【実施例】
【0043】
[実施例および比較例:1〜19]
実施例および比較例1〜19では、一般式(2)において、−7.25≦x≦12および−0.5≦y≦1.5の種々の組成の原料を調整し、粉体および焼結体である熱電材料を製造した。
【0044】
Al(粉末、純度99.99%、株式会社高純度化学研究所製)と、Fe(粒、純度99.99%、株式会社高純度化学研究所製)と、Si(小塊、純度99.999%、株式会社高純度化学研究所製)を、表1に示す設計組成にしたがって混合した(
図2のステップS210)。
【0045】
【表1】
【0046】
各混合物をアーク溶解装置(日新技研株式会社製、NEV−AD03)のCuハースに設置し、アルゴン雰囲気下で溶解し、反応させた(
図2のステップS220)。混合物を2000℃程度まで昇温・加熱し、溶解、反応させた。溶解、反応物を冷却させ、固化体とした。次に、固化体の均質性を高めるため、固化体を反転させ、再溶解、反応させ、更に冷却し固化体とした(S230)。
【0047】
得られた固化体をメノウ乳鉢でエタノールを用いた湿式粉砕を行った(S240)。粉砕後の固化体の粒子をメッシュ(目開き45μm)により篩分けし、メッシュを通過した粒径45μm以下の粒子(粉体)のみ取り出した。粒子を、粉末X線回折法(Rigaku製、SmartLabもしくはMiniFlex600)により同定し、蛍光X線分析(EDAX製、Orbis I)により組成分析を行った。結果を
図4、表3、4、および表6に示し、後述する。
【0048】
次いで、粒子を焼結した(S250)。パルス通電焼結法(富士電波工機株式会社製、SPS−515S、株式会社シンターランド製、LABOX−110MC)を用いて、表2に示す焼結条件により、直径10mm厚さ1.5−2.0mm程度のディスク状の焼結体を得た。得られた焼結体の外観を観察した。結果を
図5に示し、後述する。
【0049】
【表2】
【0050】
焼結体を高速カッターにより1.5mm×1.5mm×9mm程度の直方体に加工し、電気伝導率および熱電物性測定を行った。電気伝導率を、直流四端子法によって測定した。熱電物性としてゼーベック係数を、定常温度差法により、熱電物性測定評価装置(アドバンス理工株式会社製、ZEM−3)を用いて測定した。測定条件は、いずれも、ヘリウムガス雰囲気下、室温から873Kの温度範囲まで50Kずつ測定した。電気伝導率およびゼーベック係数から電気出力因子を算出した。これらの結果を
図6〜
図8および表5に示し、後述する。
【0051】
以上の結果を説明する。
図4は、比較例1、19および実施例9による試料のX線回折パターンを示す図である。
【0052】
【表3】
【0053】
図4の(A)〜(C)は、それぞれ、比較例1、実施例9および比較例19による試料のX線回折(XRD)パターンを示す。
図4には、計算から算出したAl
2Fe
3Si
3およびFeSiのX線回折パターンを併せて示す。
【0054】
図4の(B)のXRDパターンは、計算から算出したAl
2Fe
3Si
3のパターンに良好に一致した。このことから、得られた試料は、Al
2Fe
3Si
3相を主相とし、90重量%以上を占有していることが確認された。なお、図示しないが、実施例2〜8および実施例10〜18の試料のXRDパターンも同様のパターンを示し、Al
2Fe
3Si
3相を主相とすることを確認した。また、実施例2〜18の試料は、第二相としてε−FeSiを1.2重量%以上9.5重量%以下含有することが分かった。主相、第2相等の定量は、X線回折測定により得られた回折パターンの内、最強ピークの積分強度比から析出割合を算出した。測定結果を表4にまとめる。
【0055】
【表4】
【0056】
一方、
図4(A)のXRDパターンは、一部Al
2Fe
3Si
3に相当するピークが観測されたが、ε−FeSiを主相としていた。このことから、比較例1の試料はAl
2Fe
3Si
3相を主相としなかった。
図4(C)のXRDパターンは、同様に、ε−FeSiに相当するピークを示し、比較例19の試料はAl
2Fe
3Si
3相を主相としなかった。以上から、本発明の熱電材料の製造に際して、原料の調整は一般式Al
23.5+xFe
36.5+ySi
40−x−y(ここで、xおよびyは、それぞれ、−7.25<x<12および−0.5≦y≦1.5を満たす)を満たすことが好ましいことが示された。
【0057】
Al
2Fe
3Si
3相の結晶の格子定数及び格子体積等を表5にまとめる。この表から分かるように、xの増加と共に、格子定数aは増加の傾向があり、格子定数b及びcは減少の傾向があり、体積Vは増加の傾向がある。
【表5】
【0058】
さらに、蛍光X線分析による組成分析の結果を表6に示す。
【0059】
【表6】
【0060】
表6によれば、実施例6で得られた試料は、Al
20.3Fe
