(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
認知症に対する社会的費用は癌、心臓病及び脳卒中に対する総費用よりも高くなっており、国別の認知症に関する医療費は10年毎に倍増すると予想される。非営利民間研究団体である米国土地公社のNew England Journal of Medicineに発表された報告書によると、アルツハイマー及びその他認知症患者の家族及び社会費用は約1,570億ドルと推算され、認知症患者の年間治療費は1人当たり56,000ドルになると予想される。認知症の最も多い症状であるアルツハイマー病を患っている人は、現在、米国で530万人に達しており、6番目の死亡原因として知られている。
【0003】
しかし、認知症は高価の治療費がかかるにもかかわらず、現在の医療技術水準では認知症の完治が不可能であり、一時的に症状を緩和させる程度に過ぎず、疾病の進行を遅らせることも難しい状態である。これは認知症の明確な病理的原因に対する理解が不足し、個々の患者の違いに応じたパーソナライズされた治療ができないためである。パーソナライズされた治療は、認知症患者の診断が便利で、且つ安い費用で日常生活で行われることから始まり、これにより個々の管理が可能となるのであれば、認知症患者の増加と費用増加を防ぐことに大きく役立つことができる。
【0004】
脂肪塞栓症は外科手術の過程で発生する可能性のある主な死亡原因の1つであり、特に、年間手術件数が非常に多い脂肪吸引及び整形外科手術は、脂肪塞栓症の発生確率は低くても、発病時の死亡率が非常に高くて毎年数多い死亡事故が発生している。
【0005】
2009年International Society for Aesthetic Plastic Surgery(ISAPS)の報告書に公式集計された統計をみると、脂肪吸引施術は、全世界で21個の美容整形施術のうち最も多く行われる美容整形施術であり、韓国では同じ期間1.6万件以上が行われた。
【0006】
脂肪吸引施術は、美容整形外科施術で最も頻繁に行われる施術であるが、脂肪吸引施術時に発生するリスクは一般の人々によく知られていない。脂肪塞栓症は、脂肪吸引施術中に損傷した血管を介して脂肪が血流に流入されることによって引き起こされるもので、血流に流入された脂肪は肺の機能を酷く低下させ、他の器官にも浸透することができる。脂肪塞栓症は、相対的に低い発病確率であるにもかかわらず、発病時には非常に死亡率が高いため、世界的に数百人の死亡事故が発生すると知られている。
【0007】
脂肪吸引施術時に発生し得る脂肪塞栓症を予防するためには、施術前、施術中及び施術後に血流中に流入された脂肪量を随時測定しなければならないが、このような脂肪量を定量する装置は、現在まで開発されていない。
【0008】
本発明者らは、先行特許出願(韓国特許出願第10−2012−0147029号)で液体の接触面拡散係数(CADF)及びこれにより液体内に浸透された脂肪量を測定する方法について述べたことがある。上記先行出願に記載されたCADF測定方法は、固体平面と接触している液滴接触面の接触径または接触面積が一定時間が経過するにつれて変化する程度を測定したり、液体に存在する脂肪成分の量の変化を測定してCADFを得ることを含む。
【0009】
しかし、上記CADF測定方法は、接触径及び接触面積の何れか1つのみを測定変数として選択し使用したため、液体の接触面拡散係数を正確に検出するには下記のような現実的な問題点があった。
【0010】
特に、液滴と固体との初期接触面が円形を成さない場合、または一定時間の経過後に接触面の外郭形状の変化が不規則に表れる場合、一定時間が経過した後の接触面の接触径または接触面積の測定時に測定誤差が大きくなるという問題点があった。
【0011】
また、接触面積だけを用いてCADFを測定する場合、液滴の接触面積を測定するために液滴の垂直方向の上または下で接触面の形状を観察するにおいて、液滴と固体との接触面の境界線を正確に識別できない問題もあった。具体的には、液滴と固体表面との接触角が90°より大きい疎水性表面の場合には、上または下どちらの方向から観察しても測定された液滴の直径が接触面の直径より大きいため、液滴の外郭境界線が接触面の境界線を隠して、接触面の境界を正確に見分けることが困難であった。
【0012】
