(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6799352
(24)【登録日】2020年11月25日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】ロッカーアーム及びロッカーアームの製造法、並びに、バルブ開閉力伝達具及びバルブ開閉力伝達具の製造方法
(51)【国際特許分類】
F01L 1/18 20060101AFI20201207BHJP
【FI】
F01L1/18 N
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-118460(P2015-118460)
(22)【出願日】2015年6月11日
(65)【公開番号】特開2017-2836(P2017-2836A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年6月7日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390033020
【氏名又は名称】イートン コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】EATON CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100068618
【弁理士】
【氏名又は名称】萼 経夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104385
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100135035
【弁理士】
【氏名又は名称】田上 明夫
(74)【代理人】
【識別番号】100131266
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼ 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】木森 貴俊
(72)【発明者】
【氏名】亀田 美千広
【審査官】
楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−229456(JP,A)
【文献】
特開2005−256656(JP,A)
【文献】
特開平08−093418(JP,A)
【文献】
特開平08−109960(JP,A)
【文献】
特開平11−247845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部がバルブに対して開閉動させるための作用力を伝達する作用力伝達部とされるアーム本体部と、該アーム本体部に、該アーム本体部の一端部よりも他端側において該アーム本体部の側方に向けて突設される支持軸と、該支持軸の外周面に対して回転可能に直接、支持され外周面にカム作用を受けることにより前記支持軸に対して相対回転すると共に、前記カム作用に基づく押圧力を前記アーム本体部の一端部に該アーム本体部の一端部による前記作用力として伝達する環状のローラと、が備えられ、オイルが噴射されたり降り注いだりしている環境下にある動弁機構に用いられるロッカーアームにおいて、
前記支持軸の外周面と前記ローラの内周面との該ローラの軸心延び方向における接触幅(Wm)と、前記ローラの内径(DRin)とは、前記接触幅(Wm)が関与する前記支持軸の外周面に対する前記ローラの内周面の接触応力(P)と、前記ローラの内径(DRin)が関与する前記支持軸の外周面に対する前記ローラの内周面の摺動速度(V)との積(PV)が、エンジン回転数が中回転数よりも低い目標低回転数のときに、流体潤滑領域に属するように100MPa・m/s以上(PV≧100MPa・m/s)になるように設定されている、ことを特徴とするロッカーアーム。
【請求項2】
一端部がバルブに対して開閉動させるための作用力を伝達する作用力伝達部とされるアーム本体部と、該アーム本体部に、該アーム本体部の一端部よりも他端側において該アーム本体部の側方に向けて突設される支持軸と、該支持軸の外周面に対して回転可能に直接、支持され外周面にカム作用を受けることにより前記支持軸に対して相対回転すると共に、前記カム作用に基づく押圧力を前記アーム本体部の一端部に該アーム本体部の一端部による前記作用力として伝達する環状のローラと、が備えられ、オイルが噴射されたり降り注いだりしている環境下にある動弁機構に用いられるロッカーアームの製造方法において、
