(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6799287
(24)【登録日】2020年11月25日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】杭支持構造物及びその杭頭部接合方法
(51)【国際特許分類】
E02B 3/06 20060101AFI20201207BHJP
E02D 27/32 20060101ALI20201207BHJP
E02D 27/38 20060101ALI20201207BHJP
E02D 27/12 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
E02B3/06 301
E02D27/32 A
E02D27/38 A
E02D27/12 Z
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-157507(P2016-157507)
(22)【出願日】2016年8月10日
(65)【公開番号】特開2018-25042(P2018-25042A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2019年8月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100172096
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 理太
(74)【代理人】
【識別番号】100089886
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 雅雄
(72)【発明者】
【氏名】池野 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】三好 俊康
(72)【発明者】
【氏名】永守 学
(72)【発明者】
【氏名】前田 一成
【審査官】
富士 春奈
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−183324(JP,A)
【文献】
特開2000−248526(JP,A)
【文献】
特開平04−350207(JP,A)
【文献】
特開2013−217090(JP,A)
【文献】
特開平09−170219(JP,A)
【文献】
特開2005−076399(JP,A)
【文献】
特開2015−168946(JP,A)
【文献】
特開2007−077591(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/130009(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B3/04−3/14
17/00−17/08
E02D5/22−5/80
27/00−27/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管杭に支持されたプレキャスト部材を備え、
該プレキャスト部材は、下面に開口した杭挿入部を有するプレキャスト部材本体と、該杭挿入部の内側に支持された鞘管と、該鞘管内に突出した支承部材とを備え、前記鞘管と前記鋼管杭の杭頭部とが嵌合されるとともに、前記支承部材が鋼管杭の杭頭部に支持され、前記鞘管と前記杭頭部との間に充填材が打設されるようにしてなる杭支持構造物において、
前記鞘管は、前記プレキャスト部材本体の下面より突出する重複突出部を備え、該重複突出部の外周に重防食被覆が形成され、
前記プレキャスト部材は、前記鞘管内に配置された型枠支持部材と、該型枠支持部材を前記鞘管に支持させた支持片と、前記型枠支持部材の下端に支持された底型枠とを備え、
前記鞘管が前記杭頭部の外側に嵌合され、前記鋼管杭内に挿入された前記底型枠によって前記鋼管杭の所定の位置が閉鎖され、
前記鋼管杭内に中詰めコンクリートが打設されていることを特徴とする杭支持構造物。
