特許第6799341号(P6799341)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6799341熱電材料、その製造方法およびそれを用いた熱電発電モジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6799341
(24)【登録日】2020年11月25日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】熱電材料、その製造方法およびそれを用いた熱電発電モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/14 20060101AFI20201207BHJP
   H01L 35/34 20060101ALI20201207BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20201207BHJP
   B22F 3/10 20060101ALI20201207BHJP
   B22F 3/14 20060101ALI20201207BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20201207BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   H01L35/14
   H01L35/34
   B22F9/04 C
   B22F3/10 D
   B22F3/14 101B
   C22C30/00
   B22F3/24 D
【請求項の数】20
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2019-539599(P2019-539599)
(86)(22)【出願日】2018年8月29日
(86)【国際出願番号】JP2018032031
(87)【国際公開番号】WO2019044931
(87)【国際公開日】20190307
【審査請求日】2019年11月26日
(31)【優先権主張番号】特願2017-166286(P2017-166286)
(32)【優先日】2017年8月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-213401(P2017-213401)
(32)【優先日】2017年11月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100111707
【弁理士】
【氏名又は名称】相川 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】高際 良樹
【審査官】 柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−100346(JP,A)
【文献】 特開2000−323759(JP,A)
【文献】 正田雅裕,Fe‐Al‐Si合金のゼーベック効果及び低温熱源熱電変換特性,鉄と鋼,1998年,Vol.84 No.2,Page.154-158
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/14
B22F 3/10
B22F 3/14
B22F 3/24
B22F 9/04
C22C 30/00
H01L 35/34
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、AlとFeとSiとを含有する金属間化合物を含有し、
前記金属間化合物は、一般式Al12+p−qFe38.5+3qSi49.5−p−2q(ここで、pは0≦p≦16.5を、qは−0.34≦q≦0.34を満たす)で表され、前記金属間化合物は、AlFeSiで表される相を主相とする、熱電材料。
【請求項2】
前記pは、0≦p<10を満たし、室温から600℃以下の温度範囲においてn型を示す、請求項1に記載の熱電材料。
【請求項3】
前記pは、8≦p≦9を満たし、室温から600℃以下の温度範囲においてn型を示す、請求項2に記載の熱電材料。
【請求項4】
前記pは、10≦p≦16.5を満たし、室温から600℃以下の温度範囲においてp型を示す、請求項1に記載の熱電材料。
【請求項5】
前記pは、11≦p≦12を満たし、室温から600℃以下の温度範囲においてp型を示す、請求項4に記載の熱電材料。
【請求項6】
前記金属間化合物は、前記AlFeSiで表される相を70重量%以上含有する、請求項1〜5のいずれかに記載の熱電材料。
【請求項7】
前記金属間化合物は、ε−FeSiで表される相をさらに含有する、請求項1〜6のいずれかに記載の熱電材料。
【請求項8】
前記金属間化合物は、ε−FeSiで表される相を0.5重量%以上10重量%未満の範囲で含有する、請求項7に記載の熱電材料。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の熱電材料を製造する方法であって、
Alを含有する原料、Feを含有する原料、および、Siを含有する原料を、一般式Al23.5+xFe36.5+ySi40−x−y(ここで、xおよびyは、それぞれ、−7.25<x<12および−0.5≦y≦1.5を満たす)を満たすように混合するステップと、
前記混合するステップで得られた混合物を溶解し、反応させるステップと、
を包含する、方法。
【請求項10】
