特許第6798972号(P6798972)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6798972
(24)【登録日】2020年11月24日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】回転電機を備えた車両
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20190101AFI20201130BHJP
   F16H 1/06 20060101ALI20201130BHJP
   H02P 29/00 20160101ALI20201130BHJP
【FI】
   B60L3/00 J
   F16H1/06
   H02P29/00
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-250064(P2017-250064)
(22)【出願日】2017年12月26日
(65)【公開番号】特開2019-118171(P2019-118171A)
(43)【公開日】2019年7月18日
【審査請求日】2019年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(72)【発明者】
【氏名】田中 修平
【審査官】 佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−348708(JP,A)
【文献】 特開2010−070036(JP,A)
【文献】 特開2005−067371(JP,A)
【文献】 特開平06−153325(JP,A)
【文献】 特開2017−085791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00−58/40
B60W 10/00−20/50
B60K 6/20− 6/547
F16H 1/06
H02P 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータと巻線を有するステータとを有する回転電機と、
互いに噛合する第1ギヤと第2ギヤと、
前記ロータと前記第1ギヤとの間に設けられ、前記ロータと前記第1ギヤとを結合または遮断するクラッチと、
前記クラッチの作動を制御する制御部と、を備え、
前記第1ギヤの歯数は、前記ロータの1回転あたりの前記回転電機のトルクリプルの所定次数の振動数と、前記第1ギヤの1回転あたりの前記第1ギヤと前記第2ギヤとの噛合トルクのトルク変動の所定次数の振動数とが一致するように設定され、
前記制御部は、前記トルクリプルと前記噛合トルクのトルク変動とが相殺されるように、前記クラッチの作動を制御することを特徴とする車両。
【請求項2】
請求項1に記載の車両において、
前記ロータの磁極位相を検出するロータ回転センサと、
前記第1ギヤの噛合位相を検出するギヤ回転センサと、をさらに備え、
前記制御部は、前記ロータ回転センサによって検出された前記ロータの磁極位相と、前記ギヤ回転センサによって検出された前記第1ギヤの噛合位相とに基づいて、前記トルクリプルと前記噛合トルクのトルク変動とが相殺されるように、前記クラッチの作動を制御することを特徴とする車両。
【請求項3】
請求項2に記載の車両において、
前記制御部は、前記ロータ回転センサによって検出された前記ロータの磁極位相と、前記ギヤ回転センサによって検出された前記第1ギヤの噛合位相との位相差に基づいて、前記トルクリプルと前記噛合トルクのトルク変動とが相殺されるように、前記クラッチの作動を制御することを特徴とする車両。
【請求項4】
請求項1に記載の車両において、
前記ロータと前記第1ギヤとの間の出力軸の振動の大きさを検出する振動センサをさらに備え、
前記制御部は、前記振動センサによって検出された前記出力軸の振動の大きさに基づいて、前記トルクリプルと前記噛合トルクのトルク変動とが相殺されるように、前記クラッチの作動を制御することを特徴とする車両。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両において、
前記回転電機は3相であることを特徴とする車両。
【請求項6】
請求項5に記載の車両において、
