(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フロアパネルは、スペヤタイヤパンであって、前方から後方に向けてクロスメンバ部と曲率部とが前記凸部として順番に形成され、これら複数の前記凸部の下面にアンダボディコートが施されている請求項1に記載の車体後部構造。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を実施する形態(本実施形態)の車体後部構造について適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態の車体後部構造は、フロアパネルの後部としてのスペアタイヤパンが部分的に下方に突出して形成された凸部と、この凸部に段差を有するように形成されたアンダボディコートと、を有している。
【0010】
まず、車体後部構造の全体構成について説明した後に、スペアタイヤパンとアンダボディコートとについて説明する。
なお、以下の説明で参照する各図中に矢印で示される「前後」及び「上下」は、車体前後方向及び車体上下方向を示し、「左右」は、運転席から見た左右方向(車幅方向)をそれぞれ示している。
【0011】
<車体後部構造の全体構成>
図1に示すように、本実施形態の車体後部構造Sは、車体9の両側のそれぞれで前後方向に延びるサイドシル1と、サイドシル1の後部から後方へ延びるリヤサイドフレーム2と、リヤサイドフレーム2の前部同士を連結するリヤフロアクロスビーム3と、リヤフロアクロスビーム3の後方でリヤサイドフレーム2同士の間に設けられるリヤフロアパネル4と、図示しないサスペンション装置と、を備えている。
図1中、符号7は、仮想線(二点鎖線)で示すタイヤである。また、符号5は、後に詳しく説明するスペアタイヤパンであり、リヤフロアパネル4を構成している。
【0012】
サイドシル1のそれぞれは、車幅方向内外にそれぞれ配置されるサイドシルインナ(図示省略)とサイドシルアウタ(図示省略)とが接合されて中空に形成され、その内側にはサイドシルスティフナ(図示省略)が配置されている。
また、サイドシル1は、図示しないが、車体前部のダッシュボードロア近傍まで延びている。
【0013】
リヤサイドフレーム2は、矩形の閉断面構造を有している。リヤサイドフレーム2は、車幅方向において、サイドシル1よりも内側で前後方向に延びている。
【0014】
リヤサイドフレーム2の前部は、アウトリガ8を介してサイドシル1の後部と接続されている。
リヤサイドフレーム2の後端部のそれぞれには、バンパビームエクステンション(図示省略)を介して、車幅方向に延びるリヤバンパ(バンパビーム)6のそれぞれの両端部が接続されている。
【0015】
リヤフロアクロスビーム3は、リヤサイドフレーム2同士の間で車幅方向に延びて、前記のようにリヤサイドフレーム2の前部同士を連結している。
本実施形態でのリヤフロアクロスビーム3は、車室の床下面(フロントフロアパネル)との間に閉断面を形成するように、断面視で上方に開くハット形状を有している。そして、ハット形状の鍔部に対応するフランジで床下面と溶接などによって接合されている。
【0016】
<スペアタイヤパン>
スペアタイヤパン5(
図1参照)は、前記のように、リヤサイドフレーム2(
図1参照)同士の間に設けられるリヤフロアパネル4(
図1参照)に形成されている。
スペアタイヤパン5は、車体9(
図1参照)の後部で、リヤフロアパネル4が下方(
図1の紙面手前側)に向けて膨出するように形成されている。
つまり、スペアタイヤパン5は、
図1に示すように、車体9の下面視で、膨出頂面51と、この膨出頂面51の周囲に形成されてリヤフロアパネル4のベース面4aからの立上がり側面52と、を有している。
【0017】
また、図示しないが、スペアタイヤパン5の上面側(
図1の紙面裏側)は、この膨出部分に対応するように凹部が形成されている。この凹部には、スペアタイヤ、工具類、タイヤ修理キットなどの物品を収納することができる。
【0018】
図1に示すように、スペアタイヤパン5には、スペアタイヤパン5の前後方向の略中央で車幅方向に延びるクロスメンバ53(ビード部)が形成されている。このクロスメンバ53は、下方(
図1の紙面手前側)に向けて突出する条形状(レール状)に形成されている。このクロスメンバ53は、スペアタイヤパン5の車幅方向の全域にわたって横切るように延びている。
