特許第6799179号(P6799179)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6799179
(24)【登録日】2020年11月24日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】フィルムコンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/32 20060101AFI20201130BHJP
【FI】
   H01G4/32 511L
   H01G4/32 551B
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-563460(P2019-563460)
(86)(22)【出願日】2018年5月15日
(65)【公表番号】特表2020-520127(P2020-520127A)
(43)【公表日】2020年7月2日
(86)【国際出願番号】EP2018062581
(87)【国際公開番号】WO2018210854
(87)【国際公開日】20181122
【審査請求日】2019年12月20日
(31)【優先権主張番号】P201730693
(32)【優先日】2017年5月15日
(33)【優先権主張国】ES
(31)【優先権主張番号】102017118202.0
(32)【優先日】2017年8月10日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】300002160
【氏名又は名称】ティーディーケイ・エレクトロニクス・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】TDK ELECTRONICS AG
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】特許業務法人ナガトアンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】アルバ, カルロス
(72)【発明者】
【氏名】ペレーズ, デビッド
(72)【発明者】
【氏名】カボ, ルシア
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー, アナ−レナ
【審査官】 小池 秀介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/022706(WO,A1)
【文献】 米国特許第6094337(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレンとシクロオレフィンコポリマーとのブレンドを含むフィルム(2)を備え、
前記ブレンドが重量で少なくとも3分の2の量の前記ポリプロピレンを含み、
前記シクロオレフィンコポリマーが、23重量%〜27重量%の範囲のエチレンと、73重量%〜77重量%の範囲のノルボルネンとを含む、フィルムコンデンサ(1)。
【請求項2】
前記ブレンドが70重量%〜90重量%の範囲の前記ポリプロピレンを含む、請求項1に記載のコンデンサ(1)。
【請求項3】
前記ブレンドが78重量%〜82重量%の範囲の前記ポリプロピレンを含む、請求項1又は2に記載のコンデンサ(1)。
【請求項4】
前記ポリプロピレンはキャパシタグレードのポリプロピレンである、請求項1乃至のいずれかに記載のコンデンサ(1)。
【請求項5】
前記フィルム(2)がメタライズされている、請求項1乃至のいずれかに記載のコンデンサ(1)。
【請求項6】
前記フィルム(2)は、押出成形され、二軸延伸されている、請求項1乃至のいずれかに記載のコンデンサ(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
メタライズドフィルムコンデンサは、工業用、自動車用、及びパルスパワーエレクトロニクスにおける多くの用途のための重要な部品である。コンデンサ内のポリマー誘電体材料の物理的特性は、コンデンサの性能を決定する主要な要因である。
【0003】
純粋な二軸延伸ポリプロピレン(BOPP)からなるフィルムを含むコンデンサは、105℃の温度まで良好な性能を示す。この温度を超えると、例えば125℃では、絶縁破壊強度及び寿命が著しく低下する。BOPPも、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリカーボネート(PC)のような他の市販のポリマー誘電体材料も、125℃を超える温度で動作することはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリエチレンナフタレート(PEN)及びポリフェニレンサルファイド(PPS)のような高温性能を満たす幾つかの市販のポリマー誘電体材料は、メタライズドフィルムコンデンサの適切な機能のための基本的な必要条件の1つである不十分な自己回復能力によって制限される。
