(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、好適な実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面は理解を容易にするため一部を誇張して描いており、寸法比率は説明のものとは必ずしも一致しない。
【0020】
マイクロニードルデバイスについて、以下に説明する。
【0021】
図1は、マイクロニードルデバイスの一例を示す斜視図である。
図1に示すマイクロニードルデバイス10は、基板2と、基板2の主面上に配置された複数のマイクロニードル4と、マイクロニードル4上に形成されたコーティング層6とを備える。コーティング層6は、生理活性物質及び増粘剤を含有する。本明細書においては、基板2上にマイクロニードル4が複数形成された構成をマイクロニードルアレイという。マイクロニードルアレイとしては、従来知られたマイクロニードルアレイを使用することができる。以下は、マイクロニードルアレイの詳細の例である。
【0022】
基板2は、マイクロニードル4を支持するための土台である。基板2の形状は特に限定されず、例えば、矩形状又は円形状であり、かつ、平坦状又は曲面状である。基板2の面積は、0.5〜10cm
2であることが好ましく、より好ましくは1〜5cm
2、さらに好ましくは1〜3cm
2である。この基板2を複数個つなげることで所望の大きさの基板を構成するようにしてもよい。
【0023】
マイクロニードル4は、凸状構造物、より具体的には、広い意味での針形状、又は針形状を含む構造物を意味する。マイクロニードル4は、鋭い先端を有する針形状のものに限定されず、先の尖っていない形状のものであってもよい。マイクロニードル4の形状は、例えば、四角錐形等の多角錐形又は円錐形である。マイクロニードル4が円錐状構造物である場合には、その基底における直径は50〜200μm程度であることが好ましい。マイクロニードル4は微小構造であり、その長さ(高さ)H
Mは、好ましくは50〜600μmである。マイクロニードル4の長さH
Mを50μm以上とすることにより、コーティング層に含まれる生理活性物質の投与がより確実になる。また、マイクロニードル4の長さH
Mを600μm以下とすることにより、マイクロニードル4が神経に接触するのを回避して、痛みを生じる可能性を減少させるとともに、出血の可能性を回避することができるようになる。また、マイクロニードル4の長さH
Mが500μm以下であると、皮内に入るべき量の生理活性物質を効率よく投与することができ、基底膜を穿孔させずに投与することも可能である。マイクロニードル4の長さH
Mは、300〜500μmであることが特に好ましい。
【0024】
マイクロニードル4は、例えば、正方格子状、長方格子状、斜方格子状、45°千鳥状、60°千鳥状に配置される。コーティング層6中の生理活性物質を効率よく皮膚内へ導入する点から、基板1cm
2当たりのマイクロニードル4の本数は、10本〜10000本であってよく、20本〜5000本が好ましく、50本〜500本がより好ましい。
【0025】
基板2又はマイクロニードル4の材質としては、例えば、シリコン、二酸化ケイ素、セラミック、金属、多糖類、及び合成の又は天然の樹脂素材が挙げられる。金属としては、ステンレス、チタン、ニッケル、モリブテン、クロム及びコバルトが挙げられる。樹脂素材としては、ポリ乳酸、ポリグリコリド、ポリ乳酸−co−ポリグリコリド、プルラン、カプロノラクトン、ポリウレタン、ポリ無水物等の生分解性ポリマーや、非分解性ポリマーであるポリカーボネート、ポリメタクリル酸、エチレンビニルアセテート、ポリテトラフルオロエチレン、又はポリオキシメチレンが好適である。また、多糖類であるヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、プルラン、デキストラン、デキストリン又はコンドロイチン硫酸等も好適である。
【0026】
コーティング層6は、複数存在するマイクロニードル4の全てに形成されていてよく、一部のマイクロニードル4にのみ形成されていてもよい。コーティング層6は、マイクロニードル4の先端部分だけに形成されていてよく、マイクロニードル4の全体を覆うように形成されていてもよい。コーティング層6の平均の厚さは、50μm未満であってよく、1μm〜30μmであってよい。