前記混合するステップにおいて、前記xは、−7.25<x<3を満たす、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記混合するステップにおいて、前記xは、1.5≦x≦2.5を満たす、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記混合するステップにおいて、前記xは、3≦x<12を満たす、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記混合するステップにおいて、前記xは、3.5≦x≦4を満たす、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記溶解し、反応させるステップは、前記混合物を、不活性雰囲気中、1500℃以上2200℃以下の温度範囲で加熱する、請求項9〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記溶解し、反応させるステップにより得られた反応物を焼結するステップをさらに包含する、請求項9〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記焼結するステップは、前記反応物を粉砕し、パルス通電焼結する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記焼結するステップは、10MPa以上200MPa以下の圧力範囲で、800℃以上1000℃以下の温度範囲で焼結する、請求項15または16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記焼結するステップで得られた焼結体を成型するステップをさらに包含する、請求項15〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
交互に直列に接続されたn型熱電材料およびp型熱電材料を備える熱電発電モジュールであって、前記n型熱電材料およびp型熱電材料の少なくとも一方は、請求項1〜8のいずれかに記載の熱電材料である、熱電発電モジュール。
【請求項20】
前記n型熱電材料は、請求項2または3のいずれかに記載の熱電材料であり、
前記p型熱電材料は、請求項4または5のいずれかに記載の熱電材料である、請求項19に記載の熱電発電モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電材料、その製造方法およびそれを用いた熱電発電モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
世界の中で特に省エネルギーが進んだ我が国においてでも、一次供給エネルギーの約3/4が熱エネルギーとして廃棄されているのが現状であり、排熱回収技術の確立およびその普及が望まれている。そのような状況の下、熱電発電モジュールは、熱エネルギーを回収して電気エネルギーに直接変換できる固体素子として注目されている。
【0003】
最近、このような熱電発電モジュールに採用される熱電材料として、低コストかつ無害な元素のみから構成される、Al−Fe−Si三元系金属間化合物が提唱されている(例えば、非特許文献1を参照)。ここで、熱電材料とは、一般に、熱および電気エネルギーを相互に変換する特性を持つ固体材料であり、加熱、冷却デバイスにおける温度勾配の生成や、廃熱からの電気エネルギーの生成をするために使用される材料である。そして、このような材料を用いて、熱と電力を変換することができる素子が形成される。すなわち、2種類の異なるこのような材料(例えば、金属または半導体)を接合して、両端に温度差を生じさせると起電力が生じるが、これをゼーベック効果という。逆に、2種類の異なるこのような材料(例えば、金属または半導体)を接合して電流を流すと、片方の金属からもう片方へ熱が移動するが、これをペルティエ効果という。従って、熱電材料は、かかる機能を持つものであって、単なる素材とは異なり、熱電材料として1つの分野を占めると言える。非特許文献1によれば、AlFeSiは、第一原理計算を用いた理論予測に基づいて、キャリア濃度の調整を行えばp型およびn型の熱電特性を制御できることを報告している。しかしながら、p型およびn型の熱電特性を発揮する具体的な熱電材料の組成範囲の確定には至っていない。
【0004】
一方、AlFeSiの化学量論組成に対して6at%Alリッチとした組成とすることによって、AlFeSiの単相合成に成功したと報告がある(例えば、非特許文献2を参照)。AlFeSiは、Al−Fe−Si三元系状態図によれば、比較的広い組成範囲において存在することが知られているが、非特許文献2は、Al26Fe37Si37の組成とすることによりAlFeSiの単相合成に成功している。非特許文献2は、得られたAl26Fe37Si37がp型の熱電特性を示すことを報告しているが、実用にはさらなる特性の改良とともに、n型の熱電材料も求められる。
【0005】
200℃以下の熱が未利用熱の大部分を占有するが、こうしたいわゆる貧熱を回収するに好適な、低コストかつ無害な元素のみから構成される熱電材料が開発されることが望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Y.Takagiwaら,Journal of Thermal Analysis and Calorimetry,2017,DOI:10.1007/s10973−017−6621−9,Published online:17 August 2017
【非特許文献2】Y.Shiotaら,Intermetallics,2017,89,51−56
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上から、本発明の課題は、Al−Fe−Si系金属間化合物を主成分とし、室温から600℃の温度範囲において熱電効果を示し、組成制御によってn型およびp型となる熱電材料、その製造方法、および、熱電発電モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による熱電材料は、少なくとも、AlとFeとSiとを含有する金属間化合物を含有し、前記金属間化合物は、一般式Al12+p−qFe38.5+3qSi49.5−p−2q(ここで、pは0≦p≦16.5を、qは−0.34≦q≦0.34を満たす)で表され、前記金属間化合物は、AlFeSiで表される相を主相とし、これにより上記課題を解決する。