【0005】
従って、105℃を超える温度、例えば125℃付近又はそれを超える温度で動作することができ、理想的には、良好な自己回復能力又は比較的低い散逸率などのBOPPの有利な特性を維持することができるメタライズドフィルムコンデンサが求められている。本発明は、有利なフィルムコンデンサを提供するという課題を解決する。メタライズドフィルムコンデンサは、BOPPベースのメタライズドフィルムコンデンサの有利な特性を依然として提供しながら、105℃を超える温度で動作させることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、係属中の請求項1の要旨によって解決される。
【0007】
ポリプロピレンとシクロオレフィンコポリマー(COC)とのブレンドを含むフィルムを含むフィルムコンデンサが提案される。
【0008】
ポリプロピレンは熱可塑性ポリマーである。ブレンドに使用されるポリプロピレンは、ホモポリマー形態であってもよい。ポリプロピレンは、ブレンドの主要な重量パーセンテージを構成することができる。シクロオレフィンコポリマーは非晶質高分子である。用語「ブレンド」は、材料、すなわちポリプロピレンとシクロオレフィンコポリマーとの混合物として定義することができる。
【0009】
ポリプロピレンとシクロオレフィンコポリマーとの混合フィルムからなるフィルムコンデンサは有利な性質を示す。特に、130℃までの温度でのフィルムコンデンサの自己回復能力は、純粋なポリプロピレンからなるフィルムを含む基準コンデンサに関して著しく高められる。寿命試験は、フィルムコンデンサの推定される平均故障寿命(MTTF: Mean Time To Failure)が、純粋なポリプロピレンのフィルムを含む基準コンデンサの平均故障寿命(MTTF)の3倍であり得ることを示した
【0010】
ポリプロピレンはフィルムコンデンサのフィルムに主要な寄与を与えるので、ブレンド材料のコストは適度である。さらに、フィルムは、最先端の製造プロセス、例えばテンターラインでの二軸延伸を使用して製造することができ、その結果、その製造は費用効率がよい。
【0011】
シクロオレフィンコポリマーは、エチレン及びノルボルネンを含んでいてもよい。好ましくは、シクロオレフィンコポリマーは、エチレン及びノルボルネンからなる。好ましくは、シクロオレフィンコポリマーは、エチレンとノルボルネンとの非晶質ランダムコポリマーからなる。シクロオレフィンコポリマーは、COC又はCOPとして工業的に知られている。
【0012】
シクロオレフィンコポリマーは、15重量%〜35重量%の範囲のエチレン及び65重量%〜85重量%の範囲のノルボルネンを含むことができる。好ましくは、シクロオレフィンコポリマーは、23重量%〜27重量%の範囲のエチレン及び73重量%〜77重量%の範囲のノルボルネンを含む。シクロオレフィンコポリマーの当該組成は、比較的低い散逸率をもたらす。さらに、寿命試験は、シクロオレフィンコポリマーの当該組成物が、コンデンサの長い寿命をもたらすことを示した。すでに述べたように、シクロオレフィンコポリマーは、好ましくはエチレンとノルボルネンとからなる。
【0013】
ブレンドは、シクロオレフィンコポリマーよりもポリプロピレンの重量分だけ多く組成することができる。好ましくは、ブレンドは、少なくとも66.66重量%の量のポリプロピレンを含む。したがって、ブレンド中のポリプロピレンの割合は、ブレンドの3分の2以上であってもよい。
【0014】
好ましくは、ブレンドは、70重量%〜90重量%の範囲、より好ましくは78重量%〜82重量%の範囲のポリプロピレンを含む。ポリプロピレンは、キャパシタグレードのポリプロピレンであってもよい。キャパシタグレードのポリプロピレンは、フィルムコンデンサに使用するのに特に適した高純度を有するポリプロピレンを指すことができる。
【0015】
フィルムは、押出成形され、二軸延伸されてもよい。フィルムは、メタライズされてもよい。以下、図面を参照して本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】フィルムコンデンサを示す。
図2】フィルムコンデンサのフィルムを製造するための方法を表すフロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
