(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
バッテリ(201)からの電力で作動するセルモータ(207)によってエンジン(E)のクランク軸(41)を回転させる第1の始動手段(500)と、アクチュエータ(27)でスロットルバルブ(31)を駆動して前記エンジン(E)の出力を調整する電子スロットル装置(400)とを有する鞍乗型車両(1)において、
前記鞍乗型車両(1)の始動手段は、前記第1の始動手段(500)と、前記バッテリ(201)からの電力によらずに前記エンジン(E)のクランク軸(41)を回転させる第2の始動手段(104)とを有し、
前記エンジン(E)の始動時における前記バッテリ(201)の残量が満充電より減少している領域に、前記始動手段(500,104)として前記第2の始動手段(104)が選択されると共に、前記バッテリ(201)からの電力供給を前記電子スロットル装置(400)へ優先して供給する領域を有することを特徴とする鞍乗型車両。
前記初期化処理後に、前記バッテリ(201)の残量に基づく前記バッテリ(201)の出力(V)が第1所定値(V1)未満であると、前記第1の始動手段(500)が作動せず、前記第2の始動手段(104)が選択されることを特徴とする請求項2に記載の鞍乗型車両。
前記エンジン(E)の始動後にエンジン回転数およびまたは車速を制限する制御が実行されていることを運転者に報知する報知手段(305)が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の鞍乗型車両。
前記制御部(300)は、前記エンジン(E)の始動後の走行により、前記バッテリ(201)の出力(V)が前記第2所定値(V2)以上になった場合は、その後に前記初期化処理を行うことにより、前記エンジン回転数およびまたは車速を制限する制御を終了させることを特徴とする請求項4に記載の鞍乗型車両。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、二輪車等の鞍乗型車両においても、駆動源の出力を調整するスロットルバルブをアクチュエータで駆動する電子スロットル装置の適用が増えており、キックスタータと電子スロットル装置の両方を備えることも考えられる。この点、バッテリ残量が少ない状態でキックスタータを用いてエンジンを始動する際には、燃料供給系統や点火系統のみならず電子スロットル装置への電力供給に関しても最適化を図ることが好ましいが、特許文献1において、電子スロットル装置に関する検討はなされていなかった。
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、エンジン始動時における電子スロットル装置への電力供給を最適化できる鞍乗型車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、バッテリ(201)からの電力で作動するセルモータ(207)によってエンジン(E)のクランク軸(41)を回転させる第1の始動手段(500)と、アクチュエータ(27)でスロットルバルブ(31)を駆動して前記エンジン(E)の出力を調整する電子スロットル装置(400)とを有する鞍乗型車両(1)において、前記鞍乗型車両(1)の始動手段は、前記第1の始動手段(500)と、前記バッテリ(201)からの電力によらずに前記エンジン(E)のクランク軸(41)を回転させる第2の始動手段(104)とを有し、前記エンジン(E)の始動時における前記バッテリ(201)の残量が満充電より減少している領域に、前記始動手段(500,104)として前記第2の始動手段(104)が選択されると共に、前記バッテリ(201)からの電力供給を前記電子スロットル装置(400)へ優先して供給する領域を有する点に第1の特徴がある。
【0008】
また、前記鞍乗型車両(1)は、前記バッテリ(201)からの電力供給の態様を変更する制御部(300)を有し、前記制御部(300)が、前記エンジン(E)の始動時において、前記バッテリ(201)からの電力供給を前記電子スロットル装置(400)に優先して供給し、前記アクチュエータ(27)を駆動して前記電子スロットル装置(400)の初期化処理を行ない、前記初期化処理後の前記バッテリ(201)の残量の領域に、前記第2の始動手段(104)が選択される領域を有する点に第2の特徴がある。
【0009】
また、前記初期化処理後に、前記バッテリ(201)の残量に基づく前記バッテリ(201)の出力(V)が第1所定値(V1)未満であると、前記第1の始動手段(500)が作動せず、前記第2の始動手段(104)が選択される点に第3の特徴がある。
【0010】
また、前記制御部(300)は、前記エンジン(E)の始動時に前記バッテリ(201)の出力(V)が第1所定値(V1)より小さい第2所定値(V2)未満であると、前記
電子スロットル装置(400)の初期化処理を行わずに、前記第2の始動手段(104)による前記エンジン(E)の始動後に、エンジン回転数およびまたは車速を制限する制御を実行する点に第4の特徴がある。
【0011】
また、前記エンジン(E)の始動後にエンジン回転数およびまたは車速を制限する制御が実行されていることを運転者に報知する報知手段(305)が設けられている点に第5の特徴がある。
【0012】
さらに、前記制御部(300)は、前記エンジン(E)の始動後の走行により、前記バッテリ(201)の出力(V)が前記第2所定値(V2)以上になった場合は、その後に前記初期化処理を行うことにより、前記エンジン回転数およびまたは車速を制限する制御を終了させる点に第6の特徴がある。
【発明の効果】
【0013】