前記pは、0≦p<10を満たし、室温から600℃以下の温度範囲においてn型を示してもよい。
前記pは、8≦p≦9を満たし、室温から600℃以下の温度範囲においてn型を示してもよい。
前記pは、10≦p≦16.5を満たし、室温から600℃以下の温度範囲においてp型を示してもよい。
前記pは、11≦p≦12を満たし、室温から600℃以下の温度範囲においてp型を示してもよい。
前記金属間化合物は、前記AlFeSiで表される相を70重量%以上含有してもよい。
前記金属間化合物は、ε−FeSiで表される相をさらに含有してもよい。
前記金属間化合物は、ε−FeSiで表される相を0.5重量%以上10重量%未満の範囲で含有してもよい。
本発明による上述の熱電材料を製造する方法は、Alを含有する原料、Feを含有する原料、および、Siを含有する原料を、一般式Al23.5+xFe36.5+ySi40−x−y(ここで、xおよびyは、それぞれ、−7.25<x<12および−0.5≦y≦1.5を満たす)を満たすように混合するステップと、前記混合するステップで得られた混合物を溶解し、反応させるステップとを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記混合するステップにおいて、前記xは、−7.25<x<3を満たしてもよい。
前記混合するステップにおいて、前記xは、1.5≦x≦2.5を満たしてもよい。
前記混合するステップにおいて、前記xは、3≦x<12を満たしてもよい。
前記混合するステップにおいて、前記xは、3.5≦x≦4を満たしてもよい。
前記溶解し、反応させるステップは、前記混合物を、不活性雰囲気中、1500℃以上2200℃以下の温度範囲で加熱してもよい。
前記溶解し、反応させるステップにより得られた反応物を焼結するステップをさらに包含してもよい。
前記焼結するステップは、前記反応物を粉砕し、パルス通電焼結してもよい。
前記焼結するステップは、10MPa以上200MPa以下の圧力範囲で、800℃以上1000℃以下の温度範囲で焼結してもよい。
前記焼結するステップで得られた焼結体を成型するステップをさらに包含してもよい。
本発明による熱電発電モジュールは、交互に直列に接続されたn型熱電材料およびp型熱電材料を備え、前記n型熱電材料およびp型熱電材料の少なくとも一方は、上述の熱電材料であり、これにより上記課題を解決する。
前記n型熱電材料は、0≦p<10または8≦p≦9を満たす上述の熱電材料であり、前記p型熱電材料は、10≦p≦16.5または11≦p≦12を満たす上述の熱電材料であってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱電材料は、少なくとも、AlとFeとSiとを含有し、一般式Al12+p−qFe38.5+3qSi49.5−p−2q(ここで、pは0≦p≦16.5を、qは−0.34≦q≦0.34を満たす)で表され、AlFeSiで表される相を主相とする。AlとFeとSiとを含有するため、素子の低コスト化を実現できる。また、上述の一般式を満たせば、AlFeSiで表される相を主相とし、室温から600℃以下の温度範囲において、優れた熱電特性を発揮できる。特に、パラメータpを制御することにより、n型およびp型を制御できるので、同一合金でn型およびp型の熱電材料を提供できる。同一合金のn型およびp型の熱電材料を用いれば、熱膨張係数が同じであるため、熱電発電モジュールの素子化に有利である。
【0010】
本発明の熱電材料の製造方法は、Al、FeおよびSiを含有する原料を、一般式Al23.5+xFe36.5+ySi40−x−y(ここで、xおよびyは、それぞれ、−7.25<x<12および−0.5≦y≦1.5を満たす)を満たすように混合するステップと、混合物を溶解し、反応させるステップとを包含する。原料の調整において、上記一般式を満たすように混合することにより、上述の熱電材料が得られるため、特別な技術を不要とし、低コストで歩留まりよく熱電材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】本発明の熱電材料を示すAl−Fe−Si三元系状態図を示す図
図1B】本発明の熱電材料を示すAl−Fe−Si三元系状態図の一部拡大図を示す図
図1C】AlFeSi結晶の結晶構造を示す図
図1D】ε−FeSi結晶の結晶構造を示す図
図1E図1Bのプロットに基づき、線分で構成される多角形の各頂点、各領域を模式的に示すAl−Fe−Si三元系状態図を示す図
図2】本発明の熱電材料を製造する工程を示すフローチャート
図3】本発明の熱電材料を用いた熱電発電モジュールを示す模式図
図4】比較例1、19および実施例9による試料のX線回折パターンを示す図
図5】実施例18の試料の外観を示す図
図6】実施例2〜18の試料の電気伝導率の温度依存性を示す図
図7】実施例2〜18の試料のゼーベック係数の温度依存性を示す図
図8】実施例2〜18の試料の電気出力因子の温度依存性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0013】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明の熱電材料およびその製造方法について説明する。
【0014】
図1A及び図1Bは、本発明の熱電材料を示すAl−Fe−Si三元系状態図を示す図である。
【0015】
図1Aは、Raghavan V.,J.Phase Equilibria Diffus.,2009,Vol.30(2),pp184−188によって報告されているAl−Fe−Si三元系状態図を示す図である。図1Aにおいて、黒く示される領域が、AlFeSiで表される相(以降では単にAlFeSi相と称する)であり、広い組成範囲を有することがわかる。
