(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本開示の一実施形態について説明する。
本実施形態に係る浸炭装置Aは、
図1に示すように、炉体1、断熱容器2、炉床3、複数のヒータユニット4、上電極部5、上アース部6、下電極部7、下アース部8、浸炭ガス管9、排気管10、空気供給部11、ガス回収部12、浸炭ガス供給部13及び冷却液供給部14等を備えている。なお、これら構成要素のうち、上電極部5、上アース部6、下電極部7及び下アース部8は、本開示の支持部に相当する。
【0014】
浸炭装置Aは、浸炭室Pに収容された被処理物Xに浸炭処理を施す。すなわち、浸炭装置Aは、被処理物Xを1000℃近い温度まで加熱すると共に浸炭室Pを浸炭ガス雰囲気とすることによって被処理物Xの表面に炭素(炭素原子)を浸入させ、以って所定深さの浸炭層を形成する。なお、浸炭装置Aの処理対象である被処理物Xは、浸炭層によって表面硬度が上昇する金属部品である。
【0015】
炉体1は、略直方体形状の本体容器(金属製容器)であり、一側面(
図1における手前側の面)に開閉ドア(図示略)が設けられている。炉体1は、電気的に接地(アース)されている。断熱容器2は、炉体1内に設けられた略直方体形状の断熱性を有する容器であり、所定の断熱材(例えばセラミックス材)から形成されている。断熱容器2の内部空間(略直方体空間)は、被処理物Xを収容する浸炭室Pである。炉床3は、被処理物Xが載置される載置台であり、断熱容器2の内側かつ下部に備えられている。炉床3は、アルミナ等のセラミックス材(断熱材)から形成されている。
【0016】
また、上述した開閉ドアの内側には、断熱容器2の一側面を形成する断熱板が設けられている。すなわち、断熱容器2は、開閉ドアの内側に設けられた開閉自在な断熱板と固定設置された5つの断熱板とから構成されている。浸炭装置Aでは、
図1の手前側に設けられた開閉ドアを開けることにより被処理物Xを浸炭室Pに収容する。
【0017】
ここで、
図1における左右方向は浸炭装置Aつまり炉体1及び断熱容器2の幅方向であり、
図1における上下方向は浸炭装置Aの高さ方向であり、また
図1における左右方向及び上下方向に直交する方向は浸炭装置Aの奥行方向である。
【0018】
複数のヒータユニット4は、所定長さを有すると共に水平方向に延在する棒状部材であり、被処理物Xを鉛直方向に挟むように上下に配置されている。すなわち、複数のヒータユニット4は、
図1に示すように軸線方向を浸炭装置A(炉体1及び断熱容器2)の幅方向とした姿勢で断熱容器2内の上部及び下部に備えられている。ヒータユニット4は、
図2A、2B及び
図3A、3Bに示されているように、浸炭装置A(炉体1及び断熱容器2)の奥行方向に所定間隔を空けて設けられている。
【0019】
また、ヒータユニット4は、
図2A、2Bに示すように断熱容器2内の上部(浸炭室Pの上部)の奥行き方向に7本設けられ、また
図3A、3Bに示すように断熱容器2内の下部の奥行き方向に同じく7本設けられている。すなわち、複数のヒータユニット4は、被処理物Xを挟むように上下2段に設けられている。
【0020】
浸炭室Pの上部に設けられた7本のヒータユニット4は、上部ヒータユニット4Aである。上部ヒータユニット4Aは、第1端(左端)が上電極部5によって支持され、第2端(右端)が上アース部6によって支持されている。浸炭室Pの下部に設けられた7本のヒータユニット4は、下部ヒータユニット4Bである。下部ヒータユニット4Bは、第1端(左端)が下電極部7によって支持され、第2端(右端)が下アース部8によって支持されている。
【0021】
