【実施例】
【0020】
本発明を以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0021】
(新生仔マウス実験群)
交尾が確認できた日を妊娠0日目とし、出産する前日(妊娠19日目)にメスを1匹に隔離した。そして、出産した日を0日目とし、生後0日目(親を帝王切開)、生後1日目、生後2日目、生後5日目、生後10日目、生後21日目(離乳後)の6群を作成し、各時期の新生仔から腸管(小腸及び大腸)を摘出した。
【0022】
(腸管試料の作製)
マウス新生仔を、毒物の使用基準に従ってジエチルエーテル過剰吸入によって安楽死させ、腸管(小腸及び大腸)を摘出した。大腸はRNAlater(TaKaRa社)に漬けて一晩4℃で浸透させた後、−80℃で保存した。小腸は3等分にし、それぞれを、(1)リアルタイムPCRに用いるサンプルとして、RNAlater(TaKaRa社)に漬けて一晩4℃で浸透させた後、−80℃で保存し、(2)免疫染色に用いるサンプルとして、プラスチック製のクリオモルド(角型1号;Sakura Finetek社)に封入剤であるティシューテックO.C.T.コンパウンド(Sakura Finetek社)と共に入れ、ドライアイス上で速やかに凍結させ、凍結切片用のブロックを作製し、−80℃で保存し、(3)ヘマトキシリン・エオジン(Hematoxylin and Eosin Stain;HE Stain)組織染色に用いるサンプルとして、4%パラホルムアルデヒド固定液に24〜36時間浸漬させ、固定処理を行った。組織染色用サンプルは固定処理後に1×PBSで3〜4回洗浄し、組織標本の作製のために70%エタノール溶液中で保存した。
【0023】
(リアルタイムPCR法)
トータルRNAは、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社)を用いて、プロトコルに従って調製した。cDNAの合成にはSuper Script(商標)First−Strand Synthesis System(Invitrogen社)を使用した。リアルタイムPCR用チューブにFast Start Essential DNA Green Master 2xconc.(Roche社)10μl、Sense primer(10μM)1μl、Anti−sense primer(10μM)1μl、cDNA1μl、Fast Start Essential DNA Green Master H
2O(Roche社)7μlを加えて全反応量を20μlとした。そして、Light Cycler(商標)Nano(Roche社)を使用してリアルタイムPCRを行った。リアルタイムPCRに用いたプライマー(Sigma−Aldrich社)は、GAPDH(PCR産物のサイズ 136bp):5’−GGGTGTGAACCATGAGAAGT−3’(配列番号1;フォワード)、5’−GACTGTGGTCATGAGTCCT−3’(配列番号2;リバース)、CCL25(PCR産物のサイズ 131bp):5’−CCATCAGCAGCAGTAAGAGG−3’(配列番号3;フォワード)、5’−CTGTAGGGCGACGGTTTTAT−3’(配列番号4;リバース)、CCR9(PCR産物のサイズ 110bp):5’−GCCTGAGCAGGGAGATTAT−3’(配列番号5;フォワード)、5’−GAGCAGACAGAGTG−3’(配列番号6;リバース)である。解析する遺伝子としては、CCL25、CCR9及び内部標準としてGAPDHを用いた。それぞれ遺伝子の反応条件は、初期変性を95℃で3分間行った後、CCL25:熱変性(95℃、60秒)、アニーリング(55℃、50秒)、伸長反応(72℃、60秒)を全40サイクル、CCR9:熱変性(95℃、60秒)、アニーリング(58℃、50秒)、伸長反応(72℃、60秒)を全45サイクル、GAPDH:熱変性(95℃、60秒)、アニーリング(55℃、50秒)、伸長反応(72℃、60秒)を全45サイクル、の各条件で増幅を行った。
【0024】
(免疫組織化学的染色)