液滴と固体表面との接触角が90°より小さい親水性表面の場合にも、液滴と固体表面との境界が連続的に薄くなるため、固体表面と垂直方向の上または下で観察する場合、その境界を正確に識別することに困難があった。
【0013】
また、液滴と固体表面との接触面の接触径だけを用いてCADFを測定する場合、液滴の形状を側面方向から観察して接触面の両端を識別し、両端部の距離を接触径として測定するが、接触面の形状が正確に円形でない場合が多くて、このような接触径の変化だけでは接触面拡散係数を正確に測定できないため、誤差が発生していた。
【0014】
上記のような理由により、実際の産業的利用を可能にするために求められる測定の精度を達成するためには、液滴と固体表面との接触面積及び接触径をともに変数として含み、精度の改善された接触面拡散係数の算定方法が求められた。
【0015】
従って、本発明者らは、従来知られていた液滴と固体表面との接触面積に基づく接触面拡散係数の算定方法と接触径に基づく接触面拡散係数の算定方法を包括しながらも、精度を向上させた新規の接触面拡散係数の算定方法を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、液体の固体表面に対する接触面拡散係数(CADF)を用いて液体に含まれた疎水性成分、具体的には脂肪成分を定量する方法及びこれを用いて疾患、具体的には認知症、糖尿病または脂肪塞栓症の発病の可能性を予測したり、上記疾患の発病または経過を診断するための情報を提供する方法を提供することに目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一実施例による液体に含まれた疎水性成分の定量方法は、a)液体の液滴を固体表面に接触させ、上記液滴と上記固体表面との接触面の初期面積(A
0)及び上記接触面の初期直径(d
0)を測定する段階と、b)所定の時間(t)が経過した後、上記液滴と上記固体表面との接触面の面積(A
t)及び上記接触面の直径(d
t)を測定する段階と、c)下記式1に基づいて接触面拡散係数(CADF)を得る段階を含む方法を提供する。
【0018】
【数1】
【0019】
(上記式において、n、m、N及びMは定数である。)
【0020】
本発明の一実施例によると、上記液体に含まれた疎水性成分の定量方法は、d)上記接触面拡散係数及び下記式2を用いて上記液滴に含まれた疎水性成分の含有量を得る段階をさらに含んでもよい。
【0021】
【数2】
【0022】
(上記式において、k、C
0、A、B、D、P及びQは補正定数である。)
【0023】
本発明の一実施例によると、上記液体は体液であってもよい。
【0024】
本発明の一実施例によると、上記体液は血液、血清、血漿、汗及び尿からなる群より選択されてもよい。
【0025】
本発明の一実施例によると、上記疎水性成分は脂肪であってもよい。
【0026】
本発明の一実施例による代謝性疾患または認知症の発病の可能性の予測または代謝性疾患または認知症の発病または経過に関する情報提供方法は、a)判断対象の体液の液滴を固体表面に接触させ、上記液滴と上記固体表面との接触面の初期面積(A
0)及び上記接触面の初期直径(d
0)を測定する段階と、b)所定の時間(t)が経過した後、上記液滴と上記固体表面との接触面の面積(A
t)及び上記接触面の直径(d
t)を測定する段階と、c)下記式1に基づいて接触面拡散係数(CADF)を得る段階と、d)上記接触面拡散係数及び下記式2を用いて上記液滴に含まれた脂肪成分の含有量を得る段階と、e)上記得られた脂肪成分の含有量を正常な人の体液から得た脂肪成分の含有量と比較する段階と、を含む方法を提供する。
【0027】
【数3】
【0028】
(上記式において、n、m、N、及びMは定数である。)
【0029】
【数4】
【0030】
(上記式において、k、C
0、A、B、D、P及びQは補正定数である。)
【0031】
本発明の一実施例によると、上記判断対象の体液から得た脂肪成分の含有量と上記正常な人の体液から得た脂肪成分の含有量の差が正数である場合、代謝性疾患または認知症の発病の可能性が高いか、代謝性疾患または認知症の発病を診断することができる。
【0032】
本発明の一実施例によると、上記体液は血液、血清、血漿、汗または尿からなる群より選択されてもよい。
【0033】