【0019】
図2は、
図1におけるII−II断面の模式図である。
図2に示すように、本実施形態の車体後部構造Sにおけるクロスメンバ53は、リヤフロアパネル4の板部材が、部分的に下方(D1方向)に突出することで形成されている。このクロスメンバ53は、断面視で、上方に開口する溝状に形成されている。具体的には、クロスメンバ53の断面形状は、上方側に開く等脚を有する略台形になっている。このようなクロスメンバ53は、次に説明する曲率部54とともに、特許請求の範囲にいう「凸部」に対応している。
【0020】
また、スペアタイヤパン5は、クロスメンバ53の後方に曲率部54を有している。
この曲率部54は、リヤフロアパネル4の板部材が、所定の曲率で下方に湾曲して突出することで形成されている。具体的には、本実施形態の曲率部54は、斜め後下方(D2方向)に向けて突出している。
ちなみに、本実施形態での曲率部54は、クロスメンバ53の後方でこのクロスメンバ53に隣接して形成されている。そして、この曲率部54は、前記のように、クロスメンバ53とともに、特許請求の範囲にいう「凸部」に対応している。
【0021】
このようなスペアタイヤパン5においては、凸部を構成するクロスメンバ53及び曲率部54のいずれもが、リヤバンパ6の下端の高さHよりも下方に配置されている。
【0022】
また、後方側の凸部である曲率部54は、前方側の凸部であるクロスメンバ53よりも高い位置に設定されている。具体的には、曲率部54の膨出中心位置P1は、クロスメンバ53の溝底中心位置P2よりも高い位置に設定されている。
【0023】
<アンダボディコート>
アンダボディコート10(
図2参照)は、スペアタイヤパン5(
図2参照)の下面に塗布されたアンダボディコート10用の樹脂組成物の硬化物で形成されている。
図2に示すように、本実施形態でのアンダボディコート10は、前側から後側に向かって、第1アンダボディコート11と、第2アンダボディコート12と、第3アンダボディコート13と、で構成されている。
【0024】
第1アンダボディコート11は、スペアタイヤパン5の下面側で、クロスメンバ53と、このクロスメンバ53よりも前方に位置するスペアタイヤパン5とにわたって連続して施されている。
第2アンダボディコート12は、スペアタイヤパン5の下面側で、クロスメンバ53と、曲率部54の略前半分とにわたって連続して施されている。
第3アンダボディコート13は、スペアタイヤパン5の下面側で、曲率部54の略後半分に施されている。
【0025】
つまり、本実施形態でのアンダボディコート10は、少なくとも
図1に示す膨出頂面51上を通過する空気流の流れ方向を後記するように制御するために、スペアタイヤパン5の下面側に施されている。
具体的には、
図2に示すように、第1アンダボディコート11と、第2アンダボディコート12と、第3アンダボディコート13とが協働して、凸部としてのクロスメンバ53と曲率部54との全てを覆っている。
【0026】
アンダボディコート10は、
図2に示すように、凸部としてのクロスメンバ53と曲率部54とにおいて、前後方向にそれぞれ段差20a及び段差20bを有している。
クロスメンバ53における段差20aは、第1アンダボディコート11の後端部と、第2アンダボディコート12の前端部との重なり合い21aで形成されている。
曲率部54における段差20bは、第2アンダボディコート12の後端部と、第3アンダボディコート13の前端部との重なり合い21bで形成されている。
【0027】
具体的には、クロスメンバ53における段差20aは、第1アンダボディコート11に対して後方側に位置する第2アンダボディコート12の前端部が、前方側に位置する第1アンダボディコート11の後端部の下方に積層されて形成されている。
つまり、第1アンダボディコート11の後端部よりも第2アンダボディコート12の前端部の方が低くなるように段差20aが形成されている。
【0028】
また、曲率部54における段差20bは、第2アンダボディコート12に対して後方側に位置する第3アンダボディコート13の前端部が、前方側に位置する第2アンダボディコート12の後端部の下方に積層されて形成されている。