第1の特徴によれば、バッテリ(201)からの電力で作動するセルモータ(207)によってエンジン(E)のクランク軸(41)を回転させる第1の始動手段(500)と、アクチュエータ(27)でスロットルバルブ(31)を駆動して前記エンジン(E)の出力を調整する電子スロットル装置(400)とを有する鞍乗型車両(1)において、前記鞍乗型車両(1)の始動手段は、前記第1の始動手段(500)と、前記バッテリ(201)からの電力によらずに前記エンジン(E)のクランク軸(41)を回転させる第2の始動手段(104)とを有し、前記エンジン(E)の始動時における前記バッテリ(201)の残量が満充電より減少している領域に、前記始動手段(500,104)として前記第2の始動手段(104)が選択されると共に、前記バッテリ(201)からの電力供給を前記電子スロットル装置(400)へ優先して供給する領域を有するので、例えば、バッテリ充電残量が少ない場合に、電子スロットル装置を駆動する電力を優先的に供給しながら、始動手段を確保できる。これにより、第1の始動手段に電力を供給するバッテリからの電力によらない第2の始動手段を用いてエンジン始動を行い、かつ電子スロットル装置を適切に駆動することができる。
【0014】
第2の特徴によれば、前記鞍乗型車両(1)は、前記バッテリ(201)からの電力供給の態様を変更する制御部(300)を有し、前記制御部(300)が、前記エンジン(E)の始動時において、前記バッテリ(201)からの電力供給を前記電子スロットル装置(400)に優先して供給し、前記アクチュエータ(27)を駆動して前記電子スロットル装置(400)の初期化処理を行ない、前記初期化処理後の前記バッテリ(201)の残量の領域に、前記第2の始動手段(104)が選択される領域を有するので、例えば、バッテリ充電残量が低下している場合でも、エンジン始動時および始動後にスロットルバルブを適切に駆動するために必要な電子スロットル装置の初期化処理を実行することが可能となる。これにより、エンジンの良好な始動性およびエンジン始動後の適切な駆動を確保することができる。
【0015】
第3の特徴によれば、前記初期化処理後に、前記バッテリ(201)の残量に基づく前記バッテリ(201)の出力(V)が第1所定値(V1)未満であると、前記第1の始動手段(500)が作動せず、前記第2の始動手段(104)が選択されるので、電子スロットル装置の初期化処理後のバッテリの出力が第1所定値未満である場合には、セルモータ(207)が作動せず、エンジン始動手段として第2の始動手段が選択されて、運転者が始動できる。これにより、セルスタータの駆動による電力消費を防ぐと共に、電子スロットル装置の初期化処理を行って、第2の始動手段による良好な始動性およびエンジン始動後の適切な駆動を確保することができる。
【0016】
第4の特徴によれば、前記制御部(300)は、前記エンジン(E)の始動時に前記バッテリ(201)の出力(V)が第1所定値(V1)より小さい第2所定値(V2)未満であると、前記
電子スロットル装置(400)の初期化処理を行わずに、前記第2の始動手段(104)による前記エンジン(E)の始動後に、エンジン回転数およびまたは車速を制限する制御を実行するので、バッテリ充電残量が極めて少ない場合には、電子スロットル装置の初期化処理も行わないことで、第2の始動手段での始動時に燃料噴射系および点火系ならびに電子スロットル装置への電力供給を優先してエンジン始動性を確保することが可能となる。また、エンジン始動後にエンジン回転数およびまたは車速を制限することで、電子スロットル装置の初期化処理が行われていない状態でエンジン回転数や車速が高くなることを防ぐことができる。
【0017】
第5の特徴によれば、前記エンジン(E)の始動後にエンジン回転数およびまたは車速を制限する制御が実行されていることを運転者に報知する報知手段(305)が設けられているので、バッテリ充電残量が少ないことに対して、対処が必要であることを運転者に報知することが可能となる。
【0018】
第6の特徴によれば、前記制御部(300)は、前記エンジン(E)の始動後の走行により、前記バッテリ(201)の出力(V)が前記第2所定値(V2)以上になった場合は、その後に前記初期化処理を行うことにより、前記エンジン回転数およびまたは車速を制限する制御を終了させるので、バッテリの充電残量の回復に伴って適切なエンジン制御を実行することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る鞍乗型車両としての自動二輪車1の左側面図である。また、
図2はエンジンEまわりの一部拡大図である。自動二輪車1は、車体フレーム4と、前輪WFと、前輪WFを軸支するフロントフォーク6と、フロントフォーク6に連結されたハンドル2と、車体フレーム4に揺動可能に連結されたユニットスイング式のパワーユニットPと、パワーユニットPの上部に取り付けられるエアクリーナ19と、パワーユニットPの前部に一体に設けられるエンジンEとエアクリーナ19とを接続する連結パイプ23と、駆動輪である後輪WRと、パワーユニットPの後部を形成して後輪WRを軸支する動力伝達装置16と、パワーユニットPを車体に懸架するリアクッション18と、エンジンEの燃焼ガスを排出するマフラ17とを備える
【0021】
車体フレーム4は、ヘッドパイプ3と、メインフレーム9と、リヤフレーム24とを備える。ヘッドパイプ3は、車体フレーム4の前端部に配置されており、左右一対のメインフレーム9の前端部はヘッドパイプ3に連結されている。メインフレーム9は、ダウンフレーム部7と、ロアフレーム部10と、立ち上がりフレーム部29と、シートレール部21とを備える。ロアフレーム部10の上方には、低床フロア8が形成されている。
【0022】
ダウンフレーム部7は、車体側面視で、ヘッドパイプ3から急傾斜をなして斜め下後方に延び、下端側で屈曲してロアフレーム部10の一端側に至る。ロアフレーム部10は、車体側面視で、一端側から低床フロア8の下方を通り略水平をなして後方に延び、低床フロア8の後方において後端側で屈曲して、立ち上がりフレーム部29の一端側に至る。立ち上がりフレーム部29は、車体側面視で、一端側から急傾斜をなして斜め上後方に立ち上がって延び、後端側で屈曲してシートレール部21の一端側に至る。シートレール部21は、車体側面視で、一端側から比較的緩傾斜をなして斜め上後方に延びる。
【0023】
左右一対のリヤフレーム24は、一端側がロアフレーム部10の後端側に連結されている。リヤフレーム24は、車体側面視で、一端側から略水平をなして後方に延び、途中で屈曲して立ち上がりフレーム部29と略平行をなして斜め上後方に延び、シートレール部21の一端側の近傍に連結されている。
【0024】