−80℃で保存した腸管組織を、切片作製の前に、−20℃で約20分間平衡化(切片作製時の粗砕を防止)した後、腸管組織ブロックをクリオスタットで8μmの厚さに薄切し、シランコートした無蛍光スライドガラス(FRC−11;Matsunami社)に貼り付けた。切片がスライド上で乾いた後、冷アセトンで−20℃で10分間浸漬し、風乾した。洗浄バッファー(1XPBS)で切片を各5分間、3回洗浄した後、免疫染色を行った。免疫染色には、CCL25及びIgAそれぞれについて一次抗体及び二次抗体を用いた。1%BSA含有PBSブロッキング液で、各切片を室温で1時間ブロッキング処理した。ブロッキング液を除去し、ブロッキング液で希釈した一次抗体を各切片に添加し、4℃で一晩インキュベートした。一次抗体液を除去し、1XPBSで切片を各5分間、3回洗浄した。1%BSA含有PBSブロッキング液で希釈した二次抗体を各切片に添加し、室温で2時間インキュベートした後、二次抗体を除去し、1XPBSで切片を各5分間、3回洗浄した。その後、水溶性封入剤(Thermo Scientific社)にてスライドグラス上で封入し、実体蛍光顕微鏡(MZ10F;Leica社)にて観察を行った。免疫組織化学的染色に使用した抗体は、CCL25:Goat anti−mouse CCL25/TECK antibody(一次抗体;R&D Systems社)、Fluorescein(FITC)−conjugated AffiniPure Rabbit Anti−Goat
++ IgG (H+L)(二次抗体;Jackson Immuno Research社)、IgA:Goat anti−mouse IgA affinity Purified(一次抗体;Bethyl Laboratories社)、Rhodamine(TRITC)−conjugated AffiniPure Donkey Anti−Goat
++ IgG (H+L)(二次抗体;Jackson Immuno Research社)であり、それぞれ1:100の希釈倍率で用いた。
【0025】
(統計学的解析)
実験結果に関するすべての統計処理は、t−検定を用いて行い、統計学的有意水準は特に明示のない場合については5%(P>0.05)とした。
【0026】
(人工乳汁の作製)
マウス用人工乳汁を用いた人工哺乳法に関する文献(Biosci. Biotechnol. Biochem.,2007, 71(10), 2420-2427及びExperimentalanimals, 2006, 55(4), 391-397)を参考に、脂肪の含有量を16%から18%に修正して、マウス用人工乳汁を作製した。以下に人工乳汁の作成方法を示す。初めに、Casein mixtureを作製した。
(a)セリン(0.2875g)、システイン(0.225g)及びトリプトファン(0.27g)の3種類のアミノ酸を、NaOH(0.25g)及びKOH(1.5g)を含む200mlのアルカリ水溶液に加えた(常にスターラーで撹拌、60〜70℃)。
(b)カゼイン(40.0g)をアルカリ水溶液に加え、溶解した。このCasein mixtureを、沸騰しているお湯の入ったバス中で30分間滅菌した。次に、カゼイン塩のミセルを作製した。
(c)Casein mixtureにカルシウム及びマグネシウムを加えた。CaCl
2・2H
2O(1.7g)、GlyCaPO
4(8g)及びMgCl
2・6H
2O(1.9g)を50mlの蒸留水(121℃で10分間オートクレーブ)に溶かし、ポリトロン様ミキサーでホモジナイズした。これをCasein mixtureにゆっくりと加えた(ホモジナイザーで混ぜ続ける)。
(d)CaCO
3・2H
2O(2.5g)及びCa−citrate(1.2g)を25mlの蒸留水に溶かし、オートクレーブした後、Casein mixtureにゆっくりと加えた。
(e)Na
2HPO
4(0.8g)及びKH
2PO
4(0.08g)を12.5mlの蒸留水に溶かし、オートクレーブで滅菌した後Casein mixtureに加えた。
(f)ラクトース水溶液(ラクトース18.91gを55mlの蒸留水に溶かしたもの)をオートクレーブで滅菌した後、ゆっくりとCasein mixtureに加えた。
(g)FeSO
4・7H
2O(0.48g)及びCitrate−H
2O(0.01g)を5mlの蒸留水に溶かした。そのうちの2.5ml、ZnSO
4・7H
2O(0.3g)、CuSO
4・5H
2O(0.075g)及びMnSO
4・5H
2O(0.0125g)を6.25mlの蒸留水に溶かした。そのうちの1.25ml、NaF(0.00775g)及びKI(0.0125g)を6.25mlの蒸留水に溶かした。そのうちの1.25mlをCasein mixtureに加えた。この操作は、Millipore Filtration(0.45μm)で滅菌した後に、常に撹拌しながら行った。