つまり、第2アンダボディコート12の後端部よりも第3アンダボディコート13の前端部の方が低くなるように段差20bが形成されている。
本実施形態での段差20a,20bは、3mm程度のものを望ましい態様として想定しているが、10mm以上とすることもできる。
【0029】
<車体後部構造の製造方法>
この車体後部構造の製造方法においては、凸部としてのクロスメンバ53(
図2参照)、及び曲率部54(
図2参照)を有するスペアタイヤパン5(
図2参照)がプレス成形法によって形成される。
【0030】
図3(a)、(b)及び(c)は、アンダボディコート10の形成工程の説明図である。
図3(a)に示すように、この製造工程においては、まずクロスメンバ53からこのクロスメンバ53よりも前方に位置するスペアタイヤパン5に、アンダボディコート10(
図2参照)用の樹脂組成物が塗布されて第1の塗膜31が形成される。
【0031】
この樹脂組成物としては、公知のものを使用することができ、例えば、ベース樹脂、可塑剤、充填材などを含むものが挙げられる。
【0032】
塗布方法としては、特に制限はないが、塗装範囲を除いてマスキングを施した後、吹き付け塗装によるものが望ましい。
【0033】
次に、この製造方法では、第1の塗膜31に加熱処理を施してこの第1の塗膜31を半硬化させる。加熱温度としては、後の本硬化工程よりも低い温度で行うことが望ましく、例えば80℃程度に設定することができるが、これに限定されるものではない。加熱手段としては、特に制限はないが、赤外線ランプが望ましい。
【0034】
次に、
図3(b)に示すように、クロスメンバ53と、曲率部54の略前半分とにわたって第2の塗膜32が形成される。この際、第1の塗膜31の後端部に、第2の塗膜32の前端部が重ね合わせられる。その後、この製造方法では、第2の塗膜32に加熱処理を施してこの第2の塗膜32を半硬化させる。加熱温度は、第1の塗膜31を半硬化させた温度と同様の温度に設定することができる。
【0035】
次に、
図3(c)に示すように、曲率部54の略後半分に第3の塗膜33が形成される。この際、第2の塗膜32の後端部に、第3の塗膜33の前端部が重ね合わせられる。
【0036】
そして、この製造方法では、第1の塗膜31、第2の塗膜32、及び第3の塗膜33に加熱処理を行って、これら第1の塗膜31、第2の塗膜32、及び第3の塗膜33を本硬化させる。本硬化の加熱温度としては、例えば100℃程度に設定することができるが、これに限定されるものではない。ちなみに、本実施形態での製造方法は、第3の塗膜33の半硬化工程を想定していないが、本硬化前に第3の塗膜33に加熱処理を施して第3の塗膜33を半硬化させる工程を含むこともできる。
そして、このように第1の塗膜31、第2の塗膜32、及び第3の塗膜33を本硬化させることで、
図2に示すように、第1アンダボディコート11と、第2アンダボディコート12と、第3アンダボディコート13とを有するスペアタイヤパン5が完成する。
【0037】
<作用効果>
次に、本実施形態に係る車体後部構造Sの奏する作用効果について説明する。
【0038】
図4は、車両走行時に車体9の下面に沿って流れる走行風の流線を示す模式図である。なお、
図4中、アンダボディコートの記載は、作図の便宜上、省略している。
図4中、符号40aは、本実施形態の車体後部構造S(
図1参照)を搭載した車両の走行時に、車体9の下面に沿って流れる走行風の流線を示している。この車体後部構造Sは、
図2に示すように、リヤフロアパネル4が部分的に下方に突出して形成された凸部としてのクロスメンバ53と、曲率部54とを備えている。また、この車体後部構造Sは、これらクロスメンバ53と、曲率部54とのそれぞれに段差20a、20b(
図2参照)を有するアンダボディコート10が形成されている。
【0039】
また、
図4中、符号40bは、参考例としての車体後部構造(図示省略)を搭載した車両の走行時に、車体9の下面に沿って流れる走行風の流線を示している。
この参考例としての車体後部構造は、アンダボディコート10(
図2参照)に段差を有していない以外は、車体後部構造S(
図2参照)と同様に形成されている。つまり、参考例としての車体後部構造は、アンダボディコート10同士の重ね合わせ部を有していない略均一の厚さでアンダボディコート10がスペアタイヤパン5(
図2参照)の下面に形成されている。
