(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも一部の独立した気泡同士が微生物の作用によって連結した構造を有し、平均粒径が2000μm以上、8000μm以下である、吸音材用又は吸水材用の発泡樹脂を製造する方法であって、
前記発泡樹脂は発泡ウレタンであり、
独立した気泡を有する発泡ウレタンを不飽和脂肪酸で処理する工程と、
前記不飽和脂肪酸で処理した前記発泡ウレタンに、ウレタン分解能を有するストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する微生物を作用させて、前記発泡ウレタンの少なくとも一部の独立した気泡が連結した構造を形成する工程と、
前記微生物を作用させた後の発泡ウレタンを、平均粒径が2000μm以上、8000μm以下となるように、粉砕する工程と、
を有し、
前記独立した気泡同士が連結した部分の気泡の壁面に1μm以上、10μm以下の微細空洞が形成されている、
吸音材用又は吸水材用の発泡樹脂の製造方法。
少なくとも一部の独立した気泡同士が微生物の作用によって連結した構造を有し、平均粒径が50μm以上、1000μm以下である、吸音材用又は吸水材用の発泡樹脂を製造する方法であって、
前記発泡樹脂は発泡ウレタンであり、
独立した気泡を有する発泡ウレタンを不飽和脂肪酸で処理する工程と、
前記不飽和脂肪酸で処理した前記発泡ウレタンに、ウレタン分解能を有するストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する微生物を作用させて、前記発泡ウレタンの少なくとも一部の独立した気泡が連結した構造を形成する工程と、
前記微生物を作用させた後の発泡ウレタンを、平均粒径が50μm以上、1000μm以下となるように、粉砕する工程と、
を有し、
前記独立した気泡同士が連結した部分の気泡の壁面に1μm以上、10μm以下の微細空洞が形成されている、
吸音材用又は吸水材用の発泡樹脂の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[発泡樹脂]
本発明に係る発泡樹脂は、少なくとも一部の独立した気泡同士が微生物の作用によって連結した構造を有し、所定の粒径を有するものである。これにより独立した気泡を有する発泡樹脂と、連通した気泡を有する発泡樹脂の両方の特性を併せ持った新素材としての特性を有する発泡樹脂が得られる。
【0013】
例えば、少なくとも一部の独立した気泡同士が微生物の作用によって連結した構造を有する発泡樹脂の平均粒径が2000μm以上、8000μm以下である場合には、吸音材や吸水材として好ましく用いることができる。特に、平均粒径が3000μm以上、6000μm以下の前記発泡樹脂を用いて成形した樹脂成形体は、低周波領域において従来の吸音材よりも優れた吸音率を有するようになる。低周波領域の吸音率に優れた発泡樹脂成形体を作製するためには、前記発泡樹脂の平均粒径は、4000μm以上、5000μm以下であることがより好ましい。
なお、本発明において発泡樹脂の平均粒径とは、体積平均粒径のメジアン径をいうものとする。
【0014】
また、少なくとも一部の独立した気泡同士が微生物の作用によって連結した構造を有する発泡樹脂は、平均粒径が50μm以上、1000μm以下である場合にも、吸音材や吸水材として好ましく用いることができる。平均粒径が50μm以上、1000μm以下の発泡樹脂は、平均粒径が2000μm以上、8000μm以下のものに比べて、高周波領域での吸音率や、吸水性、保水性の点において優れた特性を発揮する。また、平均粒径が50μm以上、1000μm以下の発泡樹脂を用いて成形した樹脂成形体は低周波領域での吸音率にも優れるようになる。保水性に優れた発泡樹脂成形体を作製するためには、前記平均粒径は、100μm以上、600μm以下であることがより好ましく、200μm以上、500μm以下であることが更に好ましい。
【0015】
前記本発明に係る発泡樹脂は、独立した気泡を有する発泡樹脂に、当該発泡樹脂に対して分解能を有する微生物を作用させた後に、所定の粒径となるように粉砕することによって得ることができる。
図1に、微生物を作用させる前後の独立した気泡を有する発泡樹脂の断面の顕微鏡観察写真を示す。
図1(A)は微生物を作用させる前の状態を示すものであり、
図1(B)は微生物を作用させた後の状態を示すものである。