【請求項2】
前記プレキャスト部材本体は、前記杭挿入部を有する中心支持部と、該中心支持部より外向きに張り出した1又は複数の梁用片持ち部とにより構成されている請求項1に記載の杭支持構造物。
【請求項3】
鋼管杭に支持されたプレキャスト部材を備え、
該プレキャスト部材は、下面に開口した杭挿入部を有するプレキャスト部材本体と、該杭挿入部の内側に支持された鞘管と、該鞘管内に突出した支承部材とを備え、前記鞘管と前記鋼管杭の杭頭部とが嵌合されるとともに、前記支承部材が鋼管杭の杭頭部に支持され、前記鞘管と前記杭頭部との間に充填材が打設されるようにしてなる杭支持構造物において、
前記鞘管は、前記プレキャスト部材本体の下面より突出する重複突出部を備え、該重複突出部の外周に重防食被覆が形成され、
前記杭頭部には、前記支承部材が嵌まり込む一対の受け凹部を備え、該各受け凹部は、前記鋼管杭の上端に開口した導入部と、該導入部の底部と周方向に連続する係合切欠き部とを備え、
前記支承部材は、前記導入部を通して前記受け凹部に挿入され、且つ、前記プレキャスト部材を杭軸回りに回転させることにより係合切り欠き部内に挿入され、前記鋼管杭の杭頭部に係合されるようにしたことを特徴とする杭支持構造物。
【請求項4】
鞘管を有するプレキャスト部材を使用し、前記鞘管と鋼管杭の杭頭部とを嵌合させ、前記鞘管内に突出した支承部材を前記杭頭部に支持させた後、前記鞘管と前記杭頭部との間に充填材を打設し、前記杭頭部にプレキャスト部材を接合させる杭支持構造物の杭頭部接合方法において、
前記プレキャスト部材には、前記鞘管内に配置された型枠支持部材と、該型枠支持部材を前記鞘管に支持させた支持片と、前記型枠支持部材の下端に支持された底型枠とを備え、且つ、前記鞘管にプレキャスト部材本体の下面より突出する重複突出部を備えるとともに、前記重複突出部の外周に重防食被覆を予め形成しておき、
前記鞘管を前記鋼管杭の杭頭部の外側に嵌合させることにより、前記鋼管杭の飛沫飛来部分を前記重防食被覆で覆うとともに、前記底型枠が前記鋼管杭内に挿入され、前記鋼管杭の所定の位置を閉鎖し、しかる後、前記鋼管杭内に中詰めコンクリートを打設することを特徴とする杭支持構造物の杭頭部接合方法。
【請求項5】
既設鋼管杭の上端を切断し、該既設鋼管杭に支持された既設上部工を撤去した後、前記プレキャスト部材を移動させ、前記鞘管を前記既設鋼管杭の杭頭部外側に嵌合させ、該鞘管内に突出した支承部材を前記杭頭部に支持させた後、前記鞘管と前記杭頭部との間に充填材を打設し、前記既設鋼管杭の杭頭部にプレキャスト部材を接合させる請求項4に記載の杭支持構造物の杭頭部接合方法。
【請求項6】
鞘管を有するプレキャスト部材を使用し、前記鞘管と鋼管杭の杭頭部とを嵌合させ、前記鞘管内に突出した支承部材を前記杭頭部に支持させた後、前記鞘管と前記杭頭部との間に充填材を打設し、前記杭頭部にプレキャスト部材を接合させる杭支持構造物の杭頭部接合方法において、
前記プレキャスト部材には、前記鞘管にプレキャスト部材本体の下面より突出する重複突出部を備えるとともに、前記重複突出部の外周に重防食被覆を予め形成しておき、
前記杭頭部に前記支承部材が嵌まり込む一対の受け凹部を備え、該各受け凹部は、前記鋼管杭の上端に開口した導入部と、該導入部の底部と周方向に連続する係合切欠き部とを備え、
前記鞘管を前記鋼管杭の杭頭部の外側に嵌合させることにより、前記鋼管杭の飛沫飛来部分を前記重防食被覆で覆うとともに、
前記導入部を通して前記受け凹部に前記支承部材を挿入し、前記プレキャスト部材を杭軸回りに回転させることにより前記支承部材を係合切り欠き部内に挿入し、前記鋼管杭の杭頭部に係合させることを特徴とする杭支持構造物の杭頭部接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管杭にプレキャストコンクリート部材を支持させてなる桟橋等の杭支持構造物及びその杭頭部接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