38.5Si
41.2であり、実施例9で得られた試料は、Al
22Fe
38.5Si
39.5であり、実施例18で得られた試料は、Al
28.5Fe
38.5Si
33であった。なお、表には示さないが、実施例5および7の試料は、Al
12+p−qFe
38.5+3qSi
49.5−p−2q(ここで、pは0≦p<10を、qは−0.34≦q≦0.34を満たす)の範囲内であり、実施例10〜15、17の試料は、Al
12+p−qFe
38.5+3qSi
49.5−p−2q(ここで、pは10≦p≦16.5を、qは−0.34≦q≦0.34を満たす)の範囲内である。また、ここでは、y=0の場合のみを取り扱っているが、yは−0.5≦y≦1.5の範囲内の値(例えば、−0.5、−0.2、0.1、0.3、0.5、0.7、0.9、1.0、1.2、1.5)であってよく、yの値が変化すると、特にFeのat%(また、Siのat%)が変化し易くなる。近似的には、Al
12+pFe
37.5Si
49.5−pから、Al
12+pFe
39.5Si
49.5−pへと変化するとも考えられる。
【0061】
以上から、本発明の方法を実施すれば、少なくとも、AlとFeとSiとを含有し、Al
2Fe
3Si
3で表される相を主相とし、一般式Al
12+p−qFe
38.5+3qSi
49.5−p−2q(ここで、pは0≦p≦16.5を、qは−0.34≦q≦0.34を満たす)で表される金属間化合物を主成分とする材料が得られることが示された。尚、
図1Eに、
図1Bにおいてプロットから、Al
2Fe
3Si
3相を主相とする領域を線で囲ったものを図解する。例えば、
図1Bにおけるグレーゾーンを規定する4つの頂点d、e、n、kは、それぞれ、
d:Al
11.2Fe
39.5Si
49.3
e:Al
11.8Fe
37.5Si
50.7
n:Al
29.6Fe
37.5Si
32.9
k:Al
28.5Fe
39.5Si
32.0
と表すことができる。そして、
図1Bにおける仕込み組成で、Al
2Fe
3Si
3相が主相となる領域の境界を規定するAlリッチ側の点i及びjは、
i:Al
35.8Fe
35.7Si
28.5
j:Al
34.0Fe
39.5Si
26.5
と表すことができる。更に、点iと共にFeリーン側の境界線を規定する点gは、
g:Al
17.6Fe
35.7Si
46.7
と表すことができる。実験データがないため必ずしも明確ではないFeリーン側のSiリッチの境界は、確実なところだけを上げるとしても、点g及び点fにより形成される線分で表すこともできる。
f:Al
16.7Fe
37.5Si
45.8
そして、Feリッチ側の溶融・反応させた材料からなる焼結体の成分に基づくデータと合体して、上記点d及びeにより、Siの上限側が規定される。
尚、詳細は後述するが、Al
12+p−qFe
38.5+3qSi
49.5−p−2qと表される組成(特に、溶融・反応させた材料組成)において、0≦p<10の条件では、n型の熱電材料が得られ、10≦p≦16.5の条件では、p型の熱電材料が得られることが分かった。同様なことは、qが−0.34≦q≦0.34においても言えるので、このような範囲の組成(特に、溶融・反応させた材料組成)において、特有の性質を備える熱電材料を得ることができる。この特有の性質は、本明細書に記載のような所定の条件で、溶融・反応させるという処理により、現れるものと考えられる。従って、見かけの成分が一致するような単なる混合組成であっても、そのように溶融・反応させていなければ、生成物は、本開示の溶融・反応させた材料に相当しない。また、具体的な結晶相について述べれば、Al
2Fe
3Si
3相が主相となる領域であることが好ましい。このようなn型、p型を区別する境界は、点l及び点h(及び、中間点m)を結んだ線が相当するとも考えられる。
l:Al
21.7Fe
39.5Si
38.8
h:Al
22.9Fe
35.7Si
41.3
m:Al
22.3Fe
37.5Si
40.2
以上のような組成的特徴は、焼結体の原料となる溶融・反応させた材料において重要と考えられる。例えば、
図1Eの領域Aでは、n型の熱電材料が得られ、領域Bでは、p型の熱電材料が得られると考えられる。更に、溶融・反応させる前の混合組成を含めた太枠の領域Cにおいても、n型またはp型の熱電材料を得られる可能性があると言える。即ち、製造技術の発展または多様化により、溶融・反応の前後で、組成が変化しないまたは殆ど変化しないこともあり、そのような場合に領域Cの全領域の組成の金属間化合物が、ここにおいて有用なn型またはp型の熱電材料となるかもしれない。
【0062】
なお、比較例1および19の試料は、Al
2Fe
3Si
3相を主相としないため、焼結体を製造せず、電気伝導率および熱電物性測定を実施しなかった。
【0063】
図5は、実施例18の試料の外観を示す図である。