(h)その後、Whey Protein Isolate(40g)及びWhey Protein Hydrolysate(50g)を250mlの滅菌蒸留水に溶かした。この溶液を、撹拌しながら40℃以下に冷ましたCasein mixtureに加えた。
(i)カルニチン(0.08g)、ピコリン酸(0.04g)、エタノールアミン(0.068g)及びタウリン(0.3g)を5mlの蒸留水に溶かした。そのうちの2.5mlを Casein mixtureに加えた。
(j)クエン酸二水素コリン(1.47g)を18.375mlの蒸留水に溶かした中和溶液(5N NaOHでpH7.0に中和)に、水溶性ビタミンmixture(シアノコバラミン(0.0119mg)、ビオチン(0.18mg)、葉酸(0.78mg)、チアミン塩酸塩(8.81mg)、ピリドキシン塩酸塩(1.25mg)、リン酸リボフラビンナトリウム(12.15mg)、パントテン酸カルシウム(26.43mg)、p−アミノ安息香酸(44.04mg)、ニコチン酸(49.88mg)、アスコルビン酸ナトリウム(674mg)、及び4−イノシトール(487.25mg))を溶かした。そのうちの17.5mlをCasein mixtureに加えた。
(k)脂溶性ビタミン(ビタミンK
3(19.825mg)、ビタミンE:α−トコフェロール(23.45mg)及びビタミンAとDを含む混合物)並びに6種類の食用油(パーム油(53.85g)、ココナッツ油(44.9g)、コーン油(17.955g)、中鎖脂肪酸油(26.9325g)、大豆油(35.91g)及びコレステロール(0.4g))を沸騰しているお湯の入ったバス中で30分間滅菌した。この油性溶液を40〜50℃まで冷ました後、撹拌しながらCasein mixtureに加えた。
(l)この最終混合物を、高圧条件下(180kg/cm
2)で3回ホモジナイズした。
(m)ホモジナイズの後、人工乳汁は無菌的に50ml滅菌ポリプロピレンボトルに分注し、−20℃で凍結させた。
(n)冷凍した人工乳汁はガンマ線照射処理(30kGy)による滅菌をし、哺乳実験まで−20℃で保存した。
【0027】
(人工哺育実験に用いたマウス)
10〜12週齢のddY系マウス(JapanSLC社)及びddY系マウスの新生仔を用いた。
【0028】
(人工哺育実験)
予備実験として、帝王切開して3時間以内に人工乳汁で人工哺育を開始した。32匹の帝王切開による新生仔に人工哺育を行ったところ、3日目には約43%(14匹)の新生仔マウスが死亡した。そして、9日目までに全数の新生仔マウスが死亡した。このことから、本実施例においては、生後2日齢まで母乳哺育させた新生仔に、生後3日齢から、3時間に1回、人工乳汁を与えることとした。
【0029】
(ヘマトキシン染色)
人工哺育したマウスの小腸を摘出し、小腸(十二指腸から空腸まで)をピンでとめて、10%ホルマリン液中で3時間以上浸漬固定処理を行った。固定処理後に蒸留水で数回洗浄し、Mayer’s Hematoxylin Solutionで7分間染色した。その後、蒸留水で一回洗浄した後、一時間流水洗した。
【0030】
(実施例1 新生仔腸管内のCCL25及びCCR9の発現とIgA産生細胞の経時的変化の観察)
リアルタイムPCRにより、腸管組織のCCL25mRNAの発現について解析した。その結果、離乳時期である生後21日目群の発現量を1とした時、小腸でのCCL25mRNA発現量は、生後0日目群で0.12±0.07、生後1日目群で0.09±0.06、生後2日目群で0.39±0.04、生後5日目群で0.62±0.003及び生後10日目群で0.70±0.05であった。すなわち、CCL25mRNAの発現量は、生後2日目から増加し始めて、その量は経時的に増加し、生後5日目群から生後21日目群まで、その発現量は0日目群に比べて、有意に増加した。また、大腸での発現量は、生後0日目群で0.41±0.04、生後1日目群で0.33±0.01、生後2日目群で0.27±0.02、生後5日目群で0.08±0.006及び生後10日目群で0.09±0.006であり、生後21日目群が最も高かった。
【0031】