桟橋等の杭支持構造物は、水底地盤に打設された複数の鋼管杭と、鋼管杭に支持されたコンクリート製の梁部とを備え、梁部上にコンクリート床版が形成されている。
【0003】
従来、コンクリート製の梁部は、各鋼管杭を打設した後、隣接する鋼管杭間に鉄骨の設置や鉄筋の配筋等を行うとともに、鋼管杭に支持させた支保工を利用して鋼管杭間に型枠を形成し、コンクリートを場所打ちすることによって梁部を形成するとともにそれと鋼管杭の杭頭部とを接合していた。
【0004】
しかしながら、このような工法では、梁部を場所打ちコンクリートで形成するため、各作業を行うための作業足場や支保工の設置、鉄筋・鉄骨の配置、型枠の組立・解体、コンクリートの打設・養生等の全ての作業を海上で行わなければならず、海象・気象条件の影響が大きいとともに、工期が長期化するという問題があった。
【0005】
そこで、このような問題を鑑み、従来では、梁を構成する1又は複数のプレキャストコンクリート造の既製部材を予め陸上の工場又は製作ヤードで製造し、それを施工現場に搬送し、鋼管杭の頭部に当該既製部材を支持させ、その状態で杭頭部と既製部材との間にコンクリートを打設することにより接合させるようにした工法が用いられている(例えば、特許文献1を参照)。
【0006】
この種の工法においては、例えば、既製部材に鋼管杭よりも一回り大きな鞘管と、鞘管内を横切るH鋼等からなる支承部材を設けておき、支承部材を鋼管杭の杭頭部に支持させることで既製部材を鋼管杭に仮支持させ、その状態で鞘管と鋼管杭との間にグラウトを充填することによって既製部材が杭頭部に接合されるようにしたものが知られている。
【0007】
一方、桟橋等の杭支持構造物においては、鋼管杭の水面より一定高さにある部分が常に塩化物等の飛沫に晒されることから、従来では、陸上において鋼管杭の上端から一定範囲にポリエチレンやウレタンエラストマー等からなる重防食被覆を設けておき、その状態で鋼管杭を打設することで飛沫飛来部分を重防食被覆で保護するようにしていた。
【0008】
また、桟橋等の杭支持構造物においては、老朽化が進んだ場合、損傷が激しい鋼管杭の上端の飛沫帯部分を切断するとともに、鋼管杭に支持されたコンクリート造の上部工を解体撤去した後、残存した鋼管杭の頭部に新たにプレキャストコンクリート造の既製部材を接合させて梁を形成する工法も開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−288725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述の如き従来の技術では、設置後の鋼管杭に重防食被覆を施すことが困難であり、特に、老朽化した桟橋等を再建する際、飛沫飛来部分を切断した後の鋼管杭に重防食被覆を施すことが困難であった。
【0011】
一方、予め陸上で鋼管杭の上端部に重防食被覆を施しておく場合、水面に対する重防食被覆の位置が鋼管杭の杭頭端部レベルに依存するため、杭頭端部レベルによって当該重防食被覆が飛沫飛来部分に対応した適切な位置に配置されないおそれがあった。
【0012】
そこで、本発明は、このような従来の問題に鑑み、鋼管杭の適切な位置に重防食被覆が配置される杭支持構造物及びその杭頭部接合方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の如き従来の問題を解決するための請求項1に記載の発明の特徴は、鋼管杭に支持されたプレキャスト部材を備え、該プレキャスト部材は、下面に開口した杭挿入部を有するプレキャスト部材本体と、該杭挿入部の内側に支持された鞘管と、該鞘管内に突出した支承部材とを備え、前記鞘管と前記鋼管杭の杭頭部とが嵌合されるとともに、前記支承部材が鋼管杭の杭頭部に支持され、前記鞘管と前記杭頭部との間に充填材が打設されるようにしてなる杭支持構造物において、前記鞘管は、前記プレキャスト部材本体の下面より突出する重複突出部を備え、該重複突出部の外周に重防食被覆が形成され
