【実施例】
【0037】
〔実施例1〕
I.神奈川県川崎市の土壌よりトリエチレングリコールモノブチルエーテル(以下、「BTG」と記す。)を単一炭素源として生育する菌を獲得した。
[土壌からの微生物単離]
1. 土壌からサンプルを採取した。
2. 土壌サンプル1.0g、イオン交換水1.0gを15mLディスポチューブ内で混合した。
3. 混合したディスポチューブを遠心分離した(3,000rpm, 3min)。
4. 遠心分離後、上清を培養液(2mL)に50μL入れ、培養を開始した(30℃)。この際、炭素源ごとに培養液は分けておいた。
5. 数日後、菌体が生育してきたら、培養液(2mL)を作製し、生育してきた培養液から20μLとり、植え継ぎを行なった。この作業を4回行なった。
6. 植え継ぎ4回目の培養液を10
4〜10
7希釈を行ない、その希釈液を固体培地(冨栄養寒天培地)上に培養した。
7. 固体培地上での生育を確認した。
8. 固体培地上のコロニーから炭素源を限定した培養液(=無機塩選択培養液)で培養を行なった。
9. 生育してきた培養液2mLを80%グリセロール溶液1mLと混合し、‐80℃で冷凍保存した(=グリセロールストック)。
10. 冷凍保存されたグリセロールストック溶液から白金耳などを用いて固体培地上に培養した。
11. 固体培地上での生育を確認した。
12. 固体培地上のコロニーから無機塩選択培養液で培養を行なった。
13. 生育してきた培養液2mLを80%グリセロール溶液1mLと混合し、‐80℃で冷凍保存した。以上の操作により、グリコールエーテル分解菌を獲得した。
【0038】
・無機塩選択培養液組成
【0039】
【表2】
【0040】
・富栄養寒天培地組成(100mL)
トリプトン 1g
イーストエキストラクト 0.5g
塩化ナトリウム 0.5g
寒天 0.8g
【0041】
II.獲得した菌はCupriavidus属に属する微生物であった。以下、獲得した菌を、それぞれ、NNM17,19,23,25,26,27,31及び48と称す。
[グリコールエーテル分解菌の同定]
1. 定法に従って、グリコールエーテル分解菌の染色体DNAを抽出した。
2. 定法に従って、抽出した染色体DNAの16SrRNAを解析した。
3. インターネットサイト「BLAST」により相同性検索を行なった結果、Cupriavidus属と99%の相同性を示した。なお、NNM27については、公益財団法人 実験動物中央研究所にも同定を依頼し、上記と同等結果が得られている。
【0042】
III.獲得した菌はBTGを単一炭素源とし、生育下でポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を生産することを確認した。
[PHA生産培養(グリコールエーテルの分解)]
1. グリコールエーテル分解菌を単一炭素源(例:BTG)を含む無機塩選択培地(上述の無機塩選択培養液)で、温度は25〜37℃、好気的条件で培養した。
2. 充分に培養をした後(2日〜3日)、培養液を液量に合わせて集菌した。
3. 上清を取り除き、窒素源をゼロにした無機塩選択培地に溶かした。
4. 3,000rpm、3〜5min、遠心分離した。
5. 上清を取り除き、窒素源をゼロにした無機塩選択培地1mLに溶かし、窒素源をゼロにした単一炭素源を含む無機塩選択培地を加え、培養を温度は25〜37℃、好気的条件で24時間行なった。
【0043】
[PHA分析]
「PHAモノマー化処理」
1. 上記で培養したサンプルを5,000rpm、10minで集菌した。
2. 集菌したサンプルを2mLの100%メタノールを加え、混合した。
3. 6,000rpm、2min、遠心分離した。
4. 上清を取り除き、2mLの50%メタノールを加え、混合した。
5. 6,000rpm、5min、遠心分離した。
6. 上清を取り除き、2mLの滅菌水を加え、混合した。
7. あらかじめ重量を測定したネジつきガラス試験管に菌体液を移した。
8. 6,000rpm、5min、遠心分離した。
9. 上清を取り除き、凍結乾燥機にて、48時間凍結乾燥した。
10. 乾燥後、試験管の重量を測定し、乾燥菌体重量(CDW)を算出した。
11. 凍結乾燥後のサンプルにクロロホルム2mL、100%メタノール1.7mL、濃硫酸0.3mL加えた。