前記第1ギヤの歯数は、前記回転電機の極対数の6倍に設定されることを特徴とする車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機を備えた車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、回転電機とギヤとを備え、振動を抑制するための防振手段の構成を簡略化するようにした車両が知られている(例えば特許文献1参照)。周知のように三相永久磁石同期モータでは、1回転あたりロータの極対数の6倍の振動数のトルク変動が生じる。この点に関し、特許文献1の車両では、回転電機のロータに連結されたギヤの歯数を、ロータの極対数に“6”を乗算した値に設定することで、回転電機で生じる振動の振動数とギヤで生じる振動の振動数とを一致させ、これにより単一の振動数に対応する防振手段のみで足りるように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特許文献1:特開2017−085791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載の装置のように防振手段を設ける構成によっては、振動の大きさを効果的に低減することが難しい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様である車両は、ロータと巻線を有するステータとを有する回転電機と、互いに噛合する第1ギヤと第2ギヤと、ロータと第1ギヤとの間に設けられ、ロータと第1ギヤとを結合または遮断するクラッチと、クラッチの作動を制御する制御部と、を備え、第1ギヤの歯数は、ロータの1回転あたりの回転電機のトルクリプルの所定次数の振動数と、第1ギヤの1回転あたりの第1ギヤと第2ギヤとの噛合トルクのトルク変動の所定次数の振動数とが一致するように設定され、制御部は、トルクリプルと噛合トルクとが相殺されるように、クラッチの作動を制御する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、回転電機のトルクリプルが第1、第2ギヤの噛合トルクによって相殺されるため、振動を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態に係る車両の概略構成を示すスケルトン図。
図2図1の走行用モータの構成を概略的に示す断面図。
図3】トルクリプルと噛合トルクのトルク変動とが共振する場合の説明図。
図4図1のロータと第1ギヤの回転角度の基準位置について説明するための図。
図5】本発明の実施形態に係る振動抑制装置の概略構成を示すブロック図。
図6図5のクラッチ制御部で実行される処理の一例を示すフローチャート。
図7図5の振動抑制装置の動作の一例を示すタイムチャート。
図8A】位相差の調整について説明するための図。
図8B】位相差の許容範囲について説明するための図。
図9図1の変形例を示す図。
図10図5の変形例を示す図。
図11図10のクラッチ制御部で実行される処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図1図11を参照して本発明の実施形態に係る回転電機を備えた車両について説明する。なお、以下では、回転電機を車両の走行駆動系に適用する例を説明する。図1は、本発明の実施形態に係る車両100の概略構成を示す図である。車両100は電気自動車やハイブリッド車等であり、図1に示すように、回転電機の一例である走行用モータ10と、変速機20と、モータ10と変速機20との間でトルクを伝達または遮断するクラッチ機構30とを有する。
【0009】
モータ10は例えば永久磁石同期モータとして構成される。図2は、この走行用モータ10の構成を概略的に示す断面図である。モータ10は、軸線CL1を中心に回転する略円筒形状のロータ11と、ロータ11の周面に対向してロータ11と同心状に配置された略円筒形状のステータ12とを有する。
【0010】
ロータ11の内部には、軸線CL1を中心とした接線方向に沿って周方向等間隔に複数(図では4個)の永久磁石(以下、単に磁石と呼ぶ)11aが埋め込まれ、磁石11aの極対数は例えば“2”に設定される。磁石11aは、径方向に磁極(N極、S極)が向かい、かつ、周方向に隣り合う磁極が互いに異なるように配置される。ロータ11の内周面には出力軸13が嵌合(例えばスプライン結合)され、ロータ11と出力軸13とは一体に回転する。
【0011】
ステータ12の内周面には、周方向等間隔に複数のスロット12aが形成される。各スロット12aには、巻線が巻回されてコイル12bが配置される。スロット12aの数はコイル12bの相数(例えばUVWの3相)の倍数であり、例えば“24”に設定される。ロータ11の極対数、コイル12bの相数およびスロット12aの数は他の数であってもよい。なお、モータ10は、走行駆動トルクを出力する電動機としてだけでなく、車両100の制動時に生じる回生エネルギを電気エネルギに変換する発電機として用いることもできる。