ヒータユニット4(上部ヒータユニット4A及び下部ヒータユニット4B)は、各々にヒータ本体4a及び保護管4bを備えている。ヒータ本体4aは、上電極部5あるいは下電極部7側に位置する第1端が電源に接続され、また上アース部6あるいは下アース部8側に位置する第2端が接地されている。ヒータ本体4aは、電源から第1端への通電によって発熱する円柱状の電気ヒータ(抵抗発熱体)であり、例えばセラミックス製のセラミックスヒータあるいはグラファイト製のグラファイトヒータである。なお、ヒータ本体4aは本開示のヒータに相当し、保護管4bは本開示の保護部材に相当する。
【0022】
保護管4bは、ヒータ本体4aの直径よりも大きな内径を有するセラミックス製の円管状部材(直管)であり、ヒータ本体4aを覆うように設けられている。保護管4bの内面とヒータ本体4aの表面とは、同心状かつ所定間隔を空けて互いに平行に対峙する円環状面と円柱状面とである。なお、詳細については後述するが、保護管4bの内面とヒータ本体4aの表面との隙間には、バーンアウト用の圧縮空気Kが流通する。
【0023】
上電極部5は、上部ヒータユニット4Aの第1端(左端)を機械的に支持する構造体である。上電極部5は、
図1及び
図2A、2Bに示すように炉体1の左上部に、7つの上部ヒータユニット4Aの第1端(左端)を全体として覆うように設けられている。上電極部5は、囲い部材5a、第1プレート5b、第2プレート5c、7つの支持プレート5d及び7つの受部材5e等を備えている。
【0024】
囲い部材5aは、第1面(右側面)が解放された略直方体状の金属部材である。囲い部材5aは、7つの上部ヒータユニット4Aの第1端(左端)を全体として囲むように炉体1の左上部に設けられている。第1プレート5bは、保護管4bが挿通する開口(丸穴)が形成され、囲い部材5aの第1面を密閉するように設けられた金属板である。第1プレート5bの周縁は囲い部材5aの第1面を密閉するように囲い部材5aに溶接固定され、第1プレート5bの開口の周縁は保護管4bに全周溶接されている。
【0025】
第2プレート5cは、第1プレート5bと同様に保護管4bが挿通する開口(丸穴)が形成され、囲い部材5aの内部に第1プレート5bと所定距離を隔てて互いに平行に対峙するように設けられた金属板である。第2プレート5cの周縁は囲い部材5aに溶接固定され、第2プレート5cの開口の周縁は保護管4bに全周溶接されている。
【0026】
すなわち、囲い部材5a、保護管4b、第1プレート5b及び第2プレート5cによって囲まれた空間は、冷却液Rが流れる冷媒流路5f(密閉空間)を形成している。また、囲い部材5aと第2プレート5cとによって囲まれた空間は、略密閉空間であり、空気供給部11からバーンアウト用の圧縮空気Kが供給される空気供給室S1である。
【0027】
7つの支持プレート5dは、各上部ヒータユニット4Aつまり上部ヒータユニット4Aの各ヒータ本体4aに対応して設けられている。支持プレート5dは、第2プレート5cの外側面(左面)に垂直姿勢で溶接固定される第1面と、第1面に直交する第2面(水平面)とを有する屈曲板(L字状金属板)である。支持プレート5dの第2面(水平面)上には、受部材5eがそれぞれ設置されている。すなわち、支持プレート5dの第2面(水平面)は、受部材5eの設置面である。
【0028】
受部材5eは、上部ヒータユニット4Aの各ヒータ本体4aに対応して設けられている絶縁部材である。受部材5eは、上部ヒータユニット4Aの各ヒータ本体4aの第1端(左端)に当接することにより各ヒータ本体4aの荷重を受ける。受部材5eは、