エンジンEは、シリンダブロック38の下面における車両の幅方向の両端部近傍に設けられるボス14において、リンク部材12,13および支持プレート11を介して、車体フレーム4に対して揺動可能に連結される。左右一対の支持プレート11は、立ち上がりフレーム部29の下方部分と、一対のリヤフレーム24の下方部分とに挟まれる位置に配置され、立ち上がりフレーム部29およびリヤフレーム24に固定される。リンク部材12,13は、左右一対の支持プレート11間を延びるクロス部(不図示)の両端が、左右一対のピボット軸によって、支持プレート11に軸支されている。
【0025】
エアクリーナ19は、パワーユニットPの後部を構成する動力伝達装置16の上部に配置され、クランクケース40および動力伝達装置16に連結される。シート26の下部に配置される収納ボックス25の後方には、燃料タンク20が配置される。動力伝達装置16の車幅方向左側には、キックスタータを構成するキックペダル99が配設されている。
【0026】
図2を参照して、エンジンEの内部には、吸気弁33および排気弁34、クランク軸41、ピストン71(
図3参照)を支持するコンロッド39等が収容される。シリンダヘッドカバー35はシリンダヘッド37の頭部(
図2では前端)を覆い、シリンダヘッド37は吸気弁33および排気弁34の動弁機構を支持する。シリンダヘッド37は、上面に形成された吸気口32と、下面に形成された排気口36とを備える。吸気口32には、燃料を噴射するインジェクタ28が設けられたインレットパイプ22が接続されており、インレットパイプ22の上流側に、連結パイプ23に連なる吸気通路30が接続されている。吸気通路30の流路面積を調整するスロットルバルブ31はアクチュエータ27によって駆動される。アクチュエータ27を収容するスロットル駆動装置42は、シリンダブロック38の上部に配設されている。
【0027】
図3は、パワーユニットPの断面図である。パワーユニットPは、単気筒水冷式のエンジンEと無段変速機を含む動力伝達装置16とを一体に構成して車体に揺動自在に軸支されるユニットスイング式とされる。エンジンEは、左右に2分割された左右クランクケース半体74,75が結合されてなるクランクケース40と、該クランクケース40に結合されるシリンダブロック38と、該シリンダブロック38に結合されるシリンダヘッド37と、該シリンダヘッド37に結合されるシリンダヘッドカバー35とを備える。シリンダブロック38は、前上がりにわずかに傾斜したシリンダ軸線を有するシリンダボア72が形成されており、このシリンダボア72にピストン71が摺動可能に嵌合される。クランクケース40には、車幅方向に指向するクランク軸41が回転自在に支承されており、クランク軸41にピストン71が連接される。
【0028】
シリンダブロック38およびシリンダヘッド37間には、ピストン71の頂部を臨ませる燃焼室70が形成されている。燃焼室70への吸気を制御する吸気弁33および燃焼室70からの排気を制御する排気弁34を開閉駆動する動弁装置50は、シリンダヘッド37に備わる。動弁装置50が備えるカムシャフト51は、クランク軸41と平行な軸線まわりに回転することを可能としてシリンダヘッド37に支承される。
【0029】
クランク軸41およびカムシャフト51間には、クランクケース40からシリンダヘッド37にわたって形成されるカムチェーン室57を通るカムチェーン53を含む調時伝動機構108が設けられ、この調時伝動機構108によってクランク軸41からの動力が1/2の減速比でカムシャフト51に伝達される。
【0030】
動力伝達装置16は、Vベルト式の無段変速機105と、該無段変速機105の出力を減速して後輪WRの車軸77に伝達する歯車減速機構79とを備える。無段変速機105および歯車減速機構79は、クランクケース40に連設されて後輪WRの左側方に延びる伝動ケース109内に収容される。
【0031】
伝動ケース109は、クランクケース40の左クランクケース半体75に一体に連なって後輪WRの左側方まで後方に延びるケース主体96と、ベルト式無段変速機105を収容する変速機室110をケース主体96との間に形成して該ケース主体96に外側から結合される外側カバーとしての伝動ケース109と、歯車減速機構79を収容する歯車室84をケース主体96の後部との間に形成して該ケース主体96の後部に内側から結合される内側カバー80とからなる。
【0032】
無段変速機105は、変速機室110内に突入されるクランク軸41の左端部ならびに後輪WRの車軸77に連結される伝動軸90間に設けられるようにして変速機室110に収容されるものであり、ベルト巻き掛け径を可変としてクランク軸41に設けられる駆動プーリ97と、伝動軸90に設けられる従動プーリ93と、駆動プーリ97および従動プーリ93に巻き掛けられる無端状のVベルト98とを備える。
【0033】
駆動プーリ97は、クランク軸41に固定された固定プーリ半体102と、固定プーリ半体102に対して近接・離間することを可能として固定プーリ半体102よりもクランクケース40側に配置される可動プーリ半体107とからなる。
【0034】
クランク軸41には、可動プーリ半体107に固定プーリ半体102とは反対側から対向するランププレート100が固定されており、このランププレート100および可動プーリ半体107間に複数のウエイトローラ101が配設される。これにより、クランク軸41とともに回転するランププレート100の回転速度が増大するのに応じてウエイトローラ101に作用する遠心力によって可動プーリ半体107が固定プーリ半体102に近接する側に押圧駆動され、駆動プーリ97のベルト巻き掛け半径が大きくなる。
【0035】
伝動ケース109には、キック軸103が回転自在に支承されており、該キック軸103の外端にキックペダル99が設けられる。また、伝動ケース109の内面側でキック軸103およびクランク軸41間には、キックペダル99の踏み込み操作に応じたキック軸103の回転動力をクランク軸41に伝達可能とするキックスタータ104が設けられる。キックスタータ104は、バッテリ201からの電力で作動するセルモータ207によってエンジンEのクランク軸41を回転させる始動手段を第1の始動手段(セルスタータ500)とすると、セルモータ207に電力を供給するバッテリ201によらずにエンジンEのクランク軸41を回転させる第2の始動手段の一形態である。