【0012】
図1に示すように、クラッチ機構30は、例えば押圧式の一対の摩擦クラッチ(低速クラッチ30A、高速クラッチ30B)を有する。低速クラッチ30Aは、クラッチディスク31とクラッチプレート32とを有し、高速クラッチ30Bは、クラッチディスク31とクラッチプレート33とを有する。すなわち、各クラッチ30A,30Bは、軸方向に移動可能な共通のクラッチディスク31を有する。クラッチディスク31の回転軸31aは、ピストン機構34を介してモータ10の出力軸13に軸方向に移動可能に連結され、回転軸31aは出力軸13と一体に回転する。
【0013】
ピストン機構34は、例えば回転軸31aに固定されたピストンを有する。ピストン機構34への圧油の流れは、例えば電気信号により作動するコントロールバルブ(図5)により制御され、コントロールバルブの作動に応じてピストンが軸方向に移動し、これによりクラッチディスク31を図1のA方向またはB方向に移動することができる。すなわち、クラッチディスク31を、図1の中立位置からクラッチプレート32に締結(係合)する低速位置に、またはクラッチプレート33に締結(係合)する高速位置に移動することができる。
【0014】
クラッチディスク31が低速位置にあるときは、低速クラッチ30Aがオン(締結)かつ高速クラッチ30Bがオフ(解放)し、モータ10のトルクが変速機20の入力軸21に伝達される。クラッチディスク31が高速位置にあるときは、低速クラッチ30Aがオフ(解放)かつ高速クラッチ30Bがオン(締結)し、モータ10のトルクが変速機20の入力軸22に伝達される。クラッチディスク31が中立位置にあるときは、低速クラッチ30Aと高速クラッチ30Bがともにオフされ、モータ10と変速機20とが遮断される。なお、クラッチ機構30は摩擦クラッチに限らず、例えばドグクラッチ等、他のクラッチとして構成してもよい。
【0015】
変速機20は、クラッチ機構30のクラッチプレート32に接続された入力軸21と、クラッチプレート33に接続された入力軸22と、入力軸21,22と平行に配置された出力軸23とを有する。入力軸21,22の外周面には、それぞれ第1ギヤ24,25が形成される。出力軸23の外周面には、第1ギヤ24,25と噛合する第2ギヤ26,27がそれぞれ形成されるとともに、第3ギヤ28が形成される。第3ギヤ28には第4ギヤ29が噛合される。第1ギヤ24と第2ギヤ26とは、それぞれ低速走行に適したギヤ比の歯数に設定され、第1ギヤ25と第2ギヤ27とは、それぞれ高速走行に適したギヤ比の歯数に設定される。例えば低速用第1ギヤ24の歯数ZLは“12”であり、高速用第1ギヤ25の歯数ZHは“24”である。
【0016】
低速クラッチ30Aがオンすると、回転軸31aの回転が第1ギヤ24、第2ギヤ26を介して所定の変速比で変速されて、出力軸23が低速高トルクで回転する。一方、高速クラッチ30Bがオンすると、回転軸31aの回転が第1ギヤ25、第2ギヤ27を介して所定の変速比で変速されて、出力軸23が高速低トルクで回転する。出力軸23の回転は、第3ギヤ28、第4ギヤ29および差動機構41を介して左右の駆動軸40に伝達される。これにより、左右の駆動輪Wが駆動され、車両100が走行する。
【0017】
低速クラッチ30Aと高速クラッチ30Bのいずれをオンするかは、実車速や要求駆動力等に応じてコントローラ(図5)が決定する。すなわち、車速が低く要求駆動力が大きいときは、低速クラッチ30Aがオンされ、車速が高く要求駆動力が小さいときは、高速クラッチ30Bがオンされる。要求駆動力は、実車速とアクセル開度等により決定される。なお、運転者のシフト操作により走行開始が指令されるときは、低速クラッチ30Aがオンされる。
【0018】
なお、以上の構成では、変速機20の変速比を低速および高速の2段に切替え可能に構成したが、変速機20の構成はこれに限らず、1段の減速機や3段以上に変速比を切替え可能な変速機として構成してもよい。また、変速機20は平行軸のギヤ機構に限らず、プラネタリギヤ機構として構成してもよい。
【0019】
このように構成された車両において、モータ10から出力されるトルクには構造上トルクリプルが発生し、振動、騒音の要因となる。トルクリプルとは、ロータ11の回転時に、磁石11aの磁束とステータ12のコイル12bの磁束との相互作用により磁束の粗密が生じることでトルクの脈動が発生する現象である。本実施形態のモータ10の場合は、ロータ11の1回転あたり、極対数“2”の6倍である12回のトルクリプルが生じる。