図2Aに示すように上部にV字状の溝が形成された略直方体状の成形体であり、このV字状の溝に上部ヒータユニット4Aの各ヒータ本体4aの第1端(左端)が係合した状態で載置されている。すなわち、各ヒータ本体4aの第1端(左端)は、上電極部5によって炉体1に支持されている。
【0029】
上アース部6は、上部ヒータユニット4Aの第2端(右端)を支持する構造体である。上アース部6は、
図1に示すように炉体1の右上部に、7つの上部ヒータユニット4Aの第2端(右端)を全体として覆うように設けられている。上アース部6は、囲い部材6a、第1プレート6b、第2プレート6c、7つの支持プレート6d及び7つの受部材6e等を備えている。
【0030】
囲い部材6aは、第1面(左側面)が解放された略直方体状の金属部材である。囲い部材6aは、7つの上部ヒータユニット4Aの第2端(右端)を全体として囲むように炉体1の右上部に設けられている。第1プレート6bは、保護管4bが挿通する開口(丸穴)が形成され、囲い部材6aの第1面を密閉するように設けられた金属板である。第1プレート6bの周縁は囲い部材6aの第1面を密閉するように囲い部材6aに溶接固定され、第1プレート6bの開口の周縁は保護管4bに全周溶接されている。
【0031】
第2プレート6cは、保護管4bが挿通する開口(丸穴)が形成され、囲い部材6aの内部に第1プレート6bと所定距離を隔てて互いに平行に対峙するように設けられた金属板である。第2プレート6cの周縁は囲い部材6aに溶接固定され、第2プレート6cの開口の周縁は保護管4bに全周溶接されている。
【0032】
すなわち、囲い部材6a、保護管4b、第1プレート6b及び第2プレート6cによって囲まれた空間は、冷却液Rが流れる冷媒流路6f(密閉空間)を形成している。また、囲い部材6aと第2プレート6cとによって囲まれた空間は、略密閉空間であり、合計7つ存在する保護管4bとヒータ本体4aとの各隙間からバーンアウトガスを回収するガス回収室C1である。
【0033】
7つの支持プレート6dは、各上部ヒータユニット4Aつまり上部ヒータユニット4Aの各ヒータ本体4aに対応して設けられている。支持プレート6dは、第2プレート6cの外側面(右面)に垂直姿勢で固定される第1面と、第1面に直交する第2面(水平面)とを有する屈曲板(L字状板材)である。支持プレート6dの第2面(水平面)上には、受部材6eがそれぞれ載置されている。すなわち、支持プレート6dの第2面(水平面)は、受部材6eの設置面である。
【0034】
受部材6eは、上部ヒータユニット4Aの各ヒータ本体4aに対応して設けられている絶縁材である。受部材6eは、上部ヒータユニット4Aの各ヒータ本体4aの第2端(右端)に当接することにより各ヒータ本体4aの荷重を受ける。受部材6eは、受部材5eと同様に、上部にV字状の溝が形成された略直方体状の成形体であり、このV字状の溝に上部ヒータユニット4Aの各ヒータ本体4aの第2端(右端)が係合した状態で載置されている。すなわち、各ヒータ本体4aの第2端(右端)は、上アース部6によって炉体1に支持されている。
【0035】
下電極部7は、下部ヒータユニット4Bの第1端(左端)を支持する構造体である。下電極部7は、
図1及び
図3A、3Bに示すように炉体1の左下部に、7つの下部ヒータユニット4Bの第1端(左端)を全体として覆うように設けられている。下電極部7は、囲い部材7a、第1プレート7b、第2プレート7c、7つの支持プレート7d及び7つの受部材7e等を備えている。
【0036】