CCL25の唯一のレセプターであるCCR9について、リアルタイムPCRにより、腸管組織におけるmRNAの発現について解析した。その結果、小腸では、生後21日目群を1とした時、生後0日目群で0.15±0.04、生後1日目群で0.25±0.006、生後2日目群で0.02±0.01、生後5日目群で0.50±0.01及び生後10日目群で0.7±0.01であった。すなわち、CCR9mRNAの発現量は、生後0日目に比較して、生後5日目から有意に増加し始め、その量は経時的に増加していた。そして、生後21日目群のCCR9mRNA量が最も高い値を示した。大腸での発現量は、生後0日目群で0.006±0.0005、生後1日目群で0.036±0.008、生後2日目群で0.005±0.001、生後5日目群で0.005±0.0003及び生後10日目群で0.004±0.0004であり、CCR9mRNAの発現量は、生後1日目群、生後2日目群、生後5日目群及び生後10日目群では低い値を示しており、生後21日目群がピークになることが分かった。
【0032】
次に、生後10日目の大腸及び小腸におけるCCL25及びCCR9のmRNA発現量を比較した。その結果、小腸の発現量を1とした時、大腸のCCL25mRNA発現量は0.07±0.009であった。また、CCR9mRNA発現量は、小腸の発現量を1とした時、大腸のCCR9mRNA発現量は0.06±0.003であった。大腸のCCL25mRNA及びCCR9mRNAの発現量は小腸に対して有意に低い値を示した。この結果から、新生仔腸管におけるCCL25の発現も、腸管機能が確立されている離乳後と同様に、主に小腸で発現していることが確認された。
【0033】
次に、CCL25抗体を用いた免疫組織化学的染色法により、小腸組織のCCL25の経時的変化を確認した。CCL25−FITC抗体を用いて小腸組織においてCCL25の発現に免疫組織化学染色法を行った。蛍光実体顕微鏡で蛍光染色の陽性部位を観察した結果、生後0日目群、生後2日目群及び生後5日目群において小腸の絨毛上皮にCCL25の発現はほとんど確認できなかったが、生後1日目群、生後10日目群及び生後21日目群では、絨毛上皮にCCL25の発現が確認できた。
【0034】
次に、免疫組織化学的染色法によるIgA抗体を用いて、小腸組織のIgA産生細胞の経時的変化を確認した。IgA−RITC抗体を用いて小腸組織においてIgA産生細胞の発現に免疫組織化学染色法を行った。蛍光実体顕微鏡で蛍光染色後に観察を行った結果、生後0日目群、生後2日目群及び生後5日目群では小腸の絨毛上皮にIgA産生細胞の発現はほとんど確認できなかったが、生後10日目群では、ほとんどの、生後21日目群ではすべての絨毛上皮にIgA産生細胞の存在が確認できた。
【0035】
(実施例2 CCL25が体重増加に与える影響)
新生仔マウスを、Yajima et al.の文献(Biosci. Biotechnol. Biochem., 2007, 71(10),2420-2427及びExperimental animals, 2006, 55(4),391-397)に記載の方法に準じて、生後2日齢まで母乳哺育させた後に、3日齢から各人工乳汁を用いて人工哺育を開始した。新生仔マウスを(1)人工乳汁にCCL25(Recombinant Mouse CCL25(TECK)、Bio−Legend社)を0.5μg/ml添加した群(CCL25添加群)及び(2)人工乳汁CCL25抗原の無添加群(コントロール群)の2群に分けた。
【0036】
人工哺育した新生仔マウスの体重変化を調べた結果、CCL25添加群の新生仔マウスの体重は、生後4日齢まではコントロール群とほぼ同等の体重だったが、5日齢以降は、コントロール群に比べて有意に増加した(
図1)。
【0037】
(実施例3 CCL25が免疫器官の重量及びパイエル板に与える影響)
実施例2と同様に新生仔マウスをCCL25添加群及びコントロール群に分け、10日齢まで7日間人工保育した後に解剖し、腸管(小腸及び大腸)、脾臓及び胸腺を摘出し、各重量をCCL25添加群及びコントロール群で比較した。免疫系器官である脾臓、胸腺、及び腸管の体重当たりの重量で比較した結果、コントロール群の脾臓(SP)が3.95%±0.05、胸腺(Thy)が4.00%±0.06、大腸(LI)が7.02%±0.08及び小腸(SI)が5.46%±0.10であったのに対して、CCL25添加群の脾臓重量(SP)は4.99%±0.058、胸腺重量(Thy)は4.95%±0.059、大腸重量(LI)は6.99%±0.04及び小腸重量(SI)は6.44%±0.06であった。CCL25添加群では、コントロール群に対して、小腸の重量が高い傾向が見られ、さらに、脾臓及び胸腺の重さが有意に高かった(
図2)。これに対して、体重あたりの大腸の重量はコントロール群とCCL25添加群でほぼ同じ値を示した。
【0038】