本発明の一実施例によると、上記疾患は、認知症、糖尿病及び脂肪塞栓症からなる群より選択されてもよい。
【0034】
本発明の一実施例によると、上記認知症はアルツハイマー病、パーキンソン病、血管性認知症、混合型認知症及び軽度認知障害からなる群より選択されてもよい。
【発明の効果】
【0035】
本発明による液体に含まれた疎水性成分の定量方法を利用すると、検査対象から安くて便利に得られる尿などの体液を利用して、上記体液中に含まれた脂肪成分の含有量をより正確且つ簡単に測定することができる。
【0036】
特に、本発明による定量方法は、液滴と固体表面の接触面積及び接触径を同時に変数として使用することにより、CADFの測定精度を向上させて、接触面積または接触径の何れか1つだけを使用することにより引き起こされる測定エラーの発生可能性を大幅に減少させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、添付図面を参照し、本発明による実施形態について詳細に説明する。以下の説明は、本発明の実施形態の理解を容易にするためだけのものであり、保護範囲を制限するためのものではない。
【0039】
本発明の一実施例による液体に含まれた疎水性成分の定量方法は、液体の液滴が固体表面に接触したときに表れる接触面拡散係数(CADF)を算定し、これに基づいて液体に含まれた疎水性成分、例えば、脂肪成分を定量する方法を提供する。
【0041】
図1に示したように、γ
glは気体と液体との表面張力であり、γ
lsは液体と固体表面との表面張力であり、γ
gsは気体と固体表面との表面張力を意味する。また、αは液滴の固体表面に対する接触角であり、dは液滴と固体表面との接触径を意味する。
【0042】
液滴が固体表面に接触すると、上記3つの表面張力は互いにバランスが取れるようになる。時間が経過するにつれて、液滴から水分などの揮発性成分が蒸発することがあるため、液滴の体積が減少して固体表面との接触面積も減少する。従って、固体表面に接触した液滴の接触面積は、時間が経過するにつれて一定であるか、または減少するようになり、接触面積が増加することは殆どない。
【0043】
しかし、上述した3つの表面張力のバランスが崩れると、接触面積が拡張する可能性がある。このような例としては、液体中に脂肪成分が含まれた水性液滴が挙げられる。脂肪成分は、一般的に水と混ざらないが、少量の場合は均一に水に混合されることができる。一部の脂肪は水に少量溶解されることがあり、コロイド状に水に安定的に混合されることもできる。脂肪が水性流体に溶解されているとき、上記流体を固体表面に液滴状で接触させると、油成分が固体の表面に付着して上述した3つの表面張力のバランスが崩れることがある。
【0044】
水の表面張力は、一般的に疎水性または親油性物質の表面張力より強い。このため、水性流体に溶解されていた疎水性成分が固体表面に付着すると、3つの表面張力のバランスが崩れて液滴の接触面積の増加をもたらすことがある。固体表面に付着する疎水性成分、例えば、脂肪の量は水性流体内の脂肪濃度と表面吸着力に比例する。
【0045】
疎水性表面に疎水性成分である脂肪を含む水性液滴が接触されると、初期には脂肪成分が固体表面に殆ど付着していないが、時間の経過とともに脂肪のような疎水性物質は疎水性固体表面に付着して液滴と固体表面との表面張力を変化させ、これにより、液滴と固体表面の間で接触面積拡散(CAD)現象が発生する。
【0046】
本発明の一実施例による液体に含まれた疎水性成分の定量方法は、下記のCADFを算定する段階を含む。
【0047】
a)液体の液滴を固体表面に接触させ、上記液滴と上記固体表面との接触面の初期面積(A
0)及び上記接触面の初期直径(d
0)を測定する段階と、
b)所定の時間(t)が経過した後、上記液滴と上記固体表面との接触面の面積(A
t)及び上記接触面の直径(d
t)を測定する段階と、
c)下記式1に基づいて接触面拡散係数(CADF)を得る段階。
【0049】
上記式において、n、m、N、及びMは定数である。
【0050】
上記式1は、無次元形態のCADFの計算式である。ここで、A
tは所定の時間(t)が経過した後の上記液滴の接触面積であり、A
0は初期接触面積である。d
tは所定の時間(t)が経過した後の上記液滴の接触径であり、d
0は初期接触径を意味する。
【0051】