【0016】
図1Bは、図1Aに示すAlFeSi相等を拡大して示す。グレーで示される領域は、溶融・反応させた材料成分を分析して得た成分に基づく、AlFeSi相が主相となる領域である。また、原料の成分から導く仕込み組成に基づく、本発明の熱電材料の主成分を構成する金属間化合物についても〇及び×でプロットする。具体的には、本発明の熱電材料は、少なくとも、Al(アルミニウム)とFe(鉄)とSi(ケイ素)とを含有し、以下の一般式(1)で表される金属間化合物を含有する。ここで、pは0≦p≦16.5を、qは−0.34≦q≦0.34を満たす。この金属間化合物は、AlFeSi相を主相とする。
Al12+p−qFe38.5+3qSi49.5−p−2q ・・・(1)
尚、ここで、一般式(1)において、q=0とすると、 Al12+pFe38.5Si49.5−p に相当する。そして、qが所定の範囲内で変化することは、組成が、 Al12+pFe37.5Si49.5−p から、 Al12+pFe39.5Si49.5−p へと変化することに相当する。
【0017】
本願発明者は、AlFeSiで表される相の中でも、上述の特定の組成を有する金属間化合物が熱電材料として機能することを、後述する種々の実験から見出した。一般式(1)において、パラメータpが0未満、あるいは、16.5を超えると、結晶構造が不安定になり易く、AlFeSi相が主相となり難い。また、qが−0.34未満であると、または、qが0.34を越えると、所望の結晶相が主相になり難い。
【0018】
なお、本願明細書において、本発明の金属間化合物における主相の割合は、重量比で70重量%以上を含有していればよい。主相が70重量%未満の場合、十分な熱電効果が得られない場合がある。主相とする割合は、好ましくは、80重量%以上であり、より好ましくは90重量%以上である。当然ながら、本発明の金属間化合物は主相単相からなることが好ましいため、主相の割合の上限は100重量%であるが、熱電効果を発生させるためには、必ずしも単相である必要はない。尚、このような相の割合を測定する方法は、X線回折測定により、d値(7Å−1Å)の範囲内で観測される回折パターンデータをもとに、ピーク位置と強度情報から相同定(主相と第二相)を行うことができ、最強ピークの積分強度比から析出割合を算出し、主相を決定することができる(例えば、RIR(Reference Intensity Ratio)法)。
【0019】
本発明の金属間化合物は、AlFeSi相を主相とするが、第二相としてε−FeSiで表される相(以降では単にε−FeSi相)を含有してもよい。AlFeSi結晶構造及びε−FeSi結晶構造を図1C及び図1Dに示す。ε−FeSi相は、熱電材料の伝導型に影響は与えないが、電気伝導率を向上させることができるので、パワーファクタ(出力因子)を向上させ得る。ε−FeSi相は、ε−FeSiであってよいが、組成がずれたε−FeSi相を主相とするものも含む。即ち、基本的な結晶構造は、ε−FeSiの結晶構造と同一であるが、固溶等により、組成がずれたものを含む。更に、ε−FeSiの周りに結晶構造が特定できないものがあってもε−FeSi相に含まれるものとして取り扱うこともできる。電気伝導率の向上を考慮すれば、ε−FeSi相は0.5重量%以上10重量%未満の範囲で含有されることが望ましい。その他の第二相として、FeSi、FeAl13、FeSi、AlFeSi等であってもよい。主相や第二相の同定や含有量の算出は、X線回折や中性子線回折により行うことができる。簡易的には、後述する図4のX線回折パターンと比較対象となる物質のそれとを比べることにより、AlFeSi相かどうかの簡易的な判定ができる。AlFeSi相の主要ピークとしては、回折強度の強い10本程度で判定すればよい。
【0020】
さらに、本願発明者は、一般式(1)で表される金属間化合物の組成を調整することによって、同一合金でn型およびp型の伝導型を制御できることを見出した。
【0021】
本発明の実施例では、一般式(1)において、パラメータpが、0≦p<10を満たす場合は、このような金属間化合物を含む熱電材料はn型を示すようになってよい。本発明の実施例において、このような熱電材料は、少なくとも室温から600℃の温度範囲においてn型を示すことができる。より好ましくは、パラメータpは8≦p≦9を満たす。これにより、本発明の実施例において、熱電材料は、少なくとも室温から600℃の温度範囲において、大きなゼーベック係数(絶対値)を有するn型を示すことができる。なお、本願明細書において、室温とは、15℃以上35℃以下の温度範囲を意図する。
【0022】
一般式(1)において、パラメータpが、10≦p≦16.5を満たす場合は、このような金属間化合物を含む熱電材料はp型を示すようになってよい。これにより、本発明の実施例において、熱電材料は、少なくとも室温から600℃の温度範囲においてp型を示すことができる。より好ましくは、パラメータpは11≦p≦12を満たす。これにより、本発明の実施例において、熱電材料は、少なくとも室温から600℃の温度範囲において、大きなゼーベック係数を有するp型を示すことができる。
【0023】
本発明の実施例において、熱電材料に含まれる金属間化合物の形態は、上述の一般式(1)で表される金属間化合物を含有すれば、粉体、焼結体、薄膜等問わない。本発明の実施例において、熱電材料は上述の金属間化合物を主成分とするが、例えば、焼結体や粉体である場合、上述の金属間化合物に加えて添加物を含有してもよい。このような観点から、本願明細書において、金属間化合物の主成分とする量は、70重量%以上であればよい。70重量%未満の場合、十分な熱電効果が得られないおそれがある。添加物は、焼結助剤、結着剤等であってもよい。また、本発明の実施例において、熱電材料は、製造において混入するC(炭素)、Alの酸化物(アルミナ)等の不可避不純物を含有してもよい。このような不可避不純物の含有量は、熱電性能を低減させない限り制限はないが、好ましくは、0.15重量%以下であることが望ましい。