前記支持軸の外周面と前記ローラの内周面との該ローラの軸心延び方向における接触幅(Wm)及び前記ローラの内径(DRin)を設定要素とし、
前記接触幅(Wm)及び前記ローラの内径(DRin)として、前記接触幅(Wm)が関与する前記支持軸の外周面に対する前記ローラの内周面の接触応力(P)と、前記ローラの内径(DRin)が関与する前記支持軸の外周面に対する前記ローラの内周面の摺動速度(V)との積(PV)が、エンジン回転数が中回転数よりも低い目標低回転数にあるときに、流体潤滑領域に属するように100MPa・m/s以上(PV≧100MPa・m/s)になるものを用いる、ことを特徴とするロッカーアームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロッカーアーム及びロッカーアームの製造方法、並びに、バルブ開閉力伝達具及びバルブ開閉力伝達具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等における吸気弁、排気弁等の動弁機構においては、ロッカーアームが用いられることがある。このロッカーアームとしては、例えば特許文献1に示すように、一端部がバルブに対して開閉動させるための作用力を伝達する作用力伝達部とされるアーム本体部と、該アーム本体部に、該アーム本体部の一端部よりも他端側において該アーム本体部の側方に向けて突設される支持軸と、該支持軸の外周面にニードルベアリング(ニードルを利用した転がり軸受け)を介して回転可能に支持され外周面にカム作用を受けることにより該支持軸に対して相対回転すると共に、該カム作用に基づく押圧力を前記アーム本体部の一端部に該アーム本体部の一端部による作用力として伝達する環状のローラと、を備えているものがある。このロッカーアームを動弁機構に用いれば、ニードルベアリングに基づきカムとロッカーアーム(ローラ)との摩擦力(摺動抵抗)の低減(エンジンの燃費、出力の改善)を図りつつ、そのカムの作用力を動弁機構に的確に伝達できる。
【0003】
しかし、上記ロッカーアームにおいては、支持軸外周面とローラ内周面との間にニードルベアリングが設けられていることから、カム作用に基づく押圧力が断面円状のニードル(ニードルベアリング)を介して支持軸に作用することになり、局部荷重が支持軸に作用することになる。このため、支持軸に過大な局部荷重が作用することを回避すべく、ニードルの全長及びローラの軸心延び方向長さが所定長さ以上にされて、所望の接触面積が確保されており、ローラとしては、ニードルベアリングを用いる限り、その軸心延び方向長さを所定長さ以下の長さにするものを用いることができない。
【0004】
このような事情から、本件発明者は、ロッカーアームとして、ニードルベアリングをなくして前記支持軸の外周面上に前記ローラの内周面を回転可能に直接、支持するタイプのものを開発している(例えば特許文献2参照)。
【0005】
このものによれば、そのロッカーアームを、オイルが噴射されたり降り注いだりしている環境下にある動弁機構に用いたときには、そのオイルを支持軸外周面とローラ内周面との間の隙間に導入することができると共に、その隙間に導入されたオイルを、潤滑油として、カム作用に基づくローラの回転によりそのローラ内周面全周に行渡らせることができる。このため、ローラ内周面と支持軸外周面との間の潤滑性を確保でき、ニードルベアリングをなくしても、ローラと支持軸との相対回転を可能とすることができる。
【0006】
その一方で、ニードルベアリングと支持軸との当接関係をなくし、それに代えて、支持軸外周面に、ニードルベアリングのニードルの外径よりも格段に大きい内径を有するローラ内周面を当接させることになり、ニードルベアリングを用いる場合に比べて基本的に接触面積を大きくすることができる。しかも、ローラ内周面と支持軸外周面との曲面の曲がり方向が同じ側で且つ曲率半径が近いことから、カム作用に基づく押圧力が作用するときには、ニードルと支持軸とが当接してそれらが弾性変形する場合に比べて、ローラ内周面と支持軸外周面とが当接してそれらが弾性変形する場合の方が、接触面積を増大させることができる。このため、上記ロッカーアームにおいては、支持軸に過大な局部荷重が作用することを確実に防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−37719号公報