フィルムコンデンサは、誘電体として絶縁プラスチックフィルムを有する電気コンデンサである。図1は、片面がメタライズされた誘電体フィルム2を含むコンデンサ1を示す。メタライズによりコンデンサ1の電極3が形成される。フィルムコンデンサ1の電極3は、フィルムの表面に金属又は複数の金属の合金を塗布することによってメタライズされてもよい。特に、電極3は、アルミニウム、亜鉛、金、銀、マグネシウム、又はこれらの材料の任意の適切な合金を含むことができる。
【0018】
図1に示すフィルムコンデンサ1では、複数のフィルム2が互いに積層されている。あるいは、複数のフィルム2のうちの2つを円筒形巻線に巻いてコンデンサ1を形成することができる。巻線は、さらに機械的圧力を加えることによって楕円形に平坦化することができる。
【0019】
電極3は、ショーページ(schoopage)とも呼ばれるコンタクト層4に接触される。さらに、フィルムコンデンサ1は、当該コンデンサ1を電気的に接触するための複数の端子を有する。
【0020】
フィルム2は、ポリプロピレンとシクロオレフィンコポリマーとから構成され、シクロオレフィンコポリマーがエチレンとノルボルネンとから構成される。ポリプロピレンは、ブレンドの重量によるシクロオレフィンコポリマーよりも大きなパーセンテージを有する。特に、ポリプロピレンは、3分の2以上の重量パーセンテージを有する。
【0021】
以下、ポリプロピレンとシクロオレフィンコポリマーとのブレンドからなるフィルム2の製造方法について説明する。図2は、フィルムを製造するための方法を表すフロー図を示す。製造方法は、最先端の慣用のプロセスを使用する。
【0022】
第1の工程Aでは、ポリプロピレンとシクロオレフィンコポリマーとを一緒にブレンドしてブレンドを形成する。次の工程Bでは、ブレンドを溶融し、混合して溶融ポリマーを形成する。次の工程Cでは、溶融ポリマーを濾過して、濾過された溶融ポリマーを形成する。次の工程Dにおいて、濾過された溶融ポリマーは、平坦なダイを通して押し出され、押出成形されたコンデンサフィルムを形成する。次の工程Eでは、押出成形されたコンデンサフィルムを二軸延伸して二軸延伸コンデンサフィルムを形成する。
【0023】
その後、二軸延伸されたコンデンサフィルムは、慣用のプロセスを用いてメタライズされる。メタライズの前に、フィルムは、コロナまたはフレームによって表面処理されてもよい。メタライズプロセスは、好ましくは、真空中での物理気相成長法(PVD)によって実施される。金属層は、フィルムの少なくとも1つの表面上に適用される。金属層は、任意の適切な金属、好ましくはアルミニウム、亜鉛、金、銀又はマグネシウム、又は前述の材料の適切な合金からなる。金属層の厚さは、通常、10nm〜100nmの範囲である。
【0024】
当該コンデンサは、130℃の温度まで良好な自己回復能力を有する。シクロオレフィンコポリマーの寄与のために、フィルムのための基材のコストは、基準コンデンサのコストよりも高い。しかし、重量への大部分の寄与はポリプロピレンによるものであるので、基材のコストは適度である。上述したように、製造プロセスは、最新の製造ステップに基づく。したがって、製造は費用効率の高い方法で実施することができる。
【0025】
以下に、本発明によるコンデンサを基準コンデンサと比較する寿命試験測定を説明する。電気容量の値を、完成したコンデンサについてKeysight社製E4980AL Precision LCRメーターによって測定した。
【0026】
表1は、本試験で使用したコンデンサのリストを示す。
【0027】
試料1は、ポリプロピレンのみからなるフィルムを含む基準コンデンサを指す。試料2、3及び4は、種々のパーセンテージの市販の高結晶性キャパシタグレードのポリプロピレン樹脂、及び相補的なパーセンテージの2つの市販のエチレン及びノルボルネンのシクロオレフィンコポリマーを含有するフィルムを含む、本発明によるコンデンサに関する。特に、試料2によるブレンドは、80重量%のポリプロピレン及び20重量%のシクロオレフィンコポリマーを含み、ここで、シクロオレフィンコポリマーは、75重量%のノルボルネン及び25重量%のエチレンからなる。試料3によるブレンドは、70重量%のポリプロピレン及び30重量%のシクロオレフィンコポリマーを含み、ここで、シクロオレフィンコポリマーは、75重量%のノルボルネン及び25重量%のエチレンからなる。試料4によるブレンドは、80重量%のポリプロピレン及び20重量%のシクロオレフィンコポリマーを含み、シクロオレフィンコポリマーは、80重量%のノルボルネン及び20重量%のエチレンからなる。