また、ヘマトキシン染色した小腸を顕微鏡で観察して、小腸内のパイエル板の数を数え、一匹当たりのパイエル板の数を算出した。さらに、一つ一つのパイエル板の長径及び短径を測定して、その平均を一つのパイエル板の大きさとし、一匹当たりのパイエル板の大きさを算出した。コントロール群及びCCL25添加群について、パイエル板の個数及び大きさを比較した結果、個々のパイエル板の大きさには差がみられなかったが、パイエル板の個数はCCL25添加群の方がコントロール群よりも多い傾向がみられた。
【0039】
(実施例4 CCL25が腸管組織のCCL25mRNA及びCCR9mRNAの発現に与える影響)
腸管組織のCCL25mRNAの発現について調べた結果、コントロール群の小腸CCL25mRNA発現量を1とした時、CCL25添加群での発現量は0.79±0.11であった。有意差はなかったが、コントロール群で発現量がより高い傾向が見られた。また、腸管組織のCCR9mRNAの発現量について調べた結果、コントロール群の小腸CCR9mRNA発現量を1とした時、CCL25添加群での発現量は1.29±0.16であった。有意差はなかったが、CCL25添加群で発現量がより高い傾向が見られた。
【0040】
(実施例5 CCL25が小腸の腸絨毛におけるIgA産生細胞数に与える影響)
IgA−RITC抗体を用いて小腸組織のIgA産生細胞の免疫組織化学染色を行った。一つの腸管(小腸)の絨毛を7本選び、その中で陽性を示したIgA産生細胞の数を数え、コントロール群及びCCL25添加群で比較した。7本の絨毛内に確認できたIgA産生細胞数は、コントロール群では1.33±0.2とほとんど見られなかったのに対し、CCL25添加群では43.75±1.24と有意に大きかった(
図3)。この結果から、乳汁中のCCL25が出産後10日目までのIgAの誘引に必須であることが明らかとなった。
【0041】
(実施例6 CCL25が胸腺中の細胞数に与える影響)
実験動物は、10〜20週齢のddY系マウス(JapanSLC社)及びddY系マウスの新生仔を用いた。
新生仔マウスを、Yajima et al.の文献(Biosci. Biotechnol. Biochem., 2007, 71(10), 2420-2427及びExperimental animals, 2006, 55(4), 391-397)に記載の方法に準じて、生後2日齢まで母乳哺育させた後に、2日齢から10日齢までの8日間、各人工乳汁を用いて人工哺育を行った。新生仔マウスを(1)人工乳汁にCCL25(Recombinant Mouse CCL25(TECK)、 Bio−Legend社)を0.5μg/mL添加した群(CCL25添加群)及び(2)CCL25抗原の無添加群(コントロール群)の2つの実験群に分けた。
【0042】
マウス用人工乳汁を用いた人工哺乳法に関する文献(Biosci. Biotechnol. Biochem., 2007, 71(10), 2420-2427及びExperimental animals, 2006, 55(4), 391-397)を参考に、脂肪の含有量を16%から18%に修正してマウス用人工乳汁を作製した。以下に人工乳汁の作成方法を示す。
(a)NaOH(1g)、KOH(6g)を800mlの蒸留水に溶かした(アルカリ水溶液)。セリン(1.15g)、システイン(0.9g)及びトリプトファン(1.08g)の3種類のアミノ酸をアルカリ水溶液に加えた(常にスターラーで撹拌、60〜70℃)。
(b)カゼイン(160.0g)をアルカリ水溶液に加え、溶解した。このCasein mixtureを、沸騰しているお湯の入ったバス中で30分間滅菌した。
(c)CaCl
2・2H
2O(6.8g)、GlyCaPO
4(32g)、MgCl
2・6H
2O(7.6g)を200mlの蒸留水に溶かし、ポリトロン様ミキサーでホモジナイズした。これを、Casein mixtureにゆっくりと加えた(ホモジナイザーで混ぜ続ける)。
(d)CaCO
3・2H
2O(10g)、Ca−citrate(4.8g)を100mlの蒸留水に溶かし、オートクレーブした後、Casein mixtureにゆっくりと加えた。
(e)Na
2HPO
4(3.2g)、KH
2PO
4(0.32g)を50mlの蒸留水に溶かし、オートクレーブでした後Casein mixtureに加えた。
(f)ラクトース水溶液(ラクトース75.64gを220mlの蒸留水に溶かしたもの)をオートクレーブで滅菌した後、ゆっくりとCasein mixtureに加えた。
(g)FeSO
4・7H
2O(1.92g)、citrate−H
2O(0.04g)を20mlの蒸留水に溶かした。そのうちの10ml、ZnSO