【特許文献2】特開2007−23817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記ロッカーアームを動弁機構に用いて詳細に評価したところ、
図9下段図(基準ロッカーアーム参照)に示すように、エンジン回転数(カム回転数)が高回転数領域に属する場合においては、ニードルベアリングを備えたロッカーアーム(ローラがニードルベアリングを介して支持軸に支持されているロッカーアーム(
図9下段図中の標準ロッカーアーム))の場合と同様、カムトルクが低い値になるものの、エンジン回転数(カム回転数)が中回転数から低回転数にかけての領域に属する場合においては、そのカムのカムトルクは、ニードルベアリングを備えたロッカーアームの場合よりも高い値となることが判明した。このため、上記ロッカーアームが動弁機構に用いられて、エンジン回転数が中・低回転数領域に属する状態で使用された場合には、ニードルベアリングを備えたロッカーアームが動弁機構に用いられた場合に比べて、エンジンの燃費が低下することになる。
【0009】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その第1の目的は、アーム本体部における支持軸の外周面上にローラの内周面が回転可能に直接、支持されているロッカーアームにおいて、エンジン回転数が中・低回転数領域に属する場合であっても、カムトルクを、極力、ニードルベアリングを備えたロッカーアームの場合のカムトルクに近づけることにある。
第2の目的は、上記ロッカーアームを製造するロッカーアームの製造方法を提供することにある。
また、本発明の更なる目的は、エンジン回転数が中回転数から低回転数にかけての領域に属する場合においては、そのときにおける摩擦係数は、ニードルベアリングを備えた標準ロッカーアームの場合よりも高い値となること(
図10参照)を別の視点から解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る発明は、一端部がバルブに対して開閉動させるための作用力を伝達する作用力伝達部とされるアーム本体部と、該アーム本体部に、該アーム本体部の一端部よりも他端側において該アーム本体部の側方に向けて突設される支持軸と、該支持軸の外周面に対して回転可能に直接、支持され外周面にカム作用を受けることにより該支持軸に対して相対回転すると共に、該カム作用に基づく押圧力を前記アーム本体部の一端部に該アーム本体部の一端部による前記作用力として伝達する環状のローラと、が備えられているロッカーアームにおいて、
前記支持軸の外周面と前記ローラの内周面との該ローラの軸心延び方向における接触幅(Wm)と、前記ローラの内径(DRin)とは、前記接触幅(Wm)が関与する前記支持軸の外周面に対する前記ローラの内周面の接触応力(P)と、前記ローラの内径(DRin)が関与する前記支持軸の外周面に対する前記ローラの内周面の摺動速度(V)との積(PV)が、エンジン回転数が中回転数よりも低い目標低回転数のときに、流体潤滑領域に属するように設定されている、ことを特徴とする。
請求項2に係る発明は、一端部がバルブに対して開閉動させるための作用力を伝達する作用力伝達部とされるアーム本体部と、該アーム本体部に、該アーム本体部の一端部よりも他端側において該アーム本体部の側方に向けて突設される支持軸と、該支持軸の外周面に対して回転可能に直接、支持され外周面にカム作用を受けることにより該支持軸に対して相対回転すると共に、該カム作用に基づく押圧力を前記アーム本体部の一端部に該アーム本体部の一端部による前記作用力として伝達する環状のローラと、が備えられているロッカーアームの製造方法において、
前記支持軸の外周面と前記ローラの内周面との該ローラの軸心延び方向における接触幅(Wm)及び前記ローラの内径(DRin)を設定要素とし、