【0027】
基板2又はマイクロニードル4の製造方法としては、シリコン基板を用いたウエットエッチング加工又はドライエッチング加工、金属若しくは樹脂を用いた精密機械加工(放電加工、レーザー加工、ダイシング加工、ホットエンボス加工、射出成型加工等)、機械切削加工等が挙げられる。これらの加工法により、基板2とマイクロニードル4は一体に成型される。マイクロニードル4を中空にする方法としては、マイクロニードル4を作製後、レーザー等で2次加工する方法が挙げられる。
【0028】
図2は、
図1のII−II線に沿った側面断面図である。
図2に示すように、マイクロニードルデバイス1は、基板2と、基板2の主面上に設けられたマイクロニードル4と、マイクロニードル4上に形成されたコーティング層6と、を備えている。マイクロニードル上に形成されているコーティング層6は、生理活性物質及び増粘剤を含有する。
【0029】
本発明の一実施形態は、マイクロニードル上にコーティング層を備えるマイクロニードルデバイスの製造方法であって、生理活性物質及び第1の溶媒を含有する前駆組成物を乾燥して、凍結乾燥組成物を得る工程Aと、上記凍結乾燥組成物及び第2の溶媒を混合し、コーティング組成物を得る工程Bと、上記コーティング組成物を前記マイクロニードルに塗付し、乾燥する工程Cと、を含み、上記前駆組成物が増粘剤をさらに含有するか、又は、上記凍結乾燥組成物及び第2の溶媒を混合するときに増粘剤を加える、方法である。
【0030】
本実施形態の工程Aは、生理活性物質及び第1の溶媒を含有する前駆組成物を乾燥して、凍結乾燥組成物を得る工程である。
【0031】
本明細書における生理活性物質は、投与される対象に対して、治療又は予防効果を発揮する物質である。生理活性物質としては、例えば、ペプチド、タンパク質、DNA、RNA、糖、核酸、糖タンパク等が挙げられる。特に、生理活性物質が糖タンパクである場合には、より効率的にコーティング層を形成することができる。
【0032】
生理活性物質の具体例としては、インターフェロンα、多発性硬化症のためのインターフェロンβ、エリスロポエチン、フォリトロピンβ、フォリトロピンα、G−CSF、GM−CSF、ヒト絨毛性腺刺激ホルモン、黄体形成(leutinizing)ホルモン、卵胞刺激ホルモン(FSH)、サケカルシトニン、グルカゴン、GNRHアンタゴニスト、インスリン、LHRH(黄体ホルモン放出ホルモン)、ヒト成長ホルモン、副甲状腺ホルモン(PTH)、フィルグラスチン、ヘパリン、低分子ヘパリン、ソマトロピン、インクレチン、GLP−1アナログ(例えば、エキセナチド、リラグルチド、リキシセナチド、アルビグルチド、及びタスポグルチド)、蛇毒ペプチドアナログ、γグロブリン、日本脳炎ワクチン、ロタウィルスワクチン、アルツハイマー病ワクチン、動脈硬化ワクチン、癌ワクチン、ニコチンワクチン、ジフテリアワクチン、破傷風ワクチン、百日咳ワクチン、ライム病ワクチン、狂犬病ワクチン、肺炎双球菌ワクチン、黄熱病ワクチン、コレラワクチン、種痘疹ワクチン、結核ワクチン、風疹ワクチン、麻疹ワクチン、インフルエンザワクチン、おたふくかぜワクチン、ボツリヌスワクチン、ヘルペスウイルスワクチン、他のDNAワクチン、B型肝炎ワクチン、日本脳炎ワクチンが挙げられる。
【0033】
第1の溶媒は、生理活性物質と化学反応を生じず、生理活性物質を溶解し得るものであれば、特に制限はない。前駆組成物から凍結乾燥組成物を調製する際に、第1の溶媒を乾燥させる観点から、沸点が150℃以下であることが好ましく、80〜120℃であることがより好ましい。沸点が120℃以下であると、乾燥によって除去しやすく、凍結乾燥組成物の調製がより容易となる。また、特に生理活性物質がタンパク質や核酸である場合には、生理活性物質が熱分解を起こすことがある。第1の溶媒の沸点が150℃以下であると、乾燥時に高温又は高減圧度を必要とせず、生理活性物質の分解も抑制しやすくなる。
【0034】
第1の溶媒としては、例えば、水、シクロヘキサン、及び酢酸が挙げられる。
【0035】