、前記プレキャスト部材は、前記鞘管内に配置された型枠支持部材と、該型枠支持部材を前記鞘管に支持させた支持片と、前記型枠支持部材の下端に支持された底型枠とを備え、前記鞘管が前記杭頭部の外側に嵌合され、前記鋼管杭内に挿入された前記底型枠によって前記鋼管杭の所定の位置が閉鎖され、前記鋼管杭内に中詰めコンクリートが打設されている杭支持構造物にある。
【0014】
請求項2に記載に発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記プレキャスト部材本体は、前記杭挿入部を有する中心支持部と、該中心支持部より外向きに張り出した1又は複数の梁用片持ち部とにより構成されていることにある。
【0015】
請求項3に記載の発明の特徴は、
鋼管杭に支持されたプレキャスト部材を備え、該プレキャスト部材は、下面に開口した杭挿入部を有するプレキャスト部材本体と、該杭挿入部の内側に支持された鞘管と、該鞘管内に突出した支承部材とを備え、前記鞘管と前記鋼管杭の杭頭部とが嵌合されるとともに、前記支承部材が鋼管杭の杭頭部に支持され、前記鞘管と前記杭頭部との間に充填材が打設されるようにしてなる杭支持構造物において、前記鞘管は、前記プレキャスト部材本体の下面より突出する重複突出部を備え、該重複突出部の外周に重防食被覆が形成され、前記杭頭部には、前記支承部材が嵌まり込む一対の受け凹部を備え、該各受け凹部は、前記鋼管杭の上端に開口した導入部と、該導入部の底部と周方向に連続する係合切欠き部とを備え、前記支承部材は、前記導入部を通して前記受け凹部に挿入され、且つ、前記プレキャスト部材を杭軸回りに回転させることにより係合切り欠き部内に挿入され、前記鋼管杭の杭頭部に係合されるようにしたことにある。
【0016】
請求項4に記載の発明の特徴は、鞘管を有するプレキャスト部材を使用し、前記鞘管と鋼管杭の杭頭部とを嵌合させ、前記鞘管内に突出した支承部材を前記杭頭部に支持させた後、前記鞘管と前記杭頭部との間に充填材を打設し、前記杭頭部にプレキャスト部材を接合させる杭支持構造物の杭頭部接合方法において、前記プレキャスト部材には、
前記鞘管内に配置された型枠支持部材と、該型枠支持部材を前記鞘管に支持させた支持片と、前記型枠支持部材の下端に支持された底型枠とを備え、且つ、前記鞘管にプレキャスト部材本体の下面より突出する重複突出部を備えるとともに、前記重複突出部の外周に重防食被覆を予め形成しておき、前記鞘管を前記鋼管杭の杭頭部の外側に嵌合させることにより、前記鋼管杭の飛沫飛来部分を前記重防食被覆で覆う
とともに、前記底型枠が前記鋼管杭内に挿入され、前記鋼管杭の所定の位置を閉鎖し、しかる後、前記鋼管杭内に中詰めコンクリートを打設する杭支持構造物の杭頭部接合方法にある。
【0017】
請求項5に記載の発明の特徴は、請求項4の構成に加え、既設鋼管杭の上端を切断し、該既設鋼管杭に支持された既設上部工を撤去した後、前記プレキャスト部材を移動させ、前記鞘管を前記既設鋼管杭の杭頭部外側に嵌合させ、該鞘管内に突出した支承部材を前記杭頭部に支持させた後、前記鞘管と前記杭頭部との間に充填材を打設し、前記既設鋼管杭の杭頭部にプレキャスト部材を接合させることにある。
【0018】
請求項6に記載の発明の特徴は、
鞘管を有するプレキャスト部材を使用し、前記鞘管と鋼管杭の杭頭部とを嵌合させ、前記鞘管内に突出した支承部材を前記杭頭部に支持させた後、前記鞘管と前記杭頭部との間に充填材を打設し、前記杭頭部にプレキャスト部材を接合させる杭支持構造物の杭頭部接合方法において、前記プレキャスト部材には、前記鞘管にプレキャスト部材本体の下面より突出する重複突出部を備えるとともに、前記重複突出部の外周に重防食被覆を予め形成しておき、前記杭頭部に前記支承部材が嵌まり込む一対の受け凹部を備え、該各受け凹部は、前記鋼管杭の上端に開口した導入部と、該導入部の底部と周方向に連続する係合切欠き部とを備え、前記鞘管を前記鋼管杭の杭頭部の外側に嵌合させることにより、前記鋼管杭の飛沫飛来部分を前記重防食被覆で覆うとともに、前記導入部を通して前記受け凹部に前記支承部材を挿入し、前記プレキャスト部材を杭軸回りに回転させることにより前記支承部材を係合切り欠き部内に挿入し、前記鋼管杭の杭頭部に係合させることことにある。