前記接触幅及び前記ローラの内径(DRin)として、前記接触幅(Wm)が関与する前記支持軸の外周面に対する前記ローラの内周面の接触応力(P)と、前記ローラの内径(DRin)が関与する前記支持軸の外周面に対する前記ローラの内周面の摺動速度(V)との積(PV)を、エンジン回転数が中回転数よりも低い目標低回転数にあるときに、流体潤滑領域に属するものを用いる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1及び2に係るロッカーアーム及びロッカーアームの製造方法によれば、当該ロッカーアームが、オイルが噴射されたり降り注いだりしている環境下にある動弁機構に用いられたときには、そのオイルが支持軸外周面とローラ内周面との間の隙間に導入されて、その支持軸の外周面とローラの内周面との間の潤滑の形態は、エンジン回転数が少なくとも上記目標低回転数よりも高い領域に属するときには、流体潤滑になる。このため、当該ロッカーアームを用いることにより、エンジン回転数が低・中回転数領域に属する場合であっても、カムトルクを、極力、ニードルベアリングを備えたロッカーアームの場合におけるカムトルクに近づけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るロッカーアームを含む動弁機構を示す図。
【
図3】本発明の第1実施形態に係るロッカーアームを示す平面図。
【
図4】本発明の第1実施形態に係るロッカーアームを簡易的に示す縦断面図。
【
図5】ローラ内径、ローラの中央部内周面の接触幅を求める方法を説明する説明図。
【
図6】ローラ内径、ローラの中央部内周面の接触幅を求める別の方法を説明する説明図。
【
図7】基準ロッカーアーム、基準ロッカーアームの接触幅を短縮した構造のものについての各特性を比較説明する説明図。
【
図8】基準ロッカーアーム、基準ロッカーアームのローラ内径を縮径した構造のもの、基準ロッカーアームのローラ内径を拡径した構造のものについての各特性を比較説明する説明図。
【
図9】エンジン回転数の全領域で、基準ロッカーアームのカムトルクとニードルベアリングを備えた標準ロッカーアームのカムトルクとを比較した内容と、エンジン回転数と基準ロッカーアームの潤滑形態との関係を示す内容と、を示す説明図。
【
図10】本発明の第2実施形態に関して、エンジン回転数の全領域で、ニードルベアリングを備えた標準ロッカーアームのカムトルク、基準ロッカーアーム(d/D=0.44)のカムトルク及び本実施形態に係るロッカーアーム(d/D=0.75)のカムトルクの比較を示す説明図。
【
図11】各ロッカーアームのストライベック曲線を示す図。
【
図12】本発明の第2実施形態に係るバルブ開閉力伝達具であるロッカーアームを示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の第1実施形態について、
図1〜
図9を参照して説明する。
前記第1の目的を達成するために、本実施形態に係るロッカーアームは、
図1〜
図3を参照して、
一端部がバルブ(2)に対して開閉動させるための作用力を伝達する作用力伝達部とされるアーム本体部(4)と、該アーム本体部(4)に、該アーム本体部(4)の一端部よりも他端側において該アーム本体部(4)の側方に向けて突設される支持軸(5)と、該支持軸(5)の外周面に対して回転可能に直接、支持され外周面にカム(C)作用を受けることにより該支持軸(5)に対して相対回転すると共に、該カム(C)作用に基づく押圧力を前記アーム本体部(4)の一端部に該アーム本体部(4)の一端部による前記作用力として伝達する環状のローラ(6)と、が備えられているロッカーアーム(3)において、
前記支持軸(5)の外周面と前記ローラ(6)の内周面との該ローラ(6)の軸心延び方向における接触幅(Wm)と、前記ローラ(6)の内径(DRin)とは、前記接触幅(Wm)が関与する前記支持軸(5)の外周面に対する前記ローラ(6)の内周面の接触応力(P)と、該ローラ(6)の内径(DRin)が関与する前記支持軸(5)の外周面に対する前記ローラ(6)の内周面の摺動速度(V)との積(PV)が、エンジン回転数(rpm)が中回転数よりも低い目標低回転数のときに、流体潤滑領域に属するように設定されている構成とされている(
図4〜
図6参照)。
【0016】
尚、
図1〜