囲い部材7aは、第1面(右側面)が解放された略直方体状の金属部材である。囲い部材7aは、7つの下部ヒータユニット4Bの第1端(左端)を全体として囲むように炉体1の左下部に設けられている。第1プレート7bは、保護管4bが挿通する開口(丸穴)が形成され、囲い部材7aの第1面を密閉するように設けられた金属板である。第1プレート7bの周縁は囲い部材7aの第1面を密閉するように囲い部材7aに溶接固定され、第1プレート7bの開口の周縁は保護管4bに全周溶接されている。
【0037】
第2プレート7cは、第1プレート7bと同様に保護管4bが挿通する開口(丸穴)が形成され、囲い部材7aの内部に第1プレート7bと所定距離を隔てて互いに平行に対峙するように設けられた金属板である。第2プレート7cの周縁は囲い部材7aに溶接固定され、第2プレート7cの開口の周縁は保護管4bに全周溶接されている。
【0038】
すなわち、囲い部材7a、保護管4b、第1プレート7b及び第2プレート7cによって囲まれた空間は、冷却液Rが流れる冷媒流路7f(密閉空間)を形成している。また、囲い部材7aと第2プレート7cとによって囲まれた空間は、略密閉空間であり、空気供給部11からバーンアウト用の圧縮空気Kが供給される空気供給室S2である。
【0039】
7つの支持プレート7dは、各下部ヒータユニット4Bつまり下部ヒータユニット4Bの各ヒータ本体4aに対応して設けられている。支持プレート7dは、第2プレート7cの外側面(左面)に垂直姿勢で溶接固定される第1面と、第1面に直交する第2面(水平面)とを有する屈曲板(L字状金属板)である。支持プレート7dの第2面(水平面)上には、受部材7eがそれぞれ設置されている。すなわち、支持プレート7dの第2面(水平面)は、受部材7eの設置面である。
【0040】
受部材7eは、下部ヒータユニット4Bの各ヒータ本体4aに対応して設けられている絶縁部材である。受部材7eは、下部ヒータユニット4Bの各ヒータ本体4aの第1端(左端)に当接することにより各ヒータ本体4aの荷重を受ける。受部材7eは、
図3Aに示すように上部にV字状の溝が形成された略直方体状の成形体であり、このV字状の溝に下部ヒータユニット4Bの各ヒータ本体4aの第1端(左端)が係合した状態で載置されている。すなわち、各ヒータ本体4aの第1端(左端)は、下電極部7によって炉体1に支持されている。
【0041】
下アース部8は、下部ヒータユニット4Bの第2端(右端)を支持する構造体である。下アース部8は、
図1に示すように炉体1の右下部に、7つの下部ヒータユニット4Bの第2端(右端)を全体として覆うように設けられている。下アース部8は、囲い部材8a、第1プレート8b、第2プレート8c、7つの支持プレート8d及び7つの受部材8e等を備えている。
【0042】
囲い部材8aは、第1面(左側面)が解放された略直方体状の金属部材である。囲い部材8aは、7つの下部ヒータユニット4Bの第2端(右端)を全体として囲むように炉体1の右下部に設けられている。第1プレート8bは、保護管4bが挿通する開口(丸穴)が形成され、囲い部材8aの第1面を密閉するように設けられた金属板である。第1プレート8bの周縁は囲い部材8aの第1面を密閉するように囲い部材8aに溶接固定され、第1プレート8bの開口の周縁は保護管4bに全周溶接されている。
【0043】
第2プレート8cは、保護管4bが挿通する開口(丸穴)が形成され、囲い部材8aの内部に第1プレート8bと所定距離を隔てて互いに平行に対峙するように設けられた金属板である。第2プレート8cの周縁は囲い部材8aに溶接固定され、第2プレート8cの開口の周縁は保護管4bに全周溶接されている。
【0044】
すなわち、囲い部材8a、保護管4b、第1プレート8b及び第2プレート8cによって囲まれた空間は、冷却液Rが流れる冷媒流路8f(密閉空間)を形成している。また、囲い部材8aと第2プレート8cとによって囲まれた空間は、略密閉空間であり、合計7つ存在する保護管4bとヒータ本体4aとの各隙間からバーンアウトガスを回収するガス回収室C2である。