4・7H
2O(1.2g)、CuSO
4・5H
2O(0.3g)、MnSO
4・5H
2O(0.05g)を25mlの蒸留水に溶かした。そのうちの5ml、NaF(0.031g)、KI(0.05g)を25mlの蒸留水に溶かした。そのうちの5mlをCasein mixtureに加えた。この操作は、Millipore filtration(0.45μm)で滅菌した後に、常に撹拌しながら行った。
(h)ガンマ線照射による滅菌(30KGy)を行った、Whey protein isolate(160g)及びWhey protein hydrolysate(200g)を1000mlの滅菌蒸留水に溶かし、この溶液を撹拌しながら40℃以下に冷ましたCasein mixtureに加えた。
(i)カルニチン(0.32g)、ピコリン酸(0.16g)、エタノールアミン(0.272g)及びタウリン(1.2g)を20mlの蒸留水に溶かした。そのうちの10mlをCasein mixtureに加えた。
(j)クエン酸二水素コリン(5.88g)を73.5mlの蒸留水に溶かした(65℃のwater bath中で)中和溶液(1N NaOHでpH7.0に中和)に、水溶性ビタミンmixture(シアノコバラミン(0.0476mg)、ビオチン(0.72mg)、葉酸(3.16mg)、チアミン塩酸塩(35.24mg)、ピリドキシン塩酸塩(50.0mg)、リン酸リボフラビンナトリウム(56.6mg)、パントテン酸カルシウム(105.72mg)、p−アミノ安息香酸(176.16mg)、ニコチン酸(199.52mg)、アスコルビン酸ナトリウム(2.696g)、及び4−イノシトール(1.989g))を溶かした。そのうちの70mlをCasein mixtureに加えた。
(k)脂溶性ビタミン(ビタミンK
3(79.3mg)、ビタミンE:α−トコフェロール(93.8mg)、ビタミンAとDを含む混合物)と6種類の食用油(パーム油(191.5g)、ココナッツ油(159.6g)、コーン油(63.84g)、中鎖脂肪酸油(95.76g)、大豆油(127.68g)、コレステロール(1.6g))を沸騰しているお湯の入ったバス中で30分間滅菌した。この油性溶液を40〜50℃まで冷ました後、撹拌しながらCasein Mixtureに加えた。
(l)ホモジナイズの後、人工ミルクは無菌的に50ml滅菌ポリプロピレンボトルに分注し、−80℃で保存した。冷凍した人工ミルクはガンマ線照射(30KGy)による滅菌をし、−80℃で保存した。
【0043】
生まれた日を生後0日目として、生後0日目から2日目まで母乳哺育したマウス新生仔を親から離し、生後2日目から3時間に1回、哺乳器を用いて経口投与によって人工乳汁を授乳した。人工哺育期間中、哺乳量と体重を継時的に測定し、10日目まで8日間人工哺育した後に、ジエチルエーテル過剰吸入によって安楽死させ、解剖して胸腺を摘出した。
【0044】
摘出した胸腺の重量を測定し、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)入りphosphate−buffered balanced salt solution(PBBS)の入ったシャーレへ取り出した。摘出した胸腺は、シャーレ内にて、ハサミで組織をある程度細切した後、スライドグラスのフロスト部分ですりつぶし、ピペットを用いて浮遊液を42Kのメッシュで濾して、コニカルチューブに移した。800rpmで5分間の遠心分離を行い、上清をデカンテーションによって除去した。残った胸腺細胞に、赤血球除去用塩化アンモニウム溶液(Tris−buffered ammonium chloride:ACTB)を加えてピペッティングし、室温で5分放置して溶血処理を行った。その後、冷PBBSを加え、800rpmで5分間の遠心分離を行い、上清をデカンテーションにより除去した。洗浄のため、冷PBBSを加えて、800rpmで5分間の遠心分離及び上清除去の操作を2回行った後、エッペンチューブへ移した。得られた溶液を適宜希釈し、総細胞数及びリンパ球数を数え、コントロール群及びCCL25添加群で比較した。実験結果に関するすべての統計処理は、t−検定を用いて行った。
【0045】
胸腺中の総細胞数は、コントロール群よりもCCL25添加群で多い傾向にあった。また、総細胞数あたりもリンパ球数も、コントロール群よりもCCL25添加群で多い傾向にあった(
図4)。
【0046】
以上の結果より、CCL25の添加による、免疫機能発達促進効果及び成長促進効果が確認された。