【0040】
このような参考例としての車体後部構造での走行風40b(
図4参照)は、スペアタイヤパン5(
図4参照)の下面に沿って流れてリヤバンパ6(
図4参照)に塞き止められる。
【0041】
これに対して、本実施形態の車体後部構造S(
図2参照)においては、
図4に示すように、走行風40aは、凸部としてのクロスメンバ53及び曲率部54のそれぞれで下方に流れを変更しようとする際に、段差20a、20b(
図2参照)が走行風40aの剥離を促進させる。つまり、アンダボディコート10(
図2参照)の表面から離反するように流れる。これにより走行風40aは、リヤバンパ6の下方に向かって流れるように誘導される。その結果、走行風40aがリヤバンパ6に塞き止められることが回避される。
したがって、本実施形態の車体後部構造S(
図2参照)によれば、空気抵抗値Cdが減少して燃費が向上する。
【0042】
また、本実施形態に係る車体後部構造Sにおいては、
図2に示すように、段差20a,20bがアンダボディコート10の端部同士の重なり合い21a,21bで形成されている。
このような車体後部構造Sによれば、凸部としてのクロスメンバ53及び曲率部54のそれぞれに、容易に段差20a,20bを形成することができる。
【0043】
また、本実施形態に係る車体後部構造Sにおいては、
図2に示すように、凸部としてのクロスメンバ53及び曲率部54のそれぞれは、リヤバンパ6の下端よりも下方に配置されている。
このような車体後部構造Sによれば、リヤフロアパネル4(
図1参照)の後端とリヤバンパ6(
図1参照)との隙間が大きくなっても、走行風40a(
図4参照)の流れをリヤバンパ6の下方に下げることができる。
【0044】
また、本実施形態に係る車体後部構造Sにおいては、
図2に示すように、後方側の凸部である曲率部54は、前方側の凸部であるクロスメンバ53よりも高い位置に設定されている。
このような車体後部構造Sによれば、段差20a,20bを比較的小さく設定した場合においても、走行風40a(
図4参照)の流れをリヤバンパ6の下方に下げることができる。
【0045】
また、本実施形態に係る車体後部構造Sのスペヤタイヤパン5においては、
図2に示すように、前方から後方に向けてクロスメンバ53と曲率部54とが順番に形成されている。また、アンダボディコート10は、第1アンダボディコート11と、第2アンダボディコート12と、第3アンダボディコート13とが協働して、凸部としてのクロスメンバ53と曲率部54との全てを覆っている。
この車体後部構造Sでは、クロスメンバ53は、スペヤタイヤパン5の剛性を高めるとともに、スペヤタイヤパン5において最も低い位置で凸部を形成している。
このような車体後部構造Sによれば、スペヤタイヤパン5の下面全体にわたって走行風40a(
図4参照)の流れをリヤバンパ6の下方に下げることができる。
【0046】
また、本実施形態に係る車体後部構造Sにおいては、
図2に示すように、段差20a,20bは、後方側のアンダボディコート10の端部が前方側のアンダボディコート10の端部の下方に積層されている。
この車体後部構造Sでは、上方に位置するアンダボディコート10の端部に対して重ねられる下方に位置するアンダボディコート10の端部は、アンダボディコート10の厚さに応じて段差20a,20bを確実に確保することができる。
このような車体後部構造Sによれば、アンダボディコート10の厚さを調節することによって、容易に大きい段差20a,20bを形成することができる。これにより走行風40a(
図4参照)の剥離作用がより効果的に促進される構造を容易に構築することができる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、種々の形態で実施することができる。
前記実施形態では、凸部は、クロスメンバ53と曲率部54の2つで構成されているが、本発明は3つ以上の凸部を有する構成とすることもできる。
また、前記実施形態での段差20a,20bは、下地のアンダボディコート10の表面から略垂直に立ち上がる重ね合わせ側のアンダボディコート10の端面で形成されるものを想定している。しかし、この段差20a,20bを形成するアンダボディコート10の端面は、これに限定されずに、走行風40a(
図4参照)を下方に誘導するテーパ面とすることもできる。