【0036】
キック軸103が回転すると、キック軸103の図示右端部に固定されるキックスピンドルギヤ
402が回動する。ヘリカルギヤであるキックスピンドルギヤ
402は、クランク軸41と同軸配置されるキックドリブンギヤ
401を図示右方向に摺動させながら回転させる。キックドリブンギヤ
401の右端部には、ラチェット機構の爪部が形成されており、一方、駆動プーリ105の固定プーリ半体102はラチェット機構を構成するラチェットプレート
410が設けられている。これにより、キック軸103の回転力が、ラチェット機構を介して固定プーリ半体102を支持するクランク軸41に伝達される。また、キック軸103は、リターンスプリング
403によって初期位置に戻るように付勢されており、キックペダル99の踏み込み力を解除するとキックペダル99が初期位置に戻る。
【0037】
駆動プーリ97における固定プーリ半体102の外面には、伝動ケース109内に冷却風を流通させる冷却ファンとして固定プーリ半体102を機能させるための複数のフィン106が設けられる。
【0038】
従動プーリ93は、伝動軸90を同軸に囲繞しつつ該伝動軸90に相対回転可能に支承される円筒状の内筒89に固定される固定プーリ半体95と、内筒89に対する軸方向相対移動および相対回動を可能とし、内筒89を同軸に囲繞する外筒91に固定されることで固定プーリ半体95に対する近接・離反を可能とした可動プーリ半体94とで構成され、固定プーリ半体95および可動プーリ半体94間にVベルト98が巻き掛けられる。
【0039】
可動プーリ半体94および固定プーリ半体95間の相対回転位相差に応じて両プーリ半体94,95間に軸方向の分力を作用せしめるトルクカム機構86が、内筒89および外筒91間に設けられ、可動プーリ半体94はコイルスプリング87によって固定プーリ半体95側に向けて弾発付勢される。固定プーリ半体95および伝動軸90間には、エンジン回転数が設定回転数を超えるのに伴って動力伝達状態となる遠心クラッチ92が設けられる。
【0040】
この構成により、従動プーリ93における固定プーリ半体95および可動プーリ半体94間の軸方向間隔は、トルクカム機構86によって生じる軸方向の力と、コイルスプリング87によって生じる軸方向の弾性力と、固定プーリ半体95および可動プーリ半体94間の間隔をあける方向に作用するVベルト98からの力とのバランスにより決定される。すなわち、駆動プーリ97において可動プーリ半体94を固定プーリ半体95に近接させることでVベルト98の駆動プーリ97への巻き掛け半径が大きくなると、Vベルト98の従動プーリ93への巻き掛け半径が小さくなる。
【0041】
後輪WRの車軸77の一端部は、内側カバー80を気密に貫通して歯車室84内に突入されており、この車軸77の一端部はケース主体96および内側カバー80で回転自在に支承され、伝動軸90および車軸77間に歯車減速機構79が設けられる。エンジンEのクランクケース40に連設されたスイングアーム76は、後輪WRの右側に配置されており、このスイングアーム76の後部に車軸77の他端部が回転自在に支承される。
【0042】
歯車減速機構79は、クランク軸41からの回転動力が伝達される伝動軸90に一体に設けられる駆動歯車78と、後輪WRの車軸77に設けられる被動歯車83と、該被動歯車83および駆動歯車78間に配設される第1および第2中間歯車82,85とを有し、ケース主体96および内側カバー80で両端部が回転自在に支承される中間歯車軸81に第1および第2中間歯車82,85が固設される。
【0043】
クランクケース40の右クランクケース半体74を回転自在に貫通するクランク軸41の右側端部にはアウターロータ68が固定され、該アウターロータ68とともにACジェネレータ69を構成するようにしてアウターロータ68で囲繞されるインナーステータ59が、右クランクケース半体74に締結される支持板73に固定される。
【0044】
クランクケース40の車幅方向右側には、外側方に向けて開口する冷却風導入口62を有するカバー部材64が配置されており、このカバー部材64は、ACジェネレータ69を囲む筒状のシュラウド67を介して右クランクケース半体74に支持される。また、冷却風導入口62からクランクケース40側に冷却風を吸入する冷却ファン66が、カバー部材
64で覆われるようにしてクランク軸41に連動、連結される。すなわち、冷却ファン66は、カバー部材64の車幅方向内方に位置するようにしてクランク軸41の右端部に固定される。本実施例において、ACジェネレータ69は、クランク軸41の回転により発電する発電機であると共に、エンジン停止時にバッテリ201からの電力で作動してエンジンEのクランク軸41を回転させるスタータモータ207を兼ね、第1の始動手段であるセルスタータ500の駆動部となるものである。
【0045】
冷却ファン66およびカバー部材64間には、該カバー部材64で覆われるようにしてラジエータ65が配置されており、このラジエータ65はシュラウド67で支持される。一方、シリンダヘッド37に設けられる動弁装置50が備えるカムシャフト51には、シリンダヘッド37の右側面に取付けられる冷却水ポンプ55のポンプ軸54が同軸にかつ相対回転不能に連結されており、冷却水ポンプ55はサーモスタット56を介してラジエータ65に接続される。
【0046】
カバー部材64には、複数の上下に延びる羽根板63と、冷却風導入口62の前部を閉じる遮蔽壁60とを有して冷却風導入口62に配置されるルーバ61が、前方に向かうにつれてラジエータ65に近づくようにして設けられる。
【0047】
図4は、スロットル駆動装置42の配置構成を示す側面図である。スロットルバルブ31を収容するスロットルボディ120は、ボディ本体121と、このボディ本体121を貫通して設けられ吸気通路30の一部を構成する吸気流通路122と、この吸気流通路122に配置されて吸気流通路122を開閉するスロットルバルブ31と、このスロットルバルブ31の開度を検出する開度センサ124と、スロットルバルブ31とアクチュエータ27との間に介在配置される減速機構Gと、アクチュエータ27の回転軸