独立した気泡を有する発泡樹脂に対して分解能を有する微生物を作用させると、気泡の壁面に1μm〜10μm程度の微細空洞が形成される。微生物による分解作用が進行していくと、独立していた気泡同士が微細空洞によって連結するようになる。これにより、微生物を作用させた後の発泡樹脂は、独立した気泡を有する発泡樹脂と連通した気泡を有する発泡樹脂の両方の特性が発揮されるようになる。
【0016】
上記の少なくとも一部の独立した気泡同士が微生物の作用によって連結した構造を有する発泡樹脂は、粉砕する際に破断する起点が数多く出現するため、容易に所望の粒径に粉砕することができる。
図2に、平均粒径が2000μm以上、8000μm以下のパーティクル状の発泡樹脂の写真を示す。また、
図3に平均粒径が50μm以上、1000μm以下のパウダー状の発泡樹脂の写真を示す。
微生物を作用させた後の発泡樹脂を粉砕する方法は特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜選択すればよい。例えば、発泡樹脂の平均粒径を2000μm以上、8000μm以下にする場合には、カッティングミル等によって粉砕すればよい。また、発泡樹脂の平均粒径を50μm以上、1000μm以下にする場合には、例えば、遠心タイプの粉砕機を用いる方法等によって粉砕すればよい。
【0017】
図1(B)に示すように、独立した気泡を有する発泡樹脂に微生物を作用させた際に気泡の壁面に形成される微細空洞の口径は1〜10μm程度であり、口径の大きさは一定していない。しかしながら、微生物を作用させた後の発泡樹脂を平均粒径が1000μm以下のパウダー状にすると、微細空洞の口径は1μm程度の大きさの物に均一化することができる。これは、発泡樹脂を粉砕する際に、比較的大きな口径の微細空洞の部分が起点となって破断するためである。これにより、上記の粒径が50μm以上、1000μm以下の発泡樹脂は微細空洞の口径が一定化しており、材料特性がより安定化したものとなっている。
図4に平均粒径が300μmの発泡樹脂の表面を観察した顕微鏡写真を示す。
【0018】
なお、従来の独立した気泡を有する発泡樹脂を粉砕することは非常に困難であり、例えば、発泡樹脂を冷凍固化させて粉砕する場合には1kg当たり10万円近いコストがかかり現実的ではない。これに対し、微生物の作用によって少なくとも一部の独立した気泡同士が連結した構造を有する発泡樹脂は、室温でも容易に粉砕することが可能であり、1kg当たり数百円程度と非常に安価に所望の粒径に粉砕することが可能である。
【0019】
本発明に係る発泡樹脂の素材は特に限定されるものではなく、例えば、合成樹脂素材としては、ポリウレタンフォーム、ポリスチレンフォーム、ポリエチレンフォーム(PEF)、ポリプロピレンフォーム(PPF)、フェノールフォームなどを挙げることができ、また、自然素材としては炭化コルクなどを挙げることができる。
また、前記微生物は、発泡樹脂を構成する樹脂に対して分解能を有する微生物であればよい。例えば、前記発泡樹脂がウレタン製の場合には、ウレタン分解能を有する微生物であれば特に限定されないが、ウレタンを分解する能力が充分に高い微生物であることが好ましい。このような微生物としては、例えば、ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する微生物(特許文献1参照)を好ましく用いることができる。
【0020】
ウレタン分解能を有する微生物の一例として、受託番号FERM P−21770で特定される微生物(Streptomyces C13a)を挙げることができる。当該微生物は、2009年2月12日付にて、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター 中央第6)に、上記した受託番号で寄託されている。なお、上記微生物の変異株も、これと同等のウレタン吸着・分解能を有する限り、好ましく用いることができる。具体的には、例えば、S.albogriseolus(NBRC12834)、S.thermoluteus(NBRC14269)、及びS.viridodiastaticus(NBRC13106)などを好ましく利用することができる。
【0021】
(発泡樹脂の製造方法)