【0024】
次に、本発明の実施例において、熱電材料を製造する例示的な製造方法を説明する。ここでは、熱電材料がバルク体または粉体である場合を説明する。
図2は、本発明の熱電材料を製造する工程を示すフローチャートである。
【0025】
まず、ステップS210において、Alを含有する原料、Feを含有する原料、および、Siを含有する原料を、以下の一般式(2)を満たすように混合する。
Al23.5+xFe36.5+ySi40−x−y ・・・(2)
ここで、xおよびyは、それぞれ、−7.25<x<12および−0.5≦y≦1.5を満たす。本願発明者は、Al、FeおよびSiを含有する原料を、上記一般式(2)を満たすように混合することにより、上述の一般式(1)を満たす本発明の金属間化合物を含有する熱電材料を得られることを見出した。
【0026】
Alを含有する原料、Feを含有する原料、および、Siを含有する原料は、それぞれ、Al金属単体、Fe金属単体、Si金属単体であってよいが、例えば、Alのケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物または酸フッ化物、Feのケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物または酸フッ化物、Siのケイ化物、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物または酸フッ化物を用いてもよい。この場合も、各金属元素が、一般式(2)を満たすように混合すればよい。原料は、混合性および取り扱いの観点から粉末、粒、小塊がよい。
【0027】
さらに、本願発明者は、一般式(2)で表される混合組成を調整することによって、上述の同一合金でn型およびp型の伝導型を制御した本発明の熱電材料を製造できることを見出した。
【0028】
一般式(2)において、パラメータxが、−7.25<x<3を満たすように混合すれば、一般式(1)においてパラメータpが0≦p<10を満たすn型熱電材料を製造できる。より好ましくは、一般式(2)において、パラメータxが、1.5≦x≦2.5を満たすように混合する。これにより、一般式(1)においてパラメータpが8≦p≦9を満たすn型熱電材料を製造できる。
【0029】
一般式(2)において、パラメータxが3≦x<12を満たすように混合すれば、一般式(1)においてパラメータpが10≦p≦16.5を満たすp型熱電材料を製造できる。より好ましくは、一般式(2)において、パラメータxが3.5≦x≦4を満たすよう混合すれば、一般式(1)においてパラメータpは11≦p≦12を満たすp型熱電材料を製造できる。
【0030】
このように、一般式(2)においてパラメータxを制御するだけで、n型およびp型を制御できるので、熟練の技術を必要とせず、歩留まりよく本発明の熱電材料を製造できる。
【0031】
ステップS220において、ステップS210で得られた混合物を溶解し、反応させる。溶解および反応は、混合物が溶融する温度に加熱すればよく、例示的には、1500℃以上2200℃以下の温度範囲に加熱する。溶解および反応は、好ましくは、大気圧下で、大気圧未満で、或いは大気圧を超えて、窒素またはアルゴン、ヘリウム等の希ガスである不活性雰囲気中で行われる。溶解および反応は、例示的にはアーク溶解または高周波溶解を用いてもよい。溶解、反応した反応物は冷却して固化体となる(ステップS230)。このとき、溶解、反応した反応物を鋳込んで急冷させてもよい。例えば、200℃/秒又はそれ以上のような冷却速度で、2000℃から100℃程度まで急冷してもよい。
【0032】
このようにして得られた反応物(固化体)が本発明の熱電材料となる。また、固化体を粉砕すれば、本発明の熱電材料を粉末として提供できる(ステップS240)。
【0033】
ステップS220で得られた反応物(固化体)を冷却後(ステップ230)、粉砕し(ステップS240)、粉末原料を成形して焼結する(ステップS250)ことによって、本発明の熱電材料を焼結体として提供できる。焼結は、例示的には、反応物を粉砕し(ステップS240)、所定の形状に成形した成形体を、10MPa以上200MPa以下の圧力範囲で800℃以上1000℃以下の温度範囲で行われる。焼結時間は、特に制限されるものではないが、1分以内でも焼結できる。温度、その他の条件にもよるが、工業的な取扱いのしやすさを考えれば、数分、例えば、5分以上であってもよい。長すぎるとエネルギーを多く消耗するので、12時間以下の時間が現実的であるかもしれない。焼結は、通常のホットプレス法を採用してもよいが、パルス通電焼結法を採用すれば短時間で焼結できる。焼結は、好ましくは、不活性雰囲気中で行われる。
【0034】
なお、焼結のための固化体の粉砕は、平均粒子径(d50)が50μm以下となる粒子となるまで行うことがよい。これにより、後述する焼結を促進できる。好ましくは、固化体は、粒子径が45μm以下となる粒子となるまで粉砕される。これにより、焼結および熱処理を促進し、処理時間を短縮できる。粉砕は、ボールミル、自動乳鉢、振動ミル等の公知の方法によって行われる。一般に、平均粒子径とは、以下のように定義され得る。粒子径は、沈降法による測定においては沈降速度が等価な球の直径として、レーザ散乱法においては散乱特性が等価な球の直径として定義される。また、粒子径の分布を粒度(粒径)分布という。粒径分布において、ある粒子径より大きい質量の総和が、全粉体のそれの50%を占める場合の粒子径が、平均粒径D50として定義され得る。この定義および用語は、いずれも当業者において周知であり、例えば、JISZ8901「試験用粉体および試験用粒子」、または、粉体工学会編「粉体の基礎物性」(ISBN4−526−05544−1)の第1章等諸文献に記載されている。積算(累積)頻度分布における50%に相当する粒子径を求めて、平均粒径D50とした。平均粒径を求める手段については、上述以外にも多様な手段が開発され、現在も続いている現状にあり、測定値に若干の違いが生じることもあり得るが、平均粒径それ自体の意味、意義は明確であり、必ずしも上記手段に限定されないことを理解されたい。