【0045】
7つの支持プレート8dは、各下部ヒータユニット4Bつまり下部ヒータユニット4Bの各ヒータ本体4aに対応して設けられている。支持プレート8dは、第2プレート8cの外側面(右面)に垂直姿勢で固定される第1面と、第1面に直交する第2面(水平面)と、を有する屈曲板(L字状板材)である。支持プレート8dの第2面(水平面)上には、受部材8eがそれぞれ載置されている。すなわち、支持プレート8dの第2面(水平面)は、受部材8eの設置面である。
【0046】
受部材8eは、下部ヒータユニット4Bの各ヒータ本体4aに対応して設けられる絶縁材である。受部材8eは、下部ヒータユニット4Bの各ヒータ本体4aの第2端(右端)に当接することにより各ヒータ本体4aの荷重を受ける。受部材8eは、受部材7eと同様に、上部にV字状の溝が形成された略直方体状の成形体であり、このV字状の溝に下部ヒータユニット4Bの各ヒータ本体4aの第2端(右端)が係合した状態で載置されている。すなわち、各ヒータ本体4aの第2端(右端)は、下アース部8によって炉体1に支持されている。
【0047】
浸炭ガス管9は、浸炭ガスを浸炭室P内に導入するための管状部材である。浸炭ガス管9の先端が浸炭室P内に開口し、浸炭ガス管9の後端が浸炭ガス供給部13に連通する。浸炭ガス管9は、浸炭ガス供給部13から供給された所定流量の浸炭ガスを浸炭室Pに吐出する。排気管10は、一端が浸炭室Pに開口し、他端が排気装置(図示略)に接続された管状部材である。排気管10は、浸炭室P内のガス(浸炭ガスや浸炭ガスが熱分解した熱分解ガス等)を排気装置(真空ポンプ)を介して外部に排気する。
【0048】
空気供給部11は、2つの空気供給室S1,S2に接続されており、各空気供給室S1,S2にバーンアウト用の圧縮空気Kを供給する。なお、圧縮空気Kは、常圧以上の所定圧に加圧された空気である。ガス回収部12は、2つのガス回収室C1,C2に接続されており、ガス回収室C1,C2からバーンアウトガスを回収する。バーンアウトガスは、圧縮空気Kに加え、圧縮空気Kの一部が保護管4bの内面とヒータ本体4aの表面との隙間に堆積している煤と化学反応して生成される二酸化炭素等を含む混合ガスである。浸炭ガス供給部13は、浸炭ガス管9を介して浸炭室Pに浸炭ガスを供給する。浸炭ガスは、例えばアセチレンガス(C
2H
2)である。
【0049】
冷却液供給部14は、上電極部5、上アース部6、下電極部7及び下アース部8の各冷媒流路5f、6f、7f、8fに冷却液Rを供給する。冷却液Rは、例えば水(冷却水)である。例えば、冷却液供給部14は、各冷媒流路5f、6f、7f、8fの第1端に冷却液Rを供給すると共に各冷媒流路5f、6f、7f、8fの第2端から冷却液Rを回収し、冷却液Rを熱交換等によって冷却してから各冷媒流路5f、6f、7f、8fの第1端に供給させる冷媒巡回型の冷却装置である。
【0050】
冷却液供給部14は、少なくとも各段毎、つまり上部ヒータユニット4A及び下部ヒータユニット4B毎に冷却液Rの流量を調節する機能を有する。すなわち、上部ヒータユニット4Aと下部ヒータユニット4Bとでは、炉体1における上下の構造の相違等に起因して、ヒータ本体4aの発熱量(通電量)を異ならせる場合がある。
【0051】
例えば、炉体1の下部には比較的熱容量の大きな炉床3が設けられるため、炉体1の下部は上部と異なり、昇温し難い傾向にある。この点を考慮すると、下部ヒータユニット4Bの各ヒータ本体4aへの通電量を上部ヒータユニット4Aの各ヒータ本体4aへの通電量を大きく設定することにより、炉体1の下部と上部とを均等な温度に設定する必要が発生する。この場合に、下部ヒータユニット4Bの各ヒータ本体4aの発熱量は、上部ヒータユニット4Aの各ヒータ本体4aの発熱量よりも大きくなるので、各ヒータ本体4aの冷却能力を上部よりも下部の方を高める必要がある。