前記本発明に係る発泡樹脂は、独立した気泡を有する発泡樹脂に、当該発泡樹脂を構成する樹脂に対して分解能を有する微生物を作用させ、その後、所望の大きさに粉砕することによって製造することが可能である。前述のように発泡樹脂は、例えば、合成樹脂素材としては、ポリウレタンフォーム、ポリスチレンフォーム、ポリエチレンフォーム(PEF)、ポリプロピレンフォーム(PPF)、フェノールフォームなどを挙げることができ、また、自然素材としては炭化コルクなどを挙げることができる。また、前記微生物は、発泡樹脂を構成する樹脂に対して分解能を有する微生物であればよく、樹脂がポリウレタンの場合にはウレタン分解能を有する前述の微生物を利用することができる。
【0022】
出発材料となる独立した気泡を有する発泡樹脂において、気泡のサイズは特に限定されるものではなく、種々のものを用いることができる。例えば、独立した気泡の粒径が10μm以上、300μm以下程度の発泡樹脂を用いることができる。一般に、発泡樹脂は成形時に添加する発泡剤によってその構造が決定される。出発材料となる発泡樹脂は各気泡の全てが完全に独立している必要はなく、一部において気泡同士が連結している部分が含まれていてもよい。
以下においては、発泡樹脂を構成する樹脂がポリウレタンであり、当該ポリウレタンに対する分解能を有する微生物として前記受託番号FERM P−21770で特定される微生物である場合を例にして本発明の発泡樹脂を製造する方法について説明する。
【0023】
独立した気泡を有する発泡ウレタンとしては、例えば、ベッドや、自動車のシート、ステアリングなどの廃材を利用することができる。これらの廃材は物理的な強度が高く、粉砕することが困難であるが、ウレタン分解能を有する微生物を作用させて独立した気泡の少なくとも一部が連通した構造を有する発泡樹脂に加工することで粉砕しやすくすることができる。
【0024】
独立した気泡を有する発泡ウレタンを用いて前記本発明に係る発泡樹脂を製造する場合には、独立した気泡を有する発泡ウレタンを含む被処理材を不飽和脂肪酸で処理する工程と、前記不飽和脂肪酸で処理した被処理材にウレタン分解能を有するストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する微生物を作用させる工程と、を行うことが好ましい。
独立した気泡を有する発泡ウレタンに、ウレタン分解能を有する微生物を作用させることで本発明に係る発泡樹脂を製造することができるが、その際に、微生物を作用させる前に発泡ウレタンを不飽和脂肪酸で処理しておくことで、微生物によるウレタンの分解作用を飛躍的に高めることができる。
【0025】
前記不飽和脂肪酸は、構造中に二重結合を1個以上含んでいる不飽和脂肪酸であればよい。また、前記不飽和脂肪酸は、室温の使用温度条件下で液体であると被処理材の処理が容易となり好ましい。この場合室温とは、例えば、0℃以上、35℃以下程度のことをいう。
前記不飽和脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、リノール酸、パルミトレイン酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エルカ酸、トウハク酸、リンデル酸、パルミトレイン酸、エライジン酸などが挙げられる。これらの不飽和脂肪酸は一種単独で用いても良いし、二種以上を混合して用いてもよい。
また、前記不飽和脂肪酸は、構造中に二重結合を2個以上含むものよりも1個含む不飽和脂肪酸の方が好ましい。
上記の不飽和脂肪酸の中でも、オレイン酸やエルカ酸、リノール酸を特に好ましく用いることができる。
【0026】
前記被処理材を前記不飽和脂肪酸で処理する方法としては、例えば、被処理材を不飽和脂肪酸に浸漬したり、不飽和脂肪酸を被処理材に塗布したりする方法が挙げられる。特に、不飽和脂肪酸に被処理材を浸漬する方法は、被処理材全体に不飽和脂肪酸を作用させることができ、また、簡便な方法であるため好ましい。
【0027】
被処理材を不飽和脂肪酸で処理する時間は長ければ長いほど好ましいが、数秒程度でも効果が得られる。より高い効果を得るためには1時間程度以上処理することが好ましい。なお、産業的に行う場合には、あまりに長時間の処理を行うことは不利益であるため、長くても48時間程度にすることが好ましい。これらの観点から、被処理材を不飽和脂肪酸で処理する時間は8時間以上、24時間以下にすることがより好ましい。
【0028】
被処理材を不飽和脂肪酸で処理する際の温度は特に限定されず、不飽和脂肪酸が液体を保持する温度範囲で行うことが好ましい。例えば、不飽和脂肪酸としてオレイン酸やリノール酸を用いる場合には、30℃程度で処理を行えばよい。