【0028】
試料1〜4の各ブレンドは、慣用の方法によって8μmの厚さのコンデンサフィルムに二軸延伸されている。各フィルムは、20オーム/平方のシート抵抗を得るために真空メタライズされた。次いで、各フィルムを、全ての試料について同一の慣用のプロセスによって、ポッティングされたエポキシ樹脂で封止されたプラスチックボックスの内側に圧延された平らにプレスされた要素を含むメタライズドフィルムコンデンサに変換した。
【0029】
表1は、各試料からの少なくとも20個のコンデンサについての電気容量の平均値を示す。電気容量は1kHzで測定される。試料2〜4によるコンデンサは、純粋なBOPPのフィルムを含む試料1のコンデンサと同様の電気容量を示す
【0030】
試料1〜4の、温度及び直流電圧に起因する動作応力下での性能を、異なる温度での2つの寿命試験によって評価した。すなわち、第1の試験は120℃の温度で実施され、第2の試験は130℃の温度で実施された。各寿命試験において、試料当たり5個のコンデンサを試験した。1kHzでの電気容量及び1kHzでのコンデンサの損失正接を、試験中160時間毎に定期的に測定することによって監視した。コンデンサは、不可逆的な短絡を示した場合、試験に不合格であるとされた。したがって、このようなコンデンサは、故障後に試験から取り除かれている。故障は、コンデンサがその時点で自己回復しなかったことを示す。
【0031】
第1の寿命試験を行った条件を表2に示す。

【0032】
試験は、表2に記載されるように、電圧を増加させる2つの工程を含んだ。試験の1000時間を要した第1のステップの間、2080VのDC電圧が印加され、その結果、260V/μmの電界が生じた。試験の後続の1000時間を要した第2のステップの間に、2240VのDC電圧が印加され、280V/μmの電界がもたらされた。
【0033】
表3は、不可逆的破壊が各試料からのコンデンサに影響を及ぼした試験の経過時間を列挙し、推定平均故障寿命(MTTF)を与える。
【0034】
表3から、試料2及び3によるコンデンサは、2000時間の試験後にいかなる故障も示さなかったことがわかる。試料4によるコンデンサは、288時間の平均MTTFを示した。試料1による基準コンデンサは、549時間の平均MTTFを示した。従って、試料2及び3は、基準試料の平均故障時間よりも少なくとも3倍高い平均故障時間を示す。試料1の故障は試験の最初の1000時間で起こり、電圧ストレスは試験のその後の2番目の1000時間で増加したので、それは3倍よりもはるかに高いかもしれない。
【0035】
第2の寿命試験は、130℃の温度で実施され、表4に記載されるように、電圧を増加させる4つの工程を含む。
【0036】
表4に見られるように、第1のフェーズで655VのDC電圧が印加され、次いで電圧が第2のフェーズで1000Vに増加され、次いで電圧が第3のフェーズで1400Vに増加され、第4のフェーズで1665Vに増加され、最後に第5のフェーズで1960Vに増加されるように、電圧ストレスは試験の各フェーズで増加されている。
【0037】
表5は、試料1〜4のコンデンサに不可逆的破壊が影響を及ぼした試験の経過時間を列挙する。
【0038】
再び、試料2によるコンデンサは、いかなる故障も示さなかった。試料3のコンデンサのうち2つだけが故障を示した。試料3の各故障は、試験の最後の段階で生じた。試料4のコンデンサは、基準試料1のコンデンサよりも後に故障を示した。
【0039】
全体として、寿命試験は、それぞれ20および30重量%のノルボルネン75重量%及び25重量%のエチレンを含むシクロオレフィンコポリマーを含有するブレンドに基づく試料2及び3が、シクロオレフィンコポリマーを含有しない純粋なBOPPに基づく基準試料1よりも明らかに優れていることを示す。更に、試料2及び3はまた、80重量%のノルボルネン及び20重量%のエチレンと20重量%のシクロオレフィンコポリマーを含有するブレンドに基づく試料4よりも優れている。試料2及び3では、内部の不可逆的な短絡の欠如が試験条件下で継続可能であることによって優れた性能が達成される。従って、試料2及び3が好ましい実施形態である。試料2及び3は、それらの各々が、75重量%のノルボルネン及び25重量%のエチレンからなるシクロオレフィンコポリマーを含むことを共通して有する。試料2は、第2の寿命試験において試料3よりも性能が優れているので、より好ましい試料である。
【符号の説明】
【0040】
1 コンデンサ
2 フィルム
3 電極
4 コンタクト層
5 端子
図1
図2