【0020】
一方、変速機20の側では、第1ギヤ24と第2ギヤ26(または第1ギヤ25と第2ギヤ27)が噛合することで噛合トルクが発生する。噛合トルクには、第1ギヤ24,25の1回転あたり、第1ギヤ24,25の歯数ZL,ZHに相当する回数のトルク変動が発生する。本実施形態では、低速用第1ギヤ24の歯数ZLが“12”であるため、低速走行時は1回転あたり12回のトルク変動が生じる。また、高速用第1ギヤ25の歯数ZHが24であるため、高速走行時は1回転あたり24回のトルク変動が生じる。なお、高速用第1ギヤ25の歯数は、極対数“2”の12倍である。
【0021】
このように本実施形態では、低速走行時は、ロータ1回転あたりのトルクリプルの発生回数(トルク変動の回数)と、噛合トルクのトルク変動の回数とが一致する。また、高速走行時は、ロータ1回転あたりの噛合トルクの変動の回数がトルクリプルの発生回数の2倍となる。このため、防振対策を施すべき振動数をモータ10と第1ギヤ24,25とで統一して、車両100の走行駆動系全体として防振対策の構成を簡易にすることができる。しかしながら、このように第1ギヤ24,25の歯数ZL,ZHをトルクリプルの発生回数に応じて設定するだけは、以下のような問題がある。
【0022】
図3は、モータ10の出力軸13または変速機20の入力軸21の回転角度[deg]に対するトルクリプルと噛合トルクのトルク変動(トルク[Nm]の変化)の一例を示す図である。図には、モータ10のトルクリプル、第1ギヤ24の噛合トルクのトルク変動、およびトルクリプルと噛合トルクのトルク変動との合成振動を示す。
【0023】
図3は、ロータ11(出力軸13)の所定の基準位置からの回転角度(磁極位相)と第1ギヤ24(入力軸21)の所定の基準位置からの回転角度(噛合位相)との位相差θが0°のときの例である。位相差θとは、ロータ11の基準位置に対する第1ギヤ24の基準位置の角度をいう。
【0024】
図4は、ロータ11と第1ギヤ24の回転角度の基準位置について説明するための図である。ロータ11が基準位置にあるときは、軸線CL1から磁石11aの周方向中心を通って径方向に延在する直線(ロータ基準線CL11)と、軸線CL1とステータ12のコイル12bの周方向中心とを通る直線(ステータ基準線CL12)とが一致する。一例として、このとき、基準線CL11とCL12とのなす角θ1は0°であり、ロータ11の磁石11aの磁束(磁極)とステータ12のコイル12bの磁束との相互作用により磁束が密になり、トルクリプルのピーク(極大値)が生じる。
【0025】
また、第1ギヤ24が基準位置にあるときは、第1ギヤ24の回転中心(軸線CL2)から第1ギヤ24が第2ギヤ26に当接する第1ギヤ24の歯面上の当接位置P1まで延在する直線(第1ギヤ基準線CL21)と、軸線CL2と第2ギヤ26の回転中心(軸線CL3)とを通る直線(第2ギヤ基準線CL22)とが一致する。このとき、基準線CL21とCL22とのなす角θ2は0°であり、第1ギヤ24の歯面が第2ギヤ26の歯面に当接(噛合)し、噛合トルクのピーク(極大値)が生じる。
【0026】
したがって、図3に示す例では、θ1とθ2との差である位相差θが0°であり、トルクリプルのトルク変動の位相と噛合トルクのトルク変動の位相とが一致(共振)し、合成振動の大きさが増大している。この場合の振動を、例えば防振部材により抑えようとすると高価な防振部材が必要となり、コストの上昇を招く。また、防振部材の厚みが増して、レイアウト上の制約が大きくなるおそれがある。そこで、本実施形態では、安価な構成で合成振動を効果的に抑えるようにするため、以下のように振動抑制装置を構成する。
【0027】
図5は、本発明の実施形態に係る振動抑制装置200の概略構成を示すブロック図である。図5に示すように、振動抑制装置200は、ロータ回転センサ51と、ギヤ回転センサ52,53と、コントローラ60と、コントロールバルブ30aとを備える。なお、以下では、モータ10のトルクリプルと低速用第1ギヤ24の噛合トルクのトルク変動との関係に着目して、振動を低減する例を特に説明する。
【0028】
ロータ回転センサ51は、例えば、出力軸13の角度を検出するレゾルバにより構成される。より具体的には、図1に示すように、ロータ回転センサ51は、ロータ11の出力軸13の周囲に配置され、ロータ11の所定の基準位置からの回転角度(磁極位相)を検出する。
【0029】