前駆組成物に含まれる生理活性物質の量は、例えば、前駆組成物100質量部に対して0.1〜30質量部であってよく、0.2〜15質量部であることが好ましい。また、前駆組成物に含まれる第1の溶媒の量は、前駆組成物100質量部に対して70〜99.9質量部であってよく、80〜99.9質量部であることが好ましく、90〜99.9質量部であることがより好ましい。
【0036】
前駆組成物は、生理活性物質及び第1の溶媒のみからなっていてもよく、増粘剤又はその他の生理不活性成分をさらに含有してもよい。
【0037】
前駆組成物が増粘剤を含有する場合には、前駆組成物に含まれ得る増粘剤の量は、前駆組成物100質量部に対して0.1〜15質量部であってよく、0.2〜10質量部であることが好ましく、0.3〜5質量部であることがより好ましい。
【0038】
増粘剤が常温で固体の化合物である場合には、前駆組成物中に増粘剤を加えることが好ましい。前駆組成物に増粘剤を加えることにより、凍結乾燥組成物が増粘剤を含むこととなり、工程Bにおいて増粘剤が第2の溶媒に溶解しやすくなる。また、増粘剤が凍結乾燥組成物全体に分散されるため、コーティング組成物の粘度が均一となりやすい。前駆組成物が固体の増粘剤を含有する場合には、第1の溶媒は増粘剤を溶解し得るものであることが好ましい。そのような第1の溶媒としては、例えば、水、シクロヘキサン及び酢酸が挙げられる。
【0039】
本明細書における常温は、当業界で使用される常温の定義と同じであり、通常、15℃〜25℃を意味する。
【0040】
固体の増粘剤としては、例えば、塩基性アミノ酸及び水溶性ポリマーが挙げられる。好ましい塩基性アミノ酸は、アルギニン、ヒスチジン、又はリジンである。好ましいポリマーは、コンドロイチン硫酸、プルラン、ポリビニルアルコール、デキストラン、又はポリビニルピロリドンである。
【0041】
増粘剤が常温で液体の化合物である場合には、増粘剤の量を前駆組成物100質量部に対して0.3〜2質量部とすることが好ましい。増粘剤の量がこのような範囲であると、凍結乾燥組成物の成形性が良好となる。前駆組成物が液体の増粘剤を含有する場合には、第1の溶媒は増粘剤との相溶性に優れるものであることが好ましい。
【0042】
液体の増粘剤としては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、乳酸、ベンジルアルコール、及びブチレングリコールが挙げられる。
【0043】
前駆組成物に含まれる生理不活性成分の量は、例えば、前駆組成物100質量部に対して0.01〜5質量部である。生理不活性成分としては、例えば、基剤、安定化剤、pH調整剤、及びその他の成分(血中への薬物移行を促進する成分、界面活性剤、油脂、又は無機物等)が挙げられる。
【0044】
基剤は、コーティング組成物をマイクロニードルに保持する働きを有することで、マイクロニードルへ塗付しやすくする効果を有する。基剤は、例えば、多糖、セルロース誘導体、生分解性ポリエステル、生分解性ポリアミノ酸、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、若しくはポリビニルピロリドン等の水溶性の高分子又は糖、糖アルコールである。これらの基剤は、1種単独で使用してよく、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
安定化剤は、各成分の酸素酸化、光酸化等を抑制し、生理活性物質を安定化させる作用を有する。安定化剤としては、例えば、L−システイン、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)もしくはその塩、又はジブチルヒドロキシトルエン(BHT)が挙げられる。これらの安定化剤は、1種単独で使用してよく、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
pH調整剤としては、当業界で通常使用され得るものを使用できる。pH調整剤としては、例えば、無機酸若しくは有機酸、アルカリ、塩、アミノ酸又はこれらの組み合わせが挙げられる。具体的なpH調整剤は、例えば、酒石酸、フマル酸、クエン酸、安息香酸等の有機酸;塩酸、リン酸、硫酸等の無機酸;トロメタモール、メグルミン、エタノールアミン等の有機塩基;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の無機塩基である。これらのpH調整剤は、1種単独で使用してよく、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