【0052】
次に、本実施形態に係る浸炭装置Aの動作について詳しく説明する。
浸炭装置Aを用いて被処理物Xに浸炭処理を施す場合、被処理物Xは炉体1に備えられた開閉ドアを開放することにより、浸炭室Pに収容されて炉床3上に載置される。そして、開閉ドアが閉鎖されることによって、浸炭室Pは密閉状態となる。この状態で真空ポンプが作動することによって浸炭室Pは所定の減圧雰囲気に設定される。
【0053】
また、真空ポンプによる浸炭室Pの真空引きに並行して、加熱用電源から各ヒータユニット4(上部ヒータユニット4A及び下部ヒータユニット4B)の各ヒータ本体4aに電力が供給されることにより、浸炭室Pが所定温度(浸炭温度)まで加熱される。そして、浸炭室Pが所定時間(浸炭時間)に亘って浸炭温度に維持され、この間に浸炭ガス供給部13が作動して浸炭ガス管9から浸炭室Pに所定流量の浸炭ガスが連続的あるいは間欠的に供給される。
【0054】
この結果、浸炭ガスに由来する炭素原子が被処理物Xの表面から内部に浸入し、被処理物Xの表面から所定深さ(浸炭深さ)に亘る浸炭層が形成される。すなわち、浸炭室Pでは、浸炭ガスが熱分解することにより炭素原子と熱分解ガスが生成され、この熱分解によって生成された炭素原子(炭素)の一部が被処理物Xに浸入して浸炭層を形成する。
【0055】
そして、熱分解によって生成された熱分解ガス及び浸炭ガスの一部は、排気管10から外部に排気される。例えば、浸炭ガスがアセチレン(C
2H
2)の場合、熱分解ガスとして水素ガス(H
2)が生成され、水素ガス(H
2)は排気管10を介して浸炭室Pから排気される。
【0056】
浸炭装置Aでは、このような被処理物Xへの浸炭層の形成(浸炭処理)と並行して冷却液供給部14が作動することにより、上電極部5、上アース部6、下電極部7及び下アース部8の各冷媒流路5f、6f、7f、8fに冷却液Rが供給される。この結果、各ヒータ本体4aの両端近傍部位は、冷却液Rによって間接的に冷却される。すなわち、各ヒータ本体4aの両端部を直接支持する各受部材5e、6e、7e、8eが熱伝導性に優れた金属部材である各第2プレート5c、6c、7c、8c及び各支持プレート5d、6d、7d、8dを介して冷却液Rと間接的に熱交換を行うので、各ヒータ本体4aの両端部を効果的に冷却することができる。
【0057】
したがって、本実施形態によれば、各ヒータ本体4aの両端部つまり各受部材5e、6e、7e、8eによる被支持部を冷却液Rによって間接的に冷却することによって、各ヒータ本体4aの熱損傷を抑制することが可能である。本実施形態によれば、各ヒータ本体4aの寿命を延ばすことが可能であり、よってメンテナンス費用の削減を実現することが可能である。
【0058】
ここで、浸炭室Pを均一な温度に設定する必要から下部ヒータユニット4Bの各ヒータ本体4aへの通電量と上部ヒータユニット4Aの各ヒータ本体4aへの通電量を異ならせる場合、冷却液供給部14は、通電量に応じて冷却液Rの各冷媒流路5f、6f、7f、8fへの供給量をそれぞれ調節する。例えば、下部ヒータユニット4Bへの通電量が上部ヒータユニット4Aへの通電量よりも大きい場合、冷却液供給部14は、各冷媒流路7f、8fへの冷却液Rの供給量を各冷媒流路5f、6fへの供給量よりも多くすることにより、下部ヒータユニット4Bの各ヒータ本体4aの冷却能力を上部ヒータユニット4Aの各ヒータ本体4aの冷却能力よりも向上させる。