ギヤ回転センサ52,53は、例えば、変速機20の入力軸21,22の角度をそれぞれ検出する光学式や磁気式の回転センサにより構成される。より具体的には、図1に示すように、ギヤ回転センサ52,53は、入力軸21,22の周囲にそれぞれ配置され、第1ギヤ24,25の所定の基準位置からの回転角度(噛合位相)をそれぞれ検出する。
【0030】
ロータ回転センサ51とギヤ回転センサ52,53とからの信号は、コントローラ60に入力される。コントローラ60には、ロータ回転センサ51とギヤ回転センサ52,53とからの信号以外に、車両100に搭載される車速センサ等の各種センサからの出力が入力される。
【0031】
コントローラ60は、車両100に搭載される電子制御ユニット(ECU)により構成される。コントローラ60は、走行用モータ10や変速機20を含む車両100を全体的に制御する統合ECUとして構成される。なお、モータ制御用ECU、変速機制御用ECU等、機能の異なる複数のECUを別々に設けることもできる。図5に示すように、コントローラ60は、CPU等の演算部61と、ROM,RAM,ハードディスク等の記憶部62と、図示しないその他の周辺回路とを有するコンピュータを含んで構成される。
【0032】
演算部61は、機能的構成として、インギヤ指令部611と、クラッチ制御部612とを有する。インギヤ指令部611は、クラッチ機構30の低速位置へのインギヤ、すなわち低速クラッチ30Aのオンを指令する。本実施形態では、ロータ11の1回転当たりのトルクリプルの発生回数(12回)に、低速第1ギヤの歯数ZLを一致させている。このため、低速クラッチ30Aがオンすると、ロータ1回転あたりのトルクリプルの発生回数(トルク変動の回数)と、噛合トルクの変動の回数とが一致する。なお、インギヤ指令部611は、高速クラッチ30Bのオンも指令する。
【0033】
クラッチ制御部612は、インギヤ指令部611のインギヤ指令に応じてコントロールバルブ30aを制御し、クラッチ機構30の作動を制御する。特に、インギヤ指令部611により低速クラッチ30Aのオンが指令されると、クラッチ制御部612は、磁極位相と噛合位相との位相差θが所定値θAとなるようにクラッチ機構30の作動を制御する。本実施形態では、上述したように、磁極位相と噛合位相との位相差θが0°のとき、トルクリプルと噛合トルクのトルク変動とが共振するように出力軸13と入力軸21との基準位置が設定される。このため、所定値θAは、次式(I)を満たすように設定される。
θA=(2n+1)×180°/ZL ・・・(I)
但し、nは整数。
【0034】
例えば上式(I)でn=0のとき、所定値θAは15°(=180°/ZL)となる。このとき、図3のトルクリプルの波形と噛合トルクのトルク変動の波形とが互いに半位相ずれる、すなわち互いに逆位相となるので、トルクリプルと噛合トルクのトルク変動とを相殺することができる。
【0035】
図6は、予め記憶部62に格納されたプログラムに従ってクラッチ制御部612によって実行される処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、例えばエンジンキースイッチのオンにより開始され、所定の周期で繰り返し実行される。
【0036】
まず、ステップS1で、インギヤ指令部611によって低速クラッチ30Aのインギヤ指令が出力されたか否かを判定する。ステップS1は肯定されるまで繰り返される。ステップS1で肯定されるとステップS2に進み、コントロールバルブ30aに制御信号を出力し、クラッチディスク31を図1のA方向に移動させて低速クラッチ30Aをオンする。次いで、ステップS3でロータ回転センサ51とギヤ回転センサ52とからの信号に基づいて、ロータ11の磁極位相と第1ギヤ24の噛合位相との位相差θを検出する。
【0037】
次いで、ステップS4で、磁極位相と噛合位相とが逆位相であるか否か、すなわち、ロータ11の磁極位相と第1ギヤ24の噛合位相との位相差θが上式(I)を満たすか否かを判定する。ステップS4で肯定される場合は処理を終了し、否定されるとステップS5に進む。
【0038】
ステップ5では、クラッチディスク31がクラッチプレート32に対し滑りながら相対回転するようにコントロールバルブ30aに制御信号を出力し、クラッチプレート32に対するクラッチディスク31の押圧力を弱める。すなわち、低速クラッチ30Aを滑らせ、磁極位相と噛合位相との位相差θを調整する。なお、この場合の滑り量は、押圧力を弱める程度(油圧)や押圧力を弱める時間を制御することで調整できる。ステップS5で位相差調整を行った後は、ステップS2に戻り、磁極位相と噛合位相とが逆位相となるまで、同様の処理を繰り返す。