凍結乾燥組成物は、前駆組成物を凍結乾燥することにより製造することができる。凍結乾燥することにより、前駆組成物を一旦凍結させた後に、第1の溶媒を昇華させるため、前駆組成物が高温になるのを避けることができるだけでなく、表面積がより大きいスポンジ状の凍結乾燥組成物を調製することができる。凍結乾燥組成物の表面積が大きいと、工程Bにおいて第2の溶媒との接触面積が大きくなり、凍結乾燥組成物の溶解性が更に向上する。
【0048】
本明細書における凍結乾燥組成物は、単に乾燥状態にある塊状の固体組成物ではなく、凍結乾燥組成物を構成する各成分が結晶状態ではない(非晶質状態である)ものである。
【0049】
凍結乾燥組成物に含まれる生理活性物質の量は、凍結乾燥組成物100質量部に対して1〜100質量部であることが好ましく、5〜100質量部であることがより好ましい。凍結乾燥組成物が増粘剤を含有する場合には、凍結乾燥組成物に含まれる増粘剤の量は、凍結乾燥組成物100質量部に対して10〜80質量部であることが好ましく、20〜70質量部であることがより好ましい。
【0050】
凍結乾燥組成物の密度は、6〜140mg/mLであることが好ましく、7〜100mg/mLであることがより好ましく、8〜70mg/mLであることが特に好ましい。凍結乾燥組成物の密度が6mg/mL未満であると、凍結乾燥組成物の強度が低下し、取り扱いにくくなる傾向がある。凍結乾燥組成物の密度が140mg/mLを超えると、凍結乾燥組成物中の隙間が少なく、第2の溶媒への溶解性及び溶解速度が低下する場合がある。
【0051】
本実施形態の工程Bは、凍結乾燥組成物及び第2の溶媒を混合し、コーティング組成物を得る工程である。
【0052】
凍結乾燥組成物は、上述の工程Aで得られたものを用いることができる。凍結乾燥組成物は、工程Bで使用する前に所望の大きさに粉砕してもよい。
【0053】
第2の溶媒は、第1の溶媒と互いに同一であっても、異なってもよい。第2の溶媒としては、例えば、水、グリセリン、プロピレングリコール、乳酸、ベンジルアルコール、ブチレングリコールが挙げられる。
【0054】
工程Bにおいて、凍結乾燥組成物のかさ体積が第2の溶媒の体積の3〜110倍となるように混合することが好ましく、5〜100倍となるように混合することがより好ましく、10〜100倍となるように混合することが特に好ましい。凍結乾燥組成物のかさ体積が第2の溶媒の体積の3倍未満であると、得られるコーティング組成物の粘度が低下し、マイクロニードルに塗付する際に液垂れを生じやすくなる。また、マイクロニードルにコーティング層を形成するにあたり、コーティング組成物の量が余剰となりやすくなる。一方、凍結乾燥組成物のかさ体積が第2の溶媒の体積の110倍を超えると、生理活性物質が溶解しにくくなる。
【0055】
凍結乾燥組成物と第2の溶媒を混合する時に、増粘剤を加えてもよい。工程Bで加え得る増粘剤は、上記工程Aで定義した増粘剤と同じものを使用できる。増粘剤が常温で液体の化合物である場合には、コーティング組成物の調製時に加えることが好ましい。液体の増粘剤をコーティング組成物の調製時に加えることによって、凍結乾燥組成物の成形性を考慮する必要がなく、また容易に第2の溶媒に混和し得る。増粘剤が常温で液体の化合物である場合には、第2の溶媒は、増粘剤との相溶性に優れるものであることが好ましい。
【0056】
増粘剤は、工程Aにおける前駆組成物の調製時、工程Bにおけるコーティング組成物の調製時、又はその両方の時点で加えてもよい。例えば、前駆組成物の調製時に固体の増粘剤を加えて凍結乾燥組成物を調製した後、コーティング組成物の調製時に液体の増粘剤を加えてもよい。
【0057】
コーティング組成物の調製において、凍結乾燥組成物と第2の溶媒を混合後、攪拌機で十分に撹拌することが好ましい。攪拌機としては、例えば、ボルテックスミキサー、遠心機、振盪機、撹拌羽式溶解装置、三軸遊星方式ミキサー、自転公転ミキサーが挙げられる。好ましい攪拌機は、三軸遊星方式ミキサー又は自転公転ミキサーであり、より好ましい撹拌機は自転公転ミキサーである。自転公転ミキサーとは、材料の入った容器を時計方向に公転させると同時に、容器自体を反時計方向に自転させるように動作するミキサーである。三軸遊星方式ミキサー又は自転公転ミキサーで撹拌すると、凍結乾燥組成物に含まれる生理活性物質が第2の溶媒に溶解しやすくなり、より高粘度かつ少ない量のコーティング組成物を調製しやすい。