【0029】
前記被処理材を前記不飽和脂肪酸で処理する工程においては、前記不飽和脂肪酸とアルコールとを混合して用いることが好ましい。一般に、不飽和脂肪酸は粘度が高く取り扱いが困難であるが、アルコールと混合すると粘度が低下するため取り扱い性が改善される。また、不飽和脂肪酸とアルコールとを混合した処理液の粘度が低下していると、処理液中に浸漬した被処理材同士が凝集して固着するという現象を抑制できる。これにより、バラツキの少ない安定した処理が可能となる。更に、粘度が低い前記処理液は被処理材の内部にも早く浸透するため、被処理材の表面だけでなく全体的な処理が可能となる。
このようにして不飽和脂肪酸とアルコールとを混合した前記処理液を被処理材に作用させることにより、被処理材の破断応力や伸びといった物性を大幅に低下させることができる。被処理材に微生物を作用させる場合において、被処理材は大きな塊のままのものよりも、なるべく小さく砕いたものの方が微生物の分解効率がよくなる。このため上記のように被処理材の破断応力や伸びといった物性が低下していると、被処理材を小さく砕き易く好ましい。
【0030】
また、表面だけでなく内部まで不飽和脂肪酸によって十分に処理された被処理材に微生物を作用させることで、被処理材の内部まで均一に分解を進めることができる。被処理材の内部まで分解が十分に進んでいると、微生物を作用させた後の被処理材を細かく砕いて粉末状にすることが容易になる。
【0031】
また、不飽和脂肪酸とアルコールとを混合した処理液を用いることで、被処理材の表面を洗浄する効果も得られる。発泡ウレタンを含む被処理材の表面には、シリコーン系の離型剤やアクリルウレタン系のバリアコートが付着している場合があり、これらの付着物は微生物による被処理材の分解効率を低下させるものである。このような被処理材の場合に、前記不飽和脂肪酸とアルコールとを混合した処理液を用いることで、被処理材の表面に付着したシリコーン系離型剤やアクリルウレタン系のバリアコートを除去することができ、微生物による被処理材の分解効率を低下させないようにすることができる。
【0032】
前記アルコールの種類は特に限定されるものではないが、不飽和脂肪酸よりも粘度が低く、かつ、不飽和脂肪酸に対して十分な溶解親和性を有するものであることが好ましい。また、前記シリコーン系離型剤やアクリルウレタン系バリアコートの洗浄効果が高いものが好ましい。入手の容易性等からは低級アルコールを用いることが好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール及び2−メチル−2−ブタノールからなる群より選択されるいずれか一種又は二種以上の混合物を好ましく用いることができる。
【0033】
不飽和脂肪酸とアルコールとの混合比は、後の工程を考えて不飽和脂肪酸の吸着量をなるべく少なくする事を考慮し、体積比で、1:9〜7:3であることが好ましく、3:7〜6:4であることがより好ましく、5:5であることが更に好ましい。
【0034】
また、被処理材の表面の洗浄を目的として前記アルコールを使用する場合には、前記被処理材を前記不飽和脂肪酸で処理する前に被処理材をアルコールで洗浄すればよい。この場合には、アルコール中に被処理材を浸漬して振とうする等の洗浄を行い、続いて、被処理材に前記不飽和脂肪酸又はこれとアルコールとの混合物を作用させればよい。
【0035】
被処理材に前記微生物を作用させる方法は、被処理材と微生物とが接触する方法であれば特に限定されるものではない。例えば、前記微生物を培養している培養液に被処理材を添加して前記微生物の培養を続ける方法が挙げられる。なお、微生物を含んでいない培養液中に被処理材を添加し、ここに新たに前記微生物を接種してもよい。
前記ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する微生物は土壌菌であるため、比較的低い温度、炭素と無機塩の単純な培地で強い増殖力があり、簡便な方法(一般的な振盪培養)で培養できる。また、胞子の形成により厳しい環境でも生存でき、一般的に抗菌化合物を生産するため、へテロな微生物環境でも生息率が高いという利点を有する。前記微生物を培養するための培地や培養方法は、前記特許文献1の記載に従って行えばよい。
【0036】
被処理材に前記微生物を作用させる時間は長ければ長いほど好ましいが、被処理材中のウレタンの含有量及び作用させる微生物の量を勘案してウレタンが充分に分解されるように行えばよい。