【0035】
得られた焼結体を高速カッターやワイヤーソー等により成型(成形)し(S260)、熱電発電モジュールに採用してもよい。また、得られた焼結体を、物理的気相成長法におけるターゲットに用いれば、本発明の熱電材料を薄膜として提供できる。
【0036】
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1で説明した本発明の熱電材料を用いた熱電発電モジュールについて説明する。
【0037】
図3は、本発明の熱電材料を用いた熱電発電モジュールを示す模式図である。
【0038】
本発明による熱電発電モジュール300は、一対のn型熱電材料310およびp型熱電材料320、ならびに、これらのそれぞれの端部に電極330、340を含む。電極330、340により、n型熱電材料310およびp型熱電材料320は、電気的に直列に接続される。
【0039】
ここで、n型熱電材料310およびp型熱電材料320は、実施の形態1で説明した本発明の熱電材料である。熱膨張係数が同じ同一合金のn型およびp型の熱電材料を用いるので、本発明の熱電発電モジュール300の素子化に有利である。電極330、340は、通常の電極材料であり得るが、例示的には、Al、Ni、Cu等である。
【0040】
本発明の熱電発電モジュール300では、電極330、340の間に温度差が生じると、ゼーベック効果により起電力が発生し、電力が得られる。本発明では、n型熱電材料310およびp型熱電材料320として実施の形態1で説明した本発明の熱電材料を用いるので、室温〜600℃の広い温度域において発電量の大きな熱電発電モジュール300を実現できる。特に、熱電材料として薄膜を用いた場合には、IoT電源としてフレキシブル熱電発電モジュールを提供できる。
【0041】
図3ではπ型の熱電発電モジュールを用いて説明したが、本発明の熱電材料は、U字型熱電発電モジュール(図示せず)に用いてもよい。この場合も同様に、本発明の熱電材料からなるn型熱電材料およびp型熱電材料が、交互に電気的に直列に接続されて構成される。
【0042】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明の実施の形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の範囲に限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
[実施例および比較例:1〜19]
実施例および比較例1〜19では、一般式(2)において、−7.25≦x≦12および−0.5≦y≦1.5の種々の組成の原料を調整し、粉体および焼結体である熱電材料を製造した。
【0044】
Al(粉末、純度99.99%、株式会社高純度化学研究所製)と、Fe(粒、純度99.99%、株式会社高純度化学研究所製)と、Si(小塊、純度99.999%、株式会社高純度化学研究所製)を、表1に示す設計組成にしたがって混合した(図2のステップS210)。
【0045】
【表1】
【0046】
各混合物をアーク溶解装置(日新技研株式会社製、NEV−AD03)のCuハースに設置し、アルゴン雰囲気下で溶解し、反応させた(図2のステップS220)。混合物を2000℃程度まで昇温・加熱し、溶解、反応させた。溶解、反応物を冷却させ、固化体とした。次に、固化体の均質性を高めるため、固化体を反転させ、再溶解、反応させ、更に冷却し固化体とした(S230)。
【0047】
得られた固化体をメノウ乳鉢でエタノールを用いた湿式粉砕を行った(S240)。粉砕後の固化体の粒子をメッシュ(目開き45μm)により篩分けし、メッシュを通過した粒径45μm以下の粒子(粉体)のみ取り出した。粒子を、粉末X線回折法(Rigaku製、SmartLabもしくはMiniFlex600)により同定し、蛍光X線分析(EDAX製、Orbis I)により組成分析を行った。結果を図4、表3、4、および表6に示し、後述する。
【0048】
次いで、粒子を焼結した(S250)。パルス通電焼結法(富士電波工機株式会社製、SPS−515S、株式会社シンターランド製、LABOX−110MC)を用いて、表2に示す焼結条件により、直径10mm厚さ1.5−2.0mm程度のディスク状の焼結体を得た。得られた焼結体の外観を観察した。結果を図5に示し、後述する。
【0049】
【表2】
【0050】
焼結体を高速カッターにより1.5mm×1.5mm×9mm程度の直方体に加工し、電気伝導率および熱電物性測定を行った。電気伝導率を、直流四端子法によって測定した。熱電物性としてゼーベック係数を、定常温度差法により、熱電物性測定評価装置(アドバンス理工株式会社製、ZEM−3)を用いて測定した。測定条件は、いずれも、ヘリウムガス雰囲気下、室温から873Kの温度範囲まで50Kずつ測定した。電気伝導率およびゼーベック係数から電気出力因子を算出した。これらの結果を図6図8および表5に示し、後述する。
【0051】
以上の結果を説明する。
図4は、比較例1、19および実施例9による試料のX線回折パターンを示す図である。
【0052】
【表3】
【0053】
図4の(A)〜(C)は、それぞれ、比較例1、実施例9および比較例19による試料のX線回折(XRD)パターンを示す。図4には、計算から算出したAlFeSiおよびFeSiのX線回折パターンを併せて示す。
【0054】