【0039】
ステップS5の位相差調整では、ロータ回転センサ51とギヤ回転センサ52とからの信号に基づいて、位相差θが目標位相差である所定値θAとなるようにクラッチディスク31の滑り量を調整してもよい。すなわち、フィードバック制御により低速クラッチ30Aの作動を制御してもよい。
【0040】
本実施形態の動作をより具体的に説明する。図7は、振動抑制装置200の動作の一例を示すタイムチャートである。図7に示すように、時点t1で、運転者が走行開始のためのシフト操作を行うと、インギヤ指令が入力(オン)され、低速クラッチ30Aがオンされる(ステップS1,S2)。時点t2で、磁極位相と噛合位相とが逆位相でない(例えば位相差0°)と判定されると、低速クラッチ30Aが所定時間だけ滑らされる。これにより磁極位相と噛合位相との位相差θが変化する。その後、時点t3で、再びクラッチ30Aがオンされる(ステップS5,S2)。
【0041】
時点t4で、磁極位相と噛合位相とが逆位相(例えば位相差15°)と判定されると、低速クラッチ30Aのオン状態が維持される。これにより図8Aに示すように、トルクリプルのトルク変動が噛合トルクのトルク変動により相殺され、走行駆動系全体の合成振動が低減される。なお、図8Aではトルクリプルと噛合トルクのトルク変動とを同じトルク振幅として例示したが、これらのトルク振幅が一致している必要はない。トルクリプルおよび噛合トルクのトルク変動のいずれか一方の振幅がいずれか他方の振幅よりも大きいとき、合成振動の振幅は0にはならない。但し、この場合も、トルクリプルと噛合トルクのトルク変動とは相殺されるため、走行駆動系全体の振動を低減できる。
【0042】
以上では、ロータ11の磁極位相と第1ギヤ24の噛合位相との位相差θが所定値θAとなるように位相調整を行ったが(ステップS4,S5)、これに代えて、位相差θが所定値θAに対し所定範囲θB内となるように、磁極位相と噛合位相との位相差θの調整を行ってもよい。所定範囲θBは、予め試験等を行って、磁極位相と噛合位相との位相差θを変えたときのトルクリプルと噛合トルクのトルク変動との合成振動を測定し、測定結果に基づいて、合成振動のトルク振幅TAが許容値となるような値(例えば±5°)に決定される。この許容範囲を工場出荷値として記憶部62に格納し、ステップS4で逆位相か否かを判定することに代えて、位相差θが所定範囲θB内か否かを判定すればよい。
【0043】
図8Bは、この場合の振動波形の一例である。図8Bより明らかなように、この場合も、トルクリプルと噛合トルクのトルク変動とが相殺され、走行駆動系全体の振動を低減できる。
【0044】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)車両100は、ロータ11と巻線を有するステータ12とを有する走行用モータ10と、互いに噛合する第1ギヤ24と第2ギヤ26と、ロータ11と第1ギヤ24との間に設けられ、ロータ11と第1ギヤ24とを結合または遮断する低速クラッチ30Aと、低速クラッチ30Aの作動を制御するクラッチ制御部612とを備える(図1図5)。第1ギヤ24の歯数ZLは、ロータ11の1回転あたりのモータ10のトルクリプルの所定次数(例えば1次)の振動数と、第1ギヤ24の1回転あたりの第1ギヤ24と第2ギヤ26との噛合トルクのトルク変動の所定次数(例えば1次)の振動数とが一致するように設定される。クラッチ制御部612は、トルクリプルと噛合トルクのトルク変動とが相殺されるように、低速クラッチ30Aの作動を制御する(図6)。
【0045】
すなわち、本実施形態では、モータ10のトルクリプルの振動数は、1回転あたり、極対数“2”の6倍である12回であり、第1ギヤ24の歯数ZLは“12”に設定される。このため、防振対策を施すべき振動数をモータ10と第1ギヤとで統一して、車両100の走行駆動系全体として防振対策の構成を簡易にすることができる。また、トルクリプルと噛合トルクのトルク変動とが相殺されるように低速クラッチ30Aの作動を制御するため、トルクリプルと噛合トルクのトルク変動との合成振動(トルク振幅)を抑制することができ、走行駆動系全体の振動を効果的に低減できる。
【0046】