【0059】
本実施形態によれば、上部ヒータユニット4A及び下部ヒータユニット4Bの各ヒータ本体4aの熱損傷のアンバランスを解消することが可能であり、よって各ヒータ本体4aのメンテナンス性を向上させることが可能である。
【0060】
また、浸炭装置Aでは、各冷媒流路5f、6f、7f、8fが、保護管4b及び保護管4bとヒータ本体4aとの隙間を介してヒータ本体4aの端部近傍部位と対峙している。すなわち、浸炭装置Aでは、各冷媒流路5f、6f、7f、8fがヒータ本体4aの端部近傍部位に近接配置されているので、これによっても各ヒータ本体4aの両端部を冷却することができる。
【0061】
ここで、浸炭ガスの熱分解によって生成した炭素の一部は、各ヒータユニット4(上部ヒータユニット4A及び下部ヒータユニット4B)のヒータ本体4aと保護管4bとの隙間に侵入して煤化する。この煤(炭素)は、導電性であり、ヒータ本体4aの電気抵抗を変化させ得る物質である。すなわち、浸炭装置Aを長時間に亘って運転した場合に、ヒータ本体4aの電気抵抗は、煤(炭素)によって初期状態から徐々に変化するので、ヒータ本体4aの発熱量が徐々に変化し得る。この場合に浸炭装置Aでは浸炭室Pを所望の浸炭温度に加熱することが困難になる。
【0062】
浸炭装置Aでは、この煤を除去するために定期的あるいは非定期にバーンアウト処理を行う。すなわち、浸炭装置Aでは、上電極部5及び下電極部7に空気供給部11から圧縮空気Kを供給することにより、ヒータ本体4aと保護管4bとの隙間に存在する煤(炭素)を空気とを化学反応させて二酸化炭素等にガス化させ、ヒータ本体4aと保護管4bとの隙間からバーンアウトガスとしてガス回収室C1,C2に回収し、さらにガス回収部12によってガス回収室C1,C2から外部に回収する。
【0063】
このようなバーンアウト処理によれば、ヒータ本体4aと保護管4bとの隙間に存在する煤(炭素)が十分に除去され、ヒータ本体4aの電気抵抗が初期状態に復帰する。すなわち、本実施形態によれば、バーンアウト処理によって、ヒータ本体4aへの煤(炭素)の堆積をより確実に防止することができる。
【0064】
なお、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、各冷媒流路5f、6f、7f、8fをヒータ本体4aの端部近傍部位と対峙する位置に設けたが、本開示はこれに限定されない。例えば、各冷媒流路5f、6f、7f、8fを
図1において受部材5e、6e、7e、8eの反対側、つまり冷媒流路5f、7fについては受部材5e、7eの左側、また冷媒流路6f、8fについては受部材6e、8eの右側に配置してもよい。
【0065】
(2)上記実施形態では、上部ヒータユニット4A及び下部ヒータユニット4B毎に冷却液Rの流量を調節するが、本開示はこれに限定されない。例えば、冷却液Rの流量を各段毎に調節することに代えて、各支持部毎つまり上電極部5、上アース部6、下電極部7及び下アース部8毎に冷却液Rの流量を調節してもよい。また、このような各段毎及び各支持部毎の調節を省略してもよい。
【0066】
(3)上記実施形態では、上部ヒータユニット4A及び下部ヒータユニット4Bの本数を同一(7本)としたが、本開示はこれに限定されない。断熱容器2内の下部には炉床3が存在するので、被処理物Xの下部は、上部よりも加熱され難い。このような事情を考慮すると、下部ヒータユニット4Bの本数を上部ヒータユニット4Aの本数よりも多く設けてもよい。
【0067】
(4)上記実施形態では、冷却液Rとして水(冷却水)を採用したが、本開示はこれに限定されない。必要に応じて冷却水より熱伝導率の高い液体を採用してもよい。