図4の(B)のXRDパターンは、計算から算出したAlFeSiのパターンに良好に一致した。このことから、得られた試料は、AlFeSi相を主相とし、90重量%以上を占有していることが確認された。なお、図示しないが、実施例2〜8および実施例10〜18の試料のXRDパターンも同様のパターンを示し、AlFeSi相を主相とすることを確認した。また、実施例2〜18の試料は、第二相としてε−FeSiを1.2重量%以上9.5重量%以下含有することが分かった。主相、第2相等の定量は、X線回折測定により得られた回折パターンの内、最強ピークの積分強度比から析出割合を算出した。測定結果を表4にまとめる。
【0055】
【表4】
【0056】
一方、図4(A)のXRDパターンは、一部AlFeSiに相当するピークが観測されたが、ε−FeSiを主相としていた。このことから、比較例1の試料はAlFeSi相を主相としなかった。図4(C)のXRDパターンは、同様に、ε−FeSiに相当するピークを示し、比較例19の試料はAlFeSi相を主相としなかった。以上から、本発明の熱電材料の製造に際して、原料の調整は一般式Al23.5+xFe36.5+ySi40−x−y(ここで、xおよびyは、それぞれ、−7.25<x<12および−0.5≦y≦1.5を満たす)を満たすことが好ましいことが示された。
【0057】
AlFeSi相の結晶の格子定数及び格子体積等を表5にまとめる。この表から分かるように、xの増加と共に、格子定数aは増加の傾向があり、格子定数b及びcは減少の傾向があり、体積Vは増加の傾向がある。
【表5】
【0058】
さらに、蛍光X線分析による組成分析の結果を表6に示す。
【0059】
【表6】
【0060】
表6によれば、実施例6で得られた試料は、Al20.3Fe38.5Si41.2であり、実施例9で得られた試料は、Al22Fe38.5Si39.5であり、実施例18で得られた試料は、Al28.5Fe38.5Si33であった。なお、表には示さないが、実施例5および7の試料は、Al12+p−qFe38.5+3qSi49.5−p−2q(ここで、pは0≦p<10を、qは−0.34≦q≦0.34を満たす)の範囲内であり、実施例10〜15、17の試料は、Al12+p−qFe38.5+3qSi49.5−p−2q(ここで、pは10≦p≦16.5を、qは−0.34≦q≦0.34を満たす)の範囲内である。また、ここでは、y=0の場合のみを取り扱っているが、yは−0.5≦y≦1.5の範囲内の値(例えば、−0.5、−0.2、0.1、0.3、0.5、0.7、0.9、1.0、1.2、1.5)であってよく、yの値が変化すると、特にFeのat%(また、Siのat%)が変化し易くなる。近似的には、Al12+pFe37.5Si49.5−pから、Al12+pFe39.5Si49.5−pへと変化するとも考えられる。
【0061】
以上から、本発明の方法を実施すれば、少なくとも、AlとFeとSiとを含有し、AlFeSiで表される相を主相とし、一般式Al12+p−qFe38.5+3qSi49.5−p−2q(ここで、pは0≦p≦16.5を、qは−0.34≦q≦0.34を満たす)で表される金属間化合物を主成分とする材料が得られることが示された。尚、図1Eに、図1Bにおいてプロットから、AlFeSi相を主相とする領域を線で囲ったものを図解する。例えば、図1Bにおけるグレーゾーンを規定する4つの頂点d、e、n、kは、それぞれ、
d:Al11.2Fe39.5Si49.3
e:Al11.8Fe37.5Si50.7
n:Al29.6Fe37.5Si32.9
k:Al28.5Fe39.5Si32.0
と表すことができる。そして、図1Bにおける仕込み組成で、AlFeSi相が主相となる領域の境界を規定するAlリッチ側の点i及びjは、
i:Al35.8Fe35.7Si28.5
j:Al34.0Fe39.5Si26.5
と表すことができる。更に、点iと共にFeリーン側の境界線を規定する点gは、
g:Al17.6Fe35.7Si46.7
と表すことができる。実験データがないため必ずしも明確ではないFeリーン側のSiリッチの境界は、確実なところだけを上げるとしても、点g及び点fにより形成される線分で表すこともできる。
f:Al16.7Fe37.5Si45.8
そして、Feリッチ側の溶融・反応させた材料からなる焼結体の成分に基づくデータと合体して、上記点d及びeにより、Siの上限側が規定される。
尚、詳細は後述するが、Al12+p−qFe38.5+3qSi49.5−p−2qと表される組成(特に、溶融・反応させた材料組成)において、0≦p<10の条件では、n型の熱電材料が得られ、10≦p≦16.5の条件では、p型の熱電材料が得られることが分かった。同様なことは、qが−0.34≦q≦0.34においても言えるので、このような範囲の組成(特に、溶融・反応させた材料組成)において、特有の性質を備える熱電材料を得ることができる。この特有の性質は、本明細書に記載のような所定の条件で、溶融・反応させるという処理により、現れるものと考えられる。従って、見かけの成分が一致するような単なる混合組成であっても、そのように溶融・反応させていなければ、生成物は、本開示の溶融・反応させた材料に相当しない。また、具体的な結晶相について述べれば、AlFeSi相が主相となる領域であることが好ましい。このようなn型、p型を区別する境界は、点l及び点h(及び、中間点m)を結んだ線が相当するとも考えられる。
l:Al21.7Fe39.5Si38.8
h:Al22.9Fe35.7Si41.3
m:Al22.3Fe37.5Si40.2
以上のような組成的特徴は、焼結体の原料となる溶融・反応させた材料において重要と考えられる。例えば、図1Eの領域Aでは、n型の熱電材料が得られ、領域Bでは、p型の熱電材料が得られると考えられる。更に、溶融・反応させる前の混合組成を含めた太枠の領域Cにおいても、n型またはp型の熱電材料を得られる可能性があると言える。即ち、製造技術の発展または多様化により、溶融・反応の前後で、組成が変化しないまたは殆ど変化しないこともあり、そのような場合に領域Cの全領域の組成の金属間化合物が、ここにおいて有用なn型またはp型の熱電材料となるかもしれない。