12. 100℃のヒートブロックに140分かけ、反応させた。
13. 反応液が常温になったら滅菌水1mL加え、6,000rpm、10min、遠心分離した。
14. 下層を1000〜2000μLとり、フィルター処理をした。
15. 新しい容器にクロロホルム1,000μL、安息香酸メチル1μLとり混合した。
16. 15と14のサンプル抽出液をそれぞれ150μLずつ合わせてGCサンプルとした。
【0044】
「PHA蓄積率計算」
ガスクロマトグラフィー(GC)で検出された積分値からPHA蓄積率を算出した。
X、Y:C4、C5の補正係数 K:補正係数 m:乾燥菌体重量(mg)
s:内部標準物質(安息香酸メチル)のGCにおける積分値
※K:補正係数はあらかじめ、C4標準物質である3−ヒドロキシブタン酸メチルを用いて求めた。
【0045】
C4、C5の補正係数は各標準物質である3−ヒドロキシブタン酸メチル、3−ヒドロキシバレル酸メチルを用いて求めた。
【0046】
・GC分析条件
測定機器:SHIMADZU GC-2014
カラム:Inertcap 1 30m×0.32mmID×0.25μm 、サンプル注入量:1.0μL
キャリヤガス:He 線速度:30cm/sec スプリット:1/100
INJ:300℃ DET:300℃
カラム:100℃(0min)→ 20℃/min → 300℃(5min)合計15.0min
【0047】
IV.生産されたPHAは(R)-3-ヒドロキシブタン酸を主として形成されていたが、(R)-3-ヒドロキシ吉草酸も含まれていることが確認された。
【0048】
「PHA組成比計算」
GCで検出された積分値より生産されたPHAの組成比を求めた。
V.I〜IVの結果より、同定した菌(NNM17,19,23,25,26,27,31,48)の系統樹を
図1に、PHA生産(グリコールエーテル分解)に関する結果を下記の表3に纏めた。
【0049】
〔実施例2〕
獲得した菌をNNM27に固定し、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(以下、「MTG」と記す。)を単一炭素源とした以外は、実施例1と同様に行った。結果を下記の表3に纏めた。
【0050】
〔実施例3〕
獲得した菌をNNM27に固定し、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(以下、「HeDG」と記す。)を単一炭素源とした以外は、実施例1と同様に行った。結果を下記の表3に纏めた。
【0051】
〔実施例4〕
獲得した菌をNNM27に固定し、ジエチレングリコールモノドデシルエーテル(以下、「DDG」と記す。)を単一炭素源とした以外は、実施例1と同様に行った。結果を下記の表3に纏めた。
【0052】
【表3】
獲得した菌については、グレーの欄(NNM17,19,31,27,23)が好ましい形態と見受けられる。
また、グレーの欄より上の欄(NNM25,26,48)は性能を発揮するが、若干劣るものであるように思われる。
更に、獲得した菌をNNM27とし、単一炭素源(基質)の種類を変更しても、同様の性能を発揮する。
【0053】
〔実施例5〕
「生育速度測定」
獲得した菌をNNM27に固定してMTGを単一炭素源とし、実施例1で使用した無機塩選択培養液を使用し、前培養液から1%植菌を行ない、生育曲線が培養開始から定常期に入るまでの時間を測定した。結果を下記の表4に纏めた。また、炭素源濃度に応じた生育速度の変化を小型振とう培養装置を使用して測定した。
測定機器:TVS062CA(ADVANTEC)
測定条件:吸光度測定(660nm) 1時間毎
振とう速度 40rpm
測定時間 50〜120時間
測定温度 30℃
炭素源濃度 0.1%
結果を表5に纏めた。
【0054】
〔実施例6〕
獲得した菌をNNM27に固定し、BTGを単一炭素源とした以外は、実施例5と同様に行った。結果を下記の表4に纏めた。
【0055】
〔実施例7〕
獲得した菌をNNM27に固定し、DDGを単一炭素源とした以外は、実施例5と同様に行った。結果を下記の表4に纏めた。
【0056】
〔調製例〕
アルキレングリコールモノアルキルエーテル類(以下、単にグリコールエーテルとも称する)の合成法の一つとして、アルキレンオキサイド(例えば、酸化エチレン、酸化プロピレン、酸化ブチレン)の付加反応が挙げられる。