【0064】
図5によれば、全体に均一で良好な焼結体が得られたことが分かった。図示しないが、実施例2〜17の焼結体もいずれも同様の様態を示した。
【0065】
図6は、実施例2〜18の試料の電気伝導率の温度依存性を示す図である。
【0066】
図6によれば、いずれの試料も、測定温度域において、熱電材料として使用可能な電気伝導率を有し、温度依存性を有することが分かった。また、室温における電気伝導率に着目すれば、組成を制御することによって、電気伝導率を250(Ωcm)
−1〜2500(Ωcm)
−1まで変化させることができる。熱電変換モジュールを構成する際に、使用温度域において求められる電気伝導率を有する材料を適宜選択すればよい。なお、実施例6および7の試料は特に高い電気伝導率を示したが、実施例6および7の試料は、第二相であるε−FeSi相をそれぞれ8.8、5.8重量%含有しており、これにより電気伝導率の向上が見られた可能性がある。
【0067】
図7は、実施例2〜18の試料のゼーベック係数の温度依存性を示す図である。
【0068】
図7によれば、測定温度域(室温〜600℃)において、実施例2〜8の試料は、負のゼーベック係数を示し、n型伝導であり、実施例9〜18の試料は、正のゼーベック係数を示し、p型伝導であることが確認された。すなわち、一般式Al
12+p−qFe
38.5+3qSi
49.5−p−2q(pは0≦p<10、qは−0.34≦q≦0.34)で表され、Al
2Fe
3Si
3相を主相とする金属間化合物はn型熱電材料として機能し、一般式Al
12+p−qFe
38.5+3qSi
49.5−p−2q(pは10≦p≦16.5、qは−0.34≦q≦0.34)で表され、Al
2Fe
3Si
3相を主相とする金属間化合物はp型熱電材料として機能する。
【0069】
特に、室温〜200℃以下の温度範囲に着目すれば、パラメータpが8≦p≦9を満たすことにより、より大きなゼーベック係数(絶対値)を示すn型熱電材料となり、パラメータpが11≦p≦12を満たすことにより、より大きなゼーベック係数を示すp型熱電材料となることが分かった。
【0070】
図8は、実施例2〜18の試料の電気出力因子の温度依存性を示す図である。
【0071】
図8によれば、組成を選択することによって、測定温度域において、高い電気出力因子を達成できることが分かった。例えば、実施例6および7の試料は、室温〜600K以下の温度範囲において、高い電気出力因子を示し、とりわけ、200℃以下の貧熱を回収するに好適といえ、民生利用の熱電発電モジュールを提供できる。実施例3および4の試料は、500Kをピークとし室温〜700Kの中温域の温度範囲において、高い電気出力因子を示すn型熱電材料であることが分かった。
【0072】
以上の結果を簡単のため、表7にまとめる。この表からわかるように、xの値が増えることにより(SiをAlで置き換えることにより)、ホールドープと同様の効果が得られ、n型からp型に変化する。従って、他元素を用いた化学ドーピングを行うことなく伝導型の制御ができる。
【0073】
【表7】
【0074】
尚、以下のようなものも提供することができる。
(1)熱及び電力を変換する素子に使用される材料であって、
少なくともAl及びFe及びSiを含む金属間化合物を含み、
一般式Al
12+pFe
38.5±1.0Si
49.5−p(ここで、pは0≦p≦16.5を満たす)で表される組成を有し、
Al
2Fe
3Si
3で表される結晶相を含む、
熱電材料。
(2)前記pは、0≦p<10を満たす、上記(1)に記載の熱電材料。
(3)前記pは、10≦p≦16.5を満たす、上記(1)に記載の熱電材料。
(4)前記Al
2Fe
3Si
3で表される結晶相を、70重量%以上含有する、上記(1)から(3)のいずれかに記載の熱電材料。
(5)ε−FeSiで表される結晶相をさらに含有する、上記(1)から(4)のいずれかに記載の熱電材料。
(6)上記(2)の材料を含む、n型熱電素子。
(7)上記(3)の材料を含む、p型熱電素子。
(8)上記(6)のn型熱電素子及び/又は上記(7)のp型熱電素子を含む、熱電発電モジュール。
(9)n型熱電素子用のn型熱電材料と、p型熱電素子用のp型熱電材料と、を切り替えて製造する方法であって、
Alを含有する原料、Feを含有する原料、及びSiを含有する原料を、モル比において、Al:Fe:Si=23.5+x:36.5+y:40−x−y(但し、−7.25<x<12及び−0.5≦y≦1.5を満たす)、となるように秤量するステップと、
秤量したそれぞれの原料を混合して混合粉末を得るステップと、
混合粉末を溶解し、反応させるステップと、を含み、
秤量するステップにおいて、xの量を増加させn型熱電材料からp型熱電材料に、又は、xの量を減少させp型熱電材料からn型熱電材料に、製造する熱電材料を切り替える方法。