また、被処理材に前記微生物を作用させる温度は、微生物の増殖やウレタンの分解に適した温度、例えば26〜45℃、好ましくは30〜45℃前後であればよい。
【0037】
被処理材を前記不飽和脂肪酸で処理しながら前記微生物を作用させること、すなわち、前記不飽和脂肪酸の存在下で被処理材に前記微生物を作用させることも可能である。例えば、前記微生物の培養液中に不飽和脂肪酸と被処理材とを添加して微生物の培養を行えばよい。このときの不飽和脂肪酸の濃度は、0.1%(W/V)以下とすればよい。
このようにすることで、より簡易な方法で被処理材に含まれるウレタンを分解させることが可能となる。
【0038】
[樹脂成形体]
本発明に係る樹脂成形体は、前記本発明に係る発泡樹脂を成形したことを特徴とするものである。
前記樹脂成形体は、例えば、公知のチップウレタン製造設備等を使用して製造することが可能である。すなわち、接着成分であるバインダーと前記本発明に係る発泡樹脂とをブレンドし、蒸気を通しながら加熱プレス成型すればよい。これにより、気泡の壁面に形成された微細空洞が塞がれずに維持したまま、発泡樹脂が所望の形状で固まった弾性構造を有する樹脂成形体が得られる。前記バインダーとしては、例えば、水分硬化型のイソシアネートプレポリマー等を好ましく用いることができる。
図5(A)に、平均粒径が5000μmの発泡樹脂を成形した樹脂成形体の外観写真を示す。また、
図5(B)に平均粒径が300μmの発泡樹脂を成形した樹脂成形体の外観写真を示す。
【0039】
樹脂成形体の形状は特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜変更すればよい。なお、従来の発泡樹脂の粉砕物を再生したものとしてチップウレタンが知られているが、利用するウレタンの粉砕物が大きいため複雑な形状の物を成型することができず用途が限られていた。これに対し、本発明に係る樹脂成形体は、原料の発泡樹脂として50μm以上、1000μm以下のパウダー状の発泡樹脂を用いることで、複雑な形状の物に加工することが可能である。
【0040】
樹脂成形体の材料となる発泡樹脂の平均粒径が2000μm以上、8000μm以下である場合には、吸音材や吸水材として好ましく利用可能な樹脂成形体を製造することができ、特に低周波領域の吸音率に優れた樹脂成形体となる。
樹脂成形体の材料となる発泡樹脂の平均粒径が50μm以上、1000μm以下である場合にも、吸音材や吸水材として好ましく利用可能な樹脂成形体を製造することができ、特に保水性に優れた樹脂成形体となる。
なお、本発明に係る樹脂成形体を製造する場合には、平均粒径が2000μm以上、8000μm以下の発泡樹脂と、平均粒径が50μm以上、1000μm以下の発泡樹脂とを混合して製造してもよい。
【0041】
[積層樹脂成形体]
本発明に係る積層樹脂成形体は、前記本発明に係る発泡樹脂を層状に成形した、樹脂成形体を少なくとも一層有することを特徴とするものである。
前記積層樹脂成形体は、例えば、前述のように前記本発明の発泡樹脂を材料として公知のチップウレタン製造設備を利用して層状の樹脂成形体を製造し、これを少なくとも一層有するように他の層状の樹脂成形体と積層すればよい。例えば、平均粒径が2000μm以上、8000μm以下の発泡樹脂を用いて製造した樹脂成形体と、平均粒径が50μm以上、1000μm以下の発泡樹脂を用いて製造した樹脂成形体とを積層することで、両方の樹脂成形体の特性を有する積層樹脂成形体が得られる。
【0042】
[吸音材]
前記本発明に係る吸音材は、前記本発明に係る発泡樹脂、樹脂成形体又は積層樹脂成形体を用いたことを特徴とするものである。
一般に、吸音材による吸音効果は、音の振動エネルギーを吸収して熱エネルギーに変換することにより発揮される。前記発泡樹脂を用いた吸音材は、発泡樹脂自体が弾性体でエネルギーを吸収しやすいことに加え、微細化されていることにより発泡樹脂自体がマクロ振動する。この2つの現象の相乗効果により、特に2000Hz以上の高周波領域で優れた吸音効果が発揮されるものと考えられる。特に、平均粒径が50μm以上、1000μm以下の発泡樹脂を用いた吸音材は高周波領域において、吸音材として実績のあるシンサレート(3M社製の吸音断熱材)と同等の吸音率を示す。