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る杭支持構造物は、上述したように、鋼管杭に支持されたプレキャスト部材を備え、該プレキャスト部材は、下面に開口した杭挿入部を有するプレキャスト部材本体と、該杭挿入部の内側に支持された鞘管と、該鞘管内に突出した支承部材とを備え、前記鞘管と前記鋼管杭の杭頭部とが嵌合されるとともに、前記支承部材が鋼管杭の杭頭部に支持され、前記鞘管と前記杭頭部との間に充填材が打設されるようにしてなる杭支持構造物において、前記鞘管は、前記プレキャスト部材本体の下面より突出する重複突出部を備え、該重複突出部の外周に重防食被覆が形成されていることにより、鋼管杭の杭頭端部レベル等に影響されず、所望の高さに重防食被覆を設けることができる。また、鞘管で杭頭モーメントに対抗でき、最大杭頭モーメントの影響を排除できるので、その分、鋼管杭の性能を抑えることができ、コストダウンを図ることができる。
【0020】
また、本発明において、前記プレキャスト部材本体は、前記杭挿入部を有する中心支持部と、該中心支持部より外向きに張り出した1又は複数の梁用片持ち部とにより構成されていることにより、プレキャスト部材の組み合わせによって任意の形状の梁部を形成することができる。
【0021】
更に、本発明において、前記杭頭部には、前記支承部材が嵌まり込む一対の受け凹部を備え、該各受け凹部は、前記鋼管杭の上端に開口した導入部と、該導入部の底部と周方向に連続する係合切欠き部とを備え、前記支承部材は、前記導入部を通して前記受け凹部に挿入され、且つ、前記プレキャスト部材を杭軸回りに回転させることにより係合切り欠き部内に挿入され、前記鋼管杭の杭頭部に係合されるようにしたことにより、プレキャスト部材の重心が偏った場合においても安定して杭頭部に仮支持させることができる。
【0022】
また、鞘管を有するプレキャスト部材を使用し、前記鞘管と鋼管杭の杭頭部とを嵌合させ、前記鞘管内に突出した支承部材を前記杭頭部に支持させた後、前記鞘管と前記杭頭部との間に充填材を打設し、前記杭頭部にプレキャスト部材を接合させる杭支持構造物の杭頭部接合方法において、前記プレキャスト部材には、前記鞘管にプレキャスト部材本体の下面より突出する重複突出部を備えるとともに、該重複突出部の外周に重防食被覆を予め形成しておき、前記鞘管を前記鋼管杭の杭頭部の外側に嵌合させることにより、前記鋼管杭の飛沫飛来部分を前記重防食被覆で覆うことにより、杭頭部に容易に重防食被覆を施工
することができる。
【0023】
更に、本発明において、既設鋼管杭の上端を切断し、該既設鋼管杭に支持された既設上部工を撤去した後、前記プレキャスト部材を移動させ、前記鞘管を前記既設鋼管杭の杭頭部外側に嵌合させ、該鞘管内に突出した支承部材を前記杭頭部に支持させた後、前記鞘管と前記杭頭部との間に充填材を打設し、前記既設鋼管杭の杭頭部にプレキャスト部材を接合させることにより、老朽化した桟橋等の杭支持構造物の再構築に際し、鋼管杭の切断位置に依存せずに所定の位置に容易に重防食被覆を施工することができる。
【0024】
更にまた、本発明において、前記プレキャスト部材は、前記鞘管内に配置された型枠支持部材と、該型枠支持部材を前記鞘管に支持させた支持片と、前記型枠支持部材の下端に支持された底型枠とを備え、前記鞘管を前記杭頭部の外側に嵌合させることにより、前記底型枠が前記鋼管杭内に挿入され、前記鋼管杭の所定の位置を閉鎖し、しかる後、前記鋼管杭内に中詰めコンクリートを打設することにより、中詰めコンクリートを打設するための型枠を鞘管の設置とともに設置することができ、工期の短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明に係る杭支持構造物の概要を示す正面図である。
【
図2】
図1中の梁部を示す同上のA-A線断面図である。
【
図3】
