物理量であってもよい。複数種類の舵角変化量を用いて舵角状態を検出する場合は、舵角変化量の種類に応じて同一の又は異なる舵角閾値をそれぞれ設けてもよい。
【0067】
上記した舵角状態を検出しなかった場合(ステップS4:NO)、位置算出部60は、ステップS1で直近に取得された計数値N1、N2を用いて自車位置を算出・更新し(ステップS3)、
図8のフローチャートを終了する。一方、舵角状態を検出した場合(ステップS4:YES)にはステップS5に進む。
【0068】
ステップS5において、状態検出部50は、車両12の状態に関する他の追加条件を満たしているか否かを確認する。この「追加条件」とは、例えば、[条件B1]シフト位置が切り替わったこと(前進位置→後進位置、後進位置→前進位置)、[条件B2]車両12が駐車経路80上の特定の中間位置Pm3〜Pm5にあること、[条件B3]停車状態の検出時点から所定時間が経過したこと、[条件B4]計数値N1、N2の少なくとも一方がΔNth(第2閾値)以上であること、[条件B5]上記した1つの条件又は複数の条件組み合わせを満たすこと、が挙げられる。
【0069】
ここで、条件B1〜B3は、車両12の据え切り動作が始まる兆候を確実に捉えるための条件である。また、条件B4は、誘導の位置精度に影響を与え得るパルスの出力(つまり、第2閾値以上の大きな計数値)のみ無効化するための条件である。さらに、条件B4の適用にあたって、上記した条件B1〜B3の少なくとも1つの条件を満たす場合、満たさない場合と比べてΔNthを小さく設定してもよい。
【0070】
上記した追加条件を満たさない場合(ステップS5:NO)、位置算出部60は、ステップS1で直近に取得された計数値N1、N2を用いて自車位置を算出・更新し(ステップS3)、
図8のフローチャートを終了する。一方、追加条件を満たす場合(ステップS5:YES)にはステップS6に進む。
【0071】
ステップS6において、位置算出部60は、ステップS1で直近に取得された計数値N1、N2を用いた自車位置の算出を中断する。そして、位置算出部60は、自車位置の更新を行わずに
図8のフローチャートを終了する。
【0072】
[車両誘導装置10による効果]
以上のように、車両誘導装置10は、後輪14R、14Lを有する車両12に搭載される装置であって、[1]後輪14R、14Lの回転量に比例する数のパルスを出力するパルス出力部56と、[2]パルス出力部56からのパルスの計数値N1、N2を用いて車両12の位置を算出する位置算出部60と、[3]算出された車両12の位置に基づいて車両12を誘導開始位置Psから目標位置Peに誘導する誘導部64と、[4]誘導部64による誘導中に車両12の状態を検出する状態検出部50を備える。そして、[5]位置算出部60は、状態検出部50が、車両12の舵角変化量が第1閾値以上(|dθ|≧Δθth)である舵角状態、及び、車両12が停止中である停車状態を検出している間、パルス出力部56からのパルスの計数値N1、N2を用いた算出を中断する。
【0073】
また、この車両誘導方法は、後輪14R、14Lを有する車両12に搭載される車両誘導装置10を用いて、[1]後輪14R、14Lの回転量に比例する数のパルスを出力し、[2]出力されたパルスの計数値N1、N2を用いて車両12の位置を算出し(S3)、[3]算出された車両12の位置に基づいて車両12を誘導開始位置Psから目標位置Peに誘導し、[4]誘導中に車両12の状態を検出する(S2、S4、S5)。そして、[5]車両12の舵角変化量が第1閾値以上(|dθ|≧Δθth)である舵角状態、及び、車両12が停止中である停車状態を検出している間、パルスの計数値N1、N2を用いた算出を中断する(S6)。
【0074】
このように、車両12の舵角変化量が第1閾値以上である舵角状態、及び、車両12が停止中である停車状態を検出している間、後輪14R、14Lの回転量に比例するパルスの計数値N1、N2を用いた算出を中断するようにしたので、少なくとも据え切り動作の実行中であると推定される状況において、予期しないパルスの出力が無効化され、現状通りに自車位置がそのまま維持される。これにより、据え切り動作を伴って車両12の誘導を行う場合であっても、誘導の位置精度を向上させることができる。
【0075】
また、位置算出部60は、状態検出部50が、車両12の動作状態を切り替えるシフトレバーのシフト位置が切り替わったことをさらに検出した場合、パルスの計数値N1、N2を用いた算出を中断してもよい。シフト位置の切り替わりをさらに考慮に入れることで、据え切り動作が始まる兆候を確実に捉えることができる。
【0076】
また、誘導部64は、誘導開始位置Psと目標位置Peの間にある中間位置Pm3〜Pm5にて車両12の停止及び舵角の変更を順次誘導し、位置算出部60は、状態検出部50が、車両12が中間位置Pm3〜Pm5にあることをさらに検出した場合、パルスの計数値N1、N2を用いた算出を中断してもよい。車両12の位置をさらに考慮に入れることで、停止及び舵角の変更が順次行われる中間位置Pm3〜Pm5にて据え切り動作が始まる兆候を確実に捉えることができる。
【0077】
また、位置算出部60は、停車状態の検出時点から所定時間が経過した場合、パルスの計数値N1、N2を用いた算出の中断を開始してもよい。車両12が完全に停止していないにもかかわらず停車状態を検出した状況を想定し、この検出時点からの時間マージンを設けることで、据え切り動作の開始前に算出が中断するのを効果的に防止できる。
【0078】
また、位置算出部60は、パルスの計数値N1、N2が第2閾値(ΔNth)以上である場合、該パルスの計数値N1、N2を用いた算出を中断してもよい。これにより、誘導の位置精度に影響を与え得るパルスの出力(つまり、第2閾値以上の大きな計数値)のみ無効化される。
【0079】
また、位置算出部60は、状態検出部50が、車両12の動作状態を切り替えるシフトレバーのシフト位置が切り替わったことをさらに検出した場合、検出しない場合と比べて第2閾値を小さく設定してもよい。シフト位置の切り替わりを通じて据え切り動作が始まる兆候を捉えたタイミングで算出の中断判定を緩和することで、小さな計数値が得られた場合であってもパルスの出力を適切に無効化させることができる。
【0080】
また、誘導部64は、誘導開始位置Psと目標位置Peの間にある中間位置Pm3〜Pm5にて車両12の停止及び舵角の変更を順次誘導し、位置算出部60は、状態検出部50が、車両12が中間位置Pm3〜Pm5にあることをさらに検出した場合、検出しない場合と比べて第2閾値を小さく設定してもよい。車両12の位置を通じて据え切り動作が始まる兆候を捉えたタイミングで算出の中断判定を緩和することで、小さな計数値が得られた場合であってもパルスの出力を適切に無効化させることができる。
【0081】
また、位置算出部60は、停車状態の検出時点から所定時間が経過した場合、経過しない場合と比べて第2閾値を小さく設定してもよい。車両12が完全に停止していないにもかかわらず停車状態を検出した状況を想定し、この検出時点から所定時間が経過したタイミングで算出の中断判定を緩和することで、小さな計数値が得られた場合であってもパルスの出力を適切に無効化させることができる。
【0082】
[補足]
なお、この発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。或いは、技術的に矛盾が生じない範囲で各々の構成を任意に組み合わせてもよい。