(2)車両100は、ロータ11の磁極位相を検出するロータ回転センサ51と、第1ギヤ24の噛合位相を検出するギヤ回転センサ52とをさらに備える(図5)。クラッチ制御部612は、ロータ回転センサ51によって検出されたロータ11の噛合位相と、ギヤ回転センサ52によって検出された第1ギヤ24の噛合位相とに基づいて、トルクリプルと噛合トルクのトルク変動とが相殺されるように、低速クラッチ30Aの作動を制御する(図6)。このように回転センサ51,52によって磁極位相と噛合位相とを検出することで、実際にトルクリプルや噛合トルクのトルク変動が生じる前に、低速クラッチ30Aの締結直後の磁極位相と噛合位相との位相差θが適切か否かを判定することができる。このため、トルクリプルと噛合トルクのトルク変動との共振を早期に防止することができる。
【0047】
(3)クラッチ制御部612は、ロータ回転センサ51によって検出されたロータ11の磁極位相と、ギヤ回転センサ52によって検出された第1ギヤ24の噛合位相との位相差θに基づいて、トルクリプルと噛合トルクのトルク変動とが相殺されるように、低速クラッチ30Aの作動を制御する(図6)。より具体的には、位相差θが上式(I)の所定値θAとなるように低速クラッチ30Aの作動を制御する。これにより磁極位相と噛合位相との位相差θを所定値θAに調整することができ、トルクリプルと噛合トルクのトルク変動との合成振動を確実に抑制することができる。また、所定値θAに対し所定範囲θB内となるように位相差θを調整する場合には、低速クラッチ30Aのオンを繰り返す回数が減り、早期に振動低減状態を達成できる。
【0048】
上記実施形態では、回転センサ51,52を用いて走行用モータ10の磁極位相と第1ギヤ24の噛合位相とを検出し、磁極位相と噛合位相とに基づいて、トルクリプルと噛合トルクのトルク変動とを相殺するようにしたが、回転センサを用いずに両トルク変動を相殺するように構成することもできる。例えば回転センサに代えて振動センサを用い、振動が抑制されるように低速クラッチ30Aの作動を制御することもできる。以下、この点について説明する。
【0049】
図9図10は、それぞれ図1図5の変形例を示す図である。図10に示すように、振動抑制装置201は、振動センサ55と、コントローラ60と、コントロールバルブ30aとを備える。すなわち、振動抑制装置201は、上述した振動抑制装置200と異なり、回転センサ51,52に代えて振動センサ55を有する。
【0050】
振動センサ55は、例えば、出力軸13の振動を検出するGセンサにより構成される。より具体的には、図9に示すように、振動センサ55は、出力軸13に配置され、出力軸13の振動の大きさを検出する。振動センサ55からの信号は、コントローラ60に入力される。
【0051】
図10のクラッチ制御部612は、出力軸13の振動の大きさに基づいて、トルクリプルと噛合トルクのトルク変動との合成振動が抑制されるようにクラッチ機構30の作動を制御する。図11は、図10のクラッチ制御部612によって実行される処理の一例を示すフローチャートである。なお、図6と同一の箇所には同一の符号を付し、以下、図6との相違点を主に説明する。
【0052】
図11に示すように、ステップS2で低速クラッチ30Aをオンした後、ステップS11に進み、振動センサ55からの信号に基づいて、出力軸13の振動の大きさ(トルク振幅)を検出する。次いで、ステップS12で、出力軸13の振動のトルク振幅が予め定めた振動許容範囲内であるか否かを判定する。ステップS12で肯定される場合は処理を終了し、否定されるとステップS5に進む。以降、出力軸13の振動のトルク振幅が許容範囲内となるまで、同様の処理を繰り返す。なお、振動許容範囲とは、合成振動の許容値であり、防振材の性能や装置の耐久性等を考慮して決定される。
【0053】
以上の変形例では、車両100が回転センサ51,52に代えて、ロータ11と第1ギヤ24との間の出力軸13の振動の大きさを検出する振動センサ55を備え、クラッチ制御部612は、振動センサ55によって検出された出力軸13の振動の大きさに基づいて、トルクリプルと噛合トルクのトルク変動とが相殺されるように、低速クラッチ30Aの作動を制御する。このように、実際に検出された振動の大きさ(トルク振幅)に基づいて低速クラッチ30Aの作動を制御することで、合成振動を確実に抑制することができる。
【0054】
なお、上記実施形態は種々の形態に変形することができる。以下、変形例について説明する。上記実施形態では、回転センサ51,52(53)および振動センサ55のいずれかを用いてトルクリプルと噛合トルクのトルク変動とを相殺するようにしたが、回転センサ51,52と振動センサ55とを両方用いてこれを行うようにしてもよい。この場合は、回転センサ51,52および振動センサ55の検出値に基づいて、出力軸13の振動の大きさ(トルク振幅)が許容範囲内となるときの位相差θを記憶部62に格納し、次回以降に低速クラッチ30Aを締結するときの位相差θの目標値とすればよい。実際に振動が抑制された位相差θを次回以降の目標値とすることで、確実に振動を抑制できるとともに、より迅速に低速クラッチ30Aを締結することができる。