上記式1において、上記定数n及びmは、それぞれ接触面拡散係数の接触面積と接触面の直径に対する敏感度に応じて決め、上記定数N及びMは、それぞれ接触面積の変化比率と接触径の変化比率の接触面拡散係数に対する比重に基づいて決める。各定数は接触面拡散係数の測定環境に応じて変化することができる。
【0052】
液滴に含まれた疎水性成分、例えば、脂肪成分の含有量(濃度)が高いほど、接触面拡散係数が大きくなるため、本発明の一実施例による接触面拡散係数を用いて脂肪成分の含有量を定量することが可能である。上記得られた接触面拡散係数を用いて液体に含まれた疎水性成分を定量する方法は、下記の含有量計算段階をさらに行ってもよい。
【0053】
d)上記接触面拡散係数及び下記式2を用いて上記液滴に含まれた疎水性成分の含有量を得る段階。
【0055】
上記式において、k、C
0、A、B、D、P及びQは補正定数である。上記補正定数は、それぞれCADFと脂肪成分の含有量の実測データに基づき、比較補正を通じて誤差を最小化するように決定される。
【0056】
本明細書で用いられる「液体」は、測定対象となる体積を有するが、固定されていない形状の物質を意味する。上記液体は人間をはじめとする動物の体内に存在する体液であってもよい。本明細書で用いられる「体液」は、人間または動物の血液、血清、血漿、汗、尿などを意味するが、これに限定されるものではない。
【0057】
本明細書で用いられる「疎水性成分」または「親油性成分」は、水に対する親和力の小さい成分であって、極性を帯びない成分を意味する。上記疎水性成分は空気中に揮発されず表面張力などの液体の特性に影響を与える成分であってもよい。上記疎水性成分は脂肪であってもよい。
【0058】
本明細書で用いられる「脂肪(成分)」は、固状の脂肪、液状の脂肪、脂肪酸などを全て含む。例えば、上記固状または液状の脂肪は、植物性または動物性油脂から自然に発生する脂肪酸トリグリセリド、再配列またはランダム化された脂肪、エステル交換された脂肪を含むが、これに限定されるものではない。例えば、上記脂肪酸は10〜22個、例えば、12〜24個の炭素原子を含む飽和または不飽和(モノ−、ジ−またはポリ−不飽和)カルボン酸を含む。例えば、上記飽和脂肪酸はカプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸またはベヘン酸を含み、上記不飽和脂肪酸はオレイン酸、リノール酸またはにエルカ酸を含むが、これに限定されるものではない。
【0059】
本明細書で用いられる「トランス脂肪」は、トランス脂肪酸を含む不飽和脂肪を意味する。トランス脂肪は、体内でLDLコレステロールを増加させるとともに、血液でHDLコレステロールを下げる役割をする。本明細書で用いられる「トランス脂肪酸」は、不飽和脂肪酸植物性オイルの部分的な水素化によって一般的に生成される脂肪酸を意味する。このとき、用語「トランス」は、不飽和脂肪が部分的に水素化されたとき、水素原子が対立して存在する位置を示す。
【0060】
本明細書で用いられる「固体」は、液滴が載置できる一定以上の平行面を有する固体を意味する。上記固体は疎水性または撥水性固体、例えば、テフロン(登録商標)であってもよいが、これに限定されるものではない。脂肪のような疎水性成分は疎水性表面によく付着するため、CADF測定感度を大きく増加させることができる。例えば、本発明の一実施例において、固体としてテフロン(登録商標)板を使用する場合、1ppmの検出分解能まで得ることができる。
【0061】
本明細書で用いられる「液滴の接触面積(A
0、A
t)」は、上記液滴と上記固体の表面が直接接触する部分の面積を意味する。上記液滴の接触面積は固体の表面上に提供されるセンサーを利用するか、または上記液滴と上記固体の表面の接触面を一方向、例えば、上記固体の下面で撮影した後、接触面の面積を計算するなどの方法を通じて測定してもよいが、これに限定されるものではない。
【0062】
本明細書で用いられる「液滴の接触径(d
0、d
t)」は、任意の方向で観察した上記液滴と上記固体の表面が直接接触する部分の長さを意味する。上記液滴の接触径は、固体の表面上に提供されるセンサーを利用するか、または上記液滴と上記固体の表面の接触面を一方向、例えば、側面で撮影した後、接触径の長さを計算するなどの方法を通じて測定してもよいが、これに限定されるものではない。