(1)混合物1では、原料として炭素数10〜16アルコール(平均炭素数:12.5)を用いた。ここに塩基性触媒として(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、トリエチルアミン)を加え、所定温度まで加熱昇温を行った。続いて原料のアルコール1モルに対して酸化エチレンを10モル分付加することにより混合物1を得た。
(2)混合物2では、原料として炭素数16〜18アルコール(平均炭素数:17.7)を用いた。ここに塩基性触媒として(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、トリエチルアミン)を加え、所定温度まで加熱昇温を行った。続いて原料のアルコール1モルに対して酸化エチレンを7モル分付加することにより混合物2を得た。
(3)混合物3では、原料として炭素数10〜16アルコール(平均炭素数:12.5)を用いた。ここに塩基性触媒として(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、トリエチルアミン)を加え、所定温度まで加熱昇温を行った。続いて原料のアルコール1モルに対して酸化プロピレンを3モル分付加することにより混合物3を得た。
【0057】
〔実施例8〕
獲得した菌をNNM27に固定し、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(上記の式(I)中、Rは炭素数10〜16のアルキル基であり、Aはそれぞれ独立にエチレン基であり、nは平均で10の整数である。(以下、「混合物1」(調製例(1))と記す))を単一炭素源とした以外は、実施例5と同様に行った。結果を下記の表4に纏めた。
【0058】
〔実施例9〕
獲得した菌をNNM27に固定し、ポリオキシエチレンステアリルエーテル(上記の式(I)中、Rは炭素数16〜18のアルキル基であり、Aはそれぞれ独立にエチレン基であり、nは平均で7の整数である。(以下、「混合物2」(調製例(2))と記す))を単一炭素源とした以外は、実施例5と同様に行った。結果を下記の表4に纏めた。
【0059】
〔実施例10〕
獲得した菌をNNM27に固定し、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(上記の式(I)中、Rは炭素数10〜16のアルキル基であり、Aはそれぞれ独立にプロピレン基であり、nは平均で3の整数である。(以下、「混合物3」(調製例(3)と記す)))を単一炭素源とした以外は、実施例5と同様に行った。結果を下記の表4に纏めた。
【表4】
生育速度(表4)より、本発明で獲得した菌(代表としてNNM27)は、上記(I)式のアルキレングリコールモノアルキルエーテル (例として実施例5〜10で示す6種)を炭素源としてどの基質でも生育することを確認した。
【0060】
〔実施例11〕
獲得した菌をNNM27に固定し、混合物1を単一炭素源として、実施例1で使用した無機塩選択培養液にて生育速度測定を行った。結果を下記の表5に纏めた。
【表5】
上記(I)式のアルキレングリコールモノアルキルエーテル(例として実施例11で示す1種)を炭素源とし、更に濃度を0.1−20.0%と変化させても、本発明で獲得した菌(代表としてNNM27)が生育することを確認した。
【0061】
表3より、アルキレングリコールモノアルキルエーテルやポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の濃度を測定したところ、アルキレングリコールモノアルキルエーテルが分解され、後にPHAが生成することを確認した。
【0062】
炭素源となりうるアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、上記式(I)で表されるアルキレングリコールモノアルキルエーテル(式中、Rは炭素数1〜18のアルキル基であり、Aはそれぞれ独立に、エチレン基、プロピレン基又はブチレン基であり、nは1〜50の整数である)の範囲であり、炭素源濃度は0.1%−20.0%が好適である。また、本発明で獲得した菌はアルキレングリコールモノアルキルエーテルを分解してPHAを生産することができる。