図1中の杭頭部接合の状態を示す拡大縦断面図である。
【
図4】同上のプレキャスト部材を示す拡大縦断面図である。
【
図5】
図1中の鋼管杭の杭頭部を示す拡大平面図、(b)は同部分拡大正面図、(c)は同B−B線断面図である。
【
図6】同上のプレキャスト部材の取り付け工程を示す断面図である。
【
図7】同上の取り付け時のプレキャスト部材の状態を示す平面図である。
【
図8】本発明に係る杭支持構造物及びその杭頭部接合方法の他の実施例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明に係る杭支持構造物1の実施態様を
図1〜
図5に示した実施例に基づいて説明する。尚、図中符号1は桟橋等の杭支持構造物である。
【0027】
この杭支持構造物1は、
図1に示すように、水底地盤2に打設された複数の鋼管杭3,3...と、鋼管杭3,3...の支持されたプレキャスト部材4,4...からなる梁部5とを備え、梁部5上に床版部6が形成されている。
【0028】
梁部5は、
図2に示すように、複数のプレキャスト部材4,4...と、各プレキャスト部材4,4...間を連結する場所打ちコンクリート部7とを備え、格子状に形成されている。
【0029】
各プレキャスト部材4,4...は、
図3に示すように、少なくとも下面が開口した杭挿入部8を有するプレキャスト部材本体9と、杭挿入部8の内側に支持された鞘管10と、鞘管10内に突出した支承部材11とを備え、鋼管杭3,3...の杭頭部に支承部材11が支持されることにより仮支持され、嵌合された鞘管10と杭頭部との間にグラウト等の充填材12が打設されることにより杭頭部に接合されている。
【0030】
また、この杭支持構造物1では、鋼管杭3,3...の上端より所望の深さまで中詰めコンクリート13が打設されている。
【0031】
プレキャスト部材本体9は、杭挿入部8を有する中心支持部9aと、中心支持部9aより外向きに張り出した1又は複数の梁用片持ち部9bとにより構成され、それぞれ平面視L字状、T字状又は十字状に形成されている。
【0032】
そして、梁部5は、平面視L字状、T字状、十字状の各プレキャスト部材4,4...を組み合わせ、梁用片持ち部9b,9b間に場所打ちでコンクリートを打設し、梁用片持ち部9b,9b間を連結することにより、格子状に形成されている。
【0033】
鞘管10は、プレキャスト部材本体9の高さ(上下方向厚さ)より長く形成され、その上端が杭挿入部8に挿入された状態でプレキャスト部材本体9と一体化されている。
【0034】
また、鞘管10は、プレキャスト部材本体9の下面より突出した重複突出部10aを備え、重複突出部10aの外周に重防食被覆15が形成されている。
【0035】
重防食被覆15は、ポリエチレンやウレタンエラストマー等からなる重防食用被覆材によって構成され、この重防食用被覆材によって重複突出部10aの外周全体又は重複突出部10aの下端より一定範囲の外周が被覆されている。
【0036】
尚、重複突出部10aの高さは、鋼管杭3,3...の打設深度、鋼管杭3,3...の満潮時及び干潮時の水面突出高さ、設計上必要な杭頭モーメントを満たす長さ等を基に決定する。
【0037】
支承部材11は、H型鋼等によって構成され、鞘管10の下端から所定の高さにおいて鞘管10内を直径方向に横切るように配置し、溶接によって固定されている。
【0038】
そして、この支承部材11が鋼管杭3,3...の杭頭部に形成された受け凹部16と係合することにより、鞘管10を介してプレキャスト部材4,4...が鋼管杭3の杭頭部に仮支持されるようになっている。
【0039】
受け凹部16は、
図5に示すように、鋼管杭3杭頭部の互いに対称な位置に形成され、鋼管杭3,3...の上端に開口した導入部20と、導入部20の底部と周方向に連続する係合切欠き部21とを備えている。
【0040】