130の回転角を検出する回転角センサ(不図示)とを備える。ボディ本体121は、スロットルバルブ31、開度センサ124、減速機構Gおよび回転角センサを収容するハウジングとして構成される。
【0048】
円板状のスロットルバルブ31は、吸気流通路122の延びる方向と直交する方向に延びる開閉軸123を有し、この開閉軸123を回転中心として回動する、いわゆるバタフライ弁とされる。スロットルバルブ31は、開閉軸123の先端側および基端側が軸受を介してボディ本体121に回動自在に支持されることで、開閉軸123を回転中心として回動可能に構成される。
【0049】
開度センサ124は、開閉軸123の一端側に配置されており、開閉軸123の回転角度を検出することによりスロットルバルブ31の開度を検出する。アクチュエータ27は、スロットルバルブ31を駆動するための回転出力を発生させる。モータケース131に収容されるアクチュエータ27は、円筒形の直流モータで構成される。アクチュエータ27の回転軸130の回転力は、減速機構Gを介して、スロットルバルブ31の開閉軸123に伝達される。
【0050】
アクチュエータ27の回転軸130は、スロットルバルブ31の開閉軸123と平行に配置されている。減速機構Gは、アクチュエータ27で発生した回転出力の回転数を減速させてスロットルバルブ31の開閉軸123に伝える。減速機構Gは、第1歯車129と、第2歯車128と、第3歯車127と、第2歯車128および第3歯車127を支持する回転軸126と、第4歯車125とからなる。
【0051】
第1歯車129は、アクチュエータ27の回転軸130に取り付けられている。第1歯車129は比較的小径の平歯車である。第2歯車128は、回転軸126に取り付けられている。回転軸126は、アクチュエータ27の回転軸130と、スロットルバルブ31の開閉軸123との中間においてそれらと平行に配置される。第1歯車129と噛み合う第2歯車128は、比較的大径の平歯車であり、第3歯車127は回転軸126に取り付けられた比較的小径の平歯車である。第4歯車125は、スロットルバルブ31の開閉軸123に取り付けられている。第4歯車125は比較的大径の半円の平歯車であり、第3歯車127と噛み合う。
【0052】
図5は、スロットル駆動装置42の内部構造を示す分解図である。また、
図6は
図5のVI−VI線断面図であり、
図7は吸気通路30の構成を示す断面図である。スロットル駆動装置42は、吸気通路30の一部である吸気流通路122を形成するスロットルボディ120と、スロットルボディ120に回動可能に支持されると共に吸気流通路122に配置されるスロットルバルブ31と、スロットルバルブ31を駆動する駆動部157と、駆動部157を収容するハウジングHとを備える。吸気流通路122は、スロットルバルブ31より上流側(エアクリーナ側)に位置する上流側通路122aと、スロットルバルブ31より下流側(エンジン側)に位置する下流側通路122bからなる。開閉軸123は、その両軸端部140,142でスロットルボディ120に軸受141を介して支持されている。
【0053】
スロットルボディ120には調整ねじ172が設けられる。調整ねじ172は、開閉軸123の軸端部142に取り付けられた伝達体171に当接し、戻しバネ149のバネ力を開閉軸123に伝達する度合いを調整することで、スロットルバルブ31の全閉位置を調整する。
【0054】
駆動部157は、スロットルボディ120に取り付けられるアクチュエータ27と、アクチュエータ27の駆動力をスロットルバルブ31に伝達する減速機構Gとを備える。アクチュエータ27は、本体部161と、該本体部161から突出する回転軸130とを有する。制御装置により制御されて回転軸130を回転駆動する本体部161は、スロットルボディ120に一体に設けられた駆動部収容室160内に、そのほぼ全体が収容される。
【0055】
制御装置は、運転者によるアクセル操作量をパラメータとして予め定められた基本設定開度が、エンジン回転数や車速等の運転状態により必要に応じて補正される設定開度となるように、開度センサ124で検出されるスロットルバルブ31の実際の開度に基づいて、スロットルバルブ31の開度を制御する。
【0056】
回転軸130は、減速機構Gと共に、スロットルボディ120の一側部に配置される。ハウジングHは、スロットルボディ120に一体に設けられたケース156と、ケース156により形成されるハウジング開口158を覆うようにケース156に結合されるカバー155とから構成される。ケース156およびカバー155により形成される収容室146には、アクチュエータ27および減速機構G、開度センサ124、戻しバネ149、伝達体171が収容される。
【0057】
図7を参照して、スロットルバルブ31は、戻しバネ149によって閉方向に付勢されているため、所定の開動作を行う際には常にアクチュエータ27への電力供給が必要となる。また、スライディングモード制御により駆動されるアクチュエータ27は、通常、エンジンEを始動するために車体の電源をオンにした際に、全閉位置の学習制御を含む初期化処理を実行するように構成されている。具体的には、車両の電源オンに伴って、戻しばねの付勢力によって全閉位置Aにあるスロットルバルブ31をエンジン始動開度Bより大きな初期化準備位置Cまで駆動する。次に、初期化準備位置Cで通電を止める、あるいは電圧を落とし、戻しばねの付勢力によって初期化準備位置Cから全閉位置Aに突き当てることで全閉位置Aに戻ることを確認して初期化処理を完了し、再び、エンジン始動開度Bまで駆動することで、エンジン始動に備えることとなる。なお、アクチュエータ27の駆動制御は、スライディングモードのようなフィードフォワード制御ではなく、PWM制御のようなフィードバック制御によるものとしてもよい。
【0058】
この初期化処理は、エンジン始動後の適切なエンジン制御のために実行することが好ましいものの、制御装置(ECU)を起動してアクチュエータ27を駆動すると共に、戻しばねで全閉方向に付勢されたスロットルバルブ31をエンジン始動開度Bに維持する必要があることから、エンジンEの始動前に車載バッテリの電力を消費することとなる。
【0059】