また、前記樹脂成形体又は積層樹脂成形体を用いた吸音材は、特に1000Hz以下の低周波領域で優れた吸音効果を有する。これは、波長の長い低周波の音波を、樹脂成形体又は積層樹脂成形体の連なった面で受けることで、面全体が振れて吸音効果が出ているものと考えられる。低周波領域においては、平均粒径が2000μm以上、8000μm以下の発泡樹脂を用いて作製された樹脂成形体が特に高い吸音率を有する。
本発明に係る吸音材は、例えば、冷蔵庫や自動販売機などの吸音断熱材としても好ましく用いることができる。
【0043】
[吸水材]
前記本発明に係る吸水材は、前記本発明に係る発泡樹脂、樹脂成形体又は積層樹脂成形体を用いたことを特徴とするものである。
前述のように本発明に係る発泡樹脂は、微細空洞によって気泡同士が連結した構造を有している。このため、前記発泡樹脂を用いた吸水材は高い吸水性を有しており、更に、一旦吸収された水分が放出されにくく、保水性にも優れた特性を有する。これは毛細管現象によって連結した気泡部分に水分が吸収される一方で、水の表面張力によって吸収された水分がそのまま保持されるためであると考えられる。特に、平均粒径が50μm以上、1000μm以下の発泡樹脂は、微細空洞の口径が1〜2μm程度の小さなサイズに収束しているため、毛細管現象で吸収された水分が、水の表面張力によって放散されにくくなっている。
また、前記樹脂成形体又は積層樹脂成形体を用いた吸水材も同様に優れた吸水率と保水性を有している。
本発明に係る吸水材は、例えば、植物育成用のプランターや、調湿材料に利用することができる。保水性に優れるといった効果から、植物育成用に好ましく用いることができ、建物の屋上の緑化等にも応用することができる。
本発明は以下の構成も採用し得る。
(1)少なくとも一部の独立した気泡同士が微生物の作用によって連結した構造を有し、平均粒径が2000μm以上、8000μm以下であることを特徴とする発泡樹脂。
(2)少なくとも一部の独立した気泡同士が微生物の作用によって連結した構造を有し、平均粒径が50μm以上、1000μm以下であることを特徴とする発泡樹脂。
(3)前記発泡樹脂がウレタンであることを特徴とする上記(1)又は上記(2)に記載の発泡樹脂。
(4)前記微生物がウレタン分解能を有するストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する微生物であることを特徴とする上記(1)〜上記(3)のいずれか一項に記載の発泡樹脂。
(5)上記(1)及び/又は上記(2)に記載の発泡樹脂を成形したことを特徴とする樹脂成形体。
(6)上記(1)及び/又は上記(2)に記載の発泡樹脂を層状に成形した発泡樹脂成形体を少なくとも一層有することを特徴とする積層樹脂成形体。
(7)上記(1)〜上記(4)のいずれか一項に記載の発泡樹脂、上記(5)に記載の樹脂成形体又は上記(6)に記載の積層樹脂成形体を用いたことを特徴とする吸音材。
(8)上記(1)〜上記(4)のいずれか一項に記載の発泡樹脂、上記(5)に記載の樹脂成形体又は上記(6)に記載の積層樹脂成形体を用いたことを特徴とする吸水材。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例を参照しながら本発明についてより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
[実施例1]
(被処理材)
自動車のステアリングに用いられていた発泡ウレタンの廃材を5mm角程度の大きさに粉砕したものを被処理材として用いた。
発泡ウレタンの廃材の粉砕は、ヴァーダー・サイエンティフィック株式会社(旧株式会社レッチェ)製のカッティングミルSM300を使用した。
(不飽和脂肪酸)
不飽和脂肪酸としてはオレイン酸(和光純薬工業株式会社製、等級:和光一級)を使用した。
(微生物)
ウレタンの吸着・分解能を有する微生物として前記受託番号FERM P−21770で特定される微生物(菌株:C13a)を用いた。
【0046】
(培地)
前記微生物を培養する培地としては、以下のようにして調製したYES−G培地を用いた。
下記表1に示す濃度のKH
2PO
4溶液とNa
2HPO
4溶液を用意し、それぞれ10mL及び40mLを混合してSolution Aとした。他のSolution B、Solution C、及びSolution Dは下記表1に示す通りの組成の溶液とした。調製後のSolution A〜Dは121℃、20分間、の条件で滅菌処理した。
3L三角フラスコに、Solution Aを20mL、ゼラチンを4.0g、蒸留水を970mL、(NH
4)
2SO