そして、支承部材11は、鞘管10を鋼管杭3,3...の外側に嵌合させる際、導入部20を通して受け凹部16に挿入され、プレキャスト部材4,4...を杭軸回りに回転させることにより係合切欠き部21内に挿入され、係合切欠き部21の上側内縁21a、即ち、鋼管杭3,3...の杭頭部に係合されるようになっている。
【0041】
尚、受け凹部16には、支承部材11を係合させた際のレベル調整やがたつきを補正するために必要に応じて調整嵩上げ部22を設けてもよい。
【0042】
この調整嵩上げ部22は、
図5に示すように、導入部20側から係合切欠き部21側に上向きに傾斜したスロープ部22aを備え、溶接によって受け凹部16の下縁に一体化されている。
【0043】
尚、鋼管杭3,3...は、その杭頭端部レベルに応じて、水面より突出する高さが異なるため、各鋼管杭3,3...に設ける調整嵩上げ部22の高さを調整することにより、各鋼管杭3,3...に対する鞘管10の取り付け位置が調整でき、それによって、重複突出部10aの位置が統一され、飛沫飛来部分に重防食被覆15が配置されるようになっている。
【0044】
また、プレキャスト部材4,4...は、鞘管10内に配置された型枠支持部材23,23と、型枠支持部材23,23を鞘管10に支持させた支持片24と、型枠支持部材23,23の下端に支持された底型枠25とを備え、鞘管10を鋼管杭3,3...の外側に嵌合させた際、型枠支持部材23,23が鋼管杭3,3...内に挿入されることによって鋼管杭3,3...の上端から所定の高さに底型枠25が配置され、鋼管杭3,3...内が閉鎖されるようにしている。
【0045】
次に、上述の如き杭支持構造物1の杭頭部接合方法について、
図6、
図7に基づいて説明する。尚、上述の実施例と同様の構成には同一符号を付して説明し、符号は水底地盤2に打設された鋼管杭3,3...である。
【0046】
鋼管杭3,3...は、その杭頭端部レベルによって、水面より突出する高さが異なるため、杭頭部3頭部に形成する受け凹部16のレベル、具体的には、調整嵩上げ部22の高さによってレベルを調整しておく。
【0047】
次に、各プレキャスト部材4,4...をクレーン船等によって施工現場まで移送し、
図6(a)〜
図6(b)に示すように、プレキャスト部材4,4...をクレーンによって吊上げ、鋼管杭3,3...の杭頭部への取り付けを開始する。
【0048】
その際、プレキャスト部材4,4...は、実際の取り付け位置に対し杭軸回りに所定の角度だけ回転させ、支承部材11の周方向位置を鋼管杭3,3...の杭頭部に形成された受け凹部16の導入部20の位置に合わせた状態で吊り下ろす。
【0049】
そして、鞘管10が鋼管杭3,3...の杭頭部の外側に嵌め込まれると、導入部20を通して支承部材11が受け凹部16の下縁に当て止めされるとともに、底型枠25が鋼管杭3,3...内に挿入され、鋼管杭3,3...の所定の位置を閉鎖する。
【0050】
次に、
図7(a)の位置から
図7(b)に示す位置まで、プレキャスト部材4,4...を杭軸方向に回転させ、支承部材11を係合切欠き部21内に挿入し、係合切欠き部21の上側内縁、即ち、鋼管杭3,3...の杭頭部に係合させる。
【0051】
その際、調整嵩上げ部22を設けておくことにより、支承部材11がスロープ部に案内されて嵩上げ部22上に移動し、レベル調整やがたつきが補正され、安定した状態で係合切欠き部21と係合する。
【0052】
尚、プレキャスト部材4,4...には、プレキャスト部材本体9に1又は複数の梁用片持ち部9bを備え、重心に偏りがあることから、支承部材11を軸にしてモーメントが作用する。
【0053】
しかしながら、プレキャスト部材4,4...は、支承部材11が係合切欠き部21と係合することで、当該偏心によるモーメントが抑制され、杭頭部に安定した状態で仮支持される。
【0054】
次に、
図6(c)に示すように、プレキャスト部材4,4...を杭頭部に仮支持させた状態で、鞘管10と鋼管杭3,3...との間の隙間をグラウト等の充填材12で充填し、鋼管杭3,3...の杭頭部にプレキャスト部材4,4...を接合する。
【0055】
また、