本願発明では、セルスタータとキックスタータの両方を備える車両において、バッテリ残量(充電残量)による出力Vが第1所定値未満である場合には、電子スロットル装置の初期化処理を行いつつセルスタータが作動せずに、キックスタータでの始動を促し、さらに、バッテリ残量による出力Vが第1所定値より小さい第2所定値未満である場合には、エンジンEの始動前の電子スロットル装置の初期化処理も行わないように設定しながらも、適切なエンジンEの始動と、始動後の駆動力の適切な制御を行う点に特徴がある。
【0060】
つまり、バッテリ残量が減少している領域の中においても、メインスイッチ205(
図8参照)がオンになると、まず電子スロットル装置へ、すなわち優先して、バッテリ201からの電力を供給して、電子スロットル装置の初期化を完了させる。そのときのバッテリ残量で、セルスタータが作動しない領域がある。この場合に、第2の始動装置(実施例ではキックスタータ)で始動を可能にする。さらに、バッテリ残量が極めて減少すると、電子スロットル装置の初期化を行わない領域がある。しかし、この場合でも、第2の始動装置での始動は許可する。ただし、この場合は、電子スロットル装置の初期化が完了していないので、エンジンの出力を回転数や車速で制限させ、必要最小の操向を可能としているものである。
【0061】
図8は、本実施形態に係る鞍乗型車両の制御装置200の全体構成を示すブロック図である。制御装置200は、自動二輪車1に搭載されるバッテリ201(例えば、定格電圧12V)と、スタータリレー210を介してバッテリ201に接続されるスタータモータ207と、クランク軸41と同期回転するACジェネレータ69と、ACジェネレータ69の発電電力を整流してバッテリ201および電力負荷に供給するレギュレータ203と、ACジェネレータ69の発電電力で作動する灯火器等の第3負荷202と、車両の電源をオンオフするメインスイッチ205と、制御部としてのECU300の駆動信号によりオンオフを切り替えるメインリレー206と、燃料噴射装置や点火装置および燃料ポンプを含むエンジン運転系の第1負荷211と、メータ装置内のインジケータ等からなる第2負荷212と、スタータモータ207を作動させるスタータスイッチ213と、ECU300からの駆動信号によりオンオフを切り替えるTBWリレー214と、スロットルバルブ31を駆動するアクチュエータ27とを含む。スタータモータ207、スタータリレー210およびバッテリ201は、セルスタータ500を構成する。
【0062】
ECU300には、第1駆動回路301、第2駆動回路303、第3駆動回路304を制御する制御手段302が含まれ、制御手段302に、所定量以上の電圧(ECU300の起動可能電圧)がかかったときにECU300が起動する。また、ECU300は、バッテリ201の電圧を検知して充電残量を認知する。第1駆動回路301は、スタータリレー210およびメインリレー206のオンオフの切り替えを実行する。第2駆動回路303は、第1負荷211および第2負荷212を駆動し、第3駆動回路304は、TBWリレー214およびアクチュエータ27を駆動する。第3駆動回路304とTBWリレー214およびアクチュエータ27は、電子スロットル装置(TBW)400を構成する。制御手段302には、クランク軸41に固定されたクランクパルスロータ208の回転状態を検知するパルス発生器209からの信号が入力される。
【0063】
本実施形態では、メインスイッチ205をオンに切り替えた際のバッテリ残量に応じて電力供給の態様を変更するように構成されている。その態様は、バッテリ残量によるバッテリの出力Vを検知して、(1)バッテリ出力Vが十分である場合、(2)バッテリ出力Vが、「第1所定値V1>バッテリ出力V≧第2所定値V2」である場合、(3)バッテリ出力Vが、「バッテリ出力V<第2所定値V2」である場合、の3パターンに区分される。ここで、バッテリ残量の領域でみると、第1所定値V1は、例えば、満充電の5〜40%での出力であり、第2所定値V2は満充電の5%未満の出力である(例えば、定格電圧12Vのバッテリにおいて、測定した電圧で、第1所定値V1を8〜11Vの間(例えば、9.5V)とし、第2所定値V2を5〜7Vの間(例えば、6V)で設定できる(電圧条件:外気温−10℃)。)。
【0064】
バッテリ残量が十分である場合、メインスイッチ205をオンにするとバッテリ201からの供給電力でECU300が起動する。これに伴い、ECU300の制御手段302がバッテリ201の残量を検知すると共に、第1駆動回路301によりメインリレー206をオンに切り替えられ、第2駆動回路303によって第2負荷212が駆動される。また、第3駆動回路304によってTBWリレー214がオンに切り替えられることで、電子スロットル装置400の初期化が実行される。そして、スタータスイッチ213の操作によってスタータモータ207を駆動するセルスタータ始動、または、キックペダル99を踏み下ろすことによるキックスタータ始動のいずれでもエンジン始動が可能な状態となる。エンジンEが始動すると、ACジェネレータ69の発電電力によって第3負荷202にも電力が供給されることとなる。
【0065】
次に、バッテリ出力Vが第2所定値V2以上かつ第1所定値V1未満である場合は、アクチュエータ27の初期化処理や第2負荷212の駆動は同様に実行されるものの、セルスタータが始動できずキックスタータ始動を促すように設定されている。詳しくは、メインスイッチ205をオンにするとバッテリ201からの供給電力によりECU300が起動し、制御手段302がバッテリ201の残量を検知すると共に、第1駆動回路301によりメインリレー206をオンに切り替え、第2駆動回路303によって第2負荷212が駆動される。
【0066】
このとき、制御手段302は、バッテリ出力Vが第2所定値V2以上かつ第1所定値V1未満であることを検知して、スタータスイッチ213の操作があっても、スタータリレー210をオンに切り替えないように設定されている。これにより、スタータモータ207が駆動されてバッテリ201に負荷がかかることを防ぐと共に、アクチュエータ27を駆動してTBW400の初期化処理を行うことで、キックスタータ104による良好な始動性および始動後の適切なエンジン運転を確保することが可能となる。ここで、第1所定値V1を、スタータモータの駆動可能となる出力限界値に設定してもよい。この場合、制御手段302の制御によらず、バッテリ201の充電残量により、バッテリ201の出力Vが第1所定値V1未満であるとセルスタータ500が作動しないことから、キックスタータ104が選択され、良好な始動性および始動後のエンジン運転を確保することは可能である。