図6中、2aはバルブステム、5bは支持軸5の外周面、6iはローラ6の内周面、6imはローラ6の内周面6iの中央部、7は一対の対向起立板部(アーム本体部4)、8はバルブ押圧部、9は支持部、9aは略半球形状の凹部、10はラッシュアジャスタ、Bはローラ6の軸心方向長さ、DRoutはローラ6の外径である。
【0017】
前記第2の目的を達成するために本実施形態に係るロッカーアームの製造方法は、
一端部がバルブ(2)に対して開閉動させるための作用力を伝達する作用力伝達部とされるアーム本体部(4)と、該アーム本体部(4)に、該アーム本体部(4)の一端部よりも他端側において該アーム本体部(4)の側方に向けて突設される支持軸(5)と、該支持軸(5)の外周面に対して回転可能に直接、支持され外周面にカム(C)作用を受けることにより前記支持軸(5)に対して相対回転すると共に、前記カム(C)作用に基づく押圧力を前記アーム本体部(4)の一端部に該アーム本体部(4)の一端部による前記作用力として伝達する環状のローラ(6)と、が備えられているロッカーアーム(3)の製造方法において、
前記支持軸(5)外周面と前記ローラ(6)の内周面との該ローラ(6)の軸心延び方向における接触幅(Wm)及び前記ローラ(6)の内径(DRin)を設定要素とし、
前記接触幅(Wm)及び前記ローラ(6)の内径(DRin)として、前記接触幅(Wm)が関与する前記支持軸(5)の外周面に対する前記ローラ(6)の内周面の接触応力(P)と、前記ローラ(6)の内径(DRin)が関与する支持軸(5)の外周面に対する前記ローラ(6)の内周面の摺動速度(V)との積(PV)を、エンジン回転数が中回転数よりも低い目標低回転数にあるときに、流体潤滑領域に属するものを用いる構成とされている。
【0018】
本実施形態に係るロッカーアームによれば、支持軸(5)の外周面とローラ(6)の内周面との該ローラ(6)の軸心延び方向における接触幅(Wm)が、同一エンジン回転数の下で、支持軸(5)の外周面に対するローラ(6)の内周面の接触応力(P)に関与し(
図7参照)、ローラ(6)の内径(DRin)が、同一エンジン回転数の下で、支持軸(5)の外周面に対するローラ(6)の内周面の摺動速度(V)に関与することに着目して(
図8参照)、その接触幅(Wm)とローラ(6)の内径(DRin)とが、接触応力(P)と摺動速度(V)との積(PV)が、エンジン回転数が目標低回転数にあるときに、流体潤滑領域に属するように設定されていることから(
図5、
図6参照)、当該ロッカーアーム(3)が、オイルが噴射されたり降り注いだりしている環境下にある動弁機構に用いられたときには、そのオイルが支持軸(5)の外周面とローラ(6)の内周面との間の隙間に導入されて、その支持軸(5)の外周面とローラ(6)の内周面との間の潤滑の形態は、エンジン回転数が少なくとも上記目標低回転数よりも高い領域に属するときには、流体潤滑になる。このため、当該ロッカーアーム(3)を用いることにより、エンジン回転数が低・中回転数領域に属する場合であっても、カムトルクを、極力、ニードルベアリングを備えたロッカーアームの場合におけるカムトルクに近づけることができる(
図5下段図参照)。
【0019】
本実施形態に係るロッカーアームの製造方法によれば、支持軸(5)の外周面とローラ(6)の内周面との該ローラ(6)の軸心延び方向における接触幅(Wm)及びローラ(6)の内径(DRin)を設定要素とし、接触幅(Wm)及びローラ(6)の内径(DRin)として、接触幅(Wm)が関与する支持軸(5)の外周面に対するローラ(6)の内周面の接触応力(P)と、ローラ(6)の内径(DRin)が関与する支持軸(5)の外周面に対するローラ(6)の内周面の摺動速度(V)との積(PV)を、エンジン回転数が中回転数よりも低い目標低回転数にあるときに、流体潤滑領域に属するものを用いることから、前述のロッカーアーム(3)を製造できる。
【0020】
次に、本発明の第2実施形態について、
図10〜
図13を参照して説明する。
本実施形態は、本件発明者が研究により得た次の知見に基づいて完成されている(
図11参照)。
(1)ニードルベアリングをなくして支持軸の外周面上にローラの内周面を回転可能に直接、支持するロッカーアーム(
図12参照)においては、ローラにおける内径dと外径Dとの内外径比d/D毎にストライベック曲線をそれぞれ描くことができること。
(2)上記各ストライベック曲線は、ローラにおける内外径比d/Dが増大するほど摩擦係数が小さくなる特性を示すこと。