【0055】
上記実施形態では、走行用モータ10の駆動力を駆動輪Wに伝達するように低速用第1ギヤ24、低速用第2ギヤ26を用いたが、第1ギヤ、第2ギヤの構成は上述したものに限らない。例えば、第1ギヤ、第2ギヤをプラネタリギヤ機構のサンギヤ、ピニオンギヤとして構成してもよい。ウォームギヤを用いることもできる。
【0056】
上記実施形態では、ロータ11と第1ギヤ24との間に摩擦式の低速クラッチ30Aを設けたが、ロータと第1ギヤとを結合または遮断するのであれば、クラッチの構成はいかなるものでもよい。上記実施形態では、コントローラ60(クラッチ制御部612)からの指令により低速クラッチ30Aを滑らせて位相差θを調整するようしたが、トルクリプルと噛合トルクのトルク変動とが相殺されるように、クラッチの作動を制御するのであれば、制御部の構成はいかなるものでもよい。
【0057】
上記実施形態では、レゾルバなどのロータ回転センサ51によりロータ11の磁極位相を検出するようにしたが、ロータ回転センサの構成これに限らない。上記実施形態では、光学式や磁気式のギヤ回転センサ52により第1ギヤ24の噛合位相を検出するようにしたが、ギヤ回転センサの構成はこれに限らない。上記実施形態では、Gセンサなどの振動センサ55により出力軸13の振動の大きさを検出するようにしたが、ロータと第1ギヤとの間の出力軸の振動の大きさを検出する振動センサの構成は上述したものに限らない。振動センサの配置についても、合成振動の大きさを検出できれば、いかなる配置であってもよい。振動センサを複数設けてもよい。
【0058】
上記実施形態は、回転電機のトルクリプルが、1回転あたり、回転電機の極対数の6倍に相当する回数発生するものとして説明したが、これに限らない。すなわち、回転電機の1回転あたり所定回数発生するトルクリプルであれば、その回数に合わせた歯数のギヤの噛合トルクによって相殺することができる。
【0059】
上記実施形態では、ロータ11の1回転あたりの走行用モータ10のトルクリプルの1次の振動数である12回と、低速用第1ギヤ24の1回転あたりの低速用第1ギヤ24と低速用第2ギヤ26との噛合トルクのトルク変動の1次の振動数とが一致するように、低速用第1ギヤ24の歯数を設定したが、振動低減効果を有する次数はこれに限らない。すなわち、ロータの1回転あたりの回転電機のトルクリプルの所定次数の振動数と、第1ギヤの1回転あたりの第1ギヤと第2ギヤとの噛合トルクのトルク変動の所定次数の振動数とが一致するように、第1ギヤの歯数を設定するのであれば、噛合トルクのトルク変動によってトルクリプルを相殺することが可能である。
【0060】
なお、上記実施形態では、モータ10のトルクリプルと低速用第1ギヤ24の噛合トルクのトルク変動との関係に着目して、振動を低減する例を説明したが、モータ10のトルクリプルと高速用第1ギヤ25の噛合トルクのトルク変動との関係に着目した場合にも、同様に振動を低減することができる。すなわち、高速用第1ギヤ25の歯数は、ロータ11の1回転あたりの走行用モータ10のトルクリプルの2次の振動数である“24”に設定されるため、振動を低減することが可能である。
【0061】
以上では、永久磁石同期モータとして構成される走行用モータ10で走行する車両100を例にして説明したが、ロータと巻線を有するステータとを有するのであれば、永久磁石を有しない誘導モータやリラクタンスモータ、発電機など、他の回転電機を有する他の車両にも同様に適用することができる。すなわち、ロータの回転時にロータの磁束とステータの磁束との相互作用によって磁束の粗密が生じることでトルクリプルが生じる回転電機を備えた車両であれば、同様に適用することができる。
【0062】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0063】
10 走行用モータ、11 ロータ、12 ステータ、24 第1ギヤ、26 第2ギヤ、30A 低速クラッチ、51 ロータ回転センサ、52 ギヤ回転センサ、55 振動センサ、100 車両、200,201 振動抑制装置、612 クラッチ制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11