【0058】
コーティング組成物を調製する際、減圧下で撹拌することが好ましい。減圧下でコーティング組成物を混合することにより、コーティング組成物中の気泡を除くことができ、マイクロニードルデバイスのコーティング層に欠け又は空隙を生じにくい。コーティング層に欠け又は空隙があると、マイクロニードルデバイスを皮膚に適用するときに、痛みを生じる場合がある。コーティング組成物を減圧下で撹拌する場合、その圧力は、1気圧よりも小さければよい。
【0059】
コーティング組成物の粘度は、凍結乾燥組成物と第2の溶媒の混合比、又は増粘剤の量により調整することができる。コーティング組成物の粘度が1000〜25000cpsとなるように調整することが好ましく、1500〜15000cpsとなるように調整することがより好ましい。コーティング組成物の粘度が1000cps未満であると、マイクロニードルに塗付した際に液垂れを生じやすい。一方、コーティング組成物の粘度が25000cpsを超えると、コーティング組成物中の生理活性物質が均一に分散されにくくなる。
【0060】
本実施形態の工程Cは、コーティング組成物をマイクロニードルに塗付し、乾燥する工程である。
【0061】
工程Cは、マイクロニードル1本ずつにコーティング組成物を塗付してもよく、浸漬コーティングにより一度にコーティングしてもよい。浸漬コーティングを行う場合には、マイクロニードルアレイのマイクロニードルの配置に対応するように、窪みが配置されたプレートを使用してもよい。プレートに配置された窪みを埋めるようにコーティング組成物を配置させた後、マイクロニードルが窪みに嵌まるようにマイクロニードルアレイとプレートを組み合わせることにより、コーティングすることができる。浸漬コーティングによれば、各マイクロニードル上のコーティング層の厚さが均一となりやすく、マイクロニードルデバイス全体に対して、生理活性物質が均一に配置することができる。
【0062】
浸漬コーティングの場合には、浸漬後にマイクロニードルアレイとコーティング組成物を引き離す速度を調節することが好ましい。引き離す速度は、0.1〜200mm/秒であることが好ましく、0.5〜100mm/秒であることがより好ましく、1〜10mm/秒であることが更に好ましい。引き離す速度が0.1〜200mm/秒であると、コーティング層の厚さをより均一になり、マイクロニードルアレイに塗付されるコーティング組成物の量が一定となりやすい。引き離す速度を調節する方法は、例えば、マイクロニードルアレイ又はコーティング組成物を配置したプレートを、モーター駆動装置又はバキューム装置により引き離す方法である。バキューム装置により引き離す場合には、減圧度、及び、マイクロニードルアレイとバキュームヘッドの距離を適宜変更することで調節することができる。
【0063】
コーティング組成物をマイクロニードルに塗付した後、第2の溶媒を乾燥させることにより、マイクロニードル上にコーティング層が形成される。乾燥は、第2の溶媒を除去できる条件であればよい。好適な乾燥条件は、風乾である。風乾であると、塗付されたコーティング組成物の粘度が低下して、液垂れを生じる可能性がより低くなる。
【実施例】
【0064】
試験例1:溶解性試験(1)
試験例1では、生理活性物質としてBSA(ウシ血漿アルブミン)、増粘剤としてプルランを使用した。調製例1〜4では、表1の記載にしたがい、2mL遠心用チューブにBSA、プルラン及び水を混合した。調製例5〜8では、表2の記載にしたがい、2mL遠心用チューブにBSA及びプルランを水1mLに溶解させた後、凍結乾燥機を用いて、その溶液の凍結乾燥を行い、凍結乾燥組成物を得た。その後、得られた凍結乾燥組成物を水と混合した。表1及び表2中、数値は特記しない限り、質量(単位:mg)を意味し、固形分濃度は混合物全体に対する固形分(BSA及びプルラン)の濃度(単位:%)を意味する。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