4を0.5g入れて混合し、121℃、20分間、の条件で滅菌処理した。冷却後、この3L三角フラスコにSolution Bを10mL、Solution C(10倍濃度)を0.1mL、Solution Dを2mLそれぞれ加えてYES−G培地を作製した。
【0047】
【表1】
【0048】
−被処理材を不飽和脂肪酸で処理する工程−
オレイン酸を99%エタノールで10%(W/W)濃度に希釈したものを用意し、これを100mL三角フラスコに加えた。
前記被処理材4g〜5g程度を上記100mL三角フラスコに入れて前記被処理材を完全に浸漬させ、アルミホイルで蓋をして常温で1時間処理した。
処理時間が経過後、三角フラスコ内を水道水及び蒸留水によって洗浄し、更に蒸留水を加えて超音波による洗浄をした。三角フラスコから被処理材を取り出し、更に、蒸留水によって洗浄を行った。その後、40℃で充分に(over night)乾燥させ、121℃、20分間、の条件で滅菌処理した。
【0049】
−被処理材に微生物を作用させる工程−
前記微生物(C13a)を100mLのYES−G培地に接種して振盪培養して前培養液を得た。培養の条件は、40℃、140rpm、11日間、とした。
これにより得られた前培養液10mLを、1LのYES−G培地に加えて振盪培養して本培養菌液を得た。培養の条件は40℃、140rpm、9日間、とした。
前記で用意した被処理材が入った100mL三角フラスコに、本培養菌液を50mL加えて振盪培養した。培養の条件は40℃、80rpm、とした。
微生物を作用させる期間は一週間とした。
【0050】
−洗浄工程−
各培養期間の経過後に菌液を捨て、被処理材を蒸留水ですすいだ後に99%エタノールで超音波洗浄を行った。更に被処理材を蒸留水で洗浄した後に、40℃で充分に(over night)乾燥させた。
これにより、少なくとも一部の独立した気泡同士が微生物の作用によって連結した構造を有し、平均粒径が5000μmのパーティクル状の発泡樹脂(以下では、「パーティクル品」という)が得られた。パーティクル品は、処理前重量に対して3質量%減となった。
発泡樹脂の平均粒径の測定は、レーザー解析散乱式粒子径分布測定装置LA960(株式会社堀場製作所製)を用いて行った。サンプリングは、蒸留水を媒体にした湿式測定で行った。
【0051】
[実施例2]
実施例1で得たパーティクル品をヴァーダー・サイエンティフィック株式会社(旧株式会社レッチェ)製の超遠心粉砕機(ロータミル ZM200)を用いて粉砕した。
従来の独立した気泡を有する発泡ウレタンと異なり、室温でも容易に粉砕することができ、平均粒径が300μmのパウダー状の発泡樹脂(以下では、「パウダー品」という)を得ることができた。
【0052】
[実施例3]
実施例1で得たパーティクル品を接着成分であるバインダーと混合した。バインダーとしては、水分硬化型のイソシアネートプレポリマー(トーケン樹脂株式会社製)を用いた。そして、蒸気を通しながらプレス成型することによって、
図5に示すような直径が90cmで厚さが20mmの円盤状の樹脂成形体(以下では、「パーティクル成形品」という)を製造した。
なお、プレス成型には、スチームプレス機を用いた。
【0053】
[実施例4]
実施例3において使用したパーティクル品を、実施例2で得たパウダー品に変更した以外は実施例3と同様にして
図6に示すような樹脂成形体(以下では、「パウダー成形品」という)を製造した。
【0054】
−評価−
<顕微鏡観察>
実施例1において得られたパーティクル品のセルの状態を顕微鏡により観察した。その結果を
図1(B)に示す。
図1(B)に示すように、独立した気泡の壁面に1μm〜10μm程度の口径の微細空洞が認められた。また、この微細空洞はセルの内部にまで侵入している様子が見られた。
同様に、実施例2において得られたパウダー品のセルの状態を顕微鏡により観察した。その結果を
図4に示す。
図4に示すように、パウダー品の独立した気泡の壁面の微細空洞は口径が1μm程度の大きさのものに均一化されていた。これは、パウダー品を製造する過程において、パーティクル品の比較的大きな口径の微細空洞部分が起点となって破断したためである。
【0055】
<吸音特性>
(発泡樹脂)
実施例1において得られたパーティクル品、及び実施例2で得られたパウダー品の吸音特性をそれぞれ評価した。吸音特性の評価は、小野測器(株)製の垂直入射吸音率測定システム(DS2000)を用いて、ISO 10534−2、ASTM E 1050に準拠して行った。