(3)上記各ストライベック曲線においては、同一エンジン回転数でも、ローラにおける内外径比d/Dが増大するにつれて、Hersey数(Hersey number:「粘度η×速度v/単位面積当たりの荷重p」)が増大すること。
(4)上記各ストライベック曲線においては、ローラにおける内外径比d/Dが所定値以上であれば、エンジン回転数が低回転数であっても、ニードルベアリングを備えた標準ロッカーアームと同程度の摩擦係数を確保できること。
【0021】
図11から、ローラにおける内外径比d/Dが0.7以上であると、エンジン速度が600rpmからニードルベアリングを備えたローラロッカーアーム(バルブ開閉力伝達具)と同等の充分小さいカムトルクが得られることがわかる。
【0022】
本実施形態は、このような知見に基づいてなされたもので、その目的は、バルブに対して開閉動させるための作用力を伝達する作用力伝達部材と、該作用力伝達部材に設けられる支持軸と、該支持軸の外周面に対して回転可能に直接、支持され外周面にカム作用を受けることにより前記支持軸に対して相対回転すると共に前記カム作用に基づく押圧力を前記作用力伝達部材に前記作用力として伝達する環状のローラと、が備えられているバルブ開閉力伝達具において、エンジン回転数が中・低回転数領域に属する場合であっても、摩擦性能を、極力、ニードルベアリングを備えたバルブ開閉力伝達具の場合の摩擦性能に近づけることにある。
また、本実施形態の更なる目的は、上記バルブ開閉力伝達具を製造するバルブ開閉力伝達具の製造方法を提供することにある。
【0023】
前記目的を達成するために、
図12及び13を参照して、本実施形態に係るバルブ開閉力伝達具20(ロッカーアーム)は、バルブに対して開閉動させるための作用力を伝達する作用力伝達部材21と、該作用力伝達部材21に設けられる支持軸22と、該支持軸22の外周面に対して回転可能に直接、支持され外周面にカム作用を受けることにより前記支持軸22に対して相対回転すると共に前記カム作用に基づく押圧力を前記作用力伝達部材21に前記作用力として伝達する環状のローラ23と、が備えられているバルブ開閉力伝達具20において、
前記ローラ23における内径dと外径Dとの内外径比d/Dが0.7以上とされている構成とされている。なお、内外径比d/Dの上限は、各部に要求される寸法、強度等を考慮して適宜設定することができ、例えば0.95程度とすることができる。
【0024】
また、本実施形態に係るバルブ開閉力伝達具の製造方法は、バルブに対して開閉動させるための作用力を伝達する作用力伝達部材21と、該作用力伝達部材21に設けられる支持軸22と、該支持軸22の外周面に対して回転可能に直接、支持され外周面にカム作用を受けることにより前記支持軸22に対して相対回転すると共に、前記カム作用に基づく押圧力を前記作用力伝達部材に前記作用力として伝達する環状のローラ23と、が備えられているバルブ開閉力伝達具20の製造方法において、
前記ローラ23として、該ローラ23における内径dと外径Dとの内外径比d/Dが0.7以上であるものを用いる構成とされている。
【0025】
本実施形態に係るバルブ開閉力伝達具20によれば、本件発明者の知見に基づき、ローラ23における内径dと外径Dとの内外径比d/Dが0.7以上とすれば、低回転数(例えば600rpm)の下で、支持軸22の外周面とローラ23の内周面との間の潤滑形態を弾性流体潤滑(elastohydrodynamic lubrication;EHL)領域に近づけることができ、エンジン回転数が中・低回転数領域に属する場合であっても、摩擦性能を、ニードルベアリングを備えたバルブ開閉力伝達具の場合の摩擦性能に近づけることができる(
図11参照)。
【0026】
また、本実施形態に係るバルブ開閉力伝達具の製造方法によれば、ローラ23として、該23ローラにおける内径dと外径Dとの内外径比d/Dが0.7以上であるものを用いることから、低回転数(例えば600rpm)の下で、支持軸22の外周面とローラ23の内周面との間の潤滑形態を弾性流体潤滑領域に近づけることができ、前述のバルブ開閉力伝達具20を製造できる。
【符号の説明】
【0027】
2…バルブ、3…ロッカーアーム、4…アーム本体部、5…支持軸、6…ローラ、C…カム、Wm…接触幅、DRin…内径、P…接触応力、V…摺動速度