得られた混合物を、自転公転ミキサー(商品名:あわとり練太郎ARE500、シンキー社製)を用いて、60分間撹拌した。撹拌条件は、公転速度を1500rpm、自転速度を47rpmに設定した。撹拌後の混合物(コーティング組成物)における不溶物の有無を目視にて確認した。
【0068】
調製例1〜4の混合物では、不溶物が観察されたが、調製例5〜8の混合物では、不溶物が観察されなかった。すなわち、凍結乾燥組成物を形成した後に水に溶解させることにより、生理活性物質及び増粘剤の溶解性が向上した。
【0069】
試験例2:溶解性試験(2)
試験例2では、生理活性物質としてBSA(ウシ血漿アルブミン)、増粘剤としてプルランを使用した。調製例9〜14では、表3の記載にしたがい、2mL遠心用チューブにBSA及びプルランを水1mLに溶解させた後、凍結乾燥機を用いて、その溶液の凍結乾燥を行い、凍結乾燥組成物を得た。その後、得られた凍結乾燥組成物を水と混合した。凍結乾燥組成物は、BSA及びプルランの量に関係なく、そのかさ体積が750μLとなるように調製した。表3中、数値は特記しない限り、質量(単位:mg)を意味する。体積比は、凍結乾燥組成物のかさ体積(単位:μL)を水の体積(単位:μL)で除した値である。
【0070】
【表3】
【0071】
得られた混合物を、自転公転ミキサー(商品名:あわとり練太郎ARE500、シンキー社製)を用いて、60分間撹拌した。撹拌条件は、公転速度を1500rpm、自転速度を47rpmに設定した。撹拌後の混合物(コーティング組成物)における不溶物の有無を目視にて確認した。
【0072】
調製例9〜14の混合物では、いずれも不溶物が観察されなかった。
【0073】
試験例3:溶解性試験(3)
調製例15及び16では、表4の記載にしたがい、2mL遠心用チューブに生理活性物質を水10μLに溶解させた後、凍結乾燥機を用いて、その溶液の凍結乾燥を行い、凍結乾燥組成物を得た。その後、得られた凍結乾燥組成物に増粘剤B及び水を加えた。調製例17及び18では、表4の記載にしたがい、2mL遠心用チューブに生理活性物質及び増粘剤Aを水10μLに溶解させた後、凍結乾燥機を用いて、その溶液の凍結乾燥を行い、凍結乾燥組成物を得た。その後、得られた凍結乾燥組成物に水を加えた。表4中、数値は撹拌後の混合物(コーティング組成物)における各成分の含有率(単位:質量%)を意味する。凍結乾燥組成物のかさ体積は、800μLとなるように設定した。
【0074】
【表4】
【0075】
得られた混合物を、自転公転ミキサー(商品名:あわとり練太郎ARE500、シンキー社製)を用いて、60分間撹拌した。撹拌条件は、公転速度を1500rpm、自転速度を47rpmに設定した。撹拌後の混合物(コーティング組成物)における不溶物の有無を目視にて確認した。
【0076】
調製例15〜18の混合物では、いずれも不溶物が観察されなかった。
【0077】
次に、各コーティング組成物の粘度を微量粘度測定機(商品名:微量サンプル粘度計VROC、RheoSense社製)を用いて測定した。調製例15〜18で得られたコーティング組成物の粘度はそれぞれ、3476cps、23974cps、4997cps、1266cpsであった。
【0078】
試験例4:溶解性試験(4)
調製例19では、表5の記載にしたがい、100mL遠心用チューブに生理活性物質(ヒト血清アルブミン)450mgを水90mLに溶解させた後、凍結乾燥機を用いて、その溶液の凍結乾燥を行い、凍結乾燥組成物(密度:5mg/mL)を得た。凍結乾燥組成物のかさ体積は、90mLとなるように設定した。得られた凍結乾燥組成物に、アルギニン66mg、グリセリン529mg及びクエン酸13mgを水265mgに溶解させた溶液を加えた。表5中、数値は撹拌後の混合物(コーティング組成物)における各成分の含有率(単位:質量%)を意味する。
【表5】
【0079】
得られた混合物を、自転公転ミキサー(商品名:あわとり練太郎ARE500、シンキー社製)を用いて、30分間撹拌した。撹拌条件は、公転速度を2000rpm、自転速度を63rpmに設定した。撹拌後の混合物(コーティング組成物)における不溶物の有無を目視にて確認した。
【0080】
調製例19の混合物では、不溶物が観察されなかった。