【0063】
本明細書で用いられる「接触角(α)」は、固体の表面と固体との接触点から液滴半径に接する線の間に形成された角度を意味する。
【0064】
本明細書で用いられる「所定の時間(t)」は、液滴と固体表面の間で接触面積拡散(CAD)現象が起こるのに十分な時間のことで、例えば、5分〜1時間、例えば、10分〜30分、例えば、20分であってもよい。上記所定の時間(t)は、脂肪濃度、温度及び湿度のような測定条件に応じて調節されてもよい。
【0065】
図2には、脂肪吸引施術前(脂肪成分を含まない)及びその後(脂肪成分を含む)の尿のCADF値を示した。横軸は経過した時間(分)を、縦軸はCADF値を示す。
【0066】
図2に示したように、尿中の脂肪含有量に応じて、尿中に脂肪成分が含まれていない場合にはCADF値が負数で、尿中に脂肪成分が含まれた場合にはCADF値が正数で示される。これを利用して、液体に含まれた脂肪成分の含有量の検出が可能であることが分かる。
【0067】
脂肪が含まれていない尿のCADF値は負数で測定される。即ち、接触角が保持されるため、水が蒸発するにつれて脂肪が含まれていない尿液滴の接触面積及び/または接触径が減少する。これとは異なり、脂肪を含む尿のCADF値は正数で測定される。即ち、所定の時間が経過した後、液滴の接触面積及び/または接触径が初期液滴より拡大される。
【0068】
図3には、脂肪吸引施術後、0.5日ごとに収集された尿試料のCADFを示した。試料当たりCADFを4回測定して平均及び標準偏差を計算した。
【0069】
図3によると、脂肪吸引施術日から2.5日後に採取した尿試料のCADFが最も大きく、3.5日後には負数になった。これは脂肪吸引施術を受けた患者が平均的に3日後に回復するという事実とよく符合する。また、圧迫包帯や点滴などの医療処置の影響がCADF値に表れる位に尿に含まれた脂肪酸含有量に対する測定敏感度が高いことがよく表れている。
【0070】
図4には、脂肪吸引施術後、脂肪成分を含んだ尿サンプルを超純水で段階的に希釈し、脂肪含有濃度を変化させながら得た脂肪成分の濃度とCADFとの関係を示した。
【0071】
脂肪吸引施術をした患者から採取した脂肪の含まれた尿サンプルを超純水で希釈して、100%(純粋尿)から0.4%までの相対濃度を準備した。相対濃度が減少するにつれてCADFも減少し、単調比例関係を示すことが確認できた。これにより、脂肪濃度を定量するのにCADFが使用できることを確認することができる。
【0072】
図5には、ガスクロマトグラフィー(GC)によって測定された総脂肪酸の濃度及びCADF測定値を補正して脂肪酸濃度変換数式を求め、これを比較したグラフを示した。
【0073】
一実施例によるCADFが固体表面への脂肪吸着に因る表面エネルギーの変化を測定することを考慮すると、CADFと脂肪成分の濃度は単調比例関係にある。従って、脂肪含有量の濃度は、下記式2のように指数関数、線形関数、対数関数などの単調関数を使用して数式化される。
【0075】
GC法で測定した脂肪濃度値を式2に適用して補正係数を決め、下記式3のように単純な単調増加指数関数で表すことができる。
【0077】
一実施例によるCADF測定法で測定したCADF値と式3を通じて、GC測定法のように水性流体の脂肪含有量を定量することができる。但し、式2に用いる補正定数値は、式3に用いた補正定数に限定されない。
【0078】
一実施例では、ガスクロマトグラフィー(GC)分析により脂肪吸引施術をした患者から採取した脂肪の含まれた尿サンプルの脂肪の絶対濃度を測定し、同じ試料に対してCADFを測定した後、比較補正を通じて上記式2の補正係数を決め、その結果を
図5に示して比較した。GC分析値に基づいてC
CADFに関する式を以下のように求めることができ、補正定数Aは2.03、Pは3.65、Qは5.53、Dは10、及びk、C
0及びBは0に決めた。
【0080】
図6には、血液サンプル内の脂肪成分のうち、低密度リポタンパク(LDL)数値とCADF数値との相関関係を示した。これにより、LDL値はCADFに比例するが、高密度リポタンパク(HDL)値はCADFとは相関関係がないことが分かる。これは、一実施例によるCADFが血管壁などにさらによく付着する飽和脂肪とトランス脂肪などにより敏感に測定できることを表している。