【0067】
制御手段302の制御によってセルスタータ500を作動させない場合には、バッテリ出力Vが少ないためにキックスタータ104での始動を推奨することをインジケータ等で報知してもよい。また、バッテリ出力Vに応じてスタータモータ207の駆動を禁止することに加えて、第2負荷212の駆動も禁止するように構成してもよい。
【0068】
そして、バッテリ出力Vが第2所定値V2未満である場合は、メインスイッチ205をオンにしてバッテリ201からECU300に電力が供給されても、ECU300の起動可能電圧が得られないためECU300が起動しない(すなわち、第2所定値V2は、ECU300の起動可能電圧に対応する値とされている)。この場合、ECU300が起動しないため、メインリレー206もオンにならず、第2負荷212に電力が供給されることもない。さらに、アクチュエータ27の初期化処理も行われないこととなる。
【0069】
このとき、運転者は、メインスイッチ205をオンにしてもインジケータ等が点灯せず、スタータスイッチ213を操作してもスタータモータ207が駆動しないため、必然的にキックスタータ104でエンジンEを始動することとなる。キックスタータ104でエンジンEを始動した場合には、ACジェネレータ69の発電電力によってECU300に供給される電力が起動可能電圧に到達した時点でECU300が起動する。
【0070】
ECU300は、クランクパルサに基づいてクランク軸41の回転状態を検知できるため、ECU300の起動時にクランク軸41が停止していればバッテリ201からの供給電力で起動したと判定し、一方、その起動時にクランク軸41が所定回転数以上で回転していた場合は、バッテリ出力Vが第2所定値V2未満の状態でキックスタータ104によってエンジンEが始動されたと判定することができる。
【0071】
そして、ECU300は、バッテリ出力Vが第2所定値V2未満の状態でキックスタータ104により始動したと判定した場合には、アクチュエータ27の初期化処理が完了していない状態であると判定して、エンジン始動後にエンジン回転数およびまたは車速が上限値を超えないように制限する出力制御を実行する。これにより、アクチュエータ27の初期化処理が完了していない状態、すなわち、スロットルバルブ31の実開度が制御値と異なる可能性のある状態でエンジンEの運転が継続されないように規制する。このエンジンEの出力制限制御が実行中であることは、エンジン始動後に、メータ装置等に設けられたインジケータのほか、ワーニング音を発するスピーカ、バイブレータ等のハプティックデバイス等からなる報知手段305によって運転者に知らせることができる。
【0072】
なお、バッテリ出力Vの大小に関わらず、キックスタータでの始動時には、ACジェネレータ69による発電電力をバッテリ201に供給せず、エンジン運転系の第1負荷211に集中させることでエンジンEの始動性を向上させるように設定することができる。
【0073】
以下、
図9〜12のフローチャートを参照して、本実施形態に係るエンジン始動時制御の手順を説明する。
図9は、エンジン始動時制御の手順を示すメインフローチャートである。ステップS1でメインスイッチ205がオンにされると、ステップS2に進んで、エンジン始動モード判別が実行される。ステップS2においてエンジン始動モード判別が完了すると、ステップS3ではエンジン制御判別が実行される。
【0074】
図10は、エンジン始動モード判別の手順を示すサブフローチャートである。
図9のステップS2のエンジン始動モード判別は、以下のように行われる。ステップS10では、バッテリ出力Vが第1所定値V1以上であるか否かが判定される。ステップS10で肯定判定されるとステップS11に進んで、TBW(電子スロットル装置)400の初期化処理が実行される。続くステップS12では、セルスタータ500またはキックスタータ104が作動したか否かが判定される。ステップS12で肯定判定されるとステップS13に進んで、セルスタータ500およびキックスタータ104による始動許可が行われ、ステップS14において、エンジン始動モードがセルスタータモードに設定される。このセルスタータモードは、セルスタータ500およびキックスタータ104のいずれでもエンジンEの始動を可能とするモードとされる。
【0075】
ステップS10で否定判定されると、ステップS15に進み、バッテリ出力Vが第2所定値V2以上であるか否かが判定される。ステップS15で肯定判定される、すなわち、バッテリ出力Vが第2所定値以上かつ第1所定値V1未満である場合には、ステップS16に進んでTBW400の初期化処理が実行される。続くステップS17では、キックスタータ104が作動したか否かが判定される。ステップS17で肯定判定されるとステップS18に進んで、キックスタータ104による始動許可が行われ、ステップS19において、エンジン始動モードがキックスタータモードに設定される。このキックスタータモードは、キックスタータ104でのエンジン始動のみを可能とするモードであり、セルスタータ500の駆動は禁止されることとなる。
【0076】
そして、ステップS15で否定判定される、すなわち、バッテリ出力Vが第2所定値V2未満であると判定されると、TBW400の初期化処理を行うことなくステップS20に進んで、キックスタータ104が作動したか否かが判定される。ステップS20で肯定判定されるとステップS21に進んで、キックスタータ104による始動許可が行われ、ステップS22において、エンジン始動モードがリンプホームモードに設定される。
【0077】
なお、バッテリ出力Vが第2所定値V2未満である場合、バッテリ出力Vの検知やエンジン始動モード判別等の処理は、キックスタータ104の操作に伴って回転するACジェネレータの発電電力によってECU300が起動した直後に実行されることとなる。また、バッテリ出力Vが第2所定値V2以上で、TBW400の初期化処理を実行する場合には、初期化処理の完了後に第1負荷211の作動が可能となるが、バッテリ出力Vが第2所定値V2未満の場合は、ECU300が起動すれば第1負荷211が作動可能となるように設定されている。