図6(d)に示すように、杭挿入部8の上端より場所打ちコンクリートにより中詰めコンクリート13を打設してプレキャスト部材4,4...の設置が完了する。
【0056】
そして、鋼管杭3,3...毎に上述したプレキャスト部材4,4...の接合作業を行った後、隣り合う梁用片持ち部9b間に鉄筋等を配設するとともに型枠を設置し、場所打ちコンクリートを打設して各プレキャスト部材4,4...間を連結する場所打ちコンクリート部7を形成する。
【0057】
そして、場所打ちコンクリートを養生固化させることにより、鋼管杭3,3...に支持された格子状の梁部5が形成され、梁部5上に場所打ちコンクリート又はプレキャスト床板を設置することにより床版を設置し、杭支持構造物1が構築される。
【0058】
尚、杭支持構造物1の杭頭部接合方法は、上述の実施例に限定されず、例えば、
図8に示すように、プレキャスト部材本体9と鞘管10とを別個に用意しておき鋼管杭3,3...に接合するものであってもよい。
【0059】
この工法では、鞘管10の上端に上側に開口した矩形状の嵌合凹部30を形成しておき、プレキャスト部材本体9には、上下に貫通した杭挿入部8内を横切るように支承部材31を設置しておく。また、鋼管杭3,3...にも上側に開口した矩形状の嵌合凹部32を形成しておく。
【0060】
そして、まず、鋼管杭3,3...の外側に鞘管10を嵌合させ、支承部材11を鋼管杭3,3...上端の嵌合凹部32に嵌め込むとともに、鞘管10に支持させた底型枠25を鋼管杭3内に挿入する。
【0061】
この状態では、鞘管10とプレキャスト部材本体9とが分離されているので安定した状態で鞘管10が鋼管杭3に支持される。
【0062】
そして、この状態で鞘管10と鋼管杭3,3...との間をグラウト等の充填材12で充填するとともに、鋼管内に中詰めコンクリート13を打設し、鞘管10を鋼管杭3,3...に接合する。
【0063】
次に、プレキャスト部材本体9をクレーン等で吊上げ、鞘管10の上端部に嵌合させることにより、プレキャスト部材本体9の支承部材11を嵌合凹部に嵌め込み、鞘管10を介してプレキャスト部材本体9を鋼管杭3,3...に支持させる。
【0064】
そして、この状態で杭挿入部8内面と鞘管10との間をグラウト等で充填するとともに、鞘管10内に中詰めコンクリート13を打設し、鞘管10とプレキャスト部材本体9とを接合することでプレキャスト部材4,4...の設置が完了する。
【0065】
更に、本発明は、老朽化した桟橋等の杭支持構造物1の再構築にも適用でき、既設鋼管杭3,3...の上端を切断し、既設鋼管杭3,3...に支持された既設上部工を撤去した後、上記実施例と同様にプレキャスト部材4,4...を設置することにより既設鋼管杭3,3...に新たな上部工を形成することができる。
【0066】
このように構成された杭支持構造物1では、鋼管杭3,3...の杭頭部に鞘管10が嵌合することで杭頭モーメントに対抗することができるので、鋼管杭3,3...の設計においては、最大杭頭モーメントによる影響を排除でき、その分コストダウンを図ることができる。
【0067】
また、この杭支持構造物1では、鞘管10が重複突出部10aを備え、その外周に重防食被覆15が形成されているので、鋼管杭3,3...の杭頭端部レベルに設計値との間で誤差が生じた場合であっても、所望の位置に重防食被覆15を配置することができる。
【0068】
また、老朽化した桟橋等の杭支持構造物1の再構築に際しても、飛沫飛来部分に容易に重防食被覆15を形成することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 杭支持構造物
2 水底地盤
3 鋼管杭
4 プレキャスト部材
5 梁部
6 床版部
7 場所打ちコンクリート部
8 杭挿入部
9 プレキャスト部材本体
10 鞘管
11 支承部材
12 充填材
13 中詰めコンクリート
15 重防食被覆
16 受け凹部
20 導入部
21 係合切欠き部
22 調整嵩上げ部
23 型枠支持部材
24 支持片
25 底型枠