【0081】
本発明の他の一実施例は、上記一実施例による液体に含まれた疎水性成分の定量方法を利用する、代謝性疾患または認知症の発病の可能性の予測または代謝性疾患または認知症の発病または経過に関する情報提供方法を提供する。
【0082】
具体的には、上記代謝性疾患または認知症の発病の可能性の予測または代謝性疾患または認知症の発病または経過に関する情報提供方法は、下記の段階を含んでもよい。
【0083】
a)判断対象の体液の液滴を固体表面に接触させ、上記液滴と上記固体表面との接触面の初期面積(A
0)及び上記接触面の初期直径(d
0)を測定する段階と、
b)所定の時間(t)が経過した後、上記液滴と上記固体表面との接触面の面積(A
t)及び上記接触面の直径(d
t)を測定する段階と、
c)下記式1に基づいて接触面拡散係数(CADF)を得る段階と、
【0085】
(上記式において、n、m、N、及びMは定数である。)
d)上記接触面拡散係数及び下記式2を用いて上記液滴に含まれた脂肪成分の含有量を得る段階と、
【0087】
(上記式において、k、C
0、A、B、D、P及びQは補正定数である。)
e)上記得られた脂肪成分の含有量を正常な人の体液から得た脂肪成分の含有量と比較する段階。
【0088】
上記判断対象の体液から得た脂肪成分の含有量と上記正常な人の体液から得た脂肪成分の含有量の差が正数である場合、代謝性疾患または認知症の発病の可能性が高いと判断するか、または代謝性疾患または認知症の発病または経過を診断することができる。
【0089】
本明細書で用いられる「代謝性疾患」は、肥満、非アルコール性肝疾患、耐糖能障害、高インスリン血症、高血糖症、糖尿病、高血圧、動脈硬化、高脂血症または脂肪塞栓症を含み、好ましくは、糖尿病または脂肪塞栓症であることができるが、これに限定されるものではない。
【0090】
本明細書で用いられる「認知症」は、アルツハイマー病、パーキンソン病、血管性認知症、混合型認知症、軽度認知障害を含むが、これに限定されるものではない。
【0091】
図7には、6つの疾患、即ち、糖尿病(DM)、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病認知症(PDD)、血管性認知症(VD)、軽症認知障害(MCI)及び混合型認知症(AD+VD)を患っている患者400人と正常な人100人に対して、GC法及び一実施例によるCADF法で測定した尿中の遊離脂肪酸の前臨床試験の結果を示した。
【0092】
図7によると、各患者の尿に含まれた脂肪成分の含有量が正常な人より遥かに高いことが確認でき、GCとCADFの測定結果、全て非常に類似した結果を示すことが分かった。
【0093】
特に、アルツハイマー病(AD)及びパーキンソン病(PDD)のような認知症患者の尿の場合、正常な人の2倍に近い高い値を示しており、これらの疾患に対する本発明のCADF法の診断信頼性が高いことが確認できた。
【0094】
また、糖尿病患者の場合、認知症患者より脂肪酸数値は低いが、正常な人よりは依然として高いため、本発明のCADF法が糖尿病診断方法として用いることができる。糖尿病の場合、本発明の一実施例による方法を用いると、尿試料を使用して安い費用で便利に診断管理を行い続けることで、個別の糖尿管理に大きく役立つことができ、血液採取が困難な患者の血糖管理にも大きく役立つことができる。
【0095】
一実施例によるCADF法を用いた脂肪成分の定量方法は、尿のように簡単に入手できる体液中の脂肪酸含有量を測定することにより、認知症が診断できるようにする。従って、様々な認知症の治療方法の実施による効果を容易に相互比較することができ、これを通じて個別の最適の治療方法が見つけることができる。
【0096】
一実施例による方法を用いると、尿のような容易に入手できる体液の脂肪含量を測定することにより、糖尿病を診断または管理することができる。従って、様々な糖尿病の治療方法による効果を容易に相互比較することができるため、個別の最適な糖尿病の治療方法が見つけることができる。
【0097】
一実施例による方法を用いると、脂肪吸引施術前、施術中、または施術後に血液または尿に流入される脂肪成分の含有量を測定することにより、脂肪塞栓症(fat embolism)を診断し予防できるようにする。従って、脂肪塞栓症が表れる前に患者に適切な医療的措置を取ることができる。