【0078】
また、自動二輪車1には、信号待ち等の一時停止時にエンジンEを停止して燃料消費を低減するすると共に発進操作に伴ってセルスタータ500でエンジンEを再始動するアイドルストップ制御を適用できるが、バッテリ出力Vが少ない場合はアイドルストップ制御の実行が禁止されるように設定することができる。例えば、その設定を、前述の第1所定値V1あるいは第1所定値V1と第2所定値V2の間の所定のバッテリ出力値として、これより少ない場合にアイドルストップ制御の実行を禁止するものとしてもよい。
【0079】
図11は、エンジン制御選択の手順を示すサブフローチャートである。
図9のステップS3のエンジン制御選択は、以下のように行われる。ステップS30では、エンジン始動モードがリンプホームモードであるか否かが判定される。ステップS30で肯定判定されると、ステップS31に進んで、リンプホームモード用エンジン制御許可が行われる。一方、ステップS30で否定判定される、すなわち、エンジン始動モードがセルスタータモードまたはキックスタータモードである場合には、ステップS32で通常エンジン制御許可が行われて、一連の制御を終了する。
【0080】
図12は、リンプホームモード用エンジン制御許可の手順を示すサブフローチャートである。
図11のステップS31のリンプホームモード用エンジン制御許可は、以下のように行われる。ステップS40では、TBW400が初期化処理なしで所定開度まで強制開動作され、続くステップS41では、通常エンジン制御許可が行われる。そして、ステップS42では、エンジン回転数が制限開始値以上であるか、または、車速が制限開始値以上であるか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS43において、エンジン回転数または車速が上限値未満となるようにエンジンEの出力が制限される。この出力制限は、点火制御、燃料噴射制御、スロットルバルブの開度制限等で実行することができる。
【0081】
ステップS44では、メインスイッチ204がオフにされたか否かが判定され、肯定判定されるとそのまま一連の制御を終了し、一方、否定判定されるとステップS41に戻る。すなわち、エンジン始動時にリンプホームモードに設定された場合は、メインスイッチ204をオフにするまでリンプホームモードによる出力制限が継続されることとなる。
【0082】
上記したように、本願発明に係る鞍乗型車両によれば、セルスタータ500とキックスタータ104と、電子スロットル装置400と、バッテリ201の充電残量に応じてバッテリ201からの電力供給の態様を変更するECU300とを有する自動二輪車1において、制御部300がエンジンEの始動時にセルスタータ500への電力供給より電子スロットル装置400への電力供給を優先させ、アクチュエータ27を駆動して電子スロットル装置400の初期化処理を行うので、バッテリ201の充電残量が低下している場合でも電子スロットル装置400の初期化処理を実行することが可能となる。これにより、エンジンEの良好な始動性およびエンジン始動後の適切な駆動を確保することができる。また、ECU300は、エンジンEの始動時にバッテリ201の充電残量が第1所定値V1未満であると、セルスタータ500への電力供給を禁止する制御を実行するので、バッテリ201の充電残量が第1所定値V1未満である場合には、強制的にセルスタータ500の作動を禁止して、キックスタータ104での始動を運転者に促すことができる。これにより、セルスタータ500の駆動による電力消費を防ぐと共に、電子スロットル装置400の初期化処理を行って、キックスタータ104による良好な始動性およびエンジン始動後の適切な駆動を確保することができる。
【0083】
なお、自動二輪車の形態、キックスタータやセルスタータの形状や構造、第1負荷、第2負荷、第3負荷の具体的構成、電子スロットル装置の構造や形態、バッテリの形態や容量、第1所定値および第2所定値の設定値等は、上記実施形態に限られず、種々の変更が可能である。例えば、エンジン始動時にエンジン始動モードがキックスタータモードに決定された場合であっても、エンジンの始動後のACジェネレータの発電電力によってバッテリ出力Vが第1所定値V1以上となることで、走行中にセルスタータモードに移行して、禁止されていたアイドルストップ制御の実行を許可することが可能である。
【0084】
また、エンジン始動時にリンプホームモードに決定された場合であっても、バッテリ出力Vが第1所定値V1以上となることで、アイドルストップ制御の実行を許可することができる。この場合、アイドルストップ制御によるエンジン一時停止後の再始動時に、電子スロットル装置の初期化処理を実行してエンジン始動モードをセルスタータモードに移行することができる。
【0085】
さらに、エンジン始動時にリンプホームモードに決定された場合であっても、バッテリ出力Vが第2所定値以上かつ第1所定値V1未満となることで、アイドルストップ制御の実行を許可することができる。この場合は、アイドルストップ制御によるエンジン一時停止後の再始動をキックスタータで行うこととなるが、電子スロットル装置の初期化を実行して、エンジン始動モードをキックスタータモードに切り替えることが可能となる。リンプホームモードから他のモードに移行した場合は、リンプホームモードであることを乗員に知らせる報知手段305を非作動に切り替えることができる。なお、前記した第1所定値V1および第2所定値V2は、充電量そのものを測定するものでもよい。
【0086】
本発明に係る鞍乗型車両の制御の態様は、上記実施形態ではベルト式の変速機を持つスクータのエンジンに適用した例を示したが、これに限られず、他のモータサイクル型等の自動二輪車のほか、セルスタータとキックスタータの両方を備える三輪や四輪等の鞍乗型車両に適用することが可能である。また、第2の始動手段は、キックスタータに限られず、例えば、リコイルやゼンマイを用いた始動装置、あるいは、セルスタータを回すメインバッテリとは別の補助バッテリやキャパシタによる電力を用いてクランク軸を回すものであってもよい。