【0062】
なお、比較例1および19の試料は、AlFeSi相を主相としないため、焼結体を製造せず、電気伝導率および熱電物性測定を実施しなかった。
【0063】
図5は、実施例18の試料の外観を示す図である。
【0064】
図5によれば、全体に均一で良好な焼結体が得られたことが分かった。図示しないが、実施例2〜17の焼結体もいずれも同様の様態を示した。
【0065】
図6は、実施例2〜18の試料の電気伝導率の温度依存性を示す図である。
【0066】
図6によれば、いずれの試料も、測定温度域において、熱電材料として使用可能な電気伝導率を有し、温度依存性を有することが分かった。また、室温における電気伝導率に着目すれば、組成を制御することによって、電気伝導率を250(Ωcm)−1〜2500(Ωcm)−1まで変化させることができる。熱電変換モジュールを構成する際に、使用温度域において求められる電気伝導率を有する材料を適宜選択すればよい。なお、実施例6および7の試料は特に高い電気伝導率を示したが、実施例6および7の試料は、第二相であるε−FeSi相をそれぞれ8.8、5.8重量%含有しており、これにより電気伝導率の向上が見られた可能性がある。
【0067】
図7は、実施例2〜18の試料のゼーベック係数の温度依存性を示す図である。
【0068】
図7によれば、測定温度域(室温〜600℃)において、実施例2〜8の試料は、負のゼーベック係数を示し、n型伝導であり、実施例9〜18の試料は、正のゼーベック係数を示し、p型伝導であることが確認された。すなわち、一般式Al12+p−qFe38.5+3qSi49.5−p−2q(pは0≦p<10、qは−0.34≦q≦0.34)で表され、AlFeSi相を主相とする金属間化合物はn型熱電材料として機能し、一般式Al12+p−qFe38.5+3qSi49.5−p−2q(pは10≦p≦16.5、qは−0.34≦q≦0.34)で表され、AlFeSi相を主相とする金属間化合物はp型熱電材料として機能する。
【0069】
特に、室温〜200℃以下の温度範囲に着目すれば、パラメータpが8≦p≦9を満たすことにより、より大きなゼーベック係数(絶対値)を示すn型熱電材料となり、パラメータpが11≦p≦12を満たすことにより、より大きなゼーベック係数を示すp型熱電材料となることが分かった。
【0070】
図8は、実施例2〜18の試料の電気出力因子の温度依存性を示す図である。
【0071】
図8によれば、組成を選択することによって、測定温度域において、高い電気出力因子を達成できることが分かった。例えば、実施例6および7の試料は、室温〜600K以下の温度範囲において、高い電気出力因子を示し、とりわけ、200℃以下の貧熱を回収するに好適といえ、民生利用の熱電発電モジュールを提供できる。実施例3および4の試料は、500Kをピークとし室温〜700Kの中温域の温度範囲において、高い電気出力因子を示すn型熱電材料であることが分かった。
【0072】
以上の結果を簡単のため、表7にまとめる。この表からわかるように、xの値が増えることにより(SiをAlで置き換えることにより)、ホールドープと同様の効果が得られ、n型からp型に変化する。従って、他元素を用いた化学ドーピングを行うことなく伝導型の制御ができる。
【0073】
【表7】
【0074】
尚、以下のようなものも提供することができる。
(1)熱及び電力を変換する素子に使用される材料であって、
少なくともAl及びFe及びSiを含む金属間化合物を含み、
一般式Al12+pFe38.5±1.0Si49.5−p(ここで、pは0≦p≦16.5を満たす)で表される組成を有し、
AlFeSiで表される結晶相を含む、
熱電材料。
(2)前記pは、0≦p<10を満たす、上記(1)に記載の熱電材料。
(3)前記pは、10≦p≦16.5を満たす、上記(1)に記載の熱電材料。
(4)前記AlFeSiで表される結晶相を、70重量%以上含有する、上記(1)から(3)のいずれかに記載の熱電材料。
(5)ε−FeSiで表される結晶相をさらに含有する、上記(1)から(4)のいずれかに記載の熱電材料。
(6)上記(2)の材料を含む、n型熱電素子。
(7)上記(3)の材料を含む、p型熱電素子。
(8)上記(6)のn型熱電素子及び/又は上記(7)のp型熱電素子を含む、熱電発電モジュール。
(9)n型熱電素子用のn型熱電材料と、p型熱電素子用のp型熱電材料と、を切り替えて製造する方法であって、
Alを含有する原料、Feを含有する原料、及びSiを含有する原料を、モル比において、Al:Fe:Si=23.5+x:36.5+y:40−x−y(但し、−7.25<x<12及び−0.5≦y≦1.5を満たす)、となるように秤量するステップと、
秤量したそれぞれの原料を混合して混合粉末を得るステップと、
混合粉末を溶解し、反応させるステップと、を含み、
秤量するステップにおいて、xの量を増加させn型熱電材料からp型熱電材料に、又は、xの量を減少させp型熱電材料からn型熱電材料に、製造する熱電材料を切り替える方法。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の熱電材料は、600℃以下の温度範囲において、組成を制御するだけで、n型およびp型の熱電特性を発揮し、高いパワーファクタを達成できるので、各種電気機器に用いられる発電装置に利用される。特に、薄膜化を行えば、IoT電源としてフレキシブル熱電発電モジュールを提供できる。
【符号の説明】
【0076】
300 熱電発電モジュール
310 n型熱電材料
320 p型熱電材料
330、340 電極
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8