【0098】
一実施例によるCADFを測定する方法は、定量分析技術、例えば、試料に含まれた脂肪の量を測定する方法に適用することができる。GCと比べて、本発明のCADF法は安くて速く、便利である。
【0099】
GCのような従来の分析技術を補うために、本発明のCADF測定法は、従来の分析技術と結合されてもよい。例えば、本発明によるCADF測定結果は、UVまたは蛍光分光法で直接測定できない脂肪分析に適用することができる。
【0100】
一実施例によるCADF法は、健康管理、ダイエット、肥満分野のパーソナライズされた体脂肪管理に適用することができる。
【0101】
本発明のさらに他の一実施例は、上記一実施例による液体に含まれた疎水性成分の定量方法を利用する、液体に含まれた疎水性成分を定量する装置を提供する。
【0102】
図8には、本発明の一実施例による液体に含まれた疎水性成分の濃度測定装置を示した。
【0103】
図8を参照すると、液体に含まれた疎水性成分の濃度測定装置100は、測定部110、演算部120、及び出力部130を含む。上記濃度測定装置100の各構成要素は、コンピューティング装置に具現されるか、当該コンピューティング装置と連動されて動作する他の装置に具現されてもよい。
【0104】
上記測定部110は、液体の液滴と固体表面の接触面に対する接触面積または接触径の数値を獲得るように構成される。上記測定部110は、液滴が載置できる一定以上の平行面を有する固体を含んでもよい。
【0105】
上記測定部110は、上記接触面積または接触径の数値算定のために、液滴及び固体に対する映像を獲得することができる撮像機器、例えば、CCD(Charge−Coupled Device)カメラ、光センサーなどを含むか、上記個体上に提供されるタッチセンサーを含んでもよいが、これに限定されるものではない。上記測定部110は、上記個体上に載置された1つまたは2つ以上の液滴に対する接触面積または接触径を同時に測定することもできる。上記測定部110は、1つの液滴に対して時間の経過に伴う異なる接触面積または接触径の数値を測定することができる。
【0106】
上記測定部110は、必要に応じて、撮像機器の位置、焦点などを調節することができる撮像装置の制御部、上記獲得した接触面積または接触径の数値がメモリに保存されるメモリを含んでもよい。
【0107】
上記演算部120は、上記獲得した接触面積または接触径の数値を用いて、下記式1に基づいて接触面拡散係数(CADF)を得て、上記得られた接触面拡散係数(CADF)及び下記式2を用いて上記液滴に含まれた疎水性成分の含有量を演算して得ることができる。
【0109】
上記式において、n、m、N、及びMは定数である。
【0111】
上記式において、k、C
0、A、B、D、P及びQは補正定数である。
【0112】
上記演算部120は、正常な人から得た液体、例えば、体液から得た液体内の疎水性成分の濃度データに基づいて、上記得られた判断対象からの液体内の疎水性成分の濃度を比較して、判断対象の代謝性疾患または認知症の発病の可能性、発病有無または発病経過に関する情報を得ることができる。
【0113】
上記出力部130は、上記構成を通じて得られた液体に含まれた疎水性成分、例えば、脂肪成分の濃度を表示することができる。または、上記出力部130は、上記得られた疎水性成分の濃度を判断対象における代謝性疾患または認知症の発病の可能性の予測結果を表示したり、代謝性疾患または認知症の発病有無または発病経過に関する情報を表示することもできる。
【0114】
以上、本発明について好ましい実施例を中心に説明した。本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者は、本発明が本発明の本質的な特性から外れない範囲内で変形された形態で具現されることが理解できるであろう。従って、開示された実施例は、限定的な観点ではなく、説明的な観点から考慮すべきである。本発明の範囲は、上述した詳細な説明ではなく、添付の特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその均等概念から導き出される全ての変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれると解釈すべきである。