具体的には、音響インピーダンス管端に内蔵されたスピーカーから音波を管内に放射し、管内2点のマイクロホン間の伝達関数を測定して垂直入射吸音率・反射係数・基準化インピーダンスを算出するシステムである。高周波領域、低周波領域で音響インピーダンス管の仕様を変えた。高周波領域のB管は、長さ500mm、内径29φとし、低周波領域のA管は、長さ835mm、内径100φとした。
高周波領域での測定結果を
図7に、低周波領域での測定結果を
図8に示す。
【0056】
図7及び
図8において「初期粉砕品」とは脂肪酸による前処理も微生物による処理も行っていない、独立した気泡を有する発泡ウレタンを5mm角程度の大きさに粉砕したものを意味する。また、「シンサレート」とは3M社製の吸音断熱材を意味する。
図7に示すように、特に、2000Hz以上の高周波領域で大きな吸音効果が認められた。そして、パーティクル品、パウダー品とも、初期粉砕品に比べて吸音特性が向上していた。また、パウダー品の場合には、吸音材として実績があるシンサレートに近い効果が得られた。
【0057】
一般に、吸音材としては、音の振動エネルギーを吸収して熱エネルギーに変換する変換効率が高いものが適している。パウダー品の場合には、発泡樹脂自体が弾性体でエネルギーを吸収しやすいこと、また、微細化したことにより発泡樹脂自体がマクロ振動し、この二つの現象の相乗効果で吸音率が向上したと考えられる。
一方、
図8に示すように、低周波領域においてはそれほど大きな吸音効果が得られなかった。低周波領域では、音の波長が長くなり、マクロ振動による効果が低減すること、また、弾性面が連続していないため、長波長のエネルギー吸収のロスが生じたためと考えられる。
【0058】
(樹脂成形体)
実施例3において得られたパーティクル成形品、及び実施例4で得られたパウダー成形品の低周波領域の吸音特性を、上記の発泡樹脂と同様にして評価した。その結果を
図9に示す。
図9に示すように、樹脂成形体の場合には、パーティクル品及びパウダー品では難しかった低周波領域の吸音特性の向上が認められた。これは、波長の長い低周波の音波を、樹脂成形体の連なった面で受けることにより、樹脂成形体の面全体が振れることで吸音効果が出ていると考えられる。また、パーティクル成形品は表面が凹凸状態であるため、この表面形状により更に吸音特性が向上したと考えられる。
【0059】
<吸水試験>
実施例3において得られたパーティクル成形品、及び実施例4で得られたパウダー成形品について、次のようにして吸水性及び保水性を評価した。
(吸水試験)
パーティクル成形品及びパウダー成形品から、厚さ約25mm、幅約25mm及び長さ約25mmの試験片をそれぞれ3個切り出し、寸法を0.1mmの単位で測定した。試験片を、24時間60℃で乾燥させた後、常温の純水の入った容器に水面下30mmに完全に埋没するように試験片を浸漬し、数時間に一回程度ゆっくりと水をかき混ぜ、24時間吸水させた。24時間経過後に試験片を取り出し、鉛直から約45°に傾斜したふるいに乗せて30秒間放置させ、その後それぞれの質量を0.01gの単位で測定した。これを吸水量とし、表面積100cm
2当たりに換算し、3点の平均を求め評価した。
吸水試験の結果を
図10に示す。なお、
図10において、「スポンジ」とは、連通した気孔を有する発泡樹脂の所謂スポンジを意味し、また、「フリー発泡品」とは、独立した気泡を有する発泡ウレタンを意味する。
【0060】
(保水試験)
脱脂綿の上に金網を乗せ、試験片と脱脂綿が直接触れないようにし、その上に前記吸水試験で用いた吸水させた試験片を置き、時間経過とともに重量を測定した。なお、前記吸水試験において吸水量の平均値に最も近い吸水量を示した試験片を保水試験の試験片として用いた。測定の際は試験片の上下を決め、必ず同じ面を下にして測定を行った。
保水試験の結果を
図11に示す。
図11において、「スポンジ」及び「フリー発泡品」は
図10と同じものを意味する。
【0061】
図10及び
図11に示すように、パーティクル成形品及びパウダー成形品はいずれも吸水率、保水性に優れていることが確認された。特に、パウダー成形品はパーティクル成形品に比べて高い吸水率と高い保水性を示した。これは、パウダー化された発泡樹脂は、微細空洞の口径が1〜2μm程度の小さなサイズに均一化しているため、毛細管現象で吸収された水分が、水の表面張力によってパーティクル成形品よりもより放散されにくくなったためと考えられる。